JP4230634B2 - D/u検知方法及び回路並びにこれらを応用した装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、受信信号における希望波不要波比(以下「D/U」)を検知するためのD/U検知方法及び回路並びにその応用に関する。
【0002】
【従来の技術】
テレビジョン放送では、放送波を送信する親局放送機だけでなく、放送波を無線受信しこれを増幅して無線送信する中継放送機が用いられる。従来から実施されているアナログ方式の地上波テレビジョン放送では、視聴者装置におけるゴーストの発生等、信号干渉の問題を避けるため中継放送の際に周波数変換を行い、受信時とは異なる周波数(チャネル)にて送信を行っている。これに対し、実施が予定されているディジタル方式の地上波テレビジョン放送では、いわゆる単一周波数ネットワーク(SFN:Single Frequency Network)を実現すべく、受信チャネルと同一チャネルで送信を行う中継放送機がのぞまれている。即ち、受信チャネルと送信チャネルが同一であるにもかかわらず、視聴者装置でもまた中継放送機でも信号干渉の問題が現れない中継放送機を実現することが、期待されている。
【0003】
本願出願人は、この期待に応えるべく、中継放送機に関する各種の技術的改良を提案している。例えば、特開平11−112400号公報にて実施形態として開示されている中継放送機は、図1に示すように、可変減衰器(ATT)10における信号減衰量を受信信号に応じて制御する減衰量制御回路12を有している。これら可変ATT10及び減衰量制御回路12は、回り込み波の干渉による中継放送機の発振を防止するため等に、使用できる。
【0004】
まず、図示しない設備から無線送信された放送波は受信アンテナ14により受信され、受信信号は受信機16にて高周波増幅される。受信機16から出力された受信信号は自動利得制御(AGC)回路18及び可変ATT10を介して送信機20に供給される。送信機20は、この信号を電力増幅し送信アンテナ22により無線送信する。受信機16にて中間周波数へのダウンコンバートを実行し送信機22にて無線周波数へのアップコンバートを行うようにしてもよい。但し、中間周波数に一旦変換する場合であってもしない場合であっても、受信機16における受信信号と同一の無線周波数(チャネル)にて、送信機20及び送信アンテナ22による無線送信を実行する。また、中継放送に際しては、受信信号入力レベルが多少変動してもその無線送信出力が変化しないように、利得制御を施す必要がある。AGC回路18はそのための回路であり、所定レベルを目標として受信信号のレベルを自動調整する。
【0005】
このように受信と送信を同一無線周波数とする中継放送機では、回り込みによる発振を防止するための回路上の工夫が必要である。ここでいう回り込みは、送信アンテナ22から無線送信された信号が同じ中継放送機の受信アンテナ14により受信されることである。仮に、受信アンテナ14から受信機16、AGC回路18、送信機20、送信アンテナ22及び無線伝搬路を経て受信アンテナ14に戻るループの利得が0(dB)を上回ってしまうと、このループが発振し、正常な中継を行えなくなる。
【0006】
そのため、上掲公報に実施形態として記載した中継放送機では、図1中で可変ATT10及び減衰量制御回路12として表されている回路を設けている。減衰量制御回路12は、放送波に予め挿入されているヌルシンボルの期間を利用して、受信信号に現れている回り込み波のレベルをAGC回路18の出力から検知する。即ち、放送波のレベルが低下するため、ヌルシンボル期間においては遅延波である回り込み波のレベルを検知できる。回り込み波のレベルが所定レベルを上回ると、減衰量制御回路12は、可変ATT10における信号減衰量を増大させることにより送信機20の出力を低下させ、回り込み波のレベルを抑える。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ヌルシンボル期間を必須としているため、この方法には、ヌルシンボル期間にしか実行できずそれ以外の期間では必ずしも最適の制御状態にならない、ヌルシンボルが挿入されていない信号の中継に適用できない等の問題がある。また、所定レベルとの比較により回り込み波のレベル上昇を検知しているため、AGC回路18から出力され可変ATT10に入力される受信信号、即ちそのレベルが一定でありかつ減衰量制御の影響を受けない信号を、減衰量制御回路12に入力する必要があり、これは中継放送機内回路の設計及び配置にとって制約となっている。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決することを課題としてなされたものであり、例えば回り込み波やマルチパス波が受信信号にもたらす歪、より一般には不要波が入力信号にもたらす歪を利用し、またヌルシンボル期間を利用せずに、入力信号におけるD/Uを検知するD/U検知方法及び回路を提供することを目的とする。本発明は、更に、このD/U検知方法及び回路を用い減衰量制御回路や異常時処理回路を構成することにより、中継放送機等の無線中継機や親局放送機等の無線送信機、より一般には送信機能を備えた無線機における不要輻射の低減やD/U改善及び回り込み発振防止を実現し、またこれを簡素な構成の回路で実現することを目的とする。本発明は、また、無線機内部回路の設計及び配置上の制約を緩和し、減衰量制御を高速化し、回り込み波とマルチパス波とを弁別できるようにし、或いは中継開始時等における劣化した信号の送信を回避できるようにすることを、その目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するために、本発明に係るD/U検知方法は、(1)入力信号の周波数スペクトルに現れる歪波形を周波数領域における波形から時間領域における波形に変換し、(2)時間領域に変換された歪波形を平滑することにより、(3)入力信号におけるD/Uに対応する検知電圧を生成することを特徴とする。また、本発明に係るD/U検知回路は、(1)所定のトレース帯域内にて掃引発振するスイープオシレータと、(2)このスイープオシレータの出力との混合により入力信号を周波数変換するミキサと、(3)このミキサの出力をミキサへの入力信号の占有帯域及びスイープオシレータにおけるトレース帯域に比べ狭い通過帯域を以て帯域通過濾波する狭帯域BPFと、(4)狭帯域BPFにより濾波された信号を検波する検波器と、(5)検波器の出力たる検波電圧を平滑して検知電圧を生成する平滑回路と、を備え、(6)ミキサへの入力信号スペクトルに生じている歪波形を周波数領域から時間領域に変換しさらに平滑することにより、入力信号におけるD/Uに対応する検知電圧を生成することを特徴とする。
【0010】
このように、本発明におけるD/Uの検知は、入力信号の周波数スペクトルに現れる歪波形に着目した手法によるものである。ここでいう入力信号は、例えば、中継放送機等の無線中継機により受信された信号であり、当該受信信号の周波数スペクトルに歪波形が現れるのは、例えば回り込み波、マルチパス波等の遅延干渉波或いは不要波が、中継すべき信号である希望波に干渉しているときである。例えば、日本におけるディジタル地上波テレビジョン放送で採用予定のOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex)方式では、隣接するキャリアが相直交するよう多数のキャリアを周波数軸上に密に並べているため、遅延干渉波が到来しているときにはその周波数スペクトル(の包絡線)にリプル波形が現れる。また、中継放送機、視聴者装置等に放送波を送信する装置即ち親局放送機には、OFDM変調器から、或いはSTL(Studio-Transmitter Link)、TTL(Transmitter-Transmitter Link)等の回線を通じて、OFDM変調された信号が入力される。その際、OFDM変調器から出力され或いはSTL等の回線から得られ、親局放送機の送信機に入力される信号の周波数スペクトルには、装置故障や回線不調等が原因で、歪が現れることがある。更に、携帯電話等で採用されている多元接続方式であるCDMA(Code Division Multiple Access)方式でも、有意な幅を有する無線周波数帯域内に多数の信号が分布するため、送信時或いは中継時に、OFDM波の放送や中継の際に生じた歪波形と類似した歪波形が生じうる。
【0011】
本発明においては、この歪波形或いはその一形態であるリプル波形を、周波数帯域における波形から時間領域における波形へと、変換する。この変換は、スイープオシレータの出力をミキサにおいて入力信号(中継の場合には受信信号)と混合し、ミキサの出力から狭帯域BPFにて任意の狭帯域を取り出し、更に検波器にて検波することにより、実現できる。本発明においては、更に、時間領域に変換された歪波形を平滑することにより、入力信号への歪波形の寄与分ひいては入力信号におけるD/Uを示す検知電圧を、生成する。従って、本発明によれば、ヌルシンボル期間を利用する必要がなくなる。特に、スイープオシレータにより掃引される周波数帯域即ちトレース帯域を十分狭くすることにより、周波数領域から時間領域への波形変換処理を高速化できる。
【0012】
また、本発明に係るレベル調整回路は、(1)信号を無線送信する送信機並びに送信機からの送信レベルを変化させるレベル調整回路を備える無線機にて使用され、上記レベルの変化量を制御する送信レベル制御回路において、(2)送信機の前段、後段又は内部から信号の一部を取り出してそのミキサに入力し上記検知電圧を生成する本発明のD/U検知回路と、(3)検知電圧が所定の検知限を上回らないよう当該検知電圧に応じて上記レベル調整回路を制御する回路と、(4)を有し、上記検知電圧に基づく送信レベルの可変制御により、送信機への入力信号における希望波不要波比を上記検知限に対応する下限値以上とすることを特徴とする。ここでいうレベル調整回路は、例えば、送信機に前置された可変減衰器により実現できる。即ち、本発明の一実施形態に係る減衰量制御回路は、(1)入力信号に増幅処理を施して無線送信する送信機並びに送信機への入力信号を減衰させる可変ATTを備える無線機にて使用され、(2)上記可変ATTにおける信号減衰量を制御する減衰量制御回路において、(3)送信機への又は可変ATTへの入力信号の一部をそのミキサに入力して上記検知電圧を生成する本発明に係るD/U検知回路と、(4)検知電圧が所定の検知限を上回らないよう当該検知電圧に応じて上記可変ATTにおける信号減衰量を変化させる回路例えば比較器と、を有し、(5)上記検知電圧に基づく減衰量の可変制御により、送信機への入力信号におけるD/Uを上記検知限に対応する下限値以上とすることを特徴とする。また、本発明に係る無線機、例えば中継放送機等の無線中継機は、(1)中継すべき信号を無線受信する受信機と、(2)受信機における受信信号に増幅処理を施して無線送信する送信機と、(3)受信機から送信機に入力される受信信号を減衰させる可変ATTと、を備え、(4)信号の無線中継に用いられる無線機において、(5)マルチパス波又は回り込み波の受信により生ずるD/Uの劣化を防止抑圧すべく、本発明に係る減衰量制御回路を備えることを特徴とする。更に、本発明に係る異常時処理回路は、(1)前段の回路から供給を受けた信号に増幅処理を施して無線送信する送信機を備える無線機にて使用され、(2)送信機への入力信号の一部をそのミキサに入力して上記検知電圧を生成する本発明のD/U検知回路と、(3)検知電圧が所定の検知限を上回った場合に、送信機に対して信号を供給する上記前段の回路又はその回路に信号を供給する回路若しくは回線にて信号品質劣化につながる状態が生じていると判別し、所定の異常時処理(例えば、上記前段の回路を予備の回路に切り換える現用予備切換処理及び無線機の使用者若しくは関連する他の装置に対し現状を示す情報を提供する警報処理のうち、少なくとも一方を含む)を起動する回路と、を有することを特徴とする。本発明に係る無線機、例えば親局放送機等の無線送信機は、(1)送信すべき信号に増幅処理を施して無線送信する送信機を備える無線機において、(2)上記前段の回路にて又はその回路に信号を供給する回路若しくは回線にて信号品質劣化につながる状態が生じているときにその品質が劣化している又はその恐れのある信号を送信することを防ぐべく、本発明の異常時処理回路を備えることを特徴とする。
特徴とする無線機。
【0013】
このように、本発明に係るD/U検知方法及び回路を利用して無線機やその送信レベル調整回路、減衰量制御回路又は異常時処理回路を構成することにより、マルチパス波による発振が生じないように無線中継機の送信出力を自動調整することや、受信信号のD/Uが所定限界を超えて劣化しないように無線中継機の送信出力を自動調整することや、無線中継機又は無線送信機からの送信出力の品質を自動的に所定水準以上に維持することが、可能になる。信号の復調(例えばOFDM波の復調)等の処理を行わなくともこれらの機能を実現でき、本発明の実施に必要なハードウエアは小規模かつ安価で済む。更に、平滑に先立ち検波電圧を対数化しその直流分をカットする回路をD/U検知回路内に設けることにより、そのミキサへの信号入力端を可変ATTから見て送信機寄りにある位置に置くことが可能になるため、無線機内部回路の設計及び配置上の制約を緩和できる。逆に、可変ATTへの入力信号のレベルを所定のレベルを目標として自動制御するAGC回路が可変ATTの前段に設けられている場合には、可変ATTから見てAGC回路寄りの位置からD/U検知回路のミキサへと信号を入力するようにすれば、対数化及び直流カットのための回路を省略でき、回路構成が簡素になる。また、特に無線中継機への応用に際しては、平滑に先立ち検波電圧中の歪波形を反転させる機能をD/U検知回路に持たせることにより、回り込みにより生じた歪波形による検知電圧値がマルチパス波により生じた歪波形による検知電圧値より高くなるため、回り込み波をマルチパス波から弁別し、専ら回り込み量に応じて可変ATTにおける信号減衰量を自動制御することが可能になる。そして、特に無線中継機への応用に際しては、可変ATTへの入力信号のレベルが上昇するにつれ当該上昇よりもゆっくりと当該可変ATTにおける信号減衰量が小さくなっていくよう、検知電圧の値を変化させる回路(スロースタート回路)を設けることによって、中継開始時又はその直後に劣化した信号を送信してしまうことがなくなる。このスロースタート回路を設けた場合、D/Uが顕著に劣化したときでも、通常の状態に自動復帰させることができる。
【0014】
なお、先に示唆した如く、本発明は、ディジタル地上波テレビジョン放送向けの中継放送機のみならず、同放送向けの親局放送機や、CDMA方式携帯電話向けの基地局、ブースタ等、様々な無線中継機或いは無線送信機に適用できる。本発明は、更に、無線機における減衰量制御にその用途が限定されるものではない。例えば、D/Uメータを実現する、回り込みマルチパス識別装置を実現する、変調器故障検出装置を実現する等の目的で本発明を実施することもできる。本発明は、そして、時間領域への変換及びその検波によるD/U検知が可能である限り、他種の歪波形を対象として実施することもできる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態に関し図面に基づき説明する。なお、図1に示した先提案の技術と同様の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0016】
図2に、本発明の一実施形態に係る中継放送機の構成を示す。この図に示す中継放送機は、OFDM方式を採用するディジタル地上波テレビジョン放送において放送波の無線中継に使用可能な装置である。この実施形態においては、可変ATT10における信号減衰量を制御する減衰量制御回路12が、AGC回路18の出力から受信信号におけるD/Uを検知しその結果を示す検知電圧を出力するD/U検知回路24と、この検知電圧と所定の検知限を比較して可変ATT10に対する信号減衰量制御信号を発生させる比較器26とを有している。更に、図3に示すように、D/U検知回路24はトレース回路28、対数化回路30、DCカット回路32及び平滑回路34を有しており、トレース回路28はスイープオシレータ36、ミキサ38、狭帯域BPF40及び検波器42を有している。
【0017】
回り込みやマルチパス等の遅延波乃至不要波による干渉を受けていないときには、OFDM方式における放送波の周波数スペクトルは、放送に使用する周波数帯域(受信信号占有帯域)内に多数の変調されたキャリアが密に分布するスペクトルとなり、周波数軸に沿ったその包絡線は略方形となる。回り込みによる受信波への干渉が生じると、図4に示すように、受信信号占有帯域内に歪波形であるリプル波形が現れる。このリプル波形は、中継すべき放送波(直接波)に対する回り込み波の相対的な量が増大すればするほど、顕著になる。マルチパスによる干渉が生じているときも、後述のように相違はあるものの、リプル波形が生じる。
【0018】
トレース回路28は、図3中のA点に入力される受信信号に現れるこのようなリプル波形を、周波数領域における波形から時間領域における波形に変換する回路である。具体的には、所定のトレース帯域内を掃引するようスイープオシレータ36が掃引発振し、スイープオシレータ36の掃引発振出力をミキサ38にて受信信号と混合させ、これにより受信信号をダウンコンバートする。ダウンコンバートされた受信信号中の各周波数成分は、受信信号の周波数スペクトルに現れているリプル波形と相似した時間波形により包絡される。従って、受信信号占有帯域及びトレース帯域に比べ十分狭い通過帯域を有する狭帯域BPF40によりミキサ38の出力を帯域通過濾波し、更に検波器42により検波することにより、図5(B)に示すように、図4中のリプル波形を時間領域に変換して取り出すことができる。特に、トレース帯域を受信信号占有帯域に比べ狭くし、リプル波形の一部(高々数繰返し周期程度)とすることにより、トレース回路28の動作を高速化できる。
【0019】
対数化回路30は、時間領域に変換されたリプル波形を対数に変換し(図5(C))、DCカット回路32は、対数化されたリプル波形から直流分をカットする(図5(D))。平滑回路34は、所定の時定数を以てこの入力を整流することにより、リプル波形を平滑し、D/Uに対応する検知電圧を生成する(図5(E))。検知電圧値が検知限より高くなると、比較器26出力による可変ATT10の制御の結果、送信機20への入力ひいては出力レベルが低下するため(図6)、回り込み波のレベルが低下しリプル波形の波高値ひいては検知電圧値が低下する。これによって、回り込み発振が防止されると共に、受信信号におけるD/Uを、検知限に応じて定まるD/U下限値以上に保つことができる。回路構成も簡素かつ安価である。
【0020】
また、中継放送機に到来しうる遅延干渉波乃至不要波としては、図7に示すように、その中継放送機44の送信アンテナ22から受信アンテナ14への回り込みの他、他の設備46から送信された放送波のマルチパス伝搬に係る遅延波もある。この遅延波即ちマルチパス波は、可変ATT10等によるレベル調整動作の影響を受ける回り込み波と異なり、中継放送機44内部の可変ATT10等によるレベル調整動作の影響を受けない。従って、D/U検知回路24に入力される受信信号の周波数スペクトルに、マルチパス波による歪波形が現れているときは、回り込み波による歪波形(図4参照)が現れているときと異なり、可変ATT10における減衰量制御によりD/Uを改善することはできない。可変ATT10における減衰量を増大方向に制御すると、却って、D/Uの改善を伴わない送信出力低下、という問題が生じる。
【0021】
反面、回り込み波が無限インパルス応答型のモデルにより表現される遅延波であるのに対し、マルチパス波は有限インパルス応答型のモデルにより表現される遅延波であるから、受信信号の周波数スペクトルにおける歪波形の現れ方は逆の傾向となる。即ち、検波器42の出力電圧は、回り込み発生時に図8(1)(a)の如き波形になるのに対し、マルチパス発生時には図8(1)(b)の如き波形即ち回り込み発生時に対し上下反転した波形になる。従って、これらの波形を検波器42或いは平滑回路34において上下反転し(図8(2)中の実線)、更に平滑回路34において比較的小さな時定数を以て上下反転後の検波電圧を平滑することにより(図8(2)中の破線)、回り込みによるD/U劣化を検知しマルチパスによるD/U劣化は検知しないような回路動作とすることができる。このようにすれば、回り込み発生時には減衰量制御による発振防止・D/U確保機能を発揮させる一方、マルチパス発生時における送信出力低下を防ぐことが、可能になる(図6中の一点鎖線)。
【0022】
更に、図3では、前述の如く対数化回路30及びDCカット回路32を設けている。従って、図9に示すように、可変ATT10から見て送信機20寄りの位置からD/U検知回路24へ受信信号を入力する使用形態も、可能になる。即ち、可変ATTの動作に伴いレベルが変動する信号を入力する使用形態が可能になる。逆に言えば、図2に示した使用形態であれば、対数化回路30及びDCカット回路32を省略してより簡素な回路構成とすることができる。なお、対数化回路30における対数化は、DCカット回路32の前処理というだけでなく、小振幅のリプル波形を強調しより精密な制御に資するという作用効果をも有している。
【0023】
図10に、本発明の更に他の実施形態に係る中継放送機の構成を示す。この図に示す実施形態においては、減衰量制御回路12が、更に入力検知回路48、スロースタート回路50及び加算器52を有している。入力検知回路48はAGC回路18から可変ATT10に入力される信号のレベルを検知し、その結果を示す電圧をスロースタート回路50に供給する。入力検知回路48は、例えばダイオードを用いて信号を検波する回路として、構成できる。スロースタート回路50は例えばCR時定数回路を有しており、入力検知回路48の検波出力電圧が上昇する際にその上昇の速度よりもゆっくりとスロースタート回路50の出力が上昇するよう、設計されている。加算器52は、スロースタート回路50の出力を比較器26の出力に加算し、信号減衰量の制御電圧として可変ATT10に供給する。図中、SW1は受信機16と送信機20への信号伝送路を開閉するスイッチであり、入力検知回路48及びD/U検知回路24から見てAGC回路18寄りに設けられている。
【0024】
本実施形態においては、放送開始時における劣化出力を防止できる。即ち、放送開始前の時点では受信信号レベルが低いため入力検知回路48の検波出力電圧が低く保たれ、その結果スロースタート回路50の出力も低く保たれるため、可変ATT10の信号減衰量は最大値で維持される。放送開始に伴い、即ちスイッチSW1がオンされ受信機16により受信された放送波が後段に供給され始めるのに伴い、入力検知回路48の検波出力電圧は上昇し始める。入力検知回路48の後段に設けられているスロースタート回路50によって上昇が“なまされる”ため、可変ATT10に供給される制御電圧の変化は、入力検知回路48の検波出力電圧の変化に比べてゆっくりになる。従って、送信機20からの送信出力は暫時比較的低いレベルに抑えられ、その間は回り込みが生じないためD/Uも良好になる。これと並行して、D/U検知回路24及び比較器26も動作しているため、本実施形態によれば、放送開始直後から、劣化していない放送波の中継送信を開始することができる。また、入力検知回路48及びスロースタート回路50は、このように受信レベル低下時に信号減衰量を増加させる機能及び受信レベルが増加しつつあるとき送信出力を徐々に立ち上げる機能を提供しているため、本実施形態においては、D/U劣化時に送信出力を徐々に立ち上げ通常の状態に復帰させる、といった動作も実行され、従来に比べ信頼性の良い中継放送機が得られる。なお、可変ATT10と直列に又はこれに代え、図示しないスイッチを設け、制御電圧の値が低いときにはこのスイッチを閉じておき十分高くなったときに開くようにしても、送信機20からの送信出力を暫時低いレベルに抑えることができる。
【0025】
以上の説明中、入力検知回路48及びスロースタート回路50の具体的な構成については、特願平9−264743号をも参照されたい。その際には、当該出願において無線周波数(放送周波数)にて処理が実行されているのに対し、本願では中間周波数にて処理を実行していること、従って回路定数の設定等は相違していることに、留意されたい。
【0026】
図11(a)に、本発明の更に他の実施形態に係る親局放送機の構成を示す。この図に示す親局放送機は、例えばOFDM変調器54Aから出力される中間周波数(IF)のOFDM波をアップコンバータ56により無線周波数に変換し、電力増幅器58により増幅し、BPF60により帯域制限した上で、送信アンテナ62から無線送信している。無線送信されたOFDM波は、視聴者装置や中継放送機等により受信される。更に、本実施形態においては、例えばアップコンバータ56の前段にて周波数スペクトル歪を検知しその結果に応じて現用予備切換や警報動作を起動する異常時処理回路12Aを設けている。異常時処理回路12Aは、図2或いは図9に示した減衰量制御回路12と同様の構成であり、D/U検知回路24及び比較器26から構成されている。比較器26の出力は、現用のOFDM変調器54Aから予備のOFDM変調器54Bへの切換のためのスイッチSW2に供給されており、スイッチSW2が図中のa側即ち現用側に接続されている状態でD/Uの劣化が生じた場合には、D/U検知回路24の出力が所定の検知限を上回ったことを示す比較器26の出力に応じ、スイッチSW2がb側即ち予備側に切り換わる。また、この図では、比較器26の出力は警報装置70にも供給されている。警報装置70は、比較器26からD/Uの劣化を示す信号が供給されたとき、これに応じ、親局放送機の維持管理に当たっている人間に対して文字・映像・音響・音声等でその旨を知らせ、或いは、親局放送機の状態に関する情報を収集する装置等にその旨を示す情報を提供する。なお、図11(a)中で符号68Aで示されている部分は2個(3個以上でも構わない)のOFDM変調器54A及び54B並びにスイッチSW2から構成されているが、本実施形態は、この部分を、図11(b)中に符号68Bで示すように、2個(3個以上でも構わない)のSTL/TTL受信機66A及び66B並びにスイッチSW2を有する構成に置き換えた構成とすることもできる。STL/TTL受信機66A及び66Bは、STL、TTL等の無線回線から受信した信号を増幅、周波数変換等してIFのOFDM波を出力する受信機である。STL/TTL受信機66A及び66Bは、対応する受信アンテナ64A又は64Bを用いてSTL、TTL等の無線回線に接続する。スイッチSW2の動作及び制御方法は図11(a)と同様である。
【0027】
このように異常時処理回路12Aを設け現用予備切換を行うのは、OFDM変調器54A、STL/TTL受信機66A等からのIFのOFDM波に、回路の不正常動作その他の原因で周波数スペクトル歪が現れていることがあるためである。例えば、OFDM変調器54Aの出力を放送に使用しているときに、OFDM変調器54Aの動作タイミングを決める同期クロックが断たれてしまった場合、OFDM変調器54A内部でデータ同士の同期が十分にとれなくなり、その結果、OFDM変調器54A出力の周波数スペクトルに歪波形が現れる。また、STL/TTL受信機66Aの出力を放送に使用しているときに、STL/TTL受信機66Aの内部で例えばそのBPF(図示せず)で故障が発生した場合や、STL等の無線回線で帯域性フェージングが発生した場合、細部は異なるものの、STL/TTL受信機66A出力の周波数スペクトルに歪波形が現れる。本実施形態においては、このような歪波形による信号の劣化を検出して現用予備切換を行っているため、信号が良好な状態に自動復帰させることができる。また、警報動作によって、OFDM変調器54A等に異常が生じた可能性があることを報知することができる。その際に、OFDM復調が必要でないため回路構成が小さくまた安価である。なお、必要がない場合、現用予備切換及び警報のうち一方を省略してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 先に提案されている中継放送機の一例構成を示すブロック図である。
【図2】 本発明の一実施形態に係る中継放送機の構成を示すブロック図である。
【図3】 この実施形態におけるD/U検知回路の構成を示すブロック図である。
【図4】 回り込みにより発生する周波数スペクトル上のリプル波形を示す図である。
【図5】 図3中の各点における波形の一例を示すタイミングチャートである。
【図6】 検知電圧と可変ATT出力との関係を示す図である。
【図7】 回り込みとマルチパスを示す図である。
【図8】 波形の上下反転処理を示す図であり、特に(1)は検波器の出力電圧を、(2)は波形反転後の電圧及び平滑値を、(a)は回り込み発生時を、(b)はマルチパス発生時を、それぞれ示す図である。
【図9】 本発明の他の実施形態に係る中継放送機の構成を示すブロック図である。
【図10】 本発明の更に他の実施形態に係る中継放送機の構成を示すブロック図である。
【図11】 本発明の更に他の実施形態に係る親局放送機の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
10,68 可変ATT、12 減衰量制御回路、12A 異常時処理回路、24 D/U検知回路、26 比較器、28 トレース回路、30 対数化回路、32 DCカット回路、34 平滑回路、44 中継放送機、48 入力検知回路、50 スロースタート回路、52 加算器。
Claims (13)
- 入力信号の周波数スペクトルに現れる歪波形を周波数領域における波形から時間領域における波形に変換し、
時間領域に変換された歪波形を平滑することにより、
入力信号における希望波不要波比に対応する検知電圧を生成することを特徴とするD/U検知方法。 - 所定のトレース帯域内にて掃引発振するスイープオシレータと、このスイープオシレータの出力との混合により入力信号を周波数変換するミキサと、このミキサの出力をミキサへの入力信号の占有帯域及びスイープオシレータにおけるトレース帯域に比べ狭い通過帯域を以て帯域通過濾波する狭帯域BPFと、狭帯域BPFにより濾波された信号を検波する検波器と、検波器の出力たる検波電圧を平滑して検知電圧を生成する平滑回路と、を備え、
ミキサへの入力信号スペクトルに生じている歪波形を周波数領域から時間領域に変換しさらに平滑することにより、入力信号における希望波不要波比に対応する検知電圧を生成することを特徴とするD/U検知回路。 - 信号を無線送信する送信機並びに送信機からの送信レベルを変化させるレベル調整回路を備える無線機にて使用され、上記レベルの変化量を制御する送信レベル制御回路において、
送信機の前段、後段又は内部から信号の一部を取り出してそのミキサに入力し上記検知電圧を生成する請求項2記載のD/U検知回路と、
検知電圧が所定の検知限を上回らないよう当該検知電圧に応じて上記レベル調整回路を制御する回路と、
を有し、上記検知電圧に基づく送信レベルの可変制御により、送信機への入力信号における希望波不要波比を上記検知限に対応する下限値以上とすることを特徴とする送信レベル調整回路。 - 入力信号に増幅処理を施して無線送信する送信機並びに送信機への入力信号を減衰させる可変減衰器を備える無線機にて使用され、上記可変減衰器における信号減衰量を制御する減衰量制御回路において、
送信機への又は可変減衰器への入力信号の一部をそのミキサに入力して上記検知電圧を生成する請求項2記載のD/U検知回路と、
検知電圧が所定の検知限を上回らないよう当該検知電圧に応じて上記可変減衰器における信号減衰量を変化させる回路と、
を有し、上記検知電圧に基づく減衰量の可変制御により、送信機への入力信号における希望波不要波比を上記検知限に対応する下限値以上とすることを特徴とする減衰量制御回路。 - 請求項4記載の減衰量制御回路において、
D/U検知回路が、可変減衰器から送信機への入力信号の一部をそのミキサに入力して検知電圧を生成することを特徴とする減衰量制御回路。 - 請求項4に記載の減衰量制御回路において、
D/U検知回路が、上記可変減衰器への入力信号のレベルを所定のレベルを目標として自動制御する自動利得制御回路から、その後段に設けられている上記可変減衰器へと入力される信号の一部を、そのミキサに入力して、検知電圧を生成することを特徴とする減衰量制御回路。 - 請求項5又は6記載の減衰量制御回路において、
D/U検知回路が、検波電圧を対数化する対数化回路及び対数化された検波電圧から直流分を除去して平滑回路に供給するDCカット回路を備えることを特徴とする減衰量制御回路。 - 中継すべき信号を無線受信する受信機と、受信機における受信信号に増幅処理を施して無線送信する送信機と、受信機から送信機に入力される受信信号を減衰させる可変減衰器と、を備え、信号の無線中継に用いられる無線機において、
マルチパス波又は回り込み波の受信により生ずる希望波不要波比の劣化を防止抑圧すべく、請求項4乃至7のいずれか記載の減衰量制御回路を備えることを特徴とする無線機。 - 請求項8記載の無線機において、
D/U検知回路が、平滑に先立ち検波電圧中の歪波形を反転させることを特徴とする無線機。 - 請求項8又は9記載の無線機において、
減衰量制御回路が、可変減衰器への入力信号のレベルが上昇するにつれ当該上昇よりもゆっくりと上記可変減衰器における信号減衰量が小さくなっていくよう、上記検知電圧の値を変化させる回路を有することを特徴とする無線機。 - 前段の回路から供給を受けた信号に増幅処理を施して無線送信する送信機を備える無線機にて使用され、
送信機への入力信号の一部をそのミキサに入力して上記検知電圧を生成する請求項2記載のD/U検知回路と、
検知電圧が所定の検知限を上回った場合に、送信機に対して信号を供給する上記前段の回路又はその回路に信号を供給する回路若しくは回線にて信号品質劣化につながる状態が生じていると判別し、所定の異常時処理を起動する回路と、
を有することを特徴とする異常時処理回路。 - 請求項11記載の異常時処理回路において、
上記所定の異常時処理が、上記前段の回路を予備の回路に切り換える現用予備切換処理及び無線機の使用者若しくは関連する他の装置に対し現状を示す情報を提供する警報処理のうち、少なくとも一方を含むことを特徴とする異常時処理回路。 - 送信すべき信号に増幅処理を施して無線送信する送信機を備える無線機において、
上記前段の回路にて又はその回路に信号を供給する回路若しくは回線にて信号品質劣化につながる状態が生じているときにその品質が劣化している又はその恐れのある信号を送信することを防ぐべく、請求項11又は12記載の異常時処理回路を備えることを特徴とする無線機。
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