以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。図1から図4は、発明を実施する形態の一例であって、図中、同一または類似の符号を付した部分は同一物または相当物を表わし、重複した説明は省略する。
図1は、本発明の実施の形態に係る電離性放射線照射装置としての電子線照射装置1の構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は(a)に示すd−d部分断面図である。
ここで、電離性放射線とは、波長が短く、強いエネルギーを持ち、原子に付属している電子を引き離す能力、いわゆる電離作用を有する放射線のことをいい、典型的には、α線、β線、γ線、X線、紫外線、電子線である。電離性放射線は、さらに具体的に、典型的には、荷電をもつ粒子線であって、それ自体が直接、原子の軌道電子あるいは分子に束縛された電子に電気的な力を及ぼして電離を起こさせる直接電離性放射線(荷電粒子放射線)と、X線、ガンマ線などの電磁波あるいは電荷を持たない中性子線により、原子あるいは原子核との相互作用を介して荷電粒子線を発生させ、二次的に発生した荷電粒子線によって電離を起こさせる間接電離性放射線とがある。電離性放射線は、本実施の形態では電子線の場合で説明する。
電子線照射装置1は、図1(a)乃至(c)に示すように、電離性放射線としての電子線を照射する照射部としての電子線照射器2と、薄膜材料10を所定雰囲気中に保持する処理部としての薄膜材料搬送路3と、薄膜材料搬送路3に形成され、薄膜材料10を連続的に薄膜材料搬送路3に送り込む導入部としての薄膜材料導入口4と、薄膜材料搬送路3に形成され、薄膜材料10を連続的に薄膜材料搬送路3から導出する導出部としての薄膜材料導出口5と、本実施の形態では薄膜材料導入口4及び薄膜材料導出口5にそれぞれ配設され、薄膜材料10の両面に接し当該所定雰囲気を保持する気密機構としての導入側気密機構6、導出側気密機構7とを備える。さらに、電子線照射器2には、電子線を薄膜材料搬送路3に取り出して、薄膜材料搬送路3内部で薄膜材料10に電子線を照射する照射窓21が形成されている。
ここで、薄膜材料としては、例えば、紙類、織布、不織布、シート状ゴム、フィルムあるいは金属箔などがあるが、ここでいう薄膜材料はこれに限らず、厚さ0.001mm(1μm)から10mm程度、好ましくは0.01mmから5.00mm程度の材料を広く含むものである。
電子線照射器2は、本実施の形態では、単段式電子加速(非走査式)の照射器である。電子線照射器2は、図1(d)に示すように、電流が流れることで熱電子を発生する電子源である棒状フィラメント22と、棒状フィラメント22と略同電位であるウェネルト電極と呼ばれ、棒状フィラメント22を略取り囲む形状であり電子を放出する経路を有するシールド電極23と、棒状フィラメント22から放出された電子進行方向側に配置された引き出し電極と呼ばれるグリッド電極24と、棒状フィラメント22、シールド電極23、グリッド電極24を内部に収容する真空容器25とを含んで構成されている。
電流が流れる棒状フィラメント22は、約2000〜3000℃の高温となり、材質によりリチャードソン・ダッシュマンの式として知られる熱電子放出係数に従い熱電子を放出する。棒状フィラメント22の材質には、典型的には、熱電子を放出しやすい、つまり仕事関数の低い材料が用いられ、例えば、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ランタン(La)等が用いられる。
シールド電極23、真空容器25は共に、略円筒形に形成され、円筒軸が略同軸かつ略水平となるように配設されている。さらに、シールド電極23、真空容器25は共に、曲面状側面の鉛直方向下側に開口が形成されており、シールド電極23の開口にグリッド電極24が、真空容器25の開口に照射窓21がそれぞれ形成されている。すなわち、照射窓21とグリッド電極24とは対向するように形成されている。また、棒状フィラメント22も、シールド電極23の円筒軸と略同軸に略水平となるように配設されている。なお、棒状フィラメント22、シールド電極23等は、不図示の支持機構によって真空容器25内に保持されている。
真空容器25の内部は、電子が気体分子と衝突してエネルギーを失うことを防ぐために、また、棒状フィラメント22の酸化を防ぐために不図示の真空ポンプ等により高真空に保持することができるように構成されている。なお、真空容器25の外周には不図示の鉛遮蔽が施されている。
照射窓21は、金属箔21aを含んで構成される。金属箔21aは、真空容器25の内部と外部とを仕切るように、照射窓21を形成する開口の全面を覆うように、不図示の挟持機構によって取り付けられている。金属箔21aには、典型的には、チタンやアルミニウム合金等の極めて薄い金属箔が用いられる。金属箔21aの厚さは、真空容器25の内部と外部との圧力差に耐える厚さが必要であるが、電子線が照射窓21を通過する際の損失を大きくしないために厚くしすぎることもできない。したがって、金属箔21aの厚さは、この上記2つの条件を勘案して設定するとよく、例えば、チタンを用いる場合には、例えば、0.001mm(1μm)から0.1mm程度である。本実施の形態の非走査式単段加速電子照射器の電子加速エネルギーは、例えば150kVから300kVであり、いわゆる、低エネルギー領域の電子線照射器である。低エネルギー領域の電子線照射器を高分子薄膜材料の加工に利用する場合には、当該材料の厚みによって異なるが、通常200kVから300kVの範囲で、適切なる加速電圧を選定できるようになっている。このエネルギー範囲での照射窓21を通過する際の損失を最小にすることが重要であり、好ましくは0.01mmから0.05mm程度の純チタン箔を用いるとよい。
棒状フィラメント22及びシールド電極23は高電圧電源8に接続され、負の静電圧が印加される。棒状フィラメント22の電位は、典型的には、シールド電極23の電位に対して数Vから数10Vのバイアス電位を有している。さらに、真空容器25は接地電位とされ、グリッド電極24は、電位が棒状フィラメント22よりも接地電位に近く、その電位差は、例えば、10から30kVに設定されている。したがって、棒状フィラメント22が電流によって加熱され電子が放出されると、当該電子は、グリッド電極24の方向、すなわち、鉛直方向下向きに引き出され、該グリッド電極24を通過してから、グリッド電極24と真空容器25との間の電位傾度にしたがって真空空間で加速され、照射窓21を通って真空容器25外に取り出され、薄膜材料搬送路3内部を搬送される薄膜材料10に照射される。
すなわち、電子線照射器2から放出される電子線は、照射窓21を介して、該照射窓21の鉛直方向下方に配設される薄膜材料搬送路3に取り出され、当該薄膜材料搬送路3内部で薄膜材料10に照射される。
薄膜材料搬送路3は、ケーシング31を含んで構成されており、ケーシング31によって内部空間が画成されている。具体的には、照射窓21の鉛直方向下方に、薄膜材料搬送路3内部を搬送されている薄膜材料10に電子線が実際に照射される処理室32が形成されている。処理室32は、ケーシング31の下面が鉛直方向下側に突出することで形成される。また、処理室32の鉛直方向上側には、照射窓21と対向する開口が形成されており、照射窓21を通過した電子線は、当該開口を介して処理室32内に照射されるように構成されている。なお、ケーシング31の外周には図1には不図示の鉛遮蔽11(図2参照)が施されている。
薄膜材料搬送路3は、さらに、薄膜材料10を載置して搬送するための搬送手段である6つのローラ33a、33b、33c、33d、33e、33fを含んで構成されている。当該ローラ33a、33b、33c、33d、33e、33fは不図示の駆動手段によって回転駆動することによって、薄膜材料10を搬送するように構成されている。ローラ33a、33b、33c、33d、33e、33fは、照射窓21に対して水平方向に線対称となるように、凹部33a’、33b’、33c’、33d’、33e’、33f’に設置されている。すなわち、処理室32から順に、図中向かって左側に、ローラ33c、ローラ33b、ローラ33aが、向かって右側に、ローラ33d、ローラ33e、ローラ33fが設置されている。凹部33a’、33b’、33c’、33d’、33e’、33f’は、処理室32と同様に、ケーシング31の下面が鉛直方向下側に突出することで形成される。
また、薄膜材料搬送路3は、凹部33a’、33b’、33c’、33d’、33e’、33f’及び処理室32以外の部分、すなわち、凹部33a’と凹部33b’の間、凹部33b’と凹部33c’の間、凹部33c’と処理室32との間、処理室32と凹部33d’との間、凹部33d’と凹部33e’の間、凹部33e’と凹部33f’の間の空間および次に説明する薄膜材料導入口4と凹部33a’の間、凹部33f’と薄膜材料導出口5の間の空間が、鉛直方向に対して、薄膜材料10が通過するのに充分で、薄膜材料10が搬送されるに際し、暴れたりねじれたりしない程度の適当な間隔があけられている。
例えば、上述したように薄膜材料10の膜厚が0.001mm(1μm)から10mm程度、好ましくは0.01mmから5.00mm程度である場合、当該薄膜材料搬送路3内の鉛直方向に対する間隔は5mmから50mm程度とするとよい。なお、当該薄膜材料搬送路3内の鉛直方向に対する間隔は、原則的には当該薄膜材料10の厚みにより決定されるが、薄膜材料搬送路3の機械設計・製作精度とも関係する。本実施の形態では、当該薄膜材料搬送路3内の鉛直方向に対する間隔は、多種多様な薄膜材料の適用を想定して薄膜材料10の膜厚0.01mmから0.5mmに対して、好ましく搬送可能であり、かつ、機密性保持が容易となる機械設計・製作精度を考慮して10mmから20mm程度、典型的には、12mm程度としている。
ケーシング31の真空容器25の円筒軸に略直交する方向(以下特に断りのない限り単に「搬送方向」という。)の両端部(図1(a)参照)には、薄膜材料導入口4、薄膜材料導出口5が形成されている。具体的には、薄膜材料導入口4、薄膜材料導出口5は、共に略コの字型の断面形状で開口面が処理室32とは反対側(以下特に断りのない限り「外側」という。)を向いている。すなわち、薄膜材料導入口4、薄膜材料導出口5は、外側に向かって開口している。薄膜材料導入口4、薄膜材料導出口5には、それぞれローラ33a等とほぼ同様のローラ43、53が設置されている。さらに、薄膜材料導入口4、薄膜材料導出口5には、薄膜材料10の両面に接して、薄膜材料搬送路3内部を、後述するように所定雰囲気に保持する導入側気密機構6、導出側気密機構7が配設されている。
導入側気密機構6、導出側気密機構7についての詳細は図2で説明する。
なお、ローラ33a、33b、33c、33d、33e、33f、43、53は、処理室32を鉛直方向上側の頂点として雁行するように配設されており、全体として略円弧状に設置されている。したがって、薄膜材料10の軌道も略円弧状となる。このように構成することで、薄膜材料10に張力を与えて確実にローラ33a、33b、33c、33d、33e、33f、43、53に沿わせることができる。したがって、薄膜材料10を、暴れたりねじれたりすることなく、安定して同一軌道を搬送することができ、また、ローラの数を減らすこともできる。加えて、薄膜材料搬送路3内の空間も略円弧状に形成されることから、電子線照射の際に同時に発生するX線(光と同様、電磁波であるため直進性を有する)が、少なくとも薄膜材料搬送路3内の空間が略直線的である場合に比べて薄膜材料搬送路3の外部に漏れ出ることが少なく、X線に対する遮蔽効果も向上する。
ケーシング31の上面には、薄膜材料搬送路3に不活性気体、本実施の形態では高純度窒素ガスを供給する不活性気体供給部としての第1の窒素供給口91、92、95、96と、不活性気体供給部としての第2の窒素供給口93、94が配設されている。第1の窒素供給口91、92、95、96及び第2の窒素供給口93、94は、窒素ガスを供給する不図示の窒素ガス供給装置に接続されており、当該各窒素供給口91、92、93、94、95、96を介して、窒素ガス供給装置から薄膜材料搬送路3内部に窒素ガスを供給して薄膜材料搬送路3内の雰囲気を不活性雰囲気、本実施の形態では、窒素ガス雰囲気とするように構成されている。
具体的には、ケーシング31の上面に、第1の窒素供給口91、92、95、96を設置するための略長方形に開口した設置孔91’、92’、95’、96’が形成されている。設置孔91’、92’、95’、96’は、それぞれ、凹部33b’、33c’、33d’、33e’の鉛直方向上方に形成されており、当該設置孔91’、92’、95’、96’に略直方体状に形成された第1の窒素供給口91、92、95、96が取り付けられる。第1の窒素供給口91、92、95、96は、処理室32を基準に、薄膜材料導入口4側(以下特に断りのない限り単に「上流側」という。)に第1の窒素供給口91、92の2系統、薄膜材料導出口5側(以下特に断りのない限り単に「下流側」という。)に第1の窒素供給口95、96の2系統、合計4系統が取り付けられている。
第1の窒素供給口91、92、95、96についての詳細は図3で説明する。
第2の窒素供給口93、94は、照射窓21の上流側に第2の窒素供給口93の1系統、下流側に第2の窒素供給口94の1系統、合計2系統が取り付けられている。第2の窒素供給口93、94は、真空容器25とケーシング31が接している部分の近傍に取り付けられており、真空容器25の照射窓21の金属箔21aが取り付けられている部分の周縁に、窒素ガスを金属箔21aへ吹き付けるための送風スリットを有している。金属箔21aは、電子線が通過する際に電子線のエネルギーを吸収して加熱されるが、第2の窒素供給口93、94を介して供給される窒素ガスを吹き付けて冷却することで、その強度が劣化しない程度の温度に維持することができる。
図2は、本発明の実施の形態に係る電子線照射装置1の部分断面図であり、(a)は薄膜材料導入口4の部分断面図、(b)は薄膜材料導出口5の部分断面図である。薄膜材料導入口4、薄膜材料導出口5には、上述したように、それぞれ導入側気密機構6、導出側気密機構7が配設されている。以下では導入側気密機構6、導出側気密機構7について詳細に説明する。ただし、薄膜材料導入口4の構成と薄膜材料導出口5の構成とは、ほぼ同様(左右対称形)の構成であるので、薄膜材料導出口5の構成の説明はできるだけ省略して、主に異なる部分についての説明をする。
導入側気密機構6は、薄膜材料10の両面のそれぞれに接してシールするシール材としての上側シール61、下側シール62と、当該上側シール61、下側シール62をそれぞれ機械的に補強保持する補強材としての上側押え板63、下側押え板64とを含んで構成される。
上側シール61は略長方形板状に形成され、下側シール62は略長方形状板をくの字型に折り曲げて形成される。上側シール61は、上側シール61よりもやや小さく略長方形状に形成される上側押え板63とケーシング31の略コの字型断面の上面内壁との間に挟み込まれて、ケーシング31に固定ボルト65によって固定される。
下側シール62も、下側押え板64とケーシング31の略コの字型断面の垂直面内壁との間にスペーサ67を介して挟み込まれて、ケーシング31に固定ボルト66によって固定される。スペーサ67は、下側押え板64を固定するための治具として機能する。下側シール62は、くの字型に折り曲げられた一方の辺が薄膜材料導入口4と凹部33a’(図1参照)の間の空間に挿入されるように取り付けられる。上述の上側シール61は、内側の端部が、下側シール62のくの字型に折り曲げられた一方の面の一部に被さるように取り付けられる。
なお、上側シール61、下側シール62は上側押え板63、下側押え板64の外に、はみ出すように配置されて、上側シール61、下側シール62が薄膜材料10の両面に接するように構成する。また、上側シール61、下側シール62とは、合わせて略Yの字型の断面形状となる。上側シール61、下側シール62は、協動して一方向にだけ流体の流れを許し、反対方向には流れを阻止するいわゆる逆止弁としても機能する。ただし、後述するように逆方向へのわずかな漏れは許容している。上側シール61、下側シール62は、それぞれ十分なシール性能を発揮するように薄膜材料10の両面の各面に接し、薄膜材料10を上側シール61と下側シール62とが挟み込んだ状態で、薄膜材料搬送路3内部に送り込むように構成されている。
導出側気密機構7も、導入側気密機構6とほぼ同様に、上側シール71、下側シール72、上側押え板73、下側押え板74、固定ボルト75、76、スペーサ77とを含んで構成されている。
上側シール61、71、下側シール62、72は、典型的には、天然ゴム、合成ゴム、天然樹脂、合成樹脂、無機材料からなる群より選択された少なくとも一つの材料によって形成されている。
天然ゴムとは、育成している植物中で生成するゴムをいい、例えば、ヘベア・ブラジリエンシス樹から得られたものがある。天然樹脂は、アカマツやカラマツなどの樹木から分泌する粘度の高い液体、または、それが空気に触れ酸化して固まったもののことをいい、松脂(まつやに)や琥珀(こはく)などがある。無機材料は、例えば、珪素化合物材料である。
合成ゴムは、例えば、ブタジエン系ゴム、スチレン系ゴム、ブチル系ゴム、エチレン・プロピレン系ゴム、ニトリル系ゴム、アクリル系ゴム、ウレタン系ゴム、シリコーン系ゴム、フッ素系ゴムからなる群から選択された少なくとも一つの合成ゴムである。これらの合成ゴムは、安価であり、かつ、加工性に優れているため、導入側気密機構6、導出側気密機構7の制作を容易にすることができる。
合成樹脂は、例えば、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、ブチル樹脂、エチレン・プロピレン樹脂、ニトリル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂からなる群から選択された少なくとも一つの合成樹脂である。
上側シール61、71、下側シール62、72は、好ましくは、フッ素系樹脂、エチレン・プロピレン系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂の薄板であり、最も好ましくは、フッ素系樹脂の薄板である。本実施の形態では、例えば、厚さ0.1mmから5mm程度、好ましくは0.5mmから1mm程度、典型的には、厚さ0.5mm程度のフッ素系樹脂の薄板であるものとして説明する。上側シール61、71、下側シール62、72にフッ素系樹脂の薄板を用いると、表面を十分に滑らかに仕上げ加工することができ、薄膜材料10表面との間に発生する摩擦抵抗を小さく押えることができるので、薄膜材料10表面に傷を付けるおそれがない。また、耐摩耗性にも優れているので維持、メンテナンスも容易である。なお、上側シール61、71、下側シール62、72にエチレン・プロピレン系ゴムまたはエチレン・プロピレン系樹脂の薄板を用いると、フッ素系樹脂を用いた場合と比較して耐久性が若干劣るものの、安価で加工性に優れ汎用性の高い導入側気密機構6、導出側気密機構7とすることができる。また、ここで説明した合成樹脂は、フッ素系樹脂、エチレン・プロピレン系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂の順に優れた耐放射性、耐酸化性を有する。
上側押え板63、73、下側押え板64、74は、典型的には、金属板である。金属板は、例えば、アルミニウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ステンレス鋼からなる群から選択された少なくとも一つの金属又はその合金製である。上側押え板63、73、下側押え板64、74に金属製薄板を用いると、加工が容易であるため装着に適した形状に容易に成形することができ、また、上側シール61、71、下側シール62、72に充分な機械強度を容易に持たせることができる。本実施の形態では、例えば、厚さ0.1mmから5mm程度、好ましくは0.5mmから2mm程度、典型的には、厚さ1mm程度のステンレス鋼の薄板を用いるものとして説明する。なお、上側押え板63、73、下側押え板64、74に、ステンレス鋼を用いると、耐食性、加工性に優れ、チタンを用いると特に耐食性に優れるという有利な効果を得ることができる。また、上側シール61、71、下側シール62、72、上側押え板63、73、下側押え板64、74ともに各種材料を2種類以上組合せた複合材料とすることもできる。
なお、上側シール61、71、上側押え板63、73、下側シール62、72、下側押え板64、74等の固定方法は、例えば、リベット、ビス等を用いてもよいし、接着剤により固定してもよく、このため特別の配慮を要しないから極めて容易に固定することができる。
ここで、薄膜材料10は、典型的には、ロール状の巻物として電子線照射装置1に供される。すなわち、ロール状に巻かれた薄膜材料10の一端が引き出されて、薄膜材料導入口4を介して薄膜材料搬送路3内部に送り込まれ、ローラ33a、33b、33c(図1参照)の上部を順に通過していき、処理室32(図1参照)内で照射窓21(図1参照)から電子線が照射される。そして、ローラ33d、33e、33f(図1参照)の上部を順に通過していき、薄膜材料導出口5を介して薄膜材料搬送路3外に導出され、再びロール状に巻き取られる、もしくは、次の必要な工程へと連続的に切れ目なく送り出される。
また、薄膜材料10は、連続的に、典型的には薄膜材料導入口4を介して切れ目なく薄膜材料搬送路3内部に送り込まれ、処理室32(図1参照)内で連続して電子線を照射され、薄膜材料導出口5を介して切れ目なく薄膜材料搬送路3から外部に導出される。
ここで、薄膜材料搬送路3の内部とは、上述したように、ケーシング31によって画成される空間のことをいい、例えば、大気とは異なる所定雰囲気に保持される空間のことである。本実施の形態では、薄膜材料搬送路3の内部は、薄膜材料10が通過する導入側気密機構6から導出側気密機構7までの空間のことである。所定雰囲気とは、典型的には、酸素が全く存在しない雰囲気、あるいは酸素が充分に削減された雰囲気であり、本実施の形態では、不活性雰囲気としての窒素ガス雰囲気である。薄膜材料搬送路3内部を窒素ガス雰囲気にするために供される窒素ガスは、上述したように、不図示の窒素ガス供給装置の第1の窒素供給口91、92、95、96と、第2の窒素供給口93、94を介して供給され、導入側気密機構6、導出側気密機構7によって当該窒素ガスの外部への流出、あるいは大気の流入を防止することができ、薄膜材料搬送路3内部は、窒素ガス雰囲気に保持される。なお、ここでは原理的な事情を説明したのであり、実際には窒素ガスの外部への流出は漏れとしてごく少量存在する。薄膜材料搬送路3内部を窒素ガス雰囲気に置換する際には、薄膜材料搬送路3の内部に当初から存在している空気等は導入側気密機構6、導出側気密機構7を介して外部に押し出される。薄膜材料搬送路3の内部は、典型的には、大気圧よりも高い圧力に保たれることも大気の流入を防止できる理由である。
図3は、本発明の実施の形態に係る電子線照射装置1の第1の窒素供給口91、92、95、96を示す図であり、(a)はケーシング31(図1参照)に取り付けられる側から視た平面図、(b)は外観を示す斜視図である。なお、第1の窒素供給口91、92、95、96の各構成はほぼ同様の構成であるので、第1の窒素供給口91の説明をもって第1の窒素供給口92、95、96の説明とする。
第1の窒素供給口91は、略直方体状に形成され1つの面が開口した窒素供給口本体191と、窒素供給口本体191の開口面に取り付けられるステンレス製多孔板192と、ステンレス製多孔板192を窒素供給口本体191に押えるフランジ193と、第1の窒素供給口91をケーシング31(図1参照)に取り付ける供給口組付け用ボルト194と、窒素供給口本体191の開口面と対向する面に形成される供給ノズル195を備えている。
窒素供給口本体191は、当該窒素供給口本体191とステンレス製多孔板192とによって画成される空間(以下特に断りのない限り画成される空間を「本体内側」といい、これに対し画成される空間の反対側を「本体外側」という。)に、一時的に窒素ガスを貯留する。
供給ノズル195は、窒素供給口本体191の開口面と対向する面の本体外側に略円筒状に形成されている。供給ノズル195は、当該対向する面の本体外側に合計3つ形成されており、各供給ノズル195は配管(不図示)を介して窒素ガス供給装置(不図示)に接続されている。
ステンレス製多孔板192には、マトリックス状に多数の孔192aが形成されている。ステンレス製多孔板192は、窒素供給口本体191の開口面の縁周部に略ロの字型に形成されるフランジ193によって窒素供給口本体191に押さえられる。略ロの字型に形成されるフランジ193には12個の孔(不図示)が形成されている。第1の窒素供給口91は、当該孔に各供給口組付け用ボルト194が挿入され、ケーシング31(図1参照)に螺合することによって、ステンレス製多孔板192と第1の窒素供給口91を設置するための設置孔91’(図1参照)とが対向するようにケーシング31に据え付けられる。
窒素ガス供給装置(不図示)から供給される窒素ガスは、配管(不図示)、各供給ノズル195を介して流入し、上述の通り、窒素供給口本体191の本体内側に一時的に貯留される。さらに、本体内側に一時的に貯留される窒素ガスは、ステンレス製多孔板192の多数の孔192aを通過して、薄膜材料搬送路3内部に均一に吹き出し、分散され、薄膜材料搬送路3内部を窒素ガス雰囲気とする。
なお、以上の説明では、所定雰囲気は窒素ガス雰囲気であり、薄膜材料搬送路3内部に窒素ガスを供給するものとして説明したが、これに限らず、酸素が全く存在しない雰囲気、あるいは酸素が充分に削減された雰囲気であればよい。好ましくは、所定雰囲気は、反応性の少ない不活性雰囲気であり、供給する不活性気体は、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガスからなる群から選択された少なくとも一つのガスあるいは窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガスのうちの2種以上を含む混合ガスである。本実施の形態で示したように、不活性気体として窒素ガスは、入手が容易で比較的安価であるため汎用性に富み、また、維持、メンテナンスが容易であるという有利な点がある。
次に、図4を参照して本発明の実施の形態に係る電離性放射線照射方法としての電子線照射方法について説明する。図4は、電子線照射方法を示す流れ図である。なお、以下の説明では、電子線照射装置1の構成要素の符号については適宜図1乃至図3を適宜参照する。
本発明の実施の形態に係る電子線照射方法は、薄膜材料10を連続的に所定雰囲気としての窒素ガス雰囲気中に送り込む導入工程(S102)と、薄膜材料10を窒素ガス雰囲気中に保持する保持工程(S106)と、電離性放射線としての電子線を窒素ガス雰囲気中に取り出して、窒素ガス雰囲気中で薄膜材料10に照射する照射工程(S108)と、薄膜材料10を連続的に窒素ガス雰囲気中から導出する導出工程(S112)と、本実施の形態では、導入工程(S102)及び導出工程(S112)の際に、薄膜材料10の両面のそれぞれに接してシールするシール材としての上側シール61、71、下側シール62、72と薄膜材料10とを接触させて、窒素ガス雰囲気を保持する第1の気密工程(S104)、第2の気密工程(S110)とを備える。
まず、導入工程(S102)に先だって窒素ガス供給工程として、不図示の窒素ガス供給装置から薄膜材料搬送路3内部へ窒素ガスの供給を開始する(S100)。窒素ガス供給装置から供給される窒素ガスは、配管(不図示)、各供給ノズル195、窒素供給口本体191の本体内側、ステンレス製多孔板192の多数の孔192aを通過して、薄膜材料搬送路3内部に均一に吹き出し、分散され、これにより、薄膜材料搬送路3内部が窒素ガス雰囲気となる。このとき、大気圧を超える圧力で窒素ガスを供給することにより、薄膜材料搬送路3内部に当初から存在した空気(大気)を排出し、窒素ガス雰囲気に置換することにより、電子線照射により有害なオゾンを発生させる酸素濃度が無害な濃度レベルまで迅速に低減される。
続いて、導入工程として、ロール状に巻かれた薄膜材料10の一端を引き出し、薄膜材料導入口4を介して連続的に切れ目なく、内部雰囲気が窒素ガス雰囲気に置換された薄膜材料搬送路3内部に送り込む(S102)。
さらに、第1の気密工程として、薄膜材料10を薄膜材料搬送路3内部に送り込む際に、導入側気密機構6の上側シール61を薄膜材料10の鉛直方向上面に、下側シール62を鉛直方向下面に接触させて送り込むことで、酸素あるいは大気が薄膜材料搬送路3内部に流入すること及び窒素ガスが流出することを防ぎ、薄膜材料搬送路3内部の窒素ガス雰囲気を保持する(S104)。
次に、保持工程として、酸素あるいは大気を取り除いた状態で薄膜材料搬送路3内部に送り込まれた薄膜材料10を窒素ガス雰囲気である薄膜材料搬送路3内部に保持しつつ、ローラ33a、33b、33cの上部を順に通過させ、処理室32まで搬送する(S106)。
ここで、照射工程として、真空空間で加速され、照射窓21を通って窒素ガス雰囲気である処理室32に取り出された電子線を、薄膜材料搬送路3内部を搬送される薄膜材料10に、処理室32内で連続して照射する(S108)。電子線を照射された薄膜材料10は、窒素ガス雰囲気である薄膜材料搬送路3内部に保持されつつ、ローラ33d、33e、33fの上部を順に通過していき、薄膜材料導出口5に至る。
そして、第2の気密工程として、電子線が照射された薄膜材料10を薄膜材料搬送路3外部に導出する際に、導出側気密機構7の上側シール71を薄膜材料10の鉛直方向上面に、下側シール72を鉛直方向下面に接触させ、酸素あるいは大気が薄膜材料搬送路3内部に流入すること及び窒素ガスが流出することを防ぎ、薄膜材料搬送路3内部の窒素ガス雰囲気を保持し(S110)、導出工程として、電子線が照射された薄膜材料10を薄膜材料導出口5を介して連続的に切れ目なく、薄膜材料搬送路3から外部に導出し(S112)、再びロール状に巻き取る、もしくは、次の必要な工程へと連続的に切れ目なく送り出す。
以上で説明した本発明の実施の形態に係る電子線照射装置1又は電子線照射方法によれば、薄膜材料10を連続的に送り込む薄膜材料導入口4と、連続的に導出する薄膜材料導出口5に、薄膜材料10の両面にそれぞれに接する上側シール61、71、下側シール62、72を含んで構成される導入側気密機構6、導出側気密機構7を備えることによって、薄膜材料搬送路3の内部と外部との間を遮断して、薄膜材料搬送路3内部の気密性を良好にすることができ、酸素や大気の流入あるいは窒素ガスの流出が防止され、確実に窒素ガス雰囲気を確保することができ、当該窒素ガス雰囲気で薄膜材料10に電子線を照射することができる。
すなわち、当初から薄膜材料搬送路3内部に存在した空気中の酸素は、運転に先立って予め薄膜材料搬送路3内部に大気圧を超える圧力で不活性気体を供給して、不活性気体に置換することにより事前除去が可能である。また、薄膜材料10を照射処理開始と同時に薄膜材料10と共に同伴し持ち込まれる酸素はほとんどない若しくは極微量であり、極微量の酸素は、照射する電子線による作用で瞬時に消費されるため実用上無害な酸素濃度レベルの雰囲気中で好適な処理の続行が可能である。
これにより、酸素に放射線が照射されることにより、酸化力の強い有害物質であるオゾンを発生させることを事実上防止し、薄膜材料10内の過酸化ラジカル生成を抑制し、目的とは異なる結合組成を持った生成物を生成してしまうことを防止、すなわち、目的に沿った加工を行いつつ、薄膜材料10を大量、かつ、連続的に電子線照射処理に供することができる。また、電子線照射処理後の薄膜材料10の変色や機械的強度低下のような品質低下が無く、反応効率や反応収率を向上することができる。さらに、電子線照射装置1を構成する部材、例えば、電子線を真空容器25から取り出す照射窓21を構成する金属箔21a、上側シール61、71、下側シール62、72等の汚染、腐食劣化を防止することができ、寿命が延びるという有利な効果も併せて得られる。
なお、薄膜材料10に電子線を照射する際の薄膜材料搬送路3内部の酸素濃度は、ゼロである必要はなく、電子線照射後の薄膜材料10の品質に事実上の影響を及ぼさずに済むそれぞれの薄膜材料に固有の閾値以下の酸素濃度であればよい。すなわち、薄膜材料搬送路3内部の雰囲気中の酸素濃度が、その閾値以下ならば電子線照射後の薄膜材料10は事実上の品質劣化等の不具合を生じない。したがって、薄膜材料搬送路3内部を外部(大気)に対して気密状態に保つことにより、当初から薄膜材料搬送路3内部に存在していた空気中の酸素が一定濃度以下まで不活性気体と置換された後は、薄膜材料搬送路3内部の雰囲気は事実上無害な組成となることになり、事実上有害な反応を起こすことはない。
以上で説明した本発明の実施の形態に係る電子線照射装置1又は電子線照射方法では、薄膜材料搬送路3内部を外気(大気)から好適に効果的にシールできるため、フッ素樹脂製薄板を上側シール61、71、下側シール62、72の材料として採用することにより、薄膜材料搬送路3内部の残留酸素濃度を、従来の電子線照射装置又は電子線照射方法では実現できなかった100ppm以下の値、典型的には10ppm以下の値まで減少させることができる。なお、薄膜材料搬送路3内部の雰囲気中の残留酸素濃度の値は、薄膜材料搬送路3部からサンプル気体を捕集し、それを乾式酸素濃度計により連続自動計測を行うことにより得たものである。
また、以上で説明した本発明の実施の形態に係る電子線照射装置1又は電子線照射方法によれば、薄膜材料搬送路3内部に大気圧を超える圧力で窒素ガスを供給することにより、薄膜材料搬送路3内部に当初から存在した空気(大気)を排出し、窒素ガス雰囲気で置換することにより、一層迅速に有害な酸素が無害な濃度レベルまで低減され、かつ、事実上無害な酸素濃度レベルを大幅に下回る酸素濃度レベルを実現でき、より好適な電子線照射処理が可能となる。また、照射窓21を構成する金属箔21a等の金属材料を腐食から一層効果的に守ることができる。さらに、導入側気密機構6、導出側気密機構7を備えているので、窒素ガス雰囲気に置換ために供給する窒素ガスの使用量を画期的に節約することができ、運転コストを低減することができる。また、有害オゾンの低減、流出防止により電子線照射装置1運用時の運転員に対する安全性も向上し、地球環境に配慮した電子線照射装置1又は電子線照射方法とすることができる。
以上で説明した本発明の実施の形態に係る電子線照射装置1によれば、導入側気密機構6、導出側気密機構7を、薄膜材料10の両面の各面それぞれに接してシールし薄膜材料搬送路3内部を気密に保持する上側シール61、71、下側シール62、72と、これを機械的に補強保持する上側押え板63、73、下側押え板64、74とを分けて備えるように構成したことにより、それぞれの機能に最も適した材料を選択することが出来るから、導入側気密機構6、導出側気密機構7として高度な性能を発揮することができる。
すなわち、上側シール61、71、下側シール62、72は、薄膜材料10の仕様や物性、摩擦抵抗等に対して最適な材料を選択し、大気中の酸素が薄膜材料搬送路3内部へ流入することによる不具合の発生を最小限に止める事ができ、さらに前記薄膜材料10に応じて両面のそれぞれの面と上側シール61、71、下側シール62、72との間の隙間より一層少なくすることができるから、気密性が向上し、電子線照射処理後の薄膜材料10の一層の品質向上や反応効率、反応収率の向上に貢献できる。さらに、上側押え板63、73、下側押え板64、74に、金属板を用いることにより、上側シール61、71、下側シール62、72によって耐蝕性、気密性を向上させた上で、導入側気密機構6、導出側気密機構7の機械的な強度を向上させることができ、耐蝕性や耐放射線性に優れた導入側気密機構6、導出側気密機構7とすることができる。また、導入側気密機構6、導出側気密機構7の制作も容易となる。なお、耐放射線性に優れたとは、例えば、放射線によるダメージが少なくて済む性能のことをいう。
以上で説明した本発明の実施の形態に係る電子線照射装置1によれば、電子線照射装置1の下流に化学反応処理装置を接続することで、窒素ガス雰囲気中で薄膜材料10に電子線を照射した後に、薄膜材料10を大気中に曝すことなく連続して別の化学反応処理を施すことができるので、薄膜材料10上のラジカルの質の変質を最小限に押さえ、より効率的な処理が可能となり、さらに、時間の短縮、大量生産にも資することができる。
以上で説明した本発明の実施の形態に係る電子線照射装置1によれば、上側シール61、71、下側シール62、72は、薄膜材料10に対して面的に接することとなるため、少なくとも線的に接するよりも確実に気密性を保持することができる。また、面的に接しているため、薄膜材料10の搬送速度を上げても、薄膜材料10が暴れたり、よれたりして、気密性が解除されてしまうことがない。
以上で説明した本発明の実施の形態に係る電子線照射装置1によれば、処理室32を含む薄膜材料搬送路3内部全体に均一に窒素ガスを充満させることができるので、薄膜材料10に部分的に窒素ガスを吹き付ける場合と比較して、電子線照射後の薄膜材料10の品質に偏りが生じることがなく、また、薄膜材料10が高速で移動することで気流発生しても、薄膜材料搬送路3内部の窒素ガス分布が偏ってしまうことがない。
なお、本発明の実施の形態である電子線照射装置1又は電子線照射方法は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。図5は、本発明の実施の形態に係る電子線照射装置1の変形例を説明するための部分断面図であり、(a)は薄膜材料導入口4Aの部分断面図、(b)は薄膜材料導出口5Aの部分断面図である。以下、図5を参照して本発明の実施の形態に係る電子線照射装置1の変形例について説明する。なお、本変形例に係る電子線照射装置1の説明では、以上で説明した実施の形態に係る電子線照射装置1と共通する構成については、重複した説明はできるだけ省略する。
本変形例に係る電子線照射装置1と、以上で説明した実施の形態に係る電子線照射装置1とは、薄膜材料導入口4A、薄膜材料導出口5Aの構成が異なる。さらに、具体的にいえば、本変形例に係る電子線照射装置1は、導入側気密機構6A、導出側気密機構7Aが図2で説明した上側押え板63、73、下側押え板64、74、スペーサ67、77を備えていない点で以上で説明した実施の形態に係る電子線照射装置1と異なる。すなわち、導入側気密機構6A、導出側気密機構7Aは、シール材としての上側シール61A、71A、下側シール62A、72Aを機械的に補強保持する補強材としての上側押え板63、73、下側押え板64、74(図2参照)を備えない構成とすることができる。
上側シール61A、71Aは略長方形板状に形成され、下側シール62A、72Aは略長方形状板をくの字型に折り曲げて形成される。上側シール61Aは固定ボルト65A、上側シール71Aは固定ボルト75A、下側シール62Aは固定ボルト66A、下側シール72Aは固定ボルト76Aによって、それぞれ上側押え板63、73、下側押え板64、74、スペーサ67、77(図2参照)等を介さずに直接ケーシング31に固定される。
図2で説明した実施の形態に係る電子線照射装置1の上側シール61、71、下側シール62、72(図2参照)は、例えば、厚さ0.1mmから5mm程度、好ましくは0.5mmから1mm程度、典型的には、厚さ0.5mm程度のフッ素系樹脂の薄板であるものとして説明した。これに対して、本図で説明した変形例に係る電子線照射装置1の上側シール61A、71A、下側シール62A、72Aは、上側シール61A、71A、下側シール62A、72Aを機械的に補強保持する補強材によって補強されていない分、上側シール61、71、下側シール62、72(図2参照)よりも厚く形成するとよい。上側シール61A、71A、下側シール62A、72Aは、単独で充分な機械強度を有するために、例えば、厚さ0.5mmから10mm程度、好ましくは1mmから5mm程度、典型的には、厚さ2mm程度のフッ素系樹脂の薄板とするとよい。
図5で説明した変形例に係る電子線照射装置1によれば、導入側気密機構6A、導出側気密機構7Aは、設計が容易で加工しやすく、また、組み立てやすい構成とすることができ、さらに、薄膜材料の仕様や物性、電離性放射線の照射条件などに応じて、必要に応じた適切な材料を選択し、気密機構として高度な性能を発揮することができる。また、組み立てやすい構成となっていることから、シール材の取り替えも容易となり、メンテナンスが容易で多種多様な薄膜材料の電子線照射処理に供する電子線照射装置とすることができる。
なお、以上の説明では、電離性放射線は、電子線の場合で説明したが、α線、β線、γ線、X線、紫外線でもよい。なお、以上で説明した電子線照射では、放射線の透過力は小さいが、線量率が大きいため、上述したように、薄膜材料をロールから高速で送り込んで照射を行い、再びロールに巻き取る方法を採用することができ、薄膜材料の全長など処理量が大きくなっても問題が生じないので大量生産に向いている。
以上の説明では、電子線照射器2は、単段式電子加速(非走査式)の照射器であるものとして説明したが、多段式電子加速(走査式)の照射器でもよいことはいうまでもないが、単段式電子加速(非走査式)の照射器であれば、放射線の遮蔽は自己遮蔽型(例えば、図2の鉛遮蔽11)でよく、コンクリート遮蔽施設等が不要なため、設置コストが低く、小型化することができる。
以上の説明では、電子線照射装置1は、気密機構は、薄膜材料導入口4、4A及び薄膜材料導出口5、5Aにそれぞれ配設されるものとして説明したが、少なくともどちらか一方に配設されていればよい。この場合、電子線照射装置1は、薄膜材料搬送路3内部の窒素ガスが一方向に流れるように、例えば、薄膜材料導入口4、4Aにのみ気密機構を配設した場合には、薄膜材料導出口5、5Aのみから流出するように構成すればよい。同様に、電子線照射方法は、導入工程(S102)又は導出工程(S112)の少なくともどちらか一方の工程の際に、気密工程を実行すればよい。
以上の説明では、電子線照射装置1は、窒素供給口として第1の窒素供給口91、92、95、96を4系統、第2の窒素供給口93、94を2系統備えるものとして説明したが、これに限らず、例えば、第1の窒素供給口のみで構成してもよいし、第2の窒素供給口のみで構成してもよい。なお、第2の窒素供給口は、上述したように、運転中に発熱する照射窓21を冷却するのが主な目的ではあるが、薄膜材料搬送路3内部を窒素ガス雰囲気に置換することに資することはいうまでもない。