JP4147057B2 - 温度センサおよびそれを用いた温度測定装置 - Google Patents

温度センサおよびそれを用いた温度測定装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、温度センサおよびそれを用いた温度測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から温度の測定には、熱電対温度計、抵抗温度計または水銀温度計等が用いられている。熱電対温度計は熱起電力値から温度を算出し、抵抗温度計は電気抵抗値から温度を算出する。しかし、熱電対温度計および抵抗温度計においては、測定対象物あるいはその外部からの無関係な電磁誘導ノイズが発生しやすく、また高電圧下では漏電するおそれがあるため、電界下または磁界下での温度測定には不適であるという問題があった。また、水銀温度計は、水銀の熱膨張を利用することにより温度を算出する。しかし、水銀温度計においては、その形状および熱容量の大きさに問題があるため測定対象物が限られるという問題があった。
【0003】
これらの温度計を用いることのできない領域における温度測定には、放射温度計、蛍光体または半導体を用いた温度センサが用いられている。放射温度計は、測定対象物の放出する熱放射のエネルギを利用して温度を算出する。しかし、放射温度計は測定対象物表面の温度しか測定することができず、また低温域において測定物固有のスペクトルまたは反射スペクトルが存在する場合には正確な温度測定をすることができないという問題があった。
【0004】
また、特開平5−133819号公報には、ポリピリジン金属錯体またはその誘導体を含む蛍光体を用いた温度センサが開示されている。この蛍光体を用いた温度センサは、蛍光強度と温度との関係を調べることにより作成された温度特性曲線により温度を算出する。しかし、この蛍光体を用いた温度センサにおいては、蛍光強度と温度との関係が必ずしも比例関係等の明確な数式に従うものではないため、蛍光強度と温度との関係を細かい間隔で多数点調べて正確な温度特性曲線を作成しなければならないという問題があった。また、この蛍光体を用いた温度センサにおいては、温度センサの劣化等の経時変化に対応するために温度特性曲線の校正を頻繁に行なう必要があるが、その校正のたびに蛍光強度と温度との関係を細かい間隔で多数点調べて温度特性曲線の校正をしなければならないという問題もあった。
【0005】
さらに、特開昭58−39917号公報には、半導体を光ファイバの先端に取り付けた温度センサが開示されている。この半導体を用いた温度センサは、温度により光の透過率が変わることを利用して温度を算出する。しかし、この半導体を用いた温度センサにおいては、温度と光の透過率との関係を示す温度特性曲線を作成する際に標準透過率を示す標準体が必要となるという問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記事情に鑑みて本発明は、電界下および磁界下での温度計測に適し、かつ温度特性曲線の作成および校正が容易な温度センサおよびそれを用いた温度測定装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、塩化物からなるマトリックスにドープされたエルビウムイオンまたはツリウムイオンの蛍光スペクトルが、特定の波長の前後において蛍光強度と温度との関係が逆転する性質を有することを見い出し、この性質を利用して温度を算出する温度センサを想到し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、マトリックスとして塩化物を含み、付活剤としてエルビウムイオン(Er3+)またはツリウムイオン(Tm3+)を含む塩化物蛍光体からなる温度センサであることを特徴とする。
【0009】
ここで、本発明の温度センサにおいては、上記マトリックスとして含まれる塩化物が、下記一般式(1)で表わされる希土類塩化物であり得る。
LnCl3…(1)
[式(1)において、Lnはスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)およびイッテルビウム(Yb)の群より選ばれるいずれか一種の希土類元素を示す。]
また、本発明の温度センサにおいては、上記マトリックスとして含まれる塩化物が、下記一般式(2)で表わされる希土類複合塩化物であり得る。
AxByClz…(2)
[式(2)において、Aはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、Bは付活剤として含まれるエルビウムイオン(Er3+)またはツリウムイオン(Tm3+)と異なる種類の希土類元素を示す。また、x、yおよびzは、それぞれ0.1≦x≦10、0.1≦y≦10および0.4≦z≦60の範囲内にある実数を示す。]
また、本発明の温度センサにおいては、上記一般式(2)において、Aがバリウム(Ba)、カリウム(K)およびストロンチウム(Sr)の群より選ばれるいずれか一種のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、Bがスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)およびイッテルビウム(Yb)の群より選ばれるいずれか一種の希土類元素を示すことが好ましい。
【0010】
また、本発明の温度センサにおいては、上記塩化物が、ガラス状態の塩化物を含み得る。ここで、ガラス状態の塩化物は、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、銅(Cu)、銀(Ag)、リチウム(Li)、ガドリニウム(Gd)、鉛(Pb)およびマンガン(Mn)からなる群から選択された少なくとも一種の元素の塩化物を含むことが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記温度センサを励起させる手段と、温度センサの励起によって生じた蛍光スペクトルを検出する手段と、検出されたスペクトルから温度を演算する手段と、演算された温度を表示する手段とを備えた温度測定装置であることを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
(マトリックス)
本発明に用いられる塩化物蛍光体には、マトリックスとして塩化物が含まれている。なお、マトリックスとは構造母体のことを意味する。
【0014】
(希土類塩化物)
希土類塩化物とは一般式(1)LnCl3で表わされる塩化物のことである。本発明にこの希土類塩化物を用いた場合には、本発明に用いられる塩化物蛍光体の蛍光効率および蛍光強度が向上することから、本発明の温度センサの信頼性をより向上させることができる。ここで、一般式(1)LnCl3において、LnはSc、Y、La、GdおよびYbの群より選ばれるいずれか一種の希土類元素を示す。
【0015】
(希土類複合塩化物)
希土類複合塩化物とは一般式(2)AxByClzで表わされる塩化物のことである。上記一般式(2)AxByClzで表わされる希土類複合塩化物は、AxClz1で表わされるアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物とByClz2で表わされる希土類元素の塩化物とから構成される。なお、z1およびz2はz1+z2=zを満たす実数を示す。また、上記一般式(2)AxByClzにおいて、Bは付活剤としてマトリックス中にドープされるEr3+またはTm3+と異なる種類の希土類元素を示す。したがって、BはErまたはTm以外の希土類元素を示すだけでなく、たとえば付活剤としてTm3+がマトリックス中にドープされていなければBはTmを示すこともある。
【0016】
また、上記一般式(2)AxByClzにおいて、xはAで示されるアルカリ金属またはアルカリ土類金属のマトリックス中における組成比を表わし、xは0.1≦x≦10、好ましくは0.5≦x≦7、さらに好ましくは1≦x≦4の範囲内にある実数を示す。また、yはBで示される希土類元素のイオンのマトリックス中における組成比を示し、yは0.1≦y≦10、好ましくは0.3≦y≦5、さらに好ましくは0.5≦y≦3の範囲内にある実数を示す。zはマトリックス中における塩化物イオンの組成比を示し、zは0.4≦z≦60、好ましくは1.9≦z≦29、さらに好ましくは3.5≦z≦17の範囲内にある実数を示す。
【0017】
また、上記一般式(2)AxByClzにおいて、AがBa、KおよびSrの群より選ばれるいずれか一種のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、BがSc、Y、La、GdおよびYbの群より選ばれるいずれか一種の希土類元素を示すことが好ましい。この場合には、本発明の温度センサの信頼性がさらに向上する。
【0018】
(ガラス状態の塩化物)
ガラス状態の塩化物とは、塩化物の融液を冷却することにより、過冷却状態で結晶化しないように固化させた塩化物のことで、このような状態を取りやすい塩化物としては、Zn、Cd、Cu、Ag、Li、Gd、PbおよびMnからなる群から選択された少なくとも一種の元素の塩化物を含むことが好ましい。この塩化物の含有量は特に限定されないが、通常30〜70mol%であり、40〜60mol%であることが好ましい。なお、本明細書において、mol%とは、上記塩化物蛍光体の全組成を100mol%としたときのモル分率のことをいう。
【0019】
また、上記ガラス状態の塩化物には、K、Na、RbおよびCsからなる群から選択された少なくとも一種の元素の塩化物を含めることもできる。この塩化物の含有量は特に限定されないが、通常0〜70mol%であり、30〜60mol%であることが好ましい。
【0020】
さらに、上記ガラス状態の塩化物には、Ba、CaおよびSrからなる群から選択された少なくとも一種の元素の塩化物を含めることもできる。この塩化物の含有量は特に限定されないが、通常0〜40mol%であり、5〜20mol%であることが好ましい。
【0021】
(付活剤)
上記マトリックスにドープされる付活剤としては、Er3+またはTm3+が用いられる。これらのイオンは塩化物からなるマトリックス中において非常に発光しやすく、また本発明の温度センサは、これらのイオンの蛍光スペクトルのある特定の波長の前後において、蛍光強度と温度との関係が逆転する性質を利用して温度を算出するものだからである。塩化物蛍光体中の付活剤の含有量は特に限定されないが、マトリックスに上記ガラス状態の塩化物を含む場合には、上記塩化物蛍光体100mol%中、0.1〜5mol%であることが好ましく、0.2〜2mol%であることがより好ましい。また、付活剤としては、Er3+を用いることが好ましい。
【0022】
(塩化物蛍光体)
マトリックスとして希土類塩化物を含む塩化物蛍光体としては、たとえばScCl3:Er3+、YCl3:Er3+、LaCl3:Er3+、GdCl3:Er3+、YbCl3:Er3+、ScCl3:Tm3+、YCl3:Tm3+、LaCl3:Tm3+、GdCl3:Tm3+またはYbCl3:Tm3+等の式で表わされる塩化物蛍光体がある。
【0023】
また、マトリックスとして希土類複合塩化物を含む塩化物蛍光体としては、たとえばK2YCl5:Er3+、Ba32Cl12:Er3+、Sr32Cl12:Er3+、K2GdCl5:Er3+、Ba3Gd2Cl12:Er3+、Sr3Gd2Cl12:Er3+、Ba3Sc2Cl12:Er3+、K2YbCl5:Er3+、Ba3Yb2Cl12:Er3+、Sr3Yb2Cl12:Er3+、K2YCl5:Tm3+、Ba32Cl12:Tm3+、Sr32Cl12:Tm3+、K2GdCl5:Tm3+、Ba3Gd2Cl12:Tm3+、Sr3Gd2Cl12:Tm3+、Ba3Sc2Cl12:Tm3+、K2YbCl5:Tm3+、Ba3Yb2Cl12:Tm3+またはSr3Yb2Cl12:Tm3+等の式で表わされる塩化物蛍光体がある。
【0024】
また、マトリックスとしてガラス状態の塩化物を含む塩化物蛍光体としては、たとえばCdCl2−KCl−BaCl2:Er3+、ZnCl2−KCl−BaCl2:Er3+、CdCl2−KCl−BaCl2:Tm3+、ZnCl2−KCl−BaCl2:Tm3+等の式で表わされる塩化物蛍光体がある。
【0025】
なお、上記塩化物蛍光体の構造は、結晶構造、非晶質構造またはこれらの双方が混在する構造のいずれかであり得る。
【0026】
(製造方法)
本発明に用いられる塩化物蛍光体は、たとえば以下のようにして調製することができる。まず、マトリックスとしての塩化物の無水塩と付活剤としてのErCl3またはTmCl3の無水塩とを混合する。次に、上記混合物を高純度の乾燥不活性ガス雰囲気下において焼成または溶融混合することで均一に溶解した後、室温まで冷却し、粉砕、分級等することにより調製される。
【0027】
ここで、上記混合物には添加剤を添加することができる。なかでも添加剤としては乾燥NH4Clを添加することが好ましい。この場合には、付活剤となる希土類元素イオンであるEr3+またはTm3+がマトリックス中へ溶け込みやすくなり、また他の添加剤と比べて不純物となるオキシ塩化物の副生成がなくなる。また、マトリックスとして混合される塩化物の無水塩と添加される乾燥NH4Clとのモル比は5:1〜1:10であることが好ましく、2:1〜1:7であることがより好ましいが、マトリックスにガラス状態の塩化物を含める場合には、上記無水塩と乾燥NH4Clとのモル比は、8:1〜1:2であることが好ましく、5:1〜1:1であることがさらに好ましい。その他、従来から公知の増感剤等も加えることができる。
【0028】
また、マトリックスが希土類塩化物または希土類複合塩化物である場合には、混合される上記塩化物の無水塩と付活剤の無水塩とのモル比は特に限定されないが、1500:1〜10:1であることが好ましく、1000:1〜30:1であることがより好ましく、500:1〜40:1であることがさらに好ましい。この場合には、付活剤が励起エネルギを捕捉する確率と濃度消光とのバランスが優れているため、塩化物蛍光体の蛍光強度を向上させることができることから本発明の温度センサの信頼性をより向上させることができる。
【0029】
また、マトリックスが希土類塩化物または希土類複合塩化物である場合には、上記焼成は600〜900℃で行なわれることが好ましく、700〜900℃で行なわれることがより好ましい。
【0030】
また、マトリックスがガラス状態の塩化物を含む場合には、上記溶融混合における加熱温度および加熱時間は原料等に応じて適宜設定することができる。上記溶融混合は、通常、400〜700℃、より好ましくは700〜900℃で、5〜100分間、好ましくは10〜50分間行なわれる。また、溶融混合後には、必要に応じて急冷することもできる。このときの冷却速度は、5〜100℃/秒であることが好ましい。
【0031】
マトリックスとして酸化物を用いた場合には約1100〜1600℃の高温での焼成が必要となるが、上記のようにマトリックスとして塩化物を用いた場合には焼成に要するエネルギを低減させることができる。なお、高純度の乾燥不活性ガスとしては、たとえば純度99.99%以上のアルゴンまたは窒素等がある。
【0032】
また、上記無水塩は、たとえば希土類元素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、その他金属等の酸化物または炭酸塩を塩酸に溶解させ、常圧下において加熱し、水分を蒸発させて得た水和物を減圧乾燥させ、乾燥塩化水素ガス雰囲気中に加熱して脱水すること等により得ることができる。
【0033】
(温度算出原理)
本発明の温度センサの温度算出原理の一例を以下に説明する。たとえば、Er3+を付活剤とした塩化物蛍光体に励起波長381nmの紫外線を照射して得られた蛍光スペクトルを図1に示す。図1に示すように蛍光スペクトルの波長520〜540nmの範囲および540〜560nmの範囲において、蛍光強度の大きい鋭いピークを3つずつ観察することができる。図2(a)および図2(b)にこれらのピークの拡大図を示す。
【0034】
図2(a)に示すように、波長520〜540nmの範囲における上記塩化物蛍光体の蛍光スペクトルにおいては、温度の上昇に伴って蛍光強度が大きくなっている。一方、図2(b)に示すように波長540〜560nmの範囲における蛍光スペクトルにおいては、温度の上昇に伴って蛍光強度が小さくなっている。したがって、波長520〜540nmの範囲における3つのピークのうち最大のピークを有する波長527nmにおける最大の蛍光強度I1は温度の上昇に伴って大きくなり、波長540〜560nmの範囲における3つのピークのうち最大のピークを有する波長550nmにおける最大の蛍光強度I2は温度の上昇に伴って小さくなる。よって、これらの蛍光強度比R(=I2/I1)は温度の上昇に伴って小さくなる。
【0035】
また、蛍光強度I1およびI2はその蛍光を発する励起準位にあるEr3+の濃度が高くなるにつれて大きくなる。したがって、上記蛍光強度比Rはこれらの蛍光を発する励起準位にあるEr3+の濃度比に比例することとなるため、下記式(3)が成立する。
R=I2/I1=CN2/N1…(3)
なお、上記式(3)において、N1は図3に示す波長527nmおける最大の蛍光強度I1を発する励起準位211/2にあるEr3+の濃度、N2は波長550nmにおける最大の蛍光強度I2を発する励起準位43/2にあるEr3+の濃度を示す。また、Cは比例定数である。
【0036】
それぞれの励起準位にあるEr3+の濃度N1およびN2は、測定温度領域においてボルツマン分布に従うこととなる。したがって、Er3+の濃度比N2/N1は下記式(4)のように表わされる。
2/N1=exp(−△E/KT)…(4)
なお、式(4)において△Eは、図3に示す波長527nmにおけるEr3+の励起準位211/2のエネルギレベルと波長550nmにおけるEr3+の励起準位43/2のエネルギレベルとのエネルギ差を示す。また、Kはボルツマン定数、Tは絶対温度を示す。
【0037】
上記式(4)を上記式(3)に代入することにより、下記式(5)を得ることができる。
R=Cexp(−△E/KT)…(5)
上記式(5)において左辺と右辺の対数をとることにより、下記式(6)を得ることができる。
lnR=lnC−△E/KT…(6)
また、上記式(6)を変形すると、下記式(7)を得ることができる。
lnR=(−△E/K)×(1/T)+lnC…(7)
この上記式(7)はlnRを縦軸とし、1/Tを横軸とした傾きが−△E/Kの直線を表わしていると見ることができる。したがって、たとえば図4に示すように、温度T1における蛍光強度比R1の値を求めることによって、座標(1/T1,lnR1)から傾きが−△E/Kの直線を引くことにより、本発明の温度センサの温度特性曲線が容易に得られることとなる。よって、本発明の温度センサの温度特性曲線は1点の温度と蛍光強度比との関係を調べることにより容易に導き出すことができるため、従来のように多数点における蛍光強度と温度との関係を調べる必要がない。
【0038】
また、本発明の温度センサにおいては、温度と蛍光強度比との関係を2点調べて温度特性曲線を作成することによって、より高精度の温度測定が可能となる。
【0039】
なお、上記においては最大の蛍光強度I1とI2との蛍光強度比Rを求めることによって温度を算出したが、波長520〜540nmの範囲内における蛍光スペクトルによって囲まれる面積S1と波長540〜560nmの範囲内における蛍光スペクトルによって囲まれる面積S2の比S(=S2/S1)を求めることによっても上記と同様に温度を算出することができる。
【0040】
また、上記においては塩化物蛍光体を紫外線を用いて励起させたが、赤外線または電子線で励起させることもできる。また、上記においては励起波長381nmの紫外線を用いたが、励起波長が381〜382nmの範囲にある紫外線であればいずれも用いることもできる。
【0041】
また、付活剤としてTm3+を用いる場合においても上記Er3+の場合と同様に温度を算出することができる。Tm3+を用いる場合には蛍光強度と温度との関係が蛍光スペクトルの波長670〜690nmの範囲と690〜710nmの範囲で逆転することを利用して温度を算出する。ここで、図5に示すようにTm3+を用いる場合には、波長670〜690nmの範囲内における最大の蛍光強度I1は波長680nmにおける蛍光強度であり、波長690〜710nmの範囲における最大の蛍光強度I2は波長704nmにおける蛍光強度である。また、△Eは図5に示すように波長680nmにおけるTm3+の励起準位32のエネルギレベルと波長704nmにおけるTm3+の励起準位33のエネルギレベルとのエネルギ差を示す。また、Tm3+を用いる場合には、励起波長が358〜360nm、456〜458nmまたは679〜681nmの範囲にある紫外線等を用いることができる。その他はEr3+の場合と同様である。
【0042】
(温度測定装置)
本発明の温度測定装置は、上記温度センサを励起させる手段と、温度センサの励起によって生じた蛍光スペクトルを検出する手段と、検出されたスペクトルから温度を演算する手段と、演算された温度を表示する手段とを備えている。
【0043】
ここで、温度センサを励起させる手段としては、たとえば温度センサに紫外線、赤外線または電子線を照射する方法等がある。温度センサに紫外線を照射する方法としては、たとえば、水素放電管、キセノン放電管、水銀ランプ、ルビーレーザ、エキシマーレーザまたは色素レーザ等の光源を用いる方法、または可視紫外用分光器または紫外線用フィルタ等を用いて紫外線を取り出す方法等がある。
【0044】
また、温度センサに赤外線を照射する方法としては、たとえば、グローバー灯、ネルンスト灯、二酸化炭素レーザ、クリプトンレーザまたは半導体レーザ等の光源を用いる方法等がある。また、温度センサに電子線を照射する方法としては、たとえば従来から公知の電子銃を用いる方法等がある。
【0045】
また、温度センサの励起によって生じた蛍光スペクトルを検出する手段も、特に限定されず従来から公知の方法が用いられ得る。たとえば分光光度計またはフォトダイオード等を用いる方法等がある。
【0046】
また、検出されたスペクトルから温度を演算する手段も特に限定されず、従来から公知の方法が用いられ得る。たとえば、上記検出された蛍光スペクトルの情報をマイクロコンピュータ等に入力し、温度特性曲線が記録されている読み出し専用メモリとマイクロコンピュータとが連動して温度を算出する方法等がある。また、演算された温度を表示する手段も、特に限定されず、従来から公知のたとえばLED表示または液晶表示等が用いられ得る。
【0047】
ここで、本発明の温度測定装置においては、温度センサと外気との接触を避けるため、温度センサの周囲に保護コーティングすることが好ましい。この場合には温度センサの耐湿性が向上するため、本発明の温度測定装置の耐久性が向上する。保護コーティングとしては、たとえばガラスまたはポリイミド、アラミド等からなるプラスチックフィルムや樹脂等を温度センサの周囲に設置する方法等がある。
【0048】
また、本発明の温度測定装置においては、温度センサを励起させる手段と温度センサとの間、温度センサと蛍光スペクトルを検出する手段との間またはこれらの双方の間にたとえば光ファイバ等の伝達手段を備えていることが好ましい。この場合には、蛍光スペクトルに対する外部環境からの影響が少ないことから温度測定の精度が向上する。
【0049】
図6に本発明の温度測定装置の一例の模式的な概念図について示す。図6において、紫外線レーザ1から照射された励起光は、光ファイバ2Aを通って測定対象物3に接している温度センサ4に照射され、温度センサ4が発光する。ここで、温度センサ4はEr3+を付活剤とした塩化物蛍光体であり、ガラス6によって保護コーティングされている。この発生光の一部は絶縁体ミラー5によって反射され、上記発生光および反射光は光ファイバ2Bを通って分光光度計7によってその蛍光スペクトルが検出される。この検出された光出力はA/D変換器(図示せず)によりディジタル信号に変換され、その情報がコンピュータ8に入力される。
【0050】
このコンピュータ8内においては、以下の処理が行なわれる。まず、波長520〜540nmの範囲における最大の蛍光強度I1'と波長540〜560nmの範囲における最大の蛍光強度I2'の比R'の値が計算され、次にこのR'の対数であるlnR'の値が計算される。次に、このlnR'の値とあらかじめ読み出し専用メモリ9に記録されている温度特性曲線式lnR=(−△E/K)×(1/T)+lnCとから温度T'の値を算出し、この算出された温度T'の情報をディジタル信号に変換して出力する。この出力された温度T'の情報が液晶表示10に表示される。
【0051】
このような本発明の温度測定装置は、上記のような物体の表面温度だけでなく、物体内部の温度までも測定することができる。また、本発明の温度センサおよび温度測定装置は、電界下および磁界下だけでなく真空中における温度測定も可能であり、半導体およびLCDの製造プロセスに好適に用いることができる。
【0052】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0053】
【発明の効果】
上述したように本発明によれば、電界下および磁界下でも高精度に温度を測定することができ、かつ温度特性曲線の作成および温度校正を容易に行なうことができる温度センサおよびそれを用いた温度測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の温度センサの蛍光スペクトル図である。
【図2】 本発明の温度センサの蛍光スペクトルの拡大図である。
【図3】 本発明の温度センサに用いられるエルビウムイオンのエネルギ準位図である。
【図4】 本発明の温度センサの蛍光強度と温度との関係を示したグラフである。
【図5】 本発明の温度センサに用いられるツリウムイオンのエネルギ準位図である。
【図6】 本発明の温度測定装置の一例の模式的な概念図である。
【符号の説明】
1 紫外線レーザ、2A,2B 光ファイバ、3 測定対象物、4 温度センサ、5 絶縁体ミラー、6 ガラス、7 分光光度計、8 コンピュータ、9 読み出し専用メモリ、10 液晶表示。

Claims (7)

  1. マトリックスとして塩化物を含み、付活剤としてエルビウムイオンまたはツリウムイオンを含む塩化物蛍光体からなることを特徴とする温度センサ。
  2. 前記塩化物が、下記一般式(1)で表わされる希土類塩化物であることを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
    LnCl3…(1)
    [式(1)において、Lnはスカンジウム、イットリウム、ランタン、ガドリニウムおよびイッテルビウムの群より選ばれるいずれか一種の希土類元素を示す。]
  3. 前記塩化物が、下記一般式(2)で表わされる希土類複合塩化物であることを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
    AxByClz…(2)
    [式(2)において、Aはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、Bは付活剤として含まれるエルビウムイオンまたはツリウムイオンと異なる種類の希土類元素を示す。また、x、yおよびzは、それぞれ0.1≦x≦10、0.1≦y≦10および0.4≦z≦60の範囲内にある実数を示す。]
  4. 前記一般式(2)において、Aがバリウム、カリウムおよびストロンチウムの群より選ばれるいずれか一種のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、Bがスカンジウム、イットリウム、ランタン、ガドリニウムおよびイッテルビウムの群より選ばれるいずれか一種の希土類元素を示すことを特徴とする請求項3に記載の温度センサ。
  5. 前記塩化物が、ガラス状態の塩化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
  6. 前記ガラス状態の塩化物が、亜鉛、カドミウム、銅、銀、リチウム、ガドリニウム、鉛およびマンガンからなる群から選択された少なくとも一種の元素の塩化物を含むことを特徴とする請求項5に記載の温度センサ。
  7. 請求項1に記載の温度センサを励起させる手段と、温度センサの励起によって生じた蛍光スペクトルを検出する手段と、検出されたスペクトルから温度を演算する手段と、演算された温度を表示する手段とを備えた温度測定装置。
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