JP4041395B2 - 故障検出装置及び故障検出方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数のセンサを用いて機器の動作やプロセスにおける異常の発生を監視する故障検出装置及び故障検出方法に関し、特に、複数のセンサの検出値に基づいて故障の種類の識別を行うことが可能な故障検出装置及び故障検出方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
複数のセンサを備えた機器において、各センサが随時検出する測定値(パラメータ)の間に一定の関係式が成立している場合には、各パラメータの相関関係の変化を監視することにより、いずれかのセンサのパラメータの異常を発見することができる。
【0003】
ここで、センサとしては、温度センサ、圧力センサ、電圧センサ、電流センサなどを含むあらゆるセンサを考えることができる。また、これらのセンサのパラメータの異常とは、典型的には、検出される温度、圧力、電圧、電流等の過大又は過小であり、その判断基準は任意に決定し得るものである。
【0004】
上記において、複数のセンサそれぞれパラメータを監視するためには、多変量統計解析的アプローチを行うのが一般的である。例えば、n個のセンサが与えるn個のパラメータがある場合を考える。機器が正常状態であるときにn個のパラメータ間に一定の関係式が成り立つとすると、n個のパラメータは、実質的にはn-1次元又はこれより低い次元において捕らえることができる。
【0005】
図5は、上記のような多変量統計解析的アプローチの概念を示す図である。図5に示す例では、3つのパラメータx1、x2及びx3について考える。これら3つのパラメータの間に何の相関関係も無い場合には、これらの値を3次元空間にプロットしてゆくと、プロットは3次元空間内に無秩序に拡がる。しかしながら、これら3つのパラメータ間に何らかの相関関係がある場合、すなわち、x1、x2及びx3の間に一定の関係式が成立するとした場合には、図5に示すように、各パラメータの値は1つの平面上に(あるいは1つの直線上に)集まってプロットされることになる。
【0006】
各センサのパラメータから機器の故障を検出するという観点からは、機器が正常時には、パラメータx1、x2及びx3の間に上記の一定の関係式(1つの平面又は直線を表す式)が成立するものと考えられるので、例えば、機器を正常運転させている間に、各センサの測定値から上記の一定の関係式を導出しておくことができる。また、機器が故障するなどして、いずれかのセンサが異常な値を検出した場合には、上記の一定の関係式が成立しなくなり、測定値は図5に示す平面から外れた位置にプロットされることになる。
【0007】
上記のように、機器が正常である間に各センサのパラメータ間の関係式を導出しておく数学的方法としては、PCA(Principal Component Analysis、主成分分析)やPLS(Partial Least Square、部分最小二乗法)などがある。
【0008】
図5に示す例では、さらに、各センサのパラメータの異常を判断する指標として、ホテリングのT2統計量と呼ばれる手法を用いている。これは、図5の平面上に描かれた楕円形の領域内にあるかどうかに基づいて異常を判断するものである。統計的には、このT2統計量がF分布することを利用して異常と判断する閾値を設けることがよく行われている。
【0009】
この判断手法は、パラメータ間の相関関係に変化がなくとも、各センサの取る値が正常な値から離れている場合に異常と判断するものである。したがって、センサ間の相関関係(上記では平面又は直線を示す関係式)を求める際に、偶然経験しなかった変数領域を取った場合、正常にもかかわらず異常と判断してしまう可能性がある。
【0010】
上記の他に、各センサのパラメータの異常を判断する指標として、二乗予測誤差(squared prediction error:SPE)を用いる手法もある。これは、図5に示す平面(あるいは直線)から外れた位置にプロットが行われた場合、そのプロット点から平面(あるいは直線)への垂線を引き、この垂線の長さを二乗した値を指標とするものである。これにより、各パラメータ間の相関関係の乱れを監視することができる。
【0011】
ところで、上記したPCAやPLSによる故障診断方法は、各変数間の純粋な統計的な相関関係を監視するものであり、機器やセンサなどの物理的な因果関係を背景としたモデルを構築しているわけではない。したがって、このような方法では、故障の検出ができても、故障の種類や性質を判別することは容易ではない。
【0012】
しかしながら、こういった多変量統計手法による故障診断において、故障の種類を識別する試みが行われており、いくつかの成功例が存在する。以下に、その一例として、ヒートポンプ熱交換器における故障診断方法を説明する。
【0013】
図6は、本例において使用したヒートポンプ熱交換器の構成を概略的に示す図である。
図6において、ヒートポンプ熱交換器は、コンプレッサ61、凝縮器(高温側熱交換器)62、膨張弁63、及び蒸発器(低温側熱交換器)64から構成されており、このヒートポンプサイクル内において、コンプレッサ61の動力により熱媒体を循環させることにより、低温側熱交換器64では熱の吸収(すなわち冷却)を、高温側熱交換器62では熱の放出(すなわち加熱)を行うものである。
【0014】
このヒートポンプを稼動させると、気体の熱媒体はコンプレッサ61により圧縮され、凝縮器62において凝縮されて液化した後、液体の熱媒体は膨張弁63で断熱膨張され、蒸発器64において気化されるというサイクルを繰り返す。このとき、凝縮器62において、熱媒体はほぼ等圧下で液化するとともに外部に熱ΔHhを放出する。一方、蒸発器64において、熱媒体はほぼ等圧下で気化するとともに外部から熱ΔHlを吸収する。したがって、蒸発器64は高温側熱交換器として加熱を、凝縮器62は低温側熱交換器として冷却をそれぞれ行うことができる。
【0015】
このようなヒートポンプ熱交換器では、熱媒体の汚染及び変質、サイクル内の各機器の異常、配管の汚れなどの異常が発生するおそれがあり、これらは熱交換器における加熱・冷却能力が劣化する原因となる。このようなヒートポンプサイクル内部における異常を診断するために、ヒートポンプサイクルに設置したセンサ類の測定値を監視することが行われている。
本例においてヒートポンプサイクルに設置したセンサ類は、以下の表1に示すとおりである。
【0016】
【表1】
【0017】
本例では、ヒートポンプ熱交換器を正常状態で運転するとともに、上記各センサの測定値(パラメータ)について、10秒毎に記録し、合計4500点のプロットを得た。これら10個センサの測定値は10次元超空間にプロットされる。
【0018】
ここで、上記の測定結果のうち、最初の3000点のプロットを用いてPCAによる多変量統計解析を行い、ヒートポンプ熱交換器が正常状態で運転しているときの各センサのパラメータ間における相関関係を導出した。この相関関係は、10個のパラメータを含む9次元以下の関係式として表現される。すなわち、上記10次元超空間におけるプロットが9次元以下の超平面に投影されることになる。本例では、投影された次元は2次元であった。この2次元空間を正常状態でのモデルとすることにより、このモデルからのずれが生じるかどうかをセンサの異常の指標とすることができる。
【0019】
続いて、上記の測定結果のうち、残り1500点のプロットを用いて異常診断を行う。ここではセンサの故障をシミュレーションするために、それぞれのセンサの測定値(パラメータ)に対して、
1)正の方向に20%のオフセットを付加、
2)負の方向に20%のオフセットを付加、
3)真の計測値の50%から150%まで変動するランダムノイズを乗ずる
の3種類の加工を行い、異常データとした。
【0020】
尚、ここでは、センサの測定値がフィードバック制御に用いられていない場合を想定している。すなわち、上記で最初の3000点のプロットを用いて得られたモデルは、センサ故障のシミュレーションを行う間、不変である。
【0021】
さて、各センサの測定値のうち第k点目の測定値について、10次元超空間にプロットした点から、上記PCAモデルにより求めた正常状態のモデルを表す2次元平面に垂線を下ろし、この垂線と前記2次元平面との交点を原点とし、データ点を終点とするベクトルe(k)を考える。
第k点目のプロット点の位置ベクトルをx(k)とし、第k点目のプロット点からの垂線と前記2次元平面との交点の位置ベクトルを
【0022】
【数1】
とすると、上記ベクトルe(k)は
【0023】
【数2】
と表される。このベクトルの各成分(各センサの測定値に対応する成分)に注目する。
【0024】
図7は、本例において、1番目のセンサである冷媒高温側圧力センサPHに負の方向のオフセットを加えた場合のベクトルe(k)の各成分を示すグラフである。
図7において、冷媒高温側圧力センサPHに対応する1番目の成分には、他の成分に比べると、負の方向に大きな予測誤差が生じている。この図では、冷媒高温側圧力センサPHに異常が生じていることを容易に識別することができる。
【0025】
一方、図8は、本例において、9番目のセンサである室内温度センサITに正の方向のオフセットを加えた場合のベクトルe(k)の各成分を示すグラフである。
図8では、室内温度センサITに対応する9番目の成分において、正の方向に大きな予測誤差が生じているのみならず、2番目、5番目及び6番目の成分においてもある程度の大きさの予測誤差が現れている。この図では、どのセンサが異常であるのかまでは明らかとはならない。
【0026】
このことは以下のように説明される。
今、3変数x1、x2及びx3の間に相関関係があり、正常なデータ点が一つの直線上にプロットされる場合を考える。新たに観測されたデータ点がこの直線上に無ければ異常であると判断する。
例えばx1のセンサに異常が現れたとする。このときデータ点は本来あるべき直線上の点
【0027】
【数3】
からずれた点xとなる。
xと
【0028】
【数4】
【0029】
とを結ぶベクトルを考えると、x1軸に平行な成分のみ値を持ち、他の2成分は0であろう。しかし、一般に真のxの位置は不明である。どのセンサが異常なのか分からない場合、xの推定位置
【0030】
【数5】
はxから正常状態のモデルとして定められた上記の直線上に下ろした垂線の足と考えるのが普通である。xとこの
【0031】
【数6】
【0032】
を結ぶベクトルが予測誤差ベクトルであり、x1のみならずx2、x3の成分にも一般に値が現れる。このため、どのセンサが異常であるのかを識別できないことになる。
【0033】
そこで、どのセンサが異常なのかを識別するために、例えば、構造化残差(structured residuals)を使用することになる。上記の場合において、予測誤差ベクトルは、正常なデータ点によって決定される直線に対して垂直な平面内に必ず存在する。一般に正常な点がa次元空間に存在する場合、予測誤差ベクトルは(n-a)次元空間に存在する。これを残差部分空間と呼ぶ。
【0034】
上記の場合では、残差部分空間の次元は2であるから、2つの成分を有するベクトル(2次元ベクトル)を使用することにより、どのセンサが異常なのかを識別することになる。
【0035】
ここで「構造化残差」とは、予測誤差ベクトルの各成分が特定の故障に対して感度を持たないように線形変換を行うものである。すなわち、本例では、それぞれの成分にある閾値を設けてそれよりも大きければ1、小さければ0とすることにすれば、ある2種類の故障に対して(1,0)と(0,1)となるように線形変換行列を設計すればよい。
【0036】
このような異常検出のアプローチとして、特許文献1及び非特許文献1に示す技術が従来知られている。これらの文献において、GartlerらやQinらは、それぞれの方法によって、PCAの予測誤差について構造化残差を計算し、それによって故障の種類(たとえばセンサ異常であれはどのセンサが故障したのか)を識別している。
【0037】
図9は、上記した従来の故障検出方法の一般的な手順について説明するフローチャートである。
まず、モデルユニット91において、機器が正常状態での各センサの測定値の間に成立する関係式に基づいて正常状態のモデルを得る。このモデルに基づいて、実際の測定値とモデルにより予測される測定値との予測誤差ベクトルe(k)を算出する。ここで、
【0038】
【数7】
【0039】
となるモデル行列Bを予め算出しておくものとする。すなわち、実際に得られるデータ点にモデル行列Bをかけることにより、予測誤差e(k)が算出されるようになっている。
【0040】
続いて、異常検出ユニット92において、上記で算出された予測誤差e(k)を監視し異常を検出する。
また、構造化残差ユニット93において、機器が正常状態のときに算出された予測誤差e(k)に基づいて、構造化残差計算のための変換行列Wを算出し、これを記憶しておく。ここで、変換行列Wは、以下の式に基づいて、予測誤差e(k)の値から構造化残差rを与えるように決定されている。
【0041】
【数8】
【0042】
異常検出ユニット92において、予測誤差e(k)に異常が発見された場合、センサの故障が発生したと判断して、予測誤差e(k)の値を識別ユニット94に出力する。識別ユニット94では、異常検出ユニット92から得られた予測誤差e(k)の値と、構造化残差ユニット93から得られた変換行列Wとに基づいて、構造化残差rを算出し、これに基づいて、故障の種類(例えばどのセンサにおいて異常が発生しているのか)を判断する。
【0043】
【特許文献1】
特表2002-522837号公報
【非特許文献1】
Gertler et al. AIChe Journal, Vol.45 (1999), pp. 323-334。
【0044】
【発明が解決しようとする課題】
上記のPCAによる予測誤差から構造化残差を導出して故障の識別を行う従来の故障検出方法では、変換行列Wの設計の仕方によって故障の識別性能が変わる。変換行列Wの設計については、様々な提案がなされている。
【0045】
しかしながら、上記従来の方法では、変換行列Wの設計に大変な手間がかかるのみならず、モデル行列B及び変換行列Wの両方を計算する必要がありシステムが煩雑になるという問題点があった。
【0046】
また、上記従来の方法では、図8に示すように、1つのセンサのみが故障した場合であっても、全てのセンサ測定値の予測誤差に影響が及んでしまい、いずれのセンサが故障しているのかを識別するためには、予測誤差ベクトルに適切な線型変換を施すなどして、特定のセンサの故障に対して予測誤差ベクトルの特定成分のみが反応するようにする必要があった。
【0047】
本発明は、このような実情に鑑み、特に、1つのセンサのみが故障している場合に、より簡易な構成で当該故障しているセンサを識別することができるような故障検出装置及び故障検出方法を提供しようとするものである。
【0048】
【課題を解決するための手段】
上記解決課題に鑑みて鋭意研究の結果、本発明者は、センサを2つの群に分割するとともに、一方の群のセンサにおけるパラメータを、他方の群のセンサにおけるパラメータの説明変数とすることにより、単一のセンサの異常を容易に識別することが可能となることに想到した。
【0049】
すなわち、本発明は、複数のセンサの測定値に基づいて異常を検出する故障検出装置であって、前記複数のセンサを複数の群に分割し、前記各群のセンサそれぞれについて正常時のモデルを生成するモデルユニットと、前記正常時のモデルに基づいて、前記各センサの測定値の異常を検出する異常検出ユニットと、前記検出された異常について、前記複数のセンサのうちいずれが異常であるかを識別する識別ユニットと、を備えており、前記各群のセンサの正常時のモデルは他の群のセンサの測定値により作成されるように設計されている故障検出装置を提供するものである。
【0050】
これにより、1の群の1つのセンサに異常が発生した場合、同じ群の他のセンサの測定値に影響を及ぼさないので、前記1の群の中では前記1つのセンサのみの測定値に異常が表れることになり、したがって、異常を容易に検出することができる。
【0051】
本発明はまた、複数のセンサの測定値に基づいて異常を検出する故障検出装置であって、前記複数のセンサを第1の群及び第2の群に分割するとともに、前記第1の群及び第2の群それぞれについて正常時のモデルを生成するモデルユニットと、前記正常時のモデルに基づいて、前記各センサの測定値の異常を検出する異常検出ユニットと、前記検出された異常について、前記複数のセンサのうちいずれが異常であるかを識別する識別ユニットと、を備えており、前記第1の群のセンサの正常時のモデルは前記第2の群のセンサの測定値により作成され、前記第2の群のセンサの正常時のモデルは前記第1の群のセンサの測定値により作成されるように設計されている故障検出装置を提供するものである。
【0052】
本発明の故障検出方法は、さらに、前記正常時のモデルに基づいて構造化残差を算出する構造化残差ユニットと、前記構造化残差を用いてセンサの異常を識別する構造化残差識別ユニットとをさらに備えており、前記識別ユニットにおいて、前記複数のセンサのうちいずれが異常であるかを識別できない場合には、前記構造化残差識別ユニットにおいてセンサの異常を識別するよう設計されていることを特徴とする。
これにより、単一センサの故障ではないと判断した場合には、従来の構造化残差を用いた故障検出方法を応用して、故障を検出することが可能となる。
【0053】
本発明は、また、複数のセンサの測定値に基づいて異常を検出するための故障検出方法であって、前記複数のセンサを複数の群に分割し、前記各群のセンサの正常時のモデルを、他の群のセンサの測定値を用いて作成するステップと、前記正常時のモデルに基づいて、前記各センサの測定値の異常を検出するステップと、前記検出された異常について、前記複数のセンサのうちいずれが異常であるかを識別するステップと、を含む故障検出方法を提供するものである。
【0054】
本発明は、また、複数のセンサの測定値に基づいて異常を検出するための故障検出方法であって、前記複数のセンサを第1の群及び第2の群に分割し、前記第2の群のセンサの測定値を用いて前記第1の群のセンサの正常時のモデルを作成し、前記第1の群のセンサの測定値を用いて前記第2の群のセンサの正常時のモデルを作成するステップと、前記正常時のモデルに基づいて、前記各センサの測定値の異常を検出するステップと、前記検出された異常について、前記複数のセンサのうちいずれが異常であるかを識別するステップと、を含む故障検出方法を提供するものである。
【0055】
本発明の故障検出方法は、さらに、前記識別ユニットにおいて、前記複数のセンサのうちいずれが異常であるかを識別できない場合には、前記正常時のモデルに基づいて構造化残差を算出し、該構造化残差を用いてセンサの異常を識別するステップをさらに含んでいることを特徴とする。
【0056】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
尚、本発明の故障検出装置及び故障検出方法の適用範囲については、上記した従来の故障検出方法と同様であり、ここでは、図6に示すようなヒートポンプ熱交換器におけるセンサ類の故障検出を行う例について説明する。
【0057】
本発明では、まず、ヒートポンプ熱交換器における複数のセンサを2つのセンサブロックX及びYに分割する。本実施形態では、表2に示すように、センサブロックXにコンプレッサ皮相電力VI、外気温度(高圧側)OT、室内温度(低圧側)IT及びコンプレッサ消費電力Wを割り当てる。
【0058】
【表2】
【0059】
また、表3に示すように、センサブロックYに冷媒高圧側圧力PH、冷媒低圧側圧力PL、冷媒高圧側熱交換器流入温度THI、冷媒高圧側熱交換器流出温度THO、冷媒低圧側熱交換器流出温度TLO及び冷媒低圧側熱交換器流入温度TLIを割り当てる。
【0060】
【表3】
【0061】
続いて、機器の正常状態におけるモデルを上記同様にして導出する。本実施形態では、特に、センサブロックXの変数群をセンサブロックYの変数群により表すPLS回帰モデルと、センサブロックYの変数群をセンサブロックXの変数群により表すPLS回帰モデルとを作成し、それぞれの予測誤差ベクトルを監視するのである。
【0062】
上記のPLS回帰モデルとは、例えば、Yを被説明変数群、Xを説明変数群とすると、最終的にYの挙動をXで表すことを目的とするのであるが、通常の最小二乗法を用いた回帰モデルと異なる点は、モデルの構築に各変数それ自身を直接使うのではなく、変数群から導かれる潜在変数を使用する点である。この点はPCAと類似している。PCAの場合にはデータ群の分散が大きい方向に線形独立な潜在変数を順次取ってゆくのであるが、PLSの場合には潜在変数はXとYの相関を最大化するようなものを順次取ってゆく点が異なる。計算アルゴリズムはNIPALS(Non-linear Iterative Partial Least Square)と呼ばれる一般に知られているアルゴリズムに基づくものである。
上記のPLSモデルは一般に、
【0063】
【数9】
【0064】
のように書き表される。それぞれ、XおよびYの変数群の挙動が、ローディングベクトル(pやq)とスコアベクトル(tやu)の積の和に分解された形になる。TおよびUはPLSスコア行列、PおよびQはPLSローディング行列、EとF*は誤差行列、hはPLS次数である。上記関係式はOuter relationsと呼ばれる。
また、Inner relationと呼ばれる下記の関係がある。
【0065】
【数10】
【0066】
これらの結果を重回帰モデルの形で表現すると
【0067】
【数11】
となり、予測誤差Δy(t)は下のように表される。
【0068】
【数12】
【0069】
上記は、センサブロックYのセンサ測定値を被説明変数群、センサブロックXのセンサ測定値を説明変数群とした場合におけるセンサブロックYの各センサ測定値予測誤差を表す式である。同様にして、センサブロックXのセンサ測定値を被説明変数群、センサブロックYのセンサ測定値を説明変数群とした場合におけるセンサブロックXの各センサ測定値予測誤差は、次のように表される。
【0070】
【数13】
【0071】
したがって、機器の正常状態におけるモデルを表すモデル行列B及びCが得られる。
上記した本実施形態の原理に基づいて故障検出を行う方法を、図1に示すフローチャートを参照しながら説明する。
まず、モデルユニット11において、各センサを2つのセンサブロックに分割する。第1のセンサブロック及び第2のセンサブロックについて、機器の正常運転時に各センサにおいて測定される測定値(パラメータ)を用いて、上記の原理に従ってモデル行列B及びCをそれぞれ算出しておく。
【0072】
続いて、機器を実際の運転する際に、異常検出ユニット12は、各センサの測定値を監視し、上記で算出したモデル行列B及びCに基づいて異常を検出する。
異常検出ユニット12が異常を検出すると、識別ユニット15において、上記原理に基づいて異常の識別を行う。具体的には、第1及び第2のセンサブロックの各センサの測定値から、上記の予測誤差ベクトルΔx(t)及びΔy(t)を算出する。この算出結果に基づいて、いずれのセンサが異常であるかを識別することが可能となる。
【0073】
尚、上記した実施形態の故障検出方法では、識別ユニット15において、単一のセンサの故障のみを検出しているが、この方法では複数のセンサの故障を識別することは不可能である。したがって、本発明の他の実施形態として、上記した本発明の原理に基づいて単一のセンサの故障を識別した後に、故障が識別されない場合には、従来の方法に従い故障検出を行う方法がある。
【0074】
図2は、このような実施形態の処理の流れを示すフローチャートである。図2において、モデルユニット21、異常検出ユニット22及び識別ユニットは25、それぞれ、図1に示したモデルユニット11、異常検出ユニット12及び識別ユニット15と同様に構成されており、同様の働きをするものとする。また、構造化残差ユニット23及び識別ユニット24は、それぞれ、図9に示した従来の故障検出方法における構造化残差ユニット93及び識別ユニット94と同様に構成されており、同様の働きをするものとする。
【0075】
本実施形態では、異常検出ユニット22において予測誤差の異常を検出した後、まず識別ユニット25において、予測誤差ベクトルΔx(t)及びΔy(t)から、1つのセンサのみが異常であるかどうかを識別する。1つのセンサのみが異常であると判断した場合には、故障を検出したとして処理を終了する。
【0076】
識別ユニット25において、1つのセンサのみの異常ではないと判断した場合には、さらに、識別ユニット24において、従来の構造化残差を用いた故障検出方法により故障の種類及び性質を判断する。
【0077】
上記した各実施形態の故障検出方法について、実際の実験例を示しながら説明する。図6に示すヒートポンプ熱交換器を用いて、上記したのと同様の実験を行った。但し、本実験例では、センサブロックを表2及び表3に示すように分割してある。
【0078】
本実験例では、機器が正常状態でのモデルを作成し記憶した後、単一のセンサ故障をシミュレーションするために、センサブロックXの3番目のセンサ(室内温度)に正方向のオフセットを加えて故障検出を行った。ここで、実験条件は図8に示した従来の故障検出方法と全く同じであった(すなわち、図3におけるセンサブロックXの3番目のセンサは、図8における9番目のセンサに相当する)。
図3は、本実験例における予測誤差ベクトルの各成分を示すグラフである。この実験結果は以下のように説明される。
【0079】
室内温度センサはセンサブロックXに属しているから、これが故障すると2つの予測誤差ベクトルのうちまずΔyは非ゼロとなる。一方、同時にΔxのほうも非ゼロとなるが、その成分を見ると3番目の室内温度センサに相当する成分のみが大きな値を有し、他の成分はほぼゼロに近い値となっている。これは、室内温度センサはXブロックのセンサ値を表すモデルの説明変数として使用されていないため、Xブロックの他のセンサの予測値には影響をおよぼさないからである。
したがって、一般にXブロックのi番目のセンサに異常が現れると、予測誤差ベクトルΔx(t)及びΔy(t)は、
【0080】
【数14】
【0081】
のようになり、Yブロックのj番目のセンサに異常が現れると、予測誤差ベクトルΔx(t)及びΔy(t)は、
【0082】
【数15】
【0083】
のようになるので、本発明の故障検出方法では、構造化残差の生成を必要とせずに全てのセンサの単独異常が識別されることになる。図8に示した従来の故障検出方法による実験例の結果と比較すればその効果は明白である。
【0084】
尚、複数のセンサの同時異常やフィードバックに使用されているセンサの異常、あるいはプロセス異常については従来の構造化残差を用いた故障検出方法を適用すればよい。
【0085】
さて、本発明の故障検出方法において、センサの2つのブロックへの分割は、まず直観的に行い、あとから統計的に修正する方法が考えられる。上記の各実施形態では、まず最初に、冷媒の圧力や温度が周囲の環境や運転状況とどう関係があるか、という観点に基づくモデルが良いと考え、Xブロックに周囲の環境(外気温度、室内温度)および運転状況(コンプレッサの皮相電力と消費電力)をとり、Yブロックに冷媒の各部における温度や圧力のデータをとった。
【0086】
この分割の仕方が適切かどうか、すなわち、一方のブロックのセンサ群が他方のブロックのセンサ群の挙動によってよく説明されているかどうかを統計学的観点から調べる。具体例を示すために、今、計測されたデータをと全く関係なく人工的に作成したダミーデータをYブロックに加えてみる。これに基づいてPLS回帰モデルの作成を試みる。PLSの計算はその次数を順次増してゆく形で行われるから、各次数においてYブロックのセンサ群の挙動が統計的にどの程度Xブロックのセンサ値の挙動によって説明されたかを、以下に示す式に従ってプロットしてみる。
【0087】
【数16】
【0088】
図4にそのプロット図を示す。図4によれば、ダミーデータ以外のセンサ値挙動はPLS次数が3となるまでによく説明されているのに対し、ダミーデータは次数をさらに増してもXブロックのセンサ値挙動によってよく説明されない。このようなデータをとりのぞいて再度PLS回帰モデルを計算する。これを繰り返すことで、2つのブロック間において互いに相手をよく説明できるモデルが作成される。
【0089】
尚、上記した各実施形態では、複数のセンサを2つの群に分割する例について説明したが、本発明の故障検出装置及び故障検出方法はこれに限定されるものではなく、複数のセンサを3つ以上の群に分割するとともに、各群のセンサの正常時のモデルを、他の群のセンサの測定値を用いて表すようにしても、本発明の効果を得ることができる。
本発明の故障検出装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変更を加ることが可能である。
【0090】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明の故障検出装置及び故障検出方法によれば、単一のセンサの異常が発生した場合において、従来の故障検出方法のように煩雑な計算を行うことを必要とせず、より簡易な構成で故障しているセンサを識別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による故障検出方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明による他の故障検出方法の手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の故障検出方法の実験例において、室内温度センサITに正の方向のオフセットを加えた場合の予測誤差ベクトルの各成分を示すグラフである。
【図4】本発明の故障検出方法において、Yブロックのセンサ挙動がXブロックのセンサ挙動によって説明された割合を示すためのプロット図である。
【図5】多変量統計解析的アプローチの概念を示す図である。
【図6】従来の故障診断方法の例において使用したヒートポンプ式熱交換器の構成を概略的に示す図である。
【図7】従来の故障診断方法の例において、冷媒高温側圧力センサPHに負の方向のオフセットを加えた場合のベクトルe(k)の各成分を示すグラフである。
【図8】従来の故障診断方法の例において、室内温度センサITに正の方向のオフセットを加えた場合のベクトルe(k)の各成分を示すグラフである。
【図9】従来の故障検出方法の一般的な手順について説明するフローチャートである。
【符号の説明】
11,21,91 モデルユニット
12,22,92 異常検出ユニット
15,25 識別ユニット
23,93 構造化残差ユニット
24,94 識別ユニット
61 コンプレッサ
62 凝縮器
62 高温側熱交換器(凝縮器)
63 膨張弁
64 低温側熱交換器(蒸発器)
Claims (6)
- 複数のセンサの測定値に基づいて異常を検出する故障検出装置であって、
前記複数のセンサを複数の群に分割し、前記各群のセンサそれぞれについて正常状態での各センサの測定値の間に成立する関係式を特定する正常時のモデルを生成するモデルユニットと、
実際の測定値と前記正常時のモデルによって予測される測定値との間の予測誤差が増加することに基づいて、前記各センサの測定値の異常を検出する異常検出ユニットと、
前記各群の中で、1つのセンサに対応する予測誤差のみが他のセンサに対応する予測誤差より大きい群が存在し、その群において最大の予測誤差を示すセンサを異常と識別する識別ユニットと、を備えており、
前記各群のセンサの正常時のモデルは他の群のセンサの測定値により作成されるように設計されている故障検出装置。 - 複数のセンサの測定値に基づいて異常を検出する故障検出装置であって、
前記複数のセンサを第1の群及び第2の群に分割するとともに、前記第1の群及び第2の群それぞれについて正常状態での各センサの測定値の間に成立する関係式を特定する正常時のモデルを生成するモデルユニットと、
実際の測定値と前記正常時のモデルによって予測される測定値との間の予測誤差が増加することに基づいて、前記各センサの測定値の異常を検出する異常検出ユニットと、
前記各群の中で、1つのセンサに対応する予測誤差のみが他のセンサに対応する予測誤差より大きい群が存在し、その群において最大の予測誤差を示すセンサを異常と識別する識別ユニットと、を備えており、
前記第1の群のセンサの正常時のモデルは前記第2の群のセンサの測定値により作成され、前記第2の群のセンサの正常時のモデルは前記第1の群のセンサの測定値により作成されるように設計されている故障検出装置。 - 各センサが正常状態のときに算出された予測誤差に基づいて決定され、特定のセンサ群の異常に対して感度を持たず、他のすべてのセンサの異常に対して感度を持つように予測誤差を線形変換して構造化残差を与えるように決定されている変換行列を用いて前記予測誤差から構造化残差を算出する構造化残差ユニットと、
前記構造化残差を用いてセンサの異常を識別する構造化残差識別ユニットとをさらに備えており、
前記識別ユニットにおいて、前記複数のセンサのうちいずれが異常であるかを識別できない場合には、前記構造化残差識別ユニットにおいてセンサの異常を識別するよう設計されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の故障検出装置。 - 複数のセンサの測定値に基づいて異常を検出するための故障検出方法であって、
前記複数のセンサを複数の群に分割し、前記各群のセンサの正常状態での各センサの測定値の間に成立する関係式を特定する正常時のモデルを、他の群のセンサの測定値を用いて作成するステップと、
実際の測定値と前記正常時のモデルによって予測される測定値との間の予測誤差が増加することに基づいて、前記各センサの測定値の異常を検出するステップと、
前記各群の中で、1つのセンサに対応する予測誤差のみが他のセンサに対応する予測誤差より大きい群が存在し、その群において最大の予測誤差を示すセンサを異常と識別するステップと、を含む故障検出方法。 - 複数のセンサの測定値に基づいて異常を検出するための故障検出方法であって、
前記複数のセンサを第1の群及び第2の群に分割し、前記第2の群のセンサの測定値を用いて前記第1の群のセンサの正常状態での各センサの測定値の間に成立する関係式を特 定する正常時のモデルを作成し、前記第1の群のセンサの測定値を用いて前記第2の群のセンサの正常状態での各センサの測定値の間に成立する関係式を特定する正常時のモデルを作成するステップと、
実際の測定値と前記正常時のモデルによって予測される測定値との間の予測誤差が増加することに基づいて、前記各センサの測定値の異常を検出するステップと、
前記各群の中で、1つのセンサに対応する予測誤差のみが他のセンサに対応する予測誤差より大きい群が存在し、その群において最大の予測誤差を示すセンサを異常と識別するステップと、を含む故障検出方法。 - 前記識別するステップにおいて、前記複数のセンサのうちいずれが異常であるかを識別できない場合には、各センサが正常状態のときに算出された予測誤差に基づいて決定され、特定のセンサ群の異常に対して感度を持たず、他のすべてのセンサの異常に対して感度を持つように予測誤差を線形変換して構造化残差を与えるように決定されている変換行列を用いて前記予測誤差から構造化残差を算出し、該構造化残差を用いてセンサの異常を識別するステップをさらに含んでいることを特徴とする請求項4又は5に記載の故障検出方法。
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