JP4189456B2 - Arfタンパクとa10タンパクの相互作用を調節する薬剤のスクリーニング方法 - Google Patents
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Description
本発明はARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物のスクリーニング方法に関する。このスクリーニングは、特に抗腫瘍薬のスクリーニングに有用である。本発明はさらに、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の検査のためのA10蛋白質およびA10蛋白質をコードする遺伝子の利用にも関する。
背景技術
細胞周期の調節に深く関わっている因子として、癌抑制因子であるretinoblastoma protein(pRb)とp53があげられる(Weinberg,R.A.(1995)Cell,81,323−330;Levine,A.J.(1997)Cell,88,323−331;Sherr,C.J.(1996)Science,274,1672−1677)。pRbおよびp53は、それぞれ別の経路で細胞周期を調節していると考えられている。二つの作用の違いは、pRbはDNA複製や細胞増殖に必須の蛋白の発現を制御するE2Fと結合して、その活性を抑制する事により細胞増殖抑制へと導き、pRbの活性はcyclin dependent kinases(cdks)の作用によってG1期からS期への移行において調節されている。一方、p53は化学物質やDNA障害によって発現することによって、p21の転写を促進し細胞周期を抑制すると言われている。また、p53はMDM2との結合によって分解され、ある種の癌で認められるMDM2の増幅ではこの機序によるp53の活性化が腫瘍増殖に寄与していると考えられる(Gottlieb.M.F.and Oren,M.(1996)Biochim.Biophys.Acta 1287,77−102;Momand,J.et al.(1992)Cell,69,1237−1245;Kubbutat,M.H.et al.(1997)Nature,387,299−303)。
一方、INK4a gene locusの不活性化は多くの腫瘍において見いだされており、その染色体上に存在する遺伝子の腫瘍との関係が深く研究されてきた。近年、このINK4a gene locusに存在するINK4AとARFはそれぞれ同一の遺伝子上にあり、異なったスプライシングフォームとして翻訳され、どちらの因子もG1期に細胞周期をアレストし、細胞増殖抑制活性を持つことが明らかにされた。二つの因子の機能の違いとしては、INK4aはサイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)を不活性化し、基質の中でも特に前述したRbのリン酸化を阻害し、このリン酸化阻害によって細胞周期をアレストする。一方、ARFは核内においてMDM2と結合することによってMDM2によるp53の分解を抑え、p53蛋白質の安定性を高め、細胞周期をアレストしていると考えられている(Serrano,M.et al.(1993)Nature,366,704−707;Quelle,D.E.et al.(1993)Genes Dev.,7,1559−1571)。
発明の開示
本発明はARF蛋白質とA10蛋白質の相互作用を調節する化合物のスクリーニング方法を提供することを課題とする。ARF蛋白質とA10蛋白質の相互作用を調節する化合物は、特に腫瘍細胞の増殖抑制に有用である。本発明はさらに、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の検査のためのA10蛋白質およびA10蛋白質をコードする遺伝子の利用を提供する。この検査は、ARF蛋白質を介するシグナル伝達が関与する腫瘍等の疾患の検査に有用である。
本発明らは、上記課題を解決するために、酵母Two−Hybrid法によりp19ARFと相互作用する蛋白質をコードする遺伝子を特異的に単離することを試みた。その結果、A10遺伝子がコードする蛋白質が、p19ARF蛋白質と結合することを見出した(図1)。A10遺伝子は、GenBank Accession Number NM_017632として登録されている遺伝子と同一であった[Homo sapiens hypothetical protein FLJ20036(FLJ20036),mRNA(GenBank Accession Number NM_017632)]。A10蛋白質とp19ARF蛋白質との相互作用を免疫沈降法によっても、再度確認した。その結果、A10蛋白質とp19ARF蛋白質との有意な相互作用が見られた(図2)。一方、細胞内におけるp19ARFの局在性を調べるため、GFP−A10とp19ARFmycとの共遺伝子導入、あるいはp19ARFmyc単独、またはGFP−A10単独で遺伝子導入し、それぞれの蛋白質の局在性を観察したところ、p19ARFmycによって有意にA10蛋白質の核への移行が促進されることが示された(図3)。そのため、A10蛋白質とARF蛋白質との相互作用を抑制する薬剤スクリーニングを行うことは、ARF−p53−p21の経路のシグナル伝達の制御にとって重要な薬剤をスクリーニングできる可能性を持つ。ARF−p53−p21経路は細胞の癌化に関与することが知られており、本発明の知見は、癌細胞や前癌状態の細胞の増殖を抑制できる新規の薬剤開発のための標的として利用することができる。また、A10遺伝子は癌などの疾患の診断・検査のための指標として、また、これら疾患の病理機構の解明のためのツールとして利用することもできる。
すなわち本発明は、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物のスクリーニング方法に関する。また本発明は、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の検査のためのA10蛋白質およびA10蛋白質をコードする遺伝子の利用に関する。本発明は、より具体的には、
(1)ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)被検試料の存在下でARF蛋白質とA10蛋白質とを接触させる工程、
(b)ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を検出する工程、
(c)被検試料非存在下で検出した場合と比較して、該相互作用を調節する化合物を選択する工程、を含む方法、
(2)ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)A10遺伝子を内因的に保持する細胞に被検試料を接触させる工程、
(b)A10遺伝子の発現を検出する工程、
(c)被検試料を該細胞に接触させない場合と比較して、該発現を調節する活性を有する化合物を選択する工程、を含む方法、
(3)ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)A10遺伝子の内因的転写制御配列の下流に機能的に結合されたレポーター遺伝子を保持する細胞に、被検試料を接触させる工程、
(b)該レポーター遺伝子の発現を検出する工程、
(c)被検試料を該細胞に接触させない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現を調節する活性を有する化合物を選択する工程、を含む方法、
(4)(1)から(3)のいずれかに記載の方法により単離されうる化合物、
(5)ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物を有効成分とする医薬組成物、
(6)抗腫瘍剤である、(5)に記載の医薬組成物、
(7)下記(a)または(b)の工程を含む、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の検査方法:
(a)患者由来の被検試料中におけるA10蛋白質をコードする核酸の発現量を検出し、健常者の発現量と比較する工程、
(b)患者由来のA10蛋白質または該蛋白質をコードする核酸における変異を検出する工程、
(8)A10蛋白質をコードするDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドあるいはA10蛋白質に結合する抗体を含む、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の検査試薬、に関する。
本発明においてA10遺伝子とは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードする遺伝子、その相同遺伝子、アイソフォーム、およびそれらの誘導体が含まれる。A10遺伝子は、「Homo sapiens hypothetical protein FLJ20036(FLJ20036),mRNA」(GenBank Accession Number NM_017632)、「Homo sapiens cDNA FLJ20036 fis,clone COL00219」(同AK000043)、および「Homo sapiens putative serine−rich protein mRNA,partial cds」(同AF246705)が含まれる。
本発明においてARF遺伝子とは、ARF(alternative reading frame)(Quelle,D.E.et al.,Cell 83:993−1000,1995)、その相同遺伝子、アイソフォーム、およびそれらの誘導体が含まれる。ARFはp19ARFまたはp14ARFとも称される。ARFは染色体INK4a部位にコードされていることが知られている。哺乳動物のARF遺伝子としては、ヒトp14−CDK inhibitor(p14ARF)(ACCESSION U17075,Locus HSU17075)、マウスp19 ARF(ACCESSION L76092,Locus MUSARF)などが知られている。
本発明において蛋白質間の「相互作用」とは、蛋白質の結合、修飾、輸送、活性の変化、構造変化の誘導、安定性の変化の誘導などを含む、蛋白質間の作用を言う。
本発明において「ARF蛋白質を介するシグナル伝達」とは、ARF蛋白質が媒介する作用を言う。また、本発明において「p53蛋白質を介するシグナル伝達」とは、p53蛋白質が媒介する作用を言う。これらの作用には、ARF蛋白質またはp53蛋白質が関与する様々な蛋白質の局在変化、修飾、安定性変化、遺伝子発現、および細胞の表現型変化などが含まれる。
本発明は、A10蛋白質がARF蛋白質と相互作用するという新たな知見に基づく。本発明者らは、A10蛋白質がARF蛋白質に結合する活性を有することを見出した。ARFは細胞周期に関連するシグナル伝達を調節している因子の一つであり、MDM2に結合し、MDM2によるp53の分解を抑制することが知られている。また、ARF蛋白質はp53と直接相互作用することによりp53の機能を修飾することも示唆されている。A10遺伝子の発現によりA10蛋白質がARF蛋白質と結合し、ARFの機能が改変されることにより、ARFを介するシグナル伝達が制御され得る。従って、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用またはA10遺伝子の発現を調節することによりARF蛋白質を介するシグナル伝達を制御することが可能であると考えられる。
ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用には、ARF蛋白質とA10蛋白質との結合および修飾などが含まれる。ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用は、両者の蛋白質の結合を検出したり、あるいは、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用により生じるA10蛋白質の細胞内分布または活性の変化や、ARFの機能またはシグナル伝達(ARF核移行、MDM2とARFとの相互作用、p53の安定化、p53を介するシグナル伝達の促進などを含む)などの変化を指標に検出することが可能である。A10遺伝子の発現は、その転写産物または蛋白質を検出することにより測定することができる。
本発明は、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法の一つは、(a)被検試料の存在下でARF蛋白質とA10蛋白質とを接触させる工程、(b)ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を検出する工程、および(c)被検試料非存在下で検出した場合(対照)と比較して、該相互作用を調節する化合物を選択する工程、を含む方法である。このスクリーニングにより得られる化合物は、ARF蛋白質またはA10蛋白質の活性を調節するためにも使用され得る。
ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の検出は、両者の蛋白質の結合を直接的に検出することにより、または両者の蛋白質の相互作用により生じる変化の検出を通して、両者の相互作用を間接的に検出することにより行い得る。このようなスクリーニング系は、試験管内または細胞内等で構築することが可能である。細胞内で行う場合、ARF蛋白質とA10蛋白質とを発現する細胞を被検化合物存在下でインキュベートすることにより、細胞内で発現したARF蛋白質とA10蛋白質の接触による両者の相互作用の検出を通してスクリーニングを行うことができる。細胞系を用いたスクリーニング方法は上記に記載したスクリーニング方法に含まれるが、より具体的には、(a)ARF蛋白質とA10蛋白質とを発現する細胞に、被検試料を接触させる工程、(b)ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を検出する工程、および(c)被検試料非存在下で検出した場合(対照)と比較して、該相互作用を調節する化合物を選択する工程、を含む。細胞を用いたこのスクリーニング方法は、以下に述べるTwoハイブリッド法によるスクリーニング等の他、後述するARF蛋白質またはp53蛋白質を介するシグナル伝達を指標とするスクリーニング方法を含む。
上記のARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物のスクリーニング方法の一態様は、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を、ARF蛋白質とA10蛋白質との結合を指標に検出する方法である。具体的には、このスクリーニング方法は、(a)被検試料の存在下でARF蛋白質とA10蛋白質とを接触させる工程、(b)ARF蛋白質とA10蛋白質との結合を検出する工程、および(c)被検試料非存在下で検出した場合(対照)と比較して、該結合を調節する化合物を選択する工程、を含む方法である。
スクリーニングに用いられるA10蛋白質およびARF蛋白質は組換え蛋白質であっても、天然由来の蛋白質であってもよい。蛋白質の由来に制限はなく、ヒトおよび他の動物を含む真核生物由来の蛋白質を用いることができる。好ましくは、ヒト由来の蛋白質が用いられる。また蛋白質は変異体、部分ペプチド、または他のペプチドとの融合蛋白質であってもよい。蛋白質は、例えば、精製した蛋白質として、可溶型蛋白質として、担体に結合させた形態として、細胞膜上に発現させた形態として、または膜画分としてスクリーニングに用いることができる。
被検試料としては特に制限はなく、所望の被検化合物を含む試料を用いることができる。具体的な被検試料としては、例えば、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、原核細胞紬出物、真核単細胞抽出物又は動物細胞抽出物あるいはそれらのライブラリー、精製若しくは粗精製蛋白質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成低分子化合物、天然化合物が挙げられる。
蛋白質同士の結合を調節する化合物をスクリーニングする方法としては、当業者に公知の多くの方法を用いることが可能である。このような方法は、例えば酵母または動物細胞などを用いた2ハイブリッド法を用いて行うことができる(Fields,S.,and Sternglanz,R.,Trends.Genet.(1994)10,286−292、Dalton S,and Treisman R(1992)Characterization of SAP−1,a protein recruited by serum response factor to the c−fos serum response element.Cell 68,597−612、「MATCHMAKER Two−Hybrid System」,「Mammalian MATCHMAKER Two−Hybrid Assay Kit」,「MATCHMAKER One−Hybrid System」(いずれもクロンテック社製)、「HybriZAP Two−Hybrid Vector System」(ストラタジーン社製))。
酵母2−ハイブリッドシステムにおいては、A10蛋白質またはARF蛋白質のどちらか一方の蛋白質またはその部分ペプチドをSRF DNA結合領域またはGAL4 DNA結合領域等のDNA結合性ペプチドと融合させた融合蛋白質を発現するベクター、そして他方の蛋白質またはその部分ペプチドをVP16またはGAL4等の転写活性化領域と融合させた融合蛋白質を発現するベクターを構築し、これらを、レポーター遺伝子をコードするベクターと共に酵母細胞に導入して、被検化合物を含む試料の存在下でレポーター活性を指標に化合物のアッセイを行う。A10蛋白質とARF蛋白質との結合によりレポーター遺伝子の発現が誘導されるが、被検化合物により両者の蛋白質の結合が阻害されると、レポーター遺伝子の発現が抑制される。レポーター遺伝子としては、例えば、HIS3遺伝子の他、Ade2遺伝子、LacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、PAI−1(Plasminogen activator inhibitor type1)遺伝子等が挙げられるが、これらに制限されない。レポーター遺伝子として、細胞毒性のある遺伝子を発現させることもできる。2ハイブリッド法によるスクリーニングは、酵母の他、哺乳動物細胞などを使って行うこともできる。
また、例えば免疫沈降を用いてスクリーニングを行うことも可能である。被検化合物を含む試料の存在下で、A10蛋白質とARF蛋白質とを発現する細胞を培養し、細胞を回収後、一方の蛋白質に対する抗体等で複合体を回収したのち、他方の蛋白質を、その蛋白質に対する抗体等を用いて検出することにより、両者の蛋白質の結合を評価することができる。両者の蛋白質は細胞が内因的に発現する蛋白質であってもよいが、どちらかまたは両者の蛋白質を外来的に細胞で発現させることもできる。スクリーニングに用いる蛋白質には適宜タグペプチドや他の蛋白質を融合させ、検出を容易にすることができる。
動物細胞内で蛋白質を外来的に発現させる場合、例えば、A10蛋白質および/またはARF蛋白質をコードする遺伝子を、pSV2neo,pcDNA I,pCD8などの外来遺伝子発現用のベクターに挿入することで動物細胞などで当該遺伝子を発現させる。発現に用いるプロモーターとしてはSV40 early promoter(Rigby In Williamson(ed.),Genetic Engineering,Vol.3.Academic Press,London,p.83−141(1982)),EF−1 α promoter(KimらGene 91,p.217−223(1990)),CAG promoter(Niwa et al.Gene 108,p.193−200(1991)),RSV LTR promoter(Cullen Methods in Enzymology 152,p.684−704(1987)),SR α promoter(Takebe et al.Mol.Cell.Biol.8,p.466(1988)),CMV immediate early promoter(Seed and Aruffo Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84,p.3365−3369(1987)),SV40 late promoter(Gheysen and Fiers J.Mol.Appl.Genet.1,p.385−394(1982)),Adenovirus late promoter(Kaufman et al.Mol.Cell.Biol.9,p.946(1989)),HSV TK promoter等の一般的に使用できるプロモーターであれば何を用いてもよい。動物細胞に遺伝子を導入することで外来遺伝子を発現させるためには、エレクトロポレーション法(Chu,G.et al.Nucl.Acid Res.15,1311−1326(1987))、リン酸カルシウム法(Chen,C and Okayama,H.Mol.Cell.Biol.7,2745−2752(1987))、DEAEデキストラン法(Lopata,M.A.et al.Nucl.Acids Res.12,5707−5717(1984);Sussman,D.J.and Milman,G.Mol.Cell.Biol.4,1642−1643(1985))、カチオニックリポソームDOTAP(ベーリンガーマンハイム社製)を用いた方法、リポフェクチン法(Derijard,B.Cell 7,1025−1037(1994);Lamb,B.T.et al.Nature Genetics 5,22−30(1993);Rabindran,S.K.et al.Science 259,230−234(1993))等の方法があるが、いずれの方法によってもよい。特異性の明らかとなっているモノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)をA10および/またはARF蛋白質のN末またはC末に導入することにより、モノクローナル抗体の認識部位を有する融合蛋白質とすることができる。用いるエピトープ−抗体系としては市販されているものを利用することができる(実験医学 13,85−90(1995))。マルチクローニングサイトを介して、β−ガラクトシダーゼ、マルトース結合蛋白質、イムノグロブリン定常領域、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、緑色蛍光蛋白質(GFP)などとの融合蛋白質を発現することができるベクターが市販されている。
融合蛋白質にする場合に、元の蛋白質の性質をできるだけ変化させないようにするために数個から十数個のアミノ酸からなる小さなエピトープ部分のみを導入して、融合蛋白質を調製する方法も報告されている。例えば、ポリヒスチジン(His−tag)(例えば6×Hisまたは10×Hisなど)、インフルエンザ凝集素HAの断片、ヒトc−mycの断片、FLAG(Hopp,T.P.et al.,BioTechnology(1988)6,1204−1210)、Vesicular stomatitisウイルス糖蛋白質(VSV−GP)の断片、T7 gene10蛋白質の断片(T7−tag)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖蛋白質の断片(HSV−tag)、E−tag(モノクローナルファージ上のエピトープ)、SV40T抗原の断片、lck tag、α−tubulinの断片、B−tag、Protein Cの断片等の公知のエピトープとそれを認識するモノクローナル抗体を、上記のスクリーニングのためのエピトープ−抗体系として利用できる(実験医学 13,85−90(1995))。
免疫沈降においては、これらに対する抗体を適当な界面活性剤を利用して調製した細胞溶解液に添加することにより免疫複合体を形成させる。この免疫複合体はA10蛋白質、ARF蛋白質、および抗体を含む。上記エピトープに対する抗体を用いる以外に、A10蛋白質またはARF蛋白質に対する抗体を利用して免疫沈降を行うことも可能である。これらの抗体は、上記のように、例えば目的の蛋白質をコードする遺伝子を適当な大腸菌発現ベクターに導入して大腸菌内で発現させ、発現させた蛋白質を精製し、これをウサギやマウス、ラット、ヤギ、ニワトリなどに免疫することで調製することができる。また、合成した部分ペプチドを上記の動物に免疫することによって調製することもできる。
免疫複合体は、例えば、抗体がマウスIgG抗体であれば、Protein A SepharoseやProtein G Sepharoseを用いて沈降させることができる。また、例えば、GSTなどのエピトープとの融合蛋白質を調製した場合には、グルタチオン−Sepharose 4Bなどのこれらエピトープに特異的に結合する物質を利用して免疫複合体を形成させることができる。免疫沈降の一般的な方法については、例えば、文献(Harlow,E.and Lane,D.:Antibodies,pp.511−552,Cold Spring Harbor Laboratory publications,New York(1988))記載の方法に従って、または準じて行えばよい。
また、細胞系を使わずにプルダウンアッセイを利用して本発明のスクリーニングを行うこともできる。例えば、被検化合物を含む試料の存在下で、A10蛋白質とARF蛋白質とをインビトロでインキュベートし、一方の蛋白質に対する抗体、またはこれらの蛋白質に融合させたタグに対する抗体等で複合体を回収したのち、他方の蛋白質を、その蛋白質に対する抗体または該蛋白質に付加したタグに対する抗体等を用いて検出することにより、両者の蛋白質の結合を評価することができる。また、一方の蛋白質を支持体に結合させておき、他方の蛋白質を結合させ、そこに被検試料を適用する。結合していた蛋白質が解離するかを検出することにより被検試料の効果を調べることができる。また、ELISAを用いてスクリーニングを行うことも可能である。
さらに、結合した蛋白質を検出又は測定する手段として表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを使用することもできる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーは、蛋白質間の相互作用を微量の蛋白質試料を用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である(例えばBIAcore、Pharmacia製)。したがって、BIAcore等のバイオセンサーを用いることによりA10蛋白質およびARF蛋白質の結合を評価することが可能である。さらに、コンビナトリアルケミストリーを利用したハイスループットスクリーニング(Wrighton NC;Farrell FX;Chang R;Kashyap AK;Barbone FP;Mulcahy LS;Johnson DL;Barrett RW;Jolliffe LK;Dower WJ.,Small peptides as potent mimetics of the protein hormone erythropoietin,Science(UNIED STATES)Jul 26 1996,273 p458−64、Verdine GL.,The combinatorial chemistry of nature.Nature(ENGLAND)Nov 7 1996,384 p11−13、Hogan JC Jr,,Directed combinatorial chemistry.Nature(ENGLAND)Nov 7 1996,384 p17−9)などにより本発明のスクリーニングを行うことも可能である。
以上の方法により同定される、A10蛋白質とARF蛋白質との結合を促進または抑制する化合物は、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用をそれぞれ促進または抑制する化合物と判定される。これらの化合物は、ARF蛋白質を介するシグナル伝達、p53蛋白質を介するシグナル伝達、および細胞増殖を調節するために使用され得る。また、後述のように抗腫瘍剤などの医薬としても使用され得る。
上記のARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物のスクリーニングにおいて、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の検出を、A10蛋白質の核移行を指標として行うことも可能である。実施例に示すように、A10蛋白質は単独では細胞質に存在するが、ARF蛋白質と共発現させることにより核(核小体)に局在する。従って、ARF蛋白質によるA10蛋白質の核移行を調節する化合物をスクリーニングすることにより、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物を得ることができる。このスクリーニング方法は、(a)ARF蛋白質とA10蛋白質とを発現する細胞に、被検試料を接触させる工程、(b)A10蛋白質の核局在を検出する工程、および(c)被検試料非存在下で検出した場合(対照)と比較して、A10蛋白質の核局在を調節(促進または低減)する化合物を選択する工程、を含む。A10蛋白質発現下におけるA10蛋白質の核局在を促進する化合物は、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を促進する化合物と判断され、逆にA10蛋白質の核局在を阻害する化合物は、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を抑制する化合物と判断される。ARF蛋白質やA10蛋白質は、内因的蛋白質であってもよく、また外来的に発現させてもよい。用いられる細胞としては、A10蛋白質発現下においてA10蛋白質の核移行が起こる限り制限はない。例えば実施例で用いられたNIH3T3細胞や、COS細胞等が用いられ得る。A10蛋白質の核移行は、例えばA10蛋白質に対する抗体を用いた免疫細胞化学的手法により検出することが可能である。抗体は、例えば蛍光標識される。また、GFP蛋白質などを融合させたA10蛋白質を外来的に細胞で発現させれば、A10蛋白質の細胞内局在を容易に検出することができる。
上記のARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物のスクリーニング方法の他の態様は、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を、ARF蛋白質を介するシグナル伝達を指標に検出する方法である。ARF蛋白質は細胞周期調節に関連するシグナル因子であり、ARF蛋白質を介するシグナルは、MDM2、p53、およびその下流のp21などの他の分子に伝達される。従って、これらのシグナル伝達の変化を指標にしてスクリーニングを行うことにより、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物を得ることができる。
このようなスクリーニングは細胞系を用いて行うことができる。このスクリーニングは、例えば、(a)ARF蛋白質とA10蛋白質とを発現する細胞に、被検試料を接触させる工程、(b)ARFを介するシグナル伝達を検出する工程、および(c)被検試料非存在下で検出した場合(対照)と比較して、該シグナル伝達を調節(増強または抑制)する化合物を選択する工程、を含む方法である。このようなスクリーニングも、本発明のスクリーニングに含まれる。スクリーニングに用いる被検試料は特に制限はない。ARF蛋白質やA10蛋白質は、内因的蛋白質であってもよく、また外来的に発現させてもよい。用いられる細胞としては、ARF蛋白質を介するシグナル伝達経路を持つ多くの細胞が用いられ得る。例えば、CHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、NIH3T3細胞、BHK(baby hamster kidney)、Veroなどが挙げられる。親細胞に比べA10遺伝子の発現が有意に上昇した細胞などを好適に用いることができる。
ARF蛋白質を介するシグナル伝達は、例えば以下の指標により検出することが可能である。
・ARF蛋白質とMDM2蛋白質との結合
・MDM2蛋白質とp53蛋白質との結合
・p53蛋白質の修飾(ユビキチン化など)
・p53蛋白質の分解
・p53蛋白質活性
・p53蛋白質が標的とする遺伝子の発現(例えばp53依存的転写など)
・DNA合成、細胞周期、細胞分裂、細胞増殖、アポトーシス
ARF蛋白質を介するシグナル伝達の流れは以下のようになっている。ARF蛋白質が核に移行すると、ARF蛋白質とMDM2蛋白質との結合が促進される。ARF蛋白質とMDM2蛋白質との結合の促進は、MDM2蛋白質の活性を抑制し、これによりMDM2蛋白質とp53蛋白質との結合が抑制され、p53蛋白質のユビキチン化を含むp53蛋白質の分解を誘導する修飾が抑制される。結果としてp53蛋白質の分解が抑制され、p53蛋白質の安定性が上昇することにより細胞内におけるp53蛋白質の活性は上昇し、p53蛋白質が持つG1停止およびアポトーシスの誘導などの機能が促進される。その結果、DNA合成の低下、アポトーシスの促進、および/または細胞分裂の抑制がもたらされ、細胞増殖が抑制される。ARF蛋白質の機能が阻害されると、これと逆の作用が起こる。これらの指標は、公知の方法により検出することが可能である。以上のようなARF蛋白質を介するシグナル伝達の流れに基づき、A10蛋白質によるこれらのシグナル伝達への効果を調節する化合物をスクリーニングすることが可能である。
具体的には、例えばARF蛋白質を介するシグナル伝達の活性化によりp53蛋白質が活性化して誘導されるp21等のp53の標的遺伝子の発現を抗体で確認するウエスタンブロッティング法によりスクリーニングすることができる。また、p21等の標的遺伝子のmRNAをノーザンブロッティングまたはRT−PCRにより検出してスクリーニングすることもできる。あるいは、細胞増殖の抑制を指標にスクリーニングすることができる。このスクリーニングは、細胞数の計測による増殖測定、またはWST試薬(ロシュダイアゴニスティック社)等を用いた細胞増殖測定により実施することができる。これらの方法を用いて、加えた被検化合物がARFの活性に対するA10の影響を促進またはキャンセルすることによる細胞増殖の変化を上記の方法により計測し、これを指標にスクリーニングを行うことができる。これらのスクリーニングは、以下に述べるp53蛋白質を介するシグナル伝達のA10蛋白質による効果を調節する化合物のスクリーニングにおいても同様に実施することができる。
ARFを介するシグナル伝達の重要なシグナル分子にp53がある。A10蛋白質の発現がARF蛋白質の機能を調節することによりp53のシグナルを調節し、p53依存性の転写を制御していることが考えられる。細胞周期の調節因子として中心的な役割を果たすp53蛋白質の活性をA10蛋白質が制御していることは重要である。本発明のスクリーニング方法の他の態様は、p53蛋白質を介するシグナル伝達のA10蛋白質による調節を制御する化合物を選択することによりスクリーニングを行う方法である。このスクリーニング方法は、(a)ARF蛋白質とA10蛋白質とを発現する細胞に、被検試料を接触させる工程、(b)p53を介するシグナル伝達を検出する工程、(c)被検試料非存在下で検出した場合(対照)と比較して、該シグナル伝達を調節(増強または抑制)する化合物を選択する工程、を含む方法である。これらのスクリーニングは細胞系で行うことが好ましい。スクリーニングに用いる被検試料は特に制限はない。細胞としては、上記のARF蛋白質のシグナル伝達を指標としたスクリーニングと同様の細胞が用いられ得る。親細胞に比べA10遺伝子の発現が有意に上昇した細胞などを好適に用いることができる。
p53蛋白質を介するシグナル伝達は、上記に示したようにp53蛋白質またはその作用を検出することにより評価することができる。具体的には、例えばp53蛋白質とMDM2蛋白質との結合、p53蛋白質の修飾、p53蛋白質の安定性、p53蛋白質の標的遺伝子の発現、アポトーシス、DNA合成、細胞分裂、細胞増殖などを指標とすることができる。このスクリーニングにより得られる化合物は、上記のARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物と同様、細胞増殖の調節剤として、また抗腫瘍剤として利用され得る。従ってこのスクリーニング方法は、上記に記載したARF蛋白質とA10蛋白質のと相互作用を調節する化合物のスクリーニング方法と同様、細胞増殖を調節する化合物を得るために用いることができる他、抗腫瘍剤を得るためにも好適に用いられる。
具体的には、例えば上記のp21等のp53の標的遺伝子の発現を抗体で確認するウエスタンブロッティング法またはノーザンブロッティングやRT−PCR等によりスクリーニングすることができる。p53の標的遺伝子の発現を促進する化合物は、p53蛋白質を介するシグナル伝達を活性化する化合物であり、逆に、標的遺伝子の発現を抑制する化合物は、p53蛋白質を介するシグナル伝達を抑制する化合物である。また上記と同様に、細胞増殖の抑制を指標にスクリーニングすることができる。細胞増殖の促進はp53蛋白質を介するシグナル伝達の抑制を反映しており、細胞増殖の抑制はp53蛋白質を介するシグナル伝達の促進を反映していると考えられる。
以上に記載したスクリーニングにおいて細胞系を用いる場合は、被検化合物を含む試料は、例えば細胞の培地に添加される。また、遺伝子を被検試料として用いる場合は、これを細胞へ導入する。導入には、例えは発現ベクター等を用いた公知の遺伝子導入法により行い得る。個体を用いたインビボ系におけるスクリーニングにおいては、被検化合物を含む試料を適当な経路で投与する。試料の投与は、例えば経皮、腹腔内、筋肉内、経腸、静脈注射等により行い得る。また、発現ベクター等により遺伝子を被検試料として投与することもできる。
細胞内において発現する、A10蛋白質またはARF蛋白質、あるいはこれらの蛋白質から下流の各種のシグナル伝達分子は、内因性であっても、外来的に発現させたものであったもよい。例えば、ARF遺伝子を欠損する細胞を用いて、この細胞と、これに外来的にARF遺伝子を導入した細胞とを用いて被検化合物のアッセイを行えば、化合物のARF蛋白質に対する特異性を検証することが可能である。このための最も簡便な細胞として、ARFの存在するINK4a部位を欠損したNIH3T3細胞を用いることが適当である。
また、本発明は、A10遺伝子の発現を調節する化合物の選択により、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の調節剤をスクリーニングする方法を提供する。このスクリーニングは、A10蛋白質をコードする遺伝子またはその発現制御領域を利用して、細胞内、生体内、またはin vitro発現系等においてA10遺伝子の発現(転写または翻訳など)を調節しうる化合物を選択する工程を含む方法である。このスクリーニングは、例えば、ARF蛋白質またはp53蛋白質を介するシグナル伝達の調節剤、細胞増殖調節剤、アポトーシス調節剤、あるいは発癌剤、細胞の不死化試薬、または抗腫瘍剤のスクリーニングにも利用し得る。
上記のスクリーニング方法は、例えば(a)A10遺伝子を内因的に保持する細胞に被検試料を接触させる工程、(b)A10遺伝子の発現を検出する工程、および(c)被検試料を該細胞に接触させない場合(対照)と比較して、該発現を調節(促進または阻害)する活性を有する化合物を選択する工程、を含む方法により実施しうる。ここで遺伝子の発現には、転写および翻訳が含まれる。
例えば、A10遺伝子を発現している細胞を被検試料と共に培養し、該遺伝子の発現をノーザン解析やRT−PCR法などのmRNAを検出する方法、あるいはウェスタンブロッティング、免疫沈降、ELISAなどの蛋白質を検出する方法、またはこれらを改良した方法により検出し、被検試料を添加しない場合と比較して、該遺伝子の発現を促進あるいは阻害する化合物を選択することにより、目的の化合物をスクリーニングすることができる。
スクリーニングに用いる細胞に特に制限はないが、癌細胞株または不死化細胞等においてA10遺伝子の発現レベルが正常細胞に比べ改変している細胞を用いれば、A10遺伝子の発現レベルを正常に近づける化合物をスクリーニングすることによって癌の治療薬を得ることにつながると予想される。
また、A10遺伝子の発現制御領域の活性化または不活性化を指標とする方法によって、生体内または細胞内においてA10遺伝子の発現を調節しうる化合物をスクリーニングすることも考えられる。このスクリーニングは、(a)A10遺伝子の内因的転写制御配列の下流に機能的に結合されたレポーター遺伝子を保持する細胞に、被検試料を接触させる工程、(b)該レポーター遺伝子の発現を検出する工程、および(c)被検試料を該細胞に接触させない場合(対照)と比較して、該レポーター遺伝子の発現を調節(促進または阻害)する活性を有する化合物を選択する工程、を含む方法により実施しうる。
ここで「内因的転写制御配列」とは、A10遺伝子を天然に保持している細胞において、該遺伝子の転写を制御している配列のことを言う。このような配列は、プロモーター、エンハンサー、および/またはリプレッサーなどが含まれる。これら配列としては、例えば、A10蛋白質をコードする遺伝子の上流領域のDNAを用いることができる。例えば、A10蛋白質をコードする遺伝子の転写開始点(または翻訳開始コドン)からその上流数kb(例えば2kb、3kb、5kb、または10kb)までのDNA断片には、該遺伝子の内因的転写制御配列が含まれていると考えられる。この断片をレポーター遺伝子と連結することで、レポーター遺伝子の発現を、A10蛋白質をコードする遺伝子の転写制御下に置くことが可能である。上流領域は適宜欠失または変異を導入して転写制御活性を測定し、転写制御に関与している配列を特定してその断片を用いることも可能である。現在、転写制御に関与する転写因子が結合する多くの転写制御配列が知られている。A10蛋白質をコードする遺伝子の上流域から、これら既知の転写制御配列を同定することで、内因的転写制御配列を特定することも考えられる。通常、遺伝子の転写を制御している配列は、1つの遺伝子に複数存在しているが、本発明のスクリーニングにおいては、それらのいずれか、またはその組み合わせを用いることができる。内因的転写制御配列は、他のプロモーターとのキメラにしてもよい。キメラプロモーターは、転写制御の試験においてはよく用いられている。キメラプロモーターの作製に用いる他のプロモーターとしては、例えばSV40初期プロモーター由来の最小プロモーターなどが挙げられる。なお、「機能的に結合された」とは、該転写制御配列の活性化に応答して、その下流に結合されたレポーター遺伝子が発現しうるように、該転写制御配列とレポーター遺伝子が結合していることを指す。
具体的には、例えば、A10蛋白質をコードする配列若しくはその一部をプローブとしたゲノムDNAライブラリーのスクリーニングにより、A10遺伝子の転写制御領域(プロモーター、エンハンサーなど)をクローニングし、これを適当なレポーター遺伝子(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子など)の上流に挿入した発現ベクターを作製し、これを哺乳動物細胞に導入する。次いで、被検試料を該細胞に接触させ、レポーター活性を検出し、被検試料を接触させない細胞におけるレポーター活性と比較して、レポーター活性を増加または減少させる化合物を選択することにより、細胞内においてA10遺伝子の発現を調節しうる化合物をスクリーニングすることができる。このスクリーニングは、A10遺伝子の発現を、レポーター活性を指標として検出するため、上記したノーザン解析などの直接的な検出と比較して簡便であるという特徴を有する。A10遺伝子の発現を上昇させる化合物は、A10蛋白質とARF蛋白質との相互作用を上昇させる化合物となり、逆にA10遺伝子の発現を低下させる化合物は、A10蛋白質とARF蛋白質との相互作用を低下させる化合物となる。
また、内因的A10遺伝子のコード領域をレポーター遺伝子に置換したノックイン動物を利用してもよい。このような動物または該動物に由来する細胞を用いて、上記のスクリーニングを行うことができる。ノックイン動物の作製は公知の方法に従って行うことができる。
以上に記載した本発明のスクリーニング方法により単離され得る化合物は、A10蛋白質とARF蛋白質との相互作用を調節する化合物として用いられる。これらの化合物は、ARF蛋白質を介するシグナル伝達を調節する化合物、およびp53蛋白質を介するシグナル伝達を調節する化合物などともなる。本発明は、本発明のスクリーニング方法により単離されうる化合物を含む、A10蛋白質とARF蛋白質との相互作用の調節剤、ARF蛋白質またはp53蛋白質を介するシグナル伝達の調節剤にも関する。A10蛋白質とARF蛋白質との相互作用を抑制する化合物等は、ARF蛋白質の細胞内における活性を制御し、p53などの下流のシグナルを改変することにより細胞分裂および細胞増殖を調節し得る。またアポトーシスの誘導を調節し得る。従って、本発明の上記のスクリーニングは、細胞増殖を調節する化合物を評価したり、または該化合物を単離するために有用である。特に、細胞増殖を抑制する化合物は抗腫瘍剤としての利用が期待される。従って、本発明のスクリーニング方法は、抗腫瘍剤の評価または単離のために好適に用いられる。
A10蛋白質とARF蛋白質との相互作用を調節する化合物、ARF蛋白質を介するシグナル伝達を調節する化合物(A10遺伝子の発現を調節する化合物を含む)は、試薬および/または医薬として利用することができる。上記スクリーニングにより単離しうる化合物も、同様に試薬および/または医薬として利用することができる。本発明のスクリーニング方法を用いて単離しうる化合物の構造の一部を、付加、欠失及び/又は置換により変換される化合物も、本発明のスクリーニングにより単離され得る化合物に含まれる。このような化合物も同様に試薬および/または医薬として利用することができる。これらの化合物は、例えばARF蛋白質またはp53蛋白質を介するシグナル伝達の調節剤などの薬剤として有用である。薬剤には、試薬および医薬が含まれる。またこれらの化合物は、細胞増殖を調節するための薬剤として用いられ得る。該化合物は、例えば細胞増殖性疾患や細胞増殖を制御することにより治療可能な疾患の治療への応用が考えられる。特に、これらの化合物は腫瘍の抑制剤(抗癌剤)としての利用が期待される。
ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物をヒトや哺乳動物等、例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、マントヒヒ、チンパンジーの医薬として使用する場合には、化合物自体を直接患者に投与する以外に、公知の製剤学的方法により製剤化した医薬組成物として投与を行うことも可能である。例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。
錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えばゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO−50と併用してもよい。
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などのほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法により行いうる。投与量は、患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。また、該化合物がDNAによりコードされうるものであれば、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
化合物の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法により差異はあるが、経口投与の場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.1から100mg、好ましくは約1.0から50mg、より好ましくは約1.0から20mgである。
非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.01から30mg、好ましくは約0.1から20mg、より好ましくは約0.1から10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量、あるいは体表面積あたりに換算した量を投与することができる。
ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物により、ARFを介するシグナル伝達を調節することができる。ARFを介するシグナル伝達の調節には、ARF蛋白質の活性の調節が含まれる。ARF活性としては、例えばMDM2蛋白質との結合などの、ARF蛋白質が持つ活性が挙げられる。また、ARF蛋白質を介するシグナル伝達の調節には、ARF蛋白質から下流のシグナル伝達分子の活性の変化およびそれに伴う形質の変化などの調節が含まれる。すなわち、ARF蛋白質を介するシグナル伝達の促進としては、MDM2蛋白質とp53蛋白質との相互作用等のMDM2活性の抑制、MDM2活性の抑制によるp53蛋白質の安定化、その安定化によるp53蛋白質を介するシグナル伝達の活性化(p53依存性転写の促進、細胞分裂および細胞増殖の抑制、アポトーシス誘導などを含む)等が挙げられる。特にp53蛋白質は細胞機能の調節に重要な機能を果たす蛋白質であり、癌抑制遺伝子としても知られる。A10遺伝子の発現、またはARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を上昇または下降させることによりp53を介するシグナル伝達を調節し得る。
ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を促進する化合物としては、例えばA10蛋白質の発現レベルを上昇させる化合物が含まれるが、このような化合物には、A10蛋白質または該蛋白質をコードする核酸(DNAまたはRNA)自体が挙げられる。例えば、A10遺伝子を発現するベクターを細胞に導入してA10蛋白質の細胞内発現を上昇させることにより、A10蛋白質の発現レベルを上昇させることができる。これにより、細胞内におけるA10蛋白質の発現レベルが上昇し、A10蛋白質とARF蛋白質との相互作用を上昇させることが可能である。本発明は、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用、あるいは、ARF蛋白質またはp53を介するシグナル伝達、または細胞増殖を調節するための、A10蛋白質、該蛋白質をコードするDNA、および該DNAを含むベクターの使用に関する。逆にA10遺伝子の発現の低下は、例えばA10 mRNAに対するアンチセンスRNAの発現、またはA10 mRNAを切断するようなリボザイムの発現などにより行うことができる。また、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはA10の転写調節領域の一部を含むデコイ型核酸の投与などによっても実施できる。また、A10遺伝子に変異を導入してもよい。これによりA10蛋白質の発現レベルを低下させれば、A10蛋白質とARF蛋白質との相互作用を低下させることができる。
また、A10蛋白質のアンタゴニストを作用させてARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を低下させることができる。A10蛋白質のアンタゴニストは、A10に対する抗体またはその断片などであり得る。また、ARF蛋白質の部分ペプチドであり得る。A10蛋白質に結合する活性を有するARF蛋白質の部分ペプチドは、A10蛋白質への結合を通して、A10蛋白質のインタクトなARF蛋白質への相互作用を抑制し得る。ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物、およびA10遺伝子の発現を調節する化合物は、以下に述べるように、ARFを介するシグナル伝達の調節剤、p53を介するシグナル伝達の調節剤、および細胞増殖調節剤として用いることが可能である。
A10蛋白質をコードするDNAは、公知の方法により調製することが可能である。例えば、ヒトA10蛋白質のアミノ酸配列、およびA10蛋白質をコードするcDNAの塩基配列は既に知られている(GenBank Accession Number NM_017632,AK000043,およびAF246705)。A10蛋白質をコードするDNAは、例えばこの塩基配列を基に作製したプローブを用いたハイブリダイゼーション、あるいはプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により調製することができる(Sambrook,J.et al.,Molecular Cloning 2nd ed.,9.47−9.58,Cold Spring Harbor Lab.press,1989)。A10蛋白質をコードするDNAは、例えば、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物(例えば、サル、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ウシ、ブタなどがコードする蛋白質)等から単離し得る。A10蛋白質を発現する組織から調製したcDNAをハイブリダイゼーションまたはPCRを用いたスクリーニングに適用することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、当業者であれば適宜選択することができる。例えば低ストリンジェントな条件、通常の条件、またはストリンジェントな条件で行うことができる。
ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件は、例えばExpressHyb Hybridization Solution(クロンテック社製)をハイブリダイゼーションバッファーとして用い、42℃、好ましくは60℃、特に好ましくは68℃で1時間ハイブリダイズさせた後、50℃、2×SSC、0.1%SDSでの洗浄が挙げられ、好ましくは50℃、0.1×SSC、0.1%SDSで洗浄する。またより好ましくは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSでの洗浄が挙げられるこれらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。このように、ヒトA10蛋白質(配列番号:2)をコードするcDNAとハイブリダイズするDNAがコードする蛋白質であってARF蛋白質と相互作用する蛋白質は、本発明においてA10蛋白質と同様に使用することができる。このような蛋白質は、上記した本発明のスクリーニングにも用いることができる。
これらハイブリダイゼーション技術や遺伝子増幅技術により単離されるDNAがコードする蛋白質は、通常、ヒトA10蛋白質(配列番号:2)または他の生物における相同蛋白質とアミノ酸配列に対し高い相同性を有する。これらの蛋白質と高い相同性を有する蛋白質において、ARF蛋白質と相互作用する活性を有する蛋白質は、本発明においてA10蛋白質と同様に使用することができる。高い相同性とは、アミノ酸レベルにおいて、通常、少なくとも40%以上の同一性、好ましくは60%以上の同一性、さらに好ましくは80%以上の同一性、さらに好ましくは90%以上の同一性を指す。蛋白質の相同性を決定するには、文献(Wilbur,W.J.and Lipman,D.J.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1983)80,726−730)に記載のアルゴリズムにしたがえばよい。
また、天然のA10蛋白質の変異体を用いることもできる。このような変異は人為的であってもよく、また自然界においても生じたものであってもよい。ある蛋白質の変異体を調製するための、当業者によく知られた方法としては、蛋白質に変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto−Gotoh,T.et al.(1995)Gene 152,271−275、Zoller,M.J.,and Smith,M.(1983)Methods Enzymol.100,468−500、Kramer,W.et al.(1984)Nucleic Acids Res.12,9441−9456、Kramer W.,and Fritz H.J.(1987)Methods Enzymol.154,350−367、Kunkel,T.A.(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA.82,488−492、Kunkel(1988)Methods Enzymol.85,2763−2766)などを用いて、天然のA10蛋白質のアミノ酸に適宜変異を導入することにより、変異蛋白質を調製することができる。このように、天然のA10蛋白質のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が、置換、欠失、および/または挿入されることにより変異したアミノ酸配列を有し、ARF蛋白質と相互作用する蛋白質は、本発明においてA10蛋白質と同様に使用することができる。
このような変異体における、変異するアミノ酸数は、通常、20アミノ酸以内であり好ましくは10アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内であり、さらに好ましくは3アミノ酸以内(例えば1アミノ酸)であると考えられる。
変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異すれば、蛋白質の活性への影響を少なくできると期待される。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。このように、アミノ酸が保存的置換を受けた蛋白質であってもよい。
あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有する蛋白質がその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662−5666、Zoller,M.J.& Smith,M.Nucleic Acids Research(1982)10,6487−6500、Wang,A.et al.,Science 224,1431−1433、Dalbadie−McFarland,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982)79,6409−6413)。
A10蛋白質としては、例えば天然のA10蛋白質のアミノ酸配列に複数個のアミノ酸残基が付加された蛋白質であってもよい。このような融合蛋白質は、天然のA10蛋白質と他のペプチド又は蛋白質とが融合したものであり、本発明におけるA10蛋白質に含まれる。融合蛋白質を作製する方法は、A10蛋白質をコードするDNAと他のペプチド又は蛋白質をコードするDNAをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよく、当業者に公知の手法を用いることができる。融合に付される他のペプチド又は蛋白質としては、特に限定されない。
融合に付される他のペプチドとしては、例えば、FLAG(Hopp,T.P.et al.,BioTechnology(1988)6,1204−1210)、6個のHis(ヒスチジン)残基からなる6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc−mycの断片、VSV−GPの断片、p18HIVの断片、T7−tag、HSV−tag、E−tag、SV40T抗原の断片、lck tag、α−tubulinの断片、B−tag、Protein Cの断片等の公知のペプチドを使用することができる。また、融合に付される他の蛋白質としては、例えば、GST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)、イムノグロブリン定常領域、β−ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合蛋白質)等が挙げられる。市販されているこれらペプチドまたは蛋白質をコードするDNAをA10蛋白質をコードするDNAと融合させ、これにより調製された融合DNAを発現させることにより、融合蛋白質を調製することができる。
後述するそれを産生する細胞や宿主あるいは精製方法により、生産させた蛋白質のアミノ酸配列、分子量、等電点又は糖鎖の有無や形態などが異なり得る。しかしながら、得られた蛋白質が、ARF蛋白質と相互作用する活性を有している限り、本発明においてA10蛋白質と同様に使用することができる。例えば、A10蛋白質を原核細胞、例えば大腸菌で発現させた場合、本来の蛋白質のアミノ酸配列のN末端にメチオニン残基が付加されるが、このような蛋白質であってもよい。
A10蛋白質は、当業者に公知の方法により、組み換え蛋白質として、また天然の蛋白質として調製することが可能である。組み換え蛋白質であれば、A10蛋白質をコードするDNA(ヒトA10 cDNAについては例えば配列番号:1を参照)を適当な発現ベクターに組み込み、これを適当な宿主細胞に導入して得た形質転換体を回収し、抽出物を得た後、イオン交換、逆相、ゲル濾過などのクロマトグラフィー、あるいはA10蛋白質に対する抗体をカラムに固定したアフィニティークロマトグラフィーにかけることにより、または、さらにこれらのカラムを複数組み合わせることにより精製し、調製することが可能である。
また、A10蛋白質をグルタチオンS−トランスフェラーゼ蛋白質との融合蛋白質として、あるいはヒスチジンを複数付加させた組み換え蛋白質として宿主細胞(例えば、動物細胞や大腸菌など)内で発現させた場合には、発現させた組み換え蛋白質はグルタチオンカラムあるいはニッケルカラムを用いて精製することができる。融合蛋白質の精製後、必要に応じて融合蛋白質のうち、目的の蛋白質以外の領域を、トロンビンまたはファクターXaなどにより切断し、除去することも可能である。
天然の蛋白質であれば、当業者に周知の方法、例えば、A10蛋白質を発現している組織や細胞の抽出物に対し、後述するA10蛋白質に結合する抗体が結合したアフィニティーカラムを作用させて精製することにより単離することができる。抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
A10蛋白質をコードするDNAは、A10蛋白質のin vivoやin vitroにおける生産に利用される。また、A10蛋白質とARF蛋白質との相互作用を調節するための遺伝子治療などへの応用も考えられる。A10蛋白質をコードするDNAは、A10蛋白質をコードしうるものであればいかなる形態でもよい。即ち、mRNAから合成されたcDNAであるか、ゲノムDNAであるか、化学合成DNAであるかなどを問わない。また、A10蛋白質をコードしうる限り、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNAが含まれる。
A10蛋白質をコードするDNAは、当業者に公知の方法により調製することができる。例えば、A10蛋白質を発現している細胞よりcDNAライブラリーを作製し、A10 cDNA(例えばヒトA10 cDNA)の一部をプローブにしてハイブリダイゼーションを行うことにより調製できる。cDNAライブラリーは、例えば、文献(Sambrook,J.et al.,Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))に記載の方法により調製してもよいし、市販のDNAライブラリーを用いてもよい。また、A10蛋白質を発現している細胞よりRNAを調製し、逆転写酵素によりcDNAを合成した後、A10 cDNA配列に基づいてオリゴDNAを合成し、これをプライマーとして用いてPCR反応を行い、A10蛋白質をコードするcDNAを増幅させることにより調製することも可能である。
また、得られたcDNAの塩基配列を決定することにより、それがコードする翻訳領域を決定でき、A10蛋白質のアミノ酸配列を得ることができる。また、得られたcDNAをプローブとしてゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、ゲノムDNAを単離することができる。同様に、A10蛋白質をコードする遺伝子の内因的転写制御配列を得ることもできる。
具体的には、次のようにすればよい。まず、A10蛋白質を発現する細胞、組織、臓器からmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin,J.M.et al.,Biochemistry(1979)18,5294−5299)、AGPC法(Chomczynski,P.and Sacchi,N.,Anal.Biochem.(1987)162,156−159)等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(Pharmacia)等を使用して全RNAからmRNAを精製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia)を用いることによりmRNAを直接調製することもできる。得られたmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First−strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業)等を用いて行うこともできる。また、5’−Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction;PCR)を用いた5’−RACE法や3’−RACE法(Frohman,M.A.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1988)85,8998−9002;Belyavsky,A.et al.,Nucleic Acids Res.(1989)17,2919−2932)にしたがい、cDNAの合成および増幅を行うことができる。
得られたPCR産物から目的とするDNA断片を調製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列は、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法により確認することができる。
A10蛋白質をコードするDNAは、発現に使用する宿主のコドン使用頻度を考慮して、より発現効率の高い塩基配列を設計することができる(Grantham,R.et al.,Nucleic Acids Research(1981)9,r43−74)。また、市販のキットや公知の方法によってDNA配列を改変することができる。改変としては、例えば、制限酵素による消化、合成オリゴヌクレオチドや適当なDNAフラグメントの挿入、リンカーの付加、開始コドン(ATG)及び/又は終止コドン(TAA、TGA、又はTAG)の挿入等が挙げられる。
A10蛋白質をコードするDNAを用いてA10蛋白質を発現させるためには、例えば発現ベクターを構築し、宿主細胞に導入する。ベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5 α、HB101、XL1Blue)などで大量に増幅させ大量調製するために、大腸菌で増幅されるための「ori」をもち、さらに形質転換された大腸菌の選抜遺伝子(例えば、なんらかの薬剤(アンピシリンやテトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコール)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すれば特に制限はない。ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR−Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM−T、pDIRECT、pT7などが挙げられる。A10蛋白質を生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5 α、HB101、XL1−Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら,Nature(1989)341,544−546;FASEB J.(1992)6,2422−2427)、araBプロモーター(Betterら,Science(1988)240,1041−1043)、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX−5X−1(ファルマシア社製)、「QIAexpress system」(キアゲン社製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現するBL21が好ましい)などが挙げられる。
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。蛋白質分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei,S.P.et al.,J.Bacteriol.(1987)169,4379)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
大腸菌以外にも、例えば、A10蛋白質を製造するためのベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(インビトロゲン社製)や、pEGF−BOS(Nucleic Acids.Res.,1990,18(17),p5322)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac−to−BAC baculovairus expression system」(ギブコBRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(インビトロゲン社製)、pNV11、SP−Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら,Nature(1979)277,108)、MMLV−LTRプロモーター、EF1 αプロモーター(Mizushimaら,Nucleic Acids Res.(1990)18,5322)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK−RSV、pBK−CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
一方、動物の生体内でA10蛋白質をコードするDNAを発現させる方法としては、該DNAを適当なベクターに組み込み、例えば、レトロウイルス法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、アデノウイルス法などにより生体内に導入する方法などが挙げられる。これにより、A10蛋白質とARF蛋白質との相互作用の調節により治療可能な疾患等に対する遺伝子治療を行うことも可能である。用いられるベクターとしては、例えば、アデノウイルスベクター(例えばpAdexlcw)やレトロウイルスベクター(例えばpZIPneo)などが挙げられるが、これらに制限されない。ベクターへのA10 cDNAの挿入などの一般的な遺伝子操作は、常法に従って行うことが可能である(前記Molecular Cloning,5.61−5.63)。生体内への投与は、ex vivo法またはin vivo法であり得る。A10蛋白質をコードするこれらのベクターは、本発明においてA10遺伝子の発現を上昇させる薬剤として用いることができる。
A10蛋白質をコードするDNAにより宿主細胞を形質転換し、形質転換された細胞を培養することにより、A10蛋白質をin vitroで生産することができる。培養は、公知の方法に従い行うことができる。例えば、動物細胞の培養液としては、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMなどを使用することができる。その際、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできるし、無血清培養してもよい。培養時のpHは、約6〜8であるのが好ましい。培養は、通常、約30〜40℃で約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。
ベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、例えば、大腸菌や種々の真核細胞などを用いることが可能である。真核細胞を使用する場合、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を宿主に用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO、COS、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle,et al.,Nature(1981)291,358−340)、あるいは昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5が知られている。CHO細胞としては、特に、DHFR遺伝子を欠損したCHO細胞であるdhfr−CHO(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1980)77,4216−4220)やCHO K−1(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1968)60,1275)を好適に使用することができる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(ベーリンガーマンハイム社製)を用いた方法、エレクトロポーレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が蛋白質生産系として知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が知られている。原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、例えば、JM109、DH5 α、HB101等が挙げられ、その他、枯草菌が知られている。
一方、in vivoで蛋白質を産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。これらの動物又は植物に目的とするDNAを導入し、動物又は植物の体内で蛋白質を産生させ、回収する。
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシを用いることができる(Vicki Glaser,SPECTRUM Biotechnology Applications,1993)。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
例えば、目的とするDNAを、ヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子との融合遺伝子として調製する。次いで、この融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ移植する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的の蛋白質を得ることができる。トランスジェニックヤギから産生される蛋白質を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert,K.M.et al.,Bio/Technology(1994)12,699−702)。
また、昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。カイコを用いる場合、目的の蛋白質をコードするDNAを挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させることにより、このカイコの体液から目的の蛋白質を得ることができる(Susumu,M.et al.,Nature(1985)315,592−594)。
さらに、植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、目的とする蛋白質をコードするDNAを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に感染させ、本タバコの葉より所望のポリペプチドを得ることができる(Ma,J.K.et al.,Eur.J.Immunol.(1994)24,131−138)。
これにより得られたA10蛋白質は、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一な蛋白質として精製することができる。蛋白質の分離、精製は、通常の蛋白質の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせれば蛋白質を分離、精製することができる。
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual.Ed Daniel R.Marshak et al.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。これらの精製方法を用い、A10蛋白質を高度に精製することもできる。
なお、蛋白質を精製前又は精製後に適当な蛋白質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり部分的にペプチドを除去することもできる。蛋白質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが用いられる。
A10蛋白質、A10蛋白質をコードする核酸および該核酸を含むベクターは、公知の方法に従って製剤化することができる。
また、A10遺伝子の発現、またはARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物としては、例えば、A10遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチド等が挙げられる。アンチセンスヌクレオチドは、A10蛋白質をコードするヌクレオチドに相補的な領域を含むヌクレオチドである。好ましくは、アンチセンスヌクレオチドはA10蛋白質をコードするヌクレオチドに相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドである。ここで「相補鎖」とは、A:T(ただしRNAの場合はU)、G:Cの塩基対からなる2本鎖核酸の一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、相補的ヌクレオチド領域が完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上の塩基配列上の相同性を有すればよい。相同性を決定するためのアルゴリズムは文献(Wilbur,W.J.and Lipman,D.J.Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1983)80,726−730)に記載のアルゴリズムにしたがえばよい。アンチセンスヌクレオチドは、ARFを介するシグナル伝達の調節剤、p53を介するシグナル伝達の調節剤、および細胞増殖の調節剤として有用である。すなわち、A10蛋白質をコードする核酸に対するアンチセンスヌクレオチドは、A10蛋白質の発現を抑制することによりARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を低下させ、ARFを介するシグナル伝達およびp53を介するシグナル伝達を調節し、さらに細胞増殖を制御する。また、A10蛋白質をコードする核酸に対するアンチセンスヌクレオチドは、後述の本発明の検査にも利用され得る。
このようなヌクレオチドには、A10遺伝子の発現を制御するヌクレオチド又はヌクレオチド誘導体(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドやリボザイム、またはこれらをコードするDNA等)が含まれる。
アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、例えば、A10遺伝子のゲノム上のDNA配列、または該遺伝子から転写されるmRNAの配列のいずれかの箇所にハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは該A10遺伝子配列またはmRNA配列中の連続する少なくとも15個以上のヌクレオチドに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。さらに好ましくは、連続する少なくとも15個以上のヌクレオチドが翻訳開始コドンを含むアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、それらの誘導体や修飾体を使用することができる。修飾体として、例えばメチルホスホネート型又はエチルホスホネート型のような低級アルキルホスホネート修飾体、ホスホロチオエート修飾体又はホスホロアミデート修飾体等が挙げられる。
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA又はmRNAの所定の領域を構成するヌクレオチドに対応するヌクレオチドが全て相補配列であるもののみならず、DNAまたはmRNAとオリゴヌクレオチドとが該A10遺伝子配列またはmRNA配列にハイブリダイズできる限り、1又は複数個のヌクレオチドのミスマッチが存在しているものも含まれる。
アンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、A10蛋白質の産生細胞に作用して、該蛋白質をコードするDNA又はmRNAに結合することにより、その転写又は翻訳を阻害したり、mRNAの分解を促進したりして、A10遺伝子の発現を抑制することにより結果的にA10蛋白質とARF蛋白質との相互作用を抑制する効果を有する。
アンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、それらに対して不活性な適当な基剤と混和して塗布剤、パップ剤等の外用剤とすることができる。また、必要に応じて、賦形剤、等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、無痛化剤等を加えて錠剤、散財、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻剤など、さらに凍結乾燥剤とすることができる。これらは常法にしたがって調製することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は患者の患部に直接適用するか、又は血管内に投与するなどして結果的に患部に到達し得るように患者に適用する。さらには、持続性、膜透過性を高めるアンチセンス封入素材を用いることもできる。例えば、リポソーム、ポリ−L−リジン、リピッド、コレステロール、リポフェクチン又はこれらの誘導体が挙げられる。アンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体の投与量は、患者の状態に応じて適宜調整し、好ましい量を用いることができる。例えば、0.1〜100mg/kg、好ましくは0.1〜50mg/kgの範囲で投与することができる。
アンチセンスオリゴヌクレオチドはA10遺伝子の発現を阻害し、従ってA10蛋白質とARF蛋白質との相互作用を抑制することにおいて有用である。また、アンチセンスオリゴヌクレオチドを含有する発現阻害剤は、A10蛋白質とARF蛋白質との相互作用を抑制することが可能である点で有用である。A10遺伝子のアンチセンス核酸は、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の抑制剤となる。さらにARF蛋白質を介するシグナル伝達の調節剤、p53蛋白質を介するシグナル伝達の調節剤、および細胞増殖の調節剤となる。また本発明は、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用、ARF蛋白質またはp53を介するシグナル伝達、あるいは細胞増殖を調節するための、A10遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドの使用にも関する。
また、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を低下させる化合物としては、例えばA10蛋白質またはARF蛋白質に対する抗体が挙げられる。A10蛋白質またはARF蛋白質に対する抗体は、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の抑制剤となる。さらにA10蛋白質またはARF蛋白質に対する抗体は、ARF蛋白質を介するシグナル伝達の調節剤、p53蛋白質を介するシグナル伝達の調節剤、および細胞増殖の調節剤となり得る。すなわち、該抗体によりA10蛋白質とARF蛋白質との相互作用を阻害すれば、ARF蛋白質を介するシグナル伝達およびp53蛋白質を介するシグナル伝達を調節し、さらに細胞増殖を制御しうる。本発明は、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用、ARF蛋白質を介するシグナル伝達、p53蛋白質を介するシグナル伝達、および細胞増殖を調節するための、A10蛋白質またはARF蛋白質に対する抗体の使用にも関する。また、該抗体は、後述の本発明の検査にも使用される。
A10蛋白質またはARF蛋白質に対する抗体は、公知の方法により作製することができる。抗体の形態には特に制限はない。ポリクローナル抗体の他、モノクローナル抗体も含まれる。また、ウサギなどの免疫動物に抗原蛋白質を免疫して得た抗血清、すべてのクラスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、さらにヒト抗体や遺伝子組み換えによるヒト型化抗体も含まれる。
抗体取得の感作抗原として使用される蛋白質は、その由来となる動物種に制限されないが哺乳動物、例えばヒト、マウス又はラット由来の蛋白質が好ましく、特にヒト由来の蛋白質が好ましい。ヒト由来のA10蛋白質は、上述のようにして調製することができる。
本発明において、感作抗原として使用される蛋白質は、全長蛋白質であってもよいし、また、蛋白質の部分ペプチドであってもよい。蛋白質の部分ペプチドとしては、例えば、蛋白質のアミノ基(N)末端断片やカルボキシ(C)末端断片が挙げられる。また、A10蛋白質とARF蛋白質との結合領域が挙げられる。本明細書で述べる「抗体」とは蛋白質の全長又は断片に反応する抗体を意味する。
A10蛋白質に対する抗体を得るには、例えばA10蛋白質又はその断片をコードする遺伝子を公知の発現ベクター系に挿入し、該ベクターで宿主細胞を形質転換させ、該宿主細胞内外から目的の蛋白質又はその断片を公知の方法で得て、これらを感作抗原として用いればよい。また、蛋白質を発現する細胞又はその溶解物あるいは化学的に合成したA10蛋白質を感作抗原として使用してもよい。短いペプチドは、キーホールリンペットヘモシアニン、ウシ血清アルブミン、または卵白アルブミンなどのキャリア蛋白質と適宜結合させて抗原とすることができる。
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、モノクローナル抗体の作製においては細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的には、げっ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が使用される。
げっ歯目の動物としては、例えば、マウス、ラット、およびハムスター等が使用される。ウサギ目の動物としては、例えば、ウサギが使用される。霊長目の動物としては、例えば、サルが使用される。サルとしては、狭鼻下目のサル(旧世界ザル)、例えば、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、およびチンパンジー等が使用される。
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。一般的方法としては、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は皮下に注射する。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate−Buffered Saline)または生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものに対し、所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に投与する。さらに、その後、フロイント不完全アジュバントに適量混合した感作抗原を、4〜21日毎に数回投与することが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを常法により確認する。
ここで、ある蛋白質に対するポリクローナル抗体を得るには、血清中の所望の抗体レベルが上昇したことを確認した後、抗原を感作した哺乳動物の血液を取り出す。この血液から公知の方法により血清を分離する。ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用してもよいし、必要に応じこの血清からポリクローナル抗体を含む画分をさらに単離して、これを使用してもよい。例えば、抗原に用いた蛋白質をカップリングさせたアフィニティーカラムを用いて、抗原蛋白質のみを認識する画分を得て、さらにこの画分をプロテインAあるいはプロテインGカラムを利用して精製することにより、免疫グロブリンGあるいはMを調製することができる。
モノクローナル抗体を得るには、上記抗原を感作した哺乳動物の血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞を取り出し、細胞融合に付せばよい。この際、細胞融合に使用される好ましい免疫細胞として、特に脾細胞が挙げられる。前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としては、好ましくは哺乳動物のミエローマ細胞、より好ましくは、薬剤による融合細胞選別のための特性を獲得したミエローマ細胞が挙げられる。前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、例えば、ミルステインらの方法(Galfre,G.and Milstein,C.,Methods Enzymol.(1981)73,3−46)等に準じて行うことができる。
細胞融合により得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常、数日〜数週間継続して行う。次いで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングを行う。
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球、例えばEBウィルスに感染したヒトリンパ球をin vitroで蛋白質、蛋白質発現細胞又はその溶解物で感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、蛋白質への結合活性を有する所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることもできる(特開昭63−17688号公報)。
次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、抗原とした蛋白質をカップリングしたアフィニティーカラムなどにより精製することで調製することが可能である。得られる抗体は、A10蛋白質の検出に用いられる他、A10蛋白質のアンタゴニストの候補になる。A10蛋白質に対する抗体は、A10蛋白質とARF蛋白質との相互作用を抑制する薬剤の候補となる。
抗体は、ヒト抗体またはヒト型抗体であってもよい。例えば、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原となる蛋白質、蛋白質発現細胞又はその溶解物を免疫して抗体産生細胞を取得し、これをミエローマ細胞と融合させたハイブリドーマを用いて蛋白質に対するヒト抗体を取得することができる(国際公開番号WO92−03918、WO93−2227、WO94−02602、WO94−25585、WO96−33735およびWO96−34096参照)。
ハイブリドーマを用いて抗体を産生する以外に、抗体を産生する感作リンパ球等の免疫細胞を癌遺伝子(oncogene)により不死化させた細胞を用いてもよい。
このように得られたモノクローナル抗体はまた、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体として得ることができる(例えば、Borrebaeck,C.A.K.and Larrick,J.W.,THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES,Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD,1990参照)。組換え型抗体は、それをコードするDNAをハイブリドーマ又は抗体を産生する感作リンパ球等の免疫細胞からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させる。
さらに、A10蛋白質に結合する限り、抗体断片や抗体修飾物であってよい。例えば、抗体断片としては、Fab、F(ab’)2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)(Huston,J.S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1988)85,5879−5883)が挙げられる。具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co,M.S.et al.,J.Immunol.(1994)152,2968−2976;Better,M.and Horwitz,A.H.,Methods Enzymol.(1989)178,476−496;Pluckthun,A.and Skerra,A.,Methods Enzymol.(1989)178,497−515;Lamoyi,E.,Methods Enzymol.(1986)121,652−663;Rousseaux,J.et al.,Methods Enzymol.(1986)121,663−669;Bird,R.E.and Walker,B.W.,Trends Biotechnol.(1991)9,132−137参照)。
抗体修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。本発明で言う「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野において既に確立されている。
また、抗体は公知の技術を使用して非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域からなるキメラ抗体又は非ヒト抗体由来のCDR(相補性決定領域)とヒト抗体由来のFR(フレームワーク領域)及び定常領域からなるヒト型化抗体として得ることができる。
前記のように得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えば、アフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる(Antibodies:A Laboratory Manual.Ed Harlow and David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)が、これらに限定されるものではない。上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又は酵素結合免疫吸着検定法(Enzyme−linked immunosorbent assay;ELISA)等により行うことができる。
アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D,POROS,Sepharose F.F.(Pharmacia)等が挙げられる。
アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual.Ed Daniel R.Marshak et al.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1996)。これらのクロマトグラフィーはHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
抗体の抗原結合活性を測定する方法としては、例えば、吸光度の測定、酵素結合免疫吸着検定法(Enzyme−linked immunosorbent assay;ELISA)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光抗体法を用いることができる。ELISAを用いる場合、抗体を固相化したプレートに目的の蛋白質を添加し、次いで目的の抗体を含む試料、例えば抗体産生細胞の培養上清や精製抗体を加える。酵素、例えばアルカリフォスファターゼ等で標識した抗体を認識する二次抗体を添加し、プレートをインキュベーションし、次いで洗浄した後、p−ニトロフェニル燐酸などの酵素基質を加えて吸光度を測定することで抗原結合活性を評価することができる。蛋白質としてA10蛋白質の断片、例えばそのC末端からなる断片等を使用してもよい。抗体の活性評価には、BIAcore(Pharmacia製)を使用することもできる。
また、A10蛋白質またはARF蛋白質の部分ペプチドは、本来のARF蛋白質とA10蛋白質との結合を阻害することにより、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を抑制しうる。従って、A10蛋白質またはARF蛋白質の部分ペプチドは、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物となり、ARF蛋白質を介するシグナル伝達の調節剤、p53蛋白質を介するシグナル伝達の調節剤、細胞増殖調節剤、抗腫瘍剤等の上記の各種調節剤として使用し得る。このような部分ペプチドは、少なくとも7アミノ酸以上、好ましくは8アミノ酸以上、さらに好ましくは9アミノ酸以上のアミノ酸配列からなる。部分ペプチドは、遺伝子工学的手法、公知のペプチド合成法、あるいはA10蛋白質またはARF蛋白質を適切なペプチダーゼで切断することによって製造することができる。ペプチドの合成は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによってもよい。
A10蛋白質がARF蛋白質に相互作用することから、A10遺伝子の変異や発現異常を検出することにより、該相互作用を検査することができる。本発明は、A10蛋白質に結合する抗体、あるいはA10蛋白質をコードするDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを含む、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の検査試薬を提供する。A10遺伝子の発現の異常は、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の変化を誘起し、ARF蛋白質の細胞内における機能を修飾して細胞増殖やアポトーシスの制御を改変し得る。従って、細胞におけるA10遺伝子の変異や発現異常を検査することにより、細胞増殖およびアポトーシス等の検査を行うことができる。具体的には、本発明のARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の検査試薬は、ARF蛋白質を介するシグナル伝達の異常の検査、p53蛋白質を介するシグナル伝達の異常の検査、細胞増殖異常の検査、アポトーシスの検査等に有用である。また疾患の検査にも有用である。すなわち、A10遺伝子の発現、またはA10蛋白質のARF蛋白質に対する相互作用は、細胞増殖またはアポトーシスを伴う疾患と関与している可能性がある。例えば、A10遺伝子またはA10蛋白質を腫瘍の検査に利用することができる。例えば、被検試料において、A10蛋白質あるいは該蛋白質をコードするmRNAまたはDNAを検出または解析することにより、腫瘍発生のリスク、腫瘍細胞の存在、腫瘍の進行度、腫瘍の悪性度、腫瘍の種類等を検査することが可能である。
本発明において「腫瘍の検査」とは、A10遺伝子の変異(構造的または発現量の変異)に起因して腫瘍を形成している患者の検査のみならず、被験者がA10遺伝子の発現量の異常または遺伝子の変異に起因して癌にかかりやすいか否かを判断するために行う、A10遺伝子の発現量の検査、および遺伝子の変異の検査も含まれる。すなわち、A10遺伝子の発現の亢進や、A10対立遺伝子の片方または両方に変異(多型を含む)が生じることなどにより、表面上は未だ症状を発現していない場合においても、癌にかかる危険性が影響を受けるものと考えられる。
本発明の検査は、例えばA10蛋白質に結合する抗体、あるいはA10蛋白質をコードするDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを利用して行うことができる。ポリヌクレオチドはDNAまたはRNA、あるいはそれらの誘導体であってよい。該ポリヌクレオチドは、例えばA10蛋白質をコードするDNAの検出、増幅、該DNAの発現の検出に有用である。ここで、DNAの検出には、DNAの変異の検出も含まれる。ここで「相補鎖」とは、上記と同様、A:T(ただしRNAの場合はU)、G:Cの塩基対からなる2本鎖核酸の一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、相補的ヌクレオチド領域が完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上の塩基配列上の相同性を有すればよい。相同性を決定するためのアルゴリズムは文献(Wilbur,W.J.and Lipman,D.J.,Proc.Natl,Acad.Sci.USA(1983)80,726−730)に記載のアルゴリズムにしたがえばよい。このポリヌクレオチドをプローブまたはプライマー等として用い、A10遺伝子の発現または変異を検出することにより、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の検査を行うことができる。これにより、細胞増殖の異常または腫瘍等の細胞増殖性疾患の検査・診断を行うことができる。
A10蛋白質に結合する抗体による検査は、この抗体をA10蛋白質が含まれると予想される試料と接触せしめ、該抗体と該蛋白質との免疫複合体を検出又は測定することからなる、A10蛋白質の検出又は測定方法により実施することができる。正常組織におけるA10蛋白質の発現と比較して有意な変化は、細胞増殖異常または細胞の癌化を示唆する。従って、例えばA10遺伝子の発現量を検査することを通して、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の検査を行うことができる。これにより、細胞増殖の異常または腫瘍等の細胞増殖性疾患の検査を行うことができる。
これらの抗体やポリヌクレオチドを検査試薬として用いる場合は、適宜安定剤、保存剤、塩、緩衝剤などの溶質、水、生理食塩水などの溶液と組み合わせることができる。本発明の検査試薬は、このような組成物とすることができる。ポリヌクレオチドは、DNAチップやマイクロアレイの作製に利用することもできる。これらのDNAチップやマイクロアレイは、本発明の検査に用いられ得る。
本発明の検査方法の一つは、被検試料中におけるA10蛋白質をコードする核酸の発現量を検出する工程を含む方法である。発現は、転写または翻訳を指標に検出することができる。このような検査方法は、(a)患者由来のRNA試料にA10蛋白質をコードするDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを接触させる工程、(b)該RNA試料への該ポリヌクレオチドの結合を検出する工程、を含む方法が含まれる。このような検査は、例えばノーザンハイブリダイゼーションやRT−PCRなどにより行うことができる。RT−PCRを利用した検査は、具体的には(a)患者由来のRNA試料からcDNAを合成する工程、(b)合成したcDNAを鋳型に、上記ポリヌクレオチドをプライマーとして用いて、ポリメラーゼ連鎖反応を行う工程、(c)ポリメラーゼ連鎖反応により増幅されたDNAを検出する工程、を含む。ノーザンハイブリダイゼーションやRT−PCRは、公知の遺伝子工学技術により行うことができる。また、DNAチップまたはDNAマイクロアレイによる検出も可能である。対照として健常者における結果と比較することにより、異常を検出することができる。A10蛋白質をコードする核酸の発現の亢進は、A10蛋白質とARF蛋白質との相互作用の亢進を示唆し、A10蛋白質をコードする核酸の発現の低下は、A10蛋白質とARF蛋白質との相互作用の低下を示唆する。
また、本発明の検査方法には、患者由来の被検試料中におけるA10蛋白質量を検出する工程を含む方法が含まれる。このような検査は、例えばA10蛋白質に対する抗体を用いて行うことができる。A10に対する抗体を用いた検査は、具体的には、(a)患者由来の蛋白質試料にA10蛋白質に結合する抗体を接触させる工程、(b)該蛋白質試料への該抗体の結合を検出する工程、を含む。蛋白質の検出は、A10蛋白質に対する抗体を用いた免疫沈降、ウェスタンブロット、免疫組織化学、ELISAなどにより行うことができる。
これらの検査は、具体的には、例えばバイオプシーにより採取した組織に対して、免疫組織染色あるいはin situハイブリダイゼーション等の方法で発現を調べる事によりA10遺伝子の発現異常を起した病巣を特定することが考えられる。A10遺伝子の発現の異常は、例えば癌の発症および/または進展の可能性を示唆する。また、癌などの疾患は、種々の原因で起こっていると考えられる。例えば癌においてA10遺伝子の発現の異常が認められた場合、p53経路が抑制されていることが予測される事から、この経路を標的とした治療法を施行する、と云ったテーラーメード療法を行う際の診断に利用することが考えられる。
本発明の検査は、また、A10蛋白質における変異または該蛋白質をコードする核酸における変異を検出することによって行うことも考えられる。A10遺伝子は癌の発症および/または進展に関与している可能性が考えられることから該蛋白質および該核酸の変異は、癌の発症や進展の危険を示唆する。
A10蛋白質の変異には、構造的変異および機能的変異が含まれる。例えば、A10蛋白質に対する抗体を用いて、患者由来の蛋白質試料のウェスタンブロット等により蛋白質の分子量を健常者由来の蛋白質と比較することにより、蛋白質の構造的変異を検査することができる。また、蛋白質の修飾の変化、A10蛋白質と結合する蛋白質または抗体の結合性の変化などを指標に、A10蛋白質の変異を検出することもできる。これらの検査には、例えばA10蛋白質に対する抗体を用いたELISA、免疫沈降法、pull−down法などを利用することができる。また、本発明の検査は、A10蛋白質とARF蛋白質との結合を検出することにより行うこともできる。A10蛋白質とARF蛋白質との結合能の変化は、癌の発症や進展に関与する可能性が考えられる。蛋白質の結合は、例えばA10蛋白質またはARF蛋白質に対する抗体を用いたELISA、免疫沈降法、pull−down法などにより評価することができる。
A10蛋白質をコードする核酸における変異の検出には、A10蛋白質をコードするDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドが利用され得る。該ヌクレオチドは、A10蛋白質をコードするcDNAの塩基配列(例えば配列番号:1)、およびゲノムDNA配列(エクソン、イントロン、および内因性転写制御配列を含む)の塩基配列、またはその相補鎖と相補的なポリヌクレオチド(プローブおよびプライマー)である。核酸における変異は、mRNA、cDNA、またはゲノムDNAを用いて調べることができる。なお、変異の検査には、A10対立遺伝子の片方のアレルに変異を持つ患者(キャリアー)を特定するための検査も含まれる。また、一塩基多型(SNP)の型を決定するための検査も含まれる。A10遺伝子の多型は、癌の罹りやすさに関連する可能性がある。
プライマーとして用いられる場合、ポリヌクレオチドは、通常、15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、A10遺伝子またはその発現を調節する領域の少なくとも一部を増幅しうるものであればいかなるものでもよい。このような領域としては、例えば、A10遺伝子のエキソン領域、イントロン領域、プロモーター領域、エンハンサー領域が含まれる。
一方、プローブとしてのポリヌクレオチドは、合成ポリヌクレオチドであれば、通常、少なくとも15bp以上の鎖長を有する。プラスミドDNAなどのベクターに組み込んだクローンから得た二本鎖DNAを変性させてプローブとして用いることも可能である。プローブとしては、A10遺伝子またはその発現を調節する領域の少なくとも一部の塩基配列またはそれらの相補鎖に相補的であればいかなるものでもよい。プローブがハイブリダイズする領域としては、例えば、A10遺伝子のエキソン領域、イントロン領域、プロモーター領域、エンハンサー領域が含まれる。プローブとして用いる場合、ポリヌクレオチドあるいは二本鎖DNAは適宜標識して用いられる。標識する方法としては、例えば、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いてポリヌクレオチドの5’端を32Pでリン酸化することにより標識する方法や、クレノウ酵素などのDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーオリゴヌクレオチドなどをプライマーとして32Pなどのアイソトープや、蛍光色素あるいはビオチンなどによって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法など)が挙げられる。
A10遺伝子の変異を検出する方法の一つの態様は、患者のA10遺伝子の塩基配列を直接決定する方法である。例えば、上記ヌクレオチドをプライマーとして、A10遺伝子の変異に起因する疾患の疑いのある患者から単離したDNAを鋳型として、PCR(Polymerase Chain Reaction)法などにより、患者のA10遺伝子の一部もしくは全部(例えばエキソン、イントロン、プロモーター、エンハンサーを含む領域)を増幅し、その塩基配列の決定を行う。これを健常者のA10遺伝子の配列と比較することにより、A10遺伝子の変異に起因する疾患を検査することができる。
本発明の検査方法としては、このように直接患者由来のDNAの塩基配列を決定する方法以外に種々の方法が用いられる。その一つの態様は、(a)患者からDNA試料を調製する工程、(b)A10蛋白質をコードするDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドをプライマーとして患者由来のDNAを増幅する工程、(c)増幅したDNAを一本鎖DNAに解離させる工程、(d)解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離する工程、および(e)分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度を健常者の対照と比較する工程、を含む。
このような方法として、PCR−SSCP(single−strand conformation polymorphism、一本鎖高次構造多型)法(Cloning and polymerase chain reaction−single−strand conformation polymorphism analysis of anonymous Alu repeats on chromosome 11,Genomics,1992 Jan 1,12(1):139−146;Detection of p53 gene mutations in human brain tumors by single−strand conformation polymorphism analysis of polymerase chain reaction products,Oncogene,1991 Aug 1,6(8):1313−1318;Multiple fluorescence−based PCR−SSCP analysis with postlabeling,PCR Methods Appl.,1995 Apr 1,4(5):275−282)が挙げられる。この方法は操作が比較的簡便であり、また試料の量も少なくてすむなどの利点を有するため、特に多数のDNAサンプルをスクリーニングするのに好適である。その原理は以下の如くである。二本鎖DNA断片を一本鎖に解離すると、各鎖はその塩基配列に依存した独自の高次構造を形成する。この解離したDNA鎖を変性剤を含まないポリアクリルアミドゲル中で電気泳動すると、それぞれの高次構造の差に応じて、相補的な同じ鎖長の一本鎖DNAが異なる位置に移動する。一塩基の置換によってもこの一本鎖DNAの高次構造は変化し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動において異なる移動度を示す。従って、この移動度の変化を検出することによりDNA断片に点突然変異や欠失、あるいは挿入などによる変異が存在することを検出することができる。
具体的には、まず、A10遺伝子の一部、あるいは全部をPCR法などによって増幅する。増幅される範囲としては、通常200〜400bp程度の長さが好ましい。また、増幅される領域としては、A10遺伝子の全てのエキソンおよび/または全てのイントロンの他、A10遺伝子のプロモーター、またはエンハンサーなどが挙げられる。PCRによる遺伝子断片増幅の際、32Pなどのアイソトープ、あるいは蛍光色素やビオチンなどによって標識したプライマーを用いるか、あるいはPCR反応液に32Pなどのアイソトープ、あるいは蛍光色素やビオチンなどによって標識した基質塩基を加えてPCRを行うことによって、合成されるDNA断片を標識する。あるいはPCR反応後にクレノウ酵素などを用いて32Pなどのアイソトープ、あるいは蛍光色素やビオチンなどによって標識した基質塩基を、合成されたDNA断片に付加することによっても標識を行うことができる。こうして得られた標識されたDNA断片を、熱を加えることなどにより変性し、尿素などの変性剤を含まないポリアクリルアミドゲルによって電気泳動を行う。この際、ポリアクリルアミドゲルに適量(5から10%程度)のグリセロールを添加することにより、DNA断片の分離の条件を改善することができる。また、泳動条件は各DNA断片の性質により変動するが、通常、室温(20から25℃)で行い、好ましい分離が得られないときには4から30℃までの温度で最適の移動度を与える温度の検討を行う。電気泳動後、DNA断片の移動度を、X線フィルムを用いたオートラジオグラフィーや、蛍光を検出するスキャナー等で検出し、解析する。移動度に差があるバンドが検出された場合、このバンドを直接ゲルから切り出し、PCRによって再度増幅し、それを直接シークエンシングすることにより、変異の存在を確認することができる。また、標識したDNAを使わない場合においても、電気泳動後のゲルをエチジウムブロマイドや銀染色法などによって染色することによって、バンドを検出することができる。
本発明の検査方法の他の態様は、(a)患者からDNA試料を調製する工程、(b)上記ポリヌクレオチドをプライマーとして用いて患者由来のDNAを増幅する工程、(c)増幅したDNAを切断する工程、(d)DNA断片をその大きさに応じて分離する工程、(e)分離したDNA断片に対し、増幅断片を検出可能な標識プローブをハイブリダイズさせる工程、および(f)検出されたDNA断片の大きさを、健常者の対照と比較する工程、を含む。
このような方法としては、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法、PCR−RFLP法などが挙げられる。DNAを切断する酵素としては、通常、制限酵素を用いる。具体的には、制限酵素の認識部位に変異が存在する場合、あるいは制限酵素処理によって生じるDNA断片内に塩基挿入、または欠失がある場合、制限酵素処理後に生じる断片の大きさが健常者と比較して変化する。この変異を含む部分をPCR法によって増幅し、それぞれの制限酵素で処理することによって、これらの変異を電気泳動後のバンドの移動度の差として検出することができる。あるいは、染色体DNAをこれらの制限酵素によって処理し、電気泳動した後、プローブを用いてサザンブロッティングを行うことにより、変異の有無を検出することができる。用いられる制限酵素は、それぞれの変異に応じて適宜選択することができる。この方法では、ゲノムDNA以外にも患者から調製したRNAを逆転写酵素でcDNAにし、これをそのまま制限酵素で切断した後サザンブロッティングを行うこともできる。また、このcDNAを鋳型としてPCRでA10遺伝子の一部、あるいは全部を増幅し、それを制限酵素で切断した後、移動度の差を調べることもできる。
また、患者から調製したDNAの代わりにRNAを用いても同様に検出を行うことが可能である。このような方法は、(a)患者からRNA試料を調製する工程、(b)大きさに応じて調製したRNAを分離する工程、(c)分離したRNAに対し、検出可能な標識をした上記ポリヌクレオチドをプローブとしてハイブリダイズさせる工程、および(d)検出されたRNAの大きさを、健常者の対照と比較する工程、を含む。具体的な方法の一例としては、患者から調製したRNAを電気泳動し、プローブを用いてノーザンブロッティングを行い、移動度の差を検出する。
本発明の検査方法の他の態様は、(a)患者からDNA試料を調製する工程、(b)上記ポリヌクレオチドをプライマーとして患者由来のDNAを増幅する工程、(c)増幅したDNAを、DNA変性剤の濃度が次第に高まるゲル上で分離する工程、および(d)分離したDNAのゲル上での移動度を健常者の対照と比較する工程、を含む方法である。
このような方法としては、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(denaturant gradient gel electrophoresis:DGGE)が挙げられる。A10遺伝子の一部、あるいは全部を上記ポリヌクレオチドをプライマーとして用いたPCR法などによって増幅し、これを尿素などの変性剤の濃度が移動するに従って徐々に高くなっているポリアクリルアミドゲル中で電気泳動し、健常者と比較する。変異が存在するDNA断片の場合、より低い変性剤濃度位置でDNA断片が一本鎖になり、極端に移動速度が遅くなるため、この移動度の差を検出することにより変異の有無を検出することができる。
これら方法以外にも、特定位置の変異のみを検出する目的にはアレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法が利用できる。変異が存在すると考えられる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドを作製し、これと試料DNAでハイブリダイゼーションを行わせると、変異が存在する場合、ハイブリッド形成の効率が低下する。それをサザンブロット法や、特殊な蛍光試薬がハイブリッドのギャップにインターカレーションすることにより消光する性質を利用した方法などにより検出できる。また、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法による検出も可能である。具体的には、A10遺伝子の一部、あるいは全部をPCR法などによって増幅し、これをプラスミドベクター等に組み込んだA10 cDNA等から調製した標識RNAとハイブリダイゼーションを行う。変異が存在する部分においてはハイブリッドが一本鎖構造となるので、この部分をリボヌクレアーゼAによって切断し、これをオートラジオグラフィーなどで検出することによって変異の存在を検出することができる。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。なお、本明細書に引用された文献は全て、本明細書に組み込まれる。
[実施例1]cDNAのクローニングとシークエンス
酵母Two−Hybrid法によりマウスARF蛋白質と相互作用する蛋白質をコードする遺伝子の単離を試みた。具体的には、マウスp19ARFをコードする遺伝子(Accession No.L76092)を酵母Two−Hybrid用ベクターpODB8に組み込み、酵母株PJ69/2Aに遺伝子導入した。遺伝子導入した酵母は、トリプトファンを除いた基礎培地で選択し、クローニングした。このp19ARFを導入した酵母とプレトランスフォームドライブラリー酵母(クロンテック社)とを接合させ、トリプトファン、ロイシンを除いた基礎培地で生育する酵母を単離した。単離した酵母より、遺伝子断片を抽出し、DNA配列をジデオキシチェーンターミネーション法により、ABI377自動配列塩基決定機を用い分析した結果、A10遺伝子を単離することに成功した。単離された遺伝子断片の配列を検索したところ、DNA配列データバンク内に登録されている遺伝子であった(GenBank Accession Number NM_017632)。A10 cDNAの塩基配列およびそれにコードされる蛋白質のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:1および2に示す。
[実施例2]免疫沈降法による相互作用の確認
哺乳動物細胞用発現ベクター(pcDNA3 Invitrogen社)に、p19ARFにmycタグをつけた遺伝子を、また、V5プロテインと融合させて発現させるベクター(pcDNA3−V5,Invitrogen社)にA10遺伝子をそれぞれ組み込み、蛋白質発現ベクターA10−V5、およびp19ARFmycを構築した。実際に二つの蛋白質が相互作用をしているかどうかを確認するために、p19ARFmyc、A10−V5発現ベクターをCOS7細胞に遺伝子導入、蛋白質を発現させ、モノクローナルmyc抗体によって蛋白質複合体を沈降させた。さらに、この複合体をSDS−PAGEにて分離後、V5抗体を用いたウェスタンブロッティングによって相互作用を検出した(図2左)。また、まずV5抗体で免疫沈降を行い、SDS−PAGE後にmyc抗体でウェスタンブロッティングを行うことによっても相互作用を検出した(図2右)。この実験の結果、抗Myc抗体でp19ARF蛋白質を免疫沈降するとA10蛋白質が共沈し、逆に抗V5抗体で免疫沈降するとp19ARF蛋白質が共沈した。この結果から、A10−V5蛋白質とp19ARF蛋白質の相互作用が免疫沈降法によっても確認された。
[実施例3]細胞内での局在
哺乳動物細胞用発現ベクター(pcDNA3 Invitrogen社)にp19ARFにmycタグをつけた遺伝子を、また、GFP蛋白と融合させて発現させるベクター(pEGFPC1,Clontech社)にA10遺伝子をそれぞれ組み込み、蛋白質発現ベクターGFP−A10、およびp19ARFmycを構築した。p19ARFmyc、GFP−A10、またはp19ARFmyc+GFP−A10をNIH3T3細胞に遺伝子導入し、蛍光レーザー顕微鏡(オリンパス社)を用いて細胞内での局在を調べた。p19ARFmycの検出には抗myc抗体(Invitrogen社)で反応させ、その抗体をテキサスレッド結合二次抗体で反応させ検出した。一方、A10蛋白質はGFP自身の発光により検出した。実験の結果、GFP−A10蛋白質は細胞質に局在していることが示され、p19ARF蛋白質単独では核小体に蓄積する事が明らかとなった。一方、p19ARF+GFP−A10の共遺伝子導入においては、A10蛋白質は細胞質では検出されず、核小体に局在していることが示された。この結果より、GFP−A10とp19ARFとの結合によって、GFP−A10の核移行が促進されることを明らかにした(図3)。
産業上の利用の可能性
本発明者らは、A10蛋白質とARF蛋白質とが相互作用すること、またその相互作用によってA10蛋白質が核小体へ移行し、ARFの機能に影響を与え得ることを明らかにした。これらの知見から、A10蛋白質とARF蛋白質との相互作用を抑制する薬剤スクリーニングを行うことは、ARFの活性化、あるいは、不活性化による細胞増殖抑制、あるいは増殖促進を誘導することができる新規の薬剤開発を可能にすると考えられる。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、酵母細胞を利用したTwo−Hybrid系により、ARF蛋白質と相互作用する蛋白質をスクリーニングした結果示す写真である。図示したプラスミドをトランスフェクトした酵母細胞のフィルターβ−galアッセイを示す。クローンA−10およびp19ARFを導入した細胞において、両者の相互作用を示すβ−galレポーター遺伝子の活性化が観察された。
図2は、p19AR蛋白質およびA10蛋白質のin vivo結合を示す写真である。p19ARF−mycおよびA10−V5をコードする発現ベクターをCOS7細胞にトランスフェクトした。細胞抽出液を抗Myc抗体(anti−myc)または抗V5抗体(anti−V5)を用いた免疫沈降により、p19ARFmyc蛋白質とA10−V5蛋白質との相互作用を確認した。図中レーン3および8が遺伝子導入細胞を免疫沈降した被検サンプルを表し、レーン1、2、6、および7は免疫沈降前対照(Input)、レーン4、5、9、および10は遺伝子導入未処理対照(Unt.)を表す。A10−V5蛋白質とp19ARF蛋白質の相互作用が免疫沈降法によっても確認され、Myc抗体でp19ARF蛋白質を免疫沈降するとA10蛋白質が共沈し、逆に抗V5抗体で免疫沈降するとp19ARF蛋白質が共沈した。
図3は、p19ARFmyc蛋白質およびGFP−A10蛋白質の細胞内局在を示す写真である。p19ARFmyc蛋白質またはGFPタグを付加したA10蛋白質(GFP−A10)をコードする発現ベクターを単独、あるいは両者をNIH3T3細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に固定して顕微鏡下で観察した。
Claims (5)
- ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)被検試料の存在下でARF蛋白質とA10蛋白質とを接触させる工程、
(b)ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を検出する工程、
(c)被検試料非存在下で検出した場合と比較して、該相互作用を調節する化合物を選択する工程、を含む方法。 - ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)A10遺伝子を内因的に保持する細胞に被検試料を接触させる工程、
(b)A10遺伝子の発現を検出する工程、
(c)被検試料を該細胞に接触させない場合と比較して、該発現を調節する活性を有する化合物を選択する工程、を含む方法。 - ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用を調節する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)A10遺伝子の内因的転写制御配列の下流に機能的に結合されたレポーター遺伝子を保持する細胞に、被検試料を接触させる工程、
(b)該レポーター遺伝子の発現を検出する工程、
(c)被検試料を該細胞に接触させない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現を調節する活性を有する化合物を選択する工程、を含む方法。 - 下記(a)または(b)の工程を含む、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の検査方法:
(a)患者由来の被検試料中におけるA10蛋白質をコードする核酸の発現量を検出し、健常者の発現量と比較する工程。
(b)患者由来のA10蛋白質または該蛋白質をコードする核酸における変異を検出する工程。 - A10蛋白質をコードするDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドあるいはA10蛋白質に結合する抗体を含む、ARF蛋白質とA10蛋白質との相互作用の検査試薬。
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