以下、本発明が適用された記録液、液体カートリッジ、液体吐出装置及び液体吐出方法について、図面を参照して説明する。図1に示すインクジェットプリンタ装置(以下、プリンタ装置と記す。)1は、所定の方向に走行する記録紙Pに対してインク等を吐出して画像や文字を印刷するものである。また、このプリンタ装置1は、記録紙Pの印刷幅に合わせて、記録紙Pの幅方向、すなわち図1中矢印W方向にインク吐出口(ノズル)を略ライン状に並設した、いわゆるライン型のプリンタ装置である。
このプリンタ装置1は、図2及び図3に示すように、記録紙Pに対して画像や文字等を記録する記録液であるインク2を吐出するインクジェットプリントヘッドカートリッジ(以下、ヘッドカートリッジと記す。)3と、このヘッドカートリッジ3を装着するプリンタ本体4とを備える。プリンタ装置1は、ヘッドカートリッジ3がプリンタ本体4に対して着脱可能であり、更に、ヘッドカートリッジ3に対してインク供給源となり、インク2を収容する液体カートリッジであるインクカートリッジ11y,11m,11c,11kが着脱可能となっている。このプリンタ装置1では、イエローのインクカートリッジ11y、マゼンタのインクカートリッジ11m、シアンのインクカートリッジ11c、ブラックのインクカートリッジ11kが使用可能となっており、また、プリンタ本体4に対して着脱可能なヘッドカートリッジ3と、ヘッドカートリッジ3に対して着脱可能なインクカートリッジ11y,11m,11c,11kとを消耗品として交換可能になっている。
このようなプリンタ装置1は、記録紙Pを積層して収納するトレイ55aをプリンタ本体4の前面底面側に設けられたトレイ装着部5に装着することにより、トレイ55aに収納されている記録紙Pをプリンタ本体4内に給紙できる。トレイ55aは、プリンタ本体4の前面のトレイ装着部5に装着されると、給排紙機構54により記録紙Pが給紙口55からプリンタ本体4の背面側に給紙される。プリンタ本体4の背面側に送られた記録紙Pは、反転ローラ83により走行方向が反転され、往路の上側をプリンタ本体4の背面側から前面側に送られる。プリンタ本体4の背面側から前面側に送られる記録紙Pは、プリンタ本体4の前面に設けられた排紙口56より排紙されるまでに、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置69より入力された文字データや画像データに応じた印刷データが文字や画像として印刷される。
印刷するときに記録液となるインク2は、例えば色素となる水溶性染料や、各種顔料等といった着色剤と、この着色剤を分散させる溶媒と、化学式1に示す有機化合物を有する界面活性剤とを混合させた混合液である。
着色剤としては、以下に示す直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応性染料等といった水溶性染料等をもちいることができる。具体的に、イエロー系直接染料としては、例えばC.I.ダイレクトイエロー1、同8、同11、同12、同24、同26、同27、同28、同33、同39、同44、同50、同58、同85、同86、同87、同88、同89、同98、同100、同110等を挙げることができ、これらのうち一種又は複数種を混合して用いる。マゼンタ系の直接染料としては、例えばC.I.ダイレクトレッド1、同2、同4、同9、同11、同13、同17、同20、同23、同24、同28、同31、同33、同37、同39、同44、同46、同62、同63、同75、同79、同80、同81、同83、同84、同89、同95、同99、同113、同197、同201、同218、同220、同224、同225、同226、同227、同228、同229、同230、同321等を挙げることができ、これらのうち一種又は複数種を混合して用いる。シアン系の直接染料としては、例えばC.I.ダイレクトブルー1、同2、同6、同8、同15、同22、同25、同41、同71、同76、同77、同78、同80、同86、同90、同98、同106、同108、同120、同158、同160、同163、同165、同168、同192、同193、同194、同195、同196、同199、同200、同201、同202、同203、同207、同225、同226、同236、同237、同246、同248、同249等を挙げることができ、これらのうち一種又は複数種を混合して用いる。ブラック系の直接染料としては、例えばC.I.ダイレクトブラック17、同19、同22、同32、同38、同51、同56、同62、同71、同74、同75、同77、同94、同105、同106、同107、同108、同112、同113、同117、同118、同132、同133、同146等を挙げることができ、これらのうち一種又は複数種を用いる。
イエロー系の酸性染料としては、例えばC.I.アシッドイエロー1、同3、同7、同11、同17、同19、同23、同25、同29、同36、同38、同40、同42、同44、同49、同59、同61、同70、同72、同75、同76、同78、同79、同98、同99、同110、同111、同112、同114、同116、同118、同119、同127、同128、同131、同135、同141、同142、同161、同162、同163、同164、同165等を挙げることができ、これらのうち一種又は複数種を混合して用いる。マゼンタ系の酸性染料としては、例えばC.I.アシッドレッド1、同6、同8、同9、同13、同14、同18、同26、同27、同32、同35、同37、同42、同51、同52、同57、同75、同77、同80、同82、同83、同85、同87、同88、同89、同92、同94、同97、同106、同111、同114、同115、同117、同118、同119、同129、同130、同131、同133、同134、同138、同143、同145、同154、同155、同158、同168、同180、同183、同184、同186、同194、同198、同199、同209、同211、同215、同216、同217、同219、同249、同252、同254、同256、同257、同262、同265、同266、同274、同276、同282、同283、同303、同317、同318、同320、同321、同322等を挙げることができ、これらのうち一種又は複数種を混合して用いる。シアン系の酸性染科としては、例えばC.I.アシッドブルー1、同7、同9、同15、同22、同23、同25、同27、同29、同40、同41、同43、同45、同54、同59、同60、同62、同72、同74、同78、同80、同82、同83、同90、同92、同93、同100、同102、同103、同104、同112、同113、同117、同120、同126、同127、同129、同130、同131、同138、同140、同142、同143、同151、同154、同158、同161、同166、同167、同168、同170、同171、同175、同182、同183、同184、同187、同192、同199、同203、同204、同205、同229、同234、同236等が挙げられ、これらのうち一種又は複数種を混合して用いる。ブラック系の酸性染科としては、例えばC.I.アシッドブラック1、同2、同7、同24、同26、同29、同31、同44、同48、同50、同51、同52、同58、同60、同62、同63、同64、同67、同72、同76、同77、同94、同107、同108、同109、同110、同112、同115、同118、同119、同121、同122、同131、同132、同139、同140、同155、同156、同157、同158、同159、同191等を挙げることができ、これらのうち一種又は複数種を混合して用いる。
イエロー系の塩基性染料としては、例えばC.I.ベイシックブラック2.8、C.I.ベイシックイエロー1、同2、同11、同12、同14、同21、同32、同36、C.I.ベイシックオレンジ2、同15、同21、同22等が挙げられ、これらのうち一種又は複数種を混合して用いる。マゼンタ系の塩基性染料としては、例えばC.I.ベイシックレッド1、同2、同9、同12、同13、同37、C.I.ベイシックバイオレット1、同3、同7、同10、同14等を挙げることができ、これらのうち一種又は複数種を混合して用いる。シアン系の塩基性染料としては、例えばC.I.ベイシックブルー同1、同3、同5、同7、同9、同24、同25、同26、同28、同29、C.I.ベイシックグリーン1、同4等が挙げられ、これらのうち一種又は複数種を混合して用いる。
イエロー系の反応性染料としては、例えばC.I.リアクティブイエロー1、同2、同3、同13、同14、同15、同17、C.I.リアクティブオレンジ2、同5、同7、同16、同20、同24等が挙げられ、これらのうち一種又は複数種を混合して用いる。マゼンタ系の反応性染料としては、例えばC.I.リアクティブレッド6、同7、同11、同12、同13、同14、同15、同17、21、同23、同24、同35、同36、同42、同63、同66、同84等が挙げられ、これらのうち一種又は複数種を混合して用いる。シアン系の反応性染料としては、例えばC.I.リアクティブブルー2、同5、同7、同12、同13、同14、同15、同17、同18、同19、同20、同21、同25、同27、同28、同37、同38、同40、同41、C.I.リアクティブグリーン5、同7等が挙げられ、これらのうち一種又は複数種を混合して用いる。
以上に挙げた染料等を分散させる溶媒としては、例えば低粘度、取り扱いが容易、低コスト、無臭等といった特性を満たす水等を用いる。また、インク2の溶媒としては、インク2中に不要なイオンの混入を防止するたに、例えばイオン交換水等を用いることもできる。
また、インク2には、水やイオン交換水等といった溶媒の他に、例えば脂肪族一価アルコール、脂肪族多価アルコール、脂肪族多価アルコールの誘導体等といった水溶性有機溶剤も溶媒として含有させる。
具体的に、脂肪族一価アルコールとしては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等の低級アルコールが挙げられ、これらのうち一種又は複数種を混合して用いる。以上に挙げた脂肪族一価アルコールを溶媒として用いた場合、インク2の表面張力を適切にでき、記録紙P等に対する浸透性、ドット形成性、印刷された画像の乾燥性に優れたインク2が得られる。そして、この場合、脂肪族一価アルコールのうち、エチルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール等をインク2の溶媒として用いることで、上述した特性の優れたインク2が得られる。
脂肪族多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセロール等のアルキレングリコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類、チオジグリコール等が挙げられ、これらのうち一種又は複数種を混合して用いる。 脂肪族多価アルコールの誘導体としては、例えばエチレングリコールジメチルエーテル等の上述した脂肪族多価アルコールの低級アルキルエーテル類、エチレングリコールジアセテート等の上述した脂肪族多価アルコールの低級カルボン酸エステル類等を挙げることができる。以上に挙げた脂肪族多価アルコール及びその誘導体をインク2の溶媒として用いた場合、インク2を乾きにくくさせ、インク2の氷点を低くできることから、インク2を長期保存したときの物性の変化を抑え、且つ乾いたインク2でノズル44aが目詰まりを起こすことを抑えることが可能になる。
したがって、染料等を分散させる溶媒として、水等の他に、それぞれが特有の性質を有する脂肪族一価アルコール、脂肪族多価アルコール、脂肪族多価アルコールの誘導体等のうちの一種又は複数種を混合して用いることで、目的や用途にあったインク2を得ることができる。
また、インク2には、脂肪族一価アルコール、脂肪族多価アルコール及びその誘導体等の他に、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン類、ケトアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、γ―ブチルラクトン、グリセリン、1.2.6−ヘキサントリオール等の3価アルコール類、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、スルホラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1.3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の含窒素複素環化合物等のうち一種又は複数種を混合して添加してもよい。これにより、インク2では、上述した諸特性の向上を図ることが可能になる。
インク2には、上述した染料及び溶媒の他に、少なくとも化学式1に示す有機化合物を有する界面活性剤も含有されている。
化学式1に示す有機化合物、すなわち3−エチル−3−ヒドロキシメチル−へプタノールのエチレンオキサイド(以下、EOと記す。)付加物は、例えばアセチレングリコール類等よりも、工業的に安価に製造することができる非イオン系界面活性剤であり、しかもインク2に界面活性剤として配合したときには低い起泡性と良好な消泡性を示す。
また、化学式1中のmとnは、すなわちEOの付加量は共に1以上の整数である。いずれかが0であると、本発明の効果が得られない。また、mとnとの和、すなわちEOの総付加量は30以下、好ましくは2〜10、より好ましくは4〜8である。EOの総付加量が30を超えると表面張力が下がりにくくなるので好ましくない。
さらに、インク2には、化学式1に示す有機化合物を有する界面活性剤の他に、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のエーテル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等のエステル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、脂肪酸ジエタノールアミド等の含窒素類等のうちの一種以上を、ポリオキシエチレンアセリレングリコール類等と混合した界面活性剤等を含有させることも可能である。
以上のような材料が混合されて得られるインク2では、従来のアセチレングリコール類等からなる界面活性剤に代えて化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤を使用することで、泡立つことが抑えられ、且つ記録紙Pに対する濡れ性を良好にできる、すなわち記録紙Pの厚み方向に速やかに浸透されて乾燥したような状態になる。したがって、インク2が記録紙Pに着弾して得られる画像や文字データを、滲みや掠れのない高画質な状態で印刷できる。
また、このインク2では、化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤を使用することで、記録紙Pの主面に繊維が露呈しているような場合でも定着性が向上する、特にコピー用紙、レポート用紙、ボンド紙、連続伝票用紙に代表される、サイジングされた普通紙上での定着性が向上する。これにより、印刷された文字等の品質、いわゆる、印字品位(ドットの滲みの低減、エッジのシャープさ)を向上させることができる。
また、このインク2では、化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤を使用することで、後述する一対の発熱抵抗体42a,42bを周波数が1kHz以上のパルス電流で駆動させても適切にインク液滴iを吐出でき、高速印字時でも吐出安定性にも優れた記録液を提供することができる。
また、インク2においては、化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤の曇点が80℃程度と高温であることから、従来のように液滴にして吐出するときに界面活性剤の曇点を超えてしまい特性が変化することがなく、安定した物性の状態で液滴状態にして記録紙Pに着弾できる。
インク2において、化学式1に示す有機化合物を有する界面活性剤の含有量は、インク2全重量に対し、0.05重量%以上、10重量%以下の範囲にされ、より好ましくは0.1重量%以上、5重量%以下の範囲にされている。インク2全体量に対して化学式1に示す有機化合物を有する界面活性剤の含有量が0.05重量%よりも少ない場合、記録紙Pに対する濡れ性が悪くなったりする。一方、インク2全体量に対して化学式1に示す有機化合物を有する界面活性剤の含有量が10重量%よりも多い場合、泡立ちが起こるといった不具合が起こる。したがって、化学式1に示す有機化合物を有する界面活性剤の含有量をインク2全重量に対して0.05重量%以上、10重量%以下の範囲にすることは、泡立ちを抑え、且つ記録紙Pへの染み込みを適切に行われるインク2を得る上で大変重要である。
なお、インク2には、上述した染料、溶媒、界面活性剤等の他に、例えば粘度調整剤、表面張力調整剤、pH調整剤、防腐剤、防錆剤、防かび剤等を添加させることも可能である。具体的に、粘度調整剤、表面張力調整剤、pH調整剤等としては、例えばゼラチン、カゼイン等のタンパク質、アラビアゴム等の天然ゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、リグニンスルホン酸塩、セラック等の天然高分子、ポリアクリル酸塩、スチレン−アクリル酸共重合塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられ、これらのうちの一種以上を添加させることも可能である。また、防腐剤、防錆剤、防かび剤等としては、例えば安息香酸、ジクロロフェン、ヘキサクロロフェン、ソルビン酸、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等が挙げられ、これらのうちの一種以上を添加させることも可能である。
以上のような構成のインク2は、次のようにして調製される。着色剤に染料等を用いた溶解系のインク2を調製する場合、上述した染料からなる着色剤と、溶媒と、界面活性剤とを混合し、40℃〜80℃に加熱ながらスクリュー等で攪拌、分散させることで調製できる。また、着色剤に顔料などを用いた分散系のインク2の場合、従来から用いられている顔料微細分散法、例えばボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシュルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジライザー、パールミル、湿式ジェットミル等といった分散装置等を用い、顔料及び界面活性剤を溶媒に分散させることで調製できる。このようにして調製されたインク2は、例えばゴミ、粗大粒子、混裁物を除去するために、フィルタを用いて加圧濾過処理、または減圧濾過処理を少なくとも1回、あるいは遠心分離機を用いて遠心分離処理を少なくとも1回、あるいはそれらを組み合わせた処理が施される。
このようにしてインク2を調製する際には、高速印字に対応させるために、具体的には後述する一対の発熱抵抗体42a,42bを周波数が1kHz以上、好ましくは3kHz以上、より好ましくは5kHz以上のパルス電流で駆動可能にさせるために、25℃でのインク2の表面張力が30〜60mN/m、より好ましくは30〜40mN/mになるように調製する。また、インク2においては、その粘度が好ましくは15mPa・s以下、より好ましくは5mPa・s以下の低粘度タイプになるように調整する。
そして、以上のように調製されたインク2は、図2及び図3に示すように、イエローを呈するものがインクカートリッジ11yに収容され、マゼンタを呈するものがインクカートリッジ11mに収容され、シアンを呈するものがインクカートリッジ11cに収容され、ブラックを呈するものがインクカートリッジ11kに収容される。
次に、上述したプリンタ装置1を構成するプリンタ本体2に対して着脱可能なヘッドカートリッジ3と、このヘッドカートリッジ3に着脱可能にされたインクカートリッジ11y,11m,11c,11kとについて図面を参照して説明する。
記録紙Pに印刷を行うヘッドカートリッジ3は、図1に示すように、プリンタ本体4の上面側から、すなわち図1中矢印A方向から装着され、給排紙機構54により走行する記録紙Pに対してインク2を吐出して印刷を行う。
ヘッドカートリッジ3は、上述したインク2を、例えば電気熱変換式又は電気機械変換式等を用いた圧力発生手段が発生した圧力により微細に粒子化して吐出し、記録紙P等といった対象物の主面に液滴状態にしたインク2を吹き付ける。具体的に、ヘッドカートリッジ3は、図2及び図3に示すように、カートリッジ本体21を有し、このカートリッジ本体21には、インク2が充填された容器であるインクカートリッジ11y,11m,11c,11kが装着される。なお、以下では、インクカートリッジ11y,11m,11c,11kを単にインクカートリッジ11ともいう。
ヘッドカートリッジ3に着脱可能なインクカートリッジ11は、強度や耐インク性を有するポリプロピレン等の樹脂材料等を射出成形することにより成形されるカートリッジ容器12を有している。このカートリッジ容器12は、長手方向を使用する記録紙Pの幅方向の寸法と略同じ寸法となす略矩形状に形成され、内部に貯留するインク容量を最大限に増やす構成となっている。
具体的に、インクカートリッジ11を構成するカートリッジ容器12には、インク2を収容するインク収容部13と、インク収容部13からヘッドカートリッジ3のカートリッジ本体21にインク2を供給するインク供給部14と、外部よりインク収容部13内に空気を取り込む外部連通孔15と、外部連通孔15より取り込まれた空気をインク収容部13内に導入する空気導入路16と、外部連通孔15と空気導入路16との間でインク2を一時的に貯留する貯留部17と、インクカートリッジ11をカートリッジ本体21に係止するための係止突部18及び係合段部19とが設けられている。
インク収容部13は、気密性の高い材料によりインク2を収容するための空間を形成している。インク収容部13は、略矩形に形成され、長手方向の寸法が使用する記録紙Pの幅方向、すなわち図3中に示す記録紙Pの幅方向Wの寸法と略同じ寸法となるように形成されている。
インク供給部14は、インク収容部13の下側略中央部に設けられている。このインク供給部14は、インク収容部13と連通した略突形状のノズルであり、このノズルの先端が後述するヘッドカートリッジ3の接続部26に嵌合されることにより、インクカートリッジ2のカートリッジ容器12とヘッドカートリッジ3のカートリッジ本体21を接続する。
インク供給部14は、図4(A)及び図4(B)に示すように、インクカートリッジ11の底面14aにインク2を供給する供給口14bが設けられ、この底面14aに、供給口14bを開閉する弁14cと、弁14cを供給口14bの閉塞する方向に付勢するコイルバネ14dと、弁14cを開閉する開閉ピン14eとを備えている。ヘッドカートリッジ3の接続部26に接続されるインク2を供給する供給口14bは、図4(A)に示すように、インクカートリッジ11がヘッドカートリッジ3のカートリッジ本体21に装着される前の段階において、付勢部材であるコイルバネ14dの付勢力により弁14cが供給口14bを閉じる方向に付勢され閉塞されている。そして、インクカートリッジ11がカートリッジ本体21に装着されると、図4(B)に示すように、開閉ピン14eがヘッドカートリッジ3を構成するカートリッジ本体21の接続部26の上部によりコイルバネ14dの付勢方向とは反対の方向に押し上げられる。これにより、押し上げられた開閉ピン14eは、コイルバネ14dの付勢力に抗して弁14cを押し上げて供給口14bを開放する。このようにして、インクカートリッジ11のインク供給部14は、ヘッドカートリッジ3の接続部26に接続され、インク収容部13とインク溜め部31とを連通し、インク溜め部31へのインク2の供給が可能な状態となる。
また、インクカートリッジ11をヘッドカートリッジ3側の接続部26から引き抜くとき、すなわちインクカートリッジ11をヘッドカートリッジ3の装着部22より取り外すときは、弁14cの開閉ピン14eによる押し上げ状態が解除され、弁14cがコイルバネ14dの付勢方向に移動して供給口14bを閉塞する。これにより、インクカートリッジ11をカートリッジ本体21に装着する直前にインク供給部14の先端部が下方を向いている状態であってもインク収容部13内のインク2が漏れることを防止することができる。また、インクカートリッジ11をカートリッジ本体21から引き抜いたときには、直ちに弁14cが供給口14bを閉塞するので、インク供給部14の先端からインク2が漏れることを防止できる。
外部連通孔15は、図3に示すように、インクカートリッジ11外部からインク収容部13に空気を取り込む通気口であり、ヘッドカートリッジ3の装着部22に装着されたときも、外部に臨み外気を取り込むことができるように、装着部22への装着時に外部に臨む位置であるカートリッジ容器12の上面、ここでは上面略中央に設けられている。外部連通孔15は、インクカートリッジ11がカートリッジ本体21に装着されてインク収容部13からカートリッジ本体21側にインク2が流下した際に、インク収容部13内のインク2が減少した分に相当する分の空気を外部よりインクカートリッジ11内に取り込む。
空気導入路16は、インク収容部13と外部連通孔15とを連通し、外部連通孔15より取り込まれた空気をインク収容部13内に導入する。これにより、このインクカートリッジ11がカートリッジ本体21に装着された際に、ヘッドカートリッジ3のカートリッジ本体21にインク2が供給されてインク収容部13内のインク2が減少し内部が減圧状態となっても、インク収容部13には、空気導入路16によりインク収容部13に空気が導入されることから、内部の圧力が平衡状態に保たれてインク2をカートリッジ本体21に適切に供給することができる。
貯留部17は、外部連通孔15と空気導入路16との間に設けられ、インク収容部13に連通する空気導入路16よりインク2が漏れ出た際に、いきなり外部に流出することがないようにインク2を一時的に貯留する。この貯留部17は、長い方の対角線をインク収容部13の長手方向とした略菱形に形成され、インク収容部13の最も下側に位置する頂部に、すなわち短い方の対角線上の下側に空気導入路16を設けるようにし、インク収容部13より進入したインク2を再度インク収容部13に戻すことができるようにしている。また、貯留部17は、短い方の対角線上の最も下側の頂部に外部連通孔15を設けるようにし、インク収容部13より進入したインク2が外部連通孔15より外部に漏れにくくする。
係止突部18は、インクカートリッジ11の短辺の一方の側面に設けられた突部であり、ヘッドカートリッジ3のカートリッジ本体21のラッチレバー24に形成された係合孔24aと係合する。この係止突部18は、上面がインク収容部13の側面に対して略直交するような平面で形成されると共に、下面は側面から上面に向かって傾斜するように形成されている。
係合段部19は、インクカートリッジ11の係止突部18が設けられた側面の反対側の側面の上部に設けられている。係合段部19は、カートリッジ容器12の上面と一端を接する傾斜面19aと、この傾斜面19aの他端と他方の側面と連続し、上面と略平行な平面19bとからなる。インクカートリッジ11は、係合段部19が設けられていることで、平面19bが設けられた側面の高さがカートリッジ容器12の上面より1段低くなるように形成され、この段部でカートリッジ本体21の係合片23と係合する。係合段部19は、ヘッドカートリッジ3の装着部22に挿入されるとき、挿入端側の側面に設けられ、ヘッドカートリッジ3の装着部22側の係合片23に係合することで、インクカートリッジ11を装着部22に装着する際の回動支点部となる。
以上のような構成のインクカートリッジ11は、上述した構成の他に、例えばインク収容部13内のインク2の残量を検出するための残量検出部や、インクカートリッジ11y,11m,11c,11kを識別するための識別部等を備えている。
次に、以上のように構成されたイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのインク2を収納したインクカートリッジ11y,11m,11c,11kが装着されるヘッドカートリッジ3について説明する。
ヘッドカートリッジ3は、図2及び図3に示すように、上述したインクカートリッジ11とカートリッジ本体21とによって構成され、カートリッジ本体21には、インクカートリッジ11が装着される装着部22y,22m,22c,22k(以下、全体を示すときには単に装着部22ともいう。)と、インクカートリッジ11を固定する係合片23及びラッチレバー24と、インクカートリッジ11を取り出し方向に付勢する付勢部材25と、インク供給部14と接続されてインク2が供給される接続部26と、インク2を吐出するヘッドチップ27と、ヘッドチップ27を保護するヘッドキャップ28とを有している。
インクカートリッジ11が装着される装着部22は、インクカートリッジ11が装着されるように上面をインクカートリッジ11の挿脱口として略凹形状に形成され、ここでは4本のインクカートリッジ11が記録紙Pの幅方向と略直交方向、すなわち記録紙Pの走行方向に並んで収納される。装着部22は、インクカートリッジ11が収納されることから、インクカートリッジ11と同様に印刷幅の方向に長く設けられている。カートリッジ本体21には、インクカートリッジ11が収納装着される。
装着部22は、図2に示すように、インクカートリッジ11が装着される部分であり、イエロー用のインクカートリッジ11yが装着される部分を装着部22yとし、マゼンタ用のインクカートリッジ11mが装着される部分を装着部22mとし、シアン用のインクカートリッジ11cが装着される部分を装着部22cとし、ブラック用のインクカートリッジ11kが装着される部分を装着部22kとし、各装着部22y,22m,22c,22kは、隔壁22aによりそれぞれ区画されている。なお、上述したようにブラックのインクカートリッジ11kは、一般的に使用量が多いことから、インク2の内容量が大きくなるように厚く形成されているため、幅が他のインクカートリッジ11y,11m,11cよりも大きくなっている。このため、装着部22kは、インクカートリッジ11kの厚みに合わせて他の装着部22y,22m,22cよりも広くなっている。
また、インクカートリッジ11が装着される装着部22の開口端には、図3に示すように、係合片23が設けられている。この係合片23は、装着部22の長手方向の一端縁に設けられており、インクカートリッジ11の係合段部19と係合する。インクカートリッジ11は、インクカートリッジ11の係合段部19側を挿入端として斜めに装着部22内に挿入し、係合段部19と係合片23との係合位置を回動支点として、インクカートリッジ11の係合段部19が設けられていない側を装着部22側に回動させるようにして装着部22に装着することができる。これによって、インクカートリッジ11は、装着部22に容易に装着することができる。
ラッチレバー24は、板バネを折曲して形成されるものであり、装着部22の係合片23に対して反対側の側面、すなわち長手方向の他端の側面に設けられている。ラッチレバー24は、基端部が装着部22を構成する長手方向の他端の側面の底面側に一体的に設けられ、先端側がこの側面に対して近接離間する方向に弾性変位するように形成され、先端側に係合孔24aが形成されている。ラッチレバー24は、インクカートリッジ11が装着部22に装着されると同時に、弾性変位し、係合孔24aがインクカートリッジ11の係止突部18と係合し、装着部22に装着されたインクカートリッジ11が装着部22より脱落しないようにする。
付勢部材25は、インクカートリッジ11の係合段部19に対応する側面側の底面上にインクカートリッジ11を取り外す方向に付勢する板バネを折曲して設けられる。付勢部材25は、折曲することにより形成された頂部を有し、底面に対して近接離間する方向に弾性変位し、頂部でインクカートリッジ11の底面を押圧し、装着部22に装着されているインクカートリッジ11を装着部22より取り外す方向に付勢するイジェクト部材である。付勢部材25は、ラッチレバー24の係合孔24aと係止突部18との係合状態が解除されたとき、装着部23よりインクカートリッジ11を排出する。
各装着部22y,22m,22c,22kの長手方向略中央には、インクカートリッジ11y,11m,11c,11kが装着部22y,22m,22c,22kに装着されたとき、インクカートリッジ11y,11m,11c,11kのインク供給部14が接続される接続部26が設けられている。この接続部26は、装着部22に装着されたインクカートリッジ11のインク供給部14からカートリッジ本体21の底面に設けられたインク2を吐出するヘッドチップ27にインク2を供給するインク供給路となる。
具体的に、接続部26は、図5に示すように、インクカートリッジ11から供給されるインク2を溜めるインク溜め部31と、接続部26に連結されるインク供給部14をシールするシール部材32と、インク2内の不純物を除去するフィルタ33と、ヘッドチップ27側への供給路を開閉する弁機構34とを有している。
インク溜め部31は、インク供給部14と接続されインクカートリッジ11から供給されるインク2を溜める空間部である。シール部材32は、インク溜め部31の上端に設けられた部材であり、インクカートリッジ11のインク供給部14が接続部26のインク溜め部31に接続されるとき、インク2が外部に漏れないようインク溜め部31とインク供給部14との間を密閉する。フィルタ33は、インクカートリッジ11の着脱時等にインク2に混入してしまった塵や埃等のごみを取り除くものであり、インク溜め部31よりも下流に設けられている。
弁機構34は、図6(A)及び図6(B)に示すように、インク溜め部31からインク2が供給されるインク流入路34aと、インク流入路34aからインク2が流入するインク室34bと、インク室34bからインク2を流出するインク流出路34cと、インク室34bをインク流入路34a側とインク流出路34c側との間に設けられた開口部34dと、開口部34dを開閉する弁34eと、弁34eを開口部34dの閉塞する方向に付勢する付勢部材34fと、付勢部材34fの強さを調節する負圧調整ネジ34gと、弁34eと接続される弁シャフト34hと、弁シャフト34hと接続されるダイアフラム34iとを有する。
インク流入路34aは、インク溜め部31を介してインクカートリッジ11のインク収容部13内のインク2をヘッドチップ27に供給可能にインク収容部13と連結する供給路である。インク流入路34aは、インク溜め部31の底面側からインク室34bまで設けられている。インク室34bは、インク流入路34a、インク流出路34c及び開口部34dと一体となって形成された略直方体をなす空間部であり、インク流入路34aからインク2が流入し、開口部34dを介してインク流出路34cからインク2を流出する。インク流出路34cは、インク室34bから開口部34dを介してインク2が供給されて、更にヘッドチップ27と連結された供給路である。インク流出路34cは、インク室34bの底面側からヘッドチップ27まで延在されている。
弁34eは、開口部34dを閉塞してインク流入路34a側とインク流出路34c側とを分割する弁であり、インク室34b内に配設される。弁34eは、付勢部材34fの付勢力と、弁シャフト34hを介して接続されたダイアフラム34iの復元力と、インク流出路34c側のインク2の負圧によって上下に移動する。弁34eは、下端に位置するとき、インク室34bをインク流入路34a側とインク流出路34c側とを分離するように開口部34dを閉塞し、インク流出路34cへのインク2の供給を遮断する。弁34eは、付勢部材34fの付勢力に抗して上端に位置するとき、インク室34bをインク流入路34a側とインク流出路34c側とを遮断せずに、ヘッドチップ27へインク2の供給を可能とする。なお、弁34eを構成する材質は、その種類を問わないが、高い閉塞性を確保するため例えばゴム弾性体、いわゆるエラストマー等により形成される。
付勢部材34fは、例えば圧縮コイルバネ等であり、弁34eの上面とインク室34bの上面との間で負圧調整ネジ34gと弁34eとを接続し、付勢力により弁34eを開口部34dの閉塞する方向に付勢する。負圧調整ネジ34gは、付勢部材34fの付勢力を調整するネジであり、負圧調整ネジ34gを調整することで付勢部材34fの付勢力を調整することができるようにしている。これにより、負圧調整ネジ34gは、詳細は後述するが開口部34dを開閉する弁34eを動作させるインク2の負圧を調整することができる。
弁シャフト34hは、一端に接続された弁34eと、他端に接続されたダイアフラム34iとを連結して運動するように設けられたシャフトである。ダイアフラム34iは、弁シャフト34hの他端に接続された薄い弾性板である。このダイアフラム34iは、インク室34bのインク流出路34c側の一主面と、外気と接する他主面とからなり、大気圧とインク2の負圧により外気側とインク流出路34c側とに弾性変位する。
以上のような弁機構34では、図6(A)に示すように、弁34eが付勢部材34fの付勢力とダイアフラム34iの付勢力とによってインク室34bの開口部34dを閉塞するように押圧されている。そして、ヘッドチップ27からインク2が吐出された際に、開口部34dで分割されたインク流出路34c側のインク室34bのインク2の負圧が高まると、図6(B)に示すように、インク2の負圧によりダイアフラム34iが大気圧により押し上げられて、弁シャフト34hと共に弁34eを付勢部材34fの付勢力に抗して押し上げる。このとき、インク室34bのインク流入路34a側とインク流出路34c側と間の開口部34dが開放され、インク2がインク流入路34a側からインク流出路34c側に供給される。そして、インク2の負圧が低下してダイアフラム34iが復元力により元の形状に戻り、付勢部材34fの付勢力により弁シャフト34hと共に弁34eをインク室34bが閉塞するように引き下げる。以上のようにして弁機構34では、インク2を吐出する度にインク2の負圧が高まると、上述の動作を繰り返す。
また、この接続部26では、インク収容部13内のインク2がインク室34bに供給されると、インク収容部13内のインク2が減少するが、このとき、空気導入路16から外気がインクカートリッジ11内に入り込む。インクカートリッジ11内に入り込んだ空気は、インクカートリッジ11の上方に送られる。これにより、インク液滴iが後述するノズル44aから吐出される前の状態に戻り、平衡状態となる。このとき、空気導入路16内にインク2がほとんどない状態で平衡状態となる。
ヘッドチップ27は、図5に示すように、カートリッジ本体21の底面に沿って配設されており、接続部26から供給されるインク液滴iを吐出するインク吐出口である後述するノズル44aが各色毎、記録紙Pの幅方向、すなわち図5中矢印W方向に略ライン状をなすようにされている。
ヘッドキャップ28は、図2に示すように、ヘッドチップ27を保護するために設けられたカバーであり、印刷動作するときにはヘッドチップ27より取り外される。ヘッドキャップ28は、開閉方向に設けられた溝部28aと、長手方向に設けられヘッドチップ27の吐出面27aに付着した余分なインク2を吸い取る清掃ローラ28bとを有している。ヘッドキャップ28は、開閉動作時にこの溝部28aに沿ってインクカートリッジ11の短手方向に開閉するようにされており、このとき清掃ローラ28bがヘッドチップ27の吐出面27aに当接しながら回転することで、余分なインク2を吸い取り、ヘッドチップ27の吐出面27aを清掃する。この清掃ローラ28bには、例えば吸水性の高い部材が用いられる。また、ヘッドキャップ28は、印刷動作しないときにはヘッドチップ27内のインク2が乾燥しないようにする。
以上のような構成のヘッドカートリッジ3は、上述した構成の他に、例えばインクカートリッジ11内におけるインク残量を検出する残量検出部や、接続部26にインク供給部14が接続されたときにインク2の有無を検出するインク有無検出部等を備えている。
上述したヘッドチップ27は、各色のインク2に対応して、図7及び図8に示すように、ベースとなる回路基板41と、記録紙Pの走行方向と略直交方向、すなわち記録紙Pの幅方向に並設された一対の発熱抵抗体42a,42bと、インク2の漏れを防ぐフィルム43と、インク2が液滴の状態で吐出されるノズル44aが多数設けられたノズルシート44と、これらに囲まれてインク2が供給される空間であるインク液室45と、インク液室45にインク2を供給するインク流路46とを有する。
回路基板41は、シリコン等の半導体基板であり、その一主面41aに、一対の発熱抵抗体42a,42bが形成されており、一対の発熱抵抗体42a,42bが回路基板41上の後述する吐出制御部63とそれぞれ接続されている。この吐出制御部63は、ロジックIC(Integrated Circuit)やドライバートランジスタ等で構成されている電気回路である。
一対の発熱抵抗体42a,42bは、吐出制御部63から供給されるパルス電流で発熱し、インク液室45内のインク2を加熱して内圧を高める、すなわち圧力発生素子である。そして、一対の発熱抵抗体42a,42bにより加熱されたインク2は、後述するノズルシート44に設けられたノズル44aから液滴の状態で吐出する。
フィルム43は、回路基板41の一主面41aに積層されている。フィルム43は、例えば露光硬化型の程度のドライフィルムレジストからなり、回路基板41の一主面41aの略全体に積層された後、フォトリソグラフプロセスによって不要部分が除去され、一対の発熱抵抗体42a,42bを略凹状に囲むように形成されている。フィルム43においては、一対の発熱抵抗体42a,42bそれぞれを囲む部分がインク液室45の一部を形成する。
ノズルシート44は、インク液滴iを吐出させるためのノズル44aが形成された厚みが10μm〜15μm程度のシート状部材であり、フィルム43の回路基板41と反対側の面上に積層されている。ノズル44aは、ノズルシート44に円形状に開口された直径が15μm〜18μm程度の微小孔であり、一対の発熱抵抗体42a,42bと対向するように配置されている。なお、ノズルシート44はインク液室45の一部を構成する。
インク液室45は、回路基板41、一対の発熱抵抗体42a,42b、フィルム43及びノズルシート44に囲まれた空間部であり、インク流路46から供給されたインク2を貯留する空間である。インク液室45内のインク2は、一対の発熱抵抗体42a,42bにより加熱され、内圧が上昇される。
インク流路46は、接続部26のインク流出路34cと接続されており、接続部26に接続されたインクカートリッジ11からインク2が供給され、このインク流路46に連通する各インク液室45にインク2を送り込む流路を形成する。すなわち、インク流路46と接続部26とが連通されている。これにより、インクカートリッジ11から供給されるインク2がインク流路46に流れ込み、インク液室45内に充填される。
上述した1個のヘッドチップ27には、インク液室45毎に一対の発熱抵抗体42a,42bが設けられ、このような一対の発熱抵抗体42a,42bが設けられたインク液室45を各色インクカートリッジ11毎に100個〜5000個程度備えている。そして、ヘッドチップ27においては、プリンタ装置1の制御部68からの命令によってこれら一対の発熱抵抗体42a,42bそれぞれを適宜選択して発熱させ、発熱した一対の発熱抵抗体42a,42bに対応するインク液室45内のインク2を、インク液室45に対応するノズル44aから液滴の状態で吐出させる。
すなわち、ヘッドチップ27において、ヘッドチップ27と結合されたインク流路46から供給されたインク2がインク液室45を満たす。そして、一対の発熱抵抗体42a,42bに短時間、例えば1μsec〜3μsecの間パルス電流を流すことにより、一対の発熱抵抗体42a,42bがそれぞれ急速に発熱し、その結果、一対の発熱抵抗体42a,42bと接する部分のインク2が加熱されて気相のインク気泡が発生し、そのインク気泡の膨張によってある体積のインク2が押圧される(インク2が沸騰する)。これによって、ノズル44aに接する部分でインク気泡に押圧されたインク2と同等の体積のインク2がインク液滴iとしてノズル44aから吐出されて記録紙P上に着弾される。
このヘッドチップ27では、図8に示すように、1つのインク液室45内に、一対の発熱抵抗体42a,42bが互いに略平行に並設されている。すなわち、1つのインク液室45内に、一対の発熱抵抗体42a,42bを備えるものである。そして、ヘッドチップ27においては、図8中矢印Cで示す記録紙Pの走行方向と略直交方向、すなわち図8中矢印Wで示す記録紙Pの幅方向に互いに略平行に並設されている一対の発熱抵抗体42a,42b複数並ぶようにされている。なお、図8では、ノズル44aの位置を1点鎖線で示している。
このように、一対の発熱抵抗体42a,42bは、1つの抵抗体を2つに分割したような形状となり長さが同じで幅が半分になることから、それぞれの抵抗体の抵抗値がほぼ倍の値になる。これら一対の発熱抵抗体42a,42bにおける抵抗体を直列に接続した場合、2倍程度の抵抗値を有する抵抗体が直列に接続されることとなり、抵抗値は分割する前の4倍程度になる。
ここで、インク液室45内のインク2を沸騰させるためには、一対の発熱抵抗体42a,42bに一定のパルス電流を加えて一対の発熱抵抗体42a,42bを発熱させる必要がある。この沸騰時のエネルギーにより、インク液滴iを吐出させるためである。そして、抵抗値が小さいと、流すパルス電流を大きくする必要があるが、1つの抵抗体を2つに分割したような形状にされた一対の発熱抵抗体42a,42bは抵抗値が高くなっていることから、値の小さなパルス電流で沸騰させることが可能となる。
これにより、ヘッドチップ27では、パルス電流を流すためのトランジスタ等を小さくすることができ、省スペース化を図ることができる。なお、一対の発熱抵抗体42a,42bの厚みを薄く形成すれば抵抗値をさらに高くすることができるが、一対の発熱抵抗体42a,42bとして選定される材料や強度(耐久性)等の観点から、一対の発熱抵抗体42a,42bの厚みを薄くするには一定の限界がある。このため、厚みを薄くすることなく、分割することで、一対の発熱抵抗体42a,42bの抵抗値を高くしている。
ところで、インク液室45内のインクをノズル44aより吐出させる際に、一対の発熱抵抗体42a,42bによってインク液室45内のインクが沸騰するまでの時間、すなわち気泡発生時間が同じになるように一対の発熱抵抗体42a,42bを駆動制御すると、インク液滴iはノズル44aより略真下に吐出される。また、一対の発熱抵抗体42a,42bの気泡発生時間に時間差が発生した場合には、一対の発熱抵抗体42a,42b上で略同時にインク気泡を発生させることが困難になり、一対の発熱抵抗体42a,42bが並んでいる方向の何れか一方にずれてインク液滴iが吐出される。
具体的には、図9に示すように、ヘッドチップ27と結合されたインク流路46によりインク2が供給され、インク液室45内にインク2が満たされる。そして、一対の発熱抵抗体42a,42bに同じ電流値のパルス電流が略同時に流れることで、一対の発熱抵抗体42a,42bが急速に加熱され、その結果、一対の発熱抵抗体42a,42bと接する部分のインク2に気相のインク気泡B1,B2がそれぞれ発生し、このインク気泡B1,B2の膨張によって所定の体積のインク2が押圧される。これによって、ヘッドチップ27においては、図10に示すように、ノズル44aに接する部分でインク気泡B1,B2によって記録紙Pに向かって略垂直に押圧されたインク2と同等の体積のインク2がインク液滴iとしてノズル44aから略真下に吐出され、記録紙P上に着弾される。なお、ここでは、発熱抵抗体42a上にインク気泡B1が形成され、発熱抵抗体42b上にインク気泡B2が形成されるものとして説明する。
また、ヘッドチップ27においては、図11に示すように、一対の発熱抵抗体42a,42bに異なる値のパルス電流を略同時に供給させることで、一対の発熱抵抗体42a,42bと接する部分のインク2に異なる大きさのインク気泡B1,B2がそれぞれ発生し、このインク気泡B1,B2の膨張によって所定の体積のインク2が押圧される。これによって、ヘッドチップ27においては、図12に示すように、ノズル44aに接する部分でインク気泡B1,B2に押圧されたインク2と同等の体積のインク2がインク液滴iとしてノズル44aから図12中矢印Wで示す記録紙Pの幅方向、インク気泡B1,B2のうち小さい体積の方にずれて吐出され、記録紙P上に着弾される。なお、図12には、発熱抵抗体42a上に形成されたインク気泡B1の体積が、発熱抵抗体42b上に形成されたインク気泡B2の体積より大きくなったときを示している。
このような構成のヘッドチップ27では、インク液室45に、少なくとも上述した化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤を含有するインク2が供給されることより、インク液室45内のインク2に一対の発熱抵抗体42a,42bにより形成されたインク気泡B1,B2以外の泡が発生することが抑制されることから、従来のようなインク液室内のインクに生じた泡が発熱抵抗体上にインクの供給やノズルからのインクの吐出を妨げるといった不具合が防止される。
このヘッドチップ27では、インク液室45に供給されるインク2が少なくとも上述した化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤を含有しており、記録紙Pだけではなくインク液室45の内周面、一対の発熱抵抗体42a,42b、ノズル44a等に対してもインク2が優れた濡れ性を示すことから、ノズル44aよりインク液滴iを吐出した直後に速やかに一対の発熱抵抗体42a,42b上にインク2が供給される。したがって、このヘッドチップ27では、インク液滴iを吐出する度に、一対の発熱抵抗体42a,42bに速やかにインク2が供給される、すなわちインク液室45内にインク2が絶えず適切に供給されることから、短い吐出間隔でインク液滴iを吐出してもインク液滴iをノズル44aより適切に吐出できる。具体的には、一対の発熱抵抗体42a,42bを周波数が1kHz以上、好ましくは3kHz以上、更に好ましくは5kHz以上のパルス電流で駆動させてもインク液滴iをノズル44aより適切に吐出できる。
また、このヘッドチップ27では、インク液室45に供給されるインク2が、少なくとも上述した化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤を含有しており、この界面活性剤の曇点が80℃程度と従来の界面活性剤よりも高いことから、一対の発熱抵抗体42a,42bにより加熱されたインク2が界面活性剤の曇点を超えて物性変化してしまうことが抑制される。したがって、このヘッドチップ27では、インク液室45内のインク2の温度が界面活性剤の曇点を容易に越えることがなく、インク2の物性が安定していることから、インク液室45の内周面、一対の発熱抵抗体42a,42b、ノズル44a等に対するインク2の濡れ性を保つことができ、ノズル44aよりインク液滴iを適切に吐出できる。
これらのことから、このヘッドチップ27では、インク液室45内のインク2の物性が安定しており、ノズル44a等に対するインク2の濡れ性が適切な状態に保たれることから、一対の発熱抵抗体42a,42bの駆動を制御して吐出方向を変化させてインク液滴iをノズル44aより吐出させても、インク液滴iの吐出角度にばらつきが生じることがなく、インク液滴iを所定の方向に適切に吐出できる。
次に、以上のように構成されたヘッドカートリッジ3が装着されるプリンタ装置1を構成するプリンタ本体4について図面を参照して説明する。
プリンタ本体4は、図1及び図13に示すように、ヘッドカートリッジ3が装着されるヘッドカートリッジ装着部51と、ヘッドカートリッジ3をヘッドカートリッジ装着部51に保持、固定するためのヘッドカートリッジ保持機構52と、ヘッドキャップを開閉するヘッドキャップ開閉機構53と、記録紙Pを給排紙する給排紙機構54と、給排紙機構54に記録紙Pを供給する給紙口55と、給排紙機構54から記録紙Pが出力される排紙口56とを有する。
ヘッドカートリッジ装着部51は、ヘッドカートリッジ3が装着される凹部であり、走行する記録紙にデータ通り印刷を行うため、ヘッドチップ27の吐出面27aと走行する記録紙Pの紙面とが互いに略平行となるようにヘッドカートリッジ3が装着される。ヘッドカートリッジ3は、ヘッドチップ27内のインク詰まり等で交換する必要が生じる場合等があり、インクカートリッジ11程の頻度はないが消耗品であるため、ヘッドカートリッジ装着部51に対して着脱可能にヘッドカートリッジ保持機構52によって保持される。
ヘッドカートリッジ保持機構52は、ヘッドカートリッジ装着部51にヘッドカートリッジ3を着脱可能に保持するための機構であり、ヘッドカートリッジ3に設けられたつまみ52aをプリンタ本体4の係止孔52b内に設けられた図示しないバネ等の付勢部材に係止することによってプリンタ本体4に設けられた基準面4aに圧着するようにしてヘッドカートリッジ3を位置決めして保持、固定できるようにする。
ヘッドキャップ開閉機構53は、ヘッドカートリッジ3のヘッドキャップ28を開閉する駆動部を有しており、印刷を行うときにヘッドキャップ28を開放してヘッドチップ27が記録紙Pに対して露出するようにし、印刷が終了したときにヘッドキャップ28を閉塞してヘッドチップ27を保護する。
給排紙機構54は、記録紙Pを搬送する駆動部を有しており、給紙口55から供給される記録紙Pをヘッドカートリッジ3のヘッドチップ27まで搬送し、ノズル44aより吐出されたインク液滴iが着弾し、印刷された記録紙Pを排紙口56に搬送して装置外部へ排出する。給紙口55は、給排紙機構54に記録紙Pを供給する開口部であり、トレイ55a等に複数枚の記録紙Pを積層してストックすることができる。排紙口56は、インク液滴iが着弾し、印刷された記録紙Pを排出する開口部である。
次に、以上のように構成されたプリンタ装置1による印刷を制御する図14に示す制御回路61について図面を参照して説明する。
制御回路61は、上述したプリンタ本体4の各駆動機構53,54の駆動制御するプリンタ駆動部62と、各色のインク2に対応するヘッドチップ27に供給される電流等を制御する吐出制御部63と、各色のインク2の残量を警告する警告部64と、外部装置と信号の入出力を行う入出力端子65と、制御プログラム等が記録されたROM(Read Only Memory)66と、読み出された制御プログラム等を一旦格納し、必要に応じて読み出されるRAM(Random Access Memory)67と、各部の制御を行う制御部68とを有している。
プリンタ駆動部62は、制御部68からの制御信号に基づき、ヘッドキャップ開閉機構53を構成する駆動モータを駆動させてヘッドキャップ28を開閉するように、ヘッドキャップ開閉機構を制御する。また、プリンタ駆動部62は、制御部68からの制御信号に基づき、給排紙機構54を構成する駆動モータを駆動させてプリンタ本体4の給紙口55から記録紙Pを給紙し、印刷後に排紙口56から記録紙Pを排出するように、給排紙機構を制御する。
吐出制御部63は、図15に示すように、それぞれが抵抗体である一対の発熱抵抗体42a,42bにパルス電流を流すための電源71a,71bと、一対の発熱抵抗体42a,42bと電源71a,71bとの電気的な接続をオン/オフさせるスイッチング素子72a,72b,72cと、一対の発熱抵抗体42a,42bに供給されるパルス電流を制御するための可変抵抗73と、スイッチング素子72b,72cの切り換えを制御する切換制御回路74a,74bと、可変抵抗73の抵抗値を制御する抵抗値制御回路75とを備える電気回路である。
電源71aは、発熱抵抗体42bに接続され、電源71bは、スイッチング素子72c、を介して可変抵抗73に接続され、それぞれ電気回路にパルス電流を供給する。なお、電気回路に供給されるパルス電流は、電源71a,71bを電力源としてもよいが、例えば制御部68等から直接供給されるようにすることも可能である。
スイッチング素子72aは、発熱抵抗体42aとグランドとの間に配置され、吐出制御部63全体のオン/オフを制御する。スイッチング素子72bは、一対の発熱抵抗体42a,42bと可変抵抗73との間に接続され、一対の発熱抵抗体42a,42bに供給されるパルス電流を制御する。スイッチング素子72cは、可変抵抗73と電源71bとの間に配置され、インク液滴iの吐出方向を制御する。そして、これらスイッチング素子72a,72b,72cは、それぞれオン/オフが切り換えられることで電気回路に供給されるパルス電流を制御する。
可変抵抗73は、抵抗値を可変することで発熱抵抗体42aに供給されるパルス電流の電流値を変化させる。すなわち、発熱抵抗体42aに供給されるパルス電流の電流値は、可変抵抗73の抵抗値の大きさによって決まる。
切換制御回路74aは、スイッチング素子72bのオン/オフを切り換えて、可変抵抗73と一対の発熱抵抗体42a,42bとを接続させるか、若しくは可変抵抗73と一対の発熱抵抗体42a,42bとをオフの状態にする。切換制御回路74bは、スイッチング素子72cのオン/オフを切り換えて、電源71bと電気回路との接続のオン/オフを切り換える。
抵抗値制御回路75は、可変抵抗73の抵抗値の大きさを制御し、発熱抵抗体42aに供給されるパルス電流の大きさを調節する。
以上のような構成の吐出制御部63では、スイッチング素子72bをオフにして可変抵抗73と一対の発熱抵抗体42a,42bとが接続されていないとき、スイッチング素子72aをオンにすると、電源71aからパルス電流が直列に接続された一対の発熱抵抗体42a,42bに供給される(可変抵抗73には電流が流れない)。このとき、一対の発熱抵抗体42a,42bの抵抗値が略同一である場合には、パルス電流が供給されたときに一対の発熱抵抗体42a,42bが発生する熱量が略同一になる。
この場合、ヘッドチップ27は、図16(A)に示すように、一対の発熱抵抗体42a,42bで発生する熱量が略同一となり、インク気泡B1,B2が発生する時間、すなわち気泡発生時間が略同一になって略同じ体積のインク気泡B1,B2が一対の発熱抵抗体42a,42b上にそれぞれ形成されることから、インク2の吐出角度が記録紙Pの主面に対して略垂直になり、インク液滴iをノズル44aから略真下に吐出する。
また、図15に示す吐出制御部63では、スイッチング素子72bが一対の発熱抵抗体42a,42bと可変抵抗73との接続をオンにし、スイッチング素子72aをオンにし、スイッチング素子72cをグランドと接続したときに、図16(B)に示すように、ヘッドチップ27より吐出されるインク液滴iを、吐出方向が図16(B)に示す記録紙Pの幅方向Wの発熱抵抗体42a側に可変された状態で吐出させる。すなわち、スイッチング素子72cがグランドに接続されることで、発熱抵抗体42aに供給されるパルス電流の電流値は可変抵抗73の抵抗値に応じて小さくなり、インク気泡B1の体積がインク気泡B2の体積より小さくされた状態でインク気泡B1,B2が一対の発熱抵抗体42a,42b上にそれぞれ形成されることから、インク2の吐出角度を発熱抵抗体42a側に変化させてインク液滴iをノズル44aから略斜めに吐出する。この吐出制御部63では、発熱抵抗体42bに供給されるパルス電流の電流値は不変であり、発熱抵抗体42aに供給されるパルス電流の電流値を変化させている。
この場合、可変抵抗73の抵抗値が大きいと、電源71aからスイッチング素子72cを介してグランドに流出される電流が小さくなって発熱抵抗体42aに電源71aより供給されるパルス電流の電流値の減少量が小さいことから、一対の発熱抵抗体42a,42bに供給されるパルス電流の差異が小さくなり、一対の発熱抵抗体42a,42bの間で生じる熱量の差異も小さくなり、吐出面27aを基準にしてノズル44aより吐出されたインク液滴iの吐出角度は大きくなる。すなわち、可変抵抗73の抵抗値が大きいほど、ノズル44aより略真下にインク液滴iを吐出したときの着弾点Dに対し、発熱抵抗体42a側でより近い位置に着弾するようにインク液滴iを吐出する。一方、可変抵抗73の抵抗値が小さいと、電源71aからスイッチング素子72cを介してグランドに流出される電流が大きくなって発熱抵抗体42aに電源71aより供給されるパルス電流の電流値の減少量が大きいことから、一対の発熱抵抗体42a,42bに供給されるパルス電流の差異が大きくなり、一対の発熱抵抗体42a,42bの間で生じる熱量の差異も大きくなり、吐出面27aを基準にしてノズル44aより吐出されたインク液滴iの吐出角度は小さくなる。すなわち、可変抵抗73の抵抗値が小さいほど、ノズル44aより略真下にインク液滴iを吐出したときの着弾点Dに対し、発熱抵抗体42a側でより遠い位置に着弾するようにインク液滴iを吐出する。
また、図15に示す吐出制御部63では、スイッチング素子72bが一対の発熱抵抗体42a,42bと可変抵抗73との接続をオンにし、スイッチング素子72aをオンにし、スイッチング素子72cを電源71bと接続したときに、図16(C)に示すように、ヘッドチップ27より吐出されるインク液滴iを、吐出方向が図16(C)に示す記録紙Pの幅方向Wの発熱抵抗体42b側に可変された状態で吐出させる。すなわち、スイッチング素子72cが電源71bに接続されることで、発熱抵抗体42aに供給されるパルス電流の電流値は可変抵抗73の抵抗値に応じて大きくなり、インク気泡B2の体積がインク気泡B1の体積より小さくされた状態でインク気泡B1,B2が一対の発熱抵抗体42a,42b上にそれぞれ形成されることから、インク2の吐出角度を発熱抵抗体42b側に変化させてインク液滴iをノズル44aから略斜めに吐出する。ヘッドチップ27においては、一対の発熱抵抗体42a,42bの発熱状態がスイッチング素子72cをグランドに接続したときとは逆になる。
この場合、可変抵抗73の抵抗値が大きいと、電源71aの他に電源71bより発熱抵抗体42aに加算されて供給されるパルス電流が小さくなることから、一対の発熱抵抗体42a,42bに供給されるパルス電流の差異が小さくなり、一対の発熱抵抗体42a,42bの間で生じる熱量の差異も小さくなり、吐出面27aを基準にしてノズル44aより吐出されたインク液滴iの吐出角度は大きくなる。すなわち、可変抵抗73の抵抗値が大きいほど、ノズル44aより略真下にインク液滴iを吐出したときの着弾点Dに対し、発熱抵抗体42b側でより近い位置に着弾するようにインク液滴iを吐出する。一方、可変抵抗73の抵抗値が小さいと、電源71aの他に電源71bより発熱抵抗体42aに加算されて供給されるパルス電流が大きくなることから、一対の発熱抵抗体42a,42bに供給されるパルス電流の差異が大きくなり、一対の発熱抵抗体42a,42bの間で生じる熱量の差異も大きくなり、吐出面27aを基準にしてノズル44aより吐出されたインク液滴iの吐出角度は小さくなる。すなわち、可変抵抗73の抵抗値が小さいほど、ノズル44aより略真下にインク液滴iを吐出したときの着弾点Dに対し、発熱抵抗体42b側でより遠い位置に着弾するようにインク液滴iを吐出する。
このように、吐出制御部63では、スイッチング素子72a,72b,72cを切り換え、可変抵抗73の抵抗値を変化させることで、インク液滴iのノズル44aからの吐出方向を、一対の発熱抵抗体42a,42bが並設されている方向、すなわち記録紙Pの幅方向に変化させることができる。
なお、以上では、可変抵抗73の抵抗値を制御することで発熱抵抗体42aに供給される電流値を調整したが、このことに限定されることはなく、例えば電源71aを発熱抵抗42aに接続するような構成にすることで発熱抵抗体42b側に供給される電流値の変化させることも可能である。
図14に示す警告部64は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)等の表示手段であり、印刷条件、印刷状態、インク残量等の情報を表示する。また、警告部64は、例えばスピーカ等の音声出力手段であってもよく、この場合は、印刷条件、印刷状態、インク残量等の情報を音声で出力する。なお、警告部64は、表示手段及び音声出力手段をともに有するように構成してもよい。また、この警告は、情報処理装置69のモニタやスピーカ等で行うようにしてもよい。
入出力端子65は、上述した印刷条件、印刷状態、インク残量等の情報をインタフェースを介して外部の情報処理装置69等に送信する。また、入出力端子65は、外部の情報処理装置69等から、上述した印刷条件、印刷状態、インク残量等の情報を出力する制御信号や、印刷データ等が入力される。ここで、上述した情報処理装置69は、例えば、パーソナルコンピュータやPDA(Personal Digital Assistant)等の電子機器である。
情報処理装置69等と接続される入出力端子65は、インタフェースとして例えばシリアルインタフェースやパラレルインタフェース等を用いることができ、具体的にUSB(Universal Serial Bus)、RS(Recommended Standard)232C、IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers)1394等の規格に準拠したものである。また、入出力端子65は、情報処理装置69との間で有線通信又は無線通信の何れ形式でデータ通信を行うようにしてもよい。なお、この無線通信規格としては、IEEE802.11a,802.11b,802.11g等がある。
入出力端子65と情報処理装置69との間には、例えばインターネット等のネットワークが介在していてもよく、この場合、入出力端子65は、例えばLAN(Local Area Network)、ISDN(Integrated Services Digital Network)、xDSL(Digital Subscriber Line)、FTHP(Fiber To The Home)、CATV(Community Antenna TeleVision)、BS(Broadcasting Satellite)等のネットワーク網に接続され、データ通信は、TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)等の各種プロトコルにより行われる。
ROM66は、例えばEP−ROM(Erasable Programmable Read-Only Memory)等のメモリであり、制御部68が行う各処理のプログラムが格納されている。この格納されているプログラムは、制御部68によりRAM67にロードされる。RAM67は、制御部68によりROM66から読み出されたプログラムや、プリンタ装置1の各種状態を記憶する。
制御部68は、入出力端子65から入力された印刷データ、ヘッドカートリッジ3から入力されがインク2の残量データ等に基づき、各部を制御する。制御部68は、入力された制御信号等に基づいて各部を制御する処理プログラムをROM66から読み出してRAM67に記憶し、この処理プログラムに基づき各部の制御や処理を行う。
なお、以上のように構成された制御回路61においては、ROM66に処理プログラムを格納するようにしたが、処理プログラムを格納する媒体としては、ROM66に限定されるものでなく、例えば処理プログラムが記録された光ディスクや、磁気ディスク、光磁気ディスク、ICカード等の各種記録媒体を用いることができる。この場合に制御回路61は、各種記録媒体を駆動するドライブと直接又は情報処理装置69を介して接続されてこれら記録媒体から処理プログラムを読み出すように構成する。
ここで、以上のように構成されるプリンタ装置1の印刷動作について図17に示すフローチャートを参照にして説明する。なお、本動作はROM66等の記憶手段に格納された処理プログラムに基づいて制御部68内の図示しないCPU(Central Processing Unit)の演算処理等により実行されるものである。
先ず、ユーザが、印刷動作をプリンタ装置1が実行するように、プリンタ本体4に設けられている操作パネル等を操作して命令する。次に、制御部68は、ステップS1において、各装着部22に所定の色のインクカートリッジ11が装着されているかどうかを判断する。そして、制御部68は、全ての装着部22に所定の色のインクカートリッジ11が適切に装着されているときはステップS2に進み、装着部22においてインクカートリッジ11が適切に装着されていないときはステップS4に進み、印刷動作を禁止する。
制御部68は、ステップS2において、接続部26内のインク2が所定量以下、すなわちインク無し状態であるか否かを判断し、インク無し状態であると判断されたときは、警告部64でその旨を警告し、ステップS4において、印刷動作を禁止する。一方、制御部68は、接続部26内のインク2が所定量以上であるとき、すなわちインク2が満たされているとき、ステップS3において、印刷動作を許可する。
印刷動作を行う際は、制御部68がプリンタ制御部62によって各駆動機構53,54を駆動制御して記録紙Pを印刷可能な位置まで移動させる。具体的に、制御部68は、図18に示すように、ヘッドキャップ開閉機構53を構成する駆動モータを駆動させてヘッドキャップ28をヘッドカートリッジ3に対してトレイ55a側に移動させ、ヘッドチップ27のノズル44aを露出させる。そして、制御部68は、給排紙機構54を構成する駆動モータを駆動させて記録紙Pを走行させる。具体的に、制御部68は、トレイ55aから給紙ローラ81によって記録紙Pを引き出し、互いに反対方向に回転する一対の分離ローラ82a,82bによって引き出された記録紙Pの一枚を反転ローラ83に搬送して搬送方向を反転させた後に搬送ベルト84に記録紙Pを搬送し、搬送ベルト84に搬送された記録紙Pを押さえ手段85が所定の位置で保持させることでインク2が着弾される位置が決定されるように給排紙機構54を制御する。
そして、制御部68は、記録紙Pが印刷位置に保持されたことを確認すると、ヘッドチップ27のノズル44aより記録紙Pに向かってインク液滴iを吐出するように吐出制御部63を制御する。具体的には、図16(A)に示すように、ノズル44aより略真下にインク液滴iを吐出する場合、一対の発熱抵抗体42a,42bに供給されるパルス電流の電流値が略同じになるように吐出制御部63を制御する。また、制御部68は、図16(B)に示すように、ノズル44aより発熱抵抗体42a側に吐出方向を変えてインク液滴iを吐出する場合、発熱抵抗体42bに供給されるパルス電流より、発熱抵抗体42aに供給されるパルス電流の電流値が小さくなるように吐出制御部63を制御する。また、制御部68は、図16(C)に示すように、ノズル44aより発熱抵抗体42b側に吐出方向を変えてインク液滴iを吐出する場合、発熱抵抗体42bに供給されるパルス電流に比べ、発熱抵抗体42aに供給されるパルス電流の電流値が大きくなるように吐出制御部63で制御する。
以上ように、インク液滴iがノズル44a吐出されると、インク液滴iを吐出した量と同量のインク2がインク流路46から直ちにインク液室45内に補充され、図6(B)に示すように、元の状態に戻る。ヘッドチップ27からインク液滴iが吐出されると、付勢部材34fの付勢力とダイアフラム34iの付勢力とによってインク室34bの開口部34dを閉塞している弁34eは、図6(A)に示すように、ヘッドチップ27からインク液滴iが吐出された際に、開口部34dに分割されたインク流出路34c側のインク室34b内のインク2の負圧が高まると、インク2の負圧によりダイアフラム34iが大気圧により押し上げられて、弁シャフト34hと共に弁34eを付勢部材34fの付勢力に抗して押し上げる。このとき、インク室34bのインク流入路34a側とインク流出路34c側との間の開口部34dが開放され、インク2がインク流入路34a側からインク流出路34c側に供給され、ヘッドチップ27のインク流路46にインク2が補充される。そして、インク2の負圧が低下してダイアフラム34iが復元力により元の形状に戻り、付勢部材34fの付勢力により弁シャフト34hと共に弁34eをインク室34bが閉塞するように引き下げる。以上のようにして弁機構34では、インク液滴iを吐出する度にインク2の負圧が高まると、上述の動作を繰り返す。
このようにして、給排紙機構54によって走行している記録紙Pには、順に印刷データに応じた文字や画像が印刷されることになる。そして、印刷が終了した記録紙Pは、給排紙機構54によって排紙口56より排出される。
以上で説明したプリンタ装置1では、インクカートリッジ11内に上述した化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤を少なくとも含有するインク2が収容され、このインク2をノズル44aよりインク液滴iにして記録紙Pに吐出しており、インク2が記録紙Pに対して優れた濡れ性を示し、記録紙Pの厚み方向に速やかに浸透することから、着弾したインク液滴iの着弾点が滲むことなく、高画質な印刷を行える。具体的には、例えば記録紙Pにコピー用紙、ボンド紙、レポート紙等の普通紙を用いた場合でも、着弾したインク液滴iが普通紙の繊維に沿って滲んでしまうことを抑制できる。
また、このプリンタ装置1では、記録紙Pに対して優れた濡れ性を示すインク2をインク液滴iの状態にしてノズル44aより吐出し、記録紙Pに印刷を行うことから、着弾したインク液滴iが記録紙Pに速やかに染み込んで乾燥したような状態になり、印刷した直後にインク液滴iが着弾した部分を擦ってもインク液滴iの着弾点に掠れ等が生じて画質が低下することを抑制できる。
このプリンタ装置1では、インクカートリッジ11内に少なくとも上述した化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤が含有されたインク2を収容しており、このインク2がインク液室45に供給されることより、インク液室45内のインク2にインク気泡B1,B2以外の泡が生じることが抑制される。したがって、このプリンタ装置1では、従来のようなインク液室内のインクに生じた泡が発熱抵抗体上にインクの供給やノズルからのインクの吐出を妨げるといった不具合を防止でき、ノズル44aよりインク液滴iを適切に吐出できる。
このプリンタ装置1では、インク液室45に供給されるインク2が、記録紙Pだけでなく、インク液室45の内周面、一対の発熱抵抗体42a,42b、ノズル44a等にも優れた濡れ性を示すことから、ノズル44aよりインク液滴iを吐出した直後に速やかに一対の発熱抵抗体42a,42b上にインク2を供給できる。したがって、このプリント装置1では、インク液滴iをノズル44aから吐出する度に、一対の発熱抵抗体42a,42bに速やかにインク2を供給することができ、短い吐出間隔でインク液滴iを吐出したときでも、インク液滴iをノズル44aより適切に吐出できる。すなわち、このプリンタ装置1では、一対の発熱抵抗体42a,42bを周波数が1kHz以上、好ましくは3kHz以上、更に好ましくは5kHz以上のパルス電流で駆動させて印刷速度を速くさせても、吐出機会毎でノズル44aからインク液滴iを適切に吐出でき、高画質な印刷を行える。
このプリンタ装置1では、インクカートリッジ11に収容されるインク2が、少なくとも上述した化学式1に示す有機化合物を有する界面活性剤を含有しており、この界面活性剤の曇点が80℃程度と従来の界面活性剤よりも高いことから、一対の発熱抵抗体42a,42bによりインク2が加熱されたときに界面活性剤の曇点を超えて物性変化してしまうことを抑制できる。したがって、このプリンタ装置1では、インクカートリッジ11より供給されたインク液室45内のインク2の温度が界面活性剤の曇点を容易に越えることがなく、インク2の物性が安定していることから、インク液室45の内周面、一対の発熱抵抗体42a,42b、ノズル44a等に対するインク2の濡れ性を保つことができ、ノズル44aよりインク液滴iを適切に吐出できる。
このプリント装置1では、ヘッドチップ27内のインク2の物性が安定しており、ノズル44a等に対するインク2の濡れ性が適切な状態に保たれることから、一対の発熱抵抗体42a,42bの駆動を制御し、吐出方向を変化させてノズル44aより吐出されたインク液滴iの吐出角度にばらつきが生じることを抑え、インク液滴iをノズル44aより所望の吐出角度で吐出できる。
なお、以上では、一対の発熱抵抗体42a,42bが記録紙Pの幅方向に並設されたヘッドチップ27を例に挙げて説明したが、このような構造に限定されることはなく、複数の圧力発生素子に供給されるパルス電流の電流値を変えてインク液滴iの吐出方向を制御するものであれば、例えば図19(A)〜図19(C)に示すヘッドチップ91,101,111にも適用可能である。なお、ヘッドチップ91は記録紙Pの走行方向に一対の発熱抵抗体92a,92aを並設させたものであり、ヘッドチップ101はインク液室102に3つの発熱抵抗体103a,103b,103cを配設させたものであり、ヘッドチップ111はインク液室112に4つの発熱抵抗体113a,113b,113c,113dを配設させたものである。なお、図19では、各ヘッドチップ91,101,111におけるノズル93,104,114の位置を点線で示している。また、ヘッドチップ101、111において、インク流路側にある発熱抵抗体103c,113cは、インク液室102,112内に発生したインク気泡が割れたときにインク液滴iをノズル104,114より吐出させるための圧力が側壁側に比べてインク流路側で低くなり、インク流路よりインク2が供給される方向、すなわち図19中矢印F方向とは略反対方向にインク液滴iが吐出されることを防ぐために設けられている。
また、以上では、複数の発熱抵抗体42a,42bが設けられたヘッドチップ27を例に挙げて説明したが、このような構成に限定されることはなく、例えば図20に示すヘッドチップ121のように、発熱抵抗体122がノズル123と対向する位置に一つだけ設けられたものにも適用可能である。この場合、ヘッドチップ121は、ノズル123よりインク液滴iを略真下方向、すなわち記録紙Pに対し略垂直方向だけに吐出する。なお、図20でも、ヘッドチップ121におけるノズル123の位置を点線で示している。
さらに、以上では、プリンタ本体4に対してヘッドカートリッジ3が着脱可能であり、更に、ヘッドカートリッジ3に対してインクカートリッジ11が着脱可能なプリンタ装置1を例に取り説明したが、プリンタ本体4とヘッドカートリッジ3とが一体化されたプリンタ装置にも適用可能である。
さらにまた、以上では、一対の発熱抵抗体42a,42bによってインク2を加熱しながらノズル44aから吐出させる電気熱変換方式を採用しているが、このような方式に限定されず、例えばピエゾ素子といった圧電素子等の電気機械変換素子等によってインクを電気機械的にノズルより吐出させる電気機械変換方式を採用したものであってもよい。
さらにまた、以上では、ライン型のプリンタ装置1を例に挙げて説明したが、このことに限定されることはなく、例えばインクヘッドが記録紙の走行方向と略直交する方向に移動するシリアル型のインクジェットプリンタ装置にも適用可能である。この場合、シリアル型のインクジェットプリンタ装置のヘッドチップには少なくとも複数の圧力発生素子が設けられることになる。
以下、本発明を適用した記録液としてインクを実際に調製した実施例、比較例、参照例について説明する。
〈実施例1〉
実施例1では、着色剤となる染料としてC.I.ダイレクトイエロー86を3重量部と、溶媒として水70重量部と、その他の溶媒としてグリセリン5重量部と、エチレングリコール10重量部と、モノブチルジエチレングリコール10重量部と、エチレンオキサイド(以下、EOと記す。)の総付加量(m+n)を2にした化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤2量部とを混合し、インク前駆体を調製した。なお、化学式1に示す有機化合物を有する界面活性剤には、日光ケミカルズ社製NEXCOATのエチレンオキサイドの付加量を変化させたものを用いた。
そして、このような配合で得られたインク前駆体を、60℃に加温した状態で4時間攪拌し、攪拌後に、メッシュ径が0.8μmのアドバンテック社製メンブレンフィルタでインク前駆体を加圧しながら強制的に濾過した。このようにして、インクを調製した。
〈実施例2〉
実施例2では、着色剤となる染料としてC.I.ダイレクトブルー199を4重量部と、溶媒として水65重量部と、その他の溶媒としてエチレングリコール10重量部と、ジエチレングリコール10重量部と、トリエチレングリコール10重量部と、EOの総付加量(m+n)を7にした実施例1と同様の化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤1重量部とを混合し、インク前駆体を調製した。そして、このようなインク前駆体を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
〈実施例3〉
実施例3では、着色剤となる染料としてC.I.アシッドレッド52を3重量部と、溶媒として水70.9重量部と、その他の溶媒としてモノブチルトリエチレングリコール10重量部と、2−ピロリドン5重量部と、グリセリン10重量部と、EOの総付加量(m+n)を2にした実施例1と同様の化学式1に示す有機化合物を有する界面活性剤0.1重量部と、EOの総付加量(m+n)を4にした実施例1と同様の化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤0.1重量部とを混合し、インク前駆体を調製した。そして、このようなインク前駆体を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
〈実施例4〉
実施例4では、着色剤となる染料としてC.I.ダイレクトブラック154を4重量部と、溶媒として水75.95重量部と、その他の溶媒としてエチレングリコール5十両部と、ジエチレングリコール5重量部と、グリセリン10重量部と、EOの総付加量量(m+n)を4にした実施例1と同様の化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤0.05重量部とを混合し、インク前駆体を調製した。そして、このようなインク前駆体を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
〈実施例5〉
実施例5では、着色剤となる染料としてC.I.ダイレクトブラック168を3重量部と、溶媒として水76.9重量部と、その他の溶媒として1,2−プロパンジオール5重量部と、2−ピロリドン5重量部と、グリセリン10重量部と、EOの総付加量(m+n)を4にした実施例1と同様の化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤0.1重量部とを混合し、インク前駆体を調製した。そして、このようなインク前駆体を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
〈実施例6〉
実施例6では、着色剤となる染料としてC.I.ダイレクトイエロー132を3重量部と、溶媒として水74.5重量部と、その他の溶媒としてジエチレングリコール10重量部と、テトラエチレングリコール10重量部と、トリエタノールアミン0.5重量部と、EOの総付加量(m+n)を4にした実施例1と同様の化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤2重量部とを混合し、インク前駆体を調製した。そして、このようなインク前駆体を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
〈実施例7〉
実施例7では、着色剤となる染料としてC.I.アシッドレッド289を3重量部と、溶媒として水52重量部と、その他の溶媒としてエチレングリコール100重量部と、ジエチレングリコール20重量部と、グリセリン10重量部と、EOの総付加量(m+n)を7にした実施例1と同様の化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤5重量部とを混合し、インク前駆体を調製した。そして、このようなインク前駆体を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
〈比較例1〉
比較例1では、着色剤となる染料としてC.I.ダイレクトブルー199を4重量部と、溶媒として水65重量部と、その他の溶媒としてエチレングリコール10重量部と、ジエチレングリコール10重量部と、トリエチレングリコール10重量部と、界面活性剤として日光ケミカルズ社製のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(商品名:NP10)1重量部とを混合し、インク前駆体を調製した。そして、このようなインク前駆体を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
〈比較例2〉
比較例2では、着色剤となる染料としてC.I.ダイレクトブラック168を3重量部と、溶媒として水76.9重量部と、その他の溶媒として1,2−プロパンジオール5重量部と、2−ピロリドン5重量部と、グリセリン10重量部と、界面活性剤として日光ケミカルズ社製のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(商品名:NP7.5)0.1重量部とを混合し、インク前駆体を調製した。そして、このようなインク前駆体を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
〈比較例3〉
比較例3では、着色剤となる染料としてC.I.アシッドレッド52を3重量部と、溶媒として水71重量部と、その他の溶媒としてモノブチルトリエチレングリコール10重量部と、2−ピロリドン5重量部と、グリセリン10重量部と、界面活性剤として日本油脂社製のポリオキシエチレントリデシアルコールエーテル(商品名:ディスパノールTOC)1重量部とを混合し、インク前駆体を調製した。そして、このようなインク前駆体を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
〈比較例4〉
比較例4では、着色剤となる染料としてC.I.ダイレクトイエロー132を3重量部と、溶媒として水74.5重量部と、その他の溶媒としてジエチレングリコール10重量部と、テトラエチレングリコール10重量部と、トリエタノールアミン0.5重量部と、界面活性剤として日本油脂社製のポリオキシエチレンオレイルエーテル(商品名:ノニオンE−215)2重量部とを混合し、インク前駆体を調製した。そして、このようなインク前駆体を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
〈比較例5〉
比較例5では、着色剤となる染料としてC.I.アシッドレッド289を3重量部と、溶媒として水52重量部と、その他の溶媒としてエチレングリコール10重量部と、ジエチレングリコール20重量部と、グレセリン10重量部と、界面活性剤として日光ケミカルズ社製のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(商品名:NP7.5)5重量部とを混合し、インク前駆体を調製した。そして、このようなインク前駆体を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
〈比較例6〉
比較例6では、着色剤となる染料としてC.I.ダイレクトブラック154を4重量部と、溶媒として水75.95重量部と、その他の溶媒としてエチレングリコール5重量部と、ジエチレングリコール5重量部と、グレセリン10重量部と、界面活性剤として日光ケミカルズ社製のポリオキシエチレンアルキルエーテル(商品名:BT9)0.05重量部とを混合し、インク前駆体を調製した。そして、このようなインク前駆体を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
〈参照例〉
参照例では、界面活性剤として日信化学社製のアセチレングリコール系の界面活性剤(商品名:オルフィンE1010)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
そして、以上のようにして調製した各実施例及び各比較例のインクについて、表面張力及び粘度を測定した。なお、表面張力は、協和界面科学社製の自動表面張力計(型名:CBVP−Z)を用いて測定し、粘度は、協和界面科学社製のビスコメイト(型名:VM−100A)を用いて測定した。
以下、表1に各実施例及び各比較例の表面張力及び粘度を測定した評価結果を示す。
表1に示す結果から、各実施例及び各比較例では、表面張力が31mN/m〜48mN/mの範囲、粘度が2mPa・s〜7mPa・sの範囲にあり、表面張力及び粘度に大きな差がないことがわかる。
次に、各実施例、各比較例及び参照例について、ノズル径が20μm、一対の発熱抵抗体の抵抗値がそれぞれ135Ω、ノズル数が24個のヘッドチップを備えるインクジェットプリント装置を用い、ヘッドチップを駆動電圧11Vで駆動させてゼロックス社製のPPC用紙、本州製紙製の再生紙、ミード社製のボンド用紙にアルファベッド文字の印刷や、所定の領域の塗り潰した印刷、いわゆるべた印刷をし、印字品質評価、インク定着性評価、周波数応答性評価、吐出角度応答性評価を行った。
以下、表2に各実施例、各比較例及び参照例の印字品質評価、インク定着性評価、周波数応答性評価、吐出角度応答性評価の評価結果を示す。
なお、印字品質評価は、上述した3種類の紙にそれぞれ印刷された文字を目視で観察することで評価した。そして、表2において、印字品質評価は、滲みが確認されないときは○印で示し、滲みは見られるが文字は認識できるときは△印で示し、印字された文字が認識できないほど滲んでしまったときは×印で示している。
インク定着性評価は、ゼロックス社製のPPC用紙に印刷された文字を東洋科学産業社製の濾紙(商品名:No.5C)で擦り、印字した文字が掠れていないかどうかを目視で観察することで評価した。そして、表2において、インク定着性評価は、5秒後に掠れがあるときは◎印で示し、10秒後に掠れがあるときは○印で示し、15秒後に掠れがあるときは△印で示し、30秒後に掠れがあるときは×印で示している。
周波数応答性評価は、駆動電圧の周波数を1kHz、3kHz、10kHzにしたとき、それぞれの周波数で文字印刷及びべた印刷を上述した3種類の紙それぞれに行い、印刷箇所に掠れや、インク液滴が着弾されない部分、いわゆる白抜けの有無を目視で観察することで評価した。そして、表2において、周波数応答性評価は、各周波数について、文字印刷及びべた印刷の両方に掠れ及び白抜けが全くないときは◎で示し、べた印刷だけに掠れがあるときは○印で示し、べた印刷だけに掠れ及び白抜けがあるときは△印で示し、文字印刷及びべた印刷の両方に掠れ及び白抜けがあるときは×印で示している。ヘッドチップにおいては、1kHzの周波数の駆動電圧が供給されたときはインク液滴を一秒間に1000回程度吐出する吐出間隔で駆動し、3kHzの周波数の駆動電圧が供給されたときはインク液滴を一秒間に3000回程度吐出する吐出間隔で駆動し、10kHzの周波数の駆動電圧が供給されたときはインク液滴を一秒間に10000回程度吐出する吐出間隔で駆動する。
吐出角度応答性評価は、ノズルより略真下にインク液滴を吐出して形成される直径40μmのインクドットの略中心を20μmずらした位置にインクドットが形成されるように吐出角度を変えてインク液滴を吐出したときと、インクドットの略中心を30μmずらした位置にインクドットが形成されるように吐出角度を変えてインク液滴を吐出したときとについて、それぞれ文字印刷を上述した3種類の紙それぞれに行い、印刷箇所に掠れや、着弾点位置がずれて起こる白抜けの有無を目視で観察することで評価した。そして、表2において、吐出角度応答性評価は、各周波数について、文字印刷に掠れ及び白抜けが全くないときは◎で示し、掠れがあるときは○印で示し、白抜けがあるときは△印で示し、掠れ及び白抜けの両方があるときは×印で示している。
表2に示す評価結果から、化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤が含有された実施例1〜実施例7では、非イオン系界面活性剤と構造の類似したEO変性エーテル系界面活性剤等を使用した比較例1〜比較例6に比べ、表面張力や粘性に大きな差がないのに印字品質、インク定着性、周波数応答性、吐出角度応答性、全ての評価で優れおり、参照例に匹敵する評価結果が得られていることがわかる。
実施例1〜実施例7では、少なくとも化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤が含有されていることから、PPC用紙、再生紙、ボンド用紙等といった記録紙に対する濡れ性を良好にできる、すなわち記録紙の厚み方向に速やかに浸透されて乾燥したような状態になる。したがって、実施例1〜実施例7では、滲みや掠れのない高画質な文字印刷を行うことができる。
また、各実施例では、記録紙だけでなく、ヘッドチップに対しても優れた濡れ性を示し、ノズルよりインク液滴iを吐出した直後に速やかに発熱抵抗体上にインクが供給されることから、吐出間隔を短くしても、吐出機会毎にノズルからインク液滴iを適切に吐出でき、掠れや白抜きのない高画質な文字印刷及びべた印刷を行える。
さらに、各実施例では、ヘッドチップにおけるノズル近傍でも優れた濡れ性を示すことから、一対の発熱抵抗体の駆動を制御し、吐出方向を変化させてノズルより吐出されたインク液滴の吐出角度にばらつきが生じることを抑制でき、掠れや白抜きのない高画質な文字印刷を行える。
一方、比較例1〜比較例6では、非イオン系界面活性剤と構造の類似したEO変性エーテル系界面活性剤等を使用しており、化学式1に示す有機化合物を有する界面活性剤が含有されていないことから、記録紙Pに対する濡れ性が各実施例に比べて悪くなり、インク液滴が記録紙に着弾しても速やかに乾くことなく、滲みや掠れ等が生じ、印刷品質が低下する。
また、各比較例では、ヘッドチップに対する濡れ性が各実施例に比べると悪く、ノズルよりインク液滴iと吐出後に発熱抵抗体上に速やかにインクを供給することが困難になる。したがって、各比較例では、吐出間隔が短くなるに従って、すなわち駆動電圧の周波数が大きくなるに従ってインク液滴をノズルより吐出機会毎に吐出することが困難になり、掠れや白抜きが生じて印刷品質が低下する。
さらに、各比較例では、ヘッドチップにおけるノズル近傍での濡れ性も各実施例に比べると悪いことから、一対の発熱抵抗体の駆動を制御し、吐出方向を変化させてノズルより吐出されたインク液滴の吐出角度にばらつきが生じる。したがって、各比較例では、吐出角度を変化させてインク液滴を吐出させたときに、吐出角度にばらつきが生じて掠れや白抜きが生じて印刷品質が低下する。
以上のことから、インクを調製する際に、少なくとも化学式1に示す有機化合物を有する非イオン系界面活性剤を含有させることは、印字品質、インク定着性、周波数応答性、吐出角度応答性に優れる、すなわち参照例と同等以上のインクを調製する上で大変重要であることがわかる。
1 プリンタ装置、2 インク、3 インクジェットプリントヘッドカートリッジ、4 プリンタ本体、11 インクカートリッジ、21 カートリッジ本体、27,91,101,111 ヘッドチップ、27a 吐出面、41 回路基板 42a,42b 発熱抵抗体、43 フィルム、44 ノズルシート、44a ノズル、45 インク液室、46 インク流路、61 制御回路、62 プリンタ駆動部、63 吐出制御部、64 警告部、65 入出力端子、66 ROM、67 RAM、68 制御部、71a,71b 電源、72a,72b,72c スイッチング素子、73 可変抵抗、74a,74b 切換制御回路、75 抵抗値制御回路