JP4155794B2 - 有効成分が付与された天然皮革素材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、有効成分が付与された天然皮革素材の製造方法、さらに詳しくは、哺乳類、鳥類、爬虫類等の天然の皮革素材であって、芳香性、消臭性、薬効性、抗菌性、防黴性、防虫性等の有効成分が付与された天然皮革素材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、鹿革、牛革、羊革、豚革等の哺乳類動物や、ワニ、トカゲ、ヘビ等の爬虫類から採取される天然の皮革素材は、種々の革や毛皮等の皮革製品の素材として用いられているが、近年では合成皮革の製造技術の発達により、皮革製品全般の価格が低廉化しているため、天然皮革製品の需要が低迷している。
【0003】
しかし、合成皮革の製造技術が発達しても、手ざわり感などの皮革の持つ風合いや素材としての物性は、天然皮革製品は合成皮革製品に比べてはるかに優れており、合成皮革製品よりも高級感のある皮革製品として需要価値を有している。
【0004】
また、天然皮革製品は、特有の匂いを有しており、これが製品の高級感をより高める効果がある。その一方で、この匂いを嫌う消費者もおり、これが購買者層の拡張を妨げる要因ともなっている。従って、芳香成分や消臭成分を付与することによって、特有の匂いを抑えた天然皮革製品も市販されている。さらには、製品としての付加価値を付けるため、抗菌性、防黴性、防虫性等の成分を付与した製品も市販されている。
【0005】
このような各種成分は、従来では湿式含浸法や塗工法で溶剤に溶かした状態で直接付着させる方法や、各種成分をマイクロカプセルに内包させ、バインダーとともにスプレーコーティングして付着させる等の方法で皮革素材に具備させている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの方法は、単に皮革素材の表面に各種の成分を付着させることしかできず、芳香,抗菌等の効果は一時的に奏させるにすぎない。すなわち、皮革素材は一般に銀層、中床、床等からなる特有の組織構造からなり、上記のような各種成分を組織の内部まで浸透させるのは容易ではない。
【0007】
また、マイクロカプセルの場合には、カプセルをつぶす等の余分な作業も必要となる。
【0008】
さらに、湿式含浸法や塗工法で成分を直接付着させた場合には、皮革素材が通気性を失う。さらに含浸のための媒体や塗布のための媒体として、揮発性の有機溶剤を使用するが、この有機溶剤は天然の有機高分子である皮革を劣化させるため、加工後の皮革製品の耐久性が低下する。従って天然皮革素材の優れた物性が失われることによって、皮革製品としての優れた品質が損なわれるとともに、製品価値が著しく損なわれることとなる。
【0009】
本発明は、上述のような問題点を解決するためになされたもので、天然皮革素材の物性、皮革製品としての品質を何ら低下させることがなく、且つ芳香性、抗菌性等の各種有効成分の効能を長期間保持させることができる、皮革素材及び皮革製品、並びにその製造方法及びその装置を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、天然皮革素材及び付与すべき有効成分を高圧セル内に収容し、該高圧セル内に高圧流体として超臨界流体又は亜臨界流体を供給し、該超臨界流体又は亜臨界流体を媒体として前記付与すべき有効成分を、前記天然皮革素材の組織及び繊維内に浸透させて製造することを特徴とする、有効成分が付与された天然皮革素材の製造方法を提供するものである。
また、天然皮革素材を高圧セル内に収容するとともに、付与すべき有効成分を収容容器に収容し、該高圧セル内に高圧流体として超臨界流体又は亜臨界流体を供給するとともに、前記収容容器から付与すべき有効成分を前記高圧セル内に供給し、該超臨界流体又は亜臨界流体を媒体として前記付与すべき有効成分を、前記天然皮革素材の組織及び繊維内に浸透させて製造することを特徴とする、有効成分が付与された天然皮革素材の製造方法を提供するものである。
【0013】
付与すべき有効成分としては、芳香性、消臭性、薬効性、抗菌性、防黴性、及び防虫性を有する有効成分のうちの一種又は二種以上が用いられる。芳香性、消臭性、薬効性、抗菌性、防黴性、又は防虫性を有する有効成分としては、人工的に合成された試薬を用いることもできるが、好ましくは動物、植物、昆虫、魚類等の天然の生物、或いはそれらの加工品から抽出された有効成分が用いられる。
【0014】
皮革素材の種類も問うものではないが、動物、特に哺乳類に主として適用される。哺乳類のうち、革製品として市場性を有するものとして、牛、羊、豚、鹿等が例示され、高級毛皮革製品(毛皮製品)として市場性を有するものとして、ミンク、チンチラ、モグラ、キツネ等が例示される。その他、イタチ、ラクダ、カンガルー、トナカイ、ヘラジカ等、海外で毛皮革製品として流通しているものにも本発明を適用しうる。これら哺乳類の製品は、抗菌、防黴はもちろんのこと、動物臭を防ぐために様々な加工が要望されているが、これらの要望に対して本発明のように高圧流体を媒体とする技術を好適に使用しうるのである。さらにワニ、トカゲ、ヘビ等の皮革も、抗菌、防黴、消臭等の需要があり、本発明を好適に適用することができる。
【0015】
高圧流体としては、皮革素材に対して浸透性が優れた超臨界流体や亜臨界流体が用いられる。また流体の種類は、機能付与のための有効成分の皮革素材への注入媒体として、有効成分の溶解度が高く、さらに皮革を劣化させることがないものであることが好ましい。たとえば二酸化炭素、亜酸化窒素、トリフルオロメタン、又はそれらのうちの2種以上の混合物等が用いられる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について、図面に従って説明する。
【0017】
(実施形態1)
図1は、一実施形態としての芳香性を付与した天然皮革素材の製造に用いる装置の概略ブロック図を示す。
【0018】
本実施形態の天然皮革素材の製造方法に使用する装置は、図1に示すように、高圧セル1と、ボンベ4と、高圧ポンプ5と、圧力計6と、背圧弁7とを具備している。
【0019】
高圧セル1は、天然皮革素材の素材原料と、芳香性の有効成分を収容するためのもので、この高圧セル1内で芳香性の有効成分が素材原料に付着されることになる。この高圧セル1は、耐圧性のステンレス製のもので、セル本体2と蓋体3とで構成されている。
【0020】
ボンベ4は、高圧流体を貯留するためのものであり、流体の種類として二酸化炭素が用いられる。高圧ポンプ5は、前記ボンベ4内の流体を高圧セル1へ供給するためのポンプであり、その高圧ポンプ5の圧力が前記圧力計6で測定される。
【0021】
背圧弁7は、所定の圧力で開閉させることができ、操作圧力を所定値に一定に保つことができる。さらに、背圧弁7を開いて減圧することによって、高圧セル1から超臨界流体が減圧分離されることとなる。
【0022】
その他、本実施形態の天然皮革素材の製造装置には、配管部(線図で図示している)等が具備されている。
【0023】
次に、このような装置を用いて、芳香成分を付与した天然皮革素材を製造する方法の実施形態について説明する。
【0024】
先ず、天然皮革素材8を高圧セル1内に設置し、芳香成分を高圧セル1内に装入する。この天然毛皮革素材として、本実施形態では鹿革の素材を用いた。この鹿革の素材は、素材原料に対してなめし処理等の皮革素材製造のための前処理を行ったものである。すなわち、素材原料である鹿の皮部9(肉部15の外側にある)は、図2に示すように表面に銀面10を有する銀層11、中床13、及び床14からなる構造のものであり、図3に示すように銀層11を剥離してヌバック12を表面に裸出させた状態(肉部15からはもちろん剥離されている)で本実施形態における皮革素材として用いられる。
【0025】
次に、高圧セル1を収容している恒温槽(図示せず)を目的の温度に設定し、さらに、背圧弁7の解放圧力を、目的の圧力に設定した後、ボンベ4から高圧ポンプ5を介して二酸化炭素を高圧セル1へ供給する。
【0026】
二酸化炭素は、31.1℃(臨界温度)以上の温度、及び73atm (臨界圧力)以上の圧力の条件下で超臨界流体となり、上記のような恒温槽の温度設定並びに背圧弁7での圧力設定によって超臨界状態を維持することができる。
【0027】
高圧セル1内の温度と圧力が所定の値に達した後、所定の時間、二酸化炭素を流通させる。このとき、超臨界二酸化炭素の抽出力によって、皮革素材の組織と繊維の隙間に残存している油脂分や水分等の不純物が抽出除去され、付与すべき有効成分を付着するための空間を十分に確保することができる。
【0028】
不純物の除去が終了した後、背圧弁7を開いて、高圧セル1内の二酸化炭素を除去し、高圧セル1を開き、芳香成分等の有効成分等を含有する原料を追加で装入する。続いて、改めて高圧セル1内を所定の温度と圧力に設定し、所定の時間放置する。これによって、芳香成分が、皮革素材の組織と繊維の隙間に浸透し、皮革素材に付与されることとなる。
【0029】
これをより詳細に説明すると、先ず超臨界二酸化炭素によって、芳香成分を含有している原料から、芳香性の有効成分が抽出され、次に、超臨界二酸化炭素と芳香成分の混合流体が、皮革素材の組織,繊維間に浸透する。
【0030】
皮革素材の素材原料である鹿の皮部9は、上記のように銀層11、中床13、床14からなる特有の組織構造からなるため、本来であれば芳香成分は組織の内部に浸透しにくい。特に鹿革は、牛革、羊革、豚革等の他の動物の皮革素材に比べると、繊維が縦横及び斜めに存在している等、繊維の配向に規則性がなく、しかも繊維間の隙間が細かいため、芳香成分は他の動物の皮革素材に比べて浸透しにくい。
【0031】
しかし、本実施形態では、細部への浸透力を有する超臨界流体を媒体として使用することによって、組織,繊維間の隙間の深部まで芳香成分を付与することができる。
【0032】
さらに、鹿革の繊維間の隙間が細かいので、一旦芳香成分が付着した後は、不用意に芳香成分が飛散することがなく、芳香成分の放出作用を長期間にわたって維持することができる。また、鹿革の繊維間には脂質が含有されているが、本実施形態では超臨界流体として二酸化炭素を用いたので、超臨界二酸化炭素の脂質分に対する溶解力,抽出力によって、鹿革の繊維間に存在する脂質は好適に除去されることとなる。
【0033】
続いて背圧弁5を解放状態にすることによって、流路が減圧状態となり、圧力低下によって超臨界二酸化炭素が気体の状態に戻り、超臨界二酸化炭素は皮革素材から自然に放散除去される。その一方、芳香成分は、皮革の組織,繊維内に吸着捕捉され、皮革素材に残留する。
【0034】
このようにして、芳香成分が付着され芳香性の付与された皮革素材が製造されることとなるが、二酸化炭素は、上述のように31.1℃(臨界温度)以上の温度、73atm (臨界圧力)以上の圧力の条件下で超臨界流体となるため、温度を比較的低温に設定することができ、皮革素材や芳香成分の熱による劣化を防止することができる。
【0035】
(実施形態2)
本実施形態の天然皮革素材の製造装置では、上記実施形態1の高圧セル1、ボンベ4、高圧ポンプ5、圧力計6、背圧弁7の他に、図4に示すように、循環ポンプ16や芳香成分収容容器19を具備させている。
【0036】
上記実施形態1で芳香成分を高圧セル1に直接収容させたのに対し、本実施形態では、芳香成分収容容器19に収容させておき、その芳香成分収容容器19から高圧セル1へ供給するようにした。
【0037】
より具体的に説明すると、先ず循環流路中のバルブ17,18 を閉の状態とし、またバルブ20を開の状態にして実施形態1と同様にボンベ4から二酸化炭素を高圧セル1へ供給する。高圧セル1内の温度と圧力が実施形態1と同様に所定値に到達した後、所定の時間放置すると、超臨界二酸化炭素が鹿革の組織,繊維間に浸透し、その鹿革の組織,繊維間に存在する脂質が好適に除去される。
【0038】
次に、二酸化炭素の供給側のバルブ20を閉にして、背圧弁7を開けて高圧セル1内の二酸化炭素を放出した後、背圧弁7から真空ポンプ(図示せず)等を用いて系内を真空状態にする。続いて、循環流路中のバルブ17,18 と芳香成分の供給側のバルブ21を開くことによって、高圧セル1内に芳香成分を注入する。
【0039】
続いて、バルブ20を開にして高圧セル1内に二酸化炭素を再度流入し、所定の温度と圧力に設定した後、供給側のバルブ20,21、背圧弁7を閉じ、循環流路中のバルブ17,18 を開にして、循環ポンプ16を作動させる。それによって、すでに脂質が除去された鹿革の組織,繊維間に、芳香成分が好適に浸透することとなる。
【0040】
本実施形態においても、細部への浸透力を有する超臨界流体を媒体として使用するので、組織,繊維間の隙間の深部まで芳香成分を付与することができ、また一旦芳香成分が付与された後は、芳香成分の不用意な飛散を好適に防止することができる。
【0041】
(実施形態3)
本実施形態では、上記実施形態1の芳香成分に代えて、消臭成分を用いた。装置としては上記実施形態1及び2と同様のものを用いた。
【0042】
この消臭成分は、芳香を付与するものではないが、鹿皮の匂いを消滅させることができた。この結果、鹿皮の匂いを好まない消費者に対しても需要価値のある皮革製品を提供することができる。
【0043】
(実施形態4)
本実施形態では、上記実施形態1の芳香成分に代えて、薬効成分を用いた。装置としては上記実施形態1及び2と同様のものを用いた。具体的には、鎮静効果を持つラベンダー、メリッサ、レモンバームなどのハーブエキスを準備し、上記のような超臨界流体を媒体として皮革素材に付着させた。この場合、処理後の鹿革製品を身につけることによって鎮静効果が発揮されるとともに、その他、ハーブエキス全体に作用を有する湿布効果も期待できる。
【0044】
(実施形態5)
本実施形態では、上記実施形態1の芳香成分に代えて、抗菌性成分を皮革素材に付与させた。具体的には、カテキンや、竹,ササから抽出される抗菌成分等の天然抗菌成分を準備し、上記のような超臨界流体を媒体として皮革素材に付着させた。この場合、鹿革製品自体に抗菌効果を発現させることが可能であり、製品を長期間にわたって衛生的に保つことができる。
【0045】
(実施形態6)
本実施形態では、上記実施形態1の芳香成分に代えて、防黴性成分を皮革素材に付与させた。装置としては上記実施形態1及び2と同様のものを用いた。超臨界流体を媒体とすることで、防黴性成分は皮革素材の内部に浸透するので、防黴効果を長期間にわたって維持することができる。特に、天然皮革素材は、黴に対する抵抗力が弱いので、防黴効果を長期間にわたって維持できる効果は、皮革製品を提供する上で極めて大きいものである。
【0046】
(実施形態7)
本実施形態では、上記実施形態1の芳香成分に代えて、防虫性成分を皮革素材に付与させた。装置としては上記実施形態1及び2と同様のものを用いた。超臨界流体を媒体とすることで、防虫性成分は皮革素材の内部に浸透するので、防虫効果を長期間にわたって維持することができる。天然皮革素材は、防虫性が少ないので、防虫効果を長期間にわたって維持できる効果は、皮革製品を提供する上で極めて大きいものである。
【0047】
(実施形態8)
本実施形態では、皮革素材として上記実施形態1乃至7の鹿革に代えて牛革を用いて芳香成分を付与した。装置としては上記実施形態1及び2と同様のものを用いた。
【0048】
本実施形態においても、細部への浸透力を有する超臨界流体を媒体として使用するので、牛革の組織,繊維間の隙間の深部まで芳香成分を付与することができ、また一旦芳香成分が付与された後は、芳香成分の不用意な飛散を好適に防止することができる。また、超臨界流体として二酸化炭素を用いたので、超臨界二酸化炭素の脂質分に対する溶解力,抽出力によって、牛革の繊維間に存在する脂質は好適に除去されることとなる。
【0049】
尚、本実施形態では、牛革の皮革素材に芳香成分を付与したが、芳香成分に代えて消臭成分、薬効成分、抗菌性成分、防黴性成分、防虫性成分を付与することも可能である。
【0050】
(実施形態9)
本実施形態では、皮革素材として上記実施形態1乃至7の鹿革に代えて豚革を用いて芳香成分を付与した。装置としては上記実施形態1及び2と同様のものを用いた。
【0051】
本実施形態においても、細部への浸透力を有する超臨界流体を媒体として使用するので、豚革の組織,繊維間の隙間の深部まで芳香成分を付与することができ、また付与後は、芳香成分の不用意な飛散を好適に防止でき、しかも超臨界流体として二酸化炭素を用いたので、超臨界二酸化炭素の脂質分に対する溶解力,抽出力によって、豚革の繊維間に存在する脂質は好適に除去されることとなる。
【0052】
尚、本実施形態では、豚革の皮革素材に芳香成分を付与したが、芳香成分に代えて消臭成分、薬効成分、抗菌性成分、防黴性成分、防虫性成分を付与することも可能である。
【0053】
(実施形態10)
本実施形態では、皮革素材として上記実施形態1乃至7の鹿革に代えて羊革を用いて芳香成分を付与した。装置としては上記実施形態1及び2と同様のものを用いた。
【0054】
本実施形態においても、細部への浸透力を有する超臨界流体を媒体として使用するので、羊革の組織,繊維間の隙間の深部まで芳香成分を付与することができ、また付与後は、芳香成分の不用意な飛散を好適に防止でき、しかも超臨界流体として二酸化炭素を用いたので、超臨界二酸化炭素の脂質分に対する溶解力,抽出力によって、羊革の繊維間に存在する脂質は好適に除去されることとなる。
【0055】
尚、本実施形態では、羊革の皮革素材に芳香成分を付与したが、芳香成分に代えて消臭成分、薬効成分、抗菌性成分、防黴性成分、防虫性成分を付与することも可能である。
【0056】
(実施形態11)
本実施形態では、皮革素材として上記実施形態1乃至7の鹿革に代えてワニ革を用いて芳香成分を付与した。装置としては上記実施形態1及び2と同様のものを用いた。
【0057】
本実施形態においても、細部への浸透力を有する超臨界流体を媒体として使用するので、ワニ革の組織,繊維間の隙間の深部まで芳香成分を付与することができ、また付与後は、芳香成分の不用意な飛散を好適に防止でき、しかも超臨界流体として二酸化炭素を用いたので、超臨界二酸化炭素の脂質分に対する溶解力,抽出力によって、ワニ革の繊維間に存在する脂質は好適に除去されることとなる。
【0058】
尚、本実施形態では、ワニ革の皮革素材に芳香成分を付与したが、芳香成分に代えて消臭成分、薬効成分、抗菌性成分、防黴性成分、防虫性成分を付与することも可能である。
【0059】
(実施形態12)
本実施形態では、皮革素材として上記実施形態1乃至7の鹿革に代えてヘビ革を用いて芳香成分を付与した。装置としては上記実施形態1及び2と同様のものを用いた。
【0060】
本実施形態においても、細部への浸透力を有する超臨界流体を媒体として使用するので、ヘビ革の組織,繊維間の隙間の深部まで芳香成分を付与することができ、また付与後は、芳香成分の不用意な飛散を好適に防止でき、しかも超臨界流体として二酸化炭素を用いたので、超臨界二酸化炭素の脂質分に対する溶解力,抽出力によって、ヘビ革の繊維間に存在する脂質は好適に除去されることとなる。
【0061】
尚、本実施形態では、ヘビ革の皮革素材に芳香成分を付与したが、芳香成分に代えて消臭成分、薬効成分、抗菌性成分、防黴性成分、防虫性成分を付与することも可能である。
【0062】
(実施形態13)
本実施形態では、皮革素材として上記実施形態1乃至7の鹿革に代えてダチョウの革(一般的にオーストリッチと称されている)を用いて芳香成分を付与した。装置としては上記実施形態1及び2と同様のものを用いた。
【0063】
本実施形態においても、細部への浸透力を有する超臨界流体を媒体として使用するので、ダチョウの革の組織,繊維間の隙間の深部まで芳香成分を付与することができ、また付与後は、芳香成分の不用意な飛散を好適に防止でき、しかも超臨界流体として二酸化炭素を用いたので、超臨界二酸化炭素の脂質分に対する溶解力,抽出力によって、ダチョウの革の繊維間に存在する脂質は好適に除去されることとなる。
【0064】
尚、本実施形態では、ダチョウの革の皮革素材に芳香成分を付与したが、芳香成分に代えて消臭成分、薬効成分、抗菌性成分、防黴性成分、防虫性成分を付与することも可能である。
【0065】
(実施形態14)
本実施形態では、皮革素材として上記実施形態1乃至7の鹿革に代えて兎の毛皮を用いて芳香成分を付与した。装置としては上記実施形態1及び2と同様のものを用いた。
【0066】
本実施形態においても、細部への浸透力を有する超臨界流体を媒体として使用するので、兎の毛皮の組織,繊維間の隙間の深部まで芳香成分を付与することができ、また付与後は、芳香成分の不用意な飛散を好適に防止でき、しかも超臨界流体として二酸化炭素を用いたので、超臨界二酸化炭素の脂質分に対する溶解力,抽出力によって、兎の毛皮の繊維間に存在する脂質は好適に除去されることとなる。
【0067】
尚、本実施形態では、兎の毛皮の皮革素材に芳香成分を付与したが、芳香成分に代えて消臭成分、薬効成分、抗菌性成分、防黴性成分、防虫性成分を付与することも可能である。
【0068】
(その他の実施形態)
尚、上記各実施形態では、芳香成分等の各種成分を皮革素材に付与する媒体として超臨界二酸化炭素を用いたが、操作温度が臨界温度以下、あるいは操作圧力が臨界圧力以下であるがそれに近い、いわゆる亜臨界二酸化炭素を用いることも可能である。
【0070】
さらに、上記実施形態では、超臨界二酸化炭素を用いたが、二酸化炭素以外の超臨界流体,亜臨界流体等の高圧流体を使用することも可能である。
【0071】
さらに、各種成分の抽出効果を上げるために、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール、あるいはアセトン、クロロホルム等の有機溶剤を補助溶媒として、超臨界流体に対して1%以上、10%以内の微量を添加することも可能である。補助溶媒が1%より少ないと、皮革に含まれる脂質分などの不純物の抽出効果が少なく、また10%より多いと、皮革の組織自身を劣化させる可能性があるからである。
【0072】
さらに、芳香成分の種類もミント、ローズマリー、サバンナ等の種々のハーブエキスを使用することができ、またハーブエキス以外のものを使用することも可能である。
【0073】
さらに、使用する装置の構造も上記実施形態に限定されるものではない。
【0074】
さらに、適用する皮革製品としては、財布、名刺入れ、帽子、マフラー、シャツ、チョッキ、ベスト、ジャケット、ジャンパー、コート、ズボン、パンツ、手袋、靴、バッグ、鞄、袋物、キーホルダー、携帯電話用ストラップ、吊り革、玩具、文具類等、各種の製品に適用することができる。
【0075】
また、革製品の他に、コート、襟巻き、アクセサリー等の毛皮製品に適用することもできる。さらに、このような被服や装飾品以外に、動物や鳥類の剥製用の毛皮類に本発明を適用することも可能である。毛皮類に適用する場合には、当然のことながら銀面を裸出させずに毛や羽を残して加工した毛皮を利用することとなる。
【0076】
さらに、皮革素材の種類も、上記実施形態1乃至14の鹿、牛、豚、羊、ワニ、ヘビ、ダチョウの革、及び兎の毛皮に限らず、ミンク、チンチラ、モグラ、キツネ、イタチ、ラクダ、カンガルー、トナカイ、ヘラジカ、トカゲ等の皮革を使用することも可能である。
【0077】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0078】
(実施例1)
原料の鹿革15g を容積300ml の高圧セルに装填し、液化二酸化炭素を高圧ポンプで高圧セルに導入し、圧力20MPa 、温度40℃で3時間保持した後、3時間、1.5L/minの速度で二酸化炭素を流通させた。二酸化炭素の速度は、室温で大気圧下の二酸化炭素の単位時間あたりの流量であり、積算流量計を用いて測定した。流出流体を冷却してトラップし、着色した抽出物が得られた。続いて高圧二酸化炭素中で4時間処理した後、背圧弁で大気に戻した。原料皮革素材は完全に乾燥された。実験条件と実験前後における皮革素材の重量変化を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
上記表1からも明らかなように、高圧二酸化炭素中における乾燥率は、重量換算で7〜15%前後であった(以下の実施例ではwt%と略する)。その抽出物の成分は主として脂質であった。従って脂質が好適に除去されたことが確認できた。
【0081】
次に、この乾燥皮革素材の入った高圧セルをさらに真空ポンプで減圧し、芳香成分として、サバンナ(Global.P.P.製の天然ハーブ精油)を0.3 ml、吸引によって高圧セル中に充填した。その後、高圧二酸化炭素を導入し、20MPa 、40℃で3時間保持した後、背圧弁を用いて2時間かけて減圧し大気圧にして皮革素材を取り出した結果、強く匂いがついていた。この実験条件と重量変化を表2に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
表2からも明らかなように、香り付け工程において若干重量増が認められた。これらのことから、皮革素材から脂質が好適に除去され、香り成分が好適に注入されたものと推定される。
【0084】
次に、得られた素材について各種の物性試験を行った。すなわち、原料革となめし処理及び染色した革素材、具体的には、原料の鹿白革(S1)、タンニン処理した鹿革(S2)、クロムなめし茶染め革(S3)、クロムなめし黒染め革(S4)、原料の鹿白革を白く染めた白染革(S5)について、引張強さ、伸び、引裂強さ、染色摩擦堅牢度、洗濯堅牢度、液中熱収縮温度等の試験を行った。その結果を表3に示す。
【0085】
【表3】
【0086】
表3からも明らかなように、抽出及び香り付け処理後における引張強さ、伸び、引裂強さ、染色摩擦堅牢度、洗濯堅牢度、液中熱収縮温度等について、ほとんどの皮革に関して物性の低下が認められず、良好な特性を維持しており、皮革の持つ特性を損なうことなく、芳香性の機能を付与することができた。
【0087】
(実施例2)
原料の鹿革15g を容積300ml の高圧セルに装填し、液化二酸化炭素を高圧ポンプで高圧セルに導入し、圧力20MPa 、温度40℃で2時間保持した後、3時間、1.5L/minの速度で二酸化炭素を流通させて、脂質を除去することによって、原料皮革素材を完全に乾燥させた。二酸化炭素の速度は、室温で大気圧下の二酸化炭素の単位時間あたりの流量であり、積算流量計を用いて測定した。
【0088】
次に、この乾燥皮革素材と、芳香成分として、ローズマリー(Global.P.P.製の天然ハーブ精油)とを0.3 ml、高圧セルに充填した。
【0089】
次に、高圧二酸化炭素を導入し、20MPa 、40℃で3時間保持した後、同一温度、同一圧力を保持したまま2時間高圧二酸化炭素を流通させた。処理後、背圧弁を用いて減圧し大気圧にして皮革製品を取り出した結果、強く匂いがついていた。
【0090】
(実施例3)
原料である牛革15g を容積300ml の高圧セルに装填し、液化二酸化炭素を高圧ポンプで高圧セルに導入し、圧力20MPa 、温度40℃で1時間保持した後、4時間、1.5L/minの速度で二酸化炭素を流通させた。二酸化炭素の速度は、室温で大気圧下の二酸化炭素の単位時間あたりの流量であり、積算流量計を用いて測定した。続いて、背圧弁を介して減圧し、大気圧まで戻した。実験の前後における皮革素材の重量変化及び乾燥工程における抽出除去成分の量を表4に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
上記表4からも明らかなように、高圧二酸化炭素中における乾燥率は、7.4wt %であった。その抽出物の成分は主として脂質であった。従って脂質が好適に除去されたことが確認できた。
【0093】
次に、乾燥後の皮革素材とともに、香り原料を容積300ml の高圧セルに装填し、液化二酸化炭素を高圧ポンプで高圧セルに導入し、圧力20Mpa 、温度40℃で3時間保持した後、2時間かけて、背圧弁を介して減圧し、大気圧まで戻した。香り原料の成分としては、次表5に示すようにスィートオレンジ(サンファーム商事製の果皮圧搾精油)を使用し、充填量は1.0gとした。
【0094】
【表5】
【0095】
実験の前後におけるそれぞれの皮革素材の重量変化を表6に示す。
【0096】
【表6】
【0097】
表6からも明らかなように、香り付け工程における重量増すなわち付加量は0.11g であり、付着率は0.9wt %であった。このことから、牛革の皮革素材に香り成分が好適に注入されたものと推定される。
【0098】
次に、得られた素材について各種の物性試験、すなわち引張強さ、伸び、引裂強さ、染色摩擦堅牢度、洗濯堅牢度、液中熱収縮温度等の試験を行った。その試験結果を表7に示す。
【0099】
【表7】
【0100】
表7からも明らかなように、抽出及び香り付け処理後における伸び、引裂強さ、染色摩擦堅牢度、洗濯堅牢度、液中熱収縮温度の各物性に関して低下が認められず、良好な特性を維持しており、皮革の持つ特性を損なうことなく、芳香性の機能を付与することができた。
【0101】
一方、引張強さについては、処理後に向上が認められた。
【0102】
(実施例4)
原料である豚革15g について、実施例3と同様の装置を用い、同様の条件で抽出処理を行った。実験の前後における皮革素材の重量変化及び乾燥工程における抽出除去成分の量を上記表4に示す。
【0103】
上記表4からも明らかなように、高圧二酸化炭素中における乾燥率は12.8%と高いものであった。その抽出物の成分は主として脂質であった。従って脂質が好適に除去されたことが確認できた。
【0104】
また、抽出処理後には、実施例3と同様の装置及び同様の条件で香り付け処理を行った。香り原料の成分は実施例3と同様にスィートオレンジを使用し、充填量は1.0gとした。
【0105】
実験の前後におけるそれぞれの皮革素材の重量変化を上記表6に示す。
【0106】
上記表6からも明らかなように、香り付け工程における重量増すなわち付加量は0.10g であり、付着率は0.5wt %であった。このことから、豚革の皮革素材に香り成分が好適に注入されたものと推定される。
【0107】
次に、得られた素材について各種の物性試験、すなわち引張強さ、伸び、引裂強さ、洗濯堅牢度、液中熱収縮温度等の試験を行った。その試験結果を上記表7に示す。
【0108】
上記表7からも明らかなように、抽出及び香り付け処理後における引張強さ、洗濯堅牢度、液中熱収縮温度の各物性に関して低下が認められず、良好な特性を維持しており、皮革の持つ特性を損なうことなく、芳香性の機能を付与することができた。
【0109】
一方、引裂強さについては処理後に向上が認められ、伸びについては処理後に著しい向上が認められた。
【0110】
(実施例5)
原料である羊革15g について、実施例3と同様の装置を用い、同様の条件で抽出処理を行った。実験の前後における皮革素材の重量変化及び乾燥工程における抽出除去成分の量を上記表4に示す。
【0111】
上記表4からも明らかなように、高圧二酸化炭素中における乾燥率は10.3%と高いものであった。その抽出物の成分は主として脂質であった。従って脂質が好適に除去されたことが確認できた。
【0112】
また、抽出処理後には、実施例3と同様の装置及び同様の条件で香り付け処理を行った。香り原料の成分は実施例3と同様にスィートオレンジを使用し、充填量は1.0gとした。
【0113】
実験の前後におけるそれぞれの皮革素材の重量変化を上記表6に示す。
【0114】
上記表6からも明らかなように、香り付け工程における重量増すなわち付加量は0.04g であり、付着率は0.3wt %であった。このことから、羊革の皮革素材に香り成分が好適に注入されたものと推定される。
【0115】
次に、得られた素材について各種の物性試験、すなわち引張強さ、伸び、引裂強さ、染色摩擦堅牢度、洗濯堅牢度、液中熱収縮温度等の試験を行った。その試験結果を上記表7に示す。
【0116】
上記表7からも明らかなように、抽出及び香り付け処理後における染色摩擦堅牢度、洗濯堅牢度、液中熱収縮温度の各物性に関して低下が認められず、良好な特性を維持しており、皮革の持つ特性を損なうことなく、芳香性の機能を付与することができた。
【0117】
一方、引張強さと伸びについては若干の低下が認められたが、引裂強さについては著しい向上が認められた。
【0118】
(実施例6)
原料であるワニ革15g について、実施例3と同様の装置を用い、同様の条件で抽出処理を行った。実験の前後における皮革素材の重量変化及び乾燥工程における抽出除去成分の量を上記表4に示す。
【0119】
上記表4からも明らかなように、高圧二酸化炭素中における乾燥率は、6.3wt %であった。その抽出物の成分は主として脂質であった。従って脂質が好適に除去されたことが確認できた。
【0120】
また、抽出処理後には、実施例3と同様の装置及び同様の条件で香り付け処理を行った。香り原料の成分としては、上記表5に示すようにローズマリー(Global.P.P.製の天然ハーブ精油)を使用し、充填量は0.8gとした。
【0121】
実験の前後におけるそれぞれの皮革素材の重量変化を上記表6に示す。
【0122】
上記表6からも明らかなように、香り付け工程における重量増すなわち付加量は0.52g であり、付着率は1.2wt %であった。このことから、ワニ革の皮革素材に香り成分が好適に注入されたものと推定される。
【0123】
次に、得られた素材について各種の物性試験、すなわち引張強さ、伸び、引裂強さ、洗濯堅牢度、液中熱収縮温度等の試験を行った。その試験結果を表8に示す。
【0124】
【表8】
【0125】
表8からも明らかなように、抽出及び香り付け処理後における洗濯堅牢度、液中熱収縮温度に関しては低下が認められず、良好な特性を維持しており、皮革の持つ特性を損なうことなく、芳香性の機能を付与することができた。
【0126】
一方、引裂強さについては若干の向上が認められたが、引張強さと伸びについては著しい向上が認められた。
【0127】
(実施例7)
原料であるヘビ革15g について、実施例3と同様の装置を用い、同様の条件で抽出処理を行った。実験の前後における皮革素材の重量変化及び乾燥工程における抽出除去成分の量を上記表4に示す。
【0128】
上記表4からも明らかなように、高圧二酸化炭素中における乾燥率は、4.5wt %であった。その抽出物の成分は主として脂質であった。従って脂質が好適に除去されたことが確認できた。
【0129】
また、抽出処理後には、実施例3と同様の装置及び同様の条件で香り付け処理を行った。香り原料の成分は、実施例6と同様のローズマリーを使用し、充填量は0.8gとした。
【0130】
実験の前後におけるそれぞれの皮革素材の重量変化を上記表6に示す。
【0131】
上記表6からも明らかなように、香り付け工程における重量増すなわち付加量は0.24g であり、付着率は0.7wt %であった。このことから、ヘビ革の皮革素材に香り成分が好適に注入されたものと推定される。
【0132】
次に、得られた素材について各種の物性試験、すなわち引張強さ、伸び、引裂強さ、洗濯堅牢度、液中熱収縮温度等の試験を行った。その試験結果を上記表8に示す。
【0133】
上記表8からも明らかなように、抽出及び香り付け処理後におけるいずれの物性に関しても低下が認められず、良好な特性を維持しており、皮革の持つ特性を損なうことなく、芳香性の機能を付与することができた。
【0134】
(実施例8)
原料であるダチョウ革15g について、実施例3と同様の装置を用い、同様の条件で抽出処理を行った。実験の前後における皮革素材の重量変化及び乾燥工程における抽出除去成分の量を上記表4に示す。
【0135】
上記表4からも明らかなように、高圧二酸化炭素中における乾燥率は、4.0wt %であった。その抽出物の成分は主として脂質であった。従って脂質が好適に除去されたことが確認できた。
【0136】
また、抽出処理後には、実施例3と同様の装置及び同様の条件で香り付け処理を行った。香り原料の成分としては、上記表5に示すようにヒノキの香り成分(サンファーム商事製の天然精油)を使用し、充填量は1.0gとした。
【0137】
実験の前後におけるそれぞれの皮革素材の重量変化を上記表6に示す。
【0138】
上記表6からも明らかなように、香り付け工程における重量増すなわち付加量は0.01g であり、付着率は0.1wt %であった。他の皮革素材に比べて付加量は少なかったが、ダチョウ革の皮革素材にも一応香り成分が注入されたものと推定される。
【0139】
次に、得られた素材について各種の物性試験、すなわち引張強さ、伸び、引裂強さ、洗濯堅牢度、液中熱収縮温度等の試験を行った。その試験結果を上記表8に示す。
【0140】
上記表8からも明らかなように、抽出及び香り付け処理後における伸び、洗濯堅牢度、液中熱収縮温度の各物性に関して低下が認められず、良好な特性を維持しており、皮革の持つ特性を損なうことなく、芳香性の機能を付与することができた。
【0141】
一方、引張強さについては若干の低下が認められたが、引裂強さについては著しい向上が認められた。
【0142】
(実施例9)
原料である兎の毛皮15g について、実施例3と同様の装置を用い、同様の条件で抽出処理を行った。実験の前後における皮革素材の重量変化及び乾燥工程における抽出除去成分の量を上記表4に示す。
【0143】
上記表4からも明らかなように、高圧二酸化炭素中における乾燥率は、3.7wt %であった。その抽出物の成分は主として脂質であった。従って脂質が好適に除去されたことが確認できた。
【0144】
また、抽出処理後には、実施例3と同様の装置及び同様の条件で香り付け処理を行った。香り原料の成分は、実施例8と同様のヒノキの香り成分を使用し、充填量は1.0gとした。
【0145】
実験の前後におけるそれぞれの皮革素材の重量変化を上記表6に示す。
【0146】
上記表6からも明らかなように、香り付け工程における重量増すなわち付加量は0.18g であり、付着率は0.4wt %であった。このことから、兎の毛皮素材に香り成分が好適に注入されたものと推定される。
【0147】
次に、得られた素材について各種の物性試験、すなわち引張強さ、伸び、引裂強さ、洗濯堅牢度、液中熱収縮温度等の試験を行った。その試験結果を上記表8に示す。
【0148】
上記表8からも明らかなように、抽出及び香り付け処理後における伸び、洗濯堅牢度、液中熱収縮温度の各物性に関して低下が認められず、良好な特性を維持しており、皮革の持つ特性を損なうことなく、芳香性の機能を付与することができた。
【0149】
一方、引張強さと引裂強さについては若干の向上が認められた。
【0150】
【発明の効果】
以上のように、本発明においては、芳香性、消臭性、抗菌性、防黴性、又は防虫性を有する有効成分を、高圧流体を媒体として、皮革素材の組織,繊維内に浸透させたものであるため、従来の湿式含浸法、塗工法、マイクロカプセルを用いる方法のように単に皮革素材の表面に成分を付着させただけの方法に比べると、芳香性、消臭性、抗菌性、防黴性、防虫性等の効果を長期間にわたって維持させることができるという効果がある。
【0151】
しかも、上記のような高圧流体を媒体として浸透させるので、皮革の特性を損なうことがなく、特に、従来の有効成分を直接付着する方法では特性が著しく損なわれていた天然皮革素材については、伸縮性、耐久性、吸水性、放散性等の天然皮革が本来有する特性を損なうことがないという効果がある。
【0152】
この結果、芳香性、消臭性、薬効性、抗菌性、防黴性、防虫性等の付加価値が付与され、しかも皮革の特性、特に天然皮革本来の特性を損なわない皮革製品を提供できることとなる。
【0153】
特に、鹿革は、牛革、羊革、豚革等の他の動物の皮革素材に比べると、繊維間の隙間が細かいため、有効成分は他の動物の皮革素材に比べても有効成分が浸透しにくいが、高圧流体を媒体として有効成分を皮革素材に対して付与するので、高圧流体の細部への浸透力により、好適に浸透させることができるのである。
【0154】
さらに、鹿革の繊維間の隙間が細かいので、一旦有効成分が付与された後は、不用意に成分が飛散することがなく、従って有効成分を長期間にわたって保持することができる。
【0155】
さらに、有効成分が皮革素材の組織,繊維内の深部まで浸透するので、銀面を表面側とする皮革製品の場合であっても、銀面を裏面側とする(すなわち中床面を表面側とする)いわゆるバックスキンの製品であっても、有効成分を長期間にわたって保持できる皮革製品を提供できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】一実施形態としての芳香成分を付与した皮革素材の製造装置の概略ブロック図。
【図2】皮革の構造を示す要部拡大断面図。
【図3】銀層を剥離した状態の皮革の構造を示す要部拡大断面図。
【図4】他実施形態の芳香成分を付与した皮革素材の製造装置の概略ブロック図。
【符号の説明】
1…高圧セル 9…皮部
Claims (3)
- 天然皮革素材及び付与すべき有効成分を高圧セル内に収容し、該高圧セル内に高圧流体として超臨界流体又は亜臨界流体を供給し、該超臨界流体又は亜臨界流体を媒体として前記付与すべき有効成分を、前記天然皮革素材の組織及び繊維内に浸透させて製造することを特徴とする、有効成分が付与された天然皮革素材の製造方法。
- 天然皮革素材を高圧セル内に収容するとともに、付与すべき有効成分を収容容器に収容し、該高圧セル内に高圧流体として超臨界流体又は亜臨界流体を供給するとともに、前記収容容器から付与すべき有効成分を前記高圧セル内に供給し、該超臨界流体又は亜臨界流体を媒体として前記付与すべき有効成分を、前記天然皮革素材の組織及び繊維内に浸透させて製造することを特徴とする、有効成分が付与された天然皮革素材の製造方法。
- 付与すべき有効成分を天然皮革素材の組織及び繊維内に浸透させる前に、天然皮革素材の組織及び繊維内に残留する脂質、水分等の不純物を、超臨界流体を用いて除去する請求項1又は2記載の有効成分が付与された天然皮革素材の製造方法。
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