JP4085173B2 - 電気化学用電極を用いるセンサー - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気化学用電極を使用する濃度測定用センサーに関し、特に生体内の活性酸素であるスーパーオキシドイオン(O2 -)の濃度やこのスーパーオキシドイオンの分解酵素であるスーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide Dismutase、以下SODという)の濃度測定用電気化学的電極を使用するスーパーオキシドイオン濃度及び/又はSODの濃度測定用センサーに関し、より詳細には生体内にインビボ(in vivo)に適用できるほど微小化が可能なスーパーオキシドイオンやSODの濃度測定用センサーに関する。
【0002】
活性酸素種は生体内では、生理活性物質の合成、殺菌作用、老化現像などに関連して重要な役割を有している。この活性酸素種は生体内ではキサンチン酸化酵素(XOD)によるキサンチン及びヒポキサンチンなどの尿酸への酸化、酸素のヘモグロビンによる還元などにより生成する。
活性酸素種の一種であるスーパーオキシドイオン(O2 -)の生体内での濃度測定は各種疾患の特定などのために重要である。従来インビトロ(in vitro、体外) で、チトクロムC(3価、Fe3+)のスーパーオキシドイオンによる還元反応(式(1))により生ずるチトクロムC(2価)の550 nmの光吸収量を測定することにより前記スーパーオキシドイオンの定量、及びこれを応用するSODの濃度測定が試みられている。SODの濃度測定はSODが活性であると式(1)の反応が進行せず、チトクロームC(2価)が生成しないことを利用する。しかし、O2 -との反応特異性が十分でないこと、及び反応が遅くかつ操作が煩雑であるという問題があった。
cyt c (3価)+ O2 - → cyt c (2価)+ O2 (1)
【0003】
その他にNBT(ニトロブルーテトラゾリウム)の還元、TNM(テトラニトロメタン)の還元、アドレナリンの酸化、ウミホタルルシフェリン誘導体(MCLA, Cypridina luciferin analog, 2-methyl-6-[p-methoxyphenol]-3,7,dihydroimidazo-[1,2-a] pyrazine-3-one), 又はCLA (2-methyl-6-phenyl-3,7,dihydroimidazo-[1,2-a] pyrazine-3-one)) へのO2 -の付加物の発光等を利用してスーパーオキシドイオンの濃度測定が試みられているが、いずれもインビトロでの分光学的手法である。
【0004】
インビボで直接血液中のO2 -を検出することも従来から試みられている。Cooperらは、金や白金の表面をN−アセチルシステインで修飾し、その上にSODやチトクロムCなどの蛋白質をS−Au結合させた酵素電極を作製し、チトクロムC(3価)のスーパーオキシドイオンによる還元で生じたチトクロムC(2価)を該チトクロムC(2価)が酸化されうる(式(2))程度に酵素電極の電位を保ち、これにより得られる酸化電流からスーパーオキシドイオンの濃度を測定する方法を提案している [J. Electroanal. Chem., 347, 267-275(1993)]。更にこの方法では間接的にSOD濃度を測定できる。
cyt c (2価)→ cyt c (3価)+ e (2)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら式(1)の反応速度が遅いため(約105-1s-1) 、チトクロムCとO2 -との反応を用いるこの方法は実用的でなく、又この式(1)の反応はスーパーオキシドイオンに特有のものでなく、生体内の他の還元種でも還元されてスーパーオキシドイオン独自の電流以上の電流が流れるため、発生する電流とスーパーオキシドイオンとが正確に対応せず、間接的に測定されるSODに関しても同様であるという問題点がある。
【0006】
SODを使用するスーパーオキシドイオン測定方法では、SODを測定液に溶かし、式(3)のように測定対象であるスーパーオキシドイオンの還元反応(SODによる分解)により生成する過酸化水素を、該過酸化水素が酸化分解されうる程度の電極電位に保ち(0.32V以上)、式(4)に示すような反応で分解させこの際に生ずる酸化電流を測定しその測定値からスーパーオキシドイオンの濃度を判定している〔C.J.McNeil et al., Free Rad. Res. Comms.,
17, 399-406(1992)]。
2O2 - + 2H+ → H22 + O2 (3)
22 → O2+ 2H+ + 2e (4)
【0007】
式(3)の反応速度は速い(pH4〜7で107〜105-1-1)ため、電流と濃度の対応関係は良好であるが、過酸化水素の濃度測定による間接的な濃度測定となるため、例えば過酸化水素が他の生体内部位で生産され安定に血液中に存在している場合にはスーパーオキシドイオンに起因しない過酸化水素の濃度分だけ濃度が増加するため、不正確な濃度測定法になってしまうという欠点がある。
本発明は、O2 -濃度の検出や分解に使用できる電気化学的電極を使用して、高速検出と過酸化水素等の併存物質に影響されない高精度検出を可能にするO2 -濃度測定用センサーを提供すること、特にインビボで安全かつ高精度で迅速にO2 -濃度を検出できるO 2 -濃度測定用センサーを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、導電性部材、及び該導電性部材表面に薄膜状に形成したスーパーオキシドジムスターゼを含んで成り、該スーパーオキシドジムスターゼが鉄スーパーオキシドジムスターゼ及び/又はマンガンスーパーオキシドジムスターゼであり、スーパーオキシドイオンと接触することにより、前記鉄及び/又はマンガンの価数が3価から2価に変化する電気化学用電極と、対極及び基準電極を、スーパーオキシドイオンを含有する対象溶液に浸漬し、鉄及び/又はマンガンの価数が3価から2価に変化することによる電流を検出することにより、スーパーオキシドイオン濃度を測定することを特徴とする濃度測定用センサーである。
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明は、主としてSODを有する電極のスーパーオキシドイオンに対する特異性を利用して、スーパーオキシドイオンの濃度測定を行うことを意図している。そして本発明の電極やセンサーはインビボ(in vivo 、生体内)への適用が可能である。又本発明は、チオール基を含む有機化合物とSODの相互作用による結合を利用してSOD濃度を測定することもできる。そして本発明では前記SODが鉄SOD又はマンガンSODであることを特徴とする。
SODのレドックス系は異なるが、生物や臓器の種類に応じて現在までに、銅−亜鉛−SOD、マンガン−SOD、鉄−SOD、鉄−亜鉛−SOD、EC(細胞外)銅含有−SODなどが知られている。
これらのSODのO2 -のH22及びO2への分解機構を検討したところ、SOD中に含まれる酸化還元中心となる金属イオンとして、Fe(2+)/Fe(3+)あるいはMn(2+)/Mn(3+)を有する鉄SODあるいはマンガンSODでは、他のSODより反応速度が増大し、センサー感度を5倍程度向上させることができた。SODは百以上のアミノ酸が配列した分子量39500の物質であり、SODの表面の一部には、上縁(入口)側が200〜300nm、底部(奥部)が40nm程度の孔が存在する。SODの反応部位はこの孔の底部に位置し、孔内面にはカチオン基が密集している。従って例えば血液中の成分のうちアニオンのみが選択的に前記孔内を移動でき、しかもスーパーオキシドイオンのような小さいアニオンのみが前記反応部位に到達でき、スーパーオキシドイオンの選択特異的な分解反応(特に不均化反応といわれる)が起こると考えられている。分解生成物である酸素と過酸化水素は反応部位から放出される。従ってO2 -由来の電流のみを検出して正確な濃度測定を行える。
【0010】
SODによるスーパーオキシドイオンの酸素と過酸化水素への分解機構は、それに含まれる金属イオンである鉄及びマンガンが寄与していると考えられている。
つまりSODのM(3価)はO2 -と反応して自身がM(2価)に還元されてOを放出し(式(5))、更にO2 -が存在するとM(2価)はO2 -と反応して自身がM(3価)に酸化されるとともにH及びO2 -と反応してH22を生成する(式(6))。
3+ + O2 - → M2++ O2 (5)
2+ + 2H + O2 - → M3+ + H22 (6)
溶液中にSODが存在し、これにO2 -が接触すると、M3+−M2+対による式で示した酸化還元反応(メディエーション反応)が進行する。この状況を図1に示した。
【0011】
又個々の電極ごとに見ると次のようになる。
SODを有する電極を、そのSOD中のM3+が安定でかつO2 -が不安定な電位範囲に維持すると、陽極に到達したO2 -は式(5)に従って酸化されて酸素となりM3+はM2+となる。生成したM2+はO2 -から奪った電子を陽極に与えて図2に示す通り再びM3+となる。このときの酸化電流を測定すると、O2 -の濃度を知ることができる。
他方SODを有する電極を、そのSOD中のM2+が安定でO2 -が不安定で更に過酸化水素が安定な電位範囲に維持すると、陰極に到達したO2 -は式(6)に従って還元されて過酸化水素となり、M2+はMn3+になる。生成したMn3+はO2 -に移った電子を補うため陰極から電子を奪って再びM2+となる。この様子を図3に示した。
【0012】
この際に生ずる酸化還元電流はこの酸化還元反応で消費されるスーパーオキシドイオンの総量に比例するため、予め流れる電流とスーパーオキシドイオンの濃度の関係を求めておけば、電流値からスーパーオキシドイオンの濃度を測定できる。
本発明の導電性部材表面に薄膜状にSODを形成した電極では、酸化還元反応に寄与するM2+及びM3+(Mは鉄又はマンガン)がSODの細孔内深い箇所に存在し、スーパーオキシドイオンとは反応するが過酸化水素とは反応しないという特質を有するため、この酸化還元系とは別個に生体内に過酸化水素が安定に存在してもこの過酸化水素が前記M2+及びM3+と接触してこれに起因する電流が流れることがなく、スーパーオキシドイオン濃度の正確な測定が可能になる。
【0013】
前述した通り、本発明では、導電性部材表面と前記SOD薄膜間に、導電性部材側から、金の下地層及びその上にチオール基を含む有機化合物の薄膜を形成した修飾電極を構成しても良く、前記チオール基とSODの相互作用による結合を利用してSOD濃度を測定することもできる。
【0014】
本発明に係る電極の導電性部材としては、導電性があり安定であれば限定されず、例えばカーボン、チタン、ニッケル、鉄あるいはそれらの酸化物を使用することができ、SOD測定用電極の場合は該導電性部材の表面は前述した通り金で被覆されて金下地層として存在することが特に望ましい。
金は熱分解法、樹脂による固着法、蒸着法、電気めっき法、無電解めっき法等により、10〜100 g/m2となるように形成させる。チオール成分を溶解させた水又は有機溶媒(例えばメタノールやアセトン)に金下地層を形成した導電性部材を浸漬し、取り出し乾燥することにより容易に形成できる。乾燥しても金下地層に固着しなかったチオール成分は有機溶媒のみの溶液に浸漬することにより容易に溶解除去できる。なお金下地層を形成する代わりに導電性部材として金を使用しても良い。
このような金下地層とチオール基を有する有機化合物の薄層を形成する理由は、金下地層とチオール基の硫黄との間に強固なAu−S結合を形成するとともに、有機化合物の有する親油性、親水性等により該有機化合物とSODの間にも強い相互作用を生じさせるためである。但し導電性部材の表面に直接SODの薄層を形成しても良い。
【0015】
前記チオール基を有する有機化合物として次の化合物を例示できる。チオフェノール(C65−SH)、4−アミノチオフェノール(p−H2N−C64−SH)、4−メルカプトピリジン(p−C54NSH)、ビス(4−ピリジル)ジスルフィド(p−C54N−S−S−C54N−p)、メチオニン〔CH3−S−CH2−CH2−CH(NH2)COOH〕、p−チオクレゾール(p−HS−C64−CH3)、2−メルカプトピリミジン(C423−SH)、ブタンチオール(C37−SH)、2−アミノエタンチオール(HS−CH2CH2NH2)、シスチン〔HOOC−CH(NH2)−CH2−S−S−CH2−CH(NH2)−COOH〕、システイン〔HS−CH2−CH(COOH)−NH2〕、イソシステイン〔H2N−CH2−CH(SH)−COOH〕、N−アセチルシステアミン(HS−CH2−CH2−NH−COCH3)、N−アセチルシステイン〔HS−CH2−CH(COOH)−NH−COCH3〕、システイニルグリシン〔HS−CH2−CH(NH2)−CO−NH−CH2−COOH〕、α−ホモシステイン〔HS−CH2−CH2CH(NH2)−COOH〕、β−ホモシステイン〔HS−CH2−CH(NH2)−CH2−COOH〕、α−メチルシステイン〔HS−CH2−C(NH2)(CH3)−COOH〕、3−メルカプトプロピオン酸(HS−CH2−CH2−COOH)、メルカプト酢酸(HS−CH2−COOH)。
【0016】
このようにチオール基を有する有機化合物の薄層を形成した導電性部材を好ましくは水洗した後に、SODの薄層を形成する。該薄層は、例えばSODの水溶液あるいはSODを溶解したEDC(水溶性カルボジイミドである1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)溶液に前記チオール修飾導電性部材を1時間から1日程度浸漬し、固着されなかった分をリン酸緩衝液(pH7)で十分に浸漬して除去して作製でき、該薄層を形成することにより特に濃度測定用として好ましく使用できる電気化学用電極が完成する。
この濃度測定用電極を実際に濃度測定に使用する際には対極が必要で、該対極は生体内に入ることが多いため、安全性の高い材料(例えば白金、チタン及びカーボン等)で構成することが好ましい。
【0017】
電位を制御する基準電極は、通常、銀/塩化銀、水銀/塩化第二水銀が用いられるが、固体の基準電極を用いることもできる。電位を好ましい範囲に維持する際に検出限界濃度を向上させる目的で電位のパルスを与えることも好ましい。微小電極の場合、あるいは複数個の電極から構成される構造の場合は、濃度に対して一定の拡散電流が観察されることを利用しても良い。これらの工夫により流速の影響を排除できる。
【0018】
【発明の実施の形態】
次に添付図面に基づいて本発明の濃度測定用電極を有する濃度測定装置及び濃度測定用センサーの一実施形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図4は、本発明のスーパーオキシドイオン濃度測定用装置の一実施形態を示す概略断面図、図5は図4の濃度測定用電極の拡大断面図である。
図4において、濃度測定用装置1は、試料室2及び該試料室2に、スーパーオキシドイオンが溶解した試料溶液が供給される試料供給管3及び濃度測定後の試料溶液が排出される排出管4から成っている。試料室2内の試料溶液5中には濃度測定用電極6、カーボン製対極7及び基準電極8が浸漬されている。
【0019】
前記濃度測定用電極6は図5に示すように、カーボンやチタンからなる導電性部材9、該導電性部材9上に被覆された金下地層10、該金下地層10の金原子に結合したチオール基を有する有機化合物11及び該有機化合物11と相互作用するスーパーオキシドイオン分解酵素(スーパーオキシドジムスターゼ、SOD)12から成っている。
このような構成から成る装置1の試料室2にスーパーオキシドイオンが溶解した試料溶液5を試料供給管3を通して供給すると、濃度測定用電極6のSOD12中のマンガン及び/又は鉄がMn2+又はFe2+であれば前述のように自身がMn3+又はFe3+に酸化されるとともにスーパーオキシドイオンを還元して過酸化水素を生成する。
【0020】
このときに流れる電流を対極7及び基準電極8を利用して測定すると、試料室2に供給された試料溶液5中に溶解しているスーパーオキシドイオン濃度を検出することができる。
更に前記濃度測定用電極6に担持されたSOD12のマンガンイオン又は鉄イオンは過酸化水素とは接触しにくく過酸化水素が存在しても該過酸化水素に起因する酸化電流が流れることは殆どなく、従来と異なり正確な濃度測定ができる。
ここに例示したスーパーオキシドイオンとは異なりスーパーオキシドイオン分解酵素の濃度を測定する場合には、図5においてSOD12が結合していない電極を使用する。
【0021】
図6は、本発明の濃度測定用センサーの一実施形態を示す概略断面図である。
濃度測定用センサー21は円筒状本体の下端部を縮径した中空状の形状を有し、この縮径部に作用極22が充填され、該作用極22への導線23がセンサー21の側壁に沿って配設されている。前記作用極22の上方には、離間して対極24と基準極25が配設され、それぞれ導線26、27によりセンサー本体の基部に嵌合されたストッパ28を通って外部に導かれている。
このような構成から成るセンサー21は、人体の要所に挿入され、図4及び5で説明した原理によりスーパーオキシドイオン及び/又はSODの濃度測定が行われる。
【0022】
次に本発明に係る濃度測定用センサーによる濃度測定の実施例及び比較例を記載するが、これらは本発明を限定するものではない。
実施例1
電極直径1.6 mmの金線の先端を電極とし、側面部位はシールした。更に表面を研磨し、水中で超音波洗浄した後、硫酸中で電気化学的に酸化還元し活性処理を行って電極cとした。
メルカプトプロピオン酸を1mM溶解した溶液に前記電極cを10分間浸漬し、メルカプトプロピオン酸の修飾層を形成した。前記溶液から取り出した電極cを純水に浸漬して電極cに固着されなかったメルカプトプロピオン酸を除去して電極aとした。
【0023】
次いで鉄−SOD[シグマ社製、S5389、酵素活性3000〜6000U/mg−蛋白質]が500U/mlの濃度になるように、5mMリン酸緩衝液(pH7)に溶解し、この緩衝液に前記電極aを浸漬し、かつ取り出し後に乾燥して電極bとした。
電極a、b及びcのそれぞれを別個に、鉄−SODを含まない5mMリン酸緩衝液(pH7)に入れ、対極を白金線、基準電極を銀/塩化銀とし、該対極及び基準電極を前記電極a、b又はcに近接させてセンサーを構成した。
前記各電極a、b又はcを有する各センサーに対し100mV/秒の走査速度で電流電位測定を行った。該測定の結果(電流電位応答性)を図7のグラフにそれぞれ曲線a、b又はcで示した。
【0024】
電極bのみで0V及び0.2V付近にSODの酸化還元に相当する電流ピークが可逆的に観察され、SODがメルカプトプロピオン酸の修飾層の上に固定されていることが示された。
図8に、2mMのO2 -を含む5mMリン酸緩衝液(pH7)での前記電極a、b及びcの電流電位応答曲線を示した。電極bではO2 -の酸素への酸化分解に対応する酸化電流の増大が0.2V付近で見られたが、電極a及びcでは、これに対応する電流が全く観察されなかった。一方、電極bでは、0.1V付近にO2 -の還元分解に対応する電流が見られたが、電極a及びcではこれに対応する電流は全く観察されなかった。
【0025】
実施例2
実施例1の緩衝液を、鉄−SODを結合した実施例1の電極b、対極及び基準電極を有する図4の装置に6ml/分の速度で供給し、電極電位を−0.05V及び0.3Vに固定し、そのときに観察される鉄−SOD濃度に対する定常電流値をそれぞれ図9a及び図9bに示した。両図から、鉄−SOD濃度と定常電流値は直線関係にあることが分かった。
【0026】
実施例3
鉄−SODの替わりに、マンガン−SOD[シグマ社製、S5639、酵素活性2500〜5000U/mg−蛋白質]を用いたこと以外は、実施例1と同様にして電極b(マンガン−SODを結合した電極)を作製した。この電極bの電流電位応答曲線性を図10に示した。
図10から、0.1V及び0.2V付近にSODの酸化還元に相当する電流ピークが可逆的に観察され、SODがメルカプトプロピオン酸の修飾層の上に固定されていることが示された。
2 -が存在すると酸素への酸化分解に対応する電流の増大が0.2V付近に見られ、又0.1V付近では還元分解に対応する電流が見られたが、O2 -が存在しないときには、マンガン−SODそのものの酸化還元電流だけが観察された。
【0027】
比較例1
実施例1の金線にN−アセチルシステインを被覆し、その上にチトクロムCをS−Au結合で担持させて酵素電極とした。
この電極を使用して実施例1と同一条件で電流を観察したところ、O2 -の分解に対応する電流が見られた。しかし過酸化水素を共存させたところ、電流が増加しO2 -の定量は不可能であった。
【0028】
【発明の効果】
本発明は、導電性部材、及び該導電性部材表面に薄膜状に形成したスーパーオキシドジムスターゼを含んで成り、該スーパーオキシドジムスターゼが鉄スーパーオキシドジムスターゼ及び/又はマンガンスーパーオキシドジムスターゼであり、スーパーオキシドイオンと接触することにより、前記鉄及び/又はマンガンの価数が3価から2価に変化する電気化学用電極と、対極及び基準電極を、スーパーオキシドイオンを含有する対象溶液に浸漬し、鉄及び/又はマンガンの価数が3価から2価に変化することによる電流を検出することにより、スーパーオキシドイオン濃度を測定することを特徴とする濃度測定用センサーである。
本発明のセンサーの濃度測定用電極の導電性部材上に形成したSODは、O2 -のみを選択的に酸化して酸素ガスを発生し又は還元して過酸化水素を生成し、過酸化水素及び酸素に対しては不活性である。従ってO2 -を含む溶液中に前記電極を浸漬すると、過酸化水素及び酸素の存否に影響されることなく、O2 -のみに対応する酸化又は還元電流が流れる。この電流値を測定することにより、前記溶液中の正確なO2 -濃度が検出できる。又生体内で安定でありかつ反応速度が速いため、インビボで好適に使用できる。
そして本発明の鉄SOD及び/又はマンガンSODは他の金属−SODより5倍程度の感度で電流検出ができ、センサーとして使用する場合の機能信頼性が向上する。
又カーボンやチタン製である導電性部材表面に、チオール基を含む有機化合物を薄膜状に修飾した金下地層を形成しても良く、この金下地層は導電性部材とSODをS−Au結合を介して強固に結び付け、O2 -測定の正確性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【図1】SOD中の金属(鉄又はマンガン)イオンを使用するO2 -の酸化還元サイクルを示す説明図。
【図2】図1の陽極側のO2 -の酸化状況を示す説明図。
【図3】図1の陰極側のO2 -の還元状況を示す説明図。
【図4】本発明の濃度測定用装置の一実施形態を示す概略断面図。
【図5】図1の濃度測定用電極の要部拡大図。
【図6】本発明の濃度測定用センサーの一実施形態を示す概略断面図。
【図7】実施例1の電極a、b又はcの5mMリン酸緩衝液中での電流電位応答性を示すグラフ。
【図8】実施例1の電極a、b又はcの2μMのO2 -を含む5mMリン酸緩衝液中での電流電位応答性を示すグラフ。
【図9】図9a及び図9bはそれぞれ、実施例2で電極電位を−0.05V及び0.3Vに固定したときに観察される鉄−SOD濃度に対する定常電流値を示すグラフ。
【図10】実施例3の電極bの電流電位応答性を示すグラフ。
【符号の説明】
1 濃度測定用センサー
2 試料室
3 試料供給管
4 排出管
5 試料溶液
6 濃度測定用電極
7 対極
8 基準電極
9 導電性部材
10 金下地層
11 有機化合物
12 スーパーオキシドイオン分解酵素
21 濃度測定用センサー
22 作用極
24 対極
25 基準極

Claims (2)

  1. 導電性部材、及び該導電性部材表面に薄膜状に形成したスーパーオキシドジムスターゼを含んで成り、該スーパーオキシドジムスターゼが鉄スーパーオキシドジムスターゼ及び/又はマンガンスーパーオキシドジムスターゼであり、スーパーオキシドイオンと接触することにより、前記鉄及び/又はマンガンの価数が3価から2価に変化する電気化学用電極と、対極及び基準電極を、スーパーオキシドイオンを含有する対象溶液に浸漬し、鉄及び/又はマンガンの価数が3価から2価に変化することによる電流を検出することにより、スーパーオキシドイオン濃度を測定することを特徴とする濃度測定用センサー。
  2. 導電性部材表面に、その表面をチオール基を含む有機化合物で薄膜状に修飾した金下地層を有する請求項1に記載の濃度測定用センサー。
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