JP4175130B2 - エンジン性能の予測解析方法、予測解析システム及びその制御プログラム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、少なくともCFD(Computational Fluid Dynamics:数値計算流体力学)の適用によりエンジンの作動ガスの状態を模擬するシミュレーションを行って、該エンジンの性能を予測するための予測解析方法、予測解析システム及びその制御プログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、エンジンやトランスミッション等の性能を評価するために例えば特許文献1に開示されるような種々の計測・試験方法が提案されている。また、特許文献2には、エンジンの開発完了を待たずにパワートレインの性能を評価することのできるシミュレーションシステムが開示されている。
【0003】
そのようなシミュレーションの技術として、作動ガスである吸気や排気の運動をCFDの適用により解析し、この解析結果に基づいてエンジンの性能を予測することが一般的に行われている。すなわち、例えば吸気ポートから燃焼室へ吸い込まれる吸気の複雑な流れをコンピュータを用いた数値計算によって模擬する仮想の実験(シミュレーション)を行い、この仮想実験の結果に基づいて例えば吸気ポートの形状を決定することにより、試作や実験の繰り返しに費やされる開発工数を削減して、効率の良い設計・開発を行うことができる。
【0004】
また、気筒内の燃焼室における混合気の燃焼については、その混合気に含まれる多くのガス成分の反応をそれぞれ化学反応式によって記述するようにしたシミュレーションプログラムが存在する。これは、燃焼室の作動ガスを主に燃料として供給される炭化水素や空気中の窒素、酸素等により模擬するとともに、圧縮及び膨張行程における燃焼室の容積変化を容器モデルにより模擬して、その容器中での前記ガス成分や中間生成物の反応を逐次、記述することによって、燃焼の状態を模擬するものである。
【0005】
【特許文献1】
特表2002−526762号公報
【0006】
【特許文献2】
特開2002−148147号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記のようなシミュレーションの技術を用いて、エンジン全体の過渡的な運転状態の変化を高い精度で模擬することのできるシミュレーションシステムは存在しない。それは、例えばスロットル弁等、吸排気の流れを変更する可変機構の作動を模擬しようとした場合に、そのスロットル弁の作動途中の過渡的な状態を再現することが非常に難しいからである。
【0008】
詳しくは、実際のエンジンの制御を考慮すると、例えばアクセルペダルが大きく踏み込まれたときには、その踏み込み量に応じてスロットル弁の目標開度を決定し、この目標開度になるまでスロットル弁を開作動させる。或いは、アクセルペダルの踏み込み量に応じて目標吸気量を決定して、エアフローセンサにより検出される吸気量が前記目標吸気量になるまでスロットル弁を開作動させる。その際、スロットル弁のモータの制御は、スロットルポジションセンサやエアフローセンサからの信号に基づいて行われる。
【0009】
すなわち、一般的に、エンジンが定常状態にあるときのスロットル弁の開度は例えばエンジン負荷や回転速度等の運転状態に応じて、所定の制御ロジックに従って特定することができるが、そのスロットル弁の作動途中の状態は弁の構造やモータの特性によって決まる固有の作動特性に従うものなので、これをそのまま再現するためには、該スロットル弁の作動特性を反映したモデルが必要になる。しかし、スロットル弁のような可変機構はエンジンには多数、備えられているので、これらのモデルを全て含めてエンジンのモデルを構成するのは現実的とはいえず、結局、エンジン全体についての過渡状態のシミュレーションはあまり行われていないのが実状である。
【0010】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エンジンの運転状態を少なくとも作動ガスについてのCFD演算によりシミュレーションする場合に、そのシミュレーションの精度を維持しながら、過渡状態も模擬できるようにして、設計・開発の支援ツールとしての実用性を向上することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明では、エンジンの作動ガスの状態を模擬する模擬演算プログラムと、エンジンの運転状態に対応する制御パラメータを演算する制御演算プログラムとを相互にデータ交換しながら並列に実行し、その制御演算プログラムによって求められる過渡時の制御パラメータの変化に基づいて、前記模擬演算に用いる演算要素の過渡的な変更量を決定するようにした。
【0012】
具体的に、請求項1の発明は、エンジンの運転状態を少なくともCFDの適用により模擬して、その性能を予測する予測解析方法を対象とする。そして、エンジンの吸気及び排気の少なくとも一方の流れの状態を変更可能な可変機構のモデルが含まれたエンジンモデルを用いて、吸排気流の状態を所定のクランク角毎に記述するCFD演算の模擬演算プログラムと、前記エンジンの運転状態に応じて、所定の制御ロジックに従って当該エンジンの制御パラメータを演算する制御演算プログラムとを準備し、コンピュータ装置によって前記模擬演算プログラム及び制御演算プログラムを独立して並列に実行させるとともに、エンジンの運転状態が所定以上に変化する過渡状態を模擬するときには、前記模擬演算プログラムと制御演算プログラムとの間で相互にデータを交換させて、その制御演算プログラムにより演算される制御パラメータの変化に基づいて、模擬演算プログラムにおける前記可変機構の作動状態量について予め設定した設定クランク角毎の過渡変更量を決定するようにする。そして、その設定クランク角を、前記CFD演算における所定クランク角よりも大きな値とし、且つ前記可変機構がスロットル弁であるときには、それがEGR弁であるときに比べて大きな値とする。
【0013】
前記の方法により、エンジンの運転状態が変化する過渡状態のシミュレーションにおいては、コンピュータ装置によって前記模擬演算プログラム及び制御演算プログラムを独立して並列に実行させ、その制御演算プログラムによりエンジンの運転状態の変化に応じて演算される制御パラメータの変化に基づいて、この制御パラメータに対応する演算要素、即ち可変機構の過渡的な変更量を決定する。こうして模擬演算プログラムにおける可変機構の過渡変更量を決定すれば、当該可変機構の作動する途中の過渡的な状態を再現することができるから、エンジンの過渡運転時においても作動ガスの状態を模擬するシミュレーションを行うことができる。これにより、設計・開発の支援ツールとしての実用性を向上できる。
【0014】
また、前記模擬演算に用いるモデルにおける可変機構の作動状態量の過渡変更量を、模擬演算の実行間隔(所定クランク角)よりも大きな値に設定したクランク角毎に決定することで、過渡状態を模擬する上で必要な精度を得ながら、演算量を減らすことができる。
【0015】
さらに、前記設定クランク角を可変機構の種類に応じて、例えばスロットル弁については相対的に大きな値とし、例えばEGR弁については相対的に小さな値とすることで、実際の可変機構の作動速度に対応して、比較的遅いスロットル弁の作動状態はその分、長い間隔を空けても十分に正確に模擬することができ、そうすることによって演算量を減らすことができる一方、比較的速いEGR弁の作動状態はその分、短い間隔でもって模擬することができる。
【0016】
ここで、前記の如く制御演算プログラムによって演算された制御パラメータの変化に基づいて過渡変更量を決定するときに、その決定方法が複雑であると、演算の負荷が大きくなって好ましくない。そこで、過渡変更量の初期値は制御パラメータの変化に対して所定の係数(<1)を乗算する等して、大まかに決定すればよい。こうすると、その過渡変更量のデータを用いて行われた模擬演算の結果としてエンジンの運転状態の変化を表す物理量(例えば作動ガスの流れの状態)の変化が得られ、このデータが前記制御演算プログラムに提供されることによって新たに制御パラメータが演算されて、過渡変更量の値が変更される。つまり、模擬演算プログラムと制御演算プログラムとがあたかも実際のエンジンとそのコントローラのように協動して、過渡変更量が自ずと適切な値になっていき、このことによって、模擬演算における可変機構の過渡的な作動状態を正確に再現することができるのである。
【0017】
尚、前記可変機構としては例えば、スロットル弁、吸気流動制御弁、EGR弁、可変吸気システムの切換弁等があり、或いは、吸気弁や排気弁の開閉作動タイミングを変更する可変動弁機構であってもよい。そして、スロットル弁の場合には、そのモデルは1次元のCFDならば吸気管のモデル同士の境界に設けられた絞りとすればよく、また、3次元のCFDならばスロットルボディの内部に設けられた蝶弁とすればよい。
【0018】
そのような可変機構のモデルを過度変更量に基づいて変更することで、エンジンの過渡状態における前記可変機構の作動途中の過渡的な状態を再現し、これによる吸排気の流れの変化を正確に模擬することができる。
【0019】
次に、本願の請求項2の発明は、エンジンの運転状態を少なくともCFDの適用により模擬して、その性能を予測するためのコンピュータシステムを対象とする。そして、エンジンの吸気及び排気の少なくとも一方の流れの状態を変更可能な可変機構のモデルが含まれたエンジンモデルを用いて、吸排気流の状態を所定のクランク角毎に記述するCFD演算の模擬演算プログラムを実行する模擬演算手段と、前記エンジンの運転状態に応じて、所定の制御ロジックに従って当該エンジンの制御パラメータを演算する制御演算プログラムを実行する制御演算手段と、前記エンジンの運転状態が所定以上に変化する過渡状態を模擬するときに前記模擬演算プログラムと制御演算プログラムとの間で相互にデータを交換させて、その制御演算プログラムにより演算される制御パラメータの変化に基づいて、前記可変機構の作動状態量の過渡変更量を予め設定した設定クランク角毎に決定し、この過度変更量のデータを前記模擬演算手段に提供する過渡変更量提供手段と、を備えるものとする。
【0020】
また、前記模擬演算手段は、前記設定クランク各毎に前記過渡変更量提供手段により提供される過度変更量のデータに基づいて、前記可変機構のモデルを変更するように構成し、前記設定クランク角は、前記CFD演算における所定クランク角の値よりも大きな値とし、且つ前記可変機構がスロットル弁であるときには、それがEGR弁であるときに比べて大きな値とする。
【0021】
前記のシステムによれば、エンジンの運転状態が変化する過渡状態を模擬するときには、制御演算手段により実行される制御演算プログラムによってエンジンの運転状態の変化に応じて制御パラメータの変化が演算され、これに基づいて過渡変更量提供手段により、模擬演算プログラムにおける可変機構の過渡的な作動量が決定されて模擬演算手段に提供される。このことで、該模擬演算手段によるエンジン過渡状態の模擬演算において前記可変機構の作動途中の過渡的な状態を再現することができる。
【0022】
また、前記模擬演算プログラムを、エンジンの吸排気流の状態を所定クランク角毎に記述するものとし、また、過渡変更量提供手段は、制御演算プログラムにより演算される制御パラメータの変化に基づいて、予め設定した設定クランク角毎の過渡変更量を決定するものとしており、こうしてクランク角の変化に沿って吸排気の流れの状態を模擬する演算を行うことで、エンジン回転速度の変化による影響を軽減して正確な模擬演算を行うことができる。一方、その模擬演算に用いるモデルにおける可変機構の作動状態量の過渡変更量については、模擬演算の実行間隔とは別に設定したクランク角毎に決定することで、過渡状態を模擬する上で必要な精度を得ながら、演算量を減らすことができる。
【0023】
さらに、前記設定クランク角を可変機構の種類に応じて、請求項1の発明と同じく例えばスロットル弁については相対的に大きな値とし、例えばEGR弁については相対的に小さな値とすることによっても、模擬演算の精度を確保しながら、演算量を減らすことができる。
【0024】
ここで、前記過渡変更量を決定する間隔(設定クランク角)は、例えばエンジンの運転状態に応じて低回転側ほど小さい値になるように、また、高回転側ほど大きな値になるように補正することが好ましい(設定クランク角補正手段:請求項3の発明)。すなわち、設定クランク角に対応する時間間隔はエンジン回転速度に反比例するので、全く同じクランク角に固定してしまうと、高回転側ではやや時間間隔が短かすぎ、一方、アイドル運転時等はやや時間間隔が長すぎる傾向がある。そこで、エンジン回転速度の変化に応じて設定クランク角を補正することで、エンジンの過渡状態における可変機構の作動を一層、適切に模擬することが可能になる。
【0025】
次に、本願の請求項4の発明は、エンジンの運転状態を少なくともCFDの適用により模擬して、その性能を予測するコンピュータシステムの制御プログラムを対象とする。そして、この制御プログラムは、エンジンの吸気及び排気の少なくとも一方の流れの状態を変更可能な可変機構のモデルが含まれたエンジンモデルを用いて、吸排気流の状態を所定のクランク角毎に記述するCFD演算の模擬演算プログラムと、前記エンジンの運転状態に応じて、所定の制御ロジックに従って当該エンジンの制御パラメータを演算する制御演算プログラムと、これら制御演算プログラム及び模擬演算プログラムの間で相互にデータを交換するデータ交換プログラムとを備え、このデータ交換プログラムは、エンジンの運転状態が所定以上に変化する過渡状態を模擬するときに、前記制御演算プログラムにより演算される制御パラメータの変化に基づいて、前記可変機構の作動状態量について予め設定した設定クランク角毎の過度変更量を決定する過渡変更量決定ステップを有して、その過度変更量のデータを模擬演算プログラムに提供するものとする。
【0026】
そして、前記設定クランク各毎に提供される前記過度変更量のデータに基づいて、前記可変機構のモデルを変更するモデル変更ステップをさらに備えるとともに、前記設定クランク角は、前記CFD演算における所定クランク角の値よりも大きな値とし、且つ前記可変機構がスロットル弁であるときには、それがEGR弁であるときに比べて大きな値とする。
【0027】
前記の制御プログラムによってコンピュータシステムを制御することにより、このコンピュータシステムが前記請求項2の発明に係るエンジン性能の予測解析システムとなり、これにより、該請求項2の発明と同じ作用効果が得られる。
【0028】
請求項5の発明では、請求項9の発明において、設定クランク角をエンジンの運転状態に応じて、低回転側ほど小さい値になる一方、高回転側ほど大きな値になるように補正する設定クランク角補正ステップをさらに備えるものとする。この制御プログラムにより、請求項3の発明と同じ作用効果が得られる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基いて説明する。
【0030】
(システムの全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係るエンジン性能の予測解析システムAの全体構成を示す概念図である。このシステムは、エンジンの作動ガスである吸気や排気等の流れを1次元又は3次元のCFD演算により記述するとともに、気筒内の燃焼を化学反応式により記述し、それらを組み合わせることによって、エンジンの運転を模擬するシミュレーションを行うようにしたものである。このシステムの特長は、1次元及び3次元のCFD演算同士でのデータの受け渡しと、CFD演算及び化学反応シミュレーション(化学反応SIM)の間のデータの受け渡しとをいずれも自動化して、例えばスロットル弁から触媒コンバータに至る吸排気の流れをダイナミックに解析することにより、極めて精度の高いシミュレーションを容易に行えるようにしたことにある。
【0031】
図示の符号1,1,…は、主にCFD及び化学反応シミュレーションの演算を実行するコンピュータ装置であり、この実施形態では、特に3次元CFDの膨大な演算量に対応すべく高速のサーバコンピュータを複数台、並列に接続して使用している(以下、演算サーバという)。これら各演算サーバ1は、例えばハードディスクドライブ等の記憶装置を内蔵するとともに、それぞれディスプレイ等の画像表示装置10が接続され、さらに、図示しないが、プリンタ等の出力装置やオペレータによる入力操作を受け付けるキーボード、マウス等の入力デバイスが接続されている。前記記憶装置には、少なくとも、吸排気の流れを模擬するための1次元及び3次元の各CFD演算プログラム(模擬演算プログラム)と、そのための物理モデルを構築する専用のプリプロセッサと、燃焼状態を模擬する化学反応シミュレーションプログラム(模擬演算プログラム)と、それら各プログラムによるシミュレーションの結果を画像表示するための画像処理プログラムとが記憶されている。
【0032】
前記演算サーバ1,1,…は、その動作中に必要に応じて一般的な手法により部品データベースDB11にアクセスすることができる。この部品DB11には、1次元及び3次元のCFD演算に用いられるエンジンの物理モデルの雛形がエンジンの各部位毎に種別された状態で予め格納されており、さらに、前記プリプロセッサにより新たに構築されたモデルも格納されるようになっている。前記物理モデルの雛形というのは、例えば吸気系のサージタンク、独立吸気通路、吸気ポート等や排気系の排気ポート、排気マニホルド、EGR通路等のように吸気や排気が流通する部位の基本的な形状を模擬し且つその寸法、形状や材質、表面の状態、熱伝導率等の物理特性値が変更可能な部品モデルであって、以下、この実施形態ではテンプレート部品と呼ぶものとする。
【0033】
そのように寸法、形状や物理特性値を変更可能なテンプレート部品のデータベースDB11を備えることで、この部品DB11から読み込んだテンプレート部品に寸法等を入力して組み合わせるだけで、極めて容易にCFD演算のためのエンジンの物理モデルを構築することができる。また、そのようにして一旦、構築したモデルを新たに部品DB11に格納しておけば、必要に応じてそのモデルの修正も容易に行うことができ、エンジンの設計変更にも容易に対応することができる。
【0034】
また、前記演算サーバ1,1,…は、その動作中に必要に応じて一般的な手法により化学反応データベースDB12にアクセスすることができる。この化学反応DB12は、エンジンの気筒内燃焼室に充填されて燃焼に寄与する吸気中の種々のガス成分(化学種)のうちから代表的なものを、気筒内の状態を表す種々の物理量の組に対応付けて予めグループ化した状態で格納したものである。従って、詳しくは後述するが、CFD演算の結果として得られる気筒内の状態に応じて、これに対応するガス成分のグループを前記化学反応DB12から読み込み、それらガス成分の化学反応をそれぞれ記述することによって、燃焼状態を模擬することができる。
【0035】
図示の符号2は、主にエンジンの諸元値、物理特性及び性能特性を互いに関連づけた実験データのデータベースDB13(実験DB)に接続されて、そのデータの管理を行うコンピュータ装置である(以下、実験DBサーバという)。すなわち、エンジンやトランスミッションに関する過去の実験・開発の過程で蓄積されたデータは、周知の統計的解析手法により整理されて、エンジンの例えば圧縮比や吸気管長さ等の諸元値、その物理特性(例えば体積効率、燃焼特性、損失係数等)及びその性能特性(例えば出力、燃費、エミッション等)を互いに関連づけた実験式として、実験DB13に格納される。そして、この実験式に基づいて、例えばエンジンの諸元値や物理特性からその性能特性を予測することができるようになっている。
【0036】
また、図示の符号3は、エンジンの設計を支援するための3次元CADのコンピュータ装置である(以下、設計CADサーバという)。この設計CADサーバ3は、機械設計や構造解析のための汎用のCADプログラムを実行するとともに、その動作中に必要に応じて一般的な手法により設計データベースDB14(設計DB)にアクセスして、エンジンの設計CADデータを呼び出したり、それらを変更して新たに格納したりすることができるようになっている。すなわち、設計DB14には種々のエンジンの3次元の設計CADデータが、その吸気系、気筒、排気系等の各部位毎に個別に取り出して利用できる状態で格納されている。
【0037】
図示の符号5,5,…は、それぞれパーソナルコンピュータからなる端末(PC端末)であり、これらはパワートレインの設計部門、開発部門、実験部門等に複数台ずつ配置されていて、光通信ケーブル等を用いたネットワーク6によって前記演算サーバ1,1,…、実験DBサーバ2、設計CADサーバ3に双方向通信可能に接続されている。そして、各PC端末5におけるオペレータの操作に従ってシステムの制御プログラムが実行されると、該各PC端末5は前記ネットワーク6を介して演算サーバ1,1,…等に接続されて(ログイン)いわゆるサーバ・クライアント環境を構成し、主に演算サーバ1,1,…との間でコマンドやファイルの授受を行いながら、エンジンの運転シミュレーションを実行するようになっている。
【0038】
尚、前記実験DBサーバ2、設計CADサーバ3及びPC端末5にもそれぞれ演算サーバ1と同様にハードディスクドライブ等の記憶装置が内蔵され、また、ディスプレイ10や出力装置、入力デバイス等が接続されている。
【0039】
(CFD演算)
次に、前記1次元及び3次元のCFD演算について4サイクル4気筒ガソリンエンジンの運転シミュレーションを具体例として説明する。この実施形態では、CFD演算に要する時間をできるだけ短縮するために、基本的には1次元のCFDを基本として必要な部分と行程のみを3次元のCFDで置き換えるようにしている。すなわち、例えば図2(a)〜(d)に示すように、エンジンの吸気通路上流のスロットル弁(図示せず)から第1〜第4気筒c1〜c4の燃焼室を経て触媒コンバータ(図示せず)に至る1次元CFD用の物理モデルMbを基本として、該各気筒c1,c2,…毎に、それぞれが吸気行程にあるときに当該気筒c1,c2,…に対応するサージタンクの一部分s1〜s4のみを3次元のモデルで置換するようにする。
【0040】
より具体的に、図示の1次元のモデルMbでは、基本的には、サージタンクから各気筒までの独立の吸気通路と、スロットル弁からサージタンクまでの各気筒に共通の吸気通路とをそれぞれ管路(図に矢印で示す)の集合体として表し、同様に、各気筒から排気マニホルドの集合部までの独立の排気通路と、その排気集合部から触媒コンバータ入口までの共通の排気通路とをそれぞれ管路の集合体として表す。さらに、前記排気集合部からサージタンクの上流に排気の一部を還流させるEGR通路やサージタンク自体もそれぞれ管路の集合体として表す。また、第1〜第4気筒c1〜c4はそれぞれ容量可変の容器として表し、スロットル弁やEGR弁、或いは吸排気弁等、吸排気の流れの状態を変更するもの(可変機構)については、管路同士や管路と容器との境界に設けた絞りとして表す。
【0041】
このような1次元のモデルMbにおいて、管路を流れる吸気や排気の流れはいずれも圧縮性流体の1次元流であるとみなして、その流れの状態を表す圧力p、密度ρ、速度u及び温度Tの各変数について周知の質量保存、運動量保存及びエネルギ保存の式を数値計算により解くことによって、時間的及び空間的に変化する流れの状態を記述することができる。また、容器についてはその内部の状態は一様で、管路から流入した流体は瞬時に均一に分布すると仮定し、さらに、管路同士や管路と容器との接合部分では適当な境界条件の下で前記保存式を解くようにする。尚、各保存式においては管路の曲がり具合や壁面における摩擦、熱損失等の影響も考慮する。
【0042】
そして、例えば第1気筒c1が吸気行程にあるときには、同図(a)に示すように、当該第1気筒c1に対応するサージタンクから独立吸気通路の入口までの部位を3次元のモデルs1に置き換えて、その部分の吸気の流れは3次元流として模擬するようにする。すなわち、サージタンクの一部s1とそこから第1気筒c1に向かう独立吸気通路の入口部分との内壁の形状を3次元のモデルで表し、その壁面に沿うようにして流れる吸気の流れについては3次元流として前記各保存式を解くのである。
【0043】
ここで、EGR(Exhaust Gas Recirculation)が行われる場合には、吸気にはエンジンに外部から供給される新しい空気(新気)と排気系から還流される排気(EGRガス)とが含まれており、特にEGRガスには水蒸気や炭酸ガスの他に未燃状態でそれぞれ分子量の異なる種々の炭化水素分子も含まれているから、厳密にはそのようなガスの種類毎に個別に流れの演算を行うことが好ましいとも考えられる。しかし、吸気が輸送される途中でガス成分が変化するわけではないので、この実施形態では、吸気は、新気とEGRガスの2つに分けてそれぞれ流れの変数p,ρ,u,Tを計算し、その計算結果のデータを他のプログラムに受け渡すときには、2つのガス成分の計算結果を合算することで、吸気全体としての流れの変数p,ρ,u,Tを求めるようにしている。
【0044】
例えば、吸気の流れが1次元流から3次元流に変わる場合、1次元流においては前記の如く合算して求めた吸気の変数p,ρ,u,Tはその吸気流の横断面において一様であるから、これをそのまま3次元CFD演算の初期条件或いは境界条件として与えればよい。一方、吸気の流れが3次元流から1次元流に変わるときには、前記の如く新気及びEGRガスについて合算して求めた3次元の吸気流の変数p,ρ,u,Tをその流れの横断面全体について平均化してから、1次元CFD演算の初期条件或いは境界条件として与えればよい。換言すれば、そのように変数を変換しても十分に正確なシミュレーションが行えるように、流れの変数p,ρ,u,Tがその横断面全体についてある程度一様な状態でCFD演算の次元を切換えるようにすればよい。
【0045】
そのように、エンジンの吸気系から排気系に亘る部位のうちの特定の部位のみについて3次元のモデルを用いるとともに、吸気、圧縮、膨張及び排気の各行程のうちから予め選択した行程のみについて3次元のCFD演算を行い、それ以外は0次元又は1次元とみなすようにしたことで、この実施形態では、シミュレーションの精度を十分に確保しながら、そのための演算量は大幅に減少させて、解析に要する時間を短縮することができる。具体的には、図3に一例を示すようにサージタンク全体を3次元で表したモデルを用いて、各気筒の吸気、圧縮、膨張及び排気の全行程に亘って1次元及び3次元のCFD演算を行う従来までのシステムと比較すると、この実施形態のシステムでは演算量は略4分の1にすることができる。
【0046】
また、多数のガス成分を含む吸気の流れをその全てのガス成分毎にCFD演算するのではなく、これを新気及びEGRガスの2つの成分毎に演算するようにしているので、換言すれば、作動ガスを後述する化学反応シミュレーションと比較してかなり少ないガス成分により模擬するようにしているので、この点でも演算量を大幅に減少させて、解析の時間を短縮することができる。尚、CFD演算により求めるのは作動ガスである吸気の流れの状態であり、これは新気とEGRガスとに分けてそれぞれ演算するようにすれば、十分に高い精度が得られる。また、仮にエンジンの運転状態の変化に伴い新気及びEGRガスの割合が変化しても、これに対して作動ガスそのものを変更する必要はないから、シミュレーションを容易に行える。
【0047】
(化学反応シミュレーション)
上述の如く、各気筒のの吸気及び排気行程における吸排気の流れをそれぞれCFD演算によって模擬するとともに、この実施形態では、圧縮及び膨張行程にある気筒についてはその内部の混合気や燃焼ガス等の運動を無視して、燃焼状態を模擬する化学反応シミュレーションを行うようにしている。具体的には、まず、上述の如き1次元又は3次元のCFD演算によって、気筒内の燃焼室に充填される吸気(新気及びEGRガス)の状態、即ち新気及びEGRガスのそれぞれの圧力p,密度ρ,速度u及び温度Tを合算したものを求める。その際、気筒の下死点と吸気バルブの閉時期とが異なることを考慮して、前記CFD演算では一度、気筒内に流入した後の吸気の吹き返しも模擬するようにする。
【0048】
そのようにして、圧縮行程初期の燃焼室の圧力p及び温度Tが求められ、吸気流速uからは気筒内流動の強さが求められる。また、吸気中のEGRガスの割合も求められる。一方、混合気の空燃比(又は気筒への燃料供給量)や燃焼室に残留する既燃ガス(内部EGRガス)の量、気筒壁温等は、シミュレーションにおけるエンジンの運転状態(例えばエンジン負荷と回転速度等)に基づいて求められる。すなわち、この実施形態では、前記空燃比、内部EGRガス量、気筒壁温等の物理量の値をエンジンの運転状態に対応付けて予め設定したマップを備え、シミュレーション中のエンジンの運転状態に基づいて前記マップから複数の物理量の値を読み込むようにしている。
【0049】
そして、前記したようにCFD演算の結果とエンジン運転条件とに基づいて、吸気中のEGRガス量等を含めて圧縮行程初期における燃焼室の状態を表す複数の物理量の値が求められると、図4に模式的に示すように、その物理量の組に対応するガス成分のグループを化学反応DB12から読み込むことで、化学反応シミュレーションに用いる作動ガスの成分を、CFDによる流れのシミュレーションとエンジンの運転条件とを反映させた適切なものとすることができる。
【0050】
前記化学反応DB12におけるガス成分グループのデータは、前記図4に一例を示すように、主に燃料として供給される種々の炭化水素と、空気中の窒素や酸素と、主にEGRガスに含まれる炭化水素、炭酸ガス、窒素酸化物、水蒸気等とのうちから、前記気筒の状態を表す物理量の組に対応する代表的なものを抽出して、その反応式とともに記憶したものである。すなわち、一般に、エンジンの燃焼に関連する化学種及びその素反応を全て挙げれば、これは約3000種類以上にも上るものであり(図5参照)、仮にその全てを演算しようとすれば演算量が著しく多くなってしまい、シミュレーションの時間を徒に長引かせることになる。また、それら全てのデータを燃焼室の状態等に応じてグループ化して格納しようとすれば、化学反応DB12は大きくなり過ぎて、例えば検索時間が長くなる等、種々の不都合を生じる。
【0051】
この点について、全ての化学素反応を挙げるのではなく、燃焼の状態を模擬する上で特に重要なもの、即ち燃焼を模擬する代表的なもののみに絞り込めば、それはせいぜい数十から数百程度で済むので、この実施形態では、エンジンの運転状態によって変化する代表的な化学素反応のみを所定数(例えば100)以下となるように抽出して、これに対応する代表的なガス成分のみを化学反応DB12に格納するようにしている。これにより、化学反応シミュレーションに用いるガス成分の数が適切なものになり、所要の精度をを確保しながら演算量を大幅に減らすことができる。また、化学反応DB12の大きさも適度のものとすることができる。
【0052】
そうして、前記の如く抽出したグループのガス成分(化学種)に基づいて、まず、気筒の圧縮行程では、ピストンの上昇に伴い燃焼室の圧力pが上昇し、これに伴い温度Tが上昇することと、気筒壁面との熱交換によって熱を奪われることとを考慮して、そのような条件下における各ガス成分の反応を逐次、記述する。この圧縮行程での化学反応シミュレーションにより、当該気筒において火花点火が行われる前の前炎反応やプレイグニッションの発生等を再現することができる。
【0053】
また、気筒の圧縮上死点近傍では火花点火による混合気の着火を模擬し、これによる化学反応(燃焼)の進行を、気筒の膨張行程における燃焼室容積の増大を加味しつつ膨張行程終了時点まで逐次、記述する。そして、その膨張行程での化学反応シミュレーションの結果として得られる気筒内の既燃ガスの組成、合計の発熱量や気筒壁面との間の熱交換、ピストンに加えられた仕事量、該ピストンの下降に伴う燃焼室容積の拡大等に基づいて、当該気筒が排気行程に移行したときに焼室から排出される既燃ガス(排気)の状態を表す変数p,ρ,u,Tを求める。これらの変数が上述したCFD演算プログラムにおける排気流の境界条件として与えられる。尚、排気の密度ρは、気筒内の既燃ガスの組成により求めることができる。また、圧縮及び膨張行程における気筒内の流動は零とみなすことから、排気流速uの初期値は零になる。
【0054】
前記のように化学反応シミュレーションにより求められた気筒内の既燃ガスの組成は、化学反応DB12の更新にも用いられる。すなわち、化学反応DB12に格納されているガス成分グループのデータは、上述したように、気筒内の圧力p、温度Tや吸気中のEGRガスの割合等に対応付けて決定されているが、このデータの基になるEGRガスの組成は、予め実験等によって求めたものである。この実施形態では、上述の如く化学反応シミュレーションの結果として求められる排気の組成に基づいて、所定の手法により前記データのガス成分を修正する。例えば、シミュレーションによって得られた排気をそのままEGRガスとみなして、化学反応DB12における対応する運転状態のガス成分グループのデータのいて、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物等の割合を適当な重み付けでもって修正するようにすればよい。このような修正を行うことにより、ガス成分のデータがCFD演算及び化学反応演算の結果に基づいて修正されることになるので、化学反応シミュレーションの精度がさらに向上する。
【0055】
(シミュレーションの概要)
次に、この実施形態に係るエンジン性能の予測解析システムAによるシミュレーションの概要を具体的に説明する。図6にメインプログラムの概略を示すように、まず、PC端末5,5,…のいずれかにおいて画面表示等に従ってオペレータが所定の入力操作を行うことにより、エンジンシミュレーションのための初期設定データが入力される(S1)。例えば、前記図2に示す4気筒エンジンについて説明すると、このエンジンの諸元値や吸排気系、燃焼室等の寸法・形状を表す幾何データ、それらの熱伝達率等の物理的特性を表す物理データ、或いはそれら詳細なデータに代えて、実験DB13や設計DB14に格納されているエンジンのデータを指定するコード等、さらにはシミュレーションするエンジンの運転条件の範囲等をPC端末5に入力させる。
【0056】
また、エンジンのどの部位について3次元のモデルを用いるか選択させ、さらに、その部位について気筒の吸気行程及び排気行程においてはそれぞれ1次元又は3次元の何れのCFD演算を行うか選択させる。すなわち、例えばエンジンの吸気系の設計開発を支援することが解析の目的であれば、オペレータは、図2に示すようにサージタンクに3次元のモデルを用いるとともに、その部位について各気筒毎に吸気行程で3次元のCFD演算を行うことを選択すればよい。こうすれば、サージタンクから独立吸気通路に向かう吸気の流れを3次元流として解析することによって、エンジンの運転状態、即ち負荷状態や回転速度の変化に拘わらず、体積効率等、エンジンの物理特性値を正確に求めることができ、これによりエンジン出力等の性能特性を正確に予測することができる。
【0057】
続いて、ステップS2では、前記ステップS1において入力された初期設定データに従ってシミュレーションのためのモデルを構築し、これを一旦、保存する。すなわち、例えば図2に示すように、吸気系の一部から排気系の一部までに亘る1次元のCFDモデルMbと、各気筒c1〜c4毎にサージタンクを分割した3次元のCFDモデルs1〜s4とを構築して、それぞれ演算サーバ1,1,…の内部記憶装置に格納する。また、化学反応シミュレーションに関してはクランク角度の変化に対する気筒内容積の変化や気筒壁温に応じた熱伝達率の変化等を規定する容器のモデルを構築する。この容器モデルは、その内部の混合気や燃焼ガスの運動がないものとみなす、という意味において0次元の物理モデルである。
【0058】
より詳しくは、前記3次元CFDモデルを構築するときには、例えば、前記初期設定データに基づいて設計DB14からサージタンクの形状を表す3次元の設計CADデータをPC端末5に読み込み、これに境界面やメッシュの情報を指定するデータを付属したモデル作成コマンドを作成して、演算サーバ1,1,…に送信する。このコマンドを受け取った演算サーバ1,1,…ではプリプロセッサを起動して、サージタンク各部の内壁面にその形状に応じて所定寸法のレイヤーメッシュを貼り付け、また、内部メッシュを切っていくことになる。
【0059】
或いは、前記初期設定データに基づいて別のモデル作成コマンドをPC端末5から演算サーバ1,1,…に送信すると、このコマンドを受け取った演算サーバ1,1,…では、部品DB11からサージタンクの基本的な形状を表すテンプレート部品のデータを読み込んで、この部品の寸法、形状等を変更することにより、CFD演算のためのメッシュを備えた3次元のモデルを構築する。
【0060】
尚、前記3次元のCFDモデルにおいては設計CADデータのメッシュをそのまま使うこともできるようになっている。また、例えばスロットル弁等の可変機構の3次元のモデルにおいては、その弁体に形成したメッシュを移動、追加及び削除等することによって、該弁体の作動状態を模擬することができるようになっている。
【0061】
前記の如く構築したモデルを用いて、ステップS3では、エンジン運転中の吸排気の流れと燃焼室における燃焼の状態とを吸気、圧縮、膨張及び排気の各行程毎に所定の次元で模擬するシミュレーション演算を行う。この演算処理の詳細について一例を挙げれば、この実施形態ではPC端末5と演算サーバ1,1,…との間でプログラムのデータファイルや実行ファイルを相互に送信及び受信しながら、該演算サーバ1,1,…により1次元及び3次元のCFD演算と化学反応シミュレーションとを同時並行的に実行させるようにしている。
【0062】
例えばCFD演算の処理手順としては、まず、1次元CFD演算のモデルMbを読み込み(ステップS31)、シミュレーションの始期における初期条件、即ち吸排気の流れの変数p,ρ,u,Tやエンジンの運転条件等を入力し(S32)、これに基づいて1次元流れの保存式の数値計算を行う(S33)。すなわち、シミュレーションの始期から微小クランク角(所定クランク角:例えば0.1°くらいとすればよい)だけ変化した時点における、スロットル弁下流から各気筒c1〜c4の燃焼室を経て排気通路に至る吸気及び排気の状態(p,ρ,u,T)を、その流れに沿って計算する。
【0063】
その際、図2(a)に示すように第1気筒c1が吸気行程にあれば、当該気筒c1に対応するサージタンクの一部分s1においては、1次元流から3次元流への境界部分の流れの状態(p,ρ,u,T)を求めたところで一旦、1次元の演算を中止し、その演算結果をデータファイルとしてPC端末5に転送する。このファイルを受け取ったPC端末5では1次元流のデータを3次元流のデータに変換して、3次元CFDプログラムの実行ファイルを作成した上で、演算サーバ1,1,…に返送する。その実行ファイルを受け取った演算サーバ1,1,…では3次元CFDプログラムを起動し、まず、第1気筒c1に対応するサージタンクの3次元モデルs1を読み込み(S41)、これに初期条件(前記境界条件)を入力して(S42)、3次元の流れの保存式について数値計算を行い、計算の結果を保存する(S43)。この演算結果のうち、サージタンクと下流側の独立吸気通路との境界部分における流れの変数p,ρ,u,TのデータはPC端末5に転送され、今度は3次元のデータから1次元のデータに変換されて、演算サーバ1,1,…に返送される。
【0064】
そうして、前記の返送されたデータに基づいて1次元CFDプログラムが再開され、独立吸気通路から第1気筒c1の燃焼室、さらにその下流の排気通路へ至る吸排気の流れを計算して、その演算結果を保存する(S33)。このようにして、シミュレーションの始期から微小クランク角変化した後の吸気及び排気の状態(p,ρ,u,T)がエンジンのモデルMb全体に亘って演算されて、この演算結果が保存される。
【0065】
そして、後述するが、所定のタイミングで前記CFD演算の結果データの一部を化学反応シミュレーションの結果に基づいて書き換え(データの変換、提供及び書換:S34)、その後、エンジンのクランク角を微小クランク角だけ進めて(インクリメント:S35)、シミュレーションの終期として設定されたクランク角位置になったかどうか判定し(S36)、シミュレーション終期に至るまでは前記ステップS33にリターンして、前記した1次元及び3次元のCFD演算を繰り返し実行する。こうして、エンジンの吸排気の流れがクランク角の変化に対応付けて記憶される。尚、図には示さないが、エンジンのスロットル弁により調整される吸気の流れの境界条件(変数p,ρ,u,T等)は定常運転状態では略一定である。また、詳しくは後述するが、エンジンの運転状態が変化する過渡状態では、その変化に対応するように設定クランク角毎のスロットル開度の変更量(過渡変更量)が別途、エンジンの制御ロジックを模擬する制御演算プログラムにより与えられる。
【0066】
上述の如きCFD演算と並行して、圧縮行程及び膨張行程にある気筒についてはそれぞれ化学反応シミュレーション(化学反応SIM)の演算が行われる。すなわち、シミュレーションの進行に伴い例えば第1気筒c1が吸気行程から圧縮行程に移行したときには、図7に模式的に示すように、上述したCFD演算による演算結果のデータが演算サーバ1,1,…からPC端末5に送信される。このデータを受け取ったPC端末5では、該データに基づいて第1気筒c1に充填された吸気の圧力p、温度T等や吸気中のEGRガスの割合を求めるとともに、現在のエンジンの運転条件に基づいて空燃比や気筒壁温等の物理量の値をマップから読み込み、これら気筒内の状態を表す物理量の組を特定して、こに物理量の組に対応する識別コードとともに化学反応シミュレーションプログラムの実行ファイルを演算サーバ1,1,…に送信する(この演算プログラム間でのデータの授受を図に結果処理*1として示す)。
【0067】
そして、前記実行ファイルを受け取った演算サーバ1,1,…では化学反応シミュレーションプログラムが起動され、前記図6のフローに示すように、第1気筒c1の容器モデルを記憶装置から読み出し(S51)、前記識別コードに対応するガス成分のグループデータを化学反応DB12から読み込んで(化学種の読込み:S52)、予め設定した微小クランク角範囲におけるそれらガス成分の化学反応を記述して、保存する(化学反応演算:S53)。このような化学反応式の演算が当該気筒c1の圧縮行程初期から膨張行程の終期に至るまで、前記微小クランク角毎に繰り返し行われ、これにより、当該気筒c1内の燃焼室における圧縮及び膨張行程の作動ガスの状態を時系列に記述したデータが化学反応演算の結果として記憶装置に格納される。
【0068】
そうして、前記第1気筒c1が膨張行程を終了して排気行程に移行すれば、当該気筒c1についての化学反応シミュレーションは終了して、図7に結果処理*2として示すように、前記化学反応演算の結果データが演算サーバ1,1,…からPC端末5に送信される。このデータを受け取ったPC端末5では、第1気筒c1の燃焼室から排出される既燃ガス(排気)の組成や燃焼による発熱、仕事量等に基づいて、排気流の初期状態を表す変数p,ρ,u,Tを求め、これに基づいてCFD演算の演算結果データを書き換えるためのコマンドを作成して、演算サーバ1,1,…に返送する。このコマンドを受け取った演算サーバ1,1,…により、図6のフローのステップS34において、1次元CFD演算の演算結果データにおける燃焼部分、即ち圧縮行程及び膨張行程の部分が書き換えられ、1次元CFD演算における排気流の境界条件として、前記排気流の初期状態のデータが用いられるようになる。また、前記排気の組成に基づいて化学反応DB12におけるガス成分のデータが修正される。
【0069】
上述の如く、メインプログラムのステップS3では、シミュレーションの始期から終期までに亘りエンジンのクランク角の変化に同期して、CFD演算と化学反応シミュレーション演算とが行われる。そして、シミュレーションの終期として設定入力されたクランク角位置になれば(S36でYES)、ステップS4に進んでシミュレーションの結果を出力し、しかる後に制御終了となる(エンド)。前記ステップS4におけるシミュレーション結果の出力としては、演算サーバ1,1,…の記憶装置に保存されている時系列の演算結果のデータのうちから所要のものを読み出してPC端末5に転送し、このデータに基づいて、エンジン性能に関する所定の評価値の出力を行うようにすればよい。すなわち、例えばエンジンの出力特性、燃費特性、エンジン運転状態の変化に伴う各気筒の体積効率の変化等をグラフ化して、サーバ1,1,…やPC端末5のディスプレイに画像表示すればよい。また、特にサージタンク内の吸気の流れ等については3次元CFD演算の結果を可視化して、画像表示するようにしてもよい。
【0070】
前記図6のフローチャートに示す手順が全体として、1次元及び3次元のCFD演算プログラムを実行して、エンジンの吸気系から排気系に亘る吸排気の流れの状態を模擬するとともに、化学反応シミュレーションプログラムを実行して、気筒内の燃焼の状態を模擬する模擬演算手段に対応している。即ち、この実施形態では前記CFD演算プログラム及び化学反応シミュレーションプログラムを実行する演算サーバ1,1,…が模擬演算手段を構成する。
【0071】
(過渡状態のシミュレーション)
次に、エンジンの運転状態が所定以上に大きく変化する過渡状態のシミュレーションについて説明する。まず、実際のエンジンの制御について説明すると、図8(a)に模式的に示すようにエンジンが低負荷低回転の運転状態(I)から中負荷中回転の運転状態(II)に移行するときには、アクセルペダルの踏み込みに応じてスロットル弁を開き、且つEGR弁を閉じることによって新気の吸入量を増大させ、この吸気量の増大に応じて燃料噴射量を増量させるようにする。また、その増大する吸気流の抵抗にならないよう吸気流動制御弁(TSCV)を開き、さらに、可変動弁機構(VVT)により吸気弁の作動タイミングを進角させる。
【0072】
より具体的には、同図(b)に示すように、前記運転状態(I)において目標スロットル開度が1/8開度であり、吸気流動制御弁の目標開度(目標TSCV開度)が0/8開度であり、目標VVT進角が0°であって、一方、運転状態(II)における目標スロットル開度が4/8開度であり、目標TSCV開度が3/8開度であり、目標VVT進角が10°であるとする。そうすると、アクセルペダルが踏み込まれてエンジンの運転状態が前記(I)から(II)に移行するときに、実際のエンジン制御では前記スロットル開度の偏差(4/8−1/8)、TSCV開度の偏差(3/8−0/8)及びVVT進角の偏差(10−0°)に応じて、スロットル弁、TSCV及びVVTに対しそれぞれ制御指令が出力されて、それらが新しい目標値になるまで作動することになる。その際、EGR弁は閉じられる。
【0073】
そのようなスロットル弁、EGR弁、TSCV、VVT等、即ち、エンジンの吸気や排気の流れの状態を変更する可変機構の作動途中の状態は、それら弁の構造やモータの特性によって決まるものであり、これを上述したCFD演算において再現するのが難しいことから、従来、エンジン全体としての過渡状態のシミュレーションは実質的に行うことができなかった。
【0074】
この点について、この実施形態に係るエンジン性能の予測解析システムAでは、本発明の特徴部分として、前記CFD演算等のためのシミュレーションプログラムとは別に、エンジンの運転状態に対応するスロットル開度やEGR弁開度等の制御パラメータを実際の制御ロジックに従って演算する制御演算プログラムを備える。そして、過渡状態を模擬するときには、前記制御演算プログラムをシミュレーションプログラムと並行して実行し、且つ相互にデータを交換させて、制御演算プログラムによって演算される制御パラメータの変化に基づいて、CFD演算等におけるスロットル弁等、可変機構のモデルの過渡的な作動状態、即ちそれら各可変機構量の過渡変更量を決定するようにした。こうして、シミュレーションのモデルにおけるスロットル弁等、可変機構の過渡的な変更量を決定することができれば、これにより、過渡状態のシミュレーションを正確に行うことができる。
【0075】
以下、エンジンの過渡状態を模擬する際の具体的な手順を、図9及び図10に基づいて説明する。尚、図9に示すフローでは、説明の便宜のために、エンジンの吸気量を変更する代表的な可変機構としてスロットル弁の作動のみについて説明するが、それ以外の可変機構、例えばTSCV、EGR弁、VVT、或いは可変吸気システムの切換弁等についても同様である。
【0076】
図9に示すフローのスタート後のステップT1では、まず、エンジンの過渡運転状態を模擬するのかどうか判定する。これは、例えばシミュレーションの初期設定で予め入力されているエンジン運転条件の変化が所定以上に大きいときに、その運転条件の変化に基づいて過渡状態と判定され(YES)、このときにはステップT2に進んで、まず、前記運転条件の変化に応じて制御演算プログラムにより演算される制御パラメータ(ここではスロットル弁への開度指令)の変化に基づいて、CFD演算において設定クランク角毎に変更するスロットル弁の開度、即ち、スロットル弁のモデルの作動状態量の過渡的な変更量(過渡変更量)を設定する。
【0077】
前記スロットル開度の過渡変更量の設定については、例えば図8に示すような目標スロットル開度の偏差(4/8−1/8)に予め設定した係数α(α<1)を乗算して求めるようにすればよい。尚、この係数αの値は、エンジンの種々の可変機構のそれぞれによって異なり、また、シミュレーションの実行サイクル(設定クランク角)によっても異なる。そして、図10に仮想線の矢印(1)として示すように、前記過渡変更量のデータ(変更データ)をCFD演算プログラムに提供して、このプログラムのモデル上でスロットル弁が適量、動くようにスロットル弁のモデルを変更する(図9のフローのステップT3)。例えばスロットル弁の3次元モデルであれば、その弁体の位置が前記過渡変更量に応じて変更するようにメッシュを移動、追加及び削除する。また、1次元の絞りのモデルであれば、その絞り量の数値を変更する。
【0078】
そして、前記変更後のモデルを用いて、CFD演算プログラムによって上述の如きCFD演算が実行され(ステップT4:図6のフローを参照)、このCFD演算の結果として、前記スロットル開度の変化に起因する吸気量の変化等、エンジンの運転状態の変化を表すデータが得られる。そこで、その吸気量等のデータを読み込んで図10に仮想線の矢印(2)として示すように制御演算プログラムに提供し(ステップT5)、変化した運転状態(運転条件)に対応する新たな制御パラメータを演算させるとともに、図9に示すフローのステップT6に進んで、前記CFD演算により得られた吸気量が目標スロットル開度(4/8)に見合うものかどうか判定する。
【0079】
前記ステップT6における判定がNOであれば、前記ステップT2にリターンし、前記制御演算プログラムにより新たに演算された制御パラメータ(スロットル開度指令)の変化に基づいて新たにスロットル開度の過渡変更量を設定し、図10に仮想線の矢印(3)として示すように、この過渡変更量のデータをCFD演算プログラムに提供して、スロットル弁が適量、動くようにそのモデルを変更する(ステップT3)。そして、再びCFD演算を行って(ステップT4)、その演算結果のデータを制御演算プログラムに提供する。
【0080】
そのようにして、CFD演算プログラム及び制御演算プログラムが並行して実行され、且つそれらの間で相互にデータが交換されることによって、それらCFD演算プログラム及び制御演算プログラムはあたかも実際のエンジンとそのコントローラのように機能し、これにより、CFD演算のエンジンモデルにおけるスロットル弁の開度が設定クランク角毎に徐々に変更されていく。そして、そのスロットル開度の増大に伴い徐々に増大する吸気量が目標スロットル開度(4/8)に見合うものとなれば(ステップT6でYES)、過渡状態のシミュレーションは終了する(エンド)。
【0081】
尚、前記フローに示す制御演算及び過渡変更量の設定は、スロットル弁の場合であればその作動が比較的遅いことから、比較的長い間隔を空けて実行すればよく、従って、スロットル弁に対しては設定クランク角は比較的大きな値とすればよい。より具体的には、例えばエンジン回転速度が6000rpmの高回転状態であっても、CFD演算におけるスロットル開度の変更はクランク角が5°変化する毎で十分である。一方、比較的動作の速いEGR弁の作動状態はその分、短い間隔でもって模擬する必要があり、例えばエジン回転速度が1500rpmと低いときであっても、EGR弁の開度はクランク角が1°変化する間に大きく変化してしまうので、この場合には設定クランク角を約0.5°に設定するのが好ましい。つまり、種々の可変機構の現実の作動特性(作動速度)を考慮して、比較的動作の遅いものについてはその分、制御演算の間隔を長くすることによって、シミュレーションの精度を十分に確保しながら、演算量はできるだけ減らすようにしている。
【0082】
前記図9に示すフローが全体として、制御演算プログラムとCFD演算プログラムとの間で相互にデータを交換させるデータ交換プログラムに対応しており、そのうちのステップT2は、過渡状態を模擬するときに制御演算プログラムにより演算される制御パラメータの変化に基づいて、CFD演算プログラムにおける可変機構の作動状態量(演算要素)の過度変更量を決定する過渡変更量決定ステップに対応する。
【0083】
また、前記フローのステップT3は、前記ステップT2において決定された過度変更量のデータに基づいて、CFD演算における可変機構のモデルを設定クランク角毎に変更するモデル変更ステップに対応している。
【0084】
そして、この実施形態では、例えば、前記制御演算プログラムを演算サーバ1,1,…により実行することで、この演算サーバ1,1,…により制御演算手段を構成する。尚、制御演算プログラムをPC端末5,5,…により実行するようにしてもよく、こうすれば、制御演算手段はPC端末5,5,…により構成される。また、前記データ交換プログラムのステップT2はPC端末5,5,…により実行するようにしており、このことで、該PC端末5,5,…が過渡変更量提供手段を構成する。
【0085】
したがって、この実施形態に係るエンジン性能の予測解析システムAによると、例えば4サイクルエンジンの吸排気等の流れをCFDの適用により解析する場合に、基本的には1次元のエンジンモデルMbを用いつつ、予め選択した部位については3次元のモデルs1〜s4を用いて、各気筒毎の吸気及び排気行程についてそれぞれ1次元又は3次元の演算を選択できるようにしたので、CFD演算の精度を十分に高いものとしながら、そのための演算量は大幅に減らすことができる。
【0086】
一方、各気筒毎の圧縮及び膨張行程については少なくとも燃焼室のガス流動を無視して、化学反応シミュレーションにより燃焼状態を模擬するようにしており、その際、膨大な化学反応のうちから代表的なもののみを選択することで、必要なシミュレーション精度を確保しながら、そのための演算量は大幅に減らすことができる。
【0087】
また、前記CFD演算の結果から化学反応シミュレーションに用いる作動ガスの成分及び状態を求めるとともに、化学反応シミュレーションの結果からはCFD演算における排気の初期状態を求めるようにしており、このように2種類のシミュレーションを適切に組み合わせて、両者をダイナミックに解くことによって、シミュレーションの精度を向上できる。
【0088】
さらに、この実施形態では、エンジンの運転状態が変化する過渡状態を模擬するときには、前記CFD演算等と並行して制御演算プログラムを実行し、且つ相互にデータを交換させて、そのCFD演算等により模擬されるエンジンの運転状態に応じて、実際のエンジン制御ロジックに従ってスロットル弁等(可変機構)の作動を模擬するようにしているので、過渡状態でエンジンの各可変機構が作動する途中の状態をCFDシミュレーションにおいて正確に再現することができ、これにより、過渡状態のシミュレーションも正確に行うことができる。
【0089】
しかも、前記過渡状態のシミュレーションにおいては、可変機構の作動状態をCFD演算の実行サイクルよりも長い設定クランク角毎に変更するようにしており、その設定クランク角を可変機構の種類に応じてそれぞれ適切な値とすることによって、シミュレーションの精度を十分に確保しながら、CFD演算量を減らすことができる。
【0090】
以上より、この実施形態の予測解析システムAによれば、エンジンの性能を予測するためのシミュレーションの精度を十分に高くすることができるとともに、そのための演算量は可及的に減少させて、解析に要する時間を短縮することができ、しかも、エンジンの過渡的な運転状態を模擬することもできるから、設計・開発の支援ツールとしての実用性は極めて高い。
【0091】
(他の実施形態)
尚、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その他の種々の実施形態を包含するものである。すなわち、前記実施形態では、CFD演算を1次元のモデルと3次元のモデルとを組み合わせて行うようにしているが、これに限らず、1次元のCFD演算のみを行うものとしてもよい。
【0092】
また、前記実施形態のCFD演算では吸気を空気及びEGRガスの2つの成分としているが、これに限るものではなく、3つ以上のガス成分からなるものとしてもよいし、反対にEGRガスを含む吸気として1つの成分とみなすことも可能である。
【0093】
さらに、前記実施形態では、エンジンの過渡状態を模擬するときに、CFD演算においてスロットル弁等の可変機構の作動状態をCFD演算の実行間隔とは別の設定クランク角毎に模擬するようにしており、この設定クランク角を可変機構の種類によって異ならせるようにしているが、さらに、設定クランク角をエンジンの運転条件に応じて、低回転側ほど小さい値になる一方、高回転側ほど大きな値になるように補正するようにしてもよい(設定クランク角補正ステップ)。
【0094】
すなわち、設定クランク角に対応する時間間隔はエンジン回転速度に反比例するので、エンジン回転速度の変化に依らず同じクランク角に固定してしまうと、高回転側ではやや時間間隔が短かすぎ、一方、アイドル運転時等はやや時間間隔が長すぎる傾向がある。そこで、エンジン回転速度の変化に応じて設定クランク角を補正するようにすれば、エンジンの過渡状態における可変機構の作動を一層、適切に模擬することができる。
【0095】
さらにまた、前記実施形態では、4気筒4サイクルエンジンについてのシミュレーションを行う場合について説明したが、例えば単気筒エンジンのシミュレーションを行うこともできるし、2サイクルエンジンやロータリエンジンについてのシミュレーションを行うこともできることは言うまでもない。
【0096】
【発明の効果】
以上、説明したように、本願発明に係るエンジン性能の予測解析方法、予測解析システム及びその制御プログラムによると、エンジンの作動ガスの状態をCFD演算プログラム等により模擬するシミュレーションにおいて、エンジンの運転状態に対応する制御パラメータを実際の制御ロジックに従って演算する制御演算プログラムを備え、過渡状態を模擬するときには、前記制御演算プログラムをCFD演算プログラム等と並行して実行し、且つ相互にデータを交換させて、制御演算プログラムによって演算される制御パラメータの変化に基づいて、CFD演算等における前記制御パラメータに対応する演算要素の過渡変更量を決定するようにしたので、過渡状態における前記演算要素の過渡的な変化を模擬することができ、これにより、過渡状態のシミュレーションを正確に行うことができる。よって、設計・開発の支援ツールとしての実用性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態に係るエンジン性能の予測解析システムAの全体構成図。
【図2】 CFD演算のためのエンジンモデルの一例を示す図。
【図3】 サージタンクを3次元で模擬した従来までのモデルを示す図2相当図。
【図4】 気筒内の状態を表す物理量の組と化学反応DBにおけるガス成分のグループデータとの対応を示す説明図。
【図5】 燃焼に関する化学反応の例を示す説明図。
【図6】 シミュレーションの手順の概略を示すフローチャート図。
【図7】 CFDと化学反応シミュレーションとの切替えと、これに伴うデータの授受とを模式的に示す説明図。
【図8】 エンジンの運転状態が低負荷から中負荷へと移行する過渡状態の一例を示す概念図(a)と、そのときの制御パラメータの変化を示す説明図(b)。
【図9】 過渡状態のシミュレーションにおいてCFD演算プログラムと制御演算プログラムとの間でデータを交換する手順を示すフローチャート図。
【図10】 過渡状態のシミュレーションにおけるCFD演算プログラムと制御演算プログラムとの間でのデータの授受を模式的に示す説明図。
【符号の説明】
A エンジン性能の予測解析システム
1,1,… 演算サーバ(模擬演算手段、制御演算手段)
5,5,… PC端末(過渡変更量提供手段)
Claims (5)
- エンジンの運転状態を少なくともCFDの適用により模擬して、その性能を予測する予測解析方法であって、
エンジンの吸気及び排気の少なくとも一方の流れの状態を変更可能な可変機構のモデルが含まれたエンジンモデルを用いて、吸排気流の状態を所定のクランク角毎に記述するCFD演算の模擬演算プログラムと、
前記エンジンの運転状態に応じて、所定の制御ロジックに従って当該エンジンの制御パラメータを演算する制御演算プログラムと、を準備し、
コンピュータ装置によって前記模擬演算プログラム及び制御演算プログラムを独立して並列に実行させるとともに、
エンジンの運転状態が所定以上、大きく変化する過渡状態を模擬するときには前記模擬演算プログラムと制御演算プログラムとの間で相互にデータを交換させて、その制御演算プログラムにより演算される制御パラメータの変化に基づいて、前記模擬演算プログラムにおける前記可変機構の作動状態量について予め設定した設定クランク角毎の過渡変更量を決定するようにし、
前記設定クランク角を、前記CFD演算における所定クランク角よりも大きな値とし、且つ前記可変機構がスロットル弁であるときには、それがEGR弁であるときに比べて大きな値とすることを特徴とするエンジン性能の予測解析方法。 - エンジンの運転状態を少なくともCFDの適用により模擬して、その性能を予測するためのコンピュータシステムであって、
エンジンの吸気及び排気の少なくとも一方の流れの状態を変更可能な可変機構のモデルが含まれたエンジンモデルを用いて、吸排気流の状態を所定のクランク角毎に記述するCFD演算の模擬演算プログラムを実行する模擬演算手段と、
前記エンジンの運転状態に応じて、所定の制御ロジックに従って当該エンジンの制御パラメータを演算する制御演算プログラムを実行する制御演算手段と、
前記エンジンの運転状態が所定以上に変化する過渡状態を模擬するときに、前記模擬演算プログラムと制御演算プログラムとの間で相互にデータを交換させて、その制御演算プログラムにより演算される制御パラメータの変化に基づいて、前記可変機構の作動状態量の過渡変更量を予め設定した設定クランク角毎に決定し、この過度変更量のデータを前記模擬演算手段に提供する過渡変更量提供手段と、を備え、
前記模擬演算手段は、前記設定クランク各毎に前記過渡変更量提供手段により提供される過度変更量のデータに基づいて、前記可変機構のモデルを変更するように構成され、
前記設定クランク角は、前記CFD演算における所定クランク角の値よりも大きな値とされ、且つ前記可変機構がスロットル弁であるときには、それがEGR弁であるときに比べて大きな値とされていることを特徴とするエンジン性能の予測解析システム。 - 請求項2において、
設定クランク角をエンジンの運転状態に応じて、低回転側ほど小さい値になる一方、高回転側ほど大きな値になるように補正する設定クランク角補正手段を備えることを特徴とするエンジン性能の予測解析システム。 - エンジンの運転状態を少なくともCFDの適用により模擬して、その性能を予測するコンピュータシステムの制御プログラムであって、
エンジンの吸気及び排気の少なくとも一方の流れの状態を変更可能な可変機構のモデルが含まれたエンジンモデルを用いて、吸排気流の状態を所定のクランク角毎に記述するCFD演算の模擬演算プログラムと、
前記エンジンの運転状態に応じて、所定の制御ロジックに従って当該エンジンの制御パラメータを演算する制御演算プログラムと、
前記制御演算プログラムと模擬演算プログラムとの間で相互にデータを交換させるデータ交換プログラムとを備え、
前記データ交換プログラムは、エンジンの運転状態が所定以上に変化する過渡状態を模擬するときに、前記制御演算プログラムにより演算される制御パラメータの変化に基づいて、前記可変機構の作動状態量について予め設定した設定クランク角毎の過度変更量を決定する過渡変更量決定ステップを有し、その過度変更量のデータを模擬演算プログラムに提供するものであり、
前記設定クランク各毎に提供される前記過度変更量のデータに基づいて、前記可変機構のモデルを変更するモデル変更ステップをさらに備えており、
前記設定クランク角は、前記CFD演算における所定クランク角の値よりも大きな値とされ、且つ前記可変機構がスロットル弁であるときには、それがEGR弁であるときに比べて大きな値とされていることを特徴とするエンジン性能の予測解析システムの制御プログラム。 - 請求項4において、
設定クランク角をエンジンの運転状態に応じて、低回転側ほど小さい値になる一方、高回転側ほど大きな値になるように補正する設定クランク角補正ステップをさらに備えることを特徴とするエンジン性能の予測解析システムの制御プログラム。
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