JP4202008B2 - 塗膜劣化診断装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、塗装膜のインピーダンスを測定することによって、その塗装膜の劣化度を診断する塗膜劣化診断装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
屋外に設置される橋梁やプラントなどの鋼構造物あるいは変圧器、配電盤などの電気機器には、防食および美観のために塗装がなされるが、その塗装膜は太陽光や風雨、腐食性ガスの作用を受けて劣化し、やがて塗装膜の剥離や下地金属の腐食などの欠陥を生じる。この劣化現象は時間と共に進行し、そのまま放置すれば機器の損傷、機能阻害に至るため一般には塗装後、ある期間の経過後ないしは一定期間間隔で塗装の塗り替えが行われている。
【0003】
この塗装膜の劣化度及び塗り替え時期の評価方法としては種々の方法が考案されているが、その中の一つに塗装膜のインピーダンスが膜の劣化に伴って変化することに着目し、塗装膜のインピーダンスを測定して劣化度を評価する交流インピーダンス法と呼ばれる方法がある。
【0004】
この交流インピーダンス法は、被測定塗装膜上にアルミ等の導電性板を導電性ゲルを介して接触させて一方の電極とし、他方、下地金属をもう一方の電極としてこの間に交流電圧を印加し、塗装膜に流れる電流を検出してインピーダンスを算出する。そして算出されたインピーダンスから塗装膜の劣化状況を解析診断するものである。
【0005】
図7は、従来の交流インピーダンス法による塗膜劣化診断装置の構成を表すブロック図である。図中の波形データ発生手段100は塗装膜101に印加する電圧波形データを発生させるためのもので、印加する電圧波形を短いサンプリング時間Δtでサンプリングして各時間の波高値をディジタルデータの形で事前にメモリに記憶しておき、測定時には記憶していた波高値データを順次読み出し、Δt時間毎に時分割で電圧発生手段102内のD/A変換器に次々と出力するものである。
【0006】
このようにして波形データ発生手段100から出力された波形データは、電圧発生手段102にてアナログ交流電圧に変換され、塗装膜101の表面に接触させた電極103と下地金属104との間に印加される。塗装膜101に電圧が印加されると、塗装膜のインピーダンスにより決まる微小アナログ電流が流れる。この電流は電流検出手段105で検出され、Δt時間毎にA/D変換されてインピーダンス算出手段106に送られる。インピーダンス算出手段106では、測定された電流波形と印加電圧波形とから高速フーリェ変換(FFT)演算により印加電圧波形に含まれる周波数に対応するインピーダンスが算出される。そしてこの値が劣化度診断手段107に送られて塗装膜の劣化状況が解析診断されるというものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
この交流インピーダンス法で使用する印加電圧波形としては、従来は単一周波数の交流電圧波形や、複数の周波数の交流電圧波形を位相を違えて合成した合成交流波形が用いられてきた。そしてこの波形を短い時間間隔Δtで区切ってサンプリングして各サンプリング時間における波高値をディジタルデータの形で予めメモリに記憶させておき、測定に際しては記憶していた波高値を順次メモリから読み出し、サンプリングの場合と同じ時間間隔Δtで次々と時分割で出力する方法で印加電圧を発生させていた。
【0008】
しかしこのような印加電圧の発生方法では、発生させることができる波形と周波数が、予めメモリに記憶させた波形データで決まってしまう。このため印加電圧波形や周波数を変更しようとすると、その度にメモリ内の波形データの更新が必要となり、波形データの作成、メモリの書き換え等に大変な手間がかかるという問題があった。また予め必要な多数の波形データをメモリに記憶させておく方法も考えられたが、多数の波形データ作成の手間、多数の波形データを記憶させておくためのメモリ容量の増大に伴う製作コスト上昇、装置形状の増大という問題があった。
【0009】
本発明はかかる問題を解決するためになされたもので、その目的は、波形データ発生手段に記憶させた少数の波形データを基に、任意の周波数成分を含む電圧波形を発生できるようにして多数の周波数成分に対応する塗膜インピーダンスの測定を可能にするとともに、その測定を精度良くできる塗膜劣化診断装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため請求項1に記載の塗膜劣化診断装置は、塗装膜の表面に接触させた測定用電極と、塗装膜の下地金属との間に電圧を印加して流れる電流波形を検出し、測定された電流波形と印加電圧波形とから塗装膜インピーダンスを算出して塗装膜の劣化状態を診断する塗膜劣化診断装置であって、所定のサンプリング周期でサンプル化した単一周波数の電圧及び周波数、振幅、位相の異なる複数の電圧を振幅が高くなりすぎないように各電圧の振幅と位相を調整して合成した電圧を含む複数の印加電圧波形データを記憶しておき、マンマシンインターフェースを介してその中の一つの電圧波形データの選択と、該データの前記サンプリング周期とは異なる周期の時分割出力周期を指定できるようにし、測定時には選択された印加電圧波形データを指定された時分割出力周期で時分割出力するようにした。
従って、サンプル値を時分割出力する時間間隔を任意に変えることにより、サンプリングされた一つの電圧波形から、この電圧波形に含まれていなかった任意の周波数成分を含む印加電圧波形を発生させることができる。
【0011】
更に、実際の測定の状況に応じて最適な波形、最適な周波数成分を含む印加電圧を迅速に選択、指定することができる。
【0012】
請求項3に記載の塗膜劣化診断装置は、請求項2記載の塗膜劣化診断装置であって、印加電圧波形データの各サンプル値をD/A変換器に送ってD/A変換を開始させた後、所定時間遅れて塗膜電流のA/D変換を開始させるようにした。
従って、サンプル値のD/A変換直後に発生する高調波電圧成分であって、元の印加電圧波形には含まれていない周波数成分に起因するスパイク電流の影響の少ない塗膜電流波形のサンプリングができるため、電流波形の測定精度が向上する。
【0013】
請求項4に記載の塗膜劣化診断装置は、請求項2記載の塗膜劣化診断装置であって、少なくとも印加アナログ電圧発生用D/A変換器と電流波形検出用A/D変換器とを含むセンサ部と、少なくとも印加電圧波形データ記憶部とディジタル波形データ発生手段とを含む制御部とを通信回線で接続し、センサ部では制御部から送られた波形データを受信後直ちにD/A変換するとともに、波形データ受信タイミングから所定時間遅れて塗膜電流のA/D変換を開始させるようにした。
従って、制御部はセンサ部に対して電流波形をA/D変換するタイミング信号を送る必要はなく、サンプル化された波形データを所定間隔で送信するのみで済むことになる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の塗膜劣化診断装置の実施の形態につき図1ないし図6を参照しながら説明する。図1は本発明の第1の実施の形態を示す図である(請求項1、2、3に対応)。本形態ではマイクロコンピュータを使用して装置全体のシーケンス制御と必要な演算処理を行っている。
【0015】
メモリには波形生成プログラム14、インピーダンス算出プログラム15、劣化度診断プログラム16の3種のプログラムが予め格納されている。またメモリ内には印加電圧波形と検出電流波形のデータを格納する領域17、18が確保されている。マンマシンインターフェース13はキーボードと液晶表示装置で構成されており、算出された塗装膜インピーダンスや劣化診断結果等の表示、測定者による印加電圧波形の選択、サンプリングされた波形データの出力時間間隔、測定開始指示等を行うためのものである。CPU12は演算処理装置であってマンマシンインターフェース13からの指示に従って、必要なプログラムとデータを読み出して演算処理する役割を果たす。
【0016】
D/A変換器10は波形生成プログラム14の実行によって生成されたサンプル化した波形データをCPU12を介して受け取り、アナログ電圧に変換して塗装膜1の表面に接触させた電極3と下地金属2に接触させたアース電極4との間に印加する。A/D変換器11は、塗装膜1に流れた電流を指示されたタイミングでサンプリングしてディジタル値に変換し、CPU12に送るためのもので、送られた電流波形データは検出電流データ領域18に格納される。
【0017】
次に図1を参照しながら本実施の形態がどのように実行されるかを説明する。まず測定に先立って電圧波形生成の元となる電圧波形のサンプリングデータを作成する。電圧波形としては単一周波数の正弦波、または周波数、振幅、位相の異なる複数の正弦波を合成した合成交流波形を使用する。合成波は、例えば0.1〜100Hzの間を0.1Hz飛びに選択した1000種類の周波数の正弦波を、振幅が高くなりすぎないように各波の振幅と位相を調整して作成する。
【0018】
選択した単一周波数正弦波形または合成交流波形は、1周期分を短い時間間隔、例えば1/1000周期で区切って各時間の波高値を算出し、メモリの電圧波形データ領域17に格納する。即ち1周期分の波形を1000個の数値にサンプル化してメモリに記憶させる。メモリには単一周波数の正弦波と、1ないし数種類の合成電圧波形を記憶させておく。
【0019】
このような前準備の後、測定に際しては、まず測定者がマンマシンインターフェース13を介して測定に使用する印加電圧波形を選択指示し、次いでその波形のサンプル値を出力する時間間隔、言い換えれば波形再生速度を指示した上で測定開始を指令する。
CPU12は上記指令を受けて該当する電圧波形データをメモリから読み出し、波形生成プログラム14を実行して指示された時間間隔でサンプル値をD/A変換器10に送り出す。この場合において出力時間間隔として、波形のサンプル値作成の際のサンプリング時間間隔と異なる時間間隔を指示することにより、D/A変換器10で発生して塗装膜に印加されるアナログ電圧波形中の周波数成分を、元の電圧波形データの周波数成分と異ならしめることができる。
【0020】
この関係を図2に示す例により更に説明する。図は説明のため元となる電圧波形として1Hzの単一周波数の正弦波を取り上げたものである。この波形の1周期に当たる1秒分の波形を、図2の(a)に示すように時間軸を例えば18個に分割、即ち1 /18秒単位でサンプリングし、各時間における波高値を計算して電圧波形データとしてメモリに記憶させる。
【0021】
測定のためこの波形データを再生する際に、例えば2/18秒間隔でサンプリングされた波高値データを出力すると、図2の(b)に示すように1周期が2秒、つまり0.5Hzの正弦波が生成される。また逆に0.5/18秒間隔で再生すると、図2の(c) に示すように1周期が0.5秒、つまり2Hzの正弦波が生成される。このように波形データを再生する際の波形データ出力時間間隔を任意に指定することにより、メモリに記憶されている一つの正弦波形データから、任意の周波数の正弦波を生成することができる。この関係は元の波形データが合成された交流波形である場合も同様である。
【0022】
このようにしてD/A変換器10に送られた各サンプリング値は、D/A変換器10内のレジスタにラッチされて直ちにD/A変換され、アナログ電圧となって電極3を介して塗装膜1に印加される。電圧が印加されると塗装膜1には印加電圧と塗装膜インピーダンスで決まる微小な電流が流れる。
塗装膜に流れた微小電流は、電流経路に直列に接続された抵抗(図示しない)により電圧に変換される。そして増幅器(図示しない)により増幅された後、サンプル値の出力時間間隔と同じ時間間隔で、A/D変換器11によりディジタル値に変換されてCPU12に送られる。
【0023】
ここで重要なのは電流波形をA/D変換するタイミングである。塗装膜1の電気的等価回路は図3に示すように抵抗RとコンデンサCの並列接続回路で表すことができる。この回路に図2に示す階段状の印加電圧を加えた場合、塗装膜1には図4に示すように、サンプル値データのD/A変換直後にコンデンサCを充電または放電するスパイク状の突入電流が流れる。電流波形の測定精度を上げるには、このスパイク状の電流が流れる期間を避けてサンプリングを行う必要がある。
【0024】
本装置では、上記目的のため印加電圧波形データのサンプル値をD/A変換器10に送ってD/A変換を開始させた後、所定時間遅れて電流波形のA/D変換を開始させるトリガー信号をCPU12から送信するようにしている。最適な遅れ時間は、塗装膜1のインピーダンス、A/D変換器11の変換時間、印加電圧のサンプル値出力周期によって異なるが、A/D変換器11の変換時間が十分に短い場合には、サンプル値出力周期の1/2程度が適当である。この遅れ時間は測定開始前に測定者がマンマシンインターフェース13を介して入力しておく。
【0025】
図5は本発明の第2の実施の形態を示すものである。この実施形態は図1の実施形態におけるD/A変換器10とA/D変換器11とを含む構成部分をセンサ部19とし、印加電圧波形データ記憶部とディジタル波形データ発生手段を少なくとも含む構成部分を制御部20とし、これらセンサ部19と制御部20とを通信回路21a、21bで接続したものである。この構成においてはCPU12からD/A変換器10への波形データの送信、A/D変換器11からCPU12への電流波形データの送信、CPU12からA/D変換器11への変換開始トリガー信号は通信回路21a、21bを通じて送られる。なお図5では図1と同一の構成要素には同一符号を付してある。
この構成によればセンサ部19を小型、軽量に製作することが可能となる。更に通信回路21a、21bを無線にした場合には、センサ部19のみを測定場所へ持ち込めばよいことから、鉄塔、橋梁等の高所での測定が容易になる利点がある。
【0026】
図6は本発明の第3の実施の形態を示すものである(請求項4に対応)。この形態では制御部20よりD/A変換器10に向けて送られた波形データは、通信回路21bで受信後、直ちにD/A変換器10に送られてD/A変換されるとともに、波形データの受信タイミングを基準にして、これより所定時間遅れたトリガー信号がタイミング回路22で作り出されて電流波形のA/D変換を開始させる。なお図6では図5と同一の構成要素には同一符号を付してある。
【0027】
このような構成とすることで、制御部からはA/D変換開始のトリガー信号を送信する必要がなくなり、制御部20の演算負荷、通信回路21a、21bの負荷が減少して、一層短い周期での波形データの送信、受信が可能となり、インピーダンスの測定精度を上げることができる。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に記載した発明によれば、印加電圧波形として装置に予め記憶させた元の波形の周波数成分とは異なる任意の周波数成分の印加電圧波形を自由に生成することができる。
【0029】
また、請求項2に記載した発明によれば、測定現場にて印加電圧波形の選択、波形中の周波数成分の変更ができるため、塗装膜の状態に応じた最適な設定をすることにより、塗装膜のインピーダンス測定精度、ひいては劣化診断の精度を上げることができる。
【0030】
請求項3に記載した発明によれば、電流波形のA/D変換のタイミングを、スパイク電流が流れる期間を避けて設定することができるため、電流波形の測定精度、ひいては塗装膜インピーダンス測定精度が向上して劣化診断の精度が向上する。
【0031】
請求項4に記載した発明によれば、各種周波数を用いた塗装膜インピーダンス測定と劣化診断を、高所等にある塗装膜に対して容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の診断装置の第1の実施形態を示す図
【図2】元の周波数成分とは異なる周波数成分の波形生成の説明図
【図3】塗装膜インピーダンスの電気的等価回路を示す図
【図4】塗装膜に流れる電流波形図
【図5】本発明の第2の実施形態を示す図
【図6】A/D変換開始信号を受信タイミングからとる本発明の第3の実施形態を示す図
【図7】従来の塗膜劣化診断装置の構成図
【符号の説明】
1は塗装膜、2は下地金属、3は電極、4はアース端子、10はD/A変換器、11はA/D変換器、12はCPU、13はマンマシンインターフェース、21は通信回路を示す。

Claims (3)

  1. 塗装膜の表面に接触させた測定用電極と、塗装膜の下地金属との間に電圧を印加して流れる電流波形を検出し、測定された電流波形と印加電圧波形とから塗装膜インピーダンスを算出して塗装膜の劣化状態を診断する塗膜劣化診断装置であって、所定のサンプリング周期でサンプル化した単一周波数の電圧及び周波数、振幅、位相の異なる複数の電圧を振幅が高くなりすぎないように各電圧の振幅と位相を調整して合成した電圧を含む複数の印加電圧波形データを記憶しておき、マンマシンインターフェースを介してその中の一つの電圧波形データの選択と、該データの前記サンプリング周期とは異なる周期の時分割出力周期を指定できるようにし、測定時には選択された印加電圧波形データを指定された時分割出力周期で時分割出力することを特徴とする塗膜劣化診断装置。
  2. 請求項1記載の塗膜劣化診断装置であって、印加電圧波形データの各サンプル値をD/A変換器に送ってD/A変換を開始させた後、所定時間遅れて塗装膜電流のA/D変換を開始させる塗膜劣化診断装置。
  3. 請求項記載の塗膜劣化診断装置であって、少なくとも印加アナログ電圧発生用D/A変換器と電流波形検出用A/D変換器とを含むセンサ部と、少なくとも印加電圧波形データ記憶部とディジタル波形データ発生手段とを含む制御部とを通信回線で接続し、センサ部では制御部から送られた波形データを受信後直ちにD/A変換するとともに、波形データ受信タイミングから所定時間遅れて塗膜電流のA/D変換を開始させる塗膜劣化診断装置。
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