JP4017544B2 - 精子増殖方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、GDNF(Glial cell line-Derived Nuerotriphic Factor:グリア細胞株由来神経栄養因子)の新規な機能を利用した精原細胞(未分化生殖幹細胞)のin vivoおよびin vitro増殖と、これらによって増殖した精原細胞を精子へと分化させる方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
体細胞生物の雄性配偶子である精子は、始原生殖細胞、精原細胞、精母細胞、精細胞を経て形成される。このような精子形成において、精原細胞から以降の過程は精巣(睾丸)の精細管内で行われることから、精原細胞が精子形成の開始段階の細胞(生殖幹細胞:germinal stem cell)と位置づけられている。
【0003】
幹細胞の自己再生(self-renewal)および分化の調節は、発生生物学および医学的応用研究の双方において活発に討議されている話題であり(例えば、非特許文献1-4)、特に哺乳類の生殖幹細胞(精原細胞)系は好適なモデルと考えられる(非特許文献3、5、6)。
【0004】
【非特許文献1】
Lovell-Badge, R. (2001) Nature, 414, 88-91.
【0005】
【非特許文献2】
Donovan, P. J. and Gearhart, J. (2001) Nature, 414, 91-97.
【0006】
【非特許文献3】
Spradling, A. et al. (2001) Nature, 414, 91-104.
【0007】
【非特許文献4】
Blau, H. M. et al. (2001) Cell, 105, 829-841.
【0008】
【非特許文献5】
Ohta, H. et al. (2000) Development 127, 2125-2131.
【0009】
【非特許文献6】
Tadokoro, Y. et al. (2002) Mech. Dev. 113, 29-39.
【0010】
【非特許文献7】
Brinster, R. L. and Avarbock, M. R. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 11303-11307)
【0011】
【非特許文献8】
Shinohara, T. et al. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 5504-5509.
【0012】
【非特許文献9】
Shinohara, T. et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97, 8346-8351.
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
前記のとおり、精原細胞は発生生物学等の基礎研究分野や医学応用研究分野等において有用な研究材料であるが、精細管内における精原細胞の数量が極めて少量であることが研究の妨げとなっている(非特許文献7-9)。
【0014】
この出願の発明は、従って、大量に増殖された精原細胞に関する利用発明を提供することを課題としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
この出願は、前記の課題を解決するものとして、GDNF をコードするポリヌクレオチドを非ヒト哺乳動物の精細管に導入して精原細胞を増殖させ、増殖させた精原細胞を別の非ヒト哺乳動物の精細管に移植することによって、精原細胞を精子へと分化させることを特徴とする精子増殖方法を提供する。
【0016】
すなわちこの出願の発明者らは、マウス精巣の精細管にポリヌクレオチド(遺伝子cDNA)を微量注入して電気穿孔法により当該cDNAをセルトリ細胞に取り込ませると、cDNAは1年余りの長期にわたって安定して細胞内に存在し、これがコードする遺伝子産物を発現し続けることを既に報告している(Yomogida, K. et al. (2002) Biol. Reprod., 67, 712-717)。発明者らはさらに、GDNFタンパク質(グリア細胞株由来神経栄養因子)それ自体を培養細胞に添加し、この培養細胞と精原細胞とを供培養すると、精原細胞の増殖が一過性に促進することを示唆する知見を得ている(Tadokoro, Y. et al. (2002) Mech. Dev. 113, 29-39)。
【0017】
そこでこの出願の発明者らは、前記と同様の方法によってGDNFcDNAを精細管に導入してセルトリ細胞に取り込ませた結果、以下の新規な知見を得た:
(a) GDNFタンパク質がセルトリ細胞で安定に発現し、その刺激によって、正常な動物の精原細胞に比較して、約1000倍にもなる膨大な未分化生殖幹細胞(精原細胞)が増殖すること;
(b) 増殖した精原細胞は、正常な精子形成に向かう細胞分化が障害を受けていること;および
(c) 増殖した精原細胞は、正常な環境下(正常な動物の精細管への移植)では精子形成能を回復し、正常な精子へと分化すること。
【0018】
前記発明は、以上のとおりの新規な知見に基づいて完成された。
【0019】
また、前記発明は以下の産業上の有用性を有している。
(i) 遺伝子改変動物の作出
外来遺伝子を体細胞ゲノムに安定導入した動物個体(トランスジェニック動物)や、体細胞ゲノムの特定遺伝子を機能欠損させた動物個体(ノックアウト動物)は、医学生物学研究における不可欠の実験系であるばかりか、有用家畜の作出や生物製剤の生産等においても極めて重要な手段となっている。しかしながら、従来のトランスジェニック動物やノックアウト動物の作出方法は、かなりの技術的熟練を要し、時間的にも経済的にも多くの制約を必要とした。特に遺伝子改変の対象材料となる受精卵やES細胞を多量に入手することは容易ではなかった。
【0020】
前記発明(6)〜(8)は、大量に増殖させた精原細胞を利用することによって、簡便かつ安価に作出することのできる遺伝子改変動物と、そのための材料を提供する。
(ii) 生殖障害因子の検定方法
日本をはじめとした欧米先進諸国では全夫婦の約10%が何らかの形態の不妊問題を経験していることが知られており、これらの約半数が男性側の因子に起因している可能性がある。男性不妊の原因の一部として示唆されているのは、内分泌障害、染色体異常を含む遺伝的因子、環境因子、停留精巣や精索静脈瘤を含む奇形などであるが(Rubio C, et al. Human Reprod 2001; 10: 2084-2092; Lee PA, et al. (2000) J Urol., 164(5), 1697-1701)、実際の原因の大半は不十分な精子形成や精子欠失である。そして、このような精子形成不全や精子欠失の原因の一つとして、環境内の内分泌攪乱物質(endocrione disruptors)の存在が指摘されている。しかしながら、そのような内分泌攪乱物質に対する高精度の検定は極めて困難であった。
【0021】
さらに、医薬品、化学薬品、化学品、化学物質等に関する従来の「生殖に及ぼす影響」の試験は、実験動物個体を用いた催奇性を指標とする試験にほとんどが依存している。しかしながら、このような動物実験による催奇性試験の場合には、多大な時間、手間、費用を要するといった問題を有している。また、催奇個体の発生原因として様々な要因の介在が想定されるため、精子形成の不全や精子欠失に対する被験物質の作用を特定することが困難であった。
【0022】
従って、内分泌攪乱物質や化学物質等の精子形成不全や精子欠失の原因となる因子(生殖障害因子)を簡便かつ高精度に特定するための新しい手段が待望されている。
【0023】
以下、この出願の実施形態を詳しく説明する。なお、この発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学および分子生物学的技術はSambrook and Maniatis, in Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989; Ausubel, F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y, 1995)等に記載されている。
【0024】
【発明の実施の形態】
この発明は、非ヒト哺乳動物の精細管に、GDNFをコードするポリヌクレオチドを導入することを特徴とする精原細胞のin vivo増殖方法を構成要件とする。
【0025】
「非ヒト哺乳動物」としては、マウス、ラット、ネコ、イヌ等の一般的な実験動物のほか、ブタ、ウシ、ウマ等の家畜動物等を対象とすることができるが、これらに限定されるものではなく、精原細胞の増殖が求められるあらゆる種類の哺乳動物を対象とすることができる。
【0026】
「GDNFをコードするポリヌクレオチド」は、全ての動物種に存在するGDNFタンパク質をコードする遺伝子DNA、RNA等を意味する。例えば、ヒトGDNF cDAN(Mizushima, S. and Nagata, S. (1990) Nucleic Acids Res. 18, 5233: Genbank Accession No. L19063)、マウスGDNF cDNA(GenBank Accession No. U66196)等が公知であり、これらの既知配列に基づいて作成したプローブDNAを用いて、ヒトおよびマウスcDNAライブラリーをスクリーニングすることによって、それぞれのGDNF cDNAを取得することができる。また、この既知配列に基づいて作成したプライマーセットを用い、哺乳動物細胞から単離したmRNAを鋳型とするRT-PCR法によっても目的とするcDNAを得ることができる。得られたcDNAは、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、NASBN(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription-mediated amplification)法およびSDA(Strand Displacement Amplification)法などの通常行われる遺伝子増幅法により増幅することができる。
【0027】
得られたcDNAは、適当な発現ベクターに組み替え、文献(Yomogida, K. et al. (2002) Biol. Reprod., 67, 712-717)の記載に従って動物の精巣の精細管に導入し、電気穿孔法によりセルトリ細胞細胞に導入することができる。
【0028】
セルトリ細胞に導入(トランスフェクション)されたGDNF cDNAは細胞内で長期にわたってGDNFタンパク質を安定に発現し、このタンパク質が精原細胞を刺激してその増殖を著しく増加させる。具体的には、GDNFタンパク質を過剰発現していない正常な動物に比較して、約500〜1,000倍の精原細胞を有する動物個体が得られる(発明(3))。またこのような動物の精原細胞は、精子への分化能を著しく低下させているため、長期間(約1年間)にわたって増殖した精原細胞を保有する。そして、このような動物からは、通常の方法によって、大量に増殖した精原細胞を単離することができる。
【0029】
この発明における精原細胞は、GDNFをコードするポリヌクレオチドを導入した細胞と精原細胞とを供培養することによって、in vitro方法で増殖させることもできる。細胞は、例えば精原細胞と同一動物種由来のセルトリ細胞やその他の体細胞、あるいはそれらの培養細胞株等を使用することができる。そして、例えばGDNF cDNAの発現ベクターを通常の方法(例えば、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法など)によって細胞に導入し、この遺伝子導入細胞と精原細胞とを供培養する。培養条件は、通常の動物細胞の培養と同一とすることができる。この方法によって、細胞から過剰発現するGDNFタンパク質が精原細胞を刺激し、精原細胞は培養条件化において通常の約500〜1,000倍に増殖する。
【0030】
以上のとおりに動物から単離された精原細胞と、in vitro増殖された精原細胞は、正常な精原細胞と同様に培養条件下で保存することができ、また培養条件下で各種の試験を行うことや、培養条件下でその遺伝子を改変するなどすることができる。そして、増殖した精原細胞は、正常な動物の精細管への移植することによって精子へと分化し、大量の精子が得られる。
【0031】
増殖させた精原細胞の遺伝子を人為的に改変させて遺伝子改変精原細胞とすることもできる。この場合の遺伝子改変は、具体的には、精原細胞のゲノムDNAに外来遺伝子を導入する改変(トランスジェニック)、および精原細胞のゲノムDNAの任意遺伝子を機能欠損する改変(遺伝子ノックアウト)である。
【0032】
このような遺伝子改変は、通常のトランスジェニック動物やノックアウト動物の作出技術(例えば、Proc. Natl. Acad. Scl. USA 77;7380-7384, 1980、Science 244:1288-1292, 1989等)におけるトランスジェニックベクターやターゲッティングベクターを精原細胞に導入することによって行うことができる。ベクターの導入は、例えば生体認識分子を提示した中空ナノ粒子、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等を用いて行うことができる(例えば、Nagano, M. et al. (2002) FEBS, 524, 111-115)。また、目的とする遺伝子改変を伴う精原細胞の選択は、例えばベクターに選択マーカー(例えば薬剤耐性遺伝子等)を付加する方法等により行うことができる。
【0033】
以上の方法によって遺伝子改変された精原細胞を、動物の精細管に通常の方法で移植することによって、非ヒト哺乳動物が得られる。なお、この発明の方法によって増殖された精原細胞の高増殖能と低分化能は可逆的であり、これを放射線照射や薬剤処理等により内在性の精細胞を除去した動物の精巣に移植すると、精原細胞の増殖は抑制され、精子へと分化し、動物は移植後約2ヶ月で生殖能力を獲得する。従って、遺伝子改変精原細胞を移植された動物個体は正常な生殖能を有しており、雌性動物と交配させることによって、改変遺伝子を2倍体染色体の一方に有する初代のヘテロ接合体動物が得られ、このヘテロ接合体同士を交配することによってホモ接合体動物が得られる。この発明の遺伝子改変動物には、初代ヘテロ接合体動物、ヘテロ接合体同士を交配して得られるホモ接合体動物、それらの子孫動物、またはそれらの胎児が含まれる。
【0034】
また、増殖させた精原細胞から精子への分化は、被験物質の雄性生殖能力に対する毒性または変異原性を試験する材料ともなる。例えば、精原細胞に被験物質を接触させ、当該細胞の変化を試験することを特徴とする方法である。
【0035】
この場合の「毒性または変異原性」とは、精子形成過程に障害を及ぼす作用、または形成された精子の機能(生殖機能)に対して障害を及ぼす作用等を言う。また、検査対象となる物質は、内分泌攪乱物質として候補に挙げられている公知の物質、開発途上の新薬や環境汚染の被疑化学品等である。さらに、「精原細胞の変化」とは、例えば、細胞の形態、細胞増殖の程度、代謝活性、遺伝子の発現、遺伝子の変異等である。この場合の遺伝子としては、精子形成に関わる遺伝子等を対象とすることができ、例えば、この出願の発明者らによって報告されている以下の文献(Int. J. Androl. 20: 361-366, 1997; Gene 204: 159-163, 1997; Genomics 46:138-142, 1997; Mammal. Genome 8: 873-874, 1997; Cytogenet. Cell Gent. 78: 103-104, 1997; Nature 387: 607-611, 1997; Dev. Biol. 197: 67-76, 1998; Biol. Reprod 58: 261-265, 1998; Gene 237: 193-199, 1999; J. Biol. Chem. 274: 17049-17057, 1999; FEBS Lett. 456: 315-321, 1999; Genomics 57: 94-101, 1999; Biol. Reprod. 62: 1694-1701, 2000; Biol. Reprod. 63: 993-999, 2000; Genes Cells 5:265-276, 2000; Biol. Reprod. 63: 1601-1609, 2000; Gene 267: 49-54, 2001; Mol. Human Reprod. 7: 211-218, 2001)等に記載された遺伝子を対象として検査をすることができる。
【0036】
具体的な手続きとしては、被験物質に接触させた精原細胞を非ヒト哺乳動物の精細管に移植し、動物個体内における精原細胞の変化を試験する。この場合、精原細胞それ自体の変化だけでなく、例えば精原細胞から分化した精子の変化、動物個体を雌性動物と交配させた場合の妊よう性、あるいはそれによって出生した子孫動物の変化等を検査対象とすることもできる。
【0037】
以下、実施例を示してこの出願の発明についてさらに詳細かつ具体的に説明するが、この出願の発明は以下の例に限定されるものではない。
【0038】
【実施例】
1.方法
1-1.in vivo電気穿孔
未分化の精原細胞に対する直接的なGDNFの影響を検討するため、EGFPリポーター遺伝子をもつヒトGDNFの発現ベクターを、in vivo電気穿孔法(Yomogida, K. et al. (2002) Biol. Reprod., 67, 712-717)を用いて12日齢のC57BL/6マウス精巣のセルトリ細胞内へトランスフェクトした。
【0039】
in vivo電気穿孔は、3種類の環状形発現ベクター:pCXN-EGFP(Okabe, M. et al. (1997) FEBS, 407, 313-319)、ヒトGDNF発現ベクター(Meng, A. et al. (2000) Science, 287, 1489-1493)、および対照としてインサートcDNAを含まないベクターを使用して行った。注入用のすべてのベクターDNAは、0.04%のトリパンブルーを含む1 mg/ml濃度のTE緩衝液中に溶解した。色素の色によって容易にチェック可能なDNA溶液を用いて精細管を80%以上満たし、文献(Yomogida, K. et al. (2002) Biol. Reprod., 67, 712-717)の記載に従って一対のピンセット型電極を用いた電気パルス発生器によりベクターDNAを導入した。
1-2.組織学的分析
EGFP標識された細胞を含む精巣を、蛍光立体顕微鏡を用いて、UVの励起光下で観察した。精巣は4%パラホルムアルデヒドで固定し、メタクリル酸グリコール中に包埋し、厚さ5μmの切片に切断し、蛍光顕微鏡下で観察した。GFP蛍光を撮影した後、同じ切片をヘマトキシリンで染色し、光学顕微鏡下で観察した。
【0040】
免疫組織化学用には、マウス精巣をブアン液または4%パラホルムアルデヒド中で固定し、パラフィンまたはメタクリル酸メチル(MMA)樹脂中に包埋した。切片(5μm)からパラフィンまたはMMA樹脂を除去した後、TRA98ラットモノクローナル抗体(Tanaka, H. et al. (1997) Int. J. Androl., 20, 361-366)(1:500)、抗c-kit抗体(Santa Cruz Biotechnolgy, Inc.)(1:100)、抗GFRα-1抗体(Santa Cruz Biotechnolgy, Inc.)(1:50)、および抗PCNA抗体(Santa Cruz Biotechnolgy, Inc.)(1:400)とともに、4℃において8または48時間インキュベートした。シグナルは、西洋ワサビ・ペルオキシダーゼ(HRP)結合抗ラットIgG、またはアビジン/ビオチン結合HRP複合体を、ジアミノベンジジンまたはストレプトアビジン、Alexa Fluor(R) 568結合体(Molecular Probes)とともに用いて検出した。
1-3.生殖細胞移植およびコロニー形成アッセイ
文献(Ohta, H. et al. (2000) Development 127, 2125-2131)の記載に従い、EGFPトランスジェニックマウスに実験的停留精巣症を生後2ヶ月の時点で行い、手術の2ヵ月後、これらのマウスの人工的に誘導された停留精巣症の精巣に、hGDNF cDNAを上述のように電気穿孔した。対照マウスは無処理とした。4週間後、マウスの精巣を分析した。さらに、精巣細胞(1x10)を、文献(Ohta, H. et al. (2000) Develop. Growth Differ., 42, 105-112)の記載に従い、ブスルファンにより内在性の生殖細胞が除去されたレシピエントマウス精巣の精細管内に移植した。グリーン蛍光コロニーを数えるため、移植された精巣を移植の8週間後に蛍光顕微鏡下で観察した。
2.結果
電気穿孔の4週間後、ノーザンブロット法(図1a)ならびにウェスタンブロット分析法(図1b)により、導入遺伝子の豊富な発現が検出された。精巣のセルトリ細胞内へのcDNAの効率的なトランスフェクションが、EGFP蛍光により励起光下で容易に検出された(図1c)。発現ベクターのコトランスフェクションもまた、EGFPの蛍光により検出され得ることが期待された。対照としてEGFPリポーター遺伝子のみを用いて電気穿孔した精巣の横断面では、正常な精子形成を伴う蛍光ポジティブなセルトリ細胞が観察された(図1d、左)。対照的に、GDNF cDNAをトランスフェクトした精巣において、蛍光のあるセルトリ細胞と会合した多数の未分化な精原細胞のクラスターを同定することができた。この細胞クラスターは精細管の内腔に向けて積み重なり、いくつかのA型精原細胞は、蛍光ポジティブなセルトリ細胞近くの細管の壁に沿って観察された(図1d、右)。精子形成は、精細管の様々な場所において妨げられた(図1d、2A)。蛍光セルトリ細胞をもたない少数の精細管が正常な精子形成を行なっていたことから(図1d右、星印)、セルトリ細胞内へ電気穿孔されたhGDNFは、生殖細胞分化の妨害を誘導するための原因因子であると想定される。
【0041】
hGDNFによって引き起こされる精細管内の未分化精原細胞の増加を確認するため、未分化精原細胞の細胞表面上のGDNF受容体、GFR-α1およびret(Tadokoro, Y. et al. (2002) Mech. Dev. 113, 29-39)の発現を調べた。クラスターを形成した全ての細胞と、精細管壁に沿った一列に続く精原細胞は、増殖細胞核抗原(PCNA)(図2h)とともに、双方の受容体を発現していた(図2f〜g)。これらの結果は、GDNF刺激によりそれらの細胞が活発に増殖したが、その分化は損なわれ、その結果トランスフェクトされた精巣のサイズがより小さくなったことを示している(図1c)。
【0042】
増殖中の細胞は、形態学的にはA型精原細胞として分類された(図2a)。実際に、クラスター内のすべての細胞は、生殖細胞特異モノクローナル抗体、TRA98(Tanaka, H. et al. (1997) Int. J. Androl., 20, 361-366)により確認され(図2a)、細胞クラスターの周辺を除き、ほとんどすべての細胞がc-kit受容体陰性の幹細胞表現型(Ohta, H. et al. (2000) Development 127, 2125-2131;Tadokoro, Y. et al. (2002) Mech. Dev. 113, 29-39)を示した(図2d)。クラスターを形成した未分化精原細胞の周辺に局在した細胞の一部は、c-kit陽性細胞に分化する傾向があった。睾丸の横断面の顕微鏡観察では、精上皮腫性の腫瘍細胞(Meng, X. et al. (2001) Cancer Res., 61, 3627-3271)を増殖するGDNFトランスジェニックマウス(Meng, A. et al. (2000) Science, 287, 1489-1493)のそれと類似してはいたが、クラスターを形成した細胞は全く異なっていた。それらは、hGDNFトランスジェニックマウスでは精子形成能をもたない移植可能な精巣腫瘍細胞であった(Meng, A. et al. (2000) Science, 287, 1489-1493; Meng, X. et al. (2001) Cancer Res., 61, 3627-3271; Creemers, L. B. et al. (2002) Biol. Reprod., 66, 1579-1584)が、それとは異なり、トランスフェクトされたhGDNFのセルトリ細胞からの分泌により増殖の刺激された正常な精原細胞であるはずである。この点を確認するため、生殖細胞の運命を蛍光により容易に追跡し、またそれらをブスルファン処理されたマウス精巣(Ohta, H. et al. (2000) Develop. Growth Differ., 42, 105-112)の精細管内に移植することを目的として、EGFP標識された精原細胞をEGFPトランスジェニックマウスの精巣から調製した。移植の10週間後、生殖幹細胞(精原細胞)の増殖は、ドナー精巣の精細管における生殖細胞のグリーン蛍光により検出可能であり(図3a)、完全な精子形成を行うグリーンの生殖細胞の観察が可能であった(図3b〜c)。生殖幹細胞の集団の増大を概算するため、hGDNFを用いて電気穿孔されたEGFPトランスジェニックマウスの停留精巣症の精巣に由来する増殖性精原細胞の半定量的コロニー形成検定を行なった。停留精巣症の精巣においては、熱ショックストレスのため未分化の精原細胞のみが生き残ることから(Tadokoro, Y. et al. (2002) Mech. Dev. 113, 29-39)、生殖幹細胞の含有量は正常な成体マウスの精巣におけるよりもずっと高いことが知られている。hGDNF発現ベクターの電気穿孔の4週間後、電気穿孔された停留精巣症の精巣の細管内に、多くのグリーンの細胞クラスターを観察した(図3d,e)。hGDNFを電気穿孔された停留精巣症マウスからの精巣細胞(主として精原細胞と、もしあったとしても少しの体細胞)の回収は、対照よりも約3倍多かった(表1)。コロニー形成および精子形成から判定された、精細管内へ移植された精巣細胞の幹細胞活性は、対照の停留精巣症マウスの精巣のそれよりも約6.6倍高かった。これらの結果は、停留精巣症の精巣内へのhGDNFのトランスフェクションにより、生殖幹細胞が約20倍増えたこと、すなわち、生殖幹細胞の含有量は正常な精巣よりも停留精巣症の精巣において25〜50倍高いことが知られていることから、生殖幹細胞の含有量は正常な精巣におけるよりも約500〜1000倍多いことを示している。
【0043】
【表1】
【0044】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、精子形成過程における未分化幹細胞である精原細胞を大幅に増殖させ、さらにこの増殖した精原細胞から大量の精子を得ることが可能となる。大量の精子は、発生生物学等の基礎研究分野や医学研究分野にとっての有用な研究材料としてのみならず、各種の遺伝子改変動物の作出や、生殖障害因子等の検定のための材料、新規の不妊治療薬や不妊薬を開発するための被験材料としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 導入遺伝子の発現とその効果を示す。導入遺伝子は、転写産物(a:ノーザン分析)およびタンパク質(b:ウェスタン分析)を精巣において安定に発現した。(c)は電気穿孔後4週間のトランスフェクトされた精巣の低倍率での蛍光立体顕微鏡像である。(d)は励起光下のトランスフェクトされた精巣の横断面(上)と、ヘマトキシリンによる対比染色(下)の像である。トランスフェクトされたセルトリ細胞は、蛍光ポジティブ細胞として検出された。hGDNF cDNAでトランスフェクトされた精巣では、クラスター(矢印)を形成し、一列に並んだ未分化の精原細胞(矢尻)と、正常な精子形成を支えている蛍光細胞のない数本の管(星印)が同定された。縮尺線は、1mm(c)、100μm(d)である。
【図2】 増殖した細胞の形態学的および免疫組織化学的分析の結果を示す。(a)は、ヘマトキシリンエオシン(HE)で染色された、hGDNF cDNAの電気穿孔4週間後の精巣(ヘマトキシリンエオシン染色)の横断面像である。(b)は、抗体TRA98による免疫染色、(c)は抗c-kit抗体による免疫染色の結果である。(b)はヘマトキシリン、(c)はメチルグリーンで対比染色されている。また(d)は(c)の拡大図である。矢印はライデッヒ細胞を示し、矢尻は少数のc-kitポジティブな生殖細胞を示した。さらに、(e)は(a)の拡大図であり、(f)は抗ret抗体、(g)は抗GFR-α1抗体での免疫染色(メチルグリーンで対比染色)の結果、(h)は抗PCNA抗体による免疫染色の結果である。縮尺線は100μmを示す。
【図3】 増殖した精原細胞の移植分析の結果を示す。(a)は、EGFP標識された精巣細胞の移植10週間後の精巣の低倍率での蛍光立体顕微鏡像である。(b)は励起光下、(c)はヘマトキシリンにより対比染色された精巣の横断面である。移植されたグリーンの生殖細胞は完全な精子形成を示した。(d)は、半定量的なコロニー形成検定のために調製した、hGDNFをトランスフェクトした停留精巣症の精巣であり、(e)は無処理の対照である。縮尺線は1mm(a)、100μm(b〜e)である。

Claims (1)

  1. GDNF をコードするポリヌクレオチドを非ヒト哺乳動物の精細管に導入して精原細胞を増殖させ、増殖させた精原細胞を別の非ヒト哺乳動物の精細管に移植することによって、精原細胞を精子へと分化させることを特徴とする精子増殖方法。
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