JP4000498B2 - ガス検出方法 - Google Patents
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Description
【発明の利用分野】
この発明は金属酸化物半導体を用いたガスの検出に関する。
【0002】
【従来技術】
吉川らは、金属酸化物半導体ガスセンサに正弦波等のヒータ電圧を加え、これに対するガスセンサの信号波形を解析して、ガス種やガス濃度を求めることを提案している(特許第2867,474号)。この方法では、正弦波状のヒータ電圧はガスセンサへの刺激であり、これに対するガスセンサの信号波形は元の正弦波と同じ周波数の成分のみでなく、2倍波や3倍波等の高調波成分を含んでいる。このためこの技術は、ヒータ電圧の変化として刺激を加えたことに対する、非線形な応答を検出しているということができる。
【0003】
吉川らは、前記のようなガスセンサの信号波形をフーリエ変換し、得られたフーリエ級数の特徴からガス種とガス濃度を決定することを示している。しかしながらフーリエ級数とガス種や濃度との関係は複雑である。
【0004】
【発明の課題】
この発明の課題は、ガスの種類や濃度を正確にかつ容易に決定することにある。
【0005】
【発明の構成】
この発明のガス検出方法は、ヒータとガス検出用の金属酸化物半導体とを備えたガスセンサを用いて、前記ヒータの電力を周期的に変化させ、これに対する前記金属酸化物半導体の信号波形をフーリエ変換してガスを検出する方法において、予め、ガス種毎に、複数の既知のガス濃度に対して前記信号波形を複数取得し、取得した複数の信号波形をフーリエ変換し、得られたフーリエ級数からガス濃度への回帰係数を回帰分析により求めて、フーリエ級数からガス濃度への回帰係数をガス種毎に記憶し、ガスの検出時に、信号波形から得られたフーリエ級数をニューラルネットワークに入力してガス種を決定すると共に、ガス種毎に記憶したフーリエ級数からガス濃度への回帰係数と、得られたフーリエ級数からガス濃度を決定することを特徴とする。
好ましくは、複数の既知のガス濃度で複数個のガスセンサの信号波形からフーリエ級数を求めて、このフーリエ級数の値を用いて重回帰分析により、回帰係数を求める。即ち、実際の測定に用いるのと別のセンサを含む複数個のセンサの信号を用いて回帰係数を定める。
【0006】
【発明の作用と効果】
この発明では、ヒータ電力を周期的に変化させ、これに対する金属酸化物半導体の信号波形をフーリエ変換して、フーリエ級数を求める。このようにすると、例えば1つのガスセンサから多数の信号が得られる。そして得られたフーリエ級数をニューラルネットワークで処理してガス種を決定する。次にガス種毎にガス濃度へのフーリエ級数の関係を重回帰分析し、フーリエ級数の各成分からガス濃度への回帰係数を記憶しておく。この回帰係数と、測定時に実測したフーリエ級数とを用いて、ガス濃度を決定する。ここでガス種は、ニューラルネットワークで決定したガス種を用い、それに対応する回帰係数を利用する。このためニューラルネットワークはガス種の決定のみを行えば良く、重回帰分析により容易にガス濃度を決定することができる。
【0007】
ここで回帰係数を求めるには、フーリエ級数の値が複数組必要である。そこで例えば、実際にガスの検出に用いるのと同一種類で、好ましくは同一ロットのガスセンサを複数個用い、既知のガス濃度での信号波形からフーリエ級数を求めて、これらの複数個のセンサのデータを重回帰分析して、回帰係数を決定する。このようにすれば、1個のガスセンサで繰り返して信号波形を測定せずに、回帰係数を容易に定めることができる。
【0008】
【実施例】
図1〜図13に実施例を示す。図1にガス検出装置の構成を示すと、2はガスセンサで、SnO2等のガスにより抵抗値が変化する金属酸化物半導体4を、ヒータ6により加熱するようにしたものである。8はサイン波電源で、1周期例えば10〜60秒程度のサイン波状のヒータ電圧を発生する。10は定電圧電源で、金属酸化物半導体4と負荷抵抗11との直列辺に一定の電圧を加えると共に、その出力を検出装置各部の電源とする。なおここでは、抵抗11の値は十分小さくし、抵抗11への出力が金属酸化物半導体4の抵抗値に反比例するようにしておく。
【0009】
12はADコンバータ、14はメモリーで、ガスセンサ2からの1周期分の信号波形を記憶する。なおここに周期とは、サイン波電源8からの出力信号の周期を意味する。またメモリー14はサイン波電源8からのタイミング信号で記憶を開始し、記憶を開始するタイミングは、例えばヒータ電圧の最大値もしくは最小値とする。これはヒータ電圧の最大値や最小値の付近では、高調波成分が少ないため、信号波形中の情報量が少なく、1周期の間にガスセンサ2の状態が変化し、周期の最初と最後とで信号波形の値が異なっても、その影響を小さいからである。
【0010】
16は整形部で、メモリー14に記憶した1周期分の信号波形を処理し、1周期分の信号波形の最初と最後の値の差が、許容範囲以内かどうかをチェックする。この値が許容範囲外であれば検出は行わず、信号波形の最初と最後の値の差が許容範囲内になるまで待機する。次にこの値が許容範囲内でも、1周期の最初と最後とでセンサ信号の値に差がある場合、この差を打ち消すように、例えば時間に対して直線状に変化する補正信号を加えて、1周期の最初と最後とでセンサ信号の値を一致させる。この結果、整形部16からの出力は完全に周期的な信号となる。
【0011】
18はメモリーで、例えば1周期分のセンサ信号を記憶し、このメモリー18の値を複数回、例えば4〜16回繰り返して読み出すことにより、フーリエ変換部20に4周期分もしくは16周期分等の信号波形を入力する。即ち1周期分のセンサ信号をフーリエ変換すると、周期の両端でのいわゆる反射等により変換精度が低下するので、1つの信号周期を4周期もしくは16周期等の複数周期、特に好ましくは2のべき乗の周期に繰り返して引き伸ばし、これをフーリエ変換する。
【0012】
22は例えば3層のニューラルネットワークで、入力層と中間層及び出力層からなっている。そして入力ニューロンの数は、フーリエ変換部20からの出力フーリエ級数の数で定まり、例えばここでは、実数の0次成分(R0)の他に、実数部や虚数部の基本波成分から第6成分までのR1〜R6とI1〜I6の合計13ニューロンを配置する。他に湿度センサや温度センサ、気流センサ等を設けて、これらの信号もニューラルネットワーク22に入力しても良い。中間層は例えば8〜10ニューロン程度からなり、出力層は例えばここでは8種類のガスの弁別を目的とするので、8ニューロンからなる。各ニューロンの出力は0から1までの範囲シグモイド関数を取り、出力ニューロンの値が1はそのニューロンに対するガスが存在する確率は100%で、値が0はそのニューロンに対するガスが存在する確率は0%であることを意味する。
【0013】
フーリエ変換部20の信号は定量部26へ入力され、24は重回帰分析により求めた回帰係数を記憶するためのメモリーである。そして定量部26では、ニューラルネットワーク22で求めたガス種により、どのガスに対応する回帰係数を読み出すかの読み出しアドレスを定め、この読み出しアドレスに対する回帰係数を順次出力する。出力された回帰係数に対して、該当するフーリエ級数の値をフーリエ変換部20から供給し、これらを乗算し、順次加算してガス濃度を求める。なおこのガス濃度は対数単位である。
【0014】
図2にサイン波電源8の出力電圧の例を示す。ここでは1周期は40秒で、サイン波電圧は最低電圧が2Vで最大電圧が5.5Vで、最低電圧2Vを出力した時点でメモリー14への記憶を開始する。
【0015】
図3にエタノール100ppm及びメタノール100ppmに対する1周期分の信号波形を示す。図から明らかなように、エタノールはメタノールに比べて、フーリエ級数での高調波成分が大きく、より複雑な信号波形を成している。なお図3では1周期の最初と最後とで信号の値が完全に一致するが、これらが一致しない場合、前記の整形部16で処理し、人為的に1周期の最初の値と最後の値とを一致させる。
【0016】
図4に8種類のガスに対するフーリエ級数の実数部を示し、図5に同じ8種類のガスに対するフーリエ級数の虚数部を示す。なお各ガス濃度は100ppmで、用いたガスはエタノール,メタノール、ジエチルエーテル,アセトン,エチレン,アンモニア,イソブタン,ベンゼンの8種類である。これ以外にフーリエ級数には実数の定数部R0が存在するが、その値は表1に示す。
【0017】
【表1】
8種類のガスのフーリエ級数(実数部0次成分)
エタノール 2182
メタノール 2421
ジエチルエーテル 2234
アセトン 3525
エチレン 3687
アンモニア 7224
イソブタン 6398
ベンゼン 3697
【0018】
実施例では、フーリエ級数として実数の定数部R0の他に実数成分として6成分(R1〜R6)、虚数成分として6成分(I1〜I6)を考慮するので、1つの信号波形から合計13の信号を取り出すことができる。そしてこれらの13の信号をニューラルネットワーク22の入力層に入力して、出力層からガス種を出力する。なおニューラルネットワーク22の学習や回帰常数の決定は、以下のようにした。同一種類で同一ロットのガスセンサを例えば3個用い、これらのガスセンサを同一条件で同時に用い、既知の濃度の8種類のガス(10,30,100ppm)にさらし、それに対する出力をフーリエ変換してフーリエ級数を求めた。この結果、1つのガスの種類の各ガス濃度毎に、3つのフーリエ級数の値が得られた。そしてこれらの値をニューラルネットワーク22に入力し、ニューラルネットワーク22が収束するまで学習させた。得られた各ニューロン間の結合常数を、全てのガス検出装置に対してコピーして用いた。
【0019】
ガスの種類は既知なので、1つのガスに対する3つのガス濃度での信号(各ガス濃度毎にセンサは3個)のフーリエ級数の値を用いて、重回帰分析を行い、回帰常数を決定した。そして決定した回帰常数を全てのガス検出装置のメモリー24に記憶させた。なおここでガスセンサの数を3個としたのは、実験の都合上によるものであり、好ましくは10個あるいは60個等のより多くの数とする。また好ましくは、実際に測定に用いるガスセンサを含む、同じ種類の同じロットのガスセンサを用いて、ニューラルネットワーク22でのニューロン間の結合定数や、重回帰分析での回帰常数を求め、これらを各ガス検出装置に対して記憶させる。このようにすれば、1つのガス検出装置毎に複数回の測定を行って、ニューラルネットワーク22を個別に学習させ、あるいはセンサ毎に回帰常数を求める代わりに、多数のガスセンサを用いて、一挙にニューラルネットワーク22でのニューロン間の結合定数や回帰常数を求めることができる。この結果、ガス検出装置の較正の手間を小さくできる。
【0020】
表2〜表9に、前記の8種類のガスに対する回帰定数の値を示す。この回帰係数は、前記の3個のガスセンサに対して求めたフーリエ級数の値から、重回帰分析により求めたものである。次に回帰係数からガス濃度への換算は、例えば表2のエタノールの場合、式(1)のようにする。即ち出力はガス濃度の自然対数単位で、定数項を先頭に置き、次いで実数0次成分に対する回帰係数の掛け算と、実数2次成分に対する回帰係数の掛け算を加えたものとする。
【0021】
回帰係数の決定では、例えば重回帰分析に用いる信号成分の数を最大4等に制限し、この範囲内でウィルクスのラムダが最小となる組み合わせを求めた。これは13個の可能な信号に対して、最も良くガス濃度を説明し得る最大4個の成分を求めることに相当する。次に最大4個の成分が求まったならば、それから1成分もしくは2成分を減少させた組み合わせを検討し、かつ重回帰分析による誤差が所定範囲内でしか増加しないならば、重回帰分析に用いる成分(因子)を減少させるようにした。実施例では、重回帰分析に用いる因子は2〜4成分である。
【0022】
【表2】
エタノール 非標準化回帰係数
定数 8.82460
実数0 −0.00048
実数2 −0.01566
【0023】
LnC(ppm)=8.8246−0.00048・R0−0.01566・R2 (1)
定数項の8.8246はオフセットで、実数0次成分R0への回帰係数−0.00048をR0に乗算し、実数2次成分R2への回帰係数−0.01566R2に乗算すると、エタノール濃度が定まる。
【0024】
【表3】
メタノール 非標準化回帰係数
定数 12.47281
実数0 −0.00053
実数2 −0.02281
実数1 −0.00072
【0025】
【表4】
ジエチルエーテル 非標準化回帰係数
定数 7.12648
実数1 −0.00308
実数0 −0.0005
【0026】
【表5】
アセトン 非標準化回帰係数
定数 7.30010
実数0 −0.00059
実数6 0.047837
【0027】
【表6】
エチレン 非標準化回帰係数
定数 4.66242
実数3 0.017473
実数6 0.05363
【0028】
【表7】
アンモニア 非標準化回帰係数
定数 18.16242
虚数2 −0.0329
虚数3 0.041732
実数0 −0.00023
【0029】
【表8】
イソブタン 非標準化回帰係数
定数 11.94946
実数1 −0.00685
虚数1 0.007954
虚数6 −0.11536
虚数2 −0.00452
【0030】
【表9】
ベンゼン 非標準化回帰係数
定数 6.59884
実数4 −0.04553
実数2 −0.01176
実数0 −0.00015
【0031】
図6〜図13に、8種類のガスに対する、表2〜9のデータを用いて回帰分析により求めたガス濃度を示す。実際のガス濃度は10ppm,30ppm,100ppmの3種類で、回帰係数を決定するのに用いた測定とは別の測定のデータから、図6〜13のガス濃度の回帰分析による予測値を求めた。即ち、回帰係数を求めるのに用いた3個のガスセンサに対して、別の測定で信号波形のフーリエ級数の値を求め、ニューラルネットワーク22で出力したガス種を正しいガス種として、記憶した回帰係数を用いて、式(1)等によりガス濃度を求めた。なお8種類のガスに対して、ガスの種類は完全に正しい値が得られた。これはニューラルネットワーク22が、8種類のガスを識別し得ることを意味している。
【0032】
図6〜図13に示すように、回帰分析により予測したガス濃度は実際のガス濃度と極めて良く一致する。従ってニューラルネットワーク22を用いることによりガスの種類を特定でき、回帰分析を用いることによりガス濃度を正確に決定し得ることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例のガス検出装置のブロック図
【図2】 実施例で用いたヒータ波形を示す特性図
【図3】 実施例での、メタノール100ppm及びエタノール100ppm中の、ガスセンサの出力波形を示す特性図
【図4】 実施例で、エタノール(EtOH),メタノール(MeOH),ジエチルエーテル,アセトン,エチレン,アンモニア,イソブタン,ベンゼンの各100ppm中での、ガスセンサの出力波形をフーリエ変換した際の、フーリエ級数の実数部を示す特性図
【図5】 実施例で、エタノール(EtOH),メタノール(MeOH),ジエチルエーテル,アセトン,エチレン,アンモニア,イソブタン,ベンゼンの各100ppm中での、ガスセンサの出力波形をフーリエ変換した際の、フーリエ級数の虚数部を示す特性図
【図6】 実施例での、エタノール10,30,100ppm中に対する重回帰分析の結果を示す特性図
【図7】 実施例での、メタノール10,30,100ppm中に対する重回帰分析の結果を示す特性図
【図8】 実施例での、ジエチルエーテル10,30,100ppm中に対する重回帰分析の結果を示す特性図
【図9】 実施例での、アセトン10,30,100ppm中に対する重回帰分析の結果を示す特性図
【図10】 実施例での、アンモニア10,30,100ppm中に対する重回帰分析の結果を示す特性図
【図11】 実施例での、エチレン10,30,100ppm中に対する重回帰分析の結果を示す特性図
【図12】 実施例での、イソブタン10,30,100ppm中に対する重回帰分析の結果を示す特性図
【図13】 実施例での、ベンゼン10,30,100ppm中に対する重回帰分析の結果を示す特性図
【符号の説明】
2 ガスセンサ
4 金属酸化物半導体
6 ヒータ
8 サイン波電源
10 定電圧回路電源
12 ADコンバータ
14 メモリー
16 整形部
18 メモリー
20 フーリエ変換部
22 ニューラルネットワーク
24 回帰係数のメモリー
26 定量部
Claims (2)
- ヒータとガス検出用の金属酸化物半導体とを備えたガスセンサを用いて、前記ヒータの電力を周期的に変化させ、これに対する前記金属酸化物半導体の信号波形をフーリエ変換してガスを検出する方法において、
予め、ガス種毎に、複数の既知のガス濃度に対して前記信号波形を複数取得し、取得した複数の信号波形をフーリエ変換し、得られたフーリエ級数からガス濃度への回帰係数を回帰分析により求めて、フーリエ級数からガス濃度への回帰係数をガス種毎に記憶し、
ガスの検出時に、信号波形から得られたフーリエ級数をニューラルネットワークに入力してガス種を決定すると共に、
ガス種毎に記憶したフーリエ級数からガス濃度への回帰係数と、得られたフーリエ級数からガス濃度を決定することを特徴とする、ガス検出方法。 - 複数の既知のガス濃度で複数個のガスセンサの信号波形から求めたフーリエ級数を用いて、前記回帰係数を重回帰分析により求めることを特徴とする、請求項1のガス検出方法。
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