JP4008256B2 - アルミ合金製圧力容器に使用するドームの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミ合金製圧力容器に使用するドーム(鏡板)、特にロケットタンク用ドーム及び航空機圧力隔壁用ドームおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ロケットには液体水素や液体酸素を充填するタンクはアルミ合金製で、内面が格子状に機械加工されたアイソグリッド構造の円筒部にドーム隔壁を接合して構成する。
【0003】
このようなドームは従来は板厚50〜70mm程度、5×5m程度の特注の大板を加熱しながらスピニング成形とその後の機械加工により薄肉化して製造している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
板厚50〜70mm程度、5×5m程度の特注の大板は製造できる業者が極めて少なく高価であるのみならず、大型の板材からドーム形状をスピニング加工で作成するのは、技術的に加工が困難である。又、加熱を必要とするスピニング成形工程においては、前記のような大板を加熱しながら、ローラとドーム内面形状にあったマンドレルを用いて加工するには高価な専用装置を必要とする。
更に、前記スピニング加工によって製造した厚肉ドーム素材を機械加工によって薄肉タンクドームに削り出すのは、膨大な機械加工時間を要す。
しかもロケットのドームは、余分な肉厚を設けてはならないこと、円筒部や他の部材と連結するための継手部などを設けねばならず、その肉厚分布が複雑なために、その機械加工は極めて煩雑化する。
【0005】
かかる課題を解決するために、内形側よりの変肉加工により肉厚所望の肉厚分布を形成する工程、200〜250℃の温度で、熱間スピニング成形を行う工程、溶体化処理、矯正成形処理、時効処理からなる所定のアルミ合金処理を行う工程、エッチング等のケミカル加工により継手やその他の外周突起部を形成する工程によってロケットドームを製造する方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、かかる従来技術においても、大板の変肉加工には大型の専用装置を用いなければならず、又形状加工が全て塑性加工のために、形状精度が悪いという課題を有す。特に前記厚板の大板の内径側の肉厚分布を形成した状態では厚肉のために、これをドーム状にスピニング成形を行うには熱間で行わなければならず、やはり大型の専用装置を必要とする。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑み、アルミ合金製圧力容器に使用するドーム(鏡板)、特にロケットタンクのドームのように大型で且つ板厚分布が複雑なドームを製造する際に、大型の板材や大型の専用機を用いずに、然も熟練度を必要とすることなく、アルミ合金製のタンクドームの製造方法を提供することを目的とする。特に、スカート部にT型フランジを具えた一ピース型のドームの製造方法を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は通常販売されている3m幅程度のアルミ板を用いて大型のドームを製造することを目的とする。
さらに現在半径方向に細分化された外板をリベット等で組み立て、リベット穴部や外板接合部を樹脂などでシールして製造している航空機圧力隔壁を一体化した一つのドーム部品として製造することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明はかかる課題を解決するために、スカート部にT型フランジを具えた一ピース型のドームを製造する方法において、ドーム直径より大なる大型の板材をドーム形状に対応させて冷間スピニングする工程を含み、前記冷間スピニング工程が大型の板材よりスカート部に段差状に帯状厚肉部を残した状態で薄肉のドームを製造する工程と、前記スカート部の帯状厚肉部を円周に沿って所定の深さまで裂開して、裂開せずに残る共通円筒から延在する外側円筒と内側円筒とにし、該外側円筒を円筒軸に対してほぼ垂直に所定の張り出し径及び肉厚を形成するようスピニング加工する工程とからなることを特徴とするアルミ合金製圧力容器に使用するドーム製造方法を提案する。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のドーム製造方法において、前記冷間スピニングする工程の後に、調質のために熱処理を行う工程を備え、前記調質後にケミカルミーリング加工及び機械加工を含む仕上げ加工にてドームを形成する工程よりなることを特徴とする。
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載のドーム製造方法において、ドーム直径より大なる大型の板材を複数のアルミ合金製板材を摩擦撹拌接合により形成することを特徴とする。
【0010】
ここで請求項3における摩擦撹拌接合とは、アルミニウム合金板同士の接合面を突合せた状態で固定し、回転工具を高速回転させながら突起部をアルミニウム合金板の側部から突合せ面の間に挿入し、一定の速度で走行させる。このとき突起部とアルミニウム板の突合せ面との摩擦によりアルミニウム合金材を再結晶温度まで上昇させ、原子を置換で混じり合わせてアルミニウム合金板の突合せ面を結合するものである。
【0011】
かかる摩擦撹拌接合にて接合した平板材は、溶接接合のようにその接合部が変形することもないので、歪み取り修正を加える必要もなく、そのまま次工程の冷間スピニング工程に移行することも可能であるが、アルミニウム合金材を再結晶温度まで加熱するものであるために、その接合部位が焼き入れと同様に硬化している恐れがある。
そこで本発明は、大型の板材を必要に応じて焼鈍した後、ドーム形状に対応させて冷間スピニングさせている。
【0012】
尚、本発明は、図2(A)に示すようにスカート部2AにT型フランジ20Aを具えた一ピース型のドーム1Aに適用するものである。
具体的には請求項1に記載のように、スカート部にT型フランジを具えた一ピース型のドームを製造する方法において、ドーム直径より大なる大型の板材をドーム形状に対応させて冷間スピニングする工程を含み、前記冷間スピニング工程が大型の板材よりスカート部に段差状に帯状厚肉部を残した状態で薄肉のドームを製造する工程と、前記スカート部の帯状厚肉部を円周に沿って所定の深さまで裂開して、裂開せずに残る共通円筒から延在する外側円筒と内側円筒とにし、該外側円筒を円筒軸に対してほぼ垂直に所定の張り出し径及び肉厚を形成するようスピニング加工する工程とからなることを特徴とするアルミ合金製圧力容器に使用するドーム製造方法を提案する。
【0013】
そして、かかるスカート部にT型フランジを備えた一ピース型のドームを製造する方法として、さらに前記した請求項2、3記載の製造方法を提案する。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載される構成部品の寸法、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
図1は本発明によって製造されるロケットタンクでシリンダースキン(円筒部)3の上下両側に、T型フランジ部を有するスカート部とドーム本体を切り離した状態の2ピース型のドームの実施形態であり、これらは個々に前記ピースを製造した後、溶接によりタンクが完成する。
【0015】
次に前記ドーム本体の製造方法について説明する。
先ず例えば30mm厚、3メートル×6メートルのアルミニウム合金板を3つ用意する。30mm厚、3メートル幅程度のアルミニウム合金板であれば多数のメーカで製造されており、その調達は高価ではない。
【0016】
次に図3に示す摩擦撹拌接合機械を用いて前記2つのアルミニウム合金板10、10を接合する場合の処理動作について説明する。
図3に示すように中心に突起部を有する接合円板を回転工具に取り付けたものを用意し、次に、前記したように2枚の接合用アルミニウム合金板10、10を不図示のベット上に載置し、その接合面を突合せた状態で両者を固定する。
この状態で、不図示のサーボモータにより前記回転工具18を高速回転させながら、突起部17をアルミニウム合金板10の側部から突合せ面11の間に挿入すると共に、接合円板19をアルミニウム合金板10の上面に当接させた状態で矢印bで示す方向に一定の速度で走行させる。このとき突起部17とアルミニウム合金板10、10の突合せ面11との摩擦によりアルミニウム合金10を再結晶温度まで上昇させ、原子置換で突き合わせ部を混ざり合わせてアルミニウム板10、10の突合せ面11を結合する。このとき接合部16の上面は接合円板19により平面状に成形され、下面は不図示のベットの上面に圧接されて鏡面状となる。
【0017】
上記摩擦撹拌接合方法は、従来の溶接接合の場合と異なり、アルミニウム板10はそれ程高温にならず、回転工具18の接している周囲の狭い範囲のみ、わずかな熱を帯びるだけであるので、溶接する場合のように頑丈にアルミニウム板10、10全体と溶接部を確実に固定する必要はなく、アルミニウム板10、10の周囲の適当な個所、例えば四隅を固定するだけでよく、接合部の固定は不要である。また、回転工具18が、接合面を押しながら接合していき、また、熱もそれ程高くならないので、接合部16が熱膨張で歪んだり、伸びることがなく、接合面を固定することなく接合することが可能である。
【0018】
上記のように摩擦撹拌接合により2枚のアルミニウム合金板10、10が接合され、例えば6m幅の広幅の平板材が製作される。この場合接合部は接合円板により平面状に成形され、下面はベットの上面に圧接されて鏡面状に形成される。
【0019】
次に上記摩擦撹拌接合にて接合した広幅な鏡面状の平板材はその接合部位が融点近くまで加熱されるために、焼き入れ状態と同様な処理が行われることになるために、焼き鈍しを行って接合部位16の軟質化処理を行う。
【0020】
次に、該広幅な平板材を円盤状に機械加工を行った後、図4に示す冷間スピニング加工にてドーム状に加工する。
上記摩擦撹拌接合方法にて接合した鏡面状の平板材10は、溶接接合のように変形することもないので、歪み取り修正を加える必要もなく、前記焼き鈍し処理をした後にそのまま冷間スピニング加工用の図4に示す装置にセットすることが可能である。
【0021】
先ず、冷間スピニング加工装置40は図4に示すように、回転主軸42とこれに結合された上面が鏡面状のマンドレル43とブランクの支持軸44と加工ローラ41よりなり、マンドレル43は鏡面状の平板材10の下面に位置し、回転主軸42と共に回転し、加工ローラ41はローラ支持アーム47に取り付き、ローラ支持アーム47を介してガイドシリンダ48とアーム軸方向移動シリンダ49により2軸方向に移動可能に構成され、回転主軸42とブランクの支持軸44により回転するアルミ合金板材10を回転させながら、平板材10の上面を加工ローラ41で圧力を加え、更に、この加工ローラ41を、マンドレル表面形状にほぼ沿った軌跡で内径側から外径側に向けて移動させて平板材をドーム状に加工し、図1に示すような偏平円筒状のロケットタンクドーム材が形成される。
【0022】
そして前記のようなドーム材に溶体化処理を常法に従い535℃×2時間加熱後急冷して施し、次にこの溶体化処理したタンクドーム材を、矯正成形加工を施して、次いでこれに191℃×36時間の時効処理を施す。
次に前記ドームのポート1bやマンホール1a(共に図1参照)及びドーム内形側の加工等を施してロケットタンクドーム本体1が形成される。
【0023】
尚、本実施例では、図1に示すように、ドームの底部外周に設けるT型フランジ部20を有するリング状スカート部2とその上部のドーム本体1を別体に分離して形成したが、図2(B)に示すように、ドームの底部外周に設けるT型フランジ20Aを有するリング状スカート部2Aとその上部のドーム本体部1Aを一体に形成することが可能であり、本発明によりその途中段階に相当するドームを製造できる。
【0024】
そしてこのようなドームの底部外周に設けるT型フランジ20Aを有するリング状スカート部2Aとその上部のドーム本体部1Aを一体に形成したものの完成斜視図が図2(B)に開示されている。
かかる図面は、本発明によって製造されるロケットタンクでシリンダースキン(円筒部)3の上下両側に取り付けられる、T型フランジ部20Aを有するスカート部とドーム本体1Aを一体化した1ピース型のドームの実施形態であり、ドーム本体1Aの上面に放射状のリブ61を多数延在させるとともに、リブ61の間と中心部にポートやマンホール等の円筒穴62を穿設する。
【0025】
図5は本発明のT−フランジを有するアルミ合金製タンクドームの製造方法を示す。
摩擦撹拌接合により2枚のアルミニウム合金板10が接合され、広幅の平板材を製作し、これに対して焼き鈍しを行って接合部位の軟質化処理を行った後、円盤状に機械加工を行う。
次に図3に示す冷間スピニング加工にてリブ61とともに上面をドーム状に加工する。
そしてさらに前記スカート部2Aに対しては下記スピニング加工にてT型フランジ20Aの製造を行う。
図5はスカート部2AのT型フランジ20Aの製造工程の概要を示す概念図である。又図6はスピニング成型装置を示す概略断面図である。図5〜図6において、12は裂開用スピニングローラー、14は成型用スピニングローラー、21はドーム用マンドレル、22はフランジ用マンドレル、23は材料をマンドレルとともに固定した状態で中心を軸に回転するディスク部である。
【0026】
図6はスピニング成型機に前記ドームのスカート部をチャッキングした状態で示した。図5(A)において、スカート部の厚みが24mmになるようにドームを前記冷間スピニング加工にて作製した後、このスカート部11を、図5(B)及び図6(A)に示すように、スピニング成型機にドーム用マンドレル21及びフランジ用マンドレル22とともに不図示の回転手段を備えたディスク部23に不図示の固定手段により固定し、円筒中心を軸に回転しつつこの円筒の肉厚の内径から12mmの円周にそって、裂開用ローラー12を不図示の回転手段で回転しつつ、押圧して深さ30mmまで切り込み、裂開溝を形成し、肉厚略12mmの内円筒2Bと肉厚略12mmの外円筒20A’に分けた。
【0027】
次に、図5(C)及び図6(B)に示すように外円筒20A’を不図示の回転手段によって回転する成型用スピニングローラー14で円筒中心軸直角に広げ、45mmの張り出し、厚み12mmの鍔を成型し、ニアネットシェイプ材を作製した。
【0028】
その後、前記のようなドーム材に535℃×2時間加熱後急冷して溶体化処理を施した。次にこの溶体化処理したドーム材を、矯正成形加工を施して、次いでこれに191℃×36時間の時効処理を施す。
【0029】
最後に前記ドームのポートやマンホール等及び内形側の加工を施した後、旋盤による機械加工で内円筒部2Bと外円筒20A’をT型フランジ部20Aとしての設計形状までに仕上げた。これにより、図5(D)に示す厚さ10mmのスカート部2Aから半径方向に40mm、厚さ10mmの鍔の張り出した、T型フランジ20Aを具えた高力アルミ合金製タンク用ドーム1Aが製造される。
【0030】
かかるいずれの実施形態においても、厚板且つ大板のアルミ合金材を用いることなく、材料費、加工時間を低減でき、アルミ合金製のタンクに使用するドーム(鏡板)、特にロケットタンクのドームのように大型で且つ板厚分布が複雑なドームを製造する際に、大型の板材や大型の専用機を用いずに、然も熟練度を必要とすることなく、アルミ合金製のタンクドームを容易に製作することが可能となった。また同様の製造法により製作されたドームは、現在半径方向に細分化された外板をリベット等で組み立て、リベット穴部や外板接合部を樹脂などでシールして製造している航空機圧力隔壁を一体化した一つのドーム部品として適用することもできる。
【0031】
【発明の効果】
以上記載のごとく本発明によれば、アルミ合金製圧力容器に使用するドーム(鏡板)、特にロケットタンクのドームのように大型で且つ板厚分布が複雑で、スカート部にT型フランジを具えた一ピース型のドームを製造する際に、大型の板材や大型の専用機を用いずに、然も熟練度を必要とすることなく、アルミ合金製のタンクドームを得ることが出来、特に通常販売されている3m幅程度のアルミ板を用いて大型のドームを製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明によって製造されるロケットタンクでシリンダースキン(円筒部)の上下両側に、T型フランジ部を有するスカート部とドーム本体を切り離した状態の2ピース型のドームの実施形態を示す。
【図2】 前記スカート部とドーム本体を一体化した状態の1ピース型のドームの実施形態を示し、(A)は概略断面図、(B)は斜視図である。
【図3】 2つのアルミニウム合金板を摩擦撹拌接合する場合の処理動作について説明する概略図である。
【図4】 平板材よりドームを形成するための冷間スピニング加工装置を示す概念図である。
【図5】 スカート部のT−フランジの製造工程の概要を示す概念図である。
【図6】 スピニング成形装置を示す概略断面図である。
【符号の説明】
2ピース型のドーム (20:T型フランジ部+2:スカート部+1:ドーム本体)
1ピース型のドーム (20A:T型フランジ部+2A:スカート部+1A:ドーム本体)
摩擦撹拌接合機械 (18:回転工具+20:突起部)
ドーム成形用の冷間スピニング加工装置 (42:回転主軸+43:マンドレル+44:ブランクの支持軸+41:加工ローラ)
Claims (3)
- スカート部にT型フランジを具えた一ピース型のドームを製造する方法において、ドーム直径より大なる大型の板材をドーム形状に対応させて冷間スピニングする工程を含み、前記冷間スピニング工程が大型の板材よりスカート部に段差状に帯状厚肉部を残した状態で薄肉のドームを製造する工程と、前記スカート部の帯状厚肉部を円周に沿って所定の深さまで裂開して、裂開せずに残る共通円筒から延在する外側円筒と内側円筒とにし、該外側円筒を円筒軸に対してほぼ垂直に所定の張り出し径及び肉厚を形成するようスピニング加工する工程とからなることを特徴とするアルミ合金製圧力容器に使用するドーム製造方法。
- 前記冷間スピニングする工程の後に、調質のために熱処理を行う工程を備え、前記調質後にケミカルミーリング加工及び機械加工を含む仕上げ加工にてドームを形成する工程よりなることを特徴とする請求項1記載のアルミ合金製圧力容器に使用するドーム製造方法。
- ドーム直径より大なる大型の板材を複数のアルミ合金製板材を摩擦撹拌接合により形成することを特徴とする請求項1記載のアルミ合金製圧力容器に使用するドーム製造方法。
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