JP4188055B2 - 植物における害虫の天敵誘引機能の向上方法 - Google Patents

植物における害虫の天敵誘引機能の向上方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、害虫の天敵を誘引する揮発性物質を誘導的に生産することによって、植物が害虫などから身を守る、所謂「植物の間接的誘導防衛」を利用した植物における害虫の天敵誘引機能の向上方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
植物は害虫の食害を受けると、毒物質や忌避物質などを放出して、害虫から直接的に身を守ることができる。また植物は、このような直接的な防衛方法の他に、害虫の天敵を誘引する揮発性物質(HIPV)を食害誘導的に生産することによって間接的に害虫から身を守るということが明らかにされている。このように、植物−害虫−天敵の三者間の相互作用を利用して、いわば防衛的機能として植物が自己の体内において揮発性物質を生成し体外に放出する機能は、「植物の間接的誘導防衛」と呼ばれている。上記揮発性物質の生産には植物のホルモンやシグナル伝達物質であるジャスモン酸、サリチル酸、エチレンが関与していることが報告されている。
【0003】
非特許文献1、2及び3には、ジャスモン酸を植物に処理することによって、HIPV様揮発性物質の生合成が誘導されることが報告されている。また、非特許文献3には、ジャスモン酸とともにサリチル酸メチルエステル体をリママメに処理することによって、ハダニ食害時に誘導される揮発性物質の人為的な誘導が可能であることが示されている。さらに、非特許文献4には、ジャスモン酸とともにエチレンの生合成前駆体をリママメに処理することによって、ハダニ食害時に誘導される揮発性物質の人為的な誘導が可能であることが示されている。
【0004】
【非特許文献1】
Hopke, J. et. al. ; FEBS letters 352巻 ;(1994年)、146-150頁
【0005】
【非特許文献2】
Dike, M. et. al. ; J. Chem. Ecol., 25巻 ;(1999年)、1907-1922頁
【0006】
【非特許文献3】
Ozawa, R. et. al. ; Plant Cell Physiol. 41巻 ;(2000年)、391-398頁
【0007】
【非特許文献4】
Horiuchi, J. et. al. ; FEBS letters 509巻 ;(2001年)、332-336頁
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、今日の農業技術分野において、害虫を駆除するために農薬が広く使用されている。しかしながら、農薬の有する環境ホルモン様効果が生態系に及ぼす負荷は、大きな社会問題となっている。農薬の使用を減らすために様々な研究が進められているが、特に昨今注目を浴びているのは、害虫を殺す天敵を誘導する上述の揮発性物質(HIPV)である。
【0009】
すなわち、害虫の食害によって植物が生産・放出するこの揮発性物質(HIPV)を用いて、植物に効率よく害虫の天敵を誘引することができれば、害虫の駆除を実現することができ、農薬の使用量を減らした環境に優しい農業システムを確立できる。そこで、上述のような「植物の間接的誘導防衛」の分子レベルでのアプローチの重要性が急速に認識されつつある。
【0010】
しかしながら、上記非特許文献1ないし4において揮発性物質の誘導に使用されるジャスモン酸は、植物に対して毒性を有するため、約10mM以上の高濃度で葉に持続的に吸わせると葉の組織に障害を与えてしまうという問題点がある。
【0011】
そこで本発明は、ポリアミンの一種であるスペルミンとジャスモン酸との協力効果を利用することによって、葉に害の少ない低濃度のジャスモン酸を用いた場合にも揮発性物質の生産を誘導し、植物において害虫の天敵誘引機能を向上させることができる方法を提供する。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本願発明者等は、生物界に広く分布する塩基性の低分子化合物であり、植物の成長や分化に加え、環境ストレスや病害ストレスの抵抗反応にも関与するホルモン物質であるポリアミンに着目し、ポリアミンの処理が植物の揮発性物質生産を誘導するかについて検討した。その結果、ポリアミンの一種であるスペルミンをジャスモン酸とともに植物に処理した場合に、ジャスモン酸が低濃度(約0.1mM程度)であってもHIPV様揮発性物質の放出量が顕著に高まることを見出し、本発明を完成させるに至った。ここで、ジャスモン酸とスペルミンとを同時に処理することによって揮発性物質の放出量を高めるという作用を「ジャスモン酸とスペルミンとの協力効果」と呼ぶ。
【0013】
本発明の植物における害虫の天敵誘引機能の向上方法は、ジャスモン酸とスペルミンとを混合し、植物に処理することを特徴とするものである。
【0014】
上記の植物における害虫の天敵誘引機能の向上方法は、害虫の天敵を誘引する揮発性物質を誘導的に生産することによって、植物が害虫などから身を守る、所謂「植物の間接的誘導防衛」を利用したものである。上記揮発性物質の生合成を誘導する物質として、従来からジャスモン酸は知られていたが、このジャスモン酸は高濃度で植物に処理すると、葉の組織に障害を与えてしまう性質を有しており、ジャスモン酸のみで揮発性物質生産の誘導を行う場合、このような高濃度でなければ効果が得られないという欠点がある。しかしながら、本発明においては、ジャスモン酸とスペルミンとを混合し、その混合物を植物に吸収させて、揮発性物質の生合成の誘導を促進させる。この方法を用いれば、植物に有害とならない低濃度のジャスモン酸で揮発性物質の放出量を増加させることができる。従って、葉の組織に障害を与えることなく、害虫の天敵誘引機能を向上させることができ、ひいては害虫の駆除を行うことが可能となる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
本発明に係る植物における害虫の天敵誘引機能の向上方法は、ジャスモン酸とスペルミンとを混合し、植物に処理することを特徴とするものである。
【0017】
ジャスモン酸は、下記に示す化学式で表される化合物である。
【0018】
【化1】
Figure 0004188055
【0019】
上記ジャスモン酸は、ヘキサナール化合物と同じ基質からフィトオキシリピン経路によって合成される。このジャスモン酸は、テルペン生合成におけるシグナル伝達物質の一つである。
【0020】
スペルミンは、N、N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,4−ジアミノブタンとも呼ばれ、分子式:NH2(CH23NH(CH24NH(CH23−NH2で表される化合物である。上記スペルミンはポリアミンの一種であり、スペルミンシンターゼの作用により、スペルミジンとアデノシルメチルチオプロピルアミンとから生合成される。
【0021】
本願発明者等は、後述の実施例に示すように、低濃度のジャスモン酸と数種のポリアミンとを同時にリママメ(Phaseolus lunatus)に処理したところ、数種のポリアミンのうちで、スペルミンを用いてジャスモン酸と同時に処理したリママメ葉において、害虫の天敵を誘引する数種の揮発性物質の顕著な放出が認められることを見出した。本発明はこの結果に基づいて得られたものである。
【0022】
ここで、「ジャスモン酸とスペルミンとを混合し、植物に処理する」とは、ジャスモン酸とスペルミンとを混合したものを何らかの方法で植物に浸透させることを意味する。この方法としては、例えば、ジャスモン酸とスペルミンとを含む溶液を土壌中に散布し植物の根から吸収させたり、植物の地上部の表面に当該溶液を噴霧したりする方法が挙げられる。
【0023】
また、上記の植物における害虫の天敵誘引機能の向上方法においては、後述の実施例での実験結果から、上記スペルミンを0.3mM以上、1.0mM以下の濃度で含む溶液であることが好ましい。このような濃度にすれば、葉に処理された場合に揮発性物質をより多く生合成し、放出させることができるとともに、スペルミンが植物に対して悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0024】
さらに、上記の植物における害虫の天敵誘引機能の向上方法においては、上記ジャスモン酸を0.1mM以上、1.0mM以下の濃度で含む溶液であることが好ましい。これによれば、スペルミンと混合して植物に処理した場合に、揮発性物質の放出量をより増加させることができ、天敵の誘引機能を高めることができるとともに、ジャスモン酸の植物に対する悪影響を軽減することができる。
【0025】
本発明に係る植物において害虫の天敵誘引機能を向上させる方法は、害虫駆除に応用することができると考えられる。即ち、本方法を利用した害虫駆除方法及び害虫駆除剤は、天敵誘引機能を向上させることによって植物に多くの天敵を誘引させ、害虫を捕食したり、害虫に寄生したりすることによって、害虫を駆除するというものである。
【0026】
これによれば、従来から害虫駆除に使用されている農薬などとは異なり、自然環境への悪影響が少ないため、環境保全に貢献することができると考えられる。また、ジャスモン酸とスペルミンとの協力効果によって、低濃度のジャスモン酸でも揮発性物質の放出量を増加させることができるため、植物に障害を与えることなく害虫駆除を行うことができると考えられる。
【0027】
なお、後述の実施例に示すように、マメ科植物であるリママメにおいて揮発性物質の放出量の増加が確認されていることから、本発明の植物における害虫の天敵誘引機能の向上方法を適用することが好ましい上記植物として具体的には、リママメ、インゲンマメといったマメ科植物を挙げることができる。
【0028】
【実施例】
以下、実施例によって、本発明をより具体的に説明するが本発明はこの記載に限定されるものではない。
【0029】
本実施例においては、プレトシン、カダベリン、スペルミジン、スペルミンという4種のポリアミンを用いて、リママメ(Phaseolus lunatus)に対して低濃度のジャスモン酸と同時に処理することによって、リママメから放出される揮発性物質についての解析を行った。
【0030】
先ず、ジャスモン酸及び各ポリアミン(即ち、プレトシン、カダベリン、スペルミジン、スペルミン)を、緩衝液[pH5.5、MES(2−(N−morpholino)ethanesulfonice acid)buffer]に溶解し各溶液を作製した。そして、図1に示すように、リママメの第1葉をこの各溶液に水差しにした。その後、一定時間経過後に、放出される揮発性物質の分析及び遺伝子解析のためのサンプリングを行った。放出される揮発性物質は、Tenax TAに捕集し、GC/MS(ガスクロマトグラフィー/質量分析法)(アジレント社製)で分析を行った。遺伝子解析については、上記リママメの第1葉のRNAを抽出した後、従来公知のRT−PCRを用いて行った。なお、本実験においては、ジャスモン酸は濃度0.1mMで上記緩衝液に溶解させ、各種ポリアミンについては、0.1mM、0.3mM、1.0mMの各濃度で溶解させた。本実験におけるジャスモン酸の濃度0.1mMとは、ジャスモン酸が植物に対して毒性を有することはない一方で、単独で処理した場合には揮発性物質生産の誘導が見られない濃度である。
【0031】
また、比較例として上記各種ポリアミンを単独で溶解した溶液を、コントロールとして緩衝液[pH5.5、MES(2−(N−morpholino)ethanesulfonice acid)buffer]のみのものを、それぞれ作製し、上記と同様にリママメに処理した。スペルミン、スペルミジン、プトレシンは、和光純薬工業株式会社製のものを用い、カダベリンについては、SIGMA社製のものを用いた。
【0032】
その結果について以下に説明する。
図2には、濃度1mMの上記各種ポリアミンを単独で処理した場合の、処理後24時間経過時のリママメからの揮発性物質放出量を示す。各揮発性物質の放出量については、イオン強度/gFWで表す。この単位:イオン強度/gFWで表される数値は、質量分析計で検出されるイオン量(イオン強度)を葉の生重量(g)で割ったものであり、葉1g当たりの各化合物のイオン量を表す。図2に示すように、本実験において検出された揮発性物質は、(Z)-3-Hexenyl acetate、MeSA(Methyl salicylate)と、4種類のテルペン化合物((E)-β-Ocimene、DMNT:(E)-4,8-Dimethyl-1,3,7-nonatriene、α-Copaene、TMTT:(E,E)-4,8,12-Trimethyl-1,3,7,11-tridecatetraene)である。
【0033】
図2に示すグラフは、左から順に、カダベリン(Cad)、プトレシン(Put)、スペルミジン(Spd)、スペルミン(Spm)が処理された場合の揮発性物質の放出量を示す。図2の右端のグラフは、ナミハダニの食害を受けた場合のリママメからの揮発性物質の放出量を示す。図2に示すように、各種ポリアミンを単独でリママメ葉に処理した場合、上記各種ポリアミンのうちスペルミンのみが揮発性物質の生産をわずかに誘導することが認められた。なお、図2中のAとD、BとE、CとFをそれぞれ比較すれば分かるように、ナミハダニの食害を受けた場合よりも揮発性物質の放出量は少ない。ここで、AとDは、(E)-β-Ocimene、BとEは、DMNT、CとFは、MeSAの放出量を示す。
【0034】
続いて、低濃度(0.1mM)のジャスモン酸と濃度1.0mMの上記各種ポリアミンとを同時に処理した場合の揮発性物質の放出量の検出結果を図3に示す。なお、図3に示す放出量は、処理後24時間経過時に測定したものである。各揮発性物質の放出量については、イオン強度/gFWで表す。図3の上段のグラフは、上記各種ポリアミンを単独で処理した場合の検出結果であり、下段のグラフは、左から順にジャスモン酸(JA)のみ、ジャスモン酸+カダベリン(Cad)、ジャスモン酸+プトレシン(Put)、ジャスモン酸+スペルミジン(Spd)、ジャスモン酸+スペルミン(Spm)をそれぞれ処理した場合の検出結果である。なお、上段左端のグラフはコントロール(緩衝液のみ)であり、下段右端のグラフはナミハダニの食害を受けた場合の結果である。
【0035】
図3に示すように、ジャスモン酸とスペルミジンとを同時に処理した場合にも、揮発性物質の生産がわずかに誘導されていることが確認されたが、ジャスモン酸とスペルミンとを同時に処理した場合には、(Z)-3-Hexenyl acetate及び数種のテルペン化合物((E)-β-Ocimene、DMNT、α-copaene、TMTT)の顕著な放出が確認された。なお、これらの揮発性物質のうち、(Z)-3-Hexenyl acetate、(E)-β-Ocimene、TMTTの3種については、ナミハダニによる食害を受けた場合よりも多く放出され、DMNT及びα-copaeneについては、ナミハダニの食害を受けた場合に匹敵する量の放出が認められた。一方、ジャスモン酸のみの処理では揮発性物質の誘導はほとんど認められなかった。本実験においては、(Z)-3-Hexenol、(E)-2-Hexenal、α-Pineneなどの他の揮発性物質も検出されたが、ごく微量であるため図3では省略している。
【0036】
続いて、スペルミンの濃度を変更させて0.1mMのジャスモン酸と同時に処理した場合の揮発性物質の放出量の経時的変化を調査した結果について説明する。図4は、ジャスモン酸と各濃度のスペルミンとを同時に処理した場合の揮発性物質の放出量を各処理時間において測定した結果を示すグラフである。図4に示す各グラフは、左から順に、濃度0.1mMジャスモン酸のみを処理した場合、濃度0.1mMのジャスモン酸と濃度0.1mMのスペルミンとを同時に処理した場合、濃度0.1mMのジャスモン酸と濃度0.3mMのスペルミンとを同時に処理した場合、濃度0.1mMのジャスモン酸と濃度1.0mMのスペルミンとを同時に処理した場合である。また、このグラフは、上段から順に、処理後1時間経過時、6時間経過時、12時間経過時、24時間経過時に揮発性物質の放出量を検出した結果を示す。
【0037】
図4に示すように、ジャスモン酸のみの場合は、処理後6時間経過後に揮発性物質生産のわずかな誘導が認められ、その後は時間の経過とともに放出量が減少した。ジャスモン酸と、0.1mMのスペルミンとを同時に処理した場合には、時間の経過とともに徐々に揮発性物質の放出量の増加が認められたが、その量はわずかであった。また、ジャスモン酸と、0.3mMのスペルミンとを同時に処理した場合には、スペルミン濃度が0.1mMのときよりも多くの揮発性物質の放出が確認された。
【0038】
さらに、濃度0.1mMのジャスモン酸と濃度1.0mMのスペルミンとを同時に処理した場合には、処理後の時間経過に伴って揮発性物質の放出量の増加が確認され、その放出量は他の濃度と比較して顕著に高いことが分かった。このように、ジャスモン酸とスペルミンとを同時に処理した場合の揮発性物質の生産量は、スペルミンの濃度及び処理後の経過時間にほぼ比例して増加することが確認された。
【0039】
以上の結果を踏まえ、上記ジャスモン酸の濃度が0.1mM程度の場合、スペルミンの濃度が0.3mM以上であれば、害虫の天敵を誘引する機能を持つ揮発性物質の放出量が徐々に増加し、スペルミンの濃度が1.0mM程度で、害虫の天敵を誘引する機能を持つ揮発性物の放出量が顕著に増加すると考えられる。
【0040】
また、揮発性物質の生産量は、スペルミンの濃度にほぼ比例して増加することが確認されたことから、スペルミンの濃度を適宜変更すれば、天敵誘引の効力を調節することができると考えられる。なお、本実験においては、(Z)-3-Hexenol、(E)-2-Hexenal、α-Pineneなどの他の揮発性物質も検出されたが、ごく微量であるため図4では省略している。また、スペルミンは過剰な濃度で葉に与えると植物に対して毒性を有し、葉の組織に障害を与えてしまう。そこで、スペルミンの濃度の上限としては、1.0mMであることが好ましい。
【0041】
最後に、上記揮発性物質の生産に関わる合成酵素であるリポキシゲナーゼ(LOX)、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)及びファルネシル2リン酸合成酵素(FPS)の遺伝子発現について調査した。なお、上記LOX及び上記ADHは(Z)-3-Hexenyl acetateの生合成に関わる酵素であり、上記FPSはDMNTの生合成に関わる酵素である。
【0042】
図5には、ゲル電気泳動によって揮発性物質生合成関連酵素の遺伝子発現を調査した結果を示す。なお、このゲル電気泳動に用いられた試料は、ジャスモン酸及び/又はスペルミン処理後24時間経過時のリママメ葉から抽出されたRNAについてRT−PCRを実施した時の試料である。図5において、各レーンは、左から順にコントロール(緩衝液のみの処理)、濃度0.1mMのジャスモン酸のみの処理の場合、濃度1mMのスペルミンのみの処理の場合、濃度0.1mMのジャスモン酸と濃度1mMのスペルミンとを同時に処理した場合の試料である。図5に示すように、ジャスモン酸とスペルミンとを同時に処理することによって、各揮発性物質合成酵素LOX、及びFPSの遺伝子の発現が誘導されていることが確認された。
【0043】
以上のように、本実施例においては、ジャスモン酸とスペルミンとはリママメの揮発性物質生産に対して協力的な効果があることが示され、ジャスモン酸が0.1mMという低濃度であっても、スペルミンと同時に植物に処理することによって、揮発性物質生産を誘導させることができることが確認された。さらに、本実施例において得られた結果から、ジャスモン酸の濃度が0.3mM以上1.0mM以下であれば、揮発性物質の放出量が増加し、植物において害虫の天敵誘引機能をより効果的に向上させることができると考えられる。
【0044】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係る植物における害虫の天敵誘引機能の向上方法は、ジャスモン酸とスペルミンとを混合し、植物に処理することを特徴とするものである。
【0045】
この方法によれば、ジャスモン酸とスペルミンとの協力効果によって、植物に有害とならない低濃度のジャスモン酸で揮発性物質の放出量を増加させることができる。従って、植物に障害を与えることなく、害虫の天敵誘引機能を向上させることができ、ひいては害虫の駆除を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例において行われた、ジャスモン酸と各種ポリアミンとをリママメ葉に同時処理する実験を説明するための模式図である。
【図2】本実施例において、各種ポリアミンを単独で処理した場合のリママメからの揮発性物質放出量を示すグラフである。
【図3】本実施例において、低濃度(0.1mM)のジャスモン酸と各種ポリアミンとを同時に処理した場合の揮発性物質の放出量の検出結果を示すグラフである。
【図4】本実施例において、ジャスモン酸と各濃度のスペルミンとを同時に処理した場合の揮発性物質の放出量を各処理時間において測定した結果を示すグラフである。
【図5】本実施例において、ゲル電気泳動によって揮発性物質生合成関連酵素の遺伝子発現を調査した結果を示す泳動ゲルの図である。

Claims (4)

  1. ジャスモン酸とスペルミンとを混合し、植物に処理することを特徴とする植物における害虫の天敵誘引機能の向上方法。
  2. ジャスモン酸とスペルミンとを含む溶液を植物に処理することを特徴とする請求項1に記載の植物における害虫の天敵誘引機能の向上方法。
  3. 上記スペルミンの濃度が0.3mM以上、1.0mM以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の植物における害虫の天敵誘引機能の向上方法。
  4. 上記ジャスモン酸の濃度が0.1mM以上、1.0mM以下であることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の植物における害虫の天敵誘引機能の向上方法。
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