JP4170041B2 - 窒化ガリウム系化合物半導体装置 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は窒化ガリウム系化合物半導体装置、特に窒化ガリウム(GaN)系化合物層の転位密度低減に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、GaN系化合物は短波長LEDや半導体レーザの材料として有望視されている。GaN系半導体デバイスにおいては、転位の存在がデバイス特性に大きく影響する。たとえば、InGaNを活性層とする半導体レーザにおいては、活性層中に存在する転位密度が高いと発振しきい値電流が高くなり、レーザが短時間で劣化してデバイス寿命が短くなる。また、GaN、AlGaN、InGaN、InAlGaNなどを活性層とする波長300〜400nm帯のLEDでは、転位が非発光中心として働くため発光効率を低下させてしまう。
【0003】
これらの問題を解決するため、従来よりSiO2の成長阻害層をストライプ状に形成してGaN層をラテラル方向に成長させるELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)法が用いられている。この方法においては、サファイアなどの基板上にGaNをMOCVD法などで成長させ、成長装置から取り出した後フォトリソグラフィー法でSiO2などの成長阻害層をストライプ状に形成する。その後、再び成長装置に搬入してGaNの成長を行うと、結晶成長は成長阻害層が形成されていない部分から開始し、厚さ方向と同時にラテラル方向にも進んでやがて表面が平坦化する。成長阻害層上にラテラル方向に成長した部分には転位は伝搬しないので、この部分で転位密度が低減する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ELO法においては、フォトリソグラフィーを用いて成長阻害層を形成する必要があるため手間がかかり、また成長阻害層を形成するためにデバイスを成長装置から一旦取り出す必要もあることから表面が汚染されるおそれがある。結果として、ELO法は高価なプロセスとなり最終製品を安価に製造できない問題があった。
【0005】
さらに、ELO法においては基板表面の一部だけの転位密度を低減しているのみであり、より広範に転位密度を低減できる方法が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みなされたものであり、その目的は、簡易に転位密度を低減でき、これにより特性に優れたGaN系化合物半導体装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のGaN系化合物半導体装置は、基板と、前記基板上に成長させた第1GaN系層と、前記第1GaN系層上に成長させた、GaNP層とGaN層を交互に積層してなり前記第1GaN系層の転位を抑制する多重量子井戸層と、前記多重量子井戸層上に成長させた第2GaN系層と、前記第2GaN系層上に成長させた発光層とを有し、前記第1GaN系層と前記第2GaN系層は同一組成であることを特徴とする。
【0008】
ここで、前記GaNP層のP組成比は0.01%以上0.5%以下であることが好適であり、0.05%以上0.2%以下であることがより好適である。
【0009】
また、前記GaNP層の厚さは1nm以上5nm以下であることが好適であり、1nm以上3nm以下であることがより好適である。
【0010】
また、前記多重量子井戸層の周期は1周期以上20周期以下であることが好適である。
【0011】
GaNPの代わりに、GaNAsを用いることもできる。
【0012】
このように、本発明のGaN系化合物半導体装置では、GaN系層の間にGaNPとGaNを交互に積層してなる多重量子井戸(MQW)層を挿入することでGaN系層表面の転位密度を低減する。基板上にGaN系層を成長させると、その表面に転位が発生する。ところが、このGaN系層上にGaNPとGaNからなるMQW層を形成すると、GaNP層のP原子が転位の位置に選択的に取り込まれ、転位をそこで終端する。従来、GaPに少量のN原子を混ぜたGaNP結晶の研究は多くなされており、Nの組成がある程度以上になると転位が発生することが知られている。これはGaNPが熱力学的に不安定で、GaNとGaPに簡単に相分離するため、及びGaP基板との格子不整合が大きくなるためである。
【0013】
本発明におけるGaNPは、GaNに少量のPを混ぜた結晶であり、上述した従来のGaNPとは本質的に相違する。しかしながら、本発明においてもPの量が多くなるとその表面が荒れることになる。すなわち、GaNPの層が厚い、あるいはPの組成が多く、GaN表面の転位や表面荒れを埋めてもなおP原子が余ってしまう場合にはGaNP結晶が均一にGaN上に成長し、層厚が数原子層を超えると転位が発生して表面荒れが生じることになる。
【0014】
したがって、本発明におけるGaN層の転位を低減するために必要な(GaNP/GaN)MQW中のP組成比(但し、表面での平均値であって転位点における組成比ではない)及びその厚さは適当な範囲に設定することが好適となる。具体的には、P組成比あるいは厚さはGaN層表面の荒れの程度及び転位密度に依存して設定できる。通常得られる109cm-2程度の転位密度の場合、P組成は約1%以下であれば効果が現れる。組成が小さくなればその効果は現れにくい。したがって、P組成は0.01%〜0.5%、より好ましくは0.05〜0.2%である。
【0015】
一方、GaNP層の厚さ(あるいは体積)に関しては、P組成に依存して設定される。P組成が0.1%のときは5nm以下(あるいは厚さ5nm以下に相当する体積)、より好ましくは3nm以下(あるいは厚さ3nm以下に相当する体積)である。但し、1nm以下にすると効果が現れにくいため、適当な範囲は1nm〜5nm、より好適には1nm〜3nmとなる。
【0016】
MQWの最適な周期(層数)はP組成及び厚さに依存して設定されるが、本願出願人は実験の結果、100周期以下であれば効果があり(但し、20周期以上は効果が飽和する)、それ以上となると表面が荒れてしまうことを確認している。MQWは1周期でも効果があるため、1周期〜20周期が好適となる。本発明の装置には、LEDや半導体レーザ等が含まれる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0018】
図1には、本実施形態に係るGaN系化合物半導体装置の構成図が示されている。サファイアなどの基板10上に500度(℃)程度の低温でGaNバッファ層11が形成される。GaNバッファ層11が形成された後、1050度程度まで昇温してGaN結晶層12が形成される。さらに、GaN結晶層12上にGaNP層とGaN層を交互に数周期積層してなる多重量子井戸層(MQW)14が形成され、多重量子井戸層14上にさらにGaN結晶層16が再び形成される。なお、GaNバッファ層11を形成するに先立ち、数nm厚のSiNバッファ体を離散的あるいは島状に形成してもよい。このように、GaN結晶層の間に(GaNP/GaN)MQW層14を挿入することで、GaN結晶層中の転位密度が大きく低減される。
【0019】
<実施例1>
図1に示されるGaN系化合物半導体装置は以下のようなプロセスで形成される。すなわち、MOCVD装置にてサファイアc面基板を1100度にて水素雰囲気中で10分程度熱処理して温度を500度まで降温させる。そして、厚さ20nmのGaNバッファ層11をトリメチルガリウムおよびアンモニアガスを供給して成長させる。その後、温度を1050度まで昇温して再びトリメチルガリウムおよびアンモニアガスを供給して厚さ2μmのGaN結晶層12を形成する。次に、同一温度で5周期の(厚さ2.2nmGaNP/厚さ25nmGaN)MQW14を成長させ、再び0.8μm厚のGaN結晶層16を同一温度で成長させる。なお、GaN結晶の成長条件はトリメチルガリウム流量15μmol/min、アンモニア流量15SLM、水素キャリアガス17SLMである。GaNPの成長条件は、GaNの成長条件に0.1%水素希釈のフォスフィン(PH3)200sccmを追加したものである。また、MQW層14中のGaNP層とGaN層の成長時間はそれぞれ5秒と60秒である。
【0020】
このような条件で成長させたGaNP中のPの組成を100×100μm2の領域でSIMSで測定した結果、およそ0.1%であることを確認した。比較のため、同一条件で(GaNP/GaN)MQW14を成長させずにGaN結晶層のみを成長させた試料も準備した。成長後の表面AFM(原子間力顕微鏡)で観察した結果、(GaNP/GaN)MQW層14を挟んでGaN結晶を成長させた試料では明らかに転位密度が低減していることが確認された。図2は、GaN結晶のみをサファイア基板10上に成長させたAFM写真であり、図3は(GaNP/GaN)MQW層14をGaN結晶成長中に挿入したAFM写真である。両図を比較すると、MQW層14の効果は明らかであろう。この例では、転位密度が約1/4に低減されていることがわかる。なお、MQW層14中のGaN1-yPy(0<y≦1)の成長条件を変化させてその固相組成yおよび膜厚の転位への影響を検討した。その結果、Pの組成が大きい場合、あるいはGaNP膜厚が厚い場合にはかえって転位密度が増加する結果が観測された。最適な固相比は膜厚に依存して決定される。たとえば、P組成を0.1%で固定してGaNP層の厚さのみを変化させた場合、GaNP層の成長時間が10秒越えると表面が次第に荒れてくることが観測された。さらに、フォスフィン流量を倍にしても次第に表面が荒れてくることも観測された。以上のことから、Pの組成比およびGaNP層の厚さは適宜調整する必要があることがわかる。
【0021】
<実施例2>
さらに、(GaNP/GaN)MQW層14をGaN結晶中に挿入することで転位密度が低減する理由を明らかにすべく、GaN結晶層12上にGaNPを成長させてそのまま成長を止め、その表面を観察した。その結果を図4(a)〜(c)に示す。なお、この場合、GaNP層の効果を明確にするため、GaN表面が比較的荒れるようにGaNバッファ層11の成長条件をあえて調整している。このように表面が荒れたGaN結晶12上にGaNPを成長させるとその表面は次第に平坦化していく。また、欠陥に相当する点も低減している。GaNPの成長時間が5秒の時、その成長した厚さはおよそ2.2nm、15秒の時はおよそ6.6nmである。なお、図4(a)はGaN結晶表面、(b)はGaNPを5秒間成長させた場合、(c)はGaNPを15秒だけ成長させたものである。
【0022】
<実施例3>
一方、GaN表面の荒れの深さが50nmほどもあり、2.2nm程度の膜が均一に形成されたとするとこのような表面状態の改善は説明できない。そこで、P原子が表面上の穴(点)に選択的に取り込まれると仮定し、穴の体積とGaNP層の体積を比較した。その結果、これらは非常によい相関を示し、GaNPが表面の穴や点などの欠陥に選択的に取り込まれることが推測された。本来、転位は自由表面あるいは転位ループを作ることでしか消滅しない。GaNPにより転位密度が低減するのは、P原子が転位の位置に選択的に取り込まれ、P原子がその部分で転位ループを作るという転位のターミネータ(終端)として働くためである。これらの仮説を証明するため、断面電子顕微鏡観察を行った。図5(a)、(b)には、実施例1に記載の構造の断面電子顕微鏡写真が示されている。両像は同一場所で観測されており、(a)、(b)はそれぞれgベクトル11−20、0002についての像である。電子線回折の禁止則により、図5(a)、(b)にはそれぞれ純粋刃状転位+混合転位、純粋渦転位+混合転位のみが観測されている。両者の比較から、純粋渦転位がMQW層の位置で消滅していることがわかる。AFMで観測される点は渦転位であることが示されているので、この結果は妥当である。P原子はGaN表面の渦転位の部分に選択的に取り込まれ、転位をそこで終端することが確認された。渦転位の部分は、原子レベルで平坦な部分と比べるとダングリングボンドが多く、そこに到達する原子を強くトラップするので、P原子のようにGaNの成長温度1050度で高い蒸気圧を持つ原子が渦転位の部分に選択的に取り込まれるとする考えも妥当である。
【0023】
<実施例4>
GaNP/GaN MQWによる転位密度低減を利用して、波長350nm帯の紫外線LEDを以下のように作成した。
【0024】
サファイアc面基板/離散的SiNバッファ/undoped GaN 0.4μm/Si−doped GaN 1.5μm/(GaN/GaNP)MQW5周期/Si−doped GaN 0.5μm/(Si−doped Al0.1Ga0.9N 2nm/GaN 2nm)MQW100周期/GaNSQW 2nm/(Mg−doped Al0.1Ga0.9N 2nm/GaN 1nm)MQW50周期/Mg−doped GaN 10nm
成長後、表面の一部をエッチングしてn型GaNを表面に露出させ、透明p電極とn電極を形成してLEDを作製した。同一構造で(GaN/GaNP)MQW5周期のみを除いたLEDも同時に作製した。両方のLEDとも発光ピーク波長は355nmであった。発光強度は(GaN/GaNP)MQW5周期を挿入したLEDの方が約3倍あった。このことから、(GaN/GaNP)MQWが、GaN及びその上に成長された層の結晶性を改善し、デバイス特性を改善できることが分かる。
【0025】
以上、本発明の実施形態について、GaN系層としてGaN層を例にとり説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、GaN系層としてAlGaN層を用いることもできる。すなわち、AlGaN層内にGaNP/GaN MQW層を挿入しても、AlGaN層の転位密度を低減することができる。
【0026】
図6には、GaN系層としてAlGaN層を用いた場合の結果が示されている。(a)はGaNバッファ層上にAl0.1Ga0.9N層を200nm成長させた場合、(b)はその上にさらにGaNPを5秒間(約2.2nm)成長させた場合である。両図を比較すると、GaN層の場合と同様にAlGaN層の欠陥に対応する点が低減していることが分かる。
【0027】
なお、同様の効果をGaNAsについても試みたが、ほぼ同一効果が得られるものの、Asの場合にはPと比べると最適な厚さがやや薄く、最適な組成がやや低いことが判明した。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によればGaN系層の転位密度を低減でき、デバイス特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施形態の構成図である。
【図2】 GaN層のみを成長させた場合のAFM写真説明図である。
【図3】 (GaN/GaNP)MQWを成長させた場合のAFM写真説明図である。
【図4】 GaNPを成長させた場合の表面状態説明図である。
【図5】 断面顕微鏡写真説明図である。
【図6】 AlGaN層を用いた場合のAFM写真説明図である。
【符号の説明】
10 基板、11 GaNバッファ層、12 GaN層、14 (GaN/GaNP)MQW層、16 GaN層。
Claims (9)
- 基板と、
前記基板上に成長させた第1GaN系層と、
前記第1GaN系層上に成長させた、GaNP層とGaN層を交互に積層してなり前記第1GaN系層の転位を抑制する多重量子井戸層と、
前記多重量子井戸層上に成長させた第2GaN系層と、
前記第2GaN系層上に成長させた発光層と、
を有し、前記第1GaN系層と前記第2GaN系層は同一組成であることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体装置。 - 請求項1記載の装置において、
前記GaNP層のP組成比は0.01%以上0.5%以下であることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体装置。 - 請求項1記載の装置において、
前記GaNP層のP組成比は0.05%以上0.2%以下であることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体装置。 - 請求項1記載の装置において、
前記GaNP層の厚さは1nm以上5nm以下であることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体装置。 - 請求項1記載の装置において、
前記GaNP層の厚さは1nm以上3nm以下であることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体装置。 - 請求項1記載の装置において、
前記多重量子井戸層の周期は1周期以上20周期以下であることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体装置。 - 基板と、
前記基板上に成長させた第1GaN系層と、
前記第1GaN系層上に成長させた、GaNAs層とGaN層を交互に積層してなり前記第1GaN系層の転位を抑制する多重量子井戸層と、
前記多重量子井戸層上に成長させた第2GaN系層と、
前記第2GaN系層上に成長させた発光層と、
を有し、前記第1GaN系層と前記第2GaN系層は同一組成であることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体装置。 - 基板上にGaN層を成長させ、前記GaN層上に発光層を成長させてなる窒化ガリウム系化合物半導体装置であって、
前記GaN層内に、GaNP層あるいはGaNAs層とGaN層を交互に複数周期積層してなり前記GaN層の転位を抑制する多重量子井戸層を挿入してなることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体装置。 - 基板上にAlGaN層を成長させ、前記AlGaN層上に発光層を成長させてなる窒化ガリウム系化合物半導体装置であって、
前記AlGaN層内に、GaNP層あるいはGaNAs層とGaN層を交互に複数周期積層してなり前記AlGaN層の転位を抑制する多重量子井戸層を挿入してなることを特 徴とする窒化ガリウム系化合物半導体装置。
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