JP4085881B2 - 筒内直接噴射エンジンの燃料噴射制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は筒内直接噴射エンジンの燃料噴射制御装置、特に冷間始動時の燃料噴射制御に関する。
【0002】
【従来の技術】
筒内直接噴射エンジンにおいて、冷間始動時に吸気行程で燃料噴射を行うと均質混合気になってシリンダ壁面に燃料が付着し、燃焼に寄与しない燃料が増加するために多くの燃料の増量が必要であり、HCが多量に発生する原因となっている。そのため、冷間始動時においても圧縮行程噴射による成層燃焼を実現してシリンダ壁面に付着する燃料を減らし、HCを低減するようにしたものが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開2001−271688号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、筒内直接噴射エンジンにおいて、冷間始動時の燃料噴射時期が点火時の燃料気化率に対してどのように影響するのかを実験してみたところ、図8に示す結果が得られた。すなわち、燃料噴射時期を圧縮行程へと遅らせるほど気化率が急激に低下している。従って、従来装置のように圧縮行程で燃料噴射を行うのでは燃料噴射から点火までの時間が短いために、特に燃焼室内が低温状態にありあるいは燃料圧力が上昇せずに燃料の微粒化が十分に行なわれない冷間始動時において点火時までに燃料を十分に気化できない。燃料を十分に気化できないと、その分の燃料増量を行う必要があり、燃費が悪くなる。
【0005】
かといって、点火までの時間を比較的長くとり得る吸気行程噴射を単に行なうのでは均質混合気になってシリンダ壁面への燃料付着が起こり、燃料の増量やHC排出量の増加が避けられない。
【0006】
そこで本発明は、吸気上死点前後で燃料を噴射して燃料の気化時間を稼ぎ、なおかつシリンダ壁面への燃料付着を減らす方策を講じ、その結果、余分な燃料噴射を避けることを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、燃焼室に直接に燃料を噴射する燃料噴射弁を備える筒内直接噴射エンジンにおいて、ピストン冠面に、前記燃料噴射弁からの燃料噴霧を保持し得るキャビティを形成し、始動時に、吸気上死点前後でかつほぼ全量の燃料が前記ピストンキャビティ内に入るタイミングで前記燃料噴射弁より燃料を噴射した場合に点火時に成層燃焼を保つことが可能な限り、このタイミングでの燃料噴射を継続するように構成する。
【0008】
【発明の効果】
吸気上死点前後でピストンキャビティ内に噴射された燃料は、噴射された後、時間経過ともに気化していく。ピストンキャビティにより気化燃料の拡散を抑えているが、気化速度が速くなると、気化燃料のピストンキャビティ外への拡散が増加し、その結果として点火時に成層燃焼を保てなくなる。これに対して本発明によれば、吸気上死点前後でかつほぼ全量の燃料がピストンキャビティ内に収まるタイミングで燃料を噴射した場合に、ピストンキャビティ8a内で気化した燃料の拡散が多く起きずに点火時に成層燃焼を保てる間は、吸気上死点前後でかつほぼ全量の燃料がピストンキャビティ内に入るタイミングでの燃料噴射を継続するので、冷間始動時におけるHC排出量の低減と燃費向上の効果を持続させることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は一実施形態のエンジンの概略構成図である。図においてシリンダヘッド2には図で左右にほぼ均等な傾斜の屋根を有するペントルーフ状の燃焼室3が形成されると共に、この左右の屋根の部分に吸気を導入する吸気ポート4が、また燃焼後のガスを排出するための排気ポート5がそれぞれ開口している。シリンダブロック6にはシリンダ7が図で上下方向に穿設され、このシリンダ7をピストン8が上下方向に摺動する。吸気弁15、排気弁16はこのピストン8の動きに合わせて各ポート5、6を開閉する。すなわち、弁15、16をスプリングに抗して押し下げる各カム17、18がエンジンにより駆動されるカム軸19、20にそれぞれ固定されている。
【0012】
本実施形態ではエンジンの冷間始動時に成層燃焼を行わせるため、燃料噴射弁9及び点火プラグ10の配置とピストン冠面に形成されるキャビティ8aの形状とが工夫されている。すなわち、燃焼室3天井の略中央位置に噴孔を鉛直下方に向けた燃料噴射弁9が、またそのすぐ右側に点火プラグ10が設けられ、ピストン冠面に、燃料噴射弁9からの燃料噴霧を保持し得るキャビティ8aが形成されている。詳細にはピストンキャビティ8aが、燃料噴射弁9から噴射される燃料噴霧の中心軸と略同一の中心軸となるような形状とされている。
【0013】
そして、燃料の気化が遅いエンジンの冷間始動時に、吸気上死点前後つまりピストン5が燃料噴射弁6に近づいている期間にほぼ全量の燃料がピストンキャビティ8aに入るタイミングでで燃料噴射弁9より燃料を噴射する。
【0014】
その後、ピストン8が下降すると、このとき開いている吸気ポート4より空気が燃焼室内に流入し吸気下死点付近で吸気弁15が閉じた後、ピストン8が再び上昇してくる。この期間にピストンキャビティ8a内に保持されている燃料が気化してゆく。そして圧縮上死点付近つまり再度ピストン8が上昇したときにピストンキャビティ8a内の気化燃料を上方へと巻き上がらせ、燃焼室3の天井に配置された点火プラグ10に近づいたときに点火プラグ10により着火して燃焼(成層燃焼)を行わせる。
【0015】
このとき、キャビティ8aは気化燃料がキャビティ8aの外へと拡散して成層燃焼時の燃料量が不足することがないよう気化燃料を保持しており、また気化燃料が適切に点火プラグ10に到達するように燃焼室内のガス流れを規制する役目をも持っている。このため、キャビティ周囲のピストン冠面8bが、径方向外側にゆくほど低くなるように傾斜して形成されている。
【0016】
図1では、燃料噴射弁9を燃焼室3天井の略中央位置に設置し、燃焼噴射弁9から噴射される燃料噴霧の中心軸と略同一の中心軸となるようなピストンキャビティ8aを図示しているが、エンジン冷間始動時に成層燃焼を実現するための構成はこれに限られない。例えば図2に他の実施形態を示すと、この実施形態では燃料噴射弁9が燃焼室3の最下端付近にピストン中心軸に対して所定の角度をもって設置され、吸気上死点前後に図で右斜め下方に噴射された燃料が、下降するピストンキャビティ8aのキャビティ形状に沿って丸まりながらキャビティ内に保持され、この過程で形成されるキャビティ内の気化燃料は圧縮行程で上昇するピストン8に押し上げれられて、燃焼室天井に設置された点火プラグ10に達し点火プラグ10によって着火される。ただし、噴射された燃料のほぼ全量がピストンキャビティ8aに入るタイミングは、図1に示すエンジンのほうが比較的長く設定できるため、その分本発明の効果も図1に示すエンジンのほうが高くなる。
【0017】
図1に戻り、燃料噴射弁9により燃焼室3内に直接燃料を噴射するには所定の燃圧が必要である。このため、吸気弁用カム軸19により高圧燃料ポンプ21が駆動されるようになっており、高圧燃料ポンプ21により昇圧された燃料は高圧燃料配管22を通って燃料噴射弁9に導かれる。高圧燃料配管22には燃圧センサ23が設けられ、燃圧センサ23からの信号はエンジンコントローラ25に送られる。運転状態に応じて必要な燃圧が変化するために、エンジンコントローラ25では実際の燃圧が必要な燃圧と一致するように高圧燃料ポンプ21の作動制御を行なう。
【0018】
なお、高圧燃料ポンプ21は、吸気弁用カム軸以外でエンジンの回転力を利用して駆動してもよいし、電動モータにより駆動しても構わない。
【0019】
エンジンコントローラ25には、エアフローメータ31、クランク角センサ33、水温センサ34からの信号が入力され、エンジン始動時に成層燃焼が実現されるように燃料噴射弁9を介してエンジン始動時の燃料噴射を、また点火プラグ10を介して点火時期を制御する。
【0020】
なお、アクセルセンサ32、空燃比センサ35からの信号も入力され、エンジンコントローラ25では、アクセル開度とエンジン回転速度に応じた最適なトルクが得られるように電子制御のスロットル弁開度を制御し、また、始動後に空燃比フィードバック制御条件が成立したとき空燃比センサ35からに検出される実際の空燃比が理論空燃比と一致するようにフィードバック制御を行う。
【0021】
エンジンコントローラ25により実行されるエンジンの始動からの燃料噴射制御について、以下のフローチャートを用いて詳述する。
【0022】
図3は始動からの燃料噴射時期と燃料噴射時間を算出するためもので、クランク角の基準位置信号(Ref)の入力毎に実行する。Sa1(aフローチャートのステップ1の意味)では水温センサ34により検出される冷却水温Tw、クランク角センサ33により検出されるエンジン回転速度Ne、燃圧センサ23により検出される燃圧Pf、エアフローメータ31により検出される吸入空気量Qaを読み込む。
【0023】
Sa2で、エンジンの運転状態から燃料噴射時間Tiを算出する。このTiの算出については、図4のフローチャートにより説明する。
【0024】
図4(図3Sa2のサブルーチン)においてSb1ではエンジン回転速度Neと水温Twのマップから始動燃料噴射時間Tistを求める。これは、エンジン始動時には、停止している状態からエンジンを所定回転速度まで引き上げることが必要となるためである。冷却水温Twが低いほどエンジンのフリクションが大きく、要求されるトルクつまり燃料噴射量(噴射時間)が多くなる。また、エンジン回転速度Neが低いほど所定エンジン回転速度まで引き上げるためのトルクが多く要求されるために燃料噴射量(噴射時間)が多くなる。上記のマップはこれらを反映したものであり、そのマップを用いて始動燃料噴射時間Tistを求めている。
【0025】
Sb2では、吸入空気量Qaとエンジン回転速度Neとから次式により基本燃料噴射時間Tpを演算する。
【0026】
Tp=Ktc×(Qa/Ne)×TFBYA…(1)
ただし、Ktc:定数、
TFBYA:目標当量比、
ここで、目標当量比TFBYAはアクセルセンサ32により検出されるアクセル開度とエンジン回転速度Neとから求められる要求トルクに応じた値である。さらに冷却水温Twを考慮してTFBYAを定めているものでもかまわない。
【0027】
Sb3では、2つの燃料噴射時間(始動燃料噴射時間Tistと基本燃料噴射時間Tp)を比較し、Sb4とSb5において大きいほうを燃料噴射時間Ti0として設定する。始動燃料噴射時間Tistはエンジンを所定回転速度まで上昇させるために設定されており、エンジン回転速度Neの上昇に伴って短くなるため、通常はエンジン回転速度がある程度上昇すると基本燃料噴射時間Tpの方がTistよりも長くなり、従ってこの時点よりTpがTi0として使用されることとなる。
【0028】
燃料噴射時間が同一でも燃圧により燃料噴射量が変化する。特に始動直後は高圧燃料ポンプ21が作動したばかりで、大きく変化している。従って、要求される燃料量を噴射するには燃料噴射時間Ti0を燃圧Pfに応じて補正する必要があり、Sb6で燃圧Pfに応じたテーブルより燃圧補正値Pfhosを算出し、この燃圧補正値Pfhosを燃料噴射時間Ti0にかけて、最終的な燃料噴射時間Tiとする。
【0029】
このようにして燃料噴射時間Tiの算出を終了したら、図3に戻る。
【0030】
図3のSa3では、冷却水温Twと所定値Ktst(例えば40℃)を比較する。冷却水温Twが所定値Ktstを超える場合には冷間始動時でないと判断し、Sa14へと進んで通常の燃料噴射時期ITを算出する。この燃料噴射時期ITの算出については図5のフローチャートにより説明する。
【0031】
図5(図3Sa14のサブルーチン)において、Sc1では成層運転か均質運転かを指示する成層運転フラグFSSをみる。このフラグFSSはエンジン状態とアクセル開度とに基づいて成層燃焼を行わせる条件(例えば低負荷域)でFSS=1に、それ以外の条件(例えば高負荷域)でFSS=0に設定される。
【0032】
FSS=1(成層燃焼域)である場合にはSc2へと進んでエンジン回転速度Neと燃料噴射時間Tiに応じたマップから成層燃焼域での燃料噴射時期ITsを、またFSS=0(均質燃焼域)である場合には、Sc3へ進んでエンジン回転速度Neと燃料噴射時間Tiに応じたマップから均質燃焼域での燃料噴射時期ITkを算出し、これを燃料噴射時期ITに入れる。それぞれの燃焼域での燃料噴射時期のマップは、燃費や排気性能から実験によって予め設定されるものである。このようにして燃料噴射時期ITの算出を終了したら図3に戻る。
【0033】
図3のSa3で冷却水温Twが所定値Ktst以下である場合には冷間始動時である、つまりシリンダ7壁も温度が低く、シリンダ7壁面への燃料付着がおきやすい状態であると判断し、この場合にはSa4以降へと進み、噴射した燃料のほぼ全量がピストンキャビティ8a内に収まるようなタイミングで燃料を噴射し、シリンダ7壁面への燃料付着を避ける。
【0034】
すなわち、Sa4では吸気成層許可フラグFKSをみる。ここで、吸気成層許可フラグFKSはFKS=1の場合に吸気上死点前後での燃料噴射を許可し、FKS=0の場合に吸気上死点前後での燃料噴射を許可しないフラグである。この吸気成層許可フラグFKSの設定については図6のフローチャートにより後述する。吸気成層許可フラグFKS=1(吸気上死点前後での燃料噴射を許可する)の場合にはSa5に進み、吸気上死点前後で燃料を噴射した場合の点火時における燃料気化率Rkkと所定値Krksを比較する。この燃料気化率Rkkが所定値Krksよりも大きい場合には、燃料の全てをピストンキャビティ8aに噴射しても、ピストンキャビティ8a内で気化した燃料の一部が点火時までにピストンキャビティ8aの外に拡散してしまい成層燃焼に寄与しなくなると判断する。この場合には成層燃焼に寄与しない燃料分を増量する必要があるため、Sa6に進んで燃料噴射時間Tiを増量補正する。なお、吸気上死点前後で噴射した場合の点火時における燃料気化率Rkkの算出についても図6のフローチャートにより後述する。
【0035】
Sa6では、燃料噴射時間Tiを、吸気上死点前後で噴射した場合の点火時における燃料気化率Rkkで割ることで、気化しない分の燃料量相当の燃料噴射時間を求め、その値に気化してピストンキャビティ8a外に拡散した燃料量相当の燃料噴射時間を足すことで補正する。この場合に燃料気化率Rkkが所定値Krksまではピストンキャビティ8a外への気化燃料の拡散を無視できると判断し、それよりも高い燃料気化率(Rkk-Krks)の分の燃料量相当の燃料噴射時間をTi/(Rkk−Krks)で算出する。従って、補正後の燃料噴射時間Tihは次式により算出される。
【0036】
Tih=Ti/Rkk+Ti/(Rkk−Krks)…(2)
また、燃料気化率Rkkが所定値Krks以下の場合には気化燃料のキャビティ8a外への拡散分を無視できるためSa5よりSa15に進みこのときには燃料気化率Rkkのみを用いて、つまり次式により補正燃料噴射時間Tihを演算する。
【0037】
Tih=Ti/Rkk…(3)
Sa7では、Sa6、Sa15で求めた補正燃料噴射時間Tihが現在のエンジン回転速度Neにおいて、噴き始めから噴き終わりまでにどのくらいのクランク角が必要か、つまり噴射クランク角(噴き始めから噴き終わりまでに要するクランク角)CAiを算出する。この噴射クランク角CAiは、補正燃料噴射時間Tihとエンジン回転速度Neに比例することから、次式により演算すればよい。
【0038】
CAi=Tih×Ne×Kc…(4)
ただし、Kc:単位を合わせる定数、
Sa8では、補正燃料噴射時間Tihを吸気上死点前後の燃料噴射時期で噴射した場合に、燃料のほぼ全量がピストンキャビティ8a内に収まるか否かを判定する。ピストンキャビティ8aに燃料が入るクランク角度は、燃料噴射角度とピストン位置(ピストンキャビティ位置)から幾何学的にほぼ決まるため、そのクランク角度幅CApc(ピストンキャビティ内噴射クランク角度幅)と噴射クランク角CAiとを比較し、噴射クランク角CAiが、ピストンキャビティ内噴射クランク角度幅CApc以下の場合には吸気上死点前後の燃料噴射により設定燃料をすべて噴射できると判断し、Sa9に進み、吸気上死点前後の実験から決めた燃料噴射時期CA1を燃料噴射時期ITとして設定し、今回の処理を終了する。上記のピストンキャビティ内噴射クランク角度幅CApcは、燃料噴霧の速度とエンジン回転速度Neに応じたピストンキャビティ8aの時間変化によっても若干変化するために、エンジン回転速度Neと燃圧Pfを用いて補正や算出を行ってもよい。
【0039】
その後、図示しないが別の燃料噴射ルーチンにおいて実際のクランク角が、設定された燃料噴射時期ITと一致したときに、Tihの時間だけ燃料噴射が行われる。
【0040】
以上により、吸気上死点前後で噴射燃料のほぼ全量がピストンキャビティ8a内に入るタイミングで燃料を噴射することができる。
【0041】
Sa8において噴射クランク角CAiがピストンキャビティ内噴射クランク角度幅CApcを超える場合、つまり吸気上死点前後の一度だけの噴射ではピストンキャビティ8aから燃料がはみ出してしまう場合にはSa10に進み2度に分けて燃料噴射を行う。すなわち、吸気上死点前後で噴射する第1の燃料噴射時間Ti1をピストンキャビティ8a内に入るタイミングの最大量に設定し、圧縮行程中のタイミングであって残りの燃料のほぼ全量がピストンキャビティ内に入るタイミングに再度噴射する期間を第2の燃料噴射時間Ti2として設定する。
【0042】
ここで、第1の燃料噴射時間Ti1は、エンジン回転速度Neが早ければ短くなるという反比例の関係なので、ピストンキャビティ内噴射クランク角度幅CApcをエンジン回転速度Neで割算して、つまり次式により算出する。
【0043】
Ti1=CApc/(Ne×Kc)…(5)
ただし、Kc:単位を合わせる定数、
一方、第2の燃料噴射時間Ti2は、全噴射時間のTihから第1の燃料噴射時間Ti1を差し引いて算出するのであるが、第2の燃料噴射は圧縮行程で噴射することから、点火までの燃料気化率が吸気上死点前後で噴射される燃料よりも低くなるため、その分増量補正する必要がある。このため、補正は、吸気上死点で噴射した場合の点火時における燃料気化率Rkkと圧縮行程で噴射した場合の点火時における気化率Rksの比率で補正する。すなわち第2の燃料噴射時間Ti2は次式により算出する。
【0044】
Ti2=(Tih−Ti1)×(Rkk/Rks)…(6)
なお、圧縮行程で噴射した場合の点火時における気化率Rksの算出についても、図6のフローチャートにより後述する。
【0045】
Sa11では、第1の燃料噴射時期IT1として吸気上死点前後でほぼ全量がピストンキャビティ8aに収まるタイミングである燃料噴射時期CA1を設定し、第2の燃料噴射時期IT2として圧縮行程で残り燃料のほぼ全量がピストンキャビティ8aに収まるタイミングである燃料噴射時期CA2を設定し、今回の処理を終了する。
【0046】
Sa4で吸気成層許可フラグFKS=0(吸気上死点前後での燃料噴射を許可しない)となるのは、吸気上死点前後で燃料を噴射したとき点火時に成層燃焼を保てない、もしくは吸気上死点前後で噴射した場合の燃料噴射時間よりも圧縮行程で噴射した場合の燃料噴射時間のほうが短いと判定される場合である。これらの場合にはSa4よりSa12に進み、燃料噴射時期ITとして圧縮行程でほぼ全量がピストンキャビティ8aに収まるタイミングである燃料噴射時期CA2を設定する。
【0047】
ただし、吸気上死点前後で噴射した場合の点火時における燃料気化率Rkkと圧縮行程で噴射した場合の点火時における気化率Rksとが異なるために、吸気上死点前後での噴射から圧縮行程噴射へと切換わったときその切換前後でトルク段差が生じる。そのため、Sa13では圧縮行程で噴射した場合の点火時における燃料気化率Rksを用いて、補正燃料噴射時間Tihを次式により算出して今回の処理を終了する。
【0048】
Tih=Ti/Rks…(7)
次に、図6は吸気成層許可フラグFKSの設定(図3のSa4で使用)と、吸気上死点前後、圧縮行程でそれぞれ噴射した場合の点火時における燃料気化率Rkk、Rksの算出(Sa5、Sa6、Sa10、Sa13で使用)とを行うためのもので、このフローも図3のフローと同じにRef毎に実行する。
【0049】
Sd1からSd4は、吸気上死点前後で燃料噴射しても点火時に成層燃焼を保てるか否かを判定する部分である。すなわち、次の条件を一つずつチェックし、全てを満足するときに、吸気上死点前後で燃料噴射しても点火時に成層燃焼を保ち得ると判断してSd5以降に進み、一つでも条件を満足しないときには吸気上死点前後で燃料噴射した場合に気化燃料がピストンキャビティ8a内に留まることができず、点火時に成層燃焼を保ち得ないと判断しSd13に進んで吸気上死点前後での燃料噴射を許可しない(吸気成層許可フラグFKS=0)。
【0050】
▲1▼冷却水温Twが所定値Ktks以下であること。
【0051】
▲2▼始動からの燃焼サイクル数Cbstが所定値Kcb以下であること。
【0052】
▲3▼燃圧Pfが所定値Kpf以下であること。
【0053】
▲4▼エンジン回転速度Neが所定値Kne以下であること。
【0054】
すなわち、条件▲1▼の成立時には燃料の気化が遅く、条件▲2▼の成立時にはピストンキャビティ8aの温度が低くそのため燃料の気化が遅く、条件▲3▼の成立時には燃料噴霧の微粒化が悪くそのため燃料の気化が遅く、条件▲4▼の成立時にはガス流動が少なくそのため気化燃料がピストンキャビティ8a内に留まり、これら各条件の成立時には吸気上死点前後で燃料噴射しても気化した燃料がピストンキャビティ8a内に留まり点火時に成層燃焼が保てると判断する。本実施形態では4つ全ての条件について成立するか否かの判定を行っているが、演算を簡単にするためにどれか一つの条件のみもしくは複数の条件について成立しているか否かの判定を行うようにしてもよい。
【0055】
Sd5〜Sd8は点火時における燃料の気化率を予測する部分である。ピストンキャビティ8aに噴射した燃料の気化率は、ピストンキャビティ8aの温度に影響される。このためSd5ではピストンキャビティ8aの温度を予測する。すなわち、ピストンキャビティ8aの温度を直接測定することは困難であるため、冷却水温Twと始動からの燃焼サイクル数Cbstから予測する。燃焼する前はピストンキャビティ8aの温度と冷却水温Twはほぼ同一と考えられ、燃焼とともにピストンキャビティ8aの温度が上昇していくかピストンキャビティ8aの温度上昇のほうが冷却水温Twの上昇よりも早い。そこで、始動からの燃焼サイクル数Cbstから冷却水温Twを基準とする温度上昇分を算出し、この温度上昇分を冷却水温Twに足した値をピストンキャビティ予測温度Tpcとして算出する。また、燃圧Pfが高いと燃料の微粒化が進み、噴射した燃料の気化率が高くなる(図7参照)。このためSd6では燃圧Pfに応じた燃圧気化補正率Rkpfを所定のマップから求める。
【0056】
Sd7では気化時間(燃料が噴射されてから点火するまでの時間)を、吸気上死点前後で噴射する場合と圧縮行程で噴射する場合とで分けて算出する。すなわち、吸気上死点前後で噴射する場合の気化時間Tkkと、圧縮行程で噴射する場合の気化時間Tksを次式によりそれぞれ算出する。
【0057】
Tkk=CAk/(Ne×Kca)…(8)
Tks=CAs/(Ne×Kca)…(9)
ただし、CAk:吸気上死点前後で噴射する場合における燃料噴射時期から点火時までのクランク角度(一定値)、
CAs:圧縮行程で噴射する場合における燃料噴射時期から点火時までのクランク角度(一定値)、
Kca :単位合わせの定数、
Sd8では、ピストンキャビティ予測温度Tpcとこれら気化時間Tk(Tkk、Tks)と燃圧気化補正率Rkpfとに基づいて吸気上死点前後で噴射する場合の点火時における気化率Rkkと圧縮行程で噴射する場合の点火時における気化率Rksとをそれぞれ算出する。例えば、ピストンキャビティ予測温度Tpcと各気化時間Tk(Tkk、Tks)から所定のマップを検索して基準燃圧時の気化率を求め、これに燃圧気化補正率Rkpfをかけて算出する。このとき燃圧気化補正率Rkpfは基準燃圧と相違する燃圧時の気化率を求めるためのものである。図8に燃料噴射時期に対する点火時の燃料気化率の特性を示すと、吸気上死点前後で噴射する場合のほうが、圧縮行程で噴射する場合より点火時の燃料気化率がよいことがわかる。
【0058】
このようにして算出されたそれぞれの点火時における燃料気化率Rkk、Rksはエンジンコントローラ25内のメモリに記憶され、図3のSa5、Sa6、Sa7、Sa10、Sa13で用いられる。
【0059】
Sd9では吸気上死点前後で燃料噴射した場合の点火時における燃料気化率Rkkと所定値Krkを比較する。燃料気化率Rkkが所定値Krkを超えている場合には、吸気上死点前後で燃料噴射したとき気化燃料がピストンキャビティ8a内に留まることができず、点火時に成層燃焼が保てないと判断してSd13に進み、吸気成層許可フラグFKS=0にし、圧縮行程噴射を行わせる。
【0060】
燃料気化率Rkkが所定値Krk以下の場合には、燃料の気化が遅く吸気上死点前後で燃料噴射しても気化した燃料がピストンキャビティ8a内に留まり点火時に成層燃焼が保てると判断してSd10へ進む。このように吸気上死点前後で燃料噴射した場合の点火時における燃料気化率を予測する手段を持つ場合においては、Sd9で吸気上死点前後での燃料噴射により点火時に成層燃焼を保持し得るか否かを判定できるため、Sd1からSd3のステップを省くことも可能である。
【0061】
Sd10での燃料気化率は、吸気上死点前後でかつほぼ全量の燃料がピストンキャビティ8a内に入るタイミングに燃料を噴射した場合の点火時における燃料気化率となる。この燃料気化率Rkkと所定値Krksを比較する。ここで、燃料気化率Rkkが所定値Krksよりも大きい場合は、ピストンキャビティ8aの外へと気化燃料が拡散し点火時に成層燃焼に寄与しない燃料が増える場合であり、気化燃料の拡散による損失分の燃料増量補正が必要になる。すなわち、補正が必要である場合にはSd11に進み、増量補正した燃料量と、圧縮行程でかつほぼ全量の燃料がピストンキャビティ8a内に入るタイミングに燃料を噴射した場合の燃料量とを比較し、噴射燃料量が少ないほうで燃料噴射を実行するように吸気成層許可フラグFKSを設定する。
【0062】
ここで、吸気上死点前後で噴射する場合の燃料噴射時間を算出するには、まず補正前の燃料噴射時間Tiを吸気上死点前後で噴射した場合の点火時における燃料気化率Rkkで割ることで、気化しない分の燃料量相当の燃料噴射時間を求める。そして、その値に、気化してピストンキャビティ外に拡散した燃料量相当の燃料噴射時間を足して算出する。この場合、燃料気化率Rkkが所定値Krksまでは、気化燃料のピストンキャビティ8a外への拡散を無視できると判断し、それよりも高い燃料気化率(Rkk−Krks)の分が気化すると考え、ピストンキャビティ8a外に拡散した燃料量相当の燃料噴射時間をTi/(Rkk−Krks)で算出する。従って、吸気上死点前後で噴射した場合の燃料噴射時間は、Ti/Rkk+Ti/(Rkk−Krks)として算出される。
【0063】
次に圧縮行程で噴射した場合の燃料噴射時間は、燃料気化率Rksを用いTi/Rksの式により算出すればよい。
【0064】
そこで、Sd11ではTi/Rkk+Ti/(Rkk−Krks)とTi/Rksを比較することになるのであるが、Tiは一緒なのでこれを省略して1/Rkk+1/(Rkk−Krks)と1/Rksを比較している。1/Rkk+1/(Rkk−Krks)が1/Rksより小さい場合には、吸気上死点前後で噴射したほうが燃料噴射量が少ないと判断し、Sd12に進んで吸気成層許可フラグFKS=1(吸気上死点前後の燃料噴射を許可)に設定する。なお、この場合の燃料噴射時間の補正は、前述したように図3のSa6で行われることになる。
【0065】
一方、1/Rkk+1/(Rkk−Krks)が1/Rks以上の場合には、圧縮行程で噴射したほうが燃料噴射量が少ないと判断し、Sd11よりSd13に進んで吸気成層許可フラグFKS=0にし、圧縮行程での燃料噴射を行わせる。
【0066】
このように燃料噴射量が少なくなる噴射時期に設定することによって、燃料消費量の削減とHCを低減することができる。
【0067】
Sd10において燃料気化率Rkkが所定値Krks以下の場合には、気化燃料のピストンキャビティ8a外への拡散を無視できるので、Sd11をスキップしてSd12に進み、吸気成層許可フラグFKS=1(吸気上死点前後の燃料噴射を許可)に設定する。
【0068】
ここで、本実施形態の作用を説明する。
【0069】
本実施形態によれば、始動時に燃料のほぼ全量がピストンキャビティ8a内に収まるタイミングで噴射するので、燃料噴射弁9より噴射されて直接シリンダ7壁面へと付着する燃料を回避できる。また、燃料が気化してもピストンキャビティ8aにより、気化燃料のピストンキャビティ8aの外への拡散を抑えることができ、気化した燃料のシリンダ7壁面への付着を極力抑えることができる。また、吸気上死点前後に燃料を噴射するために、点火までの燃料の気化時間を稼ぐことができる(図8参照)。
【0070】
これらの結果、特に冷間始動時においてシリンダ7壁面への付着燃料や、気化不足のために必要になる余分な燃料噴射を極力低減することが可能となり、冷間始動時におけるHC排出量を低減することが可能となるばかりか燃費も向上する。
しかしながら、吸気上死点前後でピストンキャビティ8a内に噴射された燃料は、噴射された後、時間経過ともに気化していく。ピストンキャビティ8aにより気化燃料の拡散を抑えているが、気化速度が速くなると、気化燃料のピストンキャビティ8a外への拡散が増加し、その結果として点火時に成層燃焼を保てなくなるなる。これに対して本実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、吸気上死点前後でかつほぼ全量の燃料がピストンキャビティ内に収まるタイミングで燃料を噴射した場合に、ピストンキャビティ8a内で気化した燃料の拡散が多く起きずに点火時に成層燃焼を保てる間は、吸気上死点前後でかつほぼ全量の燃料がピストンキャビティ8a内に入るタイミングでの燃料噴射を継続するので(図3Sa4〜Sa9、Sa15参照)、冷間始動時におけるHC排出量の低減と燃費向上の効果を持続させることができる。
【0071】
また、燃料噴射弁9を燃焼室3天井の略中央位置に設置し、燃料噴射弁9から噴射される燃料噴霧の中心軸と略同一の中心軸となるような形状のピストンキャビティ8aとしている(請求項2に記載の発明)。すなわち、ピストンキャビティ8a内の空間は燃焼室3内のガス流動を受けにくい構造となっている。そのため、ピストンキャビティ8a内に噴射された燃料が気化しても、ピストンキャビティ8aの外への気化燃料の拡散を抑える構造となっている。特に始動時はエンジン回転速度が低く、ガスの流動が少ない状態であり、またピストンキャビティ8aの温度も低いことから燃料の気化も遅く、ピストンキャビティ8aの外への気化燃料の拡散はあまり生じない。そのため、点火時に成層燃焼が保たれ、燃焼室3壁面のクエンチ部分に燃料がほとんどない。そのためHC排出が低減される。
【0072】
また、こうした構造であると、燃料噴射弁9を燃焼室の最下端付近にピストン中心軸に対して所定の角度をもって設置し、これに対応してピストンキャビティ8aを設ける場合(図2参照)よりも、吸気上死点前後でかつほぼ全量の燃料がピストンキャビティ内に入るタイミングを設定できるクランク角度幅が広がる。またピストンキャビティ内で気化した燃料の拡散を避ける効果も増大する。
【0074】
冷却水温(エンジンの温度)に応じて燃料の気化速度が変化することを利用し、本実施形態(請求項3に記載の発明)によれば吸気上死点前後で燃料噴射した場合に点火時に成層燃焼を保つことが可能か否かを冷却水温Twに基づいて判定し、また、始動から燃焼毎に燃焼室3内の温度は上昇していき、その結果、燃料の気化速度が変化することから、本実施形態(請求項4に記載の発明)によれば始動からの燃焼サイクル数を用いて、吸気上死点前後で燃料噴射した場合に点火時に成層燃焼を保つことが可能か否かを判定している
【0075】
また、始動時には燃料ポンプ21の作動が不完全で燃圧が低く、燃料噴霧の粒径が大きいために気化速度が遅い。燃料ポンプ21と燃料噴射弁9の特性によるが、始動後徐々に燃圧が高くなり、燃料噴霧の微粒化に伴い気化速度が速くなる。本実施形態(請求項5に記載の発明)によれば、燃圧により、吸気上死点前後で燃料噴射した場合に点火時に成層燃焼を保つことが可能か否かを判定している。
【0076】
また、エンジン回転速度により燃焼室内でのガス流動が変化する。ガス流動が大きくなると、気化した燃料のピストンキャビティ外への拡散が増加し、その結果として吸気上死点前後で燃料噴射した場合に点火時に成層燃焼を保つことができなくなる。そのため本実施形態(請求項6に記載の発明)によれば、エンジン回転速度により、吸気上死点前後で燃料噴射した場合に点火時に成層燃焼を保つことが可能か否かを判定している。
【0077】
このように、冷却水温Tw、始動からの燃焼サイクル数Cbst、燃圧Pf、エンジン回転速度Neに基づいて吸気上死点前後で燃料噴射した場合に点火時に成層燃焼を保つことが可能か否かを判定しているので(図6Sd1〜Sd4参照)、その判定を簡易に行うことができる。
【0078】
さらに、本実施形態(請求項7に記載の発明)によれば、冷却水温Tw、始動からの燃焼サイクル数Cbst、エンジン回転速度Ne、燃圧Pfの全ての情報に基づいて、吸気上死点前後で燃料噴射した場合に点火時に成層燃焼を保つことが可能か否かを判定しているので(図6Sd1〜Sd4参照)、更に精度良く判定できる。
【0079】
本実施形態(請求項8に記載の発明)によれば、点火時に成層燃焼を保つことができないと判定された場合に、吸気上死点前後でほぼ全量の燃料がピストンキャビティ8a内に入るタイミングに替えて、圧縮行程でかつほぼ全量の燃料がピストンキャビティ8a内に入るタイミングで燃料を噴射するので(図3Sa3、Sa4、Sa12参照)、シリンダ7壁面への燃料付着を極力さけることができ、その結果、冷間始動時におけるHCの発生を抑制できる。
【0080】
本実施形態(請求項9に記載の発明)によれば、吸気上死点前後でかつほぼ全量の燃料がピストンキャビティ8a内に入るタイミングで燃料を噴射した場合の点火時における燃料気化率Rkkを予測し、この予測される燃料気化率Rkkが高くピストンキャビティ8a外への気化燃料の拡散により燃焼に寄与しない燃料が増えた場合に、この燃焼に寄与しない分の燃料を増量補正した燃料噴射時間(Ti/Rkk+Ti/(Rkk−Krks))と、圧縮行程でかつほぼ全量の燃料が前記ピストンキャビティ8a内に入るタイミングで燃料を噴射した場合の燃料噴射時間(Ti/Rks)とのいずれが少ないか否かを判定し、この判定結果より圧縮行程で噴射した場合の燃料噴射時間が少ないと判定された場合に、圧縮行程でかつほぼ全量の燃料がピストンキャビティ8a内に入るタイミングでの燃料噴射に切換えるようにしたので(図6Sd10、Sd11、Sd13、図3Sa4、Sa12参照)、更に余分な燃料噴射を低減することができる。
【0081】
燃料噴射時期を吸気上死点前後でかつほぼ全量の燃料がピストンキャビティ8a内に入るタイミングから、圧縮行程でかつほぼ全量の燃料がピストンキャビティ8a内に入るタイミングに切換えた場合に、両者での点火時における燃料気化率が異なるためにトルク段差が生じるのであるが、本実施形態(請求項11に記載の発明)によれば、圧縮行程でかつほぼ全量の燃料がピストンキャビティ8a内に入るタイミングで燃料を噴射した場合の点火時における燃料気化率Rksを予測し、圧縮行程でかつほぼ全量の燃料がピストンキャビティ8a内に入るタイミングでの燃料噴射に切換えた場合に、この予測される燃料気化率Rksで燃料噴射時間Tiを補正するので(図3Sa13参照)、切換時のトルク段差を解消できる。
【0082】
本実施形態(請求項12に記載の発明)によれば、吸気上死点前後でかつほぼ全量の燃料がピストンキャビティ8a内に入るタイミングで燃料を噴射した場合にピストンキャビティ8aから燃料がはみ出すとき、そのはみ出す燃料を除いた燃料を吸気上死点前後で噴射し、かつ圧縮行程中のタイミングであって、はみ出す燃料のほぼ全量がピストンキャビティ内に入るタイミングに再度噴射するので(図3Sa8、Sa10、Sa11参照)、吸気上死点前後でかつほぼ全量の燃料がピストンキャビティ8a内に入るタイミングで燃料を噴射した場合にピストンキャビティ8aから燃料がはみ出す場合においても、シリンダ7壁面への燃料付着を避けることができる。
【0083】
噴射した燃料の点火時における燃料気化率(Rkk、Rks)は、冷却水温(エンジンの温度)、噴射から点火までの時間、燃料の微粒化に応じて変化するため、本実施形態によれば、冷却水温Tw、エンジン回転速度Ne、燃焼サイクル数Cbst、燃圧Pfのいずれかの情報または複数の情報から予測しているが(請求項10に記載の発明)、エンジン特性によって、燃料気化率に対する寄与率の低いパラメータを削り、予測方法を簡単にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態のエンジンの概略構成図。
【図2】他の実施形態のエンジンの概略構成図。
【図3】始動からの燃料噴射時期と燃料噴射時間の算出を説明するためのフローチャート。
【図4】燃料噴射時間の算出を説明するためのフローチャート。
【図5】燃料噴射時期の算出を説明するためのフローチャート。
【図6】吸気成層許可フラグの設定と、吸気上死点前後及び圧縮行程で噴射した場合の点火時における燃料気化率の算出とを説明するためのフローチャート。
【図7】単位時間あたりの燃料気化率の特性図。
【図8】燃料噴射時期に対する燃料気化率の特性図。
【符号の説明】
1 エンジン本体
3 燃焼室
8 ピストン
8a ピストンキャビティ
9 燃料噴射弁
10 点火プラグ
25 エンジンコントローラ
Claims (12)
- 燃焼室に直接に燃料を噴射する燃料噴射弁を備える筒内直接噴射エンジンにおいて、
ピストン冠面に、前記燃料噴射弁からの燃料噴霧を保持し得るキャビティを形成し、
始動時に、吸気上死点前後でかつほぼ全量の燃料が前記ピストンキャビティ内に入るタイミングで前記燃料噴射弁より燃料を噴射した場合に点火時に成層燃焼を保つことが可能な限り、このタイミングでの燃料噴射を継続する
ことを特徴とする筒内直接噴射エンジンの燃料噴射制御装置。 - 前記燃料噴射弁をペントルーフ状の燃焼室天井の略中央位置に設置し、前記ピストンキャビティを、前記燃料噴射弁から噴射される燃料噴霧の中心軸と略同一の中心軸となるような形状とすることを特徴とする請求項1に記載の筒内直接噴射エンジンの燃料噴射制御装置。
- 前記点火時に成層燃焼を保つことが可能か否かをエンジンの温度に基づいて判定することを特徴とする請求項1に記載の筒内直接噴射エンジンの燃料噴射制御装置。
- 前記点火時に成層燃焼を保つことが可能か否かを始動からの燃焼サイクル数に基づいて判定することを特徴とする請求項1に記載の筒内直接噴射エンジンの燃料噴射制御装置。
- 前記点火時に成層燃焼を保つことが可能か否かを燃圧に基づいて判定することを特徴とする請求項1に記載の筒内直接噴射エンジンの燃料噴射制御装置。
- 前記点火時に成層燃焼を保つことが可能か否かをエンジン回転速度に基づいて判定することを特徴とする請求項1に記載の筒内直接噴射エンジンの燃料噴射制御装置。
- 前記点火時に成層燃焼を保つことが可能か否かをエンジンの温度、始動からの燃焼サイクル数、エンジン回転速度、燃圧の少なくとも2つの情報に基づいて判定することを特徴とする請求項1に記載の筒内直接噴射エンジンの燃料噴射制御装置。
- 前記点火時に成層燃焼を保つことが可能でないと判定された場合に、前記吸気上死点前後でほぼ全量の燃料が前記ピストンキャビティ内に入るタイミングに替えて、圧縮行程でかつほぼ全量の燃料が前記ピストンキャビティ内に入るタイミングで前記燃料噴射弁より燃料を噴射することを特徴とする請求項3から7までのいずれか一つに記載の筒内直接噴射エンジンの燃料噴射制御装置。
- 前記吸気上死点前後でかつほぼ全量の燃料が前記ピストンキャビティ内に入るタイミングで燃料を噴射した場合の点火時における燃料気化率を予測する手段と、
この予測される燃料気化率が高くピストンキャビティ外への気化燃料の拡散により燃焼に寄与しない燃料が増えた場合に、この燃焼に寄与しない分の燃料を増量補正した燃料量と、圧縮行程でかつほぼ全量の燃料が前記ピストンキャビティ内に入るタイミングで燃料を噴射した場合の燃料量とのいずれが少ないか否かを判定する手段と、
この判定結果より圧縮行程で噴射した場合の燃料量が少ないと判定された場合に、圧縮行程でかつほぼ全量の燃料が前記ピストンキャビティ内に入るタイミングでの燃料噴射に切換える手段と
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の筒内直接噴射エンジンの燃料噴射制御装置。 - 前記点火時における燃料気化率を、エンジンの温度、エンジン回転速度、燃焼サイクル数、燃圧のいずれかの情報または複数の情報から予測することを特徴とする請求項9に記載の筒内直接噴射エンジンの燃料噴射制御装置。
- 前記圧縮行程でかつほぼ全量の燃料が前記ピストンキャビティ内に入るタイミングで燃料を噴射した場合の点火時における燃料気化率を予測する手段を備え、
前記圧縮行程でかつほぼ全量の燃料が前記ピストンキャビティ内に入るタイミングでの燃料噴射に切換えた場合に、この予測される燃料気化率で燃料噴射量を補正することを特徴とする請求項9に記載の筒内直接噴射エンジンの燃料噴射制御装置。 - 前記吸気上死点前後でかつほぼ全量の燃料が前記ピストンキャビティ内に入るタイミングで燃料を噴射した場合に前記ピストンキャビティから燃料がはみ出すとき、そのはみ出す燃料を除いた燃料を前記吸気上死点前後で噴射し、かつ圧縮行程中のタイミングであって前記はみ出す燃料のほぼ全量がピストンキャビティ内に入るタイミングに再度噴射することを特徴とする請求項1または2に記載の筒内直接噴射エンジンの燃料噴射制御装置。
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