JP4167048B2 - 熱伝導性被膜及びその形成方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、迅速な吸熱・放熱が要求される加熱用製品・放熱用製品の伝導表面に形成される熱伝導性被膜及びその形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
特許文献1には、カーボンナノチューブ、カーボンマイクロコイルのカーボンナノ材料から選ばれた少なくとも一種と、被膜のマトリックス(母組織)成分としてのシリコーンゴム組成物とを混合し、スプレー法、ディッピング法等の方法により、その混合物を部材に塗布したり、流し込んで硬化させたりして、熱伝導性シートをつくることが開示されている。カーボンナノ材料は大きい熱伝導性を有し、カーボンナノ材料が混合された混合物を部材に塗布すれば、その被膜は熱伝導性に優れる。しかし、カーボンナノチューブの配列方向がまちまちであり、またスプレー法、ディッピング法を用いる場合、塗布物質が液状であることが必要である。そして、被膜のマトリックス成分が樹脂の場合、それらを溶解する溶剤が存在しないため、特許文献1の被膜形成方法を適用することは出来ない。
【0003】
特許文献2には、硬化性樹脂・硬化性樹脂組成物とカーボンナノ材料とを混練した後に射出成形・圧縮成形・トランスファー成形のいずれかの成形方法で硬化体を成形することが開示されている。カーボンナノ材料はナノメートルサイズの非常に微小な材料で、比重も非常に小さいため、樹脂複合材料を特許文献2の方法で成形しても、樹脂の流れの方向(部材表面と平行方向)にカーボンナノ材料の配列を制御することはできない。従って、特許文献2の方法で成形された被膜は、カーボンナノチューブの配列方向がまちまちである。
【0004】
特許文献3には、カーボンナノチューブを平行配列させ、導電性ゴムの表面に1μmの厚みで導電性接着剤を塗布し、その後に平行配列されたカーボンナノチューブを導電性接着剤に押しつけて接着させ、カーボンナノチューブを任意の方向に平行配列させることが開示されている。そして、カーボンナノチューブを平行配列させるには、まずカーボンナノチューブをエタノールに分散させたものを、孔径0.2μmのセラミックフィルタにかけると、セラミックフィルタの孔にカーボンナノチューブが直立して平行配列する。ポリアセタール(商品名デルリン)にて静電吸着することで、カーボンナノチューブはポリアセタール上に直立したまま転写される。これをラビング(rubbing) すると、直立していたカーボンナノチューブはポリアセタールに対して平行配列される。しかし、こうした顕微鏡下での作業は、通常の機械部品の製造現場には適合しない。
【特許文献1】
特開2002−38033号公報
【特許文献2】
特開2002−60639号公報
【特許文献3】
特開2001−272840号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
熱伝導性被膜及びその形成方法において、被膜のマトリックス成分が樹脂であり、機械部品の製造現場で、カーボンナノ材料が部材表面と平行方向に配向され、部材表面と平行方向の熱伝導性に優れる被膜及びその形成方法を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
カーボンナノ材料は、炭素原子で構成され、ナノメートルサイズの非常に微細でアスペクト比(縦と横の長さの比)が大きく、熱伝導率が非常に大きい繊維である。例えば、カーボンナノチューブは中空形状で縦方向の繊維径が0.5〜10nm、横方向の繊維長が0.01〜10μmであり、カーボンナノファイバーは縦方向の繊維径が15〜200nm、横方向の繊維長が0.01〜30μmである。
本発明では、カーボンナノ材料と樹脂との混合(複合)粉末を混合機・混練機に利用して均一に混合させた後に細粒化し、この細粒化された混合粉末を部材表面に垂直方向からガス炎溶射又はプラズマ溶射をする。溶射により混合粉末が加熱されて溶滴となり、この溶滴は加速されて部材表面に衝突する。溶滴は非常に大きな運動量を有しているため、溶滴は衝突部位から偏平に変形し急激に放射状方向へ広がりながら流れて部材表面に密着し被膜を形成する。溶融樹脂の流れに伴って、溶滴中のカーボンナノ材料の横長部分が部材表面と平行方向に配向され、その結果、部材表面と平行方向の熱伝導性が優れる異方性熱伝導性被膜が形成される。そして、溶滴の運動量の大きさを変えることによりカーボンナノチューブの平行度合が調節される。
【0007】
混合粉末中のカーボンナノ材料の含有率が、2体積%未満では熱伝導性が劣り、また50体積%以上では被膜の密着性が劣るため、混合粉末中のカーボンナノ材料の含有率は2〜50体積%であることが好ましい。なお、熱伝導性被膜から部材への熱伝導を阻止するため、熱伝導性被膜と部材との間に、樹脂等の熱伝導率が低い材料を溶射して下地被膜を形成してもよい。また、熱伝導性被膜の表面の耐摩耗性・耐擦傷性等の機能向上のために、樹脂等の材料で構成される被膜を熱伝導性被膜上に形成してもよい。本発明の熱伝導性被膜で被覆された部材は、加熱用製品・放熱用製品の迅速な伝導部品として利用できる。
【0008】
而して、上記課題を解決するための本発明に係る熱伝導性被膜の形成方法は、カーボンナノ材料とマトリックス成分とを混合し、その混合粉末から成形された熱伝導性被膜形成方法において、カーボンナノ材料をカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーから選択された少なくとも一種とし、マトリックス成分を樹脂とし、その混合粉末を部材表面に垂直方向から溶射して被膜を形成し、被膜中にカーボンナノ材料の横長部分部材表面と平行方向に配向させることを特徴としている。ここに、「カーボンナノ材料の横長部分部材表面と平行方向に配向させる」とは、アスペクト比が大きいカーボンナノ材料の非常に長い横長部分、部材表面と概ね平行方向に配列させることを意味する。
本発明に係る熱伝導性被膜の形成方法の好ましい実施形態においては、前記溶射をガス炎溶射又はプラズマ溶射とし、前記樹脂をナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂を含む熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂から選択された一種とする。
また、上記課題を解決するための本発明に係る熱伝導性被膜は、カーボンナノ材料とマトリックス成分とを混合し、その混合粉末から成形された熱伝導性被膜において、カーボンナノ材料をカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーから選択された少なくとも一種とし、マトリックス成分を樹脂とし、混合粉末を部材表面に垂直方向から溶射して被膜が形成され、被膜中にカーボンナノ材料の横長部分が部材表面と平行方向に配向されていることを特徴とするものである
本発明に係る熱伝導性被膜の好ましい実施形態においては、混合粉末におけるカーボンナノ材料の含有率を2〜50体積%とする
【0009】
【実施例】
図1(a) に示すように、ポリエチレン70体積%、カーボンナノチューブ30体積%で構成される混合(複合)粉末を、ガス炎溶射法により溶射して、ポリプロピレンからなる部材1の表面上に熱伝導性被膜2を形成した。ここに、部材寸法は30mm×30mm×150mm、熱伝導性被膜の寸法は30mm×150mm、溶射された熱伝導性被膜の厚みは1.5mmである。また、基材予熱温度70°Cである。
【0010】
図1(b) に示すように、熱伝導性被膜2が被覆された部材1を、上面温度50°Cのヒーター3の上面に垂直方向に向けて載置し、ヒーター3の上面より80mm離れた地点Aの熱伝導性被膜2の表面温度の経時変化を求めた。部材1及び熱伝導性被膜2の試験前温度は10°Cである。図1(c) の試験結果に示すように、本発明の実施例は部材1表面と平行方向の熱伝導性に非常に優れていることが確認された。
【0011】
比較例1として、カーボンナノチューブは未含有で、ポリエチレンのみで構成される粉末を用いた他は、実施例と同一の成膜条件で溶射被膜を形成した部材を作成し、試験品と同一の試験を行った。また、比較例2として、カーボンナノチューブは未含有で、ポリプロピレンのみで構成される粉末を用いた他は、実施例と同一の成膜条件で溶射被膜を形成した部材を作成し、試験品と同一の試験を行った。比較例1,2の試験結果は図1(c) に示すとおり、地点Aの30秒後の温度上昇は見られなかった。
【0012】
【発明の効果】
カーボンナノ材料の横長部分が部材表面と平行方向に配向された本発明の異方性熱伝導性被膜は、部材表面と平行方向の熱伝導性が部材の厚み方向の熱伝導性よりも優れている。そして、この異方性熱伝導性被膜は、被膜のマトリックス成分が強度が高い樹脂であり、機械部品の製造現場にある設備を用いて製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の実施例及びその試験を示し、図1(a) は本発明の実施例の概要を示す図であり、図1(b) は試験方法を示す図であり、図1(c) はA地点での試験品表面の温度の計測結果を示す。

Claims (4)

  1. カーボンナノ材料とマトリックス成分とを混合し、その混合粉末から成形された熱伝導性被膜形成方法において、
    カーボンナノ材料をカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーから選択された少なくとも一種とし、マトリックス成分を樹脂とし、その混合粉末を部材表面に垂直方向から溶射して被膜を形成し、被膜中にカーボンナノ材料の横長部分部材表面と平行方向に配向させることを特徴とする異方性熱伝導性被膜形成方法。
  2. 前記溶射をガス炎溶射又はプラズマ溶射とし、前記樹脂をナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂を含む熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂から選択された一種とすることを特徴とする請求項1に記載の異方性熱伝導性被膜形成方法。
  3. カーボンナノ材料とマトリックス成分とを混合し、その混合粉末から成形された熱伝導性被膜において、
    カーボンナノ材料をカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーから選択された少なくとも一種とし、マトリックス成分を樹脂とし、その混合粉末を部材表面に垂直方向から溶射して被膜が形成され、被膜中にカーボンナノ材料の横長部分が部材表面と平行方向に配向されていることを特徴とする異方性熱伝導性被膜。
  4. 混合粉末におけるカーボンナノ材料の含有率を2〜50体積%としたことを特徴とする請求項3に記載の異方性熱伝導性被膜
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