JP4203595B2 - 穂の形態および赤かび病抵抗性の識別方法とその利用による麦類植物の改良方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は麦類の穂の形態及び赤かび病抵抗性を支配する遺伝子を識別する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
世界の重要穀物であるイネや、コムギ、オオムギ、トウモロコシなどはいずれもその種子(胚及び胚乳)を食用とする作物である。オオムギでは一つの穂軸に対し3個の一花小穂を形成し、この3個の小穂が全て種子を形成するものを六条オオムギ、中央の1個の小穂のみが種子を形成するものを二条オオムギと総称する。この二条オオムギと六条オオムギは生物学的には同種であるが、起源や来歴をはじめ、各種形態・生理生態的形質が異なり、それによって品質や用途も異なる。日本には、はじめに六条オオムギが1世紀頃に大陸から伝来したとされ、昔から米食の補助食料とされ、一部飼料とされた。その他味噌、醤油原料とされる。これに対して二条オオムギは明治以降に欧州から導入され、タンパク質が少なく、でんぷんの比率が高く、麦芽製造過程における揃いが優れており、主にビール醸造に利用されている。
【0003】
オオムギの条性の違いは第二染色体に座乗する、単一の遺伝子(vrs1)で支配されることがわかっている。六条オオムギと二条オオムギの形態を細かく比較すれば、二条オオムギは3個の小穂のうち両側の2小穂でサイズの減少、雄蕊の退化、雌蕊の痕跡化、禾の消失など多くの顕著な変化を示すなど、単一遺伝子が多面的発現をしている。また、条性の遺伝子が存在するゲノム領域には開花期、草丈等農業上重要な形質や、醸造諸特性が連鎖しており、きわめて重要な領域である。また近年、麦類赤かび病に対する抵抗性遺伝子(QTL)がオオムギの条性遺伝子と密接に連鎖することが明らかになった(非特許文献1及び2)。
【0004】
麦類の赤かび病はコムギ、オオムギ、エン麦等多くのイネ科作物を侵し、穀粒の商品価値を損なうのみならず、deoxynivalenolなどのマイコトキシンを生じる重大な病害である。deoxynivalenolは感染穀粒の摂食により人及び動物に対して出血症をともなう胃腸障害等をもたらし、状況によっては死に至る極めて危険性の高い毒素である。deoxynivalenolはpHの変化や熱に対して安定であるため無毒化することが困難である。したがって一定基準を越えた発病穀粒は醸造、加工、飼料等いかなる形態でも利用することが出来ず、廃棄されなければならない。病原菌はフザリウム(Fusarium spp.)であり、これは極ありふれた腐生菌で、世界中の麦作地帯に分布しており、特に開花期から登熟期に雨の多い地域で被害が大きいとされている。一方では、食の安全性に対する意識の高まりから農薬の使用を極力おさえた栽培が求められるようになってきており、抵抗性品種開発は麦類の安全性向上のために不可欠である。以上の課題はアジア地域のみならず、合衆国や欧州を含めた世界規模で解決すべき緊急の課題となっている。
【0005】
しかしながら一方で、オオムギ赤かび病の抵抗性向上はそれほど進んでいない。この原因は、数少ない抵抗性素材が農業上不利な形質を多く併せ持っているためまだ育種素材として有効利用されていないこと、抵抗性が成熟段階でのみでしか判断できない形質でありマーカーによる早期選抜が不可能であったこと、また、抵抗性が条性と同じ遺伝子に支配されるのか、あるいは二つの遺伝子が強く連鎖していて切り離すことが可能か否かが明らかでなく、適切な育種の方針を設定することが出来なかったなどの理由による。このような問題を解決するために、分子マーカーの開発と早期世代で判別する方法の確立が望まれていた。
【0006】
尚、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【非特許文献1】
de la Pena, et al. 1999. Theor. Appl. Genet. 99:561-569
【非特許文献2】
Zhu, et al. 1999. Theor. Appl. Genet. 99:1221-1232
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、二条あるいは六条性、及び二条あるいは六条性遺伝子と連鎖する赤かび病抵抗性を特異的かつ効率的に識別できる方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った。六条性を示すオオムギ品種「アズマムギ」と二条性を示すオオムギ品種「関東中生ゴール」との交配集団については、既に小松田らにより詳細な連鎖地図が作成され、本条性はオオムギ2H染色体長腕上(連鎖地図(図1)に示す位置)に座乗することが報告されている(Komatsuda, et al. Genome 42, 248-253, 1999)。小松田らにより既に得られているこれらの連鎖地図上での個々の個体の条性や分子マーカーの分離情報と、ここで得られた連鎖地図上での個々の個体の条性や分子マーカーの分離情報と合一して、詳細な連鎖地図を作製した(図2)。
【0009】
本発明者らは、二条性を示すオオムギ品種「関東中生ゴール」の二条性遺伝子を、六条性を示すオオムギ品種「アズマムギ」に導入した準同質遺伝子系統群を作成した(図1)。本発明者らは、これらの準同質遺伝子系統群のうち、二条性をもつと判定した個体より得られたDNAと、六条性をもつと判定した個体より得られたDNAをそれぞれ数個体分あわせて、これらの合一した遺伝子を基に遺伝子多型を見出す集団分離分析方法(Bulk segregation analysis)により、両者に多型を示す分子マーカーを検索するとともに、上記「関東中生ゴール」と「アズマムギ」系統群で見出されたDNAマーカーの適応についても検出したところ、連鎖地図(図2)に示す位置に本遺伝子が座乗し、地図上に示す分子マーカーによって検出できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、麦類植物の条性または赤かび病抵抗性を特異的かつ効率的に識別できる方法に関し、以下の〔1〕〜〔23〕を提供するものである。
〔1〕 麦類植物の条性または赤かび病抵抗性を識別する方法であって、条性を支配する遺伝子と連鎖する図1および図2の連鎖地図に示される、少なくとも1つの分子マーカーを用いることを特徴とする識別方法。
〔2〕 分子マーカーが二条性あるいは六条性を有する麦類植物と同様の型を示す場合に、被検植物がそれぞれ二条性あるいは六条性であると判定される、〔1〕に記載の方法。
〔3〕 分子マーカーが赤かび病抵抗性あるいは罹病性を有する麦類植物と同様の型を示す場合に、被検植物がそれぞれ赤かび病抵抗性あるいは罹病性であると判定される、〔1〕に記載の方法。
〔4〕 分子マーカーが配列番号:1〜5のいずれかに記載の塩基配列またはその部分配列からなる分子マーカーである、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕 以下の(a)〜(d)に記載の工程を含む、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
(a)麦類植物からDNA試料を調製する工程
(b)調製したDNA試料を制限酵素により切断する工程
(c)DNA断片をその大きさに応じて分離する工程
(d)検出されたDNA断片の大きさを、対照と比較する工程
〔6〕 以下の(a)〜(d)に記載の工程を含む、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
(a)麦類植物からDNA試料を調製する工程
(b)調製したDNA試料を鋳型として、プライマーDNAを用いてPCR反応を行う工程
(c)増幅したDNA断片を、その大きさに応じて分離する工程
(d)検出されたDNA断片の大きさを、対照と比較する工程
〔7〕 以下の(a)〜(e)に記載の工程を含む、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
(a)麦類植物からDNA試料を調製する工程
(b)調製したDNA試料を制限酵素で処理する工程
(c)処理されたDNA試料を鋳型として、AFLP反応を行う工程
(d)増幅したDNA断片を、その大きさに応じて分離する工程
(e)検出されたDNAパターンを、対照と比較する工程
〔8〕 麦類植物がオオムギである、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕 配列番号:1〜5のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含有する、麦類植物の条性または赤かび病抵抗性を識別するための試薬。
〔10〕 配列番号:6および7に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含有する、麦類植物の条性または赤かび病抵抗性を識別するための試薬。
〔11〕 麦類植物がオオムギである、〔9〕または〔10〕に記載の試薬。
〔12〕 〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法により二条性であると識別される麦類植物を早期に選抜する工程を含む、二条性の形質を有する人為的に改変された麦類植物の作製方法。
〔13〕 〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法により六条性であると識別される麦類植物を早期に選抜する工程を含む、六条性の形質を有する人為的に改変された麦類植物の作製方法。
〔14〕 〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法により赤かび病抵抗性と識別される麦類植物を早期に選抜する工程を含む、赤かび病抵抗性の形質を有する人為的に改変された麦類植物の作製方法。
〔15〕 〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法により赤かび病罹病性と識別される麦類植物を早期に選抜する工程を含む、赤かび病罹病性の形質を有する人為的に改変された麦類植物の作製方法。
〔16〕 麦類植物がオオムギである、〔12〕〜〔15〕のいずれかに記載の方法。
〔17〕 〔12〕に記載の方法により作製される、二条性の形質を有する麦類植物。
〔18〕 〔13〕に記載の方法により作製される、六条性の形質を有する麦類植物。
〔19〕 〔14〕に記載の方法により作製される、赤かび病抵抗性の形質を有する麦類植物。
〔20〕 〔15〕に記載の方法により作製される、赤かび病罹病性の形質を有する麦類植物。
〔21〕 オオムギである、〔17〕〜〔20〕のいずれかに記載の麦類植物。〔22〕 〔17〕〜〔21〕のいずれかに記載の麦類植物の子孫またはクローンである、麦類植物。
〔23〕 〔17〕〜〔22〕のいずれかに記載の麦類植物の繁殖材料。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明は、麦類植物の条性または赤かび病抵抗性を識別する方法であって、条性を支配する遺伝子と連鎖する図1及び図2の連鎖地図に示される、少なくとも1つの分子マーカーを用いることを特徴とする識別方法を提供する。
【0012】
本発明の識別方法においては、被検植物について「条性を支配する遺伝子」を有するか否かを調べることにより、被検植物の二条あるいは六条性、及び二条あるいは六条性遺伝子と連鎖する赤かび病抵抗性を特異的かつ効率的に識別できる。
【0013】
本発明に関する「条性を支配する遺伝子」は、例えば、オオムギにおいては、2H染色体長腕上に座乗している。また一般的傾向として、オオムギとコムギ及びライムギでは、祖先を同じくする遺伝子が同祖的染色体上に座乗している。このことから、コムギもしくはライムギにおける条性を支配する遺伝子も第二同祖群に座乗していると予想することができる。なおオオムギの2H染色体に対応する染色体は、コムギでは2A, 2B, 2D、ライムギでは2Rである。
【0014】
本発明における「条性を支配する遺伝子」は、六条性の形質を示す麦類植物の該遺伝子においては、「六条性遺伝子」とも呼ばれ、一方、二条性の形質を示す麦類植物の該遺伝子においては、「二条性遺伝子」とも呼ばれる。
【0015】
本発明の識別方法においては、二条/六条性を識別したい所望の麦類植物(「被検植物」と記載する場合あり)において、「二条性遺伝子」を有する場合に、被検植物は二条性の形質を有する植物であるものと判定され、一方、「六条性遺伝子」を有する場合に、被検植物は六条性の形質を有する植物であるものと判定される。
【0016】
本発明の識別方法の好ましい態様においては、条性を支配する遺伝子と連鎖する分子マーカーを用いることを特徴とする。本発明における「分子マーカー」とは、条性を支配する遺伝子と遺伝的に連鎖するDNA領域であって、他のDNA領域と識別可能なDNA領域を言う。本発明において好ましい分子マーカーとしては、図1及び図2に記載の分子マーカーが例示できる。
【0017】
一般に分子マーカーは、単位cMで表す地図距離が短いほどその遺伝子の近傍に位置し、その遺伝子と同時に遺伝するため、有用性が高い。即ち、好ましい本発明の分子マーカーとしては、例えばAFLP1(e40m36-1110)(配列番号:1)、AFLP2(e34m13-260)(配列番号:2)、AFLP3(e52m32-270)(配列番号:3)、AFLP4(e31m13-160)(配列番号:4)、AFLP5(e31m26-520)(配列番号:5)、またはこれらの部分領域等が挙げられる。AFLP1からAFLP5は、「条性を支配する遺伝子」(図1において「vrs1」と記載された位置に座乗)の近傍に位置し、地図距離が1cM以内の短い距離で連鎖し、きわめて有用な分子マーカーである。
【0018】
本発明の図2に示される分子マーカーについて、AFLP1からAFLP5以外のマーカーの情報は、より詳しくはKomatsudaらの文献(Komatsuda., et al. Genome 42, 248-253, 1999)及びManoらの文献(Mano, Y., et al., Map construction of sequence-tagged sites (STSs) in barley (Hordeum vulgare L.) Theor. Appl. Genet. 98: 937-946, 1999)から取得することが可能である。
【0019】
本発明の好ましい態様においては、例えば、本発明の分子マーカーであるAFLP2(e34m13-260)を持つ六条性品種と、AFLP2(e34m13-260)を持たない二条性品種で分離集団を作ったとき、AFLP2(e34m13-260)を持つ個体をマーカー分析で選抜すれば、選抜された個体は高い確率で六条性遺伝子を持つものと考えられる。
【0020】
また、本発明の分子マーカーをAFLPマーカーの状態で利用する場合には、例えば、被検植物(分離個体)が二条性の親と共通の当該のAFLPマーカーバンドを持つと、この植物は高い確率で二条性を有するものと判定される。
【0021】
本発明の一つの態様としては、六条性もしくは二条性を有する麦類植物のそれぞれに特異的に存在し、かつ条性を支配する遺伝子と連鎖するDNA領域を検出することを特徴とする、六条性もしくは二条性を有する麦類植物の識別方法である。本方法における被検植物は、通常、親の条性が判明しているものであり、育成途中の系統を指す。本方法においては、例えば、前記の「親」が六条性である場合には、被検植物における分子マーカーが「親」における分子マーカーと同様の型を示すとき、被検植物は、六条性を有するものと判定される。被検植物における分子マーカーと「親」における分子マーカーの比較は、分子マーカーのDNA配列の比較だけでなく、該DNA配列によって特徴付けられる情報の比較によっても実施することができる。分子マーカーのDNA配列によって特徴付けられる情報としては、分子マーカーの存在の有無についての情報、分子マーカーに含まれる変異部位や多型部位の存在の有無についての情報等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。よって、「同様の型を示す」には、分子マーカーのDNA配列全体が完全に同一である場合だけでなく、該DNA配列によって特徴付けられる情報が同一である場合も含まれる。
【0022】
また、本発明の一つの態様においては、図2で示される2つ以上の分子マーカーを適宜選択し、本発明の識別方法を実施することにより、より確度の高い識別が可能となる。
【0023】
本発明において「分子マーカーを用いる」とは、該分子マーカーを麦類植物の条性または赤かび病抵抗性の識別のための指標として利用することを意味する。つまり本発明の好ましい態様においては、被検植物について分子マーカーが六条性の形質を有する麦類植物と同様の型を示す場合に、被検植物は六条性の形質を有するものと判定され、一方、分子マーカーが二条性の形質を有する麦類植物と同様の型を示す場合に、被検植物は二条性の形質を有するものと判定される。また、被験植物について、分子マーカーが赤かび病抵抗性あるいは罹病性を有する麦類植物と同様の型を示す場合に、被検植物がそれぞれ赤かび病抵抗性あるいは罹病性であると判定される。
【0024】
本発明において「被検植物」は、麦類植物であれば特に制限されないが、例えば、コムギ、ライムギ等のコムギ連(Triticeae)に属する植物、ブロムグラス牧草等のBromeae連に属する植物、オートムギ等のAveneae連に属する植物、その他重要な牧草が多数含まれるPoeae連に属する植物等を挙げることができる。本発明の方法において用いられる好ましい麦類植物としては、オオムギを挙げることができる。
【0025】
さらに、オオムギの六条性品種としては、例えば、「アズマムギ」や「Dissa」、二条性品種としては、例えば、「関東中生ゴール」や「Golden Promise」を挙げることができるが、これらに限定されない。既に六条性もしくは二条性を有することが判明している上記の麦類植物、または赤かび病抵抗性を有することが判明している上記の麦類植物における分子マーカーの型を対照とすることにより、本発明の識別方法を好適に実施することができる。
【0026】
また、本発明の好ましい態様においては、「被検植物」は、親が確実に分っている育成途中の系統等を指す。つまり、被検植物において、「二条性」の親と同じ型を示すものが、高い確率で二条性の形質を有する(二条性遺伝子を有する)ものと判定される。この場合の確率とは、組換え価をP(%)とした場合、1-0.01xPで表わすことができる。
【0027】
本発明の分子マーカーとしては例えばRFLP(Retriction Fragment Length Polymorphism)マーカー、RAPD(Randam Amplified Polymorphic DNA)マーカー、AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism;増幅制限酵素断片長多型)マーカー等を挙げることができる。RFLPマーカーとは、染色体DNA配列の制限酵素断片長多型(RFLP)の存在の有無の判定に利用できるDNA領域を言う。RFLPとは、制限酵素で処理して得られるDNA断片の長さの違いによって見出される遺伝的変異(置換変異、挿入変異及び欠失変異等)を言い、この変異は、DNA断片をアガロース電気泳動により断片長の長さに基づき分離し、泳動距離の差をサザンブロットにより検出して確認できる。
【0028】
また、RAPD法とは一般的に、適当なプライマーを用いてDNAを増幅させ、増幅させたDNAの長さの違いによりDNA多型を検出する方法を言う。また、AFLP法とは、原理的には上記のRFLP法とRAPD法を組み合わせた方法であり、制限酵素で切断されたDNA断片の長さの違いや有無をPCRにより選択的に増幅させて検出する方法を言う。
【0029】
本発明に使用できる上記のマーカーとしては、本発明の遺伝子と連鎖しているマーカーであれば特に制限されず、任意のマーカーを用いることができる。
【0030】
本発明の分子マーカーとしてRFLPマーカーを利用する場合、本発明の識別方法を、例えば以下のようにして行うことができる。まず、麦類植物からDNA試料を調製する。次いで調製したDNA試料を制限酵素により切断する。次いでDNA断片をその大きさに応じて分離する。次いで検出されたDNA断片の大きさを対照と比較する。上記方法においては、分離されたDNAの分離パターンが、六条性もしくは二条性または赤かび病抵抗性を有する麦類植物において同様の型を示す場合、該植物はそれぞれ六条性もしくは二条性または赤かび病抵抗性の形質を有すると判定される。
【0031】
本発明の識別方法はより具体的には以下のように実施することができるが、この方法に限定されるものではない。まず、交配後代(通常は緑葉)から染色体DNAを抽出し、制限酵素HindIIIによって処理する。次いで、電気泳動により切断長の大小を分離した後、泳動したDNAをナイロンメンブレンに移し、プローブDNAを用いてサザンブロッティング解析を行う。このプローブDNAとしては、本発明の分子マーカーまたはその部分配列を使用することができる。このとき得られるバンドの分布パターンが、六条性もしくは二条性または赤かび病抵抗性を有する麦類植物におけるバンドの分布パターンと同様の型であるとき、被検植物がそれぞれ六条性もしくは二条性または赤かび病抵抗性を有すると判定される。
【0032】
本発明における上記プローブDNAは、通常、本発明の分子マーカー上の多型に起因して差異を生じるDNAバンドに対してハイブリダイズするものを使用する。具体的には、本発明の各分子マーカーまたはその部分配列を例示することができる。
【0033】
プローブDNAは、必要に応じて適宜標識して用いることができる。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、プローブDNAの5'端を32Pでリン酸化することにより標識する方法が挙げられる。また、クレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーオリゴヌクレオチド等をプライマーとして、32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)によっても標識することができる。
【0034】
また、上記のハイブリダイゼーションは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら,Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において行うことができる。
【0035】
また、本発明の分子マーカーとして、RAPDマーカーを使用する場合、本発明の識別方法は例えば以下のようにして行うことができる。まず、麦類植物からDNA試料を調製する。次いで調製したDNA試料を鋳型として、プライマーDNAを用いてPCR反応を行う。必要な場合は増幅したDNAを制限酵素で切断する。増幅したDNA断片の電気泳動後のバンドパターンを六条性もしくは二条性または赤かび病抵抗性を有する麦類植物のバンドパターンと比較し、同様の型を示す場合、該植物はそれぞれ六条性もしくは二条性または赤かび病抵抗性の形質を有すると判定される。
【0036】
本発明の識別方法に使用するプライマーDNAは、当業者においては、各種分子マーカーについての配列情報を考慮して、最適なプライマーを適宜設計することが可能である。通常、上記プライマーとは、六条性もしくは二条性または赤かび病抵抗性を有する麦類植物に特異的に存在し、条性を支配する遺伝子と連鎖する塩基配列に特異的なプライマー、または六条性もしくは二条性または赤かび病抵抗性を有する麦類植物に特異的に存在し、条性を支配する遺伝子と連鎖する塩基配列を挟み込むように設計された、該塩基配列を増幅するための一対のプライマーセットである。具体的には下記のようなプライマーセットを例示することが出来る。
・プライマー1:5’-ATGGTTGTGTATGTATGGCA-3’(配列番号:6)
・プライマー2:5’-CAGAGGTAAGCATTGATTTG-3’(配列番号:7)
【0037】
本発明のPCRプライマーは、当業者においては、例えば、自動オリゴヌクレオチド合成機等を利用して作製することができる。また、当業者においては周知の多型検出方法、例えば、上記PCRプライマーを用いたPCR-SSCP法等によっても本発明の方法を実施することが可能である。
【0038】
また、本発明の分子マーカーがゲノムDNAのエクソン中に存在する場合には、mRNAを鋳型としたRT-PCRを利用することも可能である。また、Taqman(量的PCR検出)システム(Roche社)を利用すれば、蛍光により増幅産物の有無を検出することが可能である。このシステムによれば、電気泳動の手間も省けるため短時間で本発明の識別方法を行うことが可能である。
【0039】
さらに本発明の分子マーカーとしてAFLPマーカーを使用する場合、本発明の識別方法は、例えば以下のようにして行うことができる。まず、麦類植物からDNA試料を調製する。次に、このDNA試料を制限酵素で処理した後、処理されたDNA試料を鋳型としてAFLP反応を行う。次いで増幅したDNA断片を、その大きさに応じて分離し、検出されたDNAパターンを対照と比較する。AFLP反応を最適な制限酵素及びPCRプライマーを用いて実施することは、当業者においては、容易に行い得ることである。
【0040】
本発明の方法の一例を以下に示すが、この方法に限定されない。まず被検植物から調製したDNA試料を制限酵素EcoRI及びMseIで処理した後、所定のAFLPプライマーを接続し、AFLP反応を行い、増幅産物を得る。得られた増幅産物を電気泳動によって分析し、バンドパターンを六条性もしくは二条性または赤かび病抵抗性を有する麦類植物のバンドパターンと比較し、同様の型を示す場合、該植物はそれぞれ六条性もしくは二条性または赤かび病抵抗性の形質を有すると判定される。
【0041】
また、本発明の識別方法に供される、DNA試料は、特に制限されるものではないが、通常、被検植物である麦類植物から抽出するゲノムDNAを用いる。また、ゲノムDNAの採取源としては特に限定されるものではなく、植物体のいずれの組織からも抽出できる。例えば、穂、葉、根、茎、種子、胚乳部、フスマ、胚等から抽出することができる。
【0042】
本発明の上記DNA試料の調製(抽出)方法としては、当業者においては、公知の方法によって行うことができる。好ましい調製方法として、例えば、CTAB法を用いてDNAを抽出する方法を挙げることができる。
【0043】
さらに本発明の上記電気泳動分析は常法にしたがって行えばよい。例えば、アガロースまたはポリアクリルアミドのゲル中で電圧をかけて電気泳動し、分離したDNAパターンを分析する。
【0044】
また、本発明の識別方法は、AFLPマーカーの実際の配列解析により導き出されるCAPS(cleaved amplified porymorphic sequence)やSTS(sequence tagged site)マーカーなどのより信頼性の高いマーカーを用いて実施することも可能である。より具体的には、前述のプライマーセット(プライマー1及び2)を使用して、オオムギ品種「関東中生ゴール」と「アズマムギ」のDNAからPCR反応を行い、生成したそれぞれのDNAを制限酵素DraIで処理すると、「関東中生ゴール」のみがこの制限酵素で一部切断されるために短くなり、電気泳動による移動度に差が生じ、識別することができる。F2分離集団においては両親ホモ型とヘテロ型の3タイプが存在するが、ヘテロ型は両親のサイズを併せ持つタイプを示すことから、この3タイプについて識別可能となる。
【0045】
本発明はまた、配列番号:1〜5のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含有する、麦類植物の条性または赤かび病抵抗性を識別するための試薬を提供する。
【0046】
ここで「相補鎖」とは、A:T(ただしRNAの場合はU)、G:Cの塩基対からなる2本鎖核酸の一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上の塩基配列上の相同性を有すればよい。相同性を決定するためのアルゴリズムは当業者に周知のものを使用すればよい。
【0047】
本発明のオリゴヌクレオチドは、配列番号:1〜5のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAまたはその相補鎖に特異的にハイブリダイズする。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら,Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、他のDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。
【0048】
本発明のオリゴヌクレオチドは、配列番号:1〜5のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAの検出や増幅に用いるプローブやプライマーとして使用することができる。また、本発明のオリゴヌクレオチドは、DNAアレイの基板の形態で使用することができる。
【0049】
該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、本発明のDNAまたはその相補鎖の少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。また、プライマーとして用いる場合、3'側の領域は相補的とし、5'側には制限酵素認識配列やタグなどを付加することができる。また、配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAの検出や増幅に用いるプライマーセットとしては、前述のプライマーセット(プライマー1及び2)が例示できる。
【0050】
また、上記オリゴヌクレオチドをプローブとして使用する場合、該プローブは、配列番号:1〜5のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAまたはその相補鎖の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするものであれば、特に制限されない。該プローブは、合成オリゴヌクレオチドであってもよく、通常少なくとも15bp以上の鎖長を有する。
【0051】
本発明のオリゴヌクレオチドをプローブとして用いる場合は、適宜標識して用いることが好ましい。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、オリゴヌクレオチドの5'端を32Pでリン酸化することにより標識する方法、およびクレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーオリゴヌクレオチド等をプライマーとして32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)を例示することができる。
【0052】
本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。プローブは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。
【0053】
本発明の麦類植物の条性または赤かび病抵抗性を識別するための試薬においては、有効成分であるオリゴヌクレオチド以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
【0054】
本発明の識別方法を利用して、六条性もしくは二条性または赤かび病抵抗性と識別される麦類植物を早期に選抜することが可能となる。本発明はこのような六条性もしくは二条性または赤かび病抵抗性と識別される麦類植物を早期に選抜する方法も提供する。ここでいう「早期」とは、麦類植物の出穂より前の状態を指し、好ましくは発芽直後の状態を指す。また本発明は、六条性もしくは二条性または赤かび病抵抗性の形質を有する人為的に改変された麦類植物の作製方法も提供する。
【0055】
六条性もしくは二条性の形質を有する人為的に改変された麦類植物の作製方法としては、例えば、以下の(a)〜(c)の方法を挙げることができるが、これらの方法に特に制限されない。
(a) 二条性品種に任意の六条性品種を交配し、交配後代(雑種)に六条性品種を反復して交配し、本発明の方法により各世代で六条性を有する麦類植物を選抜する。もしくは、六条性品種に任意の二条性品種を交配し、交配後代(雑種)に二条性品種を反復して交配し、本発明の方法により各世代で二条性を有する麦類植物を選抜する。
(b) 条性を支配する遺伝子が優性遺伝子である品種の遺伝子を、劣性遺伝子を有する品種に導入することにより、条性を改変する。
(c) 条性を支配する遺伝子が劣性遺伝子である品種の遺伝子を、優性遺伝子を有する品種に相同組換え法等の方法を用いて導入することにより、条性を改変する。
【0056】
また、赤かび病抵抗性の形質を有する人為的に改変された麦類植物の作製方法としては、例えば、以下の(a)〜(c)の方法を挙げることができるが、これらの方法に特に制限されない。
(a) 赤かび病抵抗性品種に任意の赤かび病罹病性品種を交配し、交配後代(雑種)に赤かび病罹病性品種を反復して交配し、本発明の方法により各世代で赤かび病抵抗性を有する麦類植物を選抜する。
(b) 赤かび病を支配する遺伝子が優性遺伝子である品種の遺伝子を、劣性遺伝子を有する品種に導入することにより、赤かび病抵抗性を改変する。
(c) 赤かび病抵抗性を支配する遺伝子が劣性遺伝子である品種の遺伝子を、優性遺伝子を有する品種に相同組換え法等の方法を用いて導入することにより、赤かび病抵抗性を改変する。
【0057】
DNAの植物細胞への導入は、当業者においては、公知の方法、例えばアグロバクテリウム法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、パーティクルガン法により実施することができる。
【0058】
また、本発明の六条性もしくは二条性または赤かび病抵抗性の形質を有する人為的に改変された麦類植物の作製方法によって作製された、六条性もしくは二条性または赤かび病抵抗性の形質を呈する植物もまた本発明に含まれる。
【0059】
一旦、任意の遺伝子が改変された麦類植物が得られれば、該麦類植物から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該麦類植物やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該麦類植物を量産することも可能である。
【0060】
【実施例】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
[実施例1] アズマムギ/関東中生ゴールのBC6F2並びにBC7F1集団、アズマムギ/Golden Promiseとアズマムギ/Hannaの各F2集団による条性連鎖地図の作製と分子マーカーの獲得(集団の説明は表1に示す)
【0061】
【表1】
aアズマムギ、Dissa及びNew Golden M13は六条性を示し、それ以外は二条性を示す。
b条性の遺伝子型同定の便宜のために、準同質遺伝子系統群の植物体を用いて集団マッピングを行なった。M4-5、M1-2、M1-7、及びM2-1は、アズマムギの反復戻し交配を伴う、アズマムギと関東中生ゴールの交配によって作製された準同質遺伝子系統群の植物体(個体)である(Komatsuda et al. 1995, 1997, 1999)。M4-5は二条性の個体にとってホモザイゴートであり、それ以外の3種の植物体はヘテロザイゴートである。
【0062】
本発明者らは、アズマムギ/関東中生ゴールの反復戻し交配の後代系統BC7F3(図1、M1-7-64-11-65、あるいはM1-7-64-12-24)をさらに自家受精し、その子孫から二条並びに六条性を有する個体を8個体ずつ選んだ。これらの材料からSDS法により調製したゲノムDNAをEcoRI/MseIを用いて切断した後、非選択プライマー増幅し、条性が同じもの同士を合一し、バルクDNAとした。
【0063】
本発明者らは、次いで、二条並びに六条性を有する集団のDNAを各種選択プライマーセットを用いて増幅するAFLP法を行い、多型を検索し、多型を示すマーカーを5個見出した(表2)。
【0064】
【表2】
【0065】
本発明者らは、これらのマーカーと上記の3集団の条性の連鎖関係を解析し、連鎖マップ(図2)を得た。また、判定したこれらの系統の条性形質を、既知のこれらの系統の分子マーカー情報とあわせ、連鎖関係を解析し、合わせて図2に示した。
【0066】
以上の結果はオオムギを材料に得られたものであるが、麦類の遺伝子には相同性があることが知られていることから、オオムギだけでなく、麦類全てで同様の形質を持っている可能性がある。また、本発明によって赤かび病の抵抗性を付与できる可能性がある。近年、二条性遺伝子は赤かび病の抵抗性向上に有効な遺伝子であるか、あるいは有効な遺伝子と密接に連鎖することが明らかになった。赤かび病は麦類における最も重要な病害であり、赤かび病抵抗性導入のためには分子マーカーの開発と早期世代で判別する方法は有効な手段となりうる。また、二条あるいは六条性遺伝子には赤かび病抵抗性以外にも、醸造諸特性や、開花期、草丈等農業上重要な形質が連鎖しており、本識別手法はこれらの形質すべての効率的選抜に利用できる。
【0067】
【発明の効果】
本発明の麦類の条性に連鎖するDNAマーカーを用いることにより、被検麦類植物についての条性がその穂を観察することなく、幼植物など、被検植物のあらゆる器官から抽出したDNAを用いて正確に判定できる。また、本発明の麦類の条性に連鎖するDNAマーカーを用いることにより、被検麦類植物についての赤かび病抵抗性を識別可能である。本発明により、条性または赤かび病抵抗性に関する判定が育成早期における個体を用いても可能となるため、六条性もしくは二条性または赤かび病抵抗性の形質の遺伝子導入における育種効率が飛躍的に向上する。
【0068】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】 条性を支配する遺伝子(vrs1)と連鎖する分子マーカーを示す連鎖地図である。eで始まる5つのマーカーは本発明で作出されたAFLPマーカーである。それ以外で始まるマーカーは既知のマーカーである。連鎖地図中の数字は地図距離(cM)を示す。
【図2】 アズマムギ/関東中生ゴールのBC6F2並びにBC7F1集団、アズマムギ/Golden Promiseとアズマムギ/Hannaの各F2集団を含む合計6集団による条性連鎖地図である。AFLP1からAFLP5は今回発明されたAFLPマーカーの略称である。それらの完全な名前は表2に示している。それ以外のマーカーは既知のマーカーである。
【図3】 オオムギ品種「アズマムギ」における分子マーカーAFLP1およびAFLP2の塩基配列の一例を示す図である。AFLP2における下線部分は、本発明の識別方法に使用可能なPCRプライマーの塩基配列を示す。オオムギ品種「関東中生ゴール」においては二重下線で示した塩基「C」は「A」であり、制限酵素DraIの認識サイトを構成する。
【図4】 オオムギ品種「アズマムギ」における分子マーカーAFLP3からAFLP5の塩基配列の一例を示す図である。
Claims (15)
- 麦類植物の条性または赤かび病抵抗性を識別する方法であって、配列番号 :1 〜 5 のいずれかに記載の塩基配列またはその部分配列からなる分子マーカーを少なくとも 1 つ用いることを特徴とする識別方法。
- 分子マーカーが二条性あるいは六条性を有する麦類植物と同様の型を示す場合に、被検植物がそれぞれ二条性あるいは六条性であると判定される、請求項1に記載の方法。
- 分子マーカーが赤かび病抵抗性あるいは罹病性を有する麦類植物と同様の型を示す場合に、被検植物がそれぞれ赤かび病抵抗性あるいは罹病性であると判定される、請求項1に記載の方法。
- 以下の(a)〜(d)に記載の工程を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
(a)麦類植物からDNA試料を調製する工程
(b)調製したDNA試料を制限酵素により切断する工程
(c)DNA断片をその大きさに応じて分離する工程
(d)検出されたDNA断片の大きさを、対照と比較する工程 - 以下の(a)〜(d)に記載の工程を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
(a)麦類植物からDNA試料を調製する工程
(b)調製したDNA試料を鋳型として、プライマーDNAを用いてPCR反応を行う工程
(c)増幅したDNA断片を、その大きさに応じて分離する工程
(d)検出されたDNA断片の大きさを、対照と比較する工程 - 以下の(a)〜(e)に記載の工程を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
(a)麦類植物からDNA試料を調製する工程
(b)調製したDNA試料を制限酵素で処理する工程
(c)処理されたDNA試料を鋳型として、AFLP反応を行う工程
(d)増幅したDNA断片を、その大きさに応じて分離する工程
(e)検出されたDNAパターンを、対照と比較する工程 - 麦類植物がオオムギである、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
- 配列番号:1〜5のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含有する、麦類植物の条性または赤かび病抵抗性を識別するための試薬。
- 配列番号:6および7に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含有する、麦類植物の条性または赤かび病抵抗性を識別するための試薬。
- 麦類植物がオオムギである、請求項8または9に記載の試薬。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の方法により二条性であると識別される麦類植物を早期に選抜する工程を含む、二条性の形質を有する人為的に改変された麦類植物の作製方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の方法により六条性であると識別される麦類植物を早期に選抜する工程を含む、六条性の形質を有する人為的に改変された麦類植物の作製方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の方法により赤かび病抵抗性と識別される麦類植物を早期に選抜する工程を含む、赤かび病抵抗性の形質を有する人為的に改変された麦類植物の作製方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の方法により赤かび病罹病性と識別される麦類植物を早期に選抜する工程を含む、赤かび病罹病性の形質を有する人為的に改変された麦類植物の作製方法。
- 麦類植物がオオムギである、請求項11〜14のいずれかに記載の方法。
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