JP4168135B2 - 特性を改変した蛋白質の作出方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特性を改変した蛋白質の作出方法に関する。詳しくは、2種類以上の不活性な断片化蛋白質を混合し、混合状態のままリフォールディングさせることにより、特性を改変した活性型蛋白質を作出する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
これまで、蛋白質(酵素)の特性を改変することは、非常に困難であった。一部には、遺伝子レベルで改変する手法(非特許文献1)もあるが、「蛋白質(酵素)を構成する数百のアミノ酸残基のうち、どのアミノ酸残基をどのように変換すれば、所望する改変活性を有する酵素が得られるか」、といった予測手法がほとんど見あたらないことから、遺伝子レベルでの蛋白質(酵素)改変には多大な時間と労力を要した(非特許文献2)。
一方、複数酵素を対象にその遺伝子を置換し、キメラ遺伝子を構築し、得られたキメラ遺伝子を発現することにより、両親酵素とは異なった特性を有するキメラ酵素を取得する技術も開発されている(非特許文献3)。しかし、この方法では、遺伝子置換を一つずつ実施する必要があり、容易ではない。
また、蛋白質を人為的に断片化し、得られた断片化蛋白質を混合し、共存リフォールディングにより活性型の蛋白質(酵素)を得ることは、試みられていなかった。
【0003】
【非特許文献1】
生物化学実験法40、「蛋白質工学研究法」、井本泰治著、学会出版センター発行、「変異蛋白質の調製」p55-70、ISBN4-7622-9822-0(1996)
【非特許文献2】
ゲノム微生物学、木村 光編、シュプリンガー・フェアラーク発行、「8.蛋白質工学」、p181-196、ISBN4-431-70840-5(1999)
【非特許文献3】
K. Hayashi et al., J. Mol. Cat. B: Enzym., vol.11,p811-816(2001)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、断片化され、活性を有していない蛋白質の2種類以上を共存させ、リフォールディングすることにより活性型の蛋白質、すなわち特性の改変された蛋白質を得る方法を開発することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の本発明は、2種類以上の断片化β−グルコシダーゼを共存させ、5〜7 M 塩酸グアニジンもしくは6〜9 M 尿素、10〜50m M 緩衝剤、0.01〜10m M 還元剤、0.01〜10m M 酸化剤、0.01〜1m M タンパク質分解酵素阻害剤および安定剤を含む変性溶液(p H 6〜10)を用いて4〜30℃で共存リフォールディングすることを特徴とする、至適p H 、至適温度、熱安定性、塩による阻害効果、Kcat値およびKm値から選ばれた少なくとも1種の特性を改変したβ−グルコシダーゼの作出方法である。
請求項2記載の本発明は、異なる生物種由来の2種類以上の断片化β−グルコシダーゼを共存させ、5〜7 M 塩酸グアニジンもしくは6〜9 M 尿素、10〜50m M 緩衝剤、0.01〜10m M 還元剤、0.01〜10m M 酸化剤、0.01〜1m M タンパク質分解酵素阻害剤および安定剤を含む変性溶液(p H 6〜10)を用いて4〜30℃で共存リフォールディングする、至適p H 、至適温度、熱安定性、塩による阻害効果、Kcat値およびKm値値から選ばれた少なくとも1種の特性を改変したβ−グルコシダーゼの作出方法である。
請求項3記載の本発明は、同一生物種由来の2種類以上の断片化β−グルコシダーゼを共存させ、5〜7 M 塩酸グアニジンもしくは6〜9 M 尿素、10〜50m M 緩衝剤、0.01〜10m M 還元剤、0.01〜10m M 酸化剤、0.01〜1m M タンパク質分解酵素阻害剤および安定剤を含む変性溶液(p H 6〜10)を用いて4〜30℃で共存リフォールディングする、至適p H 、至適温度、熱安定性、塩による阻害効果、Kcat値およびKm値から選ばれた少なくとも1種の特性を改変したβ−グルコシダーゼの作出方法である。
請求項5記載の本発明は、同一のβ−グルコシダーゼ由来の2種類以上の断片化β−グルコシダーゼを共存させ、5〜7 M 塩酸グアニジンもしくは6〜9 M 尿素、10〜50m M 緩衝剤、0.01〜10m M 還元剤、0.01〜10m M 酸化剤、0.01〜1m M タンパク質分解酵素阻害剤および安定剤を含む変性溶液(p H 6〜10)を用いて4〜30℃で共存リフォールディングすることによる、β−グルコシダーゼの至適p H 、至適温度、熱安定性、塩による阻害効果、Kcat値およびKm値から選ばれた少なくとも1種の特性を改変する方法である。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明では、まず、既存技術を活用して目的蛋白質(酵素)の遺伝子を断片化して発現する系を構築する。構築した遺伝子断片を発現することにより断片化蛋白質を得る。次いで、この断片化蛋白質を2種類以上混合した後、混合状態のままリフォールディング(共存リフォールディング)することにより活性型蛋白質(酵素)を得る。
この場合、用いる断片化蛋白質の種類は、2種類が最少であり、混合する種類が多ければ多いほど、多様な活性型蛋白質(酵素)が得られる。通常は2〜100種類の断片化蛋白質を混合する。
本発明の対象とされる蛋白質としては、酵素蛋白質が代表的なものであり、植物、動物、微生物などの各種起源のものが適用される。酵素蛋白質としては、糖質分解酵素、蛋白質分解酵素、脂質分解酵素、異性化酵素、酸化酵素、還元酵素などが挙げられる。また、糖質分解酵素としては、グルコシダーゼ、アミラーゼ、キシラナーゼ、キチナーゼ、マンナナーゼ、ペクチナーゼ、ヘミセルラーゼなどがある。
【0007】
共存リフォールディングによって得られた活性型蛋白質(酵素)のpH安定性、熱安定性、反応の至適pH、至適温度、基質特異性、蛋白質(酵素)安定剤の必要の有無等の蛋白質(酵素)の化学的性質は、遺伝子断片化に用いた両親の蛋白質(酵素)とは異なっていることから、本発明によれば、特性が改変された蛋白質(酵素)が得られる。
【0008】
本発明におけるリフォールディングの方法としては、変性透析法、カラム吸着法、環状糖質活用法等が適用できる。これらの方法について説明する。
(1)変性透析法
2種類以上の断片化蛋白質を合計で、通常は0.05〜20mg/ml、好ましくは0.5〜2mg/mlとなるように変性溶液に溶解する。変性溶液は、変性剤、緩衝剤、還元剤、酸化剤、阻害剤、安定剤などを含む。
変性剤としては、塩酸グアニジン、尿素等の蛋白質の構造を解きほぐす作用を有する化合物が使用できる。塩酸グアニジンを用いる場合には、その濃度は通常は1〜8M、好ましくは5〜7Mである。尿素を用いる場合には、その濃度は通常は1〜10M、好ましくは6〜9Mである。
緩衝剤としては、溶液のpHを一定に保つ作用を有する化合物が使用でき、例えば酢酸、クエン酸、リン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンの他、MOPS、HEPES等のグッドの緩衝剤などがある。その濃度は通常は1〜1000mM、好ましくは10〜50mMであり、緩衝液のpHは通常は1〜14、好ましくは4〜11、より好ましくは6〜10である。
【0009】
還元剤としては、グルタチオン、メルカプトエタノール、ジチオオスレイトール等の蛋白質内部のジスルフィド結合を還元する作用を有する化合物が使用できる。その濃度は、特に限定されるものではないが、通常は0.001〜100mM、好ましくは0.01〜10mMである。
次に、酸化剤としては、酸化型グルタチオン等の蛋白質内部のジスルフィド結合を酸化する作用を有する化合物が使用できる。その濃度は、特に限定されるものではないが、通常は0.001〜100mM、好ましくは0.01〜10mMである。
【0010】
変性溶液に溶解した状態の蛋白質断片は、その立体構造が破壊されていることから、蛋白分解酵素の作用を受けやすい。そこで、わずかに混在する蛋白分解酵素の作用を阻止するために、ベンザミジン、フェニルメチルスルフォニルフルオリド、4−(2−アミノエチル)ベンゼンスルフォニルフルオリド、アンチパイン、キモスタチン、ロイペプチン、ペプスタチンA、ホスホラミドン、アプロチニンEDTA、ラクタスタチン、セルピン等のタンパク質分解酵素阻害剤を用いる。該阻害剤の濃度は、特に限定されるものではないが、通常は0.0001〜10mM、好ましくは0.01〜1mMである。
安定剤としては、断片化蛋白質並びにリフォールディングされた蛋白質の安定化を促す作用を有する化合物、すなわちグリセロール等の多価アルコールや基質類似物等が使用できる。
【0011】
変性溶液に溶解した断片化蛋白質を透析膜内部に入れ、透析を開始する。透析温度は、通常は−20〜90℃、好ましくは0〜50℃、より好ましくは4〜30℃である。透析膜としては、断片化蛋白質は保持するが、塩類等の低分子は透過する性質を有する膜が使用できる。代表的な透析膜としては、再生セルロース膜、酢酸セルロース膜、ポリアクリロニトリル膜、ポリメチルメタクリレート膜、エチレンビニルアルコール膜、ポリスルホン膜、ポリアミド膜、ポリエステル系ポリマーアロイ膜、ハイパフォーマンス膜等が使用できる。
透析を開始し、一定の時間が経過した際に、透析外液を下記の外液1、外液2、外液3、外液4と逐次、交換する。交換までの放置時間(透析時間)は、通常は1分〜48時間、好ましくは1時間〜16時間、より好ましくは3時間〜16時間である。
【0012】
外液1:断片化蛋白質の溶解に用いた変性溶液中の変性剤の濃度を、通常は5〜100%、好ましくは10〜20%減少させた溶液。なお、緩衝剤、還元剤、酸化剤、阻害剤、安定剤は、先に用いた変性溶液と、好ましくは同じ濃度とするが、必要に応じて緩衝剤、還元剤、酸化剤、阻害剤、安定剤の一部もしくは全部の濃度を変えることも有効である。
外液2:外液1に用いた変性溶液中の変性剤の濃度を、通常は5〜100%、好ましくは10〜20%減少させた溶液。この場合も、緩衝剤、還元剤、酸化剤、阻害剤、安定剤は、先に用いた変性溶液と、好ましくは同じ濃度とするが、必要に応じ、これらの一部もしくは全部の濃度を変えることも有効である。
【0013】
外液3:外液2に用いた変性溶液中の変性剤の濃度を、通常は5〜100%、好ましくは10〜20%減少させた溶液。なお、緩衝剤、還元剤、酸化剤、阻害剤、安定剤の各濃度については、先に用いた変性溶液と、同じとすることが好ましいけれども、必要に応じて緩衝剤、還元剤、酸化剤、阻害剤、安定剤の一部もしくは全部の濃度を変えることも有効である。
外液4:外液3に用いた変性溶液中の変性剤の濃度を、通常は5〜100%、好ましくは10〜20%減少させた溶液。緩衝剤、還元剤、酸化剤、阻害剤、安定剤の各濃度については、先に用いた変性溶液と、同じ濃度とすることが好ましい。しかし、必要に応じてこれらの一部もしくは全部の濃度を変えることも有効である。
以下、順次、変性剤の濃度が低下した一連の外液を調製する。外液の種類は、通常は1〜20種類、好ましくは4〜10種類である。
【0014】
透析方法及び透析外液の具体的な例を以下に示す。
断片化蛋白質を変性溶液(50mM MOPS緩衝液pH7.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)に溶解し、これを透析膜チューブ内部に入れ、4℃で透析した。
透析外液としては、以下の6種類を用意した。
外液1:5M 塩酸グアニジン溶液(50mM MOPS緩衝液pH7.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液2:4M 塩酸グアニジン溶液(50mM MOPS緩衝液pH7.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液3:3M 塩酸グアニジン溶液(50mM MOPS緩衝液pH7.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液4:2M 塩酸グアニジン溶液(50mM MOPS緩衝液pH7.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液5:1M 塩酸グアニジン溶液(50mM MOPS緩衝液pH7.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液6:50mM MOPS緩衝液pH7.0、1mM EDTA、0.5%メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有
【0015】
約12時間毎に、透析外液を、外液1から外液2へ、外液2から外液3へと順次交換した。透析外液の液量は、透析内液の液量の約50倍とした。また、交換の都度、透析内液の一部を取り出し、酵素活性を測定した。
この条件で共存リフォールディングした際の活性レベルでの回収収率は、2〜9割であった。酵素活性は外液5に交換した頃より認められ、最も高い酵素活性は外液6に交換後、12時間後に認められた。
得られた共存リフォールディング活性型酵素をpH6.5、50mM MOPS塩酸緩衝液で平衡化したMONO-Qイオン交換カラム(0〜0.5M 塩化ナトリウムグラジエント)で精製後、その特性を解析した。
【0016】
(2)カラム吸着法
断片化蛋白質を、上記の変性溶液に溶解後、カラムに充填した樹脂(カラム樹脂)に吸着させる方法である。カラム樹脂に吸着後、順次、カラムに上記の外液1、外液2、外液3、外液4等を流す。なお、外液を順に流す代わりに、変性剤の濃度が連続的に変化するよう、グラジエントを作出して流す方法も有効である。この方法により、カラム樹脂に吸着された状態で、断片化蛋白質をリフォールディングすることが可能である。カラム樹脂としては、キレート樹脂、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、アフィニティー樹脂等が使用できる。
【0017】
(3)環状糖質活用法
断片化蛋白質を、上記の変性溶液に溶解後、希釈溶液を加える。希釈溶液は、界面活性剤、緩衝剤、還元剤、酸化剤、阻害剤、安定剤を含む。
希釈溶液の添加量は、変性溶液の通常は2〜10000倍、好ましくは50〜500倍である。この過程で、変性剤濃度が低下し、変性状態の断片化蛋白質は凝集沈澱するが、希釈溶液に含まれる界面活性剤等がその凝集沈澱を防止する。界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が使用できる。その濃度は、通常は0.0001〜10%、好ましくは0.01〜1%である。
緩衝剤としては、溶液のpHを一定に保つ作用を有する化合物が使用できる。その濃度は、通常は1〜1000mM、好ましくは10〜50mMで、緩衝液のpHは通常は1〜14、好ましくは4〜11、より好ましくは6〜10である。還元剤としては、グルタチオン、メルカプトエタノール、ジチオオスレイトール等の蛋白質内部のジスルフィド結合を還元する作用を有する化合物を使用することができ、その濃度は、通常は0.001〜100mM、好ましくは0.01〜10mMである。
酸化剤としては、酸化型グルタチオン等の蛋白質内部のジスルフィド結合を酸化する作用を有する化合物が使用できる。その濃度は、通常は0.001〜100mM、好ましくは0.01〜10mMである。
【0018】
変性溶液に溶解した状態の蛋白質断片は、その立体構造が破壊されていることから、蛋白分解酵素の作用を受けやすい。それ故、わずかに混在する蛋白分解酵素の作用を阻止するために、ベンザミジン、フェニルメチルスルフォニルフルオリド、4−(2−アミノエチル)ベンゼンスルフォニルフルオリド、アンチパイン、キモスタチン、ロイペプチン、ペプスタチンA 、ホスホラミドン、アプロチニンEDTA、ラクタスタチン、セルピン等のタンパク質分解酵素阻害剤を用いる。その濃度は、通常は0.0001〜10mM、好ましくは0.01〜1mMである。
安定剤としては、断片化蛋白質並びにリフォールディングされた蛋白質の安定化を促す作用を有する化合物、例えばグリセロール等の多価アルコールや基質類似物等が使用できる。
【0019】
希釈溶液に、吸着剤溶液を加えることによりリフォールディングが完了する。吸着剤溶液は、蛋白質断片に吸着している界面活性剤の一部(あるいは全部)を吸着除去する作用を有する吸着剤を含む。吸着剤としては、環状糖質(例えばサイクロデキストリン、サイクロアミロース)、澱粉の部分分解物、イオン交換樹脂等の界面活性剤の吸着能(または包接能)を有する物質が使用できる。
【0020】
【実施例】
以下に、実施例を示して本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
実施例1
Thermotoga maritima 由来のβ−グルコシダーゼ
(1)分断遺伝子と断片化蛋白質の調製
Thermotoga maritima 由来のβ−グルコシダーゼは、721残基のアミノ酸で構成されている。本酵素の遺伝子をほぼ中央付近で切断し、以下の4種のN末端断片化蛋白質と4種のC末端断片化蛋白質が得られるように(図1)、遺伝子を設計した。
また、遺伝子レベルで工夫し、N末端断片化蛋白質にはN末端に6残基のヒスチジンから構成されるHis タグを、C末端断片化蛋白質にはC末端に6残基のヒスチジンから構成されるHis タグを付与した。なお、上記のアミノ酸配列の順番には、天然型の酵素のアミノ酸配列の順番を用いており、His タグを構成するアミノ酸残基は数えていない。
【0021】
4種類のN末端断片化蛋白質の遺伝子
1番目〜370番目の残基で構成されるTmN370 断片化蛋白質の遺伝子、
1番目〜403番目の残基で構成されるTmN403 断片化蛋白質の遺伝子、
1番目〜419番目の残基で構成されるTmN419 断片化蛋白質の遺伝子、
1番目〜435番目の残基で構成されるTmN435 断片化蛋白質の遺伝子、
【0022】
4種類のC末端断片化蛋白質の遺伝子
371番目〜721番目の残基で構成されるTmC371 断片化蛋白質の遺伝子、
404番目〜721番目の残基で構成されるTmC404 断片化蛋白質の遺伝子、
420番目〜721番目の残基で構成されるTmC420 断片化蛋白質の遺伝子、
436番目〜721番目の残基で構成されるTmC436 断片化蛋白質の遺伝子、
【0023】
なお、本酵素の活性中心アミノ酸残基は242番目のアスパラギン酸残基(求核/塩基残基)並びに524番目のグルタミン酸残基(水素供与体残基)であると推察されている。このうちのアスパラギン酸残基はN末端断片化蛋白質に、524番目のグルタミン酸残基はC末端断片化蛋白質に存在している。すなわち、蛋白質の断片化により、活性中心アミノ酸残基も分断されたのである。
【0024】
断片化蛋白質の調製
得られた断片化蛋白質の遺伝子を大腸菌で発現させ、断片化蛋白質を調製した。断片化蛋白質の発現には、断片化蛋白質がなるべく封入体とならないように、蛋白合成の遅い20℃で大腸菌を培養し、誘導に用いるIPTG濃度も通常の1mMではなく、0.1mMという低濃度で、発現を穏やかに誘導するよう工夫した。しかしながら、得られた断片化蛋白質は、すべて水不溶性の封入体として得られた。当然のことながら、この段階で酵素活性を示す断片化蛋白質は認められなかった。
そこで、封入体を8M 尿素に可溶化後、キレートカラムを用いて、8種の断片化蛋白質をそれぞれ精製した。精製断片化蛋白質は、SDSゲル電気泳動で、単一バンドを示し、高度に精製されていることが分かった。
【0025】
(2)断片化蛋白質の、個別のリフォールディング
得られた8種の精製断片化蛋白質をそれぞれ、個別にリフォールディングしたが、8種類のいずれの断片化蛋白質も、酵素活性を示さなかった。リフォールディング条件は、以下の各種条件を組み合わせて検討した。
リフォールディング条件
変性剤:8M 尿素あるいは6M 塩酸グアニジン
温度は、4、10、20、30、40または50℃とした。
pHは、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、11.0または12.0とした。
蛋白質濃度は、0.1、0.3、1または3mg/mlとした。
蛋白質のジスルフィド結合の形成を促進する試薬として、1.6mg/ml酸化型グルタチオン、1.0mg/ml還元型グルタチオンまたは0.5%メルカプトエタノールの存在の有無
金属キレート試薬として1mM EDTAの存在の有無
4日間かけて透析し、変性剤の濃度を徐々に低下させる。
透析期間中、透析内部溶液を約12時間毎に少量取り出し、酵素活性を測定する。
【0026】
酵素活性測定方法
基質として2.5mM パラニトロフェニル−β−D−グルコシドを62.5mM MOPS緩衝液(pH6.5)に溶解し、30℃に保温した水溶液0.4mlに、酵素溶液を0.1ml加え、30℃で10分間反応させた。反応後、酵素作用により遊離するパラニトロフェノールの量を、分光光度計(波長405nm)で測定した。
【0027】
(3)8種の断片化蛋白質を混合し、共存リフォールディング
先に精製した8種の断片化蛋白質を混合し、それらが共存する溶液をリフォールディングしたところ、酵素活性が認められた。通常の使用では、この画分を改変酵素として使用できる。
ここでは、この段階で、どの組み合わせの断片化蛋白質が、一緒になり活性型となったか、また酵素の特性がどのように変化したかを明瞭にするため、さらに以下の実験を行った。
【0028】
(4)断片化蛋白質をN末端断片化蛋白質1個とC末端断片化蛋白質1個を組み合わせ、共存リフォールディング
N末端断片化蛋白質は4種類、C末端断片化蛋白質は4種類存在することから、N末端断片化蛋白質1個とC末端断片化蛋白質1個での共存リフォールディングする組み合わせは合計で16通りとなる。そこで、16通りの組み合わせで、共存リフォールディングを行った。
その結果、16通りの組み合わせのすべてにおいて活性型が得られた。
そこで、16通りの組み合わせの内、代表的な以下の4通りの組み合わせの酵素について、さらに詳細な検討を加えた。
【0029】
TmN370 断片化蛋白質とTmC371 断片化蛋白質との2種を共存リフォールディングして活性型となった蛋白質を、TmN370/TmC371 酵素と命名した。
TmN403 断片化蛋白質とTmC404 断片化蛋白質との2種を共存リフォールディングして活性型となった蛋白質を、TmN403/TmC404 酵素と命名した。
TmN419 断片化蛋白質とTmC420 断片化蛋白質との2種を共存リフォールディングして活性型となった蛋白質を、TmN419/TmC420 酵素と命名した。
TmN435 断片化蛋白質とTmC436 断片化蛋白質との2種を共存リフォールディングして活性型となった蛋白質を、TmN435/TmC436 酵素と命名した。
【0030】
なお、共存リフォールディングの例としては、以下の通りである。
2種の封入体蛋白質を合計で約2mg/mlとなるように6M 塩酸グアニジン(50mM MOPS緩衝液pH7.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)に溶解する。これを透析膜チューブ内部に入れ、4℃で透析した。
透析外液としては、以下の6種類を用意した。
【0031】
外液1:5M 塩酸グアニジン溶液(50mM MOPS緩衝液pH7.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液2:4M 塩酸グアニジン溶液(50mM MOPS緩衝液pH7.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液3:3M 塩酸グアニジン溶液(50mM MOPS緩衝液pH7.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液4:2M 塩酸グアニジン溶液(50mM MOPS緩衝液pH7.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液5:1M 塩酸グアニジン溶液(50mM MOPS緩衝液pH7.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液6:50mM MOPS緩衝液pH7.0、1mM EDTA、0.5%メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有
【0032】
約12時間毎に、透析外液を、外液1から外液2へ、外液2から外液3へと順次交換した。透析外液の液量は、透析内液の液量の約50倍とした。また、交換の都度、透析内液の一部を取り出し、酵素活性を測定した。
この条件で共存リフォールディングした際の活性レベルでの回収収率は、2〜9割であった。酵素活性は外液5に交換した頃より認められ、最も高い酵素活性は外液6に交換してから、12時間後に認められた。
得られた共存リフォールディング活性型酵素をpH6.5、50mM MOPS塩酸緩衝液で平衡化したMONO-Qイオン交換カラム(0〜0.5M 塩化ナトリウムグラジエント)で精製後、その特性を解析した。
【0033】
共存リフォールディング活性型酵素4種の構成蛋白質の確認
先に得られた共存リフォールディング活性型酵素4種を、SDSゲル電気泳動で分析した(図2)。親酵素は1本のバンドとなったが、共存リフォールディング活性型酵素は、それぞれ2本のバンドを与えた。いずれの共存リフォールディング酵素においても、2本のバンドの強度がほぼ等しいことから、2つの成分の構成比は1:1であることが推察された。
さらに、これらのバンドを膜にブロッティングし、アミノ酸配列を解析した。その結果、TmN370/TmC371 酵素は、TmN370 断片化蛋白質とTmC371 断片化蛋白質との2種から、TmN403/TmC404 酵素は、TmN403 断片化蛋白質とTmC404 断片化蛋白質との2種から、TmN419/TmC420 酵素はTmN419 断片化蛋白質とTmC420 断片化蛋白質との2種から、TmN435/TmC436 酵素はTmN435 断片化蛋白質とTmC436 断片化蛋白質との2種から構成されていることが確認された。
【0034】
すなわち、共存リフォールディングにより活性型となった4種類の酵素は、いずれも、共存する断片化蛋白質が、ほぼ1:1の割合で再構成されていた。また、4種の共存リフォールディング活性型酵素のCDスペクトルを測定したところ、親酵素と類似しており、親酵素に類似の立体構造を保持していることが推察された。
【0035】
本酵素の活性中心アミノ酸残基は242番目のアスパラギン酸残基(求核/塩基残基)並びに524番目のグルタミン酸残基(水素供与体残基)であり、酵素が活性を示すためには、この2つの活性中心アミノ酸残基の立体配置は、極めて重要である。蛋白質の断片化により、2つの断片化蛋白質に分断され、その立体配置情報は、一旦は完全に失われた。しかし、共存リフォールディングにより活性型となった酵素では、2つの活性中心アミノ酸残基は、ほぼ天然型に近い位置に回復したことが推察される。
【0036】
次に、精製した共存リフォールディング活性型酵素4種と親酵素の特性を解析した。
反応の至適pH
親酵素並びに4種の共存リフォールディング酵素を30℃、10分間、50mMの各種緩衝液で反応させた際の反応の至適pHを、図3に示した。至適となる酵素反応のpHは、親酵素では3.5〜4.0であった。TmN403/TmC404 、TmN419/TmC420 、TmN435/TmC436 酵素は、至適pHが親酵素と同等であったが、TmN370/TmC371 酵素では、pH5.2で親酵素と大きく異なっていた。
TmN370/TmC371 酵素では、反応の至適温度が中性側に1.5程度シフトし、親酵素と異なっていることが明らかとなった。また、酵素を使用する際には、その条件により、望ましい反応の至適pH値は異なることから、これらのうち、どれが優れていると判定は出来ないが、ここでは、反応の至適pHに多様性が導入されている点が重要である。
【0037】
酵素のpH安定性
親酵素並びに4種の共存リフォールディング酵素を30℃、30分間、50mMの各種緩衝液で処理した際の残存活性をpH安定性とし、図4に示した。4種の共存リフォールディング酵素はpH4〜11の非常に広範囲のpHで安定であり、親酵素とほぼ同等のpH安定性を示した。pH安定性が大きく低下していないことは重要である。
【0038】
反応の至適温度
親酵素並びに4種の共存リフォールディング酵素を、50mM 酢酸緩衝液(pH3.7)で10分間、種々の温度で反応させた場合の、反応の至適温度を図5に示した。
酵素活性が至適となる酵素反応の温度は、親酵素では85℃であった。TmN419/TmC420 、TmN435/TmC436 酵素の至適温度は、親酵素と同等の85℃であったが、TmN370/TmC371 、TmN403/TmC404 酵素では、それぞれ65℃、70℃であり、親酵素とは異なっていた。
TmN370/TmC371 、TmN403/TmC404 酵素では、反応の至適温度が15〜20℃低下しているが、通常の産業利用での酵素反応は、雑菌繁殖防止の観点から50℃程度で行われているので、その低下は大きな障害とはならない。ここでは、反応の至適温度に多様性が導入されている点が重要である。
【0039】
酵素の温度安定性
親酵素並びに4種の共存リフォールディング酵素を、50mM 酢酸緩衝液(pH3.7)で30分間、種々の温度で加熱し、その残存活性を温度安定性として図6に示した。酵素活性が50%となる熱処理温度は、親酵素では85℃であった。TmN419/TmC420 、TmN435/TmC436 酵素は、親酵素と同等の85℃であったが、TmN370/TmC371 、TmN403/TmC404 酵素では、それぞれ75℃、80℃で、親酵素とは異なっていた。
親酵素のように温度安定性が85℃とあまりに高いと、酵素作用が不要となった際に、加熱失活させ難いことが欠点として挙げられる。一方、TmN370/TmC371 、TmN403/TmC404 酵素では、熱安定性が親酵素の場合よりも5〜10℃低下しており、その熱安定性の低下が望まれる利用場面では有利である。ここでは、熱安定性に多様性が導入されている点が重要である。
【0040】
糖転移活性
親酵素並びに4種の共存リフォールディング酵素の糖転移活性を、20mMの各種アルコール共存下の50mM MOPS緩衝液(pH6.5)で測定し、結果を図7に示した。図中、横軸の0はアルコール無添加、1はメタノール、2はエタノール、3はプロパノール、4はブタノール、5はペンタノール、6はヘキサノール、7はヘプタノール、8はオクタノールを示し、左端の黒棒はAT(親酵素)、左から2番目の棒はTmN370/TmC371 酵素、左から3番目の棒はTmN403/TmC404 酵素、左から4番目の棒はTmN419/TmC420 酵素、右端の棒はTmN435/TmC436 酵素を示す。
4種の共存リフォールディング酵素は、いずれも直鎖アルコール存在下で酵素活性が増加、とりわけヘプタノール存在下では2倍程度増加しており、親酵素とほぼ同等の糖転移活性を保持していた。この糖転移活性は、酵素に変異を導入すると失われることが多いことから、4種の共存リフォールディング酵素が糖転移活性を保持していることは、重要である。
【0041】
塩による阻害効果
共存リフォールディングにより活性型として得られた酵素は、分子の中央で切断されている。2つの断片化蛋白質が、相互作用することにより立体構造を保持していることが推察されるが、その主要な因子としてイオン結合が想定される。そこで、イオン結合を弱くする塩化ナトリウムを添加し、その阻害効果を50mM MOPS緩衝液(pH6.5)で30℃、10分間の酵素反応をした際の活性として図8に示した。一方、TmN419/TmC420 、TmN435/TmC436 酵素は、天然型と同じ挙動であったが、TmN370/TmC371 並びにTmN403/TmC404 酵素では、1000mM 塩化ナトリウム共存下で酵素活性は5割程度であった。
このように、共存リフォールディングで活性型となった酵素は、親酵素とは異なった挙動を示し、多様性が増していた。また、1000mM 塩化ナトリウムは非常に高濃度であり、通常使用では、塩の存在は全く問題がないことが推察された。
【0042】
Km値並びにkcat値
親酵素並びに4種の共存リフォールディング酵素の30℃、50mM MOPS緩衝液(pH6.5)での動力学的パラメータを、グルコース誘導基質並びにキシロース誘導基質を用いて測定した。結果を第1表にまとめた。
【0043】
【表1】
第1表 動力学的パラメータ
【0044】
グルコースの誘導体であるパラニトロフェニルグルコシドを基質とした際には、親酵素(表ではTM酵素)は、Km値は0.0039mMで、kcat値は6.4s-1である。
一方、TmN370/TmC371 、TmN403/TmC404 、TmN419/TmC420 、TmN435/TmC436 酵素のKm値は、それぞれ0.0128、0.0098、0.0088、0.0086mMで、kcat値は、それぞれ1.75、2.13、2.10、2.43s-1であり、親酵素とは異なった値を示した。
【0045】
さらに、キシロースの誘導体であるパラニトロフェニルキシロシドを基質とした際には、親酵素(表ではT. maritima )は、Km値は2.64mMで、kcat値は18.4である。
一方、TmN370/TmC371 、TmN403/TmC404 、TmN419/TmC420 、TmN435/TmC436 酵素のKm値は、それぞれ5.07、5.73、7.63、5.16mMで、kcat値は、それぞれ9.51、7.90、9.56、9.03s-1であり、親酵素とは異なった値を示した
このように、動力学的パラメータからも、4種の共存リフォールディング酵素の特性は、親酵素と異なっていることが明らかとなった。また、酵素を使用する際には、その条件により、望ましいKm値、kcat値は異なることから、これらのうち、どれが優れていると判定は出来ないが、多様であることは重要なことである。
上記のように、これら4種の改変酵素の特性を明らかにしたところ、素材となった親酵素とは性質が異なっており、本法により、特性改変酵素を創出できることが明らかとなった。
【0046】
実施例2
Agrobacterium tumefaciens 由来のβ−グルコシダーゼ
(1)分断遺伝子と断片化蛋白質の調製
Agrobacterium tumefaciens 由来のβ−グルコシダーゼは、821残基のアミノ酸で構成されている。本酵素の遺伝子をほぼ中央付近で切断し、以下の4種のN末端断片化蛋白質と4種のC末端断片化蛋白質が得られるように(図9)、遺伝子を設計した。
また、遺伝子レベルで工夫し、N末端断片化蛋白質にはN末端側に6残基のヒスチジンから構成されるHis タグを、C末端断片化蛋白質にはC末端側に6残基のヒスチジンから構成されるHis タグを付与した。なお、下記のアミノ酸配列の順番には、天然型の酵素のアミノ酸配列の順番を用いており、His タグを構成するアミノ酸残基は数えていない。
【0047】
4種類のN末端断片化蛋白質の遺伝子
1番目〜351番目の残基で構成されるAtN351 断片化蛋白質の遺伝子、
1番目〜421番目の残基で構成されるAtN421 断片化蛋白質の遺伝子、
1番目〜466番目の残基で構成されるAtN466 断片化蛋白質の遺伝子、
1番目〜533番目の残基で構成されるAtN533 断片化蛋白質の遺伝子、
【0048】
4種類のC末端断片化蛋白質の遺伝子
352番目〜821番目の残基で構成されるAtC352 断片化蛋白質の遺伝子、
422番目〜821番目の残基で構成されるAtC422 断片化蛋白質の遺伝子、
467番目〜821番目の残基で構成されるAtC467 断片化蛋白質の遺伝子、
534番目〜821番目の残基で構成されるAtC534 断片化蛋白質の遺伝子、
【0049】
なお、本酵素の活性中心アミノ酸残基は222番目のアスパラギン酸残基(求核/塩基残基)並びに616番目のグルタミン酸残基(水素供与体残基)であると推察されている。このうちの222番目のアスパラギン酸残基はN末端断片化蛋白質に、616番目のグルタミン酸残基はC末端断片化蛋白質に、存在している。すなわち、蛋白質の断片化により、活性中心アミノ酸残基も分断されたのである。
【0050】
断片化蛋白質の調製
得られた断片化蛋白質の遺伝子を大腸菌で発現させ、断片化蛋白質を調製した。断片化蛋白質の発現には、断片化蛋白質がなるべく封入体ならないように、蛋白合成の遅い20℃で培養し、誘導に用いるIPTG濃度も通常の1mMではなく、0.1mMという低濃度で、発現を穏やかに誘導するよう工夫した。
しかしながら、得られた断片化蛋白質は、すべて水不溶性の封入体として得られた。当然のことながら、この段階で酵素活性を示す断片化蛋白質は認められなかった。
そこで、封入体を8M 尿素に可溶化後、キレートカラムを用いて、8種の断片化蛋白質をそれぞれ精製した。精製断片化蛋白質は、SDSゲル電気泳動で、単一バンドを示し、高度に精製されていることが分かった。
【0051】
(2)断片化蛋白質の、個別のリフォールディング
得られた8種の精製断片化蛋白質を、それぞれ個別にリフォールディングした。8種類のいずれの断片化蛋白質も、酵素活性を示さなかった。リフォールディング条件は、以下の各種条件を組み合わせ、検討した。
【0052】
リフォールディング条件
変性剤:8M 尿素あるいは6M 塩酸グアニジン
温度は、4、10、20、30、40または50℃とした。
pHは、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、11.0または12.0とした。
蛋白質濃度は、0.1、0.3、1または3mg/mlとした。
蛋白のジスルフィド結合の形成を促進する試薬として、1.6mg/ml酸化型グルタチオン、1.0mg/ml還元型グルタチオン、0.5%メルカプトエタノールの存在の有無
金属キレート試薬1mM EDTAの存在の有無
4日間かけて透析し、変性剤の濃度を徐々に低下させる。
透析期間中、透析内部溶液を約12時間毎に少量取り出し、酵素活性を測定する。
【0053】
酵素活性測定方法
基質として2.5mM パラニトロフェニル−β−D−グルコシドを62.5mM MOPS緩衝液(pH6.5)に溶解し、30℃に保温した水溶液0.4mlに、酵素溶液を0.1ml加え、30℃で10分間、反応させた。反応後、酵素作用により遊離するパラニトロフェノールの量を、分光光度計(波長405nm)で測定した。
【0054】
(3)8種の断片化蛋白質を混合し、共存リフォールディング
先に精製した8種の断片化蛋白質を混合し、それらが共存する溶液をリフォールディングしたところ、酵素活性が認められた。通常の使用では、この画分を改変酵素として使用できる。
ここでは、この段階で、どの組み合わせの断片化蛋白質が、一緒になり活性型となったか、また、酵素の特性がどのように変化したかを明瞭にするため、さらに以下の実験を行った。
【0055】
(4)断片化蛋白質をN末端断片化蛋白質1個とC末端断片化蛋白質1個を組み合わせ、共存リフォールディング
N末端断片化蛋白質は4種類、C末端断片化蛋白質は4種類存在することから、N末端断片化蛋白質1個とC末端断片化蛋白質1個での共存リフォールディングする組み合わせは合計で16通りとなる。そこで、16通りの組み合わせで、共存リフォールディングを行った。
その結果、16通りの組み合わせの内、明瞭に活性型となったものは、2通り存在した。すなわち、N421 断片化蛋白質(1番目〜421番目の残基で構成される)とC422 断片化蛋白質(422番目〜821番目の残基で構成される)、並びにN466 断片化蛋白質(1番目〜466番目の残基で構成される)とC422 断片化蛋白質(422番目〜821番目の残基で構成される)の組み合わせであった。
【0056】
N421 断片化蛋白質とC422 断片化蛋白質で共存リフォールディングし、活性型となった蛋白質をAtN421/AtC422 酵素、並びにN466 断片化蛋白質とC422 断片化蛋白質で共存リフォールディングし活性型となった蛋白質をAtN466/AtC422 酵素と命名した。
なお、この2通りの組み合わせ以外には、活性が極く弱い(天然型の1割以下)ものも認められた。
【0057】
なお、共存リフォールディングの例としては、以下の通りである。
2種の封入体蛋白質を合計で約2mg/mlとなるよう6M 塩酸グアニジン(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)に溶解した。これを透析膜チューブ内部に入れ、4℃で透析した。
透析外液としては、以下の6種類を用意した。
外液1:5M 塩酸グアニジン溶液(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液2:4M 塩酸グアニジン溶液(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液3:3M 塩酸グアニジン溶液(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液4:2M 塩酸グアニジン溶液(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液5:1M 塩酸グアニジン溶液(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液6:50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有
【0058】
約12時間毎に、透析外液を、外液1から外液2へ、外液2から外液3へと順次交換した。透析外液の液量は、透析内液の液量の約50倍とした。交換の都度、透析内液の一部を取り出し、酵素活性を測定した。
この条件で共存リフォールディングした際の活性レベルでの回収収率は、2〜9割であった。また、酵素活性は外液5に交換した頃より認められ、最も高い酵素活性は外液6に交換してから、12時間後に認められた。
得られた共存リフォールディング活性型酵素をpH8.0、50mM トリス塩酸緩衝液で平衡化したMONO-Qイオン交換カラム(0−1.0M 塩化ナトリウムグラジエント)で精製後、その特性を解析した。
【0059】
共存リフォールディング活性型酵素2種の構成蛋白質の確認
先に得られた共存リフォールディング活性型酵素4種を、SDSゲル電気泳動で分析した(図10)。親酵素は1本のバンドとなったが、共存リフォールディング活性型酵素は、それぞれ2本のバンドを与えた。いずれの共存リフォールディング酵素においても、2本のバンドの強度がほぼ等しいことから、2つの成分の構成比は1:1であることが推察された。
さらに、これらのバンドを膜にブロッティングし、アミノ酸配列を解析した。その結果、AtN421/AtC422 酵素はN421 断片化蛋白質とC422 断片化蛋白質との2種から、AtN466/AtC422 酵素はN466 断片化蛋白質とC422 断片化蛋白質との2種から構成されていることが確認された。
すなわち、共存リフォールディングにより活性型となった酵素2種は、いずれも、共存する断片化蛋白質が、ほぼ1:1の割合で再構成されていた。また、2種の共存リフォールディング活性型酵素のCDスペクトルを測定したところ、親酵素と類似しており、親酵素に類似の立体構造を保持していることが推察された。
【0060】
本酵素の活性中心アミノ酸残基である、222番目のアスパラギン酸残基(求核/塩基残基)ならびに616番目のグルタミン酸残基(水素供与体残基)の立体配置は、酵素が活性を示すためには極めて重要である。蛋白質の断片化により、2つの断片化蛋白質に分断され、その立体配置情報は、一旦は完全に失われた。しかし、共存リフォールディングにより活性型となった酵素では、2つの活性中心アミノ酸残基は、ほぼ天然型に近い位置に回復したことが推察される。
【0061】
(5)特性改変酵素の性質
精製した共存リフォールディング活性型酵素2種と親酵素の特性を解析した。すなわち、AtN421/AtC422 酵素、並びにAtN466/AtC422 酵素を精製し、その特性を解析した。
このN421 断片化蛋白質酵素とC422 断片化蛋白質酵素の特性を解析した。
反応の至適pH
親酵素並びに2種の共存リフォールディング酵素を30℃、10分間、50mMの各種緩衝液で反応させた際の反応の至適pHを図11に示した。図から明らかなように、至適となる酵素反応のpHは、親酵素では6.5〜7.5であった。また、AtN421/AtC422 、AtN466/AtC422 酵素は、親酵素と同等の至適pHであった。
【0062】
酵素のpH安定性
親酵素並びに2種の共存リフォールディング酵素を、30℃、30分間、50mMの各種緩衝液で処理した際の残存活性をpH安定性とし、図12に示した。図に示したように、2種の共存リフォールディング酵素はpH4〜10の非常に広範囲のpHで安定であり、親酵素とほぼ同等のpH安定性を示した。pH安定性が大きく低下していないことは重要である。
【0063】
反応の至適温度
親酵素並びに2種の共存リフォールディング酵素を50mM MOPS緩衝液pH7.4で10分間、種々の温度で反応させた場合の反応の至適温度を図13に示した。
酵素活性が至適となる酵素反応の温度は、親酵素では60℃であった。一方、AtN421/AtC422 、AtN466/AtC422 酵素では、ともに50℃であり親酵素と異なっていた。
AtN421/AtC422 、AtN466/AtC422 酵素では、反応の至適温度が親酵素よりも10℃低下しているが、通常の産業利用での酵素反応は、雑菌繁殖防止の観点から50℃程度で行われており、その低下は大きな障害とはならない。ここでは、反応の至適温度に多様性が導入されている点が重要である。
【0064】
酵素の温度安定性
親酵素並びに2種の共存リフォールディング酵素を50mM MOPS緩衝液pH7.4で30分間、種々の温度で加熱し、その残存活性を温度安定性として求め、結果を図14に示した。
酵素活性が50%となる熱処理温度は、親酵素では65℃であった。AtN421/AtC422 、AtN466/AtC422 酵素では、それぞれ45℃、50℃であり、親酵素とは異なっていた。
親酵素のように温度安定性が高いと、酵素作用が不要となった際に、加熱失活させ難いことが欠点として挙げられる。一方、AtN421/AtC422 、AtN466/AtC422 酵素では、熱安定性が5〜10℃低下しており、その熱安定性の低下が望まれる利用場面では有利である。ここでは、熱安定性に多様性が導入されている点が重要である。
【0065】
糖転移活性
親酵素並びに2種の共存リフォールディング酵素の糖転移活性を、20mMの各種アルコール共存下の50mM MOPS緩衝液pH6.5で測定した。結果を図15に示す。図中、横軸の0はアルコール無添加、1はメタノール、2はエタノール、3はプロパノール、4はブタノール、5はペンタノール、6はヘキサノール、7はヘプタノール、8はオクタノールを示し、左端の黒棒はAT(親酵素)、中央の棒はAtN421/AtC422 酵素、右端の棒はAtN466/AtC422 酵素を示す。
2種の共存リフォールディング酵素は、いずれも直鎖アルコール存在下で酵素活性が増加、とりわけブタノール存在下で4倍程度増加しており、親酵素とほぼ同等の糖転移活性を保持していた。この糖転移活性は、酵素に変異を導入すると失われることが多いことから、2種の共存リフォールディング酵素が糖転移活性を保持していることは、重要である。
【0066】
塩による阻害効果
共存リフォールディングにより活性型として得られた酵素は、分子の中央で切断されている。2つの断片化蛋白質が、相互作用することにより立体構造を保持していることが推察されるが、その主要な因子としてイオン結合が想定される。そこで、イオン結合を弱くする塩化ナトリウムを添加し、その阻害効果を50mM MOPS緩衝液pH6.5で30℃、10分間酵素反応をした際の活性として図16に示した。
酵素活性が50%阻害される塩化ナトリウム濃度は、親酵素では1400mM、AtN421/AtC422 ,AtN466/AtC422 酵素ではともに800mMであった。
このように、共存リフォールディングで活性型となった酵素は、親酵素とは異なった挙動を示し、多様性が増していた。また、800mM 塩化ナトリウムは、非常に高濃度であり、通常使用では、塩の存在は全く問題がないことが推察された。
【0067】
Km値並びにkcat値
親酵素並びに4種の共存リフォールディング酵素の30℃、50mM MOPS緩衝液(pH6.5)での動力学的パラメータを、グルコース誘導基質並びにキシロース誘導基質を用いて測定した。結果を第2表にまとめた。
【0068】
【表2】
第2表 動力学的パラメータ
【0069】
グルコースの誘導体であるパラニトロフェニルグルコシドを基質とした際には、親酵素(表ではAT)は、Km値は0.012mMであり、kcat値は95.4s-1である、一方、AtN421/AtC422 ,AtN466/AtC422 酵素のKm値は、それぞれ0.129、0.025mMで、kcat値は、それぞれ6.26、4.63s-1であり、親酵素とは異なった値を示した。
【0070】
さらに、キシロースの誘導体であるパラニトロフェニルキシロシドを基質とした際には、親酵素(表ではAT)は、Km値は0.005mMで、kcat値は28.9である。一方、AtN421/AtC422 、AtN466/AtC422 酵素のKm値は、それぞれ0.023、0.06mMで、kcat値は、それぞれ1.59、3.40s-1と親酵素とは異なった値を示した
このように、動力学的パラメータからも、2種の共存リフォールディング酵素の特性は、親酵素と異なっていることが明らかとなった。また、酵素を使用する際には、その条件により、望ましいKm値とkcat値は異なることから、これらのうち、どれが優れていると判定することは出来ないが、多様であることは重要である。
【0071】
これら2種の改変酵素の特性を明らかにしたところ、素材となった親酵素とは性質が異なっており、本法により、特性改変酵素を創出できることが明らかとなった。
【0072】
実施例3
異種起源の断片化蛋白質による共存リフォールディング
Agrobacterium tumefaciens 起源β−グルコシダーゼ由来のN末端断片化蛋白質4種類、並びにThermotoga maritima 起源β−グルコシダーゼ由来のC末端断片化蛋白質4種類での共存リフォールディング
先に調製したAgrobacterium tumefaciens 起源β−グルコシダーゼ由来のN末端断片化蛋白質4種類並びにThermotoga maritima 起源β−グルコシダーゼ由来のC末端断片化蛋白質4種類を混合し、共存リフォールディングを行った。
その結果、共存リフォールディングにより酵素活性が得られた。得られた酵素活性は、素材となった両親酵素(Agrobacterium tumefaciens 起源β−グルコシダーゼ並びにThermotoga maritima 起源β−グルコシダーゼ)とは、異なった特性を示した。本手法により、多様性を有する酵素が得られた。
なお、共存リフォールディングの例としては、以下の通りである。
【0073】
2種の封入体蛋白質を合計で約2mg/mlとなるように6M 塩酸グアニジン(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)に溶解した。これを透析膜チューブ内部に入れ、4℃で透析した。
透析外液としては、以下の6種類を用意した。
外液1:5M 塩酸グアニジン溶液(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液2:4M 塩酸グアニジン溶液(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液3:3M 塩酸グアニジン溶液(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液4:2M 塩酸グアニジン溶液(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液5:1M 塩酸グアニジン溶液(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液6:50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有
【0074】
約12時間毎に、透析外液を、外液1から外液2へ、外液2から外液3へと順次交換した。透析外液の液量は、透析内液の液量の約5倍とした。交換の都度、透析内液の一部を取り出し、酵素活性を測定した。
この条件で共存リフォールディングした際の活性レベルでの回収収率は、1〜3割であった。また、酵素活性は外液5に交換した頃より認められ、最も高い酵素活性は外液6に交換したのち、12時間後に認められた。
【0075】
実施例4
異種起源の断片化蛋白質による共存リフォールディング
Thermotoga maritima 起源β−グルコシダーゼ由来のN末端断片化蛋白質4種類、並びにAgrobacterium tumefaciens 起源β−グルコシダーゼ由来のC末端断片化蛋白質4種類での共存リフォールディング
先に調製したThermotoga maritima 起源β−グルコシダーゼ由来のN末端断片化蛋白質4種類並びにAgrobacterium tumefaciens 起源β−グルコシダーゼ由来のC末端断片化蛋白質4種類を混合し、共存リフォールディングを行った。
共存リフォールディングにより酵素活性が得られた。得られた酵素活性は、素材となった両親酵素(Agrobacterium tumefaciens 起源β−グルコシダーゼ並びにThermotoga maritima 起源β−グルコシダーゼ)とは異なった特性を示した。
本手法により、多様性を有する酵素が得られた。
なお、共存リフォールディングの例としては、以下の通りである。
【0076】
2種の封入体蛋白質を合計で約2mg/mlとなるよう6M 塩酸グアニジン(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)に溶解した。これを透析膜チューブ内部に入れ、4℃で透析した。
透析外液としては、以下の6種類を用意した。
外液1:5M 塩酸グアニジン溶液(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液2:4M 塩酸グアニジン溶液(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液3:3M 塩酸グアニジン溶液(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液4:2M 塩酸グアニジン溶液(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液5:1M 塩酸グアニジン溶液(50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有)
外液6:50mM トリス塩酸緩衝液pH8.0、1mM EDTA、0.5% メルカプトエタノール、0.16% 酸化型グルタチオンを含有
【0077】
約12時間毎に、透析外液を、外液1から外液2へ、外液2から外液3へと順次交換した。透析外液の液量は、透析内液の液量の約50倍とした。交換の都度、透析内液の一部を取り出し、酵素活性を測定した。
この条件で共存リフォールディングした際の活性レベルでの回収収率は、1〜3割であった。また、酵素活性は外液5に交換した頃より認められ、最も高い酵素活性は外液6に交換した後、12時間後に認められた。
【0078】
【発明の効果】
これまでは、蛋白質(酵素)の特性を改変することは非常に困難であったが、本発明の方法を活用することにより、迅速に特性の異なった蛋白質(酵素)を調製することが可能である。
本発明によれば、2種類以上の断片化蛋白質を共存させ、共存リフォールディングするという簡便な操作で、目的とする特性の改変した蛋白質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 Thermotoga maritima 由来のβ−グルコシダーゼの断片化蛋白質を示した図である。
【図2】 実施例1の共存リフォールディング活性型酵素のSDSゲル電気泳動写真である。
【符号の説明】
M:10kDaマーカー
1: TmN370/TmC371酵素
2: TmN403/TmC404酵素
3: TmN419/TmC420酵素
4: TmN435/TmC436酵素
【図3】 実施例1における反応の至適pHを示す図である。
【符号の説明】
●:親酵素
■: TmN370/TmC371酵素
□: TmN403/TmC404酵素
▲: TmN419/TmC420酵素
△: TmN435/TmC436酵素
【図4】 実施例1における酵素のpH安定性を示す図である。
【符号の説明】
●:親酵素
■: TmN370/TmC371酵素
□: TmN403/TmC404酵素
▲: TmN419/TmC420酵素
△: TmN435/TmC436酵素
【図5】 実施例1における反応の至適温度を示す図である。
【符号の説明】
●:親酵素
■: TmN370/TmC371酵素
□: TmN403/TmC404酵素
▲: TmN419/TmC420酵素
△: TmN435/TmC436酵素
【図6】 実施例1における酵素の温度安定性を示す図である。
【符号の説明】
●:親酵素
■: TmN370/TmC371酵素
□: TmN403/TmC404酵素
▲: TmN419/TmC420酵素
△: TmN435/TmC436酵素
【図7】 実施例1における酵素の糖転移作用を示す図である。
【図8】 実施例1における塩による酵素の阻害効果を示す図である。
【符号の説明】
●:親酵素
■: TmN370/TmC371酵素
□: TmN403/TmC404酵素
▲: TmN419/TmC420酵素
△: TmN435/TmC436酵素
【図9】 Agrobacterium tumefaciens 由来のβ−グルコシダーゼの断片化蛋白質を示した図である。
【図10】 実施例2の共存リフォールディング活性型酵素のSDSゲル電気泳動写真である。
【符号の説明】
M:10kDaマーカー
1: AtN421/AtC422酵素
2: AtN466/AtC422酵素
【図11】 実施例2における反応の至適pHを示す図である。
【符号の説明】
●:親酵素
○: AtN421/AtC422酵素
▲: AtN466/AtC422酵素
【図12】 実施例2における酵素のpH安定性を示す図である。
【符号の説明】
●:親酵素
○: AtN421/AtC422酵素
▲: AtN466/AtC422酵素
【図13】 実施例2における反応の至適温度を示す図である。
【符号の説明】
●:親酵素
○: AtN421/AtC422酵素
▲: AtN466/AtC422酵素
【図14】 実施例2における酵素の温度安定性を示す図である。
【符号の説明】
●:親酵素
○: AtN421/AtC422酵素
▲: AtN466/AtC422酵素
【図15】 実施例2における酵素の糖転移作用を示す図である。
【図16】 実施例2における塩による酵素の阻害効果を示す図である。
【符号の説明】
●:親酵素
○: AtN421/AtC422酵素
▲: AtN466/AtC422酵素
Claims (5)
- 2種類以上の断片化β−グルコシダーゼを共存させ、5〜7 M 塩酸グアニジンもしくは6〜9 M 尿素、10〜50m M 緩衝剤、0.01〜10m M 還元剤、0.01〜10m M 酸化剤、0.01〜1m M タンパク質分解酵素阻害剤および安定剤を含む変性溶液(p H 6〜10)を用いて4〜30℃で共存リフォールディングすることを特徴とする、至適p H 、至適温度、熱安定性、塩による阻害効果、Kcat値およびKm値から選ばれた少なくとも1種の特性を改変したβ−グルコシダーゼの作出方法。
- 異なる生物種由来の2種類以上の断片化β−グルコシダーゼを共存させ、5〜7 M 塩酸グアニジンもしくは6〜9 M 尿素、10〜50m M 緩衝剤、0.01〜10m M 還元剤、0.01〜10m M 酸化剤、0.01〜1m M タンパク質分解酵素阻害剤および安定剤を含む変性溶液(p H 6〜10)を用いて4〜30℃で共存リフォールディングする、至適p H 、至適温度、熱安定性、塩による阻害効果、Kcat値およびKm値から選ばれた少なくとも1種の特性を改変したβ−グルコシダーゼの作出方法。
- 同一生物種由来の2種類以上の断片化β−グルコシダーゼを共存させ、5〜7 M 塩酸グアニジンもしくは6〜9 M 尿素、10〜50m M 緩衝剤、0.01〜10m M 還元剤、0.01〜10m M 酸化剤、0.01〜1m M タンパク質分解酵素阻害剤および安定剤を含む変性溶液(p H 6〜10)を用いて4〜30℃で共存リフォールディングする、至適p H 、至適温度、熱安定性、塩による阻害効果、Kcat値およびKm値から選ばれた少なくとも1種の特性を改変したβ−グルコシダーゼの作出方法。
- 3〜100種類の断片化β−グルコシダーゼを共存させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の作出方法。
- 同一のβ−グルコシダーゼ由来の2種類以上の断片化β−グルコシダーゼを共存させ、5〜7 M 塩酸グアニジンもしくは6〜9 M 尿素、10〜50m M 緩衝剤、0.01〜10m M 還元剤、0.01〜10m M 酸化剤、0.01〜1m M タンパク質分解酵素阻害剤および安定剤を含む変性溶液(p H 6〜10)を用いて4〜30℃で共存リフォールディングすることによる、β−グルコシダーゼの至適p H 、至適温度、熱安定性、塩による阻害効果、Kcat値およびKm値から選ばれた少なくとも1種の特性を改変する方法。
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