JP4226810B2 - リボヌクレオペプチドリセプター - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高い活性及び基質選択性を有し、任意の基質に対する結合部位を作成することが可能なリボヌクレオペプチド複合体である、リボヌクレオペプチドリセプターに関する。
【0002】
【従来の技術】
生体内では酵素により多くの化学反応が温和な条件のもとで、基質特異的に効率よく進行している。この優れた機能を人工的に構築して「任意の基質に対して、望み通りの化学反応を行う」ことは、化学・生物学領域における非常に大きな目的である。
【0003】
しかしながら、天然の酵素に匹敵する機能を作り出すのは難しく、タンパク質や核酸から成る酵素の三次元構造が数多く解明されて原子レベルで構造と機能を議論できるようになってきた現在においても、望み通りの機能を持った三次元構造体の一般的な構築法は確立されていない。
【0004】
酵素反応の特徴としては、▲1▼基質特異的であること、▲2▼温和な条件で反応が進行すること、そして▲3▼触媒的に機能することが挙げられるが、これらの機能を支えているのが酵素の「活性中心」である。活性中心は安定な三次元構造をもったドメインの中にあり、基質のかたちに適合し、化学反応を効率よく進行させるための官能基が配置されていると同時に、化学反応の進行に従って変化しうる柔らかな構造により形成されている。
【0005】
即ち、精密な分子認識能を持つ反応場を反応の各ステップで最適化した柔軟性のある立体構造を設計することが人工的に酵素を作製するための必要条件であると考えられる。
【0006】
天然の酵素では限られたパーツ(アミノ酸・核酸)を用いて、多くの官能基と疎水的な部分からなる活性中心を進化させてきたが、「多様な分子種の中から目的に応じた最適なものを選び出す」方法は、今では生物の進化に任せて何億年もかけなくとも実験室で実現可能な手法になっている。
【0007】
しかしながら、例えば無作為に100アミノ酸をつなぎあわせたタンパク質の混合物(約103000種類)から望みの機能を持ったものを選び出すのは非効率的な方法である。そこで、「活性中心のおおまかなかたち」は既知の三次構造を利用してコンピューターにより分子をデザインする Structure−based design の手法で設計したのち、構造ドメインの一部を多様化させた分子種(ライブラリー)中から目的の機能をもった分子を選び出すコンビナトリアルな手法を組み合わせる、という方法が人工酵素を作る上で有効である。
【0008】
したがって、人工酵素をつくるための第一段階として、酵素の活性部位をはじめとする既知のタンパク質や核酸の立体構造をもとにしながら、安定な三次元構造を形成する新しい活性中心の前駆体、即ち、「機能性ドメイン前駆体」を持った機能性ドメインのデザインが重要である。
【0009】
コンピューターによるデザイン (Structure−based Design) を用いると、望みの機能を持った安定な三次元構造の前駆体を設計することは可能である。しかしながら、前駆体の機能を合目的に最適化していくために、機能性ドメイン前駆体には予めいくつかの特性を持たせておくことが必要となる。
【0010】
即ち、機能性ドメインへと変換していくためには機能性ドメイン前駆体は協同性を発揮するために柔軟な構造をとり得ること、そしてコンビナトリアルな手法によって多様な分子種を作製できることが必要である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
これまでに、化学反応中間体の類似化合物に対するモノクローナル抗体を利用する抗体触媒法や、RNA分子にコンビナトリアルな手法を応用するRNAアプタマー法を用いて多くの人工リセプターや人工酵素が作製されてきた。しかしながら、これらは天然リセプターや酵素に比べて低い活性しか示すことが出来なかった。又、いずれの場合も望みの基質に対して反応を行う人工酵素を作製するための一般的手法としては用いることができない。
【0012】
そこで、本発明者は、これまでの人工酵素設計では着目されなかった天然の酵素の特徴の一つである「協同性の発揮」に注目して、複数のサブユニットからなる機能性ドメインを合目的に設計し協同性を発揮することにより、より効率的に目的とする基質に対して高い分子認識能を提供する分子認識場を作製することに成功し、本発明を完成した。
【0013】
即ち、本発明は、RNAサブユニットとペプチドサブユニットの複合体(リボヌクレオペプチド)から成るリボヌクレオペプチドリセプターに係る。
【0014】
RNAサブユニットは、ペプチドサブユニットと特異的に相互作用して結合するペプチド結合領域、及び基質と特異的に結合する領域を形成する基質結合領域を含むものである。
更に、本発明のリボヌクレオペプチドリセプターにおいて、RNAサブユニットの基質結合領域とペプチドサブユニットの両者によって基質と特異的に結合する領域が形成されていることが好ましい。
【0015】
RNAサブユニットのペプチド結合領域及びペプチドサブユニットは、RNAとペプチドとの空間的配置、分子間の相互作用様式が構造解析により既に解明されているものから、目的とする基質の種類などに基づき、当業者が適宜選択することができる。
【0016】
一方、RNAサブユニットの基質結合領域は、RNAサブユニットのペプチド結合領域とペプチドサブユニットとの特異的な相互作用に影響を与えないような塩基配列を選択する。
【0017】
例えば、RNAサブユニットの好適例として、ヒト後天性免疫不全症ウイルス(HIV)の逆転写酵素(Rev)由来のRNAがある。特に、以下の塩基配列:
ggucugggcgca-(N)n-ugacgguacaggcc
(塩基配列において(N)nは基質結合領域を示し、「N」はアデニン、ウラシル、グアニン及びシトシンから任意に選択される一種類の塩基を示し、「n」は15〜30の整数、好ましくは、20である)を含むRNAを挙げることができる。
【0018】
塩基数が20である(N)nの例として、以下の塩基配列を上げることが出来る。
(1)5'-nguguannnnnnnuanncun-3'
(2)5'-uggaauggcguacuccnnnn-3'
(3)5'-nnuugucnngugguannnnn-3'
上記塩基配列の一端または両端に、ペプチドサブユニットとの相互作用を阻害しない限り、適宜、任意の種類及び数の塩基を付加することも可能である。
【0019】
例えば、ペプチドサブユニットの好適例として、上記ヒト後天性免疫不全症ウイルス(HIV)の逆転写酵素(Rev)由来のRNAサブユニットと組み合わせて使用できる、Rev応答エレメント(RRE)由来のペプチドを挙げることが出来る。特に、以下の17個のアミノ酸から成るアミノ酸配列:
TR(X)2RRN(X)3R(X)6
(アミノ酸配列において(X)は任意に選択されるアミノ酸を示す)
を含むペプチドが好ましい。
上記アミノ酸配列の一端または両端に、RNAサブユニットとの相互作用を阻害しない限り、適宜、任意の種類及び数のアミノ酸又は酢酸残基(Ac)を付加することも可能である。
【0020】
アデノシントリリン酸(ATP)結合性である本発明のリボヌクレオペプチドリセプターの一例としては、以下の塩基配列を有するRNAサブユニット:
ggucugggcgca-gguguacuggggguauucuc-ugacgguacaggcc
、及び、以下のアミノ酸配列を有するペプチドサブユニット:
TRQARRNRRRRWRERQR
が好ましい。
【0021】
本発明は、又、インビトロセレクション法を利用した、本発明リボヌクレオペプチドリセプターの製造方法に係る。
特に、ペプチド結合領域とランダムな塩基配列を有する基質結合領域が結合したRNAサブユニットを作成し、該RNAサブユニットとペプチドサブユニットとの複合体を形成させ、インビトロセレクション法によって、該複合体と目的の基質を反応させた後に該基質に対する結合能を有する複合体を選択することから成る、リボヌクレオペプチドリセプターの製造方法に係る。
【0022】
本発明の製造法において、選択された複合体からRNAを回収し、回収したRNAを逆転写反応によりDNAに変換し、これをPCRにより増幅させることにより新たなRNAサブユニットを作成し、該RNAサブユニットに基づき、再び、ペプチドサブユニットとの複合体を形成させ、インビトロセレクション法によって該基質に対する結合能を有する複合体を選択する操作を繰り返すことによって、基質に対するより高い親和性を有する複合体を得ることが出来る。
【0023】
基質としては任意の物質を使用することが可能であり、例えば、アデノシントリリン酸(ATP)等の生体内の重要な代謝反応等に関わる分子を挙げることが出来る。 このような基質と複合体との反応系及びその反応条件等は、それらの種類等に応じては当業者が適宜選択することが出来る。
【0024】
例えば、基質に結合した複合体を選択し、そこからRNAを回収する等の操作が容易と成るために、アガロース等のに公知である適当な樹脂に該基質が固定化された基質状態で複合体との反応を行うことが好ましい。
【0025】
本発明方法に使用する転写反応、逆転写反応、PCR等の各反応における手順及び反応条件は当業者には周知のものである。
【0026】
更に、本発明は、上記リボヌクレオペプチドリセプターを含む機能性ドメイン、及び、該リセプターを基質結合部位として有する人工酵素にも係る。
【0027】
【発明の実施の形態】
本発明において、任意の基質認識能および化学反応性をもつ人工酵素の一般的な設計法を確立する上での第一段階の目標として、複数のサブユニットからなり、基質結合部位として機能するリボヌクレペプチドリセプターを作製する。空間的配置、分子間の相互作用様式が、構造解析により解明されたRNAとペプチドの複合体をもとに、本発明のリボヌクレオペプチドを構成する複合体RNA及びペプチドを夫々のサブユニットとして設計する。
【0028】
ペプチドとの特異的な結合に影響が及ばないと推定されるRNAの領域にランダムな塩基配列を導入し、この塩基配列を基質との結合領域としたRNA分子を第一のサブユニットであるRNAサブユニットとする。次に、RNAとの結合部位を保存しながら基質と相互作用しうるようにデザインしたペプチドを第二のサブユニットであるペプチドサブユニットとして合成し、RNAサブユニットとの複合体(リボヌクレオペプチド)を形成させる。
【0029】
ランダムなRNA塩基配列部分により多様性のあるリボヌクレオペプチドのライブラリーの中から、インビトロ(in vitro)セレクション法を用いて、例えば、ATP(アデノシン5'−3リン酸) のような、目的の基質に対し結合能を有するリボヌクレオペプチド分子を選択し、これらを増幅することで新たなリボヌクレオペプチドライブラリーを作製する。このようにして、多種類の分子種から選択を繰り返すことで合目的に、目的の基質に対してより選択的に結合する結合能の高いリボヌクレオペプチド複合体を選択することができる。
【0030】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0031】
【実施例1】
本発明のリボヌクレオペプチドレセプタ−の調製
RNA−ペプチド複合体の設計は、RNAとペプチドの空間的配置と相互作用様式がNMR構造解析により解明されたHIV RevペプチドとRRE (Rev Response Element) RNAとの複合体(Battiste, J. L.; Mao, H.; Rao, N.S.; Tan, R.; Muhandiram, D. R.; Kay, L.E.; Frankel, A. D.; Williamson, J. R. Science 1996, 273, 1547−1551)を基にして行った。以下に記載するようにDNAライブラリー及びRNAライブラリーを調製し、ペプチドとの特異的な結合に影響を及ぼさないと推定されるRNA領域に20塩基のランダムな塩基配列が導入された、RNAサブユニットを作成した。
【0032】
DNAライブラリ−の調製
20塩基のランダム領域を含んだ鋳型DNA(temp−01:5'-ggaataggtctgggcgca-(N)20-tgacggtacaggcgaaag-3')、プライマーrev−01 (5'-ctttcggcctgtaccgtca-3')を含む溶液をアニーリングした後、Klenowポリメラーゼにより2本鎖DNAを調製した後、プライマーfor−01 (5'-tcaatacgactcactataggaataggtctgggcgca-3') とプライマーrev−01を用いてPCRによりプロモーターを含むDNAライブラリーを調製した。PCR反応液はフェノール−クロロホルム処理により除タンパク、酢酸アンモニウムを用いてエタノール沈殿した後、TEに溶解し、NICKカラム(ファルマシア社)を用い、dNTPs、及びプライマーを除去し精製した。
【0033】
RNAライブラリ−の作製
こうして得られたdsDNAライブラリ−を鋳型としてT7RNAポリメラーゼによるRNAの転写反応を行った。Epicentre社のキット(AmpliScribe T7 Transcription Kits)のプロトコ−ルに従い、1 μg の鋳型dsDNAを用い37℃、3時間反応させた。37℃、15分間のDNAse処理後フェノール・クロロホルム処理、エタノール沈殿、NAP−5カラムを用いて精製し、5'-ggaauaggucugggcgca-(N)20-ugacgguacaggccgaaag-3'を得た。100μMとなるように20mM Tris−HCl (pH7.6)、150 mM NaClを含んだバッファーに希釈し80 ℃3分加熱後2時間かけてフォールディングさせた。
【0034】
次に、RNAとの結合部位を保存しながら基質と相互作用しうるようにデザインしたペプチドを第二のサブユニットとして合成し、RNAサブユニットとの複合体(リボヌクレオペプチド)ライブラリーを形成させた。
尚、上記ペプチドとしては、天然のHIV Revタンパク質がRRE配列へ結合するために必須である34から50番目のアミノ酸をとりだし、化学合成により作成したものを使用した。また、ペプチドの安定性を向上させるため、N末端はアセチル化し、C末端はアミド化した。以上の化学合成反応は当業者に周知の方法で行うことが出来る。
【0035】
In vitro selection 法
次に、インビトロセレクション法(Ellington, A. D.; Szostak, J. W. Nature 1990, 346, 818−822) を用いて本発明のリボヌクレオペプチドリセプターを選択した。
インビトロセレクション法は20塩基のランダムなRNA塩基配列部分からなるRNA (RREN20)とREVペプチドを用いて作製したリボヌクレオペプチドライブラリーの中から、ATPが固定化された樹脂に結合するリボヌクレオペプチドを選択し、それを回収し増幅した後、ふたたび選択する、という方法をとった。
【0036】
回収したRNA分子は逆転写反応によりDNA分子に変換し、さらにPCR反応により増幅した後、転写反応により新たなRNAプールを作製し、これをもとにして新たなリボヌクレオペプチドライブラリーを作成し、再び、ATPに対するインビトロセレクション法を用いて、ATPに対し選択的に結合するリボヌクレオペプチドリセプターを選択した。ATPに対し、このようなインビトロセレクション法のサイクルを繰り返すことにより、リボヌクレオペプチドライブラリーについて、ATPに対する親和性の増強が認められた。尚、インビトロセレクション法の具体的な手順及び反応条件は以下の通りである。
【0037】
結合実験には4% beadedアガロース固定されたATP樹脂(2.6 μmol/ml樹脂容量)と、4% beadedアガロース固定されたグルコース樹脂(0.147 μmol/ml樹脂容量)を用いた。樹脂はあらかじめ、結合バッファー(10 mM Tris−HCl pH7.6、100 mM KCl、5mM MgCl2)に平衡化した。ATPの糖部分に結合する複合体を予め除去するためのグルコースプレセレクションとして50 μl容量のグルコース樹脂に、10μMのRNA(RNAサブユニット)、15μM ac−Rev−am (Ac−TRQARRNRRRRWRERQR−NH2) (ペプチドサブユニット)を加え氷上で30分時々攪拌しながら結合させた。反応後、上清を50μl容量のATP樹脂に加え、時々攪拌しながら氷上で30分結合させた。結合反応後上清を除いた後、300 μlの結合バッファー(ペプチド存在下選択を行ったものは1μM Revペプチドを含んだ結合バッファー)で3回洗浄した。固定化されたリガンドに結合したRNAは、10mM ATPを含んだ結合バッファー100μlで溶出させこれを3回繰り返した。
【0038】
リボヌクレオチド複合体を300 mM NaCl を含んだ結合バッファ−に溶解した後、フェノ−ル抽出を行ない、RNAサブユニットを分離・単離した。こうして回収したRNAは10μl TEに溶解し、1.5μlのRNAを鋳型として、プライマーrev−01とのアニーリングについては80 ℃3分加熱後30分かけるところ以外はPromega社のキット(Reverse Transcription System)のプロトコールに従い、逆転写反応(42℃、30分間反応)を行った。反応液を99℃5分間加熱処理し逆転写酵素を失活させた後、反応液の一部について94 ℃ 30sec、55 ℃ 30sec、72 ℃ 1minの条件でPCRを行い、5サイクル毎に反応液を分取し、8% PAGE により増幅DNA量を分析した。PAGEでの分析により、指数的にDNAの増幅が確認されるサイクル数でPCRを行い、dsDNAを精製し次のサイクルに用いた。
【0039】
クローニングおよび塩基配列決定
[制限酵素認識部位付加用PCR]
逆転写−PCR反応により得られたDNAをBamHI、EcoRI認識領域を含むように設計したPCRプライマー(for−02:5'-gcgggatcctttcggcctgtaccgtca-3'、rev−02:5'-cggaattctaatacgactcactatagg-3')により増幅した。
PCR反応液は、フェノール−クロロホルム処理により除タンパク、酢酸アンモニウムを用いてエタノール沈殿した後、EcoRI反応用緩衝液中でBamHI、EcoRIにより同時に切断した。反応液はフェノール−クロロホルムにより除タンパクした後、エタノール沈殿により精製した。
[クローニング用ベクターの調製]
pUC19 (10μg)をEcoRI反応用緩衝液中でBamHI、EcoRIにより同時に切断した。反応液はフェノール−クロロホルムにより除タンパク後、エタノール沈殿により精製した。
[ライゲーションと形質転換]
BamHI、EcoRIにより切断したpUC19 にクローニング用インサートDNAをモル比で3倍量加え、TaKaRaライゲーションキットver.1のプロトコールに従い16℃、30分間ライゲ−ションを行った。反応液を直接DH5αコンピーテントセル(ライブラリーエフィシエンシーGibco BRL)に加え、プロトコールに従い形質転換を行った。
【0040】
シークエンスはABIのBigDyeTerminator法を用い、キットのプロトコールに従いPCR反応を行った。PCRサンプルからの未反応ddNTPsの除去にはCTAB(cetyl−trimethyl ammonium bromide)沈殿法を用いた。
【0041】
【実施例2】
ATPとリボヌクレオペプチドリセプターの結合試験
(1)各RNAクローンの調製
クローニングし、配列解析を行ったプラスミドDNA1ngを鋳型として、T7プロモーターを含んだプライマーを用いてPCRにより転写用の2本鎖DNAを増幅し(PCR反応は94 ℃、30 sec、55 ℃、30 sec、72 ℃、1 minの条件で30サイクル行った)、鋳型DNAを調製したのち前述のプロトコールに従ってRNAを転写精製して実験に用いた。
【0042】
(2)結合試験(各種ペプチド)
樹脂50μlを結合バッファー(10mM Tris−HCl, 100 mM KCl,5 mM MgCl2 pH7.6)で平衡化し、10% DMSO存在下[32P]pCp、RNA Ligase(NEB)で3’末端標識を行った各RNA10 μM、ペプチド15 μMの条件で結合試験を行った。結合反応はRNA、樹脂、ペプチドを氷上30分間インキュベート後、300 μl 1×結合バッファーで樹脂を3回洗浄した後150 μl 10m M ATPを含む1×結合バッファーで3回溶出し、ATPにより溶出されたRNAの放射活性とトータルRNAの放射活性との比から結合活性(%)を算出した。
【0043】
ペプチド存在下に9回の選択を行ったRNAの配列解析を行ったところ、得られたRNA配列は3種類の相同性の高い配列 (class I, II, III) が認められた。
これらを以下の表1に示した。尚、表1の各配列において、ハイフン「−」で示された部分は、クローン02の塩基と同一の塩基である為省略したものである。
【0044】
【表1】
【0045】
各クラスのRNAについてリボヌクレオペプチド複合体を形成させATPとの結合活性を評価した結果によれば、上記の各クラスごとにATP結合におけるペプチド分子の影響は異なるものであった。即ち、class II, III のRNAについてはペプチド非存在下についてもATP結合活性を示したが、class IのRNAを含んだリボヌクレオペプチド複合体については、ペプチド存在下についてのみATP結合活性を示したことから、class I のRNAにおいてはRNA分子とペプチド分子によりATPに対する基質結合領域が形成されたことが示唆された。
【0046】
具体的には、class I に属するクローン02の結合活性はペプチド非存在下1.2±0.1%、ペプチド存在下20.1±4.7%であった。class II に属するクローン06の結合活性はペプチド非存在下28.4±2.1%、ペプチド存在下21.6±1.2%であった。class III に属するクローン30の結合活性はペプチド非存在下17.0±2.4%、ペプチド存在下25.6±3.3%であった。同様の条件で、すでに報告されているATPアプタマーの解離定数は3μMであり、樹脂に対する結合(%)が40%であったことから、class IリボヌクレオペプチドのATPに対する解離定数は約10μMであると考えられる。
【0047】
(3)競合試験(ATP誘導体)
次に、ATPへの選択性を評価する目的で結合系にNTPを添加し競合試験を行った。樹脂50μlを結合バッファー(10mM Tris−HCl, 100mM KCl, 50mM MgCl2, pH7.6)で平衡化し、[32P]pCp、RNA Ligase(NEB)で3’末端標識を行った各RNA10μM、ペプチド15μMの条件で結合試験を行った。あらかじめ中性になるように調製したATP誘導体を添加し、結合反応はRNA、樹脂、ペプチドを氷上30分間インキュベ−ト後、300μl 1×結合バッファーで樹脂を3回洗浄した後150μl 10mM ATPを含む1×結合バッファーで3回溶出し、ATPにより溶出されたRNAの放射活性とトータルRNAの放射活性との比から結合割合(%)を算出した。
【0048】
その結果を以下の表2に示す。GTPに関しては20mMで白濁が起こり10mMまでしか評価できなかった。ATP については濃度の増加に応じて競合阻害が起こったが、CTP、UTPについては用いた濃度範囲で競合阻害は認められず、いずれのクラスのリボヌクレオペプチドリセプターについてもATPに対して選択的に結合することがわかった。
【0049】
【表2】
【0050】
【発明の効果】
本発明のリボヌクレオペプチドリセプターにおいては、機能性ドメインの前駆体として三次元構造が明らかになっている「RNA−ペプチド複合体」を利用している。こうして得られた本発明のリボヌクレオペプチドリセプターは、▲1▼二つのサブユニット(RNAとペプチド)を組み合わせることにより柔軟な構造が形成され、協同性の発揮が期待される、▲2▼RNA、ペプチド両サブユニット共に化学的もしくは分子生物学的にライブラリー化できる、▲3▼非天然アミノ酸を導入することが容易である等の点から、理想的な機能性ドメイン前駆体であるのみならず、多様な分子種を作製して望みの機能性ドメインへと発展させることが可能である。
【0051】
本発明を利用することによって、コンビナトリアルな手法を多段階に用いて、例えば酵素反応の出発物質と反応中間体に対しては親和性が高く、生成物に対しては親和性が低い、という特性がある分子種をRNA−ペプチド複合体ライブラリーから選び出すことが出来るため、より高機能な人工酵素が作製できると期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のリボヌクレオペプチドリセプターの基本骨格を示す。
RNAの塩基配列は、例えば、5'-ggucugggcgca(N)20ugacgguacaggccであり、図1のRNA中、黒い部分がA、U、G、Cすべての塩基からなる混合20塩基配列である。下線部はペプチド結合部位である。
ペプチドのアミノ酸配列は、例えば、Ac−TRQARRNRRRRWRERQRである。
Claims (17)
- RNAサブユニットとペプチドサブユニットの複合体から成り、上記RNAサブユニットが、ステム部分を形成するペプチド結合領域と、ペプチド結合領域に挟まれた中央ループ部分を形成する基質結合領域とを含んでおり、当該基質結合領域にランダムな塩基配列が導入されていることを特徴とする、リボヌクレオペプチドリセプターライブラリー。
- RNAサブユニットのペプチド結合領域がヒト後天性免疫不全症ウイルス(HIV)の逆転写酵素(Rev)応答エレメント(RRE)由来であり、ペプチドサブユニットがRev由来であることを特徴とする、請求項1に記載のリボヌクレオペプチドリセプターライブラリー。
- RNAサブユニットが以下の塩基配列:
ggucugggcgca-(N)n-ugacgguacaggcc
(塩基配列において(N)nは基質結合領域を示し、「N」はアデニン、ウラシル、グアニン及びシトシンから任意に選択される一種類の塩基を示し、「n」は15〜30の整数である)を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のリボヌクレオペプチドリセプターライブラリー。 - 塩基配列において、「n」が20であることを特徴とする請求項3に記載のリボヌクレオペプチドリセプターライブラリー。
- (N)nが以下の塩基配列:
5'-nguguannnnnnnuanncun-3'
から成ることを特徴とする請求項4記載のリボヌクレオペプチドリセプターライブラリー。 - ペプチドサブユニットが以下の17個のアミノ酸から成るアミノ酸配列:
TR(X)2RRN(X)3R(X)6
(アミノ酸配列において(X)は任意に選択される一種類のアミノ酸を示す)
を含むことを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか一項に記載のリボヌクレオペプチドリセプターライブラリー。 - ペプチドサブユニットが以下のアミノ酸配列:
TRQARRNRRRRWRERQR
を含むことを特徴とする、請求項6記載のリボヌクレオペプチドリセプターライブラリー。 - 請求項1ないし7のいずれか一項に記載のリボヌクレオペプチドリセプターライブラリーを製造する方法であって、ステム部分を形成するペプチド結合領域と、該ペプチド結合領域に挟まれた中央ループ部分を有する基質結合領域とが結合したRNAサブユニットにおいて、上記中央ループ部分にランダムな塩基配列を導入し、該RNAサブユニットとペプチドサブユニットとの複合体を形成させたライブラリーを作成することから成る、リボヌクレオペプチドリセプターライブラリーの製造方法。
- 請求項1ないし7のいずれか一項に記載のリボヌクレオペプチドリセプターライブラリーであって、ステム部分を形成するペプチド結合領域と、該ペプチド結合領域に挟まれた、ランダムな塩基配列が導入された中央ループ部分を有する基質結合領域とが結合したRNAサブユニットと、ペプチドサブユニットとの複合体を形成させたライブラリーから、インビトロセレクション法によって、該複合体と目的の基質を反応させた後に該基質に対する結合能を有する複合体を選択することから成る、リボヌクレオペプチドリセプターの製造方法。
- 選択された複合体からRNAを回収し、回収したRNAを逆転写反応によりDNAに変換し、これをPCRにより増幅させることにより新たなRNAサブユニットを作成し、該RNAサブユニットに基づき、再び、ペプチドサブユニットとの複合体を形成させ、インビトロセレクション法によって該基質に対する結合能を有する複合体を選択する操作を繰り返すことによって、該基質に対するより高い親和性を有する複合体を得ることから成る、請求項9に記載のリボヌクレオペプチドリセプターの製造方法。
- 基質が固定化された樹脂を使用して、複合体と基質との反応を行うことを特徴とする、請求項9又は10に記載のリボヌクレオペプチドリセプターの製造方法。
- 基質がアデノシントリリン酸(ATP)であることを特徴とする、請求項9ないし11のいずれか一項に記載のリボヌクレオペプチドリセプターの製造方法。
- 請求項9ないし12のいずれか一項に記載のリボヌクレオペプチドリセプターの製造方法により製造された、RNAサブユニットとペプチドサブユニットの複合体から成るリボヌクレオペプチドリセプターであって、RNAサブユニットの基質結合領域とペプチドサブユニットとによって基質と特異的に結合する領域が形成され、上記RNAサブユニットが、HIVの逆転写酵素(Rev)応答エレメント(RRE)由来のステム部分を形成するペプチド結合領域と、ペプチド結合領域に挟まれた中央ループ部分を形成する基質結合領域とを含んでおり、上記ペプチドサブユニットがRev由来であることを特徴とする、リボヌクレオペプチドリセプター。
- RNAサブユニットが以下の塩基配列:
ggucugggcgca-(N)n-ugacgguacaggcc
(塩基配列において(N)nは基質結合領域を示し、「N」はアデニン、ウラシル、グアニン及びシトシンから任意に選択される一種類の塩基を示し、「n」は15〜30の整数である)を含み、かつペプチドサブユニットが以下の17個のアミノ酸から成るアミノ酸配列:
TR(X)2RRN(X)3R(X)6
(アミノ酸配列において(X)は任意に選択される一種類のアミノ酸を示す)
を含むことを特徴とする、請求項13に記載のリボヌクレオペプチドリセプター。 - 前記ペプチドサブユニットが以下のアミノ酸配列:
TRQARRNRRRRWRERQR
を含むことを特徴とする、請求項13又は14に記載のリボヌクレオペプチドリセプター。 - 前記RNAサブユニットが以下の塩基配列:
ggucugggcgca-gguguacuggggguauucuc-ugacgguacaggcc
から成り、アデノシントリリン酸(ATP)結合能を有することを特徴とする、請求項13ないし15のいずれか一項に記載のリボヌクレオペプチドリセプター。 - 請求項13ないし16のいずれか一項に記載のリボヌクレオペプチドリセプターを含むことを特徴とする、リセプター機能を有するドメイン。
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