JP4220257B2 - 糖ペプチドの糖鎖結合部位特定方法 - Google Patents

糖ペプチドの糖鎖結合部位特定方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は糖ペプチドの糖鎖結合部位特定方法、特に質量分析による糖鎖結合アミノ酸の特定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
糖タンパク質、すなわち糖鎖付加(グリコシル化)されたタンパク質は、リン酸化と並んでタンパク質の機能を調節する重要な翻訳後修飾により生成される。糖鎖はタンパク質の巻き戻し、局在、寿命、酵素活性の制御や認証タグとして機能し、細胞分化、免疫、形態形成、アポトーシス、癌の発生や転移など、さまざまな生命現象に深く関与している。また、リソソーム酵素や細胞表面タンパク質の糖鎖の結合状態は、臨床マーカーとしても興味深い。
【0003】
従来、糖タンパク質の糖鎖結合部位を決定する際には、該糖タンパク質を精製、純化した後、ペプチドに断片化し、該ペプチドの酵素的、化学的、あるいは物理化学的性質を個別に解析しながら、そのアミノ酸配列分析によって糖鎖結合部位を同定していた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
タンパク質のアミノ酸配列に関しては、自動アミノ酸配列分析機の開発により、比較的容易に決定できるようになっている。また、該アミノ酸配列が反映されたDNAの解析が進んでいることもあり、質量分析を用いた解析法により、高感度に同定できるようになっている。
さらに糖鎖の構造解析も、蛍光標識法や液体クロマトグラフィー法により、詳細に行うことが可能になってきている。
【0005】
しかしながら、糖鎖構造を解析する際には、タンパク質部分は分解して廃棄されることが多く、タンパク質を解析する際には、断片の質量セットや部分的なアミノ酸配列を解析し、DNA情報と照合することによって同定することが多い。そのため、糖鎖結合部位を煩雑な実験によって積極的に解析することは断念される傾向にある。
また、糖鎖結合部位の決定には、上述のとおり、個別に解析する必要があり、非常に効率が悪い。
【0006】
本発明は前記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は糖タンパク質中の、糖鎖が結合しているアミノ酸残基を、高効率且つ高精度に特定する糖ペプチドの糖鎖結合部位特定方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明にかかる糖ペプチドの糖鎖結合部位特定方法は、粗糖ペプチド混合物の糖鎖結合アミノ酸部位に質量差を与え、質量分析を行うことで、糖鎖結合アミノ酸を質量変異部位として特定することを特徴とする。
【0008】
また、前記方法において、糖ペプチドの糖鎖結合アミノ酸部位に糖鎖を切断するとともに安定同位体を導入し、質量変異部位として特定することが好適である。
また、前記方法において、糖ペプチドの糖鎖結合アミノ酸部位に糖鎖を切断するとともに修飾基を導入し、質量変異部位として特定することが好適である。
【0009】
また、本発明にかかる糖タンパク質の糖鎖結合部位特定方法は、
粗タンパク質より、糖タンパク質を特異的に認識するアフィニティーキャプチャーにより糖タンパク質を収集する糖タンパク質収集工程と、
該糖タンパク質をペプチドに分解し、さらに糖ペプチドを特異的に認識するアフィニティーキャプチャーにより糖ペプチドを収集する糖ペプチド収集工程と、を含み、
該糖ペプチドに対し前記いずれかに記載の糖鎖結合部位特定方法を適用することが好適である。
【0010】
また、本発明にかかる糖タンパク質のの糖鎖結合部位特定方法は、
粗タンパク質を粗ペプチドに分解し、さらに糖ペプチドを特異的に認識するアフィニティーキャプチャーにより糖ペプチドを収集する糖ペプチド収集工程を含み、
該糖ペプチドに対し前記いずれかに記載の糖鎖結合部位特定方法を適用することが好適である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態について説明する。
まず、本発明者らは糖タンパク質の大規模解析を目的に、モデルケースとして糖鎖を特異的に認識する代表的レクチンの一つ、コンカナバリンA(ConA)に特異的に結合する可溶性糖タンパク質(アスパラギン結合型ハイマンノース(HM)タイプの糖鎖を持つ)の大規模同定を試みた。タンパク質のソースとしては、ゲノム配列が解読された最初の多細胞生物である線虫(Caenorhabsitis elegans)を用いた。
図1に示す概要図とともに、以下にその詳細を説明する。
【0012】
1.糖タンパク質収集工程
はじめに、線虫可溶性画分(粗タンパク質)をConAカラムに通し、ConA結合タンパク質を得た。
2.糖ペプチド収集工程
このConA結合タンパク質は、HMタイプの糖鎖をもつタンパク質のほかに、それらと結合する多数のタンパク質を含んでいるので、混合物をそのままトリプシン消化した後、再度同じカラムを通してHM糖鎖が付加したペプチドを回収した。
【0013】
3.質量変異部位形成工程
MS/MSデータからペプチド配列を同定する検索アルゴリズムでは、修飾による質量変化をあらかじめ規定しなければならないが、糖鎖構造は多様なので、分析前にグリコペプチダーゼF(あるいはA)で糖鎖を切除しておく必要がある。糖鎖がアスパラギン(Asn)残基に結合している場合、この処理によって糖鎖が結合していたAsn残基はアスパラギン酸(Asp)に変換されるので、脱アミド化されたAsnは糖鎖付加を示唆するタグ(標識)として利用できる。
【0014】
なお、質量変異部位形成手段としては、この他に
▲1▼糖鎖を切断する際に、18Oなどの同位体をアミノ酸残基に導入する。
▲2▼特定数、例えば一つの糖残基を意図的に残存させる。
等の手法がとられ得る。
【0015】
4.質量分析工程
このように調製したペプチドを液体クロマトグラフィー(LC)で分離した後、オンラインあるいはオフラインでタンデム質量分析法(MS/MS)によって解析すれば、糖タンパク質の種類、糖結合位置、結合糖鎖のタイプ(使用したレクチンの特異性に基づく。例えばConAの場合はHMタイプ)の情報が大量に得られる。
【0016】
液体クロマトグラフィー(LC)で分離したペプチドからタンパク質を同定するための基礎となるのは、そのペプチドの精密な質量値とタンデム質量分析法(MS/MS法)などによって得られる断片イオンの質量情報である。これらの情報から、タンパク質を同定する一般的な検索エンジンでは、まずペプチド質量の測定値に一致するペプチド断片の候補を、データベースに登録されたすべてのタンパク質から探し出し、次にMS/MSデータから推定されるアミノ酸配列情報を加味してペプチドを特定し、もとのタンパク質を同定する。
【0017】
なお、生体試料から調製した粗糖タンパク質やその消化物から調製した粗糖ペプチドは、極めて複雑な混合物であるので、これらの混合物を分離するため、本発明者らは異なる分離モードのLCを組み合わせて分離を二次元化したシステムを用いた。図2にその概要を示す。
【0018】
同図の該装置10は、送液手段12、オートサンプラ14、及びイオン交換カラム16を含む前段分離部と、ポンプ18及びトラップカラム20を含む脱塩部と、グラジエント送液手段22及び逆相カラム24を含む後段分離部と、後段分離部に接続された質量分析部26を備えている。
そして、これらの各部における分析操作をコンピューター28からなる制御部で制御している。
ここでは、一次元目に水系のイオン交換クロマトグラフィー、二次元目には逆相クロマトグラフィーを使用している。
【0019】
このシステムは、一次元目のLCから塩濃度を上げながら段階的に溶出したペプチドを、いったん逆相カラムの前に接続したトラップカラム(逆相カラムと同種の充填剤が充填されている)に吸着して脱塩を行う。塩は質量分析に不可欠なペプチドのイオン化を妨害し、分析システムを汚染するので、多試料を再現性よく自動分析するためには脱塩操作が非常に重要である。脱塩後、バルブを切り換え、アセトニトリルのリニアグラジェントで試料を逆相カラムから分離溶出し、エレクトロスプレー法でイオン化(ESI)して直接MSに導入することで自動的にMS及びMS/MS分析する。一次元目の溶出は10ステップ、二次元目の分離は70分のグラジェントで行った。
【0020】
質量分析結果から糖タンパク質を同定する際、Asnは生体内、あるいは試験管内の操作で人為的に、脱アミノ化され、Aspあるいはイソアスパラギン酸に変換されることがある、ということに気をつけなければならない。したがって、あるペプチド配列中のAsnが脱アミド化されているからといって、必ずしも糖鎖が付加していたことの決定的な証拠とはならない。
【0021】
そこで、Asnに糖鎖を付加する糖転移酵素の特異性を考慮して、脱アミド化されたAsnが糖鎖付加のコンセンサス配列Asn−Xaa−(Ser/Thr/例外的にCys)(但しXaaはProでない)に含まれることを同定条件に加えることによって、糖鎖結合部位決定の精度が上げられる。さらに、グリコペプチターゼ処理を18O標識の水中で行うことによって、糖鎖の脱離と同時にAsnを、18Oを取り込んだAspに変換できるので、質量変化(+3Da)を検出することによって、非酵素的に生じたAsnの脱アミノ化と明確に区別することが可能になる。
【0022】
本実施形態では、線虫を材料として調製したConA結合粗糖ペプチド混合物試料200μgを、18O標識水中でグリコペプチターゼ処理した後の分析で、約15,000回のMS/MSが実行され、1,000〜2,000種類のペプチド配列が決定され、最終的には250種類以上のタンパク質が同定できた。
【0023】
これらのタンパク質には、酸性グルコシダーゼ、α−マンノシダーゼ、酸性ホスファターゼ、カテプシン類のシステインプロテアーゼなど、リソソームに局在すると思われる酵素群が多数検出され、実験的に糖タンパク質として同定されているビテロゲニンファミリーのタンパク質も複数検出された。また、この分析では、従来知られていない新規の糖タンパク質43種類のほか、TGF−βレセプター(daf-4)や細胞外マトリックスメタプロテアーゼなどの膜貫通型タンパク質が多数見出された。
【0024】
【実施例】
以下、本発明のより具体的な実施例について説明する。
実施例1
1.糖タンパク質収集工程
線虫を、プロテアーゼ阻害剤(シグマ社製)を含むTBSバッファー(50mM tris−HCl pH7.5,150mM NaCl)に分散させ、超音波破砕の後、遠心分離(100,000G×20min、二回)処理する。
可溶性タンパク質を含む上澄液を、TBSバッファーを用いてMillexフィルター(0.45μm、ミリポア製)、ConA−アガロースカラム(30ml/HONEN)にかけ、0.1M Man−OMe/TBSバッファーで溶出させ、TCA沈殿、rCM化し、ConA結合タンパク質を得る。
【0025】
2.糖ペプチド収集工程
ConA結合タンパク質に対して、トリプシン消化を施し、TBSバッファーを用いてConA−アガロースカラム(5ml/HONEN)に通し、0.1MMan−OMe/TBSで溶出させ、ConA結合ペプチドを得る。その後、1N HClで約pH2に調整する。
3.質量変異部位形成工程
0.1%TFAを用いてC18カラム(粒径15μm、2φ×25mm)にかける。そして、60%CHCN/0.1%TFAを用いて溶出させ、凍結乾燥機を用いて完全に乾燥させる。H 18O(95%)を用いた0.1M Tris緩衝液を加え、さらに酢酸を加えてpH8〜9に調整する。そして、GNPaseを用いて糖鎖を切断するとともに、糖鎖結合部分のアミノ酸残基に18Oを導入する。
4.質量分析工程
その後、精製水を用いて希釈し、2DLC−MS/MSで分析を行った(図1を参照)。
【0026】
実施例2
1.糖ペプチド収集工程
線虫を、プロテアーゼ阻害剤(シグマ社製)を含むTBSバッファー(50mM tris−HCl pH7.5,150mM NaCl)に分散させ、超音波破砕の後、遠心分離(100,000G×20min、二回)処理する。
不溶性タンパク質を含む沈殿物を、TBSバッファーを用いて懸濁し、洗浄後、再度超遠心分離し、沈殿物を回収する。沈殿物を、7Mグアニジン塩酸を含む溶解液で溶解し、rCM化の後、トリプシン消化を施す。
反応後、プロテアーゼ阻害剤を加えてトリプシンを不活性化した後、ConA−アガロースカラム(30ml/HONEN)にかけ、0.1M Man−OMe/TBSバッファーで溶出させ、ConA結合ペプチドを得る。
【0027】
2.質量変異部位形成工程
0.1%TFAを用いてC18カラム(粒径15μm、2φ×25mm)にかける。そして、60%CHCN/0.1%TFAを用いて溶出させ、凍結乾燥機を用いて完全に乾燥させる。H 18O(95%)を用いた0.1M Tris緩衝液を加え、さらに酢酸を加えてpH8〜9に調整する。そして、GNPaseを用いて糖鎖を切断するとともに、糖鎖結合部分のアミノ酸残基に18Oを導入する。
3.質量分析工程
その後、精製水を用いて希釈し、2DLC−MS/MSで分析を行った(図3を参照)。
【0028】
なお、本発明において使用しえるアフィニティーキャプチャーは、抗体、レクチンなどが挙げられる。
特に好適に用いられるレクチンとしては、以下のものが例示できる。
Figure 0004220257
Figure 0004220257
Figure 0004220257
Figure 0004220257
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように本発明においては、粗糖ペプチド混合物の糖鎖結合アミノ酸部位に質量差を与え、質量分析を行うことで糖鎖結合部位を特定することとしたので、糖ペプチドの構造解析を極めて容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例にかかる糖ペプチドの糖鎖結合アミノ酸特定方法の概略工程の説明図である。
【図2】本発明にかかる糖鎖結合アミノ酸特定方法に好適に用いられる糖ペプチド配列の決定装置の概略構成の説明図である。
【図3】本発明の他の実施例にかかる糖ペプチドの糖鎖結合アミノ酸特定方法の概略工程の説明図である。
【符号の説明】
10 装置
12 送液手段
14 オートサンプラ
16 イオン交換カラム
18 ポンプ
20 トラップカラム
22 グラジエント送液手段
24 逆相カラム
26 質量分析計
28 コンピューター

Claims (5)

  1. 粗糖ペプチド混合物の糖鎖結合アミノ酸部位に質量差を与え、
    該粗糖ペプチド混合物を、イオン交換カラムを含む前段分離部、脱塩部、逆相カラムを含む後段分離部を備えた二次元液体クロマトグラフィーにより分離し、
    前記後段分離部からの溶出液を直接、エレクトロスプレー法でイオン化し質量分析を行うことで、糖鎖結合アミノ酸を質量変異部位として特定することを特徴とする糖ペプチドの糖鎖結合部位特定方法
  2. 請求項1記載の方法において、糖ペプチドの糖鎖結合アミノ酸部位に糖鎖を切断するとともに安定同位体を導入し、質量変異部位として特定することを特徴とする糖ペプチドの糖鎖結合部位特定方法。
  3. 請求項1記載の方法において、糖ペプチドの糖鎖結合アミノ酸部位に糖鎖を切断するとともに修飾基を導入し、質量変異部位として特定することを特徴とする糖ペプチドの糖鎖結合部位特定方法。
  4. 粗タンパク質より、糖タンパク質を特異的に認識するアフィニティーキャプチャーにより糖タンパク質を収集する糖タンパク質収集工程と、
    該糖タンパク質をペプチドに分解し、さらに糖ペプチドを特異的に認識するアフィニティーキャプチャーにより糖ペプチドを収集する糖ペプチド収集工程と、を含み、
    該糖ペプチドに対し、前記請求項1〜3のいずれかに記載の糖鎖結合部位特定方法を適用することを特徴とする糖タンパク質の糖鎖結合部位特定方法。
  5. 粗タンパク質を粗ペプチドに分解し、さらに糖ペプチドを特異的に認識するアフィニティーキャプチャーにより糖ペプチドを収集する糖ペプチド収集工程を含み、
    該糖ペプチドに対し、前記請求項1〜3のいずれかに記載の糖鎖結合部位特定方法を適用することを特徴とする糖タンパク質の糖鎖結合部位特定方法。
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