JP3998425B2 - 強磁性ii−vi族系化合物及びその強磁性特性の調整方法 - Google Patents

強磁性ii−vi族系化合物及びその強磁性特性の調整方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光を透過するII-VI族系化合物において強磁性特性を実現させた単結晶の強磁性II-VI族系化合物および該化合物の強磁性特性の調整方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
光を透過しながら高い強磁性特性を有する単結晶の強磁性薄膜が得られれば、大量の情報伝達に必要な磁気光学効果を用いた光アイソレータや高密度磁気記録が可能になり、将来の大量情報伝達に必要な電子磁気材料を作製することができる。そのため、光を透過し、かつ強磁性を有する材料が望まれている。
【0003】
II-VI族系化合物は、そのバンドギャップ(Eg)が大きく〔ZnS (Eg=3.8eV), ZnSe (Eg=2.7eV), ZnTe (Eg=2.4eV), CdS (Eg=2.5eV), CdSe (Eg=1.7eV), CdTe (Eg=1.4eV)〕、赤色から紫外までの波長の光を透過するという性質を有すると共に、そのエキシトンの結合エネルギーが大きく、この材料で強磁性が得られれば、コヒーレントなスピン状態を利用した光量子コンピュータなどの光デバイス作製のために大きな発展が期待される。
【0004】
しかし、従来は、II-VI族系化合物にMnをドープした例(特許第2756501号公報)はあるが、反強磁性状態または反強磁性スピングラス状態となっており、室温以上の高い強磁性転移温度(キューリー点)を持つII-VI族系化合物の強磁性状態の実現は報告されていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前述のように、II-VI族系化合物を用いて安定した強磁性特性が得られれば、その化合物をエキシトンの結合エネルギーが大きいII-VI族系化合物よりなる半導体レーザなどの発光素子と組み合わせて利用することができたり、磁気状態を反映した円偏光した光を発生させたりすることができ、磁気光学効果を利用する磁気光学スピンデバイス開発のために用途が非常に大きくなる。
【0006】
さらに、前述のように、光を照射し、磁化状態を変化させることにより、強磁性体メモリを構成する場合、強磁性転移温度(キュリー温度)を光の照射により変化するような温度(室温よりわずかに高い温度)に設定するなど、強磁性特性が所望の特性になるように作成する必要がある。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、光を透過するII-VI族系化合物を用いて、強磁性が得られる強磁性II-VI族系化合物を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の他の目的は、強磁性II-VI族系化合物を作成するに当り、例えば、強磁性転移温度などの、その強磁性特性を調整することができる強磁性II-VI族系化合物の強磁性特性を調整する方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、光を透過する材料として特に適したII-VI族系化合物を用い、強磁性特性を有する単結晶を得るため鋭意検討を重ねた結果、Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Niなどの遷移金属元素は、ZnやCdのイオン半径と近く、ZnやCdの50at%程度以上を置き換え(混晶化させ)ても十分に単結晶が得られること、特に、V,Crの少なくとも一方の遷移金属元素をII-VI族系化合物に混晶化させ、d電子やdホールが結晶中を遍歴することにより、また、キャリアをドーピングすることにより、安定した強磁性状態にすることができることを見出した。
【0010】
そして、本発明者らが、さらに、鋭意検討を重ねた結果、V, Crの遷移金属およびMnなどのその他の遷移金属元素は、電子スピンs=3/2、4/2,5/2を持つ高スピン状態となり、これらの遷移金属元素の濃度や混合割合を調整することにより、所望の磁気特性を有する単結晶性で、かつ、強磁性のII-VI族系化合物が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、遷移金属元素の濃度を変化したり、これらの2種類以上の組合せや、その割合を変えた混晶にしたり、さらに、n型および/またはp型のドーパントを添加したりすることにより、強磁性転移温度を可変し得ること、反強磁性や常磁性状態より強磁性状態を安定化させ得ること、その強磁性状態のエネルギー(例えば、僅かの差で反強磁性になるが、通常は強磁性状態を維持するエネルギー)を調整し得ること、遷移金属元素により最低透過波長が異なり、2種類以上を選択的に混晶することにより、所望のフィルタ機能をもたせ得ること、を見出した。
【0012】
本発明による強磁性II-VI族系化合物は、II-VI族系化合物において、VまたはCrよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属がII族元素を5at%〜80at%置換して閃亜鉛鉱型構造の単結晶を維持すると共に、その透明性を維持しながら強磁性を示す混晶を形成している。
【0013】
ここに、II-VI族系化合物とは、ZnまたはCdを含むカルコゲン化合物、具体例としては、ZnS, ZnSe, ZnTe, CdS, CdSe, CdTeである。
【0014】
この構成にすることにより、前述の遷移金属元素はZnやCdなどのII族元素とイオン半径が近く、ZnやCdの50at%程度以上を置換しても閃亜鉛鉱型構造の単結晶を維持すると共に、その透明性を維持しながら、閃亜鉛鉱型強磁性の性質を呈する。
【0015】
前記の遷移金属元素、およびTi, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Rh, またはRuよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素が含有されることにより、その金属元素のd電子の状態がそれぞれ異なり、ホールまたは電子をドープするよりも直接的に強磁性特性が変化し、強磁性転移温度などの強磁性特性を調整することができる。
【0016】
n型ドーパント B,Al,In,Ga,Zn もしくは Cl,Br, または H またはp型ドーパント N または励起状態の N 2 の少なくとも一方がドーピングされても、ドーパントはII-VI族系化合物の母体に入るため、遷移金属元素間の影響のように直接的ではないが、II-VI族系化合物に近いd電子に作用して、ホールまたは電子が変動し、その強磁性特性を調整することができる。
【0017】
本発明によるII-VI族系化合物の強磁性特性の調整方法は、ZnTe, ZnSe, ZnS, CdTe, CdSe,またはCdSよりなる群から選ばれるII-VI族系化合物に、
(1) VまたはCrよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素、
(2) 前記(1)の遷移金属元素、およびTi, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Rh, またはRuよりなる群から選ばれる少なくとも1種のその他の遷移金属元素、または
(3) 前記(1)または(2)の遷移金属元素と、
n型ドーパント B,Al,In,Ga,Zn もしくは Cl,Br, または H またはp型ドーパント N または励起状態の N 2 の少なくとも一方、
のいずれかを添加し、
前記(1)、(2)、または(3)の元素の添加濃度の調整により強磁性特性および/または強磁性転移温度を調整することを特徴とする。
【0018】
また、ZnTe, ZnSe, ZnS, CdTe, CdSe,またはCdSよりなる群から選ばれるII-VI族系化合物に、
(1) VまたはCrよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素、
(2)前記(1)の遷移金属元素、およびTi, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Rh, またはRuよりなる群から選ばれる少なくとも1種のその他の遷移金属元素、
のいずれかを添加し、これらの添加金属元素の組合せにより強磁性特性および/または強磁性転移温度を調整することを特徴とする。
【0019】
また、前記(2)に列記される遷移金属元素を混晶させ、強磁性のエネルギーを調整すると共に、該金属元素自身により導入されたホールまたは電子による運動エネルギーによって全エネルギーを低下させることにより、強磁性状態を安定化させることができる。
【0020】
また、前記(2)に列記される遷移金属元素を混晶させ、該金属元素自身により導入されたホールまたは電子によって、金属原子間の磁気的相互作用の大きさと符号を制御することにより、強磁性状態を安定化させることができる。
【0021】
さらに、前記(2)に列記される遷移金属元素を混晶させ、該金属元素自身により導入されたホールまたは電子によって、金属原子間の磁気的相互作用の大きさと符号を制御すると共に、透過する光の最小波長を調整することができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
次に、図面を参照しながら本発明による強磁性II-VI族系化合物、およびその強磁性特性の調整方法について説明をする。本発明による強磁性II-VI族系化合物は、VまたはCrよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素がII-VI族系化合物のII族元素を置換して混晶を形成している。
【0023】
前述のように、本発明者らは、II-VI族系化合物を用いて強磁性材料を得るために鋭意検討を重ねた。その結果、VまたはCrの遷移金属元素は、反強磁性を示すMnより3d電子が減することにより、図2に、ZnTeにおける反強磁性スピングラス状態の全エネルギーと強磁性状態の全エネルギーとの差△Eが示されるように、いずれも、VまたはCrのみを単独で混晶させるだけで強磁性を示すことを見出した。
【0024】
図2に示す混晶割合は、ZnTeのZnに対して、5, 10, 15, 20, 25at%の例であるが、混晶割合としては、数%でも強磁性を示し、また、多くしても結晶性および透明性を害することがなく、1at%から99at%、好ましくは、5at%〜80at%であれば、充分な強磁性を得やすい。この遷移金属元素は1種類である必要はなく、後述するように、2種類以上を混晶(合金化)することができる。
【0025】
このような遷移金属元素を含有するZn化合物の薄膜を成膜するには、例えば、図1に概略を示すようなMBE装置を使用することができる。MBE装置を用いて、1.33×10-6Pa程度の超高真空を維持できるチャンバー1内の基板ホルダー4に、ZnTe化合物を成長する、例えば、GaNやサファイアなどの基板5を設置し、ヒータ7により基板5を加熱できるようになっている。
【0026】
そして、基板ホルダー4に保持される基板5と対向するように、成長する化合物を構成する元素の材料(ソース源)Znを入れたセル2a、Teを入れたセル2d、V, Crなどの遷移金属元素を入れたセル(1個しか示されていないが、2種類以上を混晶させる場合は2個以上設けられている)2b、n型ドーパントのGa, Al, In, Cl, Brなどを入れたセル2c、p型ドーパントのラジカルチッ素Nを発生させるRFラジカルセル3aが設けられている。なお、Znや遷移金属などの固体原料はこれらの金属の酸化物をセルに入れて加熱して原子状にすることもできる。
【0027】
なお、固体(単体)を入れるセル2a〜2dは、それぞれに加熱装置(図示されていない)が設けられ、加熱により固体ソースを原子状にして蒸発させられるようになっており、ラジカルセル3aは、図1に示されるように、RF(高周波)コイル8により活性化させている。
【0028】
このZn、遷移金属元素およびn型ドーパント材料としては、純度99.99999%の固体ソースを原子状にし、また、N+または励起状態のN2は、N2分子もしくはN2Oを前述のラジカルセルにより活性化して使用する。なお、Ga, Al, Inや遷移金属元素は分子ガスにマイクロ波領域の電磁波を照射することにより原子状にすることもできる。
【0029】
そして、ZnTeを成長させながら、n型ドーパントのGa, Al,またはInを流量1.33×10-5Paで、さらに、p型ドーパントである原子状Nを6.65×10-5Paで、また、例えば、VまたはCrの原子状遷移金属元素を1.33×10-5Paで、同時に、基板5上に流しながら、350〜750℃で成膜することにより、VまたはCrを混晶させたZnTe薄膜6を成長させることができる。
以上の説明では、n型ドーパントやp型ドーパントをドーピングする例で説明しているが、前述の図2および後述する表1および表2の例は、いずれのドーパントもドーピングしないで、VまたはCrのみドーピングした例である。
【0030】
このようにして、VまたはCrを混晶させたZnTe薄膜は、図2に示されるように、VまたはCrが、反強磁性スピングラス状態の全エネルギーと強磁性状態の全エネルギーとの差△Eが、それぞれ、16×13.6meV、15×13.6meVと大きく、強磁性を示していることが分かる。
なお、図2のデータは、第一原理計算(原子番号を入力パラメータとしてシミュレーションする)によるデータであり、各遷移金属の濃度依存性を示してある。Mn, Fe, Co, Niは反強磁性スピングラスとなる。
【0031】
この例では、ZnTe化合物に遷移金属元素をドープさせたが、ZnTeのZnの一部がMgやCdなどの他のII族元素と置換したZnTe系化合物でもバンドギャップが可変であることを除けば、ZnTeと同様の構造であり、バンドギャップの大きさが制御できるので、同様に強磁性の単結晶が得られる。
【0032】
本発明の強磁性ZnTe系化合物によれば、Znとイオン半径がほぼ同じの遷移金属元素を混晶させているため、Zn2+が遷移金属元素のV2+やCr2+などと置換されて、閃亜鉛鉱型構造を維持する。
しかも、VまたはCrは、Mnよりd電子が減少する電子構造になっており、図2に示されるように、このままの状態で強磁性状態で安定する。しかも、この強磁性ZnTeは、後述する表1および表2にも示されるように、その磁気モーメントが大きく、例えば、Fe単体(磁気モーメント2×9.274J/T(2μB))より大きな磁気モーメント4.01×9.274J/T(4.01μB(ボーア磁子))のCr含有ZnTe系化合物が得られ、非常に磁性の強い強磁性磁石が得られる。
なお、図6は、ZnTe中のVの電子状態密度であり、ハーフメタリック(上向きスピンが金属状態であり、下向きスピンは半導体である)状態を示している。また、図7は、ZnTe中のCrの電子状態密度であり、ハーフメタリック(上向きスピンが金属状態であり、下向きスピンは半導体である)状態を示している。
【0033】
次に、VまたはCrの濃度を変えることによる磁気特性の変化を調べた。前述の25at%濃度のものの他に、濃度が5, 10, 15, 20at%のものを作成し、それぞれの磁気モーメント(×9.247J/T)および強磁性転移温度(度K)を調べた。磁気モーメントおよび強磁性転移温度はSQUID(superconducting quantum interference device
; 超伝導量子干渉素子)による帯磁率の測定から得られたものである。
【0034】
その結果が表1および表2に示されている。表1および表2から、混晶割合が大きくなる(濃度が高い)ほど強磁性転移温度が上昇する傾向が見られ、混晶割合にほぼ比例して増加する。この関係を図3に示す。また、スピン間の強磁性的相互作用も濃度の増加に伴って増大する。
【0035】
【表1】
Figure 0003998425
【0036】
【表2】
Figure 0003998425
【0037】
前述のように、VまたはCrは、電子スピンs=3/2、4/2をもつ高スピン状態となり、この表1および表2、ならびに図3からも明らかなように、その濃度を変化させることにより、強磁性的なスピン間相互作用と強磁性転移温度を調整し、制御することができることが分かる。なお、強磁性転移温度は、300度K以上になるようにすることが、実用上好ましい。
【0038】
さらに、本発明者らは、VまたはCrの少なくとも1種とその他の反強磁性の遷移金属元素を1種類以上混晶させることにより、ホールや電子の状態を調整できると共に、それぞれの磁気特性を併せ持たせることができることを見出した。
例えば、VやCrの遷移金属と反強磁性のMnを混晶させ、VとMn、CrとMnとを合せて25at%とし、Cr0.25-xMnxZn0.75Teのxを種々変化させた。その結果、図4に示されるように、強磁性転移温度を大きく変化させることができ、x=0.13で0度Kとすることができ、x=0〜0.13の範囲を選定することにより、所望の強磁性転移温度に設定することができる。
【0039】
また、VとMnを同様に合せて25at%混晶させ、V0.25-xMnxZn0.75Teのxを種々変化させることができる。また、図示されていないが、磁気モーメントにつても両者の混合割合に応じた磁気モーメントが得られる。
前述の各例は、VまたはCrの少なくとも1種とその他の反強磁性の遷移金属元素を1種類以上ドープすることにより、その強磁性特性を変化させたが、n型ドーパントまたはp型ドーパントをドープしても、同様にホールまたは電子の量を変化させることができ、その強磁性状態を変化させることができる。
【0040】
この場合、n型ドーパントまたはp型ドーパントは、ZnTeの伝導帯や価電子帯に入り、その近くにある遷移金属元素のd 電子に作用するため、必ずしもドーピングされたドーパントがそのまま全て作用することにはならないが、d電子への作用により、その強磁性状態を変化させ、強磁性転移温度にも変化を与える。
【0041】
例えば、n型ドーパントをドープすることにより、電子を供給したことになり、VやCrを混晶させながらn型ドーパントをドープすることは、前述のVやCrにさらにMnを添加するのと同様の効果が得られ、Crと共にp型ドーパントをドープすることは、前述のCrにVを添加するのと同様の効果が得られる。
【0042】
例えば、n型ドーパントまたはp型ドーパント(電子またはホール)のドーピングによる(反強磁性スピングラス状態の全エネルギー)−(強磁性状態の全エネルギー)=△E、の変化が顕著であるCrをZnTeに混晶させた例で、不純物をドーピングしたときの不純物濃度(at%)に対する△Eの関係を図5に示す。
【0043】
このように、ホールの導入により強磁性が安定化し、一方、電子ドープにより強磁性が消失するので、その強磁性特性を調整することができる。Vなどの遷移金属元素は、元々強磁性を示し、反強磁性スピングラス状態との間でこれほど大きな変化はないが、同様の強磁性状態を変化させることができ、強磁性転移温度を調整することができる。
なお、このドーパントによる調整は、前述の遷移金属を混晶する調整と異なり、磁気モーメントそのものはZnTeに混晶させた遷移金属の種類により定まる値を維持する。
【0044】
n型ドーパントとしては、B, Al, In, Ga, ZnもしくはCl, Br, またはHを使用することができ、ドーピングの原料としては、これらのカルコゲン化合物を使用することもできる。また、ドナー濃度としては、1×1018cm-3以上であることが好ましい。例えば、1020〜1021cm-3程度にドープすれば、前述の混晶割合の1〜10%程度に相当する。
また、p型ドーパントとしては、前述のようにN+または励起状態のN2である原子状Nを用いることができる。この場合、p型ドーパントはドーピングしにくいが、n型ドーパントを同時に僅かにドーピングすることにより、p型濃度を大きくすることができる。
【0045】
本発明者らは、さらに鋭意検討を重ねた結果、II-VI族系化合物に混晶させる遷移金属がVかCrかにより、その透過する最小の波長が異なり、VまたはCrの少なくとも1種とその他の遷移金属元素を1種類以上混晶することにより、光の透過特性である透過率や屈折率はあまり変わらないものの透過する光の最小波長を調整することができ、所望の波長以下の光をカットする光フィルタを形成することができることを見出した。
【0046】
すなわち、所望の波長の光を透過させる強磁性のII-VI族系化合物が得られる。VまたはCrを25at%ZnTeに混晶させたときの透過する光の最小波長は表3に示す通りになった。
【0047】
【表3】
Figure 0003998425
すなわち、この例によれば、所望の波長の光に対して、透明な強磁性磁石を得ることができる。
【0048】
以上のように、本発明によれば混晶される金属元素自身などにより導入されたホールまたは電子の運動エネルギーによって、全エネルギーを変化させることができ、その全エネルギーを低下させるように導入するホールまたは電子を調整しているため、強磁性状態を安定化させることができる。
また、導入されるホールまたは電子によって金属原子間の磁気的相互作用の大きさおよび符号が変化し、そのホールまたは電子によってこれらを制御することにより、強磁性状態を安定化させることができる。
【0049】
前述の例では、II-VI族系化合物の薄膜を成膜する方法として、MBE(分子線エピタキシー)装置を用いたが、MOCVD(有機金属化学気相成長)装置でも同様に成膜することができる。この場合、Zn, Cdや遷移金属などの金属材料は、例えば、ジメチル亜鉛などの有機金属化合物として、MOCVD装置内に導入する。このようなMBE法やMOCVD法などを用いれば、非平衡状態で成膜することができ、所望の濃度で遷移金属元素などをドーピングすることができる。
【0050】
成膜の成長法としては、これらの方法に限らず、Zn硫化物(セレン化物)固体、遷移金属元素金属または硫化物(セレン化物)の固体をターゲットとし、活性化したドーパントを基板上に吹きつけながら成膜するレーザアブレーション法でも薄膜を成膜することができる。
【0051】
さらに、遷移金属元素やそのカルコゲン化合物を原料としてドープする場合、ラジオ波、レーザ、X線、または電子線によって電子励起して原子状にするECRプラズマを用いることもできる。n型ドーパントやp型ドーパントでも同様にECRプラズマを用いることができる。このようなECRプラズマを用いることにより、原子状にして高濃度までドープすることができるというメリットがある。
【0052】
【発明の効果】
本発明によれば、II-VI族系化合物にVまたはCrの少なくとも1種を含有させるだけで、強磁性単結晶が得られるため、すでに実現しているn型およびp型の透明電極として使用されているZnOや、光ファイバと組み合わせることにより、量子コンピュータや大容量光磁気記録、また、可視光から紫外領域に亘る光エレクトロニクス材料として、高性能な情報通信、量子コンピュータへの応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の強磁性II-VI族系化合物薄膜を形成する装置の一例の説明図である。
【図2】 V, Crなどの遷移金属をZnTeに混晶させたときの反強磁性体の全エネルギーと強磁性体の全エネルギーとの差△Eを示す図である。
【図3】 ZnTeに混晶させる遷移金属の濃度を変えたときの強磁性転移温度および磁気モーメントの変化を示す図である。
【図4】2種類以上の遷移金属元素を混晶させたときのその割合による強磁性転移温度の変化の状態を説明する図である。
【図5】 Crを例としたn型およびp型のドーパントを添加したときの磁性状態の変化を示す説明図である。
【図6】 ZnTe中のVの電子状態密度であり、ハーフメタリック(上向きスピンが金属状態であり、下向きスピンは半導体である)状態を示す図である。
【図7】 ZnTe中のCrの電子状態密度であり、ハーフメタリック(上向きスピンが金属状態であり、下向きスピンは半導体である)状態を示す図である。
【符号の説明】
1 チャンバー
2,3 セル
5 基板
6 Vおよび/またはCrを混晶したZnTe薄膜

Claims (8)

  1. ZnTe, ZnSe, ZnS, CdTe, CdSe,またはCdSよりなる群から選ばれるII-VI族系化合物において、VまたはCrよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属がII族元素を5at%〜80at%置換して閃亜鉛鉱型構造の単結晶を維持すると共に、その透明性を維持しながら強磁性を示す混晶を形成してなることを特徴とする単結晶強磁性II-VI族系化合物。
  2. さらに、Ti, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Rh,またはRuよりなる群から選ばれる少なくとも1種のその他の遷移金属が混晶を形成してなることを特徴とする請求項1記載の強磁性II-VI族系化合物。
  3. n型ドーパント B,Al,In,Ga,Zn もしくは Cl,Br, または H またはp型ドーパント N または励起状態の N 2 の少なくとも一方がドーピングされてなることを特徴とする請求項1または2記載の強磁性II-VI族系化合物。
  4. ZnTe, ZnSe, ZnS, CdTe, CdSe,またはCdSよりなる群から選ばれるII-VI族系化合物に、
    (1) VまたはCrよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素、
    (2) 前記(1)の遷移金属元素、およびTi, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Rh, またはRuよりなる群から選ばれる少なくとも1種のその他の遷移金属元素、または
    (3) 前記(1)または(2)の遷移金属元素と、n型ドーパント B,Al,In,Ga,Zn もしくは Cl,Br, または H またはp型ドーパント N または励起状態の N 2 の少なくとも一方、
    のいずれかを添加し、前記(1)、(2)、または(3)の元素の添加濃度の調整により強磁性特性および/または強磁性転移温度を調整することを特徴とする強磁性II-VI族系化合物の強磁性特性の調整方法。
  5. ZnTe, ZnSe, ZnS, CdTe, CdSe,またはCdSよりなる群から選ばれるII-VI族系化合物に、
    (1) VまたはCrよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素、
    (2)前記(1)の遷移金属元素、およびTi, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Rh, またはRuよりなる群から選ばれる少なくとも1種のその他の遷移金属元素、
    のいずれかを添加し、これらの添加金属元素の組合せにより強磁性特性および/または強磁性転移温度を調整することを特徴とする強磁性II-VI族系化合物の強磁性特性の調整方法。
  6. 前記(2)の遷移金属元素を混晶させ、強磁性のエネルギー状態を調整するとともに、該金属元素自身により導入されたホールまたは電子による運動エネルギーによって全エネルギーを低下させることにより強磁性状態を安定化させることを特徴とする請求項4または5記載の調整方法。
  7. 前記(2)の遷移金属元素を混晶させ、該金属元素自身により導入されたホールまたは電子によって、金属原子間の磁気的相互作用の大きさと符号を制御することにより強磁性状態を安定化させることを特徴とする請求項4または5記載の調整方法。
  8. 前記(2)の遷移金属元素を混晶させ、該金属元素自身により導入されたホールまたは電子によって、金属原子間の磁気的相互作用の大きさと符号を制御するとともに、透過する光の最小波長を調整することを特徴とする請求項4または5記載の調整方法。
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