JP4162919B2 - 光ファイバへの成膜方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光ファイバへの成膜方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
レンズドファイバに使用される光ファイバ、半導体レーザとの結合に用いるメタライズファイバやバンドルファイバ等の光ファイバ、光部品に装備された光ファイバ(以下「被成膜物」)には、従来より、下地金属膜や反射防止膜用の酸化膜が成膜されている。これら被成膜物に対して真空蒸着による成膜を行う場合は、これら被成膜物をセットした真空槽内を10-5Pa〜10-2Paに減圧した後に、該真空槽内において成膜原料を蒸発させて蒸着させている。この際、均一で緻密な膜を成膜するために、被成膜物を100℃〜300℃に加熱して熱エネルギーを与えてやる方法が一般的である。また、段替えや保守点検の際に前記真空槽を大気圧に解放した場合は、該真空槽の脱ガス処理を行ってから成膜を行うのが一般的である。ここで脱ガス処理とは、真空槽を150℃〜250℃に加熱して真空引きを行うことによって、大気圧解放時に真空槽の内壁に付着した不純物(大部分は水分)を除去する処理である。かかる脱ガス処理を行うことによって、真空槽の内壁に付着している不純物が成膜時に蒸発して成膜原料に混入するといった不都合が回避される。尚、脱ガス処理は被成膜物を真空槽にセットした状態で行われるが、成膜は真空槽が常温まで冷却されるのを待って開始するのが一般的である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来の成膜方法には次のような課題があった。
(1)被成膜物の1つである石英系光ファイバは、ファイバ裸線を紫外線硬化樹脂や熱硬化樹脂等の合成樹脂からなる被覆層で被覆して強度を確保してある。この被覆層は有機物であり、且つ未硬化部分が3〜5%残っているため、低真空で高温な状態に置かれると被覆層の原料成分が蒸発し易い。従って、石英系光ファイバがセットされた真空槽に対して脱ガス処理を実施すると、該光ファイバが低真空で高温な状態に置かれ、被覆層から原料成分が蒸発する(ガスが発生する)。この結果、蒸発した原料成分が成膜前の光ファイバ表面に付着したり、蒸発した成膜原料に混入したりして、清浄な膜が成膜されないといった問題が発生する。
(2)被覆層は100℃〜150℃程度までしか耐熱性がない。従って、緻密で均一な膜を成膜するために、成膜時に光ファイバを加熱すると被覆が傷んでしまう。このため均一で緻密な膜を成膜することが困難であった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の光ファイバへの成膜方法の一つは、光ファイバ又は光部品に装備された光ファイバに真空蒸着によって酸化膜や金属膜といった各種膜を成膜する成膜方法であって、それら光ファイバを温度が70℃〜150℃、圧力が10-1Pa〜103Pa(0.1Pa〜1000Pa)に保たれた真空槽内に8時間〜24時間置いて光ファイバの脱ガスを行い、その後、これを別の真空槽に移して真空蒸着による成膜を行うものである。
【0006】
本発明の光ファイバへの成膜方法の他の一つは、前記光ファイバへの成膜方法において、成膜を行うための真空槽に移された光ファイバの被覆部を板で覆った上で真空蒸着による成膜を行うものである。
【0007】
本発明の光ファイバへの成膜方法の他の一つは、前記光ファイバへの成膜方法において、成膜を行うための真空槽内にアルゴンガスを導入し、導入されたアルゴンガスに高周波電圧を印加して高周波アルゴンプラズマを発生させた上で真空蒸着による成膜を行うものである。
【0008】
本発明の光ファイバへの成膜方法の他の一つは、前記光ファイバへの成膜方法において、アルゴンガスに印加される高周波電圧の周波数を13.56MHz、電力を50W〜250Wとしたものである。
【0009】
本発明の光ファイバへの成膜方法の他の一つは、前記光ファイバへの成膜方法において、プラズマを発生させた真空槽内で、光ファイバにTiを真空蒸着して厚みが10nm〜50nmのTi膜を成膜し、そのTi膜の上にNiを真空蒸着して厚みが10nm〜50nmのNi膜を成膜するものである。
【0010】
【0011】
【発明の実施の形態】
(実施形態1)
ここに示す実施例は、被覆外径250μm、心線径125μmで、被覆に紫外線硬化樹脂が用いられた光ファイバの端部に、本発明の成膜方法を用いて金属膜を成膜したものである。具体的には、膜厚20nmのTi膜の上に、膜厚20nmのNi膜が積層された金属膜を成膜したものである。以下、工程を追って説明する。
【0012】
(1)光ファイバの端部の被覆層を所定長だけ除去して、被成膜部分となるファイバ裸線を露出させる。
(2)前記光ファイバを真空槽(真空チャンバー)に入れた後に、該真空槽内を10Pa程度に減圧すると共に、100℃程度に加熱して光ファイバの脱ガス処理を行う。尚、処理時間は12時間とした。
(3)前記真空槽から光ファイバを取り出し、被成膜部分をアセトンで超音波洗浄する。この洗浄は、被覆層から蒸発した原料成分が被成膜部分に付着している虞があるため、これを除去する目的で念ため実施するものである。従って、必ずしも実施しなくてもよい。
(4)光ファイバを図1に示す真空槽(真空チャンバー)に移してから、該真空槽の脱ガス処理を行う。図1に示す真空槽は、真空蒸着を行うための真空槽であり、前記(2)の真空槽とは別の真空槽である。ここで、図1に示す真空槽は、成膜原料を収容する2つの容器(ルツボ)1a、1bと、夫々の容器1a、1b内の成膜原料に電子ビームを照射して、これを蒸発させる2基の電子ビーム銃(EBガン)2a、2bと、被成膜部分であるファイバ裸線3をセット可能なセット部4と、光ファイバの被覆部5を覆って、真空槽内壁からの輻射熱による被覆部5の温度上昇を防止する邪魔板6と、水冷基板7と、RFコイル8とを備えている。尚、前記邪魔板6を設置することなく脱ガス処理を行うと、被覆部5の温度は150℃以上に上昇するのが、邪魔板6を設置すると、100℃以下に抑制されることが確認されている。
(5)真空槽の脱ガス処理が終了したら、イオンプレーティング法によって被成膜部分3に金属膜を成膜する。具体的には、真空槽内にアルゴンガスを導入して圧力を10-2Pa(0.01Pa)程度に保持すると共に、RFコイル8に通電してアルゴンガスに100W、13.56MHzの高周波電圧を印加し、高周波アルゴンプラズマを発生させる。さらに、かかる雰囲気中で、一方のルツボ1aに収容されているTi(チタン)に一方の電子ビーム銃2aから電子ビームを照射してこれを蒸発させ、蒸発したTi成分を被成膜部分3に蒸着させる。所定膜厚のTi膜が成膜されたら電子ビーム銃2aを止め、他方のルツボ1bに収容されているNi(ニッケル)に他方の電子ビーム銃2bから電子ビームを照射してこれを蒸発させ、蒸発したNi成分を前記Ti膜の上に積層して蒸着させる。
(6)以上によって、端部に膜厚が20nmのTi膜が成膜され、そのTi膜の上に膜厚が20nmのNi膜が成膜された光ファイバ(メタライジングファイバ)が得られる。尚、金属膜の膜厚が50nm以上になると、光ファイバの強度が低くなる。これは、膜厚が厚くなると表面状態が悪くなるためと考えられる。
【0013】
前記(2)に示した光ファイバの脱ガス処理を行う際の加熱温度が成膜用の真空槽の脱ガス処理時における光ファイバの温度よりも低いと、十分な脱ガスが行われない。一方、加熱温度が高すぎると、光ファイバの被覆を傷めてしまう。また、光ファイバの脱ガス処理を行う際の圧力(真空度)は、低ければ低いほど良いが、圧力が低ければ低いほど高性能で高価な排気設備が必要になる。これらを踏まえた上で発明者らが行った実験によれば、光ファイバの脱ガス処理を行う際の加熱温度は70℃〜150℃、圧力は10-1Pa〜103Pa、処理時間は8時間〜24時間が好適である。
【0014】
前記(5)に示したイオンプレーティング法による成膜時におけるプラズマ印加電圧を15W〜300Wまで変化させて10本の光ファイバの端部に成膜を行い、印加電圧と膜強度との関係を測定した結果を図2のグラフに示す。図2のグラフは、10本の光ファイバに成膜された膜の強度平均値と標準偏差を示している。このグラフより、印加電圧が高くなると膜強度が向上するが、300Wまで上げるとバラツキが大きくなることがわかる。実際には、強度が2000gf程度のものがある反面、1000gf以下のものが多数発生している。これは、プラズマのパワーによって膜強度が向上する一方で、成膜された膜がプラズマによってスパッタされ、膜強度にバラツキが発生したものと考えられる。かかる測定結果より、イオンプレーティング法による成膜時におけるプラズマ印加電圧は、50W〜250Wが好適である。
【0015】
本発明の成膜方法による効果を確認するために、光ファイバの脱ガス処理と、その後の真空蒸着とを同一の真空槽内で行った。この場合、真空蒸着後(成膜終了後)の真空槽内を観察したところ、水冷基板上に油状の物質が発見された。この物質をフーリエ変換赤外分光分析法で分析したところ、光ファイバの被覆樹脂とほぼ同一のスペクトルピークを示し、同一成分であることが確認された。かかる分析結果より、該物質は、光ファイバの脱ガス処理時及び成膜時に、光ファイバの被覆層から蒸発した原料成分が水冷基板で冷やされて付着したものと考えられる。さらに、成膜後の膜強度を試験したところ、いずれの光ファイバも500gf以下と満足な強度を得ることはできなかった。これに対し、前記本発明の成膜方法では、成膜に用いた真空槽の水冷基板には何らの付着物も発見されなかった。
【0016】
前記実施形態1では、単体の光ファイバに成膜を行う場合を例にとって本発明の成膜方法を説明したが、本発明の成膜方法によれば、光部品に取付けられている光ファイバや光ファイバが取付けられている光部品等にも同様にして成膜を行うことができる。
【0017】
【発明の効果】
本発明の成膜方法では、光ファイバ又は光ファイバを備えた光部品に真空蒸着によって各種膜を成膜する際に、光ファイバ又は光ファイバを備えた光部品を所定温度、所定圧力に保たれた真空槽内に所定時間置いて光ファイバの脱ガスを行い、その後、これらを別の真空槽に移して真空蒸着による成膜を行う。従って、前記光ファイバの脱ガス時に該ファイバの被覆層から蒸発した原料成分が被成膜部分に付着したり、成膜原料に混入したりすることがなく、清浄な膜が成膜される。
【0018】
本発明の成膜方法では、高周波アルゴンプラズマが発生した雰囲気中で真空蒸着による成膜を行う。従って、光ファイバを加熱して熱エネルギーを与えなくとも均一で緻密な膜が成膜される。このため、耐熱性の低い光ファイバやそのような光ファイバを備えた光部品にも均一で緻密な膜を成膜することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の成膜方法を実施するための真空槽の一例を示す説明図。
【図2】 プラズマ印加電圧と膜強度との関係を示す図。
【符号の説明】
1a ルツボ
1b ルツボ
2a 電子ビーム銃
2b 電子ビーム銃
3 被成膜部分(ファイバ裸線)
4 セット部
5 光ファイバの被覆部
6 邪魔板
7 水冷基板
8 RFコイル
Claims (5)
- 光ファイバ又は光部品に装備された光ファイバに真空蒸着によって酸化膜や金属膜といった各種膜を成膜する成膜方法であって、それら光ファイバを温度が70℃〜150℃、圧力が10-1Pa〜103Paに保たれた真空槽内に8時間〜24時間置いて光ファイバの脱ガスを行い、その後、これを別の真空槽に移して真空蒸着による成膜を行うことを特徴とする光ファイバへの成膜方法。
- 成膜を行うための真空槽に移された光ファイバの被覆部を板で覆った上で真空蒸着による成膜を行うことを特徴とする請求項1記載の光ファイバへの成膜方法。
- 成膜を行うための真空槽内にアルゴンガスを導入し、導入されたアルゴンガスに高周波電圧を印加して高周波アルゴンプラズマを発生させた上で真空蒸着による成膜を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の光ファイバへの成膜方法。
- アルゴンガスに印加される高周波電圧の周波数が13.56MHz、電力が50W〜250Wであることを特徴とする請求項3記載の光ファイバへの成膜方法。
- プラズマを発生させた真空槽内で、光ファイバにTiを真空蒸着して厚みが10nm〜50nmのTi膜を成膜し、そのTi膜の上にNiを真空蒸着して厚みが10nm〜50nmのNi膜を成膜することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の光ファイバへの成膜方法。
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