JP4032011B2 - 半導体発光素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体発光素子に関し、特に、半導体量子ドットを利用して正孔輸送能力を増大した半導体発光素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、従来の蛍光灯や白熱電球とは異なり、半導体LED(light emitting diode)やOLED(organic LED)などの電流注入型発光素子を照明光源として用いる、「固体照明素子」(新しい照明素子の総称)の研究開発が活発化している。
【0003】
固体照明素子の登場により、従来の蛍光灯や白熱電球の置換えだけでなく、従来照明装置では成し得ない、新しい機能を持った照明装置の創出が期待されている。そのひとつに、面発光型の固体照明素子に画像表示機能を付加した、映像照明装置がある。この装置を天井、壁、床などに配置することで、テレビ画面、電話等のモニタ画面、パソコン画面、ゲーム、写真、伝言版、壁紙等のインテリア画像、室内を広く見せる擬似住空間画像など、様々な映像を住空間に映し出すことが可能になる。映像照明装置は、ユーザーの好みに応じて住空間を劇的に変化させることが可能であり、高付加価値照明として期待が寄せられている。
【0004】
映像照明装置は、面発光型の固体照明素子をバックライト光源として用い、TFT(thin film transistor)液晶と組合わせることで実現できる。TFT液晶を制御することで、照明とディスプレイとの切替えも行える。しかしながら、現状の半導体LEDやOLEDでは、元となる面発光型固体照明素子を構成することが大変難しい。
【0005】
まず、半導体LEDに関しては、これは元来点光源であり、光源形状が面状でない問題がある。
次に、OLEDについては、これはそもそも面光源であり、形状の点では問題はない。しかし、OLEDは、有機層を含む薄膜の積層構造を有し、そのトータル膜厚が100nm程度の薄膜積層素子である。このため、サイズが100nm以上の金属ゴミがあると、容易に陰極と陽極がショートし、発光しなくなる。また、各有機層は20nmから30nmとさらに薄いため、例えば正孔輸送層の一部にピンホールがある場合、その箇所では電子電流のみが流れ、発光に寄与しないリーク電流を生じる。従って、OLEDを、大面積にわたり無欠陥で作ることは大変難しい。ショートやリークを防ぐためには素子の厚膜化が必須である。しかし、有機層の正孔・電子移動度は10−6〜10−5cm2/V・s程度ときわめて小さく、厚膜化とともに電流量は桁のオーダーで減少し、従って発光強度も桁のオーダーで減る。その結果として、厚膜化した場合、照明に必要な光束が稼げず、照明素子として機能しない問題がある。
【0006】
これとは別に、新しい電流注入型の面光源として、CdSeからなる半導体量子ドットを用いた、「QD−LED(quantum-dot LED)」が提案されている(例えば、非特許文献1及び2)。
【0007】
「半導体量子ドット」は、バルク半導体とは異なり、1nm〜20nm程度の非常に小さいサイズを有するナノ粒子である。この半導体量子ドットは、サイズを減少させることで、量子閉じ込め効果によりバンドギャップを広げることが可能である。すなわち、蛍光体としての半導体量子ドットには、フォトルミネッセンスを可視域で自在にチューニングでき、またスペクトル幅が狭いため色純度の良い発光を得ることができる特徴がある(例えば、非特許文献3及び4)。
【0008】
【非特許文献1】
M. C. Schlamp, X. Peng, and A. P. Alivisatos, J. Appl. Phys. 82, 5837 (1997)
【非特許文献2】
S. Coe, W.-K. Woo, M. G. Bawendi, and V. Bulovic, Nature 420, 800 (2002)
【非特許文献3】
B. O. Dabbousi, J. Rodriguez-Viejo, F. V. Mikulec, J. R. Heine, H. Mattoussi, R. Ober, K. F. Jensen, and M. G. Bawendi, J. Phys. Chem. B 101, 9463 (1997)
【非特許文献4】
A. P. Alivisatos, J. Phys. Chem. 100, 13226 (1996)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
QD−LEDの活性層として、サイズの異なる半導体量子ドットを用い、且つ照明光源としての演色性に優れた、面発光型の白色照明素子を構成することが可能である。しかしながら、現時点では、QD−LEDのp型層には、OLEDの正孔輸送層がそのまま用いられている。このため、QD−LEDの素子膜厚も100nm程度と薄く、OLEDと同様、大面積にわたり無欠陥で作ることが大変難しい。従って、厚膜化した場合、やはり照明に必要な光束が稼げず、照明素子として機能しないという問題がある。
【0010】
以上説明したように、面発光型の固体照明光源が実現されると、従来照明の置換えばかりでなく、映像照明装置をはじめ、高付加価値照明への道が拓ける。しかしながら、現状の半導体LED、OLED、QD−LEDでは、大面積化が可能な面発光素子を作ることが難しいという問題がある。
【0011】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、その目的は、高い正孔移動度が得られるp型層を設けることにより素子の厚膜化を可能とし、大面積化してもショートなどの問題を解消できる半導体発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の半導体発光素子は、陽極と、前記陽極に対向して設けられた陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた活性層と、前記陽極と前記活性層との間に設けられたp型層と、を備え、
前記p型層は、シリコン(Si)、またはゲルマニウム(Ge)、またはシリコン・ゲルマニウム化合物、またはこれらの混合物からなり、量子サイズ効果が生ずる大きさのコアと、前記コアを取り囲む低正孔バリア性を有する材料からなるシェルと、を有する第1のドットを含み、
前記低正孔バリア性を有する材料は、R、R’を有機飽和化合物基としたとき、−NR2、−NR’R、−NHR及び−NH2 よりなる群から選択された少なくともいずれかのアミノ基(含有される水素原子をハロゲン元素に置換したものも含む。)を有し、且つ前記アミノ基は前記コア表面のSi原子、若しくはGe原子と有機飽和化合物を介して結合されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のもうひとつの半導体発光素子は、陽極と、前記陽極に対向して設けられた陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた活性層と、前記陽極と前記活性層との間に設けられたp型層と、を備え、
前記p型層は、シリコン(Si)、またはゲルマニウム(Ge)、またはシリコン・ゲルマニウム化合物、またはこれらの混合物からなり、量子サイズ効果が生ずる大きさのコアと、前記コアを取り囲む低正孔バリア性を有する材料からなるシェルと、を有する第1のドットを含み、
前記低正孔バリア性を有する材料は、R、R’、R”を有機飽和化合物基としたとき、官能基として、−CR”R’R、−CR’2R、−CR3、−CHR2、−CHR’R、−CH2R、−CH3、−SR、−SH、−I、−Br、−Cl、−Fのいずれか(含有される水素原子をハロゲン元素に置換したものも含む。)を有し、且つ前記官能基は前記コア表面のSi原子、若しくはGe原子と有機飽和化合物を介して結合されることを特徴とする。
【0013】
ここで、前記陰極と前記活性層との間に設けられたn型層をさらに備え、
前記n型層は、半導体からなり、量子サイズ効果が生ずる大きさのコアと、前記コアを取り囲み低電子バリア性を有する材料からなるシェルと、を有する第2のドットを含み、
前記低電子バリア性を有する材料は、R、R’を有機飽和化合物基としたとき、官能基として、−NO2、−SO2R、−CN、−CO2R、−CONH2、−CONHR、−CONR2、−CONR’R、−SO3R、−NO及び−CHOのいずれか(含有される水素原子をハロゲン元素に置換したものも含む。)を有し、且つ前記官能基は前記コア表面のSi原子、若しくはGe原子と有機飽和化合物を介して結合されるものとすることができる。
【0016】
また、前記活性層から放出された光の波長を変換する蛍光体をさらに備えたものとすることができる。
【0017】
なお、本願明細書において、「シリコン・ゲルマニウム化合物」とは、化学式SixGey により表される化合物を意味し、ここで、x+y=1,0<x<1,0<y<1である。
また、本願明細書において「有機飽和化合物基」とは、有機飽和化合物により構成される基をいうものとし、「有機飽和化合物」とは、炭素原子間の二重結合及び三重結合を全く含まず、全ての炭素原子間の結合が単結合からなる有機化合物をいうものとする。また、ここでいう「有機飽和化合物」には、炭素の直鎖構造、枝分かれ構造、環状構造などが含まれ、さらに、これらの構造中の隣り合う炭素原子間に酸素、硫黄、窒素などの他の元素が介在する構造(例えば、−C−O−C−,−C−S−C−,−C−N−C−など)も含まれるものとする。さらにまた、これらの構造中の水素原子(H)は、ハロゲン等により置換されていてもよく、水素原子(H)は重水素であってもよい。
【0018】
また、「低正孔バリア性を有する材料からなるシェル」は、「低正孔バリア性」が得られる限りにおいて微量の「低電子バリア性」を有する材料を含有していてもよい。さらにまた、高い正孔移動度が得られる限りにおいて、半導体からなるコアと、前記コアを取り囲み低電子バリア性を有する材料からなるシェルと、を有するドットが微量含まれていてもよい。
また、「低電子バリア性を有する材料からなるシェル」は、「低電子バリア性」が得られる限りにおいて微量の「低正孔バリア性」を有する材料を含有していてもよい。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態の第1の具体例の半導体発光素子の要部を表した模式断面図である。
すなわち、本具体例の半導体発光素子は、対向して設けられた陽極12と陰極20との間に、p型層(正孔輸送層)14、活性層16、n型層(電子輸送層)18が積層された構造を有する。
p型層14は、陽極12から注入された正孔を活性層16に輸送する役割を有す。n型層18は、陰極20から注入された電子を活性層16に輸送する役割を有する。そして、活性層16においてこれら輸送された正孔及び電子の再結合による発光が生ずる。
【0021】
そして、本具体例においては、p型層14がドット100の集合体として形成されている。
図2は、ドット100の構造を表した概念図である。
すなわち、ドット100は、コア100Aと、その周囲を取り囲むシェル100Bと、により構成されている。後に詳述するように、コア100Aは、シリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)やシリコン・ゲルマニウム化合物などからなる半導体の量子ドットであり、量子サイズ効果が生ずる程度の大ききを有する。
【0022】
一方、シェル100Bは、「低正孔バリア性」を有する材料からなり、コア100Aを保護すると同時に、正孔の輸送能力を増大させる作用を有する。なお、「低正孔バリア性」の指し示す物理的意味は、後述する原理説明(4)の中で述べる。
【0023】
このコア100Aとシェル100Bとを有するドットは、例えば、「逆ミセル法」や「還流法」などで液相合成することにより形成できる。(J. P. Wilcoxon, P. P. Provencio, and G. A. Samara, Phys. Rev. B 64, 035417 (2001); C-S. Yang, R. A. Bley, S. M. Kauzlarich, H. W. H. Lee, and G. R. Delgado, J. Am. Chem. Soc. 121, 5191 (1999))。
【0024】
シェル100Bを設けることにより、コア100Aの酸化を防ぐことができる。すなわち、量子サイズ効果が生ずるような微細なシリコン(Si)などの量子ドットは、酸素に触れると極めて容易に酸化し、ドット全体が酸化物に変質してしまう。シェル100Bを設けることにより、コア100Aの酸化を防ぐことができる。
【0025】
そしてさらに、ドット100に正孔輸送機能を付与するために、シェル100Bの材料として、有機化合物、有機錯体化合物などの中から、正孔に対するポテンシャルバリアが低くなるような正孔バリア能の低い分子材料、すなわち「低正孔バリア性」の分子材料を選択する。
【0026】
具体的には、R、R’を有機飽和化合物基としたとき、−NR2、−NR’R、−NHR及び−NH2 よりなる群から選択された少なくともいずれかのアミノ基を有し、且つこのアミノ基がコア表面のSi原子、若しくはGe原子と有機飽和化合物を介して結合する、有機化合物または有機錯体化合物を用いることが望ましい。
【0027】
また、シェル100Bの材料としては、これ以外にも、官能基として、−CR”R’R、−CR’2R、−CR3、−CHR2、−CHR’R、−CH2R、−CH3、−SR、−SH、−I、−Br、−Cl、−Fのいずれかを有し、且つ前記官能基は前記コア表面のSi原子、若しくはGe原子と有機飽和化合物を介して結合する、有機化合物または有機錯体化合物を用いることが望ましい(R、R’、R”は有機飽和化合物基)。
【0028】
なお、これら有機飽和化合物基は、水素原子をハロゲン元素に置換したものも含むものとする。また、これらいずれの場合においても、水素(H)の代わりに重水素を用いることが可能である。
ドット100のサイズに関しては、コア100Aの直径を10nm以下とすることが望ましい。また、ドット100は、自由正孔や自由電子などフリーキャリアを持つものとしてもよい。フリーキャリアは、コア100Aを構成する半導体に不純物元素をドーピングするか、シェル100Bに不純物元素をドーピングするか、コア100Aとシェル100Bの両方に不純物をドーピングするか、またはシェル100Bとコア100Aとの間で電荷移動を生じさせることにより発生させることができる。
【0029】
p型層14は、このようなドット100が充填されることで構成される。p型層14の機械強度を増すために、マトリクス中にドット100を分散させた構造としてもよい。この場合、ドット100とマトリクスとの体積比率は、マトリクスが30%以下の体積比率を有するものとすることが望ましい。
【0030】
また、p型層14の厚みは、形成時のゴミや塗り斑等に起因するショート及びリークの発生を防ぎ、且つ良好な電気伝導性を確保するために、100nm以上10μm以下の範囲に設定することが望ましい。
【0031】
一方、活性層16についても、図2に例示したようなドット100からなる層を用いることもできる。この場合、活性層16に用いるドットは、「低正孔バリア性」のシェルを有するものと、「低電子バリア性」のシェルを有するものを混ぜて用いることができる。なお、活性層16として、半導体薄膜からなる層、あるいはOLED発光材料からなる層を用いることも可能である。
【0032】
ドットに電子輸送機能を付与するには、上述したように、シェルとして、コアの電子に対するポテンシャルバリアを低減させる、電子バリア能の低い有機分子及び有機錯体分子、すなわち「低電子バリア性」の分子材料を用いる。具体的には、R、R’を有機飽和化合物基としたとき、官能基として、−NO2、−SO2R、−CN、−CO2R、−CONH2、−CONHR、−CONR2、−CONR’R、−SO3R、−NO及び−CHOのいずれかを有し、且つ前記官能基は前記コア表面のSi原子、若しくはGe原子と有機飽和化合物を介して結合する分子材料の中から選択できる。
【0033】
なお、この場合にも、これら有機飽和化合物基は、水素原子をハロゲン元素に置換したものも含むものとする。また、これらいずれの場合においても、水素(H)の代わりに重水素を用いることが可能である。
【0034】
一方、n型層18についても、図2に例示したようなドット100からなる層とすることができる。n型層18に用いる半導体量子ドットには、電子輸送機能を付与するために、コアの電子に対するポテンシャルバリアを低減させる、「低電子バリア性」の有機分子及び有機錯体分子からなるシェルを用いて表面修飾した、半導体量子ドットを用いることができる。その具体的な材料は、上述した如くである。また、n型層18には、半導体薄膜からなる層、あるいはOLED電子輸送材料からなる層を用いることも可能である。
【0035】
活性層16から得られた発光は陽極12、あるいは陰極20のどちらの側から取り出しても良い。発光を取り出す側の電極には、ITO(indium tin oxide)などの透明電極を用いることができる。
【0036】
またさらに、活性層16から得られた発光の発光色を、図示しない蛍光体や色フィルターなどにより調光しても良い。白色光を得たい場合には、活性層16で直接白色光を発生させても良く、また活性層16で青色発光や紫色発光させ、蛍光体層により色変換して白色発光を得ても良い。さらに、これらの方法により得られた発光のスペクトルを調節するために、色フィルターなどにより調光しても良い。
【0037】
図3は、本発明の実施の形態にかかる半導体発光素子の第2の具体例を表す模式図である。同図については、図1及び図2に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
本具体例においては、n型層が省略されている。この場合、活性層16に電子輸送機能が付与されることが望ましい。具体的には、上述の如く、「低電子バリア性」のドットを活性層16に加えることができる。
【0038】
以上、図1乃至図3を参照しつつ本発明の半導体発光素子の要部構成について説明した。
ここで、本発明の発明素子において、ドット100を構成するコア100Aは、単一の構造である必要はなく、シリコン、ゲルマニウム、シリコン・ゲルマニウム化合物の中から選ばれた、混合物でも良い。例えば、図4に例示した如く、コア100Aが、内部の第1のコア100Aaと、その外側を取り囲む第2のコア100Abとからなる2重構造を有するものであってもよい。具体的には、例えば、シリコン・ゲルマニウム化合物からなる第1のコア100Aaの周囲をシリコンからなる第2のコア100Abが被覆した如くである。またさらに、シリコン、ゲルマニウム、シリコン・ゲルマニウム化合物の中から、任意の組合せで、2重、3重あるいはそれ以上の多重積層構造としてもよい。
【0039】
また、図5に例示した如く、コア100Aが第1の部分100Acと第2の部分100Adとからなるものとしてもよい。具体的には例えば、シリコンからなる第1の部分100Acとゲルマニウムからなる第2の部分100Adとからなる如くである。第1の部分100Acと第2の部分100Adとは、それぞれ任意の形状を有していてもよい。また、コア100Aは、3つ以上の部分からなるものとしてもよい。これらの場合にも、シリコン、ゲルマニウム、シリコン・ゲルマニウム化合物の中から、任意の組合せを選ぶことができる
一方、ドット100を構成するシェル100Bの材料についても同様に、単一である必要はない。例えば、あるドット100のシェル100Bが、上述したような各種の有機材料のうちのいずれか2種類以上を含むものとしてもよい。
【0040】
さらにまた、p型層14、活性層16、n型層18などに含まれるドットは、それぞれの層において単一である必要はなく、上述の各種のドットが複数種類含まれていてもよい。例えば、互いに異なる材料からなるシェル100Bを有する複数種類のドットがp型層14に含まれていてもよい。また、図2に例示したような単一のコアを有するドットと、図4あるいは図5に例示したような多重構造を有するドットとが、p型層14の中に混在していてもよい。
【0041】
以下、本発明においてドット100を用いることにより、正孔輸送能力あるいは電子輸送能力を増大させるメカニズムについて詳述する。
【0042】
一般に、半導体LEDを構成するバルク半導体材料は、電子輸送能と正孔輸送能を併せ持つ。その移動度は科学的、工業的な観点から広く調べられている。
図6は、各種半導体材料の電子並びに正孔の有効質量に対する、電子移動度並びに正孔移動度をプロットしたものである。
【0043】
同図から分るように、半導体材料の移動度は、それが有効質量のマイナス3/2乗に比例するとした近似式にほぼ従い、有効質量が軽いほど大きくなる。また、表1に示した電子移動度と正孔移動度を比較すると、殆どの材料で電子移動度が大きい。これは、電子の有効質量が、正孔のそれと比較して大きいためである。
【0044】
【表1】
半導体LEDの基本素子構成は、陽極/p型層/活性層/n型層/陰極である。導電率σは電子の導電率σeと正孔の導電率σhに分けられ、それぞれ次式で表される。
【0045】
σe=neeμe
σh=nheμh
ここで、eは素電荷、μe、μhはそれぞれ電子・正孔移動度、ne、nhはそれぞれ自由電子・自由正孔密度である。上述したように、正孔移動度は電子移動度より小さいが、p型・n型両層にそれぞれアクセプター性不純物元素・ドナー性不純物元素をドーピングすることでne、nhを制御し、両層の導電率を増加させ、且つバランスさせている。このような手段により、低電圧で電極から電子と正孔を注入・拡散させ、活性層で再結合発光させている。
【0046】
半導体量子ドットLEDの基本素子構成は、陽極/p型層/活性層/n型層/陰極、若しくは陽極/p型層/活性層(n型層を兼ねる)/陰極である。基本動作は、原理的に半導体LEDと同様であり、電極から電子と正孔を注入し、再結合発光させるものである。しかしながら、半導体量子ドットを充填した膜の正孔移動度は、有効質量が重いことと、後述するアンダーソン局在等の影響もあり、電子移動度と比較してかなり小さい値を示すと考えられている。
【0047】
半導体量子ドットLEDにおいても、導電率は移動度とフリーキャリア数との積で決まる。正孔移動度が小さいと、正孔の導電率低下が生ずる。従って、電子の導電率とバランスさせるためには、自由正孔密度を高めるか、または正孔移動度のいずれかを高める必要がある。
【0048】
半導体量子ドットは、上述したバルク半導体とは異なり、フリーキャリアを発生させるためのドーピング処理が製法上困難であり、ne、nhを直接制御することは難しい。陽極/p型層/活性層/n型層/陰極を例にとれば、正孔移動度が小さいp型層の導電率を上げるには、p型層の膜厚をn型層よりもかなり薄くしなければならない。従って、ショートの少ない、厚いp型層を得るには、正孔移動度を向上させることが必須である。さらには、p型層を介した活性層から陽極への電子電流リークを減らすには、p型層での正孔移動度を電子移動度よりも大きくする必要がある。
【0049】
以下、半導体量子ドットを充填させた膜(以下、「ドット膜」と称する。)について、正孔移動度を向上させるための原理説明を行う。
【0050】
原理説明は、以下の4段階に分けて行う。
(1)まず、単一半導体量子構造中の電子、正孔のエネルギー準位について説明し、それがバルク半導体材料の有効質量に依存することを説明する。
【0051】
(2)次に、ドット膜のモデルとして半導体量子ドットが一次元に規則正しく充填した系を取り上げ、電子、正孔各々についてサブバンドが形成されることを、エネルギーと波数の関係から説明する。加えて、サブバンドからドット膜の有効質量を求め、バルク半導体の有効質量、ドット膜のサブバンド幅との関係を説明する。
【0052】
(3)次に、上述のドット膜モデルに、ドットエネルギーの不均一分布を考慮する。実際のドット膜にはドットサイズの不均一分布があり、ドットエネルギーは不均一分布Wを生じる。バンド幅をBとすると、W>2Bで移動度は臨界的に減少し、キャリアが局在化する現象が知られている(アンダーソン局在; N. Mott, Conduction in non-crystalline materials, Clarendon Press, Oxford (1987))。この考えをサブバンドに適用し、実現できている最小のWから、キャリア輸送が可能な臨界サブバンド幅Bc、ドット膜の臨界有効質量mc、及び臨界移動度μcを見積もる。
【0053】
(4)そして、半導体量子ドットのシェルに低正孔バリア性材料を用い、且つコアとしてSi、Ge半導体や、その化合物や、その混合物を用いることにより、正孔のサブバンド幅が、電子のサブバンド幅や臨界バンド幅Bcよりも大きくなり、電子移動度と比較して高い正孔移動度を示すドット膜が得られることを説明する。
【0054】
(1)単一半導体量子ドットのエネルギー状態
図7は、単一の半導体量子ドットのエネルギー準位を表す模式図である。
半導体量子ドットにおいて、伝導帯の電子あるいは価電子帯の正孔が感じるポテンシャルは、近似的に井戸型ポテンシャルにより表すことができる。ここで、ポテンシャルバリアVoは伝導帯、価電子帯でそれぞれ等しく、且つ十分大きいとした。酸化シリコン(SiOx)や窒化シリコン(SixNy)などのワイドギャップ絶縁体に閉じ込められた単一半導体量子ドットは、このようなエネルギー図でよく近似できる。
【0055】
井戸中の電子並びに正孔は、ポテンシャルバリアのために井戸付近に局在する。井戸中での電子(正孔)のエネルギー準位Ee(Eh)は、Nを量子数(N=1,2,3,…)として、次式により与えられる。
【0056】
【数1】
ここで、dは半導体量子ドットのコア径、hはプランク定数、me(mh)はバルク半導体材料の電子(正孔)の有効質量をそれぞれ表す。なお、正孔に関する式は、上式の添字eをhに変えれば得られる。
【0057】
式(1)から分るように、エネルギー準位はバルク半導体材料の有効質量や半導体量子ドットのサイズに依存して変化する。
【0058】
(2)一次元に充填された均一な半導体量子ドットのエネルギーと波数との関係
図8は、ドット膜の電子のサブバンドを表す模式図である。
半導体量子ドットを高密度に充填すると、ポテンシャルバリアを挟んで隣り合う半導体量子ドット中の電子(正孔)の波動関数同士がトンネル効果により重なり合うようになり、小さなエネルギー帯が形成される。これを「サブバンド」と呼ぶ。図8においては、半導体量子ドットのコア径dとポテンシャルバリアの厚みsはそれぞれ一定とした。このような井戸型ポテンシャルの列はKronig-Penneyモデルとして知られ、サブバンドのエネルギーを解析的に求めることができる(R. de L. Kronig and W. G. Penney, Proc. Roy. Soc. A130, 499 (1931))。結果だけ示すと、電子(正孔)の波動ベクトルke(kh)を用いて、エネルギーEe(Eh)は次式で表される。
【0059】
【数2】
ここで、αe、βeは、それぞれ次式により表される。
【0060】
【数3】
ドット膜の電子(正孔)の有効質量は、サブバンドの曲率d2Ee/dke 2(d2Eh/dkh 2)を用いて求めることができる。
【0061】
【数4】
式(3)から、サブバンドの曲率が小さいほど有効質量は大きくなることが分かる。すなわち、サブバンド幅が狭いほど、ドット膜の有効質量は大きい。
【0062】
図9は、バルク半導体材料の有効質量を変化させ、s、d、Voは一定としたときの、ドット膜のサブバンド幅と有効質量の計算結果を表すグラフ図である。同図から分かるように、バルク半導体材料の有効質量が大きいほど、ドット膜のサブバンド幅は減少し、有効質量は増加する。なお、同図において、バルク半導体材料とドット膜の有効質量は、真空中の電子有効質量moで規格化した。
【0063】
前述したように、バルク半導体材料の有効質量は電子の方が正孔よりも小さい。従って、半導体量子ドットをSiO2などのワイドギャップ絶縁体に充填しただけでは、高い正孔移動度を示すドット膜は作れない。
【0064】
(3)不均一ドットサイズにおける、ドット膜の臨界サブバンド幅と、臨界有効質量
後に実施例として詳述するが、本発明においては、半導体量子ドットとして、例えば液相合成したものを用いることができる。合成した半導体量子ドットのサイズには、不均一分布がある。この不均一分布は、半導体量子ドットを液相合成した後の、HPLC(high pressure liquid chromatograph)を用いたサイズ分級工程における、エネルギー分解能で決まる。現時点では、この分解能は0.5meVである。従って、不均一エネルギーWは最小0.5meVである。
【0065】
図10は、量子ドットのサイズの影響を表す模式図である。
バンド幅をBとすると、W=2BよりもBが減った場合、移動度は臨界的に減少し、キャリアが局在化する(アンダーソン局在)。これをドット膜のサブバンドに適用すると、キャリア輸送が可能な臨界サブバンド幅Bc=W/2=0.25meVとなる。このサブバンド幅に対応するドット膜の臨界有効質量は、図9に破線で表したように、mc/mo≒30であることが分かる。ドット膜の臨界移動度は、図6に関して前述した移動度μと有効質量m/mOとの間の近似式(μ≒84/(m/mO)1.5)から見積もると、μc≒0.5cm2/V・sとなる。この値は、OLEDの正孔輸送層の移動度と比較して、4桁〜5桁程度大きい。
【0066】
従って、何らかの手段により、ドット膜の正孔と電子の有効質量を30以下にできれば、正孔移動度を電子移動度なみに揃えることが可能になる。また、正孔の有効質量を30以下、電子の有効質量を30以上にできれば、正孔のみを選択的且つ高速に輸送するドット膜を得ることができる。
【0067】
(4)低正孔バリア性シェルによる、ドット膜の有効質量並びに移動度のチュ−ニング
図11は、バルク半導体材料の有効質量と、ポテンシャルバリアVoに対する、ドット膜の有効質量の等高線図である。ここでは、d=1.5nm、s=2nmとした。同図中の斜線領域は、ドット膜の有効質量が10〜100に対応する臨界有効質量を含む領域である。図11から、正孔移動度を高めるには、正孔に対するVoを下げ、逆に電子に対するVoを上げれば良いことが分る。
【0068】
本発明においては、正孔移動度を向上させるために、半導体量子ドットのポテンシャルバリアとして「低正孔バリア性」の有機分子からなるシェルを用い、電子と正孔に対するポテンシャルバリアを非対称化させる。すなわち、図12に模式的に表したように、「低正孔バリア性」のシェルにより、正孔に対しては低いポテンシャルバリアを形成させ、電子に対しては高いバリアを形成させる。なお、ポテンシャルバリア厚sとシェル厚s’とは、次式の関係にあることが望ましい。
s’≦s/2
図13は、7種類の半導体材料からなる量子ドットに低正孔バリア性シェルを組み合わせた場合のドット膜有効質量を、図11に重ねてプロットしたグラフ図である。
ここで、低正孔バリア性シェルは、電子に対してはVo=3eV、正孔に対してはVo=0.25eVとなるものを想定した。
また、図14は、これら半導体量子ドットのエネルギー準位を表す模式図である。
【0069】
図13から、シリコン(Si)とゲルマニウム(Ge)では、正孔有効質量<臨界有効質量<電子有効質量となり、正孔移動度>電子移動度となる所望のドット膜が得られることが分る。ドット膜の正孔移動度を先の近似式(μ≒84/(m/mO)1.5)から求めると、Siがμh≒30cm2/V・s、Geがμh≒100cm2/V・sとなり、OLEDと比較して6桁〜8桁高い値が得られる。なお、図示していないが、SiとGeとの化合物からなる半導体材料においても、正孔有効質量<臨界有効質量<電子有効質量となり、高い正孔移動度を持つドット膜が得られる。
【0070】
「低正孔バリア性」の意味するところは、正孔バリアの大きさ(シェルの最高被占分子軌道とコアのイオン化ポテンシャルとの差)が、電子バリアの大きさ(シェルの最低空分子軌道とコアの電子親和力との差)と比較して小さいことを指す。さらにその大小関係について説明すると、図13のSiやGeを例にとれば、電子バリアの大きさが正孔バリアの1.5倍程度となる場合、正孔移動度は電子移動度とほぼ同程度となる。従って、正孔移動度>電子移動度を実現するには、電子バリアの大きさが正孔バリアの3倍以上であることが望ましく、さらに10倍以上であることが望ましい。
【0071】
正孔(電子)バリアの大きさを小さくすると、正孔(電子)移動度が大きくなる物理的な理由は、コア半導体中の正孔(電子)の波動関数がコア外部に染み出す確率が増し、隣り合うコア間での波動関数の重なりが増え、結果正孔(電子)がスムーズに隣り合うコア間を移動出来るようになるためである。
一方、GaAs以外のIII−V族化合物半導体では、SiやGeなどのIV族半導体とは異なり、低正孔バリア性シェルを用いた場合でも電子有効質量<正孔有効質量<臨界有効質量となり、ドット膜の移動度は電子移動度>正孔移動度となる。
【0072】
GaAsでは、正孔有効質量〜電子有効質量<臨界有効質量であり、正孔・電子ともに高い移動度を示してしまうために、電子電流リークが防げない。
【0073】
先の図13において、III−V族化合物半導体の電子に対するポテンシャルをさらに高めれば(例えばVo>10eV)、原理的には電子有効質量<正孔有効質量<臨界有効質量となり、正孔移動度>電子移動度となるドット膜が得られる可能性がある。これを実現するには、図14に表したシェルの最低空分子軌道(LUMO)を10eV以上引き上げ、−8eV以上の負のLUMOを持つ分子をシェルに用いなければならない。しかしながら、現時点で、このような高い負のLUMOを示す材料はない。例えば、III−V族化合物半導体の中で、InAsを例に挙げると、電子のバリアは約3eVあるが、それでも電子移動度が正孔移動度よりも大きい。この場合、正孔移動度を電子移動度よりも大きくするためには、電子のバリア高さを増せばよいが、10eV以上とすることが必要となる。その場合、シェルのLUMOは−8eV以上の大きな値となるが、そういう状態の物質は存在しない。シェルのLUMOは、InAsの電子親和力から電子のバリアを差し引いた値に等しい。仮に、−10eVの電子のバリアを形成したい場合、電子親和力が2eVであることから、シェルとしては−8eVのLUMOを持つ物質を選択しなければならない。なお、他のIII−V族化合物半導体については、電子親和力が2eVよりも小さいため、同じく−10eVの電子のバリアを形成するには、シェルとして−8eVよりも負側にさらに大きいLUMOを示す物質を選ばなければならない。従って、III−V族化合物半導体において、正孔移動度>電子移動度となるドット膜を得ることは容易でない。
【0074】
また、従来例のQD−LEDに関して前述した、CdSeなどのII−VI族化合物半導体をp型層に適用することも容易でない。これは、図14に表したように、CdSe、CdSのイオン化ポテンシャルが6.7eV、7.2eVと非常に大きく、典型的な陽極であるITOの仕事関数(4.8〜5.2eV)とは1.5〜2.4eV程度のポテンシャルバリアがあり、陽極からこれらの膜へ正孔が殆ど注入されないためである。
【0075】
以上の原理説明より、シェルに低正孔バリア性分子を用い、且つSi、Ge及びその化合物を用いた場合、正孔移動度>電子移動度となるドット膜が得られることが分る。本発明を、陽極/p型層/活性層/n型層/陰極という構造の素子、若しくは陽極/p型層/活性層/陰極という構造の素子のp型層に適用することで、ショートが発生せず、電子電流リークも少なく、且つ大面積化が可能な、面発光LEDを提供することが可能になる。
【0076】
【実施例】
以下、本発明の実施形態について、実施例を参照しながら詳細に説明する。まず、半導体量子ドットの製法について説明し、次いで半導体量子ドットLEDについて説明する。
【0077】
シェルを有する半導体量子ドットを製造するには、液相での化学的な合成が適している。SiやGeからなる半導体量子ドットの液相合成法は、大別して2つの方法に分けられる。1つが「逆ミセル法」、もう1つが「還流法」である。ここでは、まず逆ミセル法について説明し、次いで還流法を説明する。
【0078】
逆ミセル法は、次の5工程からなる。
【0079】
▲1▼コア液相合成工程(逆ミセル合成)
▲2▼精製
▲3▼シェル化工程
▲4▼精製
▲5▼サイズ分級
工程▲1▼で、半導体量子ドットのコアを液相合成する。Siコアを形成する場合を例に挙げると、まずフラスコなどにオクタンなどの無極性溶媒を満たし、Si半導体コアの元となる極性溶媒のSiCl4と、界面活性剤を添加し、界面活性剤で覆われた微細なSiCl4逆ミセルを作る。安定な逆ミセルは、室温で攪拌することで容易に形成できる。なお、コアサイズの中心値は、このとき作られる逆ミセルの大きさでほぼ決まる。逆ミセルの大きさは、界面活性剤とSiCl4の濃度比で調整する。
【0080】
次に、逆ミセル形成後、還元剤を添加し、SiCl4逆ミセルをSiコアに還元する。還元反応後のSiコアの表面は水素終端され、疎水性を示すようになる。このため、有機溶媒中にSiコアは単分散する。なお、以上の作業で、比較的サイズが揃ったSiコアを簡単に用意することができる。これが、逆ミセル法の大きな特徴である。
【0081】
次に、工程▲2▼で、溶液の中から、不純物である界面活性剤と還元剤を分離する。分離方法は幾つかあるが、例えば、HPLCによるカラム分離を用いることができる。Siコアと不純物とでは、カラム中を進む速度が異なる。カラム出口に設けた4種類の溶液検出器(発光、光吸収、屈折率、電気抵抗)をモニタすることで、Siコアと不純物とを分離することができる。これにより、有機溶媒中にSiコアのみが単分散した溶液を得られる。
【0082】
次に、工程▲3▼で、このSiコア単分散溶液に、シェルの原材料である末端に炭素・炭素の二重結合を持つ分子材料と、反応触媒を加え、Siコア表面にシェルを化学的に結合する。Siコア表面のSi−Hとこの二重結合を持つ分子材料とは効率良く反応するため、Siコアをシェルで覆うことができる。
【0083】
ここで述べる「二重結合を持つ分子材料」とは、例えばH2C=CH−(CH2)n−1−Zを指す。Zは官能基を表し、nは正の整数を表す。低正孔バリア性のシェルを設ける場合、官能基Zとしては、−NR2、−NR’R、−NHR、−NH2からなるアミノ基や、その他−CR”R’R、−CR’2R、−CR3、−CHR2、−CHR’R、−CH2R、−CH3、−SR、−SH、−I、−Br、−Cl、−Fを有する分子材料などが選択できる。Si表面と上記分子材料が反応すると、Si−(CH2) n+1−Zとなる。なお、R”、R’、Rは有機飽和化合物基である。
【0084】
シェルとして有機飽和化合物骨格を用いる主な理由は以下の通りである。この骨格は電気的に絶縁体であり、コア間のポテンシャルバリアとして有効に作用する。また、化学的な安定性に優れ、素子の信頼性を損なわない。加えて、バンドギャップ(HOMOとLUMOの差)が紫外域にあるため、LED発光を再吸収しない。以上の点から、本発明の効果である、コア間での正孔の伝導を制御を実現する上で、最も適したポテンシャルバリア材料と考えられるためである。
【0085】
なお、シェルとして、不有機飽和化合物や芳香環を多数有する共役系材料、すなわち、チオフェンオリゴマー、ピロールオリゴマー、フェニレンオリゴマー、フェニレンビニレンオリゴマー、その他の共役系オリゴマーを、コア表面に化学的に結合させることも可能である。しかしながら、これら共役系材料は、一般に導電率は低いが半導性を示しコア間のポテンシャルバリアとして機能しない、また一般的にバンドギャップ(HOMOとLUMOの差)が狭く可視域に吸収を示す、さらに不有機飽和化合物を多数持つことに由来して、有機飽和化合物と比較して、熱、光、大気成分(水、酸素)に対する耐性が低いなどの欠点がある。従って、本発明のシェルとして、上に挙げた共役系材料は適さない。
【0086】
ただし、上記欠点が問題とならない限りにおいては、これら共役形材料を含有したシェルを用いることも可能である。
【0087】
次に、工程▲4▼で、溶液の中から、不純物(未反応ビニル化合物と触媒)をカラム分離すれば、有機溶媒中に単分散した半導体量子ドットが得られる。
【0088】
そして、工程▲5▼で、再度HPLCを用い、サイズ分級を行う。半導体量子ドットのサイズが異なると、やはりカラム中を進む速度は異なる。カラム出口に設けた蛍光分光器で、蛍光スペクトルのピーク波長をモニタすることにより、コア径の異なる半導体量子ドットを分級することができる。波長分解能は、波長域にも依存するが、最小0.07nmである。エネルギー分解能にすると、0.5meVに相当する。
【0089】
以上の方法により、サイズ均一性に優れた半導体量子ドットを製造することが可能になる。なお、工程▲1▼〜▲3▼は、大気成分、特に水と酸素を嫌う。これはSiコアが容易に酸化するためである。このため、工程▲1▼〜▲3▼は、全てグローブボックス中など雰囲気を管理できる状態で実施することが望ましい。
【0090】
次に、還流法を説明する。還流法は次の4工程からなる。
【0091】
▲1▼コア液相合成工程(シリサイドと塩化シリコンの液相反応)
▲2▼シェル化工程(グリニャール反応)
▲3▼精製
▲4▼サイズ分級
まず、工程▲1▼で、半導体量子ドットのコアを液相合成する。Siコアを例に挙げると、まずフラスコなどに溶媒としてエチレングリコールジメチルエーテルを満たし、シリサイド(M2Si、若しくはXSi)とSiCl4を投入する。なお、Mはアルカリ土類金属、Xはアルカリ金属である。半導体コアは、溶媒を還流させながら、このシリサイドとSiCl4とをゆっくりと反応させ、Siコアを原子レベルから徐々に成長させる方法である。本方法では、コアサイズは原理的に反応時間が長いほど大きく成長する。従って、フォトルミネッセンスや動的光散乱などでコアのサイズをモニタしながら、サイズが揃ったSiコアを合成することが可能になる。
【0092】
次に、工程▲2▼で、このSiコアを含む溶液に、シェルの原材料である反応試薬と、反応触媒を加え、グリニャール反応によってSiコア表面にシェルを化学的に結合する。Siコア表面のSi−Clと反応試薬とは効率良く反応するため、Siコアをシェルで覆うことができる。
【0093】
なお、ここで述べる反応試薬とは、例えば、ClMg−(CH2) n−Z、Li−(CH2) n−Zを指す。Zは官能基であり、nは正の整数である。低正孔バリア性のシェルを設ける場合、官能基Zとしては、−NR2、−NR’R、−NHR、−NH2からなるアミノ基や、その他−CR”R’R、−CR’2R、−CR3、−CHR2、−CHR’R、−CH2R、−CH3、−D、−SR、−SH、−I、−Br、−Cl、−Fを有する分子材料などが選択できる。Si表面と上記試薬が反応すると、Si−(CH2)n−Zとなる。なお、R”、R’、Rは有機飽和化合物基である。 次に、工程▲3▼で、溶液の中から、不純物(未反応の試薬、触媒、アルカリ土類金属若しくはアルカリ金属の塩化物)を精製除去すれば、有機溶媒中に単分散した半導体量子ドットが得られる。
【0094】
そして、逆ミセル法同様、工程▲4▼において、HPLCを用い、サイズ分級を行う。
【0095】
以上の方法により、サイズ均一性に優れた半導体量子ドットを製造することが可能になる。なお、工程▲1▼〜▲2▼は、大気成分、特に水と酸素を嫌う。これはSiコアが容易に酸化するためである。このため、工程▲1▼〜▲2▼は全て乾燥アルゴン雰囲気中で反応させることが望ましい。
【0096】
以上、半導体量子ドットの製造法について説明したが、逆ミセル法、還流法のいずれによっても、コア表面を所望の有機分子、若しくは有機錯体分子で終端した半導体量子ドットを製造することができる。
【0097】
図15は、本発明の実施例の半導体発光素子を概略的に表す断面図である。 以下、この発光素子を、「面発光型半導体量子ドットLED(QD−LED)」と称する。QD−LEDは、支持基板10と封止基板30とをシール層32を介して対向させた筺体構造を有する。シール層32は、封止基板30の周縁に沿って設けられており、それにより、支持基板10と封止基板30との間に密閉された空間を形成している。この空間は、Ar(アルゴン)ガスやN2(窒素)ガスのような希ガス・不活性ガスで満たされている。なお、QD−LED上に接着層を介して封止基板を直接貼り合せることで封止することもできる。
【0098】
支持基板10の上には、アンダーコート層として、例えば、SiNx層とSiO2層(図示せず)とが順次積層されている。アンダーコート層の上には、透明電極12が設けられている。透明電極は、図示しない電極取り出し配線に電気的に接続されている。
【0099】
透明電極12の上には、半導体量子ドットからなるp型層14が設けられている。p型層14の上には、活性層16がある。活性層16は、例えば、赤、緑、そして青色に発光する半導体量子ドットを含んでいる。活性層16の上には、半導体量子ドットからなる、n型層18が設けられている。
【0100】
n型層18の上には、対向電極20が設けられており、図示しない取り出し配線に電気的に接続されている。なお、活性層16にn型層18の機能を併せ持たせることで、n型層18を省略することもできる。QD−LEDは、これら透明電極12、p型層14、活性層16、n型層18、対向電極20で構成されている。
【0101】
なお、n型層18に用いる半導体量子ドットは、「低電子バリア性」のシェルを有する。「低電子バリア性」とは、「低正孔バリア性」とは逆に、電子に対すポテンシャルバリアが低くなるようなものを表す。すなわち、「低電子バリア性」の意味するところは、電子バリアの大きさ(シェルの最低空分子軌道とコアの電子親和力との差)が、正孔バリアの大きさ(シェルの最高被占分子軌道とコアのイオン化ポテンシャルとの差)と比較して小さいことを指す。
【0102】
低電子バリア性シェルとしては、有機化合物、有機錯体化合物などの中から低電子バリア性の分子材料を選択できる。具体的には、R、R’を有機飽和化合物基としたとき、官能基として、−NO2、−SO2R、−CN、−CO2R、−CONH2、−CONHR、−CONR2、−CONR’R、−SO3R、−NO及び−CHOのいずれかを有し、且つ前記官能基は前記コア表面のSi原子、若しくはGe原子と有機飽和化合物を介して結合する分子材料の中から選択できる。
【0103】
活性層に用いる半導体量子ドットのシェルとしては、「低電子バリア性シェル」、且つまた「低正孔バリア性シェル」として、前述したものの中から選ぶことができる。
【0104】
(第1の実施例)
まず、本発明の第1の実施例として、図15に表した素子を形成した。支持基板10の上のp型層14はSi半導体量子ドット(以下、Siドット)により形成した。Siドットとしては、還流法により液相合成したものを用いた。シェルは、−CH2−CH2−N−(CH3)2である。
【0105】
このSiドットを1wt%含む溶液を調整し、スピンコート法で支持基板のITO(indium tin oxide)12の上にp型層14を成膜した。その膜厚は、1.1μmに調整した。なお、電子顕微鏡観察により、Siドットの平均サイズは1.5nmであることが確認できた。
【0106】
活性層16には、GeをSiで被覆した混合物タイプのSiGeドットを用いた。SiGeドットは、やはり還流法で液相合成した。このSiGeドットを0.3wt%含む溶液を調整し、スピンコート法でp型層14の上に成膜した。膜厚は150nmである。
【0107】
SiGeドットは、コア径が1.8nmから5nmまでの幅広い分布しているものを用いた(中心のGe部位は平均1.6nmに調整し、Geを被覆するSi部位の厚みを0.1nm−1.7nmの間で変化させた)。コア径が2nm弱で青色に発光し、径の増加とともに発光が赤色シフトし、4〜5nmで赤色に発光する。従って、幅広いサイズのSiGeドットを活性層16に用い、白色発光を得ることが可能になる。
【0108】
なお、−CH2−CH2−N−(CH3)2を有するSiGeドットと、−CH2−CH2−NO2を有するSiGeドットを混ぜて用いている。混合比は、重量比で1:1である。
【0109】
n型層18には、シェルに低電子バリア性の−CH2−CH2−NO2を有するGeドットを用いた。このGeドットも還流法合成した。このGeドットを1wt%含む溶液を調整し、スピンコート法で活性層上に成膜した。膜厚は1μmである。なお、Siドットの平均サイズは4nmである。
【0110】
対向電極20としては、n型層18に電子を効率よく注入させるために、Ba/Alを順次真空蒸着した。Ba膜厚は2nm、Al膜厚300nmである。以上の素子構成を有する、白色発光のQD−LEDを作成した。
【0111】
図16は、この白色発光QD−LEDの電流−電圧−輝度特性を表すグラフ図である。同図から分かるように、3.6Vの電圧印加により、電流は293mA/cm2、輝度は41,500cd/m2が得られた。
【0112】
(比較例1) (p型層への低電子バリア性シェルの適用)
比較例として、p型層14に用いるSiドットのシェルが異なる点を除けば、他は第1の実施例と同様の構造の素子を形成した。
【0113】
すなわち、本比較例では、p型層14のSiドットとして、n型層に用いるSiドットと同じ、低電子バリア性のシェル、−CH2−CH2−NO2を有するドットを用いた。
【0114】
図17は、本比較例の電流−電圧−輝度特性を表すグラフ図である。同図から分かるように、3.6Vの電圧印加により、電流は38mA/cm2、輝度は27cd/m2となった。
【0115】
第1実施例と比較して、本比較例の発光素子の輝度が約1/1500と大幅に減ったのは、p型層14の正孔移動度が小さくなり、活性層16に正孔が殆ど供給されないことに起因する。また、電流減少が約1/8に止まっているのは、p型層14の電子移動度が高まり、活性層16からITO12へ電子電流がリークしていることに起因する。
【0116】
以上の結果から、p型層14の正孔移動度を高め、且つ電子電流リークを抑え、且つ効率良く活性層16でLED発光を得るには、p型層14に低正孔バリア性シェルを有するSiドットを用いることが大変有効であることが分る。
【0117】
(第2の実施例)
本発明の第2の実施例では、p型層14に用いるSiドットのシェルとして、−(CH2)6−CH3を用いた。このp型層に用いたSiドットは逆ミセル法により液相合成したものである。ドットの平均サイズは第1実施例同様、1.5nmである。スピンコート法で、ITO基板12の上に膜厚1.1μmに調整した。
【0118】
このp型層中のSiドットのシェル材料を変更した点を除けば、活性層16、対向電極20を始めとする本実施例の素子構成は、第1実施例の発光素子と同様である。
【0119】
本実施例の発光素子の電流−電圧−輝度特性を調べた結果、第1の実施例と同一の電流量である293mA/cm2で駆動した際に、電圧値は3.9V、輝度は39,600cd/m2が得られた。第1実施例と比較して、やや電圧は高いが、ほぼ遜色の無い、良好な電流−電圧−輝度特性が得られた。
(第3の実施例)
本発明の第3の実施例では、p型層14に用いるSiドットのシェルとして、−(CH2)6−Fを用いた。このp型層に用いたSiドットは逆ミセル法により液相合成したものである。ドットの平均サイズは第1実施例同様、1.5nmである。スピンコート法で、ITO基板12の上に膜厚1μmに調整した。
【0120】
このp型層中のSiドットのシェル材料を変更した点を除けば、活性層16、対向電極20を始めとする本実施例の素子構成は、第1実施例の発光素子と同様である。
【0121】
本実施例の発光素子の電流−電圧−輝度特性を調べた結果、第1の実施例と同一の電流量である293mA/cm2で駆動した際に、電圧値は4.1V、輝度は36,500cd/m2が得られた。第1実施例と比較して、やや電圧は高いが、ほぼ遜色の無い、良好な電流−電圧−輝度特性が得られた。
【0122】
(比較例2)
比較例2として、p型層14に用いるSiドットのシェルが異なる点を除けば、他は第1の実施例と同様の構造の素子を形成した。
【0123】
すなわち、本比較例では、p型層14のSiドットとして、ポリエン構造を有するシェル、−(CH=CH−)6CH3を有するドットを用いた。
【0124】
本比較例の電流電流−電圧−輝度特性を調べた結果、第1の実施例と同一の電流量である293mA/cm2で駆動した際に、電圧値は9.8V、輝度は203cd/m2となった。
【0125】
第1実施例と比較して、本比較例の発光素子の電圧が2−3倍と大幅に増えたのは、p型層14の正孔移動度が小さくなり、活性層16に正孔が殆ど供給されないことに起因する。また、輝度が約1/200に減ったのは、正孔と電子のバランスが崩れて発光に寄与しない電子電流が流れることと、シェル自体が可視光領域で光吸収を持つために活性層で生じたLED発光がp型層で吸収されることに起因する。
【0126】
「逆ミセル法」の説明のところでも述べたように、本比較例で用いたポリエン構造を始め、不有機飽和化合物や芳香環を多数有する共役系材料、すなわち、チオフェンオリゴマー、ピロールオリゴマー、フェニレンオリゴマー、フェニレンビニレンオリゴマー、その他の共役系オリゴマーでは、一般に導電率は低いが半導性を示しコア間のポテンシャルバリアとして機能しない、また一般的にバンドギャップ(HOMOとLUMOの差)が狭く可視域に吸収を示す、さらに不有機飽和化合物を多数持つことに由来して、有機飽和化合物と比較して、熱、光、大気成分(水、酸素)に対する耐性が低いなどの欠点を有する。
【0127】
従って、p型層14の正孔移動度を高め、且つ電子電流リークを抑え、且つ効率良く活性層16でLED発光させ、且つこのLED発光をロス少なく大気に取り出すためには、p型層14のドットには有機飽和化合物から構成された低正孔バリア性シェルを配置させることが大変有効であることが分る。ただし、上記欠点が問題とならない限りにおいては、これら共役形材料を含有したシェルを用いることも可能である。または、上記欠点が問題とならない限りにおいては、これら共役系材料からなるシェルを有するドットがp型層14に含有されていてもよい。
【0128】
(第4の実施例)
本発明の第4の実施例では、p型層14に用いるドットとして、GeをSiで被覆した混合物タイプのSiGeドットを用いた。SiGeドットは、還流法で液相合成した。このSiGeドットを0.3wt%含む溶液を調整し、スピンコート法でITO基板12の上に成膜した。膜厚は1μmである。
【0129】
SiGeドットは、コア径が平均2.2nmである。中心のGe部位が平均1.6nmであり、Geを被覆するSi部位の厚みが平均0.3nmとなるドットを用いた。なお、低正孔バリア性シェルは、第1実施例と同様、−CH2−CH2−N−(CH3)2である。
【0130】
このp型層に用いるドットをSiGeドットに変更した点を除けば、活性層16、対向電極20を始めとする本実施例の素子構成は、第1実施例の発光素子と同様である。
【0131】
本実施例の発光素子の電流−電圧−輝度特性を調べた結果、第1の実施例と同一の電流量である293mA/cm2で駆動した際に、電圧値は3.5V、輝度は40,500cd/m2が得られた。第1実施例と比較して、ほぼ遜色の無い、良好な電流−電圧−輝度特性が得られた。
【0132】
(第5の実施例)
本発明の第5の実施例では、p型層14に用いるドットとして、SiとGeの元素比が7:3となる化合物タイプのSi0.7Ge0.3ドットを用いた。Si0.7Ge0.3ドットは、逆ミセル法で液相合成した。このSi0.7Ge0.3ドットを0.3wt%含む溶液を調整し、スピンコート法でITO基板12の上に成膜した。膜厚は1μmである。
【0133】
Si0.7Ge0.3ドットは、コア径が平均2.1nmである。低正孔バリア性シェルは、第1実施例と同様、−CH2−CH2−N−(CH3)2である。
【0134】
このp型層に用いるドットをSi0.7Ge0.3ドットに変更した点を除けば、活性層16、対向電極20を始めとする本実施例の素子構成は、第1実施例の発光素子と同様である。
【0135】
本実施例の発光素子の電流−電圧−輝度特性を調べた結果、第1の実施例と同一の電流量である293mA/cm2で駆動した際に、電圧値は3.7V、輝度は39,900cd/m2が得られた。第1実施例と比較して、ほぼ遜色の無い、良好な電流−電圧−輝度特性が得られた。
【0136】
(第6の実施例)
図18は、本発明の第6の実施例の半導体発光素子の断面構造を表す模式図である。本実施例の発光素子は、活性層のドットは400nm付近の近紫外領域に発光ピークを有する材料に置き換えられている。加えて、支持基板10の裏面側、すなわち、光取り出し側に蛍光体膜40が設けられている。蛍光体膜40は、LEDからの近紫外発光を白色光に変換する役割を有する。この蛍光体膜40を新たに追加した点を除けば、本実施例の発光素子の構成は、第1実施例の発光素子と同様である。
【0137】
活性層16には、化合物タイプのSi0.7Ge0.3ドットを用いた。Si0.7Ge0.3ドットは、逆ミセル法で液相合成した。このSi0.7Ge0.3ドットを0.3wt%含む溶液を調整し、スピンコート法でp型層上に成膜した。膜厚は300nmである。なお、電子顕微鏡観察で求めたSi0.7Ge0.3ドットの平均サイズは2.2nmであった。
【0138】
なお、−CH2−CH2−N−(CH3)2を有するSi0.7Ge0.3ドットと、−CH2−CH2−CNを有するSi0.7Ge0.3ドットを混ぜて用いている。混合比は、重量比で1:1である。
【0139】
本実施例のLEDは近紫外領域で発光する。蛍光体膜40は、この光を白色光に変換する役割を担っている。これにより、本実施例の発光素子において白色発光を得ることが可能になる。
【0140】
対向電極20としては、電子を効率よく注入させるために、Ba/Alを順次真空蒸着した。Ba膜厚は2nm、Al膜厚300nmである。以上の素子構成を有する、白色発光のQD−LEDを作成した。
【0141】
本実施例の発光素子の電流−電圧−輝度特性を調べた結果、第1の実施例と同一の電流量である293mA/cm2で駆動した際に、電圧値は3.7V、輝度は35,400cd/m2が得られた。第1実施例と比較して、やや輝度は落ちるが、ほぼ遜色の無い、良好な電流−電圧−輝度特性が得られた。
【0142】
以上、具体例を例示しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、上述した各具体例に限定されるものではない。
例えば、半導体発光素子の構造や、それを構成するp型層、活性層、n型層、電極、基板などの構成要素については、当業者が公知の範囲から適宜選択し適用したものも、本発明の要旨を含む限りにおいて本発明の範囲に包含される。
【0143】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、半導体量子ドットのシェルとして低正孔バリア性の有機分子を用い、またコアとして例えばSi、Ge、その化合物半導体、これらの混合物などを用いることで、正孔移動度を高めることができる。これにより、発光素子の導電性を高め、ひいては輝度を高めることが可能になる。
【0144】
そして、本発明によれば、厚膜でも高い電気伝導性が得られるため、大面積化してもショートが発生せず、発光特性も優れた面発光型の発光素子などが実現でき、産業上のメリットは多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の第1の具体例の半導体発光素子の要部を表した模式断面図である。
【図2】ドット100の構造を表した概念図である。
【図3】本発明の実施の形態にかかる半導体発光素子の第2の具体例を表す模式図である。
【図4】2重構造のコアを有するドットを表す概念図である。
【図5】他構造のコアを有するドットを表す概念図である。
【図6】各種半導体材料の電子並びに正孔の有効質量に対する、電子移動度並びに正孔移動度をプロットしたものである。
【図7】単一の半導体量子ドットのエネルギー準位を表す模式図である。
【図8】ドット膜の電子のサブバンドを表す模式図である。
【図9】バルク半導体材料の有効質量を変化させ、s、d、Voは一定としたときの、ドット膜のサブバンド幅と有効質量の計算結果を表すグラフ図である。
【図10】量子ドットのサイズの影響を表す模式図である。
【図11】バルク半導体材料の有効質量と、ポテンシャルバリアVoに対する、ドット膜の有効質量の等高線図である。
【図12】「低正孔バリア性」のシェルにより、正孔に対しては低いポテンシャルバリアを形成させ、電子に対しては高いバリアを形成させることを表す模式図である。
【図13】7種類の半導体材料からなる量子ドットに低正孔バリア性シェルを組み合わせた場合のドット膜有効質量を、図11に重ねてプロットしたグラフ図である。
【図14】半導体量子ドットのエネルギー準位を表す模式図である。
【図15】本発明の実施例の半導体発光素子を概略的に表す断面図である。
【図16】白色発光QD−LEDの電流−電圧−輝度特性を表すグラフ図である。
【図17】比較例の電流−電圧−輝度特性を表すグラフ図である。
【図18】本発明の第2の実施例の半導体発光素子の断面構造を表す模式図である。
【符号の説明】
12 陽極
14 p型層
16 活性層
18 n型層
20 陰極
30 封止基板
32 シール層
40 蛍光体膜
100 コア
100 ドット
100A コア
100B シェル
Claims (4)
- 陽極と、
前記陽極に対向して設けられた陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に設けられた活性層と、
前記陽極と前記活性層との間に設けられたp型層と、
を備え、
前記p型層は、シリコン(Si)、またはゲルマニウム(Ge)、またはシリコン・ゲルマニウム化合物、またはこれらの混合物からなり、量子サイズ効果が生ずる大きさのコアと、前記コアを取り囲む低正孔バリア性を有する材料からなるシェルと、を有する第1のドットを含み、
前記低正孔バリア性を有する材料は、R、R’を有機飽和化合物基としたとき、−NR2、−NR’R、−NHR及び−NH2 よりなる群から選択された少なくともいずれかのアミノ基(含有される水素原子をハロゲン元素に置換したものも含む。)を有し、且つ前記アミノ基は前記コア表面のSi原子、若しくはGe原子と有機飽和化合物を介して結合されることを特徴とする半導体発光素子。 - 陽極と、
前記陽極に対向して設けられた陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に設けられた活性層と、
前記陽極と前記活性層との間に設けられたp型層と、
を備え、
前記p型層は、シリコン(Si)、またはゲルマニウム(Ge)、またはシリコン・ゲルマニウム化合物、またはこれらの混合物からなり、量子サイズ効果が生ずる大きさのコアと、前記コアを取り囲む低正孔バリア性を有する材料からなるシェルと、を有する第1のドットを含み、
前記低正孔バリア性を有する材料は、R、R’、R”を有機飽和化合物基としたとき、官能基として、−CR”R’R、−CR’2R、−CR3、−CHR2、−CHR’R、−CH2R、−CH3、−SR、−SH、−I、−Br、−Cl、−Fのいずれか(含有される水素原子をハロゲン元素に置換したものも含む。)を有し、且つ前記官能基は前記コア表面のSi原子、若しくはGe原子と有機飽和化合物を介して結合されることを特徴とする半導体発光素子。 - 前記陰極と前記活性層との間に設けられたn型層をさらに備え、
前記n型層は、半導体からなり、量子サイズ効果が生ずる大きさのコアと、前記コアを取り囲み低電子バリア性を有する材料からなるシェルと、を有する第2のドットを含み、
前記低電子バリア性を有する材料は、R、R’を有機飽和化合物基としたとき、官能基として、−NO2、−SO2R、−CN、−CO2R、−CONH2、−CONHR、−CONR2、−CONR’R、−SO3R、−NO及び−CHOのいずれか(含有される水素原子をハロゲン元素に置換したものも含む。)を有し、且つ前記官能基は前記コア表面のSi原子、若しくはGe原子と有機飽和化合物を介して結合されることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光素子。 - 前記活性層から放出された光の波長を変換する蛍光体をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
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