JP4140756B2 - 希土類アルコキシドの触媒活性評価法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、塩基触媒や不斉合成触媒の原料となる希土類アルコキシドの触媒活性評価法に関する。
【0002】
【従来の技術】
希土類アルコキシドは、有機合成に有用な塩基触媒であり、メーヤワイン−ポンドロフ−バーレー−オッペナウア反応(日本化学会編,”季刊化学総説 ランタノイドを利用する有機合成”,学会出版センター,No.37,(1998),p130;岡野多聞)等に用いられている。さらには、不斉合成触媒の原料として有用であり、希土類アルコキシドと光学活性BINOLとナトリウムターシャリーブトキシドとを反応させて得られるLa−Na−BINOL触媒は、不斉マイケル反応に有用であることが、柴崎らによって発明されている(特開平8−291178)。同様にLa−K−BINOL触媒は不斉ヒドロホスニル反応に有用であり(特開平8−325281)、La−Li−BINOL触媒は不斉マンニッヒ反応に有用である(特開平10−120668)。
【0003】
その触媒性能は、希土類アルコキシドの製法や物性により、影響されることが経験的に分かっているがその原因は究明されておらず(日本化学会編,”季刊化学総説 ランタノイドを利用する有機合成”,学会出版センター,No.37,(1998),p130;岡野多聞)、場合によっては、全く同じ合成法で合成したものでも触媒活性に差が生じることもある。希土類アルコキシドを用いた合成に携わる研究者や生産者にとって安定した品質の希土類アルコキシドの供給が必要であり、これを満たすためには希土類アルコキシドの触媒活性評価法が求められていた。
【0004】
しかし、希土類アルコキシドの触媒活性評価法について記載した文献及び特許はなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、触媒原料として用いたときに活性の高い触媒が得られた希土類アルコキシドとそうでないものをICP発光分析や1H−NMRなどの機器分析装置によって分析を行ったが、それらのデータに差を見つけられなかった。
【0006】
そこで、本発明者らは評価対象とする希土類アルコキシドを原料に触媒を調製し100ml以下のスケールにて幾つかの種類の不斉反応を試み、その反応率と不斉収率を測定したが、不斉マイケル反応、不斉ニトロアルドール反応は希土類アルコキシドの品質に鈍感であり、これらの反応では希土類アルコキシドの評価を行うことは難しかった。
【0007】
本発明は、希土類アルコキシドの品質に敏感な触媒活性を評価する方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、評価対象とする希土類アルコキシドを原料にLn−BINOL触媒を調製し、これを用いてエノンのエポキシ化反応を行いその反応率と不斉収率を測定した結果、この反応が希土類アルコキシドの品質に対して敏感なことを見いだした。
【0009】
希土類アルコキシドを一度THFに溶解した後、40℃、3時間の加熱処理を行ったものを原料に触媒を調製し、これを用いてエノンのエポキシ化反応を行い、その未反応原料量と生成物量および不斉収率を測定した。その結果、これらの処理を行うことで、反応液中の生成物量/未反応原料量は、品質によってはっきりと差が生じることを見いだした。
【0010】
すなわち本発明は、評価対象とする希土類アルコキシドLn(OR)3(Lnは希土類元素を示し、RはC1〜C5のアルキル基を示す)を水分20ppm以下のTHFに溶解した後、35〜60℃で1〜3時間の加熱処理を施し、これと化1および化2で示される
【0011】
【化1】
【0012】
【化2】
【0013】
光学活性2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフトール(以下BINOLとする)との反応生成物からなる希土類錯体触媒を調製し、これを用いて化3
【0014】
【化3】
【0015】
[式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、C1 〜 10アルキル基、芳香族基、イミダゾリル基(C1 〜 10アルキル基、芳香族基、イミダゾリル基はいずれもハロゲン原子、C1 〜 10アルキル基、芳香族基、1〜3のハロゲン原子で置換された芳香族基で任意に置換されていてもよい)]
で示されるエノンの不斉エポキシ化反応を行い、生成したエポキシエノンの量と未反応エノンの量と不斉収率を測定することにより、前記希土類アルコキシドの不斉エポキシ化反応に対する触媒活性を評価することを特徴とする希土類アルコキシドの触媒活性評価法である。
【0016】
本発明は、希土類錯体触媒が希土類アルコキシド、BINOLおよびPh3P=Oとの反応生成物からなることを特徴とする上記の希土類アルコキシドの触媒活性評価法である。
【0017】
本発明は、不斉エポキシ化反応に用いるエノンが化4で示される
【0018】
【化4】
【0019】
カルコンであることを特徴とする上記の希土類アルコキシドの触媒活性評価法である。
【0021】
本発明は、希土類アルコキシドがLa又はYbのアルコキシドであることを特徴とする上記の希土類アルコキシドの触媒活性評価法である。
【0022】
本発明は、LaのアルコキシドがLa(O−i−C 3 H 7 ) 3 であり、YbのアルコキシドがYb(O−i−C3H7)3であることを特徴とする上記の希土類アルコキシドの触媒活性評価法である。
【0023】
本発明は、不斉エポキシ化反応で得られるエポキシエノン及び未反応のエノンの量を高速液体クロマトグラフィーで測定することを特徴とする上記の希土類アルコキシドの触媒活性評価法である。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明に用いる希土類アルコキシドはSc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luのアルコキシドである。その中で特にLa,Ybのアルコキシドの触媒活性評価を良好に行うことができる。本発明の実施例はLaアルコキシドだけであるが、Ybアルコキシドも適用できる。アルコキシドのアルコキシル基炭素数は1〜5であるが、アルコキシドではイソプロポキシドが汎用的に用いられる。イソプロポキシドは市販されているので入手が容易である。
【0025】
好ましい態様は、希土類アルコキシドは溶媒に溶かし溶液として使用する。使用する溶媒はエーテル系溶媒が適用可能であるが好ましくはTHFである。溶媒中の水分の存在は正確な測定を阻害するので、脱水処理を施し水分50ppm以下とする必要がある。好ましくは水分量20ppm以下とする。
溶液の濃度は0.001〜0.5M好ましくは0.1〜0.3Mである。THF溶液を室温下で1〜30日放置するだけでも良いが、評価を迅速に行うためにはこの溶液を35〜60℃で0.5〜24時間の熱処理を施すのが好ましい。熱処理はマグネティックスターラー等で攪拌しながら行うことが好ましい。処理温度35℃以下では処理日数がかかり、60℃以上ではTHFの沸点に近くなるために密閉系での熱処理が容易でなくなる。また、処理時間が長くなり過ぎると分析結果に誤差が生じる。
【0026】
BINOLの量は希土類アルコキシドに対しモル比で1〜3倍量、好ましくは当量である。またPh3P=Oを添加する場合においては、この添加量は希土類アルコキシドに対してモル比で0.1〜10倍量、好ましくは1〜10倍量である。
触媒の調製は、前記触媒を構成する成分を添加し、溶媒中で−50〜100℃の範囲で0.5〜4時間保持することにより行う。溶媒はエノンのエポキシ化反応に不活性な溶媒であればあらゆる溶媒が適用可能であるが、エーテル系の溶媒、特にTHFが好ましい。溶媒の使用量は希土類アルコキシド1mmolに対して10〜1000mlである。
【0027】
上記触媒を反応系内で触媒溶液として調製したのちエノンのエポキシ化反応を行う。反応は、触媒溶液に酸化剤およびエノン類を添加して反応を行うか、または、調製した触媒に酸化剤を添加、攪拌し次いで不足の酸化剤およびエノン類を添加して反応を行ってもよい。エノンの使用量は、評価対象とする希土類アルコキシドに対してモル比で4〜1000倍量である。
【0028】
本発明に酸化剤として使用するターシャリーブチルハイドロパーオキシド(以下TBHPと表す)は、市販のデカン等の溶液に溶液をそのまま用いても良いし、70%または90%水溶液よりトルエン抽出し、硫酸マグネシウム等で乾燥した後、本発明に使用しても良い。
また、クメンハイドロパーオキシド(以下CMHPと表す)は市販の80重量%品を精製したのち使用しても良いし、精製することなくそのまま使用しても良い。酸化剤の使用量は、使用するエノン量に対しモル比で当量以上を添加する。
【0029】
本発明で使用する反応の反応温度は、評価対象とする希土類アルコキシドの種類や使用するエノン類の基質によって異なるが、通常−50〜100℃の範囲で行う。反応時間は15分〜24時間である。
また、必要に応じて反応系内にゼオライトを使用しても良い。ゼオライトの使用量は、希土類アルコキシドに対してあらゆる量比で使用が可能である。ゼオライトの種類としてはモレキュラーシーブ3A,4A,5A,13X,Y,L型等、様々な種類のものが適用可能であるが、このうちモレキュラーシーブ4Aが好ましい。
【0030】
反応停止は、反応液を10℃以下に冷却するか、反応系内にある触媒を失活させることにより行う。これらの操作を組み合わせても良い。特に限定しないが触媒の失活は、クエン酸水溶液の添加によって行える。反応停止後、有機溶媒で抽出、乾燥濃縮、カラムクロマトグラフィーで精製することにより未反応エノンと光学活性エポキシエノンの混合物を得る。
【0031】
上記の混合物をHPLC等の分析装置によって未反応エノン量(Sm)、エポキシエノン(Pr)の含有量および不斉収率を測定する。触媒活性の高い希土類アルコキシドであればSm/(Pr+Sm)の値は小さいが、触媒活性の低い希土類アルコキシドでは大きな値を示す。また、不斉収率は触媒活性の高い希土類アルコキシドでは高い値を示すが、触媒活性の低いものでは低い値を示す。この値は、評価対象とする希土類アルコキシドと使用するエノン類の基質によって大きく変化する。
【0032】
本発明に用いられるエノンの例として具体的な化合物を以下に記す。
メチルビニルケトン、trans−3−ペンテン−2−オン、trance−3−ヘキセン−2−オン、4−メチル−1−[(2E)−1−1−オキソ−3−(4−ブロモフェニル)−2−プロペニル]−1H−イミダゾール、カルコン、trans−1−フェニル−3−(4−クロロフェニル)−2−プロピレン−1−オン等があげられる。
【0033】
特に好ましくは式(3)で示すカルコンである。カルコンは一般に市販されている化合物で入手が容易である。また、カルコンおよびエポキシカルコンは、HPLCによる検出が容易であり、本発明に使用しやすい物質である。
【0034】
未反応エノンおよびエポキシエノンの含有量および不斉収率を測定する分析機器としては、ガスクロマトグラフやHPLC等が適用可能であるが、不斉収率の測定の容易さからHPLCを用いることが好ましい。
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【0035】
【参考例1】
エノンの不斉エポキシ化反応による希土類アルコキシドの触媒活性評価
評価対象として用いるランタントリイソプロポキシド(以下La(O−i−Pr)3とする)にはロットAとロットBを用いた。ロットAとロットBは全く同じ合成法で合成されたLa(O−i−Pr)3であり外観や色合いにはほとんど差はなかった。また、二つのロットのLa(O−i−Pr)3の重ベンゼン溶液を1H−NMRで分析したがそのデータにほとんど差は無かった。
【0036】
まず、La(O−i−Pr)3をグローブボックス内にて約1g秤量し、減圧下で加熱乾燥した100mlのナスフラスコに入れ、三方コックにて栓をした後に外に取りだした。フラスコを良く氷冷しTHFをLa濃度が0.2Mになる量をゆっくり滴下し、5分間攪拌の後、室温にて更に5分間攪拌した。THFは市販の脱水THFを用いるか、または、ベンゾフェノン−ケチルより蒸留したものを用いた。蒸留したものを用いる場合は、室温まで冷却してから使用した。この溶液をLa(O−i−Pr)3溶液として保存した。
【0037】
(S)−BINOL(8.6mg,0.03mmol)、Ph3As=O(9.7mg,0.03mmol)、MS−4A(150mg)を減圧下で加熱乾燥した試験管に秤量し、減圧下で10分ほど乾燥した。これにTHF(3.0ml)を加え攪拌の後La(O−i−Pr)3のTHF溶液(0.15ml,0.03mmol)を室温(22〜23℃)にて滴下し、そのまま室温にて50分間攪拌することにより(S)−La−BINOL−Ph3As=O錯体のTHF溶液を得た。
【0038】
(S)−La−BINOL−Ph3As=O錯体のTHF溶液に対して、Arガス雰囲気下、TBHP(0.09ml,0.45mmol,5Mデカン溶液)を室温にて滴下しさらに10分間攪拌する。得られた黄白色から黄色の反応液に対して化5の化合物
【0039】
【化5】
【0040】
(43.7mg,0.15mmol)を添加し、室温にて攪拌した。70分後メタノール(0.15ml)を反応液に加えて、そらに4時間攪拌した後に、反応液に2%クエン酸水溶液を添加、水層を酢酸エチルにて抽出、有機層を飽和食塩水で洗浄し硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/40)により精製することで対応するエポキシエステル体を得た。なお光学純度はHPLC(DAICELCHIRALCEL OD,ヘキサン/イソプロパノール=9/1,移動相流速0.5ml/分、紫外吸収検出器254nm)により決定した。
【0041】
ロットAおよびロットBを用いた反応の化学収率と不斉収率は下記のようであった。
ロットA 化学収率:76.2% 不斉収率:94.6%ee
ロットB 化学収率:81.1% 不斉収率:94.1%ee
エノンの不斉エポキシ化反応を行うことによって、ロットAのアルコキシドの触媒活性はロットBのものよりも劣っていることが確認できた。
【0042】
【比較例1】
不斉ニトロアルドール反応によるLa(O−i−Pr)3の触媒活性評価
この実験においてもロットAとロットBのLa(O−i−Pr)3を用いた。
La(O−i−Pr)3溶液の調製法は参考例1と同様の方法で行った。
(S)−BINOL(17.2mg,0.06mmol)を減圧下で加熱乾燥した試験管に秤量し、試験管ごと減圧下(約2mmHg)45℃のオイルバス中にて4時間乾燥させた。乾燥終了後、室温まで放冷した後、THF(0.5ml)を入れた。反応液を氷冷した後、La(O−i−Pr)3溶液(0.1ml,0.02mmol)を入れた。氷浴をはずし、室温にて5時間攪拌する。その後、再び反応液を氷冷し、ノルマルブチルリチウム(44.2μl,0.06mmol,1.36M,ヘキサン溶液)を滴下した。反応液を室温にて24時間攪拌した後、H2OのTHF溶液(20μl,0.02mmol,1.0M THF溶液)を滴下して、La−Li−BINOL錯体を調製した。
【0043】
上記の方法で調製したLa−Li−BINOL錯体をそのままニトロアルドール反応に使用した。反応容器を−50℃に冷却し、ニトロメタン(325μl,6mmol)をゆっくり滴下した。−50℃にて1時間攪拌した後にシクロヘキサンカーボキサイハイド(72.7μl,0.6mmol)をゆっくり滴下した。−50℃にて20時間攪拌した後、1M塩化水素水溶液を1.5ml加え、酢酸エチルにて抽出、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムにて乾燥した。濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=6/1)にて分離しHPLCにて光学純度を決定した(DAICEL CHIRALPAKAD−H,ヘキサン/イソプロパノール=9/1,移動相流速0.6ml/分,紫外吸収検出器230nm)。
【0044】
ロットAおよびロットBを用いた反応の化学収率と不斉収率は下記のようであった。
ロットA 化学収率:92% 不斉収率:91.5%ee
ロットB 化学収率:91% 不斉収率:92.1%ee
ロットAとロットBを用いた不斉ニトロアルドール反応の化学収率および不斉収率の差は実験誤差以下であり、ロットAとロットBの触媒活性の差を判断することはできなかった。
【0045】
【比較例2】
不斉マイケル反応によるLa(O−i−Pr)3の触媒活性評価
この実験においてもロットAとロットBのLa(O−i−Pr)3を用いた。
La(O−i−Pr)3溶液の調製法は参考例1と同様の方法で行った。
減圧下、ヒートガンで試験管を加熱乾燥後、三方コックをつけてArガスでその内部を満たす。不斉配位子(S,S)−linked BINOL(95.88w/w%,16.0mg,0.025mmol)を秤量し、室温にてTHF(ベンゾフェノン−ケチルより蒸留したばかりのものを用いた)0.17mlを加え溶解した。−78℃に冷却した後、La(O−i−Pr)3溶液(0.125ml,0.025mmol)を加えて−78℃で5分間攪拌した。さらに室温にて2時間攪拌の後に、溶媒を減圧留去し、2時間減圧下で乾燥させ、La−linked−BINOL錯体粉末を得た。
【0046】
La−linked−BINOL錯体をArガス雰囲気下ドライアイス−アセトンにより−78℃に冷却し、DME(0.375ml,ベンゾフェノン−ケチルより蒸留したばかりのものを用いた)に溶解させた。そこへ2−アリール−マロン酸ジベンジルエステル(1.0M THF溶液,0.25ml,0.25mmol)を加えた。さらに2−シクロペンテン−1−オン(21μl,0.25mmol)を加えて、その温度で5分間攪拌した。さらに4℃にて83時間攪拌した後、反応液を酢酸エチルで希釈し、塩化アンモニウム水溶液で洗浄した後に、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。
減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/5)により、マイケル成績体を無色油状物質として得た。なお、光学純度はHPLC(DAICEL CHIRALCEL OJ−H,ヘキサン/イソプロパノール=9/1,移動相流速0.8ml/分,紫外吸収検出器210nm)により決定した。
【0047】
ロットAおよびロットBを用いた反応の化学収率と不斉収率は下記のようであった。
ロットA 化学収率:54% 不斉収率:99.1%ee
ロットB 化学収率:55% 不斉収率:99.5%ee
ロットAとロットBを用いた不斉マイケル反応の化学収率および不斉収率の差は実験誤差以下であり、ロットAとロットBの触媒活性の差を判断することは出来なかった。
【0048】
【参考例2】
エノンの不斉エポキシ化反応による希土類アルコキシドの評価▲2▼
この実験においてもロットAとロットBのLa(O−i−Pr)3を用いた。
La(O−i−Pr)3溶液の調製法は参考例1と同様の方法で行ったものを室温、遮光状態で20日間放置した後、使用した。
(S)−BINOL(7.2mg,0.025mmol)、Ph3P=O(21.1mg,0.075mmol)、MS−4A(500mg)を30mlの試験管に入れ、減圧下で10分程度乾燥させた後、THF(2.5ml)を加え30分攪拌し、前述のLa(O−i−Pr)3溶液を0.125mlを添加しさらに1時間攪拌し、La−BINOL−Ph3P=O錯体を得た。
【0049】
このLa−BINOL−Ph3P=O錯体のTHF溶液にTBHP(5Mデカン溶液,0.06ml,0.3mmol)を室温にて滴下し、さらに20分間攪拌した後に0℃で10分間攪拌した。得られた黄色の液体に対して原料化合物(化5)(29.1mg,0.1mmol)を添加して0℃にて攪拌した。
30分の反応後2%クエン酸溶液を添加、水層を酢酸エチルにて抽出、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。得られた残渣にメタノール(3.0ml)、ナトリウムメトキシド(10.8mg)を添加し室温で10分間ほど反応させた後塩化アンモニウムを添加、水層を酢酸エチルにて抽出、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥の後、溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(アセトン/ヘキサン=1/10)により精製することで、対応するエポキシエステル体と未反応原料の誘導体の混合物を得た。
未反応原料誘導体および生成物量、光学純度はHPLC(ヘキサン/イソプロパノール=9/1、移動相流速:0.5ml/分、検出波長254nm)により決定した。
【0050】
ロットAおよびロットBを用いた反応のエポキシエステル体および未反応原料の誘導体のHPLC検出値と不斉収率を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
ロットAを用いた反応液中の未反応原料誘導体はHPLC検出値にして86.4%を示しているのに対し、ロットBを用いた反応液中の未反応原料誘導体のHPLC検出値29.7%であった。このことから、ロットAに比べロットBの方が触媒原料としたときに高い活性を与えることが判断できる。
【0053】
【比較例3】
エノンの不斉エポキシ化反応による希土類アルコキシドの評価▲3▼
La(O−i−Pr)3溶液の放置時間が2日であることを除いては参考例2と同じ方法で実験を行った。
ロットAおよびロットBを用いた反応のエポキシエステル体および未反応原料の誘導体のHPLCの検出値と不斉収率を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
ロットA、ロットBを用いた反応の未反応原料誘導体のHPLC検出値はそれぞれ31.0%と36.0%であった。この実験においては、検出値の誤差が10%程度生じるので、両者の値はほぼ同じと考えられる。この評価条件ではロットAとロットBの触媒活性の差を判断することは出来なかった。
【0056】
【実施例1】
加熱処理の効果
この実験においてもロットAとロットBのLa(O−i−Pr)3を用いた。
La(O−i−Pr)3溶液の調製法は参考例1と同様の方法で行ったものを準備し、これを40℃で1、3、16時間攪拌し劣化処理を行った。同じ条件で処理をしたロットA、ロットBを原料に触媒を調製し、これを用いた反応を同時に開始した。反応は下記のようにして行った。
La−BINOL−Ph3P=O錯体のTHF溶液にTBHP(0.06ml,0.3mmol,5Mデカン溶液)を室温にて滴下し、さらに30分間攪拌した。得られた黄色の溶液に対して化合物(化5)を(29.1mg,0.1mmol)を添加して室温にて攪拌した。
反応を開始してから10分おきに反応溶液の一部をキャピラリーでサンプリングし、含有する未反応原料、生成物の存在を薄層クロマトグラフ(以下TLCとする)(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=1/3〜9)で確認した。原料が示すスポットが消失する様子から反応速度を簡易的に確認した。
実験の結果は表3のようになった。
【0057】
【表3】
【0058】
40℃、1〜3時間の加熱処理を行うことで、溶液を室温下で20日間の放置を行わなくてもロットAとロットBの触媒活性の差を確認することが出来た。
【0059】
【実施例2】
カルコンの不斉エポキシ化反応によるLa(O−i−Pr)3の触媒活性評価
(S)−BINOL(7.2mg,0.025mmol)、MS−4A(500mg)を30mlの試験管に入れ10分程度乾燥させた後、関東化学製脱水THF(2.5ml)を加え30分攪拌し、実施例1の方法で劣化処理(40℃、3時間)をしたLa(O−i−Pr)3溶液(0.125ml,0.025mmol)を添加しさらに1時間攪拌しLa−BINOL錯体を調製した。これにTBHP(0.15ml,0.75mmol,5Mデカン溶液)を室温にて滴下し、20分間攪拌し、さらに0℃で10分間攪拌した。得られた黄色の溶液に対してカルコン(104.0mg,0.5mol)を添加して0℃にて攪拌し反応を開始した。
【0060】
反応を開始してから、30分の反応後2%クエン酸溶液を添加、水層を酢酸エチルにて抽出、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。
これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(アセトン/ヘキサン=1/10)により精製することで、未反応のカルコンとエポキシカルコンの混合物を得た。
未反応原料および生成物量、光学純度はHPLC(ヘキサン/イソプロパノール=98/2,移動相流速:1.0ml/分、DAICEL CHIRALCEL OD,検出波長254nm)により決定した。HPLCデータを図1に示した。
未反応カルコン、エポキシカルコン(マイナー)、エポキシカルコン(メジャー)はそれぞれ14分40秒、17分50秒、19分20秒付近に検出された。
ロットAおよびロットBを用いた反応の未反応カルコンおよびエポキシカルコンのHPLC検出値と不斉収率は表4のようであった。
【0061】
【表4】
【0062】
ロットAを用いた反応液中の未反応カルコンはHPLC検出値にして24.9%を示しているのに対し、ロットBを用いた反応液中の未反応カルコンのHPLC検出値は13.1%であった。このことから、ロットAに比べロットBの方が触媒原料としたときに高い活性を与えることが判断できる。
【0063】
【発明の効果】
本発明によれば、希土類アルコキシドの触媒活性を敏感に評価することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】カルコンの不斉エポキシ化反応を行った反応液中のエポキシカルコン(メジャー、マイナー)および未反応カルコンの含量をHPLCによって測定した図である。
Claims (6)
- 評価対象とする希土類アルコキシドLn(OR)3(Lnは希土類元素を示し、RはC1〜C5のアルキル基を示す)を水分20ppm以下のTHFに溶解した後、35〜60℃で1〜3時間の加熱処理を施し、これと化1
で示されるエノンの不斉エポキシ化反応を行い、生成したエポキシエノンの量と未反応エノンの量と不斉収率を測定することにより、前記希土類アルコキシドの不斉エポキシ化反応に対する触媒活性を評価することを特徴とする希土類アルコキシドの触媒活性評価法。 - 希土類錯体触媒が希土類アルコキシド、BINOLおよびPh3P=Oとの反応生成物からなることを特徴とする請求項1記載の希土類アルコキシドの触媒活性評価法。
- 希土類アルコキシドがLa又はYbのアルコキシドであることを特徴とする請求項1〜3記載の希土類アルコキシドの触媒活性評価法。
- LaのアルコキシドがLa(O−i−C 3 H 7 ) 3 であり、YbのアルコキシドがYb(O−i−C3H7)3であることを特徴とする請求項4記載の希土類アルコキシドの触媒活性評価法。
- 不斉エポキシ化反応で得られるエポキシエノン及び未反応のエノンの量を高速液体クロマトグラフィーで測定することを特徴とする請求項1〜5記載の希土類アルコキシドの触媒活性評価法。
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