JP4147518B2 - 光学素子および該光学素子を用いた光学装置 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばフォトニック結晶等に有用な、2次元並びに3次元的な周期性を有する構造物の周期性構造を変化させ、それによって屈折率の非周期性を具備した周期性構造物を例えば導波路等として用いた光学素子および該光学素子を用いた光学装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
微粒子の配列技術は、高表面積化、高解像度化、並びに高密度化等が可能であるため、触媒、記録材料、センサー、電子デバイス、光デバイス等の材料の高機能化を図る上で重要な技術であり、近年、その研究が盛んに行われてきた。また、最近フォトニック結晶への関心が高まり、3次元のフォトニック結晶を作製する技術としての研究も盛んに行われるようになっている。
【0003】
フォトニック結晶とは、その内部に屈折率の周期的な分布を持つ結晶であり、光がこの結晶を伝播する時、伝播できない光のエネルギー帯、すなわちフォトニックバンドギャップを形成する。例えば、このフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶中に欠陥を導入した場合、その欠陥に沿って光が伝播することにより導波路が形成される等、微小領域における光の制御が行えるためこのような特徴を有するフォトニック結晶は光学分野において非常に有用である。
【0004】
フォトニック結晶の作製に関しては、半導体プロセス技術を駆使しての作製方法も数多く報告されているが、3次元の加工において、フォトニック結晶を所望の形状に加工するのは大変困難であり、3次元のフォトニック結晶を考慮した場合は、微粒子の配列技術を用いることが有利である。
【0005】
実際に、(a)特開2000−233998号公報では、コロイド結晶からなるテンプレートを用意し、そのテンプレートを電解液内に配置し、続いてコロイド結晶内に格子材料を電気化学的に形成した後、コロイド結晶粒子を除去して、フォトニック結晶に通ずる周期性構造物を形成する技術が開示されている。
【0006】
また、(b)特開2000−233999号公報では、コロイド結晶からなるテンプレートを用意し、このコロイド結晶へとナノ粒子液体分散を導入し、続いてコロイド結晶粒子を除去して、フォトニック結晶に通ずる周期性構造物を形成する技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、上記(a)および(b)の公開公報に開示された技術では、所望の領域に欠陥を導入することが極めて困難であるという不具合が生じていた。
【0008】
これに対し、(c)特開平11−218627号公報では、フォトニック結晶導波路の製造方法として、基板上に下部クラッド層、コア層、上部クラッド層からなるスラブ光導波路を作製した後、電子線、SOR(synchrotron orbital radiation)光、紫外線および近赤外線のうちのいずれかを上部クラッド層を通してコア層に選択的に照射して光誘起効果による屈折率変化を生じさせて屈折率変化領域を作製する方法が開示されている。
【0009】
上記(c)の公開公報に開示された技術を応用することにより、所望の領域に欠陥(屈折率の非周期性領域)を導入することは可能になるが、その技術においても欠陥の領域を変更する、あるいは目的に応じて欠陥の領域を設定し直す等はできないという不具合を有していた。
【0010】
これに対し、(d)特開2001−91912号公報では、外場により屈折率が変化する複数の光学媒質を利用し、ある外場の条件下では、複数ある光学媒質のうちある2つの屈折率が等しく、あるいはほぼ等しくなるようにする。これら2つの条件下で光が感じる分布パターンを所望の結晶構造、格子点の形状、周期に設定することで、2つの大きく異なるフォトニックバンド構造間を、外場条件を変えるだけで切り替えられるスイッチング動作可能な光素子およびフォトニック結晶中の光導波路を利用した光分波器が開示されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この(d)の公開公報に開示された技術は、外場により欠陥(屈折率の非周期性領域)を変更できる点では有用であるが、ある光学媒質の屈折率が他2つの光学媒質の屈折率と異なった外場条件により等しくなるように、材料および外場を設定しなければならず、更に、光が感じる分布パターンを所望の結晶構造、格子点の形状、周期に設定しなければならないため、生産性および製造コストの面で大変大きい課題を有しており、コスト的に非常に不利であった。
【0012】
また、この(d)の公開公報に開示された技術中に、外場として磁場を利用する技術も開示されている。外場として、磁場を選択する場合は、屈折率変化の精密な制御、および屈折率変化の可逆性を確保できる点で非常に有利であるが、ここに開示されている技術は次のような問題点がある。
【0013】
▲1▼磁場による準位分裂に伴う共鳴エネルギーのシフトに起因する屈折率変化を用いる場合は、その変化が極めて小さいため実用的ではなく、また磁場印加を終了すると屈折率変化も消失するため、屈折率の変化を保持するためには磁場を印加し続ける必要があった。
【0014】
また、▲2▼Cotton-Mouton効果などを利用する場合は、磁場と光の方向による屈折率の差を利用するものであり、磁場と光の相対的な方向を変化させないと屈折率変化は生じないため、その方向を精密に調整しながら、製造することが極めて難しく、また、印加する磁場の方向も限定されてしまうという欠点を有しているのが現状である。またこの場合も磁場印加を終了した場合には屈折率変化も消失するため、屈折率の変化を保持するためには磁場を印加し続ける必要があった。
【0015】
このような事情から、フォトニック結晶中に任意に欠陥を導入でき、すなわち、屈折率の周期性を任意に変更でき、さらに、その屈折率の変化を可逆的に元に戻すことのできる技術が強く切望されていた。
【0016】
そこで、本発明の目的は、屈折率の非周期性が任意に制御が可能な周期性構造物を用い、屈折率の非周期性を任意に導入できるばかりでなく、その非周期性を保持することができ、さらに可逆的に消失することも可能な光学素子および該光学素子を用いた光学装置を提案することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために次のような特徴を有している。
本発明の第1の特徴は、光学媒質を周期的に配列した周期性構造物の少なくとも一部の領域に磁場を印加することによって基板の磁歪により周期性構造を変化させ、これによって周期性構造物中の屈折率に非周期性を持たせることを可能とする周期性構造物と、前記周期性構造物に隣接して設けられた磁性体層とから構成される光学素子において、該磁性体層は、磁場の印加を停止した後に残留磁化を生じる材料であることにある。
【0018】
本発明の第2の特徴は、上記光学素子において、前記磁性体層が、少なくとも磁場の印加により残留磁化を生じる永久磁石材料を具備したことにある。
【0019】
本発明の第3の特徴は、上記光学素子において、前記光学媒質として光学媒質微粒子を用いたことにある。
【0020】
本発明の第4の特徴は、上記光学素子を用いた光学装置において、磁場印加装置を具備したことにある。
【0021】
本発明の第5の特徴は、上記光学素子を用いた光学装置において、残留磁化を消失する消磁装置を具備したことにある。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に関して図面を用いて説明する。
図1は、基板1中あるいは基板1上に、基板1とは屈折率の異なる領域2が周期的に配列している(周期性構造物)様子を示した概念図である。このように、屈折率の周期的な分布を持ったフォトニック結晶を光が伝播する場合、フォトニックバンドギャップに相当するエネルギーを有する光は、このフォトニック結晶中を伝播できない。
【0029】
ここで、基板1として、外場により寸法に変化が生じるものを用いると、外場を印加した領域は、屈折率の周期的な分布に変化が生じることになる。すなわちこの領域は、周期性の欠陥領域とみなすことができ、この欠陥の領域は、上記の伝播できなかった光が伝播できるようになり、例えば導波路等の光学装置として機能することになる。
【0030】
ここで、基板1と屈折率の違う領域は、基板1中に周期的に配列しても良いし、基板1上に配列しても問題ない。すなわち本発明を用いれば、基板中あるいは基板上に、基板と屈折率の違う領域を周期的に配列させておくだけで、外場を印加して任意の領域における屈折率の周期性を変化させることによって、例えば、所望の領域のみに光を導波できる光学装置が形成できる。これは、予め屈折率を変化させたい領域だけに違った光学媒質を配置しておくのに比べると、その製造が非常に容易になり、生産性やコストパフォーマンスの上からも非常に有利である。
【0031】
ここで、典型的な基板としては、磁歪材料および電歪材料を用いることができる。また、それぞれに対する外場として、磁場および電場を使用することが可能である。
【0032】
図2は、基板の一部の領域に磁歪材料基板3を用いるとともに、それ以外の領域は非磁性基板4を用い、さらに、これらの磁歪材料基板3および非磁性基板4上に光学媒質5を周期的に配列した様子を示したものである。
【0033】
図3は、磁場印加装置6を用いて、この周期性構造物に磁場を印加することにより基板に磁歪材料を用いた領域の周期性が他の領域と比べて変化した場合の概念図を示す図である。図中、7が磁場印加により周期性構造が変化した光学媒質である。本例では、一部の領域にだけ磁歪材料を用いたが、全体に磁歪材料を用いた場合でも特に問題はない。この場合は、磁場を印加した領域の周期性が他の領域と比べて変化することになる。
【0034】
ここで、この磁場印加装置6は、磁場印加領域を任意に制御できるものとすることが重要である。また、光学媒質を基板中あるいは基板上に配列させる場合は、半導体プロセス技術を用いて行っても問題ないが、3次元的に所望の形状に配列させる場合は、光学媒質として微粒子を選択し、その微粒子を3次元的に配列させる方が有利である。
【0035】
また、周期性構造物の品質等を考えると、微粒子は、球形であることが好ましく、更に、その粒径が均一であることが好ましい。微粒子の粒径に関しては、その目的によって様々なものを用いることができるが、周期性構造物を、例えばフォトニック結晶として利用する場合には、この粒径を制御するだけで、容易にフォトニックバンドギャップを制御することが可能である。
【0036】
磁場印加装置6によって磁場を印加し続ける場合は屈折率の非周期性(すなわち基板の寸法変化)を保持することが可能であるが、磁場の印加を停止してもこの屈折率の非周期性を保持するためには、図4に示したように、周期性構造物8に隣接して磁性体より構成される磁性体層9を設ける必要がある。ここで用いる磁性体層9としては、磁場を印加した後に残留磁化の生じる材料いわゆる永久磁石材料を用いることが屈折率の非周期性を保持するためには有利である。
【0037】
磁性体層9に用いる永久磁石材料としては、金属材料、金属間化合物材料および酸化物材料等、どのような材料を用いても問題ない。また、必要に応じて、永久磁石材料により構成される層と、磁場に対して敏感な高透磁率材料により構成される層、あるいは残留磁化の大きい材料により構成される層と組み合わせて用いても問題ない。
【0038】
このように、磁性体層を具備する場合、磁場を印加することにより光学媒質の屈折率の周期性を変化させた領域を元に戻し、必要に応じて違った領域に磁場を印加することにより、その領域の光学媒質の屈折率の周期性を変化させるためには、図5に示したように、図4の構成に加えて、残留磁化を消失することのできる消磁装置10を具備することが必要になる。
【0039】
この消磁装置10としては、磁場の正方向および負方向への印加を繰り返すことにより消磁する方式を用いる場合は、エネルギー的にも有利であるばかりでなく、消磁時間も短縮できる利点がある。また、消磁装置10として熱の印加により消磁する方式を用いる場合は、磁化されている領域をその磁性体のキュリー温度以上に熱を印加することにより、磁化の残留を完全に無くせる利点がある。
【0040】
以上説明したように、本発明を用いることにより、周期性構造物中の任意の場所に屈折率の非周期性領域を容易に導入することができ、さらにその領域を任意に変更することが容易に行うことができるようになり、例えば、光導波路を任意に形成できさらに変更も可能である、大変有益な光学装置が得られる。
【0041】
(実施例)
以下、本発明の実施例を説明する。
<実施例1>
実施例1では、基板として、図2に示したような磁歪材料基板3と非磁性基板4を接着したものを使用した。ここで、磁歪材料基板3としてはTb0.3Dy0.7Fe2単結晶を用い、非磁性材料4としては石英を用いた。また、この基板上に光学媒質5としてSiO2微粒子を周期的に配列させた。微粒子は球状で粒径は500nmとした。
【0042】
この周期性構造物に磁場を印加すると、磁歪材料を用いた領域に配列させた微粒子の間隔だけが、他の部分に配列させた微粒子の間隔と異なった状態にでき、任意の領域の周期性構造を変化させることができた。
【0043】
<実施例2>
実施例2では、基板として、実施例1で用いた磁歪材料であるTb0.3Dy0.7Fe2単結晶(図6の11参照)のみを用いた。この基板上に光学媒質5としてSiO2微粒子(図6の13参照)を周期的に配列させた。微粒子は同様に球状で粒径は500nmとした。
【0044】
この周期性構造物の一部の領域に磁場を印加すると、磁場を印加した領域の微粒子の間隔だけが、他の部分に配列させた微粒子の間隔と異なった状態にでき、任意の領域の周期性構造を変化させることができた。
【0045】
<実施例3>
実施例3では、実施例2において形成した周期性構造物の基板の下にSm-Co系磁石合金粉末を樹脂中に分散させた材料を用いた磁性体層9を、図4に示すように接合し、さらに磁場印加装置6を実装した装置を形成した。図6は、この装置を上方から観察した概念図である。
【0046】
図6に斜線で示した領域に磁場を印加することにより、この磁場を印加した領域の微粒子の間隔だけを他の部分に配列させた微粒子の間隔とは異なった状態にできた。また、磁性体層9を設けたことにより磁場印加を停止しても、この状態を保持することができた。
【0047】
<実施例4>
実施例4では、実施例3における光学装置に、図5に示すように残留磁化を消失できる消磁装置10を実装した装置を形成した。消磁装置10は、磁場の印加により消磁するタイプとした。
【0048】
実施例3と同様に、図6に斜線で示した領域12に磁場を印加した後磁場の印加を停止することにより、この磁場を印加した領域の微粒子の間隔だけを他の部分に配列させた微粒子の間隔とは異なった状態で保持した。続いて、磁性体層の磁化が残留している領域を消磁装置10で消磁した。再度異なった領域に磁場を印加した後磁場の印加を停止することにより、図7に斜線で示したように、微粒子の間隔が異なった領域を他の領域11に移動することができた。これにより、任意の領域において微粒子の間隔を変化させることが可能になった。
【0049】
<実施例5>
実施例5では、基板としてBaTiO3を用い、この基板上に光学媒質としてSiO2微粒子を周期的に配列させた。微粒子は球状で粒径は500nmとした。
この周期性構造物の一部の領域に電場を印加すると、電場を印加した領域の微粒子の間隔だけが、他の部分に配列させた微粒子の間隔と異なった状態にでき、任意の領域の周期性構造を変化させることができた。
【0050】
【発明の効果】
<請求項1〜3>
請求項1〜3記載の構成を採用することにより、光学媒質が周期的に配列した周期性構造物中に、非常に簡便な方法で屈折率の非周期性を具備した周期性構造物を有する光学素子、および、光学媒質が周期的に配列した周期性構造物中の任意の領域に、磁場の印加により屈折率の非周期性を具備でき、磁場の印加を停止してもその屈折率の非周期性を保持できる光学素子が得られた。
【0052】
<請求項4>
請求項4記載の構成を採用することにより、光学媒質が周期的に配列した周期性構造物中の任意の領域に、磁場の印加により屈折率の非周期性を具備できる光学装置が得られた。
【0055】
<請求項5>
請求項5記載の構成を採用することにより、光学媒質が周期的に配列した周期性構造物中の任意の領域に、磁場の印加により屈折率の非周期性を具備でき、磁場の印加を停止してもその屈折率の非周期性を保持でき、さらに、その屈折率の非周期性を具備した領域を任意に変更できる光学装置が得られた。
【図面の簡単な説明】
【図1】基板上に、基板とは屈折率の異なる領域が周期的に配列して周期性構造物を形成している様子を示した概念図である。
【図2】基板の一部の領域に磁歪材料を用い、それ以外の領域は非磁性基板を用い、その基板上に光学媒質が周期的に配列している様子を示した概念図である。
【図3】図2に示した周期性構造物に磁場を印加することにより基板に磁歪材料を用いた領域の周期性が他の領域と比べて変化した様子を示した概念図である。
【図4】周期性構造物に隣接して磁性体層を有し、さらに磁場印加装置を実装した光学装置の概念図である。
【図5】周期性構造物に隣接して磁性体層を有し、さらに磁場印加装置並びに消磁装置を実装した光学装置の概念図である。
【図6】実施例3および4を説明するための概念図である。
【図7】実施例4を説明するための概念図である。
【符号の説明】
1:基板
2:基板と屈折率が異なる領域
3:磁歪材料基板
4:非磁性基板
5:光学媒質
6:磁場印加装置
7:磁場印加により周期性構造の変化した光学媒質
8:周期性構造物
9:磁性体層
10:消磁装置
11:Tb0.3Dy0.7Fe2単結晶基板
12:磁場印加により周期性の変化した領域
13:SiO2微粒子
Claims (5)
- 光学媒質を周期的に配列した周期性構造物の少なくとも一部の領域に磁場を印加することによって基板の磁歪により周期性構造を変化させ、これによって周期性構造物中の屈折率に非周期性を持たせることを可能とする周期性構造物と、前記周期性構造物に隣接して設けられた磁性体層とから構成され、
該磁性体層は、磁場の印加を停止した後に残留磁化を生じる材料であることを特徴とする光学素子。 - 請求項1に記載の光学素子において、前記磁性体層が、少なくとも磁場の印加により残留磁化を生じる永久磁石材料を具備したことを特徴とする光学素子。
- 請求項1または2に記載の光学素子において、前記光学媒質として光学媒質微粒子を用いたことを特徴とする光学素子。
- 請求項1ないし3のいずれかに記載の光学素子を用いた光学装置において、磁場印加装置を具備したことを特徴とする光学装置。
- 請求項1ないし3のいずれかに記載の光学素子を用いた光学装置において、残留磁化を消失する消磁装置を具備したことを特徴とする光学装置。
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