以下、本発明の絶対操舵位置検出装置を適用した車両用の電気式動力舵取装置の実施形態について図を参照して説明する。まず、本実施形態に係る電気式動力舵取装置20の構成等を図1〜図7に基づいて説明する。
図1および図4に示すように、電気式動力舵取装置20は、主に、ステアリングホイール21、ステアリング軸22、ピニオン軸23、ラック軸24、トルクセンサ30、モータ40、モータレゾルバ44、ボールねじ機構50、ECU60等から構成されており、ステアリングホイール21による操舵状態をトルクセンサ30により検出しその操舵状態に応じたアシスト力をモータ40により発生させて当該車両の運転者による操舵をアシストする機能や、後述する絶対操舵角確定処理による案内情報をバックガイド装置70に出力する機能を備えたものである。なお、ラック軸24の両側には、それぞれタイロッド等を介して図略の車輪が連結されている。また電気式動力舵取装置20には、ステアリングホイール21の回転を左右両側において規制する図略のストッパ機構が設けられており、後述するようにステアリングホイール21の物理回転可能範囲Nが設定されている。
即ち、図1および図2に示すように、ステアリングホイール21には、ステアリング軸22の一端側が連結され、このステアリング軸22の他端側には、ピニオンハウジング25内に収容されたトルクセンサ30の入力軸23aおよびトーションバー31がピン32により連結されている。またこのトーションバー31の他端側31aには、ピニオン軸23の出力軸23bがスプライン結合によって連結されている。
このピニオン軸23の入力軸23aはベアリング33aにより、また出力軸23bもベアリング33bにより、それぞれピニオンハウジング25内を回動自在に軸受されており、さらに入力軸23aとピニオンハウジング25との間には、第1レゾルバ35が、また出力軸23bとピニオンハウジング25との間には、第2レゾルバ37が、それぞれ設けられている。トルクセンサ30を構成する第1レゾルバ35および第2レゾルバ37は、ステアリングホイール21による回転角を検出し得るもので、端子39を介してECU60にそれぞれ電気的に接続されている(図4参照)。一方、ピニオン軸23の出力軸23bの端部には、ピニオンギヤ23cが形成されており、このピニオンギヤ23cにはラック軸24のラック溝24aが噛合可能に連結されている。これにより、ラックアンドピニオン式の操舵機構を構成している。
図1および図3に示すように、ラック軸24は、ラックハウジング26およびモータハウジング27内に収容されており、その中間部には、螺旋状にボールねじ溝24bが形成されている。このボールねじ溝24bの周囲には、ラック軸24と同軸に回転可能にベアリング29により軸受される円筒形状のモータ軸43が設けられている。このモータ軸43は、ステータ41や励磁コイル42等とともにモータ40を構成するもので、ステータ41に巻回された励磁コイル42により発生する界磁が、回転子に相当するモータ軸43の外周に設けられた永久磁石45に作用することより、モータ軸43が回転し得るように構成されている。
モータ軸43は、その内周にボールねじナット52が取り付けられており、このボールねじナット52にも、螺旋状にボールねじ溝52aが形成されている。そのため、このボールねじナット52のボールねじ溝52aとラック軸24のボールねじ溝24bとの間に多数のボール54を転動可能に介在させることによって、モータ軸43の回転によりラック軸24を軸方向に移動可能なボールねじ機構50を構成することができる。
即ち、両ボールねじ溝24b、52a等から構成されるボールねじ機構50により、モータ軸43の正逆回転の回転トルクをラック軸24の軸線方向における往復動に変換することができる。これにより、この往復動は、ラック軸24とともにラックアンドピニオン式の操舵機構を構成するピニオン軸23を介してステアリングホイール21の操舵力を軽減するアシストカとなる。なお、モータ40のモータ軸43とモータハウジング27との間には、モータ軸43の回転角(電気角)θMeを検出し得るモータレゾルバ44が設けられており、このモータレゾルバ44は図略の端子を介してECU60に電気的に接続されている(図4参照)。
ECU60は、CPU61、バッファアンプ63、64、65等から構成されている。CPU61には、バッファアンプ63、64、65を介して、第1レゾルバ35、第2レゾルバ37およびモータレゾルバ44が電気的に接続されているほか、システムバスを介して図略の主記憶装置としての半導体メモリ装置や、バックガイド装置70等が接続されている。なお、この主記憶装置には、後述する絶対操舵角確定処理に関するプログラム等が格納されている。
なお、第1レゾルバ35、第2レゾルバ37およびモータレゾルバ44の構成および電気的特性については、本願出願人による特開2003−75109号公報、特願2002−196131号の明細書、特願2003−73807号の明細書等に詳細に開示されているので、これらを参照されたい。
このように構成することにより、ステアリング軸22の回転角、即ちステアリングホイール21による回転角θTmを、第1レゾルバ35による電気角θT1および第2レゾルバ37による電気角θT2により検出することができる。また電気角θT1と電気角θT2との角度差や、角度比等からトーションバー31の捻れ量(操舵トルクに対応するもの)を捻れ角として検出することができる。そして、このトーションバー31の捻れ角度である相対回転角度差△θとトーションバー31のバネ係数とから操舵トルクTを算出することができるので、この操舵トルクTに応じて操舵力をアシストするための公知のアシスト制御をECU60のCPU61によって行う。これにより、前述したモータ40により発生する操舵力によって当該車両の運転者よる操舵をアシスト可能となる。
ここで、トルクセンサ30を構成する一方の第1レゾルバ35は、対極数5で電気的には5組のN極、S極を有するいわゆる「5x」のレゾルバであることから、第1レゾルバ35から得られる電気角θT1には、ステアリングホイール21の1回転(360度)につき、5つのピーク点ができる。またこの第1レゾルバ35は、機械角360°に対して360°×5=1800°に相当する電気角を出力し得るため、電気角360°のレゾルバより5倍の分解能を有する。なお、レゾルバの「対極数」は、前述した「電気角回転数」に相当し得るものである(以下同じ)。
これに対し、トルクセンサ30を構成する他方の第2レゾルバ37から得られる電気角θT2には、ステアリングホイール21の1回転(360度)につき6つのピーク点ができる。これは、第2レゾルバ37が対極数6のレゾルバであり、電気的には6組のN極、S極を有するいわゆる「6x」のレゾルバであることから、機械角360°に対して360°×6=2160°に相当する電気角を出力し得る。つまり、当該第2レゾルバ37は、電気角360°のレゾルバより6倍の分解能を有する。
このように、第1レゾルバ35はレゾルバ信号として電気角θT1を、また第2レゾルバ37はレゾルバ信号として電気角θT2をそれぞれ出力するが、図5からわかるように、両信号波形は同じステアリングホイール21の回転角において(中立点、±360度、±720度を除き)同じ値をとることはない。そのため、第1レゾルバ35の電気角θT1と第2レゾルバ37の電気角θT2とに基づいて、CPU61による演算処理を行うことにより、ステアリングホイール21の1回転(360度)の範囲内で機械角(操舵角)θTmを一義的に得ることができる。
なお、このようにステアリング軸22の回転角である第1操舵角を検出する第1レゾルバ35と、第1レゾルバ35と異なる対極数を有しステアリング軸22の回転角である第2操舵角を検出する第2レゾルバ37と、第1操舵角および第2操舵角に基づいてステアリング軸22の1回転を0度〜360度の範囲で操舵角として求める操舵角演算手段としてのCPU61と、により構成する場合のほか、ステアリング軸22の1回転を0度〜360度の範囲で操舵角として検出可能な、対極数1のいわゆる1xのレゾルバ(操舵位置検出器)で構成しても良い。これにより、第1レゾルバ35および第2レゾルバ37を組み合わて構成した場合に比べて検出角の精度は低下するものの、CPU61による演算処理を簡素に構成することが可能となる。
ところが、図5からわかるように、本実施形態に係る電気式動力舵取装置20では、ステアリングホイール21が中立点を中心に左右2回転づつ回転し得ることから、トルクセンサ30を構成する第1、第2レゾルバ35、37だけでは、各回転量(A=1、0、−1、−2)を特定することができない。そこで、モータレゾルバ44によりモータ40のモータ回転角(電気角θMe)を検出し、さらに演算モータ電気角θMe(A)を算出する処理をECU60により行う。
即ち、次式(1) による演算処理によって、A=1、0、−1、−2に対応する4つの演算モータ電気角θMe(1) 、θMe(0) 、θMe(-1)、θMe(-2)を算出し、さらに4個の演算モータ電気角θMe(A)を所定範囲内に丸めた後、実際のモータ電気角θMe(以下、演算モータ電気角θMe(A)と区別するため、「実モータ電気角θMe」という。)に最も近いものを各回転量(A=1、0、−1、−2)の中から選択する。
θMe(A) =(θTm +360×A)×r ・・・(1)
なお、rは、ボールねじ機構50の減速ギヤ比とモータレゾルバ44の対極数との積による演算値で、小数点以下の数値を有する非整数となる値である。例えば、ボールねじ機構50の減速ギヤ比が8.2、モータレゾルバ44の対極数が7に設定される場合には、当該演算値rは57.4(=8.2×7)となる。
これにより、図5に示すように、ステアリングホイール21が左右1回転以上の有限回転数内で回転する場合であっても、トルクセンサ30を構成する第1レゾルバ35、第2レゾルバ37およびモータレゾルバ44により、ステアリングホイール21の絶対操舵角θAm(絶対操舵位置)を検出することができ、ステアリングホイール21の回転範囲A=−2、−1、0またはA=−1、0、1において、回転量を検出可能に構成することができる(以下、回転範囲A=−2、−1、0、1のいずれも検出可能なものを「N4型」と称し、回転範囲A=−2、−1、0またはA=−1、0、1を検出可能なものを「N3型」と称する。)。
ここで、ボールねじ機構50の減速ギヤ比は、ステアリングホイール21の回転量とモータ40の回転量との比(回転比)Mrev で、ステアリングホイール21が1回転したときのモータ40の回転数としても表現することができるので、比ストロークSをリードLにより除算することで求められる。即ち、ステアリングホイール21が1回転したときのラック軸24の移動量である比ストロークSを、モータ40が1回転したときのラック軸24の移動量であるリードLで割ることにより回転比Mrev を求めることができ(Mrev =S/L)、この値には通常、予め決定された設計値等が所定値として設定されている。
しかしながら、[発明が解決しようとする課題]の欄で述べたように、比ストロークSとリードLの値によっては、ステアリングホイール21が多回転した後にイグニッションスイッチがオンされた直後においては、絶対操舵位置を特定できない場合、つまり絶対操舵位置の未確定状態が発生し得る。特に、モータ40とラック軸24の間に介在する減速機(ボールねじ機構50等)の減速ギヤ比(回転比Mrev )の設定自由度が低く、当該減速ギヤ比とモータレゾルバ44の対極数との積による演算値rを任意の値に設定するのが困難な場合がある。なお、レゾルバの対極数は、通常、整数になるため、当該対極数により演算値rの小数点以下の数値を任意の値に設定することは考慮していない。
例えば、当該演算値rが20.33である場合には、その小数点以下の数値が0.33になる。すると、回転範囲A=−2、−1、0、1のいずれも検出可能なN4型を採る場合には、図6に示すように、演算値rの小数点以下の数値に対する真値検出余裕度が低くなる(同図に示す実線;演算値rの小数点以下の数値が0.33である場合、真値検出余裕度は10以下)。一方、同数値が0.33である場合であっても、N3型を採用するときには真値検出余裕度を高く維持することができる(同図に示す破線;演算値rの小数点以下の数値が0.33である場合、真値検出余裕度は100以上)。当該演算値rの小数点以下の数値が0.67である場合も、同数値が0.33の場合と同様になる。
ここで、真値検出余裕度とは、前述したように求められた演算モータ電気角θMe(A)の4種類中(A=−2、−1、0、1)のうちの、真値と当該真値に最も近い偽値との差を絶対値(0度≦最小偏差<180度)として表したものをいい、この値が大きいほど操舵機構等の機械系のガタツキによる誤差等に強く、当該真値に近い偽値を誤って選択する可能性が低い。なお、この真値検出余裕度と機械系のガタツキによる誤差等との関係や、図6に示す演算値rの小数点以下の数値に対する真値検出余裕度の変化を示す特性図の根拠等については、本願出願人による特願2003−73807号の明細書、図面等に詳細に開示されているので、これらを参照されたい。
このように、比ストロークSとリードLの値によっては、絶対操舵位置の未確定状態が発生し、さらに減速ギヤ比とモータレゾルバ44の対極数との積による演算値rが20.33等の小数点以下の数値が0.33や0.67になったり、または接近する場合には、回転範囲A=−2、−1、0、1のいずれも検出可能なN4型を採用することが困難になる。そのため、回転範囲A=−2、−1、0またはA=−1、0、1を検出可能なN3型を採用することになる。ところが、このN3型においては、図7(A) に示すように、A=−2とA=1とを区別することができない。そのため、このような両回転範囲を区別する絶対位置検出処理が本願出願人により提案されており、特願2003−73807号の明細書、図面等に詳細に開示されている。
この先の出願による第1の絶対位置検出処理では、電気式動力舵取装置20の構成において、ステアリング軸22の途中にロック機構が介在していること、ECU60にイグニッションスイッチセンサからオンオフ信号が入力されること、およびECU60が不揮発性メモリを備えていること、を前提として、イグニッションスイッチのオン後、不揮発性メモリに記憶された前回のIGオフ時操舵角θAm-offおよびロック機構により規制されるステアリングホイール21の360度未満の回転範囲に基づいて、今回、第1レゾルバの電気角θT1、第2レゾルバの電気角θT2および実モータ電気角θMeから求められるステアリングホイール21の絶対操舵角θAmを複数の1回転範囲A=−2またはA=1から特定している。なおこの「ロック機構」は、イグニッションスイッチがオフにされた場合等に、ステアリング軸22に連結されたステアリングホイール21の回転を所定の回転範囲内に規制する機能を有するもので、車両の盗難防止を目的に設けられるものである。
そのため、このようなロック機構を備えていない車両においては、当該第1の絶対位置検出処理を適用することはできないことから、図7(A) に示すようなA=−2とA=1とを区別することができないN3型のものを採用することはできないことになる。そこで、本願出願人による当該先の出願(特願2003−73807号)の明細書等では、ロック機構を備えていない車両においてもN3型のものを採用し得る第2の絶対位置検出処理を提案している。
即ち、この先の出願による第2の絶対位置検出処理では、図7(B) に示すように、2つの絶対操舵位置候補としての絶対操舵角θAm(1)、θAm(−2)のうち、一方がステアリングホイール21の回転範囲A=−2、−1、0、1のいずれの範囲にも存在せず、他方が同回転範囲A=−2、−1、0、1のいずれかの範囲に存在する場合には、この他方を当該2つの絶対操舵角θAm(1)、θAm(−2)から絶対操舵角θAmの1回転範囲Aとして特定している。
また、図7(C) に示すように、2つの絶対操舵位置候補としての絶対操舵角θAm(1)、θAm(−2)のいずれもがステアリングホイール21の回転範囲A=−2、−1、0、1のいずれかの範囲に存在する場合には、図7(D) に示すように、ステアリングホイール21が所定角度を超えて回転したことにより2つの絶対操舵角θAm(1)、θAm(−2)の一方が、回転範囲A=−2、−1、0、1のいずれの範囲にも存在しなくなったときに、2つの絶対操舵角θAm(1)、θAm(−2)のうちの他方を、当該2つの絶対操舵角θAm(1)、θAm(−2)から絶対操舵角θAmの1回転範囲Aとして特定している。
つまり、図7(C) に示すようなA=−2とA=1とのいずれかの回転範囲にも絶対操舵位置候補が存在する場合には、当該車両の運転者によるステアリングホイール21の操舵を待つ必要があり、[発明が解決しようとする課題]の欄で述べたように、絶対操舵位置が特定できるような状態になるまで、絶対操舵位置を必要とする処理を待たせてしまうことになる。
そこで、本実施形態に係る電気式動力舵取装置20では、以下、図8および図9を参照して説明する絶対操舵角確定処理を行っている。なお、この絶対操舵角確定処理は、前述したECU60を構成するCPU61によって演算処理されるもので、特に、イグニッションスイッチのオン直後等の、当該電気式動力舵取装置20の起動直後に実行されるものである。そのため、絶対操舵角θAmが確定した後には、原則として実行されない。
図8に示すように、絶対操舵角確定処理では、所定の初期化処理の後、まずステップS101によりトルクセンサ30の電気角θT1,θT2からステアリングホイール21の機械角θTmを算出する処理が行われる。即ち、トルクセンサ30を構成する、第1レゾルバ35や第2レゾルバ37からそれぞれ出力される電気角θT1、電気角θT2に基づいて前述したようなCPU61による演算処理を行うことによって、ステアリングホイール21の1回転(360度)の範囲で機械角(操舵角)θTmを一義的に算出している。そして、続くステップS103では、モータレゾルバ44の実モータ電気角θMeを算出する処理が行われる。なお、所定の初期化処理によって後述する確定フラグ等の各制御フラグや作業領域等が初期値(例えば確定フラグの場合、未確定の旨を表す値)に設定される。
これにより、第1レゾルバ35および第2レゾルバ37による機械角θTmに基づいた前掲の式(1) に基づく演算処理により、A=1、0、−1、−2に対応する4つの演算モータ電気角θMe(1) 、θMe(0) 、θMe(-1)、θMe(-2)を算出することにできるので、続くステップS105では確定前の絶対操舵角θAmを算出する処理が行われる。即ち、式(1) に基づいて算出された4個の演算モータ電気角θMe(1) 、θMe(0) 、θMe(-1)、θMe(-2)を所定範囲内に丸めた後、ステップS103により算出された実モータ電気角θMeに最も近いものを各回転量(A=1、0、−1、−2)の中から選択する処理を行う。
このようにしてステップS105によって算出された確定前の絶対操舵角θAmについてその確定を所定式に基づき判定する処理がステップS107、S109により行われる。即ち、次式(2) に基づいて確定前の絶対操舵角θAmが確定可能なものであるか否かの判定を行い(S107)、絶対操舵角θAm(絶対操舵位置)が±D回転以内である場合には(S109でYes)、図7(A) に示すように、当該絶対操舵角θAmにより、その回転範囲をA=−2またはA=1のいずれか一方に区別することができるので、その絶対操舵角θAmを確定可能であるものとして、続くステップS111によりその旨を通知する確定フラグを設定して一連の本絶対操舵角確定処理を終了する。
±D = N−S/2 ・・・(2)
なお、式(2) において、Sは、ステアリングホイール21がストッパ機構により左右の回転可能な範囲を規制される場合における左右の回転可能端間の物理回転可能範囲を表す。またNは、この物理回転可能範囲S内においてステアリングホイール21が操舵の中立位置から右にn回転および左にm回転それぞれ可能に設定された所定回転範囲n+mを表し、N3型の場合にはN=3に、N4型の場合にはN=4に、それぞれ設定される(なおN<S)。さらに±Dは、確定前の絶対操舵角θAmが確定可能な場合における回転可能範囲、つまり確定可能範囲を表す。
一方、式(2) に基づいて絶対操舵角θAm(絶対操舵位置)が±D回転以内でない場合には(S109でNo)、図7(A) に示すように、当該絶対操舵角θAmにより、その回転範囲をA=−2またはA=1のいずれか一方に区別することのできない、つまり未確定の絶対操舵角θAmということになる。そのため、ステップS111による確定フラグの設定を行うことなく、ステップS113に処理を移行する。
例えば、ステアリングホイール21の物理回転可能範囲Sが4.2回転で、左右2回転づつの所定回転範囲Nが4回転である場合(n=2、m=2)には、ステップS107により±D=4−4.2/2=1.9回転が得られる。そのため、確定前の絶対操舵角θAmによる絶対操舵位置が±1.9回転以内であるときには、ステップS109により「確定可能な絶対操舵角θAm(絶対操舵位置)である」と判定され(S109でYes)、また絶対操舵位置が±1.9回転を超えているときには、ステップS109により「確定可能な絶対操舵角θAm(絶対操舵位置)ではない」と判定される(S109でNo)。
ここで、この上記式(2) の導出根拠を図9に基づいて説明する。なお、図9は、ステアリングホイール21の回転角に対する、ステアリングホイール21の機械角θTmおよびモータ40の実モータ電気角θMeの変化を示す特性図で、N3型、演算値r=3.33の場合のものである。またこの図9では、演算値r=3.33に設定しているが、これは、演算値rの値に従ってステアリングホイール21の1回転中(0度〜360度)に存在する実モータ電気角θMeの三角形状の波形数が増減するためで、当該演算値rの小数点以下の値が0.33であれば「20.33」ではなく「3.33」であっても、式(2) の根拠を説明するうえで支障はないことから、本図の見やすさを考慮して演算値rを20.33ではなく「3.33」に設定している。
図9に示すように、例えば、ストッパ機構によるステアリングホイール21の物理回転可能範囲Sを3.5回転(−540度〜720度)に設定した場合、所定回転範囲Nは、N<Sの範囲で設定されることから、例えば、左回転端(−540度)に現れる機械角θTmと実モータ電気角θMeとの一致点αと同値をとりこれと区別ができないものを破線上で確認すると一致点β(540度)を得ることができる。したがってこの一致点βに至るまでの間(−540度〜540度)を所定回転範囲Nに設定すると、操舵の中立位置からステアリングホイール21が右に1.5回転(0度〜540度)および左に1.5回転(0度〜−540度)する範囲となる。ここで、一致点βを含めてその右回転端側の回転範囲(S−N;540度〜720度)は、左回転端の一致点αを含めてその右回転端側の回転範囲(S−N;−540度〜−360度)と同値をとるから、これら(S−N)の回転範囲は両者を区別することができないステアリングホイール21の回転範囲となる。これは、N3型において図7(A) を参照して既に説明したとおりである。
したがって、一致点α、βのように同値をとることなく、一義的に絶対操舵角θAmを得ることができるステアリングホイール21の回転範囲は、その物理回転可能範囲Sから(S−N)の2倍を除いた範囲(S−2(S−N)=2N−S)、つまり所定回転範囲Nから(S−N)を除いた範囲(N−(S−N)=2N−S)となる。そのため、これを1/2することによって((2N−S)/2=N−S/2)、中立位置を基準とした回転範囲を得ることができ、上記式(2) (±D=N−S/2)が得られる。
ステップS109により、ステップS105による絶対操舵角θAmは未確定なものである判断されると(S109でNo)、続くステップS113により他の装置等から絶対操舵角θAmの要求があるか否かを判断する処理が行われる。即ち、例えば、バックガイド装置70等、電気式動力舵取装置20の起動直後から絶対操舵角θAmを必要とする他の装置や他のシステム等から、絶対操舵角θAmの要求がある場合には、確定した絶対操舵角θAmを迅速に当該他の装置等に出力する必要があるので、そのような絶対操舵角θAmの要求の有無を本ステップにおいて判断する。例えば、バックガイド装置70を制御するECUとの共有メモリにおいて、当該バックガイド装置70から絶対操舵角θAmを要求する旨を通知する絶対操舵角要求フラグが設定されているか否か、あるいはバックガイド装置70とECU60とを接続する通信制御線(例えば、CAN;Control Area Network)による絶対操舵角要求情報の有無等によって本ステップによる判断処理が行われる。
ステップS113により他の装置等から絶対操舵角θAmの要求があると判断されると(S113でYes)、ステップS115により運転者に対して操舵を促す案内情報を当該他の装置等に出力する処理が行われて、再びステップS101に処理を戻す。一方、当該要求がないと判断されると(S113でNo)、絶対操舵角θAmの確定フラグを設定することなく一連の本絶対操舵角確定処理を終了する。これにより、他の装置等から絶対操舵角θAmの要求があると判断された場合には、ステップS115によってバックガイド装置70に対して当該案内情報が出力されるため、これを受けたバックガイド装置70では、例えば、当該車両の運転者によるステアリングホイール21の操舵を促す警告メッセージを当該バックガイド装置70のディスプレイ装置に表示したり、またその旨を告知する音声案内を当該バックガイド装置70の合成音声ユニットからスピーカを介して出力する。
したがって、このような絶対操舵角θAm(絶対操舵位置)の未確定状態が発生しても、当該車両の運転者にステアリングホイール21による操舵を促す案内情報が出力されるので、運転者によるステアリングホイール21の操舵によって絶対操舵角θAm(絶対操舵位置)を特定できる位置にステアリングホイール21を移動させることができる。即ち、例えば、図7(C) に示すように、2つの絶対操舵位置候補としての絶対操舵角θAm(1)、θAm(−2)のいずれもがステアリングホイール21の回転範囲A=−2、−1、0、1のいずれかの範囲に存在するような状態にあっても、図7(D) に示すように、当該運転者による操舵によってステアリングホイール21が所定角度を超えて回転し2つの絶対操舵角θAm(1)、θAm(−2)の一方が、回転範囲A=−2、−1、0、1のいずれの範囲にも存在しなくなる状態に迅速に移行させることができるので、絶対操舵角θAm(絶対操舵位置)の未確定状態を解消することができる。
なお、ステップS115による出力処理が終了すると、再びステップS101に処理を戻しているので、ステップS103、S105、S107、S109、S113、S115によって、当該案内情報は運転者のステアリング操舵により絶対操舵角θAm(絶対操舵位置)を特定できるまで出力される。
以上説明したように、本実施形態に係る電気式動力舵取装置20によると、CPU61により実行される絶対操舵角確定処理よって、第1レゾルバ35によりステアリング軸22の回転角である電気角θT1(第1操舵角)を検出し、第1レゾルバ35と異なる対極数を有する第2レゾルバ37によりステアリング軸22の回転角である電気角θT2(第2操舵角)を検出して、これらの電気角θT1、θT2に基づいてステアリング軸22の1回転を0度〜360度の範囲で機械角θTm(操舵角)として求める(S101)。そして、モータレゾルバ44によりモータ40の回転角である実モータ電気角θMeを検出し(S103)、これらの機械角θTmおよび実モータ電気角θMeに基づいてステアリングホイール21の絶対操舵角θAmであって確定前のものを求める(S105)。さらに、確定前の絶対操舵角θAmが確定可能なものであるか否かを所定式(±D=N−S/2)に基づいて判定し(S107)、当該確定前の絶対操舵角θAmが確定可能な絶対操舵角θAmでないと判定された場合には(S109でNo)、ステアリングホイール21による操舵を車両の運転者に促す案内情報をECU60によりバックガイド装置70に出力する(S115)。
これにより、例えば、操舵角信号とモータ電気角信号との周期差が0になる位置が複数箇所存在することにより絶対操舵角θAmを特定できず、絶対操舵角θAmの未確定状態が発生しても、当該車両の運転者にステアリングホイール21による操舵を促す案内情報がバックガイド装置70に出力されるので、当該バックガイド装置70による警告メッセージ等により促された運転者によるステアリングホイール21の操舵によって、絶対操舵角θAmを特定できる位置にステアリングホイール21を移動させることができる。また、ステアリングホイール21の1回転を0度〜360度の範囲で検出することができないレゾルバであっても、対極数の異なるレゾルバを2以上組み合わせることによってこれらのレゾルバの検出角信号の周期差から操舵角演算手段により操舵角を求めることができる。したがって、絶対操舵角θAmの未確定状態を解消することができる。
また、本実施形態に係る電気式動力舵取装置20によると、モータ40は、ステアリング軸22に連結されたピニオン軸23のラックアンドピニオン式の操舵機構のラック軸24に伝達される操舵力を補うことから、いわゆるラックアンドピニオン型の電気式動力舵取装置について、例えば、モータ40とラック軸24の間に介在するボールねじ機構50の減速ギヤ比の設定自由度が低く、当該ボールねじ機構50とモータレゾルバ44の対極数との積による演算値を任意の値に設定するのが困難な場合であって、操舵角信号とモータ電気角信号との周期差が0になる位置が複数箇所存在するような構成等のとき、CPU61により実行される絶対操舵角確定処理よって、より際だった効果が発揮される。
さらに、上述した実施形態とは異なり、モータがステアリング軸に伝達される操舵力を補う、いわゆるコラム型の電気式動力舵取装置についても、本発明を適用することができる。この場合には、特に、モータとステアリング軸の間に介在する減速機の減速ギヤ比の設定自由度が低くなりがちであるので、上述した電気式動力舵取装置20による実施形態と同様に、当該減速ギヤ比とモータレゾルバの対極数との積による演算値を任意の値に設定するのが困難な場合であって、操舵角信号とモータ電気角信号との周期差が0になる位置が複数箇所存在するような構成等のときに、CPU61により実行される絶対操舵角確定処理よって、より一層、際だった効果が発揮される。
なお、本実施形態では、位置検出器としてレゾルバを例示して説明したが、本発明はこれに限られることはなく、絶対位置検出角として機械角360度を検出可能なものであれば、例えば、アブソリュート光学式エンコーダ、アブソリュート磁気式エンコーダ、ポテンショメータを位置検出器として用いることができ、上述したレゾルバと同様の作用・効果が得られる。
また、本実施形態では、励磁巻線1相と出力巻線2相とを備えるいわゆる「1相励磁2相出力型のレゾルバ」を、第1位置検出器としての第1レゾルバ35に、第2位置検出器としての第2レゾルバ37に、モータ位置検出器としてのモータレゾルバ44に、それぞれ用いたが、本発明はこれに限られることはなく、励磁巻線2相と出力巻線1相とを備えるいわゆる「2相励磁1相出力型のレゾルバ」をこれらに用いても、上述と同様の作用・効果を得ることができる。さらに、操舵位置検出器としてのレゾルバについても同様で、1相励磁2相出力型あるいは2相励磁1相出力型のいずれのレゾルバでも用いることができ、上述と同様の作用・効果を得ることができる。