JP4029400B2 - 鋼管内面の浸炭深さ測定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼管内面に生じる浸炭の深さを、当該浸炭に伴う磁性変化を利用して非破壊的に測定する、鋼管内面の浸炭深さ測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
石油化学プラントのエチレン製造工程で用いられる、いわゆるクラッキングチューブは、長時間使用されることにより内面に浸炭層を生じることが知られている。この浸炭層の発生は、クラッキングチューブの寿命を大きく低減する要因となるため、定期的に浸炭層の深さ(浸炭深さ)を測定し、その進行状況を的確に把握することが必要である。
【0003】
従来、浸炭深さを測定する方法としては、例えば、被検材表面に対して両磁極を水平に配置した永久磁石と、両磁極を垂直に配置した永久磁石とを用い、前者の永久磁石で外表面の表層部及び内面の浸炭層の影響による磁性変化を測定する一方、後者の永久磁石で外表面の表層部の影響による磁性変化を測定し、両測定値の差から浸炭深さを測定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、励磁コイルと検出コイルとの間に生じる電磁誘導現象を利用し、励磁コイルに印加する交流の励磁周波数を、磁束の浸透深さが被測定材の厚さ以上となるように選択し、検出コイルの誘起電圧の高調波の振幅若しくは位相値を用いて浸炭深さを測定する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】
特許第2539091号公報
【特許文献2】
特開2000−266727号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記特許特許文献1に記載の方法では、2種類の励磁手段(永久磁石)が必要であると共に、直流励磁を用いるので、センサーを被検材に対して静止させないと計測できず、また、磁束の測定にホール素子を用いる場合には局部的な計測しかできないため、長い鋼管の全面について浸炭深さを測定するには、多大な時間を有するという問題がある。また、ホール素子は、温度依存性を有するため、供用期間中検査(ISI)のように、プラントの冷却時間を十分に確保できない場合には、大きな測定誤差を生じるという問題もある。
【0007】
また、前記特許文献2に記載の方法は、励磁コイルと検出コイルとを一対として対向配置し、検出コイルの誘起電圧について、高調波、つまり歪成分を抽出し、その振幅等を計測する方法である。従って、励磁周波数と同じ周波数成分を抽出する一般的な磁気抵抗測定の場合と異なり、得られる信号は極めて小さく、外乱ノイズ等の影響を受け易いため、測定値の安定性に乏しいという問題がある。前記特許文献2に記載の方法について、本発明の発明者らが実施した実証試験では、測定値の変動がおよそ30%程度にまで及ぶ場合があった。
【0008】
本発明は、斯かる従来技術の問題点を解決するべくなされたものであり、鋼管外表面の表層部の影響を軽減し得ると共に、鋼管の長手方向に沿った浸炭深さの分布を迅速に且つ安定性良く測定することのできる方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するべく、本発明は、請求項1に記載の如く、オーステナイト系ステンレス管を被測定鋼管とした鋼管内面に生じる浸炭の深さを、当該浸炭に伴う磁性変化を利用して測定する方法であって、励磁コイル及び検出コイルを、それぞれ被測定鋼管を囲繞するように配設する第1ステップと、前記励磁コイルに所定周波数の電圧を印加する第2ステップと、前記励磁コイルと前記検出コイルとの間に生じる電磁誘導によって、前記検出コイルに誘起された誘起電圧波形から、前記所定周波数の第3高調波を抽出する第3ステップと、前記抽出された第3高調波と浸炭深さとの相関関係に基づき、浸炭深さを演算する第4ステップとを含み、前記第1ステップにおいて、前記励磁コイルを被測定鋼管の長手方向に沿って2分割し、当該2分割された各分割コイルによってそれぞれ形成される当該各分割コイルを貫通する磁界の方向が同一となるように配設し、前記各分割コイルの間に前記検出コイルを配設すると共に、良否判定の臨界値となる浸炭深さを2mmに設定し、前記第3高調波の振幅の前記誘起電圧波形の振幅に対する比で変調率を定義すると共に、安定した浸炭深さ測定値を得るための前記変調率の臨界値を10%に設定し、前記設定された浸炭深さを有する鋼管を被測定鋼管とした場合の変調率が、前記臨界値として設定された変調率以上となるように、前記励磁コイルのアンペアターンを決定することを特徴とする鋼管内面の浸炭深さ測定方法を提供するものである。
【0010】
請求項1に係る発明によれば、励磁コイルと検出コイルとの間に生じる電磁誘導によって誘起された検出コイルの誘起電圧波形から、励磁周波数の高調波の内で最も大きな振幅が得られる第3高調波を抽出し、当該第3高調波と浸炭深さとの相関関係に基づき、浸炭深さが演算される。ここで、誘起電圧波形自体は、被測定鋼管が非磁性材料から構成される場合に、その外径や断面積の変化、或いは外表面の表層部に生じる酸化スケール等による電気抵抗の変動の影響を受け易い。これは、前記電気抵抗の変動が、励磁によって生じる渦電流の変化を引き起こし、これにより誘起電圧波形の振幅値や位相値に変化を生じさせるからである。これに対し、誘起電圧波形の第3高調波(歪成分)は、被測定鋼管が非磁性材料から構成される場合に、その外径や断面積の変化、或いは外表面の表層部に生じる酸化スケール等による電気抵抗の変動の影響を受け難い一方、被測定鋼管を構成する磁性体の影響を受け易く、その透磁率の大きさや含有量に依存して、振幅値や位相値が変動する特性を有する。従って、磁性体である浸炭層の浸炭深さは、第3高調波と相関関係を有することになり、当該相関関係と、前記抽出した第3高調波とによって、浸炭深さを演算することができる。このように、請求項1に係る発明によれば、鋼管外表面の表層部の影響を軽減し得ると共に、被測定鋼管の長手方向に沿って、励磁コイル及び検出コイルの配設位置を順次変更して測定することにより、鋼管の長手方向に沿った浸炭深さを迅速に測定することが可能である。
【0011】
また、請求項1に係る発明によれば、励磁コイルが被測定鋼管の長手方向に沿って2分割され、当該2分割された各分割コイルによってそれぞれ形成される当該各分割コイルを貫通する磁界の方向が同一となるように配設されると共に、前記2分割された各分割コイルの間に検出コイルが配設される。ここで、励磁コイル(非分割)と検出コイルとを一対として対向配置して測定する従来の浸炭深さ測定方法であれば、励磁コイルによって形成される磁界の方向が、励磁コイルの中心軸から外方に広がるようになるため、対向配置された検出コイルを貫通する磁界の強さが小さくなり(検出コイルに囲繞された被測定鋼管内面の浸炭部に相当する位置での磁界の強さが小さくなり)、当該検出コイルに誘起される誘起電圧、ひいては、その第3高調波の振幅が小さくなる結果、外乱ノイズ等の影響を受け易い。また、励磁コイルによって形成される磁界の方向が、励磁コイルからの距離に応じて変化することになるため、検出コイルの配設位置に応じて(検出コイルと励磁コイルとの距離に応じて)、検出コイルに誘起される誘起電圧、ひいては、その第3高調波も変動することになる。これに対し、請求項1に係る発明によれば、各分割コイル間に形成される磁界の方向が、各分割コイルの中心軸に沿って(被測定鋼管の長手方向に沿って)平行に均一化されるため、各分割コイルの間に配設された検出コイルを貫通する磁界の強さが大きくなる(検出コイルに囲繞された被測定鋼管内面の浸炭部に相当する位置での磁界の強さが大きくなる)と共に、検出コイルの配設位置に関わらず、比較的安定した誘起電圧、ひいては安定した第3高調波が得られることになる。また、平行に均一化された磁界中に被測定鋼管が位置することにより、被測定鋼管の内面に生じる浸炭層にまで磁束が到達し易くなるとも考えられる。その結果、外乱ノイズ等の影響を受け難く安定した浸炭深さ測定値を得ることが可能である。
【0012】
各分割コイルは、当該各分割コイルによってそれぞれ形成される当該各分割コイルを貫通する磁界の方向が同一となるように配設される限りにおいて、直列接続及び並列接続の何れの構成を採用することも可能である。また、各分割コイルを互いに結線することなく、独立別個に構成することも可能である。なお、第3高調波と浸炭深さとの相関関係は、予め浸炭深さの異なる複数の鋼管のそれぞれについて、誘起電圧波形から抽出した第3高調波の振幅等を検出し、各浸炭深さと、それに対応する第3高調波の振幅等との関係を曲線等を用いて近似することによって得ればよい。
【0015】
励磁コイルのアンペアターン(各分割コイルのアンペアターンを加算した値)を大きくすれば、励磁コイルによって形成される磁界の強さも大きくなり、これにより、検出コイルに誘起される誘起電圧波形、ひいては高調波の振幅が大きくなる。従って、安定した浸炭深さ測定値を得るという点では、励磁コイルのアンペアターンをできるだけ大きくすることが好ましい。一方、アンペアターンを大きくし過ぎると、励磁コイルや印加電圧を供給する発振器等の装置構成が大型化したり、励磁コイルの温度上昇により磁界の強さが変動するという問題が生じる。従って、励磁コイルのアンペアターンを決定するための適切な指針を得ることが望まれる。
【0016】
請求項1に係る発明によれば、まず、良否判定の臨界値となる浸炭深さを2mmに設定する。次に、第3高調波の振幅の誘起電圧波形の振幅に対する比が、浸炭深さ測定値の安定性に対する指標になり得るという、本発明の発明者らによる知見に基づき、前記比を変調率として定義すると共に、安定した浸炭深さ測定値を得るための前記変調率の臨界値を10%に設定する。そして、前記設定された浸炭深さを有する鋼管を被測定鋼管とした場合の変調率が、前記臨界値として設定された変調率以上となるように、前記励磁コイルのアンペアターンを決定する。このように、請求項1に係る発明によれば、むやみに励磁コイルのアンペアターンを大きくし過ぎることなく、適切なアンペアターンを決定することが可能である。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係る鋼管内面の浸炭深さ測定方法を実施するための装置構成例を概略的に示す図である。図1に示すように、浸炭深さ測定装置1は、被測定鋼管Pを囲繞するようにそれぞれ配設された励磁コイル11及び検出コイル12と、励磁コイル11に所定周波数の電圧を印加する発振器13と、励磁コイル11と検出コイル12との間に生じる電磁誘導によって、検出コイル12に誘起された誘起電圧波形から、前記所定周波数の高調波(第3高調波)を抽出するバンドパスフィルター14と、前記抽出された第3高調波の振幅値等を検出する波形解析を行うと共に、検出した第3高調波の振幅値等と浸炭深さとの相関関係に基づき、浸炭深さを演算する演算手段15とを備えている。また、浸炭深さ測定装置1は、検出コイル12の誘起電圧を増幅してバンドパスフィルター14に出力するための受信アンプ16を備えている。
【0021】
ここで、磁性体の磁気特性は、一般にB−H曲線として知られているように、非線形特性を示す。つまり、磁性体に付与される磁界強度が小さい場合には、磁性体に生じる磁束密度も小さい(透磁率が小さい)が、所定以上の磁界強度では、最大透磁率が得られ、さらに大きな磁界強度では、磁気飽和現象によって透磁率が小さくなるという特性を有する。従って、例えば、被測定鋼管Pが非磁性体のみからなる場合には、励磁コイル11に正弦波の電圧を印加することによって検出コイル12に誘起される電圧も正弦波となるが、被測定鋼管Pが磁性体である浸炭層を有する場合には、前記非線形特性に起因して歪を生じ、三角波に近い誘起電圧波形が得られることになる。バンドパスフィルター14で抽出される第3高調波は、前記歪成分に相当するため、当該第3高調波の振幅値等を検出することにより、被測定鋼管Pにおける磁性体の含有量、ひいては、浸炭深さを測定することが可能である。
【0022】
換言すれば、検出コイル12に誘起される誘起電圧波形の第3高調波は、被測定鋼管Pが非磁性材料から構成される場合に、その外径や断面積の変化、或いは外表面の表層部に生じる酸化スケール等による電気抵抗の変動の影響を受け難い一方、被測定鋼管Pを構成する磁性体の影響を受け易く、その透磁率の大きさや含有量に依存して、振幅値や位相値が変動する特性を有する。従って、磁性体である浸炭層の浸炭深さは、第3高調波と相関関係を有することになり、当該相関関係と、前記抽出した第3高調波とによって、浸炭深さを演算することができる。このように、浸炭深さ測定装置1によれば、鋼管外表面の表層部の影響を軽減し得ると共に、被測定鋼管Pの長手方向に沿って、励磁コイル11及び検出コイル12の配設位置を順次変更して測定することにより、鋼管Pの長手方向に沿った浸炭深さを迅速に測定することが可能である。
【0023】
励磁コイル11は、被測定鋼管Pの長手方向に沿って2分割されており、当該2分割された各分割コイル11a、11bによってそれぞれ形成される各分割コイル11a、11bを貫通する磁界の方向が同一となるように配設されている。また、検出コイル12は、前記2分割された各分割コイル11a、11bの間に配設されている。ここで、図2(b)に示すように、分割されていない励磁コイル11’と検出コイル12とを一対として対向配置して測定する従来の浸炭深さ測定装置であれば、励磁コイル11’によって形成される磁界Mの方向が、励磁コイル11’の中心軸から外方に広がるようになるため、対向配置された検出コイル12を貫通する磁界Mの強さが小さくなる。従って、検出コイル12に誘起される誘起電圧、ひいては、その高調波の振幅が小さくなる結果、外乱ノイズ等の影響を受け易くなる。また、励磁コイル11’によって形成される磁界Mの方向が、励磁コイル11’からの距離に応じて変化することになるため、検出コイル12の配設位置に応じて(検出コイル12と励磁コイル11’との距離に応じて)、誘起電圧、ひいては、その高調波も変動することになる。
【0024】
しかしながら、本実施形態に係る浸炭深さ測定装置1によれば、図2(a)に示すように、各分割コイル11a、11b間に形成される磁界Mの方向が、各分割コイル11a、11bの中心軸に沿って平行に均一化されるため、各分割コイル11a、11bの間に配設された検出コイル12を貫通する磁界Mの強さが大きくなると共に、検出コイル12の配設位置に関わらず、比較的安定した誘起電圧、ひいては高調波が得られる。また、平行に均一化された磁界M中に被測定鋼管が位置することにより、被測定鋼管の内面に生じる浸炭層にまで磁束が到達し易くなるとも考えられる。従って、外乱ノイズ等の影響を受け難く、安定した浸炭深さ測定値を得ることが可能である。
【0025】
なお、本実施形態に係る各分割コイル11a、11bは、当該各分割コイル11a、11bによってそれぞれ形成される当該各分割コイル11a、11bを貫通する磁界Mの方向が同一となるように配設される限りにおいて、直列接続及び並列接続の何れの構成を採用することも可能である。また、各分割コイル11a、11bを互いに結線することなく、独立別個に構成することも可能である。
【0026】
演算手段15は、前述したように、バンドパスフィルター14によって抽出された第3高調波と浸炭深さとの相関関係に基づき、浸炭深さを演算するように構成されている。ここで、第3高調波と浸炭深さとの相関関係は、予め浸炭深さの異なる複数の鋼管のそれぞれについて、誘起電圧波形から抽出した第3高調波の振幅値等を検出し、各浸炭深さと、それに対応する第3高調波の振幅値等との関係を曲線等を用いて近似することによって得られる。演算手段15には、このようにして得られた相関関係が予め記憶保存されており、被測定対象鋼管Pから抽出された第3高調波と、前記記憶保存された相関関係とに基づき、前記抽出された第3高調波に対応する浸炭深さを演算するように構成されている。
【0027】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を示すことにより、本発明の特徴をより一層明らかにする。
【0028】
<実施例>
図1に示す浸炭深さ測定装置1によって、本発明に係る浸炭深さ測定方法の効果確認試験を実施した。具体的には、被測定鋼管Pとして、外径56.6mm、肉厚6mm、ヒレ高さ6mmの25質量%Cr、38質量%Niを含有するオーステナイト系ステンレス管であって、炭素量の分布量が1%を越える浸炭深さがそれぞれ0mm、2.3mm、5.9mm及び6mmである4種の内面ヒレ付き管を用い、浸炭深さと第3高調波の振幅値との関係を調査した。なお、発振器13による励磁周波数は、浸透深さが被測定鋼管Pの厚み以上となるように250Hzとし、バンドパスフィルター14によって750Hzの第3高調波を抽出した。また、分割コイル11a、11bのアンペアターンをそれぞれ7.5(AT)とし(励磁コイル11全体としては15(AT))、検出コイル12のコイル巻き数は100ターンとした。
【0029】
<比較例>
分割されていない励磁コイルと検出コイルとを一対として対向配置(図2(b)参照)して測定した以外は、上記実施例と同様の条件で、浸炭深さと第3高調波の振幅値との関係を調査した。すなわち、上記実施例と同様に、発振器による励磁周波数は250Hzとし、バンドパスフィルターによって750Hzの第3高調波を抽出した。また、励磁コイル(非分割)のアンペアターンは15(AT)、検出コイルのコイル巻き数は100ターンとした。
【0030】
<評価>
図3に実施例及び比較例の評価結果を示す。ここで、図3の横軸には浸炭深さを、縦軸には第3高調波の振幅値(検出電圧)をプロットした。図3中の曲線Aは本実施例によって得られた浸炭深さと第3高調波の振幅値との相関関係を、曲線Bは比較例によって得られた相関関係をそれぞれ示す。曲線A、Bを比較すれば分かるように、本実施例によって得られた第3高調波の振幅は、互いに同一のアンペアターンを有する励磁コイルで励磁したにも関わらず、比較例によって得られた第3高調波の振幅よりも大きくなることが分かった。この結果は、本発明に係る浸炭深さ測定方法によれば、外乱ノイズ等の影響を受け難く、安定した浸炭深さ測定値を得ることができると共に、比較例に比べて励磁コイルのアンペアターンを大きくする必要がなく、ひいては装置構成を大型化する必要がないことを示唆するものである。
【0031】
図4は、上記実施例及び比較例について、浸炭深さ測定値の安定性を評価した結果を示す。ここで、図4の縦軸には、同一条件で測定を繰り返した場合における、第3高調波の振幅値の変動率をプロットした。図4に示すように、本実施例によれば、比較例に比べて大幅に変動率が低下しており、これにより安定した測定値を得られることが確認できた。
【0032】
図5は、図3に示す浸炭深さと第3高調波の振幅値との相関関係を、縦軸を変調率(第3高調波の振幅値/誘起電圧波形の振幅値で定義)にして整理し直した結果を示す。図5に示すように、本実施例によって得られた変調率は、比較例によって得られた変調率よりも大きくなることが分かった。これは、本実施例によって得られた第3高調波の振幅値が、単に誘起電圧波形の振幅値が比較例よりも大きくなることに伴って大きくなっただけではなく、被測定鋼管の内面に生じる浸炭層にまで磁束が効果的に到達していることを示唆するものである。
【0033】
また、図5に示す結果から、オーステナイト系ステンレス管を被測定鋼管とし、その良否判定の臨界値となる浸炭深さを2mmとした場合に、第3高調波の変調率が10%以上となるように励磁コイルのアンペアターンを決定すれば良く、これにより、むやみに励磁コイルのアンペアターンを大きくしなくても、図4に示したように安定した浸炭深さ測定値が得られることが分かった。換言すれば、上記定義による変調率が浸炭深さ測定値の安定性に対する指標となり、当該変調率を基準にして、必要な励磁コイルのアンペアターンを容易に決定できることが分かった。
【0034】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明に係る鋼管の浸炭深さ測定方法によれば、励磁コイルと検出コイルとの間に生じる電磁誘導によって誘起された検出コイルの誘起電圧波形から、励磁周波数の第3高調波を抽出し、当該第3高調波と浸炭深さとの相関関係に基づき、浸炭深さを演算するため、鋼管外表面の表層部の影響を軽減し得ると共に、被測定鋼管の長手方向に沿って、励磁コイル及び検出コイルの配設位置を順次変更して測定することにより、鋼管の長手方向に沿った浸炭深さを迅速に測定することが可能である。また、励磁コイルが被測定鋼管の長手方向に沿って2分割され、当該2分割された各分割コイルによってそれぞれ形成される当該各分割コイルを貫通する磁界の方向が同一となるように配設されると共に、前記2分割された各分割コイルの間に検出コイルが配設されるため、各分割コイル間に形成される磁界の方向が、各分割コイルの中心軸に沿って(被測定鋼管の長手方向に沿って)平行に均一化され、その結果、外乱ノイズ等の影響を受け難く安定した浸炭深さ測定値を得ることができるという優れた効果を奏するものである。さらに、本発明に係る鋼管の浸炭深さ測定方法によれば、むやみに励磁コイルのアンペアターンを大きくし過ぎることなく、適切なアンペアターンを決定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明の一実施形態に係る鋼管内面の浸炭深さ測定方法を実施するための装置構成例を概略的に示す図である。
【図2】 図2は、図1に示す励磁コイルと従来の励磁コイルとによってそれぞれ形成される磁界の差異を説明するための説明図である。
【図3】 図3は、本発明の実施例及び比較例について、浸炭深さと第3高調波との関係をプロットしたグラフである。
【図4】 図4は、本発明の実施例及び比較例について、浸炭深さ測定値の安定性を評価した結果を示すグラフである。
【図5】 図5は、本発明の実施例及び比較例について、浸炭深さと変調率との関係をプロットしたグラフである。
【符号の説明】
1…浸炭深さ測定装置 11…励磁コイル 11a,11b…分割コイル
12…検出コイル 13…発振器 14…バンドパスフィルター
15…演算手段 P…被測定鋼管
Claims (1)
- オーステナイト系ステンレス管を被測定鋼管とした鋼管内面に生じる浸炭の深さを、当該浸炭に伴う磁性変化を利用して測定する方法であって、
励磁コイル及び検出コイルを、それぞれ被測定鋼管を囲繞するように配設する第1ステップと、
前記励磁コイルに所定周波数の電圧を印加する第2ステップと、
前記励磁コイルと前記検出コイルとの間に生じる電磁誘導によって、前記検出コイルに誘起された誘起電圧波形から、前記所定周波数の第3高調波を抽出する第3ステップと、
前記抽出された第3高調波と浸炭深さとの相関関係に基づき、浸炭深さを演算する第4ステップとを含み、
前記第1ステップにおいて、前記励磁コイルを被測定鋼管の長手方向に沿って2分割し、当該2分割された各分割コイルによってそれぞれ形成される当該各分割コイルを貫通する磁界の方向が同一となるように配設し、前記各分割コイルの間に前記検出コイルを配設すると共に、
良否判定の臨界値となる浸炭深さを2mmに設定し、
前記第3高調波の振幅の前記誘起電圧波形の振幅に対する比で変調率を定義すると共に、安定した浸炭深さ測定値を得るための前記変調率の臨界値を10%に設定し、
前記設定された浸炭深さを有する鋼管を被測定鋼管とした場合の変調率が、前記臨界値として設定された変調率以上となるように、前記励磁コイルのアンペアターンを決定することを特徴とする鋼管内面の浸炭深さ測定方法。
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