JP4091965B1 - 人工種苗の管理方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】人工種苗生産において、種苗すなわち受精卵や仔稚魚や幼生をその種類や性状や成長段階に応じた適正な塩分濃度の飼育水で管理することによってその生理機能を活性化させ、種苗の成長を促進し、人工種苗生産の効率化と安定化を図る。

【解決手段】人工種苗生産において、受精卵を孵化させるか又は海産魚もしくは回遊魚の仔稚魚や甲殻類の幼生を飼育するに際し、水槽内の飼育水中に塩分躍層を形成し、その水槽内で受精卵を自らの比重に適合する塩分濃度域に浮遊させて孵化させ、また、仔稚魚又は幼生を自らの種類や性状や成長段階に応じた塩分濃度を選択させながら飼育する人工種苗の管理方法。特に沿岸生息性海産魚や降下性回遊魚の仔稚魚などの飼育管理に適する。【選択図】 図1

Description

本発明は人工種苗の管理方法に関する。詳しくは、水産生物の人工種苗生産において、受精卵を孵化させるか、又は海産魚もしくは回遊魚の仔稚魚や甲殻類の幼生を飼育する方法に関する。なお、増養殖事業における「種苗」とは、その出発対象とされる動物の卵、稚仔、幼生など幼若個体の総称である(新水産ハンドブック)。
一般に、海洋の塩分濃度は一定でなく、また、魚類や甲殻類にはそれぞれが孵化・生息するのに最適の塩分濃度があって、それぞれ自らに適した塩分濃度の海域で孵化し、また生息していることが知られている。また、仔稚魚や幼生は、成長にしたがって適正塩分濃度が変化する種が多い。しかし、従来から、人工種苗生産における受精卵の孵化及び仔稚魚又は幼生の飼育は、天然海域と異なって、飼育水中の塩分濃度は一定であり、扶養される受精卵や飼育される仔稚魚(飼育仔稚魚)や幼生(飼育幼生)がそれぞれに適正な塩分濃度の水域を選択できない環境下で行なわれている。しかし、受精卵を大量に孵化させ、仔稚魚や幼生を大量に飼育する人工種苗生産においては、個々の種苗の性状や成長段階に合わせた飼育水の塩分濃度管理は困難な状況にある。
また、人工種苗生産における受精卵の管理においては、ほとんどの受精卵が水面に浮上してしまい、飼育水の表面に留まることになって、紫外線や外気に晒され、孵化率、生残率又は奇形率などの初期の生残状況の低迷に影響を及ぼしている。
また、仔稚魚や幼生の初期の生残率の低下は、細菌や寄生虫など特定の病原生物に起因する以外に、飼育水環境が実際には仔稚魚や幼生に適合しておらず、浸透圧調節などのストレスから生ずる生理的障害による場合が多いので、仔稚魚や幼生の生残率を向上するためには、このストレスを緩和する必要がある。
このような事情から、本発明者は、人工種苗生産における飼育水を改善して種苗の生産性を向上させることを志向し、種々の塩分濃度の飼育水を用いて受精卵を孵化させたり、仔稚魚や幼生を飼育して研究した。そして、従来から「河口域には稚魚が集まる」と言われていること、また、塩分濃度を海水よりも薄めにした飼育水中では魚の動きが活発になることなどから、飼育水の塩分濃度を仔稚魚や幼生の成長段階に応じて変化させることを思いつき、さらに試験・研究を続けた結果、水槽内に塩分躍層(塩分勾配を有する水域)を設けると、その躍層に仔稚魚や幼生や受精卵が集まることに気がつき、本発明を完成するに至った。なお、本発明者は、特許文献を調査した結果、以下の公報を検出している。
特開2006−288234号公報 特開平7−67495号公報 平成18年度第1回・日本水産学会水産増殖懇話会講演会「養殖用の人工種苗の現状と展望」(平成18年10月7日)の報告書
特許文献1には、人工種苗生産法により海産魚類の仔稚魚を飼育するに際し、飼育水に真水を添加することによつて希釈海水処理(低塩分処理)を行ない、一定の期間低塩分を維持した後、全海水に復帰させる抗病的飼育方法が開示されている。この文献では、真水を添加した低塩分の飼育水に塩分勾配が形成されているのか否か不明であるが、「希釈海水処理(低塩分処理)」と表現していることから、海水に真水を添加して攪拌し、塩分濃度を一定に希釈した海水を使用しているものと考えられる。また、この文献は、希釈海水による一定期間の飼育が「瀕死状態のオニオコゼ稚魚」など疾病状態にある稚魚の生残に有効であること、すなわち、罹病した魚の治癒・回復に有効であることを示しているが、健康な仔稚魚のストレスの解消や抗病性の向上に有効であることを示すものではない。
また、特許文献2には、河口近辺に塩分濃度勾配を有する魚道を設置し、その流路内の汽水の塩分濃度を調節することによって、母川を遡上する回遊性の魚が塩分濃度の変化に対応しやすくして、回遊魚の遡上率を高める方法とそれに用いる魚道装置について開示している。この方法は、河口など淡水と海水が混じり合う汽水域に従来から堰などが設けられて塩分濃度の境界線が生じてしまい、回遊性成魚が体を塩分濃度の激減に合わせるのに無理があるので、その解決策として考えられたものである。そのため、特許文献2には、飼育水に塩分濃度勾配を設けて水槽内で仔稚魚や幼生を飼育したり、受精卵を孵化させる方法に関しては何らの記載もない。
なお、非特許文献1は、養殖用の人工種苗の現状に関する最新の技術情報を総括する報告書であるが、飼育水に塩分躍層を設けて仔稚魚や幼生を飼育したり、塩分躍層を設けて受精卵を孵化させる方法に関しては何らの言及もない。
上記の状況に鑑み、本発明は、人工種苗生産において、種苗すなわち受精卵や仔稚魚や幼生をその種類や性状や成長段階に応じた適正な塩分濃度の飼育水で管理することによってその生理機能を活性化させ、種苗の成長を促進し、もって人工種苗生産の効率化と安定化を図ることを課題とするものである。
上記の課題を解決するための発明のうち特許請求の範囲・請求項1に記載する発明は、人工種苗生産において、海産魚もしくは回遊魚の仔稚魚又は甲殻類の幼生を飼育するに際し、水槽内の飼育水中に塩分躍層を形成し、その水槽内で自らの適正塩分濃度を選択させながら仔稚魚又は幼生を飼育することを特徴とする人工種苗の管理方法である。
また、同請求項2に記載する発明は、人工種苗生産において、受精卵を孵化させるに際し、水槽内の飼育水中に塩分躍層を形成し、その水槽内で受精卵を自らの比重に適合する塩分濃度域に浮遊させて孵化させることを特徴とする人工種苗の管理方法である。
また、同じく請求項3に記載する発明は、請求項1に記載の管理方法において、海水を下層とし、海水よりも低濃度の塩水か又は淡水を上層として塩分躍層を形成し、その飼育水を用いて仔稚魚又は幼生を飼育する人工種苗の管理方法である。
また、同じく請求項4に記載する発明は、請求項2に記載の管理方法において、海水を下層とし、海水よりも低濃度の塩水か又は淡水を上層として塩分躍層を形成し、その飼育水を用いて受精卵を孵化させる人工種苗の管理方法である。
さらに、同じく請求項5に記載する発明は、請求項3に記載の管理方法において、海水よりも低濃度の塩水を上層とする飼育水を用いてクロダイ、ヒラメ、オコゼなどの海産魚の仔稚魚又はモクズガニ、クルマエビ、ガザミなどの甲殻類の幼生を飼育する人工種苗の管理方法である。
さらに、同じく請求項6に記載する発明は、請求項3に記載の管理方法において、淡水を上層とする飼育水を用いてアユ、サケ、マスなどの回遊魚の仔稚魚を飼育する人工種苗の管理方法である。
本発明に係る人工種苗の管理方法によれば、仔稚魚や幼生を飼育するに際し、飼育水中に塩分躍層を形成することによって、種苗生産の現場で飼育水の塩分濃度を微妙に調節しなくても、飼育仔稚魚や飼育幼生が自ら適正な塩分濃度水域を選択して生息・成長するので、仔稚魚や幼生の浸透圧調節によるエネルギー消費やストレスなどによる生理的障害が緩和され、生理機能が活発化して抗病性が向上するので、疾病に犯され難くなり、仔稚魚や幼生の最も弱い時期である孵化直後に生じやすい初期減耗を抑制することができる。そのため、本発明に係る人工種苗の管理方法によれば、従来の管理方法に比べて、仔稚魚や幼生の生残率や成長性を大きく向上させることができる。例えば、アユの場合、0.5gの稚魚に成長するまでの生残率は、従来の全国平均では40%程度であるが、本発明の管理方法を用いると70%以上に向上させることができる。
また、本発明に係る人工種苗の管理方法によれば、受精卵を孵化させるに際し、飼育水中に塩分躍層を形成することによって、受精卵は同じ比重の塩分濃度層に浮遊し、水面に浮上することなしに孵化するので、受精卵が紫外線や外気温などの外部刺激の影響を避けることができ、従来の管理方法に比べて、孵化率や生残率を高め、また奇形率を低く抑えることができる。例えば、クロダイの場合、全国平均値で孵化率は40〜70%程度、孵化後の生残率は20〜40%程度であるが、本発明の方法のとおり、受精卵を塩分躍層を形成した水槽で管理・孵化させたところ、孵化率は80〜95%程度に、生残率は70%程度に向上させることができた(平成17年度飼育結果)。また、アユの奇形率は、全国平均値は数%〜30%であるが、本発明の方法を採ることによって、奇形の発生をほとんどゼロに抑えることができた(平成17年度飼育結果)。
このように、本発明に係る人工種苗の管理方法によれば、人工種苗生産における各種種苗の生産性を安定かつ向上させることができ、その結果、生産者の利益を大きく向上させることができる。
さらに、本発明によれば、薬剤を用いることなく、飼育管理する受精卵や仔稚魚や幼生の抗病性を向上させ、その罹病や異常を予防できるので、従来から「養殖魚は薬漬けである」とか「生け簀には化学物質が使われている」というような風評を抑えることができ、人工種苗生産の品質に関して国民の理解を得ることができるようになる。
本発明は、人工種苗の管理において、水槽内の飼育水に塩分躍層を形成し、その塩分躍層を形成した飼育水の中で受精卵管理、仔稚魚管理又は幼生管理を行なう方法であると言うことができる。
本発明の管理方法において、使用する水槽の容量は特に制限はなく、通常の種苗生産と同様、受精卵管理には容量50Lのビーカー程度のものから10tを越える大型のものまで、また、仔稚魚管理にはビーカー程度のものから60tないし80tを越える大容量のものまで、各種サイズの水槽を使用できる。
本発明の管理方法において、受精卵の孵化方法及び仔稚魚や幼生の飼育方法は、沿岸域に生息する魚類や甲殻類をはじめ、河川から海へ降下して生育し、成魚となって母川へ戻ってくる降下性の回遊魚に適用できる。
すなわち、本発明に係る人工種苗の管理方法は、沿岸生息性海産魚や甲殻類及び降下性回遊魚であれば、その種類を問わず適用できる。具体的には、沿岸生息性海産魚としてヒラメ、クロダイ、オコゼ、マハタなど、降下性回遊魚としてアユ、サケ、マス、シラウオ(サケ科)、シロウオ(ハゼ科)など、甲殻類としてモクズガニ、ガザミ、クルマエビなどを挙げることができる。なお、本発明の管理方法は、ここに挙げた魚類や甲殻類に限定するものではない。
本発明に係る人工種苗の管理方法では、仔稚魚又は幼生の飼育方法において、仔稚魚又は幼生を塩分躍層を形成してある飼育水の中で、放流するまでの間そのまま飼育し続けても差し支えなく、或いは、ある程度成長した段階で塩分濃度一定の飼育水へ移し換えてもよい。また、受精卵の管理方法では、塩分躍層を形成した飼育水の中で孵化させてよく、また、海水又は淡水で孵化させた後に、その水槽に塩分躍層を形成させるか又は孵化仔魚を塩分躍層を形成してある水槽へ移し換えてやればよい。
本発明において、水槽の水温については、種苗生産の常法のとおりで差し支えない。一般に、仔稚魚や幼生の飼育に最適な水温は、ヒラメ、クロダイ、オコゼについては10〜25℃、サケは5〜15℃、アユは10〜20℃、トラフグは21〜27℃、クルマエビは20〜20℃などであり、また、受精卵の孵化も上記と同じ水温でよいことが知られている。本発明の管理方法においても、これらを目安にして水温を調節・管理することが好ましい。
次に、本発明に用いる「塩分躍層を形成した飼育水」の適切な製法について例示する。主な作り方は2通りあって、水槽に海水を入れておき、その上に淡水(真水)かもしくは海水よりも塩分濃度を薄くした塩水を加える方法か又は水槽に淡水(真水)かもしくは海水よりも塩分濃度を薄くした塩水を入れておき、パイプを通して水槽の底部から海水を注入する方法のどちらかを採ればよい。どちらの方法でも海水と淡水又は海水と塩水の境界域に塩分躍層が形成される。なお、海水を下層として塩分躍層を形成する場合は、海水の塩分濃度よりも数%から50%程度薄い濃度の塩水を注入することが好ましい。しかし、海水と淡水又は海水と塩水の配合量や上層と下層の塩分濃度は、受精卵や飼育仔稚魚や飼育幼生の種類や性状や成長段階に応じて決めればよく、特に限定はない。なお、当然のことであるが、水槽中の海水と淡水又は海水と塩水を攪拌してはならない。
本発明において、沿岸生息性海産魚の仔稚魚を飼育対象とする飼育水に塩分躍層を形成する場合、下層に海水(30〜34ppt)を用いるときは、上層とする塩水の塩分濃度は、クロダイ,オコゼであれば18〜25ppt、マハタであれば20〜25pptが適当である。
本発明において、降下性回遊魚の仔稚魚を飼育対象とする飼育水に塩分躍層を形成する場合、下層に海水(30〜34ppt)か又は海水よりも少し薄めの塩水を用い、上層は淡水を注入すればよい。
本発明では、用いる飼育水の塩分躍層の数は2層に限るものではなく、3層以上の塩分躍層を形成した飼育水を用いてもよい。塩分躍層を3層にする場合は、水槽内にまず海水を入れ、次いで海水より塩分濃度が薄い塩水を注入し、その上に淡水か又はさらに薄めの塩水を注入すればよい。
次に、上記の飼育水を用いて受精卵を孵化させ、仔稚魚又は幼生を飼育する適切な方法について例示する。まず、海水で孵化する沿岸生息性海産魚については、塩分躍層を形成してある水槽の中に受精卵を収容し、通常のとおり孵化させることでよい。この場合、受精卵は、自分と同じ比重の塩水に浮遊するので、飼育水は、その躍層域に受精卵が集中するような塩分濃度に調製することが好ましい。すなわち、そのような塩分躍層を形成してある飼育水を充たした水槽に沿岸生息性海産魚の受精卵を収容する。そうすると、受精卵は、浮上卵であっても、ほとんどの卵は塩分躍層(の中の同比重域)に集まって浮遊するので、そのまま孵化させて差し支えない。なお、塩分濃度一定の飼育水の中で孵化させた後、塩分躍層を形成してある飼育水へ孵化仔魚や孵化幼生を移し換えても差し支えない。また、降下性回遊魚の受精卵の場合は、淡水を充たした水槽で通常のとおり孵化させ、孵化した直後にその水槽へ底の方から海水を注入してやれば容易に塩分躍層を形成した飼育水を作ることができるので、その状態の水槽で飼育を続ければよい。
塩分躍層を形成した飼育水の中でしばらく飼育を続けていると、当初は塩分躍層に集中していた仔稚魚や幼生は、水槽の中で個々の種類や性状や成長段階に応じて適正な塩分濃度を自分で選択して、その濃度の水域へ自然に移動する。例えば、アユの仔魚の場合、孵化直後は10ppt前後の低濃度域に集中しているが、成長するにつれて次第に初期よりも塩分濃度の濃い域へ移動する。また、ヒラメの仔魚では、初期には20ppt前後の薄い塩分濃度層に浮遊しているが、変態段階が進んで着底期に向かうにしたがい、塩分濃度の濃い層へ移動し、海水層で初めて変態に至る。このように、本発明の管理方法では、仔稚魚や幼生が水槽の中で自分に適した塩分濃度の水域へ自然に移動するので、水槽の塩分濃度を調整する必要がない。
また、仔稚魚や幼生は、その飼育過程で、低い塩分濃度へ移動する行動も確認されている。これは、塩分濃度の低い方へ移動して付着した寄生虫を浸透圧の差によって落としたり、罹病の治癒・回復を個体自ら行なっている可能性が高い。なお、一般的に、魚類には成長するにつれて塩分濃度の濃い水域へ移動する傾向が見られる。飼育管理している仔稚魚や幼生が水槽内の海水層へ移動したときには、淡水や希釈海水の給水を止め、海水の給水量を増やし、海水を飼育水槽に充たせばよい。
本発明は、アワビ、ハマグリ、サザエ、ホタテ貝、アサリ、シジミ、カキなどの二枚貝を主とする貝類の幼生の飼育にも適用できる方法である。
以下、実施例をもって、本発明をさらに詳細に説明する。
《クロダイ仔魚の飼育例》
容量60tの屋内水槽(容水量30t:水深80cm)を2基用意し、1基には、海水(塩分濃度32ppt)を20t入れて下層とし、その上から塩分濃度15pptの塩水を10t注入して上層とし、水槽内に塩分躍層を形成した飼育水を充たした(この水槽を「躍層区」とする)。他の1基には、海水(塩分濃度32ppt)を30t収容した(この水槽を「海水区」とする)。
両水槽とも、微通気を行ない、それぞれに孵化後10日目のクロダイの仔魚30万尾を収容し、飼育を開始した。このときのクロダイ仔魚の全長は、躍層区に収容したものの平均値が4.53mm、海水区に収容したものの平均値は4.45mmであった。両水槽とも水温は15〜20℃に維持し、餌料は、ワムシ、アルテミアを給与した。
躍層区に収容したクロダイ仔魚は、そのほとんどが水槽内に形成された塩分躍層域にほぼ1列に集まって遊泳を続けた。一方、海水区に収容したクロダイ仔魚は、水槽全体に拡散した状態になった。
孵化後15日目に両水槽からそれぞれ60尾を無差別に採取し、全長を測定した。躍層区に収容した仔魚の平均値が6.89mm、海水区に収容した仔魚の平均値は5.64mmであった。また、孵化後20日目に、両水槽からそれぞれ60尾を無差別に採取し、全長を測定した。躍層区に収容したクロダイ仔魚の平均値は8.50mmで生残率は87.7%(孵化直後対比)、海水区に収容したクロダイ仔魚の全長平均値は7.94mmで生残率は67.3%(同)であった。両水槽におけるクロダイ仔魚の全長を比較したグラフを図1に示す。
孵化後25日目までの間に、躍層区の仔魚は、躍層区上部の低塩分域から次第に塩分濃度の濃い下方へ移動し、この時期までに、仔魚のほとんどが水槽の下層(海水層)へ移動したので、孵化後30日目に海水の給水を増やし、飼育水を海水へ移行し、海水飼育に切り換えた。
《アユ仔魚の飼育例》
容量60tの屋内水槽(水深160cm)2基に、それぞれ淡水60tを充たして、孵化直前まで卵管理したアユの受精卵を1基当たり20万尾を目安にして収容し、孵化させた。孵化後、1基には、底面から海水(塩分濃度32ppt)を給水し、上面から淡水を給水して塩分躍層を形成した(この水槽を「躍層区」とする)。他の1基には、海水を直ちに給水して海水だけの水槽にした(この水槽を「海水区」とする)。
両水槽とも、微通気を行ない、それぞれに孵化後10日目のアユの仔魚20万尾を収容した状態で飼育を開始した。両水槽とも水温は16〜20℃に維持し、餌料は、ワムシを給与した。孵化後10日目のアユ仔魚の全長は、躍層区に収容したものの平均値が11.6mm、海水区に収容したものの平均値は11.4mmであった。
躍層区で飼育したアユ仔魚は、初期にはほとんどが躍層域上層の10〜20ppt域にほぼ1列に集まって遊泳を続けた。一方、海水区に収容したアユ仔魚は、水表面近くで遊泳する状態であった。
孵化後30日目に両水槽からそれぞれ60尾を無差別に採取し、全長を測定した。躍層区に収容したアユ仔魚の平均値が21.5mm、海水区に収容したアユ仔魚の平均値は21.0mmであった。また、孵化後50日目に、両水槽からそれぞれ60尾を無差別に採取し、全長を測定した。躍層区に収容したアユ仔魚の平均値が31.7mmで生残率は84.3%(孵化直後対比)、海水区に収容したアユ仔魚の平均値は29.7mmで生残率は66.8%(同)であった。両水槽におけるアユ仔魚の全長を比較したグラフを図2に示す。
この時期には、躍層区の仔魚のほとんどが水槽の下層(海水層)に移動したので、給水を海水に切り替え、全ての仔魚を海水飼育へ移行した。
《オニオコゼとマハタの飼育例》
容積1kLの円形黒色水槽(水深70cm)を4基用意し、水面から汽水(塩分22ppt)、底面から海水(塩分34ppt)を注入し、飼育水中に塩分躍層を形成した試験水槽2基と、水面から海水を注入して対照水槽2基を作った。対照水槽にはマハタ(1万粒)、オニオコゼ(1.2万粒)の受精卵をそれぞれ収容し、試験水槽には、それぞれ対照水槽の半数の受精卵を収容した。マハタは孵化後21日令までの飼育を、オニオコゼは稚魚(23日令)までの飼育を実施し、それぞれ仔稚魚の飼育水槽内の分布状況、摂餌状況、成長・生残状況を調べた。
対照水槽内の仔魚は、2種ともに水柱全体に分散した。試験水槽内のマハタ仔魚は、試験期間を通じて水深0〜20cmの上層(塩分22.0〜24.8ppt)に分布が集中し、初期摂餌も活発で、開口時の生残率は96%であった。これは、対照水槽内のマハタ仔魚の1.4倍である。また、試験水槽内のオニオコゼ仔魚は、1日令には上層(塩分22.0〜23.5ppt)に分布し、2日令以降は中層(24.1〜33.4ppt)に分布域が拡大した。飼育最終日のオニオコゼの生残率は82%であった。これは、対照水槽内のオニオコゼ仔魚の生残率(68.2±6.0%)よりも10%以上も高い。
《モクズガニの飼育例》
容量2kLの円形ポリカーボネイト水槽(水深100cm)を4基用意し、水面から汽水(塩分濃度20ppt)を、底面から海水(同32ppt)を注水して塩分躍層を形成した水槽(この水槽を「躍層形成槽」という。)2基と、海水を注水した水槽(この水槽を「海水槽」という。)2基に、それぞれモクズガニのゾエア幼生2万尾を収容し、幼生の分布状況、生残状況などを観察した。
ゾエア幼生は、躍層形成槽では塩分躍層の塩分25〜30ppt域に集まったが、海水槽では全体に拡散した。躍層形成槽では、遊泳も活発で、ゾエア期に発生する水生菌(真菌)の被害がなく、生残率は17.1%であった。これに対し、海水槽では、水生菌の被害による減耗で、生残率は0%となった。
躍層形成槽内でゾエア幼生を成長させ、メガロパ期に入る時期に、この水槽に水面から淡水を給水して淡水を上層とする塩分躍層を形成し、飼育を続けたところ、メガロパ後期になった個体から水槽内の淡水域への移動が観察された。この時点での生残率は38.1%であった。なお、淡水を給水しなかったときの生残率は8.3%であった。
以上、詳しく説明したとおり、本発明に係る人工種苗の管理方法では、仔稚魚や幼生を飼育するに際し、塩分躍層を形成した飼育水を用いるという簡単な方法によって、仔稚魚や幼生の孵化率や生残率や成長性を向上させ、人工種苗生産における種苗の生産性を向上かつ安定させることができ、その結果、生産者の利益を大きく向上・安定させることができる。
また、本発明に係る人工種苗の管理方法では、受精卵を孵化させるに際し、塩分躍層を形成した飼育水を用いるという簡単な方法によって、受精卵の孵化率や生残率を高め、また奇形率を抑えることが可能となり、人工種苗生産における種苗の生産性を向上かつ安定させることができ、その結果、生産者の利益を大きく向上・安定させることができる。
クロダイの成長性(全長サイズ)を本発明方法と従来方法とを対比して示したグラフである。 アユの成長性(全長サイズ)を本発明方法と従来方法とを対比して示したグラフである。

Claims (6)

  1. 人工種苗生産において、海産魚もしくは回遊魚の仔稚魚又は甲殻類の幼生を飼育するに際し、水槽内の飼育水中に塩分躍層を形成し、その水槽内で自らの適正塩分濃度を選択させながら仔稚魚又は幼生を飼育することを特徴とする人工種苗の管理方法。
  2. 人工種苗生産において、受精卵を孵化させるに際し、水槽内の飼育水中に塩分躍層を形成し、その水槽内で受精卵を自らの比重に適合する塩分濃度域に浮遊させて孵化させることを特徴とする人工種苗の管理方法。
  3. 請求項1に記載の管理方法において、海水を下層とし、海水よりも低濃度の塩水か又は淡水を上層として塩分躍層を形成し、その飼育水を用いて仔稚魚又は幼生を飼育する人工種苗の管理方法。
  4. 請求項2に記載の管理方法において、海水を下層とし、海水よりも低濃度の塩水か又は淡水を上層として塩分躍層を形成し、その飼育水を用いて受精卵を孵化させる人工種苗の管理方法。
  5. 請求項3に記載の管理方法において、海水よりも低濃度の塩水を上層とする飼育水を用いてクロダイ、ヒラメ、オコゼなどの海産魚の仔稚魚又はモクズガニ、クルマエビ、ガザミなどの甲殻類の幼生を飼育する人工種苗の管理方法。
  6. 請求項3に記載の管理方法において、淡水を上層とする飼育水を用いてアユ、サケ、マスなどの回遊魚の仔稚魚を飼育する人工種苗の管理方法。
JP2007081432A 2007-03-27 2007-03-27 人工種苗の管理方法 Expired - Fee Related JP4091965B1 (ja)

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