JP4077677B2 - 耐切創性を有するウエア地及びそれを用いたシューズ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は耐切創性を有するウエア地及びそれを用いたシューズに関し、特に競艇用として好適なウエア地及びそれを用いたシューズに関する。
【0002】
【従来の技術】
競艇(モータボート競走)における事故の大部分は、落水時に発生する他艇等のスクリューによる切創事故と言われている。そのため選手の胴衣、ズボン、手袋等、全ての着衣(ウエア)において耐切創性が要求されるところである。
シューズについても例外ではない。例えば実用新案登録第3069347号公報、実用新案登録第3007325号公報には、アラミド繊維等の高強力繊維織物を何重にも積層したもの、或いはこれらに金属補強を施したものを用いたモータボート競技用靴が提供されている。
また特許第2913603号公報には、チタン或いはチタン合金製薄板を埋設した履物用踏抜防止中敷、踏抜防止履物が提供されている。この履物用踏抜防止中敷、踏抜防止履物では、チタン合金を用いることで重量を軽くし、また埋設された複数枚のチタン製薄板により相互の摺動性をもたらすようにしたことで、撓りやすく且つ踏抜に対する防止力を向上させている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した実新案登録第3069347号公報や実用新案登録第3007325号公報等に記載の靴では、高強力繊維を何重にも積層しているため、シューズの靴底部や靴甲部等が厚くなり過ぎ、又は靴底部や靴甲部等が硬くなり過ぎるため、選手等の足の可動、即ち足首やその他の関節の動きを大きく制限してしまうという問題があった。
また前記特許第2913603号公報等に記載の靴では、軽いチタンを用いているといっても金属であり、やはり重量が重くなり、特に複数枚を積層した場合には重量が増し且つ柔軟性が大きく低下する等、選手や作業者等の足の操作性には問題があった。
【0004】
そこで本発明は、上記従来の耐切創用の靴やウエアにおける問題点を解消し、競艇競技用やその他の切創事故が予想される競技、作業用に適した耐切創性に優れ、且つ軽くて柔軟性、動作性に優れたウエア地及びそのウエア地を用いたシューズの提供を課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の耐切創性を有するウエア地は、表面層と裏面層と中間層片とからなる競艇用のフットウエアを含むウエア地であって、前記表面層と裏面層と中間層片の全てを、金属を用いることなく、耐切創性の大きい有機繊維のみで構成し、且つ前記中間層片を、前記表面層と裏面層とによる縫製ラインで囲まれた1乃至複数の空間内に、前記表面層と裏面層とによる縫製に拘束されることなく変形及び移動自在に装着配置させてあることを第1の特徴としている。
また本発明の耐切創性を有するウエア地は、上記第1の特徴に加えて、中間層片を拘束する拘束縫製ラインを構成する場合には、該拘束縫製ラインの長さと該拘束縫製ラインを外周の一部とした前記中間層片の外周長さとの比からなる拘束率が50%以下となるように構成してあることを第2の特徴としている。
また本発明の耐切創性を有するウエア地は、上記第1又は第2の特徴に加えて、競艇用の上着、胴衣、ズボン、靴下、手袋、帽子を含むウエアの一部若しくは全部において用いられることを第3の特徴としている。
また本発明のシューズは、請求項1又は2のウエア地を競艇用の靴底部、靴甲部、その他靴の一部若しくは全面部に用いたことを第4の特徴としている。
また本発明のウエア地若しくはシューズは、中間層片の厚みを表面層や裏面層の厚みに対して2倍以上とし、且つ表裏面層と中間層片とによる全体の厚みを7mm以下とした請求項3に記載のウエア地若しくは請求項4に記載のシューズであることを第5の特徴としている。
また本発明のウエア地若しくはシューズは、縫製ラインから中間層片の周縁までの距離を競艇のスクリューの隣接する羽根の羽根間距離よりも狭くするために10mm未満とした請求項3に記載のウエア地若しくは請求項4に記載のシューズであることを第6の特徴としている。
【0006】
上記第1の特徴による耐切創性を有するウエア地によれば、耐切創性の大きい有機繊維からなる中間層片が、表面層と裏面層とによる縫製ラインで囲まれた空間内にサンドイッチ状に装着された状態で配置される。前記中間層片が配置される縫製ラインで囲まれた空間は、例えば全面積の小さいウエア地の場合は、表面層と裏面層とをその全周縁部だけで縫製してなる縫製ラインにより唯一の空間として構成することができる。またウエア地の面積が広い場合は、表面層と裏面層とによる縦横の縫製ラインによって複数個に区分された空間として構成することができ、それらの空間に中間層片が配置されることになる。
前記縫製ラインに囲まれた空間に装着配置される有機繊維からなる中間層片は、前記表面層と裏面層とによる縫製ラインで囲まれた1乃至複数の空間内に、前記表面層と裏面層とによる縫製に拘束されることなく変形及び移動自在に装着配置させてあることで、表面層や裏面層に対して縫製等による拘束がなされておらず、単に挟まれているような状態であるから、変形及び移動等に対する自由度が高く、よって刃物等による切創力がウエア地に加わった際には、中間層片が適当に変形及び移動し、ウエア地に加わる切創エネルギーを緩和乃至開放させる。その結果、前記刃物等による切創傷は中間層片で止まり、それ以上深く進行するのが防止、軽減される。
即ち第1の特徴によるウエア地によれば、より薄い厚みと、軽量性と柔軟性を保持した状態で、しかも耐切創性に十分に優れた効果が発揮される。
勿論、ウエア地の表面層と裏面層と中間層片の全てを、金属を用いることなく、耐切創 性の大きい有機繊維のみで構成したので、金属等を用いる場合に比べて材質自体も十分に軽く、且つ柔軟性もよい。
また中間層片が装着配置される空間は縫製ラインを種々調整して構成することにより、その空間の面積や形状を自由に調整することが可能であるので、ウエア地がどのようなウエアに用いられ、またウエアのどの部分に用いられるか等、ウエアとして用いられる部分における必要な重量、柔軟性(動き易さ)、耐切創性を十分に比較、考慮した上で、好ましい空間の形状(縫製ラインがなす形状)、面積、よって好ましい中間層片の形状、面積を決定することが可能となる。
またウエア地が競艇用のフットウエアを含むウエア地として用いられることで、軽量性と柔軟性を保持しつつ、耐切創性に優れた競艇用のウエアを提供することができる。
【0007】
また上記第2の特徴による耐切創性を有するウエア地によれば、上記第1の特徴による作用効果に加えて、中間層片を拘束する拘束縫製ラインがウエア製作上等において必要となった場合においても、拘束率という概念を新たに導入したことで、拘束縫製ラインによる耐切創性への影響の程度を客観的に判定して、拘束縫製ラインの位置や方向を選ぶことが可能となった。即ち、中間層片を横断したりする拘束縫製ラインがウエア製作上必要となった場合に、そのような拘束縫製ラインによって中間層片に生じる拘束率が50%以下になる様に、その拘束縫製ラインの長さや横断位置を決定することで、中間層片の変形及び移動による切創エネルギーの緩和が行え、前記拘束縫製ラインによるウエアの耐切創性の低下を適切に抑制、低減することができるのである。
【0008】
また上記第3の特徴による耐切創性を有するウエア地によれば、上記第1又は第2の特徴による作用効果に加えて、競艇用の上着、胴衣、ズボン、靴下、手袋、帽子を含むウエアの一部若しくは全部において用いられることにより、軽量性と柔軟性を保持しつつ、耐切創性に優れた競艇用の上着、胴衣、ズボン、靴下、手袋、帽子を提供することができる。
【0009】
また上記第4の特徴によるシューズによれば、上記第1又は第2の特徴を有するウエア地を競艇用の靴底部、靴甲部、その他靴の一部若しくは全面部に用いたことにより、耐切創性に優れると共に、軽量性と柔軟性(動き易さ)をも十分に確保された競艇用のシューズを提供することができる。
【0010】
また上記第5の特徴によるウエア地若しくはシューズによれば、上記第3の特徴を有するウエア地若しくは第4の特徴を有するシューズにおいて、中間層片の厚みを表面層や裏面層の厚みに対して2倍以上とし、且つ表裏面層と中間層片とによる全体の厚みを7mm以下としたことにより、競艇用のウエア地若しくはシューズとして、軽量性、柔軟性及び耐切創性にバランスの取れたものとすることができる。
【0011】
競艇選手にとってシューズの厚みが増すと、その重量や柔軟性低下により足や足各部の動かし易さ、俊敏な動作に対する低下の問題が多い。特に靴底部に比べて靴甲部における柔軟性の低下は動作障害の問題が大きい。本発明では表裏面層と中間層による全体の厚みを7mm以下とすることで、競艇という競技において選手が身に着ける靴の柔軟性を確保すると共に、且つその薄くした厚みにおいて、十分な耐切創性の効果を上げるために、中間層と表裏面を構成する層との厚みの関係を、その比が2対1以上になるようにすることで、全体としての耐切創性と柔軟性との微妙なバランスをとっている。
【0012】
また上記第6の特徴によるウエア地若しくはシューズによれば、上記第3の特徴を有するウエア地若しくは第4の特徴を有するシューズにおいて、縫製ラインから中間層片の周縁までの距離を競艇のスクリューの隣接する羽根の羽根間距離よりも狭くするために10mm未満としたことにより、スクリューによる切創事故を軽減できるようにしている。
競艇のスクリューは複数枚の羽根があり、これがスクリューによる切創事故の際に複数の羽根による衝突痕となって切創の原因となる。従って、例え前記スクリューの複数枚の羽根の1枚が前記中間層片の存在しない縫製ライン付近に衝突して傷を与えようとした場合においても、前記羽根に隣接する羽根が衝突する部分には中間層片が存在するように、その縫製ラインから中間層片までの距離を10mm未満とすることで、スクリューの羽根による幾条にもなる傷の進展を全体として抑制することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を更に説明する。
図1は本発明の実施形態を示すウエア地の概略平面図、図2は同じく実施形態を示すウエア地の概略断面図、図3は本発明の他の実施形態を示すウエア地の概略平面図、図4の(A)、(B)、(C)、(D)はそれぞれ中間層の構造例を示す断面図、図5は本発明のウエア地における拘束率を説明する図、図6は本発明の実施例を示すシューズの全体概略図、図7は図6のI−I断面図、図8は表面層と裏面層とによる縫製ラインと中間層の周縁までの距離を説明する図である。
【0014】
先ず図1、2を参照して、ウエア地1は表面層10と裏面層20と中間層30とからなる。本実施形態では、1枚のウエア地を1枚の表面層10片と、該表面層10片と同形状の1枚の裏面層20片と、それら10、20より少し面積の小さい略相似形状の1枚の中間層30片で構成しており、中間層30片を表面層10片と裏面層20片との間に挿入した状態で、前記表面層10片と裏面層20片とのみをその周縁部の全周で縫製して構成している。即ち、中間層30片は一対の表裏面層10、20片による縫製ラインHに囲まれた空間内に装着配置された状態とされている。
【0015】
上記図1、2に示すウエア地1は比較的面積の小さい場合に用いることができる。
一方、広い面積のウエア地2を構成する場合は、図3に示すように、複数片の中間層30を用いる。即ちウエア地2の場合は、表面層10片と裏面層20片とによる縫製ラインHによって、ウエア地2を複数の区画Sに分け、各区画S毎に中間層30の片を装着配置させている。各中間層30片は縫製ラインHで囲まれた空間内に縫製されることなく配置されている。
前記ウエア地2に形成される区画Sの大きさや形は一律でもよいが、そのウエア地2が用いられるウエアの種類や更にウエアのどの部分に用いられるかによって、その各区画の形や大きさを適切な形、大きさに調整することができる。
【0016】
前記表面層10と裏面層20との間の空間に介在される中間層30の片は耐切創性の大きい有機繊維から構成する。
前記中間層30片を構成する耐切創性の大きい有機繊維としては、端的には超高分子量ポリエチレンの1つであるダイニーマ(ダイニーマ社の登録商標)を用いることができる。が、その他の高強度ポリエチレン繊維、アラミド系繊維、ポリアクリレート系繊維、ポリアセタール繊維、ポリオキシメチレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリーPーフェニレンベンズビスチアゾール繊維等を用いることができる。
また中間層30片の素材としては、前記有機繊維の他に炭素繊維を用いることも可能である。
前記中間層30片は、上記素材である有機繊維を織物としたもの、編物としたもの、或いは不織布としたもの、それらを組み合わせたもの、その他、生地として表裏面層10、20との間に介在させることができる構成とされたものを用いることができる。
【0017】
前記表面層10と裏面層20は、そのウエア地が用いられるウエアに応じて、そのウエアに適した種々の布地を用いることができる。この布地の種類は織物、編物、不織布、その他の生地を用いることができ、特に種類が限定されるものではない。
勿論、表面層10と裏面層20は、必要に応じて、前記中間層30の材質と同種或いは異種の耐切創性の大きい有機繊維を用いてもよい。
【0018】
前記中間層30及び表裏面層10、20には、原則として金属繊維等は用いない。また比重の大きい素材は使用しない。有機繊維は一般に比重が小さく軽量であるので、本発明のウエア地の素材として好ましい。
なお上記にいて、ウエア地とはウエアの一部又は全部に用いる生地の意味であり、ウエアとは人が身に着ける着衣をいい、上着、胴衣、靴下、手袋、帽子、その他の被服を含む。またフットウエアとしてのシューズや中敷等の付属品を含むものとする。
【0019】
前記表面層10と中間層20との間に介在される中間層30片の構造としては、図4の(A)、(B)、(C)、(D)にそれぞれ示すような具体的構造とすることができる。
(A)は中間層30の片が、周期的な折り返しからなる構成になされたものである。
また(B)は中間層30の片が、短冊状の織物を不織布状に編み上げられてなる構成になされたものである。
また(C)は中間層30片が、チューブ状片を水平方向に連続して並べてなる構成になされたものである。
また(D)は中間層30片が、複数層を積層してなる構成になされたものである。
前記の(A)〜(D)の各構造は、中間層30がそれ自体(表面層10や裏面層20との関係においてではなく)で変形及び移動し易いような構造とされたものである。
勿論、中間層30の構造は、上記のものの他、種々の具体的構造が可能である。
【0020】
前記、前記ウエア地1、2においては、中間層30片は、表面層10と裏面層20との間において縫製ラインHで囲まれた空間に、上下の層10、20からの挟持圧は加わるものの、原則的にはフリーな状態で介在された構成とされている。が、ウエア地を縫製する際に或いはウエア地を用いてウエアを作製する際等において、前記中間層30を横断するような縫製ラインHが必要となる場合が生じる。
縫製ラインHが中間層30を横断する場合は、原則的に中間層30も表面層10や裏面層20と一緒に縫製されることになり、拘束を生じる。
図5を参照して、本発明では拘束率という概念を導入し、これによって縫製ラインが中間層30を拘束する拘束縫製ラインH1がある場合における中間層30の変形及び移動に対する拘束の程度を判定し、これによって、中間層30に対する拘束の程度が少ない拘束縫製ラインH1の横断位置や横断方向等を選べるようにしている。
【0021】
前記拘束率Rの概念を説明する。今、図5に示すように、例えば拘束縫製ラインH1が中間層30片を横断した場合において、中間層30片のエリア1の拘束率Rは、前記拘束縫製ラインH1の長さL0と、該拘束縫製ラインH1とエリア1の自由な外周縁の長さL1、L2、L3とで構成されるエリア1の外周長さ(L0+L1+L2+L3)とを用いて、次の式1で表す。
R=L0/(L0+L1+L2+L3)・・・式1
【0022】
前記拘束率Rは、エリア1の外周長さに対して外周の一部を構成する拘束縫製ラインH1の長さが何%を占めるかという意味であって、このパーセントが小さい程エリア1内にある中間層30の拘束率Rが低く、外力に対して変形及び移動が容易で、外力を緩和する能力が大きいことを意味する。
勿論、エリア2における拘束率Rも同様に算出することができる。
数値で表すことができる拘束率Rを導入することで、中間層の種類や厚み等の条件、加える力の種類や大きさ等の条件を定めて行う耐切創性の実験において、その耐切創性の程度を判定するに当って、拘束率Rという数値との関係でデータを採取することができる。従ってデータの再現性が向上し、データを蓄積すればするほど、耐切創性に対する拘束縫製ラインH1の影響を正確に判断できると共に、耐切創性の好ましい拘束縫製ラインH1の横断方向や横断位置を適切に選ぶことが可能となる。
例えば本発明者による実験によれば、回転羽根を用いた切創性の実験において、その多数のデータの蓄積から、前記拘束率Rが50%を超えると、回転羽根の衝突の際の中間層30の変形及び移動等による切創エネルギーの緩和が十分には行えなくなることが判明している。また中間層30の変形及び移動による切創エネルギーの大きな緩和は、拘束率Rが10%以下の場合に大いに期待できることが判明している。
即ち、拘束縫製ラインH1を導入する場合は、そのウエア地が用いられるウエアの種類や用いられる部位に応じて、予め実験により、好ましい拘束率Rを一定値以下として得ることができるので、その様な一定%以下の拘束率Rとなるように拘束縫製ラインH1の位置及び方向を決定することで、良好な耐切創性を保持させることが可能となる。
【0023】
なお上記において、拘束縫製ラインH1は、中間層30片を端から端まで完全に横断している場合について説明したが、中間層30片の半ばで拘束縫製ラインH1の一端或いは両端が終っているような場合も、同様に上記式1で拘束率Rを算出し、判断資料とすることができる。この場合は、中間層30の半ばで終っている拘束縫製ラインH1の端を延長させた形でエリアの外周長さを求め、拘束縫製ラインの長さとエリアの外周長さの比率から拘束率Rを式(1)で求めればよい。
【0024】
図6〜8を参照して、本発明のウエア地を用いたシューズを説明する。このシューズ50は、図1に示すウエア地或いは図3に示すウエア地を用いて、その1枚のウエア地片により或いは複数のウエア地片を相互の辺縁で縫製連結することでシューズの本体生地Wを構成している。
この実施形態のシューズでは、前記本体生地Wによって、足を完全に覆うように、その靴中底部から靴甲部及び靴首部に至るまでの全てを連続して構成している。即ち、このシューズでは本体生地Wにより足の全体が覆われることになる。
本体生地Wの外表面、内表面に対して他の種々の靴部材、部品、その他の付属品が取り付けられる。即ち、前記本体生地Wの中底部生地部W1には、その下面側(外面側)に靴表底部51が取り付けられている。中底部生地部W1の上面側(内面側)には中底体といったシート状の介在物を取り付けて、その上に中敷を配置できるようにしている。また本体生地Wの甲部生地部W2の外面側には補強部52を取り付けることができる。また本体生地Wの首部生地部W3にはその外面側にストラップ53を取り付けることができる。また甲部生地部W2から首部生地部W3にかけての外面側に鳩目補強部54が取り付けられている。また甲部生地部W2等に飾り55を取り付けることができる。また首部生地部W3の内面側に足との接触を和らげるクッション材を取り付けることができる。
【0025】
図7に示すように、本体生地Wに取り付けられる上記補強部52や鳩目補強部54、その他の靴部材、部品、付属品は、本体生地Wの中間層30を貫通した拘束縫製ラインH1によって結合することができる。しかし中間層30を拘束しないように、それらの靴部材、部品、付属品を本体生地Wの表面層10若しくは裏面層20にのみ縫い付けるようにするようにしてもよい。例えば前記ストライプ等の飾り55については、シューズを組立て、縫製する前に、ウエア地を構成する表面層10にのみ飾り55を縫い付けるようにすることで、中間層30に対する拘束が生じないようにすることができる。他の靴部材、部品、付属品についても、それらの機能や役割、その他の状況に応じて中間層30に対する被拘束の縫製を行って取り付けたり、表面層10或いは裏面層20に対してのみ拘束する接着やその他の方法を採るようにすることができる。
その他、本体生地Wに対して靴部材、部品、付属品を拘束縫製する場合でも、そのステッチの間隔を大きくすることによって、中間層30に対する拘束の程度を低減するようにすることができる。
【0026】
上記のシューズにおいては、足全体を覆うようにした構成の本体生地Wとしたが、靴の用途や必要性に応じて、靴甲部と靴首部とをだけを本発明のウエア地を用いた本体生地Wで構成するようにしてもよいし、また靴甲部或いは靴中底部だけを本体生地Wで構成するようにすることも可能である。
また用いるウエア地を、靴表底部51のある部分、前記補強部52のある部分、鳩目補強部54のある部分等、部材、部品が取り付けられる部分毎に分割した状態で用意し、それらの複数のウエア地を本体生地Wの各部分片として、その各部分片の端縁部で相互に且つ中間層30を縫うことなく、縫製するようにして連結し、本体生地Wの全体を構成するようにしてもよい。
【0027】
図7を参照して、上記シューズが競艇用のシューズとして用いられる場合には、スクリューの羽根による切創エネルギーを十分に緩和するために、前記本体生地Wの表面層10や裏面層20に対する中間層30の厚みを2〜7倍とするのが好ましく、3〜5倍とするのがより好ましい。この倍率2〜7、3〜5は表裏面層10、20を靴に通常用いられる布地とし、中間層30を高強度の有機繊維生地とした場合の目安である。
前記のように中間層30の表面層10や裏面層20に対する厚みを大きくすることで、その分だけ本体生地Wの全体の厚みが増し、柔軟性、着用性、運動性、生産作業性といった能力乃至特性が低下する。競艇用のシューズとしては、その重さや前記柔軟性、着用性、運動性、生産作業性等の能力、特性を考慮して、本体生地Wの総厚み(合計厚み)は、中間層30を高強度の有機繊維生地とした場合、特に靴甲部において、7mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましい。
以上のように競艇用のシューズでは、靴の本体生地Wの厚みを7mm、より好ましくは5mm以下とし、且つ本体生地Wの表面層10や裏面層20に対する中間層30の厚みを2〜7倍、より好ましくは3〜5倍とすることで、軽量性、柔軟性の要請と耐切創性の要請とのバランスを最適にすることを可能としている。これによって、特に靴甲部での動き易さと耐切創性のバランスが好適に確保される。
【0028】
図8を参照して、シューズが競艇用のシューズとして用いられる場合には、競艇のスクリューの羽根が複数枚であるため、羽根がシューズに衝突した時には、シューズ表面に円弧状の衝突痕が10mm程度の間隔で複数条生じるのが一般的である。
また前記円弧状衝突痕の幅は3mm程度であるため、シューズの本体生地Wの生地端部で、前記複数条の衝突痕が生じないようにするためには、本体生地Wの端部の縫製ラインHから中間層30の端部までの距離hを前記スクリューの羽根間距離である10mm未満とするのが好ましい。そして前記衝突痕の円弧の幅である3mm未満とするのがより好ましい。
また前記スクリューの羽根による衝突痕が本体生地Wの端部に縫製ラインHと平行して構成されんとする場合は、例え1枚の羽根による衝突痕が前記中間層30片の存在しない縫製ラインH付近に衝突して傷を与えようとした場合においても、その隣接する羽根が衝突する部分(10mm程度平行移動した地点)には中間層30片が存在することになるので、スクリューの羽根による傷の進展を全体として抑制することができるのである。
またスクリューの羽根による衝突痕が本体生地Wの端部に縫製ラインHと直角方向に構成されんとする場合は、縫製ラインHから中間層30の端部までの距離を前記3mm未満とすることで、スクリューの羽根による円弧状の衝突傷の進展を抑制することができる。
【0029】
【発明の効果】
本発明は以上の構成、作用よりなり、請求項1に記載の切創性を有するウエア地によれば、表面層と裏面層と中間層片とからなる競艇用のフットウエアを含むウエア地であって、前記表面層と裏面層と中間層片の全てを、金属を用いることなく、耐切創性の大きい有機繊維のみで構成し、且つ前記中間層片を、前記表面層と裏面層とによる縫製ラインで囲まれた1乃至複数の空間内に、前記表面層と裏面層とによる縫製に拘束されることなく変 形及び移動自在に装着配置させてあるので、
中間層片を表面層や裏面層からの縫製による拘束から開放し、十分な自由度をもって変形及び移動ができる状態に存在させることができる。よって刃物等による切創力が加わった場合において、その切創エネルギーを緩和乃至開放させることができる。そしてその結果、前記刃物等による切創を中間層片部で止めることができ、それ以上傷が深く進行するのを良好に防止、軽減することができる。
勿論、ウエア地の表面層と裏面層及び中間層片の全てを有機繊維で構成しているので、金属等を用いる場合に比べて、材質自体も十分に軽く、且つ柔軟性もよい。
また中間層片が装着配置される空間は縫製ラインを種々調整して構成することにより、その空間の面積や形状を自由に調整することが可能であるので、ウエア地がどのようなウエアに用いられ、またウエアのどの部分に用いられるか等、ウエアとして用いられる部分における必要な重量、柔軟性(動き易さ)、耐切創性を十分に比較、考慮した上で、好ましい空間の形状(縫製ラインがなす形状)、面積、よって好ましい中間層片の形状、面積を決定することができる。
またウエア地が競艇用のフットウエアを含むウエア地として用いられることで、軽量性と柔軟性を保持しつつ、耐切創性に優れた競艇用のウエアを提供することができる。
以上より請求項1に記載のウエア地によれば、競艇競技用のウエアに用いることで、耐切創性に十分優れ、且つ軽くて柔軟性、動作性にも十分に優れたウエアを提供することができる。
また請求項2に記載の耐切創性を有するウエア地によれば、上記請求項1に記載の構成による効果に加えて、中間層片を拘束する拘束縫製ラインを構成する場合には、該拘束縫製ラインの長さと該拘束縫製ラインを外周の一部とした中間層片の外周長さとの比からなる拘束率が50%以下となるように構成したので、
中間層片を拘束する拘束縫製ラインがウエア製作上等において必要となった場合においても、拘束率という概念を用いて、拘束縫製ラインによる耐切創性への影響の程度を客観的に判定することができ、拘束縫製ラインの位置や方向を選ぶことが可能となった。そして拘束率が50%以下となる様に、その拘束縫製ラインの長さや横断位置を決定することで、前記拘束縫製ラインを設けたウエアの耐切創性の低下を適切に抑制、低減することができる。
また請求項3に記載の耐切創性を有するウエア地によれば、上記請求項1又は2に記載の構成による効果に加えて、競艇用の上着、胴衣、ズボン、靴下、手袋、帽子を含むウエアの一部若しくは全部において用いられるので、
軽量性と柔軟性を保持しつつ、耐切創性に優れた競艇用の上着、胴衣、ズボン、靴下、手袋、帽子を提供することができる。
また請求項4に記載のシューズによれば、請求項1又は2のウエア地を競艇用の靴底部、靴甲部、その他靴の一部若しくは全面部に用いたので、
耐切創性に優れると共に、軽量性と柔軟性(動き易さ)をも十分に確保された競艇用のシューズを提供することができる。
また請求項5に記載のウエア地若しくはシューズによれば、上記請求項3に記載のウエア地若しくは請求項4に記載のシューズにおいて、中間層片の厚みを表面層や裏面層の厚みに対して2倍以上とし、且つ表裏面層と中間層片とによる全体の厚みを7mm以下としたので、
競艇用のウエア地若しくはシューズとして、軽量性、柔軟性及び耐切創性にバランスの取れたものとすることができる。
また請求項6に記載のウエア地若しくはシューズによれば、上記請求項3に記載のウエア地若しくは請求項4に記載のシューズにおいて、縫製ラインから中間層片の周縁までの距離を競艇のスクリューの隣接する羽根の羽根間距離よりも狭くするために10mm未満としたので、
例え前記スクリューの複数枚の羽根の1枚が前記中間層片の存在しない縫製ライン付近に衝突して傷を与えようとした場合においても、スクリューの羽根による幾条にもなる傷の進展を、全体として確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態を示すウエア地の概略平面図である。
【図2】 本発明の実施形態を示すウエア地の概略断面図である。
【図3】 本発明の他の実施形態を示すウエア地の概略平面図である。
【図4】 中間層の構造例を示す断面図である。
【図5】 本発明のウエア地における拘束率を説明する図である。
【図6】 本発明の実施例を示すシューズの全体概略図である。
【図7】 図6のI−I断面図である。
【図8】 表面層と裏面層とによる縫製ラインと中間層の周縁までの距離を説明する図である。
【符号の説明】
1、2 ウエア地
10 表面層
20 裏面層
30 中間層
50 シューズ
51 靴表底部
52 補強部
53 ストラップ
54 鳩目補強部
55 飾り
h 縫製ラインから中間層の端部までの距離
H 縫製ライン
H1 拘束縫製ライン
R 拘束率
S 区画
W 本体生地
W1 中底部生地部
W2 甲部生地部
W3 首部生地部
Claims (6)
- 表面層と裏面層と中間層片とからなる競艇用のフットウエアを含むウエア地であって、前記表面層と裏面層と中間層片の全てを、金属を用いることなく、耐切創性の大きい有機繊維のみで構成し、且つ前記中間層片を、前記表面層と裏面層とによる縫製ラインで囲まれた1乃至複数の空間内に、前記表面層と裏面層とによる縫製に拘束されることなく変形及び移動自在に装着配置させてあることを特徴とする耐切創性を有するウエア地。
- 中間層片を拘束する拘束縫製ラインを構成する場合には、該拘束縫製ラインの長さと該拘束縫製ラインを外周の一部とした前記中間層片の外周長さとの比からなる拘束率が50%以下となるように構成してあることを特徴とする請求項1に記載の耐切創性を有するウエア地。
- 競艇用の上着、胴衣、ズボン、靴下、手袋、帽子を含むウエアの一部若しくは全部において用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐切創性を有するウエア地。
- 請求項1又は2のウエア地を競艇用の靴底部、靴甲部、その他靴の一部若しくは全面部に用いたことを特徴とするシューズ。
- 中間層片の厚みを表面層や裏面層の厚みに対して2倍以上とし、且つ表裏面層と中間層片とによる全体の厚みを7mm以下としたことを特徴とする請求項3又は4に記載のウエア地若しくはシューズ。
- 縫製ラインから中間層片の周縁までの距離を競艇のスクリューの隣接する羽根の羽根間距離よりも狭くするために10mm未満としたことを特徴とする請求項3又は4に記載のウエア地若しくはシューズ。
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