JP4199983B2 - アルミニウム合金自動車パネルの成形方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウム合金自動車パネルの成形方法(以下、アルミニウムをAlとも言う)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、自動車のフード、フェンダー、ドア、ルーフ、トランクリッドなどのパネル構造体の、アウタパネル (外板) やインナパネル( 内板) 等のパネルには、薄肉でかつ高強度Al合金パネル材として、成形性に優れたAl-Mg 系の5000系や、成形性や焼付硬化性に優れたAl-Mg-Si系の 6000 系アルミニウム合金板材(圧延板材)が使用され始めている。
【0003】
自動車などのアウタパネルやインナパネルなどのパネルは、周知の通り、アルミニウム合金板のプレス成形によって最終パネル形状とされる。また、自動車などのアウタパネルにおいてこの自動車のアウタパネルは、周知の通り、同一アルミニウム合金板に対し、プレス成形における張出成形時や曲げ成形などの成形加工が複合して行われて製作される。例えば、フードやドアなどのアウタパネルでは、張出などのプレス成形によって、アウタパネルとしての成形品形状となされ、次いで、このアウタパネル周縁部のフラットヘムなどのヘム (ヘミング) 加工によって、インナパネルとの接合が行われ、パネル構造体とされる。
【0004】
近年、これら自動車などの車体の設計やデザイン上から、パネル成形品形状も大型化および形状が複雑化し、設計形状として、曲面形状部分を多く有するパネル成形品が求められる。
【0005】
例えば、図1(a)に、自動車アウタパネルなど、大きく湾曲した側壁部やフランジ部を有するパネル成形品の一例を斜視図で示す。図1(a)において、パネル成形品1 は比較的大きな高さh の製品部2 と、パネル成形品の一部となるか、後に選択的に切り捨てられる幅w のフランジ部 (余肉部)4からなる。そして、特徴的には、製品側壁部3 に大きく円弧状に湾曲した湾曲側壁部3a、3bや湾曲フランジ部4a、4bなどの湾曲部分を有している。
【0006】
アルミニウム合金板は鋼板に比して、これら湾曲部分など、成形が難しい部分の成形性が劣る。このため、このような湾曲部分を有するパネル成形品をアルミニウム合金板から張出などのプレス成形を成形して製作する場合、前記湾曲部分に割れX が生じやすくなる。この湾曲部分の割れの傾向は、湾曲部分の湾曲度が大きくなった場合に特に強くなる。これは、前記湾曲部分のアルミニウム合金材料に部分的に伸びフランジ変形が生じるためである。
【0007】
即ち、前記フランジ湾曲部4a、4bから製品湾曲部3a、3bまでの変形は、他の部位の2 次元的な変形と異なり、扇状部分 (斜線で示す) の3 次元的な変形である伸びフランジ変形となる。この伸びフランジ変形の場合、フランジ湾曲部4a、4bが製品湾曲部3a、3b側へ矢印a 方向に移動するに従い、フランジ湾曲部の端部4cが矢印a と直角方向である矢印b の方向へと伸びることとなる。パネル成形品の側壁部やフランジ部の湾曲度や規模が大きいほど、フランジ湾曲端部4cの移動量も大きくなるため、伸びフランジ変形も大きくなる。この結果、この部分の材料にかかる歪み量が増し、伸びフランジ破断である割れX が生じ易くなる。前記した、アルミニウム合金パネル成形品形状がより大型化および複雑化し、側壁部やフランジ部の湾曲度や規模が大きくなった場合に、フランジ端部割れ発生の傾向が特に強まるのはこのためである。
【0008】
このような割れに対し、アルミニウム合金材料側での伸びフランジ性の改良によって割れを防止するのは限界がある。また、この割れを防止するために、ドロービード9 を用いたり、ブランクホルダーによるしわ押さえ力を増やし、材料の金型への流入を抑制するような一般的な成形条件側での改良にも限界がある。
【0009】
それゆえ、現状では、特にアルミニウム合金からなるパネル材料では、成形できるパネル成形品の前記湾曲部分の湾曲度や規模に大きな制約がある。このため強度を犠牲にした (強度の低い) 成形性の良い材料とするか、パネル部材の方を設計変更するしかないのが実情であった。
【0010】
また、アルミニウム合金自動車パネルのプレス成形では、これ以外にも、このような伸びフランジ変形や縮みフランジ変形となる成形部分が多数生じる。例えば、プレス成形されたパネルに貫通穴を設けた上で、図3(a)、(b) に断面図を示すように、この貫通穴22を更に穴拡げ加工により押し広げ、アルミニウム合金パネル21に、一定の高さh を持つフランジ( 張出部、ボス部)23 を形成する場合がある。このフランジ23を含めた貫通穴22があれば、ワッシャなどを介して、ボルトなどの他の部品乃至締結治具の取り付けが容易となる。また、一定の高さh を持つフランジ23は、ボルトなどの締結治具を取り付ける際に、これらの軸のずれを防止するガイドの役割を果たす。また、フランジ23による接合面積や接合長さの増加によって、アルミニウム合金パネル21が薄板であっても、前記ボルトなどの軸 (部材) の固定に必要な長さが確保され、他の部品乃至締結治具の固定や接合強度も確保しうる。これらの効果はフランジ23の高さh が高いほど大きい。更に、上記利点以外に、他の部品乃至締結治具の取り付け如何に関わらず、このフランジ23を所定数設けることによって、平板状のアルミニウム合金パネルに比して、アルミニウム合金パネル21の剛性を高めることが可能である。
【0011】
このような一定の高さを持つフランジ23を、アルミニウム合金パネルの貫通穴22に形成するためには、先ず、図4(a)に示す打抜き加工などによって貫通穴22を設けた後に、貫通穴22を穴拡げ加工する。しかし、この穴拡げ加工は、前記伸びフランジ変形を伴うプレス加工であり、このようなプレス加工においては、伸びフランジ変形により、この変形部分の材料にかかる歪み量が増す。このため、フランジ23の縁 (端面) を起点に板厚を貫通するような割れが生じやすくなる。この割れはフランジ23の高さh が高くなるほど生じ易い。また、アルミニウム合金パネルが高強度で、かつ板厚が5mm 以下の薄板ほど著しい。この割れが生じた場合、加工されたアルミニウム合金板パネルが構造用などとして使用できなくなる致命的な問題を生じる。
【0012】
一方、パネルなどの新しい成形技術として、電磁成形技術の適用が提案されている。電磁成形自体は、高電圧で蓄荷電されている電気エネルギー (電荷) を、通電コイルに瞬時に投入し (放電させ) 、極めて短時間の強力な磁場を形成することにより、この磁場内におかれたワーク (被加工物、金属部材) が磁場の反発力 (フレミングの左手の法則に従ったLorentz 力) によって強い拡張力や収縮力を受けて、高速で塑性変形することを利用して、ワークを所定形状に、塑性加工乃至成形する技術である。
【0013】
この電磁成形は、導電性が高く、かつ渦電流が発生しやすい金属の板、管などの金属部材を成形対象とし、板の成形、管の拡管、管の縮管、管の端部などの成形に有望とされて来た。特にアルミニウム合金は、電気の良導体であり、この電磁成形に適した材料とされる。
【0014】
アルミニウム合金板の成形適用の具体例として、アルミニウム合金缶胴 (板) の成形への使用が提案されている(例えば、特許文献1参照) 。また、アルミニウム合金コアプレート (板) へのリブ( 突起) 成形への使用も提案されている(例えば、特許文献2参照) 。また、より具体的な板の電磁成形方法として、成形する板部分に対応した形状を有するコイルを板の表面側に近接させて設ける一方、金型成形面を板の反対表面側に近接させて設け、前記コイルに電気エネルギーを投入して、成形する板部分を変形させるとともに、変形した板表面の一方側のみを前記金型成形面に押圧して、所定の曲面形状に成形するアルミニウム合金板の電磁成形技術が提案されている (非特許文献1参照) 。
【0015】
【特許文献1】
特開平9-29370 号公報(1〜2 頁、第1 図)
【特許文献2】
特開1998-156461 号公報(1〜2 頁、第1 図)
【非特許文献1】
佐野利男他4 名、" 電磁力を利用する塑性加工の研究" 、「機械技術研究所報告第150 号」、1990年3 月、機械技術研究所発行 (第3 章 板の成形、第7 〜28頁)
【0016】
この電磁成形方法が、アルミニウム合金パネルの前記湾曲部分の張出成形など、伸びフランジ変形や縮みフランジ変形となる成形部分に適用できれば、前記割れや形状不良などの成形不良発生の諸問題が解決できる。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、自動車アルミニウム合金パネルの電磁成形は今だ実用化されていない。これは、アルミニウム合金板の電磁成形においては、管の拡管や縮管など他の形状の成形に比して、成形が難しいことによる。また、自動車アルミニウム合金パネルの電磁成形においては、アルミニウム合金板の成形される部分の面積が大きい (広い) ことによる。アルミニウム合金板の成形される部分の面積が大きいほど、この成形される部分に対応する大きさが必要なコイルの大きさも増して、コイルの製作自体が困難かつ高価となる問題もある。このため、これまで、自動車アルミニウム合金パネルの成形に対して、電磁成形は適用されていなかった。
【0018】
本発明はこの様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、アルミニウム合金自動車パネルの、プレス成形される際に伸びフランジ変形または縮みフランジ変形となる形状部分の成形が可能な、アルミニウム合金自動車パネルの成形方法を提供しようとするものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上記目的達成のための本発明アルミニウム合金自動車パネルの成形方法の要旨は、プレス成形によってアルミニウム合金自動車パネルを成形する方法であって、プレス成形される際に伸びフランジ変形または縮みフランジ変形となる、円弧状に湾曲した側壁部とフランジ部との形状部分か、あるいは貫通穴のフランジ形状部分を除いて、アルミニウム合金板をプレス成形した後、前記形状部分の成形を電磁成形により行い、この電磁成形の際に、前記形状部分に対応した形状を有するコイルを、当該成形部分の一方の表面に近接させて設けるとともに、金型成形面を前記パネルの当該成形部分の他方の表面に近接させて設け、前記コイルに電気エネルギーを投入して、前記パネルの当該成形部分を変形させるとともに、この変形したパネル成形部分を前記金型成形面に押圧して、前記形状部分の成形を行うことである。
【0020】
本発明では、通常のプレス成形の際に伸びフランジ変形または縮みフランジ変形となる曲面形状などの形状部分を選択し、この限られた形状部分の仕上げ成形または予備成形を電磁成形により行う。他のプレス成形が容易なパネル部分は、基本的に、通常のプレス成形によって成形する。このように、電磁成形と通常のプレス成形とを組み合わせて行うことによって、電磁成形されるパネル部分の面積や大きさを限定し、また、成形されるアウタパネル部分に対応するコイルの大きさも限定して、電磁成形やコイルの製作を容易とする。これによって、アルミニウム合金自動車パネルへの電磁成形の適用と、前記形状部分の成形を可能とする。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に、図面を用いて、本発明アルミニウム合金自動車パネルの成形方法の実施態様を説明する。
【0022】
前記図1(a)のアウタパネル成形品を、プレス成形後に電磁成形して成形する方法を図2(a)、(b) 、(c) に順に示す。先ず、図2(a)は電磁成形に先立つ通常のプレス成形方法を示し、金型を含むプレス成形装置の断面図である。図2(a)のプレス成形では、図1(a)におけるパネル成形品1 の大きく円弧状に湾曲した湾曲側壁部3a、3bや湾曲フランジ部4a、4bなどの湾曲部分を除き、図1(b)に斜視図で示す、略HAT 型の形状のプレ成形品にプレス成形する。図1(b)において、円で囲った部分が、後述する電磁成形によって成形する、円弧状に湾曲した側壁部3a、3bに相当する部分である。
【0023】
図2(a)において、金型 (ダイス)6は、前記パネル成形品1 の製品部2 の形成部6aと、製品部周囲のフランジ部4 を形成するダイフェース6bを有し、ダイフェース6bの面にドロービード部9a、9bを設けている。
【0024】
そして、アルミニウム合金板からなるパネル材料 (ブランク)5は、成形の際にブランクホルダー8 によりしわ押さえ力を付与され、また、ドロービード部9a、9bにより材料の通過抵抗を付与されながら、製品形成部6a内に流入し、図1(b)に示す略HAT 型のプレ成形品がプレス成形される。
【0025】
次に、図2(b)、(c) に、図1(a)のアウタパネル成形品の円弧状湾曲側壁部3a、3bを電磁成形により部分的に成形する場合を示す。先ず、図2(b)に部分的に拡大して示すように、パネル材料5 の前記円弧状湾曲側壁部に相当する部分3aに対して、円弧状湾曲形状を有する成形面7aを持つパンチ7 を内方から近接させて設ける。
【0026】
次いで、図2(c)に示すように、前記円弧状湾曲側壁部に相当する部分3aに対応した形状を有する電磁成形用コイル10a を、前記円弧状湾曲側壁部に相当する部分3aの外方に近接させて設ける。そして、電磁成形用コイル10a に電気エネルギーを投入して、矢印の方向にパネル材料5 の成形部分を変形させるとともに、この変形したパネル成形部分をパンチ7 の成形面7aに押圧して、アウタパネル成形品の円弧状湾曲側壁部3a、3bの成形を行う。なお、もう一方の円弧状湾曲側壁部に相当する部分3bも同様に電磁成形する。
【0027】
このようなプレス成形と組み合わせた電磁成形によれば、前記円弧状湾曲側壁部に、従来のプレス成形のような低速の変形ではなく、極めて高速の伸びフランジ変形が生じるため、前記円弧状湾曲側壁部に割れX が生じることがない。また、パンチ7 の成形面7aなどの金型を用いて成形するため、形状精度も高い。しかも、プレス成形品全体を電磁成形する訳ではなく、部分的な電磁成形で済むので、この成形される部分に対応する大きさが必要なコイルの大きさも比較的小さくて済み、コイルの製作自体が容易で、高い寿命かつ安価となる。
【0028】
ここにおいて、図2(c)に示すコイル10a は、成形するパネル部分に対応した面積 (大きさ) と略矩形の形状を有している。コイル10a の面積が成形するパネル部分に対して小さい場合には、成形品設計形状に対するアウタパネル成形品の形状精度がでない。また、逆に大きすぎる場合にも、同じく、成形品設計形状に対するアウタパネル成形品の形状精度がでず、コイルの製作も困難となりコイル寿命も低下する。
【0029】
コイル10a は図2(c)に示すように、パネル5 の表面側に近接させて設ける。コイル10a とパネル5 の表面との距離 (間隔) が遠過ぎる (大きい) と、コイル10a に投入される電気エネルギーが、効率よくパネル部分の成形 (変形) に活用されずに失われ、成形品設計形状に対するパネル成形品の形状精度がでない。
【0030】
一方、金型となるパンチ7 の成形面7aも、パネル5 の反対の表面側に近接させて設ける。この成形面7aとパネル5 の表面との距離 (間隔) が遠過ぎる (大きい) と、コイル10a への電気エネルギーの投入によって、変形したパネル部分が金型の成形面 (パンチ7 の成形面7a) に大きな押圧力で押圧されない。この結果、成形品設計形状に対するパネル成形品の形状精度がでない。
【0031】
また、大きな押圧力で押圧されない結果、押圧された成形パネル部分が加工硬化しない。この結果、成形パネル部分の強度を増して、成形パネル部分の耐デント性を向上させることができない。この加工硬化機能はパネルに対する耐デント性の要求特性が高いほど重要となる。
【0032】
本発明における電磁成形において、一回のみの電磁成形によって、成形品設計形状に対するパネル成形品の形状精度を向上させるとともに、成形部分を加工硬化させるためには、パネル部分の大きさ、発生板厚減少量、材料特性あるいは投入電気エネルギー量などの成形条件によって異なるが、コイルへの投入電気エネルギー量は、7.3kJ 以上とすることが好ましい。7.3 kJ未満では、1 回当たりのコイルへの投入電気エネルギー量が小さいため、寸法精度や形状精度を満足するようなパネル成形品が成形できない。また成形されたパネル成形品部分を加工硬化させ、フランジの板厚減少による強度低下分を補償できない可能性が高くなる。
【0033】
前記した機械技術研究所報告第150 号に記載の板の電磁成形が困難であったのは、この一回当たりの投入電気エネルギー量が、コイルなどの制約もあって、せいぜい7.2kJ 以下程度の低いレベルであったことに大きく起因する。
【0034】
また、本発明における一連の電磁成形は、成形金属部材の軟化を防止し、加工硬化を促進するために、板素材が常温の状態にて (電磁成形を常温下で) 行われることが好ましい。ただ、常温とは、室温を含め、軟化しない程度の温度上昇を許容するものとする。なお、前記形状精度が出た上で、前記加工硬化量が確保できるのであれば、材料や部材形状に応じて、高温や極低温までの低温下で電磁成形することを許容する。
【0035】
本発明で成形に用いるアルミニウム合金は、通常、この種構造材などの用途に汎用される、AA乃至JIS 規格に規定された5000系、6000系等のアルミニウム合金が、高成形性や高強度を兼備している点で好ましい。Al-Mg 系の5000系アルミニウム合金は、電磁成形時の加工硬化量が大きく、高成形性である点で好ましい。また、Al-Mg-Si系の6000系アルミニウム合金は人工時効硬化性 (ベークハード性) を備えており、低耐力状態で成形しやすくし、成形後に人工時効硬化処理で高耐力化できるなどの点で好ましい。勿論、これ以外のアルミニウム合金でも、電磁成形可能であり、用途と要求特性に応じて選択可能である。
【0036】
ここで、電磁成形に使用するコイルは、好ましくは、図2(c)に断面で示すコイル10のように、パネル成形部分形状に対応した平面的な形状を有し、樹脂14などの絶縁物に埋設かつ平面的に巻回された、断面が正方形 (または矩形) をなした導体素線11と、導体素線11自体の外側に巻回された絶縁性物質12、導体素線11の外表面側に配置された絶縁性物質13とからなる。隣接する導体素線11間は隙間がないように密接し、絶縁層の厚みは均一とされている。また、素線表面は平行となるように巻回配置されている。これらの絶縁性物質は、ガラス繊維にエポキシ樹脂などを含浸させた繊維強化樹脂が好適に用いられる。
【0037】
このような繊維強化樹脂の使用と前記各絶縁物や、銅線などの導体素線の配置構成によって、導体素線周囲が補強され、コイルへの通電時における強い膨張力を受けた際にも、導体素線自体の変形や絶縁層の破損が軽減される。更に、導体素線は、隣接する導体素線との表面同士が平行になるように配置されているので、樹脂含浸時に無用な空孔が入り込んで絶縁性を損ねてしまう余地が無い。
【0038】
次に、パネルに対し、前記アルミニウム合金パネルの貫通穴にフランジを形成する方法について図4 を用いて説明する。パネルに貫通穴を設ける方法は、先ず、図4(a)に示す通常の打抜き加工によって行う。即ち、図4(a)にプレス加工金型の断面図を示すように、ダイス25とポンチ24および板押さえ26などの協働により、プレス成形後のアルミニウム合金パネル21にせん断 (剪断) 荷重を加えて孔開け加工し、所定径d(ポンチ24の径d)および所定個数の貫通穴22が設けられる。なお、打抜き加工される貫通穴22の径はポンチ24の径d となるが、他の構造部品の取り付けに必要な穴径によって定まる。また、貫通穴22の個数や間隔も、取り付けられる前記ボルトなどの他の構造部品 (締結治具を含む) の必要個数や間隔との関係で定まる。
【0039】
図4(a)において、c はダイス25の内径とポンチ24外径とのクリアランスである。この場合、クリアランスを、加工されるアルミニウム合金板の板厚の15〜25% の範囲、より厳密には20〜25% の範囲とすることが好ましくい。このクリアランスが小さ過ぎる、あるいは大き過ぎると、打抜き加工時に貫通穴22周囲部分に付与される歪みが増大する。また、クリアランスが大き過ぎる場合、打抜き加工時に貫通穴22の縁にバリのような形状不良部が生じ易い。
【0040】
更に、ダイス25のコーナー部の肩R ( 径) や、ポンチ24のコーナー部の肩R(径) などのプレス加工金型諸条件は、前記ダイスとポンチとのクリアランスの選択や貫通穴22の径d に応じて、打抜き加工可能な条件が適宜選択される。
【0041】
次に、図4(b)、(c) に示すように、貫通穴22を穴拡げ加工して、若干のフランジ23を形成する。この穴拡げ加工は、フランジ23を後述する電磁成形によって必要な高さh とするための予備成形である。したがって、この穴拡げ加工におけるフランジ23の高さは、前記した割れを生じないように低くするとともに、後述する電磁成形によって必要な高さh としやすい高さとする。なお、図4(b)のフランジ23はその上端部に、前記締結構造上必要な縮径部 (フランジ部)23aを有し、図4(c)のフランジ23は単なる直線状の上端部23b を有する。
【0042】
更に、これら穴拡げ加工された図4(b)のフランジと、図4(c)のフランジとを、図5 (a) 、 (b)に各々示すように、所定高さh のフランジ23に電磁成形する。このフランジ23の高さh は、取り付けられる前記ボルトなどの他の構造部品 (締結治具を含む) の必要案内長さや固定乃至接合に必要な長さ、あるいはアルミニウム合金パネルの必要剛性向上量によって定まる。
【0043】
図5 (a) 、 (b)に各々示すように、フランジ23に対応した例えば円形形状を有する電磁成形用コイル10b を、フランジ23内に近接させて設ける。そして、電磁成形用コイル10b に電気エネルギーを投入して、矢印の方向にパネル材料21の成形部分を変形させるとともに、この変形したパネル成形部分をダイス28の成形面28a に各々押圧して、フランジ23の成形を行い、所定高さh と形状とする。
【0044】
この際、電磁成形では、従来のような穴拡げ加工に比べ、フランジ変形部分の材料にかかる歪み速度が極めて大きい。この結果、フランジの縁 (端面) を起点に板厚を貫通するような割れは生じなくなる。しかも、穴拡げ加工全てを電磁成形にて行う訳ではなく、部分的な電磁成形で済むので、電磁成形一回当たりの投入電気エネルギー量が小さくて済み、コイルの製作自体が容易で、高い寿命かつ安価となる。
【0045】
また、本発明では、ヘム加工されるアウタパネルの周縁部 (輪郭部) 形状が、直線的な周縁部形状だけではなく、一定の曲率半径を有するような円弧状 (曲線状) 周縁部形状である場合にも、従来のヘム加工に代えて適用できる。即ち、円弧状周縁部形状部分では、ヘム加工の際に、伸びフランジ、あるいは縮みフランジとなって、予め設計乃至想定しているヘム加工後のヘム部の周縁部の外形輪郭線よりも、実際のヘム加工後のヘム部の周縁部の外形輪郭線の寸法が大きめ、あるいは小さめにズレ込むこととなり、本来の設計形状に対し、必然的に、R 部がシャープにならない、円弧状外形輪郭線の円弧形状がでない、などの形状精度がでないという問題がある。
【0046】
そして、このようなパネルにおけるヘム周縁部の外形輪郭線寸法のズレが生じた場合、パネルにおける他の直線部分の外形輪郭線とのズレが生じたり、自動車のフード、フェンダー、ドア、ルーフ、トランクリッドなどのパネル構造体の外形輪郭線の寸法精度が低下し、パネル構造体として、他のパネルやフレイムなどとの組み立てや接合などに大きな悪影響を及ぼす。
【0047】
これに対し、通常のヘム加工における、特に、伸びフランジ変形、あるいは縮みフランジ変形となるような、プリヘム工程あるいはダウンフランジ工程を、各々あるいは合わせて、電磁成形に置き換える。このようにすれば、プリヘム工程あるいはダウンフランジ工程における、パネル端部の90°あるいは135 °の折り曲げ変形が、伸びフランジ変形あるいは縮みフランジ変形とならず、パネル構造体の外形輪郭線の寸法精度が高くなる。そして、その後、従来乃至通常のフラットヘム工程やロープヘム工程によって更に180 °折り曲げ成形すれば良い。
【0048】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、プレス成形と電磁成形とを組み合わせることにより、プレス成形において伸びフランジ変形や縮みフランジ変形となって、成形不良が生じやすい形状部分を、成形不良が生じずに成形することができる。しかも、前記成形不良が生じやすい形状部分の部分的な電磁成形によって、電磁成形自体を実現可能とする効果も有する。また、通常では成形しにくい形状のパネルへのアルミニウム合金の成形を可能とするため、アルミニウム合金の用途を拡大できる意義も大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】パネルのプレス成形品を示し、(a) はプレス成形品、(b) は(a) のプレ成形品の各態様を示す斜視図である。
【図2】本発明の成形方法の態様を順に示し、(a) はプレス成形、(b) 、(c) は(a) のプレス成形品の電磁成形の各態様を示す断面図である。
【図3】 (a) 、(b) はパネルの穴拡げ加工成形品を各々示す断面図である。
【図4】本発明の成形方法の態様を順に示し、(a) は打抜き加工 (プレス成形) 、(b) 、(c) は穴拡げ加工 (プレス成形) の一態様を示す断面図である。
【図5】図4に続く、本発明の電磁成形の態様を示し、(a) は成形フランジの一態様、(b) は成形フランジの別の態様を示す断面図である。
【符号の説明】
1:パネル成形品、2:成形品部、3:縦壁部、4:フランジ部、
5:アルミニウム合金ブランク、6:金型、7:ポンチ、8:板押さえ、9:ビード、
10: 電磁コイル、11: 導体素線、12: 絶縁性物質、13: 絶縁性物質、14: 樹脂
21: アルミニウム合金パネル、22: 穴、23: フランジ、24: ポンチ、
25: ダイス、26: 板押さえ、27: ポンチ、28: フランジ

Claims (4)

  1. プレス成形によってアルミニウム合金自動車パネルを成形する方法であって、プレス成形される際に伸びフランジ変形または縮みフランジ変形となる、円弧状に湾曲した側壁部とフランジ部との形状部分か、あるいは貫通穴のフランジ形状部分を除いて、アルミニウム合金板をプレス成形した後、前記形状部分の成形を電磁成形により行い、この電磁成形の際に、前記形状部分に対応した形状を有するコイルを、当該成形部分の一方の表面に近接させて設けるとともに、金型成形面を前記パネルの当該成形部分の他方の表面に近接させて設け、前記コイルに電気エネルギーを投入して、前記パネルの当該成形部分を変形させるとともに、この変形したパネル成形部分を前記金型成形面に押圧して、前記形状部分の成形を行うことを特徴とするアルミニウム合金自動車パネルの成形方法。
  2. 前記電磁成形の際の投入電気エネルギーを7.3kJ 以上とする請求項1に記載のアルミニウム合金自動車パネルの成形方法。
  3. 前記アルミニウム合金がAl-Mg-Si系アルミニウム合金である請求項1または2に記載のアルミニウム合金自動車パネルの成形方法。
  4. 前記成形したパネル部分を加工硬化させてパネルの剛性を高めた請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金自動車パネルの成形方法。
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