JP4210747B2 - 断熱光カロリメータ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料の吸収係数或いは吸収率を決定するために光吸収によって誘起された試料の温度上昇或いは光吸収量に比例しているトラッキングヒータの電流量を測定するカロリメトリックな測定装置及び測定方法に関するものである。
なお、吸収率(Aで表し、これは無名数)と吸収係数(αで表し、これの単位はcm−1)の間には、多くの場合(正確にはインコヒーレントな場合)、試料の長さをd(単位はcm)とすると、A=αdの関係が成立する。
【0002】
【従来の技術】
試料の吸収係数或いは吸収率を測定することに関係した従来技術、或いはカロリメトリックな測定で試料系に流れる電流の変化を測定することに関係した従来技術は、(1)分光光度計を用いた透過率測定法、(2)試料の光吸収による温度上昇を直接測定するレートレーザカロリメトリーや断熱レーザカロリメトリー、(3)試料の光吸収による温度上昇から誘起された物理量の変化を測定する光音響分光法や光熱偏向分光法、(4)電力置換放射計に関する技術である。
【0003】
透過率測定法においては、分散型分光光度計やフェーリエ変換型分光光度計を用いて、試料への入射パワーと出射パワーの比から吸収係数(吸収率)を求める方法であり、吸収係数で表した測定感度は、約10−4cm−1である。透過率測定法で高感度な吸収係数(吸収率)測定を妨げている原因は、試料の入射面と出射面での反射等による光損失のためである。
【0004】
断熱レーザカロリメータは、1960年代〜1980年代に盛んに研究された。この当時は、高出力レーザ用の光学系(レーザの出力鏡、反射ミラー等)の研究開発のためであった。従来のレートレーザカロリメータ又は断熱レーザカロリメータの研究開発においては、試料は、直径10mmで長さ100mm程度の円柱状又は直径50mmで厚さ10mm程度の円盤状で、高出力レーザ(例えば、炭酸ガスレーザの連続発振で100Wクラス)と高感度温度検出素子(例えば、熱電対又はサーミスタ)を用いて光吸収によって誘起された試料の温度上昇を測定して吸収係数(吸収率)を求めていた。
【0005】
レートレーザカロリメータにおいては、試料から試料を取り囲む室への熱リークがある状態で試料温度上昇を測定している。このため、感度は、あまり高くない(例えば、下記「特許文献1」参照)。断熱レーザカロリメータにおいては、上記の熱リークを制御している。この方法で達成された実験室レベルでのトップデータは、塩化ナトリームの円柱状の試料に出力5Wのレーザを照射して吸収係数で1×10−6cm-1であった(例えば、下記「非特許文献1」参照)。
【0006】
この技術に類似の技術として、物質の熱容量を精密に測定するために開発された断熱カロリメータがある。断熱を達成するために、試料とそれを取り囲む等温室の温度差を測定して、この温度差がなくなるように等温室の温度を制御している。このカロリメータにおいては、試料に取り付けたヒータによるジュール加熱により試料に熱を供給し、その時の温度上昇の測定から、試料の熱容量を求めている。このカロリメータにおいては、一般に試料の温度上昇が測定可能になるだけの熱量を試料に供給できる(例えば、下記「特許文献2」参照)。
【0007】
一方、断熱レーザカロリメータにおいては、一般に温度上昇は、入射パワーに比例するが、その比例定数は、試料固有であり、吸収係数(吸収率)と無輻射遷移確率によって決まる。例えば、完全に透明な物質の場合には、幾ら高出力のレーザ光で照射しても温度上昇は起こらない。つまり、吸収率はゼロである。このことから本発明が目指しているほとんど光を吸収しない物質の吸収係数(吸収率)を高精度に決定する装置と測定法の開発は、断熱カロリメータとは異なった技術開発である。
【0008】
これらの断熱レーザカロリメータの研究が1980年代後半から衰退した理由は、一般に高出力レーザの存在しない波長領域においては、測定感度が低いこと、そして多くの高感度温度検出素子は、温度の再現性が悪いことと、断熱レーザカロリメータ自身の長時間の安定性が悪かったこと等のためであった。
【0009】
断熱レーザカロリメータは、光吸収によって誘起された試料の温度上昇を測定しているために、測定量が直接的であるが、入射光は、連続的に試料に照射されてその時の温度上昇を測定する方法(DC測定法)であるために、一般に感度が劣り、さらに試料温度のドリフトのために測定時間を短くしなければならないし、そして温度検出素子や校正用ヒータを直接試料に貼り付けなければならない。これらの問題を部分的に或いは全面的に改良した方法が、光音響分光法や光熱偏向分光法である。
【0010】
光音響分光法においては、試料は、適当なガスで密閉されたサンプル室の中に置かれ、この試料に断続光(チョッピング光)を照射し、試料はその光を吸収してチョッピング光に同期した膨張と収縮を繰りかえす。これにより発生した音波を試料室に取り付けたマイクロフォーンで検出する方法(AC測定法)である。この方法は非常に高感度(1×10−6cm-1)である。光音響分光法の欠点は、このとき検出される信号の解析が困難であり、吸収係数或いは吸収率の相対測定が可能であるが、絶対測定は、困難で校正用も難しいことである(例えば、「特許文献3」参照)。
【0011】
光熱偏向分光法においては、試料に断続光(チョッピング光)を照射し、試料は、その光を吸収してチョッピング光に同期した温度上昇によって誘起された屈折率の変化を引き起こす。この試料に外部からプローベ光を照射して屈折率変化によって引き起こされるプローベ光の偏向の変化を測定する方法(AC測定法)である(例えば、下記「特許文献4」参照)。この方法は、非常に高感度(1×10−6cm-1)であるが、光熱偏向分光法の欠点も、吸収係数或いは吸収率の相対測定が可能であるが、絶対測定は困難で校正用も難しいことである。
【0012】
電力置換型放射計においては、光センサー部分は、直径約10mmで厚さ20μm程度の銅箔の表面にニッケル・リンをメッキした後に黒化処理をし、その裏面に温度検出素子とヒータと熱電冷却素子等を貼り付けた構造である。光を入射させる前にヒータに適当な電流を流して光センサー部分をある一定の温度に保つ。次に光を入射させると光吸収により光センサー部分の温度が上昇しようとするが、この時ヒータに流していた電流量を減らして光入射前と同じ一定温度に保つようにヒータ電流を調整する。この時の電流の変化量から光センサーに入射したパワーを測定する(例えば、下記「特許文献5」参照)。
【0013】
電力置換型放射計と電流置換型断熱光カロリメータにおいては、構造も、測定対象も異なっている。電力置換型放射計に使われている光センサーの吸収率は、0.999以上と非常に大きく、光センサー部分の熱容量は、小さく、構造体が銅であることから、熱伝導率は非常に良い(例えば、下記「特許文献6」参照)。一方、電流置換型断熱光カロリメータの試料の大きさは、一般に直径10mmで長さ100mm程度の円柱状、或いは直径50mmで厚さ10mm程度の円盤状で、試料の吸収率は、最小の物質で0.1ppm程度(1ppm=10-6)であり(この吸収率の0.1ppmは、インコヒーレントな場合に、10cmの長さの試料の吸収係数に換算すると0.01 ppmcm-1である)、試料は、金属のような高い熱伝導率を有する物質からセラミックスのような低い熱伝導率を有する物質までさまざまである。
【0014】
さらに、電力置換型放射計においては、光吸収によっても光センサー部分の温度は変化しないように温度制御している。この結果、光センサーを取り囲む等温室の熱浴が十分大きければ、光センサーの温度ドリフトは、起らない。一方、電流置換型断熱光カロリメータにおいては、光吸収によって試料温度は、上昇する。このときに試料を取り囲む内側等温室の温度も、試料温度に温度差ゼロで追随する。この結果、試料温度は、光照射前後で変化しおり、温度ドリフトが発生する可能性があるために、電流置換型断熱光カロリメータにおいては、電力置換型放射計と異なった装置を必要とし測定方法も異なる。
【0015】
【特許文献1】
特開平03−137543号公報
【特許文献2】
特開昭54−49182号公報
【特許文献3】
特開平10−38856号公報
【特許文献4】
特開昭62−39729号公報
【特許文献5】
特開平04−301728号公報
【特許文献6】
特開2002−195879号公報
【非特許文献1】
APPLIED OPTICS, vol.14, (1975), 1128〜1130
【非特許文献2】
J. Appl. Phys. Vol.41 (1970) 3012〜3014
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
半導体製造プロセスのリソグラフィ工程で使用されているステッパーは、解像力を上げるために光源の短波長化(真空紫外光からX線領域)が進んでいる。短波長化で問題になるのがレンズ材料の吸収率である。光学部品の微小光吸収が、数〜数十ナノメートルの線幅や位置のずれを引き起こすために、これらの部品の吸収率を評価する技術は、ナノテクノロジーを確立していくためにきわめて重要である。
【0017】
人類が作り出した一番透明な物質は、光ファイバーの原料の溶融石英である。現在の計測技術においては、1.3μm〜1.55μmの波長領域で溶融石英のロッド(直径10mmで長さ100mm程度の大きさ)の吸収係数の評価はできない。
【0018】
現状においては、溶融石英のロッドから長さ1km程度のファイバーに線引きをした後に、分光光度計に装着して透過率測定から光損失、つまりファイバー内での光吸収と光散乱の合計を測っている。ここでの問題は、現状においては、(1)線引き後でないと透明物質の光損失を評価できないこと、(2)吸収係数単独の測定ができないことである。溶融石英の吸収係数は、0.02ppmcm-1と見積もられている。
【0019】
重力波レーザ干渉計を研究開発している日・米・欧のグループにおいては、現在の干渉計のミラーやハーフミラー等の基板に吸収係数の小さい溶融石英を用いているが、次世代干渉計においては、溶融石英より機械振動的散逸の小さいサフアイヤ基板が有力な候補になっている。現状のサファイヤでもかなり透明であるために、透過率測定法においては、吸収係数を評価できない。しかし、このサファイヤにおいては、溶融石英の時のような線引きができないために、主な光損失の評価法は、次の2つである。(1) 2枚のサファイヤ基板上に同時成膜されたミラーを用いてファブリ・ペロー共振器を構成し、そのフィネスを求める方法と、(2)段落[0011]の中で述べた光熱偏向分光法である。
【0020】
これらの方法の欠点は、ファブリ・ペロー共振器を構成する方法においては、成膜された2枚のミラーを必要とすることと、ミラーの光吸収と光散乱の合計である光損失しか測れないことであり、光熱偏向分光法においては、吸収係数の相対測定であるために、段落[0010]の中でも述べたように、校正用の方法によって、低吸収試料においては、吸収係数に1桁程度の誤差が入ってしまうことである。高純度サファイヤの吸収係数は、1.06μmの波長の光に対して3ppmcm-1程度と見積もられている。
【0021】
マイクロ波領域(0.1GHz〜100GHz)で実用化が期待されている銅酸化物高温超電導体を用いたフィルタ等のマイクロ波デバイスの損失量の評価においては、マイクロ波共振器のQ値測定法が用いられている。しかし、この時も光吸収と光散乱の区別がつかない等の問題が指摘されている。
【0022】
銅酸化物高温超電導体は、d波超伝導体であるために、超伝導転移温度より十分低温でも残留吸収は、本質的に存在する。低温で35GHzのマイクロ波照射に対する吸収による損失は、2ppm程度と見積もられている。
【0023】
これまでの例でも示したように、X線・真空紫外光・紫外光・可視光・赤外光・マイクロ波に至る広い光領域において、低損失の物質が開発されている。これらの物質の吸収係数(吸収率)を評価できる装置の開発が求められている。
【0024】
電流置換型断熱カロリメータの目標は、段落[0023]記載の広い波長領域で、光源の出力が1Wのとき、1,000ppmcm-1〜0.001ppmcm-1或いはそれより高感度な吸収係数(10,000ppm〜0.01ppm或いはそれより高感度な吸収率)を測定できる光学測定系とその測定法の開発である。
【0025】
簡単な断熱レーザカロリメータのモデルにおいては、試料温度Ts(t)は、吸収された光量(AP0)と照射時間(t)に比例し試料の熱容量(Cs)に反比例する。照射前の初期温度をTs0とすると、試料温度は
【式1】
と表せる。ここで試料の吸収率をA、入射パワーをP0=1Wとした。各吸収係数の場合に試料温度が、0.01mK、0.1mKと1mK上昇するのに必要とされる照射時間を計算した結果を表1にまとめる。この表の計算結果を得るために、試料の長さは、10cmで、その熱容量が10J/Kとした。例えば、吸収係数が0.001 ppmcm-1の試料においては、0.01mK, 0.1mK, 1mKの温度上昇するまでに必要とされる照射時間が、それぞれ 2.8時間、28時間、 11日間である。
【表1】
【0026】
光照射による温度上昇を測定するためには、上昇温度が温度検出素子のノイズレベルより大きくならなければならない。温度検出素子のノイズレベルがそれぞれ 0.01mK, 0.1mK, 1mK の時、吸収係数が0.001ppmcm-1の試料で、S/N比(信号とノイズの比率)が1で温度上昇が測定できるまでに必要とされる時間は、表1からそれぞれ 2.8時間、28時間、 11日間である。
【0027】
【課題を解決するための手段】
断熱レーザカロリメータにおいては、入射パワーと試料の光吸収による温度上昇は、比例するので高出力レーザと高感度温度検出素子(サーミスタや熱電対)を用いることで、測定時間を短くして温度ドリフト等の影響を小さくして吸収係数(吸収率)を測定していた。以前の測定においては光照射時間は多くの場合5分程度であった。
【0028】
しかし、吸収係数(吸収率)の測定を必要とされる全ての波長で、高出力レーザを望むことはできない。表1の結果からも、まず温度ドリフトを小さくした、或いは無視できる長時間安定なカロリメータを開発することは重要である。
【0029】
従来から用いられている熱電対とサーミスタや、低温用温度検出素子として良く使われるシリコンダイオード温度計(Si-diode)と小型で再現性がよい白金薄膜抵抗温度計(PTFR)の室温でのノイズレベルと温度の再現性についての測定結果を表2にまとめた。4種類の温度検出素子は、同じ環境に置かれているが、測温系は、それぞれ異なる。熱電対は、デジタルマルチメータで熱起電力を測定した。サーミスタは、5と1/2桁のACブリッジにより測定した。Si-diodeとPTFRは、直流の定電流源とデジタルマルチメータにより測定した。ノイズレベルは、サーミスタが最も小さかったが、測温の再現性は、白金薄膜抵抗温度計が一番よかったし、ノイズも3番目に小さかった。長時間安定な装置を開発するためには、多少感度は、低くても、再現性の良い温度検出素子を選ぶことが重要である。この明細書に添付した測定結果は、温度検出素子として白金薄膜抵抗温度計を用いた。
【表2】
【0030】
電流置換型断熱光カロリメータにおいては、試料への入射光の形態は、連続光照射、断続光照射(チョッピング光照射)、或いはパルス光照射のいずれであってもよい。
【0031】
電流置換型断熱光カロリメータにおいては、低い熱伝導率の試料(長さ10cm程度)でも、試料内部に温度分布を発生させないために、試料を取り囲む内側等温室の温度が一様性になるように制御する。さらに内側等温室の温度を一様にすることは、低い吸収率の試料の吸収係数(吸収率)を高い精度で決定するためにも重要な技術である。
【0032】
表1にも示してあるように、低吸収率の物質においては、光照射による温度上昇速度は、非常に遅いので、試料から内部等温室への熱の流失のない装置、つまり断熱が達成された装置を開発することは、吸収係数(吸収率)を求める際に、複雑な熱流に関するモデル計算を必要としないので、測定結果の信頼性を高めることになる。
【0033】
断熱条件を達成させるために、試料を真空容器内に置く。真空であることにより対流による熱リークが無くなる。さらに内側等温室の温度が、試料温度に温度差ゼロで追随(温度トラッキング)するように内側ヒータに流す電流量を制御する。この温度差ゼロであることにより、伝導と輻射による熱リークが無くなる。
【0034】
試料と内側等温室の間で断熱状態を必要とするさらなる理由は、熱伝導率の小さい試料のときに試料内に温度分布を発生させないためである。この温度分布が発生すると、光吸収量を正確に測定することができない。
【0035】
試料と内側等温室の間で高精度な温度トラッキングにより理想的に近い断熱が達成されると、試料の温度ドリフトは、小さくなる。しかし、さらに吸収係数の小さい試料を測定しようとすると、この小さい温度ドリフトも無視できない。温度ドリフトに関しては段落[0057]〜[0059]において詳しく説明する。
【0036】
電力置換型放射計に採用されている方法は、温度ドリフトの影響を低減できる。この方法を電流置換型断熱光カロリメータに採用するためには、試料にさらにヒータや熱電冷却素子等を取り付けなくてはならない。しかし、このことは試料の余分な温度上昇を引き起こす可能性を増やすことになる。
【0037】
この電流置換型断熱光カロリメータで測ろうとしている試料は、非常に透明で、吸収(0.01ppm)が小さい。一方、試料に温度検出素子やヒータ等を取り付けるためには、一般に金属でできたアデンダーにこれらを埋め込み、試料に取り付ける。しかし、これらの金属の吸収率は、試料に比べて非常に大きい。金・銀・銅・アルミでも可視領域においては吸収率は数%である。このカロリメータ中の試料に光を入射させると試料の入射面と出射面で必ず反射が起こる。この反射率は、一般に数十%である。これらの光の一部が内側等温室の中に留まると、迷光となってアデンダーに吸収されることが起こる。このアデンダーによる迷光の吸収も試料温度の上昇を引き起こし、試料の吸収係数(吸収率)の決定に大きな誤差を引き起こす。余分な吸収による誤差を減らすためには、試料に取り付けるアデンダーは最小限にすることである。この余分な吸収に関係しては段落[0060]と[0061]において詳しく説明する。
【0038】
試料と同じぐらいの大きさで、さらに同じぐらいの熱容量を持ち、試料中の光の進行状態を擬似的に再現させるようにトラッキングヒータを取り付けたトラッキング試料を、内側等温室の内部で試料と幾何学的に対称な位置で、しかも遮光された位置に配置し、このトラッキング試料にも温度検出素子を取り付けて、その温度が試料の温度に温度差ゼロで追随するようにトラッキングヒータの電流量を制御し、光吸収により誘起された試料の温度変化を測定する代わりに、トラッキングヒータに流れる電流量を測定することで、試料とトラッキング試料に取り付けてある両方の温度検出素子に共通するノイズ成分(温度ドリフト等)を除去することができ、高精度な吸収係数或いは吸収率の測定が達成できる。
【0039】
【発明の実施の形態】
本発明に係わる電流置換型断熱光カロリメータの実施例を図面1〜10を参照して説明する。
【0040】
カロリメータの全体の構成を図10に示す。光源の光量の変動は、パワーメータによりモニターする。カロリメータへの照射時間は、シャッターの開閉によって制御する。カロリメータを透過した光が再度カロリメータに入射させないために、カロリメータの後ろにビームストッパーを置く。試料を透過した光量を測定するためには、パワーメータをビームストッパーの位置に移動させて測定する。カロリメータとコントローラは、試料に光が照射されたときに光吸収の結果誘起された試料温度の変化或いはトラッキング試料に流れる電流量を測定し、試料の吸収係数或いは吸収率を算出する手段を有している。
【0041】
図1は、本発明に係わる電流置換型断熱光カロリメータの実施例を説明する図である。見やすくするために、壁の一部を取り除いた鳥瞰図である。試料(1)には、温度検出素子(2a)と校正用ヒータ(3)を取り付け、トラッキング試料(18)には温度検出素子(2d)とトラッキングヒータ(19)を取り付ける。
これら試料とトラッキング試料は、温度検出素子(2b)と内側ヒータ(6)を取り付けた内側等温室(5)の内部に吊り下げられている。
内側等温室は、温度検出素子(2c)と外側ヒータ(8)を取り付けた外側等温室(7)の内部に設置され、その外側等温室の温度が常に一定になるように制御されている。
外側等温室は、窓(10)を持った真空容器(9)の内部に設置されて、この容器内部は真空に保たれている。
【0042】
図2に、内側等温室の壁面の分解図と外付け抵抗について示す。入射透孔と出射透孔をその面内にもつ6a面と6b面内のヒータと外付け可変抵抗器20aを直列につなぐ。上下の6c面と6d面は、外側等温室内部への固定等のために熱流が等価においてはないので、6c面内のヒータと外付け可変抵抗器20cを直列につなぐ。同様にして6d面内のヒータと外付け可変抵抗器20dを直列につなぐ。側面の6e面と6f面内のヒータと外付け可変抵抗器20eも直列につなぐ。これら4組の抵抗セットを並列に外部電流源につなぐ。
【0043】
図2の#1〜#5は、温度検出素子である。各々の温度検出素子の位置は、#1は6d面の中央で、#2は6d面の左端で、#3は6f面の中央で、#4は6a面の中央で、#5は6c面の中央である。
【0044】
内側等温室の壁は、2枚の銅の薄板の間にヒータを挟み込んだサンドイッチ構造になっている。
【0045】
図3に、内側等温室の各部の温度の測定結果を示す。図2に示した状態で、内側等温室の5箇所の温度の差が小さくなるように、外付け可変抵抗器(20a〜20e)の抵抗値を調整したときの各部の温度と#1の場所の温度差の測定結果である。温度差が一番大きかったのは、温度検出素子#1と#3の間で最大7mKであった。
【0046】
図2のような内側等温室の温度の一様化のための工夫をせずに、6a面、6b面、6c面、6d面、6e面と6f面内のヒータを単に直列にして外部電流源につないだときの最大の温度差は、温度検出素子#1と#3の間で最大35mKであった。
【0047】
図4に断熱光カロリメータの温度トラッキング回路図を示す。
断熱光カロリメータは、平面図で示されている。試料(1)には、白金薄膜抵抗温度計(2a)と校正用ヒータ(3)が取り付けられている。内側等温室(5)の壁の内部に内側ヒータ(6、図中でジグザグ線で表示)が埋め込まれていて、この壁の一箇所に白金薄膜抵抗温度計(2b)が取り付けられている。外側等温室(7)の内壁面に外側ヒータ(8、図中でジグザグ線で表示)が貼り付けられていて、この壁の一箇所に白金薄膜抵抗温度計(2c)が取り付けられている。真空容器(9)には、前後に窓(10)が取り付けられている。試料と内側等温室と外側等温室の白金薄膜抵抗温度計には、定電流源(14)で一定電流を流し、その時の電圧をそれぞれデジタルマルチメータ(12a、12b)で計っている。試料と内側等温室の温度差をゼロにするように内側ヒータに電流を流す(13)。外側等温室は、温度が一定になるように温度制御をしている(15)。この図においては試料の両端に2つのヒータ(エンドヒータ、4aと4b)を直列に取り付けてあり合成抵抗値は校正用ヒータと同じ値にしてある。
【0048】
図5に、サファイヤ試料でのレーザ光照射前、照射中と照射後の試料温度等の変化の測定結果を示す。
図5(a)にサファイヤ試料にレーザ光を照射した時の試料と内側等温室の温度変化の様子を示す。2つの曲線はほとんど温度が一致しているので重なっている。最初の20分間はレーザ光を照射していない。次の20分間照射して、5分間照射を中断して、さらに20分間照射している。残りの3枚の図も図5(a)と同時刻の、試料と内側等温室の温度差(図5(b))、内側ヒータに流れた電流(図5(c))と外側等温室の温度変化の様子(図5(d))である。
【0049】
図5(a)から、この実験で用いた白金薄膜抵抗温度計とその測定系(主に定電流源とデジタルマルチメータ)の温度ノイズは±1mKであった。
【0050】
図6は、校正用ヒータによる試料の温度上昇の様子を示す。
図6(a)は、校正用ヒータによる5mWの発熱時の試料の温度変化の様子である。この図においては、内側等温室の温度は、試料温度より少し低いが、内側等温室の温度は、試料温度に追随している。残りの3枚の図も図6(a)と同時刻の、試料と内側等温室の温度差(図6(b))、内側ヒータに流れた電流(図6(c))と外側等温室の温度変化の様子(図6(d))である。
【0051】
校正用ヒータと白金薄膜抵抗温度計が一つの銅製のアデンダーに埋め込まれているために、温度検出素子の示す温度は、サンプルの実際の温度より高くなっている。ヒータをオフした後温度検出素子はオーバーシュートを示し、試料の温度が均一になる温度まで下がる。図6(c)に示すように校正用ヒータをオンする前でも、内側等温室の温度が試料の温度に温度差ゼロで追随するために、常に内側ヒータに電流が流れている。このようにカロリメータをセッティングしていると、内側等温室の温度は、試料の温度のオーバーシューティングにも良好に追随する。
【0052】
カロリメータの測定から吸収係数を求める方法については、例えば、上記非特許文献2に記載してある。サファイヤの吸収係数(α)は、図5のサファイヤ試料の光照射による温度上昇(ΔTL)と照射時間(ΔtL)と試料を透過したレーザパワー(PL)の測定と、図6の同じ試料の校正用ヒータのパワー(PH)による温度上昇(ΔTH)とヒータ加熱時間(ΔtH)の測定結果と、サファイヤの屈折率(n)と試料長さ(λ)の値を次の(式2)に代入すると、
【式2】
α=160 ppmcm-1と求まった。この時の測温のノイズや入射レーザパワーから、この断熱光カロリメータ装置の感度は、1Wの入射レーザ光に対して0.2 ppmcm-1と見積もられた。
【0053】
図7は、エンドヒータによる試料の温度上昇の様子を示す。
図7(a)は、エンドヒータによる同じ5mWの発熱時の試料の温度変化の様子である。この図においては、内側等温室の温度は、試料温度より少し低いが、内側等温室の温度は、試料温度に追随している。残りの3枚の図も図7(a)と同時刻の、試料と内側等温室の温度差(図7(b))、内側ヒータに流れた電流(図7(c))と外側等温室の温度変化の様子(図7(d))である。
【0054】
エンドヒータで加熱した時には、まず図6(a)のようなオーバーシュートは、観測されない。図7(a)の試料の温度上昇は、図5(a)のレーザ光照射時と似た温度上昇を示している。
【0055】
図8に、各種トラッキング試料のトラッキングヒータ(19)の形状と温度検出素子(2d)の配置を示す。
透明試料の場合には、通常、入射レーザ光は焦点距離の長いレンズで細く絞り込んだビームを試料の対称軸に沿って照射している。これに擬似的なトラッキング試料中のヒータの形状は、図8(a)に示すように円柱形の軸に沿ってヒータ線を埋め込む方法である。或いは、図7の結果から図8(b)に示すようにトラッキング試料の両端にエンドヒータを配置しても、透明試料中の光の進み方に似た効果になる。
【0056】
ミラーのような高反射試料の場合には、擬似的なトラッキング試料中のヒータの形は、図8(c)に示すように円盤型試料の表面の中心付近にヒータ線を取り付ければよい。
【0057】
図9に、断熱光カロリメータで実測された温度ドリフトの一例を示す。サファイヤ試料にレーザ光を照射した時の試料の温度変化の測定結果である。レーザ光照射開始時刻を時間の原点にとってある。内側等温室は、試料の温度に温度差ゼロで追随するように制御されているが、この図においては内側等温室の温度変化の結果を省略している。レーザをオンするまでの間、試料温度は、傾き-3.9μK/secで減少している。一方、20分後にレーザをオフしてからは傾き-11.3μK/secで減少している。
【0058】
表1の熱容量を持つ試料の場合に、1Wの入射光で光照射した時の試料の温度上昇速度と、図9に表れている2つの温度ドリフトの絶対値が等しくなる吸収係数は、それぞれ3.9ppmcm-1と11.3ppmcm-1である。この結果、図9のドリフトが表れている時に、数ppmcm-1以下の吸収係数を持つ試料の吸収測定をしようとすると、正確な解析が困難になり、測定結果の信頼性も低くなる。
【0059】
この温度ドリフトの原因は、試料と内側等温室は温度差ゼロで常に等温であるが、これら一体から温度の低い外側等温室に向かって熱リークがあり、その結果、試料と内側等温室一体の温度が時間と共に下がるために起こったと考えられる。
【0060】
図9においては、レーザ照射中の試料の温度上昇は、最初に26.3μK/secの緩やかな傾きの温度上昇が表れ、約30秒後から43.3μK/secの急激な傾きの温度上昇が表れた。
【0061】
図9において、レーザ光照射中に2つの温度上昇の傾きが表れるのは、サファイヤの熱伝導率が有限だからである。温度検出素子は長さ10cmの試料の中心にあり、試料の表面で吸収された熱が中心の温度検出素子まで到達するのに約30秒かかる。つまり最初の緩やかな傾き(26.3μK/sec)は、試料内部での吸収(バルク吸収)のためであり、約30秒後からの急激な傾き(43.3μK/sec)は、試料内部(バルク吸収)と試料表面(表面吸収)の両方の吸収のためである。しかし、実際に図9の測定においては、試料中心に校正用ヒータと温度検出素子を埋め込んだアデンダーの他に、エンドヒータを埋め込んだほぼ同じ大きさのアデンダーを両端に取り付けてあった。このために、急激な傾きの原因は、試料の両端面による表面吸収なのか、段落[0036]と[0037]に記載のように、迷光が両端のアデンダーで吸収されたためか区別がつかない。
【0062】
段落[0055]〜[0056]に記載の温度ドリフトの影響を受けない電流置換型断熱光カロリメータについて、図1を参照しながら説明する。
試料と同じぐらいの大きさで、さらに同じぐらいの熱容量を持ち、試料中のレーザ光の進行状態を擬似的に再現させるようにトラッキングヒータを取り付けたトラッキング試料を、内側等温室(内側等温室も温度差ゼロで試料温度に追随している)の内部で試料と幾何学的に対称な位置で、しかも遮光された位置に、試料と同じ方法で固定し、このトラッキング試料には温度検出素子を取り付けてその温度が試料の温度に温度差ゼロで追随するようにトラッキングヒータの電流量を制御する。光吸収により誘起された試料温度の変化の測定の代わりにトラッキングヒータを流れる電流量を測定する。
【0063】
段落[0053]あるいは[0054]に記載のトラッキング試料を上記のような位置にセッティングすると、試料とトラッキング試料と内側等温室の3者は等温である。しかし、これら3者の一体から、温度の低い外側等温室に向かって熱リークが発生する。この熱リークの割合は、試料とトラッキング試料でほぼ同じと考えられる。そして試料とトラッキング試料の熱容量がほぼ一致しているので、両方の温度の降下の割合も同じ程度である。この結果トラッキング試料と内側等温室が試料温度に温度差ゼロで追随している時、トラッキング試料に流れた電流量による発熱量は、試料によって吸収された光量による発熱量と等価であり、温度ドリフトに依らない。このように、試料とトラッキング試料に取り付けてある両方の温度検出素子に共通するノイズ成分を除去できることで吸収係数或いは吸収率の測定誤差も低減できる。
【0064】
【発明の効果】
Nd−YAGレーザの1.06μmで入射パワーが0.6Wのレーザ光を用いた透明サファイヤの測定からこのサファイヤの吸収係数がα=(160±25)ppmcm-1と求まった。この時の測温のノイズや入射レーザパワーから見積もられるこの断熱光カロリメータ装置の感度は、1Wの入射光に対して0.2ppmcm-1であった。この装置は、現状でも段落[0005]記載の断熱レーザカロリメータの実験室のトップデータよりも高感度である。
【0065】
この装置の感度を決めているのは、表2や図4の装置の測温系のノイズである。現状においては、ノイズは1mKである。この装置を、測温系のノイズが200分の1小さい8桁のACブリッジ(例えば、ASL社製のF7000)で測定すると、断熱光カロリメータの感度が 200倍 増大する。
【0066】
さらに温度ドリフトの影響を受けない電流置換型断熱光カロリメータにすることで測定時間を長くできて、感度も1桁改善できると期待される。或いは測定時間が同じでも、ドリフトの影響を受けないので、測定精度は、1桁程度改善できると見積もられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 電流置換型断熱光カロリメータ
壁の一部を取り除いた電流置換型断熱光カロリメータの鳥瞰図である。試料(1)とトラッキング試料(18)は内側ヒータ(6)を取り付けた内側等温室(5)の内部にナイロンテグスを用いて吊り下げられている。内側等温室は外側ヒータ(8)を取り付けた外側等温室(7)の内部にその床から3本のネジで浮かせて固定されている。外側等温室は2つの窓(10)を持った真空容器(9)の内部にその床から金属製の台座に乗せられて固定されている。容器内部は真空度に保たれている。
【図2】 内側等温室と外付け可変抵抗器
内側等温室の壁は、2枚の銅の薄板でヒータを挟み込んだサンドイッチ構造である。この内側等温室の壁面の分解図と各外付け抵抗との接続方法を示した。この図の#1〜#5は温度検出素子である。各々の温度検出素子の位置は、#1は6d面の中央で、#2は6d面の左端で、#3は6f面の中央で、#4は6a面の中央で、#5は6c面の中央である。
【図3】 内側等温室の各部の温度の測定結果
図2に示した状態で、内側等温室の5箇所の温度の差が小さくなるように、外付け可変抵抗器の値を調整したときの各部の温度と#1の場所の温度差の測定結果である。温度差が一番大きかったのは、温度検出素子#1と#3の間で最大7mKであった。図2のような内側等温室の温度一様化のための工夫をせずに、6a面、6b面、6c面、6d面、6e面と6f面内のヒータを単に直列につないだときの最大の温度差は、温度検出素子#1と#3の間で最大35mKであった。
【図4】 断熱光カロリメータの温度トラッキング回路図
断熱光カロリメータは平面図で示されている。試料(1)には白金薄膜抵抗温度計(2a)と校正用ヒータ(3)が取り付けられている。内側等温室(5)の壁の内部に内側ヒータ(6)が埋め込まれていて、この壁の一箇所に白金薄膜抵抗温度計(2b)が取り付けられている。外側等温室(7)の壁面に外側ヒータ(8)が貼り付けられていて、この壁の一箇所に白金薄膜抵抗温度計(2c)が取り付けられている。真空容器(9)には前後に窓(10)が取り付けられている。この図においては試料の両端に2つのヒータ(エンドヒータ、4aと4b)を直列に取り付けてあり合成抵抗値は校正用ヒータと同じ値にしてある。
【図5】 サファイヤ試料での測定結果
図5(a)にサファイヤ試料にレーザ光を照射した時の試料と内側等温室の温度変化の様子を示す。最初の20分間はレーザ光を照射していない。次の20分間照射して、5分間照射を中断して、さらに20分間照射している。残りの3枚の図も図5(a)と同時刻の、試料と内側等温室の温度差(図5(b))、内側ヒータに流れた電流(図5(c))と外側等温室の温度変化の様子(図5(d))である。
【図6】 校正用ヒータによる試料の温度上昇
図6(a)は校正用ヒータによる5mWの発熱時の試料の温度変化の様子である。残りの3枚の図も図6(a)と同時刻の、試料と内側等温室の温度差(図6(b))、内側ヒータに流れた電流(図6(c))と外側等温室の温度変化の様子(図6(d))である。
【図7】 エンドヒータによる試料の温度上昇
図7(a)はエンドヒータによる同じ5mWの発熱時の試料の温度変化の様子である。残りの3枚の図も図7(a)と同時刻の、試料と内側等温室の温度差(図7(b))、内側ヒータに流れた電流(図7(c))と外側等温室の温度変化の様子(図7(d))である。
【図8】 各種トラッキング試料のヒータの形
透明試料の場合には、通常、入射レーザ光は焦点距離の長いレンズで細く絞り込んだビームを試料の対称軸に沿って照射する。これに擬似的なトラッキング試料中のヒータの形は、図8(a)に示すように円柱形の軸に沿ってヒータ線を埋め込む。図7の結果から図8(b)に示すようにトラッキング試料の両端にエンドヒータを配置してもよい。
ミラーのような高反射試料の場合には、擬似的なトラッキング試料中のヒータの形は、図8(c)に示すように円盤型試料の表面の中心にヒータ線を配置すればよい。
【図9】 温度ドリフト
サファイヤ試料にレーザ光を照射した時の試料の温度変化の測定結果を示す。内側等温室は試料の温度に温度差ゼロで追随するように制御されているが、この図においては内側等温室の温度変化の結果を省略している。レーザ光照射開始時刻を時間の原点にとってある。レーザをオンするまでの間、試料温度は傾き-3.9μK/secで減少している。一方、20分後にレーザをオフしてからは傾き-11.3μK/secで減少している。レーザ照射中の試料の温度上昇は、26.3μK/secと43.3μK/secであった。
【図10】カロリメータの全体の構成を示す。光源の光量の変動はパワーメータでモニターする。カロリメータへの照射時間はシャッターの開閉によって制御する。カロリメータを透過した光が再度カロリメータに入射させないためにカロリメータの後ろにビームストッパーを置く。試料を透過した光量を測定するためには、パワーメータをビームストッパーの位置に移動させて測定する。カロリメータとコントローラは、試料に光が照射されたときに光吸収の結果誘起された試料温度の変化或いはトラッキング試料に流れる電流量を測定し、試料の吸収係数或いは吸収率を算出する手段を有している。
【符号の説明】
1 試料
2a、2b、2c 温度検出素子
3 校正用ヒータ
4a、4b エンドヒータ
5 内側等温室
6、6a、6b、6c、6d、6e、6f 内側ヒータ
7 外側等温室
8 外側ヒータ
9 真空容器
10 窓
11 ヒータ用電流源
12a、12b デジタルマルチメータ(ACブリッジ)
13 内側ヒータ用外付け可変抵抗器セットと電流源
13a 内側ヒータ用電流源
14 温度検出素子用定電流源
15 外側等温室温度コントローラ
16 パーソナルコンピュータ
17 光パワーモニター
18 トラッキング試料
19 トラッキングヒータ
20a、20c、20d、20e 内側ヒータ外付け可変抵抗器
Claims (8)
- 試料に光を照射し、該照射による該試料の上昇温度を測定する断熱光カロリメータであって、真空容器中に等温室、該等温室の壁部にヒータを設けると共に、該等温室の中に試料温度検出素子を備えた試料を配置し、該壁部の温度が試料温度に温度差ゼロで追随できるように、該ヒータに流れる電流量を制御することにより、該光の照射中及び照射前後において、周囲温度と試料温度を等しい温度に保つことを特徴とする断熱光カロリメータ。
- 請求項1に記載の断熱光カロリメータにおいて、上記等温室の壁部には壁温度検出素子が取り付けられており、上記ヒータは、複数の組に分割され、それぞれの組内の該ヒータは、直列に接続されると共に、該容器の外部において可変抵抗器に直列に接続されており、このようにして構成された複数の組は、並列に電流源に接続されたカロリメータ部並びに試料温度検出素子及び該壁温度検出素子からの温度検出信号の差が零になるように該ヒータを駆動し、試料に光が照射されたときの試料温度の変化を測定するコントローラ部を有することを特徴とする断熱光カロリメータ。
- 請求項2に記載の断熱光カロリメータにおいて、上記可変抵抗器の抵抗値を調整することにより、上記各組に流れる電流値を制御し、上記等温室の上記壁の各場所の温度を一様とすることができることを特徴とする断熱光カロリメータ。
- 請求項1記載の断熱光カロリメータにおいて、試料と同じ大きさ及び熱容量を持ち、試料中の光の進行状態を擬似的に再現させるトラッキングヒータ及び温度検出素子を取り付けたトラッキング試料を、上記等温室の内部において、試料と幾何学的に対称な位置であり、しかも遮光された位置に試料と同じ方法で固定し、該トラッキング試料の温度が試料の温度に温度差ゼロで追随するようにトラッキングヒータの電流量を制御し、試料に光が照射されたときの試料温度の変化を、トラッキングヒータに流れる電流量に基づいて測定することを特徴とする断熱光カロリメータ。
- 請求項1乃至4のいずれかに記載された断熱光カロリメータにおいて、試料に校正用ヒータを取り付け、該ヒータに既知の電流を流し、この電流により誘起される試料温度の上昇の測定に基づいて、試料の絶対吸収係数を測定可能にしたことを特徴とする断熱光カロリメータ。
- 試料に光を照射し、該照射による該試料の上昇温度を測定することにより該試料の吸収係数を求める方法であって、真空容器中に等温室、該等温室の壁部にヒータを設けると共に、該等温室の中に試料温度検出素子を備えた試料を配置し、該壁部の温度が試料温度に温度差ゼロで追随できるように、該ヒータに流れる電流量を制御することにより、該光の照射中及び照射前後において、周囲温度と試料温度を等しい温度に保つことを特徴とする吸収係数を求める方法。
- 請求項6記載の吸収係数を求める方法において、試料と同じ大きさ及び熱容量を持ち、試料中の光の進行状態を擬似的に再現させるトラッキングヒータ及び温度検出素子を取り付けたトラッキング試料を、内側等温室の内部において、試料と幾何学的に対称な位置であり、しかも遮光された位置に試料と同じ方法により固定し、該トラッキング試料の温度が試料の温度に温度差ゼロで追随するようにトラッキングヒータの電流量を制御し、光吸収により誘起された試料温度の変化をトラッキングヒータに流れる電流量を測定することにより測定し、試料とトラッキング試料に取り付けてある両方の温度検出素子に共通するノイズ成分を除去できることにより、吸収係数の測定誤差を低減することを特徴とする吸収係数を求める方法。
- 請求項6又は7に記載された吸収係数を求める方法において、試料に校正用ヒータを取り付け、該ヒータに既知の電流を流し、該電流により誘起される試料温度の上昇の測定から、試料の絶対吸収係数を測定可能にしたことを特徴とする吸収係数を求める方法。
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