以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の平版印刷版原版は、例えば(A)赤外線吸収剤、(B)重合開始剤、(C)重合性化合物、および(D)バインダーポリマーを含有し、印刷インキ、湿し水またはこれらの両方により除去可能である画像記録層を有し、更に画像記録層またはその他の層に少なくとも(a1)エチレン性不飽和結合を少なくとも1つ含有する繰り返し単位と(a2)支持体表面と相互作用する官能基を少なくとも1つが含有する繰り返し単位とを有する共重合体(以下「特定共重合体」とも言う。)を含むことを一つの特徴とする。また、上記特定共重合体は親水性部分を有することが好ましい。
上記特定共重合体としては、下記一般式(I)で表される共重合構造を有するものが好ましい。
一般式(I)
一般式(I)中、A1はエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ含有する繰り返し単位を表し、A2は支持体表面と相互作用する官能基を少なくとも1つ含有する繰り返し単位を表す。x、yは共重合比を表す。
一般式(I)において、A1で表される繰り返し単位は、下記式(A1)で表される。
式中、R1〜R3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、またはハロゲン原子を表す。R4〜R6はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子、アシル基、またはアシルオキシ基を表す。またR4とR5、またはR5とR6で環を形成してもよい。Lは−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。
組み合わせからなるLの具体例を以下に挙げる。なお、下記例において左側が主鎖に結合し、右側がエチレン性不飽和結合に結合する。
L1:−CO−NH−二価の脂肪族基−O−CO−
L2:−CO−二価の脂肪族基−O−CO−
L3:−CO−O−二価の脂肪族基−O−CO−
L4:−二価の脂肪族基−O−CO−
L5:−CO−NH−二価の芳香族基−O−CO−
L6:−CO−二価の芳香族基−O−CO−
L7:−二価の芳香族基−O−CO−
L8:−CO−二価の脂肪族基−CO−O−二価の脂肪族基−O−CO−
L9:−CO−二価の脂肪族基−O−CO−二価の脂肪族基−O−CO−
L10:−CO−二価の芳香族基−CO−O−二価の脂肪族基−O−CO−
L11:−CO−二価の芳香族基−O−CO−二価の脂肪族基−O−CO−
L12:−CO−二価の脂肪族基−CO−O−二価の芳香族基−O−CO−
L13:−CO−二価の脂肪族基−O−CO−二価の芳香族基−O−CO−
L14:−CO−二価の芳香族基−CO−O−二価の芳香族基−O−CO−
L15:−CO−二価の芳香族基−O−CO−二価の芳香族基−O−CO−
二価の脂肪族基とは、アルキレン基、置換アルキレン基、アルケニレン基、置換アルケニレン基、アルキニレン基、置換アルキニレン基またはポリアルキレンオキシ基を意味する。なかでもアルキレン基、置換アルキレン基、アルケニレン基、および置換アルケニレン基が好ましく、アルキレン基および置換アルキレン基がさらに好ましい。
二価の脂肪族基は、環状構造よりも鎖状構造の方が好ましく、さらに分岐を有する鎖状構造よりも直鎖状構造の方が好ましい。
二価の脂肪族基の炭素原子数は、1乃至20であることが好ましく、1乃至15であることがより好ましく、1乃至12であることがさらに好ましく、1乃至10であることがさらにまた好ましく、1乃至8であることが最も好ましい。
二価の脂肪族基の置換基の例としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、シアノ基、アリール基、アルコキシ基、アリール
オキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基およびジアリールアミノ基等が挙げられる。
二価の芳香族基とは、アリール基または置換アリール基を意味する。好ましくは、フェニレン、置換フェニレン基、ナフチレンおよび置換ナフチレン基である。
二価の芳香族基の置換基の例としては、上記二価の脂肪族基の置換基の例に加えて、アルキル基が挙げられる。
式(I)において、A2で表される繰り返し単位は、具体的には下記式(A2)で表される。
式中、R 1 〜R 3 およびLは前記式(A1)で表されるものと同義である。Qは支持体表面と相互作用する官能基であって、以下に示す特定置換基又は特定酸基を表す。本明細書においては、官能基Qを「特定官能基」と略記することもある。
ここに特定官能基の支持体表面との相互作用とは、該官能基が支持体表面のSi−OH、Si−O-、Al3+、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムと共有結合、イオン結合、水素結合、極性結合、又はファンデルワールス力による物理吸着、化学吸着又は化学結合を指す。
特定官能基Qが表す特定置換基と特定酸基を以下に示す。
<特定置換基>
上記特定置換基中、R11〜R13はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、アルキニル基、またはアルケニル基を表し、M1およびM2はそれぞれ独立に、水素原子又は金属原子を表す。
<特定酸基>
特定酸基は、アンモニウム基、ピリジニウム基等のオニウム塩基及びホスホン酸基である。
式(A2)において、Lは−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。
組み合わせからなるLの具体例としては、前記(A1)におけるLの具体例に加えて以下のものを挙げることができる。なお、下記例において左側が主鎖に結合し、右側がエチレン性不飽和結合に結合する。
L16: −CO−NH−
L17: −CO−O−
L18: −二価の芳香族基−
式(A2)で表される繰り返し単位中には親水性部分を有していてもよい。式(A2)に親水性部分が含まれない場合には、本発明で用いられる前記共重合体には共重合成分としてさらに下記式(A3)で表される繰り返し単位を含有することが好ましい。
式中、R1〜R3およびLは前記式(A1)で表されるものと同義である。Wは下記基を表す。
ただし、M1は前記式(A2)の説明で表されるものと同義である。
R7およびR8はそれぞれ独立に、水素原子、あるいは炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基を表す。ここで、R7とR8とで含窒素の環構造を形成してもよい。
R9は炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキレン基を表す。
R10は水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表す。
nは1〜100の整数を表す。
前記特定共重合体の分子量としては、質量平均分子量で500〜100,000の範囲が好ましく、700〜50,000の範囲がより好ましい。また(a1)は全共重合モノマーに対して5〜80モル%が好ましく、10〜50モル%がより好ましい。(a2)は全共重合モノマーに対して5〜80モル%が好ましく、10〜50モル%がより好ましい。さらに、(a3)は全共重合モノマーに対して5〜80モル%が好ましく、10〜50モル%がより好ましい。
本発明において用いられる前記特定共重合体の具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
本発明において前記特定共重合体の使用形態としては、画像記録層中に含有させることも、また支持体と画像記録層との間に設けられる下記で説明する下塗層(中間層)などの画像記録層に隣接する層に含有させることもできるが、下塗り層中に用いるのが本発明の効果が十分に発揮されるため特に好ましい。下塗層が断熱層として機能することにより、赤外線レーザーによる露光により発生した熱が支持体に拡散せず、効率よく利用されるようになるため、高感度化が図れるという利点がある。また、未露光部においては、画像記録層の支持体からのはく離を生じやすくさせるため、機上現像性が向上する。
本発明において前記特定共重合体を下塗り層に用いる場合には、通常該共重合体を溶剤で希釈して用いる。溶媒としては、水や、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、THF、DMF、1−メトキシ−2−プロパノール、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒が挙げられ、特にアルコール類が好ましい。これらの有機溶媒は混合して用いることもできる。
なお、前記特定共重合体化合物を下塗り層に用いる場合、特定共重合体単独で親水性支持体上に塗設または、必要に応じて後述する有機化合物等の下塗り剤と併用してもよい。
下塗層塗布液の濃度(特定共重合体の濃度)としては、0.001〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.01〜5質量%であり、さらに好ましくは0.05〜1質量%である。下塗り層には、必要に応じて後述する界面活性剤を添加してもよい。
特定共重合体が下塗層に含まれる場合の塗布量(固形分)は、1〜30mg/m2 であるのが好ましく、3〜30mg/m2 であるのがより好ましい。
次に、本発明の平版印刷版原版における画像記録層について詳細に説明する。
本発明の平版印刷版原版は、支持体上に、例えば(A)赤外線吸収剤、(B)重合開始剤、(C)重合性化合物、および(D)バインダーポリマーを含有し、印刷インキ、湿し水またはこれらの両方により除去可能な画像記録層を有するものが好適である。
以下にこの好適な態様における画像記録層を構成する各成分について詳細に説明する。
〔(A)赤外線吸収剤〕
本発明における画像記録層には、760〜1200nmの赤外線を発するレーザーを光源とする画像形成を効率的に行うことを可能にするため、赤外線吸収剤が含有されるのがよい。赤外線吸収剤は、吸収した赤外線を熱に変換する機能を有している。この際発生した熱により、後述する重合開始剤(ラジカル発生剤)が熱分解し、ラジカルを発生する。 本発明で用いられるかかる赤外線吸収剤は、波長760〜1200nmに吸収極大を有する染料又は顔料である。
染料としては、市販の染料及び例えば「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
好ましい染料としては、例えば、特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭60−78787号等の公報に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号等の公報に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号等の公報に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号公報等に記載されているスクワリリウム色素、英国特許第434,875号明細書記載のシアニン染料等を挙げることができる。
また、米国特許第5,156,938号明細書記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号明細書記載の置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号公報(米国特許第4,327,169号明細書)記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号、同59−146061号の各公報に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号公報記載のシアニン色素、米国特許第4,283,475号明細書に記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号、同5−19702号の公報に開示されているピリリウム化合物も好ましく用いられる。また、染料として好ましい別の例として米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)、(II)として記載されている近赤外吸収染料を挙げることができる。
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。さらに、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましく、特に好ましい一つの例として
下記一般式(i)で示されるシアニン色素が挙げられる。
一般式(i)中、X1は、水素原子、ハロゲン原子、−NPh2、X2−L1又は以下に示す基を表す。
一般式(i)におけるX2は酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を示し、L1は、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、又はヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。Xa-は後述するZa-と同様に定義され、Raは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。Phはフェニル基を表す。
一般式(i)におけるR1及びR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。記録層塗布液の保存安定性から、R1及びR2は、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、更に、R1とR2とは互いに結合し、5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
Ar1、Ar2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y1、Y2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R3、R4は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。R5、R6、R7及びR8は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Za-は、対アニオンを示す。ただし、一般式(i)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZa-は必要ない。好ましいZa-は、記録層塗布液の保存安定性から、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
本発明において、好適に用いることのできる一般式(i)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969公報の段落番号[0017]から[0019]に記載されたものを挙げることができる。
また、特に好ましい他の例として、特開2002−278057号公報に記載の特定インドレニンシアニン色素を挙げることができる。
さらに、赤外線吸収剤としては、水溶性であることが好ましいが、非水溶性の場合は、分散や混合溶媒に溶解する等の方法により添加することもできる。
本発明において使用される顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。
顔料の種類としては、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が使用できる。これらの顔料のうち好ましいものはカーボンブラックである。
これら顔料は表面処理をせずに用いてもよく、表面処理を施して用いてもよい。表面処理の方法には、樹脂やワックスを表面コートする方法、界面活性剤を付着させる方法、反応性物質(例えば、シランカップリング剤、エポキシ化合物、ポリイソシアネート等)を顔料表面に結合させる方法等が考えられる。上記の表面処理方法は、「金属石鹸の性質と応用」(幸書房)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)及び「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
顔料の粒径は0.01μm〜10μmの範囲にあることが好ましく、0.05μm〜1μmの範囲にあることがさらに好ましく、特に0.1μm〜1μmの範囲にあることが好ましい。この範囲で、顔料分散物の画像記録層塗布液中での良好な安定性と画像記録層の良好な均一性が得られる。
顔料を分散する方法としては、インク製造やトナー製造等に用いられる公知の分散技術が使用できる。分散機としては、超音波分散器、サンドミル、アトライター、パールミル、スーパーミル、ボールミル、インペラー、デスパーザー、KDミル、コロイドミル、ダイナトロン、3本ロールミル、加圧ニーダー等が挙げられる。詳細は、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
これらの赤外線吸収剤の画像記録層への添加は、重合反応を阻害する副作用を抑制する
ため、必要最小量とすることが好ましい。
これらの赤外線吸収剤は、画像記録層の全固形分に対し0.001〜50質量%、好ましくは0.005〜30質量%、特に好ましくは0.01〜10質量%の割合で添加することができる。この範囲内で、画像記録層の均一性や膜強度に好ましくない影響を与えることなく、高感度が得られる。
上述したこれらの赤外線吸収剤の中で、好ましい染料としては一般式(i)で示されるシアニン染料が好ましい。
〔(B)重合開始剤〕
本発明に用いられる重合発生剤としては、光、熱或いはその両方のエネルギーによりラジカルを発生し、重合性の不飽和基を有する化合物の重合を開始、促進する化合物を示す。本発明に使用できる重合発生剤としては、公知の熱重合開始剤や結合解離エネルギーの小さな結合を有する化合物、光重合開始剤などを使用することができ、 本発明において好適に用いられるラジカルを発生する化合物は、熱エネルギーによりラジカルを発生し、重合性の不飽和基を有する化合物の重合を、開始、促進させる化合物を指す。本発明に係る熱ラジカル発生剤としては、公知の重合開始剤や結合解離エネルギーの小さな結合を有する化合物などを、適宜、選択して用いることとができる。また、ラジカルを発生する化合物は、単独又は2種以上を併用して用いることができる。
ラジカルを発生する化合物としては、例えば、有機ハロゲン化化合物、カルボニル化合物、有機過酸化化合物、アゾ系重合開始剤、アジド化合物、メタロセン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、有機ホウ酸化合物、ジスルホン酸化合物、オキシムエステル化合物、オニウム塩化合物、が挙げられる。
上記有機ハロゲン化化合物としては、具体的には、若林等、「Bull Chem.Soc Japan」42、2924(1969)、米国特許第3,905,815号明細書、特公昭46−4605号、特開昭48−36281号、特開昭55−32070号、特開昭60−239736号、特開昭61−169835号、特開昭61−169837号、特開昭62−58241号、特開昭62−212401号、特開昭63−70243号、特開昭63−298339号の各公報、M.P.Hutt"Journal of Heterocyclic Chemistry"1(No3),(1970)等に記載の化合物が挙げられ、特に、トリハロメチル基が置換したオキサゾール化合物:S−トリアジン化合物が挙げられる。
より好適には、すくなくとも一つのモノ、ジ、又はトリハロゲン置換メチル基がs−トリアジン環に結合したs−トリアジン誘導体、具体的には、例えば、2,4,6−トリス(モノクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(ジクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2―n−プロピル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロロエチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(3,4−エポキシフェニル)−4、6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−〔1−(p−メトキシフェニル)−2,4−ブタジエニル〕−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−i−プロピルオキシスチリル)−4、6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,
6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−ナトキシナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−フェニルチオ−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−ベンジルチオ−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(ジブロモメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メトキシ−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン等が挙げられる。
上記カルボニル化合物としては、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、2−メチルベンゾフェノン、3−メチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、4−ブロモベンゾフェノン、2−カルボキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、α−ヒドトキシ−2−メチルフェニルプロパノン、1−ヒドロキシ−1−メチルエチル−(p−イソプロピルフェニル)ケトン、1−ヒドロキシ−1−(p−ドデシルフェニル)ケトン、2−メチルー(4'−(メチルチオ)フェニル)−2−モルホリノ−1−プロパノン、1,1,1−トリクロロメチル−(p−ブチルフェニル)ケトン等のアセトフェノン誘導体、チオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン誘導体、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジエチルアミノ安息香酸エチル等の安息香酸エステル誘導体等を挙げることができる。
上記アゾ化合物としては例えば、特開平8-108621号公報に記載のアゾ化合物等を使用することができる。
上記有機過酸化化合物としては、例えば、トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ブタン、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−オキサノイルパーオキサイド、過酸化こはく酸、過酸化ベンゾイル、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジメトキシイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシオクタノエート、tert−ブチルパーオキシラウレート、ターシルカーボネート、3,3',4,4'−テトラ−(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3',4,4'−テトラ−(t−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3',4,4'−テトラ−(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、カルボニルジ(t−ブチルパーオキシ二水素二フタレート)、カルボニルジ(t−ヘキシルパーオキシ二水素二フタレート)等が挙げられる。
上記メタロセン化合物としては、特開昭59−152396号公報、特開昭61−151197号公報、特開昭63−41484号公報、特開平2−249号公報、特開平2−4705号公報、特開平5−83588号公報記載の種々のチタノセン化合物、例えば、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−フェニル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,6−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4−ジ−フルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4,6−トリフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,6−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4,6−トリフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、特開平1−304453号公報、特開平1−152109号公報記載の鉄−アレーン錯体等が挙げられる。
上記ヘキサアリールビイミダゾール化合物としては、例えば、特公平6−29285号公報、米国特許第3,479,185号、同第4,311,783号、同第4,622,286号各明細書等に記載の種々の化合物、具体的には、2,2'−ビス(o−クロロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o−ブロモフェニル))4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o−クロロフェニル)−4,4',5,5'−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイジダゾール、2,2'−ビス(o,o'−ジクロロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o−メチルフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o−トリフルオロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
上記有機ホウ酸塩化合物としては、例えば、特開昭62−143044号、特開昭62−150242号、特開平9−188685号、特開平9−188686号、特開平9−188710号、特開2000−131837号、特開2002−107916号、特許第2764769号、特開2002−116539号等の各公報、及び、Kunz,Martin"Rad Tech'98.Proceeding April 19−22,1998,Chicago"等に記載される有機ホウ酸塩、特開平6−157623号公報、特開平6−175564号公報、特開平6−175561号公報に記載の有機ホウ素スルホニウム錯体或いは有機ホウ素オキソスルホニウム錯体、特開平6−175554号公報、特開平6−175553号公報に記載の有機ホウ素ヨードニウム錯体、特開平9−188710号公報に記載の有機ホウ素ホスホニウム錯体、特開平6−348011号公報、特開平7−128785号公報、特開平7−140589号公報、特開平7−306527号公報、特開平7−292014号公報等の有機ホウ素遷移金属配位錯体等が具体例として挙げられる。
上記ジスルホン化合物としては、特開昭61−166544号公報、特開2002−328465号公報等に記載される化合物が挙げられる。
上記オキシムエステル化合物としては、J.C.S. Perkin II (1979 )1653-1660)、J.C.S.
Perkin II (1979)156-162、Journal of Photopolymer Science and Technology(1995)202-232、特開2000-66385号公報記載の化合物、特開2000-80068号公報記載の化合物等が挙げられ、具体的には下記化合物である。
また上記オニウム塩化合物としては、例えば、S.I.Schlesinger,Photogr.Sci.Eng.,18,387(1974)、T.S.Bal et al,Polymer,21,423(1980)に記載のジアゾニウム塩、米国特許第4,069,055号明細書、特開平4−365049号等に記載のアンモニウム塩、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号の各明細書に記載のホスホニウム塩、欧州特許第104、143号、米国特許第339,049号、同第410,201号の各明細書、特開平2−150848号、特開平2−296514号各公報に記載のヨードニウム塩、欧州特許第370,693号、同390,214号、同233,567号、同297,443号、同297,442号、米国特許第4,933,377号、同161,811号、同410,201号、同339,049号、同4,760,013号、同4,734,444号、同2,833,827号、独国特許第2,904,626号、同3,604,580号、同3,604,581号の各明細書に記載のスルホニウム塩、J.V.Crivello et al,Macromolecules,10(6),1307(1977)、J.V.Crivello et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,17,1047(1979)に記載のセレノニウム塩、C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)に記載のアルソニウム塩等のオニウム塩等が挙げられる。
特に反応性、安定性の面から上記オキシムエステル化合物或いはジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩が挙げられる。本発明において、これらのオニウム塩は酸発生剤ではなく、イオン性のラジカル重合開始剤として機能する。
本発明において好適に用いられるオニウム塩は、下記一般式(RI-I)〜(RI-III)で表されるオニウム塩である。
式(RI-I)中、Ar11は置換基を1〜6個有していても良い炭素数20以下のアリール基を表し、好ましい置換基としては炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、炭素数1〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアリーロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキルアミノ基、炭素数1〜12のジアルキルアミノ基、炭素数1〜12のアルキルアミド基又はアリールアミド基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホニル基、炭素数1〜12のチオアルキル基、炭素数1〜12のチオアリール基が挙げられる。Z11 -は1価の陰イオンを表し、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、チオスルホン酸イオン、硫酸イオンであり、安定性の面から過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオンが好ましい。
式(RI-II)中、Ar21、Ar22は各々独立に置換基を1〜6有していても良い炭素数20以下のアリール基を表し、好ましい置換基としては炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、炭素数1〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアリーロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキルアミノ基、炭素数1〜12のジアルキルアミノ基、炭素数1〜12のアルキルアミド基又はアリールアミド基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホニル基、炭素数1〜12のチオアルキル基、炭素数1〜12のチオアリール基が挙げられる。Z21 -は1価の陰イオンを表
し、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、チオスルホン酸イオン、硫酸イオン、カルボン酸イオンであり、安定性、反応性の面から過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、カルボン酸イオンが好ましい。
式(RI-III)中、R31、R32、R33は各々独立に置換基を1〜6有していても良い炭素数20以下のアリール基又はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基を表し、好ましくは反応性、安定性の面から、アリール基であることが望ましい。好ましい置換基としては炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、炭素数1〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアリーロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキルアミノ基、炭素数1〜12のジアルキルアミノ基、炭素数1〜12のアルキルアミド基又はアリールアミド基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホニル基、炭素数1〜12のチオアルキル基、炭素数1〜12のチオアリール基が挙げられる。Z31 -は1価の陰イオンを表し、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、チオスルホン酸イオン、硫酸イオン、カルボン酸イオンであり、安定性、反応性の面から過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、カルボン酸イオンが好ましく、特に、特開2001−343742号公報記載のカルボン酸イオン、更に好ましくは特開2002−148790号公報記載のカルボン酸イオンが好ましい。
本発明に適用し得る重合開始剤の具体例を以下に挙げるがこれらに限定されない。
これらの重合開始剤は、画像記録層を構成する全固形分に対し0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜20質量%の割合で添加することができる。この範囲で、良好な感度と印刷時の非画像部の良好な汚れ難さが得られる。これらの重合開始剤は、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。また、これらの重合開始剤は他の成分と同一の層に添加してもよいし、別の層を設けそこへ添加してもよい。
〔(C)重合性化合物〕
本発明における画像記録層に用いることのできる重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物であり、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選ばれる。このような化合物群は当該産業分野において広く知られるものであり、本発明においてはこれらを特に限定無く用いることができる。これらは、例えばモノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの混合物ならびにそれらの共重合体などの化学的形態をもつ。モノマー及びその共重合体の例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類が挙げられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシル基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能イソシアネート類或いはエポキシ類との付加反応物、及び単官能若しくは、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有す
る不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、更にハロゲン基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適である。また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。
脂肪族多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、イソシアヌール酸エチレンオキシド(EO)変性トリアクリレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー等がある。
メタクリル酸エステルとしては、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等がある。
イタコン酸エステルとしては、エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネート等がある。クロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラジクロトネート等がある。イソクロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリスリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネート等がある。マレイン酸エステルとしては、エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリスリトールジマレート、ソルビトールテトラマレート等がある。
その他のエステルの例として、例えば、特公昭51−47334号、特開昭57−196231号の各公報に記載の脂肪族アルコール系エステル類や、特開昭59−5240号、特開昭59−5241号、特開平2−226149号の各公報に記載の芳香族系骨格を有するもの、特開平1−165613号公報記載のアミノ基を含有するもの等も好適に用いられる。更に、前述のエステルモノマーは混合物としても使用することができる。
また、脂肪族多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等がある。その他の好ましいアミド系モノマーの例としては、特公昭54−21726号公報記載のシクロへキシレン構造を有すものを挙げることができる。
また、イソシアネートと水酸基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、そのような具体例としては、例えば、特公昭48−41708号公報に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記一般式(A)で示される水酸基を含有するビニルモノマーを付加させた1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
CH2=C(R4)COOCH2CH(R5)OH (A)
(ただし、R4及びR5は、H又はCH3を示す。)
また、特開昭51−37193号公報、特公平2−32293号公報、特公平2−16765号公報に記載されているようなウレタンアクリレート類や、特公昭58−49860号公報、特公昭56−17654号公報、特公昭62−39417号公報、特公昭62−39418号公報記載のエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物類も好適である。更に、特開昭63−277653号公報、特開昭63−260909号公報、特開平1−105238号公報に記載される、分子内にアミノ構造やスルフィド構造を有する付加重合性化合物類を用いることによっては、非常に感光スピードに優れた光重合性組成物を得ることができる。
その他の例としては、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号、各公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。また、特公昭46−43946号、特公平1−40337号、特公平1−40336号各公報に記載の特定の不飽和化合物や、特開平2−25493号公報記載のビニルホスホン酸系化合物等も挙げることができる。また、ある場合には、特開昭61−22048号公報記載のペルフルオロアルキル基を含有する構造が好適に使用される。更に日本接着協会誌vol.20、No.7、300〜308ページ(1984年)に光硬化性モノマー及びオリゴマーとして紹介されているものも使用することができる。
これらの重合性化合物について、その構造、単独使用か併用か、添加量等の使用方法の詳細は、最終的な平版印刷版原版の性能設計にあわせて任意に設定できる。例えば、次のような観点から選択される。
感度の点では1分子あたりの不飽和基含量が多い構造が好ましく、多くの場合、2官能以上が好ましい。また、画像部すなわち硬化膜の強度を高くするためには、3官能以上のものがよく、更に、異なる官能数・異なる重合性基(例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン系化合物、ビニルエーテル系化合物)のものを併用することで、感度と強度の両方を調節する方法も有効である。
また、画像記録層中の他の成分(例えばバインダーポリマー、重合開始剤、着色剤等)との相溶性、分散性に対しても、重合性化合物の選択・使用法は重要な要因であり、例えば、低純度化合物の使用や、2種以上の併用により相溶性を向上させうることがある。また、支持体や後述のオーバーコート層等との密着性を向上せしめる目的で特定の構造を選択することもあり得る。
上記の重合性化合物は、画像記録層中に、好ましくは5〜80質量%、更に好ましくは25〜75質量%の範囲で使用される。また、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。そのほか、重合性化合物の使用法は、酸素に対する重合阻害の大小、解像度、かぶり性、屈折率変化、表面粘着性等の観点から適切な構造、配合、添加量を任意に選択でき、更に場合によっては下塗り、上塗りといった層構成・塗布方法も実施しうる。
〔(D)バインダーポリマー〕
本発明では、画像記録層の皮膜特性や機上現像性の向上のため、バインダーポリマーを用いるのがよい。バインダーポリマーとしては、従来公知のものを制限なく使用でき、皮膜性を有する線状有機ポリマーが好ましい。このようなバインダーポリマーの例としては、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、天然ゴムが挙げられる。
バインダーポリマーは、画像部の皮膜強度を向上するために、架橋性を有していることが好ましい。バインダーポリマーに架橋性を持たせるためには、エチレン性不飽和結合等の架橋性官能基を高分子の主鎖中又は側鎖中に導入すればよい。架橋性官能基は、共重合により導入してもよいし、高分子反応によって導入してもよい。
分子の主鎖中にエチレン性不飽和結合を有するポリマーの例としては、ポリ−1,4−ブタジエン、ポリ−1,4−イソプレン等が挙げられる。
分子の側鎖中にエチレン性不飽和結合を有するポリマーの例としては、アクリル酸又はメタクリル酸のエステル又はアミドのポリマーであって、エステル又はアミドの残基(−COOR又はCONHRのR)の少なくとも一部がエチレン性不飽和結合を有するポリマーを挙げることができる。
エチレン性不飽和結合を有する残基(上記R)の例としては、−(CH2 )n CR1 =CR2 R3 、−(CH2 O)n CH2 CR1 =CR2 R3 、−(CH2 CH2 O)n CH2 CR1 =CR2 R3 、−(CH2 )n NH−CO−O−CH2 CR1 =CR2 R3 、−(CH2 )n −O−CO−CR1 =CR2 R3 及び(CH2 CH2 O)2 −X(式中、R1 〜R3 はそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アルコキシ基もしくはアリールオキシ基を表し、R1 とR2 又はR3 とは互いに結合して環を形成してもよい。nは、1〜10の整数を表す。Xは、ジシクロペンタジエニル残基を表す。)を挙げることができる。
エステル残基の具体例としては、−CH2 CH=CH2 、−CH2 CH2 O−CH2 CH=CH2 、−CH2 C(CH3 )=CH2 、−CH2 CH=CH−C6 H5 、−CH2 CH2 OCOCH=CH−C6 H5 、−CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、−CH2CH2OCOCH=CH2、−CH2 CH2 −NHCOO−CH2 CH=CH2 及びCH2 CH2 O−X(式中、Xはジシクロペンタジエニル残基を表す。)が挙げられる。
アミド残基の具体例としては、−CH2 CH=CH2 、−CH2 CH2 −Y(式中、Yはシクロヘキセン残基を表す。)、−CH2 CH2 −OCO−CH=CH2 が挙げられる。
架橋性を有するバインダーポリマーは、例えば、その架橋性官能基にフリーラジカル(重合開始ラジカル又は重合性化合物の重合過程の生長ラジカル)が付加し、ポリマー間で直接に又は重合性化合物の重合連鎖を介して付加重合して、ポリマー分子間に架橋が形成されて硬化する。又は、ポリマー中の原子(例えば、官能性架橋基に隣接する炭素原子上の水素原子)がフリーラジカルにより引き抜かれてポリマーラジカルが生成し、それが互いに結合することによって、ポリマー分子間に架橋が形成されて硬化する。
バインダーポリマー中の架橋性基の含有量(ヨウ素滴定によるラジカル重合可能な不飽和二重結合の含有量)は、バインダーポリマー1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、より好ましくは1.0〜7.0mmol、最も好ましくは2.0〜5.5mmolである。この範囲で、良好な感度と良好な保存安定性が得られる。
また、画像記録層未露光部の機上現像性向上の観点から、バインダーポリマーは、インキ及び/又湿し水に対する溶解性又は分散性が高いことが好ましい。
インキに対する溶解性又は分散性を向上させるためには、バインダーポリマーは、親油的な方が好ましく、湿し水に対する溶解性又は分散性を向上させるためには、バインダーポリマーは、親水的な方が好ましい。このため、本発明においては、親油的なバインダーポリマーと親水的なバインダーポリマーを併用することも有効である。
親水的なバインダーポリマーとしては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボキシレート基、ヒドロキシエチル基、ポリオキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ポリオキシプロピル基、アミノ基、アミノエチル基、アミノプロピル基、アンモニウム基、アミド基、カルボキシメチル基、スルホン酸基、リン酸基等の親水性基を有するものが好適に挙げられる。
具体例として、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、デンプン誘導体、カルボキシメチルセルロース及びそのナトリウム塩、セルロースアセテート、アルギン酸ナトリウム、酢酸ビニル−マレイン酸コポリマー類、スチレン−マレイン酸コポリマー類、ポリアクリル酸類及びそれらの塩、ポリメタクリル酸類及びそれらの塩、ヒドロキシエチルメタクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシエチルアクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシピロピルメタクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシプロピルアクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシブチルメタクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシブチルアクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ポリエチレングリコール類、ヒドロキシプロピレンポリマー類、ポリビニルアルコール類、加水分解度が60質量%以上、好ましくは80質量%以上である加水分解ポリビニルアセテート、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドのホモポリマー及びコポリマー、メタクリルアミドのホモポリマー及びポリマー、N−メチロールアクリルアミドのホモポリマー及びコポリマー、ポリビニルピロリドン、アルコール可溶性ナイロン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンとエピクロロヒドリンとのポリエーテル等が挙げられる。
バインダーポリマーは、質量平均分子量が5000以上であるのが好ましく、1万〜30万であるのがより好ましく、また、数平均分子量が1000以上であるのが好ましく、2000〜25万であるのがより好ましい。多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜10であるのが好ましい。
上記バインダーポリマーは、ランダムポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマー等のいずれでもよいが、ランダムポリマーであるのが好ましい。
かかるバインダーポリマーは、従来公知の方法により合成することができる。側鎖に架橋性基を有するバインダーポリマーは、ラジカル重合又は高分子反応によって容易に合成できる。
バインダーポリマーは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
バインダーポリマーの含有量は、画像記録層の全固形分に対して、10〜90質量%で
あるのが好ましく、20〜80質量%であるのがより好ましい。この範囲で、良好な画像部の強度と画像形成性が得られる。
また、重合性化合物とバインダーポリマーは、質量比で1/9〜7/3となる量で用いるのが好ましい。
〔画像記録層のその他の成分〕
本発明における画像記録層には、上記(A)〜(D)以外の成分、例えば、界面活性剤、着色剤、焼き出し剤、重合禁止剤(熱重合防止剤)、高級脂肪酸誘導体、可塑剤、無機微粒子、低分子親水性化合物等を含有させることができる。
<界面活性剤>
本発明において、画像記録層には、印刷開始時の機上現像性を促進させるため、および、塗布面状を向上させるために界面活性剤を用いるのが好ましい。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明に用いられるノニオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体が挙げられる。
本発明に用いられるアニオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩、石油スルホン酸塩類、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩類、スチレン/無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、オレフィン/無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類が挙げられる。
本発明に用いられるカチオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体が挙げられる。
本発明に用いられる両性界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、カルボキシベタイン類、アミノカルボン酸類、スルホベタイン類、アミノ硫酸エステル類、イミタゾリン類が挙げられる。
なお、上記界面活性剤の中で、「ポリオキシエチレン」とあるものは、ポリオキシメチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等の「ポリオキシアルキレン」に読み替えることもでき、本発明においては、それらの界面活性剤も用いることができる。
更に好ましい界面活性剤としては、本発明における(D)成分以外にも、分子内にパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系界面活性剤が挙げられる。このようなフッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル等のアニオン型;パーフルオロアルキルベタイン等の両性型;パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン型;パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキル基及び親水性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基、親水性基及び親油性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基を含有するウレタン等のノニオン型が挙げられる。また、特開昭62−170950号、同62−226143号及び同60−168144号の各公報に記載されているフッ素系界面活性剤も好適に挙げられる。
界面活性剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
界面活性剤は、画像記録層に、0.001〜10質量%含有させることが好ましく、0.01〜5質量%含有させることがより好ましい。
<着色剤>
本発明における画像記録層には、可視光域に大きな吸収を持つ染料を画像の着色剤として使用することができる。具体的には、オイルイエロー#101、オイルイエロー#103、オイルピンク#312、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上オリエント化学工業(株)製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、エチルバイオレット、ローダミンB(CI145170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)等、及び特開昭62−293247号公報に記載されている染料を挙げることができる。また、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料も好適に用いることができる。
<焼き出し剤>
本発明における画像記録層には、焼き出し画像生成のため、酸又はラジカルによって変色する化合物を添加することができる。このような化合物としては、例えばジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、チアジン系、オキサジン系、キサンテン系、アンスラキノン系、イミノキノン系、アゾ系、アゾメチン系等の各種色素が有効に用いられる。
具体例としては、ブリリアントグリーン、エチルバイオレット、メチルグリーン、クリスタルバイオレット、ベイシックフクシン、メチルバイオレット2B、キナルジンレッド、ローズベンガル、メタニルイエロー、チモールスルホフタレイン、キシレノールブルー、メチルオレンジ、パラメチルレッド、コンゴーフレッド、ベンゾプルプリン4B、α−ナフチルレッド、ナイルブルー2B、ナイルブルーA、メチルバイオレット、マラカイドグリーン、パラフクシン、ビクトリアピュアブルーBOH[保土ケ谷化学(株)製]、オイルブルー#603[オリエント化学工業(株)製]、オイルピンク#312[オリエント化学工業(株)製]、オイルレッド5B[オリエント化学工業(株)製]、オイルスカーレット#308[オリエント化学工業(株)製]、オイルレッドOG[オリエント化学工業(株)製]、オイルレッドRR[オリエント化学工業(株)製]、オイルグリーン#502[オリエント化学工業(株)製]、スピロンレッドBEHスペシャル[保土ケ谷化学工業(株)製]、m−クレゾールパープル、クレゾールレッド、ローダミンB、ローダミン6G、スルホローダミンB、オーラミン、4−p−ジエチルアミノフェニルイミノナフトキノン、2−カルボキシアニリノ−4−p−ジエチルアミノフェニルイミノナフトキノン、2−カルボキシステアリルアミノ−4−p−N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノ−フェニルイミノナフトキノン、1−フェニル−3−メチル−4−p−ジエチルアミノフェニルイミノ−5−ピラゾロン、1−β−ナフチル−4−p−ジエチルアミノフェニルイミノ−5−ピラゾロン等の染料やp,p',p"−ヘキサメチルトリアミノトリフェニルメタン(ロイコクリスタルバイオレット)、Pergascript Blue SRB(チバガイギー社製)等のロイコ染料が挙げられる。
上記の他に、感熱紙や感圧紙用の素材として知られているロイコ染料も好適なものとして挙げられる。具体例としては、クリスタルバイオレットラクトン、マラカイトグリーンラクトン、ベンゾイルロイコメチレンブルー、2−(N−フェニル−N−メチルアミノ)−6−(N−p−トリル−N−エチル)アミノ−フルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−(N−エチル−p−トルイジノ)フルオラン、3,6−ジメトキシフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−5−メチル−7−(N,N−ジベンジルアミノ)−フルオラン、3−(N−シクロヘキシル−N−メチルアミノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−6−メチル−7−キシリジノフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−6−メチル−7−クロロフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−6−メトキシ−7−アミノフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−7−(4−クロロアニリノ)フルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−7−クロロフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−7−ベンジルアミノフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−7,8−ベンゾフロオラン、3−(N,N−ジブチルアミノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(N,N−ジブチルアミノ)−6−メチル−7−キシリジノフルオラン、3−ピペリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ピロリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3,3−ビス(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−ザフタリド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、などが挙げられる。
酸又はラジカルによって変色する染料は、画像記録層に、0.01〜10質量%の割合で添加することが好ましい。
<熱重合防止剤>
本発明における画像記録層には、画像記録層の製造中又は保存中において(C)重合性化合物の不要な熱重合を防止するために、少量の熱重合防止剤を添加するのが好ましい。
熱重合防止剤としては、例えば、ヒドロキノン、p−メトキシフェノール、ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ピロガロール、t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、4,4′−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩が好適に挙げられる。
熱重合防止剤は、画像記録層に、約0.01〜約5質量%含有させるのが好ましい。
<高級脂肪酸誘導体等>
本発明における画像記録層には、酸素による重合阻害を防止するために、ベヘン酸やベヘン酸アミドのような高級脂肪酸誘導体等を添加して、塗布後の乾燥の過程で画像記録層の表面に偏在させてもよい。高級脂肪酸誘導体の添加量は、画像記録層の全固形分に対して、約0.1〜約10質量%であるのが好ましい。
<可塑剤>
本発明における画像記録層は、機上現像性を向上させるために、可塑剤を含有してもよい。
可塑剤としては、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジオクチルフタレート、オクチルカプリルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジアリルフタレート等のフタル酸エステル類;ジメチルグリコールフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、トリエチレングリコールジカプリル酸エステル等のグリコールエステル類;トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類;ジイソブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルマレエート等の脂肪族二塩基酸エステル類;ポリグリシジルメタクリレート、クエン酸トリエチル、グリセリントリアセチルエステル、ラウリン酸ブチル等が好適に挙げられる。
可塑剤は、画像記録層に、約30質量%以下の割合で含有させることが好ましい。
<無機微粒子>
本発明における画像記録層は、表面粗面化による界面接着性の強化、画像部の硬化皮膜強度向上及び非画像部の機上現像性向上のために、無機微粒子を含有してもよい。
無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、アルギン酸カルシウム又はこれらの混合物が好適に挙げられる。
無機微粒子は、平均粒径が5nm〜10μmであるのが好ましく、0.5μm〜3μmであるのがより好ましい。上記範囲であると、画像記録層中に安定に分散して、画像記録層の膜強度を十分に保持し、印刷時の汚れを生じにくい親水性に優れる非画像部を形成することができる。
上述したような無機微粒子は、コロイダルシリカ分散物等の市販品として容易に入手することができる。
無機微粒子の含有量は、画像記録層の全固形分に対して、20質量%以下であるのが好ましく、10質量%以下であるのがより好ましい。
<低分子親水性化合物>
本発明における画像記録層は、機上現像性向上のため、親水性低分子化合物を含有しても良い。親水性低分子化合物としては、例えば、水溶性有機化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類及びそのエーテル又はエステル誘導体類、グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリヒドロキシ類、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンモノエタノールアミン等の有機アミン類及びその塩、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸類及びその塩、フェニルホスホン酸等の有機ホスホン酸類及びその塩、酒石酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、アミノ酸類等の有機カルボン酸類及びその塩等が上げられる。
〔画像記録層の形成〕
本発明においては、上記の画像記録層構成成分を画像記録層に含有させる方法として、
いくつかの態様を用いることができる。一つは、例えば、特開2002−287334号公報に記載のごとく、該構成成分を適当な溶媒に溶解して塗布する分子分散型画像記録層である。もう一つの態様は、例えば、特開2001−277740号公報、特開2001−277742号公報に記載のごとく、前記(A)〜(D)成分の全て又は一部をマイクロカプセルに内包させて画像記録層に含有させるマイクロカプセル型画像記録層である。さらに。マイクロカプセル型画像記録層において、該構成成分は、マイクロカプセル外にも含有させることもできる。ここで、マイクロカプセル型画像記録層は、疎水性の構成成分をマイクロカプセルに内包し、親水性構成成分をマイクロカプセル外に含有することが好ましい態様である。より良好な機上現像性を得るためには、画像記録層をマイクロカプセル型画像記録層とすることが有利である。
上記の画像記録層構成成分をマイクロカプセル化する方法としては、公知の方法が適用できる。例えばマイクロカプセルの製造方法としては、米国特許第2800457号、同第2800458号明細書にみられるコアセルベーションを利用した方法、米国特許第3287154号の各明細書、特公昭38−19574号、同42−446号の各公報にみられる界面重合法による方法、米国特許第3418250号、同第3660304号明細書にみられるポリマーの析出による方法、米国特許第3796669号明細書に見られるイソシアナートポリオール壁材料を用いる方法、米国特許第3914511号明細書に見られるイソシアナート壁材料を用いる方法、米国特許第4001140号、同第4087376号、同第4089802号の各明細書にみられる尿素―ホルムアルデヒド系又は尿素ホルムアルデヒド−レゾルシノール系壁形成材料を用いる方法、米国特許第4025445号明細書にみられるメラミン−ホルムアルデヒド樹脂、ヒドロキシセルロース等の壁材を用いる方法、特公昭36−9163号、同51−9079号の各公報にみられるモノマー重合によるin situ法、英国特許第930422号、米国特許第3111407号明細書にみられるスプレードライング法、英国特許第952807号、同第967074号の各明細書にみられる電解分散冷却法などがあるが、これらに限定されるものではない。
本発明に用いられる好ましいマイクロカプセル壁は、3次元架橋を有し、溶剤によって膨潤する性質を有するものである。このような観点から、マイクロカプセルの壁材は、ポリウレア、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、及びこれらの混合物が好ましく、特に、ポリウレア及びポリウレタンが好ましい。また、マイクロカプセル壁に、上記バインダーポリマー導入可能なエチレン性不飽和結合等の架橋性官能基を有する化合物を導入してもよい。
このようなマイクロカプセルは、カプセル同士が熱により合体してもよいし、合体しなくともよい。要は、マイクロカプセル内包物のうち、塗布時にマイクロカプセルの表面もしくはマイクロカプセル外に滲み出したもの、又は、マイクロカプセル壁に侵入したものが、熱により化学反応を起せばよい。また、添加された親水性樹脂または添加された低分子化合物と反応してもよい。さらにまた、2種類以上のマイクロカプセルに、それぞれ異なる官能基で互いに熱反応するような官能基をもたせることによって、マイクロカプセル同士を反応させてもよい。したがって、熱によってマイクロカプセル同士が、熱で溶融合体することは画像形成上好ましいことであるが、必須ではない。
マイクロカプセルの画像記録層(画像形成層)への添加量は、固形分換算で、画像記録層固形分の50質量%以上が好ましく、60〜95質量%がより好ましい。この範囲内で、良好な現像性と同時に、良好な感度及び良好な耐刷性が得られる。
上記のマイクロカプセルの平均粒径は、0.01〜3.0μmが好ましい。0.05〜2.0μmがさらに好ましく、0.10〜1.0μmが特に好ましい。この範囲内で良好な解像度と経時安定性が得られる。
本発明の画像記録層にマイクロカプセルを含有させる場合には、内包物が溶解し、かつ壁材が膨潤する溶剤をマイクロカプセル分散媒中に添加することができる。このような溶剤によって、内包された熱反応性官能基を有する化合物の、マイクロカプセル外への拡散が促進される。このような溶剤としては、マイクロカプセル分散媒、マイクロカプセル壁の材質、壁厚及び内包物等に依存するが、市販されている多くの溶剤から容易に選択することができる。たとえば、架橋ポリウレア、ポリウレタン壁からなる水分散性マイクロカプセルの場合、アルコール類、エーテル類、アセタール類、エステル類、ケトン類、多価アルコール類、アミド類、アミン類、脂肪酸類などが好ましい。
上記溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、第3ブタノール、n−プロパノール、テトラヒドロフラン、乳酸メチル、乳酸エチル、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、γーブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどがあるが、これらに限定されない。またこれらの溶剤を2種以上用いてもよい。マイクロカプセル分散液には溶解しないが、前記溶剤を混合すれば溶解する溶剤も用いることができる。
このような溶剤の添加量は、素材の組み合わせにより決まるものであるが、通常、塗布液の5〜95質量%が有効であり好ましい範囲は10〜90質量%、より好ましい範囲は15〜85質量%である。
本発明における画像記録層は、必要な構成成分を上記の態様のいずれかを用いて溶剤に分散、又は溶かして塗布液を調製し、塗布して形成される。ここで使用する溶剤としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、トルエン、水等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。これらの溶剤は、単独又は混合して使用される。塗布液の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
本発明の画像記録層は、同一又は異なる上記各成分を同一又は異なる溶剤に分散、又は溶かした塗布液を複数調製し、複数回の塗布、乾燥を繰り返して形成することも可能である。
画像記録層塗布量(固形分)は、0.3〜1.5g/m2が好ましく、0.5〜1.5g/m2がより好ましい。
塗布する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げられる。
〔オーバーコート層〕
本発明の平版印刷版原版は、画像記録層における傷等の発生防止、酸素遮断、高照度レーザー露光時のアブレーション防止などの目的のために、印刷インキ、湿し水またはこれらの両方により除去可能なオーバーコート層(保護層)を画像記録層上に設けることができる。
本発明においては、通常、露光を大気中で行うが、オーバーコート層は、画像記録層中で露光により生じる画像形成反応を阻害する大気中に存在する酸素、塩基性物質等の低分子化合物の画像記録層への混入を防止し、大気中での露光による画像形成反応の阻害を防
止する。従って、オーバーコート層に望まれる特性は、酸素等の低分子化合物の透過性が低いことであり、更に、露光に用いられる光の透過性が良好で、画像記録層との密着性に優れ、かつ、露光後の機上現像処理工程で容易に除去することができるものであるのが好ましい。このような特性を有するオーバーコート層については、以前より種々検討がなされており、例えば、米国特許第3,458,311号明細書および特開昭55−49729号公報に詳細に記載されている。
オーバーコート層に用いられる材料としては、例えば、比較的、結晶性に優れる水溶性高分子化合物が挙げられる。具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、酸性セルロース類、ゼラチン、アラビアゴム、ポリアクリル酸等の水溶性ポリマーが挙げられる。中でも、ポリビニルアルコール(PVA)を主成分として用いると、酸素遮断性、現像除去性等の基本的な特性に対して最も良好な結果を与える。ポリビニルアルコールは、オーバーコート層に必要な酸素遮断性と水溶性を与えるための未置換ビニルアルコール単位を含有する限り、一部がエステル、エーテルまたはアセタールで置換されていてもよく、一部が他の共重合成分を有していてもよい。
ポリビニルアルコールの具体例としては、71〜100%加水分解された重合度300〜2400の範囲のものが好適に挙げられる。具体的には、例えば、(株)クラレ製のPVA−105、PVA−110、PVA−117、PVA−117H、PVA−120、PVA−124、PVA−124H、PVA−CS、PVA−CST、PVA−HC、PVA−203、PVA−204、PVA−205、PVA−210、PVA−217、PVA−220、PVA−224、PVA−217EE、PVA−217E、PVA−220E、PVA−224E、PVA−405、PVA−420、PVA−613、L−8が挙げられる。
オーバーコート層の成分(PVAの選択、添加剤の使用等)、塗布量等は、酸素遮断性および現像除去性のほか、カブリ性、密着性、耐傷性等を考慮して適宜選択される。一般には、PVAの加水分解率が高いほど(即ち、オーバーコート層中の未置換ビニルアルコール単位含有率が高いほど)、また、膜厚が厚いほど、酸素遮断性が高くなり、感度の点で好ましい。また、製造時および保存時の不要な重合反応の発生、画像露光時の不要なカブリ、画線の太り等を防止するためには、酸素透過性が高くなりすぎないことが好ましい。従って、25℃、1気圧下における酸素透過性Aが0.2≦A≦20(cc/m2・day)であることが好ましい。
オーバーコート層の他の組成物として、グリセリン、ジプロピレングリコール等を(共)重合体に対して数質量%相当量添加して可撓性を付与することができ、また、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤;アルキルアミノカルボン酸塩、アルキルアミノジカルボン酸塩等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の非イオン界面活性剤を(共)重合体に対して数質量%添加することができる。
また、オーバーコート層の画像記録層との密着性、耐傷性等も平版印刷版原版の取り扱い上、極めて重要である。即ち、水溶性高分子化合物を含有するため親水性であるオーバーコート層を、親油性である画像記録層に積層すると、接着力不足によるオーバーコート層のはく離が生じやすく、はく離部分において、酸素による重合阻害に起因する膜硬化不良等の欠陥を引き起こすことがある。
これに対して、画像記録層とオーバーコート層との間の接着性を改良すべく、種々の提案がなされている。例えば、特開昭49−70702号公報および英国特許出願公開第1303578号明細書には、主にポリビニルアルコールからなる親水性ポリマー中に、アクリル系エマルション、水不溶性ビニルピロリドン−ビニルアセテート共重合体等を20〜60質量%混合させ、画像記録層上に積層することにより、十分な接着性が得られることが記載されている。本発明においては、これらの公知の技術をいずれも用いることができる。オーバーコート層の塗布方法については、例えば、米国特許第3,458,311号明細書および特開昭55−49729号公報に詳細に記載されている。
更に、オーバーコート層には、他の機能を付与することもできる。例えば、露光に用いられる赤外線の透過性に優れ、かつ、それ以外の波長の光を効率よく吸収しうる、着色剤(例えば、水溶性染料)の添加により、感度低下を引き起こすことなく、セーフライト適性を向上させることができる。
上記オーバーコート層の膜厚は、0.1〜5μmが適当であり、特に0.2〜2μmが好適である。
次に、本発明に使用されるアルミニウム板について説明する。
<アルミニウム板(圧延アルミ)>
本発明の平版印刷版原版に用いられるアルミニウム板は、寸度的に安定なアルミニウムを主成分とする金属であり、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。 純アルミニウム板のほか、アルミニウムを主成分とし微量の異元素を含む合金板や、アルミニウムまたはアルミニウム合金がラミネートされまたは蒸着されたプラスチックフィルムまたは紙を用いることもできる。更に、特公昭48−18327号公報に記載されているようなポリエチレンテレフタレートフィルム上にアルミニウムシートが結合された複合体シートを用いることもできる。
本発明に用いられるアルミニウム板は、特に限定されないが、純アルミニウム板を用いるのが好適である。完全に純粋なアルミニウムは精練技術上、製造が困難であるので、わずかに異元素を含有するものを用いてもよい。例えば、アルミニウムハンドブック第4版(軽金属協会(1990))に記載の公知の素材のもの、具体的には、JIS1050材、JIS1100材、JIS3003材、JIS3103材、JIS3005材等を用いることができる。また、アルミニウム(Al)の含有率が99.4〜95質量%であって、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、およびチタン(Ti)のうち少なくとも5種以上を後述する範囲内で含む、アルミニウム合金、スクラップアルミ材または二次地金を使用したアルミニウム板を使用することもできる。
また、本発明においては、コスト削減効果のある、Alの含有率が95〜99.4質量%のアルミニウム板を用いることもできる。Alの含有率が99.4質量%を超えると、不純物の許容量が少なくなるため、コスト削減効果が減少してしまう場合がある。また、Alの含有率が95質量%未満であると不純物を多く含むこととなり圧延中に割れ等の不具合が発生してしまう場合がある。より好ましいAlの含有率は95〜99質量%であり、特に好ましくは95〜97質量%である。
Feの含有率は0.3〜1.0質量%であるのが好ましい。Feは新地金においても0.1〜0.2質量%前後含有される元素で、Al中に固溶する量は少なく、ほとんどが金属間化合物として残存する。Feの含有率が1.0質量%を超えると圧延途中に割れが発生しやすくなり、0.3質量%未満であるとコスト削減効果が減少するため好ましくない。より好ましいFeの含有率は0.5〜1.0質量%である。
Siの含有率は0.15〜1.0質量%であるのが好ましい。SiはJIS2000系、4000系、6000系材料のスクラップに多く含まれる元素である。また、Siは新地金においても0.03〜0.1質量%前後含有される元素であり、Al中に固溶した状態で、または、金属間化合物として存在する。アルミニウム板が支持体の製造過程で加熱されると、固溶していたSiが単体Siとして析出することがある。単体SiとFeSi系の金属間化合物は耐苛酷インキ汚れ性に悪影響を与えることが知られている。ここで、「苛酷インキ汚れ」とは、印刷を何度も中断しつつ行った場合に、平版印刷版の非画像部表面部分にインキが付着しやすくなった結果、印刷された紙等に表れる点状または円環状の汚れをいう。Siの含有率が1.0質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理(デスマット処理)でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.15質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいSiの含有率は0.3〜1.0質量%である。
Cuの含有率は0.1〜1.0質量%であるのが好ましい。CuはJIS2000系、4000系材料のスクラップに多く含まれる元素である。Cuは比較的Alに中に固溶しやすい。Cuの含有率が1.0質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.1質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいCuの含有率は0.3〜1.0質量%である。
Mgの含有率は0.1〜1.5質量%であるのが好ましい。MgはJIS2000系、3000系、5000系、7000系材料のスクラップに多く含まれる元素である。特にcan end材に多く含まれるため、スクラップ材に含まれる主要な不純物金属の一つである。Mgは比較的Al中に固溶しやすく、Siと金属間化合物を形成する。Mgの含有率が1.5質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.1質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいMgの含有率は0.5〜1.5質量%であり、更に好ましくは1.0〜1.5質量%である。
Mnの含有率は0.1〜1.5質量%であるのが好ましい。MnはJIS3000系材料のスクラップに多く含まれる元素である。Mnは特にcan body材に多く含まれるため、スクラップ材に含まれる主要な不純物金属の一つである。Mnは比較的Al中に固溶しやすく、Al、FeおよびSiと金属間化合物を形成する。Mnの含有率が1.5質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.1質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいMnの含有率は0.5〜1.5質量%であり、更に好ましくは1.0〜1.5質量%である。
Znの含有率は0.1〜0.5質量%であるのが好ましい。Znは特にJIS7000系のスクラップに多く含まれる元素である。Znは比較的Al中に固溶しやすい。Znの含有率が0.5質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.1質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいZnの含有率は0.3〜0.5質量%である。
Crの含有率は0.01〜0.1質量%であるのが好ましい。CrはJISA5000系、同6000系、同7000系のスクラップに少量含まれる不純物金属である。Crの含有率が0.1質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.01質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。 より好ましいCrの含有率は0.05〜0.1質量%である。
Tiの含有率は0.03〜0.5質量%であるのが好ましい。Tiは通常結晶微細化材として0.01〜0.04質量%添加される元素である。JIS5000系、6000系、7000系のスクラップには不純物金属として比較的多めに含まれる。Tiの含有率が0.5質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.03質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいTiの含有率は0.05〜0.5質量%である。
本発明に用いられるアルミニウム板は、上記原材料を用いて常法で鋳造したものに、適宜圧延処理や熱処理を施し、厚さを例えば、0.1〜0.7mmとし、必要に応じて平面性矯正処理を施して製造される。この厚さは、印刷機の大きさ、印刷版の大きさおよびユーザーの希望により、適宜変更することができる。なお、上記アルミニウム板の製造方法としては、例えば、DC鋳造法、DC鋳造法から均熱処理および/または焼鈍処理を省略した方法、ならびに、連続鋳造法を用いることができる。
本発明の平版印刷版原版に用いられるアルミニウム支持体は、上記アルミニウム板に陽極酸化処理を施して得られるが、その製造工程には、陽極酸化処理以外の各種の工程が含まれていてもよい。
上記アルミニウム板は、付着している圧延油を除く脱脂工程、アルミニウム板の表面のスマットを溶解するデスマット処理工程、アルミニウム板の表面を粗面化する粗面化処理工程、アルミニウム板の表面を酸化皮膜で覆う陽極酸化処理工程を経て支持体が形成されるのが好ましい。本発明に用いられるアルミニウム支持体の製造工程は、酸性水溶液中で交流電流を用いてアルミニウム板を電気化学的に粗面化する粗面化処理(電気化学的粗面化処理)を含むのが好ましい。また、本発明に用いられるアルミニウム支持体の製造工程は、上記電気化学的粗面化処理の他に、機械的粗面化処理、酸またはアルカリ水溶液中での化学的エッチング処理等を組み合わせたアルミニウム板の表面処理工程を含んでもよい。本発明に用いられるアルミニウム支持体の粗面化処理等の製造工程は、連続法でも断続法でもよいが、工業的には連続法を用いるのが好ましい。本発明においては、更に、必要に応じて、ポアワイド処理(酸処理またはアルカリ処理)、無機フッ素化合物とケイ酸化合物とを含む水溶液での処理、親水性表面処理が行われる。更に、必要に応じて、下塗層を設けてもよい。
<粗面化処理(砂目立て処理)>
まず、粗面化処理について説明する。上記アルミニウム板は、より好ましい形状に砂目立て処理される。砂目立て処理方法は、特開昭56−28893号公報に記載されているような機械的砂目立て(機械的粗面化処理)、化学的エッチング、電解グレイン等がある。更に、塩酸電解液中または硝酸電解液中で電気化学的に砂目立てする電気化学的砂目立て法(電気化学的粗面化処理、電解粗面化処理)や、アルミニウム表面を金属ワイヤーでひっかくワイヤーブラシグレイン法、研磨球と研磨剤でアルミニウム表面を砂目立てするボールグレイン法、ナイロンブラシと研磨剤で表面を砂目立てするブラシグレイン法等の機械的砂目立て法(機械的粗面化処理)を用いることができる。これらの砂目立て法は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。例えば、ナイロンブラシと研磨剤とによる機械的粗面化処理と、塩酸電解液または硝酸電解液による電解粗面化処理との組み合わせや、複数の電解粗面化処理の組み合わせが挙げられる。中でも、電気化学的粗面化処理が好ましい。また、機械的粗面化処理と電気化学的粗面化処理とを組み合わせて行うのも好ましく、特に、機械的粗面化処理の後に電気化学的粗面化処理を行うのが好ましい。
機械的粗面化処理は、ブラシ等を使用してアルミニウム板表面を機械的に粗面化する処理であり、上述した電気化学的粗面化処理の前に行われるのが好ましい。好適な機械的粗面化処理においては、毛径が0.07〜0.57mmである回転するナイロンブラシロールと、アルミニウム板表面に供給される研磨剤のスラリー液とで処理する。
ナイロンブラシは吸水率が低いものが好ましく、例えば、東レ社製のナイロンブリッスル200T(6,10−ナイロン、軟化点:180℃、融点:212〜214℃、比重:1.08〜1.09、水分率:20℃・相対湿度65%において1.4〜1.8、20℃・相対湿度100%において2.2〜2.8、乾引っ張り強度:4.5〜6g/d、乾引っ張り伸度:20〜35%、沸騰水収縮率:1〜4%、乾引っ張り抵抗度:39〜45g/d、ヤング率(乾):380〜440kg/mm2 )が好ましい。
研磨剤としては公知のものを用いることができるが、特開平6−135175号公報および特公昭50−40047号公報に記載されているケイ砂、石英、水酸化アルミニウム、またはこれらの混合物を用いるのが好ましい。
スラリー液としては、比重が1.05〜1.3の範囲内にあるものが好ましい。スラリー液をアルミニウム板表面に供給する方法としては、例えば、スラリー液を吹き付ける方法、ワイヤーブラシを用いる方法、凹凸を付けた圧延ロールの表面形状をアルミニウム板に転写する方法が挙げられる。また、特開昭55−074898号公報、同61−162351号公報、同63−104889号公報に記載されている方法を用いてもよい。更に、特表平9−509108号公報に記載されているように、アルミナおよび石英からなる粒子の混合物を95:5〜5:95の範囲の質量比で含んでなる水性スラリー中で、アルミニウム板表面をブラシ研磨する方法を用いることもできる。このときの上記混合物の平均粒子径は、1〜40μm、特に1〜20μmの範囲内であるのが好ましい。
電気化学的粗面化処理は、酸性水溶液中で、アルミニウム板を電極として交流電流を通じ、該アルミニウム板の表面を電気化学的に粗面化する工程であり、後述の機械的粗面化処理とは異なる。本発明においては、上記電気化学的粗面化処理において、アルミニウム板が陰極となるときにおける電気量、即ち、陰極時電気量QC と、陽極となるときにおける電気量、即ち、陽極時電気量QA との比QC /QA を、例えば、0.5〜2.0の範囲内とすることで、アルミニウム板の表面に均一なハニカムピットを生成することができる。QC /QA が0.50未満であると、不均一なハニカムピットとなりやすく、また、2.0を超えても、不均一なハニカムピットとなりやすい。QC /QA は、0.8〜1.5の範囲内とするのが好ましい。
電気化学的粗面化処理に用いられる交流電流の波形としては、正弦波(サイン波)、矩形波、三角波、台形波等が挙げられる。中でも、矩形波または台形波が好ましい。また、交流電流の周波数は、電源装置を製作するコストの観点から、30〜200Hzであるのが好ましく、40〜120Hzであるのがより好ましい。本発明に好適に用いられる台形波の一例に図2に示す。図2において、縦軸は電流値、横軸は時間を示す。また、taはアノード反応時間、tcはカソード反応時間、tpは電流値がゼロからカソードサイクル側のピークに達するまでの時間、tp´は電流値がゼロからアノードサイクル側のピークに達するまでの時間、Iaはアノードサイクル側のピーク時の電流、Icはカソードサイクル側のピーク時の電流を示す。交流電流の波形として台形波を用いる場合、電流がゼロからピークに達するまでの時間tpおよびtp´はそれぞれ0.1〜2msecであるのが好ましく、0.3〜1.5msecであるのがより好ましい。tpおよびtp´が0.1msec未満であると、電源回路のインピーダンスが影響し、電流波形の立ち上がり時に大きな電源電圧が必要となり、電源の設備コストが高くなる場合がある。また、tpおよびtp´が2msecを超えると、酸性水溶液中の微量成分の影響が大きくなり、均一な粗面化処理が行われにくくなる場合がある。
また、電気化学的粗面化処理に用いられる交流電流のdutyは、アルミニウム板表面を均一に粗面化する点から0.25〜0.5の範囲内とするのが好ましく、0.3〜0.4の範囲内とするのがより好ましい。本発明でいうdutyとは、交流電流の周期Tにおいて、アルミニウム板の陽極反応が持続している時間(アノード反応時間)をtaとしたときのta/Tをいう。特に、カソード反応時のアルミニウム板表面には、水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分の生成に加え、酸化皮膜の溶解や破壊が発生し、次のアルミニウム板のアノード反応時におけるピッティング反応の開始点となるため、交流電流のdutyの選択は均一な粗面化に与える効果が大きい。
交流電流の電流密度は、台形波または矩形波の場合、アノードサイクル側のピーク時の電流密度Iapおよびカソードサイクル側のピーク時の電流密度Icpがそれぞれ10〜200A/dm2 となるのが好ましい。また、Icp/Iapは、0.9〜1.5の範囲内にあるのが好ましい。電気化学的粗面化処理において、電気化学的粗面化処理が終了した時点でのアルミニウム板のアノード反応に用いた電気量の総和は、50〜1000C/dm2 であるのが好ましい。電気化学的粗面化処理の時間は、1秒〜30分であるのが好ましい。
電気化学的粗面化処理に用いられる酸性水溶液としては、通常の直流電流または交流電流を用いた電機化学的粗面化処理に用いるものを用いることができ、その中でも硝酸を主体とする酸性水溶液または塩酸を主体とする酸性水溶液を用いることが好ましい。ここで、「主体とする」とは、水溶液中に主体となる成分が、成分全体に対して、30質量%以上、好ましくは50質量%以上含まれていることをいう。以下、他の成分においても同様である。
硝酸を主体とする酸性水溶液としては、上述したように、通常の直流電流または交流電流を用いた電気化学的粗面化処理に用いるものを用いることができる。例えば、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸化合物のうち一つ以上を、0.01g/Lから飽和に達するまでの濃度で、硝酸濃度5〜15g/Lの硝酸水溶液に添加して使用することができる。硝酸を主体とする酸性水溶液中には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、ケイ素等のアルミニウム合金中に含まれる金属等が溶解されていてもよい。
硝酸を主体とする酸性水溶液としては、中でも、硝酸と、アルミニウム塩と、硝酸塩とを含有し、かつ、アルミニウムイオンが1〜15g/L、好ましくは1〜10g/L、アンモニウムイオンが10〜300ppmとなるように、硝酸濃度5〜15g/Lの硝酸水溶液中に硝酸アルミニウムおよび硝酸アンモニウムを添加して得られたものを用いることが好ましい。なお、上記アルミニウムイオンおよびアンモニウムイオンは、電気化学的粗面化処理を行っている間に自然発生的に増加していくものである。また、この際の液温は10〜95℃であるのが好ましく、20〜90℃であるのがより好ましく、40〜80℃であるのが特に好ましい。
電気化学的粗面化処理においては、縦型、フラット型、ラジアル型等の公知の電解装置を用いることができるが、特開平5−195300号公報に記載されているようなラジアル型電解装置が特に好ましい。図3は、本発明に好適に用いられるラジアル型電解装置の概略図である。図3において、ラジアル型電解装置は、アルミニウム板11が主電解槽21中に配置されたラジアルドラムローラ12に巻装され、搬送過程で交流電源20に接続された主極13aおよび13bによって電解処理される。酸性水溶液14は、溶液供給口15からスリット16を通じてラジアルドラムローラ12と主極13aおよび13bとの間にある溶液通路17に供給される。ついで、主電解槽21で処理されたアルミニウム板11は、補助陽極槽22で電解処理される。この補助陽極槽22には補助陽極18がアルミニウム板11と対向配置されており、酸性水溶液14は、補助陽極18とアルミニウム板11との間を流れるように供給される。なお、補助電極に流す電流は、サイリスタ19aおよび19bにより制御される。
主極13aおよび13bは、カーボン、白金、チタン、ニオブ、ジルコニウム、ステンレス、燃料電池用陰極に用いる電極等から選定することができるが、カーボンが特に好ましい。カーボンとしては、一般に市販されている化学装置用不浸透性黒鉛や、樹脂含芯黒
鉛等を用いることができる。補助陽極18は、フェライト、酸化イリジウム、白金、または、白金をチタン、ニオブ、ジルコニウム等のバルブ金属にクラッドもしくはメッキしたもの等公知の酸素発生用電極から選定することができる。
主電解槽21および補助陽極槽22内を通過する酸性水溶液の供給方向はアルミニウム板11の進行とパラレルでもカウンターでもよい。アルミニウム板に対する酸性水溶液の相対流速は、10〜1000cm/secであるのが好ましい。一つの電解装置には1個以上の交流電源を接続することができる。また、2個以上の電解装置を使用してもよく、各装置における電解条件は同一であってもよいし異なっていてもよい。また、電解処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち出さないためにニップローラによる液切りとスプレーによる水洗とを行うのが好ましい。
上記電解装置を用いる場合においては、電解装置中のアルミニウム板がアノード反応する酸性水溶液の通電量に比例して、例えば、(i)酸性水溶液の導電率と(ii)超音波の伝搬速度と(iii)温度とから求めた硝酸およびアルミニウムイオン濃度をもとに、硝酸と水の添加量を調節しながら添加し、硝酸と水の添加容積と同量の酸性水溶液を逐次電解装置からオーバーフローさせて排出することで、上記酸性水溶液の濃度を一定に保つのが好ましい。
つぎに、酸性水溶液中またはアルカリ水溶液中での化学的エッチング処理、デスマット処理等の表面処理について順を追って説明する。上記表面処理は、それぞれ上記電気化学的粗面化処理の前、または、上記電気化学的粗面化処理の後であって後述する陽極酸化処理の前において行われる。ただし、以下の各表面処理の説明は例示であり、本発明は、以下の各表面処理の内容に限定されるものではない。また、上記表面処理を初めとする以下の各処理は任意で施される。
<アルカリエッチング処理>
アルカリエッチング処理は、アルカリ水溶液中でアルミニウム板表面を化学的にエッチングする処理であり、上記電気化学的粗面化処理の前と後のそれぞれにおいて行うのが好ましい。また、電気化学的粗面化処理の前に機械的粗面化処理を行う場合には、機械的粗面化処理の後に行うのが好ましい。アルカリエッチング処理は、短時間で微細構造を破壊することができるので、後述する酸性エッチング処理よりも有利である。アルカリエッチング処理に用いられるアルカリ水溶液としては、カセイソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、メタケイ酸ソーダ、リン酸ソーダ、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の1種または2種以上を含有する水溶液が挙げられる。特に、水酸化ナトリウム(カセイソーダ)を主体とする水溶液が好ましい。アルカリ水溶液は、アルミニウムはもちろん、アルミニウム板中に含有される合金成分を0.5〜10質量%を含有していてもよい。アルカリ水溶液の濃度は、1〜50質量%であるのが好ましく、1〜30質量%であるのがより好ましい。
アルカリエッチング処理は、アルカリ水溶液の液温を20〜100℃、好ましくは40〜80℃の間とし、1〜120秒間、好ましくは2〜60秒間処理することにより行うのが好ましい。アルミニウムの溶解量は、機械的粗面化処理の後に行う場合は5〜20g/m2 であるのが好ましく、電気化学的粗面化処理の後に行う場合は0.01〜20g/m2 であるのが好ましい。最初にアルカリ水溶液中で化学的なエッチング液をミキシングするときには、液体水酸化ナトリウム(カセイソーダ)とアルミン酸ナトリウム(アルミン酸ソーダ)とを用いて処理液を調製することが好ましい。また、アルカリエッチング処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち出さないために、ニップローラによる液切りとスプレーによる水洗とを行うのが好ましい。
アルカリエッチング処理を電気化学的粗面化処理の後に行う場合、電気化学的粗面化処理により生じたスマットを除去することができる。このようなアルカリエッチング処理としては、例えば、特開昭53−12739号公報に記載されているような50〜90℃の温度の15〜65質量%の硫酸と接触させる方法および特公昭48−28123号公報に記載されているアルカリエッチングする方法が好適に挙げられる。
<酸性エッチング処理>
酸性エッチング処理は、酸性水溶液中でアルミニウム板を化学的にエッチングする処理であり、上記電気化学的粗面化処理の後に行うのが好ましい。また、上記電気化学的粗面化処理の前および/または後に上記アルカリエッチング処理を行う場合は、アルカリエッチング処理の後に酸性エッチング処理を行うのも好ましい。アルミニウム板に上記アルカリエッチング処理を施した後に、上記酸性エッチング処理を施すと、アルミニウム板表面のシリカを含む金属間化合物または単体Siを除去することができ、その後の陽極酸化処理において生成する陽極酸化皮膜の欠陥をなくすことができる。その結果、印刷時にチリ状汚れと称される非画像部に点状のインクが付着するトラブルを防止することができる。
酸性エッチング処理に用いられる酸性水溶液としては、リン酸、硝酸、硫酸、クロム酸、塩酸、またはこれらの2種以上の混酸を含有する水溶液が挙げられる。中でも、硫酸水溶液が好ましい。酸性水溶液の濃度は、50〜500g/Lであるのが好ましい。酸性水溶液は、アルミニウムはもちろん、アルミニウム板中に含有される合金成分を含有していてもよい。
酸性エッチング処理は、液温を60〜90℃、好ましくは70〜80℃とし、1〜10秒間処理することにより行うのが好ましい。このときのアルミニウム板の溶解量は0.001〜0.2g/m2 であるのが好ましい。また、酸濃度、例えば、硫酸濃度とアルミニウムイオン濃度は、常温で晶出しない範囲から選択することが好ましい。好ましいアルミニウムイオン濃度は0.1〜50g/Lであり、特に好ましくは5〜15g/Lである。また、酸性エッチング処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち出さないために、ニップローラによる液切りとスプレーによる水洗とを行うのが好ましい。
<デスマット処理>
上記電気化学的粗面化処理の前および/または後に上記アルカリエッチング処理を行う場合は、アルカリエッチング処理により、一般にアルミニウム板の表面にスマットが生成するので、リン酸、硝酸、硫酸、クロム酸、塩酸、フッ酸、ホウフッ化水素酸、またはこれらの2種以上の混酸を含有する酸性溶液中で上記スマットを溶解する、いわゆるデスマット処理をアルカリエッチング処理の後に行うのが好ましい。なお、アルカリエッチング処理の後には、酸性エッチング処理およびデスマット処理のうち、いずれか一方を行えば十分である。
酸性溶液の濃度は、1〜500g/Lであるのが好ましい。酸性溶液中にはアルミニウムはもちろん、アルミニウム板中に含有される合金成分が0.001〜50g/L溶解していてもよい。酸性溶液の液温は、20℃〜95℃であるのが好ましく、30〜70℃であるのがより好ましい。また、処理時間は1〜120秒であるのが好ましく、2〜60秒であるのがより好ましい。また、デスマット処理液(酸性溶液)としては、上記電気化学的粗面化処理で用いた酸性水溶液の廃液を用いるのが、廃液量削減の上で好ましい。デスマット処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち出さないためにニップローラによる液切りとスプレーによる水洗とを行うのが好ましい。
これらの表面処理の組み合わせとして、好ましい態様を以下に示す。まず、機械的粗面化処理および/またはアルカリエッチング処理を行い、その後、デスマット処理を行う。
つぎに、電気化学的粗面化処理を行い、その後、酸性エッチング処理、アルカリエッチング処理およびそれに引き続くデスマット処理、アルカリエッチング処理およびそれに引き続く酸性エッチング処理のいずれかを行う。
<陽極酸化処理>
以上のようにして必要に応じて各処理を施されたアルミニウム板に、陽極酸化処理を施す。陽極酸化処理はこの分野で従来行われている方法で行うことができる。具体的には、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸等の単独のまたは2種以上を組み合わせた水溶液または非水溶液の中で、アルミニウム板に直流または交流を流すと、アルミニウム板の表面に、陽極酸化皮膜を形成することができる。陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度0.5〜60A/dm2 、電圧1〜200V、電解時間1〜1000秒であるのが適当である。これらの陽極酸化処理の中でも、英国特許第1,412,768号明細書に記載されている、硫酸電解液中で高電流密度で陽極酸化処理する方法、および、米国特許第3,511,661号明細書に記載されている、リン酸を電解浴として陽極酸化処理する方法が好ましい。また、硫酸中で陽極酸化処理し、更にリン酸中で陽極酸化処理するなどの多段陽極酸化処理を施すこともできる。
本発明においては、陽極酸化皮膜は、傷付きにくさおよび耐刷性の点で、1.0g/m2 以上であるのが好ましく、2.0g/m2 以上であるのがより好ましく、3.0g/m2 以上であるのが特に好ましく、また、厚い皮膜を設けるためには多大なエネルギーを必要とすることを鑑みると、100g/m2 以下であるのが好ましく、40g/m2 以下であるのがより好ましく、20g/m2 以下であるのが特に好ましい。
陽極酸化皮膜には、その表面にマイクロポアと呼ばれる微細な凹部が一様に分布して形成されている。陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアの密度は、処理条件を適宜選択することによって調整することができる。
本発明においては、陽極酸化皮膜の空隙率が、20〜70%であるのが好ましく、30〜60%であるのがより好ましく、40〜50%であるのが特に好ましい。陽極酸化皮膜の空隙率が20%以上であると、アルミニウム支持体への熱拡散の抑制が十分となり、高感度化の効果が十分に得られる。陽極酸化皮膜の空隙率が70%以下であると、非画像部に汚れが発生する問題がより起こりにくくなる。
<ポアワイド処理>
本発明においては、陽極酸化皮膜の空隙率を好適範囲に調整し、熱伝導率を下げる目的で、陽極酸化処理の後、マイクロポアのポア径を拡げるポアワイド処理を行うことが好ましい。このポアワイド処理は、陽極酸化皮膜が形成されたアルミニウム基板を酸水溶液またはアルカリ水溶液に浸せきすることにより、陽極酸化皮膜を溶解し、マイクロポアのポア径を拡大するものである。ポアワイド処理は、陽極酸化皮膜の溶解量が、好ましくは0.01〜20g/m2 、より好ましくは0.1〜5g/m2 、特に好ましくは0.2〜4g/m2 となる範囲で行われる。
ポアワイド処理に酸水溶液を用いる場合は、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の無機酸またはこれらの混合物の水溶液を用いることが好ましい。酸水溶液の濃度は10〜1000g/Lであるのが好ましく、20〜500g/Lであるのがより好ましい。酸水溶液の温度は、10〜90℃であるのが好ましく、30〜70℃であるのがより好ましい。酸水溶液への浸せき時間は、1〜300秒であるのが好ましく、2〜100秒であるのがより好ましい。一方、ポアワイド処理にアルカリ水溶液を用いる場合は、水酸化ナトリウム、水酸
化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも一つのアルカリの水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液のpHは、10〜13であるのが好ましく、11.5〜13.0であるのがより好ましい。アルカリ水溶液の温度は、10〜90℃であるのが好ましく、30〜50℃であるのがより好ましい。アルカリ水溶液への浸せき時間は、1〜500秒であるのが好ましく、2〜100秒であるのがより好ましい。
<封孔処理>
本発明においては、上述したようにして陽極酸化皮膜を設けて得られたアルミニウム支持体に封孔処理を行ってもよい。封孔処理皮膜は、例えば、電着封孔処理をした場合にはポアの底部から形成され、また、水蒸気封孔処理をした場合にはポアの上部から形成され、封孔処理の仕方によって封孔処理皮膜の形成され方は異なる。本発明に好適な封孔処理の形成は陽極酸化皮膜内部を封孔せず、表層のマイクロポアのみを封孔する封孔処理である。本発明に用いられる封孔処理としては、特開平4−176690号公報および特願平10−106819号明細書(特開平11−301135号公報)に記載の加圧水蒸気や熱水による陽極酸化皮膜の封孔処理が挙げられる。また、ケイ酸塩処理、重クロム酸塩水溶液処理、亜硝酸塩処理、酢酸アンモニウム塩処理、電着封孔処理、トリエタノールアミン処理、炭酸バリウム塩処理、極微量のリン酸塩を含む熱水処理等の公知の方法を用いて行うこともできる。中でも本発明に好適な封孔処理は、特願2001−9871号明細書に記載の微粒子による封孔処理である。微粒子による封孔処理は平均粒径8〜800nm、好ましくは平均粒径10〜500nm、より好ましくは平均粒径10〜150nmの粒子からなる粒子層が設けられる。粒子の平均粒径が8nm以上であると、陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアの内部に粒子が入り込んでしまうおそれが少なく、高感度化の効果が十分に得られる。粒子の平均粒径が800nm以下であると、感熱層との密着性が十分となり、耐刷性が優れたものとなる。粒子層の厚さは、8〜800nmであるのが好ましく、10〜500nmであるのがより好ましい。
本発明に用いられる粒子は、熱伝導率が60W/(m・K)以下であるのが好ましく、40W/(m・K)以下であるのがより好ましく、0.3〜10W/(m・K)以下であるのが特に好ましい。熱伝導率が60W/(m・K)以下であると、アルミニウム支持体への熱拡散の抑制が十分となり、高感度化の効果が十分に得られる。
粒子層を設ける方法は、特に限定されないが、アルミニウム支持体を平均粒径8〜800nmの親水性粒子を含有する電解液を用い、直流または交流を用いて電解処理する方法が好ましい。上記電解処理に用いられる交流電流の波形としては、サイン波、矩形波、三角波、台形波等が挙げられる。また、交流電流の周波数は、電源装置を製作するコストの観点から、30〜200Hzであるのが好ましく、40〜120Hzであるのがより好ましい。交流電流の波形として台形波を用いる場合、電流が0からピークに達するまでの時間tpはそれぞれ0.1〜2msecであるのが好ましく、0.3〜1.5msecであるのがより好ましい。上記tpが0.1msec未満であると、電源回路のインピーダンスが影響し、電流波形の立ち上がり時に大きな電源電圧が必要となり、電源の設備コストが高くなる場合がある。親水性粒子としては、Al2 O3 、TiO2 、SiO2 およびZrO2 を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いるのが好ましい。電解液は、例えば、前記親水性粒子を含有量が全体の0.01〜20質量%となるように、水等に懸濁させて得られる。電解液は、電荷をプラスまたはマイナスに帯電させるために、例えば、硫酸を添加するなどして、pHを調整することもできる。電解処理は、例えば、直流を用い、アルミニウム支持体を陰極として、上記電解液を用い、電圧10〜200Vで1〜600秒間の条件で行う。この方法によれば、容易に、陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアの内部に空隙を残しつつ、その口をふさぐことができる。封孔方法にはそのほかにも、溶液による浸せき処理、スプレー処理、コーティング処理、蒸着処理、スバッタリング、イオンプレーティング、溶射、鍍金等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
具体的処理方法として、例えば、特開昭60−149491号公報に記載されている、少なくとも1個のアミノ基と、カルボキシル基およびその塩の基ならびにスルホ基およびその塩の基からなる群から選ばれた少なくとも1個の基とを有する化合物からなる層、特開昭60−232998号公報に記載されている、少なくとも1個のアミノ基と少なくとも1個のヒドロキシ基を有する化合物およびその塩から選ばれた化合物からなる層、特開昭62−19494号公報に記載されているリン酸塩を含む層、特開昭59−101651号公報に記載されているスルホ基を有するモノマー単位の少なくとも1種を繰り返し単位として分子中に有する高分子化合物からなる層等をコーティングによって設ける方法が挙げられる。
また、カルボキシメチルセルロース;デキストリン;アラビアガム;2−アミノエチルホスホン酸等のアミノ基を有するホスホン酸類;置換基を有していてもよいフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アルキルホスホン酸、グリセロホスホン酸、メチレンジホスホン酸、エチレンジホスホン酸等の有機ホスホン酸;置換基を有していてもよいフェニルリン酸、ナフチルリン酸、アルキルリン酸、グリセロリン酸等の有機リン酸エステル;置換基を有していてもよいフェニルホスフィン酸、ナフチルホスフィン酸、アルキルホスフィン酸、グリセロホスフィン酸などの有機ホスフィン酸;グリシン、β−アラニン等のアミノ酸類;トリエタノールアミンの塩酸塩等のヒドロキシ基を有するアミンの塩酸塩等から選ばれる化合物の層を設ける方法も挙げられる。
封孔処理には、不飽和基を有するシランカップリング剤を塗設処理してもよい。シランカップリング剤としては、例えば、N−3−(アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、3−(N−アリルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、アリルジメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3−ブテニルトリエトキシシラン、2−(クロロメチル)アリルトリメトキシシラン、メタクリルアミドプロピルトリエトキシシラン、N−(3−メタクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、(メタクリロキシメチル)ジメチルエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、メトキシジメチルビニルシラン、1−メトキシ−3−(トリメチルシロキシ)ブタジエン、スチリルエチルトリメトキシシラン、3−(N−スチリルメチル−2−アミノエチルアミノ)−プロピルトリメトキシシラン塩酸塩、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルジフェニルエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、O−(ビニロキシエチル)−N−(トリエトキシシリルプロピル)ウレタン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリ−t−ブトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ジアリルアミノプロピルメトキシシランが挙げられる。中でも、不飽和基の反応性が速いメタクリロイル基、アクリロイル基を有するシランカップリング剤が好ましい。
そのほかにも、特開平5−50779号公報に記載されているゾルゲルコーティング処理、特開平5−246171号公報に記載されているホスホン酸類のコーティング処理、特開平6−234284号公報、特開平6−191173号公報および特開平6−230563号公報に記載されているバックコート用素材をコーティングにより処理する方法、特開平6−262872号公報に記載されているホスホン酸類の処理、特開平6−297875号公報に記載されているコーティング処理、特開平10−109480号公報に記載されている陽極酸化処理する方法、特願平10−252078号明細書(特開2000−81704号公報)および特願平10−253411号明細書(特開2000−89466号公報)に記載されている浸せき処理方法等が挙げられ、いずれの方法を用いてもよい。
<無機フッ素化合物とケイ酸化合物とを含有する水溶液での処理>
本発明においては、好ましい封孔処理として、無機フッ素化合物とケイ酸化合物とを含有する水溶液で処理することができる。これにより、平版印刷版としたときに、耐汚れ性に優れる平版印刷版用支持体が得られる。本発明に用いられる無機フッ素化合物としては、金属フッ化物が好適に挙げられる。具体的には、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、ヘキサフルオロジルコニウムナトリウム、ヘキサフルオロジルコニウムカリウム、ヘキサフルオロチタン酸ナトリウム、ヘキサフルオロチタン酸カリウム、ヘキサフルオロジルコニウム水素酸、ヘキサフルオロチタン水素酸、ヘキサフルオロジルコニウムアンモニウム、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸、フッ化ニッケル、フッ化鉄、フッ化リン酸、フッ化リン酸アンモニウムが挙げられる。
また、本発明に用いられるケイ酸化合物としては、ケイ酸、ケイ酸塩が挙げられるが、中でもアルカリ金属ケイ酸塩が好適に挙げられる。具体的には、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムが挙げられる。中でも、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムが好ましい。ケイ酸ナトリウムは、例えば、3号ケイ酸ナトリウム、2号ケイ酸ナトリウム、1号ケイ酸ナトリウム、オルソケイ酸ナトリウム、セスキケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウムが挙げられる。ケイ酸カリウムは、例えば1号ケイ酸カリウムが挙げられる。又、アルミニウムを含むアルミノケイ酸塩、ホウ酸を含むホウケイ酸塩を用いることもできる。ケイ酸は、オルトケイ酸、メタケイ酸、メタ二ケイ酸、メタ三ケイ酸、メタ四ケイ酸が挙げられる。
水溶液中の各化合物の濃度は、無機フッ素化合物については、陽極酸化皮膜の封孔の点で、0.01質量%以上であるのが好ましく、0.05質量%以上であるのがより好ましく、0.1質量%以上であるのが特に好ましく、また、汚れ性の点で、10質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以下であるのが特に好ましい。また、ケイ酸化合物については、汚れ性の点で、0.01質量%以上であるのが好ましく、0.1質量%以上であるのがより好ましく、1質量%以上であるのが特に好ましく、また、耐刷性の点で、10質量%以下であるのが好ましく、7質量%以下であるのがより好ましく、5質量%以下であるのが特に好ましい。水溶液中の各化合物との割合は、特に限定されないが、無機フッ素化合物とケイ酸化合物の質量比が、5:95〜95:5であるのが好ましく、20:80〜80:20であるのがより好ましい。
また、無機フッ素化合物とケイ酸化合物とを含有する水溶液は、pHを高くするために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化物を適当量含有してもよい。中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。また、無機フッ素化合物とケイ酸化合物とを含有する水溶液は、アルカリ土類金属塩または4族(第IVB族)金属塩を含有してもよい。アルカリ土類金属塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム等の硝酸塩;硫酸塩;塩酸塩;リン酸塩;酢酸塩;シュウ酸塩;ホウ酸塩等の水溶性塩が挙げられる。4族(第IVB族)金属塩としては、例えば、四塩化チタン、三塩化チタン、フッ化チタンカリウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタン、四ヨウ化チタン、塩化酸化ジルコニウム、二酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウムが挙げられる。これらのアルカリ土類金属塩および4族(第IVB族)金属塩は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
また、水溶液の温度は、10℃以上であるのが好ましく、20℃以上であるのがより好ましく、また、100℃以下であるのが好ましく、80℃以下であるのがより好ましい。 また、水溶液は、pH8以上であるのが好ましく、pH10以上であるのがより好ましく、また、pH13以下であるのが好ましく、pH12以下であるのがより好ましい。
無機フッ素化合物とケイ酸化合物とを含有する水溶液での処理の方法は、特に限定されず、例えば、浸せき法、スプレー法が挙げられる。これらは単独で1回または複数回用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、浸せき法が好ましい。浸せき法を用いて処理する場合、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、3秒以上であるのがより好ましく、また、600秒以下であるのが好ましく、120秒以下であるのがより好ましい。
<親水性表面処理>
本発明においては、アルミニウム支持体に、更に1種以上の親水性化合物を含有する水溶液へ浸せきすることにより、親水性表面処理を行ってもよい。親水性化合物としては、例えば、ポリビニルホスホン酸、スルホン酸基を有する化合物、糖類化合物、ケイ酸塩化合物が好適に挙げられる。中でもポリビニルホスホン酸、ケイ酸塩化合物が好適である。ケイ酸塩化合物が最も好適に挙げられる。
スルホン酸基を有する化合物には、芳香族スルホン酸、そのホルムアルデヒド縮合物、それらの誘導体、およびそれらの塩が含まれる。芳香族スルホン酸としては、例えば、フェノールスルホン酸、カテコールスルホン酸、レゾルシノールスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、リグニンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アセナフテン−5−スルホン酸、フェナントレン−2−スルホン酸、ベンズアルデヒド−2(または3)−スルホン酸、ベンズアルデヒド−2,4(または3,5)−ジスルホン酸、オキシベンジルスルホン酸類、スルホ安息香酸、スルファニル酸、ナフチオン酸、タウリンが挙げられる。中でも、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、リグニンスルホン酸が好ましい。また、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、リグニンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物も好ましい。更に、これらは、スルホン酸塩として使用してもよい。例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩が挙げられる。中でも、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。スルホン酸基を有する化合物を含有する水溶液のpHは、4〜6.5であるのが好ましく、硫酸、水酸化ナトリウム、アンモニア等を用いて上記pH範囲に調整することができる。
糖類化合物には、単糖類およびその糖アルコール、オリゴ糖類、多糖類、ならびに、配糖体が含まれる。単糖類およびその糖アルコールとしては、例えば、グリセロール等のトリオース類およびその糖アルコール類;トレオース、エリトリトール等のテトロースおよびその糖アルコール類;アラビノース、アラビトール等のペントースおよびその糖アルコール類;グルコース、ソルビトール等のヘキソースおよびその糖アルコール類;D−グリセロ−D−ガラクトヘプトース、D−グリセロ−D−ガラクトヘプチトール等のヘプトースおよびその糖アルコール類;D−エリトロ−D−ガラクトオクチトール等のオクトースおよびその糖アルコール類;D−エリトロ−L−グルコ−ノヌロース等のノノースおよびその糖アルコール類が挙げられる。オリゴ糖類としては、例えば、サッカロース、トレハロース、ラクトース等の二糖類;ラフィノース等の三糖類が挙げられる。多糖類としては、例えば、アミロース、アラビナン、シクロデキストリン、アルギン酸セルロースが挙げられる。
本発明において、「配糖体」とは、糖部分と非糖部分がエーテル結合等を介して結合している化合物をいう。配糖体は非糖部分により分類することができる。例えば、アルキル配糖体、フェノール配糖体、クマリン配糖体、オキシクマリン配糖体、フラボノイド配糖体、アントラキノン配糖体、トリテルペン配糖体、ステロイド配糖体、からし油配糖体が挙げられる。糖部分としては、上述した単糖類およびその糖アルコール;オリゴ糖類;多糖類が挙げられる。中でも、単糖類、オリゴ糖類が好ましく、単糖類、二糖類がより好ましい。好ましい配糖体の例として、下記式(I)で表される化合物が挙げられる。
上記式(I)中、Rは、炭素原子数1〜20の直鎖のまたは分枝を有する、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。炭素原子数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル基が挙げられ、これらは直鎖であっても、分枝を有していてもよく、また、環状アルキル基であってもよい。炭素原子数1〜20のアルケニル基としては、例えば、アリル、2−ブテニル基が挙げられ、これらは直鎖であっても、分枝を有していてもよく、また、環状アルケニル基であってもよい。炭素原子数1〜20のアルキニル基としては、例えば、1−ペンチニル基が挙げられ、これらは直鎖であっても、分枝を有していてもよく、また、環状アルキニル基であってもよい。
上記式(I)で表される具体的な化合物としては、例えば、メチルグルコシド、エチルグルコシド、プロピルグルコシド、イソプロピルグルコシド、ブチルグルコシド、イソブチルグルコシド、n−ヘキシルグルコシド、オクチルグルコシド、カプリルグルコシド、デシルグルコシド、2−エチルヘキシルグルコシド、2−ペンチルノニルグルコシド、2−ヘキシルデシルグルコシド、ラウリルグルコシド、ミリスチルグルコシド、ステアリルグルコシド、シクロヘキシルグルコシド、2−ブチニルグルコシドが挙げられる。これらの化合物は、配糖体の一種であるグルコシドで、ブドウ糖のヘミアセタールヒドロキシル基が他の化合物をエーテル状に結合したものであり、例えば、グルコースとアルコール類とを反応させる公知の方法により得ることができる。これらのアルキルグルコシドの一部は、ドイツHenkel社により商品名グルコポン(GLUCOPON)として市販されており、本発明ではそれを用いることができる。
好ましい配糖体の別の例としては、サポニン類、ルチントリハイドレート、ヘスペリジンメチルカルコン、ヘスペリジン、ナリジンハイドレート、フェノール−β−D−グルコピラノシド、サリシン、3´,5,7−メトキシ−7−ルチノシドが挙げられる。
糖類化合物を含有する水溶液のpHは、8〜11であるのが好ましく、水酸化カリウム、硫酸、炭酸、炭酸ナトリウム、リン酸、リン酸ナトリウム等を用いて上記pH範囲に調整することができる。
ポリビニルホスホン酸の水溶液は、濃度が0.1〜5質量%であるのが好ましく、0.2〜2.5%であるのがより好ましい。浸せき温度は10〜70℃であるのが好ましく、30〜60℃であるのがより好ましい。浸せき時間は1〜20秒であるのが好ましい。また、スルホン酸基を有する化合物の水溶液は、濃度が0.02〜0.2質量%であるのが好ましい。浸せき温度は60〜100℃であるのが好ましい。浸せき時間は1〜300秒であるのが好ましく、10〜100秒であるのがより好ましい。更に、糖類化合物の水溶液は、濃度が0.5〜10質量%であるのが好ましい。浸せき温度は40〜70℃であるのが好ましい。浸せき時間は2〜300秒であるのが好ましく、5〜30秒であるのがより好ましい。
本発明では、親水性化合物を含有する水溶液として、上述したような有機化合物の水溶液のほかに、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液、フッ化ジルコニウムカリウム(K2 ZrF6 )水溶液、リン酸塩/無機フッ素化合物を含む水溶液等の無機化合物水溶液も好適に用いられる。
アルカリ金属ケイ酸塩水溶液処理は、好ましくは濃度が0.01〜30質量%、より好ましくは0.1〜10質量%であり、25℃でのpHが好ましくは10〜13であるアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液に、支持体を、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜90℃で、好ましくは0.5〜40秒間、より好ましくは1〜20秒間浸せきすることにより行う。
親水性表面処理に用いられるアルカリ金属ケイ酸塩は、例えば、上述した無機フッ素化合物とケイ酸化合物とを含有する水溶液に用いられるアルカリ金属ケイ酸塩として列挙したものが挙げられる。アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、pHを高くするために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化物を適当量含有してもよい。中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。また、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、アルカリ土類金属塩または4族(第IVB族)金属塩を含有してもよい。アルカリ土類金属塩としては、例えば、上述した無機フッ素化合物とケイ酸化合物とを含有する水溶液が含有してもよいアルカリ土類金属塩として列挙したものが挙げられる。アルカリ土類金属塩および4族(第IVB族)金属塩は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
フッ化ジルコニウムカリウム水溶液処理は、好ましくは濃度が0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜2質量%のフッ化ジルコニウムカリウムの水溶液に、支持体を、好ましくは30〜80℃で、好ましくは60〜180秒間浸せきすることにより行う。
リン酸塩/無機フッ素化合物処理は、好ましくはリン酸塩化合物濃度が5〜20質量%、無機フッ素化合物濃度が0.01〜1質量%であり、好ましくはpHが3〜5の水溶液に、支持体を、好ましくは20〜100℃、より好ましくは40〜80℃で、好ましくは2〜300秒間、より好ましくは5〜30秒間浸せきすることにより行う。
本発明に用いられるリン酸塩としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属のリン酸塩が挙げられる。具体的には、例えば、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸一アンモニウム、リン酸一カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸カルシウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸第一鉄、リン酸第二鉄、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸鉛、リン酸二アンモニウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸リチウム、リンタングステン酸、リンタングステン酸アンモニウム、リンタングステン酸ナトリウム、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブ
デン酸ナトリウム;亜リン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムが挙げられる。中でも、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムが好ましい。
また、親水性表面処理に用いられる無機フッ素化合物としては、金属フッ化物が好適に挙げられる。具体的には、例えば、上述した無機フッ素化合物とケイ酸化合物とを含有する水溶液に用いられる無機フッ素化合物として列挙したものが挙げられる。
リン酸塩/無機フッ素化合物処理に用いられる水溶液は、リン酸塩および無機フッ素化合物をそれぞれ1種または2種以上含有することができる。
支持体は、これらの親水性化合物を含有する水溶液へ浸せきした後には、水等によって洗浄され、乾燥される。
上述した親水性表面処理により、陽極酸化処理後のポアワイド処理により向上した感度(ネガタイプの感光層の場合は耐刷性の向上)と引き替えに発生する耐放置汚れ性(インキ払い性)劣化等の印刷汚れの問題が解消される。即ち、ポア径が拡大したことにより、印刷時、特に印刷機が停止し、平版印刷版が印刷機上で放置された後の印刷再スタート時に、インキが取れにくくなる現象(耐放置汚れ性(インキ払い性)劣化)が起こりやすくなる問題があるが、親水性表面処理が施されていると、上記問題が軽減される。
<下塗層>
本発明においては、このようにして得られたアルミニウム支持体上に、赤外線レーザー露光により書き込み可能な記録層を設ける前に、必要に応じて、例えば、ホウ酸亜鉛等の水溶性金属塩のような無機下塗層や、有機下塗層を設けてもよい。なお、特定共重合体を下塗層に含ませ得ることは前述のとおりである。
有機下塗層に用いられる有機化合物としては、例えば、カルボキシメチルセルロース;デキストリン;アラビアガム;スルホン酸基を側鎖に有する重合体および共重合体;ポリアクリル酸;2−アミノエチルホスホン酸等のアミノ基を有するホスホン酸類;置換基を有していてもよいフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アルキルホスホン酸、グリセロホスホン酸、メチレンジホスホン酸、エチレンジホスホン酸等の有機ホスホン酸;置換基を有していてもよいフェニルリン酸、ナフチルリン酸、アルキルリン酸、グリセロリン酸等の有機リン酸;置換基を有していてもよいフェニルホスフィン酸、ナフチルホスフィン酸、アルキルホスフィン酸、グリセロホスフィン酸等の有機ホスフィン酸;グリシン、β−アラニン等のアミノ酸類;トリエタノールアミンの塩酸塩等のヒドロキシル基を有するアミンの塩酸塩;黄色染料が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
有機下塗層は、水もしくはメタノール、エタノール、メチルエチルケトン等の有機溶媒、またはそれらの混合溶剤に、上記有機化合物を溶解させた溶液をアルミニウム板上に塗布し乾燥することにより設けられる。上記有機化合物を溶解させた溶液の濃度は、0.005〜10質量%であるのが好ましい。塗布の方法は、特に限定されず、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布等のいずれの方法も用いることができる。有機下塗層の乾燥後の被覆量は、2〜200mg/m2 であるのが好ましく、5〜100mg/m2 であるのがより好ましい。上記範囲であると、耐刷性がより良好になる。
<バックコート層>
上述したようにして得られる支持体には、平版印刷版原版としたときに、重ねても記録層が傷付かないように、裏面(記録層が設けられない側の面)に、有機高分子化合物からなる被覆層(以下「バックコート層」ともいう。)を必要に応じて設けてもよい。バック
コート層の主成分としては、ガラス転移点が20℃以上の、飽和共重合ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂および塩化ビニリデン共重合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いるのが好ましい。
飽和共重合ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸ユニットとジオールユニットとからなる。ジカルボン酸ユニットとしては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、テトラブロムフタル酸、テトラクロルフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、コハク酸、シュウ酸、スベリン酸、セバチン酸、マロン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
バックコート層は、更に、着色のための染料や顔料、支持体との密着性を向上させるためのシランカップリング剤、ジアゾニウム塩からなるジアゾ樹脂、有機ホスホン酸、有機リン酸、カチオン性ポリマー、滑り剤として通常用いられるワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、ジメチルシロキサンからなるシリコーン化合物、変性ジメチルシロキサン、ポリエチレン粉末等を適宜含有することができる。
バックコート層の厚さは、基本的には合紙がなくても、後述する記録層を傷付けにくい程度であればよく、0.01〜8μmであるのが好ましい。厚さが0.01μm未満であると、平版印刷版原版を重ねて取り扱った場合の記録層の擦れ傷を防ぐことが困難である。また、厚さが8μmを超えると、印刷中、平版印刷版周辺で用いられる薬品によってバックコート層が膨潤して厚みが変動し、印圧が変化して印刷特性を劣化させることがある。
バックコート層を支持体の裏面に設ける方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、上記バックコート層用成分を適当な溶媒に溶解し溶液にして塗布し、または、乳化分散液して塗布し、乾燥する方法;あらかじめフィルム状に成形したものを接着剤や熱での支持体に貼り合わせる方法;溶融押出機で溶融被膜を形成し、支持体に貼り合わせる方法が挙げられる。好適な厚さを確保するうえで最も好ましいのは、バックコート層用成分を適当な溶媒に溶解し溶液にして塗布し、乾燥する方法である。この方法においては、特開昭62−251739号公報に記載されているような有機溶剤を単独でまたは混合して、溶媒として用いることができる。
平版印刷版原版の製造においては、裏面のバックコート層と表面の記録層のどちらを先に支持体上に設けてもよく、また、両者を同時に設けてもよい。
このようにして得られる本発明の平版印刷版原版は、上記画像記録層を設けた後の陽極酸化皮膜の破断面において、下記式(1)で表される炭素とアルミニウムとの原子数比(C/Al)が1.0以下であることを特徴とする。
C/Al=(Ic /Sc )/(Ial/Sal) (1)
Ic :炭素(KLL)オージェ電子微分型peak−to−peak強度
Ial:アルミニウム(KLL)オージェ電子微分型peak−to−peak強度
Sc :炭素(KLL)オージェ電子の相対感度係数
Sal:アルミニウム(KLL)オージェ電子の相対感度係数
炭素とアルミニウムとの原子数比(C/Al)の算出方法について、図を用いてより具体的に説明する。図1は、平版印刷版原版の陽極酸化皮膜の破断面についてオージェ電子分光分析を行って得られるチャートの一例である。図1中、Cは炭素、Alはアルミニウム、Oは酸素のピークである。オージェ電子分光分析は、分析直前に平版印刷版原版をほぼ180°折り曲げることで陽極酸化皮膜の破断面を作成し、オージェ電子分光分析装置付属のサンプルホルダーに固定し、装置内に導入して行うことができる。図1から、Ic
(炭素(KLL)オージェ電子微分型peak−to−peak強度)およびIal(アルミニウム(KLL)オージェ電子微分型peak−to−peak強度)を求める。Sc (炭素(KLL)オージェ電子の相対感度係数)の値を0.076、Sal(アルミニウム(KLL)オージェ電子の相対感度係数)の値を0.105とし、上記式(1)に求めたIc およびIalの値を代入することにより、C/Alが算出される。図1においては、C/Al=0.76である。なお、C/Alは、陽極酸化皮膜の破断面の複数の点(例えば、5点)でオージェ電子分光分析を行い、その平均値として求めるのが好ましい。
オージェ電子分光分析の条件の一例を以下に示す。
測定機器:FE−AES modelSMART−200、アルバックファイ社製照射電流:約10nA加速電圧:10kV照射電子ビーム径:focusedチャンバー内圧:約1×10-10 Torr(約1.33×10-8Pa)
検出範囲:20〜2020eV、0eV/step、20ms/stepマルチプライヤー電圧;2250V
本発明においては、画像記録層を設けた後の陽極酸化皮膜の破断面において、C/Alが1.0以下、好ましくは0.8以下である。C/Alが1.0以下となるように、陽極酸化皮膜のマイクロポアへの侵入を抑制することにより、画像記録層を設けた後の陽極酸化皮膜の熱伝導率を低く維持することができ、これにより、本発明の平版印刷版原版が平版印刷版としたときの機上現像性、細線再現性および耐刷性のすべてに優れたものとなる。
以下、本発明に用いられるアルミニウム支持体の製造装置について説明する。本発明に用いられるアルミニウム支持体の製造過程としては、(1)圧延され、コイル状に巻き取られたアルミニウム板を多軸ターレットからなる送り出し装置から送り出し、(2)上記各処理(機械的粗面化処理、電気化学的粗面化処理、アルカリエッチング処理、酸性エッチング処理、デスマット処理、陽極酸化処理、ポアワイド処理(酸処理またはアルカリ処理)、封孔処理、親水性表面処理等)の後、アルミニウム板を乾燥処理し、(3)アルミニウム板を上記多軸ターレットからなる巻き取り装置にてコイル状に巻き取り、または、アルミニウム板の平面性を矯正し、その後、所定の長さにカットして集積するのが好ましい。また、必要に応じ、上記過程において、下塗層や記録層を形成して乾燥処理する工程を設け、平版印刷版原版としてから上記巻取り装置によりコイル状に巻き取ってもよい。
また、アルミニウム支持体の製造においては、アルミニウム板の表面の欠陥を検査する装置を用いて、該欠陥を連続的に検査し、発見した欠陥部のエッジ部分に目印のラベルを貼る工程を、1工程以上有するのが好ましい。更に、本発明の平版印刷版原版の製造においては、アルミニウム板の送り出し工程および巻き取り工程において、アルミコイルの交換の際に、該アルミニウム板の走行を停止しても、上記各工程におけるアルミニウム板の走行速度を一定に保つようなリザーバ装置を設けることが好ましく、上記アルミコイルの送り出し工程の後には、アルミニウム板を超音波またはアーク溶接にて接合する工程を設けるのが好ましい。
アルミニウム支持体の製造に用いられる装置は、アルミニウム板の走行位置を検出し、走行位置を矯正する装置を1個以上有するのが好ましく、また、アルミニウム板の張力カットおよび走行速度制御を目的とした駆動装置と、張力制御を目的としたダンサロール装置とをそれぞれ1個以上有するのが好ましい。また、トラッキング装置にて各工程の状態が所望の条件か否かを記録し、アルミニウムコイルが巻き取られる前に、アルミニウムウェブのエッジ部にラベルを貼り、そのラベルよりも後が所望の条件か否かをのちに判別できるようにするのも好ましい。
本発明においては、アルミニウム板は、合紙とともに帯電させて互いに吸着させ、その後所定の長さにカット、および/または、スリットすることが好ましい。また、アルミニウム板のエッジ部分に貼られたラベルの情報をもとに、所定の長さに裁断した後または裁断する前に、そのラベルを目印として良品部分と欠陥部分とを分別し、良品部分のみを集積するのが好ましい。
上記送り出し工程等を含む各工程では、アルミニウム板のサイズ(厚さおよび幅)、アルミニウムの材質またはアルミニウムウェブの走行速度によって、それぞれの条件で最適な張力を設定することが重要である。そこで、張力カットと走行速度制御を目的とした駆動装置と、張力制御を目的としたダンサーロールとを利用し、張力感知装置からの信号をフィードバック制御する張力制御装置を複数設けるのが好ましい。駆動装置は、直流モーターと主駆動ローラを組み合わせた制御方法を用いるのが一般的である。主駆動ローラは一般的なゴムを材質とするが、アルミニウムウェブがwetな状態にある工程では不織布を積層して作製されたローラを用いることができる。また、各パスローラとしては、ゴムまたは金属が一般的に用いられるが、アルミニウムウェブとスリップを起こしやすい箇所ではこのスリップを防止するために、各パスローラにモーターや減速機を接続し、主駆動装置からの信号によって一定速度で回転制御するなど補助的な駆動装置を設けることもできる。
本発明に用いられるアルミニウム支持体は、特開平10−114046号公報に記載されているように、圧延方向の算術平均粗さ(Ra )をR1 とし、幅方向の算術平均粗さ(Ra )をR2 とした場合に、R1 −R2 が、R1 の30%以内であるのが好ましく、また、圧延方向の平均曲率が1.5×10-3mm-1以下、幅方向の平均曲率が1.5×10-3mm-1以下、圧延方向と垂直な方向の平均曲率が1.0×10-3mm-1以下であるのが好ましい。また、上記粗面化処理等を施して製造されたアルミニウム支持体は、ロール直径20〜80mm、ゴム硬度50〜95度の矯正ロールを用いて矯正するのが好ましい。これにより、平版感光印刷機の自動搬送工程においても、平版印刷版原版の露光ズレが起きないフラットネスのアルミニウムコイル状素板を供給することができる。特開平9−194093号公報には、ウェブのカール測定方法および装置、カール修正方法および装置、ならびにウェブ切断装置が記載されており、本発明においてもこれらを用いることができる。
また、連続的にアルミニウム支持体を製造するにあたり、各工程が適切な条件で稼働しているかを電気的に監視し、トラッキング装置にて各工程の状態が所望の条件か否かを記録し、アルミニウムコイルが巻き取られる前に、アルミニウムウェブのエッジ部にラベルを貼り、そのラベルよりも後が所望の条件か否かを、後から判別できるようにすることで、裁断時、集積時にその部分の良否を判定することができる。
上述の粗面化処理に用いられるアルミニウム板の処理装置は、液の温度、比重、電導度、超音波の伝搬速度のうち、一つ以上を測定し、液の組成を求め、フィードバック制御、および/または、フィードフォワード制御して液濃度を一定にコントロールするのが好ましい。上記処理装置中の酸性水溶液にはアルミニウムイオンを初めとするアルミニウム板中に含まれる成分がアルミニウム板の表面処理の進行に伴って溶解する。そこで、アルミニウムイオン濃度と酸またはアルカリの濃度を一定にするために、水と酸、または、水とアルカリを間欠的に添加して液組成を一定に保つのが好ましい。ここで添加する酸またはアルカリの濃度は、10〜98質量%であるのが好ましい。
上記酸またはアルカリの濃度を制御するには、例えば、以下の方法が好ましい。まず、あらかじめ使用が予定されている濃度範囲の成分液ごとの導電率、比重または超音波の伝搬速度を各温度毎に測定してデータテーブルを作成する。そして、被測定液の導電率、比
重または超音波の伝搬速度と温度データをあらかじめ作成した非測定液のデータテーブルを参照して濃度を測定する。上記超音波の伝搬時間を高精度・高安定に測定する方法は、特開平6−235721号公報に記載されている。また、上記超音波の伝搬速度を利用した濃度測定システムについては、特開昭58−77656号公報に記載されている。また、複数の物理量データを液成分ごとに相関を示すデータテーブルを作成しておき、そのデータテーブルを参照して多成分液の濃度を測定する方法は、特開平4−19559号公報に記載されている。
上記超音波の伝搬速度を用いた濃度測定方法を被測定液の導電率と温度の値と組み合わせて、アルミニウム支持体の粗面化工程に応用すると、プロセスの管理がリアルタイムで正確に行えるため、一定品質の製品が製造できるようになり、得率の向上につながる。また、温度と超音波の伝搬速度と導電率との組み合わせだけでなく、温度と比重、温度と導電率、温度と導電率と比重等、それぞれの物理量で濃度および温度ごとにデータテーブルを作成しておき、そのデータテーブルを参照して多成分液の濃度測定する方法をアルミニウム支持体の粗面化処理工程に応用すると、前記と同様な効果が得られる。また、比重と温度とを測定し、あらかじめ作成しておいたデータテーブルを参照して被測定物のスラリー濃度を求めることによって、スラリー濃度の測定も迅速にかつ正確に行えるようになる。
上記超音波の伝搬速度測定は液中の気泡の影響を受けやすいため、垂直に配置され、かつ、下方から上方に向かう流速のある配管中で行われるのがより好ましい。上記超音波の伝搬速度測定は、配管内の圧力が1〜10kg/cm2 の圧力範囲内で行うことが好ましく、超音波の周波数は0.5〜3MHzであるのが好ましい。また、上記比重、導電率、超音波の伝搬速度の測定は温度の影響を受けやすいため、保温状態にあり、かつ温度変動が±0.3℃以内に制御された配管内で測定するのが好ましい。更に、導電率および比重、または、導電率と超音波の伝搬速度とは同一温度で測定するのが好ましいので、同一の配管内または同一の配管フロー内で測定するのが特に好ましい。測定の際の圧力変動は温度の変動につながるので可能な限り低い方が好ましい。また、測定する配管内の流速分布もできるだけ少ない方が好ましい。更に、上記測定はスラリー、ゴミ、および気泡の影響を受けやすいので、フィルターや脱気装置等を通した液を測定するのが好ましい。
〔製版、印刷〕
本発明の平版印刷方法においては、上述した本発明の平版印刷版原版を、赤外線レーザーで画像様に露光する。
本発明に用いられる赤外線レーザーは、特に限定されないが、波長760〜1200nmの赤外線を放射する固体レーザー及び半導体レーザーが好適に挙げられる。赤外線レーザーの出力は、100mW以上であるのが好ましい。また、露光時間を短縮するため、マルチビームレーザーデバイスを用いるのが好ましい。
1画素あたりの露光時間は、20μ秒以内であるのが好ましい。また、照射エネルギー量は、10〜300mJ/cm2 であるのが好ましい。
本発明の平版印刷方法においては、上述したように、本発明の平版印刷版原版を赤外線レーザーで画像様に露光した後、なんらの現像処理工程を経ることなく油性インキと水性成分とを供給して印刷する。
具体的には、平版印刷版原版を赤外線レーザーで露光した後、現像処理工程を経ることなく印刷機に装着して印刷する方法、平版印刷版原版を印刷機に装着した後、印刷機上において赤外線レーザーで露光し、現像処理工程を経ることなく印刷する方法等が挙げられる。
平版印刷版原版を赤外線レーザーで画像様に露光した後、湿式現像処理工程等の現像処
理工程を経ることなく水性成分と油性インキとを供給して印刷すると、画像記録層の露光部においては、露光により硬化した画像記録層が、親油性表面を有する油性インキ受容部を形成する。一方、未露光部においては、供給された水性成分及び/又は油性インキによって、未硬化の画像記録層が溶解し又は分散して除去され、その部分に親水性の表面が露出する。
その結果、水性成分は露出した親水性の表面に付着し、油性インキは露光領域の画像記録層に着肉し、印刷が開始される。ここで、最初に版面に供給されるのは、水性成分でもよく、油性インキでもよいが、水性成分が未露光部の画像記録層により汚染されることを防止する点で、最初に油性インキを供給するのが好ましい。水性成分及び油性インキとしては、通常の平版印刷用の湿し水と印刷インキが用いられる。
このようにして、平版印刷版原版はオフセット印刷機上で機上現像され、そのまま多数枚の印刷に用いられる。
〔実施例〕
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
1.アルミニウム支持体の製造
(支持体製造例1)
表1に示す組成Aの合金成分を含有するアルミニウム合金溶湯から本発明の実施例および比較例に用いるアルミニウム板を以下のようにして作製した。
まず、アルミニウム合金溶湯に、脱ガスおよびろ過からなる溶湯処理を施し、DC鋳造法で厚さ500mmの鋳塊を作製した。得られた鋳塊の表面を10mm面削した後、鋳塊を加熱し、均熱化処理を行わずに400℃で熱間圧延を開始し、板厚4mmになるまで圧延した。つぎに、冷間圧延で厚さ1.5mmにし、中間焼鈍を行った後、再度冷間圧延で0.24mmに仕上げ、平面性を矯正して、アルミニウム板を得た。
得られた組成Aのアルミニウム板について、下記に示す(1)〜(9)の手順で表面処理を行った。なお、各表面処理および水洗の後にはニップローラで液切りを行った。水洗は、スプレー管から水を吹き付けて行った。
(1)機械的粗面化処理
比重1.12のケイ砂(研磨剤、平均粒径25μm)と水との懸濁液を研磨スラリー液として、スプレー管によってアルミニウム板の表面に供給しながら、ナイロンブラシが回転するブラシローラを用いて機械的粗面化処理を行った。
使用したナイロンブラシの材質は6,10−ナイロンであり、毛長は50mmであり、毛の直径は0.48mmであった。このナイロンブラシはφ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛されたものである。
また、ブラシローラには、ナイロンブラシが3本使用されており、ブラシ下部に備えられた2本の支持ローラ(φ200mm)間の距離は300mmであった。
上記ブラシローラは、ブラシを回転させる駆動モータの負荷を、ナイロンブラシがアルミニウム板に押さえつけられる前の負荷に対して管理し、粗面化後のアルミニウム板の平均算術粗さ(Ra )が0.45μmになるように押さえつけた。ブラシの回転方向はアル
ミニウム板の移動方向と同じであった。その後、水洗を行った。
また、研磨剤の濃度は、あらかじめ研磨剤濃度と温度と比重との関係から作成したテーブルを参照し、温度および比重から研磨剤濃度を求め、フィードバック制御によって水と研磨剤とを添加し、上記研磨剤の濃度を一定に保った。また、研磨剤が粉砕して粒度が小さくなると粗面化されたアルミニウム板の表面形状が変化するので、サイクロンによって粒度の小さな研磨剤は系外に逐次排出した。研磨剤の粒径は1〜35μmの範囲であった。
(2)アルカリエッチング処理
NaOH27質量%およびアルミニウムイオン6.5質量%を含有する液温70℃の水溶液をスプレー管によってアルミニウム板に吹き付けて、アルカリエッチング処理を行った。アルミニウム板の、後に電気化学的粗面化処理を行う面の溶解量は8g/m2 であり、その裏面の溶解量は2g/m2 であった。
アルカリエッチング処理に用いたエッチング液の濃度は、あらかじめNaOH濃度と、アルミニウムイオン濃度と、温度と、比重と、液の導電率との関係から作成したテーブルを参照し、温度、比重、および導電率からエッチング液濃度を求め、フィードバック制御によって水と48質量%NaOH水溶液とを添加することにより一定に保った。その後、水洗を行った。
(3)デスマット処理
液温35℃の硝酸水溶液をスプレーを用いてアルミニウム板に吹き付けて、10秒間デスマット処理を行った。硝酸水溶液は、次の工程で用いる電解装置からのオーバーフロー廃液を使用した。ついで、デスマット処理液を吹き付けるスプレー管を数カ所設置して、次の工程までアルミニウム板の表面が乾かないようにした。
(4)電気化学的粗面化処理
図2に示した台形波の交流電流と図3に示した電解装置2槽とを用いて連続的に電気化学的粗面化処理を行った。酸性水溶液としては、硝酸1質量%の硝酸水溶液(アルミニウムイオン0.5質量%およびアンモニウムイオン0.007質量%を含む。)を用いた。液温は50℃であった。また、交流電流は、電流値がゼロからカソードサイクル側およびアノードサイクル側のピークに達するまでの時間tpおよびtp´が1msecであり、カーボン電極を対極とした。交流電流のピーク時の電流密度は、アルミニウム板が陽極時および陰極時ともに50A/dm2 であり、交流電流の陰極時電気量(QC )と陽極時電気量(QA )との比(QC /QA )は0.95であり、duty比は0.50であり、周波数は60Hzであり、陽極時の電気量の総和は180C/dm2 であった。その後、スプレーによって水洗を行った。
硝酸水溶液の濃度コントロールは、67質量%の硝酸原液と水とを、通電量に比例して添加し、硝酸と水との添加容積と同量の酸性水溶液(硝酸水溶液)を逐次電解装置からオーバーフローさせて電解装置系外に排出して行った。また、これとともに、あらかじめ硝酸濃度とアルミニウムイオン濃度と温度と液の導電率と液の超音波伝搬速度との関係から作成したテーブルを参照し、硝酸水溶液の温度、導電率、超音波伝搬速度から該硝酸水溶液の濃度を求め、硝酸原液と水との添加量を逐次調整する制御を行って濃度を一定に保った。
(5)アルカリエッチング処理
NaOH26質量%およびアルミニウムイオン6.5質量%を含有する液温45℃の水溶液を、アルミニウム板にスプレーを用いて吹き付けて、アルカリエッチング処理を行った。アルミニウム板の溶解量は1g/m2 であった。エッチング液の濃度はあらかじめNaOH濃度とアルミニウムイオン濃度と温度と比重と液の導電率との関係から作成したテーブルを参照し、温度、比重および導電率からエッチング液濃度を求め、フィードバック制御によって水と48質量%NaOH水溶液とを添加して、一定に保った。その後、水洗を行った。
(6)酸性エッチング処理
硫酸(硫酸濃度300g/L、アルミニウムイオン濃度15g/L)を酸性エッチング液とし、これをスプレー管から80℃で8秒間アルミニウム板に吹き付けて、酸性エッチング処理を行った。酸性エッチング液の濃度は、あらかじめ硫酸濃度とアルミニウムイオン濃度と温度と比重と液の導電率との関係から作成したテーブルを参照して、温度、比重および導電率から酸性エッチング液濃度を求め、フィードバック制御によって水と50質量%硫酸とを添加して、一定に保った。その後、水洗を行った。
(7)陽極酸化処理
シュウ酸濃度50g/Lの水溶液(アルミニウムイオン0.5質量%を含む。)を陽極酸化溶液として用いて、直流電圧を用い、電流密度12A/dm2 、温度50℃、30秒の条件でアルミニウム板の陽極酸化処理を行い、陽極酸化皮膜を形成した。陽極酸化処理液の濃度は、あらかじめシュウ酸濃度とアルミニウムイオン濃度と温度と比重と液の導電率との関係から作成したテーブルを参照して、温度、比重および導電率から液濃度を求め、フィードバック制御によって水と50質量%シュウ酸とを添加して、一定に保った。 その後、スプレーによって水洗を行った。
(8)ポアワイド処理
陽極酸化処理後のアルミニウム板をpH13のNaOH水溶液に50℃で30秒間浸せきして、ポアワイド処理を行った。その後、水洗を行った。
(9)無機フッ素化合物とケイ酸化合物とを含有する水溶液での処理
ポアワイド処理後のアルミニウム板を、フッ化ナトリウムおよび3号ケイ酸ナトリウムを濃度がそれぞれ2質量%および2.5質量%になるように純水を用いて調製した水溶液を用いて、100℃で10秒間浸せきした。その後、水洗を行った。
このようにしてアルミニウム支持体1を得た。
(支持体製造例2)
上記(8)ポアワイド処理と(9)無機フッ素化合物とケイ酸化合物とを含有する水溶液での処理との間に下記(10)粒子含有水溶液での処理を行った以外は、支持体製造例1と同様の方法により、アルミニウム支持体2を得た。
(10)粒子含有水溶液での処理
ポアワイド処理後の基板を陰極として、平均粒径30nmのアルミナ粒子を1質量%含有する水懸濁液を電解液として用い、電圧110Vで60秒間、定電圧で電解処理し、その後、水洗を行い、乾燥して封孔処理を行った。
(比較例用支持体製造例1)
上記(9)無機フッ素化合物とケイ酸化合物とを含有する水溶液での処理の代わりに、3号ケイ酸ナトリウム濃度2.5質量%の水溶液で70℃で10秒間処理して、親水性表面処理を行った。
その後、水洗し、乾燥して、比較用支持体1を得た。
(比較例用支持体製造例2)
上記(7)陽極酸化処理および(8)ポアワイド処理の代わりに、下記(7´)陽極酸化処理を行った以外は、支持体製造例1と同様の方法により、比較例用アルミニウム支持体2を得た。
(7´)陽極酸化処理
硫酸濃度170g/Lの水溶液(アルミニウムイオン0.5質量%を含む。)を陽極酸化溶液として用いて、直流電圧を用い、電流密度5A/dm2 、温度43℃、33秒の条件でアルミニウム板の陽極酸化処理を行い、陽極酸化皮膜を形成した。陽極酸化処理液の濃度は、あらかじめ硫酸濃度とアルミニウムイオン濃度と温度と比重と液の導電率との関係から作成したテーブルを参照して、温度、比重および導電率から液濃度を求め、フィードバック制御によって水と50質量%硫酸とを添加して、一定に保った。その後、スプレーによって水洗を行った。
<空隙率の測定>
支持体製造例1〜2、比較用支持体製造例1、2の空隙率を下記により求めた。
空隙率(%)=[1−(酸化皮膜密度/3.98)]×100
ここで、酸化皮膜密度(g/cm3 )は[単位面積あたりの酸化皮膜質量/酸化皮膜膜厚]より求めた。なお、3.98は化学便覧による酸化アルミニウムの密度(g/cm3 )である。
単位面積あたりの酸化皮膜質量は、現像処理後の非画像部を所定の大きさに切断し、クロム酸/リン酸からなるメイソン液にて溶解し、減少分より算出した。また、膜厚は現像処理後の非画像部における陽極酸化皮膜を日本電子製走査型顕微鏡T20にて観察し、50箇所を実測して平均膜厚を算出した。結果を表4に併記する。
2.平版印刷版原版の作製
(実施例1)
上記で得られたアルミニウム支持体1に、特定共重合体の具体例No.2で示される化合物(x/y=80/20、質量平均分子量15000)のメタノール溶液をと塗布した後、70℃60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量5mg/m2の下塗り層を形成した。
引き続いて、下記組成の画像記録層塗布液(1)を塗布し、オーブンにて70℃で60秒間乾燥して、乾燥塗布量0.8g/m2の平版印刷版原版を得た。
画像記録層塗布液(1)
・水 100g
・下記のマイクロカプセル(1)(固形分換算で) 5g
・下記の重合開始剤(1) 0.5g
・下記のフッ素系界面活性剤(1) 0.2g
(マイクロカプセル(1)の合成)
油相成分として、トリメチロールプロパンとキシレンジイソシアナート付加体(三井武田ケミカル(株)製、タケネートD−110N)10g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬(株)製、SR444)3.15g、下記の赤外線吸収剤(1)0.35g、及びパイオニンA−41C(竹本油脂(株)製) 0.1gを酢酸エチル17gに溶解した。水相成分としてPVA−205の4質量%水溶液40gを調製した。油相成分及び水相成分を混合し、ホモジナイザーを用いて12000rpmで10分間乳化した。得られた乳化物を、蒸留水25gに添加し、室温で30分攪拌後、40℃で3時間攪拌した。このようにして得られたマイクロカプセル液の固形分濃度を、20質量%になるように蒸留水を用いて希釈した。平均粒径はいずれも0.3μmであった。
(実施例2〜10、比較例1〜4)
実施例1において、アルミニウム支持体1および特定共重合体化合物を表2のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、平版印刷版用原版を得た。
(実施例11)
上記で作成したアルミニウム支持体1上に、特定共重合体の具体例No.43で表される化合物(x/y=80/20、質量平均分子量25000)のメタノール溶液を塗布した後、70℃、30秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量5mg/m2の下塗層を形成した。
引き続いて、下記組成の画像記録層塗布液(2)をバー塗布した後、100℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.0g/m2の画像記録層を形成して平版印刷版用原板を得た。
画像記録層塗布液(2)
・下記の赤外線吸収剤(2) 0.05g
・上記の重合開始剤(1) 0.2g
・下記のバインダーポリマー(1) 0.5g
(平均分子量8万)
・重合性化合物 1.0g
イソシアヌール酸EO変性トリアクリレート
(新中村化学工業(株)製、NKエステルM−315)
・上記のフッ素系界面活性剤(1) 0.1g
・メチルエチルケトン 18.0g
(実施例12〜20、比較例5〜8)
実施例11において、アルミニウム支持体1、及び特定共重合体化合物を、表3のように変更したこと以外は、実施例11と同様にして、平版印刷版用原版を得た。
(実施例21)
上記で得られたアルミニウム支持体1に、下記組成の画像記録層塗布液(3)を塗布し、オーブンにて70℃で60秒間乾燥して、乾燥塗布量0.8g/m2の平版印刷版原版を得た。
画像記録層塗布液(3)
・水 100g
・前記のマイクロカプセル(1)(固形分換算で) 5g
・特定共重合体の具体例No.64
(x/y/z=40/30/30、質量平均分子量9000) 0.06g
・前記の重合開始剤(1) 0.5g
・前記のフッ素系界面活性剤(1) 0.2g
(実施例22)
上記で作成したアルミニウム支持体2上に、下記組成の画像記録層塗布液(4)をバー塗布した後、100℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.0g/m2の画像記録層を形成して平版印刷版用原板を得た。
画像記録層塗布液(4)
・前記の赤外線吸収剤(2) 0.05g
・前記の重合開始剤(1) 0.2g
・前記のバインダーポリマー(1) 0.5g
(平均分子量8万)
・重合性化合物 1.0g
イソシアヌール酸EO変性トリアクリレート
(新中村化学工業(株)製、NKエステルM−315)
・特定共重合体の具体例No.67
(x/y/z=40/30/30、質量平均分子量9000) 0.025g
・前記のフッ素系界面活性剤(1) 0.1g
・メチルエチルケトン 18.0g
(実施例23)
上記で作成した支持体2上に、特定共重合体の具体例No.66で表される化合物(x/y/z=30/40/30、重量平均分子量15000)のメタノール溶液を塗布した後、70℃、30秒間オーブン乾燥し、乾燥塗布量5mg/m2の下塗層を形成した。
引き続いて、下記組成の画像記録層塗布液(5)をバー塗布した後、70℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量0.8g/m2の画像記録層を形成して平版印刷版用原板を得た。
画像記録層塗布液(5)
・水 40g
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 50g
・メチルエチルケトン 10g
・下記の赤外線吸収剤(3) 0.15g
・下記の親油性バインダーポリマー(2) 0.5g
(平均分子量8万)
・前記のマイクロカプセル(1)(固形分換算で) 5g
・前記の重合開始剤(1) 0.5g
・前記のフッソ系界面活性剤(1) 0.1g
3.画像記録層を設けた後の陽極酸化皮膜の破断面における炭素とアルミニウムとの原子数比(C/Al)の測定
実施例1〜23ならびに比較例1〜8の平版印刷版原版について、以下のようにして、破断面における炭素とアルミニウムとの原子数比(C/Al)の測定を行った。
分析直前に平版印刷版原版をほぼ180°折り曲げることで陽極酸化皮膜の破断面を作成し、オージェ電子分光分析装置付属のサンプルホルダーに固定し、装置内に導入して、オージェ電子分光分析を行った。
得られたチャートから、Ic およびIalを求めた。Sc の値を0.076、Salの値を0.105とし、上記式(1)に求めたIc およびIalの値を代入することにより、C/Alを算出した。結果を表4に示す。
なお、C/Alは、陽極酸化皮膜の破断面の感熱層と陽極酸化皮膜との界面から約0.2μmの位置の5点でオージェ電子分光分析を行い、その平均値として求めた。
オージェ電子分光分析の条件を以下に示す。
測定機器:FE−AES modelSMART−200、アルバックファイ社製
照射電流:約10nA
加速電圧:10kV
照射電子ビーム径:focused
チャンバー内圧:約1×10-10 Torr(約1.33×10-8Pa)
検出範囲:20〜2020eV、0eV/step、20ms/step
マルチプライヤー電圧;2250V
4.露光および印刷
得られた平版印刷版原版を水冷式40W赤外線半導体レーザ搭載のCreo社製Trendsetter3244VXにて、出力9W、外面ドラム回転数210rpm、解像度2400dpiの条件で露光した。露光画像には細線チャートを含むようにした。得られた露光済み原版を現像処理することなく、ハイデルベルグ社製印刷機SOR−Mのシリンダーに取り付けた。湿し水(EU−3(富士写真フイルム(株)製エッチ液)/水/イソプロピルアルコール=1/89/10(容量比))とTRANS−G(N)墨インキ(大日本インキ化学工業社製)とを用い、湿し水とインクを供給した後、毎時6000枚の印刷速度で印刷を100枚行った。
画像記録層の未露光部の印刷機上での機上現像が完了し、印刷用紙にインキが転写しない状態になるまでに要した印刷用紙の枚数を機上現像性として計測したところ、いずれの平版印刷版原版を用いた場合も、100枚以内で非画像部の汚れのない印刷物が得られた。
5.評価
上記印刷試験においては、地汚れ、細線再現性および耐刷性を以下の方法により評価した。それぞれの結果を表4に示した。
(1)地汚れ
印刷試験において、印刷機の水目盛りを調整し、地汚れの生じる水目盛りにより地汚れを評価した。地汚れの生じる水目盛りが2未満である場合を○、2以上3未満である場合を△、3以上4未満である場合を△×、4以上である場合を×とした。
(2)細線再現性
一般に、ネガ型平版印刷版原版の場合、露光量が少ないと画像記録層(感光層)の硬化度が低くなり、露光量が多いと硬化度が高くなる。画像記録層の硬化度が低すぎる場合には、平版印刷版の耐刷性が低くなり、また、小点や細線の再現性が不良となる。一方、画像記録層の硬化度が高い場合には、耐刷性が高くなり、また、小点や細線の再現性が良好となる。
本実施例では、以下に示すように、上記で得られたネガ型平版印刷版原版を、上述した同一の露光量条件で耐刷性および細線再現性を評価することにより、平版印刷版原版の感度の指標とした。即ち、耐刷性における印刷枚数が高いほど、また、細線再現性における細線幅が細いほど、平版印刷版原版の感度が高いと言える。
上述したように、100枚印刷して非画像部にインキ汚れがない印刷物が得られたことを確認した後、続けて500枚の印刷を行った。合計600枚目の印刷物の細線チャート(10、12、14、16、18、20、25、30、35、40、60、80、100および200μmの細線を露光したチャート)を25倍のルーペで観察し、途切れることなくインキで再現された細線幅により、細線再現性を評価した。結果を表4に示す。
(3)耐刷性
上述したように、細線再現性の評価において印刷を行った後、更に印刷を続けた。印刷枚数を増やしていくと徐々に画像記録層が磨耗しインキ受容性が低下するため、印刷用紙におけるインキ濃度が低下した。インキ濃度(反射濃度)が印刷開始時よりも0.1低下したときの印刷枚数により、耐刷性を評価した。結果を表4に示す。
表4から、本発明の平版印刷版原版(実施例1〜23)は、地汚れが発生しにくく、機上現像性、細線再現性および耐刷性に優れることが分かる。