JP4214302B2 - 黒変防止剤、およびそれを用いた不凍液/冷却液組成物 - Google Patents
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Description
本発明は、エンジン等の内燃機関の冷却系統に使用されているアルミニウムまたはアルミニウム合金が、不凍液/冷却液中において黒く変色するのを防止する黒変防止剤及びそれを用いた不凍液/冷却液組成物に関する。
背景技術
エンジン等の内燃機関の冷却系統には、アルミニウム、アルミニウム合金、鋳鉄、鋼、黄銅、はんだ、銅などの金属が使用されている。これらの金属は、水あるいは空気との接触により腐食を生じる。これら冷却系統における金属の腐食を防止するため、リン酸塩、ケイ酸塩、アミン塩、あるいはホウ酸塩といった腐食防止剤を含む不凍液組成物や冷却液組成物が提案されている。
ところが、これらの腐食防止剤にあっては、以下の如き欠点を有していた。すなわちリン酸塩は、これが河川等に流入すると、富栄養化を引き起こし、水中のBOD、CODが上昇して藻類が繁殖し、この結果、赤潮やスライムが発生するという問題があった。
またリン酸塩は、冷却液中に含まれる硬水成分と反応して沈殿を生じ、これにより冷却液の腐食防止機能が低下し、さらには沈殿物が堆積して冷却系統の循環路が閉塞してしまうという事態を引き起こしていた。
アミン塩は、亜硝酸塩と反応して発ガン性物質であるニトロソアミンを生成し易いという欠点がある。またケイ酸塩は、不凍液/冷却液中での安定性に劣り、熱やpHが変化した場合や他の塩類が共存する場合には、容易にゲル化してしまい、腐食防止機能が低下するという不具合があった。またホウ酸塩は、アルミニウムやアルミニウム合金を腐食させ易いという欠点があった。
そこで、上記不具合を有するリン酸塩、アミン塩、ケイ酸塩あるいはホウ酸塩に代わる腐食防止剤として炭化水素カルボン酸などのカルボン酸類を含ませた不凍液/冷却液組成物が提案されていた。
ところが、この不凍液/冷却液組成物にあっては、リン酸塩、アミン塩、ケイ酸塩あるいはホウ酸塩に代わるカルボン酸類が不凍液/冷却液中においてアルミニウムまたはアルミニウム合金表面を黒変させていた。
ユーザー間では、アルミニウムやアルミニウム合金に黒変が生じたとき、それらの金属の腐食も進行している、あるいはまもなく腐食が始まると信じられている。ところが実際には、アルミニウムまたはアルミニウム合金表面の黒変は、カルボン酸類が不凍液/冷却液中において、アルミニウムやアルミニウム合金表面に黒色を呈する酸化アルミの不動態皮膜を形成することにより生じていた。
黒色を呈する酸化アルミの不動態皮膜は、アルミニウムやアルミニウム合金の表面を覆ってこれを保護し、腐食の進行を妨げる働きがあり、むしろ好ましいものである。しかしながらユーザー間においては、黒変と腐食との間には密接な関係があるとの考えが根強く、しかも見栄えも悪いことなどの点から、アルミニウムやアルミニウム合金に黒変が生じにくい不凍液/冷却液組成物が「良」とされていた。
本発明者は、このような事情から、アルミニウムまたはアルミニウム合金の黒変防止について鋭意研究を重ねた結果、黒変を引き起こす原因物質とされていたカルボン酸類の中で、炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸またはその塩については、反対にアルミニウムまたはアルミニウム合金の黒変防止にきわめて有効であることを見い出し、この知見に基づいて本発明を完成させたのである。
発明の開示
本発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金が、不凍液や冷却液中において黒く変色するのを防止する黒変防止剤、及びそれを用いた不凍液組成物並びに冷却液組成物を提供するものである。
本発明の黒変防止剤は、液中にリン酸塩、アミン塩、ケイ酸塩及びホウ酸塩が存在せず、しかも腐食防止剤としてのカルボン酸類が存在する不凍液や冷却液を創り出す不凍液/冷却液組成物に好適に用いられる。尚、本発明の黒変防止剤は、不凍液/冷却液組成物の一成分としてではなく、不凍液や冷却液中に直接黒変防止剤として単独で入れても良い。
この黒変防止剤は炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸またはその塩よりなる。炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸、またはその塩は、上記の如くリン酸塩、アミン塩、ケイ酸塩及びホウ酸塩の不存在、カルボン酸類の存在下の不凍液や冷却液中において、アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面が黒変するのを防止する。そのメカニズムは明らかではないが、炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸またはその塩が、不凍液や冷却液中において、腐食防止剤として存在するカルボン酸類が、アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面に黒色の酸化アルミの不動態皮膜を形成する前に、いち早く脂肪酸の皮膜を形成して、アルミニウムまたはアルミニウム合金表面を覆い、これを保護して黒色の酸化アルミの皮膜を形成させないようにするのではないかと考えられる。
このような作用効果を有する炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸またはその塩としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、ステアリン酸、及びそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩等を好ましい例として挙げることができる。
この黒変防止剤を不凍液/冷却液組成物に適用する場合、その適用量は任意であるが、十分な黒変防止効果を得るためには0.01〜5.0重量%の範囲が好ましい。その量が0.01重量%を下回る場合、十分な黒変防止効果、すなわちアルミニウムまたはアルミニウム合金表面に脂肪酸の皮膜が形成され難くなり、5.0重量%を越える場合には、5.0重量%を越えた分だけの炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸またはその塩は何の意味もなさず、その分が無駄になり、不経済となる。
次に、本発明の不凍液組成物並びに冷却液組成物(以下、不凍液/冷却液組成物という)について説明する。本発明の不凍液/冷却液組成物は、グリコール類を主成分とし、リン酸塩、ケイ酸塩、アミン塩及びホウ酸塩を含まない組成物である。グリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等が挙げられるが、その中でも特にエチレングリコール、或いはプロピレングリコールが望ましい。
この不凍液/冷却液組成物中には、炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸またはその塩よりなる黒変防止剤を含んでいる。炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸またはその塩は、上記の如くリン酸塩、アミン塩、ケイ酸塩及びホウ酸塩の不存在、カルボン酸類の存在下の不凍液や冷却液中において、アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面が黒変するのを防止する。
そのメカニズムは明らかではないが、炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸またはその塩が、不凍液や冷却液中において、腐食防止剤として存在するカルボン酸類が、アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面に黒色の酸化アルミの不動態皮膜を形成する前に、いち早く脂肪酸の皮膜を形成して、アルミニウムまたはアルミニウム合金表面を覆い、これを保護して黒色の酸化アルミの不動態皮膜を形成させないようにするのではないかと考えられる。
このような作用効果を有する炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸またはその塩としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、ステアリン酸、及びそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩等を好ましい例として挙げることができる。
この黒変防止剤の不凍液/冷却液組成物における含有量は0.01〜5.0重量%である。その含有量が0.01重量%を下回る場合、十分な黒変防止効果、すなわちアルミニウムまたはアルミニウム合金表面に脂肪酸の皮膜が形成され難くなり、5.0重量%を越える場合には、5.0重量%を越えた分だけの炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸またはその塩は何の意味もなさず、その分が無駄になり、不経済となる。
この不凍液/冷却液組成物中には、リン酸塩、アミン塩、ケイ酸塩あるいはホウ酸塩に代わる腐食防止剤として上記炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸を除く炭化水素カルボン酸、炭化水素ジカルボン酸、あるいはそれらの塩のいずれか1種もしくは2種以上をさらに含ませることができる。
炭化水素カルボン酸のうち炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸を除いたものとしては、酪酸、1−ナフタレン酢酸、2−エチル酪酸、シクロヘキシルカルボン酸、カプロン酸、2−エチルヘキサン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸などの脂肪族カルボン酸、安息香酸、2−メルカプト安息香酸、4−tert−ブチル安息香酸、イソプロピル安息香酸、2−クロロ安息香酸、3−クロロ安息香酸、4−クロロ安息香酸、2−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、4−アミノ安息香酸、2−メトキシ安息香酸、4−メトキシ安息香酸、2,6−ジメトキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ヒドロキシ安息香酸、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸、2−ニトロ安息香酸、3−ニトロ安息香酸、4−ニトロ安息香酸、3,5−ジニトロ安息香酸、3−メトキシ−2−ニトロ安息香酸、トルイル酸、サリチル酸、桂皮酸などの芳香族カルボン酸等を挙げることができる。
また炭化水素ジカルボン酸としては、セバシン酸、ソルビン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸などの脂肪族ジカルボン酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸等を挙げることができる。
また炭化水素カルボン酸または炭化水素ジカルボン酸の塩としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等を挙げることができる。
炭化水素カルボン酸のうち炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸を除いたもの、炭化水素ジカルボン酸、あるいはそれらの塩の含有量としては、0.1〜10重量%の範囲が好ましい。それらの含有量が前記範囲よりも少ないとき、金属、特には鉄、アルミニウムの十分な腐食防止効果を得ることができなくなる。上記範囲よりも含有量を多くしたときには、範囲を超えて分だけの効果が得られず、不経済となり、さらには不凍液/冷却液の酸化劣化を促進することになるので好ましくない。
またこの不凍液/冷却液組成物中には、上記成分の他に、トリアゾール類やマグネシウム化合物を含ませることができる。トリアゾール類は、トリルトリアゾールやベンゾトリアゾールなどであるが、これらは金属、特に銅に対して優れた腐食防止機能を有している。このトリアゾール類は、優れた腐食防止機能を維持するため、0.05〜1.0重量%の範囲で含まれるのが望ましい。
マグネシウム化合物としては、例えば水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、安息香酸マグネシウム、グルタミン酸マグネシウム、琥珀酸マグネシウム、フタル酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、マレイン酸マグネシウム、塩化マグネシウム等を挙げることができる。このマグネシウム化合物は優れた腐食防止機能を有しており、しかもケイ酸塩やリン酸塩を成分とする他の不凍液/冷却液組成物と不凍液/冷却液中にて混合されても、冷却系統のアルミニウムまたはその合金の腐食を防止する機能を有している。このマグネシウム化合物の含有量としては、0.001〜0.5重量%の範囲が好ましく、その含有量が0.001重量%よりも少ない場合、十分な腐食防止機能が得られず、また0.5重量%を越える場合には、含有量が増した分だけの腐食防止機能が得られず不経済となる。
なお、この不凍液/冷却液組成物には、前記の成分以外にさらに消泡剤、着色剤等を含有させても良いし、他の従来公知の腐食防止剤であるモリブデン酸塩、タングステン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、メルカプトベンゾチアゾール及びアルカリ金属塩等を使用しても良い。
実施例
下記表1に示す、本発明の不凍液/冷却液組成物の好ましい実施例1〜4並びに本発明の不凍液/冷却液組成物における必須成分である炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸またはその塩を含まない比較例1及び2について、金属腐食試験を行った。
上記実施例1〜4並びに比較例1及び2についての金属腐食試験は、JIS K 2234−1987 2種の規定に基づいて行った。試験に供する不凍液/冷却液組成物は、調合水にて30vol%に希釈したものを使用し、試験に供する金属には、アルミニウム鋳物、鋳鉄、鋼、黄銅、はんだ、銅の試験片をそれぞれ使用した。この結果を表2に示した。
表2から、実施例1〜4並びに比較例1及び2の各組成物については、金属の腐食防止性に優れる結果が得られた。また、両者はアルミ鋳物以外の外観についても異常はなかった。しかしながら、アルミ鋳物の外観については、実施例1〜4の組成物については異常がなかったものの、比較例の組成物については重度黒変があり、実施例1〜4の組成物に黒変防止効果があることが確認された。
Claims (5)
- リン酸塩、ケイ酸塩、アミン塩及びホウ酸塩を含まない不凍液/冷却液において、アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面が黒変するのを防止する炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸またはその塩よりなることを特徴とする黒変防止剤。
- グリコール類を主成分とし、リン酸塩、ケイ酸塩、アミン塩及びホウ酸塩を含まない不凍液/冷却液組成物において、アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面が黒変するのを防止する炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸またはその塩よりなる黒変防止剤が0.01〜5.0重量%の割合で含まれていることを特徴とする不凍液/冷却液組成物。
- 炭化水素カルボン酸のうち前記炭素数17〜24の脂肪族一塩基酸を除いたもの、炭化水素ジカルボン酸、あるいはそれらの塩のいずれか1種もしくは2種以上を、0.1〜10.0重量%の割合でさらに含むことを特徴とする請求項2記載の不凍液/冷却液組成物。
- トリアゾール類をさらに含むことを特徴とする請求項2または3のいずれかに記載の不凍液/冷却液組成物。
- マグネシウム化合物をさらに含むことを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の不凍液/冷却液組成物。
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