JP4039692B2 - フルオロ界面活性剤を用いる生物汚損を抑制する方法および組成物 - Google Patents
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Description
本発明は、フルオロ界面活性剤を用いて、浸水性(submergible)または浸水(submerged)表面、特に、水性系内の表面に対する細菌付着を阻止する。本発明は、更に、生物汚損を抑制する方法および組成物に関する。
関連技術の説明
微生物は、種々様々な表面、特に、微生物の成長に適した環境を与える水性流体と接触している表面に対して付着する。例えば、微生物は、船体、海洋構造物、歯、医療用インプラント、冷却塔および熱交換器に対して付着することが知られている。このような浸水または浸水性表面に対して付着すると、微生物は、その表面を汚損することがあるしまたはその表面を劣化させることがありうる。
哺乳動物(例えば、ヒト、家畜、ペット)の場合、表面に付着した微生物が、健康上の問題をもたらすことがありうる。例えば、プラークは、歯の表面に付着した微生物に起因する。望ましくない微生物が表面に付着した医療用インプラントは、しばしば、表面が硬くなり、そして交換されなければならない。
科学的研究は、水性系における生物汚損の第一段階が、概して、浸水または浸水性表面、すなわち、水性系に対して暴露された表面上での薄いバイオフィルム(biofilm)の形成であることを示した。浸水表面に対して付着し且つそこで集落を形成すると、細菌などの微生物は、概して、バイオフィルムを形成し且つその表面をより複雑な微生物群集の発育に有利に変性させ、これが水性系およびその浸水表面の進行した生物汚損を形作ると考えられる。生物汚損の初期段階としてのバイオフィルムの機序および重要性についての概論は、C.A.Kentによって、“Biological Fouling:Basic Science and Models”(Melo,L.F.,Bott,T.R.,Bernardo,C.A.(監修),Fouling Science and Technology,NATO ASI Series,Series E,Applied Sciences;No.145,Kluwer Acad.Publishers,ドルドレヒト,オランダ,1988年)で与えられている。他の参考文献には、M.FletcherおよびG.I.Loeb,Appl.Environ.Microbiol.37(1979)67-72;M.Humphriesら,FEMS Microbiology Ecology 38(1986)299-308;およびM.Humphriesら,FEMS Microbiology Letters 42(1987)91-101が含まれる。
生物汚損すなわち生物学的汚損は、種々様々な水性系における永続的な厄介物すなわち課題である。微生物および大形生物汚損のどちらの生物汚損も、バイオマス中に閉じ込められた状態になった微生物、大形微生物、細胞外物質並びに排泄物および破片の蓄積によって引き起こされる。関与する生物としては、細菌、真菌、酵母、藻類、珪藻類、原生動物などの微生物および大形藻類、フジツボなどの大形生物、並びにアジア二枚貝またはゼブラ・マスル(Zebra Mussels)のような小軟体動物が含まれる。
水性系、特に、工業プロセス水性液中で引き起こされるもう一つの好ましくない生物汚損現象は、スライム形成である。スライム形成は、淡水、汽水または塩水系中で起こりうる。スライムは、微生物、繊維および破片の絡み合った沈着物から成る。それは、糸状、糊状、ゴム状、タピオカ様または硬質でありうるし、しかもそれが形成された水性系の臭いとは異なる特徴的な不快臭を有する。スライム形成に関与する微生物は、主として、胞子形成性および胞子非形成性細菌、特に、細胞を覆うまたは包みこむゼラチン状物質を分泌するカプセルに包まれた形の細菌の様々な種である。スライム微生物には、糸状細菌、カビの種類の糸状菌、酵母および酵母様微生物も含まれる。
生物汚損は、しばしば、水性系を分解し、粘度の減少、ガス生成、不快臭、低下pH、変色およびゲル化などの様々な問題として現れることがある。更に、水性系の分解は、関連した水利用システムの汚損を引き起こすことがあり、これには、例えば、冷却塔、ポンプ、熱交換器、並びにパイプライン、加熱システム、スクラビングシステムおよび他の同様のシステムが含まれうる。
生物汚損は、それが工業プロセス用水、例えば、冷却水、金属工作液、または製紙若しくは繊維製造で用いられるような他の再循環水系中で引き起こされる場合に、直接の経済的悪影響をもたらすことがある。抑制されなければ、工業プロセス用水の生物汚損は、加工作業の妨げとなり、作業効率を低下させ、エネルギーを浪費し、水利用システムを詰まらせ、そして製品品質を低下させることさえありうる。
例えば、発電所、製油所、化学プラント、空気調和装置および他の工業的作業で用いられる冷却水系は、しばしば、生物汚損問題に遭遇する。冷却塔から運ばれる空気媒介微生物も、システムの水供給からの水媒介微生物も、一般的に、これら水性系を汚染する。このような系内の水は、概して、これら微生物にとってすぐれた成長培地を与える。好気性および向日性の微生物は塔内で繁殖する。他の微生物は、塔サンプ、パイプライン、熱交換器等のような区域中で成長し且つそこに集落を形成する。抑制されなければ、結果的に生じた生物汚損は、塔を詰まらせ、パイプラインを遮断し、そして伝熱面をスライムの層および他の生物のマットで覆うことがある。これは、適切な作業を妨げ、冷却効率を低下させ、そしておそらく最も重要なことに、プロセス全体の費用を増加させる。
生物汚損を受ける工業プロセスには、更に、パルプ、紙、板紙等の製造である製紙および繊維製造、特に、ウォーターレイド(water-laid)不織布製造が含まれる。これら工業プロセスは、概して、生物汚損微生物の成長に有利な条件下で大量の水を再循環させる。
抄紙機は、例えば、「白水系」と称される系を再循環させる場合に極めて大量の水を用いる。抄紙機への原料は、典型的に、僅か約0.5%の繊維状および非繊維状製紙用ソリッドを含有し、これは、紙1トンにつき約200トンの水がヘッドボックスを通過することを意味する。この水の大部分は、白水系中で再循環する。白水系は、生物汚損微生物にとってすぐれた成長培地を提供する。その成長は、ヘッドボックス、送水管および製紙装置内でスライムおよび他の沈着物の形成を引き起こすことがある。このような生物汚損は、水および原液流の妨げになりうるのみならず、放置された場合、その紙に汚点、孔および悪臭を生じることがあるし、更には、抄紙機作業中のウェブ破損、すなわち、費用のかかる破壊を引き起こすことがある。
プール若しくは温泉などのレクリエーション用水または池若しくは噴水などの装飾用水の生物汚損は、それらによる人々の楽しみを激減させることがある。生物学的汚損は、しばしば、悪臭を生じる。更に重要なことに、レクリエーション用水の場合特に、生物汚損は、その水が使用不適当になり且つ衛生上危険になることさえある程に水質を低下させることがある。
衛生事業用水もまた、工業プロセス用水およびレクリエーション用水と同様、生物汚損およびそれに関係した問題にさらされている。衛生事業用水には、トイレット用水、シスターン用水、浄化槽水および汚水処理水が含まれる。衛生事業用水中に含まれる汚水の性状のために、これらの水系は、特に、生物汚損を受けやすい。
生物汚損を抑制するために、当該技術は、伝統的に、生物汚損微生物を死滅させるまたはそれらの成長を大きく阻止するのに充分な濃度の化学薬品(殺生物剤)を用いて汚染された水系を処理してきた。例えば、米国特許第4,293,559号および同第4,295,932号を参照されたい。例えば、塩素ガスおよび塩素ガスで製造された次亜塩素酸塩溶液は、長い間、細菌、真菌、藻類および他の厄介な微生物を死滅させるまたはそれらの成長を阻止するために、水系に対して加えられてきた。しかしながら、塩素化合物は、水性系の構成に用いられた材料に損害を与えることがあるのみならず、それらが有機材料と反応して、排水流中において発癌性クロロメタンおよび塩素化ジオキシンなどの望ましくない物質を形成することもある。メチレンビスチオシアネート、ジチオカルバメート、ハロ有機顔料および第四アンモニウム界面活性剤などのいくつかの有機化合物もまた、用いられてきた。これらの多くは、微生物を死滅させるまたはそれらの成長を阻止する場合に極めて有効であるが、それらはまた、ヒト、動物または他の非標的生物に対しても毒性または有害でありうる。
関係のある浸水表面を含めた水性系の生物汚損を抑制する一つ可能な方法は、その水性系内の浸水表面に対する細菌付着を防止するまたは阻止することであろう。これは、当然ながら、殺微生物剤を用いて行うことができるが、しかしながら、これらには、概して、上述の欠点がいくつかある。これに代わるものとして、本発明は、浸水または浸水性表面に対する細菌付着を実質的に阻止するためのおよび水性系の生物汚損を抑制するための有用な方法および組成物を提供する。本発明は、先行技術方法の欠点をなくする。本発明の他の利点は、本明細書および請求の範囲を読むことによって明らかになるであろう。
発明の概要
本発明は、浸水性表面に対して細菌が付着するのを阻止する方法に関する。その方法は、浸水性表面と、該浸水性表面に対して細菌が付着するのを阻止する有効量の少なくとも1種類のフルオロ界面活性剤とを接触させる。本方法で用いられるフルオロ界面活性剤は、
RfCH2CH2SCH2CH2CO2Li、
(RfCH2CH2O)P(O)(ONH4)2、
(RfCH2CH2O)2P(O)(ONH4)、
(RfCH2CH2O)P(O)(OH)2、
(RfCH2CH2O)2P(O)(OH)、
RfCH2CH2O(CH2CH2O)xH、
RfCH2CH2O(CH2CH2O)yH、
RfCH2CH2SO3H
(式中、RfはF(CF2CF2)3-8であり、xおよびyはそれぞれ独立して2〜20である)
またはそれらの混合物から選択される陰イオン性または非イオン性である。
本発明は、更に、水性系の生物汚損を抑制する方法に関する。この方法は、水性系に対して、該水性系内の浸水表面に細菌が付着するのを阻止する有効量の上記の少なくとも1種類のフルオロ界面活性剤を加える。この方法は、細菌をほとんど死滅させることなく有効に生物汚損を抑制する。
本発明はまた、水性系の生物汚損を抑制する組成物に関する。その組成物は、上記の少なくとも1種類のフルオロ界面活性剤を、水性系内の浸水表面に対して細菌が付着するのを阻止する有効量で含む。
発明の詳細な説明
一つの実施態様において、本発明は、浸水性表面に対して細菌が付着するのを阻止する方法に関する。浸水性表面は、水などの液体または別の水性流体若しくは液体で少なくとも部分的に覆われる、浸されるまたは湿潤することがありうる表面である。その表面は、その液体と断続的にまたは連続的に接触していてよい。上で論評されたように、浸水性表面の例には、制限されるものではないが、船体または艇体;海洋構造物;歯;医療用インプラント;ポンプ、パイプ、冷却塔または熱交換器の内部などの水性系内の表面が含まれる。浸水性表面は、疎水性、親水性または金属の材料から構成されうる。好都合に、本発明による陰イオン性または非イオン性フルオロ界面活性剤を用いることは、疎水性、親水性または金属の浸水性または浸水表面に対して細菌が付着するのを有効に阻止できる。
浸水性表面に対する細菌の付着を阻止するために、本方法は、浸水性表面をフルオロ界面活性剤と接触させる。その表面は、該表面に対する細菌付着を阻止する有効量のフルオロ界面活性剤またはフルオロ界面活性剤混合物と接触する。フルオロ界面活性剤は、当該技術分野において知られている手段を用いて浸水性表面に対して適用できる。例えば、下記で論評されるように、フルオロ界面活性剤は、フルオロ界面活性剤を含有する液体製剤を表面に噴霧する、コーティングするまたは浸漬させることによって適用できる。或いは、フルオロ界面活性剤を製剤化してペーストにすることができ、これを浸水性表面上に塗布するかまたははけ塗りする。好都合には、フルオロ界面活性剤は、特定の浸水性表面で一般的に用いられる組成物または製剤の成分であってよい。
浸水性表面に対して「細菌が付着するのを阻止すること」は、所望の期間に僅かすなわち有意でない量の細菌付着しか許さないことを意味する。好ましくは、細菌付着はほとんど起こらないし、そして更に好ましくは、それが防止される。
用いられるフルオロ界面活性剤の量は、僅かすなわち有意でない細菌付着しか許さないはずであり、しかも日常的試験によって測定されうる。好ましくは、用いられるフルオロ界面活性剤の量は、浸水性表面に対してフルオロ界面活性剤を少なくとも単分子膜で適用するのに充分である。このような薄膜は、浸水性表面全体を覆っているのが好ましい。
この方法によって浸水性表面とフルオロ界面活性剤とを接触させることは、その表面を細菌付着に対して予備処理することを可能にする。したがって、その表面をフルオロ界面活性剤と接触させた後、水性系中に入れることができる。
本発明はまた、水性系の生物汚損を抑制する方法に関する。水性系は、その系によって流動する水性流体または液体のみならず、その系に関係した浸水表面をも含む。浸水表面は、水性流体または液体と接触している表面である。上で論評された浸水性表面と同様、浸水表面には、制限されるわけではないが、パイプまたはポンプの内部表面、冷却塔またはヘッドボックスの壁、熱交換器、スクリーン等が含まれる。要するに、水性流体または液体と接触している表面は、浸水表面であり且つ水性系の一部分とみなされる。
本発明の方法は、水性系に対して少なくとも1種類のフルオロ界面活性剤を、該水性系内の浸水表面に対して細菌が付着するのを有効に阻止する量で加える。用いられる濃度において、この方法は、細菌をほとんど死滅させることなく、水性系の生物汚損を有効に抑制する。
水性系の「生物汚損を抑制すること」は、特定の系について生物汚損の量または程度を所望の水準またはそれ未満でおよび所望の期間抑制することである。これは、水性系から生物汚損をなくすことができるし、生物汚損を所望の水準まで減少させことができるし、または生物汚損を完全に若しくは所望の水準を越えて防止することができる。
本発明により、水性系内の浸水表面に対して「細菌が付着するのを阻止すること」は、特定の系について所望の期間に僅かすなわち有意でない量の細菌付着しか許さないことを意味する。好ましくは、細菌付着はほとんど起こらないし、そして更に好ましくは、細菌付着が防止される。本発明によるフルオロ界面活性剤を用いることは、多くの場合、他の既存の付着微生物を検出不能限界まで分解するかまたは減少させ且つその水準を有意の期間維持することができる。
若干のフルオロ界面活性剤は、ある限界レベルを越える濃度で殺生物活性を示すことがありうるが、フルオロ界面活性剤は、このような限界レベルより概して充分に低い濃度で細菌付着を有効に阻止する。本発明により、フルオロ界面活性剤は、細菌をほとんど死滅させることなく細菌付着を阻止する。したがって、本発明によって用いられるフルオロ界面活性剤の有効量は、そのフルオロ界面活性剤が殺生物性をも有するとしても、充分にその毒性限界未満である。例えば、フルオロ界面活性剤の濃度は、その毒性限界より10倍またはそれ以上低くありうる。好ましくは、フルオロ界面活性剤は、水性系中に存在しうる非標的微生物にも害を与えるべきではない。
フルオロ界面活性剤またはフルオロ界面活性剤混合物は、上で論及されたような種々様々な水性系での生物汚損を抑制するのに用いることができる。これら水性系には、制限されるわけではないが、工業用水性系、衛生事業用水性系およびレクリエーション用水性系が含まれる。上で論及されたように、工業用水性系の例は、金属工作液、冷却水(例えば、取水冷却水、排水冷却水および再循環冷却水)、および製紙または繊維製造で用いられるような他の再循環水系である。衛生事業用水性系には、廃水系(例えば、工場、民間および地方自治体の廃水系)、トイレットおよび水処理系(例えば、汚水処理系)が含まれる。水泳用プール、噴水、装飾用または観賞用のプール、池または小川等は、レクリエーション用水系の例を与える。
特定の系における浸水表面に対して細菌が付着するのを阻止するフルオロ界面活性剤の有効量は、保護される水性系、微生物成長の条件、何等かの既存の生物汚損の程度、および望まれる生物汚損抑制の程度に応じて幾分異なるであろう。具体的な用途に好ましい量は、影響を受ける系全体の処理の前に、種々の量を日常的に試験することによって決定できる。概して、水性系で用いられる有効量は、その水性系の約1〜約500ppm、そして更に好ましくは、約20〜約100ppmであってよい。
フルオロ界面活性剤は、
RfCH2CH2SCH2CH2CO2Li、
(RfCH2CH2O)P(O)(ONH4)2、
(RfCH2CH2O)2P(O)(ONH4)、
(RfCH2CH2O)P(O)(OH)2、
(RfCH2CH2O)2P(O)(OH)、
RfCH2CH2O(CH2CH2O)xH、
RfCH2CH2O(CH2CH2O)yH、
RfCH2CH2SO3H
またはそれらの混合物から選択される陰イオン性または非イオン性フルオロ界面活性剤である。これらフルオロ界面活性剤において、RfはF(CF2CF2)3-8であり、xおよびyはそれぞれ独立して2〜20、更に好ましくは、5〜12である。本発明において有用なフルオロ界面活性剤は、DuPont Chemical Companyから入手可能であり且つZONYL▲R▼フルオロ界面活性剤として販売されている。
本発明による方法は、水処理方式全体の一部分でありうる。フルオロ界面活性剤は、他の水処理化学薬品、特に、殺生物剤(例えば、殺藻剤、殺真菌剤、殺細菌剤、殺軟体動物剤、酸化剤等)、染み抜き剤、清澄剤、凝集剤、凝固剤、または水処理で一般的に用いられる他の化学薬品と一緒に用いることができる。例えば、浸水性表面を、細菌付着を阻止する前処理としてフルオロ界面活性剤と接触させ、そして水性系中に入れ、殺微生物剤を用いて微生物の成長を抑制することができる。または、重度の生物学的汚損に耐えてきた水性系を、最初に適当な殺生物剤で処理して、既存の汚損を克服することができる。次に、フルオロ界面活性剤を用いて、その水性系を維持することができる。或いは、フルオロ界面活性剤を殺生物剤と組合せて用いて、水性系内の浸水表面に対して細菌が付着するのを阻止することができるが、その殺生物剤は、その水性系中の微生物の成長を抑制するように作用する。このような組合せは、概して、用いられる殺微生物剤をより少なくさせる。
水性系中の「微生物の成長を抑制すること」は、特定の系についての所望の水準まで、その水準でまたはその水準未満のおよび所望の期間の抑制を意味する。これは、水性系中の微生物を排除するかまたはそれらの成長を防止することができる。
フルオロ界面活性剤は、本発明の方法において固体または液体製剤として用いることができる。したがって、本発明はまた、フルオロ界面活性剤を含有する組成物に関する。その組成物は、少なくとも1種類のフルオロ界面活性剤を、水性系内の浸水性表面または浸水表面に対して細菌が付着するのを阻止するのに有効な量で含む。殺生物剤などの別の水処理化学薬品と組合せて用いる場合、その組成物は、その化学薬品を含有してもよい。一緒に製剤化された場合、そのフルオロ界面活性剤および水処理化学薬品は、水性系中でそれらの効力を低下させるまたはなくする不利な相互作用をすべきではない。不利な相互作用が起こりうる場合、単独の製剤が好ましい。
その使用に応じて、本発明による組成物は、当該技術分野において知られている様々な形で製造することができる。例えば、組成物は、溶液、分散液、エマルジョン、懸濁液またはペースト;非溶媒中の分散液、懸濁液またはペーストとして;または溶媒若しくは溶媒組合せ中にフルオロ界面活性剤を溶解させることによる溶液として液体の形で製造することができる。適当な溶媒には、制限されるわけではないが、アセトン、グリコール、アルコール(イソプロパノールなど)、エーテルまたは他の水分散性溶媒が含まれる。
水性製剤が好ましい。本組成物は、その予定された使用の前に希釈するための液体濃厚物として製造することができる。界面活性剤、乳化剤、分散剤等のような通常の添加剤を、当該技術分野において知られているように用いて、水性組成物または系などの液体組成物または系中のフルオロ界面活性剤または他の成分の溶解度を増加させることができる。多くの場合、本発明の組成物は、単純な撹拌によって可溶化させることができる。染料または芳香もまた、トイレット用水などの適切な用途のために加えることができる。
本発明の組成物はまた、固体の形で製造することができる。例えば、フルオロ界面活性剤は、当該技術分野において知られている手段を用いて粉末または錠剤として製剤化することができる。錠剤は、染料または他の着色剤および香料または芳香などの錠剤成形技術分野において知られている種々の賦形剤を含有してよい。充填剤、結合剤、滑剤、滑沢剤または付着防止剤などの当該技術分野において知られている他の成分もまた包含されうる。これら後者の成分は、錠剤の性状および/または錠剤成形工程を改善するために包含されうる。
次の典型的な実施例は、本発明の特質をより明確に開示するために与えられる。しかしながら、本発明が、それら実施例で示された具体的な条件または詳細に制限されないことは理解されるべきである。
実施例:
試験法:次の方法は、様々な種類の表面上において、細菌付着を阻止するまたは既存の付着微生物の形成を攻撃する薬品化合物の能力を有効に決定する。大要として、バイオリアクターは、約1インチx3インチのスライド(ガラスまたはポリスチレン)をバイオリアクターの縁に固定して構成された。スライドの下端(約2インチ)を、既知の濃度の試験薬品が入ったバイオリアクター中の細菌成長培地pH7中に浸漬した。既知の細菌種を接種後、その試験溶液を絶え間なく3日間撹拌した。下記の結果において、特に断らない限り、バイオリアクター中の培地は、3日間の最後まで濁っていた。この濁度は、試験された薬品の存在にもかかわらず、その培地中で細菌が増殖したことを示した。これはまた、その薬品が、試験された濃度において殺生物(殺細菌)活性をほとんど示さなかったことを示している。次に、スライドの表面に対して付着した細菌の量を測定するために、スライド上で染色法を用いた。
バイオリアクターの構成:バイオリアクターは、蓋(標準的な9cm直径ガラスペトリ皿のカバー)をかぶせた400mlガラスビーカーから成った。蓋を取り除き、好ましい材料のスライドの一端をマスキングテープで止め、そしてビーカーの上端からバイオリアクター内部を懸濁させた。これは、スライドを試験培地中に浸漬させる。典型的には、4枚のスライド(反復試験片)をバイオリアクターの周りに均一間隔で置いた。下記で示された評点は、4枚の反復試験片の平均である。電磁撹拌棒を装置の底に入れ、蓋をし、そしてバイオリアクターをオートクレーブ処理した。親水性表面の例としてスライドガラスおよび疎水性表面の例としてポリスチレン(polystyr.)を用いた。
細菌成長培地:バイオリアクター中で用いられた液体培地は、Delaquisら,“Detachment Of Pseudomonas fluorescens From Biofilms On Glass Surfaces In Response To Nutrient Stress”,Microbial Ecology 18:199-210,1989によって前に記載された。培地の組成は、次の通りであった。
グルコース 1.0g
K2HPO4 5.2g
KH2PO4 2.7g
NaCl 2.0g
NH4Cl 1.0g
MgSO4.7H2O 0.12g
微量元素 1.0ml
脱イオンH2O 1.0L
微量元素溶液:
CaCl2 1.5g
FeSO4.7H2O 1.0g
MnSO4.2H2O 0.35g
NaMoO4 0.5g
脱イオンH2O 1.0L
培地をオートクレーブ処理した後、冷却した。オートクレーブ処理された培地中で沈殿物が形成された場合、その培地を使用前に振とうすることによって再懸濁させた。
細菌接種材料の製造:バチルス属(Bacillus)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium)およびシュードモナス属(Pseudomonas)の細菌を、製紙工場スライム沈着物から単離し、そして連続培養で維持した。試験微生物を、平板菌数計数用寒天上に個別に画線接種し、そして30℃で24時間インキュベートした。滅菌綿棒を用いて集落の一部分を取出し、そして滅菌水中に懸濁させた。その懸濁液を充分に混合し、そして686nmで0.858(バチルス属)、0.625(フラボバクテリウム属)および0.775(シュードモナス属)の光学濃度に調整した。
バイオフィルム製造/薬品試験:4個の別々のバイオリアクターに対して、上で製造された滅菌培地200mlを加えた。評価される化学薬品は、最初に、水かまた9:1のアセトン:メタノール混合物(acet/MeOH)を溶媒として用いた原液(40mg/2ml)として調製された。その原液の1.0mlアリコートを、穏やかな連続電磁撹拌を用いてバイオリアクターに加えた。これは、試験化合物に100ppmの初期濃度を与えた。一つのバイオリアクター(対照)は、試験化合物を含有していない。次に、3種類の細菌懸濁液それぞれからのアリコート(0.5ml)をそれぞれのバイオリアクター中に入れた。次に、バイオリアクターを3日間連続撹拌して細菌集団を増加させ、そしてスライド表面上に細胞を付着させた。
結果の評価:ZONYL▲R▼FSAフルオロ界面活性剤およびZONYL▲R▼FSNフルオロ界面活性剤を、上の手順を用いて評価した。試験を完了した後、スライドをバイオリアクターから取出し、そして垂直に置いて自然乾燥させた。次に、試験表面に対する細菌の付着の程度を、染色法を用いて算定した。スライドを、その表面に細胞を固定するために簡単に火炎処理した後、グラムクリスタルバイオレット(Gram Crystal Violet)(DIFCO Laboratories,デトロイト,MI)の容器に2分間入れた。そのスライドを流動水道水下で静かにすすぎ洗浄した後、慎重にブロッティングした。次に、細菌付着の程度を、それぞれのスライドの目視検査および主観的評価によって決定した。染色強度は、細菌付着の量に正比例する。
次のバイオフィルム評点を与える。
0=全くなし 3=中度
1=僅か 4=重度
2=軽度
化学薬品処理は、典型的に、4種類のバイオリアクタースライドの平均評点が3〜4の範囲で与えられる対照に相対して評価された。平均評点が0〜2の範囲で与えられる化合物は、浸水スライドに対する細菌の付着を防止するのに有効であるとみなされた。結果を次の表で示す。
ZONYL▲R▼FSAフルオロ界面活性剤は、DuPont Chemicals,ウィルミントン,デラウェアの製品である。ZONYL▲R▼FSAフルオロ界面活性剤は、23〜25重量%の3−[(1H,1H,2H,2H−フルオロアルキル)チオプロピオン酸リチウム(CAS No.65530-69-0);0〜2重量%のテロマーB硫化2−カルボキシエチル(CAS No.65530-83-8);35〜40重量%のイソプロピルアルコール(CAS No.67-63-0);および35〜40重量%の水を含有する。ZONYL▲R▼FSNフルオロ界面活性剤は、DuPont Chemicals,ウィルミントン,デラウェアから入手可能な製品である。ZONYL▲R▼FSN製品は、40重量%のRfCH2CH2O(CH2CH2O)12H(式中、RfはF(CF2CF2)3-8である)(CAS No.65545-80-4);30重量%のイソプロピルアルコール(CAS No.67-63-0);30重量%の水;および0.1重量%未満の1,4−ジオキサン(CAS No.123-91-1)を含有する。
本発明の具体的な実施態様を記載したきたが、当然ながら、本発明がそれら実施態様に制限されないことは理解されるであろう。他に変更を行ってよい。請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲の範囲内にあるようないずれの変更も包含するものである。
Claims (14)
- 水性系の生物汚損を、汚損する細菌を死滅させることなく抑制する方法であって、該水性系に対して、該水性系内の浸水表面に対して細菌が付着するのを阻止するのに有効でありかつ充分に当該細菌に対する毒性限界未満である量の、少なくとも1種類の陰イオン性または非イオン性フルオロ界面活性剤を加える工程を含み、ここにおいて、該フルオロ界面活性剤が、RfCH2CH2SCH2CH2CO2Li、(RfCH2CH2O)P(O)(ONH4)2、(RfCH2CH2O)2P(O)(ONH4)、(RfCH2CH2O)P(O)(OH)2、(RfCH2CH2O)2P(O)(OH)、RfCH2CH2O(CH2CH2O)xH、RfCH2CH2O(CH2CH2O)yH、RfCH2CH2SO3H(式中、RfはF(CF2CF2)3-8であり、xは5〜12であり、そしてyは5〜12である)またはそれらの混合物から選択され、そして当該浸水表面が、船体、艇体若しくは海洋構造物であるか、又は工業用水系、レクリエーション用水系若しくは衛生事業用水系から選択される水性系の表面である、
上記方法。 - フルオロ界面活性剤の当該量が10ppm〜500ppmである請求項1に記載の方法。
- 添加工程が、水性系における既存の生物汚損をいずれも実質的に減少させるのに充分なフルオロ界面活性剤を該水性系に対して加えることを含む請求項1又は2に記載の方法。
- 工業用水系が、冷却水系、金属工作液系、製紙用水系および繊維製造水系から選択される請求項1に記載の方法。
- レクリエーション用水系が、水泳用プール、噴水、観賞用池、観賞用プールおよび観賞用小川から選択される請求項1に記載の方法。
- 衛生事業用水系が、トイレット水系、水処理系および汚水処理系から選択される請求項1に記載の方法。
- 水性系中の微生物の成長を抑制する有効量の殺生物剤を水性系に対して加える工程を更に含む請求項1又は2に記載の方法。
- 殺生物剤をフルオロ界面活性剤の前に加えて、水性系における既存の生物汚損をいずれも実質的に減少させ、そしてフルオロ界面活性剤を加えて、水性系内の浸水表面に対する生存する微生物の付着を阻止する請求項7に記載の方法。
- 殺生物剤をフルオロ界面活性剤と同時に加える請求項7に記載の方法。
- 微生物が、藻類、真菌および細菌から選択される請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
- 水性系の生物汚損を、汚損する細菌を死滅させることなく抑制する組成物であって、該水性系内の浸水表面に対して細菌が付着するのを阻止するのに有効でありかつ充分に当該細菌に対する毒性限界未満である量の、少なくとも1種類の陰イオン性または非イオン性フルオロ界面活性剤を含み、ここにおいて、該フルオロ界面活性剤が、RfCH2CH2SCH2CH2CO2Li、(RfCH2CH2O)P(O)(ONH4)2、(RfCH2CH2O)2P(O)(ONH4)、(RfCH2CH2O)P(O)(OH)2、(RfCH2CH2O)2P(O)(OH)、RfCH2CH2O(CH2CH2O)xH、RfCH2CH2O(CH2CH2O)yH、RfCH2CH2SO3H(式中、RfはF(CF2CF2)3-8であり、xは5〜12であり、そしてyは5〜12である)またはそれらの混合物から選択され、そして
当該浸水表面が、船体、艇体若しくは海洋構造物であるか、又は工業用水系、レクリエーション用水系若しくは衛生事業用水系から選択される水性系の表面である、
上記組成物。 - 水性系中の微生物の成長を抑制する有効量の殺生物剤を更に含む請求項11に記載の組成物。
- 組成物が液体の形である請求項11に記載の組成物。
- 組成物が固体の形である請求項11に記載の組成物。
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