JP4183067B2 - 遷移金属カルコゲナイドのトポロジカル結晶体及びその形成方法 - Google Patents

遷移金属カルコゲナイドのトポロジカル結晶体及びその形成方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、遷移金属カルコゲナイド結晶体からなる微小な環状構造を有する物質及びその製造方法に関し、その特異な物性により電磁気的な計測機器を始めとする各種の用途に応用可能とするものに関する。
【0002】
【従来の技術】
Zr、Nb、Ta、などのIVb、Vb遷移金属とS、Se、Teなどのカルコゲン元素との化合物である遷移金属トリカルゴゲナイド物質MX3は、中心に金属原子を有する6つのカルコゲン原子からなる三角柱を基本単位として、三角柱チェイン同士が平行に積み重なった構造からなった結晶構造からなっている。このような構造から、典型的には、異方性の強い超伝導性を示すTaSe3、バイエルス転移を示すTaS3、電荷密度波(cherge density wave、CDW)転移を示すNbSe3など、通常の物質に見られない様々な特異な物性を示す物質として、その性質の探求と応用が試みられている。
また、遷移金属ダイカルコゲナイドもまた、同様にその低次元構造によるその物性とその応用に大きな関心が寄せられている。
【0003】
このような試みとして、本発明者らは先に遷移金属ダイカルコゲナイドMX2及び遷移金属トリカルコゲナイドMX3について、結晶質の微小な環状結晶体を形成することに成功した。
【従来の技術】
【特許文献】
特開2002‐255699号公報
これらの微小結晶体は、その環状のマクロ構造に沿ったカルコゲナイド固有の結晶構造が保たれるため、その低次元系固有の物性が発揮され、超伝導特性とその形状・構造を利用して、超伝導量子干渉素子(Superconducting Quantum Interference Device、 SQUID)として用いることが期待されるなど、従来の微細加工手法であるフォトリソグラフィーによっては達成できなかった、直径0.1〜10μm、線幅10nm程度の極めて微細な環状構造を実現すると共に、これらの物性を種々の素子などとして必要なトポロジカルなマクロ構造で実現できるため、生体の発する磁気測定など多くの応用が期待されるほか、その物性と構造を利用した様々な応用が検討されている。
【0004】
上記のようなカルコゲナイドの特異な物性は各方面で探求されているが、その物性の応用のためには物性の確認と共に種々の形状・構造を実現するための成型加工などのハンドリング技術が開発されなければならない。特に、これらの微細な構造体を形成するためには、本発明者らの先に提案した環状結晶体のように、その結晶の物理的形成過程と共に自己整合的に特性を維持したトポロジカルな構造体として形成されることが望ましく、それによってその物質固有の物性を保持できる。
遷移金属トリカルコゲナイドや遷移金属ダイカルコゲナイドなどの物質は、低次元特性を有することをその特徴としており、種々の物性においても著しい異方性を発揮する。従って、これらの特性を活用するためにはその物性の研究と共にこれらの異方性に対応した成形手法が必要であって、応用の際に求められるマクロな形状・構造に於いてそれらのトポロジカルな物性を保つことができる、トポロジカルな加工・成形法が必要となるのである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明に於いては、上記のような特異な物性を示す遷移金属トリカルコゲナイド及びダイカルコゲナイドについて、マクロな形状・構造を有し、かつその結晶構造を維持することによってその物性を保つトポロジカル物質を形成する方法を開発し、その物性を維持した有用なトポロジカルな形状・構造の結晶体を提供する。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、カルコゲン元素とIVb、Vb又はVIb族遷移金属元素との共存する雰囲気中でカルコゲン元素の微小液滴表面に沿って液滴表面に巻き付くループとして、遷移金属カルコゲナイドの結晶を育成させることにより、ひねりがnπ(ただし、n=0、1,2の整数)のループ状結晶体とすることを特徴とする、遷移金属カルコゲナイドのトポロジカル結晶体の形成方法であり、上記雰囲気温度をカルコゲン元素の融点付近に維持すると共に温度勾配を保ち、雰囲気中でカルコゲン元素の微小液滴を凝縮させて非平衡状態で循環させることにより、雰囲気中で形成された遷移金属カルコゲナイドの微小ホイスカーをカルコゲン元素の微小液滴の表面張力によって吸着させ、液滴表面に巻き付くループとして結晶を育成させることにより、ひねりがnπ(ただし、n=0、1,2の整数)のループ状結晶体とする。
また、上記ループがリボン状の開ループ、又は閉ループであり、上記カルコゲン元素がS、Se又はTe、IVb、Vb又はVIb族遷移金属元素がNb、Ta、Zr、Ti、Hf,又はWである。
【0007】
さらに、カルコゲン元素の液滴の球面をテンプレートとして形成されたひねりがnπ(ただし、n=0、1,2の整数)のループ状である、IVb、Vb又はVIb族遷移金属カルコゲナイドのトポロジカル結晶体であり、上記ループがリボン状の開ループ、又は閉ループであり、上記カルコゲン元素がS、Se、又はTeであり、遷移金属元素がNb、Ta、Zr、Ti、Hf又はWであり、さらに、上記トポロジカル構造に於けるひねりが結晶構造の回位(ディスクリネ−ション)によって形成されている遷移金属カルコゲナイドのトポロジカル結晶体である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の方法に於いて対象とする遷移金属カルコゲナイド物質は、原料物質から化学気相輸送法などによって結晶を成長させると、通常非常に細長いリボン状・ホイスカー状をした断面:数μm×1μm、長さ数mmの結晶に成長する。
これらの形状において、遷移金属カルコゲナイド固有の物性を有しているが、素子などへの応用では立体的な形状/構造が要求されるため多くの制約がある。
前述の出願は、リング状の結晶体とすることでSQUIDなどの素子への利用の道を開いたものであるが、さらに容易にこれらの形状/構造を形成すること、また、これらリング状以外の多様な形状のトポロジカルな機能を発揮できる結晶体を形成することを試みた。
【0009】
その結果、Nbなどの遷移金属元素とセレンSeなどのカルコゲン元素を化学気相輸送法などにより反応させると、遷移金属カルコゲナイドを生成する反応条件下で、沸点の低いSeが反応容器の雰囲気中を蒸発・凝集しながら循環し、反応によって生じたNbSe3分子を一箇所に集めて結晶化する。そうしてできるNbSe3の微小なホイスカーが付近のセレン液滴に接触すると、表面張力により液滴表面に吸着する。
その結果、NbSe3ホイスカーが液滴表面に沿って巻き付く形で結晶成長してループが形成される(図1a参照)。
このループは、帯状の単結晶からなるが、その反応条件により途中で成長が停止すれば両端の自由な開ループとなり、或いは反応を進行させると両端が結合して閉ループが形成される。
ここで、液滴が蒸発するなどして、支持体が失われるとこのようにして形成されたループが得られる。
【0010】
このようにして形成されたループ状の遷移金属トリカルコゲナイド結晶体は、Se液滴をいわばテンプレート(鋳型)として、その表面に沿って結晶成長して形成されるため、マクロ構造としてのループに対して、結晶もまたこのループに沿ったトポロジカル結晶成長であって、そのループ構造に於いてそのトポロジカルな物性が保たれたものとなる。
ループの形態として、単純に液滴に沿って結晶成長したリング状のほか、一回ひねりの加わったメビウスの帯を形成する結晶体、及びさらに液滴表面に沿って結晶が周回して形成される8の字状の結晶体などが得られる。
リング状の結晶については、トポロジー的にはリング(円筒)であるが、実際の形状は多彩なものが得られ、円盤や円柱及び同心円筒状のものも得られている。
それぞれ図2のa、b、c、dの走査型電子顕微鏡(SEM)像参照。
【0011】
メビウス結晶の成長メカニズムは、図3bの下方の模式図に示すように、Se液滴表面に沿ってNbSe3結晶が成長する際に、その表面張力によって曲がりながらツイストが入るのであるが(これらの原理については、Landau、 Hermonの弾性体論などがある。)、一周巻き付いたところでちょうどπのひねりが生じていれば、メビウスの結晶ができる。
【従来の技術】
【非特許文献1】
Landau、L.D. and Lifshitz, E.M., Theory of Elasticity., (PergamonPress, Oxford, 1959)
【非特許文献2】
Hermon, R.F.S., AnIntroduction to applied anisotropic elasticity.,
(Oxford Univ. Press, London, 1961)
結晶が液滴の周囲を2周回って形成されれば、図2のcの模式図のように8の字結晶となり、ループは2πのひねりを有するものになる。このひねりは液滴に巻きつく回数によってさらに3π以上のひねりが得られるから、ループのひねりの数は、nπで、n=0,1、2、の整数を取り得ることが判る。
【0012】
このようにして形成された遷移金属トリカルコゲナイド結晶体のサイズは、リング状結晶の場合、典型的には外径90μmであり、メビウス結晶も同様である。
8の字結晶の場合には平均周長480μmで、リング状結晶約2倍であった。
いずれにしても、これらの結晶体ループのサイズは、テンプレートとなったSe液滴の大きさによって寸法が定まるのであって、生成条件を制御することによって様々なサイズが実現できることが期待される。
【0013】
これらのループ結晶を、FIB(集束イオンビーム)を用いて切断して、曲げ変形による塑性の程度を見積もった。
その結果、細いループは弾性的に直線形状へと回復を見せたが、厚み1μmを境にして太いものはそのままの形状を保つことが判明した。
このことからループ状結晶は1μm単位で繊維状の完全結晶によるリングとみなせることを意味し、単なる単結晶を切り出して作成したリングにはない離散的回転対称性を有することとなる。
すなわち、これらのメビウス・8の字結晶は、π或いは2πのねじれ型回位を持ち、結晶全体がディスクリネーションになっている結晶である。
【0014】
なお、上記の例は、カルコゲン元素としてSe、遷移金属元素としてNbからなるトリカルコゲナイドを挙げたが、その性質及び結晶形成の原理上その他の、例えば、カルコゲン元素としてS、Te、IVb、Vb又はVIb族遷移元素としてTa、Zr、Ti、Hf、Wなどからなるトリカルコゲナイド及びダイカルコゲナイドに適用可能である。
また、上記したトポロジカル結晶体の形成メカニズムから明らかなように、これらの遷移金属カルコゲナイドとテンプレートとしてのカルコゲン元素の液滴の共存する条件下で遷移金属カルコゲナイドの結晶成長が行われることによってこれらのトポロジカル結晶体が形成されるのであるから、これらの条件が満たされれば、出発原料の形態や化学気相輸送法などの反応形態に格別の制限はない。
【0015】
【実施例】
以下に、本発明に於けるループ状トポロジカル結晶体を形成する具体的条件について、説明する。
原材料として、Nb、Se、Ta、Sはそれぞれ高純度(99.99%)のものを使用し、これらの原材料となる遷移金属元素及びカルコゲン元素を反応容器中で減圧下において、カルコゲン元素の融点以上の温度(700℃〜800℃)に維持して反応させた。
反応容器として、石英菅を用い、約50℃から100℃の温度勾配を設けて、反応容器内の雰囲気を温度勾配下の非平衡状態に保って、過剰なカルコゲン元素の雰囲気中で凝縮・蒸発を繰り返して生成、消滅しつつ循環するカルコゲン元素の微小な液滴を形成させた。
この雰囲気条件下で反応によって生成した遷移金属カルコゲナイドの微小なホイスカー結晶は、カルコゲン元素の微小な液滴に触れるとその表面張力により表面に張り付き、以後その表面をテンプレートとして、ループ状に結晶成長し、リング状、メビウス、或いは8の字状の帯状結晶体が得られた。ループは、両端の開いたリボン状のもの及び両端が結合した閉ープのものが得られた。
【0016】
このような遷移金属カルコゲナイドのトポロジカル結晶体形成のメカニズムは、これらの結晶構造や物性に依存するものであり、他の遷移金属元素であるTa、Zr、Ti、Hf、W及びカルコゲン元素のS及びTeなどにも共通するから、これらの元素のカルコゲナイドについてもその反応条件やカルコゲン元素の融点などの物性に合わせて条件を選ぶことによって、同様にトポロジカル結晶体を形成することが可能である。
反応条件として、上記の化学気相輸送法のほか、CVD( ChemicalVapor Deposition)によることもでき、いずれにせよ気相反応により上記のカルコゲナイドの形成及びテンプレートとしてのカルコゲン元素の液滴が形成されれば良い。
【0017】
【発明の効果】
本発明に於いて得られたトポロジカル結晶体及びその形成方法は、これらの結晶体が遷移金属カルコゲナイドの物性をそのトポロジカルな立体的な形状において保持しており、前述のようにSQUIDなどの素子への応用が期待されるほか、今後その特異な物性により各種の量子素子などへの応用が期待される有用な機能性材料である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のNbSe3トポロジカル結晶の生成状態を示すSEM像(a:表面張力により、NbSe3ホイスカーがSe液滴に吸着し、巻き付く状態。b:その際、ホイスカーにひねりが生じる状態)
【図2】本発明に於ける典型的なNbSe3トポロジカル結晶のSEM像(a:リング状結晶、b:同心円筒状のリング結晶、c:メビウス結晶、d:8の字結晶)。
【図3】本発明のNbSe3トポロジカル結晶のテンプレート成長のモデル図(a:リング結晶・単純な巻き付き、b:メビウス結晶・ひねりを伴った巻き付き、c:8の字結晶・2回巻きつき)。

Claims (8)

  1. カルコゲン元素とIVb、Vb又はVIb族遷移金属元素との共存する雰囲気中でカルコゲン元素の微小液滴表面に沿って液滴表面に巻き付くループとして、遷移金属カルコゲナイドの結晶を育成させることにより、ひねりがnπ(ただし、n=0、1,2の整数)のループ状結晶体とすることを特徴とする、遷移金属カルコゲナイドのトポロジカル結晶体の形成方法。
  2. 上記雰囲気温度をカルコゲン元素の融点付近に維持すると共に温度勾配を保ち、雰囲気中でカルコゲン元素の微小液滴を凝縮させて非平衡状態で循環させることにより、雰囲気中で形成された遷移金属カルコゲナイドの微小ホイスカーをカルコゲン元素の微小液滴の表面張力によって吸着させ、液滴表面に巻き付くループとして結晶を育成させることにより、ひねりがnπ(ただし、n=0、1,2の整数)のループ状結晶体とすることを特徴とする、請求項1記載の遷移金属カルコゲナイドのトポロジカル結晶体の形成方法。
  3. 上記ループがリボン状の開ループ、又は閉ループであることを特徴とする、請求項1記載の遷移金属カルコゲナイドのトポロジカル結晶体の形成方法。
  4. 上記カルコゲン元素がS、Se又はTe、IVb、Vb又はVIb族遷移金属元素がNb、Ta、Zr、Ti、Hf,又はWであることを特徴とする、請求項1乃至3記載の遷移金属カルコゲナイドのトポロジカル結晶体の形成方法。
  5. カルコゲン元素の液滴の球面をテンプレートとして形成されたひねりがnπ(ただし、n=0、1,2の整数)のループ状である、IVb、Vb又はVIb族遷移金属カルコゲナイドのトポロジカル結晶体。
  6. 上記ループがリボン状の開ループ、又は閉ループであることを特徴とする、請求項5記載の遷移金属カルコゲナイドのトポロジカル結晶体。
  7. 上記カルコゲン元素がS、Se、又はTeであり、遷移金属元素がNb、Ta、Zr、Ti、Hf又はWであることを特徴とする、請求項5又は6記載の遷移金属カルコゲナイドのトポロジカル結晶体。
  8. 上記トポロジカル構造に於けるひねりが結晶構造の回位(ディスクリネ−ション)によって形成されていることを特徴とする請求項5乃至7記載の遷移金属カルコゲナイドのトポロジカル結晶体。
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