JP4147476B2 - 酸化重合性組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、不飽和度の高い脂肪酸を含有する植物油等酸素を吸収して重合するものであって、酸化重合を促進するために酸化還元酵素および遷移金属錯体を含有する組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
本明細書において、特に説明のない限り%表記は質量%とする。
酸化重合性組成物は、各種基材に塗工してその表面に硬化した被膜を形成することから、塗料、プライマー及びアンカー剤等の表面処理剤や、接着剤、粘着剤、印刷インキ等の種々の用途に用いられている。乾性油等の酸化重合を促進するために触媒として主に遷移金属錯体が用いられているが、これら遷移金属には環境保全上あまり好ましくないものがある。例えば、コバルト、マンガン等の金属は無害な金属ではなく、使用しないに越したことはない。しかしながら、有害性の低い金属である鉄等は、単独で使用した場合にその触媒としての効果は非常に低い。
【0003】
酸化重合乾燥型印刷インキ組成物である平版枚葉印刷インキにおいても、印刷後の乾燥を促進するために、ドライヤーとして、コバルト、マンガン、鉄、亜鉛等の金属、および、オクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸等を用いた脂肪酸から成る金属石鹸をインキ中に添加する方法が一般的に用いられている。今後、環境負荷を低減していくためには、金属を安全性の高い種類に切り替えて行ったり、金属の絶対量を低減していくことが望ましい。
【0004】
酸化重合を促進するために酵素を利用した発明として、特許文献1には植物由来成分を酸化還元酵素で重合して液状樹脂を得て、さらにそれに金属ドライヤーを添加した硬化性組成物が記載されているが、カシューナット殻液を主要な原料と限定したものであり、重合性成分としてアナカルド酸、カルダノール、カルドール、メチルカルドール、そして好ましくはカルダノールを用いる事としている。また使用されるフェノール酸化酵素としてペルオキシダーゼ、チロシナーゼ、ラッカーゼ、好ましくはペルオキシダーゼが選択されているが、該酵素は上記の如く1価のフェノールのアルキルあるいはアルケニル誘導体を成分とするカルダノール、カルドール、メチルカルドールのような化合物の重合に作用する有効性が特徴である。また生成した液状樹脂はインキや塗料等の原材料として用いられるものの、そのインキや塗料の酸化重合において金属ドライヤーと酵素とを併用することの記載や示唆は無い。
【0005】
一方、特許文献2には、アルカリ金属イオンまたは多価金属イオンと酵素とを混合する例が挙げられているが、該酵素は、酵素又は微生物の菌体固定用として用いられている。他に、特許文献3、4において、酸化重合促進のために酵素が用いられているが、過酸化物、酸素等の併用は提案されているものの、遷移金属錯体等の金属化合物の併用は記載されていない。
【0006】
このように、酸化重合性組成物の酸化重合を促進するために、酸化還元酵素と遷移金属錯体とを併用することにより、環境負荷の大きい金属の添加率を減らしたか又は環境負荷の小さい金属の添加率を増やした硬化性組成物は報告されていない。
【0007】
【特許文献1】
特開平11−323258号公報
【特許文献2】
特開平10−210969号公報
【特許文献3】
特開平7−126354号公報
【特許文献4】
特開平7−126377号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
酸化重合触媒としての遷移金属錯体の添加量を減らし、かつ実用上十分な重合速度が得られる酸化重合性組成物を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、不飽和基を有する植物油及び又はその変成物に、酸化還元酵素と、遷移金属錯体とを含有させ、その相互作用により空気中の酸素を利用する系の乾燥・硬化速度を向上させるものである。
【0010】
酸化還元酵素を単独で用いた場合、不飽和基を有する植物油及び又はその変成物を乾燥させるために極めて長い時間がかかり、実用的と言えない。ところで遷移金属の中で安全性の高いものとして鉄及びその錯体が挙げられるが、それを単体で使用した場合にも、不飽和基を有する植物油及び又はその変成物の乾燥・硬化速度は非常に遅い。
【0011】
しかし、酸化還元酵素と遷移金属錯体とを併用することで、乾燥性及び硬化性を実用上問題のない程度まで速めることが可能となり、従来に比べて非常に安全性の高い酸化重合性組成物を得ることができる。
【0012】
また、酸化還元酵素の生体や環境に対する安全性は非常に高く、コバルトやマンガンの各錯体などの従来から使用されている比較的環境負荷が大きい遷移金属錯体と組み合わせることで、酸化重合性組成物の乾燥・硬化速度を維持しながらコバルトやマンガンの使用量を低減できる。なお、酸化還元酵素としてはオキシゲナーゼまたはオキシダーゼと呼ばれる酵素が有効である。
【0013】
工業的な応用例として、酸化重合乾燥型印刷インキにおいては、乾燥促進成分として酸化還元酵素と遷移金属錯体を併用することができる。これによってより安全性の高い鉄錯体を利用したり、又はコバルトやマンガンなどの使用量を低減することができる。
【0014】
また金属ドライヤーは通常それ自身が濃褐色、紫色などの色を有しており、白色、黄色などのインキに混合すると変色の原因となる。本発明に示される酸化還元酵素と遷移金属錯体の併用により、金属ドライヤーの添加量を低く抑えることができるのでインキの変色を防ぐ効果も得られる。
【0015】
【発明の実施の形態】
(一)
本発明で使用される不飽和基を有する植物油及び又はその変成物としては、酸素の存在下で重合するものであれば特に限定しないが、例えば、アマニ油、大豆油、桐油、ヒマシ油、トール油、サフラワー油、パーム油、エノ油、麻実油、カラシ油、ヌカ油、オイチシカ油、キョウニン油、ククイ油、ダイコン種油、大風子油、ニガー油、ブドウ種子油、ヘントウ油、ミンク油(オレイン酸とパルミトレイン酸)、タートル油(アオウミガメの体脂肪、リノール酸、オレイン酸)、グレープヒップ油、ゴマ油、コーン油、レイプシード油(ナタネ油)、ヒマワリ油、綿実油、アボガド油(オレイン酸69%)、オリーブ油、ホホバ油(不飽和脂肪酸と不飽和アルコール含有)、落花生油、(カポック油、ツバキ油、茶油)及び又はそれらの変成物を用いることができる。
【0016】
酸化還元酵素には、脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ)、酸化酵素(オキシダーゼ)、酸素添加酵素(オキシゲナーゼ)、ヒドロキシペルオキシダーゼがある。本発明において用いられる酵素を例示すれば、デヒドロゲナーゼとしては乳酸デヒドロゲナーゼやアルコールデヒドロゲナーゼが、オキシダーゼとしては、グルコースオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ等が、オキシゲナーゼとしてはカテコール1,2-ジオキシゲナーゼ、トリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼ、リポキシゲナーゼ(別名リポキシダーゼ)、アスコルビン酸2,3-ジオキシゲナーゼ、インドール2,3-ジオキシゲナーゼ、システインジオキシゲナーゼ、ベータカロテン15,15'-ジオキシゲナーゼ、アルギニン2-モノオキシゲナーゼ、リジン2-モノオキシゲナーゼ、ラクテート2-モノオキシゲナーゼ等が、また、ヒドロペルオキシダーゼにはカタラーゼやペルオキシダーゼがある。
【0017】
本発明で用いる遷移金属錯体は、不飽和基を有する植物油及び又はその変成物を酸化重合させる能力を備える化合物であれば特に限定しないが、種々の金属あるいはその錯体を用いることができる。例えば、コバルト、マンガン、鉛、カルシウム、セリウム、ジルコニウム、亜鉛、鉄、銅等の金属と、オクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸、ステアリン酸、樹脂酸、トール油脂肪酸、桐油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、大豆油脂肪酸等との塩を用いることができる。また、本発明では、これらの金属錯体を単独で用いても良いし、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0018】
(二)
本発明の酸化還元酵素としては特にオキシゲナーゼ及び又はオキシダーゼが好ましい。より好ましくはリポキシゲナーゼ(又はリポキシダーゼ)であり、大豆、インゲン豆、エンドウ豆、ピーナッツ等のマメ科植物、ジャガイモ等のナス科植物、大根などのアブラナ科植物、動物、微生物いずれの起源由来のものでも良いが、大豆由来のものは容易に入手できる点から好ましい。
【0019】
(三)
本発明で用いる遷移金属錯体としては特に鉄の錯体が好ましい。より好ましくは鉄とナフテン酸、オクチル酸、ネオデカン酸、ステアリン酸、樹脂酸、トール油脂肪酸、桐油脂肪酸、アマニ油脂肪酸又は大豆油脂肪酸の脂肪酸塩である。これら脂肪酸の鉄塩は併用することもできる。
【0020】
(四)
本発明の酸化重合性組成物を用いた酸化重合乾燥型印刷インキ組成物においては、不飽和基を有する植物油及び又はその変成物は、用途により異なるが、一般にインキ中に5〜40質量%程度が使用される。また遷移金属錯体は実用上、印刷インキ組成物に対して金属含有率として0.01〜0.3質量%が含まれることが好ましい。
【0021】
また印刷インキ組成物中に含まれる酸化還元酵素は0.01〜3質量%の範囲が好ましい。0.01%以下ではほとんど効果が確認されず、3%以上では印刷適性に悪影響が高く現実的ではない。0.02〜1質量%の範囲での使用がより好ましい。
【0022】
【実施例】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はここで挙げる実施例のみに限定されるものではない。実施例中の部及び%は、特に記載しない限り質量基準である。
【0023】
[酸化重合性組成物の調製]
酸化重合性組成物は、
(a)大日本インキ化学工業株式会社製ロジン変性フェノール樹脂ワニス15X0056・・・90質量部、
(b)桐油・・・10質量部、
以上の合計100質量部を混合し、更にリポキシダーゼ及び各々使用する金属錯体の所定量を加えた後、遊星式攪拌機で均一に分散して以下に示す実施例及び比較例の組成物を調製した。
【0024】
[乾燥性の確認方法]
乾燥性の確認は、試料をガラス板上に塗布して均一なフィルム状とした後、剛体振り子型粘度計による硬化開始時の誘導期間にて判断した。剛体振り子型粘度計を用いた測定においては、弾性項は樹脂同士の反応による架橋である網目の大きさに依存し、架橋反応が進行して網目が小さくなると検出される周期値に変化が起こる。また金属錯体と酸化還元酵素の組み合わせにより、周期値変化が始まるまでの誘導期が異なり、誘導期が短いほど乾燥が速いことが検出できる。
【0025】
[実施例1の配合及び乾燥性の試験]
(1)ナフテン酸マンガンであって、金属含有率が6%であるマンガン系ドライヤー(Mn-6と表記する)、
(2)リポキシダーゼ、
を表1に示す量混合し、剛体振り子型粘度計により誘導期測定を実施した。ナフテン酸マンガン溶液の使用量(酸化重合性組成物全体中の割合)は1%および2%の2点とし、リポキシダーゼの使用量は0.073%、0.145%の2点とした。比較例1ではリポキシダーゼは添加していない。測定結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
Figure 0004147476
【0027】
Mn-6 1%(マンガン:0.06%)とリポキシダーゼ0.073%を組み合わせたものは、Mn-6 2%のものと同等に短い誘導期間を示し、同等以上の乾燥性・硬化性を示している。よってリポキシダーゼの併用により、適正な乾燥性を得るために必要とされる金属錯体を半減できることが示されている。
【0028】
[実施例2の配合及び乾燥性の試験]
(1)ナフテン酸鉄であって、金属含有率が6%である鉄系ドライヤー(Fe-6と表記する)、
(2)リポキシダーゼ、
を表2に示す量混合して、剛体振り子型粘度計による周期の測定を実施した。
ナフテン酸鉄溶液の使用量(酸化重合性組成物全体中の割合)は1%、2%の2点とし、リポキシダーゼの使用量は0.073%、0.145%の2点とした。比較例2ではリポキシダーゼは添加していない。測定結果を表2に示す。
【0029】
【表2】
Figure 0004147476
【0030】
Fe-6 1%(鉄:0.06%)とリポキシダーゼ0.073%を組み合わせたものは、Fe-6 2%にほぼ近い誘導期間を示し、同等程度の乾燥性・硬化性を示している。またFe-6 1%のみでは200分以上の誘導期間が必要だったがリポキシダーゼ添加により誘導期間が111分まで大幅に短くなり、すなわち乾燥が速くなった。鉄自体の触媒活性は著しく低いが、リポキシダーゼを多めに加えることでマンガンに近い誘導期が得られる。
【0031】
[酸化重合乾燥型印刷インキ組成物]
実施例3は、酸化重合乾燥型印刷インキ組成物についてである。印刷インキ組成物の調製は、
(1)大日本インキ化学工業株式会社製紅ベースインキ・・・99質量部、
(2)ハイドロキノン・・・0.15質量部、
(3)リポキシダーゼの所定量、及び各々使用する金属塩の所定量、
を三本ロールミルで均一に混合、分散して行なった。調製されたインキにて乾燥試験を実施した。乾燥試験はJIS K5701−1「平版インキ試験方法(第一部)」の「4.4乾燥性」に記載の方法に準じてC型乾燥試験機(朝陽会式硫酸紙乾燥試験機)を用いて、雰囲気温度は45℃、湿度は60%にて測定を実施した。展色用紙は硫酸紙を用いた。
【0032】
【表3】
Figure 0004147476
【0033】
硫酸紙上での乾燥は、本実施例の測定条件においては一般に500分以下を確保することが必要である。マンガンについては、金属分を通常の使用量の半分まで減らしても、リポキシダーゼを併用することにより乾燥時間が500分以下の範囲に収まっている(実施例3−1)。鉄については単体での乾燥能力が低いため、鉄を2倍量まで増加させてもリポキシダーゼの効果は確認出来なかった(比較例3−4)。しかしながら少量のマンガンと鉄、リポキシダーゼを加えた3成分系の場合には、良好な乾燥性が得られた(実施例3−3)。
【0034】
【発明の効果】
本発明により、酸化重合触媒としての遷移金属錯体添加量を減らして実用上十分な重合速度を有する酸化重合性組成物を得ることができる。この組成物は遷移金属錯体と酸化還元酵素を併用することにより、従来のコバルト、マンガンなどの遷移金属錯体を用いた場合と同等の乾燥促進性を示す。また、酸化重合反応を利用して乾燥する塗料、プライマー及びアンカー剤等の表面処理剤や、印刷インキ、OPニス等の種々の用途に利用できる。

Claims (4)

  1. 不飽和基を有する植物油及び又はその変成物と、酸化還元酵素と、遷移金属錯体とを含有する酸化重合性組成物。
  2. 酸化還元酵素がオキシゲナーゼ及び又はオキシダーゼである請求項1に記載の酸化重合性組成物。
  3. 遷移金属錯体が鉄錯体である請求項1に記載の酸化重合性組成物。
  4. 請求項1に記載の酸化重合性組成物を含有する酸化重合乾燥型印刷インキ組成物であって、そのインキ組成物中に酸化還元酵素が0.01〜3質量%および遷移金属錯体中の金属分が0.01〜0.3質量%の範囲で含まれる印刷インキ組成物。
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