以下、図面を参照しながら本発明によるガス放電管用傍熱型電極、これを用いたガス放電管及びその点灯装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の概略正面図であり、図2は、同じく第1実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の概略側面図であり、図3(a)及び(b)は、同じく第1実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の概略上面図であり、図4は、同じく第1実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の概略断面図である。なお、図1、図2、図3(a)及び(b)は、電気絶縁層4及び金属酸化物10の図示を説明のため省略している。また、本実施形態においては、ガス放電管用傍熱型電極を陰極(ガス放電管用傍熱型陰極)に適用した例を示す。
ガス放電管用傍熱型陰極C1は、図1〜図4に示されるように、加熱用ヒータ1と、コイル部材としての二重コイル2と、電気導体としてのメッシュ状部材3と、易電子放射物質(陰極物質)としての金属酸化物10とを有している。加熱用ヒータ1は、直径0.03〜0.1mm、たとえば0.07mmのタングステン素線を二重に巻回したフィラメントコイルからなり、このタングステンフィラメントコイルの表面には、電着法等により電気絶縁材料(たとえば、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、シリカ等)が被覆されて電気絶縁層4が形成されている。なお、電気絶縁層4の代わりに電気絶縁材料(たとえば、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、シリカ等)の円筒パイプを用い、当該円筒パイプ内に加熱用ヒータ1を挿入して加熱用ヒータ1を絶縁する構成を採用してもよい。ここで、二重コイル2と易電子放射物質としての金属酸化物10とは、加熱用ヒータ1からの熱を受けて電子を放射する電子放射部を構成している。
二重コイル2は、コイル状に巻き回されたコイルより構成される多重コイルであって、直径0.091mmのタングステン素線を径0.25mm、ピッチ0.146mmの一次コイルに形成し、さらにその一次コイルで径1.7mm、ピッチ0.6mmの二重コイルに形成したものである。二重コイル2の内側には、加熱用ヒータ1が挿入されて配設されている。なお、保持手段(コイル部材)としては、二重コイル2を用いる代わりに、三重コイル、あるいは一重コイル等を用いるようにしもよい。また、コイル状の部材を用いる代わりに、メッシュ状の部材を用いるようにしてもよい。このように、コイルあるいはメッシュ状の部材を用いることにより、易電子放射物質としての金属酸化物10を保持する保持手段としての放熱面積を減らすことができる。
メッシュ状に形成されたメッシュ状部材3は、導電性を有する剛体(金属導体)で、周期律表のIIIa〜VIIa、VIII、Ib族に属し、具体的にはタングステン、タンタル、モリブデン、レニウム、ニオブ、オスミウム、イリジウム、鉄、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、マンガン、クロム、バナジウム、ロジウム、希土類金属等の高融点金属(融点1000℃以上)の単体金属もしくはこれらの合金からなる。本実施形態においては、直径0.03mmのタングステン素線をメッシュ状に編んだメッシュ状部材を用いている。メッシュ状部材3におけるメッシュの大きさは、80メッシュとされている。メッシュ状部材3は、所定長さを有しており、二重コイル2の外側に二重コイル2の長手方向にわたって、放電方向に略直交するように配設されている。このメッシュ状部材3は、二重コイル2と易電子放射物質としての金属酸化物10とを含む電子放射部の最表面側部分に設けられることになる。
二重コイル2及びメッシュ状部材3はリードロッド7を介して、加熱用ヒータ1の接地側の端子に接続されることにより、接地(GND)されている。これにより、易電子放射物質としての金属酸化物10は接地電位となる。
なお、メッシュ状部材3は、図3(a)においては、二重コイル2と間隔を有して設けられている。また、メッシュ状部材3は、図3(b)及び図4においては、二重コイル2の長手方向に沿って二重コイル2の複数のコイル部分に電気的に接触して設けられている。
次に、図5(a)〜図7(b)に基づいて、ガス放電管用傍熱型陰極C1を製造する(二重コイル2に対して加熱用ヒータ1及びメッシュ状部材3を配設する)工程の一例を説明する。
まず、図5(a)に示されるように、メッシュ状部材3の端部にニッケル製の板状部材5を溶接する。一方、図5(b)に示されるように、ニッケル製の線状部材6の端部を2段に曲げる。次に、図6(a)に示されるように、二重コイル2の内側に線状部材6を通す。そして、図6(b)に示されるように、線状部材6を通した二重コイル2の外側に板状部材5が溶接されたメッシュ状部材3を載置して、板状部材5と線状部材6とを溶接する。
次に、図7(a)に示されるように、線状部材6の2段に曲げられた端部を折り曲げて、メッシュ状部材3にかしめる。その後、二重コイル2の内側に加熱用ヒータ1を挿入し、図7(b)に示されるように、接地端子接続用のリードロッド7に板状部材5及び加熱用ヒータ1の端部を溶接する。以上の工程により、二重コイル2の内側に加熱用ヒータ1が配設され、二重コイル2の外側にメッシュ状部材3が配設されている構成を得ることができる。
また、ニッケル製の線状部材6を用いる代わりに、図8(a)及び(b)に示されるように、モリブデン製の板状部材8を用いるようにしてもよい。この場合には、図8(a)に示されるように、板状部材8を板状部材5に溶接することにより、メッシュ状部材3に対して板状部材8を接続する。そして、図8(b)に示されるように、二重コイル2の内側に板状部材8を通し、メッシュ状部材3と板状部材8とで二重コイル2を挟んだ状態で、ニッケル製の板状部材9をのり材としてメッシュ状部材3と板状部材8とを溶接する。その後は、図7(b)に示されたように、二重コイル2の内側に加熱用ヒータ1を挿入し、リードロッド7に板状部材5及び加熱用ヒータ1の端部を溶接する。
図4に戻ると、ガス放電管用傍熱型陰極C1は、易電子放射物質としての金属酸化物10を有している。金属酸化物10は、二重コイル2に保持され、メッシュ状部材3に接触して設けられている。金属酸化物10及びメッシュ状部材3は、金属酸化物10の表面及びメッシュ状部材3の表面が放電面となるように、ガス放電管用傍熱型陰極C1の外側に露出しており、金属酸化物10の表面部分にメッシュ状部材3が接触するようになっている。
金属酸化物10としては、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)の内のいずれか単体の酸化物、又はこれらの酸化物の混合物、あるいは、主構成要件がバリウム、ストロンチウム、カルシウムの内のいずれか単体の酸化物、又はこれらの酸化物の混合物であり副構成要件がランタン系を含む希土類金属(周期律表のIIIa)である酸化物が用いられる。バリウム、ストロンチウム、カルシウムは、仕事関数が小さく、熱電子を容易に放出することができ、熱電子供給量を増加させることができる。また、副構成要件として希土類金属(周期律表のIIIa)を添加した場合、熱電子供給量を更に増加させることができると共に、耐スパッタ性能を向上することもできる。
金属酸化物10は、陰極物質材として金属炭酸塩(たとえば、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム等)の形で塗布され、塗布された金属炭酸塩を真空加熱分解することにより得られる。尚、加熱用ヒータへの通電により真空加熱分解を行う場合、直流加熱分解に比べ交流加熱分解の方が好ましい。このようにして得られた金属酸化物10が最終的に易電子放射物質となる。陰極物質材としての金属炭酸塩は、図1〜図3(b)に示されたように、二重コイル2の内側に加熱用ヒータ1が配設され、二重コイル2の外側にメッシュ状部材3が配設されている状態において、メッシュ状部材3側から塗布される。なお、金属炭酸塩は、ガス放電管用傍熱型陰極C1(二重コイル2)の全周を覆うように塗布する必要はなく、メッシュ状部材3が設けられている部分のみに塗布するようにしてもよい。
また、二重コイル2の内側に加熱用ヒータ1が配設されていない状態で陰極物質材としての金属炭酸塩を二重コイル2(メッシュ状部材3)に塗布し、その後、二重コイル2の内側に加熱用ヒータ1を挿入してもよい。このように、金属炭酸塩の塗布後に加熱用ヒータ1を挿入して配設するのは、加熱用ヒータ1に形成された電気絶縁層4に小孔が有る場合、加熱用ヒータ1を配設した状態で金属炭酸塩を塗布すると、塗布した金属炭酸塩が小孔内に入り込み、金属炭酸塩から得られる金属酸化物10と加熱用ヒータ1とが短絡状態となるのを回避するためである。
加熱用ヒータ1は、図4に示されるように、電気絶縁層4を介して、金属酸化物10に接触している。このため、予熱時に加熱用ヒータ1の熱を確実且つ効率よく金属酸化物10に伝えることができる。また、特公昭62−56628号公報に開示されたガス放電管用傍熱型陰極のように熱良導性の円筒を有するものに比して、放熱面積が少なくなり、熱陰極動作に必要となる熱量の損失を抑制することができる。このため、外部からの電極への熱量供給、強制過熱を必要とせず、自己加熱による熱量のみで電極が動作するよう設計できる。ここで、自己加熱とは、ガス放電管において電極から電子が出る際、放電空間中のイオン化したガス分子が衝突して電気的に中和されるが、ガス分子が電極に衝突する衝撃により、熱が発生することをいう。
なお、上記した金属酸化物以外には、熱電子供給源としてほう化ランタン等の金属ほう化物、金属炭化物、金属窒化物等を用いることも考えられるが、これらの金属ほう化物、金属炭化物、金属窒化物等はガス放電管用の熱陰極としての熱電子供給源としての実績が乏しく、主副構成要件として加える意味はない。ただし、熱電子供給源以外の効果、たとえば放電部以外での熱放散量を抑制するための絶縁効果向上等のために陰極周辺部に使用することがある。
また、予め金属酸化物10を保持させた二重コイル2にメッシュ状部材3を接触させて配設することによりガス放電管用傍熱型陰極C1を構成することも可能であるが、メッシュ状部材3と金属酸化物10とを確実に接触させる状態とするためには、上述したように、二重コイル2の外側にメッシュ状部材3を配設した状態で陰極物質材としての金属炭酸塩を塗布し、その後金属炭酸塩を金属酸化物10に変えるほうが好ましい。
ここで、メッシュ状部材3の一方の方向の線(縦線)抵抗をR1hとし、他方の方向の線(横線)抵抗をR1sとすると、メッシュ状部材3の所定の3点(電子供給源としてのグランド(GND)に近いほうから1A点、1B点、1C点とする)におけるグランド(GND)からの抵抗値R1A、R1B、R1Cの関係は、
R1A=1/(R1h+2×(R1h+R1s)) ……… (9)
R1A<R1B<R1C ……… (10)
となるが、放電は、メッシュ状部材3上の金属酸化物10を含む近傍から連続的に生じる。放電電流量は、その部位の仕事関数によって異なるが、
I1A>I1B>I1C ……… (11)
と仮定する。この結果、1A点、1B点、1C点間の電位差は、メッシュ数に比例して小さなものとなり、近似的には、その電位差は殆ど無視できるほどに小さい。更に、放電電流の一部は、グランド(GND)から直接メッシュ状部材3に入らず、金属酸化物10を通して供給されることになり、この金属酸化物10を通して供給される分がベースとなり、その放電分布は、幅の広い緩やかな一山型の連続分布となる。この分布は、金属酸化物10の表面の温度分布にも近似している。
以上のことから、第1実施形態のガス放電管用傍熱型陰極C1においては、金属酸化物10に接触してメッシュ状部材3が設けられているので、メッシュ状部材3は、ガス放電管用傍熱型陰極C1の放電面(金属酸化物10の表面及びメッシュ状部材3の表面)において等電位面を実効的に形成することになる。すなわち、メッシュ状部材3は、複数の電気配線(導電路)で構成され、かつ単一の方向へ電流が流れるよう規制されることはない。したがって、メッシュ状部材3の表面の端々間の電気抵抗は著しく小さく、メッシュ状部材3の表面においてはほぼ等電位状態となっており、複数の放電点あるいは放電線からなる放電面の電位はほぼ等しくなる。言い換えると、メッシュ状部材3により、放電面内において放電面に平行な方向に放電電流が流れ得る複数の電気回路が形成、つまり、放電電子(エミッション)の通り路(等電位回路)が複数形成されることとなる。
これにより、ガス放電管用傍熱型陰極C1では、金属酸化物10に接触するメッシュ状部材3により等電位面が実効的に形成されるので、形成された等電位面の広い領域で熱電子放出が起きるために放電面積が増加し、単位面積当りの電子放出量(電子放出密度)が大きくなって、放電位置における負荷が軽減されることになり、劣化要因である金属酸化物10のスパッタ、還元金属との酸化による安定化(鉱物化)、つまり熱電子放出能の低下を抑制することができる。この結果、局所的な放電の発生を抑制でき、陰極の長寿命化を図ることができる。また、放電位置の移動も抑制されることになるため、長時間にわたって安定した放電を得ることができる。また、放電面積が増加することから、ガス放電管用傍熱型陰極C1の動作電圧及び発生熱量を低くすることもできる。
また、ガス放電管用傍熱型陰極C1にあっては、放電面積が増加したことに関連して、電流密度を若干上げて、負荷をやや増す、つまり、放電電流を増しても、従来のものに比べ損傷を小さくできる。これにより、従来のものとほぼ同一形状で、大放電電流のガス放電管用傍熱型陰極を提供でき、パルス動作、大電流動作の実現が可能となる。
また、電気導体としてメッシュ状部材3を用いているので、熱電子放出能の低下及び放電位置の移動を抑制し得る構成の電気導体を低コスト且つより一層簡易に実現することができる。また、メッシュ状部材3(電気導体)が剛体となるために、加工が容易であると共に、金属酸化物10に密接して設けることができる。更に、メッシュ状部材3と金属酸化物10とが接触する箇所を容易に多く設けることができる。
また、第1実施形態のガス放電管用傍熱型陰極C1においては、加熱用ヒータ1を核として、その外側に金属酸化物10を保持する二重コイル2を取り巻くように配置し、二重コイル2に保持された金属酸化物10の表面部分に接触するようにメッシュ状部材3を配設することにより、二重コイル2の振動抑制効果が働き、金属酸化物10の落下を防ぐことができる。また、二重コイル2のピッチ間に多量の金属酸化物10が保持されることになり、放電中の経時劣化に伴う消失金属酸化物分を補充する効果がある。
なお、メッシュ状部材3におけるメッシュの大きさは、小さいほど金属酸化物10の露出面積が減少するために、金属酸化物10の耐スパッタ性が向上することになる。ただし、二次電子放出を起こすために、理論的には、金属酸化物10に衝突してくる励起あるいは電離ガスが通過する程度の大きさは必要である。また、メッシュの大きさを小さくした場合には、等電位面の面積も増加するために、放電面積をより一層増加させることができる。
本発明のガス放電管用傍熱型電極において、電気導体により等電位面を形成することによって得られる長寿命効果を確認する試験を行った。結果を図9に示す。図9は、ボックス電位の経時変化を示している。試験では、ガス放電管用傍熱型陰極C1と、スリット(開口径3mm)と、陽極からなる簡易な重水素ガス放電管を製作し、ボックス電位の経時変化を測定した。なお、ガス放電管用傍熱型陰極C1の予熱時には、加熱用ヒータ1に6W(12V、0.5A)の電力を供給し、動作時は無印加電圧とした。また、放電電流は一般的な重水素ガス放電管の定格電流である300mA定電流とした。
図9から分かるように、ボックス電位が長時間安定して値を示しており、ガス放電管用傍熱型陰極C1におけるイオン電流の生成量が少なく、ガス放電管用傍熱型陰極C1が長寿命であることが分かる。
次に、図10に基づいて、第1実施形態の変形例について説明する。図10は、第1実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の変形例の概略断面図である。本変形例は、二重コイルがマンドレルを有している点で第1実施形態と相違する。
ガス放電管用傍熱型陰極C1は、図10に示されるように、加熱用ヒータ1と、コイル部材としての二重コイル41と、メッシュ状部材3と、易電子放射物質としての金属酸化物10とを有している。
二重コイル41は、第1実施形態における二重コイル2と同様に、コイル状に巻き回されたコイルより構成される多重コイルであって、マンドレル42を有している。加熱用ヒータ1は、二重コイル41の内側に設けられている。メッシュ状部材3は、加熱用ヒータ1と二重コイル41との間に二重コイル41(加熱用ヒータ1)の長手方向にわたって、放電方向に略直交するように設けられている。このメッシュ状部材3は、図10に示されるように、二重コイル2の長手方向に沿って二重コイル2の複数のコイル部分に電気的に接触して設けられている。ここで、マンドレルとは、フィラメントコイル作成時に巻径を決める型の役割を果たす芯線のことである。尚、マンドレルの材料として、たとえばモリブデンを用いる。
このように、本変形例においては、二重コイル41がマンドレル42を有しているので、加工時に二重コイル41が変形するのを抑制することができるという更なる効果を奏する。
(第2実施形態)
図11は、第2実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の概略断面図である。第2実施形態は、電気導体を線状部材とした点で第1実施形態と相違する。
ガス放電管用傍熱型陰極C2は、図11に示されるように、加熱用ヒータ1と、二重コイル2と、電気導体としての線状部材21と、金属酸化物10とを有している。
線状に形成された線状部材21は、メッシュ状部材3と同様に、導電性を有する剛体(金属導体)で、周期律表のIIIa〜VIIa、VIII、Ib族に属し、具体的にはタングステン、タンタル、モリブデン、レニウム、ニオブ、オスミウム、イリジウム、鉄、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、マンガン、クロム、バナジウム、ロジウム、希土類金属等の高融点金属(融点1000℃以上)の単体金属もしくはこれらの合金からなる。本実施形態においては、タングステン製の線状部材を用いている。線状部材21の直径は、0.1mm程度に設定されている。線状部材21は、所定長さを有しており、二重コイル2の外側に二重コイル2の長手方向にわたって、放電方向に略直交するように配設されている。この線状部材21は、図11に示されるように、二重コイル2の長手方向に沿って二重コイル2の複数のコイル部分に電気的に接触して設けられている。好ましくは、二重コイル2の長手方向での全長にわたって電気的に接触して設けることがよい。この線状部材21は、二重コイル2と易電子放射物質としての金属酸化物10とを含む電子放射部の最表面側部分に設けられることになる。
線状部材21は、加熱用ヒータ1の接地側の端子に接続されることにより、接地されている。線状部材21の本数は、1本に限られることなく、2本以上の複数本であってもよい。また、線状部材21と二重コイル2との各接触点を溶接してもよい。
線状部材21はリードロッド7を介して、加熱用ヒータ1の接地側の端子に接続されることにより、接地(GND)されている。これにより、二重コイル2は接地されるとともに、易電子放射物質としての金属酸化物10は接地電位となる。
次に、図12(a)〜(c)に基づいて、ガス放電管用傍熱型陰極C2を製造する(二重コイル2に対して加熱用ヒータ1及び線状部材21を配設する)工程の一例を説明する。
まず、図12(a)に示されるように、タングステン製のワイヤ22を複数本(3〜4本)切断して、ヘアピン状に折り曲げる。切断された各タングステン製のワイヤ22が線状部材21を構成することになる。次に、ヘアピン状に折り曲げられたタングステン製のワイヤ22の一方の部分を二重コイル2の内側に通し、タングステン製のワイヤ22の一方の部分とタングステン製のワイヤ22の他方の部分とで二重コイル2を挟んだ状態で、図12(b)に示されるように、タングステン製のワイヤ22の各端部を束ねる。
その後、二重コイル2の内側に加熱用ヒータ1を挿入し、図12(c)に示されるように、リードロッド7にタングステン製のワイヤ22の束部22a及び加熱用ヒータ1の端部を溶接する。以上の工程により、二重コイル2の内側に加熱用ヒータ1が配設され、二重コイル2の外側に線状部材21(タングステン製のワイヤ22)が配設されている構成を得ることができる。
また、図13(a)〜(c)に基づいて、ガス放電管用傍熱型陰極C2を製造する(二重コイル2に対して加熱用ヒータ1及び線状部材21を配設する)工程の一例を説明する。
まず、タングステン製のワイヤ22を1本(複数本でもよい)切断して、ヘアピン状に折り曲げ、図13(a)に示されるように、ヘアピン状に折り曲げられたタングステン製のワイヤ22の折り曲げ部22bをリードロッド7に溶接する。次に、図13(b)に示されるように、タングステン製のワイヤ22の各端部を折り曲げる。
次に、折り曲げられたタングステン製のワイヤ22に二重コイル2を通し、タングステン製のワイヤ22の端部をリードロッド7に溶接する。その後、二重コイル2の内側に加熱用ヒータ1を挿入し、図13(c)に示されるように、リードロッド7に加熱用ヒータ1の端部を溶接する。
更に、図14(a)〜(c)に基づいて、ガス放電管用傍熱型陰極C2を製造する(二重コイル2に対して加熱用ヒータ1及び線状部材21を配設する)工程の一例を説明する。
まず、タングステン製のワイヤ22を1本(複数本でもよい)切断して、ヘアピン状に折り曲げ、図14(a)に示されるように、ヘアピン状に折り曲げられたタングステン製のワイヤ22の各端部をリードロッド7に溶接する。次に、図14(b)に示されるように、タングステン製のワイヤ22の折り曲げ部22b側を折り曲げる。
次に、折り曲げられたタングステン製のワイヤ22に二重コイル2を通し、タングステン製のワイヤ22の折り曲げ部22bをリードロッド7に溶接する。その後、二重コイル2の内側に加熱用ヒータ1を挿入し、図14(c)に示されるように、リードロッド7に加熱用ヒータ1の端部を溶接する。
図11に戻ると、ガス放電管用傍熱型陰極C2は、易電子放射物質としての金属酸化物10を有している。金属酸化物10は、二重コイル2に保持され、線状部材21に接触して設けられている。金属酸化物10及び線状部材21は、金属酸化物10の表面及び線状部材21の表面が放電面となるように、ガス放電管用傍熱型陰極C2の外側に露出しており、金属酸化物10の表面部分に線状部材21が接触するようになっている。金属酸化物10は、第1実施形態と同様にして、設けられる。
更に、ガス放電管用傍熱型陰極C2を製造する工程の一例としては、第1実施形態において図8(a)及び(b)を用いて説明した工程を用いて、メッシュ状部材3を一本あるいは複数本の線状部材21に置き換えたものがある。
以上のことから、第2実施形態のガス放電管用傍熱型陰極C2においては、金属酸化物10に接触して線状部材21が設けられ、線状部材21が複数箇所において二重コイル2と電気的に接触することで、線状部材21により等電位面が実効的に形成されるので、形成された等電位面の広い領域で熱電子放出が起きるために放電面積が増加し、単位面積当りの電子放出量(電子放出密度)が大きくなり、放電位置における負荷が軽減されることになり、劣化要因である金属酸化物10のスパッタ、還元金属との酸化による安定化(鉱物化)、つまり熱電子放出能の低下を抑制することができる。この結果、局所的な放電の発生を抑制でき、陰極の長寿命化を図ることができる。また、放電位置の移動も抑制されることになるため、長時間にわたって安定した放電を得ることができる。
また、ガス放電管用傍熱型陰極C2にあっては、放電面積が増加したことに関連して、電流密度を若干上げて、負荷をやや増す、つまり、放電電流を増しても、従来のものに比べ損傷を小さくできる。これにより、従来のものとほぼ同一形状で、大放電電流のガス放電管用傍熱型陰極を提供でき、パルス動作、大電流動作の実現が可能となる。
また、電気導体として線状部材21を用いているので、熱電子放出能の低下及び放電位置の移動を抑制し得る構成の電気導体を低コスト且つより一層簡易に実現することができる。また、線状部材21(電気導体)が剛体となるために、加工が容易であると共に、金属酸化物10に密接して設けることができる。
なお、第2実施形態のガス放電管用傍熱型陰極C2の変形例としては、図15〜図17(b)に示されるように、一本の線状部材21を二重コイル2に複数回巻き回して二重コイル2長手方向にわたって設けるようにしてもよい。なお、図16(a)及び図17(a)においては、線状部材21は二重コイル2と間隔を有して設けられている。また、図16(b)及び図17(b)においては、線状部材21は二重コイル2の長手方向に沿って二重コイル2の複数のコイル部分に電気的に接触して設けられている。
また、第2実施形態のガス放電管用傍熱型陰極C2の変形例としては、図18〜図20(b)に示されるように、一本の線状部材21を二重コイル2の外側において複数回折り曲げて蛇行させるようにして二重コイル2長手方向にわたって設けるようにしてもよい。なお、図19(a)及び図20(a)においては、線状部材21は二重コイル2と間隔を有して設けられている。また、図19(b)及び図20(b)においては、線状部材21は二重コイル2の長手方向に沿って二重コイル2の複数のコイル部分に電気的に接触して設けられている。
第2実施形態のガス放電管用傍熱型陰極C2の更なる変形例としては、図21〜図23(b)に示されるように、一本の線状部材21を二重コイル2の全周にわたって複数回巻き回して設けるようにしてもよい。なお、図23(a)においては、線状部材21は二重コイル2と間隔を有して設けられている。また、図23(b)においては、線状部材21は二重コイル2の長手方向に沿って二重コイル2の複数のコイル部分に電気的に接触して設けられている。
第2実施形態のガス放電管用傍熱型陰極C2の更なる変形例としては、図24に示されるように、タングステン製のワイヤ22をヘアピン状に折り曲げ、ヘアピン状に折り曲げられた1本のタングステン製のワイヤ22(線状部材21に相当)の一方の部分を二重コイル2の内側に通し、ワイヤ22の一方の部分とワイヤ22の他方の部分とで二重コイル2を挟んだ状態で、ワイヤ22の両端部がリードロッド7に溶接された構成が考えられる。図24においては、線状部材21は二重コイル2の長手方向に沿って二重コイル2の複数のコイル部分に電気的に接触して設けられている。
なお、図14(a)〜図24は、金属酸化物10及び電気絶縁層4の図示を説明のため省略しているが、もちろん、これらの変形例においても、金属酸化物10に接触して線状部材21が設けられると共に、加熱用ヒータ1には電気絶縁層4が形成されることになる。
次に、図25に基づいて、第2実施形態の変形例について説明する。図25は、第2実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の変形例の概略断面図である。本変形例は、二重コイルがマンドレルを有している点で第2実施形態と相違する。
ガス放電管用傍熱型陰極C2は、図25に示されるように、加熱用ヒータ1と、コイル部材としての二重コイル41と、線状部材21と、易電子放射物質としての金属酸化物10とを有している。
二重コイル41は、第2実施形態における二重コイル2と同様に、コイル状に巻き回されたコイルより構成される多重コイルであって、マンドレル42を有している。加熱用ヒータ1は、二重コイル41の内側に設けられている。線状部材21は、二重コイル41の外側に二重コイル41(加熱用ヒータ1)の長手方向にわたって、放電方向に略直交するように設けられている。この線状部材21は、図25に示されるように、二重コイル41の長手方向に沿って二重コイル41の複数のコイル部分に電気的に接触して設けられている。
このように、本変形例においては、二重コイル41がマンドレル42を有しているので、加工時に二重コイル41が変形するのを抑制することができるという更なる効果を奏する。
次に、図26及び図27に基づいて、第2実施形態の変形例について説明する。図26及び図27は、第2実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の変形例の概略断面図である。本変形例は、一重コイルを有している点で第2実施形態と相違する。
ガス放電管用傍熱型陰極C2は、図26及び図27に示されるように、加熱用ヒータ1と、コイル部材としての一重コイル44と、線状部材21と、易電子放射物質としての金属酸化物10とを有している。
一重コイル44は、一重コイル状に巻き回されたコイルより構成されるコイル部材であって、タングステン素線からなる。加熱用ヒータ1は、一重コイル44の内側に設けられている。線状部材21は、一重コイル44の外側に一重コイル44(加熱用ヒータ1)の長手方向にわたって、放電方向に略直交するように設けられている。この線状部材21は、図26及び図27に示されるように、一重コイル44の長手方向に沿って一重コイル44の複数のコイル部分に電気的に接触して設けられている。
(第3実施形態)
図28は、第3実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の概略正面図であり、図29は、同じく第3実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の概略側面図であり、図30(a)及び(b)は、同じく第3実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の概略上面図であり、図31は、同じく第3実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の概略断面図である。なお、図28〜図31は、電気絶縁層4及び金属酸化物10の図示を説明のため省略している。第3実施形態は、基体金属を有している点で、第1及び第2実施形態と相違する。
ガス放電管用傍熱型陰極C4は、図28〜図31に示されるように、加熱用ヒータ1と、二重コイル2と、メッシュ状部材3と、易電子放射物質としての金属酸化物10と、基体金属31とを有している。
基体金属31は、筒状に形成され、導電性を有している。基体金属31は、たとえば、モリブデン等からなる。この基体金属31の内側に、加熱用ヒータ1が挿入されて配設される。また、二重コイル2は、基体金属31の外側表面に複数回巻き付けられて固定される。メッシュ状部材3は、放電方向に略直交して配設されている。基体金属31及びメッシュ状部材3は、リードロッド7に接続されて接地された状態となっており、二重コイル2は、基体金属31を介して接地されることになる。これにより、易電子放射物質としての金属酸化物10は接地電位となっている。また、基体金属31は、易電子放射物質としての金属酸化物10と加熱用ヒータ1に形成された電気絶縁層4とを隔絶する機能を有している。
なお、基体金属31として、動作中の陰極温度よりも高い融点を有する高融点金属を用いることができる。また、二重コイル2を用いる代わりに、マンドレル42を有する二重コイル41、あるいは、一重コイルを用いるようにしてもよい。また、基体金属31としては、円筒形状の筒状部材が一般的であるが、切り欠き部を有する円弧形状(開放された形状)の筒状部材を用いるようにしてもよい。
金属酸化物10は、二重コイル2に保持され、メッシュ状部材3に接触して設けられている。金属酸化物10及びメッシュ状部材3は、金属酸化物10の表面及びメッシュ状部材3の表面が放電面となるように、ガス放電管用傍熱型陰極C4の外側に露出しており、金属酸化物10の表面部分にメッシュ状部材3が接触するようになっている。金属酸化物10は、第1実施形態と同様にして、設けられる。なお、メッシュ状部材3は、図30(a)においては、二重コイル2と間隔を有して設けられている。また、メッシュ状部材3は、図30(b)及び図31においては、二重コイル2の長手方向に沿って二重コイル2の複数のコイル部分に電気的に接触して設けられている。
以上のことから、第3実施形態のガス放電管用傍熱型陰極C4においては、金属酸化物10に接触してメッシュ状部材3が設けられ、金属酸化物10に接触するメッシュ状部材3により等電位面が実効的に形成されるので、形成された等電位面の広い領域で熱電子放出が起きるために放電面積が増加し、単位面積当りの電子放出量(電子放出密度)が大きくなり、放電位置における負荷が軽減されることになり、劣化要因である金属酸化物10のスパッタ、還元金属との酸化による安定化(鉱物化)、つまり熱電子放出能の低下を抑制することができる。この結果、局所的な放電の発生を抑制でき、陰極の長寿命化を図ることができる。また、放電位置の移動も抑制されることになるため、長時間にわたって安定した放電を得ることができる。
また、ガス放電管用傍熱型陰極C4にあっては、放電面積が増加したことに関連して、電流密度を若干上げて、負荷をやや増す、つまり、放電電流を増しても、従来のものに比べ損傷を小さくできる。これにより、従来のものとほぼ同一形状で、大放電電流のガス放電管用傍熱型陰極を提供でき、パルス動作、大電流動作の実現が可能となる。
また、基体金属31を有しているので、熱電子供給源として金属炭酸塩から金属酸化物10に変化(熱分解)させる際に、熱伝導体として熱分解を助長することができる。また、金属酸化物10と加熱用ヒータ1とを確実に分離することができる。更に、基体金属31の有する還元能力を利用して、動作中に金属酸化物10を還元して自由金属元素を発生させて、電子放射能を向上することができる。更に、活性時に加熱用ヒータ1の熱を確実に金属酸化物10に伝えることができる。
次に、図32に基づいて、第3実施形態の変形例について説明する。図32は、第3実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の変形例の概略断面図である。本変形例は、二重コイルがマンドレルを有している点で第3実施形態と相違する。
ガス放電管用傍熱型陰極C4は、図32に示されるように、加熱用ヒータ1と、コイル部材としての二重コイル41と、メッシュ状部材3と、易電子放射物質としての金属酸化物10と、基体金属31とを有している。
二重コイル41は、第3実施形態における二重コイル2と同様に、コイル状に巻き回されたコイルより構成される多重コイルであって、マンドレル42を有している。加熱用ヒータ1は、二重コイル41の内側に設けられている。メッシュ状部材3は、加熱用ヒータ1と二重コイル41との間に二重コイル41(加熱用ヒータ1)の長手方向にわたって、放電方向に略直交するように設けられている。このメッシュ状部材3は、図32に示されるように、二重コイル41の長手方向に沿って二重コイル41の複数のコイル部分に電気的に接触して設けられている。
このように、本変形例においては、二重コイル41がマンドレル42を有しているので、加工時に二重コイル41が変形するのを抑制することができるという更なる効果を奏する。
(第4実施形態)
図33は、第4実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の概略正面図であり、図34(a)及び(b)は、同じく第4実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の概略側面図であり、図35(a)及び(b)は、同じく第4実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の概略上面図であり、図36は、同じく第4実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の概略断面図である。なお、図33〜図36は、電気絶縁層4及び金属酸化物10の図示を説明のため省略している。第4実施形態は、電気導体を線状部材とした点で第3実施形態と相違する。
ガス放電管用傍熱型陰極C5は、図33〜図36に示されるように、加熱用ヒータ1と、二重コイル2と、線状部材21と、易電子放射物質としての金属酸化物10と、基体金属31とを有している。
線状に形成された線状部材21は、一本の線状部材を二重コイル2の外側において複数回折り曲げて蛇行させるようにして二重コイル2の長手方向にわたって、放電方向に略直交して配設されている。この線状部材21は、図36に示されるように、二重コイル2の長手方向に沿って二重コイル2の複数のコイル部分に電気的に接触して設けられている。また、線状部材21は、加熱用ヒータ1の接地側の端子に接続されることにより、接地されている。これにより、二重コイル2が接地されるとともに、易電子放射物質としての金属酸化物10は接地電位となっている。基体金属も、リードロッド7を介して接地されている。
線状部材21は、上述した第2実施形態あるいは変形例と同様にして配設するようにしてもよく、また、その本数も、1本に限られることなく、2本以上の複数本であってもよい。なお、二重コイル2を用いる代わりに、図37に示されるようにマンドレル42を有する二重コイル41、あるいは、一重コイルを用いるようにしてもよい。
なお、図34(a)及び図35(a)においては、線状部材21は二重コイル2と間隔を有して設けられている。また、図34(b)及び図35(b)においては、線状部材21は二重コイル2の長手方向に沿って二重コイル2の複数のコイル部分に電気的に接触して設けられている。
以上のことから、第4実施形態のガス放電管用傍熱型陰極C5においては、金属酸化物10に接触して線状部材21が設けられ、線状部材21が二重コイル2の複数箇所にわたって電気的に接触することにより、金属酸化物10に接触する線状部材21により等電位面が実効的に形成されるので、形成された等電位面の広い領域で熱電子放出が起きるために放電面積が増加し、単位面積当りの電子放出量(電子放出密度)が大きくなり、放電位置における負荷が軽減されることになり、劣化要因である金属酸化物10のスパッタ、還元金属との酸化による安定化(鉱物化)、つまり熱電子放出能の低下を抑制することができる。この結果、局所的な放電の発生を抑制でき、陰極の長寿命化を図ることができる。また、放電位置の移動も抑制されることになるため、長時間にわたって安定した放電を得ることができる。
また、ガス放電管用傍熱型陰極C5にあっては、放電面積が増加したことに関連して、電流密度を若干上げて、負荷をやや増す、つまり、放電電流を増しても、従来のものに比べ損傷を小さくできる。これにより、従来のものとほぼ同一形状で、大放電電流のガス放電管用傍熱型陰極を提供でき、パルス動作、大電流動作の実現が可能となる。
また、基体金属31を有しているので、熱電子供給源として金属炭酸塩から金属酸化物10に変化(熱分解)させる際に、熱伝導体として熱分解を助長することができる。また、金属酸化物10と加熱用ヒータ1とを確実に分離することができる。更に、基体金属31の有する還元能力を利用して、動作中に金属酸化物10を還元して自由金属元素を発生させて、電子放射能を向上することができる。更に、活性時に加熱用ヒータ1の熱を確実に金属酸化物10に伝えることができる。
次に、図38(a)〜(c)に基づいて、線状部材21が1本の場合のガス放電管用傍熱型陰極C5を製造する(基体金属31に対して二重コイル2及び線状部材21を配設する)工程の一例を説明する。
図38(a)に示されるように、線状部材21の一端を基体金属31の一端部に溶接する。次に、溶接した線状部材21の上から二重コイル2を基体金属31に嵌め込み、図38(b)及び図38(c)に示されるように、線状部材21を折り曲げる。これにより、二重コイル2は折り曲げられた線状部材21により挟まれることになり、二重コイル2と線状部材21とが接触する。次に、折り曲げた線状部材21の他端をリードロッド7に溶接する。なお、折り曲げた線状部材21の他端部を基体金属31に溶接し、リードロッド7の代わりに用いるようにしてもよい。
(第5実施形態)
図39は、第5実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の概略断面図である。第5実施形態は、コイル部材を有していない点で第1〜第4実施形態と相違する。
ガス放電管用傍熱型陰極C9は、図39に示されるように、加熱用ヒータ1と、メッシュ状部材3と、易電子放射物質としての金属酸化物10とを有している。メッシュ状部材3は、リードロッド7を介して接地された状態にある。これにより、易電子放射物質としての金属酸化物10は接地電位となっている。
ガス放電管用傍熱型陰極C9は、加熱用ヒータ1の外側にメッシュ状部材3(接地状態)を貼り合わせ、メッシュ状部材3側から金属炭酸塩を塗布し、この金属炭酸塩を金属酸化物10に変えることで製造される。なお、加熱用ヒータ1は、メッシュ状部材3が貼り合わせられる部分に電気絶縁層4が形成されてメッシュ状部材3との短絡を防ぐように構成されていればよく、必ずしもタングステンフィラメントコイルの全体表面を電気絶縁材料で被覆する必要はない。メッシュ状部材3は、放電方向に略直交して、すなわち加熱用ヒータ1の長手方向にわたって配設されている。
以上のことから、第5実施形態のガス放電管用傍熱型陰極C9においては、金属酸化物10に接触してメッシュ状部材3が設けられ、金属酸化物10に接触するメッシュ状部材3により等電位面が実効的に形成されるので、形成された等電位面の広い領域で熱電子放出が起きるために放電面積が増加し、単位面積当りの電子放出量(電子放出密度)が大きくなり、放電位置における負荷が軽減されることになり、劣化要因である金属酸化物10のスパッタ、還元金属との酸化による安定化(鉱物化)、つまり熱電子放出能の低下を抑制することができる。この結果、局所的な放電の発生を抑制でき、陰極の長寿命化を図ることができる。また、放電位置の移動も抑制されることになるため、長時間にわたって安定した放電を得ることができる。
また、ガス放電管用傍熱型陰極C9にあっては、放電面積が増加したことに関連して、電流密度を若干上げて、負荷をやや増す、つまり、放電電流を増しても、従来のものに比べ損傷を小さくできる。これにより、従来のものとほぼ同一形状で、大放電電流のガス放電管用傍熱型陰極を提供でき、パルス動作、大電流動作の実現が可能となる。
なお、メッシュ状部材3を折り返し、あるいは積層することにより厚みを持たせ、金属酸化物10の保持量の増量、保持性能の向上を図るようにしてもよい。
(第6実施形態)
図40は、第6実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の概略断面図である。第6実施形態は、導電線を有している点で第5実施形態と相違する。
ガス放電管用傍熱型陰極C11は、図40に示されるように、加熱用ヒータ1と、メッシュ状部材3と、易電子放射物質としての金属酸化物10と、導電線45とを有している。メッシュ状部材3は、リードロッド7を介して接地された状態にある。これにより、導電線45が接地されるとともに、易電子放射物質としての金属酸化物10が接地電位となっている。メッシュ状部材3は、加熱用ヒータ1の外側に加熱用ヒータ1の長手方向にわたって配設され、当該長手方向に沿って波打つように延びている。
導電線45は、マンドレル(芯線)46と、マンドレル46の外周に巻き回された細線(たとえば、タングステン素線)47とを有しており、二重コイル41と同様の構成となっている。この導電線45は、メッシュ状部材3の一方面側の谷部を一方向からメッシュ状部材3の幅方向に沿って横断し、メッシュ状部材3の他方面側の谷部を逆方向からメッシュ状部材3の幅方向に沿って横断する形状を有している。
以上のことから、第6実施形態のガス放電管用傍熱型陰極C11においては、金属酸化物10に接触してメッシュ状部材3が設けられ、金属酸化物10に接触するメッシュ状部材3により等電位面が実効的に形成されるので、形成された等電位面の広い領域で熱電子放出が起きるために放電面積が増加し、単位面積当りの電子放出量(電子放出密度)が大きくなり、放電位置における負荷が軽減されることになり、劣化要因である金属酸化物10のスパッタ、還元金属との酸化による安定化(鉱物化)、つまり熱電子放出能の低下を抑制することができる。この結果、局所的な放電の発生を抑制でき、陰極の長寿命化を図ることができる。また、放電位置の移動も抑制されることになるため、長時間にわたって安定した放電を得ることができる。
また、ガス放電管用傍熱型陰極C11にあっては、放電面積が増加したことに関連して、電流密度を若干上げて、負荷をやや増す、つまり、放電電流を増しても、従来のものに比べ損傷を小さくできる。これにより、従来のものとほぼ同一形状で、大放電電流のガス放電管用傍熱型陰極を提供でき、パルス動作、大電流動作の実現が可能となる。
また、ガス放電管用傍熱型陰極C11にあっては、導電線45がマンドレル46を有しているので、加工時に導電線45が変形するのを抑制することができるという更なる効果を奏する。
(第7実施形態)
図41は、第7実施形態に係るガス放電管用傍熱型陰極の概略断面図である。第7実施形態は、第5及び第6実施形態と同様に、コイル部材を有していない点で第1〜第4実施形態と相違する。
ガス放電管用傍熱型陰極C10は、図41に示されるように、加熱用ヒータ1と、メッシュ状部材3(電気導体)と、易電子放射物質としての金属酸化物10と、基体金属31とを有している。メッシュ状部材3は、折り返して積層化された状態で基体金属31の外側表面上に載置、固定される。金属酸化物10は、積層化されたメッシュ状部材3に保持される。基体金属31は、リードロッド7に接続されて接地された状態となっている。また、メッシュ状部材3も基体金属31を介して接地された状態となる。これにより、易電子放射物質としての金属酸化物10は接地電位となっている。
ガス放電管用傍熱型陰極C10は、基体金属31の外側にメッシュ状部材3を接地状態で固定し、メッシュ状部材3側から金属炭酸塩を塗布し、この金属炭酸塩を金属酸化物10に変えることで製造される。
以上のことから、第7実施形態のガス放電管用傍熱型陰極C10においては、金属酸化物10に接触してメッシュ状部材3が設けられ、金属酸化物10に接触するメッシュ状部材3により等電位面が実効的に形成されるので、形成された等電位面の広い領域で熱電子放出が起きるために放電面積が増加し、単位面積当りの電子放出量(電子放出密度)が大きくなり、放電位置における負荷が軽減されることになり、劣化要因である金属酸化物10のスパッタ、還元金属との酸化による安定化(鉱物化)、つまり熱電子放出能の低下を抑制することができる。この結果、局所的な放電の発生を抑制でき、陰極の長寿命化を図ることができる。また、放電位置の移動も抑制されることになるため、長時間にわたって安定した放電を得ることができる。
また、ガス放電管用傍熱型陰極C10にあっては、放電面積が増加したことに関連して、電流密度を若干上げて、負荷をやや増す、つまり、放電電流を増しても、従来のものに比べ損傷を小さくできる。これにより、従来のものとほぼ同一形状で、大放電電流のガス放電管用傍熱型陰極を提供でき、パルス動作、大電流動作の実現が可能となる。
また、ガス放電管用傍熱型陰極C10にあっては、メッシュ状部材3を折り返して積層化しているので、金属酸化物10の保持量の増量、保持性能の向上を図ることができる。
(第8実施形態)
次に、図42に基づいて、上述した構成のガス放電管用傍熱型陰極C1〜C11を用いた第8実施形態に係るガス放電管について説明する。図42は、第8実施形態に係るガス放電管の概略断面図である。本第8実施形態においては、ガス放電管用傍熱型陰極として第1実施形態のガス放電管用傍熱型陰極C1を用いた例を示すが、ガス放電管用傍熱型陰極C1の代わりにガス放電管用傍熱型陰極C2〜C11のいずれかを用いるようにしてもよい。
ガス放電管DT1は、密閉容器としての管状バルブ51を有し、この管状バルブ51の内面には、蛍光体膜52が形成されている。ガス放電管用傍熱型陰極C1は、管状バルブ51の内部両端において、等電位面すなわち電気導体3が対向した状態でそれぞれ気密に封着されている。等電位面を対抗させることにより、ガス放電管DT1の動作はより安定なものとなる。管状バルブ51の内部には、アルゴン等の希ガス、あるいは、アルゴン等の希ガス及び水銀が封入されている。
なお、ガス放電管DT1の点灯回路としては、図43に示されるように、グロー管53、安定器54、交流電源55を有した既知のスタータ(予熱始動)形の点灯回路を用いることができる。点灯回路として、スタータ形に代え、ラピッドスタート形にも対応できる。駆動方式とてして、高周波点灯専用形(Hf)への対応もできる。ガス放電管DT1においては、一方のガス放電管用傍熱型陰極C1が陰極として動作している場合、他方のガス放電管用傍熱型陰極C1は陽極として動作する。
このように、第8実施形態のガス放電管DT1では、ガス放電管用傍熱型陰極C1〜C11を用いることで、寿命が長く且つ動作の安定したガス放電管(希ガス蛍光ランプ、あるいは、水銀蛍光ランプ等)を実現することができる。
なお、電源として交流電源を用いた場合には、ガス放電管用傍熱型陰極C1〜C11は、カソードサイクルとアノードサイクルが繰り返されることになるが、カソードサイクルのときは、放電面積が増えるためイオン電流過多による金属酸化物10のスパッタを防止することができる。また、アノードサイクルのときは、メッシュ状部材3が電子収束部としての役割を果たすことになり、受電子面積が大きく、過剰となる温度上昇を防止でき、金属酸化物10の蒸発を抑制することができる。
本発明のガス放電管において、上述した構成のガス放電管用傍熱型陰極C1〜C11を用いることによって得られる長寿命及び安定動作効果を確認する試験を行った。結果を図44に示す。図44は、ランプ管電圧(Vp)及びランプ管電流(Ip)の経時変化を示している。試験では、図25に示されるガス放電管用傍熱型陰極C2を管状バルブの内部両端に対向した状態でそれぞれ気密に封着したガス放電管DT1を製作し、図43に示される構成の点灯回路で連続点灯させて、ランプ管電圧(Vp)及びランプ管電流(Ip)の経時変化を測定した。管状バルブの内径は28mmであり、ガス放電管用傍熱型陰極C2の間隔は175mmであり、管状バルブ内にアルゴンを470Paにて封入した。点灯回路の安定器は、一般に市販されている15W用の安定器を用いた。
それぞれのガス放電管用傍熱型陰極C2において、加熱用ヒータは、直径0.55mmのタングステン素線を二重に巻回したフィラメントコイルを用いた。二重コイルは、直径0.091mmのタングステン素線をモリブデンからなるマンドレル(直径0.25mm)にピッチ0.15mmで巻回して一次コイルを作成し、さらにこの一次コイルを径1.7mm、ピッチ0.51mmで6回巻いたものを用いた。線状部材は、直径0.10mmのタングステン素線を用い、間隔1mm程度のヘアピン状に形成した。
図44から分かるように、ランプ管電圧(Vp)及びランプ管電流(Ip)が長時間(10000時間程度)安定した値を示しており、本発明によるガス放電管は寿命が長く且つ動作が安定していることが分かる。
また、本発明のガス放電管用傍熱型電極は、放電が分散する特徴を生かして、図45に示されるように、容器57外部に電極58を有し、容器57内部にガス放電管用傍熱型陰極C1〜C11を有し、容器57内部に希ガスを封入し、高周波電源59を使い駆動する片側外部電極型ランプに用いることができる。
このタイプのランプは、エキシマ光発光ランプであるエキシマランプである。封入ガスとしてキセノンガスを用いてエキシマ光を発生させるためには、ガス圧力は2000Pa(10Torr)〜100000Pa(1気圧)の範囲となり、好ましくは10000Pa(75Torr)〜50000Pa(375Torr)の範囲となる。
コイル部材としてマンドレルを有する2重コイルを用い、電源として交流電源を用いた場合には、マンドレルの表面上での熱量の均衡によって放電が保たれる。マンドレルの表面上での放電により電極表面上の発生熱量は放電電流(Id,単位;アンペア)と比例関係にある。また、マンドレルの断面積(Sm,単位;平方ミリメートル)が大きいと、表面積も増えることになるため熱損失量は増える。以上のことから、電極表面温度(Tc)は、
Tc∝Id/Sm ……… (12)
との関係を有する。表面電極温度が許容範囲より小さすぎると、陰極動作温度不足となる。このため、放電を持続するように、局所的に温度を上昇させて熱電子を供給しようとして、放電が集中する。この結果、局所過熱による易電子放射物質のスパッタ現象を助長し、電極の劣化を加速させる。一方、表面電極温度が許容範囲より大きすぎると、電極表面全体が過熱状態となり、易電子放射物質の蒸発を助長し、電極の劣化を加速させる。
本発明者らが、図25に示された構成のガス放電管用傍熱型電極を用いた実験を行ったところ、電極表面温度を適切な範囲に保つためには、
3<Id/Sm<16 ……… (13)
の範囲が好ましいことが確認された。そして、より好ましくは、
4<Id/Sm<10 ……… (14)
の範囲であることが確認された。実験では、線状部材21として直径0.05mm〜0.20mmのタングステン素線を用い、当該タングステン素線を間隔0.5mm〜2mmのヘアピン状に形成した。
(第9実施形態)
次に、図46に基づいて、上述した構成のガス放電管用傍熱型陰極C1〜C11を用いた第9実施形態に係るガス放電管について説明する。図46は、第9実施形態に係るガス放電管の概略構成図である。本第9実施形態においては、ガス放電管用傍熱型陰極として第2実施形態のガス放電管用傍熱型陰極C2を用いた例を示すが、ガス放電管用傍熱型陰極C2の代わりにガス放電管用傍熱型陰極C1、C4〜C11のいずれかを用いるようにしてもよい。
図46に示されるガス放電管は、密閉容器としての球状バルブ301を有し、この球状バルブ301の内面には、蛍光体膜302が形成されている。一対のガス放電管用傍熱型陰極C2は、球状バルブ301の内部に放電面が対向した状態でそれぞれ気密に封着されている。球状バルブ301の内部には、キセノン、アルゴン、クリプトン、ネオン等の希ガスの単体あるいは混合ガスが封入されている。また、アルゴン等の希ガスとともに水銀が封入されていてもよい。
それぞれのガス放電管用傍熱型陰極C2において、加熱用ヒータ1は、タングステン素線を二重に巻回したフィラメントコイルを用いた。二重コイルは、直径0.091mmのタングステン素線をモリブデンからなるマンドレル(直径0.25mm)にピッチ0.218mmで巻回した外周径0.433mmの一次コイルを径1.7mm、ピッチ0.51mmで6回巻いたものを用いた。線状部材21は、直径0.10mmのタングステン素線を用いた。
封入ガスとしてアルゴン470Paに水銀を添加した。ガス放電管用傍熱型陰極C2の間隔は、放電電圧が20V以下となるように10mm以下が好ましい。ガス放電管用傍熱型陰極C2を球状バルブ301内部に複数対配設するようにしてもよい。球状バルブ301の内径は、蛍光体を有する場合の発光効率を考慮して、20mm〜60mmの範囲であることが好ましい。
点灯回路として、図46に示されるように、2端子2方向サイリスタ303がガス放電管用傍熱型陰極C2の加熱用ヒータ1間に直列に接続され、コンデンサ304が一方の加熱用ヒータ1の端部と電力導入端との間に直列に接続されたものを用いている。なお、点灯動作を行わないときに、通電を遮断する保護機能回路を点灯回路に設けるようにしてもよい。図47に示されるように、ガス放電管を片口金構造とした場合、点灯回路(2端子2方向サイリスタ303及びコンデンサ304)を口金305内に配設することが可能となり、白熱電球に近似した構造となり、白熱電球と置き換えて使用することができる。図46に示されるガス放電管においては、一方のガス放電管用傍熱型陰極C2が陰極として動作している場合、他方のガス放電管用傍熱型陰極C2は陽極として動作する。
このように、第9実施形態のガス放電管では、ガス放電管用傍熱型陰極C1〜C11を用いることで、寿命が長く且つ動作の安定したガス放電管(希ガス蛍光ランプ、あるいは、水銀蛍光ランプ等)を実現することができる。特に、一対の電極間において交流放電による負グロー放電を主体として起こさせるガス放電管に適した構成を得ることができる。
なお、第8実施形態及び第9実施形態のガス放電管においては、交流動作の場合、1対の電極(ガス放電管用傍熱型陰極C1〜C11)が主たる機能として電子放出を行う陰極と、電子が流れ込む陽極としての役割を交互に果たす。陽極として機能するとき、電子が流れ込む際の電圧降下により多量の熱が電極に生じる。電極が陽極として機能するときに生じた熱量を当該電極が陰極として機能するときに熱電子放出に必要な熱量として使うことで、ガス放電管の持続放電中の加熱用ヒータ1からの熱供給なし、あるいは直流動作に比べて少ない熱供給にて、安定した持続放電を実現することができる。
(第10実施形態)
次に、図48〜図50に基づいて、上述した構成のガス放電管用傍熱型陰極C1〜C11を用いた第10実施形態に係るガス放電管について説明する。図48は、第10実施形態に係るガス放電管の全体斜視図、図49はその発光部の分解斜視図、図50は発光部の横断面図である。第10実施形態においては、本発明をサイドオン型の重水素ガス放電管に適用している。また、本第10実施形態においては、ガス放電管用傍熱型陰極として第1実施形態のガス放電管用傍熱型陰極C1を用いた例を示すが、ガス放電管用傍熱型陰極C1の代わりにガス放電管用傍熱型陰極C2〜C11のいずれかを用いるようにしてもよい。
重水素ガス放電管DT2は、ガラス製の外周器61を有している。外周器61の内部には、図48に示されるように、発光部組立体62が収容され、外周器61の底部はガラス製のステム63により気密に封止されている。発光部組立体62の下部からは4本のリードピン64a〜64dが延び、ステム63を貫通して外部に露出している。発光部組立体62は、共にアルミナ製の放電遮蔽板(放電遮蔽部)71及び支持板72を貼り合わせた遮蔽箱構造と、放電遮蔽板71の前面に取り付けられた金属製の前面カバー73とを有している。
図49に示されるように、断面形状が凸型の支持板72の後部には縦方向に貫通穴が形成され、ここにリードピン64aが挿入されてステム63に保持されている。支持板72の前面には下方に向かって縦に伸びる凹型溝が形成され、ここにステム63から伸びるリードピン64bが没入され、これらによって支持板72はステム63に固定される。リードピン64bには四角形平板の陽極74が前方に向かって固定され、支持板72の前面に形成された2個の凸部と接することで保持される。
また、図49に示されるように、放電遮蔽板71は支持板72に比べて薄型かつ幅広の凸型断面構造をなし、中央部の陽極74と対応する位置には貫通穴71aが形成される。放電遮蔽板71の凸部の側方には縦方向に貫通穴が形成されここにL字型に折り曲げた電極棒81が挿通されている。そして、放電遮蔽板71を支持板72に貼り合わせた状態で、電極棒81の下端とL字型に折り曲げられたリードピン64cの先端とが溶接される。電極棒81の側方に伸びた先端部には、ガス放電管用傍熱型陰極C1の上側電極棒82が溶接され、下側電極棒83は、放電遮蔽板71と支持板72を貼り合わせた状態において、L字型に折り曲げられたリードピン64dの先端に溶接される。
金属製の収束電極76は、図49に示されるように、中間部に放電遮蔽板71の貫通穴71aと同軸上に収束開口76aを形成したL字型の金属板を、上部で後方に、ガス放電管用傍熱型陰極C1方向の側部で前方に、それぞれ折り曲げて構成され、側部にガス放電管用傍熱型陰極C1を臨むための長方形状縦長の開口76bが形成されている。そして、放電遮蔽板71、支持板72及び収束電極76にはそれぞれ対応する位置に4個づつの貫通穴が形成されている。従って、放電遮蔽板71、支持板72及び収束電極76を貼り合わせた状態において、U字状に折り曲げた2本の金属製のピン84、85を差込むことでこれらをステム63に固定できる。
図48及び図49に示すように、金属製の前面カバー73は4段に折り曲げた断面U字型をなし、中央部に投光用の開口窓73aが形成されている。そして両端部には2個ずつの凸部73bが形成されており、これが放電遮蔽板71の前面端部に形成された4個の貫通開口71bと対応している。従って、この凸部73bを貫通開口71bに差込むことで前面カバー73は放電遮蔽板71に固定され、この状態で収束電極76の前方端部は前面カバー73の内面に接触し、ガス放電管用傍熱型陰極C1が配置される空間と発光空間とが分離される。
図49及び図50によれば、収束電極76は中央部に放電遮蔽板71の貫通穴71aと同軸上に収束開口76aを有しているが、ここには開口径を制限するための開口制限板78が溶接で固定されている。尚、開口制限板78は、収束開口76aの周囲で陽極74の方向に屈曲され、従って放電遮蔽板71の厚さよりも陽極74と開口制限板78の開口の距離の方が小さくなっている。
このように組み立てられた発光部62内における各電極の配置は、図50に示す通りである。陽極74は放電遮蔽板71及び支持板72に挟まれて固定され、収束電極76に溶接された開口制限板78は、放電遮蔽板71の貫通穴71aを介して陽極74と向き合う配置で、放電遮蔽板71に固定される。ガス放電管用傍熱型陰極C1は、放電遮蔽板71、前面カバー73並びに収束電極76の長方形開口76bを有する面により包囲された空間内であって、長方形開口76bを通して開口制限板78を臨む位置に配置される。
次に、図50を参照して重水素ガス放電管DT2の動作について説明する。ガス放電管用傍熱型陰極C1が十分に加熱された後、陽極74とガス放電管用傍熱型陰極C1との間にトリガ電圧が印加され放電が開始する。このときの熱電子の流路は、収束電極76の開口制限板78による収斂並びに放電遮蔽板71及び支持板72による遮蔽効果によって、経路91(破線に挟まれた部分で図示される)ただ一つに限定される。即ち、ガス放電管用傍熱型陰極C1から放出された熱電子(図示せず)は収束電極76の長方形開口76bから開口制限板78を通過し、放電遮蔽板71の貫通穴71aを通り陽極74へと至る。アーク放電によるアークボール92は開口制限板78の前部空間であって陽極74とは反対側の空間に発生する。そしてアークボール92から取り出される光は、前面カバー73の開口窓73aを通っておよそ矢印93の方向に発せられる。
このように、第10実施形態の重水素ガス放電管DT2では、ガス放電管用傍熱型陰極C1〜C11を用いることで、寿命が長く且つ動作の安定した重水素ガス放電管を実現することができる。
(第11実施形態)
次に、図51に基づいて、第11実施形態に係るガス放電管の点灯装置について説明する。図51は、第11実施形態に係るガス放電管の点灯装置を示す回路図である。本第11実施形態の点灯装置は、ガス放電管として、第10実施形態にて説明した重水素ガス放電管DT2、特にガス放電管用傍熱型陰極C1〜C3を用いたものに適している。
点灯装置101は、重水素ガス放電管DT2のガス放電管用傍熱型陰極C1と陽極74との間に接続される電源としての定電流電源103と、陽極74と収束電極76との間に接続され、ガス放電管用傍熱型陰極C1と収束電極76との間にトリガ放電を発生させるための補助点灯回路部111と、ガス放電管用傍熱型陰極C1と陽極74との間に接続され、加熱用ヒータ1に所定の期間通電し所定の期間が経過した後は加熱用ヒータ1への通電を遮断するための通電遮断切替回路部121と、陽極74と定電流電源103との間に直列接続して設置した電流検知用の固定抵抗器131とを有している。
定電流電源103は、直流開放電圧約160Vを供給すると共に、定常電流約300mAを供給する。この定電流電源103には、放電安定用の負性抵抗105、ダイオード107とが直列に接続されている。負性抵抗105は、50〜150Ω程度に設定されている。
補助点灯回路部111は、陽極74と収束電極76との間に直列接続して設置した固定抵抗器113と、この固定抵抗器113に並列接続したコンデンサ115と、を含んでいる。また、通電遮断切替回路部121は、グロー管123を含んでいる。なお、補助点灯回路部111と収束電極76との間に、重水素ガス放電管DT2の動作(点灯)後に開かれるスイッチを設けるようにしてもよい。また、グロー管123を使ったグロースタータ式に替えて、タイマ機能を有する半導体素子を用いた電子スタート式、タイマ機能の有無を問わず機械式(有接点)スイッチを用いるようにしてもよい。
次に、点灯装置101の動作について、図52(a)〜(f)及び図53(a)〜(e)に基づいて説明する。
図51には示されていないが、重水素ガス放電管DT2の点灯装置101の主電源スイッチをオン(始動)にすると、定電流電源103からグロー管123に電力が供給されてグロー管123においてグロー放電が発生し、グロー管123の電極が互いに接触することにより、ガス放電管用傍熱型陰極C1の加熱用ヒータ1に電力が供給されて、ガス放電管用傍熱型陰極C1が予熱される(図52(a)〜(f)及び図53(a)〜(e)における期間A1)。このとき、定電流電源103からガス放電管用傍熱型陰極C1と陽極74との間に電圧約130Vが印加されており、陽極74からガス放電管用傍熱型陰極C1に向う電界が発生している。
このようにトリガ放電の準備が整ったときに、グロー管123においてグロー放電が止まり、グロー管123の電極が離れることにより、定電流電源103から並列接続したコンデンサ115及び固定抵抗器113を介して収束電極76に電位約130Vを発生させ、トリガ放電がガス放電管用傍熱型陰極C1と収束電極76との間に発生する(図52(a)〜(f)及び図53(a)〜(e)における期間A2)。
そして、このようにトリガ放電を発生させることにより、アーク放電をガス放電管用傍熱型陰極C1と陽極74との間に発生させ、定電流電源103からガス放電管用傍熱型陰極C1と陽極74との間に供給する電流約300mAに基づいて、主電源スイッチをオフするまでアーク放電が安定して持続する(図52(a)〜(f)及び図53(a)〜(e)における期間A3)。なお、重水素ガス放電管DT2が動作(点灯)している間、固定抵抗器131により、定電流電源103から重水素ガス放電管DT2に印加される電圧は、始動時の約160Vから約120Vに低下することになる。
以上のように、ガス放電管用傍熱型陰極C1〜C3を用いた重水素ガス放電管DT2においては、上述した(7)式及び(8)式の関係で駆動可能であることから、第11実施形態の点灯装置101では、ガス放電管用傍熱型陰極C1〜C3を用いた重水素ガス放電管DT2を点灯させるための点灯装置を実現することができる。また、ガス放電管用傍熱型陰極C1〜C3の予熱用、トリガ放電(初期ガス電離による放電)開始用、及び、主放電用の電源を1つの定電流電源103で賄うことができ、特にガス放電管用傍熱型陰極C1〜C3の予熱(加熱用ヒータ)用の電源が不要となり、大幅な部品点数の削減及び構成の簡略化を図ることができる。
また、点灯装置101では、通電遮断切替回路部121がグロー管123を含んでいるので、通電遮断切替回路部121を簡易且つ低コストで実現できる。更に、補助点灯回路部111は、コンデンサ115を含んでいるので、補助点灯回路部111を簡易且つ低コストで実現できる。また、補助点灯回路部111は、固定抵抗器113を含んでいるので、重水素ガス放電管DT2の点灯性を向上することができる。
また、点灯装置101では、電流検知用の固定抵抗器131を有しているので、重水素ガス放電管DT2の動作時の電圧を下げることができ、重水素ガス放電管DT2の消費電力を低減することができる。
(第12実施形態)
次に、図54に基づいて、第12実施形態に係るガス放電管の点灯装置について説明する。図54は、第12実施形態に係るガス放電管の点灯装置を示す回路図である。本第12実施形態の点灯装置は、ガス放電管として、第10実施形態にて説明した重水素ガス放電管DT2、特にガス放電管用傍熱型陰極C4,C5を用いたものに適している。第12実施形態は、陰極加熱用電圧源と放電開始用電圧源とを有している点で第11実施形態と相違する。
点灯装置201は、重水素ガス放電管の点灯装置として一般的なものであり、詳細な説明は省略するが、ガス放電管用傍熱型陰極C4に接続される陰極加熱用電圧源211と、放電開始用回路として、陽極74とガス放電管用傍熱型陰極C4の間に、順次直列接続したトリガスイッチ221、固定抵抗器223及びコンデンサ225と、これらに並列接続した放電開始用電圧源227とを有している。
第12実施形態の点灯装置201では、重水素ガス放電管が点灯しているときのガス放電管用傍熱型陰極C4,C5の動作電圧を下げ、ガス放電管用傍熱型陰極C4,C5の発生熱量を下げることができる。
なお、点灯装置201をガス放電管用傍熱型陰極C1〜C3を用いた重水素ガス放電管の点灯装置として適用する場合には、上述した(7)式及び(8)式の関係に基づいて、陰極加熱用電圧源211に開閉スイッチを直列接続して、重水素ガス放電管の動作時に開閉スイッチを開くように構成することが好ましい。
なお、第1〜第7実施形態においては、電気導体として、メッシュ状部材3あるいは線状部材21を用いているが、これに限られることなく、導電性を有し融点が陰極の作動温度よりも高い剛体、たとえば板状(リボン状、箔状も含む)に形成された高融点金属を用いるようにしてもよく、また、高融点金属の代わりに厚さの薄い多孔質金属、炭素繊維等を用いるようにしてもよい。また、金属酸化物10の耐スパッタ性向上、放電性能向上のために、タンタル、チタン、ニオブ等の窒化物あるいは炭化物を金属酸化物10の表面、メッシュ状部材3、線状部材21、基体金属31に付着させるようにしてもよい。
また、第1〜第7実施形態の更なる変形例として、図55、図56(a)及び(b)に
示されるように、複数の二重コイル2を設け、これらの二重コイル2にわたって、メッシュ状部材3あるいは線状部材21を設けるようにしてもよい。図56(a)においては、線状部材21は二重コイル2と間隔を有して設けられている。また、図56(b)においては、線状部材21は二重コイル2の長手方向に沿って二重コイル2の複数のコイル部分に電気的に接触して設けられている。なお、図55、図56(a)及び(b)においても、電気絶縁層4及び金属酸化物10の図示を説明のため省略している。
また、第1〜第7実施形態においては、メッシュ状部材3の表面、あるいは、線状部材21の表面が露出するようにしているが、必ずしもこれらを露出させる必要はなく、金属酸化物10にメッシュ状部材3、あるいは、線状部材21が接触しているのであれば、メッシュ状部材3の表面、あるいは、線状部材21の表面が金属酸化物10に覆われていてもよい。
また、本第10実施形態においては、本発明をサイドオン型の重水素ガス放電管に適用したが、これに限られることなく、管頂部より光を取り出すヘッドオン型重水素ガス放電管にも本発明を適用することができる。
(第13実施形態)
次に、図57及び図58に基づいて、第13実施形態に係るガス放電管DT3を説明する。図57は、本第13実施形態に係るガス放電管を示す概略構成図であり、図58は、同じくガス放電管の断面構造を説明するための概略図である。
ガス放電管DT3は、図57に示されるように、管状の放電容器としてのガラスバルブ401と、ガラスバルブ401の外側に配設される外部電極411と、ガラスバルブ401の内側に配設される内部電極としての傍熱型電極C2とを備えている。ガラスバルブ401は、たとえば合成石英ガラス管からなり、誘電体を形成している。このガラスバルブ401の一端部には、一対の導入線(導入ピン)403,405が封装されており、導入線403,405の先端部には傍熱型電極C2が装着されている。ガラスバルブ401の内部(放電空間Sp)には、誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成するガスとして、たとえばキセノン(Xe)ガスが気密封止されている。
ところで、エキシマ光発光効率は、放電距離、それにより付随的に生じる放電維持電圧によっても、変化するが、最も発光効率に影響する要素は、封入ガス圧力である。中でも172nmに発光領域を有するキセノンが使用上最も実用的であり、キセノンガスは他の希ガスである、クリプトン、ネオン等と混合され使用されることもある。ここで、実用上封入されるキセノンガス圧力は、混合割合、放電距離等放電状況により、2kPaから100kPaの範囲で使用可能である。またエキシマ光発光効率は、キセノンガスとして凡そ10kPaから50kPaにピークを有し使用状好ましい範囲である。
外部電極411は、導電性を有する剛体(金属導体)、たとえばニッケル、ステンレス鋼等からなる。本実施形態においては、直径0.1mm程度のニッケル素線をメッシュ状に編んで外部電極411を構成している。外部電極411におけるメッシュの大きさは、5〜20メッシュ程度とされている。外部電極411は、図58に示されるように、ガラスバルブ401の外周に巻き付けることにより配設されている。このように、外部電極411はメッシュ状に形成されているので、外部電極411によりガス放電管DT3から放出される光が遮蔽されることはない。なお、外部電極411としては、ニッケル、ステンレス鋼等の素線をガラスバルブ401の外周に巻き付けることにより、配設するようにしてもよい。
傍熱型電極C2は、図59に示されるように、加熱用ヒータ1と、電子放射部425と、線状部材21とを有している。
加熱用ヒータ1は、直径0.03〜0.1mm、たとえば0.07mmのタングステン素線を二重に巻回したフィラメントコイルからなり、このタングステンフィラメントコイルの表面には、電着法等により電気絶縁材料(たとえば、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、シリカ等)が被覆されて電気絶縁層4が形成されている。加熱用ヒータ1の一端部1aは、一対の導入線403,405のうちの一方の導入線403と電気的に接続されている。また、加熱用ヒータ1の他端部1bは、一対の導入線403,405のうちの他方の導入線405と電気的に接続されている。
電子放射部425は、加熱用ヒータ1からの熱を受けて電子を放出するものであり、二重コイル41と、易電子放射物質としての金属酸化物10とを含んでいる。二重コイル41は、コイル状に巻き回されたコイルより構成される多重コイルであって、直径0.091mmのタングステン素線を径0.25mm、ピッチ0.146mmの一次コイルに形成し、さらにその一次コイルで径1.7mm、ピッチ0.6mmの二重コイルに形成したものである。二重コイル41の内側には、加熱用ヒータ1が挿入されて配設されている。
また、二重コイル41は、マンドレル42を有している。ここで、マンドレルとは、フィラメントコイル作成時に巻径を決める型の役割を果たす芯線のことである。
線状部材21は、導電性を有する剛体(金属導体)で、周期律表のIIIa〜VIIa、VIII、Ib族に属し、具体的にはタングステン、タンタル、モリブデン、レニウム、ニオブ、オスミウム、イリジウム、鉄、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、マンガン、クロム、バナジウム、ロジウム、希土類金属等の高融点金属(融点1000℃以上)の単体金属もしくはこれらの合金からなる。本実施形態においては、タングステン製の線状部材を用いている。線状部材21の直径は、0.1mm程度に設定されている。線状部材21は、二重コイル41の外側に二重コイル41の長手方向にわたって、放電方向に略直交するように配設されており、二重コイル41と線状部材21とは電気的に接続されている。なお、本実施形態においては、線状部材21の本数は2本に設定されているが、これに限られることなく、1本、あるいは3本以上であってもよい。線状部材21は、加熱用ヒータ1の一端部1aと同様に、導入線403と電気的に接続されている。
金属酸化物10は、二重コイル41に保持され、線状部材21に接触して設けられている。金属酸化物10及び線状部材21は、金属酸化物10の表面及び線状部材21の表面が放電面となるように、傍熱型電極C2の外側に露出しており、金属酸化物10の表面部分に線状部材21が接触するようになっていている。
金属酸化物10としては、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)の内のいずれか単体の酸化物、又はこれらの酸化物の混合物、あるいは、主構成要件がバリウム、ストロンチウム、カルシウムの内のいずれか単体の酸化物、又はこれらの酸化物の混合物であり副構成要件がランタン系を含む希土類金属(周期律表のIIIa)である酸化物が用いられる。バリウム、ストロンチウム、カルシウムは、仕事関数が小さく、熱電子を容易に放出することができ、熱電子供給量を増加させることができる。また、副構成要件として希土類金属(周期律表のIIIa)を添加した場合、熱電子供給量を更に増加させることができると共に、耐スパッタ性能を向上することもできる。
金属酸化物10は、電極物質材として金属炭酸塩(たとえば、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム等)の形で塗布され、塗布された金属炭酸塩を真空加熱分解することにより得られる。このようにして得られた金属酸化物10が最終的に易電子放射物質となる。電極物質材としての金属炭酸塩は、二重コイル41の内側に加熱用ヒータ1を配設すると共に二重コイル41の外側に線状部材21を配設した状態で、線状部材21側から塗布される。
再び、図57を参照する。ガス放電管DT3には、駆動回路441が接続されている。駆動回路441は、ヒータ電源443、予熱スイッチ445、高周波電源447を含んでいる。ヒータ電源443及び予熱スイッチ445は、導入線403,405との間に直列接続されている。予熱スイッチ445が閉じられることにより、ヒータ電源443から傍熱型電極C2の加熱用ヒータ1に電力が供給され、傍熱型電極C2が予熱されることになる。高周波電源447は、導入線403と外部電極411との間に直列接続されており、外部電極411と傍熱型電極C2との間に高周波電圧を印加する。
上述した構成のガス放電管DT3においては、傍熱型電極C2が予熱され、外部電極411と傍熱型電極C2との間に高周波電圧が印加されていると、加熱用ヒータ1からの熱を受けて電子放射部425(金属酸化物10)から電子が放出され、誘電体バリア放電が発生する。この誘電体バリア放電の発生によって、キセノンのエキシマ分子が形成される。そして、形成されたキセノンのエキシマ分子からエキシマ光(真空紫外光)が放射されることになる。このとき、ガラスバルブ401の内面に蛍光体が塗布されていれば、塗布された蛍光体がエキシマ光により励起されて可視光を放出する。
このように、本第13実施形態のガス放電管DT3においては、内部電極が傍熱型電極C2とされているので、傍熱型電極C2から放電電子を放出するために必要な電位(加速電圧)が低くてすみ、ガス放電管DT3の発光効率を高めることができる。
また、内部電極が傍熱型電極C2とされているので、内部電極(傍熱型電極C2)から取り出すことのできる放電電流が多くなる。これにより、外部電極411の単位面積当たりの放電電流量が増えて、キセノンのエキシマ分子の生成量が増加することになる。この結果、ガス放電管DT3の光出力を大きくすることができる。
また、本第13実施形態の傍熱型電極C2においては、金属酸化物10に接触して線状部材21が設けられ、線状部材21により等電位面が実効的に形成されるので、形成された等電位面の広い領域で熱電子放出が起きるために放電面積が増加し、単位面積当りの電子放出量(電子放出密度)が大きくなり、放電位置における負荷が軽減されることになり、劣化要因である金属酸化物10のスパッタ、還元金属との酸化による安定化(鉱物化)、つまり熱電子放出能の低下を抑制することができる。この結果、局所的な放電の発生を抑制でき、傍熱型電極C2の長寿命化を図ることができる。また、放電位置の移動も抑制されることになるため、長時間にわたって安定した放電を得ることができる。
また、本第13実施形態の傍熱型電極C2にあっては、放電面積が増加したことに関連して、電流密度を若干上げて、負荷をやや増す、つまり、放電電流を増しても、従来のものに比べ損傷を小さくできる。これにより、従来のものとほぼ同一形状で、大放電電流の傍熱型電極を提供できる。
また、本第13実施形態の傍熱型電極C2にあっては、線状部材21を用いているので、熱電子放出能の低下及び放電位置の移動を抑制し得る構成の電気導体を低コスト且つより一層簡易に実現することができる。また、線状部材21(電気導体)が剛体となるために、加工が容易であると共に、金属酸化物10に密接して設けることができる。
また、本第13実施形態の傍熱型電極C2にあっては、加熱用ヒータ1を核として、その外側に金属酸化物10を保持する二重コイル41を取り巻くように配置し、二重コイル41に保持された金属酸化物10の表面部分に接触するように線状部材21を配設することにより、二重コイル41の振動抑制効果が働き、金属酸化物10の落下を防ぐことができる。また、二重コイル41のピッチ間に多量の金属酸化物10が保持されることになり、放電中の経時劣化に伴う消失金属酸化物分を補充する効果がある。
また、本第13実施形態の傍熱型電極C2にあっては、二重コイル41がマンドレル42を有しているので、加工時に二重コイル41が変形するのを抑制することができる。また、二重コイル41がマンドレル42を有することにより、二重コイル41の熱容量が大きくなり、耐熱性が向上する。
(第14実施形態)
次に、図60及び図61に基づいて、第14実施形態に係るガス放電管DT4を説明する。図60は、本第14実施形態に係るガス放電管を示す概略構成図であり、図61は、同じくガス放電管の断面構造を説明するための概略図である。
ガス放電管DT4は、第1実施形態と同様に、ガラスバルブ401と、導入線403,405と、外部電極411と、傍熱型電極C2とを備えている。ただし、図60に示されるように、導入線403は、ガラスバルブ401の一端部に封装されており、導入線405はガラスバルブ401の他端部に封装されている。
ガス放電管DT4には、図60及び図61に示されるように、外部電極411の外側に、エキシマ光を反射するための光反射部材451が設けられている。ガラスバルブ401における光反射部材451が設けられていない部分が、光取り出し部分となる。光反射部材451は、アルミニウム等の金属を膜状に蒸着させることにより形成することができる。なお、光反射部材451と外部電極411とを別体にて構成しているが、光反射部材451をアルミニウム等の導電性を有した金属蒸着膜で構成した場合には、光反射部材451そのものを外部電極として用いるようにしてもよい。
ガス放電管DT4には、図60に示されるように、駆動回路471が接続されている。駆動回路471は、ヒータ電源443、予熱スイッチ445、矩形波電源473を含んでいる。矩形波電源473は、バラストコンデンサ75と共に、導入線403と外部電極411との間に直列接続されており、外部電極411と傍熱型電極C2との間に矩形波電圧(パルス電圧)を印加する。
上述した構成のガス放電管DT4においては、傍熱型電極C2が予熱され、外部電極411と傍熱型電極C2との間に矩形波電圧が印加されると、加熱用ヒータ1からの熱を受けて電子放射部425(金属酸化物10)から電子が放出され、誘電体バリア放電が発生する。そして、この誘電体バリア放電によりキセノンのエキシマ分子が形成され、エキシマ光が放射されることになる。
このように、本第14実施形態のガス放電管DT4においては、第13実施形態のガス放電管DT3と同じく、内部電極が傍熱型電極C2とされているので、傍熱型電極C2から放電電子を放出するために必要な電位(加速電圧)が低くてすみ、ガス放電管DT4の発光効率を高めることができる。
また、内部電極が傍熱型電極C2とされているので、内部電極(傍熱型電極C2)から取り出すことのできる放電電流が多くなる。これにより、外部電極411の単位面積当たりの放電電流量が増えて、キセノンのエキシマ分子の生成量が増加することになる。この結果、ガス放電管DT4の光出力を大きくすることができる。
また、本第14実施形態のガス放電管DT4にあっては、エキシマ光が光反射部材451により反射されて、光反射部材451が設けられていない部分から放出されるので、ガラスバルブ401の外面の全周からほぼ均一に光が放出される構成のガス放電管(たとえば、第13実施形態のガス放電管DT3)に比較し、コンパクトで大光出力を得ることができる。
(第15実施形態)
次に、図62及び図63に基づいて、第15実施形態に係るガス放電管DT5を説明する。図62は、本第15実施形態に係るガス放電管を示す概略構成図であり、図63は、同じくガス放電管の断面構造を説明するための概略図である。
ガス放電管DT5は、第13及び第14実施形態と同様に、ガラスバルブ401と、導入線403,405と、外部電極411と、傍熱型電極C2とを備えている。ガス放電管DT5には、図62及び図63に示されるように、ガラスバルブ401の内面に、エキシマ光を反射するための光反射部材451が設けられている。これにより、第14実施形態のガス放電管DT4と同様に、ガラスバルブ401における光反射部材451が設けられていない部分が、光取り出し部分となる。
ガス放電管DT5には、図62に示されるように、駆動回路481が接続されている。駆動回路481は、グロー管483、高周波電源447を含んでいる。なお、グロー管483を使ったグロースタータ式に替えて、タイマ機能を有する半導体素子を用いた電子スタート式、タイマ機能の有無を問わず機械式(有接点)スイッチを用いるようにしてもよい。
このように、本第15実施形態のガス放電管DT5においては、第13実施形態のガス放電管DT3及び第14実施形態のガス放電管DT4と同じく、内部電極が傍熱型電極C2とされているので、傍熱型電極C2から放電電子を放出するために必要な電位(加速電圧)が低くてすみ、ガス放電管DT5の発光効率を高めることができる。
また、内部電極が傍熱型電極C2とされているので、内部電極(傍熱型電極C2)から取り出すことのできる放電電流が多くなる。これにより、外部電極411の単位面積当たりの放電電流量が増えて、キセノンのエキシマ分子の生成量が増加することになる。この結果、ガス放電管DT5の光出力を大きくすることができる。
また、本第15実施形態のガス放電管DT5にあっては、第14実施形態のガス放電管DT4と同じく、エキシマ光が光反射部材451により反射されて、光反射部材451が設けられていない部分から放出されるので、ガラスバルブ401の外面の全周からほぼ均一に光が放出される構成のガス放電管(たとえば、第13実施形態のガス放電管DT3)に比較し、コンパクトで大光出力を得ることができる。
なお、上述した第13〜第15実施形態においては、ガス放電管用傍熱型陰極として第2実施形態のガス放電管用傍熱型陰極C2を用いた例を示すが、ガス放電管用傍熱型陰極C2の代わりにガス放電管用傍熱型陰極C1,C4〜C11のいずれかを用いるようにしてもよい。また、誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成するガスとして、キセノンガス以外に、クリプトン(Kr)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)の単体、あるいは混合ガス等を用いることもできる。
1…加熱用ヒータ、2…二重コイル、3…メッシュ状部材、4…電気絶縁層、10…金属酸化物、21…線状部材、31…基体金属、41…二重コイル、42…マンドレル、51…管状バルブ、52…蛍光体膜、71…放電遮蔽板、74…陽極、76…収束電極、101…点灯装置、103…定電流電源、111…補助点灯回路部、113…固定抵抗器、115…コンデンサ、121…通電遮断切替回路部、123…グロー管、131…固定抵抗器、201…点灯装置、211…陰極加熱用電圧源、221…トリガスイッチ、223…固定抵抗器、225…コンデンサ、227…放電開始用電圧源、C1,C2,C3,C4,C5,C6,C7,C8,C9,C10,C11…傍熱型陰極、DT1,DT3,DT4,DT5…ガス放電管、DT2…重水素ガス放電管。