JP4211270B2 - 金錫合金ハンダ用の極低残渣フラックスとハンダペースト - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、微細な金属粒子を用いることができ、しかもリフロー後の残渣が極めて少ない金錫合金ハンダ用のフラックスとそのハンダペーストに関する。本発明は水晶振動子、SAWフィルターのパッケージ封止、高周波素子や光素子ないし熱電素子の接合、および半導体実装用途の鉛系高温ハンダ代替材として用いられる金錫合金用フラックス、およびそのフラックスを用いたハンダペーストに関する。
【0002】
【従来技術】
従来、ハンダペーストの粘性を調整するために、有機溶剤にロジン系樹脂を含有するフラックスが使用されていた。また、流動パラフィン、テトラリン、ジエチルベンゼンを溶媒とし、これにパラフィンワックスならびに還元剤(活性剤)としてカーボン数4以上の有機塩酸塩、有機フッ酸塩、または脂肪酸を含む金錫合金ペーストも知られている(特開平6−226488号)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来のロジン系樹脂を含有するハンダペースト用フラックスは金錫合金ハンダに用いるとリフロー温度(約320℃)では分解せず、揮発せずに残留するため、リフロー後にこれを洗浄する必要があった。洗浄を必要とするのでハンダの後処理作業が煩雑になり、またコスト高にもなっていた。
【0004】
リフロー後に洗浄する必要のないハンダペーストを得るには残渣になりやすい樹脂系成分を含まないでフラックスを形成する必要がある。ロジンなどのようにそれ自体の分子量が大きいものや加熱すると重合するものは分解し難く、残渣になりやすい。他方、樹脂系成分を含まないフラックスは一般に粘性が低すぎてハンダ金属粒子との親和性が乏しくなり、フラックスとハンダ金属粒子とが直ぐに分離する欠点がある。特に金錫合金ハンダでは金錫合金の比重が大きいのでフラックスと金錫合金粒子とが分離しやすい。
【0005】
なお、従来のフラックスにはハロゲン化水素のアミン塩やカルボン酸などの活性剤(還元剤)が含むものがあるが、金錫合金ハンダの場合、これらの還元剤が錫と反応して分解し難くなるものがあった。
【0006】
また、ハンダ付け後に残渣を残さないフラックスとして、常温付近で液状の揮発性脂肪族カルボン酸を揮発性の有機溶媒に溶解したものが提案されている(特開平05-185284号)。このフラックスはハンダ付け工程で揮発成分を揮散させることによって残渣を残さないようにするものであるが、溶媒と活性剤のカルボン酸との両者が何れも揮発性のものに限られるため、フラックスの粘性が低く、金属粒子と分離しやすく、特に金錫合金などのような比重の大きいハンダのペースト化剤には適さない。
【0007】
本発明は従来のフラックスにおける上記問題を解消したものであり、微細な金錫合金ハンダ金属粒子を用いることができ、リフロー後の残渣が極めて少ない金錫合金ハンダ用フラックスとこれを用いた金錫合金ハンダペーストを提供するものである。
【0008】
【課題を解決する手段】
本発明は、(1)常温で液体の溶媒に、常温で固体の脂肪族飽和ジカルボン酸を加熱して溶解し、これを冷却して粘度を0.5Pa・s以上〜100Pa・s以下に調整したことを特徴とする金錫合金ハンダ用フラックスに関する。常温で液体の溶媒に常温で固体の脂肪族飽和ジカルボン酸を加熱して溶解し、これを冷却すると溶液の粘性が高くなり上記範囲の粘性を有するフラックスを得ることができる。この粘性を有するフラックスはハンダに用いる金錫合金粒子との密着性が良く、十分な濡れ性を有する。さらに、活性剤のジカルボン酸は一分子中に2つ含まれるカルボキシル基によって酸として強力な作用を発揮し、かつ金錫合金粉末に対してその表面酸化膜の主成分である二価の錫と一対一の量比で反応するために形成される塩の分子量が小さく、分解しやすいのでリフロー後の残量が極めて少ない。
【0009】
本発明の上記フラックスは、溶媒としてOH基を3個以上有するアルコールを用いた金錫合金ハンダ用フラックスである。OH基を3個以上有するアルコール、即ち、3価以上のアルコールは、3個以上のOH基によって形成される水素結合が粘度を高めるので、比重の高い金錫合金粉末とフラックスの分離を防止することができる。
【0010】
本発明の上記フラックスは、上記アルコールに、常温で固体の脂肪族飽和ジカルボン酸を加熱溶解して8〜20重量%含有させたものであり、ロジンを含有せずに、冷却後に0.5Pa・s以上〜100Pa・s以下の粘度を有するようにした金錫合金ハンダ用フラックスである。好ましくはジカルボン酸の含有量は10〜15重量%が適当である。ジカルボン酸の含有量が上記範囲であると活性剤として十分な効果を発揮して上記粘性を有することができ、しかも残渣量が少ない。
【0011】
本発明の上記フラックスは、好ましくは、炭素数4以上〜10以下の脂肪族飽和ジカルボン酸を用いた金錫合金ハンダ用フラックスである。本発明のフラックスに用いるジカルボン酸は、例えば、シュウ酸やマロン酸、コハク酸などの炭素数10以下の脂肪族飽和ジカルボン酸である。脂肪族の不飽和カルボン酸や芳香族カルボン酸を用いたものより、上記脂肪族飽和ジカルボン酸を用いたものはハンダ後の残渣量やハンダ金属に対する濡れ性、液ダレなどにおいて優れている。
【0012】
本発明の上記フラックスは、好ましくは、粘度50mPa・s以上のアルコールを用いる金錫合金ハンダ用フラックスである。この粘性は100mPa・sがより好ましい。アルコールの粘性がこれより低すぎると、上記混合量のジカルボン酸をアルコールに加えたときに目的の粘性を有するフラックスが得られない場合がある。
【0013】
また、本発明は、上記何れかのフラックスと金錫合金粉末とを混合したことを特徴とする金錫合金ハンダペーストに関する。本発明の上記フラックスは金錫合金ハンダのペースト剤として好適であり、このフラックスを用いることによって金錫合金粒子に対して濡れ性が良く、しかもリフロー後の残渣が少ないハンダペーストを得ることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。本発明のフラックスは、活性剤として常温(概ね20℃〜25℃)で固体の脂肪族飽和ジカルボン酸を用い、これを常温で液体のアルコールに、加熱溶解して含有させ、これを冷却して、ロジンを含有せずに、粘度を0.5Pa・s以上〜100Pa・s以下に調整したものである。常温で固体の脂肪族飽和ジカルボン酸を加熱下で溶媒に溶解した後に冷却すると、過飽和のジカルボン酸が析出し、溶媒中に微細なジカルボン酸の析出物が均一に分散するので溶液の粘性が高くなり、ロジンなどの増粘剤を添加しなくても、粘度0.5Pa・s以上〜100Pa・s以下のフラックスを得ることができる。なお、常温で液体の活性剤を用いたものは粘性が低く、ロジンなどの樹脂化合物を増粘剤として添加する必要があり、これがリフロー後の残渣を増やす原因になる。一方、本発明のフラックスは常温で固体の脂肪族飽和ジカルボン酸を用いるので、ロジンなどの増粘剤を添加する必要がなく、リフロー後の残渣が極めて少ない。
【0015】
活性剤として作用するジカルボン酸は一分子中に2つのカルボキシル基を有するので、このカルボキシル基が酸として強力に作用し、また、金錫合金粉末に対し、その表面酸化膜の主成分である二価の錫と一対一の量比で反応するので形成される塩の分子量が小さく分解しやすい。
【0016】
活性剤として用いるジカルボン酸は、コハク酸、グルタン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの炭素数4以上〜10以下の脂肪族飽和カルボン酸である。炭素数が4以下のシュウ酸やマロン酸は金錫合金ハンダに用いた場合、リフロー温度以下で分解するので適当ではない。また炭素数が10より多いものは分解し難いので多量の残渣を生じやすい。
【0017】
上記ジカルボン酸の含有量は8〜20重量%が好ましく、10〜15重量%がより好ましい。この量が8重量%より少なくと活性剤としての効果が乏しく、金錫合金粒子に対する濡れ性が悪く、接合不良を生じる虞がある。また、十分な粘性を得ることができないので金錫合金粒子とフラックスが分離しやすい。一方、この量が20重量%を上回るとジカルボン酸が残留する量が多くなる。
【0018】
上記ジカルボン酸を溶解する溶媒は3価以上のアルコールが好ましい。ハンダペーストのフラックスとして使用するのに好適な粘性を有するものが好ましく、特に金錫合金は比重が大きいので、この合金粒子とフラックスの分離を防ぐために溶媒自体も十分な粘性を有するものが好ましい。具体的には、50mPa・s以上の粘性を有するものが適当であり、100mPa・s以上の粘性を有するものがさらに好ましい。3個以上のOH基を有するアルコールは、このOH基によって形成される水素結合が粘度を高めるので、比重の高い金錫合金粉末とフラックスの分離を防止することができる。
このような溶媒にはプロビレングリコール、1,4ブタンジオール、1,3ブタンジオール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、1、3一オクチレングリコール、フタル酸ジオクチル、酒石酸ジエチル、ノニルフェノール、ドデシルフェノールなどがある。
【0019】
このように適切な溶媒と活性剤を選択し、かつ活性剤の添加量を最適化したフラックスを用いて作製した金錫合金ペーストは、金錫合金粉末とフラックスの分離がなく、濡れ性も十分で、なおかつフラックス残渣が極めて少なく、リフロー後の洗浄の必要がない。
【0020】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって具体的に示す。
表1に示す溶媒と活性剤を混合し、120℃に加熱して溶媒に対する活性剤の溶解性を確認した。次に、常温に冷却し、過飽和の活性剤を析出させて溶液の粘度を表1に示す値にし、金錫合金粉末と混合してペースト化した。得られた金錫合金ペーストを室温に放置して金錫合金粉末とフラックスとの分離性を調べた。さらに、このペーストをよく攪拌した後、内径0.4mmのノズルをもつシリンジからディスペンス法により2mgの量を金/Niメッキを施した銅板上に塗布し、10分間放置して液のダレ具合を観察した。次に、この基板を窒素雰囲気中、320℃で1分間のリフローを行い、金錫合金の濡れ具合と残渣を観察した。以下の判定基準に従った各々の結果を表1に示す。なお、本発明の好適な範囲から外れるものを比較試料として示した。比較試料のうち活性剤が溶媒に均一に溶解しなかったものは、その時点で試験を中止した。
【0021】
〔溶解性〕:120℃の加熱により均一に溶解混合するものを○印、均一に溶解混合しないものを×印で示した。
〔分離性〕:10時間以内に分離したものを×印、10時間以上24時間以内に分離したものを△印、24時間以上分離しないものを○印で示した。
〔液ダレ〕:放置後直径2mm以上に広がるものを×印、放置後直径1mm以上2mm以下に広がるものを△印、放置後の広がりが直径1mm以下であるものを○印で示した。
〔残渣〕:目視で残渣があるものを×印、残渣がないものを○印で示した。目視では残渣を確認できないが光学顕微鏡観察によって残渣を確認できるものを△印で示した。
〔濡れ〕:リフロー後に未溶融の金錫合金粉末があるものを×印、未溶融粉末はないが凝固後のハンダ表面に光沢がないものを△印、未溶融粉末がなくかつ凝固後のハンダ表面に光沢があるものを○印で示した。
【0022】
表1に示すように、本発明の好ましい範囲に属する試料No.1〜No.13は何れも活性剤の溶解性、金錫合金粉末に対する分離性、液ダレ、残渣、ハンダの濡れ性が良い。一方、比較試料No.B1は活性剤のアジピン酸が溶媒IPAに溶解しない。また比較試料No.B2、B3は溶媒の粘性が50mPa・sより低く、分離しやすく、液ダレを生じる。比較試料No.B4は炭素数の多いポリエチレングリコールを用いているので残渣が生じ、比較試料No.B5、No.B6は流動パラフィンの粘性が低く、しかもNo.B5は活性剤のアジピン酸が溶解しない。比較試料No.B7は活性剤としてステアリン酸を用いているが、これは溶媒のグリセリンに溶けない。、また比較試料No.B8,No.B9は不飽和カルボン酸を用いているので濡れ性が悪い。また、比較試料No.B10,No.B11は活性剤の量が少なくためハンダの濡れ性が悪く、一方、No.B12,No.B13は活性剤の量が多すぎるので残渣が残る。
【0023】
【発明の効果】
本発明のフラックスは、常温で液体の溶媒に、常温で固体のジカルボン酸を加熱して溶解し、これを冷却して粘度を所定範囲に調整したものであり、好ましくは、活性剤として用いるジカルボン酸の種類を特定し、さらに、添加量を最適化したものであり、本フラックスを用いた金錫合金ペーストは、金錫合金粉末とフラックスの分離がなく、濡れ性も十分で、なおかつフラックス残渣が極めて少なく、リフロー後の洗浄の必要がない。
【0024】
【表1】
Claims (4)
- 溶媒としてOH基を3個以上有するアルコールを用い、さらに活性剤として常温で固体の脂肪族飽和ジカルボン酸を用い、該脂肪族飽和ジカルボン酸を加熱溶解して8〜20重量%含有させ、これを冷却して、ロジンを含有せずに、粘度を0.5Pa・s以上〜100Pa・s以下に調整したことを特徴とする金錫合金ハンダ用フラックス。
- 炭素数4以上〜10以下の脂肪族飽和ジカルボン酸を用いる請求項1のハンダ用フラックス。
- 粘度50mPa・s以上のアルコールを用いる請求項1または請求項2のハンダ用フラックス。
- 請求項1〜3の何れかのフラックスと金錫合金粉末とを混合したことを特徴とする金錫合金ハンダペースト。
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