JP4078486B2 - 評価実行プログラム、評価装置、評価方法及び評価システム - Google Patents

評価実行プログラム、評価装置、評価方法及び評価システム Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、被測定物を評価する評価実行プログラム、評価装置、評価方法及び評価システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
繊維製造分野において、従来、ポリウレタン弾性糸を使用した布帛が、その優れた伸縮性、対薬品性、耐候性から衣料用途を中心としてストレッチ素材として幅広く使用されている。
【0003】
しかし、ポリウレタン弾性糸を使用した布帛は、布帛中の弾性糸の伸縮特性、伸張率或いは張力の差に起因する品質上の欠点となる問題を起こしやすい。布帛中のポリウレタン弾性糸に伸縮特性の異常、伸張率の異常或いは張力異常等がある場合、例えば布帛表面でスジとなって表れるため商品として使用できない。また、ポリウレタン弾性糸は通常ポリアミド繊維やポリエステル繊維等の相手素材と組み合わされて使用されるが、品質上の欠点は相手素材に起因して発生することも多く、ポリウレタン弾性糸に関する品質上の異常のみが問題となって発生したものであるのかを判断することも困難である。そこで、ポリウレタン弾性糸を含む布帛中から直接ポリウレタン弾性糸を抜き出し、布帛中の状態を評価するという方法が取られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記方法では、布帛中から直接ポリウレタン弾性糸を抜き出すため、被測定物となる布帛そのものが破壊されてしまうという問題がある。また、被測定物となる布帛が経編み等によって製造された布帛である場合には、ポリウレタン弾性糸のみを容易に抜き出せない場合も多く、仮に抜き出せたとしても、抜き出されたポリウレタン弾性糸が実際の布帛中における状態を真に反映できているかどうかの解析が困難であるため、必ずしも正確な評価とならないという問題がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態を非破壊かつ正確に評価できる評価実行プログラム、評価装置、評価方法及び評価システムを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、被測定物から得られたデータに基づいて当該被測定物に関する評価を行う評価実行プログラムであって、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を示す散乱ピーク強度データを基に作成した基準データと、当該ポリウレタン弾性糸の変形状態を示す変形状態データとを記憶する基準データ記憶手段と、前記基準データ記憶手段に記憶されている基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所に対して測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度データを基に当該ポリウレタン弾性糸の変形状態データを算出する算出手段と、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データを用いて散乱ピーク強度比データを算出する散乱ピーク強度比データ算出手段として前記コンピュータを機能させ、前記基準データ記憶手段は、前記基準データとなる前記散乱ピーク強度比データとポリウレタン弾性糸の変形状態データとを対応付けて記憶し、前記算出手段は、前記基準データ記憶手段に記憶されている前記基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所に対して測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データから前記散乱ピーク強度比データ算出手段によって算出された散乱ピーク強度比データを基に当該ポリウレタン弾性糸の変形状態データを算出することを特徴とする評価実行プログラムである。
【0007】
この構成によれば、基準データ記憶手段に、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に作成した基準データとポリウレタン弾性糸の変形状態データとが記憶されており、算出手段によって、基準データ記憶手段に記憶された基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物である布帛の所定の箇所から測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度データを基に当該ポリウレタン弾性糸の変形状態データが算出される。
【0008】
このように、ポリウレタン弾性糸から測定されたラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に作成された基準データ及びポリウレタン弾性糸の変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所におけるポリウレタン弾性糸の変形状態が算出されるので、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛から測定されたラマンスペクトルの散乱ピーク強度が得られれば、記憶された基準データ及び変形状態に基づいて、当該被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態を定量的に評価することができる。
【0009】
このため、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛から測定されたラマンスペクトルの散乱ピーク強度が得られれば、記憶された基準データ及び変形状態に基づいて、当該被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態を定量的に評価することができるので、ポリウレタン弾性糸を使用した布帛中におけるポリウレタン弾性糸の実際の変形状態が反映された正確な評価を行うことができると共に、被測定物である布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態を非破壊で評価することができる。特に、被測定物となる布帛が経編生地等で製造されている場合には布帛中からポリウレタン弾性糸のみを抜き出すことが困難であるため、布帛自体を傷める恐れのないラマンスペクトルを利用した方法を用いることで布帛を破壊せずに直接的かつ迅速にポリウレタン弾性糸の変形状態を評価することができる。
また、この構成によれば、基準データとなるポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データを用いて算出された散乱ピーク強度比データ及びポリウレタン弾性糸の変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所におけるポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データから算出された散乱ピーク強度比データを基に当該ポリウレタン弾性糸の変形状態が算出される。
このように、ポリウレタン弾性糸の変形状態に応じた基準としてポリウレタン弾性糸の変形状態に相関性の高い散乱ピーク強度比を基準データに用いることで、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所におけるポリウレタン弾性糸の変形状態が評価されるため、ポリウレタン弾性糸の変形状態の評価の正確さの精度を向上させることができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の評価実行プログラムにおいて、前記基準データ記憶手段は、前記基準データと、ポリウレタン弾性糸の伸張率に関する伸張率データを含む変形状態データとを対応付けて記憶し、前記伸張率データは、所定の製造条件下で製造されたポリウレタン弾性糸の伸張率、所定の組成からなるポリウレタン弾性糸の伸張率及び所定の製造条件かつ所定の組成によるポリウレタン弾性糸の伸張率の中の少なくともいずれかに関する伸張率データであることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、基準データ記憶手段に、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に作成した基準データと、当該ポリウレタン弾性糸の伸張率に関する伸張率データを含む変形状態データとが対応付けて記憶され、この伸張率データが、所定の製造条件下で製造されたポリウレタン弾性糸の伸張率、所定の組成からなるポリウレタン弾性糸の伸張率及び所定の製造条件かつ所定の組成によるポリウレタン弾性糸の伸張率の中の少なくともいずれかに関する伸張率データとされている。
【0012】
このように、所定の製造条件下で製造されたポリウレタン弾性糸、所定の組成からなるポリウレタン弾性糸及び所定の製造条件かつ所定の組成によるポリウレタン弾性糸の中の少なくともいずれかに関する伸張率データと、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に作成された基準データとが対応付けて記憶されているため、製造条件や組成に応じて変化するポリウレタン弾性糸の伸張率を評価するための基準を固定化することができる。従って、被測定物となる布帛中のポリウレタン弾性糸がどのような製造条件や組成によるものかがわかれば、当該ポリウレタン弾性糸の伸張率を評価するための基準が固定化されているため、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の製造条件や組成に応じて変化する伸張率を算出でき、精度の高い正確な評価を行うことができる。
【0016】
請求項記載の発明は、所定のデータに基づきデータ処理を行い、被測定物から得られたデータに基づいて当該被測定物に関する評価を行う評価装置であって、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に作成した基準データと、当該ポリウレタン弾性糸の変形状態を示す変形状態データとを記憶する基準データ記憶手段と、前記基準データ記憶手段に記憶されている基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所に対して測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基にポリウレタン弾性糸の変形状態データを算出する算出手段と、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データを用いて散乱ピーク強度比データを算出する散乱ピーク強度比データ算出手段とを備え、前記基準データ記憶手段は、前記基準データとなる前記散乱ピーク強度比データとポリウレタン弾性糸の変形状態データとを対応付けて記憶し、前記算出手段は、前記基準データ記憶手段に記憶されている前記基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所に対して測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データから前記散乱ピーク強度比データ算出手段によって算出された散乱ピーク強度比データを基に当該ポリウレタン弾性糸の変形状態データを算出することを特徴とする評価装置である。
【0017】
この構成によれば、評価装置において、基準データ記憶手段に、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に作成した基準データとポリウレタン弾性糸の変形状態データとが記憶されており、算出手段によって、基準データ記憶手段に記憶された基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物である布帛の所定の箇所から測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度データを基に当該ポリウレタン弾性糸の変形状態データが算出される。
【0018】
このように、ポリウレタン弾性糸から測定されたラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に作成された基準データ及びポリウレタン弾性糸の変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所におけるポリウレタン弾性糸の変形状態が算出されるので、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛から測定されたラマンスペクトルの散乱ピーク強度が得られれば、記憶された基準データ及び変形状態に基づいて、当該被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態を定量的に評価することができる。
【0019】
このため、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛から測定されたラマンスペクトルの散乱ピーク強度が得られれば、記憶された基準データ及び変形状態に基づいて、当該被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態を定量的に評価することができるので、ポリウレタン弾性糸を使用した布帛中におけるポリウレタン弾性糸の実際の変形状態が反映された正確な評価を行うことができると共に、被測定物である布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態を非破壊で評価することができる。特に、被測定物となる布帛が経編生地等で製造されている場合には布帛中からポリウレタン弾性糸のみを抜き出すことが困難であるため、布帛自体を傷める恐れのないラマンスペクトルを利用した方法を用いることで布帛を破壊せずに直接的かつ迅速にポリウレタン弾性糸の変形状態を評価することができる。
【0020】
請求項記載の発明は、所定のデータに基づきデータ処理を行うコンピュータを用いて被測定物から得られたデータに基づいて当該被測定物に関する評価を行う評価方法であって、前記コンピュータが、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に作成した基準データと、当該ポリウレタン弾性糸の変形状態を示す変形状態データとを記憶する基準データ記憶ステップと、前記コンピュータが、前記基準データ記憶ステップで記憶された基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所に対して測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に当該ポリウレタン弾性糸の変形状態データを算出する算出ステップと、前記コンピュータが、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データを用いて散乱ピーク強度比データを算出する散乱ピーク強度比データ算出ステップとを備え、前記基準データ記憶ステップは、前記基準データとなる前記散乱ピーク強度比データとポリウレタン弾性糸の変形状態データとを対応付けて記憶し、前記算出ステップは、前記基準データ記憶ステップによって記憶された前記基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所に対して測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データから前記散乱ピーク強度比データ算出ステップによって算出された散乱ピーク強度比データを基に当該ポリウレタン弾性糸の変形状態データを算出することを特徴とする評価方法である。
【0021】
この構成によれば、評価方法において、コンピュータによって、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に作成した基準データとポリウレタン弾性糸の変形状態データとが記憶されており、基準データ記憶手段に記憶された基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物である布帛の所定の箇所から測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度データを基に当該ポリウレタン弾性糸の変形状態データが算出される。
【0022】
このように、ポリウレタン弾性糸から測定されたラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に作成された基準データ及びポリウレタン弾性糸の変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所におけるポリウレタン弾性糸の変形状態が算出されるので、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛から測定されたラマンスペクトルの散乱ピーク強度が得られれば、記憶された基準データ及び変形状態に基づいて、当該被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態を定量的に評価することができる。
【0023】
このため、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛から測定されたラマンスペクトルの散乱ピーク強度が得られれば、記憶された基準データ及び変形状態に基づいて、当該被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態を定量的に評価することができるので、ポリウレタン弾性糸を使用した布帛中におけるポリウレタン弾性糸の実際の変形状態が反映された正確な評価を行うことができると共に、被測定物である布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態を非破壊で評価することができる。特に、被測定物となる布帛が経編生地等で製造されている場合には布帛中からポリウレタン弾性糸のみを抜き出すことが困難であるため、布帛自体を傷める恐れのないラマンスペクトルを利用した方法を用いることで布帛を破壊せずに直接的かつ迅速にポリウレタン弾性糸の変形状態を評価することができる。
【0024】
請求項記載の発明は、クライアント端末装置と、所定のデータに基づきデータ処理を行い、被測定物から得られたデータに基づいて当該被測定物に関する評価を行うサーバ装置とがネットワークを介して接続された評価システムであって、前記サーバ装置は、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に作成した基準データと、当該ポリウレタン弾性糸の変形状態を示す変形状態データとを記憶する基準データ記憶手段と、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所に対して測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルデータを前記クライアント端末装置から受信するラマンスペクトルデータ受信手段と、前記基準データ記憶手段に記憶されている基準データ及び変形状態データに基づいて、前記ラマンスペクトルデータ受信手段によって受信されたラマンスペクトルデータから得られる当該ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基にポリウレタン弾性糸の変形状態データを算出する算出手段と、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データを用いて散乱ピーク強度比データを算出する散乱ピーク強度比データ算出手段とを備え、前記基準データ記憶手段は、前記基準データとなる前記散乱ピーク強度比データとポリウレタン弾性糸の変形状態データとを対応付けて記憶し、前記算出手段は、前記基準データ記憶手段に記憶されている前記基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所に対して測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データから前記散乱ピーク強度比データ算出手段によって算出された散乱ピーク強度比データを基に当該ポリウレタン弾性糸の変形状態データを算出し、前記算出手段によって算出されたポリウレタン弾性糸の変形状態データを評価結果データとして前記クライアント端末装置に送信する評価結果データ送信手段とを備えることを特徴とする評価システムである。
【0025】
この構成によれば、ポリウレタン弾性糸から測定されたラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に作成された基準データ及びポリウレタン弾性糸の変形状態データに基づいて、クライアント端末装置から受信された被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所におけるラマンスペクトルデータを基にポリウレタン弾性糸の変形状態データが算出され、算出されたポリウレタン弾性糸の変形状態データが評価結果データとして当該クライアント端末装置に送信される。
【0026】
このため、評価システムにおいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛から測定されたラマンスペクトルがクライアント端末装置から得られれば、記憶された基準データ及び変形状態に基づいて、当該被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態が定量的に評価されて当該ポリウレタン弾性糸の変形状態が評価結果としてクライアント端末装置に通知されるため、当該評価結果に基づいてポリウレタン弾性糸を使用した布帛の製造工程等にフィードバックすることで製造時の品質管理に役立てることができる。また、ポリウレタン弾性糸の変形状態を被測定物となる布帛の製造条件や組成と対応付けてサーバ装置側で記憶しておけば、ラマンスペクトルデータと共に当該ラマンスペクトルデータが得られた布帛の製造条件や組成に関するデータを合わせてクライアント端末装置から受信した場合に、精度の高い正確な評価結果がクライアント端末装置に提供されるため、ユーザは精度の高い正確なデータに基づいた品質管理を行うことができる
【0027】
【発明の実施の形態】
まず、本発明に係る評価装置の一実施形態について説明するに先立ち、本発明に至った背景について説明する。本発明は、以下で述べる事実を基礎とするものである。
【0028】
なお、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルを測定するための測定機器として顕微ラマン分光光度計(日本電子(株)製JRS−SYSTEM1000)を使用した。また、上記顕微ラマン分光光度計によって測定されたラマンスペクトルの散乱ピーク強度の波形分離には解析ソフトウエア(Galactic Industry製GRAMS)を使用した。以下、上記測定機器と上記解析ソフトウエアを有するパーソナルコンピュータ等の計算機器を用いての解析の例を説明する。なお、ラマンスペクトルを測定するための測定機器或いはパーソナルコンピュータ等の計算機器については上述した機器は一例であり、これらの機器のみに限定されない。
【0029】
本発明に用いるポリウレタン弾性糸としては、ソフトセグメントとしてポリエーテル系、ポリエステル系またはこれらの共重合体等を用い、ハードセグメントとしてジイソシアネート、ジアミン等を用いたウレアタイプ、ウレタンウレアタイプ等があり、乾式紡糸、溶融紡糸、湿式紡糸などで得られる通常市販されているポリウレタン弾性糸である。また紡糸より糸状にした時、弾性を示す熱可塑性エラストマーでも良い。また、これらの糸には酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、難燃剤、吸湿剤などの添加物を含有していてもよい。
【0030】
まず、ポリウレタン弾性糸の一例となる44デシテックスのエーテル系ポリウレタン弾性糸を例に取って説明する。
【0031】
44デシテックスのエーテル系ポリウレタン弾性糸を、両端を固定し任意の伸張状態を保持できるような冶具に取り付けた。この冶具によりポリウレタン弾性糸を無伸張状態から300%伸張状態まで50%毎に伸張しつつ顕微ラマン分光光度計を用いてラマンスペクトルを測定した。
【0032】
図1は、顕微ラマン分光光度計で測定したエーテル系ポリウレタン弾性糸ラマンスペクトルの一例を示す図であり、ここでは、ポリウレタン弾性糸が無伸張状態であるときのラマンスペクトルを示すものである。図1に示すように、得られたラマンスペクトルのラマンシフト値1100cm-1以上1200cm-1以下の範囲内、ラマンシフト値1250cm-1以上1350cm-1以下の範囲内、ラマンシフト値1400cm-1以上1500cm-1以下の範囲内での複数の散乱ピーク強度がポリウレタン弾性糸の伸張状態に伴い変化することが判明した。なお、散乱ピーク強度とは、所定のラマンシフト値における極大値を示すものである。
【0033】
本解析においては、上述したラマンシフト値のうちのラマンシフト値1400cm-1以上1500cm-1以下の範囲内における波形分離を上記解析ソフトウエアを用いて、顕微ラマン分光光度計によって測定されたラマンスペクトルの散乱ピーク強度の波形分離を行い、得られた散乱ピーク強度を用いて散乱ピーク強度比を算出した。なお、散乱ピーク強度比は、下記の関係式(1)に示すラマンシフト値における散乱ピーク強度を用いて算出している。
【0034】
(1)散乱ピーク強度比=ラマンシフト値1447cm-1における散乱ピーク強度/ラマンシフト値1435cm-1における散乱ピーク強度
算出された複数の散乱ピーク強度比を50%ごとに伸張させた伸張率に応じてプロットしたところ、図2に示すように良好な相関関係が得られた。図2は、ポリウレタン弾性糸の伸張率と散乱ピーク強度比との対応関係を示す図である。なお、図2においては、算出された複数の散乱ピーク強度比をポリウレタン弾性糸の伸張率に応じてプロットしたが、例えば、所定の製造条件下で製造されたポリウレタン弾性糸の伸張率や所定の組成からなるポリウレタン弾性糸の伸張率であり、温度や紡糸速度等が異なる製造条件及び異なる組成からなるポリウレタン弾性糸の伸張率ごとに対応する散乱ピーク強度比をプロットすることで複数の対応関係を示すデータを得ることができる。
【0035】
また、上記方法とは逆に300%伸張状態から無伸張状態まで50%毎にポリウレタン弾性糸を収縮させつつラマンスペクトルを測定し、上記関係式(1)によってラマン散乱ピーク強度比を算出したところ、各伸張率において伸張していったときと全く同様な相関関係が得られることが判明した。さらに、上記収縮を繰り返しても、常に図2に示す相関関係が保たれていることが確認された。従って、図2を布帛中におけるポリウレタン弾性糸の伸張率を得るためのマスターカーブ(基準データ)として用いることができる。
【0036】
上述してきたように、顕微ラマン分光光度計を用いて、同一のポリウレタン弾性糸の伸張率を変化させながらラマンスペクトルを測定すると、ラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度がポリウレタン弾性糸の伸張率の差によって相対的に変化することが判明した。
【0037】
上記事実に基づけば、ポリウレタン弾性糸から得られるラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度が、伸張変形に伴う張力変化や構造変化、或いは製造工程等の相違によって発生する組成差によってパターンが系統的に変化することが判明した。
【0038】
次に、上記44デシテックスのエーテル系ポリウレタン弾性糸と44デシテックスのナイロンからなる経編生地中(布帛中)のポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルを顕微ラマン分光光度計を用いて測定した。上述した手順と同様に、ラマンシフト値のうちのラマンシフト値1400cm-1以上1500cm-1以下の範囲内における波形分離を上記解析ソフトウエアを用いて、顕微ラマン分光光度計によって測定されたラマンスペクトルの散乱ピーク強度の波形分離を行い、得られた散乱ピーク強度を用いて上記の関係式(1)に示す散乱ピーク強度比を算出した。この結果、算出された散乱ピーク強度比は、0.97となった。
【0039】
この数値を図2のマスターカーブと比較すると、布帛中におけるポリウレタン弾性糸の伸張率が130%であることが判明した。
【0040】
上記の測定においてサンプルとして使用された布帛は、カールマイヤー社製のトリコット編機(HKS2、仕掛幅130インチ、28ゲージ/インチ、2枚筬)を使用し、下記のような条件で生地(布帛)を編成したものである。使用筬として、F(フロント)筬とB(バック)筬とをそれぞれ使用し、前者(F(フロント)筬)は、編組織が10/23、使用糸種がナイロン44T−34F、ランナー(cm/Rack)が155.0であり、後者(B(バック)筬)は、編組織が12/10、使用糸種がエスパ44T、ランナー(cm/Rack)が85.0である。また、エスパ44Tの整経ドラフトは100%である。上記の編成条件で得られた編地を精錬し、190℃,45秒でプレセットした。プレセット時の密度設定は、95コース/インチ、55ウエール/インチとし、プレセット後に液流染色機を使用して100℃,30分の染色を行った。更にこの後、170℃,45秒のファイナルセットを行い、100コース/インチ,58ウエール/インチの密度に仕上げた。なお、生地の規格については、トリコット生地の場合の規格は、縦方向の密度(コース密度)(コース/インチで表現)、横密度(ウエール密度)(ウエール/インチで表現)である。
【0041】
次に、例えば、スジや段等の欠点部が発生している上記布帛中における欠点部(a)ウェール間隔の広い部分と、欠点部(b)ウェール間隔の狭い部分と2ヵ所についてポリウレタン弾性糸のラマンスペクトル測定を行い、上記数式(1)の散乱ピーク強度比を算出したところ、(a)120%、(b)180%であることが判明した。
【0042】
このように、ラマンスペクトルを利用することによって布帛中におけるポリウレタン弾性糸の伸張率が算出されるため、ポリウレタン弾性糸を含む布帛を非破壊かつ正確に評価することができた。またポリウレタン弾性糸の正常部と欠点部との伸張率の差に基づいて、商品として問題となるスジや段等の布帛上の欠点が発生していることが判明した。
【0043】
従って、被測定物となるポリウレタン弾性糸を含む布帛中の所定の箇所(正常部と欠点部等)に相当するポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルを測定して、上記マスターカーブとの対比から布帛中の正常部と欠点部とのポリウレタン弾性糸の伸張率差を非破壊かつ正確に評価することができる。そのため、布帛中の正常部と欠点部とにおける伸張率の差からポリウレタン弾性糸を含む布帛にどのような欠点が表れるのかを特定することができる。従って、布帛における正常部と欠点部との伸張率の差に応じて発生する布帛中の欠点の原因を解析することができる。
【0044】
つづいて、上述した事実を基礎として、本発明に係る評価装置の一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0045】
本発明で用いるポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルは、可視レーザー励起の顕微ラマン分光光度計や近赤外レーザー励起の顕微ラマン分光光度計等を用いて測定されたラマンスペクトルを用いればよく特に限定されない。しかし、近赤外レーザー励起のラマン分光計を用いた方が、蛍光によるラマンスペクトルへの妨害を減少できることからより好ましい。本発明において、ポリウレタン弾性糸の変形状態を評価するのに、ラマンスペクトルにおけるラマンシフト値の範囲内にあるポリウレタン弾性糸の複数の散乱ピーク強度を利用する。このとき、本発明で用いられる複数の散乱ピーク強度は、所定のラマンシフト値間の範囲内における極大値である。
【0046】
また、定量に使用するラマンシフト値として、例えばラマンシフト値1100cm-1以上1200cm-1以下の範囲内、ラマンシフト値1250cm-1以上1350cm-1以下の範囲内、ラマンシフト値1400cm-1以上1500cm-1以下の範囲内のラマンシフト波数領域を選択する。なお、使用するラマンシフト波数領域の選択は、顕微ラマン分光光度計から得られたデータを取り込む際に行ってもよく、又はそれよりも広いシフト波数領域のデータを取り込んでおき、データ処理の際に所望のシフト波数領域のデータを使用するようにすることによってシフト波数領域を選択してもよい。
【0047】
まず、本発明に係る評価装置1のハードウエア構成について詳細に説明する。
【0048】
図3は、本発明に係る評価装置のハードウエア構成を示す図の一例である。評価装置1は、通常のパーソナルコンピュータ等から構成され、ROM(リードオンリメモリ)11、CPU(中央演算処理装置)12、RAM(ランダムアクセスメモリ)13、外部記憶装置14、入力部15、表示部16及び記録媒体駆動装置17、A/D変換器18を含む。なお、図3におけるA/D18とは、A/D変換器18である。また、図3に示すラマン分光光度計とは、顕微ラマン分光光度計を示している。
【0049】
コンピュータ内の上記の各ブロックは内部のバスに接続され、このバスを介して種々のデータ等がコンピュータ内部で入出力され、CPU12の制御の下、ポリウレタン弾性糸の変形状態の評価を行うための種々の処理が実行される。
【0050】
ROM11には、コンピュータを動作させるための基本プログラム等が予め記憶されている。RAM13は、CPU12の作業領域等として用いられる。記録媒体17aは、コンピュータ読み出し可能な記録媒体であり、例えば、CD−ROMから構成される。このCD−ROMは、ポリウレタン弾性糸の変形状態の評価を行うための評価実行プログラム等が記憶されている。
【0051】
記録媒体駆動装置17は、CD−ROMドライブ等から構成され、CPU12の制御の下、記録媒体17aから評価実行プログラム等を読み出し、必要に応じて評価実行プログラム等が外部記憶装置14にインストールされる。
【0052】
なお、記録媒体17aは、上記の例に特に限定されず、DVDドライブ、フロッピーディスクドライブ等の他の記録媒体駆動装置が付加されている場合、DVD、フロッピーディスク等の他のコンピュータ読み取り可能な記録媒体を用いて評価実行プログラム等を外部記憶装置14にインストールするようにしてもよい。
【0053】
外部記憶装置14は、ハードディスクドライブ等の外部記憶装置から構成される。外部記憶装置14には、上記のようにして評価実行プログラムがインストールされるとともに、種々のプログラムが通常の方法によって予めインストールされている。
【0054】
CPU12は、ROM11から基本プログラム等を読み出すとともに、外部記憶装置14から評価実行プログラム等を読み出し、ポリウレタン弾性糸の変形状態の評価を行うための基準データ作成処理及び評価処理等を実行する。なお、ROM11に基本プログラム等に加えて評価実行プログラムを記録しておいてもよく、この場合には、CPU12が、ROM11から基本プログラム等と評価実行プログラムを読み出し、ポリウレタン弾性糸の変形状態の評価を行うための基準データ作成処理及び評価処理等を実行する。
【0055】
入力部15は、キーボード及びマウス等から構成され、本実施の形態では、主にマウスを用いて操作者の操作に応じた種々の指令等が入力される。表示部16は、CRT(陰極線管)又は液晶表示装置等から構成され、CPU12の制御の下、ポリウレタン弾性糸の変形状態の評価の際に使用される種々の画面を静止画又は動画によって表示する。
【0056】
A/D変換器18は、図3に示す顕微ラマン分光光度計を用いて測定されたアナログ信号をディジタル信号に変換する。なお、アナログ信号をディジタル信号に変換する必要のない場合には、A/D変換器18ではなく、インターフェイス回路を用いてもよい。
【0057】
なお、インターネット等のネットワークを介して他の端末装置とのポリウレタン弾性糸の変形状態の評価に必要なデータ通信を行う必要がある場合には、モデムまたはルータ等から構成され、インターネット等のネットワークを介して他の端末装置とのデータ通信を制御するための通信装置を備えてもよい。
【0058】
このように、本実施形態では、CPU12等が、散乱ピーク強度比データ算出手段、算出手段に相当し、RAM13や外部記憶装置14等が基準データ記憶手段に相当する。
【0059】
次に、上記のように構成された評価装置1を用いた評価方法について詳細に説明する。
【0060】
まず、評価装置1が行う基準データ作成処理について説明する。図4は、評価装置1が行う基準データ作成処理の一例を示すフローチャートである。なお、図4に示す基準データ作成処理は、CPU12が評価実行プログラム等を実行することによって行われる処理である。
【0061】
まず、図4に示すステップS1において、CPU12は、入力部15から被測定物となるポリウレタン弾性糸の伸張率を受け付ける。伸張率は、異なる製造条件下で製造されたポリウレタン弾性糸や異なる組成からなるポリウレタン弾性糸から測定されたものである。
【0062】
なお、本発明に係る基準データの定量に使用するラマンシフト値として、例えばラマンシフト値1100cm-1以上1200cm-1以下の範囲内、ラマンシフト値1250cm-1以上1350cm-1以下の範囲内、ラマンシフト値1400cm-1以上1500cm-1以下の範囲内のラマンシフト波数領域を選択する。なお、使用するラマンシフト波数領域の選択は、顕微ラマン分光光度計から得られたデータを取り込む際に行なってもよく、又はそれよりも広いシフト波数領域のデータを取り込んでおき、データ処理の際に所望のシフト波数領域のデータを使用するようにすることによってシフト波数領域を選択してもよい。
【0063】
次に、ステップS2において、CPU12は、被測定物となるポリウレタン弾性糸から顕微ラマン分光光度計を用いて測定されたラマンスペクトルデータをA/D変換器18を介して受け付ける。
【0064】
次に、ステップS3において、CPU12は、ステップS2において受け付けたラマンスペクトルデータに基づき予め選択された所定のラマンシフト値における散乱ピーク強度を算出する。本実施形態においては、A/D変換器18を介して受け付けられたラマンスペクトルデータに基づいて、ラマンシフト値1447cm-1とラマンシフト値1435cm-1とにおける散乱ピーク強度がそれぞれ算出される。
【0065】
次に、ステップS4において、CPU12は、ステップS3において算出された複数の散乱ピーク強度を用いて散乱ピーク強度比を算出する。具体的には、ステップS3において得られたラマンシフト値1447cm-1における散乱ピーク強度をラマンシフト値1435cm-1における散乱ピーク強度で除算することで散乱ピーク強度比を算出する。
【0066】
次に、ステップS5において、CPU12は、ステップS1において入力受け付けた全てのポリウレタン弾性糸の伸張率について散乱ピーク強度比を算出したか否かを判断し、受け付けた全ての伸張率ついて散乱ピーク強度比の算出が終了していない場合(ステップS5でNO)にはステップS2に戻り、終了したと判断した場合(ステップS5でYES)には、算出した散乱ピーク強度比を伸張率に対応付けて基準データとして記憶する(ステップS6)。この場合、例えば、散乱ピーク強度比とポリウレタン弾性糸の伸張率とを製造条件や組成の違いに応じてテーブル形式で対応付けてRAM13等に記憶する。
【0067】
また、CPU12は、ステップS6において記憶された基準データを、縦軸(散乱ピーク強度)、横軸(伸張率)に対応させてこの平面上にプロットすることで所定の曲線を利用してマスターカーブを作成する。なお、所定の曲線は、一次関数、二次関数等を用いることができる。
【0068】
つづいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛におけるポリウレタン弾性糸の変形状態として伸張率を評価する方法について詳細に説明する。
【0069】
図5は、評価装置1が行うポリウレタン弾性糸の変形状態の評価処理の一例を示すフローチャートである。なお、図5に示すポリウレタン弾性糸の変形状態の評価処理は、CPUが評価実行プログラム等を実行することによって行われる処理である。
【0070】
まず、図5に示すステップS11において、CPU12は、入力部15から被測定物となるポリウレタン弾性糸の製造条件や組成に関するデータを受け付ける。
【0071】
次に、ステップS12において、CPU12は、被測定物となるポリウレタン弾性糸から顕微ラマン分光光度計を用いて測定されたラマンスペクトルデータをA/D変換器18を介して受け付ける。
【0072】
次に、ステップS13において、CPU12は、ステップS12において受け付けたラマンスペクトルデータに基づき予め選択された所定のラマンシフト値における散乱ピーク強度を算出する。本実施形態においては、A/D変換器18を介して受け付けられたラマンスペクトルデータに基づいて、ラマンシフト値1447cm-1とラマンシフト値1435cm-1とにおける散乱ピーク強度がそれぞれ算出される。
【0073】
次に、ステップS14において、CPU12は、ステップS13において算出された複数の散乱ピーク強度を用いて散乱ピーク強度比を算出する。具体的には、ステップS13において得られたラマンシフト値1447cm-1における散乱ピーク強度をラマンシフト値1435cm-1における散乱ピーク強度で除算することで散乱ピーク強度比を算出する。
【0074】
次に、ステップS15において、CPU12は、ステップS11において受け付けた製造条件や組成に関するデータに対応する基準データをRAM13等から読み出し、読み出された基準データとステップS14において算出された散乱ピーク強度比とを比較する。
【0075】
次に、ステップS16において、CPU12は、ステップS14で算出された散乱ピーク強度比と、ステップS15において読み出された基準データとに基づいて被測定物となるポリウレタン弾性糸の伸張率を算出する。
【0076】
なお、ポリウレタン弾性糸の伸張率を算出する方法として、ステップS14において算出された散乱ピーク強度比に対応付け可能な値で基準データとして製造条件や組成の違いに応じてテーブル形式で記憶されている散乱ピーク強度比データとポリウレタン弾性糸の伸張率データとの2つのデータ値における中間値データを求めることで被測定物となるポリウレタン弾性糸の伸張率を算出する手法を用いてもよい。
【0077】
このように、上述した手順を利用すれば、被測定物となる布帛中の正常部となる箇所と欠点部となる箇所から測定されたラマンスペクトルデータを用いて欠点部と正常部との間でどのような伸張率の差があれば布帛にスジや段等の欠点が表れるのかを検証するのに役立てることができる。例えば、製造工程において所定の温度で製造されたポリウレタン弾性糸を使用した布帛において正常部における伸張率が150%と欠点部における伸張率が200%である場合であれば、布帛にスジ等の欠点部が表れる。このような欠点部を有する布帛中の正常部と欠点部とにおけるポリウレタン弾性糸の伸張率を算出してデータとして蓄積していくことで、ポリウレタン弾性糸を使用した布帛を製造する際の製造条件差や組成差によって布帛にどのような欠点が表れるのかを正確に検証することができ、製造工程における品質管理に役立てることができる。
【0078】
つづいて、上記評価装置の応用例として、本発明に係る評価システムについて詳細に説明する。
【0079】
図6は、本発明に係る評価システムの構成図の一例である。本発明に係る評価システムは、インターネット等のネットワーク上に設置されたサーバ装置100と、当該ネットワークを介して接続されたクライアント端末装置200とから構成される。
【0080】
サーバ装置100は、本発明に係る評価実行プログラムを備えたサーバコンピュータ等であり、ネットワークを介してクライアント端末装置200とデータ通信を行い、評価実行プログラムに基づいてクライアント端末装置200から受信したラマンスペクトルデータに基づき被測定物となるポリウレタン弾性糸の変形状態を評価する。
【0081】
次に、サーバ装置100のハードウエア構成について説明する。サーバ装置100は、ROM101、CPU102、RAM103、外部記憶装置104及び通信装置105を含む。
【0082】
サーバコンピュータ内の上記の各ブロックは内部のバスに接続され、このバスを介して種々のデータ等がコンピュータ内部で入出力され、CPU102の制御の下、ポリウレタン弾性糸の変形状態の評価を行うための種々の処理が実行される。
【0083】
CPU102は、ROM101から基本プログラム等を読み出すとともに、外部記憶装置104から評価実行プログラム等を読み出し、ポリウレタン弾性糸の変形状態の評価を行うための評価処理等を実行する。なお、ROM101に基本プログラム等に加えて評価実行プログラムを記録しておいてもよく、この場合には、CPU102が、ROM101から基本プログラム等と評価実行プログラムを読み出し、ポリウレタン弾性糸の変形状態の評価を行うための評価処理等を実行する。RAM103は、CPU102の作業領域等として用いられる。
【0084】
外部記憶装置104は、ハードディスクドライブ等の外部記憶装置から構成される。外部記憶装置104には、評価実行プログラムがインストールされているとともに、種々のプログラムが通常の方法によって予めインストールされている。
【0085】
通信装置105は、モデムまたはルータ等から構成され、インターネット等のネットワークを介して他の端末装置(例えば、クライアント端末装置)とのデータ通信を制御する。通信装置105は、CPU102の制御下で、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用する布帛から測定されたラマンスペクトルデータ及び当該被測定物となる布帛の製造条件データ・組成データをクライアント端末装置200から受信すると共に、当該被測定物となるポリウレタン弾性糸の変形状態を示す評価結果データをクライアント端末装置200に送信する。
【0086】
このように、本実施形態では、CPU102等が、ラマンスペクトルデータ受信手段、算出手段、評価結果データ送信手段に相当し、RAM103や外部記憶装置104が、基準データ記憶手段に相当する。なお、ラマンスペクトルデータ受信手段は、製造条件・組成に関するデータと被測定物となる布帛から測定されたラマンスペクトルデータとをラマンスペクトルデータとしてクライアント端末装置200から受信する。
【0087】
クライアント端末装置200は、例えばポリウレタン弾性糸を使用した布帛等を製造する製造業者(ユーザ)等により使用される端末装置である。クライアント端末装置200は、顕微ラマン分光光度計等から測定されたラマンスペクトルデータの入力を受け付け、ネットワークを介して他の端末機器とデータ通信可能に構成されている。
【0088】
クライアント端末装置200のハードウエア構成について説明する。クライアント端末装置200は、通常のパーソナルコンピュータ等から構成され、ROM201、CPU202、RAM203、外部記憶装置204、入力部205、表示部206、記録媒体駆動装置207、A/D変換器208及び通信装置209を含む。なお、図6におけるA/D208とは、A/D変換器208である。
【0089】
コンピュータ内の上記の各ブロックは内部のバスに接続され、このバスを介して種々のデータ等がコンピュータ内部で入出力され、CPU202の制御の下、種々の処理が実行される。
【0090】
ROM201には、コンピュータを動作させるための基本プログラム等が予め記憶されている。RAM203は、CPU202の作業領域等として用いられる。記録媒体207aは、コンピュータ読み出し可能な記録媒体であり、例えば、CD−ROMから構成される。このCD−ROMは、ラマンスペクトルデータ等の入力受付を行うためのプログラム等が記憶されている。
【0091】
記録媒体駆動装置207は、CD−ROMドライブ等から構成され、CPU202の制御の下、記録媒体207aからラマンスペクトルデータ等の入力受付を行うためのプログラム等を読み出し、必要に応じて外部記憶装置204にインストールされる。
【0092】
なお、記録媒体207aは、上記の例に特に限定されず、DVDドライブ、フロッピーディスクドライブ等の他の記録媒体駆動装置が付加されている場合、DVD、フロッピーディスク等の他のコンピュータ読み取り可能な記録媒体を用いて上記プログラム等を外部記憶装置204にインストールするようにしてもよい。
【0093】
外部記憶装置204は、ハードディスクドライブ等の外部記憶装置から構成される。外部記憶装置204には、上記のようにしてラマンスペクトルデータ等の入力受付を行うためのプログラムがインストールされるとともに、種々のプログラムが通常の方法によって予めインストールされている。
【0094】
CPU202は、ROM201から基本プログラム等を読み出すとともに、外部記憶装置204からラマンスペクトルデータ等の入力受付を行うためのプログラム等を読み出し、当該プログラム等を実行する。なお、ROM201に基本プログラム等に加えてラマンスペクトルデータの入力受付プログラムを記録しておいてもよく、この場合には、CPU202が、ROM201から基本プログラム等と上記プログラムを読み出し、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルデータ等の入力受付処理を実行する。
【0095】
入力部205は、キーボード及びマウス等から構成され、本実施の形態では、主にマウスを用いて操作者の操作に応じた種々の指令等が入力される。ここでは、ポリウレタン弾性糸を使用した布帛の製造条件や組成に関するデータが入力される。表示部206は、CRT(陰極線管)又は液晶表示装置等から構成され、CPU202の制御の下、ラマンスペクトルデータ、製造条件や組成に関するデータ及びポリウレタン弾性糸の変形状態の評価結果データ等を種々の画面を静止画又は動画によって表示する。
【0096】
A/D変換器208は、図6に示す顕微ラマン分光光度計を用いて測定されたアナログ信号をディジタル信号に変換する。なお、アナログ信号をディジタル信号に変換する必要のない場合には、A/D変換器208ではなく、インターフェイス回路を用いてもよい。
【0097】
通信装置209は、モデムまたはルータ等から構成され、インターネット等のネットワークを介して他の端末装置(サーバ装置)とのデータ通信を制御する。通信装置209は、CPU202の制御下で、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用する布帛から測定されたラマンスペクトルデータ及び当該被測定物となる布帛の製造条件データ・組成データをサーバ装置100に送信すると共に、当該被測定物となるポリウレタン弾性糸の変形状態を示す評価結果データをサーバ装置100から受信する。
【0098】
図7は、評価システムにおけるポリウレタン弾性糸の変形状態の評価処理の一例を示すフローチャートである。なお、図7に示すポリウレタン弾性糸の変形状態の評価処理は、サーバ装置100側のCPU102とクライアント端末装置200側のCPU202とが所定のプログラムをそれぞれ実行することによって行われる処理を示すものである。
【0099】
まず、図7に示すステップS21において、CPU202は、入力部205から被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用する布帛の製造条件・組成に関するデータの入力を受け付ける。
【0100】
次に、ステップS22において、CPU202は、被測定物となるポリウレタン弾性糸から顕微ラマン分光光度計を用いて測定されたラマンスペクトルデータを、A/D変換器208を介して受け付ける。被測定物となる布帛にスジや段等の欠点部が表れている場合等には、正常部と欠点部とにおいて測定されたラマンスペクトルデータをそれぞれ受け付ける。
【0101】
次に、ステップS23において、CPU202は、ステップS21及び22において受け付けた製造条件・組成に関するデータ及び測定されたラマンスペクトルデータを、通信装置209からネットワークを介してサーバ装置100に送信する。
【0102】
次に、ステップS24において、CPU102は、ステップS23においてクライアント端末装置200から送信された製造条件・組成に関するデータ及び測定されたラマンスペクトルデータを、通信装置105からネットワークを介して受信する。
【0103】
次に、ステップS25において、CPU102は、ステップS24においてクライアント端末装置200から受信したラマンスペクトルデータに基づいて、予め選択された所定のラマンシフト値における散乱ピーク強度を算出する。本実施形態においては、通信装置105からネットワークを介して受信したラマンスペクトルデータに基づいて、ラマンシフト値1447cm-1とラマンシフト値1435cm-1とにおける散乱ピーク強度がそれぞれ算出される。
【0104】
次に、ステップS26において、CPU102は、ステップS25で算出された複数の散乱ピーク強度を用いて散乱ピーク強度比を算出する。具体的には、ステップS25において得られたラマンシフト値1447cm-1における散乱ピーク強度をラマンシフト値1435cm-1における散乱ピーク強度で除算することで散乱ピーク強度比を算出する。
【0105】
次に、ステップS27において、CPU102は、ステップS24においてラマンスペクトルデータと共にクライアント端末装置200から受信した製造条件や組成に関するデータに対応する基準データをRAM103等から読み出し、読み出された基準データとステップS26において算出された散乱ピーク強度比とを比較する。
【0106】
次に、ステップS28において、CPU102は、ステップS26で算出された散乱ピーク強度比と、ステップS27において読み出された基準データとに基づいて被測定物となるポリウレタン弾性糸の伸張率を算出する。ステップS24において、被測定物となる布帛の正常部と欠点部とにおいて測定されたラマンスペクトルデータを受信した場合には、正常部及び欠点部におけるポリウレタン弾性糸の伸張率がそれぞれ算出される。
【0107】
次に、ステップS29において、CPU102は、ステップS28において算出された被測定物となるポリウレタン弾性糸の伸張率を評価結果データとして出力する。
【0108】
次に、ステップS30において、CPU102は、ステップS29において出力された評価結果データを通信装置105によりネットワークを介してクライアント端末装置200に送信する。
【0109】
次に、ステップS31において、CPU202は、ステップS30においてサーバ装置100から送信された評価結果データを通信装置209によりネットワークを介してサーバ装置100から受信する。
【0110】
このように、上述した手順を利用すれば、ポリウレタン弾性糸を使用した布帛を製造する製造業者等であるユーザは、顕微ラマン分光光度計を用いて被測定物となる布帛中から測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルデータを当該被測定物となる布帛の製造条件・組成に関するデータと共にサーバ装置100に送信すれば、当該布帛中に含まれるポリウレタン弾性糸の変形状態を表わす評価結果がサーバ装置100からの返信によって得られる。このため、ユーザは製造したポリウレタン弾性糸を使用した布帛中にスジや段等の欠点部が表れた場合、当該布帛から測定されたラマンスペクトルデータと当該布帛の製造条件や組成に関するデータとに基づいてサーバ装置100側で当該布帛におけるポリウレタン弾性糸の伸張率が評価されるため、ユーザ側のポリウレタン弾性糸を使用した布帛の製造工程における品質管理に役立てることができる。また、スジや段等の欠点部が表れたポリウレタン弾性糸を使用した布帛の正常部となる箇所と欠点部となる箇所とからそれぞれ測定されたラマンスペクトルデータを用いることで、これらの欠点部と正常部との間でどのような伸張率の差があれば、実際に布帛にスジや段等の欠点部が表れるのかの検証に役立てることができる。
【0111】
なお、本発明は以下のような態様を取ることもできる。
【0112】
(1)本実施形態では、ポリウレタン弾性糸を使用した布帛として44デシテックスのエーテル系ポリウレタン弾性糸と44デシテックスのナイロンとからなる経編生地中のポリウレタン弾性糸から測定されたラマンスペクトルを一例にあげて説明したが、本発明は上記布帛に限定されることなく、他の素材と組み合わされたポリウレタン弾性糸を含む布帛であってもよい。この場合において、本発明に適用される布帛ごとに顕微ラマン分光光度計を用いて測定された正常部と欠点部との伸張率の差が布帛に現れる種々のパターンを品質に関するデータとして管理しておくことで製造工程における品質管理等に迅速に適用させることができる。
【0113】
(2)本実施形態では、評価システムにおいて、サーバ装置100は、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛中の所定の箇所におけるポリウレタン弾性糸の伸張率を評価結果データとして出力してクライアント端末装置200に送信する構成について説明したが、評価結果データとしてクライアント端末装置200に送信されるデータは、ポリウレタン弾性糸の伸張率データのみに限定されることなく、例えば、スジや段等の欠点部が表れている布帛の正常部と欠点部とにおける伸張率の差に関するデータ等をポリウレタン弾性糸の伸張率データと共に送信する構成としてもよい。
【0114】
(3)本実施形態では、評価装置1及びサーバ装置100において、散乱ピーク強度比とポリウレタン弾性糸の伸張率とを対応付けてRAM13,103等に記憶するように構成したが、さらに、スジや段等の欠点部が表れた布帛の正常部と欠点部との伸張率の差と布帛の状態データとを対応付けてRAM13,103等に記憶するように構成してもよい。布帛の状態データとは、布帛に表れているスジや段等の欠点部の程度を示すものである。従って、布帛中の所定の箇所における伸張率をどのように保てば、例えば商品として欠点部が表れない布帛を製造できるのかという基準が判明するため、この基準を参照して製造工程を確認することで欠点部を有する布帛の発生率を抑制することが可能となる。
【0115】
【発明の効果】
請求項1記載の発明によれば、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛から測定されたラマンスペクトルの散乱ピーク強度が得られれば、記憶された基準データ及び変形状態に基づいて、当該被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態を定量的に評価することができるので、ポリウレタン弾性糸を使用した布帛中におけるポリウレタン弾性糸の実際の変形状態が反映された正確な評価を行うことができると共に、被測定物である布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態を非破壊で評価することができる。特に、被測定物となる布帛が経編生地等で製造されている場合には布帛中からポリウレタン弾性糸のみを抜き出すことが困難であるため、布帛自体を傷める恐れのないラマンスペクトルを利用した方法を用いることで布帛を破壊せずに直接的かつ迅速にポリウレタン弾性糸の変形状態を評価することができる。
また、ポリウレタン弾性糸の変形状態に応じた基準としてポリウレタン弾性糸の変形状態に相関性の高い散乱ピーク強度比を基準データに用いることで、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所におけるポリウレタン弾性糸の変形状態が評価されるため、ポリウレタン弾性糸の変形状態の評価の正確さの精度を向上させることができる。
【0116】
請求項2記載の発明によれば、所定の製造条件下で製造されたポリウレタン弾性糸、所定の組成からなるポリウレタン弾性糸及び所定の製造条件かつ所定の組成によるポリウレタン弾性糸の中の少なくともいずれかに関する伸張率データと、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に作成された基準データとが対応付けて記憶されているため、製造条件や組成に応じて変化するポリウレタン弾性糸の伸張率を評価するための基準を固定化することができる。従って、被測定物となる布帛中のポリウレタン弾性糸がどのような製造条件や組成によるものかがわかれば、当該ポリウレタン弾性糸の伸張率を評価するための基準が固定化されているため、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の製造条件や組成に応じて変化する伸張率を算出でき、精度の高い正確な評価を行うことができる。
【0118】
請求項記載の発明によれば、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛から測定されたラマンスペクトルの散乱ピーク強度が得られれば、記憶された基準データ及び変形状態に基づいて、当該被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態を定量的に評価することができるので、ポリウレタン弾性糸を使用した布帛中におけるポリウレタン弾性糸の実際の変形状態が反映された正確な評価を行うことができると共に、被測定物である布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態を非破壊で評価することができる。特に、被測定物となる布帛が経編生地等で製造されている場合には布帛中からポリウレタン弾性糸のみを抜き出すことが困難であるため、布帛自体を傷める恐れのないラマンスペクトルを利用した方法を用いることで布帛を破壊せずに直接的かつ迅速にポリウレタン弾性糸の変形状態を評価することができる。
【0119】
請求項記載の発明によれば、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛から測定されたラマンスペクトルの散乱ピーク強度が得られれば、記憶された基準データ及び変形状態に基づいて、当該被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態を定量的に評価することができるので、ポリウレタン弾性糸を使用した布帛中におけるポリウレタン弾性糸の実際の変形状態が反映された正確な評価を行うことができると共に、被測定物である布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態を非破壊で評価することができる。特に、被測定物となる布帛が経編生地等で製造されている場合には布帛中からポリウレタン弾性糸のみを抜き出すことが困難であるため、布帛自体を傷める恐れのないラマンスペクトルを利用した方法を用いることで布帛を破壊せずに直接的かつ迅速にポリウレタン弾性糸の変形状態を評価することができる。
【0120】
請求項記載の発明によれば、評価システムにおいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛から測定されたラマンスペクトルがクライアント端末装置から得られれば、記憶された基準データ及び変形状態に基づいて、当該被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛中のポリウレタン弾性糸の変形状態が定量的に評価されて当該ポリウレタン弾性糸の変形状態が評価結果としてクライアント端末装置に通知されるため、当該評価結果に基づいてポリウレタン弾性糸を使用した布帛の製造工程等にフィードバックすることで製造時の品質管理に役立てることができる。また、ポリウレタン弾性糸の変形状態を被測定物となる布帛の製造条件や組成と対応付けてサーバ装置側で記憶しておけば、ラマンスペクトルデータと共に当該ラマンスペクトルデータが得られた布帛の製造条件や組成に関するデータを合わせてクライアント端末装置から受信した場合に、精度の高い正確な評価結果がクライアント端末装置に提供されるため、ユーザは精度の高い正確なデータに基づいた品質管理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 顕微ラマン分光光度計によって測定されたエーテル系ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの一例を示す図である。
【図2】 ポリウレタン弾性糸の伸張率とラマン散乱ピーク強度比との対応関係を示す一例図である。
【図3】 本発明に係る評価装置のハードウエア構成を示す図の一例である。
【図4】 本発明に係る評価装置が行う基準データ作成処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】 本発明に係る評価装置が行うポリウレタン弾性糸の変形状態の評価処理の一例を示すフローチャートである。
【図6】 本発明に係る評価システムの構成図の一例である。
【図7】 本発明に係る評価システムにおけるポリウレタン弾性糸の変形状態の評価処理の一例を示すフローチャートである
【符号の説明】
1 評価装置
100 サーバ装置
200 クライアント端末装置
11,101,201 ROM
12,102,202 CPU
13,103,203 RAM
14,104,204 外部記憶装置
15,205 入力部
16,206 表示部
17,207 記録媒体駆動装置
17a,207a 記録媒体
18,208 A/D変換器
105,209 通信装置

Claims (5)

  1. 被測定物から得られたデータに基づいて当該被測定物に関する評価を行う評価実行プログラムであって、
    ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を示す散乱ピーク強度データを基に作成した基準データと、当該ポリウレタン弾性糸の変形状態を示す変形状態データとを記憶する基準データ記憶手段と、
    前記基準データ記憶手段に記憶されている基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所に対して測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度データを基に当該ポリウレタン弾性糸の変形状態データを算出する算出手段と
    ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データを用いて散乱ピーク強度比データを算出する散乱ピーク強度比データ算出手段として前記コンピュータを機能させ、
    前記基準データ記憶手段は、前記基準データとなる前記散乱ピーク強度比データとポリウレタン弾性糸の変形状態データとを対応付けて記憶し、
    前記算出手段は、前記基準データ記憶手段に記憶されている前記基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所に対して測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データから前記散乱ピーク強度比データ算出手段によって算出された散乱ピーク強度比データを基に当該ポリウレタン弾性糸の変形状態データを算出することを特徴とする評価実行プログラム。
  2. 前記基準データ記憶手段は、前記基準データと、ポリウレタン弾性糸の伸張率に関する伸張率データを含む変形状態データとを対応付けて記憶し、
    前記伸張率データは、所定の製造条件下で製造されたポリウレタン弾性糸の伸張率、所定の組成からなるポリウレタン弾性糸の伸張率及び所定の製造条件かつ所定の組成によるポリウレタン弾性糸の伸張率の中の少なくともいずれかに関する伸張率データであることを特徴とする請求項1記載の評価実行プログラム。
  3. 所定のデータに基づきデータ処理を行い、被測定物から得られたデータに基づいて当該被測定物に関する評価を行う評価装置であって、
    ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に作成した基準データと、当該ポリウレタン弾性糸の変形状態を示す変形状態データとを記憶する基準データ記憶手段と、
    前記基準データ記憶手段に記憶されている基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所に対して測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基にポリウレタン弾性糸の変形状態データを算出する算出手段と、
    ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データを用いて散乱ピーク強度比データを算出する散乱ピーク強度比データ算出手段とを備え、
    前記基準データ記憶手段は、前記基準データとなる前記散乱ピーク強度比データとポリウレタン弾性糸の変形状態データとを対応付けて記憶し、
    前記算出手段は、前記基準データ記憶手段に記憶されている前記基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所に対して測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データから前記散乱ピーク強度比データ算出手段によって算出された散乱ピーク強度比データを基に当該ポリウレタン弾性糸の変形状態データを算出することを特徴とする評価装置。
  4. 所定のデータに基づきデータ処理を行うコンピュータを用いて被測定物から得られたデータに基づいて当該被測定物に関する評価を行う評価方法であって、
    前記コンピュータが、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に作成した基準データと、当該ポリウレタン弾性糸の変形状態を示す変形状態データとを記憶する基準データ記憶ステップと、
    前記コンピュータが、前記基準データ記憶ステップで記憶された基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所に対して測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に当該ポリウレタン弾性糸の変形状態データを算出する算出ステップと、
    前記コンピュータが、ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データを用いて散乱ピーク強度比データを算出する散乱ピーク強度比データ算出ステップとを備え、
    前記基準データ記憶ステップは、前記基準データとなる前記散乱ピーク強度比データとポリウレタン弾性糸の変形状態データとを対応付けて記憶し、
    前記算出ステップは、前記基準データ記憶ステップによって記憶された前記基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所に対して測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データから前記散乱ピーク強度比データ算出ステップによって算出された散乱ピーク強度比データを基に当該ポリウレタン弾性糸の変形状態データを算出することを特徴とする評価方法。
  5. クライアント端末装置と、所定のデータに基づきデータ処理を行い、被測定物から得られたデータに基づいて当該被測定物に関する評価を行うサーバ装置とがネットワークを介して接続された評価システムであって、
    前記サーバ装置は、
    ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基に作成した基準データと、当該ポリウレタン弾性糸の変形状態を示す変形状態データとを記憶する基準データ記憶手段と、
    被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所に対して測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルデータを前記クライアント端末装置から受信するラマンスペクトルデータ受信手段と、
    前記基準データ記憶手段に記憶されている基準データ及び変形状態データに基づいて、前記ラマンスペクトルデータ受信手段によって受信されたラマンスペクトルデータから得られる当該ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの散乱ピーク強度を基にポリウレタン弾性糸の変形状態データを算出する算出手段と
    ポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データを用いて散乱ピーク強度比データを算出する散乱ピーク強度比データ算出手段とを備え、
    前記基準データ記憶手段は、前記基準データとなる前記散乱ピーク強度比データとポリウレタン弾性糸の変形状態データとを対応付けて記憶し、
    前記算出手段は、前記基準データ記憶手段に記憶されている前記基準データ及び変形状態データに基づいて、被測定物となるポリウレタン弾性糸を使用した布帛の所定の箇所に対して測定されたポリウレタン弾性糸のラマンスペクトルの複数の散乱ピーク強度データから前記散乱ピーク強度比データ算出手段によって算出された散乱ピーク強度比データを基に当該ポリウレタン弾性糸の変形状態データを算出し、
    前記算出手段によって算出されたポリウレタン弾性糸の変形状態データを評価結果データとして前記クライアント端末装置に送信する評価結果データ送信手段とを備えることを特徴とする評価システム。
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