JP4195632B2 - 静電吸着装置及びそれを用いた荷電粒子応用装置 - Google Patents

静電吸着装置及びそれを用いた荷電粒子応用装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体プロセスにおいて用いられる半導体製造技術に係り、特に、静電吸着装置を備えた電子ビーム描画装置、検査SEM等の荷電粒子応用技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、回路パターンの超微細化・高集積化が著しく進み、フォトマスク製作に用いられる電子ビーム描画技術においては、高精度化のみならず、高速化が強く求められるようになってきた。例えば、次世代リソグラフィ技術の候補である、電子ビームを用いてウェハ上に直接描画する直描方式においては、描画速度がデバイス量産の為の第一の課題となっている。
【0003】
この描画速度を向上するための方式として、ステージを移動させながら描画するステージ移動方式がある。この方式を用いることにより、ステージの移動時間を短縮できるため、高スループットを実現できる。また、電子ビームの偏向量を小さくできるため、高解像度を実現することが出来る。
【0004】
しかし、描画中にステージを連続的に移動させると、ステージを構成する金属部品が対物レンズの漏洩磁場の中を移動することになるため、金属部品内には磁束の変化に逆らうために渦電流が発生する。この渦電流による磁場が電子ビームの位置ずれを引き起こし、描画パターンの位置精度に悪影響を与える。
【0005】
一方、ステージを絶縁物のみで構成すると、散乱電子が表面にたまり、これによる電場の乱れが、電子ビームの軌道に影響を与えるため、ステージを構成する部品の多くは金属製であるか、またはメッキなどの表面処理が施されている。この他にも、試料等をステージ上に固定するための静電吸着装置においては、金属製の吸着用電極が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
ここで、静電吸着用電極について、図4の断面図を用いて説明する。401は試料であるウェハ、402はアルミナを主材とした誘電体、403は誘電体402に埋設した吸着用電極である。吸着用電極403はスイッチ404を介して直流電源405の(+)側と接続されている。ウェハ401はアースピン406を介して接地電位に保たれている。アースピン406はばね407およびベースパレット408を介して設置されており、また、上記ばね407の力でウェハ401の上に押し付けられている。即ち、ウェハ401、吸着用電極403を対の電極として、この対の電極間の誘電体402に静電吸着用の直流電圧を印加して、誘電体に誘電分極による電荷を発生させることにより静電吸着力を確保している。
【0007】
上述のようなステージ移動方式を実施するに際しては、金属製または導電性を持った部品に流れる渦電流が電子ビームの軌道に与える影響に注意を払う必要が出てきている。
【0008】
これに対して、磁界検出器を用いて、渦電流による磁場を計測し、電子ビームの偏向補正を行う方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この方法は、渦電流による磁場が精度よく検出でき、且つ、検出された磁界の大きさと渦電流によるビーム位置ずれの線形性が良い場合には有効である。
【0009】
【特許文献1】
特開平11−67884号公報
【特許文献2】
特開平6−20932号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、ステージ移動方式においては、描画中に対物レンズの漏洩磁場中を金属部品が移動することになるため、金属部品に流れる渦電流が電子ビームの軌道に影響を与える。特に、電子ビームに大きな影響を与える金属部品が静電吸着装置の吸着用電極である。
【0011】
しかし、上述の従来の静電吸着装置においては、渦電流に対する影響について考慮されていない。
【0012】
また、上述した磁場検出と偏向補正によって解決する方法では、ステージ上の金属部品の分布の非一様性から、磁界の大きさと渦電流によるビーム位置ずれは線形性が悪く、また、電子ビームの偏向補正を行うに足る精度の磁界検出装置は入手が難しい。さらに、試料位置付近には反射電子検出器、Zセンサーなどが設置されている場合が多いので、磁界検出器を設置するスペースがない場合が多く、実現が困難である。
【0013】
特に近年、高い解像性を持たせるとともに電子ビームの大電流化を実現するためにクーロン力を低減するために、対物レンズが作る磁場を強め、短焦点化が図られている。さらに、求められるスループットの高さから、ステージの高速化も進められている。これらは共に、ステージを構成する金属部品に流れる渦電流を大きくする方向であり、渦電流によるビーム位置ずれを低減する方法が求められている。
【0014】
吸着用電極を薄くすることによって、渦電流は低減できる方向にはあるが、電極としての機能および厚さの一様性の問題から、現状以上に薄くすることは困難である。
【0015】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、吸着用電極に流れる渦電流が電子ビーム等の荷電粒子ビームに与える影響を低減し、パターン位置精度を向上させ得る静電吸着装置を用いた荷電粒子応用技術を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記課題をより明確にするために、まず、電子ビーム描画装置を例にとって、その構成を説明し、金属部品の形状と電子ビームの位置ずれの関係について考察する。
【0017】
図1は、電子ビーム描画装置の模式図である。
【0018】
熱電子源101から放出された電子ビームは、アノード電極102に向かって加速された後、第一マスク103を直接照射する。第一マスクには単一の矩形開口が設けられており、照射された電子ビームにより開口像が得られる。第一マスクの開口像は、成形レンズ104により第二マスク106上に形成される。第二マスクには、可変成形照射法を行うための矩形開口および一括図形照射法を行うための成形開口が設けられている。第二マスク上の結像位置はビーム成形用偏向器105により制御され、これにより電子ビームの形状および面積が決定される。第二マスクの開口を通過した電子ビームは、縮小レンズ107と対物レンズ108により試料であるウェハ110上に投影される。ウェハ110に対向する対物レンズ108の開口径は、ボア径(L)113と呼ばれる。また、対物レンズ108の下面からウェハ110までの距離は、ワーキングディスタンス114と呼ばれる。対物レンズ内には偏向器109が設置されており、この偏向器により試料上における電子ビームの結像位置が決められる。
【0019】
ウェハ110は、パレット111を介してステージ112上に設置されている。パレット111は、静電吸着装置を兼ねており、静電力によりウェハ110をパレット111上に固定する。さらにパレット111をステージ112上に固定することにより、描画中、ウェハ110はステージ112と共に高精度且つ高速で移動することが出来る。ステージ112は、xおよびy方向に高速かつ高精度に動かすため、複数段の構成となっており、多数の部品で構成される。その中には、導電性を持った部品も多数含まれるから、ステージ移動に伴う渦電流が電子ビームの軌道に与える影響に注意する必要がある。
【0020】
対物レンズは、その目的上、ビーム軸方向(z方向)の成分が大きな磁場を発生するから、ステージが移動する時に流れる渦電流は、ビーム軸に対して垂直な面内に流れる成分が最も大きい。したがって、渦電流を小さく抑えるためには、体積抵抗率の大きな材料を用いる他、ビーム軸方向に薄く作ることが重要である。構造上z方向の厚みが大きくなくてはいけない部品の場合、例えばセラミックなどの体積抵抗率の高い材質で製作し、散乱電子によるチャージアップ防止のため、表面にのみメッキ処理により導電性をもたせるなどすればよい。
【0021】
しかし、z方向の厚みを出来るだけ薄くしても、平面方向、即ち、ビーム軸に対して垂直な方向に大きな部品の場合、内部に流れる渦電流が電子ビームに深刻な影響を及ぼす場合がある。これについて、図2および図3を用いて説明する。
【0022】
図2(a)は、対物レンズの漏洩磁場の試料面付近の分布を示したグラフである。横軸はビーム軸からの距離、縦軸は磁場のビーム軸成分の大きさを示す。一方、図2(b)は、図2(a)のグラフをビーム軸からの距離で微分したものであり、試料面近くを一定速度で横切る金属部品の内部の磁束の変化率を示す。即ち、金属内部には、図2(b)のグラフの値と比例した大きさの渦電流が流れる。
【0023】
図2(b)を詳細に見ると、まず、対物レンズの磁場が最も大きいビーム軸上(x=0)では磁束の変化率は0である。これは、対物レンズの円筒対称性により試料面上の対物レンズの漏洩磁場がビーム軸からの距離について偶関数であることに起因する。一方、対物レンズの漏洩磁場が急峻に小さくなるx=±lで、磁束の変化率は最も大きくなる。したがって、金属部品がx=±lを横切る時、内部に発生する渦電流が最も大きくなる。
【0024】
lを決定する要素は、対物レンズの形状や励磁、および対物レンズと金属部品の相対的な位置により決まる値であるが、対物レンズに近い試料面およびパレット付近においては、対物レンズのボア径(L)の半分、即ち、l=L/2で近似できる。
【0025】
図3は、金属部品がX方向に移動しながら試料面付近を横切った時、渦電流が流れる様子をビーム軸方向から描いたものである。305は紙面に対して垂直な電子ビーム軸を示す。ステージの移動方向は、図中に矢印で示した。
【0026】
図中点線で示した領域301および302は、図2(b)のグラフの極大と極小部に対応し、大きな渦電流を発生する領域を示す。即ち、ビーム軸から見て、移動方向の前後にそれぞれ距離lだけ離れて、大きな渦電流の発生源がある。
【0027】
まず、図3(a)を用いて、面積の小さな金属部品303aについて説明する。領域301または302を通過し、内部に発生する渦電流304aが大きくなる時、金属部品303aがビーム軸305上に引っかからないため、ビーム軸上には渦電流は流れない。したがって、渦電流による磁場は電子ビームに大きな影響を与えない。
【0028】
次に、図3(b)を用いて、面積の大きな金属部品303bについて説明する。領域301または302を通過し、内部に発生する渦電流304bが大きくなる時、金属部品303bはビーム軸305上に引っかかる。渦電流は金属部品全体に広がるように流れるため、ビーム軸上、即ち電子ビームの真下に渦電流が流れることになる。したがって、渦電流による磁場が電子ビームに大きな影響を与える。
【0029】
つまり、大きな渦電流を発生する領域とビーム軸をまたがるような、より具体的には一辺がl≒L/2以上の金属部品においては、金属部品内に流れる渦電流が電子ビームに大きな影響を与えると言える。このような部品の代表的な例が静電吸着装置の吸着用電極である。
【0030】
この静電吸着装置は、試料が所定の位置からずれないよう試料保持を行う機能のほか、成膜等のプロセスを経て数十μmもの凸型若しくは凹型に沿った形状になっているウェハの反りを平坦な吸着面に強制する機能を持つ。即ち、シリコンウェハの全体を均一に吸着することが求められるため、電極はシリコンウェハのほぼ全域に対極して埋設されている必要がある。
【0031】
言い換えると、電極はシリコンウェハとほぼ同面積である必要がある。通常、対物レンズのボア径はシリコンウェハより小さく、したがって、静電吸着装置は大きな渦電流を発生する領域とビーム軸をまたがる程度以上に大きい。
【0032】
ステージを構成する部品の中で、特に吸着用電極に流れる渦電流が電子ビームに最も大きな影響を与えるのは、以上のような理由による。
【0033】
そこで、上述のような課題を解決するために、本発明では、吸着用電極の内部において大きな渦電流を発生する領域と電子ビーム軸との間に、不導体部(例えば、スリット)を設ける。かつ、吸着用電極を全体にわたって同一電位に保てるよう、吸着用電極内を電気的に切れ目なく構成する。
【0034】
不導体部が渦電流発生位置と電子ビーム軸を電気的に遮断するため、渦電流が電子ビーム軸上に到達しない。これにより、渦電流による電子ビームの軌道変化を低減することができる。
【0035】
また、本発明では、上記吸着用電極に長孔状のスリットを設けることにより上記不導体を形成する。
【0036】
渦電流が電子ビーム軸に到達するのを効果的に防ぐだけでなく、スリットを十分に細くすることにより、吸着用電極内の不導体部が占める割合を小さくすることが出来るため、スリットを設けない場合に比べても、吸着力の低下を招かない。
【0037】
また、本発明では、大きな渦電流を発生する領域とビーム軸の距離が対物ボア径の半分で近似されることを利用し、上記吸着用電極に設ける不導体部の間隔を対物レンズのボア径の半分未満に構成する。
【0038】
これにより、渦電流が電子ビーム軸に到達するのを効果的に防ぐことが出来る。
【0039】
また、本発明では、大きな渦電流を発生する領域が、ビーム軸に対してステージの移動方向の前後であることを利用し、描画中におけるステージの移動方向が一定である方式の電子ビーム描画装置において、ステージの移動方向に対して概略垂直な長孔状の不導体部を上記吸着用電極に設ける。
【0040】
これにより、簡単かつ効果的に渦電流が電子ビーム軸に到達するのを防ぐことが出来る。
【0041】
また、本発明では、二重螺旋状の不導体部を上記吸着用電極に設ける。
【0042】
これにより、ステージの移動方向が一定ではない方式の電子ビーム描画装置においても、渦電流が電子ビーム軸に到達するのを効果的に防ぐことが出来る。
【0043】
また、本発明では、吸着用電極を複数のセグメントに分割し、その各々に同一電位を与えるよう構成する。
【0044】
これにより、ステージの移動方向が一定ではない場合にも、渦電流が電子ビーム軸に到達するのを効果的に防ぐことが出来る。また、全てのセグメントに同一電位に与えることによって、静電吸着用電極が作る電場による電子ビームの軌道の変化を防ぐことが出来る。
【0045】
以下、本発明の代表的な構成例を述べる。
【0046】
(1)誘電体からなる試料保持部材と、前記試料保持部材上に搭載された試料を接地する接地電極と、前記誘電体を挟んで前記接地電極に対向して設けられた吸着用電極とを備え、前記接地電極と前記吸着用電極との間に静電力を発生させ、前記静電力により前記試料を前記保持部材に吸着する静電吸着装置において、発生した渦電流を遮断するための不導体部を前記吸着用電極内に設け、かつ、前記吸着用電極を全体にわたって同一電位に保つよう構成したことを特徴とする静電吸着装置。
【0047】
(2)誘電体からなる試料保持部材と、前記試料保持部材上に搭載された試料を接地する接地電極と、前記誘電体を挟んで前記接地電極に対向して設けられた吸着用電極とを備え、前記接地電極と前記吸着用電極との間に静電力を発生させ、前記静電力により前記試料を前記保持部材に吸着する静電吸着装置において、前記吸着用電極を、電気的に絶縁された複数のセグメントに分割して構成し、かつ、前記複数のセグメントの全てに同一電位を供給する手段を設けてなることを特徴とする静電吸着装置。
【0048】
(3)荷電粒子源と、前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームを試料上に収束させる電磁レンズと、前記荷電粒子ビームによる試料処理中に移動可能なステージと、前記ステージ上に、誘電体からなる試料保持部材上に搭載された前記試料を接地する接地電極と前記誘電体を挟んで前記接地電極に対向する吸着用電極との間に静電力を発生させ、前記静電力により前記試料を前記保持部材に吸着する静電吸着装置とを有し、かつ、前記静電吸着装置は、前記吸着用電極が前記電磁レンズの漏洩磁場内を移動する際に前記吸着用電極内において渦電流が発生する位置と、前記吸着用電極内において前記荷電粒子ビームの収束位置から最も近い位置との間に渦電流遮断用の不導体部と、前記吸着用電極を全体にわたって同一電位に保つ手段とを含んでなり、前記渦電流が荷電粒子ビーム行路上における磁場に与える影響を低減するよう構成したことを特徴とする荷電粒子応用装置。
【0049】
(4)荷電粒子源と、前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームを試料上に収束させる電磁レンズと、前記荷電粒子ビームによる試料処理中に移動可能なステージと、前記ステージ上に、誘電体からなる試料保持部材上に搭載された前記試料を接地する接地電極と前記誘電体を挟んで前記接地電極に対向する吸着用電極との間に静電力を発生させ、前記静電力により前記試料を前記保持部材に吸着する静電吸着装置とを有し、前記吸着用電極を、電気的に絶縁された複数のセグメントに分割して構成し、かつ、前記複数のセグメントの全てに同一電位を供給する手段を設けてなることを特徴とする荷電粒子応用装置。
【0050】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。
【0051】
(実施例1)
本発明の第1の実施例である電子ビームウェハ描画装置の全体構成について説明する。
【0052】
本発明の電子ビームウェハ描画装置は、高スループット実現のため、ステージを移動させながら描画するステージ連続移動方式をとる。最大で毎秒100mmの速度で移動するステージの上にはパレットが載置され、パレットに組み込まれた静電吸着装置により、試料であるウェハがステージ上に固定される。
ウェハ上には対物レンズにより収束された電子ビームが照射される。対物レンズはボア径が80mmの電磁レンズであり、高精度実現のために、50ガウスもの磁場が対物レンズから試料上に漏洩している。
【0053】
図5の(a)は、本発明による吸着用電極を、平面方向(電子ビーム軸方向)から見た形状を示す。外形は、試料であるウェハの形状に対応して、概略円形である。図中、501は、静電吸着用電極501であり、502は、電極のない部分、即ちスリットであり、ウェハ面上に2次元的に配列されている。静電吸着用電極501は、誘電体に埋設されているから、スリット部は誘電体で埋められ、不導体となっている。
【0054】
以下に、本発明による静電吸着用電極に設けられるスリットの特徴について述べる。
【0055】
(1)ビーム軸と渦電流の発生する位置の距離は、対物レンズのボア径の約半分である。したがって、対物レンズのボア径(L)の半分以下のピッチでスリットを切れば、ステージの位置によらず、渦電流発生位置とビーム軸の間の経路が遮断され、発生した渦電流がビーム軸上に到達しない。本実施例においては、描画装置の対物レンズのボア径が80mmであるため、スリットのピッチは40mm未満である必要がある。そこで、本実施例においては、スリットのピッチを35mmとした。
【0056】
(2)静電吸着用電極として機能させるためには、電極の全ての部分に吸着用の直流電圧が印加されていなければならない。したがって、スリットにより電極の他の部分から完全に分断される部分があってはならない。
【0057】
(3)スリットの形状・配置は、渦電流発生位置とビーム軸の間の経路が遮断されれば、図5の(a)に示すような構成に限定されない。例えば、図5の(b)に示すように、X方向、Y方向に長さの異なるスリットを組み合わせてもよい。また、図5の(c)に示すように、斜めにスリットを設けてもよい。スリットの形状も直線に限らず、図5の(d)に示すようなL字形状、図5の(e)に示すような十字形状でもよいし、曲線を用いても構わない。
【0058】
(4)スリットの目的は、渦電流発生位置とビーム軸の間の経路を遮断するために静電吸着用電極を細かく区切ることである。したがって、図6の(a)に示すように、スリット間の距離をL/2以上にすると、本発明の効果を充分に発揮することが出来ない。また、例えば、図6の(b)に示すような、ドット状の孔では、たとえその間隔がL/2よりも小さくても、渦電流発生位置とビーム軸の間の経路を遮断することにはならないため、有効ではない。
【0059】
(5)スリットの配置は必ずしも周期性を持っていなくても良い。例えば、図5の(e)に示すように、スリットをランダムに配置しても、渦電流発生位置とビーム軸の間の経路が遮断される構成になっていれば有効である。
【0060】
(6)渦電流によるビーム位置ずれは、スリットの面積とは直接は関係がない。したがって、図6の(c)に示すように、スリットの幅を広げても効果は高まらない。むしろ、吸着力が働かない領域であるスリットの面積を大きくすることは、吸着力の低下を招く。特に、図6の(d)に示すように、局所的に不導体部(スリット)の占める割合を大きくすると、吸着力に不均一性が生じる。その結果、ウェハの反りおよび歪みの原因となり、描画精度に悪影響を及ぼす。
【0061】
図5の(a)〜(e)に示すように、巨視的に見て、吸着用電極内におけるスリットの占める割合が均一であることが必要である。
【0062】
次に、静電吸着用電極の製作方法について述べる。
【0063】
本実施例においては、誘電体上にスリットに相当する部分をマスキングした上で、メッキ処理することにより電極を形成した。さらに、その上から誘電体を形成することにより、スリット部が形成された電極を誘電体中に埋設させた。この他、全面に金属をコーティングした後、スリットとなるべき部分だけを、はがしてもよい。さらに、不導体であるためには、必ずしも電極にスリットを形成する必要はなく、酸化処理などにより所望の部分だけを不導体としても有効である。
【0064】
(実施例2)
本発明の第2の実施例である電子ビームマスク描画装置の全体構成について説明する。
【0065】
本発明の電子ビームマスク描画装置は、高スループット実現のため、ステージを移動させながら描画するステージ連続移動方式をとる。ステージの上にはマスクを載置したパレットが搭載される。試料であるマスクは導電性を持たないガラス製であるから、これをパレットに固定するに際して、静電吸着装置を用いない。しかし、パレットをステージ上に固定するために静電吸着装置が使用されている。したがって、パレット内にはマスク形状を反映した四角形の静電吸着用電極が埋設されており、これに渦電流が発生すると、描画精度に悪影響を及ぼす。
【0066】
本実施例においては、ステージの移動方向は、X方向に最大毎秒50mmであり、Y方向に最大毎秒1mmである。したがって、Y方向の移動による渦電流は無視できる程度に小さく、X方向の移動による渦電流のみを考えればよい。渦電流はビーム軸から見てステージの進行方向の前後に発生することを考えると、渦電流がビーム軸上に到達するのを遮断するためには、スリットは進行方向であるX方向に直角な方向、即ちY方向にのみ形成されていれば充分である。
【0067】
そこで、本実施例では、図7の(a)に示したように、静電吸着用電極にY方向に伸びるスリットを設けた。描画装置の対物レンズのボア径が40mmであるため、スリットのピッチは20mm未満であればよい。本実施例では、10mmとした。
【0068】
スリットの形状・配置については、実施例1で述べたように、渦電流発生位置とビーム軸の間の経路が遮断され、スリットにより電極の他の部分から完全に分断される部分がなければよいので、図7の(a)の他、図7の(b)および(c)に示すようにしても同様の効果を上げることが出来る。
【0069】
尚、本実施例においては、ステージのX方向の移動速度が大きく、Y方向の移動速度が小さかったため、吸着用電極にY方向に伸びるスリットを設けたが、逆に、ステージのY方向の移動速度が大きく、X方向の移動速度が小さい場合は、図7の(d)に示すように、X方向に伸びるスリットを設ければ良い。
【0070】
一方、ステージのX方向とY方向の移動速度が共に大きい場合、または、試料毎に移動方向が変わる場合などは、実施例1と同様にスリットをX、Y方向の両方に設ければよい。また、図7の(e)に示したように、二重螺旋状にスリットを設ければ、ステージのX方向とY方向の移動速度が共に大きい場合にも、渦電流がビーム軸上に到達するのを防ぐことが出来る上、隣り合った電極部分に流れる渦電流が、図中矢印で示したように、キャンセルしあう方向に流れるため、渦電流による磁場をさらに低減することが出来る。
【0071】
(実施例3)
本発明の第3の実施例である電子ビームウェハ描画装置の静電吸着装置について、図8を用いて説明する。
【0072】
図8の(a)は、本発明における吸着用電極を、平面方向(電子ビーム軸方向)から見た形状を示す。静電吸着用電極601が離散的に並べられ、概略円形の外形を構成している。図中、602は、電極のない部分であり、誘電体で埋められていることを示す。
【0073】
各電極は、円形の外周を構成している部分を除き、一片が40mmである。これは、描画装置の対物レンズのボア径が100mmであり、渦電流発生位置とビームの間を遮断するためには、一辺を50mm未満にする必要があるためである。
【0074】
図8の(b)は、本実施例における静電吸着装置の断面図を示す。複数の吸着用電極801、802、803、804、805、806、807が誘電体402中に埋設されている。各電極は、電気的に分離されている。ウェハ401は、アースピン406を介して接地電位に保たれている。アースピン406は、ばね407およびベースパレット408を介して設置されており、また、上記ばね407の力でウェハ401の上に押し付けられている。
【0075】
実施例1で述べたように、吸着用電極として機能するためには、各電極には静電吸着用の直流電圧が印加されていなければならない。また、電子ビーム描画の描画精度を保つためには、各電極に印加される電位は一様であることが望ましい。そこで、本実施例においては、吸着用電極801、802、803、804、805、806、807に同一の電圧を供給した。具体的には、スイッチ404を介して直流電源405に対して並列に吸着用電極801、802、803、804、805、806、807を接続した。
【0076】
尚、本実施例においては、単一の電源に対して並列に複数の吸着用電極を接続することで、吸着用電極の電位の一様性を保ったが、複数の電源を用いても、同一の電位を供給すれば、同様の効果を上げることが出来る。
【0077】
以上述べた実施例1から3においては、電子ビーム描画装置における、試料をパレットに吸着する静電吸着装置およびパレットをステージに吸着する静電吸着装置について取り扱い、対物レンズによる磁場中を移動する吸着用電極の内部に発生する渦電流による電子ビームへの影響の低減を図ったが、この課題は、電磁レンズを用いて荷電粒子線(例えば、電子ビーム、イオンビーム等)を高速で移動するステージ上に載置された試料上に収束する、あらゆるタイプの荷電粒子応用装置に共通である。
【0078】
したがって、本発明は、検査SEMなどにも応用できる。例えば、検査中に毎秒10mm程度で試料を搭載したステージが移動する検査SEMにおいても、吸着用電極に流れる渦電流により電子ビームの位置ずれが生じる。
【0079】
渦電流の量が一定であれば、偏向補正、または画像補正により、この問題を解決することが出来るが、速度むらなどにより渦電流による電子ビームの位置ずれが一定でない場合、検査のために取得した画像に歪みが生じてしまう。この問題を回避するために、例えば、実施例1と同様に、静電吸着装置にスリットを設ければ、静電吸着装置内の渦電流が発生する位置と、ビーム軸上を遮断することができるので、画像の歪みを低減することが出来る。
【0080】
【発明の効果】
本発明によれば、静電吸着装置を備えた荷電粒子応用装置において、吸着能力を損なうことなく、吸着用電極に流れる渦電流が電子ビーム等の荷電粒子線に与える影響を低減し、パターン位置精度を向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】電子ビーム描画装置の構成を説明する模式図。
【図2】対物レンズの漏洩磁場の試料面付近の分布についての考察を説明する図。
【図3】金属部品が試料面付近を横切る時、渦電流が流れる様子についての考察を説明する図。
【図4】従来の静電吸着装置の構成を示す断面図。
【図5】本発明の第1の実施例における吸着用電極の例を示す平面図。
【図6】本発明の第1の実施例における吸着用電極の不適例を示す平面図。
【図7】本発明の第2の実施例における吸着用電極の例を示す平面図。
【図8】本発明の第3の実施例における吸着用電極の例を示す平面図(a)および静電吸着装置の構成例を示す断面図(b)。
【符号の説明】
101…熱電子銃、102…アノ…ド電極、103…第一マスク、104…成形レンズ、105…成形用偏向器、106…第二マスク、107…縮小レンズ、108…対物レンズ、109…偏向器、110…ウェハ、111…パレット、112…ステ…ジ、113…ボア径、114…ワ…キングディスタンス、
301…大きな渦電流を発生する領域、302…大きな渦電流を発生する領域、303a…面積の小さな金属部品、303b…面積の大きな金属部品、304a…内部に発生する渦電流、304b…内部に発生する渦電流、305…ビ…ム軸、401…ウェハ、402…誘電体、403…吸着用電極、404…スイッチ、405…直流電源、406…ア…スピン、407…ばね、408…ベ…スパレット、501…静電吸着用電極501、502…電極のない部分(スリット)、601…静電吸着用電極、602…電極のない部分、801…吸着用電極、802…吸着用電極、803…吸着用電極、804…吸着用電極、805…吸着用電極、806…吸着用電極、807…吸着用電極、808…吸着用電極。

Claims (3)

  1. 荷電粒子源と、前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームを試料上に集束させる電磁レンズと、前記荷電粒子ビームによる試料処理中に移動可能なステージと、前記ステージ上に、誘電体からなる試料保持部材上に搭載された前記試料を接地する接地電極と前記誘電体を挟んで前記接地電極に対向する吸着用電極との間に静電力を発生させ、前記静電力により前記試料を前記保持部材に吸着する静電吸着装置とを有し、
    前記静電吸着装置の吸着用電極は、規則的に配置された不導体部を複数有し、前記不導体部の間隔が前記電磁レンズのボア径の1/2未満であり、前記吸着用電極が前記電磁レンズの漏洩磁場内を移動する際に前記吸着用電極内において渦電流が発生する位置と前記吸着用電極内における前記ビームの真下に相当する位置との間に流れる渦電流を遮断するよう構成され、前記吸着用電極を全体にわたって同一電位に保つ手段を含んでなることを特徴とする荷電粒子応用装置。
  2. 前記不導体部が、前記ステージの移動方向と垂直な方向に延びる長穴上のスリットであることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子応用装置。
  3. 前記不導体部が、前記吸着用電極の中心に向かう二重螺旋状のスリットで構成されていることを特徴とする請求項1に記の荷電粒子応用装置。
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