JP4128084B2 - 試料の特性化方法およびその装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、流体中に存在する微量な粒子を特性化または同定するための方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヒトゲノム解析が終了し、DNA情報に基づく診断や創薬スクリーニングのために、微量に発現したRNA、タンパク質などを網羅的に検出する手法のニーズが急増している。
【0003】
このような手法として、抗原抗体反応を利用するアフィニティクロマトグラフィー法があり、溶液中の微量タンパク質を検出することができる。しかし、設定した抗体に反応する物質しか検出同定できないこと、および実際の操作には非常に熟練した操作者が要求されることから、タンパク質の網羅的検出に適切であるとはいえない。
【0004】
誘電泳動特性を決定することによって、流体中の特定の種類の粒子の存在および/または相対濃度を識別する方法およびそのための装置が報告されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、多重電極アレイが収容されたチャンバ内に試料を注入し、内部の電極を同時に異なる周波数で励起している。このチャンバ内に収容された多重極アレイは、櫛状の一連の離間した電極からなり、その電極の先端部は共通設置電極の近くに配置されているため、注入された試料は各電極間の移動が自在に可能である。したがって、単一種類からなる試料がチャンバに注入され、各電極に異なる一連の誘電泳動電界が同時に形成される場合、試料液中の粒子はその誘電特性に応じた1つの電極に選好的に集結することになる。この特定周波数を異なる粒子タイプに対する特徴的周波数とし、例えば、溶媒から主要な粒子を誘電泳動により分離するために利用することができる。また、単一種に精製されている試料の均質度を検査することもできる。あるいは、注入試料が混合物の場合は、混合物中に存在するある種類の粒子に対する適切な周波数でのデータおよび粒子カウント数から、既知の粒子の混合物の相対濃度を決定することができる。しかし、これらはいずれも1周波のみによる特性化であるため、その精度に問題がある。
【0005】
これとは別に、四重極電極による誘電泳動力とキャピラリー内の流速分布の複合効果を利用した誘電泳動法が報告されている(特許文献2参照)。誘電率、粒径などのパラメータにより、電荷を持たない粒子や表面電荷が同じである粒子を効率よくかつ簡便な手段で、検出、計測、選別、または分離できることを示している。この方法は、従来の電気泳動による粒子の分離の限界を超えること、つまり、電気泳動では不可能なサイズの粒子(例えば、40kbp以上のDNA)の分離、電荷がない物質の分離、あるいは表面電荷が同じ物質の検出、計測、選別、または分離を主目的としており、粒子の特性化や同定を目的としたものではない。このキャピラリーを使用して粒子の特性化を行うためには、周波数を変えた測定を繰り返し実施する必要があり、多大な手間と時間を要する。
【0006】
【特許文献1】
特表2001−500252号公報
【特許文献2】
特開2001−242136号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、種々の粒子を網羅的におよび高精度に特性化するための手段を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、キャピラリー内に層流が形成された溶媒フローを導入する工程;該層流の中心軸に対して対称に不均一電界を発生させる工程;該層流が形成された溶媒フローに単一成分からなる試料を注入する工程;該注入した試料を該層流の中心軸に集結させる工程;該試料が所定の距離を移動した時点における該試料の該中心軸からの距離を変位量として測定する工程;および、該試料の変位量を、該不均一電界を発生させるための高周波電界周波数の関数としてスペクトル化する工程、を含む、試料特性化方法を提供する。
【0009】
好適な実施態様では、上記キャピラリーは複数設けられ、それぞれのキャピラリー内の層流の中心軸に対して対称にそれぞれ異なる周波数の不均一電界が形成されている。
【0010】
より好適な実施態様では、多重極電極により上記溶媒フローの方向に均一な電界が形成されている。
【0011】
さらに好適な実施態様では、上記試料を注入する工程において、インクジェットデバイスが用いられる。
【0012】
より好適な実施態様では、上記溶媒フローの導入は、溶媒入口と溶媒出口とを有する管と、溶媒溜めから溶媒を該入口まで導くように該管の入口側に設けられた導電性配線と、該出口から該溶媒を排出させるように該管の出口側に設けられた電気浸透流発生用電極とを備えた、開放型フロー形成デバイスによって行われる。
【0013】
本発明はまた、キャピラリー;該キャピラリーに設けられ該キャピラリー内に層流を形成し得る溶媒フロー形成手段;該キャピラリーの内部または外部に設けられ、該層流の中心軸に対して対称になるように不均一電界を発生させるための不均一電界発生手段;該キャピラリー内に形成された溶媒フローに試料を注入する手段;および、該溶媒フロー中の該試料の中心軸からの距離を変位量として測定する手段を備えた、試料特性化装置を提供する。
【0014】
好適な実施態様では、上記装置は、さらに、上記注入した試料を上記層流の中心軸に集結させる手段を備える。
【0015】
より好適な実施態様では、上記試料は単一成分からなる試料であり、そして上記装置は、該試料の変位量を、該不均一電界を発生させるための高周波電界周波数の関数としてスペクトル化する手段をさらに有する。
【0016】
さらに好適な実施態様では、上記層流に試料を注入するための手段はインクジェットデバイスである。
【0017】
より好適な実施態様では、上記キャピラリーは複数設けられ、それぞれのキャピラリーに異なる周波数の不均一電界が形成され得る。
【0018】
好適な実施態様では、上記不均一電界発生手段は多重極電極であり、上記溶媒フローの方向に均一な電界を形成し得る。
【0019】
さらに好適な実施態様では、上記溶媒フロー形成手段は、溶媒入口と溶媒出口とを有する管と、溶媒溜めから溶媒を該入口まで導くように該管の入口側に設けられた導電性配線と、該出口から該溶媒を排出させるように該管の出口側に設けられた電気浸透流発生用電極とを備えた、開放型フロー形成デバイスである。
【0020】
本発明はさらに、キャピラリー内に層流が形成された溶媒フローを導入する工程;該層流の中心軸に対して対称に不均一電界を発生させる工程;該層流が形成された溶媒フローに単一の未知物質からなる試料を注入する工程;該注入した試料を該層流の中心軸に集結させる工程;該試料が所定の距離を移動した時点における該試料の該中心軸からの距離を変位量として測定する工程;該試料の変位量を、該不均一電界を発生させるための高周波電界周波数の関数としてスペクトル化する工程;および、得られたスペクトルを、上記のいずれかの方法によって予め特性化された既知物質のスペクトルのデータベースと照合する工程、を含む、試料の同定方法を提供する。
【0021】
本発明はまた、キャピラリー;該キャピラリーに設けられ該キャピラリー内に層流を形成し得る溶媒フロー形成手段;該キャピラリーの内部または外部に設けられ、該層流の中心軸に対して対称になるように不均一電界を発生させるための不均一電界発生手段;該キャピラリー内に形成された溶媒フローに単一の未知物質からなる試料を注入する手段;該溶媒フロー中の該試料の中心軸からの距離を変位量として測定する手段;該試料の変位量を、該不均一電界を発生させるための高周波電界周波数の関数としてスペクトル化する手段;および、得られたスペクトルを、予め特性化された既知物質のスペクトルのデータベースと照合する手段を備えた、試料同定装置を提供する。
【0022】
例えば、多数のキャピラリーをワンチップ化し、各キャピラリーに異なる周波数の電界を形成し、各キャピラリー間の粒子の移動をなくすため、独立に溶媒のフローを作製し、かつ、試料を独立に注入することで、誘電泳動特性に基づく周波数スペクトルを一度に測定することが可能となる。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明の試料特性化装置は、図1(a)の構成模式図および(b)の(a)におけるA−A’断面図に基づいて説明すると、キャピラリー10;該キャピラリーに設けられ該キャピラリー内に層流を形成し得る溶媒フロー形成手段;該キャピラリーの内部または外部に設けられ、該層流の中心軸に対して対称になるように不均一電界を発生させるための不均一電界発生手段50(および30);該キャピラリー内に形成された溶媒フローに試料を注入する手段20;および、該溶媒フロー中の該試料の中心軸からの距離を変位量として測定する手段40を備える。キャピラリーが複数設けられ、そしてそれぞれのキャピラリーに異なる周波数の不均一電界が形成され得ることがより好ましい。さらに、複数のキャピラリーが1つの基板上に構成され、ワンチップ化されていることがより好ましい。
【0024】
キャピラリー内に層流が形成された溶媒フローが導入される。溶媒フローは、どのような溶媒フロー形成手段によって導入してもよいが、電気浸透流ポンプが好ましい。特に、開放型フロー形成デバイスを用いることが好ましい。開放型フロー形成デバイスを図2に基づいて説明する。この開放型フロー形成デバイス100は、溶媒入口104と溶媒出口106とを有する管(キャピラリー10)と、溶媒溜めから溶媒を該入口104まで導くように該管の入口側に設けられた導電性配線102と、該出口106から該溶媒を排出させるように、層流の流れの上流側と下流側とで対を形成するように該管の出口側に設けられた電気浸透流発生用電極108とを備える。このような配線102と電極108とを備えることにより、誘電泳動サイフォン現象によって溶媒を管に導入し、そして電気浸透流現象によって管内に導入された溶媒にフローを形成させることができる。この開放型フロー形成デバイスは、脈流を発生させることなく、層流を形成し得る。
【0025】
ここで、誘電泳動サイフォン現象とは、ある溶媒に2本の配線を差込み、この配線に交番電場を印加すると溶媒が配線間に移動する現象である。この配線を溶媒溜めから溶媒入口(キャピラリーホール)へガイドすることにより、キャピラリーに試料を注入することができる。また、溶媒にフローを形成させる駆動力として電気浸透流現象を利用する。このための流路と電圧印加のための配線は、キャピラリーの溶媒出口側に設置される。
【0026】
電極を備えるキャピラリーヘの配線は、エッチング法により作製できる。配線の材料は、金、アルミニウム、白金などの導電性物質であり得る。キャピラリーホールと多重極電極からなるキャピラリー電極とを、単独または多数組み合せて非導電性材料に形成してチップ化した後、チップ上に金属層を蒸着させ、エッチングによって、必要な電極配線パターンを形成する。また、別の方法として、例えば、フォトレジストのような適当な材料を用いて、金属層を付着させる前に基体上にパターンマスクを形成し、次にパターンマスクを除去することによって付着金属の不要部分を除去して、基体上に直接付着した場所にのみ金属層を残す「リフト−オフ方法」によっても形成することができる。
【0027】
例えば、銅、金、アルミニウムなどの電極材料を積層した基板上にレジストを塗布し、電極フォトマスクをレジスト上に積層する。次いで光照射してレジストを露光、現像し、電極パターン以外の部分のレジスト膜を溶解させる。この基板をエッチング液に浸漬して電極パターン面をエッチングし、残った電極パターン面上のレジストを除去する。なお、レジストは光が露光された部分を除去するポジレジストと、露光されていない部分を除去するネガレジストのいずれであってもよい。
【0028】
キャピラリー内に導入される溶媒の導電率は、13mS/cm(リン酸緩衝化生理食塩液の濃度に相当)以下、好ましくは1mS/cm以下である。溶媒の導電率が高いと、電圧印加に伴い溶媒中に電流が流れることによってジュール熱が発生し、溶媒が沸騰する可能性がある。したがって、通常、導電率が10mS/cm以下、より好ましくは200μS/cm以下の範囲となるように適宜調整して用いる。
【0029】
複数のキャピラリーを備える場合、排出された溶媒(試料を含む)を再循環させないために、排出後の試料を集めるための排出溜めを設ける。多数のキャピラリーを1つの電気浸透ポンプで引くと、電気浸透ポンプから各キャピラリーまでの距離が異なるために、必然的に各キャピラリーの溶媒フロー速度がばらつく。このため、各キャピラリーには独立に配線した電気浸透ポンプを設置すべきである。
【0030】
本発明の装置による試料の特性化は、誘電泳動現象に基づく。すなわち、試料を外部からの不均一な電界中に置くことによって試料を分極させ、その分極電荷と外部電界との相互作用を利用する。そのため、本発明の装置は、キャピラリーの内部または外部に、不均一電界発生手段として電極を備える。
【0031】
キャピラリーホールの形状は、円形、楕円形、または多角形でもよく、その形状は特に限定されない。キャピラリーの内径は、通常、100nm〜1mmであり、好ましくは10μm〜100μmである。
【0032】
また、キャピラリー内に設けられる電極自体の幅も、キャピラリーの内径に応じて、太くても、ワイヤーのように細くても差し支えない。負の誘電泳動力を受ける試料が集合する部位およびその上下方向に電極が存在しないような電極構造をとればよい。電極の形状は、電極間に空間的に不均一な電界を形成し得るものであればよい。電極数は、4重極に限らず、2重極や8重極でもよい。各電極の断面形状は、その電極断面の境界がラプラス方程式を満足する関数f(x,y)で表されるように形成されていることが好ましい。例えば、4重極、6重極、および8重極の場合、それぞれ、f(x,y)は、a(x2−y2)+bxy、a(x3−3xy2)+b(y3−3x2y)、およびa(x4−6x2y2+y4)+b(x3y−xy3)で表される。ここで、aおよびbは定数である。具体的には、例えば4重極の場合は、ほぼ双曲線状であることが好ましい。
【0033】
本発明の試料特性化装置に使用される電極は、例えば、炭素や貴金属の導電性物質からなり、その構造は誘電泳動力が溶媒フローに垂直な方向に不均一電場を生じるものであればよい。また、溶媒フローの方向に均一な電界を形成し得ることが好ましい。電極の直径は分析すべき粒子に応じて異なる。通常、直径100nm〜1mmであり、好ましくは10μm〜100μmである。電極と電極との間の溝の間隔は、微細加工精度に依存し、通常500μm以下0.1μm以上、好ましくは50μm以下1μm以上である。各キャピラリーに配置された多重極電極の直径および間隔は、例えば、ウイルス、プリオン、タンパク質、DNAのような生物粒子種、被覆されたラテックスビーズのような化学的活性粒子などの、試料に含まれる測定対象物質に応じて変更することも可能である。電極間距離が測定対象物質のサイズに比べて著しく大きいと、十分な電界強度の不均一電界を形成することができない。
【0034】
同一の電極構造の場合でも、発生する電界の周波数、試料(測定対象物質および媒体)の導電率や誘電率の違いによって、測定対象物質がキャピラリーを通過する時点でのキャピラリーの中心軸からの変位が異なる。そのため、試料に応じた印加周波数および電圧に応じた電極構造を決定する。あるいは、電極構造に合わせて、周波数などを変化させることによって、キャピラリーの長さで決定され得るダイナミックレンジを広げることもできる。
【0035】
キャピラリー内に形成される電界の強度は、通常3.5MV/m以下、好ましくは1.0MV/m以下である。印加周波数は通常100Hz〜10MHz、好ましくは1kHz〜10MHzである。本発明において形成される電界は、直流電界および交流電界のいずれでもよいが、交流電界が好ましい。電界強度を強くすると、発熱により分析が困難になる場合がある。このような可能性がある場合には、電極部分を適宜冷却するなどすればよい。
【0036】
代表的な四重極電極の場合、印加する交流電圧は、通常2〜90V、好ましくは2〜40Vであり、そして周波数は、通常1kHz〜10MHz、好ましくは1kHz〜1MHzである。
【0037】
試料の注入は、後述のように試料がキャピラリーホールの中心に注入されるように行う。しかし、多少のばらつきがあるのが通常である。そこで、注入された試料を、確実にキャピラリーホールの中心に配置させるために、電極に高周波を印加して誘電泳動現象によって中心軸に集結させることが好ましい。したがって、本発明の装置は、注入した試料を該層流の中心軸に集結させる電気的保持手段をさらに備えていてもよい。この電気的保持のためには、キャピラリー全長の上部約1/4の部分を使用することが好ましい。なお、キャピラリーの長さは、通常、約1mm程度である。
【0038】
本発明の試料特性化装置は、層流に試料を注入するための手段を備える。注入手段は、キャピラリーホールの中心に試料を注入し得るのであればどのようなものであってもよく、インクジェットデバイスが好ましい。インクジェットデバイスの吐出口は、キャピラリーホールの上部に配置され、その位置は、層流の中心に試料を注入できるように調整される。インクジェットデバイスを用いると、吐出口を溶媒に浸漬させず試料を正確に注入できるので、層流を形成した溶媒フローを乱すことがない。
【0039】
溶媒フローに注入された試料は、フローに沿って流されながら、まず、キャピラリー中心に位置した後、所定の周波数が印加される。試料は作用する誘電泳動力の強さに応じてフローの中心から電極に向かって移動を始める。試料は、電極に吸着するのを防止するために、キャピラリーの中心から半径の約3/4までの範囲内を移動させることが好ましい。
【0040】
本発明の試料特性化装置は、溶媒フロー中の試料の中心軸からの距離を変位量として測定する手段を備える。測定手段は、キャピラリー通過時の試料の変位を検出できるものであればよく、例えば、電荷結合デバイス(CCD)カメラ、共焦点レーザー顕微鏡、蛍光顕微鏡などが挙げられる。これらのような検出デバイスをキャピラリーが設けられているチップの下部に配置し、キャピラリー内または出口を観察する。また、通常の光学顕微鏡を用いた場合も、キャピラリー出口に焦点を合わせ、試料の焦点が合った時間における試料のキャピラリー中心からの位置を検出することが可能である。フローのばらつきに起因したばらつきを補正するために、試料中に既知の検出可能な物質を内部標準として添加してもよい。
【0041】
これらのデバイスにより測定された変位量は、キャピラリーへの印加周波数と共にコンピュータに記憶される。コンピュータは、変位量を、不均一電界を発生させるための高周波電界周波数の関数としてスペクトル化する手段である。スペクトル化するためには、種々の周波数によるデータが必要であるため、同時に異なる周波数における変位量が測定可能な複数のキャピラリーが備えられている装置を用いること好ましい。得られたデータは、周波数依存性を示す誘電泳動スペクトルとして出力され得る。
【0042】
複数のキャピラリーのそれぞれに印加した種々の周波数とそのキャピラリーを流れ出た試料のキャピラリーの中心軸からの変位量とを、データとしてコンピュータに取り込むことにより、試料の誘電特性を示した周波数スペクトルを得ることができる。種々の物質について取得したデータをコンピュータによって集積し、データベース化することも可能である。
【0043】
未知物質を含む試料について誘電泳動スペクトルを測定した場合、得られたスペクトルを、コンピュータを用いてこのデータベース中の既知物質の周波数スペクトルと照合することにより、試料の同定を行うことができる。本発明の試料同定装置は、このような照合のための手段を備えている。
【0044】
本発明の試料特性化方法は、キャピラリー内に層流が形成された溶媒フローを導入する工程;該層流の中心軸に対して対称に不均一電界を発生させる工程;該層流が形成された溶媒フローに単一成分からなる試料を注入する工程;該注入した試料を該層流の中心軸に集結させる工程;該試料が所定の距離を移動した時点における該試料の該中心軸からの距離を変位量として測定する工程;および、該試料の変位量を、該不均一電界を発生させるための高周波電界周波数の関数としてスペクトル化する工程を含む。好ましくは、上記の試料特性化装置を用いて行われ得る。
【0045】
上記のように、本発明の試料特性化方法は、誘電泳動現象に基づく。すなわち、試料を外部からの不均一な電界中に置くことによって試料を分極させ、その分極電荷と外部電界との相互作用を利用する。したがって、本発明の方法は、試料の電荷有無を問わず、そして細胞などの生物粒子および無機物質の粒子を含むあらゆる粒子に対して適用することができる。
【0046】
本発明の特性化方法を適用可能な試料は、以下に挙げる物質または粒子を単一成分として含むことが好ましい:シリカ、アルミナなどの無機金属酸化物;金、チタン、鉄、ニッケルなどの金属;シランカップリング処理などの操作によって官能基が導入された無機金属酸化物;アガロース、セルロース、不溶性デキストランなどの多糖類;ポリスチレンラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、アクロレイン−エチレングリコールジメタクリレート共重合体などのポリマー粒子;微生物(酵母、細菌、ウイルス)、細胞(赤血球、白血球、ウイルス感染細胞など)、糖、核酸(DNA、RNAなど)、タンパク質(酵素など)、脂質などの生体高分子など。例えば、ラテックスビーズなどの非動物性粒子が、微生物、細胞、ウイルス、プラスミドなどの動物性物質、あるいは化学活性種によって被覆されていてもよい。生体高分子は、血清、血漿、髄液、滑液、リンパ液などの体液、または尿、糞便のような排泄物などの生体由来試料の処理物であってもよい。このような処理物は、好適には水や緩衝液などで適宜希釈、溶解、または懸濁されている。生体高分子には、化学的に合成されたものも包含される。
【0047】
試料の媒体としては水が好ましいが、これに限定されるものではなく、各種の有機または無機の溶媒を使用することができる。媒体はそのまま使用してもよく、試料との関係において、密度、浸透圧、pHなどを調整して使用することが好ましい。しかし、交流電場に支障がある物質の添加は好ましくない。
【0048】
本発明の試料特性化方法においては、まず、例えば、誘電泳動サイフォン現象により、各キャピラリーに溶媒溜めから溶媒を供給し、キャピラリー内に層流を形成した溶媒フローを生じる。キャピラリーには、多重極電極によって不均一電界が発生されている。次いで、この溶媒フローの中心に試料が注入され、好ましくは電気的保持によって、溶媒フロー中心に試料が集結される。さらに層流によって流された各キャピラリー内の粒子は、周波数に応じて層流の垂直方向に力を受ける。層流による力はキャピラリー中心部ほど大きく、周辺部では小さくなる。試料がキャピラリーから出てくるときには、各周波数に応じた変位に配置される。キャピラリー出口における物質のキャピラリー中心からの変位量は、データとして、各キャピラリーの印加周波数情報と共にコンピュータに格納される。こうして、試料の特性化が行われ得る。また、この結果は、既にコンピュータにデータベースとして格納されている取得済みの既知物質の誘電泳動スペクトルと比較照合されて、試料の同定が行われ得る。
【0049】
【発明の効果】
本発明によれば、誘電特性による試料の網羅的特性化による網羅的検出が可能である。特に、多数のキャピラリーを1つの基板上に配置して各キャピラリーに試料を注入し、異なった周波数を印加して物質または粒子の周波数スペクトルを確定することにより、高スループットかつ高精度の特性化を行うことが可能である。さらに、キャピラリー中の溶媒に形成させた層流と誘電泳動現象とを組み合わせることにより、さらに高精度の特性化が可能となる。サンプル注入口が開放系であるため、サンプル注入のための煩雑な処理が不要であり、高スループットな分析が可能である。
【0050】
本発明の装置は、例えば、流体中に存在する物質または粒子を同定するため、あるいは精製試料の均質度を分析するために使用され得る。また、化学的プロセス中にサンプリングされる化合物の均質性(粒度や化学的組成)も、モニターすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の装置の構成模式図である。
【図2】本発明の開放型フロー形成デバイスの構成例を示す模式図である。
【符号の説明】
10:溶媒フロー形成手段および不均一電界発生手段を備えたキャピラリー
20:試料注入手段(インクジェットデバイス)
30:不均一電界発生電源
40:試料位置の変位量測定手段
50:不均一電界発生電極
100:開放型フロー形成デバイス
102:導電性配線
104:溶媒入口
106:溶媒出口
108:電気浸透流発生用電極
Claims (13)
- キャピラリー内に層流が形成された溶媒フローを導入する工程;該層流の中心軸に対して対称に不均一電界を発生させる工程;該層流が形成された溶媒フローに単一成分からなる試料を注入する工程;該注入した試料を該層流の中心軸に集結させる工程;該試料が所定の距離を移動した時点における該試料の該中心軸からの距離を変位量として測定する工程;および、該試料の変位量を、該不均一電界を発生させるための高周波電界周波数の関数としてスペクトル化する工程、を含む、試料特性化方法。
- 前記キャピラリーが複数設けられ、それぞれのキャピラリー内の層流の中心軸に対して対称にそれぞれ異なる周波数の不均一電界が形成されている、請求項1に記載の方法。
- 多重極電極により前記溶媒フローの方向に均一な電界が形成されている、請求項1または2に記載の方法。
- 前記試料を注入する工程において、インクジェットデバイスが用いられる、請求項1から3のいずれかの項に記載の方法。
- 前記溶媒フローの導入が、溶媒入口と溶媒出口とを有する管と、溶媒溜めから溶媒を該入口まで導くように該管の入口側に設けられた導電性配線と、該出口から該溶媒を排出させるように該管の出口側に設けられた電気浸透流発生用電極とを備えた、開放型フロー形成デバイスによって行われる、請求項1から4のいずれかの項に記載の方法。
- キャピラリー;該キャピラリーに設けられ該キャピラリー内に層流を形成し得る溶媒フロー形成手段;該キャピラリーの内部または外部に設けられ、該層流の中心軸に対して対称になるように不均一電界を発生させるための不均一電界発生手段;該キャピラリー内に形成された溶媒フローに試料を注入する手段;該注入した試料を該層流の中心軸に集結させる手段;および、該溶媒フロー中の該試料の中心軸からの距離を変位量として測定する手段を備えた、試料特性化装置。
- 前記試料が単一成分からなる試料であり、そして該試料の変位量を、該不均一電界を発生させるための高周波電界周波数の関数としてスペクトル化する手段をさらに有する、請求項6に記載の装置。
- 前記層流に試料を注入するための手段がインクジェットデバイスである、請求項6または7に記載の装置。
- 前記キャピラリーが複数設けられ、それぞれのキャピラリーに異なる周波数の不均一電界が発生され得る、請求項6から8のいずれかの項に記載の装置。
- 前記不均一電界発生手段が多重極電極であり、前記溶媒フローの方向に均一な電界を形成し得る、請求項6から9のいずれかの項に記載の装置。
- 前記溶媒フロー形成手段が、溶媒入口と溶媒出口とを有する管と、溶媒溜めから溶媒を該入口まで導くように該管の入口側に設けられた導電性配線と、該出口から該溶媒を排出させるように該管の出口側に設けられた電気浸透流発生用電極とを備えた、開放型フロー形成デバイスである、請求項6から10のいずれかの項に記載の装置。
- キャピラリー内に層流が形成された溶媒フローを導入する工程;該層流の中心軸に対して対称に不均一電界を発生させる工程;該層流が形成された溶媒フローに単一の未知物質からなる試料を注入する工程;該注入した試料を該層流の中心軸に集結させる工程;該試料が所定の距離を移動した時点における該試料の該中心軸からの距離を変位量として測定する工程;該試料の変位量を、該不均一電界を発生させるための高周波電界周波数の関数としてスペクトル化する工程;および、得られたスペクトルを、請求項1から5のいずれかの項に記載の方法によって予め特性化された既知物質のスペクトルのデータベースと照合する工程、を含む、試料の同定方法。
- キャピラリー;該キャピラリーに設けられ該キャピラリー内に層流を形成し得る溶媒フロー形成手段;該キャピラリーの内部または外部に設けられ、該層流の中心軸に対して対称になるように不均一電界を発生させるための不均一電界発生手段;該キャピラリー内に形成された溶媒フローに単一の未知物質からなる試料を注入する手段;該溶媒フロー中の該試料の中心軸からの距離を変位量として測定する手段;該試料の変位量を、該不均一電界を発生させるための高周波電界周波数の関数としてスペクトル化する手段;および、得られたスペクトルを、予め特性化された既知物質のスペクトルのデータベースと照合する手段を備えた、試料同定装置。
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