JP4114857B2 - 電源、スパッタ用電源及びスパッタ装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電源、スパッタ用電源及びスパッタ装置に関し、特に、アーク放電などの突発的な短絡電流が発生した場合にこれを迅速に遮断しつつ、順方向の電力印加時に大きな順方向電流が得られる電源、スパッタ用電源及びスパッタ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種のプラズマ応用機器や、マイクロ波などの電磁波発生器、電力スイッチング装置などにおいて、電源の運転中に負荷側で短絡的な突発電流が流れることがある。このような突発放電が生ずると機器の動作に弊害をもたらす場合が多いため、短絡電流を確実且つ迅速に遮断する回路が必要とされる場合が多い。
【0003】
以下、このような電源の具体例として、薄膜形成に用いるスパッタ用電源を例に挙げて説明する。
【0004】
図10は、DC(direct current)スパッタ装置の要部構成を表す模式図である。このスパッタ装置は、真空チャンバ101とスパッタ用DC電源110とを有する。電源110の陽極は、接続ケーブル120Aを介してチャンバ101に接続され、接地電位とされている。一方、電源110の陰極は、接続ケーブル120Bを介して、チャンバ101の内部に設けられたスパッタリング・ターゲット104に接続されている。そして、チャンバ101の内部には、薄膜を堆積する基板100が設置される。
【0005】
成膜に際しては、まず、真空排気ポンプ106によりチャンバ101内を真空状態にし、ガス供給源107からアルゴン(Ar)などの放電ガスを導入してチャンバ内を所定の放電圧力に維持する。そして、電源110によりターゲット104とチャンバ101との間に電界を印加し、グロー放電108を発生させる。すると、放電空間において生成されたプラズマ中の正イオンがターゲット104の表面に衝突し、ターゲット104の原子をはじき出す。このようなスパッタ現象を利用することにより、ターゲット104の材料からなる薄膜を基板100の上に形成することができる。
【0006】
しかし、このようなスパッタ動作中に、チャンバ101内での放電が停止する場合がある。例えば、ガス供給源107から供給されるガスとポンプ106による排気速度とのバランスが変動したような場合、放電条件が満たされなくなると放電が停止してプラズマが消失することがある。放電が停止すると、スパッタ電流が流れなくなり、負荷インピーダンスが急激に上昇する。従って、電源110は、このような負荷インピーダンスの急激な上昇に対して柔軟に対応できる構造を有する必要がある。
【0007】
また一方、スパッタ動作中に、チャンバ101内でアーク放電150が生ずる場合がある。このようなアーク放電150は、ターゲット104の近傍において生ずる場合が比較的多いが、基板100の近傍において生ずる場合もある。そして、このようなアーク放電150が生ずると、局所的に大電流が流れるために、ターゲット104や基板100に損傷が生ずる。
【0008】
例えば、ターゲット104の側でアーク放電150が生ずると、ターゲット104の微小領域に大電流が集中するために、その部分から瞬間に大量の被着材料が放出される。この現象は「スプラッシュ」などと称され、基板100の表面に被着材料の粒子が飛び散るために、被害を受けてしまう。
【0009】
一方、基板100の側にアーク放電150が生じた場合にも、基板100が損傷を受けて不良品になってしまう場合が多い。
【0010】
従って、このようなアーク放電が発生した場合に、迅速且つ確実にアークを消弧できるアーク遮断機能を有するスパッタ用電源が必要とされている。
【0011】
図11は、本発明者が本発明に至る過程で試作したスパッタ用電源の要部を表す模式図である。
【0012】
この電源は、直流電源DCとトランジスタQ1〜4を共有した2つのインバータを有する。すなわち、直流電源DC1、トランジスタQ1〜4、トランスT1及び整流器DB1を有する第1のインバータINV1と、直流電源DC1、トランジスタQ1〜4、トランスT2及び整流器DB2を有する第2のインバータINV2と、を有する。これらインバータの出力電流は、インダクタL1とL2とによりそれぞれ平滑化されてチャンバ101及びターゲット104に供給される。
【0013】
その動作について説明すると、まず、スパッタを開始する時には、インバータINV1、INV2を起動し、整流されたインバータ電流を短絡するIGBT1・2を開いた状態として、直流電圧をチャンバ101及びターゲット104に出力する。
【0014】
スパッタ開始時の最大電圧としては、例えば、マイナス1500ボルト程度が必要とされる。そして、チャンバ内にグロー放電が存在しないので電流が流れず、最大電圧を出力してグロー放電の開始を待つ。
【0015】
この際に、同時にトランス出力T3をDB3で整流して逆バイアス電圧源CBを充電する。この充電電圧は、例えば、200ボルト程度とすることができる。
【0016】
チャンバ内でグロー放電が大きくなると、スパッタが開始される。これに対応して放電電流が流れるので、印加電圧レベルは低下する。電源は、出力電流をインダクタL1・2で平滑するが、出力電圧は定常スパッタ時には例えばマイナス300ボルト程度まで低下するので、インバータINV1・2のデューティ比を調整して出力電力を一定に保つ。
【0017】
一方、チャンバ内にアーク放電が発生すると、図示しないアークセンサがこれを検出し、IGBT1・2を閉じる。これにより、逆バイアス電圧源CBからIGBT2・1、D1・2、チャンバ(101、104)、CBの閉回路において逆方向バイアス電圧を印加し、アーク電流を急速に遮断する。ここで、コンデンサCBからの逆方向電圧が大きいほど電流遮断の所要時間が短く、アーク放電の被害が少ない。
【0018】
アーク電流を遮断すると、ダイオードD1・2は逆バイアスされて逆方向電流によるアーク被害を防止する。すなわち、ダイオードD1、D2は、逆方向アーク防止ダイオードとして作用する。
【0019】
このようにして、所定時間アーク放電電流を遮断した後、IGBT1・2を開き、チャンバへのスパッタ電流の供給を再開する。
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、本発明者の検討の結果、図11に例示した電源の場合、電源の出力容量、すなわちスパッタ時の電流を大幅に増大することが容易でないことが判明した。すなわち、電源の出力容量を増大するためには、逆方向アーク防止ダイオードD1・2の最大値まで出力電流を大きくしたいが、これらダイオードD1・2の電流容量によって電流が制限されてしまう。
【0021】
具体的には、例えば近年の高速成膜の要求に応えるためには、スパッタ電流として10アンペア程度の電流が必要とされる場合が多く、瞬間電流としては、100アンペア近くのスパッタ電流の出力も可能な電源が必要とされる場合もある。しかし、図11に例示した電源の場合、ダイオードD1・2として、このような大きな許容電流の素子を用いることは困難である。
【0022】
また一方、電流容量を増やすために、これらダイオードを並列接続すると、いずれかのダイオードに電流が集中してしまうという問題が生ずる。これは、ダイオードの順方向電流の温度特性に起因する。つまり、通常のダイオードの場合、その順方向電流は、温度の上昇により増加するという依存性を有する。2つのダイオードを並列接続した場合、素子特性の「ばらつき」などにより、両方のダイオードを流れる電流を完全に一致させることは容易でない。つまり、いずれか一方のダイオードに流れる電流が、他方の電流よりも大きくなる場合が多い。
【0023】
この場合、電流が多く流れたダイオードでは、温度が上昇するために抵抗が下がって、さらに多くの電流が流れる。すると、他方のダイオードでは、流れる電流が小さくなるために、温度が下がって抵抗が上昇し、さらに流れる電流が小さくなる。
【0024】
このように、ダイオードを並列接続した場合、電流のバランスが一旦崩れると、電流が多いダイオードに電流が集中してしまうため、電流容量を倍増することができない。また、電流の集中が過度に生ずると、熱暴走によりダイオードが破壊する場合もある。
【0025】
このため、図11に例示した電源においては、電流容量はダイオードD1、D2の電流容量により制限されてしまうという問題があった。
【0026】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、その目的は、簡素な構成で電流容量を大幅に増大することができる電源、スパッタ電源及びスパッタ装置を提供することにある。
【0027】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の第1の電源は、
複数の整流アームを有する整流ブリッジからの整流電流を順方向出力として出力し、前記整流電流とは逆方向の電圧を逆バイアス電圧源から逆方向電圧として出力する電源であって、
前記複数の整流アームのそれぞれについて、前記整流アームと同一の整流方向を有する整流素子が設けられ、
前記順方向出力の出力時には、前記複数の整流アームのそれぞれにより整流された整流電流がその整流アームに接続された前記整流素子を介して出力され、
前記逆方向電圧の出力時には、前記逆バイアス電圧源から前記整流素子を介して前記整流素子の逆回復時間のあいだ前記逆方向電圧が出力されることを特徴とする。
【0028】
上記構成によれば、逆方向アーク防止ダイオードとしての整流素子に対して、順方向出力時の電流負担を低下させることができ、電源の容量を増大できる。
【0029】
また、本発明の第2の電源は、
電源に接続された複数の整流アームを有する整流ブリッジと、
前記整流ブリッジと直列に接続されたインダクタと、
前記整流ブリッジと前記インダクタとを含む直列回路に対して並列に接続されたスイッチング素子と、
前記複数の整流アーム毎に直列に接続され前記整流アームと同一の整流方向を有する複数の整流素子と、
前記整流ブリッジと前記インダクタと前記スイッチング素子とを含む閉回路に挿入された逆バイアス電圧源と、
を備え、
前記スイッチング素子が開状態においては、前記複数の整流アームのそれぞれにより整流された整流電流がその整流アームに接続された前記整流素子と前記インダクタとを介して順方向出力として外部負荷に出力され、
前記スイッチング素子が閉状態においては、前記スイッチング素子と前記インダクタと前記整流ブリッジとを含む第1の閉回路と、前記スイッチング素子と前記整流素子と前記逆バイアス電圧源と前記外部負荷とを含む第2の閉回路と、が形成され、前記整流素子の整流方向に対して逆方向の電圧が前記逆バイアス電圧源から前記整流素子の逆回復時間のあいだ前記外部負荷に逆方向電圧として印加されることを特徴とする。
【0030】
上記構成によっても、逆方向アーク防止ダイオードとしての整流素子に対して、順方向出力時の電流負担を低下させることができ、電源の容量を増大できる。
【0031】
上記第2の電源において、前記スイッチング素子は、前記複数の整流アームのそれぞれについて設けられたものとすることができる。
【0032】
または、前記複数の整流アームは、前記整流素子とは逆方向の整流方向を有する整流手段を介して同一の前記スイッチング素子に共通接続されてなるものとすることもできる。
【0033】
また、前記整流ブリッジに対して、もうひとつの整流ブリッジが直列に接続され、前記順方向出力の出力時には、前記もうひとつの整流ブリッジを介した整流電流が出力されるものとすれば、いわゆる多段インバータによる高電圧電源が可能となる。
【0034】
一方、本発明の第3の電源は、
第1の整流ブリッジと第1のインダクタと第1のスイッチング素子とが直列に接続された第1の直列回路と、
第1の整流素子と第2のスイッチング素子とが直列に接続された第2の直列回路であって前記第1のインダクタに対して並列に接続された第2の直列回路と、
前記第1の整流素子と前記第2のスイッチング素子との接続中点に一端が接続され且つ前記第1の整流ブリッジ及び前記第1のスイッチング素子に対して並列に設けられた第2の整流素子と、
前記第2のスイッチング素子と外部負荷との間に直列に設けられた逆バイアス電圧源と、
を備え、
前記第1のスイッチング素子が閉状態且つ前記第2のスイッチング素子が開状態においては、前記第1の整流ブリッジから出力された整流電流が前記第1のインダクタを介して順方向出力として前記外部負荷に出力され、
前記第1のスイッチング素子が開状態且つ前記第2のスイッチング素子が閉状態においては、前記第1の整流ブリッジからの前記外部負荷への出力が遮断され、前記第1のインダクタと前記第1の整流素子と前記第2のスイッチング素子とによる閉回路が形成され、前記第2のスイッチング素子と前記第2の整流素子と前記逆バイアス電圧源と前記外部負荷とを含む閉回路によって前記順方向出力とは逆方向の電圧が前記逆バイアス電圧源から前記第2の整流素子の逆回復時間のあいだ前記外部負荷に逆方向電圧として印加され、前記第2の整流素子の整流方向は前記逆方向電圧とは反対の方向であることを特徴とする。
【0035】
上記構成によれば、逆方向アーク防止ダイオードとしての第2の整流素子に対して、順方向出力時の電流負担を低下させることができ、電源の容量を増大できる。
【0036】
ここで、前記順方向出力が出力される状態において、前記第1の整流ブリッジからの整流電流の出力が低下すると前記第1のインダクタによる電流は、前記第1の整流素子を介して前記第2の整流素子を含む電流迂回路を流れる電流成分と、前記第1の整流ブリッジの出力端に設けられた整流器を流れる電流成分と、に分かれて流れるものとすれば、第2の整流素子に対する電流負担を確実に低減できる。
【0037】
また、前記電流迂回路は、前記第2の整流素子に対して直列に設けられ、電圧降下を生じさせることにより前記電流迂回路を流れる電流を制限する抵抗素子をさらに有するものとすれば、第2の整流素子に対する電流負担をさらに確実に低減できる。
【0038】
また、前記電流迂回路は、前記抵抗素子に対して並列に設けられた電圧制限素子をさらに有するものとすれば、電圧降下素子において過度の電圧が発生することを防止できる。
【0039】
また、前記電流迂回路は、前記第2の整流素子に対して並列に設けられたコンデンサ(C1)をさらに有するものとすれば、逆バイアス電圧源に対する電圧を加算して迅速にアーク放電を遮断することができる。
【0040】
また、前記第1の直列回路に対して直列に接続され、第2の整流ブリッジと第2のインダクタと第3のスイッチング素子とが直列に接続された第3の直列回路と、
第3の整流素子と第4のスイッチング素子とが直列に接続された第4の直列回路であって前記第2のインダクタに対して並列に接続された第4の直列回路と、
をさらに備え、
前記第3のスイッチング素子が閉状態且つ前記第4のスイッチング素子が開状態においては、前記第2の整流ブリッジから出力された整流電流が前記第2のインダクタを介して前記順方向出力の一部として外部負荷に出力され、
前記第3のスイッチング素子が開状態且つ前記第4のスイッチング素子が閉状態においては、前記第2の整流ブリッジからの前記外部負荷への出力が遮断され、前記第2のインダクタと前記第3の整流素子と前記第4のスイッチング素子とによる閉回路が形成されるものとすれば、いわゆる多段インバータによる高電圧電源が可能となる。
【0041】
一方、本発明のスパッタ用電源は、上記にいずれかの電源を備え、前記順方向電力をスパッタ用電力として出力することを特徴とする。
【0042】
また、本発明のスパッタ装置は、大気圧よりも減圧された雰囲気を維持可能な真空チャンバと、上記のスパッタ用電源と、を備え、
前記スパッタ用電力を前記真空チャンバに供給することによりスパッタを実施し、
真空チャンバ内において発生する前記アーク放電を前記逆方向電圧により遮断することを特徴とする。
【0043】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0044】
(第1の実施の形態)
まず、本発明の第1の実施の形態として、インバータの整流アーム毎に逆方向アーク防止ダイオードを設けた電源について説明する。
【0045】
図1は、本実施形態の概念を説明するための模式図である。すなわち、同図は、本実施形態の電源のうちで、一方のインバータINV1に対応する部分のみを表したものである。
【0046】
インバータINV1は、直流電源DC1、トランジスタQ1〜4、トランスT1及び整流器DB1を有する。整流器DB1は、互いに並列接続された第1の整流アーム(arm1)と第2の整流アーム(arm2)とからなる整流ブリッジ構造を有する。そして、これら整流アームに交互に電流が流れることにより、直流電力が供給される。
【0047】
そして、本実施形態においては、インバータの整流アーム毎に、逆方向アーク防止ダイオードを直列に設ける。すなわち、第1の整流アーム(arm1)には、ダイオードD1を直列に接続し、第2の整流アーム(arm2)には、ダイオードD2を直列に接続する。また、これらダイオードD1、D2には、それぞれ電流制限用のコンデンサC1、C2が適宜並列に接続される。但し、これらコンデンサの代わりに抵抗を並列接続してもよい。
【0048】
また、図1に表した電源の場合、整流アーム毎に、順方向電力の出力を遮断するためのスイッチング素子IGBT1、IGBT2が接続されている。これらスイッチング素子IGBT1・2は、順方向出力時は、開状態とされ、アーク遮断動作の際には、閉状態とされる。スイッチング素子IGBT1・2が閉状態とされると、インバータINV1、インダクタL1を含む「内部閉回路」と、チャンバを含む「外部閉回路」とが形成される。そして、逆方向アーク防止ダイオードD1、D2は、インバータ側の内部閉回路ではなく、逆バイアス電源及びチャンバを含む外部閉回路の側に接続され、アーク遮断時においても、チャンバを流れる逆方向電流を制限することが可能となる。
【0049】
このように、整流アーム(arm1、arm2)毎に逆方向アーク防止ダイオードD1、D2を接続すると、それぞれのダイオードを流れる電流は、出力電流のおよそ半分となるため、電源の出力電流をダイオードD1、D2の許容電流値のおよそ2倍まで増加することが可能となる。つまり、図11の電源と比較した場合、ダイオードの電流容量を増加することなく、電源の出力容量を倍増できる。
【0050】
また、アーク遮断動作の際には、スイッチング素子IGBT1・2が閉状態となり、逆バイアス電源CBから逆バイアスがチャンバに印加され、この閉回路においても、ダイオードD1、D2が逆方向アークの発生を防止する役割を果たすことができる。
【0051】
なお、図1においては、整流アームが2本すなわち単層インバータの場合を例示したが、整流アームを3本すなわち3相インバータの場合には、それぞれの整流アームに接続された逆方向アーク防止ダイオードの通電率は、1/3に低下する。つまり、電源の出力電流を、ダイオードの許容電流の約3倍にまで増大することができる。
【0052】
図2は、本実施形態の電源の具体例を表す模式図である。すなわち、本具体例の電源は、直流電源DC1、トランスT1、トランジスタQ1〜4を共有した2つのインバータINV1、INV2を有する。これらインバータの出力電流は、インダクタL1とL2とによりそれぞれ平滑化されてチャンバ101及びターゲット104に供給される。但し、本発明の電源におけるインバータの数は、2つに限定されるものではなく、3つあるいはそれ以上のインバータを設けてもよい。
【0053】
そして、図1に例示した電源と同様に、第1のインバータINV1の整流アーム(arm1, arm2)毎に、逆方向アーク防止ダイオードが直列に接続されている。すなわち、第1の整流アーム(arm1)には、ダイオードD1、D2が直列に接続され、第2の整流アーム(arm2)には、ダイオードD3、D4が直列に接続されている。また、これらダイオードに対して、電流制限用コンデンサC1〜C4がそれぞれ並列に接続されている。但し、図1に関して前述したように、これらコンデンサC1〜C4の代わりに、抵抗を並列に接続してもよい。
【0054】
また、整流アーム毎に、順方向電力の出力を遮断するためのスイッチング素子IGBT11、IGBT12が接続されている。これらスイッチング素子IGBT11・12は、順方向出力時は、開状態とされ、アーク遮断動作の際には、閉状態とされる。そして、逆方向アーク防止ダイオードD1〜D4は、スイッチング素子IGBT11・12及びチャンバと「外部閉回路」を形成して、アーク遮断時においても、チャンバを流れる逆方向電流を制限するように接続される。
【0055】
トランスT1のインバータ出力は整流器DB1で整流され、その電流はインダクタL1で平滑される。インダクタL1の出力は、スイッチング素子IGBT11・12のソース端子を経由し、チャンバへ出力される。
【0056】
また、整流器DB1の他方出力はアーム毎に独立し、一方のアーム出力はIGBT11のドレイン端子を経て、逆アーク防止ダイオードD1とD2を通って次段のL2出力へ接続される。
【0057】
残るアーム出力はIGBT12のドレイン端子を経て、逆アーク防止ダイオードD3とD4を通り次段のL2出力へ接続される。
【0058】
一方、トランスT2のインバータの出力は、整流器DB2で整流され(INV2)、その電流はインダクタL2で平滑される。
【0059】
インダクタL2の出力は、スイッチング素子IGBT2のソース端子を経由して、逆アーク防止ダイオードD2、D4と接続される。
【0060】
整流器DB2の他方出力端子は、逆バイアス用電源の整流器DB3と逆バイアス用のコンデンサCBの各負側端子を経由してチャンバへ出力される。
【0061】
バイアス用電源の整流器DB3の他方出力端子は、逆バイアス用のコンデンサCBの正側端子を経由して、スイッチング素子IGBT2のドレイン端子に接続される。
【0062】
本具体例の電源の動作について説明すると、以下の如くである。
【0063】
まず、スパッタ時には、整流器DB1の出力電流は、インダクタL1で平滑されるがインバータの正逆動作毎に電流が流れる整流アーム(arm1,arm2)が切り替わる。この際に、2つの整流アームでは、電流値及び通電時間は、同一または殆ど同じである。2本の整流アームの電流が、それぞれ別の逆方向アーク防止ダイオードを流れるので、図11と比較してダイオードの電流が半減する。
【0064】
一方、アーク遮断時には、図示しないアークセンサがアーク放電を検知するとスイッチング素子IGBT11・12およびIGBT2を所定時間閉じる。すると、インダクタL1の電流は、DB1の左右アームを通り、IGBT11とIGBT12を通って内部閉回路を構成する。
【0065】
また、インダクタL2の電流は、DB2を通り、コンデンサCBとIGBT2を通って内部閉回路を構成する。
【0066】
そして、チャンバへの電流が所定時間の間は、電源N端子→L1→DB1→D1・D2(またはD3・D4)→L2→DB2→電源P端子、という外部閉回路により流れる。
【0067】
チャンバへの電流が無くなると、電源P端子→逆バイアスコンデンサCB→IGBT2→逆方向アーク防止ダイオード(またはC1〜C4)→IGBT11またはIGBT12→電源N端子、という外部閉回路において電流が流れる。そして、逆方向アーク防止ダイオードD1〜D4の逆回復時間が終了し、コンデンサC1〜C4が充電されると、電流は停止する。
【0068】
この状態を保持するとアーク放電は消滅するので、所定時間が経過したらIGBT11・12・2を開いて、スパッタを再開する。
【0069】
以上説明したように、本具体例の電源においても、インバータ出力の整流アーム毎に逆方向アーク防止ダイオードを直列接続することにより、順方向電流の出力時のダイオードの電流負荷を半減し、電流容量を倍増することが可能となる。
【0070】
さらにまた、アーク遮断動作においても、それぞれの逆方向アーク防止ダイオードを機能させて、逆方向アークの発生を確実に阻止することできる。
【0071】
図3は、本実施形態の変型例の電源の要部を表す模式図である。同図については、図1及び図2に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0072】
本変型例の場合、整流器DB1の各整流アーム(arm1,arm2)に対して、アーク遮断用のスイッチング素子IGBT1が共通接続されている。そして、整流器DB1から見て、その接続点の外側に、逆方向アーク防止ダイオードD1〜D4が直列接続されている。
【0073】
また、このようにスイッチング素子IGBT1を共通接続することにより生ずる、整流アーム(arm1,arm2)間の電流を遮断するため、ダイオードD5、D6が接続されている。
【0074】
このように、スイッチング素子IGBT1を各整流アームに対して共通接続すれば、スイッチング素子の数を減らしつつ、図2の電源と同様の動作をさせることができる。
【0075】
以上、図1乃至図3を参照しつつ説明したように、本実施形態においては、インバータ出力の整流アーム毎に逆方向アーク防止ダイオードを直列接続することによって、逆方向アーク防止ダイオードを流れる電流の通電時間が間欠になり、通電率はインバータ整流器のアーム数で分割される。すなわち、単相インバータの場合は2分割、3相の場合は3分割され、ダイオードの電流負荷を低減して、電源の出力容量を増大できる。
【0076】
換言すると、逆方向アーク防止ダイオードを流れる平均電流は、インバータの整流器を構成するダイオードの電流と同じであり、電源の電流容量を整流器の電流容量と同一のレベルまで増大できる。
【0077】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態として、アーク放電などが生じた場合の遮断動作に際してインバータ出力を遮断する回路を設けた電源において、順方向出力を増大可能とした電源について説明する。
【0078】
まず、本実施形態の電源について説明する前に、本発明者が本発明に至る過程で試作した電源について説明する。
【0079】
図4は、本発明者が本発明に至る過程で試作した電源を表す模式図である。この電源が図11に例示した電源と異なる点は、スイッチング素子Q5、Q6を設けて、アーク遮断動作の際に、インバータ出力を遮断する点である。すなわち、チャンバ101においてアーク放電が発生すると、アークセンサ(ARCsens)がこれを検出し、図示しない制御回路を介して、スイッチング素子IGBT1・2を閉じるとともに、スイッチング素子Q5・6を開ける。
【0080】
すると、逆バイアス電源DC2からの逆バイアス電圧がチャンバに印加され、同時に、インバータINV1・2の出力は遮断される。スイッチング素子Q5・6を開けてインバータ出力を完全に遮断することにより、アーク遮断動作をより確実に行うことができる。
【0081】
またこの際に、インダクタL1、L2は、それぞれ、ダイオードD1、D2とスイッチング素子IGBT1・2とにより閉回路を形成する。この閉回路によって、スパッタ状態におけるインダクタL1・L2の電流エネルギは、アーク遮断動作の間、保存される。このように、インダクタL1・2の電流エネルギを保存することにより、アーク遮断後のスパッタ電力の再投入を迅速に行うことができる。
【0082】
さて、図4に表した電源においても、出力端に設けられたダイオードDA1、DA2は、アーク遮断動作の際に、逆方向アークを防止する役割を有する。すなわち、スパッタ中にアーク放電が発生すると、スイッチング素子IGBT1・2を閉じて逆バイアス電源DC2から逆バイアス電圧をチャンバに印加し、スパッタ電流が遮断されると、ダイオードDA1・2が逆バイアスされて、逆方向アークを防止する。
【0083】
しかし、図4に表した電源の場合、これら逆方向アーク防止ダイオードDA1・2と、ダイオードD1、D2とによって、順方向出力が制限されるという問題があった。
【0084】
すなわち、インバータ整流器DB1、DB2は、複数の整流アームを交互に電流が流れるので、それぞれのダイオードの電流の通電率は、相対的に低くなる。これに対して、ダイオードD1・2およびDA1・2の平均電流は、インバータ整流器DB1・2を構成する個々のダイオードの平均電流と比べ過大である。
【0085】
電源の順方向出力の電流容量を、インバータ整流器DB1・2を構成する個々のダイオードの最大電流値まで大きくしようとしても、ダイオードD1・2、DA1・2の電流容量に制限されてしまう。
【0086】
例えば、インバータの最大出力電圧が1500ボルトの電源で、電源出力を300ボルト2アンペアの条件で運転してアーク放電が無いとき、インバータはデューティ 300÷1500=20%で運転している。この時、各ダイオード素子の平均電流は、以下の如くである。
DB1・2 :2A×20%÷2=0.2A
D1・2 :2A×(100%−20%)=1.6A
DA1・2 :2A×100%=2A
つまり、インバータ整流器DB1・2を構成する各ダイオードに比べて、ダイオードD1・2、DA1・2を流れる電流は、一桁も大きい。
【0087】
また、デューティ50%でアーク遮断する場合の素子電流平均値は、それぞれDB1・2=0.1アンペア、D1・2=1.8アンペア、DA1・2=1アンペアであり、やはり一桁以上も大きくなる。
【0088】
このように、ダイオードD1・2、DA1・2の電流容量によって電源の最大電流が制限されてしまう。
【0089】
また、図11に関して前述したように、ダイオードを並列接続しても完全な熱平衡は採れないので、いずれか一方の素子に電流が集中して電流容量は増えない。
【0090】
一方、アーク遮断の際には、できるだけ高い逆方向電圧を印加したほうが、迅速にアークを遮断できるが、このための電源として、逆バイアス電圧源DC2しかないことも改善の余地がある。
【0091】
本発明者は、かかる課題の認識に基づいて本実施形態の電源を発明をするに至った。
【0092】
図5は、本実施形態にかかる電源の要部構成を表す模式図である。
【0093】
同図に表したように、本実施形態においては、インバータ出力の整流器DB1と、アーク時にインバータ出力をインダクタから分離するスイッチング素子Q5との直列接続に対して、逆方向アーク防止ダイオードDA1を並列に設けることにより、電流迂回路DTが形成されている。
【0094】
また、この逆方向アーク防止ダイオードDA1は、アーク遮断時に形成されるインダクタ電流の閉回路(L1・D1・IGBT1)の外側に設けられている。
【0095】
そして、逆方向アーク防止ダイオードDA1と直列に電圧降下素子R1を設ける。こうすることにより、順方向電力を出力してスパッタを行っている状態で、インバータが電圧出力せずインダクタL1の電流が電流迂回路DTを流れた時の電流を調節することができる。すなわち、電圧降下素子R1のインピーダンスを調整することにより、電流迂回路DTにおける電圧降下が、整流器DB1とスイッチング素子Q5の電圧降下よりも大きくなるように設定する。このようにすれば、順方向出力時に、電流迂回路DTを流れる電流を制限することができる。つまり、ダイオードD1、DAを流れる電流を制限することができる。
【0096】
その結果として、電源の順方向電流の最大値を、ダイオードD1、DA1の許容値よりも大幅に増大することが可能となる。
【0097】
本実施形態の電源の動作について具体例を挙げて説明すると以下の如くである。 例えば、インバータの最大出力電圧が1500ボルトの電源を想定する。この場合、順方向出力が300ボルト2アンペアの条件でスパッタしている時には、インバータと直列なスイッチング素子Q5は、例えば0.5オーム(Ω)のオン(ON:閉状態)抵抗で動作し、インダクタと並列なスイッチング素子IGBT1はオフ(OFF:開状態)する。
【0098】
そして、インバータのトランス出力電圧が有る時は、インバータ出力を整流するDB1・2の出力電流は、インダクタL1・2で平滑されてチャンバへ出力される。この時、ダイオードD1及び電流迂回路DT(DA1、R1)はトランス出力電圧が逆方向にかかり、その電圧の殆どはD1に対して逆方向にかかるので電流は流れない。
【0099】
一方、インバータのトランスで出力電圧が無い時は、整流器DB1とスイッチング素子Q5の電圧降下は 例えば、
1.3V×2+2A×0.5Ω=3.6V
である。これと、ダイオード2個(D1、DA1)と電圧降下素子R1(50Ωとする)とで電流を分割すると、電流迂回路DTを流れる電流は、
(3.6V−2×1.3V)÷50Ω=0.02A
になる。
【0100】
コンデンサC1がダイオードの逆方向に充電されている間は、インダクタL1からD1、C1、R1の経路を電流が流れるが、この電流でC1を放電してDA1の順方向電圧と同じになったところでコンデンサ電流は無くなる。
【0101】
以上説明した条件から、順方向出力が300ボルト2アンペアの条件でスパッタしている時には、整流器DB1・2の各ダイオード素子を流れる電流は平均で約1アンペアであり、ダイオードD1及びDA1を流れる平均電流は0.016アンペアとなる。つまり、ダイオードD1、DA1を流れる電流成分を大幅に低減することができる。その結果として、電源の順方向出力を、整流器DB1・2の各ダイオード素子の電流許容範囲の上限まで増大することが可能となる。
【0102】
次に、図5の電源のアーク遮断動作について説明する。
【0103】
アークセンサ(ARCsens)がアーク放電を検知すると、所定の時間、インバータと直列なスイッチング素子Q5・6をオフ(OFF)してインバータ電流は遮断される。また、インダクタL1・2と並列なスイッチング素子IGBT1・2をオン(ON)することにより、インダクタ電流はそれぞれの短絡回路(L1・2、D1・2、IGBT1・2)で保存される。
【0104】
逆方向バイアス電源DC2の電圧を100ボルトとした場合、この電圧がスイッチング素子IGBT2と逆方向アーク防止回路とスイッチング素子IGBT1を通ってチャンバへ出力される。しかしこの時、電源とチャンバ間のケーブル120A、120Bを流れていた電流は、ケーブルが有する寄生インダクタンス成分によって上記と逆なルートを流れる。この電流が電流迂回路DTの電圧降下素子R1を流れるとき、最大で2A×50Ω=100Vの電圧降下を生じて逆方向バイアス電圧の出力が200Vに上昇する。
【0105】
つまり、逆方向バイアス電源DC2の電源電圧であるDC100Vよりも高い逆方向バイアス電圧を印加するこことができる。その結果として、電源DC2のみから逆バイアス電圧を出力する場合よりも短時間でアーク放電を遮断することができる。
【0106】
なおこの場合、ケーブル120A・Bからの電流値によっては、R1における電圧が過大となり、回路素子(例えば、スイッチング素子Q5など)に負担をかける場合もあり得る。これに対しては、R1の抵抗値を調節して電圧の上限を調節したり、また、ツェナー・ダイオードZDなどの電圧緩和素子を接続することにより、回路素子を保護することができる。ここで、ツェナー・ダイオードZDの代わりにバリスタなどの各種の電圧緩和素子を用いることもできる。
【0107】
さて、順方向スパッタ電流が停止すると、コンデンサC1がダイオードDA1の逆方向に充電されて逆方向電流が停止する。
【0108】
このようにしてアーク放電を遮断した後、所定時間が経過すると、インバータと直列なスイッチング素子Q5・6をオン(ON)し、インダクタL1・2と並列なスイッチング素子IGBT1・2をオフ(OFF)すると、チャンバへの順方向出力電流の供給が復旧し、スパッタが再開される。
【0109】
以上説明したアーク遮断動作において、電源運転時間の50パーセントでアーク遮断した場合の各ダイオードの平均電流は、以下の如くとなる。すなわち、整流器DB1・2の各ダイオード素子を流れる電流は0.5アンペアであり、ダイオードD1を流れる電流は1アンペア、逆方向アーク防止ダイオードDA1を流れる電流は0.1アンペアA程度である。
【0110】
つまり、アーク遮断動作の際にも、ダイオードD1、DA1を流れる電流を、整流器DB1・2の各ダイオード素子の電流よりも大幅に低下させることができる。つまり、電源の動作範囲が、ダイオードD1、DA1の許容範囲に制限されるという問題がなくなる。
【0111】
また、上述の如く、本実施形態においては、アーク遮断動作の際に、ケーブル120A・Bの寄生インダクタンスによる電流を利用して、電流迂回路DTの電圧降下素子R1において電圧降下を生じさせ、この電圧を逆バイアス電圧として加算することができる。その結果として、逆バイアス電圧源DC2のみから逆バイアス電圧を出力する場合よりも、より短時間で迅速にアーク放電を遮断することができる。
【0112】
なお、本実施形態においては、複数のインバータを直列に設けた、いわゆる「多段インバータ構造」の電源とした場合に、それぞれのインバータについて上述のような電流迂回路を設けることができる。例えば、図5に例示した電源について、第1のインバータ出力INV1と第2のインバータ出力INV2との間に、ひとつあるいは2つ以上のインバータ出力を直列に追加することができる。この場合、これらの追加されたインバータ出力のそれぞれについて、本実施形態の電流迂回路を設けることにより、上述した作用効果を同様に得ることができる。
【0113】
図6は、本実施形態にかかる電源の変型例を表す模式図である。同図については、図5に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0114】
本変形例においては、電流迂回路DTの電圧降下素子R1に対して、コンデンサC2が並列に接続されている。このコンデンサは、アーク遮断動作の際に、ケーブル120A・Bの寄生インダクタンスによる電流が流れた場合に、電圧降下素子R1において過大電圧を吸収する役割を有する。
【0115】
また、本変型例におけるコンデンサC1とC2とは、図7に例示した如く、ひとつのコンデンサC1としてまとめて設けることも可能である。
【0116】
図8は、本実施形態にかかる電源のもうひとつの変型例を表す模式図である。同図についても、図5乃至図7に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0117】
本変形例においては、電流迂回路DTの電圧降下素子R1の代わりに、第2のダイオードDA2が設けられている。これは、アーク遮断動作の際に、逆方向アークの抑止をさらに確実にするために有効な構成である。
【0118】
また、この場合には、ダイオードD1、DA1、DA2の順方向抵抗成分を適宜調節することにより、順方向出力時にこれらダイオードを流れる電流成分を適宜低下させて、電源の出力範囲を増大することができる。
【0119】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0120】
例えば、図2乃至図8においては、2つのインバータを設けた電源を例示したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明は、3つあるいはそれ以上のインバータを設けた、いわゆる「多段インバータ構成」の電源についても本発明の第1あるいは第2実施形態を同様に適用して同様の作用効果を得ることができる。
【0121】
また、上述した具体例に関しては、スパッタ用電源を例に挙げて説明したが、本発明の電源はスパッタ用に限定されるものではなく、マグネトロンの発振用電源としても同様に用いて同様の作用効果が得られる。すなわち、マグネトロンに順方向電力を供給して発振動作を生じさせ、何らかの原因により、突発的な短絡電流が生じた場合にも、逆バイアス電圧源から逆電圧を印加して、短絡電流を迅速に遮断することができる。
【0122】
図9は、本発明の電源をマグネトロンの発振に用いた構成を例示する概念図である。本発明の第1及び第2の実施の形態として前述した電源は、マグネトロン200を駆動する電源としても用いることができる。
【0123】
すなわち、図9は、マグネトロンを用いたマイクロ波発生システムを表す。本発明の電源110は、所定の直流高電圧をマグネトロン200に印加して発振させる。マグネトロン200の発振により生じたマイクロ波電力は、導波管を伝送路としてアイソレータ310、マイクロ波センサ320、マイクロ波整合器340を介して、負荷500に供給される。また、センサ320からはフィードバック信号FSが、電源110のインバータに与えられ、マイクロ波の出力電力の制御が行われる。
【0124】
このようなシステムの場合にも、本発明の第1あるいは第2実施形態にかかる電源を用いることにより、順方向電力を増大することができ、高出力のシステムを実現できる。またさらに、本発明の第2実施形態によれば、マグネトロン200において突発的な短絡的電流が生じた場合にも、より迅速に電流を遮断することができる。
【0125】
また一方、本発明の電源、スパッタ用電源及びスパッタ装置における各部の構成、構造、数、配置、形状、材質などに関しては、上記具体例に限定されず、当業者が適宜選択採用したものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に包含される。
【0126】
より具体的には、例えば、スイッチング回路としてMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)の記号により例示したものや、抵抗素子、あるいは保護用素子としてツェナー・ダイオードの記号により例示したものなどは、これら特定の電気素子には限定されず、同様の機能または作用を有する単一の電気素子あるいは複数の電気素子を含む電気回路として構成することができ、これらすべての変形は、本発明の範囲に包含される。
【0127】
また、同様に、インバータやコンパレータ、論理回路、保護回路などの具体的な構成や、ダイオード、抵抗、トランジスタをはじめとする各回路素子の数や配置関係などについても、当業者が適宜設計変更したものは本発明の範囲に包含される。
【0128】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての電源、スパッタ用電源及びスパッタ装置は本発明の範囲に包含される。
【0129】
【発明の効果】
本発明は、以上説明した形態で実施され、以下に説明する効果を奏する。
【0130】
まず、本発明の第1実施形態によれば、逆方向アーク防止ダイオードの電流は通電時間が間欠になり、通電率はインバータ整流器のアーム数で分割される。例えば、単相の場合は2分割、3相の場合は3分割の如くである。このダイオードの平均電流はインバータの整流ダイオードと同じであるので、整流器を構成するダイオードの電流容量まで出力電流を増大できる。
【0131】
また、本発明の第2実施形態によれば、インダクタ電流を短絡するダイオードの電流を低下させ、また、電流迂回路に設けた逆方向アーク防止ダイオードの電流も低下させることができる。また、整流器を構成するダイオードの電流は、電源の出力電流を相数で分割される。その結果として、特定のダイオードに対する電流の集中度を軽減することができ、同じ電流容量のダイオードで回路を構成しても、電源の出力電流を増大することができる。
【0132】
またさらに、第2実施形態においては、アーク放電が発生し、チャンバへの電流供給を遮断する特、電源の出力電圧が逆バイアス電源より大きくなるので、より短時間に遮断できる。
【0133】
以上説明したように、本発明によれば、ダイオードなどの回路素子を大幅に変更することなく出力を増大した電源、スパッタ電源及びスパッタ装置を提供することができ、産業上のメリットは多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態の概念を説明するための模式図である。
【図2】第1実施形態の電源の具体例を表す模式図である。
【図3】第1実施形態の変型例の電源の要部を表す模式図である。
【図4】本発明者が本発明に至る過程で試作した電源を表す模式図である。
【図5】本発明の第2実施形態にかかる電源の要部構成を表す模式図である。
【図6】第2実施形態にかかる電源の変型例を表す模式図である。
【図7】図6の電流迂回路において、ひとつのコンデンサC1としてまとめて設けた電源を表す模式図である。
【図8】第2実施形態にかかる電源のもうひとつの変型例を表す模式図である。
【図9】本発明の電源をマグネトロンの発振に用いた構成を例示する概念図である。
【図10】DC(direct current)スパッタ装置の要部構成を表す模式図である。
【図11】本発明者が本発明に至る過程で試作したスパッタ用電源を表す模式図である。
【符号の説明】
100 基板
101 真空チャンバ
104 ターゲット
106 真空排気ポンプ
107 ガス供給源
108 グロー放電
110 電源(スパッタ用電源、マグネトロン用電源)
120A、120B ケーブル
150 アーク放電
200 マグネトロン
310 アイソレータ
320 センサ
320 マイクロ波センサ
340 マイクロ波整合器
500 負荷
C1〜C4 コンデンサ
CB 逆バイアス電圧源
D1〜D5 ダイオード
DA1、DA2 逆方向アーク防止ダイオード
DB1、DB2 整流器
DC 直流電源
DC1 直流電源
DC2 逆バイアス電圧源
DT 電流迂回路
IGBT1、2、11、12 スイッチング素子
INV1、INV2 インバータ
L1、L2 インダクタ
Q1〜Q4 トランジスタ
Q5、Q6 スイッチング素子
R1 電圧降下素子
T1、T2、T3 トランス
ZD ツェナー・ダイオード
Claims (13)
- 複数の整流アームを有する整流ブリッジからの整流電流を順方向出力として出力し、前記整流電流とは逆方向の電圧を逆バイアス電圧源から逆方向電圧として出力する電源であって、
前記複数の整流アームのそれぞれについて、前記整流アームと同一の整流方向を有する整流素子が設けられ、
前記順方向出力の出力時には、前記複数の整流アームのそれぞれにより整流された整流電流がその整流アームに接続された前記整流素子を介して出力され、
前記逆方向電圧の出力時には、前記逆バイアス電圧源から前記整流素子を介して前記整流素子の逆回復時間のあいだ前記逆方向電圧が出力されることを特徴とする電源。 - 電源に接続された複数の整流アームを有する整流ブリッジと、
前記整流ブリッジと直列に接続されたインダクタと、
前記整流ブリッジと前記インダクタとを含む直列回路に対して並列に接続されたスイッチング素子と、
前記複数の整流アーム毎に直列に接続され前記整流アームと同一の整流方向を有する複数の整流素子と、
前記整流ブリッジと前記インダクタと前記スイッチング素子とを含む閉回路に挿入された逆バイアス電圧源と、
を備え、
前記スイッチング素子が開状態においては、前記複数の整流アームのそれぞれにより整流された整流電流がその整流アームに接続された前記整流素子と前記インダクタとを介して順方向出力として外部負荷に出力され、
前記スイッチング素子が閉状態においては、前記スイッチング素子と前記インダクタと前記整流ブリッジとを含む第1の閉回路と、前記スイッチング素子と前記整流素子と前記逆バイアス電圧源と前記外部負荷とを含む第2の閉回路と、が形成され、前記整流素子の整流方向に対して逆方向の電圧が前記逆バイアス電圧源から前記整流素子の逆回復時間のあいだ前記外部負荷に逆方向電圧として印加されることを特徴とする電源。 - 前記スイッチング素子は、前記複数の整流アームのそれぞれについて設けられたことを特徴とする請求項2記載の電源。
- 前記複数の整流アームは、前記整流素子とは逆方向の整流方向を有する整流手段を介して同一の前記スイッチング素子に共通接続されてなることを特徴とする請求項2記載の電源。
- 前記整流ブリッジに対して、もうひとつの整流ブリッジが直列に接続され、
前記順方向出力の出力時には、前記もうひとつの整流ブリッジを介した整流電流が出力されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の電源。 - 第1の整流ブリッジと第1のインダクタと第1のスイッチング素子とが直列に接続された第1の直列回路と、
第1の整流素子と第2のスイッチング素子とが直列に接続された第2の直列回路であって前記第1のインダクタに対して並列に接続された第2の直列回路と、
前記第1の整流素子と前記第2のスイッチング素子との接続中点に一端が接続され且つ前記第1の整流ブリッジ及び前記第1のスイッチング素子に対して並列に設けられた第2の整流素子と、
前記第2のスイッチング素子と外部負荷との間に直列に設けられた逆バイアス電圧源と、
を備え、
前記第1のスイッチング素子が閉状態且つ前記第2のスイッチング素子が開状態においては、前記第1の整流ブリッジから出力された整流電流が前記第1のインダクタを介して順方向出力として前記外部負荷に出力され、
前記第1のスイッチング素子が開状態且つ前記第2のスイッチング素子が閉状態においては、前記第1の整流ブリッジからの前記外部負荷への出力が遮断され、前記第1のインダクタと前記第1の整流素子と前記第2のスイッチング素子とによる閉回路が形成され、前記第2のスイッチング素子と前記第2の整流素子と前記逆バイアス電圧源と前記外部負荷とを含む閉回路によって前記順方向出力とは逆方向の電圧が前記逆バイアス電圧源から前記第2の整流素子の逆回復時間のあいだ前記外部負荷に逆方向電圧として印加され、前記第2の整流素子の整流方向は前記逆方向電圧とは反対の方向であることを特徴とする電源。 - 前記順方向出力が出力される状態において、前記第1の整流ブリッジからの整流電流の出力が低下すると前記第1のインダクタによる電流は、前記第1の整流素子を介して前記第2の整流素子を含む電流迂回路を流れる電流成分と、前記第1の整流ブリッジの出力端に設けられた整流器を流れる電流成分と、に分かれて流れることを特徴とする請求項6記載の電源。
- 前記電流迂回路は、前記第2の整流素子に対して直列に設けられ、電圧降下を生じさせることにより前記電流迂回路を流れる電流を制限する抵抗素子をさらに有することを特徴とする請求項7記載の電源。
- 前記電流迂回路は、前記抵抗素子に対して並列に設けられた電圧制限素子をさらに有することを特徴とする請求項7または8に記載の電源。
- 前記電流迂回路は、前記第2の整流素子に対して並列に設けられたコンデンサをさらに有することを特徴とする請求項7〜9のいずれか1つに記載の電源。
- 前記第1の直列回路に対して直列に接続され、第2の整流ブリッジと第2のインダクタと第3のスイッチング素子とが直列に接続された第3の直列回路と、
第3の整流素子と第4のスイッチング素子とが直列に接続された第4の直列回路であって前記第2のインダクタに対して並列に接続された第4の直列回路と、
をさらに備え、
前記第3のスイッチング素子が閉状態且つ前記第4のスイッチング素子が開状態においては、前記第2の整流ブリッジから出力された整流電流が前記第2のインダクタを介して前記順方向出力の一部として外部負荷に出力され、
前記第3のスイッチング素子が開状態且つ前記第4のスイッチング素子が閉状態においては、前記第2の整流ブリッジからの前記外部負荷への出力が遮断され、前記第2のインダクタと前記第3の整流素子と前記第4のスイッチング素子とによる閉回路が形成されることを特徴とする請求項6〜10のいずれか1つに記載の電源。 - 請求項1〜11のいずれか1つに記載の電源を備え、
前記順方向出力をスパッタ用電力として出力することを特徴とするスパッタ用電源。 - 大気圧よりも減圧された雰囲気を維持可能な真空チャンバと、
請求項12記載のスパッタ用電源と、
を備え、
前記スパッタ用電力を前記真空チャンバに供給することによりスパッタを実施し、
真空チャンバ内において発生する前記アーク放電を前記逆方向電圧により遮断することを特徴とするスパッタ装置。
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