JP4126606B2 - 貴金属の分散性測定方法及び分散性測定装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸化物担体に貴金属が担持されてなる触媒における貴金属の分散性を測定する方法と、その方法を実施するための測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車からの排ガス中にはCO、HC、NOx などの有害成分が含まれ、これらの排出量を低減するために酸化触媒、三元触媒、NOx 吸蔵還元触媒など種々の排ガス浄化用触媒が排気系に搭載されている。これらの触媒は、主としてPtなどの貴金属を活性種とし、貴金属をアルミナなどの酸化物担体に担持することで固定して用いている。
【0003】
ところで貴金属の活性をより引き出すためには、貴金属を微細な状態で担持して表面積を大きくし、活性点の数を増やすことが必要である。そこで酸化物担体に貴金属を担持するには、可溶性の貴金属塩の水溶液が用いられている。そして例えば、所定量のその貴金属塩水溶液を酸化物担体粉末に含浸させた後に蒸発乾固する含浸担持法、あるいは酸化物担体よりなるコート層をハニカム基材に形成し、それを貴金属塩水溶液中に浸漬後に引き上げて焼成する吸水担持法、などの担持方法が知られている。
【0004】
また排ガス浄化用触媒は高温に晒されるために、担持されている貴金属に粒成長が生じる場合がある。例えばPtは高温の酸素過剰雰囲気下でPtO2となって担体上を移動しやすく、近傍に存在するPtどうしが凝集して粗大粒子となりやすい。貴金属がこのように粗大な粒子となると、活性点の減少によって浄化活性が低下するという問題がある。
【0005】
そこで排ガス浄化用触媒の活性の指標として、貴金属の分散性を測定することが行われている。すなわち担持されている全貴金属に対する活性な貴金属量の割合を分散性と定義すれば、分散性が高いほど活性点の数が多く、つまり貴金属は微細であって活性が高いと判断される。一方、分散性が低ければ、活性点の数が少なく貴金属は粒成長していると判断される。
【0006】
例えばPtの分散性を測定する方法として、「触媒講座5触媒設計」触媒学会編,(1985),141などに記載されているように、CO吸着法が広く用いられている。このCO吸着法は、測定対象の触媒を所定の前処理方法で処理した後、キャリアガス中で室温まで冷却し、室温においてCOを触媒に導入する。その際のCOの減少量から触媒へのCO吸着量を求め、CO吸着量からCOを吸着したPt量を算出する。そして予めわかっている触媒のPtの全担持量に対するCOを吸着したPt量の割合を求めることで、それを分散性として評価することができる。
【0007】
【非特許文献1】
「触媒講座5触媒設計」触媒学会編,(1985),141
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで近年、排ガス浄化用触媒の担体として、CeO2、CeO2−ZrO2複合酸化物などの、酸素吸放出能を有する酸化物が用いられている。このような酸化物を担体とすることで、排ガスの雰囲気変動を緩和することが可能となり、三元触媒などストイキ近傍の雰囲気で最大の活性が得られる排ガス浄化用触媒の活性をさらに向上させることができる。
【0009】
ところが酸素吸放出能を有する酸化物を用いた触媒を用い、CO吸着法によって貴金属の分散性を測定した場合には、その測定値が実際の貴金属の分散性と一致しないという不具合があった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、酸素吸放出能を有する酸化物を用いた触媒においても、高い精度で分散性を測定できるようにすることを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の貴金属の分散性測定方法の特徴は、酸化物担体に貴金属が担持されてなる触媒における貴金属の分散性を測定する方法であって、触媒をカルボネート種の生成を抑制できる -10 ℃〜 -120 ℃の範囲の低温に冷却した状態で触媒にCOを吸着させて吸着したCOの量であるCO吸着量を測定し、CO吸着量からCOを吸着した貴金属量である活性貴金属量を算出し、触媒に担持されている貴金属の全量に対する活性貴金属量の割合から貴金属の分散性を算出することにある。
【0012】
本発明の分散性測定方法は、酸化物担体が酸素吸放出能を有する場合でも精度よく貴金属の分散性を測定することができる。
【0013】
また本発明の分散性測定方法を実施する本発明の分散性測定装置の特徴は、酸化物担体に貴金属が担持されてなる触媒を保持した状態で反応ガスが流通される反応管と、反応管に少なくともCOを含む反応ガスを供給するガス供給手段と、触媒をカルボネート種の生成を抑制できる -10 ℃〜 -120 ℃の範囲の低温に冷却する冷却手段と、触媒からの出ガス中のCO濃度を検出する検出手段と、からなることにある。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、酸素吸放出能を有する酸化物を用いた触媒を用い、CO吸着法によって貴金属の分散性を測定した場合に、その測定値が実際の貴金属の分散性と一致しない原因を鋭意研究した。その結果、貴金属にCOを吸着させる際にCOからカルボネート種が生成し、その分がCO吸着量に加わってしまうために、実際のCO吸着量より値が大きくなることが明らかとなった。
【0015】
つまりCOを含むガスは酸素不足のリッチ雰囲気であるために、酸素吸放出能を有する酸化物からは酸素が放出される。また酸素吸放出能を有する酸化物と貴金属とは相互作用が強い。そのため図1に示すように、貴金属に吸着したCOの一部は、室温程度の温度では貴金属の酸化活性と担体から放出される酸素によって酸化されてカルボネート種を生成し、担体に吸着する。そして空席となった貴金属の活性点には新たなCOが吸着するため、結果的にCO吸着量が多くなってしまう。
【0016】
そこでカルボネート種の生成を抑制することが想起され、鋭意研究を重ねた結果、所定温度以下では貴金属へのCOの吸着は阻害されることなく、カルボネート種の生成が抑制されることが見出され、本発明が完成された。
【0017】
すなわち本発明の貴金属の分散性測定方法では、触媒をカルボネート種の生成を抑制できる十分な低温に冷却した状態で、触媒にCOを吸着させてCO吸着量を測定している。そのような低温域では、図2に示すように、COの吸着は阻害されずCOの酸化反応のみを抑制することができる。したがってカルボネート種の生成が抑制され、またCOはPt上にのみ吸着すると仮定されるので、CO吸着量は実際に貴金属に吸着したCO量とほぼ一致し、貴金属の分散性を精度よく測定することができる。
【0018】
カルボネート種の生成を抑制できる十分な低温は、酸素吸放出能を有する酸化物種及び貴金属種によってそれぞれ異なる。少なくともCeO2系の酸化物にPtを担持した触媒の場合には、十分な低温とは -10℃以下をいい、 -10℃〜-120℃の範囲、より好ましくは−60℃〜−90℃の範囲とすることが望ましい。触媒の温度が -10℃より高くなるとカルボネート種が生成するため測定精度が低下し、-120℃より低くなるとCOの吸着反応まで阻害されるため測定精度が低下する。
【0019】
本発明の分散性測定方法に用いられる触媒は、酸化物担体に貴金属が担持されてなるものである。酸化物担体としては、 Al2O3、TiO2、ZrO2、SiO2、CeO2などの単味又はこれらから選ばれる複数種の複合酸化物などを用いることができる。酸素吸放出能を有していても有していなくてもよいが、酸素吸放出能を有する酸化物を用いた場合でも高い測定精度が得られる。またPrO4などの希土類金属酸化物、NiO 、Fe2O3 、CuO 、Mn2O5 などの遷移金属酸化物なども酸素吸放出能を有しているので、これらを上記酸化物と併用した担体の場合にも本発明は有効である。
【0020】
担持される貴金属としては、上記した低温で活性点にCOが吸着するものであればよいが、Ptの場合に特に有効である。また貴金属の担持量には特に制限がない。さらにNOx 吸蔵還元触媒のように、貴金属と共にNOx 吸蔵材など他の触媒成分を担持した触媒を用いることもできる。
【0021】
CO吸着量の測定は、少なくともCOを含む反応ガスをパルス状で触媒に接触させ、触媒入ガスと触媒出ガス中のCO濃度の差から測定することができる。そしてCO吸着量から、COを吸着した貴金属量である活性貴金属量を算出する。すなわち活性貴金属量は、吸着したCOのモル量と等モル量の貴金属量となる。したがって、触媒に担持されている貴金属の全量に対する活性貴金属量の割合を算出すれば、それが貴金属の分散性となり、その値が 100%に近いほど貴金属が高分散に担持されて活性点が多く粒径が小さいことを意味する。
【0022】
上記分散性測定方法を実施する本発明の貴金属の分散性測定装置は、反応管と、ガス供給手段と、冷却手段と、検出手段と、からなる。反応管は、酸化物担体に貴金属が担持されてなる触媒を保持した状態で反応ガスが流通されるものであり、石英ガラス、鋼材など、流通されるガスと反応しない材質から形成することができる。その形状は、配置される触媒の形状に応じて種々の形状とすることができる。
【0023】
ガス供給手段は、反応管に少なくともCOを含む反応ガスを供給する手段であり、公知の供給手段を用いることができる。供給される反応ガスは、少なくともCOを含めばよくCOガスのみを供給してもよいが、精度を高めるためにHe、N2などの不活性ガスで希釈した反応ガスを用いることが好ましい。また不活性ガスなどを流通させている状態で、パルス状にCOガスを供給することが好ましい。ガスの流量は、従来の測定方法と同様とすることができ、一般に10〜 300ml/分程度とすることができる。流速がこの範囲を外れると測定精度が低下する場合がある。
【0024】
冷却手段は、触媒をカルボネート種の生成を抑制できる十分な低温に冷却するものであり、触媒を直接冷却してもよいし、反応管を介して触媒を冷却してもよく、供給されるガスを冷却することで触媒を冷却することもできる。冷媒は例えば-10℃〜-120℃の範囲で触媒を安定して冷却できるものが望ましく、液体窒素なども用いることができるが、ドライアイスinアルコールなどが最適である。
【0025】
検出手段は、反応管への入ガス及び出ガス中のCO濃度を検出する手段であり、従来の測定方法と同様にガスクロマトグラフ、質量分析計、赤外線吸収法によるCO濃度計などを用いることができる。
【0026】
【実施例】
以下、試験例、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
【0027】
(試験例1)
市販のCeO2粉末(比表面積 120m2/g)に含浸担持法によりPtを1重量%担持したPt/CeO2触媒粉末を用意した。このPt/CeO2触媒粉末 0.1gを拡散反射赤外分光分析用の in-situセルに入れ、N2ガスを 150ml/分の流量で流通させながら、触媒粉末を 400℃まで加熱した。そして 400℃に保持した状態で、触媒粉末にO2を5%含むN2ガスを15分間流通させ、続いてH2を10%含むN2ガスを15分間流通させ、さらにN2ガスを15分間流通させる前処理を行った。いずれもガス流量は 150ml/分である。この前処理後、室温のN2ガスを流通させながら触媒粉末を冷却し、触媒粉末の温度が室温付近になったところで、液体窒素をガス化して in-situセルに吹き付け、触媒粉末を約 -80℃まで冷却した。この状態で触媒粉末にCOを0.28%含むN2ガスを流通させ、COを吸着させた。
【0028】
COを吸着させる前後の触媒粉末のIRスペクトルを測定し、その差分を図3に示す。
【0029】
(試験例2)
液体窒素をガス化して in-situセルに吹き付けることを行わず、COを吸着させる際の触媒粉末の温度を室温付近としたこと以外は試験例1と同様にして、COを吸着させる前後の触媒粉末のIRスペクトルを測定した。その差分を図4に示す。
【0030】
<評価>
図3及び図4に認められる2070cm-1付近のピークは、Pt上に吸着したCOに起因するピークである。一方、図4のみに認められる1100〜1600cm-1付近のピークは、担体表面上のカルボネート種に起因するピークである。すなわち試験例2ではカルボネート種が生成しているのに対し、試験例1ではカルボネート種の生成が認められない。したがって室温でCOを吸着させた場合にはカルボネート種が生成するが、約 -80℃の温度でCOを吸着させた場合にはカルボネート種が生成しないことがわかる。
【0031】
(実施例)
図5に本実施例の測定装置を示す。この測定装置は、反応管1と、ガス供給手段2と、冷却手段3と、検出手段4と、からなる。反応管1は石英ガラス製のU字形の筒状をなし、内部に触媒粉末10が詰められている。反応管1には温度センサ11が設けられ、触媒粉末10の温度を検出可能とされている。
【0032】
ガス供給手段2は4種のガスボンベ21〜24からなり、切替コック20を介して反応管1の一端開口に接続されている。ガスボンベ21には5%のO2を含むHeガスが充填され、ガスボンベ22には10%のH2を含むHeガスが充填され、ガスボンベ23にはHeガスが充填され、ガスボンベ24にはCOガスが充填されている。またガスボンベ24は、切替コック25を介してガスボンベ23のガス流路に接続されている。
【0033】
冷却手段3は、エタノールにドライアイスを投入することで約 -80℃に冷却された冷媒が入れられた容器からなり、反応管1の触媒粉末10が詰められた部分が冷媒中に浸漬されている。また反応管1の他端はガスクロマトグラフと質量分析計からなる検出手段4に連結され、出ガス中のCO濃度を定量可能とされている。
【0034】
先ず、冷却手段3に代えてヒータを配置した。次に試験例1で調製したPt/CeO2触媒粉末の 0.5gを反応管1内に詰め、ガスボンベ23からHeガスを30ml/分の流量で流通させながら、ヒーターで触媒粉末10の温度が 400℃となるように加熱した。触媒粉末10の温度を 400℃に保持した状態で、ガスボンベ21からO2を5%含むHeガスを15分間供給し、続いてガスボンベ22からH2を10%含むHeガスを15分間供給し、その後ガスボンベ23からHeガスを15分間供給する前処理を行った。いずれもガス流量は30ml/分である。
【0035】
この前処理後にヒータを除去し、ガスボンベ23からHeガスを30ml/分の流量で流通させながら触媒粉末10を冷却した。触媒粉末10の温度が室温付近になった時点で、図5に示すように冷却手段3を配置して反応管1を冷媒中に浸漬し、触媒粉末10をさらに冷却した。
【0036】
触媒粉末10の温度が -78℃になった状態で、ガスボンベ24から所定量のCOガスをHeキャリア中にパルス状に供給し、そのときの出ガス中のCO濃度を検出手段4で測定し、出ガス中のCO量を算出した。そして供給されたCO量と出ガス中のCO量との差分から触媒粉末10によるCO吸着量を算出した。さらにCO吸着量からCOの吸着に関わった活性Pt量を算出し、触媒粉末 0.5gに担持されているPtの全量(0.005g)に対する活性Pt量の割合をPt分散性として算出した。算出されたCO吸着量とPt分散性を表1に示す。
【0037】
(比較例)
冷却手段3を用いず、COガスをパルス状に供給する際の触媒粉末の温度を室温(25℃)としたこと以外は実施例と同様にして出ガス中のCO濃度を測定し、同様にCO吸着量とPt分散性を算出した。結果を表1に示す。
【0038】
<評価>
【0039】
【表1】
【0040】
表1から、比較例の方法の場合にはPt分散性が 100%を超える異常な値となっている。Pt分散性は、Ptが原子状に担持されている場合に約 100%となり得るのであるから、Pt分散性が 100%を超えることは理論上あり得ない。一方実施例の方法では、Pt分散性は27%と妥当な値であり、信頼に足る結果となっている。
【0041】
またCO吸着量は、比較例の方法では 153μmol /gと実施例に比べて10倍以上の値を示している。この差は図3と図4のピ−ク面積の差にほぼ相当し、比較例の方法ではカルボネート種の分までCO吸着量に含まれていることが明らかである。
【0042】
してみると実施例の方法によれば、算出されたCO吸着量はPtに吸着したCOの量のみを表していることが明らかであり、それから算出されたPt分散性は十分に信頼に足りることが明らかである。すなわち -78℃でCOをPtに吸着させることで、カルボネート種の生成が抑制され、精度よくPtの分散性を測定することができる。
【0043】
【発明の効果】
すなわち本発明の貴金属の分散性測定方法及び分散性測定装置によれば、酸化物担体が酸素吸放出能を有する場合でも、精度よく貴金属の分散性を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の測定方法における反応機構を示す説明図である。
【図2】本発明の測定方法における反応機構を示す説明図である。
【図3】約 -80℃でCOを吸着させる前後の触媒粉末のIRスペクトルの差分を示すグラフである。
【図4】室温でCOを吸着させる前後の触媒粉末のIRスペクトルの差分を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施例の測定装置を示す概略説明図である。
【符号の説明】
1:反応管 2:ガス供給手段 3:冷却手段
4:検出手段 10:触媒粉末
Claims (3)
- 酸化物担体に貴金属が担持されてなる触媒における貴金属の分散性を測定する方法であって、
該触媒をカルボネート種の生成を抑制できる -10 ℃〜 -120 ℃の範囲の低温に冷却した状態で該触媒にCOを吸着させて吸着したCOの量であるCO吸着量を測定し、該CO吸着量からCOを吸着した貴金属量である活性貴金属量を算出し、該触媒に担持されている該貴金属の全量に対する該活性貴金属量の割合から該貴金属の分散性を算出することを特徴とする貴金属の分散性測定方法。 - 前記酸化物担体は酸素吸放出能を有する請求項1に記載の貴金属の分散性測定方法。
- 酸化物担体に貴金属が担持されてなる触媒を保持した状態で反応ガスが流通される反応管と、
該反応管に少なくともCOを含む反応ガスを供給するガス供給手段と、
該触媒をカルボネート種の生成を抑制できる -10 ℃〜 -120 ℃の範囲の低温に冷却する冷却手段と、
該触媒からの出ガス中のCO濃度を検出する検出手段と、からなることを特徴とする貴金属の分散性測定装置。
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