本発明は、ハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターの磁気回路を構成するヨーク部品、特に、メタルチップの発生が可及的に低減された大容量ハードディスクドライブ用のボイスコイルモーターのヨーク部品の製造において好適なヨーク部品のバリ除去方法に関する。
ハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターは、図1に示されるように、一般に、主に高い磁気特性を有している希土類磁石mと、磁気回路を構成する複数(図1の場合4つ)のピースからなるヨーク部品11,12,13,13とで構成されている(なお、図1中cはコイルである。)。ハードディスクの記憶容量増大化に伴う磁気ヘッド浮上量の減少によってヘッドクラッシュのおそれが増すため、近年、ヨーク部品に対しては、ヘッドクラッシュの原因となるメタルチップ汚染をより引き起こし難いものが切望されている。
ヨーク部品は、優れたモーター性能を得るために材質として主に低炭素鋼を用い、低炭素鋼をプレス板金、切削などによって加工することにより製造されている。しかしながら、低炭素鋼は粘りやすい性質をもっているため、ヨーク部品の加工工程において、せん断バリや切削バリが生じやすい欠点を有している。
また、年々ハードディスクドライブが小型化しているため、これに使用するボイスコイルモーターの磁気回路を構成するヨーク部品も小型化、複雑化が更に進んでおり、ヨーク部品に施される貫通孔加工、曲げ加工、ネジ穴加工、ハーフパンチ加工、段付け加工などにおいてより細かい加工が増加し、製造されるヨーク部品のこれらの部分(例えば、図1に示される貫通孔111、ハーフパンチ部112、段付け加工部113、切り欠き部114など)へのバリ発生頻度は増加する傾向にある。
加工の際にヨーク部品に生じるバリは、ただヨーク部品の表面に付着しているだけであっても問題であるが、衝撃などを受けると容易に脱落する可能性があり、脱落したバリはメタルチップとなって、ハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターの汚染の原因となり、ハードディスクドライブ作動時に脱落したバリ(メタルチップ)が磁気ヘッドに衝突すると、ヘッドクラッシュを引き起こす。ヘッドクラッシュは、ハードディスクにおいては致命的な問題である。
特に近年では、ヘッド浮上量が0.1μm以下となっており、0.1mm以下のメタルチップの脱落もヘッドクラッシュの原因となりえる。また、ハードディスク上に脱落したメタルチップが付着すれば、メタルチップは強磁性を示すため、記録されたデーターの破損等が生じ、これも問題である。特に近年では、ハードディスクの記録密度が1ギガバイト/cm2以上となっており、0.1mm程度のメタルチップの脱落も記録されたデーターの破損の原因となりえるため、重大な問題である。
このようなプレス成形、切削時に発生するバリは、バレル研磨により除去するのが一般的であるが、これだけではバリを完全に除去することは困難である。ヨーク部品にはφ1〜10mm程度の貫通孔やφ1〜3mm程度のハーフパンチをもつものがほとんどであり、これらの穴に詰まらない大きさのバレル研磨材を選定する必要がある。そのため、図2(A)に示されるように、研磨材が到達しないデットスペースがない通常のエッジ部分に発生したバリは、研磨材があらゆる方向から衝突するので、図2(B)に示されるようなエッジ部分に発生したバリを、バレル研磨によりバリを有効に除去すること(図2(C))ができるが、図3(A)に示されるように、バレル研磨材の径より小径の貫通孔には研磨材が到達しないデットスペースが存在し、図3(B)に示されるような微小加工部のエッジ部分に発生したバリには、オープンスペース、即ち、研磨材が到達する空間側からのみ研磨材が衝突し、デットスペース側から衝突しないため、単にバリを倒して微小加工部のデットスペース側へ押し込むだけとなり、更には、このように特定の側からのみ研磨材が衝突することにより、もともとバリがなかった部分にも新たなバリ(2次バリ)を発生させてしまうおそれもある(図3(C))。また、図4(A)に示されるハーフパンチ部、(B)に示される段付け加工部、及び(C)に示されるヨーク部品の外周縁部に形成されたバレル研磨材の径より小幅の切り欠き部などの微小加工部のバリの場合も同様である。なお、図2〜4中、11はヨーク部品、111は貫通孔、112はハーフパンチ部、113は段付け加工部、114は切り欠き部、2は研磨材、bはバリ、dはデットスペース、oはオープンスペースを示す。
ハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターの磁気回路を構成するヨーク部品のバリを除去する方法として、本発明者は、ヨーク部材に対してバレル研磨工程とウォータジェットによるバリ取り工程とを順次行う方法(特許文献1:特開2001−78398号公報)、ヨーク部材に対してバレル研磨工程と磁気研磨工程とを順次行う方法(特許文献2:特開2001−79750号公報)、ヨーク部材に対してバレル研磨工程と超音波によるバリ取り工程とを順次行う方法(特許文献3:特開2001−78397号公報)、ヨーク部材に対してバレル研磨工程と砥粒流動加工工程とを順次行う方法(特許文献4:特開2001−78418号公報)を報告したが、これらの方法では、上述したような磁気ヘッドの浮上量が少ない大容量ハードディスク向けのヨーク部品の微小加工部に発生したバリを効果的に取り除くことができないため、ヨーク部品をプレス成形や切削した後に、バレル研磨を施して、一旦、デットスペースがない通常のエッジ部分のバリ取りをした上で、更に追加のバリ取りを施すことが必要である。
追加のバリ取り工程として、バレル研磨後に化学研磨を行うことも有効であるが、通常、0.5mm以下の微小なバリ取りを対象とする化学研磨で1mm程度の大きさのバリ取りに対して十分なバリ取り効果を得るためには、長時間化学研磨することになり、その結果、ヨーク部品本体をも溶かしてしまうので、細かい加工が施されている部分の厚さ・寸法の制御が困難である。
更には、電解研磨の手法を用いてバリ取りした上で、優先的に溶かされたエッジ部の寸法を確保するために電気メッキを行う手法(特許文献5:特開2002−262523号公報)により、バリのないヨーク部品は作製可能ではあるが、電解研磨自体がコストアップの要因であり、かつ寸法制御が難しいことから、より簡便でかつコストアップとならない手法が望まれている。
特開2001−78398号公報
特開2001−79750号公報
特開2001−78397号公報
特開2001−78418号公報
特開2002−262523号公報
本発明は、上記問題点を改善するためになされたもので、ハードディスクドライブの動作時に問題となる微小メタルチップとなってしまうおそれのある通常のバレル研磨では除去しきれないバリ、特に、大容量ハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターのヨーク部品において問題となる微小加工部に発生したバリを、効果的、かつ効率的に除去・低減する方法を提供することを目的とするものである。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターのヨーク部品の表面に存在するバリをバレル研磨により除去する際、ヨーク部品のエッジ部分のうち、バレル研磨材粒子が到達するオープンスペースとバレル研磨材粒子が到達しないデットスペースとの境界近傍に存するエッジ部分の一部又は全部を、曲面形状又はテーパ面形状に加工してからバレル研磨することにより、ヨーク部品のプレス成形加工や切削加工によって形成される貫通孔、ハーフパンチ部、段付け加工部、切り欠き部等の微小加工部のエッジ部分、例えば、バレル研磨材の径より小径の貫通孔の両周縁部、ハーフパンチ部の先端周縁部、段付け加工部の肩部の辺縁部、及び上記ヨーク部品の外周縁部に形成されたバレル研磨材の径より小幅の切り欠き部の両周縁部から選ばれる1又は2以上の部位におけるバリの発生頻度を低減できると共に、上記加工において発生してしまったバリ、特に、ハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターのヨーク部品において問題となる微小加工部に発生してしまったバリを、従来と同様にバレル研磨によって除去することができ、更には、バレル研磨の際にバレル研磨粒子が上記微小加工部のエッジ部分に衝突しても2次バリが発生しにくくなることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下のハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターのヨーク部品のバリ除去方法を提供する。
請求項1:ハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターのヨーク部品の表面に存在するバリをバレル研磨により除去する方法であって、上記ヨーク部品のエッジ部分のうち、バレル研磨においてバレル研磨材粒子が到達するオープンスペースとバレル研磨材粒子が到達しないデットスペースとの境界近傍に存するエッジ部分の一部又は全部を、曲面加工又はテーパ面加工してからバレル研磨することを特徴とするハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターのヨーク部品のバリ除去方法。
請求項2:上記境界近傍に存するエッジ部分が、バレル研磨材の径より小径の貫通孔の両周縁部、ハーフパンチ部の先端周縁部、段付け加工部の肩部の辺縁部、及び上記ヨーク部品の外周縁部に形成されたバレル研磨材の径より小幅の切り欠き部の両周縁部から選ばれる1又は2以上の部位であることを特徴とする請求項1記載のバリ除去方法。
本発明によれば、ハードディスクドライブの動作時に問題となる微小メタルチップとなってしまうおそれのある通常のバレル研磨では除去しきれないバリ、特に、大容量ハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターのヨーク部品において問題となる微小加工部に発生したバリを、効果的、かつ効率的に除去することができ、このようなバリが除去されたハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターのヨーク部品は、微細なメタルチップが特に問題となる大容量ハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターのヨーク部品として好適である。
発明を実施するための最良の形態及び実施例
本発明は、ハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターのヨーク部品の表面に存在するバリをバレル研磨により除去する方法であり、ヨーク部品のエッジ部分のうち、バレル研磨においてバレル研磨材粒子が到達するオープンスペースとバレル研磨材粒子が到達しないデットスペースとの境界近傍に存するエッジ部分を曲面(R面)加工又はテーパ面加工してからバレル研磨するものである。
ハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターのヨーク部品には、優れたモーター性能を得るため、その材質として一般に低炭素鋼、例えば、Mnが1%以下で、かつ炭素含有量が0.05〜0.25%のSPCC、S15Cなどの低炭素鋼が用いられ、ヨーク部品は、低炭素鋼を用いてプレス板金打ち抜き加工などによって作製される。そして、図1に示されるように、ヨーク部品11,12には貫通孔111、ハーフパンチ部112、段付け加工部113、切り欠き部114などの微小加工部が形成される。
このようなヨーク部品には、部品表面の研磨、特に、上述した微小加工部などに発生したバリを除去するためにバレル研磨が施されるが、ヨーク部品に対するバレル研磨においては、ヨーク部品に形成した貫通孔などにバレル研磨材粒子が詰まることがないように、形成した貫通孔の径より大きいバレル研磨材粒子が用いられるため、バレル研磨材粒子が到達するヨーク部品表面に隣接するバレル研磨材粒子が到達できないデットスペースができてしまう。このデットスペースは、図2〜4に示されるように、バレル研磨材の径より小径、例えばφ1〜10mm程度の貫通孔、ハーフパンチ部、段付け加工部、及びヨーク部品の外周縁部に形成されたバレル研磨材の径より小幅、例えば1〜10mmの切り欠き部などの微小加工部の内側に又は微小加工部に接して存在する。そして、バリは、このようなバレル研磨材粒子が到達するオープンスペースとバレル研磨材粒子が到達しないデットスペースとの境界近傍のエッジ部分に多数発生してしまうが、バレル研磨材粒子は、この微小加工部のエッジ部分に発生したバリには、オープンスペース側、即ち、研磨材が到達する空間側のみから衝突し、デットスペース側からは衝突しないため、単にバリを倒して微小加工部のデットスペース側へ押し込むだけとなる。また、バリが存在しない場合であっても、このように特定の側からのみ研磨材が衝突することにより新たなバリ(2次バリ)が発生してしまうことも起こる。
本発明においては、バレル研磨においてバレル研磨材粒子が到達するオープンスペースとバレル研磨材粒子が到達しないデットスペースとの境界近傍に存するエッジ部分を曲面加工又はテーパ面加工してからヨーク部品をバレル研磨するものである。エッジ部分をテーパ形状に加工してからバレル研磨することにより、微小加工部のバリを低減すると共に、発生してしまったバリの除去も容易に可能となり、更にはバレル研磨による2次バリの発生を抑えることができる。
バレル研磨においてバレル研磨材粒子が到達するオープンスペースとバレル研磨材粒子が到達しないデットスペースとの境界近傍に存するエッジ部分を曲面加工又はテーパ面加工する方法としては、プレス板金打ち抜き加工の際に、所定のエッジ部分が曲面又はテーパ面となる金型を用いて曲面加工又はテーパ面加工を施す方法や、プレス板金打ち抜き加工後に、ヨーク部品のエッジ部分を曲面又はテーパ面に切削加工する方法などが挙げられる。
貫通孔においては、貫通孔を形成する周面の両端に存するエッジ部分(両周縁部)に曲面又はテーパ面が形成されるが、例えば、プレス板金打ち抜き加工の際に、所定のエッジ部分が曲面又はテーパ面となる金型を用いて曲面加工又はテーパ面加工を施す方法について、貫通孔のエッジ部分にテーパ面を形成する場合を例に詳述すると、図5(A)に示されるように、まず、ヨーク部品11にプレス打ち抜き加工により、最終的に形成する貫通孔の径より若干小さい孔をせん断形成し、次に、図5(B)に示されるように、エッジ部分を打ち抜く部分がテーパ面に形成された金型を用い、貫通孔の両端の径が最終的に形成する貫通孔の径より若干大きくなるように、プレス打ち抜き加工により、貫通孔のエッジ部分にテーパ面tを形成する。そして、最後に図5(C)に示されるように、貫通孔が所定の径になるように、もう一度プレス打ち抜き加工によりせん断して貫通孔111を形成する。この方法では、プレス打ち抜き工程のみで、追加工程での物理的又は化学的手法を用いることなくエッジ部分の加工が可能である点で好適であるが、貫通孔の打ち抜き後に、切削加工などにより曲面又はテーパ面を形成することも可能である。なお、テーパ面の角度としては、貫通孔の周面に対して95〜175度、特に130〜150度とすることが好ましい。テーパ面の角度が浅すぎたり、逆に深すぎたりすると、次工程のバレル研磨において、2次バリが多くなってしまうおそれがある。
一方、エッジ部分に曲面(R面)を形成する場合は、上述した、エッジ部分を打ち抜く部分が曲面(R面)に形成された金型を用いればよい。この場合、曲面(R面)は、例えば、C(R)が0.05mm以上、特に、0.2mm以上とすることが好ましく、このようにすることで、次工程のバレル研磨におる2次バリの発生を抑制することができる。なお、テーパ面の高さ及び曲面(R面)のC(R)の上限は、貫通孔の長さの1/2以下、特に1/3以下とすることが好ましく、φ1〜10mm程度の貫通孔の場合0.5mm以下であることが望ましい。
ハーフパンチ部は、一般に、ボイスコイルモーターをハードディスクドライブに組み込む際の位置決めに、又はヨーク部品に磁石を接着する際の位置決めなどに使用されるものであるが、ハーフパンチ部においては、その先端のエッジ部分(先端周縁部)に曲面又はテーパ面が形成される。この場合、ハーフパンチの打ち抜き形成時に始めからエッジ部分を打ち抜く部分が曲面又はテーパ面に形成された金型を用いて、ハーフパンチ部の打ち抜き形成と同時にエッジ部分の曲面加工又はテーパ面加工を一気に実施してもよいし、ハーフパンチ部の打ち抜きと曲面又はテーパ面の形成とを別々に、例えば、ハーフパンチ部の打ち抜き後に、切削加工などにより曲面又はテーパ面を形成する方法で実施してもよい。
なお、テーパ面の角度は、ハーフパンチ部の周面に対する角度を上述した貫通孔の場合と同様とすることが好ましい。また、曲面(R面)も上述した貫通孔の場合と同様とすることができるが、この場合、テーパ面の高さ及び曲面(R面)のC(R)の上限は、ハーフパンチ部の高さの1/2以下、特に1/3以下とすることが好ましく、例えば、高さ0.5〜2.0mm、径0.5〜3.0mm程度のハーフパンチ部の場合0.5mm以下であることが望ましい。
段付け加工部においては、その段上のエッジ部分(肩部の辺縁部)に曲面又はテーパ面が形成される。この場合、段付け加工部の打ち抜き形成時に始めからエッジ部分を打ち抜く部分が曲面又はテーパ面に形成された金型を用いて、段付け加工部の打ち抜き形成と同時にエッジ部分の曲面加工又はテーパ面加工を一気に実施してもよいし、段付け加工部の打ち抜きと曲面又はテーパ面の形成とを別々に、例えば、段付け加工部の打ち抜き後に、切削加工などにより曲面又はテーパ面を形成する方法で実施してもよい。
なお、テーパ面の角度は、段付け加工部の段差面に対する角度を上述した貫通孔の場合と同様とすることが好ましい。また、曲面(R面)も上述した貫通孔の場合と同様とすることができるが、この場合、特に、段付け加工部の打ち抜き後に、切削加工などにより曲面又はテーパ面を形成する場合においては、テーパ面の高さ及び曲面(R面)のC(R)の上限は、段付け加工部の段差の1/2以下、特に1/3以下とすることが好ましく、例えば、段差1.0〜3.0mm程度の段付け加工部の場合0.5mm以下であることが望ましい。
また、段付け加工部においてはその機能上、段付け加工部の段差面全体を曲面又は図5(D)に示されるようにテーパ面とすることも可能である。この場合、例えば、プレス板金打ち抜き加工の際に、段差面が曲面又はテーパ面となる金型を用いて曲面加工又はテーパ面加工すれば、プレス打ち抜き工程のみで、追加工程での物理的又は化学的手法を用いることなくエッジ部分の加工が可能である点で好適であるが、この場合も貫通孔の打ち抜き後に、切削加工などにより曲面又はテーパ面を形成することも可能である。なお、図5(D)中、11はヨーク部品、113は段付け加工部、tはテーパ面である。また、段付け加工部の段差面全体をテーパ面とする場合のテーパ面の角度としては、テーパ面の斜度を40〜85度、特に40〜60度(段差上面に対するテーパ面の角度を95〜140度、特に120〜140度)とすることが好ましい。
ヨーク部品の外周縁部に形成された切り欠き部には、エッジ部分として、ヨーク部品の外周に沿った部分(両周縁部)と、ヨーク部品の外周面の切り欠き部の境界をなすヨーク部品の厚さ方向に沿った部分とがあり、いずれの部分にも曲面又はテーパ面を形成し得るが、特に、プレス打ち抜き加工のせん断方向と直交する方向に形成されるエッジ部分、即ち、ヨーク部品の外周に沿ったエッジ部分(両周縁部)に曲面又はテーパ面を形成することが好ましい。
この場合、曲面又はテーパ面を形成する方法としては、上述した貫通孔の場合と同様に、まず、プレス打ち抜き加工により、切り欠き部を最終的に形成する大きさより若干小さくせん断形成し、次に、エッジ部分を打ち抜く部分が曲面又はテーパ面に形成された金型を用い、上端が最終的に形成する切り欠き部よりも大きくなるように、プレス打ち抜き加工により、エッジ部分に曲面又はテーパ面を形成する。そして、最後に、切り欠き部が所定の大きさになるように、もう一度プレス打ち抜き加工により切り欠き部をせん断する方法が好適であるが、エッジ部分の打ち抜き後に、切削加工などにより曲面又はテーパ面を形成することも可能である。
なお、テーパ面の角度は、切り欠き部を構成する面(周面)に対する角度を上述した貫通孔の場合と同様とすることが好ましい。また、曲面(R面)も上述した貫通孔の場合と同様とすることができるが、この場合、テーパ面の高さ及び曲面(R面)のC(R)の上限は、切り欠き部の大きさ(ヨーク部品の厚さ)の1/2以下、特に1/3以下とすることが好ましく、例えば、厚さ1.0〜3.0mm、幅1.0〜10.0mm程度の切り欠き部の場合0.5mm以下であることが望ましい。
このようなエッジ部分への曲面又はテーパ面の形成は、プレス打ち抜きにおいて、いわゆる「ダレ面」が形成される貫通孔、ハーフパンチ部、段付け加工部、ヨーク部品の外周縁部に形成された切り欠き部などにおいて好適であるが、例えば、ヨーク部品の外周面上の研磨材が到達しないデットスペースがない通常のエッジ部分、いわゆる「バリ面」において形成することも可能であり、この場合、ヨーク部品を完全にせん断する前に逆方向から、既にせん断されているバリ面のエッジ部をたたく、いわゆる「カウンターパンチ」を行って、同様の曲面又はテーパ面の形成をバリ面に対しても行ってよい。なお、このバリ面においては、せん断時に発生したバリがヨーク部品のエッジに埋まってしまい、次工程のバレル面取りでは取り切れずに、その後に脱落する可能性もあり、また、一般的にはバリ面には破断面が存在する場合が多く、若干ではあるが、結果的に曲面やテーパ面に近い形状をしている場合も多く、バレル研磨における2次バリの発生は、ダレ面よりはむしろ少ないことから、バリ面への曲面又はテーパ面の形成は、実際にヨーク部品上のバリの状態を観察しながら、その要否を決定することが好ましい。
プレス板金打ち抜き加工後に、ヨーク部品のエッジ部分を曲面又はテーパ面に切削加工する方法の場合は、従来のプレス板金打ち抜き加工により形成された、貫通孔、ハーフパンチ部、段付け加工部、切り欠き部などの微小加工部のエッジ部分に対して、例えば切削加工を施すことにより曲面又はテーパ面を形成するものであるが、この切削加工は、例えば、サンドペーパー、やすり、砥石などによる研削、機械加工、放電加工などにより可能である。
本発明においては、ヨーク部品の上述したエッジ部分に曲面加工又はテーパ面加工を施した後に、このヨーク部品をバレル研磨する。
バレル研磨は、アルミナ、シリカ、マグネシア等を主成分とする研磨材を使用し、ヨーク部材と防錆液などを添加した水とを同時に回転バレル、振動バレル又は遠心バレルなどに封入し、研磨材とヨーク部材とを回転、振動などにより衝突させることにより行うことができる。
この場合、研磨材の径は3mm以上、特に5mm以上で、20mm以下、特に15mm以下、とりわけ10mm前後の球形状又は正四面体形状のものが好ましく使用される。特に、貫通孔径又は切り欠き部の幅より小径の研磨材を用いることは、それらに研磨材が残るおそれがあるため避けたほうがよい。
このバレル研磨により、ヨーク部品の表面に存在するバリが除去されると共に、ヨーク部品の表面が研磨されるが、本発明においては、バレル研磨においてバレル研磨材粒子が到達するオープンスペースとバレル研磨材粒子が到達しないデットスペースとの境界近傍に存するエッジ部分、特に、バレル研磨材の径より小径の貫通孔、ハーフパンチ部、段付け加工部、及びヨーク部品の外周縁部に形成されたバレル研磨材の径より小幅の切り欠き部などのエッジ部に曲面加工又はテーパ面加工が施されているため、まず、これらのエッジ部におけるバリの発生量が少なく、また、バリが発生してしまっていても、エッジ部分へバレル研磨材粒子が従来に比べて入り込みやすいため、バリを除去し易く、更に、エッジ部が曲面又はテーパ面となっているため、2次バリの発生も少ない。
なお、バレル研磨後、ヨーク部品に化学研磨を施すことも可能である。化学研磨の時間としては短時間、通常1〜3分間程度が好ましい。長時間処理すると、ヨーク部品に残存している微小バリの除去には効果的ではあるが、ヨーク部品の微小加工部の寸法精度が損なわれるおそれがある。
バレル研磨後のヨーク部品は、一般に無電解メッキなどの方法により、ヨーク部品表面にニッケルメッキなど皮膜が形成され、超音波洗浄されて、ハードディスクドライブに有害なメタルチップを低減して、ハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターのヨーク部品として製品化される。
そして、このヨーク部品を用い、磁石を接着して着磁、組立を行うことにより、ハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターとして製品化することができる。
以下に、更に実施例及び比較例を示し、本発明を詳述するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
厚さ2mmのSPCC冷間圧延鋼板を用い、プレス打ち抜きにてハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターの磁気回路を構成する重量26gの図1に示されるような長さ約6.5cm、幅約2.5cmの平板形状のヨーク部品を100個作製した。
このヨーク部品は、エッジ部分が曲面及びテーパ面のいずれにもなっていないものであり、径4.0mmの貫通孔(2箇所)、径2.0mm、高さ1.5mmの凸状のハーフパンチ部(3箇所)、段差1.0mmの段付け加工部(2箇所)、及び径2.0mmの半円筒形状の切り欠き部(2箇所)が形成されている。図6(A)に貫通孔、(B)にハーフパンチ部、(C)に段付け加工部及び(D)に切り欠き部の形状を各々示す。なお、図6中、11はヨーク部品、111は貫通孔、112はハーフパンチ部、113は段付け加工部、114は切り欠き部を示す(以下の図において同じ)。
次に、砥石による研削加工によりハーフパンチ部(3箇所)の上端のエッジ部分(先端周縁部)を切削加工して、ハーフパンチ部のエッジ部分に図7(A)に示されるようなテーパ面加工(ハーフパンチ部の周面に対する角度は135度)を施した。なお、図7(A)中、tはテーパ面を示す(以下の図において同じ)。
次に、上記の方法でハーフパンチ部にテーパ面加工を施したヨーク部品100個について、貫通孔(2箇所)、ハーフパンチ部(3箇所)、段付け加工部(2箇所)及び切り欠き部(3箇所)を顕微鏡(20倍)にて0.5mm以下のバリの発生状態を観察し、バリがあるものの個数を計数した。結果を表1に示す。
次に、このヨーク部品に以下の条件で回転バレル研磨及び化学研磨を施した。
[回転バレル研磨]
ヨーク部品 100個
研磨材 外径7mm球状研磨材(アルミナ、シリカ主成分)5リットル
回転数 20rpm
研磨時間 2時間
[化学研磨工程]
過酸化水素水、水素2フッ化アンモニウムを主成分とする化学研磨液(三菱ガス化学株式会社製 CPL−100)を3倍水希釈し、20℃にて1分間浸漬処理した。
更に、無電解メッキ液を用い、ヨーク部品のメッキに常用される条件にて無電解ニッケルメッキ処理を施し、ヨーク部品表面に膜厚7μmのニッケルメッキ皮膜を形成した。このメッキ皮膜を形成したヨーク部品100個について、貫通孔(2箇所)、ハーフパンチ部(3箇所)、段付け加工部(2箇所)及び切り欠き部(3箇所)を顕微鏡(20倍)にて0.5mm以下のバリの発生状態を観察し、バリがあるものの個数を計数した。結果を表1に示す。
次に、メッキ後のヨーク部品を60℃の超純水で、超音波洗浄器(島田理化工業社製)にて40kHz、出力600Wで超音波洗浄を2分間行ったものを、クラス100のクリーンルームに搬送し、磁石と共にハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターとして組み立てた。
得られたハードディスクドライブ用ボイスコイルモーター100個について、その磁石表面を顕微鏡(20倍)にて0.5mm以下のメタルチップの付着状態を観察し、メタルチップの付着があるものの個数を計数した。結果を表1に示す。
[実施例2]
実施例1と同様の方法でハーフパンチ部にテーパ面加工を施し、更に、段付け加工部(2箇所)の段上のエッジ部分(肩部の辺縁部)を砥石により切削加工して、図7(B)に示されるようなテーパ面加工(段付け加工部の周面に対する角度は135度)を施した以外は実施例1と同様の方法でヨーク部品、ニッケルメッキ皮膜を形成したヨーク部品及びハードディスク用ボイスコイルモーターを得、実施例1と同様にバリ及びメタルチップの状態を観察し、それらの数を計数した。結果を表1に示す。
[実施例3]
厚さ2mmのSPCC冷間圧延鋼板を用い、プレス打ち抜きにてハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターの磁気回路を構成する重量26gの図1に示されるような長さ約6.5cm、幅約2.5cmの平板形状のヨーク部品を100個作製した。
このヨーク部品は、径4.0mmの貫通孔(2箇所)、径2.0mm、高さ1.5mmの凸状のハーフパンチ部(3箇所)、段差1.0mmの段付け加工部(2箇所)、及び径2.0mmの半円筒形状の切り欠き部(2箇所)が形成されているが、貫通孔、段付け加工部及び切り欠き部のエッジ部分には曲面加工及びテーパ面加工のいずれも施されていない。一方、ハーフパンチ部には、プレス打ち抜きの際に、ハーフパンチ部の上端のエッジ部分を打ち抜く部分が曲面(R面 R=0.5mm)をなす金型を用いたことにより、ハーフパンチ部の上端のエッジ部分(先端周縁部)に曲面(R面 R=0.5mm)が形成されている。このハーフパンチ部の形状を図8(A)に示す。なお、図8(A)中、rは曲面(R面)を示す。
次に、段付け加工部(2箇所)の段上のエッジ部分(肩部の辺縁部)を砥石により切削加工して、図7(B)に示されるようなテーパ面加工(段付け加工部の周面に対する角度は135度)を施した。なお、このヨーク部品において、貫通孔及び切り欠き部の形状は、実施例1と同様であり、図6(A)及び(D)に各々示されるとおりである。
次に、上記の方法で曲面(R面)加工及びテーパ面加工を施したヨーク部品100個について、貫通孔(2箇所)、ハーフパンチ部(3箇所)、段付け加工部(2箇所)及び切り欠き部(3箇所)を顕微鏡(20倍)にて0.5mm以下のバリの発生状態を観察し、バリがあるものの個数を計数した。結果を表1に示す。
次に、このヨーク部品に実施例1同様の条件で回転バレル研磨、化学研磨、及び無電解ニッケルメッキ処理を施してニッケルメッキ皮膜を形成したヨーク部品を得、実施例1と同様にバリの状態を観察して計数し、更に実施例1と同様の方法でハードディスク用ボイスコイルモーターを得、メタルチップの状態を観察して計数した。結果を表1に示す。
[実施例4]
実施例2と同様の方法でハーフパンチ部及び段付け加工部にテーパ面加工を施し、更に、貫通孔(2箇所)の貫通孔を形成する周面の両端のエッジ部分(両周縁部)を砥石により切削加工して、図8(B)に示されるようなテーパ面加工(貫通孔の周面に対する角度は135度)を施した以外は実施例2と同様の方法でヨーク部品、ニッケルメッキ皮膜を形成したヨーク部品及びハードディスク用ボイスコイルモーターを得、実施例1と同様にバリ及びメタルチップの状態を観察し、それらの数を計数した。結果を表1に示す。
[実施例5]
実施例4と同様の方法でハーフパンチ部、段付け加工部及び貫通孔にテーパ面加工を施し、更に、切り欠き部(2箇所)のプレス打ち抜き加工のせん断方向と直交するヨーク部品の外周に沿ったエッジ部分(両周縁部)にテーパ面を砥石により切削加工して、図8(C)に示されるようなテーパ面加工(切り欠き部の周面(ヨーク部品の外周面)に対する角度は135度)を施した以外は実施例4と同様の方法でヨーク部品、ニッケルメッキ皮膜を形成したヨーク部品及びハードディスク用ボイスコイルモーターを得、実施例1と同様にバリ及びメタルチップの状態を観察し、それらの数を計数した。結果を表1に示す。
[比較例1]
実施例1において作製したエッジ部分がいずれも曲面及びテーパ面になっていないヨーク部品を曲面加工及びテーパ面加工のいずれも施さずにそのまま用い、実施例1と同様の方法でニッケルメッキ皮膜を形成したヨーク部品及びハードディスク用ボイスコイルモーターを得、実施例1と同様にバリ及びメタルチップの状態を観察し、それらの数を計数した。結果を表1に示す。
バレル研磨前のバリは、プレス打ち抜き加工でエッジ部分に発生したせん断バリであり、本実施例においては、ハーフパンチ部及び段付け加工部には、プレス打ち抜き加工によるせん断バリは生じていなかった、また、メッキ後のヨーク部品には、曲面加工又はテーパ面加工を施していない部位にバレル研磨に起因する2次バリが多く認められた。
ハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターの概略分解斜視図である。
ヨーク部品の研磨材が到達しないデットスペースがない通常のエッジ部分に存在するバリの状態と、このバリが研磨材により除去された状態を説明するための断面図である。
ヨーク部品の貫通孔のエッジ部分に存在するバリの状態と、このバリが研磨材により貫通孔内部に押し込まれた状態及び2次バリが発生した状態を説明するための断面図である。
(A)はヨーク部品のハーフパンチ部のエッジ部分に存在するバリの状態を示す断面図、(B)はヨーク部品の段付け加工部のエッジ部分に存在するバリの状態を示す断面図、(C)はヨーク部品の外周縁部に形成されたバレル研磨材の径より小幅の切り欠き部のエッジ部分に存在するバリの状態を示す断面図である。
(A)〜(C)は、ヨーク部品の貫通孔のエッジ部分にプレス打ち抜き加工により、テーパ面を形成する方法の説明図であり、(A)は貫通孔の径より若干小径の孔を形成した状態、(B)はエッジ部分にテーパ面を形成した状態、(C)は所定の径の貫通孔を形成した状態を示す断面図である。また、(D)は、段付け加工部の段差面全体をテーパ面に形成したヨーク部品の段付け加工部を示す断面図である。
エッジ部分に曲面及びテーパ面のいずれも形成されていないヨーク部品の微小加工部を示す図であり、(A)は貫通孔、(B)はハーフパンチ部、(C)は段付け加工部、(D)は切り欠き部の形状を示す断面図である。
各実施例におけるヨーク部品の微小加工部の形状及び寸法を示す図であり、(A)はエッジ部分にテーパ面を形成したハーフパンチ部、(B)はエッジ部分にテーパ面を形成した段付け加工部を示す断面図である。
各実施例におけるヨーク部品の微小加工部の形状及び寸法を示す図であり、(A)はエッジ部分に曲面(R面)を形成したハーフパンチ部、(B)はエッジ部分にテーパ面を形成した貫通孔、(C)はエッジ部分にテーパ面を形成した切り欠き部を示す断面図である。
符号の説明
11,12,13 ヨーク部品
111 貫通孔
112 ハーフパンチ部
113 段付け加工部
114 切り欠き部
2 研磨材
b バリ
c コイル
d デッドスペース
m 希土類磁石
o オープンスペース
r 曲面(R面)
t テーパ面