JP4056846B2 - 分散モニタ装置、分散モニタ方法および自動分散補償システム - Google Patents

分散モニタ装置、分散モニタ方法および自動分散補償システム Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、単一波長または波長多重された信号光を伝送する光通信システムの分散特性をモニタするための技術に関し、特に、受信波形のレベルを識別処理することによって分散の変動を検出するようにした分散モニタ装置および分散モニタ方法、並びに、それを用いた自動分散補償システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年のネットワーク容量の急激な増加に伴い、ネットワークのさらなる大容量化の要求が高まっている。現在、1チャネルあたりの伝送容量を10Gb/s(ギガビット/秒)としたベース技術を用いる波長多重(WDM)光伝送方式が実用化されている。また、今後さらなる大容量化が必要であり、周波数の利用効率や装置コスト等の問題により、1チャネルあたり伝送容量が40Gb/s以上の超高速光伝送システムの実現が期待されている。
【0003】
しかしながら、このような超高速の光伝送システムでは、波長分散や偏波モード分散等に起因する波形劣化の伝送品質への影響が増大するため、信号光の伝送距離が制限されるという課題がある。そのため、超高速光システムを実現する上で、波長分散および偏波モード分散の変動を検出して高精度に補償する自動分散補償システムが必要となる。
【0004】
一般に、光通信システムで伝送品質が劣化する要因は、例えば図30に示すように、信号光の減衰または雑音光の増加に伴う光信号対雑音比(Optical Signal-to-Noise Ratio:OSNR)の劣化と、光波形の形状そのものの劣化とに大別される。さらに、後者の波形劣化をもたらす原因としては、波長分散、偏波モード分散(Polarization Mode Dispersion:PMD)および非線形効果などが挙げられる。
【0005】
ここで、波長分散について詳しく説明する。伝送速度が10Gb/sを超える光通信システムでは、波長分散に対するトレランスが著しく小さくなる。例えば、40Gb/sのNRZ方式の信号光が伝送されるシステムにおける波長分散トレランスは、100ps/nm以下となる。また、一般に光通信システムの中継間隔の距離は一定ではないため、例えば、波長分散値が17ps/nm/kmの特性を持つ1.3μm零分散シングルモードファイバ(SMF)を用いたシステムの場合には、中継区間の距離が数km異なっただけで上記のような波長分散トレランスを逸脱してしまうことになる。
【0006】
一方、通信キャリアが所有する光ファイバ伝送路は、中継区間ごとの距離や波長分散値について正確に把握されておらず、分散補償ファイバ(Dispersion Compensating Fiber:DCF)等を用いた固定分散補償法で波長分散補償を高精度に実現することは困難な場合が多い。さらに、波長分散値は、光ファイバの温度や応力などの影響により経時的に変化するため、システムの運用開始時だけではなく、システムの運用中も波長分散を厳密に測定しながら波長分散量を最適に調整する必要がある。
【0007】
例えば、光ファイバの種類としてDCFを用いた500kmの長さの伝送路について、100℃の温度変動を想定した場合に発生する波長分散量は、次のようになる。
Figure 0004056846
上記の波長分散量は、40Gb/sのNRZ信号光を伝送するときの波長分散トレランスとほぼ同等となってしまう。従って、伝送路の波長分散特性を常時モニタして波長分散補償量の最適制御を行う自動波長分散補償システムは、SMFを伝送路として用いたシステムだけではなく、1.55μm零分散シフトファイバ(DSF)やノンゼロ分散シフトファイバ(NZ−DSF)を伝送路として用いたシステムでも不可欠である。
【0008】
次に、偏波モード分散について詳しく説明する。偏波モード分散は、光信号における偏光成分(例えば、TEモードおよびTMモードのような2つのモード光)の伝播遅延時間が異なることによって生じる分散であり、あらゆる光ファイバにおいて発生し得るものである。この偏波モード分散の影響は、一般に、光信号の伝送速度が速くなるほど大きくなると共に、光信号の伝送距離が長くなるほど大きくなり、その影響が無視できないものとなる。
【0009】
また、主に日本国以外に敷設された古い光伝送路を構成する光ファイバには、単位長あたり1ps/km1/2(ピコ秒/キロメートル1/2)を越えるような大きな偏波モード分散値を持つと言われているものもある。そのような光ファイバを用いて例えば50km等の短距離伝送を行った場合、伝送光の2つの偏光成分間に生じる光遅延差Δτは、40Gb/sのNRZ信号光の1タイムスロットに相当する25psに対して、7ps以上となる。このため、前述した波長分散の場合と同様に、偏波モード分散の影響によって伝送距離が制限されてしまう。実際には、光通信システムの伝送路上に光増幅器や波長分散補償器等の偏波モード分散を生じる部材を設ける必要があるため、信号光の伝送距離がさらに制限される可能性がある。加えて、偏波モード分散は、光ファイバに加わる応力や温度変化によって経時変化を示すため、敷設時だけでなく運用中も伝送路の偏波モード分散の状態をモニタして、それを動的に補償する必要がある。
【0010】
上記のように波長分散と偏波モード分散は光通信システムの性能を制限する大きな要因であり、光通信システムの性能を改善するためには、これらの分散を動的に補償する、つまり、自動分散補償システムが必要である。自動分散補償システムを実現するための要素技術は、例えば、次の(a)〜(c)の3つにまとめられる。
(a)可変分散補償器の実現
(b)伝送路の分散値モニタの実現
(c)可変分散補償器の補償量を最適化するフィードバック制御方法の実現
上記(a)の可変分散補償器について、これまでに提案されている可変波長分散補償器としては、後述の先行技術文献情報として挙げる、例えば非特許文献1に記載されたバーチャリ イメージド フェイズド アレイ(Virtually Imaged Phased Array:VIPA)や、例えば非特許文献2に記載されたチューナブル リング リゾネータ(Tunable Ring Resonator)、例えば非特許文献3に記載されたファイバ ブラッグ グレーティング(Fiber Bragg Grating:FBG)などがある。
【0011】
また、これまでに提案されている偏波モード分散補償器としては、例えば非特許文献4に記載されているように、光信号の送信端に偏波制御器(Polarization Controller:PC)を設け、伝送特性を受信端からフィードバックして、2つの偏波モードへの光強度の分岐比γが0または1となるように制御する方式のものがある。また、例えば非特許文献5に記載されているように、光信号の受信端に偏波制御器と偏波保持ファイバ(Polarization Maintaining Fiber:PMF)とを設け、偏波制御器を制御することにより、2つの偏波モード間に光伝送路とは逆符号の遅延差を与えるものがある。さらに、例えば非特許文献6に記載されているように、光信号の受信端に、偏波制御器および偏波ビームスプリッタ(Polarization Beam Splitter:PBS)と、この偏波ビームスプリッタにより2つに分岐された光信号成分をそれぞれ受光する受光器と、これら受光器により得られた2つの電気信号間に遅延差を与える可変遅延素子とを設けて、偏波制御器および可変遅延素子を制御する方式のものもある。
【0012】
上記(b)の分散値モニタについては、例えば、波長分散値の従来の測定方法として、波長の異なる複数の光を光ファイバに入力し、出力光間の群遅延や位相差を測定する、パルス法や位相法などが提案されている。しかし、これらの測定方法を用いてシステム運用中に通信の品質を落とすことなく波長分散の常時測定を行うためには、中継区間ごとに1組の波長分散測定器が必要となるという課題や、データ信号とは異なる波長の測定光を波長多重する必要があるという課題があり、経済性および装置サイズの観点から見て、上記のような測定方法は現実的なものではない。
【0013】
上記の課題を解決するために、これまでに提案された波長分散のモニタ方法としては、例えば非特許文献7に記載されているように、波形歪みにより特定の周波数成分の強度が変化する性質を利用し、受信ベースバンド信号中の特定周波数成分の強度を用いて波長分散をモニタする方法がある。また、例えば特許文献1および特許文献2に記載されているように、光受信機で検出される誤り率(ビットエラーレート)等を基に波長分散をモニタする方法がある。さらに、例えば非特許文献8に記載されているように、主信号の識別処理を行うDEC(DFF)に加えて比較用のDECを設け、波長分散の変動を検出する方法もある。
【0014】
また、これまでに知られている偏波モード分散のモニタ方法としては、例えば、消光法(セナルモン法)、回転検光子法、回転移相子法および位相変調法等があり、また、偏光状態の表示(表現)方法としては、ポアンカレ球、ジョーンズベクトルおよびストークスベクトル等によるものが提案されている(例えば、非特許文献9参照)。具体的に、例えば特許文献3においては、ジョーンズベクトルを用いた偏波モード分散の測定方法およびその装置が提案されている。
【0015】
以下、本発明に関連する先行技術文献情報をまとめておく。
【0016】
【特許文献1】
特開2001−77756号公報
【特許文献2】
特開平9−326755号公報
【特許文献3】
特開平9−72827号公報
【非特許文献1】
M.Shirasaki et al., “VARIABLE DISPERSION COMPENSATOR USING THE VIRTUALLY IMAGED PHASED ARRAY (VIPA) FOR 40-GBIT/S WDM TRANSMISSION SYSTEM” ECOC2000,PD Topic2, 2.3
【非特許文献2】
F.Horst et al., “TUNABLE RIONG RESONATOR DISPERSION COMPENSATORS REALIZED IN HIGH REFRACTIVE-INDEX CONTRAST TECHNOLOGY” ECOC2000,PD Topic2, 2.2
【非特許文献3】
J.A.J.Fells et al., “TWIN FIBRE GRATING ADJUSTABLE DISPERSION COMPENSATOR FOR 40GBIT/S” ECOC2000,PD Topic2, 2.4
【非特許文献4】
T.Ono et al., “10 Gb/s PMD compensation field experiment over 452 km using Principal State Transmission method”,OFC2000, PD44
【非特許文献5】
Takahashi et al., “Automatic compensation technique for timewise fluctuating polarization mode dispersion in in-line amplifier systems”, Electro. Lett., vol.30, No.4, 1994, pp348-349
【非特許文献6】
Takahashi et al., “Polarization Control Method for Suppressing Polarization Mode Dispersion Influence in Optical Transmission Systems”, J.of Lightwave Technol., Vol.12, No.5, 1994, pp891-898
【非特許文献7】
Y.Akiyama et al., “Automatic Dispersion Equalization in 40 Gbit/s Transmission by Seamless-switching between Multiple Signal Wavelengths”, ECOC'99, pp.I-150-151
【非特許文献8】
桑原昭一郎、外3名,「適応分散等化に適用する分散変動監視法の検討」,電子情報通信学会綜合大会,B-10-152,1997年
【非特許文献9】
「偏光状態の表示法と測定法」,OPTRONICS, 1997, No.5 pp.109-117
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したような従来の分散モニタ技術については、次のような問題点がある。すなわち、非特許文献7等で提案された受信ベースバンド信号中の特定周波数成分強度を検出して波長分散をモニタする方法、いわゆるクロックモニタ方法については、例えば図31に示すように、クロックモニタとして、広帯域の受光器(PD)や40GHz等の周波数帯に対応したクロックアンプなどを含むことになり、主信号系の光受信部(O/E)に近い構成が必要となる。このため、特にWDMシステムにおいてチャネルごとに個別に補償を行うには、各チャネルにそれぞれ対応したクロックモニタが必要となるので、コストの上昇およびサイズの増大が課題となる。この課題を解決するためには、例えば、主信号系とモニタ系の集積化が有効であるが、受信ベースバンド信号中からクロック成分を抽出する高精度なバンドパスフィルタ(BPF)を集積回路内で実現することは非常に難しいため、実現性に乏しいという問題がある。
【0018】
また、特許文献1、2等で提案された誤り率やQ値などの伝送品質を表すパラメータを波長分散のモニタとして使用する方法については、例えば、SONET/SDHシステムの場合、B1バイトなどのセクションオーバヘッドに含まれる監視用のバイトを利用することにより、既存のシステムに新たな構成を付加することなく分散モニタを実現でき、また、誤り訂正(Forward Error Correction:FEC)を適用したシステムの場合には、FEC−ICの訂正情報を用いることにより、既存のシステムに新たな構成を付加することなく分散モニタを実現できるため、コストおよびサイズの各面でのメリットは大きい。しかしながら、誤り率等のパラメータは、上述の図30に示したように波形劣化およびOSNR劣化の双方の影響を受けるため、例えば波長分散のように波形劣化にのみ影響を与える要因の変化を高精度に検出することが難しいという問題がある。
【0019】
さらに、非特許文献8等で提案されたDEC(DFF)を用いて波長分散の変動を検出する方法については、モニタ系の回路として主信号系と同等の高速回路が必要となるため、そのような回路を実現して所要のモニタ特性を確保することが難しいという問題がある。具体的に説明すると、上記のモニタ方法を適用したシステムは、図32に示すように、波長分散の変動を検出するための比較用のDEC101,102を主信号用のDEC100とは別に追加し、比較用のDEC101,102には、最適識別閾値Vthからマーク信号側にシフトさせた識別電圧Vm(=Vth+ΔV)と、スペース信号側にシフトさせた識別電圧Vs(=Vth−ΔV)とをそれぞれ設定する。システム運用時における波長分散変動の検出動作は、まず、受信された主信号光が光電変換後に増幅されて各識別電圧が設定された各々のDECに分配される。そして、主信号用のDEC100および比較用のDEC101の各データ出力の排他的論理和がEXOR103で演算され、主信号用のDEC100および比較用のDEC102の各データ出力の排他的論理和がEXOR104で演算され、各EXOR103,104では2つの入力データの不一致に対してパルス出力が生成される。各EXOR103,104からのパルス出力はカウンタ105,106で計数され、そのカウント数がコントローラ107でモニタされることにより波長分散の変動方向が検出される。従って、比較用のDEC101,102、EXOR103,104およびカウンタ105,106の全ての回路について主信号系と同等の高速回路が必要となり、前述したような問題が生じてしまう。
【0020】
本発明は上記の点に着目してなされたもので、光通信システムの分散特性の変化を高い精度で簡易にモニタすることのできる分散モニタ装置および分散モニタ方法を提供すると共に、それを用いた自動分散補償システムを提供することを目的とする。
【0021】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明の分散モニタ装置は、光通信システムの分散特性をモニタする装置であって、前記光通信システムを伝送された信号光を光電変換した受信信号が入力され、識別を行うタイミングとしての識別位相および識別レベルとしての識別閾値に基づいて入力信号がハイレベルであるかローレベルであるかを識別して該識別結果を論理値として出力するデータフリップフロップと、前記データフリップフロップから出力される論理値を平均化する積分回路と、前記積分回路から出力される信号のレベル変化に応じて、前記光通信システムで発生する分散の変動を検出する分散検出部と、を備えて構成されるものである。
【0022】
かかる構成の分散モニタ装置では、データフリップフロップにおいて、受信信号レベルが識別閾値に対してハイレベルにあるかローレベルにあるかの識別処理が、識別位相に対応したタイミングで行われ、その識別結果を示す論理値が積分回路に出力される。積分回路では、データフリップフロップからの論理値が時間積分されて平均化され、その結果が分散検出部に出力される。分散検出部では、積分回路からの出力信号のレベル変化に応じて、受信波形の変化が判断され光通信システムで発生する分散の変動が検出される。これにより、信号光の伝送速度に比べて低速な回路を用いて分散モニタ装置を構成することが可能になり、光通信システムで発生する分散の変動を高い精度で検出することができるようになる。
【0023】
また、本発明の自動分散補償システムは、上記のような分散モニタ装置を用いたシステムであって、伝送路上に配置された可変分散補償器と、該可変分散補償器よりも受信側に配置した前記分散モニタ装置で検出される分散の変動に応じて、該変動が小さくなるように前記可変分散補償器での分散補償量をフィードバック制御することにより、前記伝送路を伝搬した信号光に生じる分散を自動補償する制御回路と、を備えて構成されるものである。
【0024】
かかる構成の自動分散補償システムによれば、前述したような分散モニタ装置によって高い精度でモニタされる分散の変動に応じて、可変分散補償器の分散補償量がフィードバック制御されることにより、伝送路を伝搬した信号光に生じる分散の自動補償を確実に行うことができるようになる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の自動分散補償システムの第1実施形態を示す構成図である。図1において、本自動分散補償システムは、例えば、伝送路1を伝搬した信号光を受光器(PD)3で光電変換した後に等化増幅器4で所要のレベルまで増幅して受信信号のデータ識別処理を行う光受信部について、伝送路1と受光器3の間に伝送路1で発生する波長分散とは逆の波長分散を与える公知の可変分散補償器2を設けて分散補償を行うとき、その可変分散補償器2における分散補償量を、本発明による分散モニタ技術を適用したモニタ系によりフィードバック制御するようにしたものである。
【0026】
上記のモニタ系は、例えば、分岐器10、データフリップフロップ(DFF)11、識別閾値設定回路12、遅延回路13、積分回路14および制御回路15からなる。分岐器10は、受光器3から等化増幅器4に送られる電気信号の一部をモニタ信号として取り出してDFF11に送る。DFF11は、分岐器10からのモニタ信号のレベルと識別閾値設定回路12で設定される識別閾値との比較を、クロック抽出回路7から遅延回路14を介して伝えられるクロック信号に同期したタイミングで行い、その比較結果を論理値として積分回路13に出力する。積分回路13は、DFF11から出力される論理値を時間積分して平均化し、その結果を制御回路15に出力する。制御回路15は、後述するように積分回路13からの出力信号のレベルに応じて伝送路1で生じた波長分散の変動を検出し、その変動を小さくして波長分散値が0に近づくように可変分散補償器2での分散補償量をフィードバック制御する。ここでは、上記の制御回路15が分散検出部および制御部としての機能を具備することになる。
【0027】
なお、上記の光受信部について、ここでは、等化増幅器4が前置増幅器4aおよび増幅器4bを直列に接続した構成を有し、その等化増幅器4で増幅された受信信号の一部が分岐器5で分岐されてクロック抽出回路7に送られ、クロック抽出回路7で抽出されたクロック信号に従って、識別回路6により受信信号のデータ識別処理が行われる構成例を示したが、本発明が適用可能な光受信部は上記の構成例に限られるものではない。また、伝送路1と受光器3の間に可変分散補償器2を設けるようにしたが、例えば、補償量が固定の分散補償器とその補償量の微調整を行う可変分散補償器とを組み合わせて、可変分散補償器の補償量がモニタ系によりフィードバック制御されるようにしてもよい。
【0028】
次に、本自動分散補償システムの動作について説明する。
まず、本発明による分散モニタ方法の基本的な原理を図2〜図4に示す受信波形のシミュレーション結果を用いて具体的に説明することにする。図2〜図4のシミュレーション結果は、例えば、信号光の伝送速度を40Gb/sとし、また、負のαパラメータ(α=−1)を条件として、波長分散値を0ps/nm、−10ps/nm、−20ps/nmに変化させたときの各受信波形を示したものである。なお、このシミュレーションでは非線形効果および偏波モード分散については考慮してない。
【0029】
図2〜図4の各受信波形より、負の波長分散値の減少(波長分散の絶対値の増加)に伴って波形の広がりが進むことが分かる。本分散モニタ方法は、上記のように波長分散値の変化に伴い受信波形が変化する性質を利用して、波長分散の変動を検出するようにしたものである。具体的には、受信波形について、特にビット列中の…0,1,0,…となるパターンの「1」に注目する。この「1」に対応する受信波形は、図2〜4の破線丸印で囲んだ部分に示すように、波長分散値の増加に伴ってハイレベルが立ち上がりきらずに下がっていくことが分かる。そこで、本分散モニタ方法は、このような受信波形の変化を図1に示したDFF11および積分回路14を用いて検出することにより波長分散の変動を判断する。
【0030】
図5および図6は、上記図3および図4の受信波形について、図1のDFF11に設定される識別閾値Vth、識別位相Tの関係を例示した図である。図5および図6に示すような識別閾値Vth、識別位相Tの関係に従って受信波形の識別処理を行った場合、波長分散値が−10ps/nmのときには受信波形は「ハイ(HIGH)」と識別され(図5)、波長分散値が−20ps/nmのときには受信波形は「ロー(LOW)」と識別される(図6)ようになる。このため、DFF11から出力される論理値を時間積分した積分回路14の出力レベルは、波長分散値が−10ps/nmから−20ps/nmへと変化するに従って低下する。従って、積分回路14の出力レベルは、波長分散の変動に対応して変化するようになるため、その積分回路14の出力レベルの変化を基に制御回路15で伝送路1で発生した波長分散の変動を判断することが可能になる。そして、この制御回路15で判断した波長分散の変動が小さくなり波長分散値が0に近づくように可変分散補償器2における分散補償量をフィードバック制御することによって、伝送光に生じる波長分散の自動補償が確実に行われるようになる。
【0031】
上記のように第1実施形態の自動分散補償システムによれば、波長分散の変化に起因する受信波形の変化をDFF11および積分回路14を用いて検出するようにしたことで、主信号系よりも低速な回路を用いてモニタ系を容易に構成することができ、そのようなモニタ系により伝送路の波長分散特性の変化を高い精度で検出して可変分散補償器2のフィードバック制御を行うことで、波長分散の自動補償を確実に行うことが可能になる。
【0032】
次に、本発明の自動分散補償システムの第2実施形態について説明する。
図7は、第2実施形態の自動分散補償システムを示す構成図である。なお、上記の図1に示した第1実施形態の構成と同様の部分には同一の符号が付してあり、以下、他の実施形態においても同様とする。
図7において、第2実施形態の自動分散補償システムの構成が第1実施形態の場合と異なる部分は、2組のモニタ系を並列に設けて波長分散の検出を行うようにした部分であり、その他の部分の構成は第1実施形態の場合と同様である。
【0033】
具体的には、分岐器10で分岐されたモニタ信号がさらに分岐器10’で2分岐され、各モニタ信号がDFF11,11’にそれぞれ送られる。DFF11は、識別閾値設定回路12で設定される識別閾値Vth1と、クロック抽出回路7から遅延回路14を介して伝えられるクロック信号に同期した識別位相T1に従って、分岐器10’からのモニタ信号の識別処理を行い、その結果を示す論理値を積分回路13に出力する。また、DFF11’は、識別閾値設定回路12’で設定される識別閾値Vth2(≠Vth1)と、クロック抽出回路7から遅延回路14’を介して伝えられるクロック信号に同期した識別位相T2(≠T1)に従って、分岐器10’からのモニタ信号の識別処理を行い、その結果を示す論理値を積分回路13’に出力する。各積分回路13,13’は、各DFF11,11’から出力される論理値を時間積分して制御回路15にそれぞれ出力する。制御回路15は、後述するように各積分回路13,13’からの出力信号のレベルに応じて伝送路1で生じた波長分散の変動を判断し、その変動を小さくして波長分散値が0に近づくように可変分散補償器2での補償量をフィードバック制御する。
【0034】
上記のような構成の自動分散補償システムでは、伝送路1で発生する波長分散値の減少および増加を検出して波長分散の自動補償を行うことが可能になる。すなわち、前述した第1実施形態の場合のように1組のモニタ系で識別処理を行う構成には、負のαパラメータおよび負の波長分散値の組み合わせにより波形広がりが発生している場合に波長分散値の減少を検出することはできたが、例えば図8および図9の受信波形に示すように、負のαパラメータおよび正の波長分散値の組み合わせにより波形圧縮が発生している場合に波長分散値の増加を検出することはできない。
【0035】
そこで、本実施形態の自動分散補償システムでは、2組のモニタ系を設け、一方のモニタ系における識別閾値Vth1および識別位相T1と、他方のモニタ系における識別閾値Vth2および識別位相T2とを、図8および図9の太線に示したような関係で設定することにより、波形圧縮が発生している場合の波長分散の増加を検出することを可能にしている。具体的には、識別閾値Vth1および識別位相T1は第1実施形態の場合と同様の設定とし、識別閾値Vth2および識別位相T2については、例えばビット列…0,1,…中の「1」のパルスの立ち上がり部分についてレベル判定が行われるように設定する。これにより、波長分散値が+30ps/nmの場合(図8)と+50ps/nm(図9)の場合とでは、識別閾値Vth1および識別位相T1の組み合わせによる識別結果に変化はないが、識別閾値Vth2および識別位相T2の組み合わせによる識別結果には差が生じるようになる。これにより、波形圧縮が発生している場合の波長分散値の増加を検出することが可能になる。もちろん、波形広がりが発生している場合の波長分散の減少については、識別閾値Vth1および識別位相T1の組み合わせによる識別結果を基に第1実施形態の場合と同様にして検出することが可能である。
【0036】
このように第2実施形態の自動分散補償システムによれば、2組のDFF11,11’および積分回路13,13’を利用してモニタ信号の波形変化の検出するようにしたことで、伝送路1で発生する波長分散値の減少だけでなく増加もモニタすることができるため、波長分散の変動をより高い精度で検出することが可能になり、広範囲な波長分散の自動補償を実現することが可能になる。
【0037】
なお、上記の第2実施形態では2組のDFFおよび積分回路を設けて波長分散をモニタするようにしたが、例えば、DFFおよび積分回路の組み合わせをさらに増やすことによって、波長分散値の増減を多段階に検出することができ、波長分散値の検出精度をさらに改善することが可能となる。
次に、本発明の自動分散補償システムの第3実施形態について説明する。
【0038】
図10は、第3実施形態の自動分散補償システムを示す構成図である。
図10において、第3実施形態の自動分散補償システムの構成が上述の図1に示した第1実施形態の場合と異なる部分は、制御回路15から出力される制御信号に応じて、識別閾値設定回路12で設定される識別閾値のレベルが可変制御されるようにした部分であり、その他の部分の構成は第1実施形態の場合と同様である。ここでは、制御回路15が閾値制御部としての機能を具備することになる。
【0039】
このような構成の自動分散補償システムでは、例えば図11〜図14に示すように、DFF11におけるモニタ信号の識別処理が、固定の識別位相Tのタイミングに対して、識別閾値を段階的に変化させて行われ、その識別結果に基づいて伝送路で生じた波長分散値が判断されるようになる。
図15は、第3実施形態において波長分散をモニタするためのアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。ここでは例えば、識別閾値を4段階(Vth1〜Vth4)に変化させて識別処理を行うことにより、0,−10,−30,−50ps/nmおよび−50ps/nm以下の波長分散値を検出する場合を想定して具体的な説明を行うことにする。
【0040】
まず、図15のステップ1(図中S1で示し、以下同様とする)では、識別閾値設定回路12からDFF11に与えられる識別閾値が初期値Vth1(図11〜図14参照)に設定される。そして、ステップ2では、識別位相Tのタイミングでモニタ信号の「1」レベルと識別閾値Vth1の比較が行われ、識別結果がハイ(HIGH;DEC=1)となるかロー(LOW;DEC=0)となるかが判定される。具体的に図11に示したように識別閾値Vth1に対する識別結果がハイとなる場合には、ステップ3に進んで波長分散値が0ps/nmと検出される。一方、図12〜図14に示したように識別閾値Vth1に対する識別結果がローとなる場合には、ステップ4に移って識別閾値の設定がVth2(<Vth1)に変更される。
【0041】
そして、ステップ5では、上記のステップ2の場合と同様にして、識別閾値Vth2に対するモニタ信号の識別結果が判定される。このとき、図12に示したように識別閾値Vth2に対する識別結果がハイとなる場合には、ステップ6に進んで波長分散値が−10ps/nmと検出される。一方、図13、図14に示したように識別閾値Vth2に対する識別結果がローとなる場合には、ステップ7に移って識別閾値の設定がVth3(<Vth2)に変更される。
【0042】
さらに、ステップ8では、識別閾値Vth3に対するモニタ信号の識別結果が判定され、識別結果がハイとなる場合(図13)にはステップ9で波長分散値が−30ps/nmと検出され、ローとなる場合(図14)にはステップ10で識別閾値の設定がVth4(<Vth3)に変更される。最後に、ステップ11において識別閾値Vth4に対する識別結果の判定が行われ、ハイとなる場合(図14)にはステップ12で波長分散値が−50ps/nmと検出され、ローとなる場合にはステップ13で波長分散値が−50ps/nm以下と検出される。
【0043】
上記のようなアルゴリズムにおける波長分散値、識別閾値および識別結果の関係をまとめると次の表1のようになる。
【0044】
【表1】
Figure 0004056846
上記のように第3実施形態の自動分散補償システムによれば、モニタ信号の識別結果に応じて、DFF11に設定される識別閾値を多段階に変化させるようにすることによって、波長分散の変動をより高い精度で検出することが可能となる。これによりモニタ系の構成の簡略化を図ることができ、波長分散の自動補償をより確実に行うことが可能になる。
【0045】
なお、上記の第3実施形態では、識別閾値を4段階に変化させて波長分散を検出する一例を示したが、DFF11に与える識別閾値は、要求される波長分散の検出精度に応じて任意の段階で設定することが可能である。また、識別閾値を段階的に小さくすることにより、波形広がりが発生している場合の波長分散の減少を検出する場合を説明したが、波形圧縮が発生している場合には、識別閾値を段階的に大きくすることにより波長分散の増加を高い精度で検出することが可能である。
【0046】
次に、本発明の自動分散補償システムの第4実施形態について説明する。
図16は、第4実施形態の自動分散補償システムを示す構成図である。
図16において、第4実施形態の自動分散補償システムの構成が上述の図1に示した第1実施形態の場合と異なる部分は、制御回路15から出力される制御信号に応じて、遅延回路13におけるクロック信号の遅延量が可変制御されるようにした部分であり、その他の部分の構成は第1実施形態の場合と同様である。ここでは、制御回路15が位相制御部としての機能を具備することになる。
【0047】
このような構成の自動分散補償システムでは、例えば図17〜図20に示すように、DFF11におけるモニタ信号の識別処理が、固定の識別閾値Vthに対して、識別位相を段階的に変化させて行われ、その識別結果に基づいて伝送路で生じた波長分散値が判断されるようになる。
図21は、第4実施形態において波長分散をモニタするためのアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。ここでは例えば、識別位相を4段階(T1〜T4)に変化させて識別処理を行うことにより、0,−10,−30,−50ps/nmおよび−50ps/nm以下の波長分散値を検出する場合を想定して具体的な説明を行うことにする。
【0048】
まず、図21のステップ21では、遅延回路13で遅延されたクロック信号に同期してDFF11に与えられる識別位相が初期値T1(図17〜図20参照)に設定される。そして、ステップ22では、その識別位相T1のタイミングでモニタ信号の「1」レベルと識別閾値Vthの比較が行われ、識別結果がハイ(HIGH;DEC=1)となるかロー(LOW;DEC=0)となるかが判定される。具体的に図17〜図20の各受信波形ではいずれの識別結果もハイとなるので次のステップ24に進んで識別位相の設定がT2(<T1)となるように遅延回路13における遅延量が変更される。なお、識別位相T1のタイミングで識別結果がローとなった場合には、ステップ23で波長分散値が−50ps/nm以下と検出される。
【0049】
そして、ステップ25では、上記のステップ22の場合と同様にして、識別位相T2のタイミングにおけるモニタ信号の識別結果が判定される。このとき、図20に示したように識別結果がローとなる場合には、ステップ26に進んで波長分散値が−50ps/nmと検出される。一方、図17〜図19に示したように識別結果がハイとなる場合には、ステップ27に移って識別位相の設定がT3(<T2)となるように遅延回路13における遅延量が変更される。
【0050】
さらに、ステップ28では、識別位相T3のタイミングにおけるモニタ信号の識別結果が判定され、識別結果がローとなる場合(図19)にはステップ29で波長分散値が−30ps/nmと検出され、ハイとなる場合(図17、図18)にはステップ30で識別位相の設定がT4(<T3)となるように遅延回路13における遅延量が変更される。最後に、ステップ31では、識別位相T4のタイミングにおけるモニタ信号の識別結果が判定され、識別結果がローとなる場合(図18)にはステップ32で波長分散値が−10ps/nmと検出され、ハイとなる場合(図17)にはステップ33で波長分散値が0ps/nmと検出される。
【0051】
上記のようなアルゴリズムにおける波長分散値、識別閾値および識別結果の関係をまとめると次の表2のようになる。
【0052】
【表2】
Figure 0004056846
上記のように第4実施形態の自動分散補償システムによれば、モニタ信号の識別結果に応じて、DFF11に設定される識別位相を多段階に変化させるようにすることによっても波長分散の変動をより高い精度で検出することが可能となる。これによりモニタ系の構成の簡略化を図ることができ、波長分散の自動補償をより確実に行うことが可能になる。
【0053】
なお、上記の第4実施形態では、識別位相を4段階に変化させて波長分散を検出する一例を示したが、DFF11に与える識別位相は、要求される波長分散の検出精度に応じて任意の段階で設定することが可能である。また、識別位相を段階的に変化させることにより、波形広がりが発生している場合の波長分散の減少を検出する場合を説明したが、各識別位相の設定を適切に制御することで波形圧縮が発生している場合についても同様にして波長分散の変動を検出することが可能である。
【0054】
ところで、上述した第1〜第4実施形態では、図22のシステム概略図に示すように、光送信部30から伝送路1を介して伝送された信号光に生じた波長分散が受信端において自動補償される構成としたが、本発明の自動分散補償システムはこの構成に限られるものではない。なお、図22に示した波形変化検出部21は、上述の第1〜第4実施形態で説明したDFF11、識別閾値設定回路12、遅延回路13および積分回路14を包含した機能ブロックであり、また、受信器20は、上述の第1〜第4実施形態で説明した等化増幅器4、分岐器5、識別回路6およびクロック抽出回路7を包含した機能ブロックである。
【0055】
具体的に、第1〜第4実施形態の自動分散補償システムに関連する他の構成としては、例えば図23に示すように、光送信部30と伝送路1の送信端との間に可変分散補償器2を配置し、受信端でモニタした波長分散値に応じて上記の可変分散補償器2をフィードバック制御して、送信端で波長分散の自動補償を行うようにしてもよい。また、例えば図24に示すように、伝送路1上に中継器31を設けて信号光を中継伝送する場合には、中継区間の途中に可変分散補償器2を配置し、受信端でモニタした波長分散値に応じて可変分散補償器2をフィードバック制御して、中継区間で波長分散の自動補償を行うようにしてもよい。
【0056】
さらに、例えば図25に示すように、波長の異なる複数のチャネル光(図ではN波のチャネル光)を波長多重して伝送するWDM光通信システムの場合には、光受信部の分波器22で波長ごとに分波された各チャネル光Ch.1〜Ch.Nに対応させて、可変分散補償器21〜2N、波形変化検出部211〜21Nおよび制御回路151〜15Nをそれぞれ設け、各々のチャネル光ごとに波長分散の自動補償を行うようにしてもよい。また、例えば図26に示すように、光受信部の分波器22の前段に可変分散補償器2を配置するようにして、各波長に対応した波長分散を一括して自動補償することも可能である。
【0057】
次に、本発明の自動分散補償システムの第5実施形態について説明する。第5実施形態では、システム起動時などにおいて、システム全体で生じる波長分散値が不明となるような場合でも、可変分散補償器のフィードバック制御が確実に行われるようにした応用例について説明する。
図27は、第5実施形態の自動分散補償システムを示す構成図である。
【0058】
図27に示すシステム構成は、例えば、受信器20から出力される同期外れアラームを利用して、可変分散補償器2の初期設定動作を行うようにしたことを特徴とする。具体的には、受信器20で主信号のデータ識別処理を行う際に同期外れの状態になると出力される同期外れアラームが制御回路15に与えられる。制御回路15は、システム起動時などに、可変分散補償器2の分散補償量をその可変範囲の一部または全範囲に亘って掃引し、同期外れアラームが発生するか否かに応じて、少なくともフィードバック制御(トラッキングモード)時の同期が確立する範囲に分散補償量の初期値を設定する。詳しくは、例えば図28に示すように、分散補償量がAからBまでの範囲で同期外れアラームが発生しないことを探索すると、その範囲の中点を求めて分散補償量の初期設定値とする。
【0059】
このように同期外れアラームを利用して可変分散補償器2の初期設定動作を行うことにより、システム起動時などに分散トレランスを大きく逸脱するような波長分散が生じて受信波形の歪みが著しく大きくなり(例えば図29に示す波長分散値+1700ps/nmのときの受信波形のシミュレーション結果を参照)、受信信号とクロック信号の同期が確立できなくなるような状況になっても、可変分散補償器2の分散補償量が同期可能な範囲に自動的に初期設定されるようになる。これにより、受信信号およびクロック信号の同期確立を前提としたDFF11を用いた波長分散のモニタを確実に行うことができ、伝送路1で生じる波長分散を安定して自動補償することが可能になる。
【0060】
なお、上記の第5実施形態では、受信器20から出力される同期外れアラームを利用して可変分散補償器2の初期設定動作を行うようにしたが、同期外れアラームを利用する代わりに、例えば、誤り率やQ値、B1バイト(SONET/SDHシステムの場合)などの伝送品質情報を利用して、可変分散補償器2の分散補償量を同期可能な範囲に設定するようにしてもよい。
【0061】
また、上述した第1〜第5実施形態では、伝送路1で生じる波長分散の変動を本発明によるモニタ技術を適用して検出する場合について説明したが、これと同様にして偏波モード分散(PMD)の変動もモニタすることが可能である。この場合、モニタした偏波モード分散値に応じて公知の偏波モード分散補償器における補償量をフィードバック制御することで、伝送路で生じる偏波モード分散を動的に自動補償することが可能になる。また、波長分散および偏波モード分散の自動補償が同時に行われるようなシステムにおける分散モニタとしても本発明は有効である。
【0062】
以上、本明細書で開示した主な発明について以下にまとめる。
【0063】
(付記1) 光通信システムの分散特性をモニタする分散モニタ装置であって、
前記光通信システムを伝送された信号光を光電変換した受信信号が入力され、識別位相および識別閾値を設定することにより入力信号がハイレベルであるかローレベルであるかを識別して該識別結果を論理値として出力するデータフリップフロップと、
前記データフリップフロップから出力される論理値を平均化する積分回路と、前記積分回路から出力される信号のレベル変化に応じて、前記光通信システムで発生する分散の変動を検出する分散検出部と、
を備えて構成されたことを特徴とする分散モニタ装置。
【0064】
(付記2) 付記1に記載の分散モニタ装置であって、
識別位相および識別閾値の少なくとも一方が互いに相違するように設定された複数の前記データフリップフロップと、該各データフリップフロップにそれぞれ対応した複数の前記積分回路と、を備え、前記分散検出部が、前記各積分回路から出力される信号のレベルに応じて、前記光通信システムで発生する分散の変動を検出することを特徴とする分散モニタ装置。
【0065】
(付記3) 付記1に記載の分散モニタ装置であって、
前記データフリップフロップに設定される識別閾値を可変制御する閾値制御部を備え、前記分散検出部は、互いに異なる識別閾値に対応して前記積分回路から出力される各信号のレベルに応じて、前記光通信システムで発生する分散の変動を検出することを特徴とする分散モニタ装置。
【0066】
(付記4) 付記1に記載の分散モニタ装置であって、
前記データフリップフロップに設定される識別位相を可変制御する位相制御部を備え、前記分散検出部は、互いに異なる識別位相に対応して前記積分回路から出力される各信号のレベルに応じて、前記光通信システムで発生する分散の変動を検出することを特徴とする分散モニタ装置。
【0067】
(付記5) 付記1に記載の分散モニタ装置であって、
前記分散検出部は、前記光通信システムで発生する波長分散の変動を検出することを特徴とする分散モニタ装置。
【0068】
(付記6) 付記1に記載の分散モニタ装置であって、
前記分散検出部は、前記光通信システムで発生する偏波モード分散の変動を検出することを特徴とする分散モニタ装置。
【0069】
(付記7) 光通信システムの分散特性をモニタする分散モニタ方法であって、
識別位相および識別閾値を設定することにより入力信号がハイレベルであるかローレベルであるかを識別して該識別結果を論理値として出力するデータフリップフロップを用い、前記光通信システムを伝送された信号光の受信波形に対する識別処理を行い、
前記データフリップフロップから出力される論理値を積分回路により平均化し、
前記積分回路から出力される信号のレベル変化に応じて、前記光通信システムで発生する分散の変動を検出することを特徴とする分散モニタ方法。
【0070】
(付記8) 付記7に記載の分散モニタ方法であって、
前記データフリップフロップを用いた識別処理が、互いに相違する複数の識別閾値について行われることを特徴とする分散モニタ方法。
【0071】
(付記9) 付記7に記載の分散モニタ方法であって、
前記データフリップフロップを用いた識別処理が、互いに相違する複数の識別位相について行われることを特徴とする分散モニタ方法。
【0072】
(付記10) 付記1に記載の分散モニタ装置を用いた自動分散補償システムであって、
伝送路上に配置された可変分散補償器と、
該可変分散補償器よりも受信側に配置した前記分散モニタ装置で検出される分散の変動に応じて、該変動が小さくなるように前記可変分散補償器での分散補償量をフィードバック制御することにより、前記伝送路を伝搬した信号光に生じる分散を自動補償する制御回路と、
を備えて構成されたことを特徴とする自動分散補償システム。
【0073】
(付記11) 付記10に記載の光通信自動分散補償システムであって、
前記可変分散補償器は、前記伝送路の受信端に配置されることを特徴とする自動分散補償システム。
【0074】
(付記12) 付記10に記載の自動分散補償システムであって、
前記可変分散補償器は、前記伝送路の送信端に配置されることを特徴とする自動分散補償システム。
【0075】
(付記13) 付記10に記載の自動分散補償システムであって、
前記可変分散補償器は、前記伝送路上に設定された中継区間内に配置されることを特徴とする自動分散補償システム。
【0076】
(付記14) 付記10に記載の自動分散補償システムであって、
波長の異なる複数のチャネル光を含む波長多重信号光が前記伝送路を伝搬するとき、前記分散モニタ装置は、波長多重信号光の各波長のチャネル光にそれぞれ対応させて設けられることを特徴とする自動分散補償システム。
【0077】
(付記15) 付記10に記載の自動分散補償システムであって、
前記制御回路は、伝送品質情報を利用して、前記可変分散補償器の分散補償量の初期値がフィードバック制御可能な範囲内となるように設定動作を行うことを特徴とする自動分散補償システム。
【0078】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の分散モニタ装置および分散モニタ方法によれば、データフリップフロップと積分回路の組み合わせにより受信波形のレベル変化を検出して光通信システムで発生する分散の変動をモニタするようにしたことで、信号光の伝送速度に比べて低速な回路を用いた簡易な構成によってシステムの分散特性を高い精度で検出することができる。また、このような本発明の分散モニタ技術を適用した自動分散補償システムによれば、高い精度でモニタされた分散の変動に応じて可変分散補償器の分散補償量がフィードバック制御されるため、伝送路を伝搬した信号光に生じる分散を確実に自動補償することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の自動分散補償システムの第1実施形態を示す構成図である。
【図2】波長分散により波形歪みが生じる様子を説明するための図であって、波長分散値が0ps/nmの場合の受信波形のシミュレーション結果である。
【図3】波長分散により波形歪みが生じる様子を説明するための図であって、波長分散値が−10ps/nmの場合の受信波形のシミュレーション結果である。
【図4】波長分散により波形歪みが生じる様子を説明するための図であって、波長分散値が−20ps/nmの場合の受信波形のシミュレーション結果である。
【図5】図3の受信波形について、上記の第1実施形態においてDFFに設定される識別閾値および識別位相の関係を例示した図である。
【図6】図4の受信波形について、上記の第1実施形態においてDFFに設定される識別閾値および識別位相の関係を例示した図である。
【図7】本発明の自動分散補償システムの第2実施形態を示す構成図である。
【図8】上記の第2実施形態においてDFFに設定される識別閾値および識別位相の関係を波長分散値が+30ps/nmの場合の受信波形について例示した図である。
【図9】上記の第2実施形態においてDFFに設定される識別閾値および識別位相の関係を波長分散値が+50ps/nmの場合の受信波形について例示した図である。
【図10】本発明の自動分散補償システムの第3実施形態を示す構成図である。
【図11】上記の第3実施形態においてDFFに設定される識別閾値および識別位相の関係を波長分散値が0ps/nmの場合の受信波形について例示した図である。
【図12】上記の第3実施形態においてDFFに設定される識別閾値および識別位相の関係を波長分散値が−10ps/nmの場合の受信波形について例示した図である。
【図13】上記の第3実施形態においてDFFに設定される識別閾値および識別位相の関係を波長分散値が−30ps/nmの場合の受信波形について例示した図である。
【図14】上記の第3実施形態においてDFFに設定される識別閾値および識別位相の関係を波長分散値が−50ps/nmの場合の受信波形について例示した図である。
【図15】上記の第3実施形態において波長分散をモニタするためのアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
【図16】本発明の自動分散補償システムの第4実施形態を示す構成図である。
【図17】上記の第4実施形態においてDFFに設定される識別閾値および識別位相の関係を波長分散値が0ps/nmの場合の受信波形について例示した図である。
【図18】上記の第4実施形態においてDFFに設定される識別閾値および識別位相の関係を波長分散値が−10ps/nmの場合の受信波形について例示した図である。
【図19】上記の第4実施形態においてDFFに設定される識別閾値および識別位相の関係を波長分散値が−30ps/nmの場合の受信波形について例示した図である。
【図20】上記の第4実施形態においてDFFに設定される識別閾値および識別位相の関係を波長分散値が−50ps/nmの場合の受信波形について例示した図である。
【図21】上記の第4実施形態において波長分散をモニタするためのアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
【図22】第1〜第4実施形態について光通信システム全体の概略構成を示す図である。
【図23】図23に関連して送信端で自動分散補償を行うようにした構成例を示す図である。
【図24】図23に関連して中継区間で自動分散補償を行うようにした構成例を示す図である。
【図25】図23に関連してWDM光通信システムに適用した場合の構成例を示す図である。
【図26】図25に関連する他の構成例を示す図である。
【図27】本発明の自動分散補償システムの第5実施形態を示す構成図である。
【図28】上記の第5実施形態における可変分散補償器の初期設定動作を説明するための図である。
【図29】波長分散値が1700ps/nmの場合の受信波形のシミュレーション結果を示す図である。
【図30】一般的な光通信システムで伝送品質が劣化する要因をまとめた図である。
【図31】従来のクロックモニタ方法を適用し40Gb/sを想定した場合の構成例を示す図である。
【図32】従来のDEC(DFF)を用いて波長分散の変化を検出するモニタ方法を適用した場合の構成例を示す図である。
【符号の説明】
1 伝送路
2 可変分散補償器
3 受光器(PD)
4 等化増幅器
5,10,10’ 分岐器
6 識別回路
7 クロック抽出回路
11,11’ データフリップフロップ(DFF)
12,12’ 識別閾値設定回路
13,13’ 遅延回路
14,14’ 積分回路
15 制御回路
21 波形変化検出部

Claims (9)

  1. 光通信システムの分散特性をモニタする分散モニタ装置であって、
    前記光通信システムを伝送された信号光を光電変換した受信信号が入力され、識別を行うタイミングとしての識別位相および識別レベルとしての識別閾値に基づいて入力信号がハイレベルであるかローレベルであるかを識別して該識別結果を論理値として出力するデータフリップフロップと、
    前記データフリップフロップから出力される論理値を平均化する積分回路と、
    前記積分回路から出力される信号のレベル変化に応じて、前記光通信システムで発生する分散の変動を検出する分散検出部と、
    を備えて構成されたことを特徴とする分散モニタ装置。
  2. 請求項1に記載の分散モニタ装置であって、
    識別位相および識別閾値の少なくとも一方が互いに相違するように設定された複数の前記データフリップフロップと、該各データフリップフロップにそれぞれ対応した複数の前記積分回路と、を備え、
    前記分散検出部が、前記各積分回路から出力される信号のレベルに応じて、前記光通信システムで発生する分散の変動を検出することを特徴とする分散モニタ装置。
  3. 請求項1に記載の分散モニタ装置であって、
    前記データフリップフロップに設定される前記識別閾値を可変制御する閾値制御部を備え、前記分散検出部は、互いに異なる前記識別閾値に対応して前記積分回路から出力される各信号のレベルに応じて、前記光通信システムで発生する分散の変動を検出することを特徴とする分散モニタ装置。
  4. 請求項1に記載の分散モニタ装置であって、
    前記データフリップフロップに設定される前記識別位相を可変制御する位相制御部を備え、前記分散検出部は、互いに異なる前記識別位相に対応して前記積分回路から出力される各信号のレベルに応じて、前記光通信システムで発生する分散の変動を検出することを特徴とする分散モニタ装置。
  5. 光通信システムの分散特性をモニタする分散モニタ方法であって、
    識別を行うタイミングとしての識別位相および識別レベルとしての識別閾値に基づいて入力信号がハイレベルであるかローレベルであるかを識別して該識別結果を論理値として出力するデータフリップフロップを用い、前記光通信システムを伝送された信号光の受信波形に対する識別処理を行い、
    前記データフリップフロップから出力される論理値を積分回路により平均化し、
    前記積分回路から出力される信号のレベル変化に応じて、前記光通信システムで発生する分散の変動を検出することを特徴とする分散モニタ方法。
  6. 請求項5に記載の分散モニタ方法であって、
    前記データフリップフロップを用いた識別処理が、互いに相違する複数の前記識別閾値について行われることを特徴とする分散モニタ方法。
  7. 請求項5に記載の分散モニタ方法であって、
    前記データフリップフロップを用いた識別処理が、互いに相違する複数の前記識別位相について行われることを特徴とする分散モニタ方法。
  8. 請求項1に記載の分散モニタ装置を用いた自動分散補償システムであって、
    伝送路上に配置された可変分散補償器と、
    該可変分散補償器よりも受信側に配置した前記分散モニタ装置で検出される分散の変動に応じて、該変動が小さくなるように前記可変分散補償器での分散補償量をフィードバック制御することにより、前記伝送路を伝搬した信号光に生じる分散を自動補償する制御回路と、
    を備えて構成されたことを特徴とする自動分散補償システム。
  9. 請求項8に記載の自動分散補償システムであって、
    前記制御回路は、伝送品質情報を利用して、前記可変分散補償器の分散補償量の初期値がフィードバック制御可能な範囲内となるように設定動作を行うことを特徴とする自動分散補償システム。
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