以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施形態によるエンジンの概略構成を示し、図2はエンジン本体1の一つの気筒とそれに対して設けられた吸・排気弁等の構造を概略的に示している。これらの図において、エンジン本体1は複数の気筒を有し、図示の実施形態では4つの気筒2A〜2Dを有している。各気筒2A〜2Dにはピストン3が嵌挿され、ピストン3の上方に燃焼室4が形成されている。
各気筒2A〜2Dの燃焼室4の頂部には点火プラグ7が装備され、そのプラグ先端が燃焼室4内に臨んでいる。この点火プラグ7には、電子制御による点火時期のコントロールが可能な点火回路8が接続されている。また、燃焼室4の側方部には、燃焼室4内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁9が設けられている。
さらに、各気筒2A〜2Dの燃焼室4に対して吸気ポート11、11a,11b及び排気ポート12、12a,12bが開口し、これらのポートに吸気通路15、排気通路20等が接続されるとともに、各ポートが吸気弁31、31a,31b及び排気弁32、32a,32bにより開閉されるようになっている。
そして、各気筒が所定の位相差をもって吸気、圧縮、膨張、排気の各行程からなるサイクルを行うようになっており、4気筒エンジンの場合、気筒列方向一端側から一番気筒2A、二番気筒2B、三番気筒2C、四番気筒2Dと呼ぶと、図5に示すように前記サイクルが一番気筒2A、三番気筒2C、四番気筒2D、二番気筒2Bの順にクランク角で180°ずつの位相差をもって行われるようになっている。なお、図5において、EXは排気行程、INは吸気行程であり、また、Fは燃料噴射、Sは強制点火を表し、図中の星マークは圧縮着火(条件によっては強制点火)が行われることを表している。
排気行程と吸気行程が重なる一対の気筒間には、排気行程と吸気行程が重なるときの排気行程側の気筒(当明細書ではこれを先行気筒と呼ぶ)から吸気行程側の気筒(当明細書ではこれを後続気筒と呼ぶ)へ既燃ガスをそのまま導くことができるように、気筒間ガス通路22が設けられている。当実施形態の4気筒エンジンでは、図5に示すように一番気筒2Aの排気行程(EX)と二番気筒2Bの吸気行程(IN)とが重なり、また四番気筒2Dの排気行程(EX)と三番気筒2Cの吸気行程(IN)が重なるので、一番気筒2Aと二番気筒2B、及び、四番気筒2Dと三番気筒2Cがそれぞれ一対をなし、一番気筒2A及び四番気筒2Dが先行気筒、二番気筒2B及び三番気筒2Cが後続気筒となる。
各気筒の吸・排気ポートとこれに接続される吸気通路、排気通路及び気筒間ガス通路は、具体的には次のように構成されている。
先行気筒である一番気筒2A及び四番気筒2D(以下、先行気筒については、先行気筒2A,2Dと示す。)には、それぞれ、新気を導入するための吸気ポート11と、既燃ガス(排気ガス)を排気通路に送り出すための第一排気ポート12aと、既燃ガスを後続気筒に導出するための第二排気ポート12bとが配設されている。また、後続気筒である二番気筒2B及び三番気筒2C(以下、後続気筒については、後続気筒2B,2Cと示す。)には、それぞれ、新気を導入するための第一吸気ポート11aと、先行気筒からの既燃ガスを導入するための第二吸気ポート11bと、既燃ガスを排気通路に送り出すための排気ポート12とが配設されている。
図1に示す例では、先行気筒2A,2Dにおける吸気ポート11および後続気筒2B,2Cにおける第一吸気ポート11aが、1気筒当り2個ずつ、燃焼室に並列的に設けられる一方、先行気筒2A,2Dにおける第一排気ポート12a及び第二排気ポート12bならびに後続気筒2B,2Cにおける第二吸気ポート11b及び排気ポート12が、燃焼室に並列的に設けられている。
先行気筒2A,2Dにおける吸気ポート11および後続気筒2B,2Cにおける第一吸気ポート11aには、吸気通路15における気筒別の分岐吸気通路16の下流端が接続されている。各分岐吸気通路16の下流端近傍には、共通の軸を介して互いに連動するスロットル弁17が設けられており、このスロットル弁17は制御信号に応じてアクチュエータ18により駆動され、吸入空気量を調節するようになっている。なお、吸気通路15における分岐吸気通路16の集合部より上流の共通吸気通路には吸気流量を検出するエアフローセンサ19および吸気温を測定する吸気温センサ27が設けられている。また、スロットル弁17は、一般的には多連スロットル弁が用いられている。
先行気筒2A,2Dにおける第一排気ポート12aおよび後続気筒2B,2Cにおける排気ポート12には、排気通路20における気筒別の分岐排気通路21の上流端が接続されている。
排気通路20は、先行気筒側排気通路20aと、後続気筒側排気通路20bとを備えている。先行気筒側排気通路20aは、先行気筒2A,2Dに接続される分岐排気通路21に接続され、後続気筒側排気通路20bは、後続気筒2B,2Cに接続される分岐排気通路21に接続されている。
また、先行気筒側排気通路20a、後続気筒側排気通路20bには、各々排気ガス中の酸素濃度を検出することにより空燃比を検出するO2センサ23が設けられている。O2センサ23は、理論空燃比付近で出力が急変するλO2センサであり、このO2センサ23の出力に基いて各気筒2A〜2Dに対する燃料噴射量がフィードバック制御される。
さらにO2センサ23の下流の先行気筒側排気通路20a及び後続気筒側排気通路20bには、各々排気浄化用の三元触媒24a、24bが設けられている。この三元触媒24a、24bは、一般に知られているように、排気ガスの空燃比が理論空燃比(つまり空気過剰率λがλ=1)付近にあるときにHC,CO及びNOxに対して高い浄化性能を示す触媒である。
また、一番気筒2Aと二番気筒2Bとの間及び三番気筒2Cと四番気筒2Dとの間にそれぞれ気筒間ガス通路22が設けられ、先行気筒2A,2Dの第二排気ポート12bに気筒間ガス通路22の上流端が接続されるとともに、後続気筒2B,2Cの第二吸気ポート11bに気筒間ガス通路22の下流端が接続されている。
前記気筒間ガス通路22は、互いに隣接する気筒間を接続する比較的短い通路であり、ウォータージャケット26に覆設されている。ウォータージャケット26は、その内部に気筒間ガス通路22を取り囲むような冷却水通路52(図3参照)を備える。そして先行気筒から排出される既燃ガスがこの気筒間ガス通路22を通る際、放熱を抑制する場合は冷却水を停止し、放熱を促進する場合は冷却水を循環させるようになっている。なお、冷却水通路52には、冷却水を循環させるための冷却用ポンプ50およびそれを駆動する冷却用ポンプ駆動モータ51が設けられるとともに、冷却水の温度を測定するためのガス通路冷却水温センサ57が設けられている(図3参照)。
また、気筒間ガス通路22には、酸素濃度に応じて出力がリニアに変化するリニアO2センサ25が設けられており、その出力に応じ、所定のリーン空燃比とされる先行気筒2A,2Dに対する燃料噴射量がフィードバック制御される。
各気筒の吸・排気ポートを開閉する吸・排気弁とこれらに対する動弁機構は、次のようになっている。
先行気筒2A,2Dにおける吸気ポート11、第一排気ポート12a及び第二排気ポート12bにはそれぞれ吸気弁31、第一排気弁32a及び第二排気弁32b(ガス導出弁)が設けられ、また、後続気筒2B,2Cにおける第一吸気ポート11a、第二吸気ポート11b及び排気ポート12にはそれぞれ第一吸気弁31a、第二吸気弁31b(ガス導入弁)及び排気弁32が設けられている。そして、各気筒の吸気行程や排気行程が上述のような所定の位相差をもって行われるように、これら吸・排気弁がそれぞれカムシャフト33,34等からなる動弁機構により所定のタイミングで開閉するように駆動される。
さらに、これらの吸・排気弁のうちで第一排気弁32a、第二排気弁32b、第一吸気弁31a及び第二吸気弁31bに対しては、各弁を作動状態と停止状態とに切換える弁停止機構35が設けられている。この弁停止機構35は、従来から知られているため詳しい図示は省略するが、例えば、カムシャフト33,34のカムと弁軸との間に介装されたタペットに作動油の給排が可能な油圧室が設けられ、この油圧室に作動油が供給されている状態ではカムの作動が弁に伝えられて弁が開閉作動され、油圧室から作動油が排出されたときにはカムの作動が弁に伝えられなくなることで弁が停止されるようになっている。
前記第一吸気弁31aの弁停止機構35に対する作動油給排用の通路36には第一コントロール弁37が、また第一排気弁32aの弁停止機構35と第二排気弁32bの弁停止機構35と第二吸気弁31bの弁停止機構35とに対する作動油給排用の通路38には第二コントロール弁39がそれぞれ設けられている(図3参照)。
図3は駆動、制御系統の構成を示している。この図において、マイクロコンピュータ等からなるエンジン制御用のECU(コントロールユニット)40(エンジン制御手段)には、エアフローセンサ19、O2センサ23、リニアO2センサ25および吸気温センサ27からの信号が入力され、運転状態を判別するためにエンジン回転数を検出する回転数センサ45、アクセル開度(アクセルペダル踏込み量)を検出するアクセル開度センサ46および車速センサ55等からの信号が入力され、更に各冷却水の温度を検知するためにエンジン冷却水温センサ56やガス通路冷却水温センサ57からの信号が入力されている。このECU40から、各燃料噴射弁9と、スロットル弁17のアクチュエータ18と、前記第一,第二のコントロール弁37,39と、冷却用ポンプ駆動モータ51とに対して制御信号が出力されている。
前記ECU40は、運転状態判別手段41、弁停止機構制御手段42、吸入空気量制御手段43、燃焼制御手段44及びガス通路冷却制御手段47を備えている。
運転状態判別手段41は、前記回転数センサ45及びアクセル開度センサ46等からの信号によりエンジンの運転状態(エンジン回転数及びエンジン負荷)を調べ、運転状態が図4に示すような低負荷低回転側の運転領域Aと、高負荷側ないし高回転側の運転領域Bとのいずれの領域にあるかを判別する。
エンジンが温間状態(完全に暖機された状態)にあり、かつ特別な状態(例えば後述する後続気筒の筒内温度上昇など)にないとき、運転領域Aでは特殊運転モードでの運転を行い、運転領域Bでは通常運転モードでの運転を行う。なお、特殊運転モード及び通常運転モードの詳細については、後述する。
弁停止機構制御手段42は、第一切替制御手段42aと第二切替制御手段42bとを備えている。
第一切替制御手段42aは、第一コントロール弁37を制御することにより、第一吸気弁31aの弁停止機構35を制御する。
また、第二切替制御手段42bは、第二コントロール弁39を制御することにより、第一排気弁32a及び第二排気弁32b及び第二吸気弁31bに配置された弁停止機構35を制御する。
すなわち、第一切替制御手段42a、第一コントロール弁37、及び、これらに制御される弁停止機構35により、第一の切替手段が構成され、第二切替制御手段42b、第二コントロール弁39、及び、これらに制御される弁停止機構35により、第二の切替手段が構成されている。
そして、これら第一及び第二切替制御手段42a、42bで、特殊運転モードと通常運転モードとに応じ、前記各コントロール弁37,39を制御することにより、各弁停止機構35を次のように切替制御を行う。
特殊運転モード:第一排気弁32a及び第一吸気弁31aを停止状態
第二排気弁32b及び第二吸気弁31bを作動状態
通常運転モード:第一排気弁32a及び第一吸気弁31aを作動状態
第二排気弁32b及び第二吸気弁31bを停止状態
なお、吸気弁31、及び、排気弁32は、前記運転モードに関係なく、常に作動する状態となっている。
前記吸入空気量制御手段43は、アクチュエータ18を制御することによりスロットル弁17の開度(スロットル開度)を制御するものであり、運転状態に応じてマップ等から目標吸入空気量(目標吸気量)を求め、その目標吸入空気量に応じてスロットル開度を制御する。
この場合、特殊運転モードでは、後述のように後続気筒2B,2Cにおいては分岐吸気通路16からの吸気導入が遮断された状態で先行気筒から導入される既燃ガス中の過剰空気と新たに供給される燃料との比が理論空燃比とされつつ燃焼が行われるので、先行、後続の2気筒分の要求トルクに応じた燃料の燃焼に必要な量の新気(2気筒分の燃料の量に対して理論空燃比となる量の空気)が先行気筒2A,2Dに供給されるように、スロットル開度が調節される。
また、通常運転モードでは、各気筒2A〜2Dは、各々理論空燃比、または、理論空燃比よりもリッチとなる状態で燃焼を行うため、この燃焼状態に対応する量の新気が供給されるように、スロットル開度が調節される。すなわち、前記先行気筒2A,2Dに配置されたスロットル弁17の開度は、前記特殊運転モードの場合と比較して小さくなる。
前記燃焼制御手段44は、燃料噴射制御手段44aと点火制御手段44bとからなっており、燃料噴射制御手段44aにより、各気筒2A〜2Dに設けられた燃料噴射弁9からの燃料噴射量及び噴射タイミングをエンジンの運転状態に応じて制御するとともに、点火制御手段44bにより運転状態に応じた点火時期の制御及び点火停止等の制御を行う。そして、特に運転状態が特殊運転モードである場合と通常運転モードである場合とで燃焼の制御(燃料噴射の制御及び点火の制御)が変更される。
すなわち、特殊運転モードの場合、先行気筒2A,2Dに対しては、空燃比を理論空燃比よりも大きいリーン空燃比、好ましくは理論空燃比の略2倍もしくはそれ以上とするように燃料噴射量を制御するとともに、圧縮行程で燃料を噴射して混合気の成層化を行わせるように噴射タイミングを設定し、かつ、圧縮上死点付近で強制点火を行わせるように点火タイミングを設定する。一方、後続気筒2B,2Cに対しては、先行気筒から導入されたリーン空燃比の既燃ガスに対して燃料を供給し、理論空燃比となるように燃料噴射量を制御するとともに、吸気行程で燃料を噴射するように噴射タイミングを設定する。そして、後続気筒2B,2Cの筒内温度が圧縮着火に適した温度であるときには強制点火を停止させて圧縮着火による燃焼を行う。
また、通常運転モードの場合には、各気筒2A〜2Dの空燃比を理論空燃比もしくはそれ以下とするように燃料噴射量を制御し、例えば通常運転モードのうちの大部分の領域において理論空燃比とし、全開負荷及びその付近の運転領域で理論空燃比よりリッチとする。そして、この場合に、各気筒2A〜2Dに対して吸気行程で燃料を噴射して混合気を均一化するように噴射タイミングを設定し、かつ、各気筒2A〜2Dとも強制点火を行わせるようにする。
ガス通路冷却制御手段47は、特殊運転モード中、気筒間ガス通路22内を流れる既燃ガス温度の制御を行う。特殊運転モード中であっても、運転状態が、比較的高負荷高回転である場合や、運転領域Bから運転領域Aに移行した直後などは、後続気筒2B,2Cの筒内温度が圧縮着火に適した温度よりも高温になる場合がある。そのため、ガス通路冷却制御手段47は、後続気筒の混合気温度が所定値以上であるとき、冷却用ポンプ駆動モータ51を作動させて混合気を冷却する。その冷却用ポンプ駆動モータ51に駆動される冷却用ポンプ50によって冷却水が冷却水通路52内を循環し、ウォータージャケット26内の気筒間ガス通路22を冷却する。このため、先行気筒2A,2Dから気筒間ガス通路22を経由して後続気筒2B,2Cに導かれる既燃ガスの温度が降下するので、後続気筒2B,2Cの筒内温度が圧縮着火に適した温度に維持される。
以上のような当実施形態の装置の作用を、図5〜図7を参照しつつ説明する。
特殊運転モードでは前述のように第一排気弁32a及び第一吸気弁31aが停止状態、第二排気弁32b及び第二吸気弁31bが作動状態とされることにより、実質的な新気及びガスの流通経路は図6に示すようになり、先行気筒2A,2Dから排出される既燃ガスがそのまま気筒間ガス通路22を介して後続気筒2B,2Cに導入されるとともに、この後続気筒2B,2Cで燃焼されてから排出される燃焼ガスのみが排気通路20に導かれるような2気筒接続状態とされる。
この状態において、先行気筒2A,2Dにそれぞれ吸気行程で吸気通路15から新気が導入され(図6中の矢印a)、先行気筒2A,2DではリニアO2センサ25により検出される空燃比が理論空燃比の略2倍ないしそれ以上の超リーン空燃比となるように燃料噴射量がフィードバック制御されつつ圧縮行程で燃料が噴射され、かつ、所定点火時期に点火が行われて、超リーン空燃比での成層燃焼が行われる。
その後、先行気筒2A,2Dの吸気行程と後続気筒2B,2Cの排気行程が重なる期間に、先行気筒2A,2Dから排出された既燃ガスが気筒間ガス通路22を通って後続気筒2B,2Cに導入される(図5中の白抜き矢印及び図6中の矢印b)。そして、後続気筒2B,2Cでは、先行気筒2A,2Dから導入されたリーン空燃比の既燃ガスに燃料が供給されて、実質的に理論空燃比となるように燃料噴射量が制御されつつ、吸気行程で燃料が噴射される。このとき、後続気筒2B,2Cでは点火プラグ7での強制点火が停止され、圧縮行程の上死点付近で燃焼室内の圧力、温度の上昇により圧縮着火が行われる。
このように、先行気筒2A,2Dではリーン空燃比での成層燃焼が行われることにより、熱効率が高められるとともにポンピングロスが低減され、これらの相乗効果で大幅に燃費が改善される。また、後続気筒2B,2Cでは空気過剰状態の既燃ガスに対し燃料が供給されて理論空燃比に制御されつつ燃焼が行われることにより、先行気筒2A,2Dのようにリーン空燃比で成層燃焼が行われるものと比べると熱効率では多少劣るものの、ポンピングロス低減による燃費改善効果が充分に得られる。
すなわち、先行気筒2A,2Dでは超リーンでの成層燃焼により熱効率が高められるとともにポンピングロスが低減される一方、後続気筒2B,2Cでは、先行気筒2A,2Dと同様にポンピングロス低減効果が得られるとともに、圧縮着火による燃焼を行う場合には、均一な混合気分布状態で圧縮着火が行われることにより熱効率が高められる。したがって、これらの作用により、燃費が大幅に改善されることとなる。
また、必要に応じて後続気筒を圧縮着火から強制点火に切換えるので、圧縮着火に不適な運転領域であっても、強制点火による特殊運転モードが可能となる。
さらに、先行気筒2A,2Dでは理論空燃比の略2倍もしくはそれ以上のリーン空燃比とされることでNOx発生量が比較的少なく抑えられ、後続気筒2B,2Cでは、先行気筒2A,2Dから既燃ガスが導入されることで多量のEGRが行われているのと同等の状態となることからNOxの発生が充分に抑制される。このような点からもエミッションの向上に有利となる。
一方、通常運転モードでは前述のように第一排気弁32a及び第一吸気弁31aが作動状態、第二排気弁32b及び第二吸気弁31bが停止状態とされることにより、実質的な新気及びガスの流通経路は図7に示すようになり、実質的に各気筒2A〜2Dの吸気ポート11,11a及び排気ポート12a,12が独立し、吸気通路15から各気筒2A〜2Dの吸気ポート11,11aに新気が導入されるとともに各気筒2A〜2Dの排気ポート12,12aから排気通路20に既燃ガスが排出される。そしてこの場合は、理論空燃比もしくはそれよりリッチとなる(但し、全開負荷領域及びその周辺の運転領域のみ)ように吸入空気量及び燃料噴射量が制御されることにより、出力性能が確保される。
図8は、ECU40の制御のうち、通常運転モードと特殊運転モードとの切替に関する部分のフローチャートを示す。
制御スタート後、まず、ステップS11で、運転状態判別手段41により現在のエンジンの運転状態が、運転領域Aに位置する領域か、運転領域Bに位置する領域かを判定する。
ステップS11で、運転領域がBである場合、ステップS21に移行し、運転状態判別手段41により、運転領域のAからBへの移行の有無を判定する。
ステップS21でYESの場合(運転領域がAからBへ移行されたと判定されたとき)、特殊運転モードから通常運転モードへの切替を行う必要があるが、その切替を行う際、切替運転モードを介在させる。以下、特殊運転モードから通常運転モードへと切り替える際の切替運転モードの制御をステップS22〜ステップS27で説明する。
まず、ステップS22において、燃料噴射制御手段44aを作動させて先行気筒2A,2Dへの燃料噴射を停止し、先行気筒2A,2Dの燃焼を停止する。これに伴い、気筒間ガス通路22からは、後続気筒に対し新気が導入されることになる。次に、ステップS23において、スロットル弁17の開度を大きくして吸気量を多少増加させるように調節する。さらに、ステップS24で、燃料噴射制御手段44aで、後続気筒2B,2Cへの燃料噴射量を理論空燃比に対応する量に変更する。
またさらに、ステップS25で、スロットル弁17の開度を小さくし、その状態で第一切替制御手段42aを作動させ、第一吸気弁31aを停止状態から作動状態に切り替える。
その後、ステップS26で、スロットル弁17の開度を再度大きくし、その状態で第二切替制御手段42bを作動させ、第二排気弁32b及び第二吸気弁31bを作動状態から停止状態へと切り替えるとともに、第一排気弁32aを停止状態から作動状態へと切り替える。
最後に、切替運転モードから通常運転モードへと移行すべく、ステップS27で、スロットル弁17の開度を通常運転モードでの要求吸気量に見合う程度まで小さくするとともに、理論空燃比に対応する燃料噴射量に変更した状態で、先行気筒2A,2Dへの燃料噴射制御手段44aによる燃料噴射を再開させる。
なお、ステップS21で、NOの場合(運転領域の切替がないと判定された場合)、運転モードの切替を行わず、そのまま通常運転モードでの制御を続行する(ステップS28)。
次に、ステップS11で、運転領域がAである場合を説明する。
この場合、ステップS31に移行し、運転状態判別手段41により、運転領域のBからAへの移行の有無を判定する。
ステップS31でYESの場合(運転領域がBからAへ移行されたと判定されたとき)、通常運転モードから特殊運転モードへの切替を行う必要があるが、その切替を行う際、切替運転モードを介在させる。以下、通常運転モードから特殊運転モードへと切り替える際の切替運転モードの制御をステップS32〜ステップS36で説明する。
まず、ステップS32において、燃料噴射制御手段44aを作動させて先行気筒2A,2Dへの燃料噴射を停止する。そして、ステップS33で、スロットル弁17の開度を大きくすることにより、先行気筒2A,2Dの目標吸気量に対応したスロットル弁17の開度に調節する。
次に、ステップS34で、スロットル弁17の開度を小さくし、その状態で第二切替制御手段42bを作動させ、第二排気弁32b及び第二吸気弁31bを停止状態から作動状態へと切り替えて気筒間ガス通路22から新気を導入することともに、第一排気弁32aを作動状態から停止状態へと切り替える。
さらに、ステップS35で、スロットル弁17の開度を大きくし、その状態で第一切替制御手段42aを作動させ、第一吸気弁31aを作動状態から停止状態に切り替える。
その後、切替運転モードから特殊運転モードへと移行すべく、ステップS36で、スロットル弁17の開度を小さくし、リーン空燃比に対応する燃料噴射量に変更した状態で、先行気筒2A,2Dへの燃料噴射制御手段44aによる燃料噴射を再開させ、さらに、ステップS37において、燃料噴射制御手段44aで後続気筒2B,2Cへの燃料噴射量を理論空燃比に対応する量に変更させる。
なお、ステップS31で、NOの場合(運転領域の切替がないと判定された場合)、運転モードの切替を行わず、そのまま特殊運転モードを続行する(ステップS38)。
以上の構成を採れば、通常運転モードと特殊運転モードとを切り替える際、後続気筒2B,2Cのみを燃焼させる切替運転モードを行った後に切り替えることになる。そして、この後続気筒2B,2Cは、前記運転モードの切り替えに関係なく、常に、気筒内で燃焼したガスを排気ポート12から後続気筒側排気通路20bに排出する作動状態が保たれているため、運転モードの過渡期においても供給された燃料の燃焼および燃焼されたガスの排出を確実に行うことが可能となる。したがって、モードの切替の過渡期において、弁の動作、停止の切り替えの時期がずれた場合においても燃焼されたガスの排出等が良好に行うことが可能となる。よって、前記過渡期においても安定した燃焼状態を確保することが可能となる。
また、切替運転モードを行う際、先行気筒2A,2Dへの燃料の供給を停止し、後続気筒2B,2Cのみに燃料噴射させるため、切替運転モードを実行するとき、後続気筒2B,2Cのみを燃焼させる状態にすることを、より確実に行うことが可能となる。
なお、前記切替運転とを切り替える際には、先行気筒2A,2Dでは燃焼を行わないため、先行気筒2A,2Dに配置された先行気筒側排気通路20aからは新気がそのまま排出されることになる。また、後続気筒2B,2Cでは、理論空燃比による燃焼を行った燃焼ガスが後続気筒側排気通路20bから排出され、後続気筒側排気通路20bに配置された三元触媒24bにより浄化されることになる。
すなわち、先行気筒側排気通路20aから排出される新気が後続気筒側排気通路20bから排出される燃焼ガスと混合することがなくなるため、後続気筒側排気通路20bから排出される排気がリーン状態となって、三元触媒24bが機能しなくなることを阻止することが出来、前記排気の浄化を確実に行うことが可能となる。
また、前記特殊運転モードから前記通常運転モードに切り替える際、前記第一切替制御手段42aを第二切替制御手段42bより早く作動させることにより、先行気筒2A,2Dから後続気筒2B,2Cへのガスの供給が停止する前に、後続気筒2B,2Cに新気を供給することが可能となる。
したがって、前記切替運転モードにおいて、後続気筒2B,2Cへの空気の供給がストップすることを確実に阻止し、前記後続気筒2B,2Cの燃焼をより確実に行うことが可能となる。
さらに、先行気筒2A,2Dの第一排気ポート12aに設けられた第一排気弁32a、気筒間ガス通路22の先行気筒側端部に設けられた第二排気弁32b、及び、後続気筒2B,2Cの側端部に設けられた第二吸気弁31bは、共に第二コントロール弁39によって作動状態と停止状態とに切り替えられている。すなわち、これらの弁についての制御部材の共通化を行っているため、制御装置全体をコンパクトにすることが可能となる。また、制御部材の個数も減らすことができ、製造コストを抑えることも可能となる。
また、ステップS23で、スロットル弁17の開度を大きくした状態で、ステップS24で、後続気筒2B,2Cでの燃焼を行うため、特殊運転モードのときと比較して熱効率が低下しても、その分を吸気量及び燃料噴射量の増加で補うことができ、エンジン全体から得られるトルク量が急激に低下することがなく、トルクショックが生ずることをより有効に抑制することができる。
さらに、ステップS25で、スロットル弁17の開度を小さくすることにより、第一吸気弁31aが作動することに伴って後続気筒2B,2Cへの新気の吸気量が急激に増大することを阻止し、トルク量が急激に増大することを抑制することができる。
また、ステップS26で、スロットル弁17の開度を大きくし、第一吸気弁31aからの吸気量を多くすることにより、第二排気弁32b及び第二吸気弁31bの作動を停止状態させることによって後続気筒2B,2Cに吸入される吸気量が急激に減少することを抑制することが出来、トルク量が急激に減少することを、抑制することができる。
さらに、ステップS34で、スロットル弁17の開度を小さくして、第一吸気弁31aからの吸気量を制限することにより、後続気筒2B,2Cに導入される吸気量が急激に増大することを阻止し、トルク量が急激に増大することを抑制することができる。
また、ステップS35で、スロットル弁17の開度を大きくし、先行気筒2A,2Dに吸気される新気を多くし、気筒間ガス通路22を通じて後続気筒2B,2Cに導入される吸気量を多くすることにより、第一吸気弁31aの作動の停止させることによって後続気筒2B,2Cに導入される吸気量が急激に減少することを阻止し、トルク量が急激に減少することを抑制することができる。
さらに、ステップS36で、スロットル弁17の開度を小さくしているため、リーン空燃比による燃焼を先行気筒2A,2Dで行うことにより、熱効率のよい特殊運転モードに切り替えたときにおいても、トルク量が急激に増大することを抑制することが可能となる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定するものではなく、たとえば以下に示すような形態も可である。
一.特殊運転モードにおける後続気筒2B,2Cへの燃料供給は、必ずしも燃焼室に直接燃料を噴射する直噴タイプでなくても良い。例えば燃料噴射弁を気筒間ガス通路22と吸気ポート11aに設け、特殊運転モード中は気筒間ガス通路22に燃料を噴射することにより、通常運転モード中は吸気ポート11aに燃料を噴射することにより、それぞれ後続気筒に燃料を供給するものでも良い。
二.気筒間ガス通路22の冷却手段は、前記のような水冷式に限定するものではない。例えば、気筒間ガス通路22の外側に多数の冷却フィンを設けるとともに、走行風をそのフィン部に導入するようないわゆる空冷式であっても良い。また特に冷却手段を設けなくても良い。
三.本発明は四気筒以外の多気筒エンジンにも適用可能である。そして、例えば六気筒等では1つの気筒の排気行程と別の気筒の吸気行程が完全に重なり合うことはないが、このような場合は、一方の気筒の排気行程が他方の気筒の吸気行程より先行するとともに、両行程が部分的に重なり合う2つの気筒を先行、後続の一対の気筒とすればよい。