JP4246459B2 - 油分汚染土壌の浄化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コールタール、アスファルト、コークスなどに起因する石炭系油分で、原油、ガソリンなどに起因する石油系油分で又は鉱油等で汚染された土壌の微生物による浄化に関する。
【0002】
【従来の技術】
コールタール、アスファルトやコークスなど石炭系の油分で汚染された土壌又は原油、ガソリンなど石油系の油分や鉱油で汚染された土壌には、環境上好ましくないベンゼン、トルエン、キシレンなどの単環芳香族炭化水素(Mono Aromatic Hydrocarbons)やナフタレン、フェナンスレン、アントラセン、ピレンなどの多環芳香族系炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons、略称PAHs)が含まれる。これらの油分で汚染された土壌はさらに地下水汚染の原因となることも心配される。そこで、我が国でも2003年1月から「土壌汚染対策法」が施行されることになっている。工場の廃止や宅地転用にともない、上記石炭系又は石油系などの油分によって汚染された土壌サイト、例えば、石炭製品製造工場、ガス製造工場、石油精製工場の跡地やガソリンスタンド跡地などが、多数顕在化することが懸念される。油分汚染土壌の浄化は産業政策又は環境保全上、解決されるべき重要な課題となっている。
【0003】
石炭系又は石油系の油分によって汚染された土壌からの油分除去には、加熱による油分の揮発・脱離や、熱分解などの熱エネルギーを加える方法の他、酸化剤などを用いて化学的に油分を分解する方法などが知られている。一方、生物作用を利用して油分を土壌から除去することも試みられている。生物作用による土壌浄化には大きく分けてバイオスティミュレーション(bio−stimulation)とバイオオーグメンテーション(bio−augumentation)がある。バイオスティミュレーションでは汚染土壌に自生する微生物に対して、必要とする炭素源、塩類、酸素などを与えて、微生物の生息環境を制御して、汚染現場の土壌に自生する微生物を活性化させて、土壌から有害物質を取り除く方法である。一方、バイオオーグメンテーションでは、単離されている浄化作用のある有用微生物を大量に培養して、汚染現場の土壌中に微生物を注入・添加することにより汚染の浄化が企てられる。このような生物作用を利用した土壌浄化は、微生物の機能を利用して常温、常圧で行うことが可能であり、2次汚染の可能性が小さいこと、省エネルギーであること、低コストであることなどに因り土壌浄化への応用が期待されている。バイオスティミュレーションもバイオオーグメンテーションも原位置で汚染土壌を移動させることなく浄化を行う方法であるが、一方、汚染土壌を掘り出して、浄化処理を施してから原位置に戻す方法もある。例えば洗浄処理では、土壌に含有・吸着している油分を水中に分散又は溶解させることができ、油分除去への応用も試みられている。さらに土壌をスラリーとして処理する方法では、洗浄処理と微生物処理の両者の長所を組み合わせて利用することができる。土壌スラリーは、土壌に水を添加し土壌スラリーとして、汚染物の微生物分解を図る方法であり、米国等で適用事例がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の生物による油分汚染土壌の浄化処理には、以下のような問題点・課題がある。
【0005】
1)バイオスティミュレーションでは汚染サイトに自生する微生物の働きを促進させる方法であるものの、油分に汚染された土壌に対してどのような微生物が浄化作用をもたらすか、微生物の正体がわからないまま実行されているのが現状である。
【0006】
2)バイオオーグメンテーションでは外部から汚染土壌に投入した外来微生物による浄化作用を期待するが、効率が必ずしも高くない。これは大量培養した微生物を土壌中に注入・添加しても、土壌中に微生物が効果的に拡散・浸透できないことや、土壌中の環境条件を制御できないことから、添加した微生物を土壌環境中安定に棲息させて定着させることが容易でないことに起因する。また、培養が困難なVNC(Visible but Non Culturable)である微生物が数多く存在するため、土壌から浄化作用のある微生物を単離して大量培養すること自体が容易なことではない。したがって、一般的に培養される大腸菌、シュードモナス、枯草菌など培養が容易な外来微生物を油分汚染土壌中に常在させることは極めて難しい。したがって、油分に汚染された土壌にバイオオーグメンテーションのために外来微生物を用いることは容易でない。また十分量の外来微生物を培養により準備して、土壌修復処理のために用いることはコスト的にも不利である。
【0007】
3)特に、コールタールやコークスなどの石炭系の油分で汚染された土壌の生物作用による浄化処理は一般に難しいとされている。石炭系の油分は石油系の油分と比較して微生物による分解を受け易い鎖状の分子構造をもつ炭化水素の割合が非常に少なく、微生物による分解を受けにくい多環系芳香族の割合が高いため、石炭系の油分に汚染された土壌の微生物作用による修復は難しいと考えられている。このような油分に汚染された土壌であっても、浄化作用を発揮できる微生物を用いることが望まれるが、そのような微生物がどのようなものであるのか、その正体も定かではない。
【0008】
そこで、本発明は、これらの問題点・課題を解決して、上記石炭系あるいは石油系油分に汚染された土壌に対して油分を効率的に除去することができる生物を利用した新規土壌浄化方法を提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、今般、上記の課題を解決すべく検討を重ねた結果、以下の方法により、汚染土壌、特に石炭系又は石油系油分に汚染された土壌から油分を効率的に除去する生物を利用した新規土壌浄化方法を確立することに成功した。本発明は、以下の(1)、(2)の態様をもつ:
(1)配列番号1〜8に示す塩基配列を16SリボゾームRNA遺伝子配列に含む一連の微生物群が含有されている土壌スラリーを用いて、油分に汚染された土壌から油分を除去する方法であって、前記油分に汚染された土壌中に前記微生物群が存在する場合は、当該土壌に海水若しくは製鉄所安水の活性汚泥処理水又はこれらの混合水を加えてスラリー化し、前記油分に汚染された土壌中に前記微生物群が存在しない場合は、前記油分に汚染された土壌に、前記微生物群を加えて且つ海水若しくは製鉄所安水の活性汚泥処理水又はこれらの混合水を加えてスラリー化し、前記スラリーに空気を通気することで、当該スラリー中の前記微生物群により、前記油分に汚染された土壌から油分を除去することを特徴とする油分汚染土壌の浄化方法。
【0010】
(2)前記油分除去後の土壌スラリーから土壌を分離し、当該土壌を再利用することを特徴とする上記(1)に記載の方法。
【0018】
(3)前記油分の汚染が、コールタール、コークスを含む石炭系油分の汚染である、上記(1)又は(2)に記載の方法。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、油分に汚染された土壌を生物学的に浄化するため、以下の方法を発明した。
【0021】
まず、油分に汚染された土壌中に自生する一連の微生物群が存在することをつきとめた。油分に汚染された土壌に馴化した微生物群は、一般的な土壌から検出される微生物群とは明らかに異なる菌相を構成していた。そこでこれら油分汚染土壌に自生している、言い換えれば、既に油分汚染環境に馴化している微生物群を積極的に利用することによって、油分に汚染された土壌の微生物作用による修復が可能であると考えた。そこで、土壌からの油分除去に関連する、油分に汚染された土壌に馴化した微生物群を鋭意解析した。その結果、これら微生物の16SリボソームRNA遺伝子の一部が、配列番号1〜8に示す新規な塩基配列をもつことを発見した。
【0023】
以下の表1に示すように、配列番号1〜8に示す塩基配列についてDNA塩基配列のデータベースを検索したところ、全てグラム陰性桿菌であるブルクホルデリア(Burkhorderia)属の16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列とホモロジーが高いことから、ブルクホルデリア属又はその近縁細菌であることが判明した。
【0024】
【表1】
【0025】
ブルクホルデリア属については、汚染土壌との関連を示す報告がある。例えば、ブルクホルデリア・セパシア(Burkhorderia cepacia)は、アミノ安息香酸で汚染された土壌(J. Bacteriol. 176: 4034-4042, 1994)やポリ塩化ビフェニルに汚染された土壌から見つかっているほか、p−ニトロフェノールの分解菌として(Antonie Leeuwenhoek 44: 171-174, 1978)、さらにフタル酸分解菌や有機塩素化合物の分解菌として報告されている。しかしながら、本発明に係る配列番号1〜8に示す新規塩基配列を有するブルクホルデリア属又はその近縁細菌についてはこれまで全く報告されていない。
【0026】
上記石炭系又は石油系油分に汚染された土壌を浄化しようとする場合、油分汚染土壌に馴化しており、かつ、油分除去作用を有する配列番号1〜8に示す塩基配列を有するブルクホルデリア属又はその近縁細菌のいずれかが、油分汚染された土壌中に存在するか否かを、本発明に係る配列番号1〜8に示す塩基配列の情報を用いてFISH用DNAプローブやPCRプライマーを作製して、FISH、PCR、定量PCR、PCR-DGGE、DNAマイクロアレイなどにより確認することができる。
【0027】
バイオレメディエーション(bio−remediation)の実施に際しては、油分除去のバイオレメディエーションが実施可能か否かを判定できることが望ましい。例えば、汚染土壌に自生する微生物の機能を促進して浄化を行おうとする場合、汚染浄化に関わる微生物が存在しない状態でバイオスティミュレーションを行っても効果が期待できない。本願発明によれば、配列番号1〜8の新規塩基配列を用いて油分除去に関わる微生物の存在又は不存在を確認して、バイオレメディエーションが可能であるか否かを予め判定することが可能である。すなわち、油分に汚染された土壌中に自生する配列番号1〜8に示す新規塩基配列を有するブルクホルデリア属又はその近縁細菌のいずれかが存在する場合、当該細菌を用いて油分除去を行うことが可能と判定できる。しかしながら、汚染サイトの土壌に配列番号1〜8に示す新規塩基配列を有するブルクホルデリア属又はその近縁細菌の存在が認められない場合であっても、当該細菌を含む土壌、土壌スラリー、培養液等をそのような汚染土壌に添加して混合することにより、油分汚染土壌からの油分除去効果を高めることができる。
【0028】
次に、本願発明に係る配列番号1〜8に示す新規塩基配列を有するブルクホルデリア属又はその近縁細菌による油分に汚染された土壌からの油分除去について説明する。本発明に係る油分除去方法は、コールタール、アスファルトやコークスなど石炭系の油分で汚染された土壌又は原油、ガソリンなど石油系の油分、鉱油等で汚染された土壌のいずれにも適用可能である。一般的に石炭系の油分に汚染された土壌の微生物による浄化処理は石油系油分に汚染された土壌に比較して、難しいと考えられている。しかしながら、本発明に係る新規塩基配列を有する微生物は、もともと石炭系の油分に汚染された土壌に馴化したものであることから、特に一般的には困難とされる石炭系の油分に対しても油分汚染土壌からの高い油分除去効果を発揮することができる。
【0029】
汚染サイトで原位置において油分除去を行う場合、配列番号1〜8に示す新規な塩基配列を有するブルクホルデリア属又はその近縁細菌のいずれかが油分汚染土壌に自生するときは、通常、栄養塩添加、通気等によって微生物の浄化作用を高めるランドファーミング法(land farming method)を適用できる。この場合、土壌の撹拌を随時実施して微生物への栄養塩補給と通気を強制的に行うことが望ましい。当該細菌が自生していない場合には、培養した配列番号1〜8に示す新規な塩基配列を有するブルクホルデリア属又はその近縁細菌の培養液を、油分で汚染された土壌中に注入・添加することによって、当該細菌を、油分で汚染された土壌からの油分除去に用いることができる。培養液の土壌への添加方法としては、専用孔により一定位置の土中へ注入しても構わないが、微生物が拡散できにくい問題がある。酸素を供給するために、土壌撹拌と組み合わせて、培養液を添加することで、当該細菌を汚染土壌中にまんべんなく分布させることがより、好ましい。さらに、配列番号1〜8に示す新規塩基配列を有するブルクホルデリア属又はその近縁細菌の培養液に替えて、当該細菌を含む土壌又は土壌スラリーを汚染土壌に添加して、油分除去効果を発揮させることもできる。また、温度としては15℃以上40℃以下が好ましいが、効率を高めるために。20℃以上37℃以下がより好ましい。しかしながら、この場合、浄化作用の微生物を十分に増殖させて油分除去を行うにはコスト的にもエネルギー効率的に問題がある。ランドファーミング法を適用する際、汚染土壌に海水又は人工海水を用いることにより、本発明に係るブルクホルデリア属細菌又はブルクホルデリア属近縁細菌の増殖を促進できた。
【0030】
本発明者らは、土壌中の微生物が空間的に不均一に分布するため浄化作用が非効率であるものと考えた。微生物による浄化作用を土壌全体に均一に行き届けさせる必要性を考慮した。そこで、土壌の洗浄処理と生物処理を組み合わせた土壌スラリーを形成させることによって空間的に微生物を均一に分布させることにより、土壌スラリー中に棲息する微生物の制御も容易にするとともに、土壌粒子同士の接触による油分除去効果をも期待できるのではないかと考えた。
【0031】
本発明において土壌スラリーの調製のために用いる土壌は、上記油分等に汚染された土壌である。配列番号1〜8に示す塩基配列を有する核酸及びそれに等価な核酸をもつ微生物のいずれかが土壌中に存在しない場合、これら微生物の少なくとも1種類を含む土壌、土壌スラリー又は培養液をさらに加えることで油分除去効果が期待できる。汚染土壌を、海水又は製鉄所安水の活性汚泥処理水のいずれかあるいはこれらの混合水を汚染土壌と混合することにより、土壌スラリーを調製する。調製したスラリーの含水率は10質量%以上50質量%未満の範囲が望ましい。50質量%以上の場合は、攪拌動力が過大となり攪拌を維持することが難しく、一方、10質量%未満では水使用量が増大してしまい経済的でないからである。
【0032】
本発明において、スラリーを調製する際に使用する水は海水又は製鉄所安水の活性汚泥処理水のいずれかあるいはこれらを混合したものが好ましい。これは本発明では汚染土壌に自生する微生物を賦活化して油分除去などの浄化を行うものであるが、土壌には臨海埋立地のように海水由来の塩分を多く含む土壌や内陸の塩分を殆ど含まない土壌が存在するからである。汚染土壌中に自生する微生物はそれぞれ汚染土壌のおかれた環境によって、塩分濃度に対しても海水のように高い塩濃度に適応しているものやしていないものが存在するものと考えられる。したがって、臨海埋立地などの汚染土壌では、海水のような塩分濃度の高い水を用いて土壌スラリーを調製することが好ましく、一方、内陸地の汚染土壌では淡水を用いて土壌スラリーを調製することが好ましいが、勿論、これに制限されるものではない。
【0033】
尚、土壌スラリー調製のため、汚染土壌に添加する水としては、海水が容易に得られる場合は海水を用いることが望ましい。人工海水を用いてもかまわない。また、海水に淡水を混合して用いてもかまわない。海水が流入している汽水域の河川水を用いてもかまわない。海水は、微生物処理に必要な微量栄養源を含有しており、沿岸域、汽水域であれば窒素やリンの濃度も高い場合がある。海水を用いることにより、本発明に係るブルクホルデリア属細菌又はブルクホルデリア属近縁細菌の増殖を促進できる。また、pHが8.1程度であってpH緩衝能があり、安価で大量入手可能であり、水温がほぼ一定であるとういう特長がある。また、汚染土壌中の間隙水は河川等の淡水に比べ、イオン濃度、言い換えれば電気伝導度が高い場合が多く、この状況に応じた微生物が生息しており、海水と河川水、工業用水などの淡水の混合によってこの状況を作り出せる。また、製鉄所のコークス工場から発生する安水の活性汚泥処理水を汚染土壌に添加する水として用いてもかまわない。これは、製鉄所のコークス工場から発生する安水の活性汚泥処理水は、廃水と海水を混合させて活性汚泥処理しており、海水を廃水に対して150容積%から300容積%添加しているためである。安水の活性汚泥処理水もpH緩衝能があり、通常海水希釈した安水の活性汚泥処理水はpH6以上9未満で安定している。また、安水の活性汚泥処理水は水温も約30℃から38℃で一定しているため、冬場の微生物活性の低下する時期には最適である。さらに、微生物の栄養源である窒素やリンなども大量に含有しているため、汚染土壌をスラリー化して用いる水として望ましい。
【0034】
土壌スラリーによる汚染物質の分解を促進するためには、スラリーの酸化還元電位(ORP)が0mV(銀/塩化銀複合電極基準、以下同じ)以上に維持されるように、ブロアー及び/又は攪拌機の回転数を制御し、空気を供給することが望ましい。汚染物質の分解反応は、好気的雰囲気で促進されるため、溶存酸素の維持は反応促進に必要である。ORP値としては、0mV以上が好ましい。ORP値の上限値は特に限定はないが、400mV未満が好ましい。
【0035】
土壌スラリーのpHは、微生物の生育に適した6以上9未満に維持されることが望ましい。油分の土壌粒子からの洗浄効果のみを考えると、pHは高い方が望ましいことは知られているが、pHが9以上では油分の洗浄効果は増大しても、微生物の活性が急激に低下するので、pHは9未満であることが必要である。また、pHが6未満では洗浄効果が小さく、また微生物の活性も衰えるため、pHは6以上であることが望ましい。このように、スラリー反応槽又はスラリーラグーンのpHは、洗浄促進効果と微生物による分解促進効果の両面から決定すべきであり、より好ましくは、pHは7以上9未満である。pH調整剤としては、希硫酸や水酸化ナトリウムの水溶液を用いればよい。海水を用いたスラリーであれば、pH緩衝作用があるため、薬品費も削減できるという利点がある。
【0036】
土壌スラリーの土壌と上澄み液は沈降分離、遠心分離、フィルタ分離、脱水機などにより分離することができる。処理された土壌は、通常、油分が除去されたことを確認した上で、元の位置に埋め戻して再利用することができる。
【0037】
また、発生した廃水については、未分解の油分や細かく砕かれた土壌粒子が含まれ、COD(化学的酸素要求量)も高いため、水処理操作によって廃水基準を満たすまで処理する必要がある。このような水処理操作として、活性汚泥のような微生物処理が適用できる。汚染土壌中に存在する微生物は、汚染物質、例えば、油分や芳香族系炭化水素で既に馴養されており、固液分離した廃水にも馴養された微生物が含まれていることから、汚染物質である油分や芳香族系炭化水素で馴養された微生物を有する活性汚泥で処理することが好ましい。油分や芳香族系炭化水素で馴養された微生物であれば特に種類は問わないが、製鉄所のコークス工場から発生する安水を処理している活性汚泥が望ましい。安水の活性汚泥は、安水に含まれる油分や多種類の芳香族系炭化水素で十分に馴養されており、また、海水でも馴養されているため、油分や芳香族系炭化水素の分解を加速することができるからである。
【0038】
【実施例】
参考例1:配列番号1に示す塩基配列を有するブルクホルデリア(Burkhorderia)属細菌、ブルクホルデリア・クルリエンシス(Burkhorderia kururiensis)又はブルクホルデリア・ブラシレンシス(Burkhorderia brasilensis)の存在確認
土壌スラリーを採取して、8000rpmで30分間遠心後、沈殿物を回収した。この沈殿物3gを緩衝液(100mM Tris−HCl(pH9.0)、40mM EDTA)に懸濁してホモジナイザーにより分散した。次いで、塩化ベンジル法によりDNAを抽出した。抽出したDNAはエタノール沈澱で濃縮回収した。回収したDNAについて GFXTM PCR DNA及びGel Band Purification Kit(Amersham)を用いてDNAを精製して土壌からの夾雑物を除いた。
【0039】
精製したDNAを鋳型としてPCR法により配列番号1に示す塩基配列を有するブルクホルデリア属細菌ブルクホルデリア・クルリエンシス(Burkhorderia kururiensis)又はブルクホルデリア・ブラシレンシス(Burkhorderia brasilensis)の検出を行った。使用したプライマーを以下の表2:
【0040】
【表2】
【0041】
に示す。DNAポリメラーゼはAmpliTaq GoldTM(Applied Biosystems)、サーマルサイクラーにはGeneAmp PCRSystems 9600(Applied Biosystems)を用いた。PCRの条件は、94℃、7分+(94℃、30秒、65〜55℃、60秒、72℃、90秒)×20サイクル(ここで2サイクル毎にアニーリング温度を1℃下げた(65〜55℃)+(94℃、30秒、55℃、60秒、72℃、90秒)×15サイクル+72℃、10分として実施した。PCR産物はQIA quick PCR Purification Kit(QIAGEN)で精製した。このPCR産物の確認には2質量%アガロースゲルを用いて電気泳動した。泳動後、ゲルをエチジウムブロマイド染色して紫外線照射下で、マーカーDNA Ladder(TAKARA)と比較して、目的の長さのDNA断片が増幅されていることを確認した。単一のDNAバンドが検出され、配列番号1に示す塩基配列を有するホルデリア属細菌ブルクホルデリア・クルリエンシス(Burkhorderia kururiensis)又はブルクホルデリア・ブラシレンシス(Burkhorderia brasilensis)の存在が確認できた(図1参照)。
【0042】
参考例2:油分汚染土壌に自生する微生物による油分汚染除去の可能性を判定する方法
配列番号1〜8に示す塩基配列に基づいて、5つの異なる油分汚染サイトA,B,C,D,Eにおいて、汚染土壌中に配列番号1〜8に示す塩基配列を有するブルクホルデリア属細菌又はブルクホルデリア属近縁細菌が自生しているか否かを、調査して、油分汚染土壌に自生する微生物による油分汚染除去の可能性を判定した。上記5つの異なる油分汚染サイトから、それぞれ、土壌を採取して、土壌10gを緩衝液(100mM Tris−HCl(pH9.0)、40mM EDTA)に懸濁してホモジナイザーにより分散させた。次いで、塩化ベンジル法によりDNAを抽出した。抽出したDNAをエタノール沈澱で濃縮回収した。回収したDNAについて、GFXTM PCR DNA及びGel Band Purification Kit(Amersham)を用いてDNAを精製して土壌からの夾雑物を除いた。
【0043】
精製したDNAを鋳型としてPCR法により配列番号1〜8に示す塩基配列を有するブルクホルデリア属細菌又はブルクホルデリア属近縁細菌の検出を行った。使用したプライマーは実施例1で使用したものと同一であった。DNAポリメラーゼはAmpliTaq GoldTM(Applied Biosystems)、サーマルサイクラーにはGeneAmp PCR Systems 9600(Applied Biosystems)を用いた。PCRの条件は、94℃、7分+(94℃、30秒、65〜55℃、60秒、72℃、90秒)×20サイクル(ここで2サイクル毎にアニーリング温度を1℃下げた(65〜55℃)+(94℃、30秒、55℃、60秒、72℃、90秒)×15サイクル+72℃、10分として実施した。PCR産物はQIA quick PCR Purification Kit(QIAGEN)で精製した。このPCR産物の確認には2質量%アガロースゲルを用いて電気泳動した。泳動後、ゲルを塩化エチジウム染色して紫外線照射下で、マーカーDNA(TAKARA)と比較して、目的の長さのDNA断片が増幅されていることを確認した。精製されたDNAはDcode DGGE Complete System(BioRad)を用いてDGGE解析した。変性剤として尿素を使用した。変性剤濃度勾配は電気泳動方向に30質量%から60質量%までとし、ポリアクリルアミドゲル濃度は5質量%から10質量%までとした。泳動条件は電圧130Vで7時間とした。泳動後、ゲルをCyber Green(TAKARA)で染色して、UV310nm照射下でDGGE後のDNAバンド像をCCDカメラで撮影した。A,B,C,D,E各汚染サイトの油分汚染土壌についてPCR−DGGEにより、配列番号1〜8に示す塩基配列を有するブルクホルデリ属細菌又はブルクホルデリ属近縁細菌のいずれかが自生しているか否かが判り、油分汚染土壌に自生する微生物による油分汚染除去の可能性を判定することができた。結果を以下の表3:
【0044】
【表3】
【0045】
に示す。
【0046】
表中、○は、配列番号1〜8に示す塩基配列を有するブルクホルデリ属細菌又はブルクホルデリ属近縁細菌のいずれかが自生しており、油分汚染土壌に自生する微生物による油分汚染除去が可能と判定されたことを意味する。一方、×は、配列番号1〜8に示す塩基配列を有するブルクホルデリ属細菌又はブルクホルデリ属近縁細菌のいずれも存在しておらず、油分汚染土壌に自生する微生物による油分汚染除去は困難と判定されたことを意味する。
【0047】
実施例1:土壌スラリー状態における微生物作用による油分汚染された土壌からの油分除去
配列番号1〜8に示す塩基配列を有するブルクホルデリ属細菌又はブルクホルデリ属近縁細菌の一連の微生物群が存在することを確認した油分汚染土壌に対して、等体積の人工海水(アクアマリン)を加えた。ステンレス製羽根を有する撹拌機によって強化ガラス容器中で土壌と海水を混合することにより、土壌スラリーを形成させた。強制的に空気を通気することで、土壌スラリーのORPを50mV以上に制御した。また、酸性化するため、pHを7に保つようにアルカリを加えて維持した。温度は20℃で一定に保った。経時的に土壌スラリーを採取して、GFBろ紙にて吸引ろ過して残留土壌と、ろ液に分けた。この土壌中の油分をノルマルヘキサン抽出物質として、JIS K0102 24に基づいて定量した。
【0048】
図2に土壌スラリーにおける微生物処理による油分除去の結果を示す。40日間にわたる土壌スラリー処理により、汚染土壌の90%以上の油分除去を達成できた。
【0049】
土壌スラリーにおける微生物作用で汚染土壌からの油分を除去している処理工程において、土壌スラリーを経時的に採取した。採取した土壌スラリーは、8000rpmで30分間遠心後、沈殿物を回収した。この沈殿物3gを緩衝液(100mM Tris−HCl(pH9.0)、40mM EDTA)に懸濁してホモジナイザーにより分散した。次いで、塩化ベンジル法によりDNAを抽出した。抽出したDNAはエタノール沈澱で濃縮回収した。回収したDNAについてGFXTM PCR及びDNA and Gel Band Purification Kit(Amersham)を用いてDNAを精製して土壌からの夾雑物を除いた。精製したDNAを鋳型としてPCR法によりDNAの検出感度を上げるとともに、DGGE法により僅かな塩基配列の違いでも検出できるようにした。使用したプライマーを以下の表4:
【0050】
【表4】
【0051】
に示す。DNAポリメラーゼはAmpliTaq GoldTM(Applied Biosystems)、サーマルサイクラーにはGeneAmp PCRSystems 9600(Applied Biosystems)を用いた。PCRの条件は、94℃、7分+(94℃、30秒、65〜55℃、60秒、72℃、90秒)×20サイクル(ここで2サイクル毎にアニーリング温度を1℃下げた(65〜55℃)+(94℃、30秒、55℃、60秒、72℃、90秒)×15サイクル+72℃、10分として実施した。PCR産物はQIA quick PCR Purification Kit(QIAGEN)で精製した。このPCR産物の確認には2質量%アガロースゲルを用いて電気泳動した。泳動後、ゲルを臭化エチジウム染色して紫外線照射下で、マーカーDNA(TAKARA)と比較して、目的の長さのDNA断片が増幅されていることを確認した。精製されたDNAはDcode DGGE Complete System(BioRad)を用いてDGGE解析した。変性剤として尿素を使用した。変性剤濃度勾配は電気泳動方向に30質量%から60質量%までとし、ポリアクリルアミドゲル濃度は5質量%から10質量%までとした。泳動条件は電圧130Vで7時間とした。泳動後、ゲルをCyber Green(TAKARA)で染色して、UV130nm照射下でDGGE後のDNAバンド像をCCDカメラで撮影した。結果を図3に示す。スラリー処理開始時と比較して、7日目から21日目にかけて多種類の微生物が検出され、スラリー処理の進行にともない、微生物群集構造が大きく変化していることが明らかになった。40日間の土壌スラリーでの微生物作用による処理で、経時的に微生物の菌相が変化する様子をモニタリングできた。
【0052】
【発明の効果】
本発明により、コールタール、アスファルトやコークスなどに起因する石炭系油分で汚染された土壌、あるいは原油、ガソリンなどに起因する石油系油分、鉱油等で汚染された土壌の微生物による浄化技術を提供する。
【0054】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】PCRによる微生物の存在確認結果を示す図面に代わるゲル電気泳動写真である。
【図2】土壌スラリーにおける微生物作用による油分除去を示すグラフである。
【図3】汚染土壌処理中の微生物群衆構造の変化を示す図面に代わるゲル電気泳動写真である。
【図4】配列番号1及び配列番号2。配列番号1〜8中、rはa又はg、sはc又はg、yはc又はt、kはg又はt、wはa又はt、mはa又はc、そしてnはa、c、g、tのいずれかを表す。
【図5】配列番号3及び配列番号4。
【図6】配列番号5及び配列番号6。
【図7】配列番号7及び配列番号8。
Claims (3)
- 配列番号1〜8に示す塩基配列を16SリボゾームRNA遺伝子配列に含む一連の微生物群が含有されている土壌スラリーを用いて、油分に汚染された土壌から油分を除去する方法であって、
前記油分に汚染された土壌中に前記微生物群が存在する場合は、当該土壌に海水若しくは製鉄所安水の活性汚泥処理水又はこれらの混合水を加えてスラリー化し、
前記油分に汚染された土壌中に前記微生物群が存在しない場合は、前記油分に汚染された土壌に、前記微生物群を加えて且つ海水若しくは製鉄所安水の活性汚泥処理水又はこれらの混合水を加えてスラリー化し、
前記スラリーに空気を通気することで、
当該スラリー中の前記微生物群により、前記油分に汚染された土壌から油分を除去することを特徴とする油分汚染土壌の浄化方法。 - 前記油分除去後の土壌スラリーから土壌を分離し、当該分離した土壌を再利用することを特徴とする、請求項1に記載の油分汚染土壌の浄化方法。
- 前記油分の汚染が、コールタール、コークスを含む石炭系油分の汚染であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の油分汚染土壌の浄化方法。
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