JP3998036B2 - 生体侵襲反応低減方法、物質改質装置及び空気調和機 - Google Patents

生体侵襲反応低減方法、物質改質装置及び空気調和機 Download PDF

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Description

本発明は、生体侵襲反応低減方法、物質の生体侵襲反応を低減するために物質を改質する物質改質装置及び物質改質装置を備えた空気調和機に関する。
近年、スギ花粉症患者数の増加が問題となっているが、スギ花粉症患者の増加については、スギ花粉症患者数の増加とディーゼルエンジン搭載車数の増加が正の相関をしていることが報告されている。ディーゼルエンジンより排出される排気ガスの微粒子成分は、ディーゼル排出微粒子(DEP:Diesel Exhaust Particulates)と呼ばれている。一方、
大気中の浮遊粒子のうち直径10μm以下のものは、浮遊粒子状物質(SPM:Suspended Particulate Matters)と呼ばれている。
DEPを用いた動物実験において、DEPとともにスギ花粉をマウスに感作するとIgE抗体の産生が有意に増強されることが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。このようにDEPのアジュバント作用が証明され、さらにSPMにもアジュバント作用があることが証明された。
ここで、アジュバント物質によるアジュバント効果について説明する。
抗原と同時投与することで「抗体産生を増強する現象」が、「アジュバント効果」と呼ばれるものである。アジュバント効果のメカニズムとしては、アジュバント物質が体内のTh1/Th2バランスをTh2優位に傾けている、ということがいわれている。以下に、このアジュバント効果に関して考えられる機構について説明する。
体内の防御反応は、2系統に大別され、これらをそれぞれ担当するヘルパーT細胞(Th)に1型(Th1)と2型(Th2)がある。Th1とTh2は、ともにTh0(ナイーブヘルパーT細胞)から分化し、Th1は細胞性免疫を補助し、Th2は液性免疫を補助する。
どのような刺激に対してTh1とTh2のどちらが動くかは、その人の体質(遺伝的なもの)と、育ってきた環境(過去に暴露された抗原の種類)によって異なる。衛生環境のあまり良くない地域では感染症に罹患する人が多いためTh1優位であるのに対し、衛生環境の良い地域では感染の機会が少ないためTh2優位になりやすい状況と考えられる。このため、アレルギー症状は先進国に出やすく、これが、都会で花粉症が多い原因の1つであると考えられる。
Th0をTh1に分化させるかTh2に分化させるかは、最初の抗原刺激の際の免疫応答でどのようなサイトカイン環境が体内で構築されるかによって決まる。アジュバント物質は、抗原刺激時にTh2を分化させやすいサイトカイン環境を作りやすく、特にTh2分化に必須のサイトカインであるIL−4(インターロイキン4)の産生を促すものと考えられている。
一方、花粉等のダストを除去することができる空気清浄装置が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。このような装置では、アレルギーの原因となる花粉等の抗原を除去することにより、アレルギーを予防することができる。
また、粒子状物質(PM)については、粒子が小さいほど毒性が大きいことが知られている。例えば、粒子状物質(PM)を粗い粒子(直径2.5μm超)、微細粒子(直径0.1〜2.5μm)、超微細粒子(直径0.1μm未満)に分類した場合、超微細粒子(直径0.1μm未満)が最も危険であることが報告されている(例えば、非特許文献2参照。)。
ところで、近年、ナノテクノロジが注目されており、ナノ粒子の生産量が飛躍的に増大する可能性がある。また、意図的に生産しない場合にも、上述のDEP等のようなナノ粒子が環境中に存在している。今後、ナノテクノロジによりナノ粒子の生産が増大することが予想され、これによりナノ粒子曝露の可能性が高くなることが予想される。その一方で、ナノ粒子の毒性に関する様々な報告がされている。すなわち、ナノ粒子は、物質種にかかわらずナノサイズの微細な構造(ナノ構造)を有するということで毒性を有することが報告されている。
ナノ粒子が毒性を有することの理由としては、粒径が小さいと同質量の場合に表面積がより大きくなるということが挙げられる(例えば、非特許文献3参照。)。表面積の大きさと毒性の大きさとの関連としては、粒子そのものの表面性状が毒性と関連していることや、粒径が小さいため表面積が大きくなり、粒子表面への毒性化学物質の吸着が多くなることが挙げられる。また、小さい粒子中の化学物質の毒性が大きい粒子の毒性より強い可能性が示唆されている。また、一定以下の大きさの粒子になると化学的性状が大きく変わる可能性が示唆されている。また、粒子のサイズによって、体内挙動が異なることが示唆されている。例えば、ナノ粒子は肺に沈着する量が多く、この沈着量は粒子サイズに依存することが報告されている(例えば、非特許文献4参照。)。また、ナノ粒子は吸入した場合、肺組織中にとどまる量が多くなる可能性、リンパ節に移行する量が多くなる可能性、ナノ粒子は肺を通り抜けて全身に影響を及ぼす可能性が示唆されている。また、ナノ粒子に対する生体の反応はより大きい粒子に対する場合と異なる可能性が示唆されている。
さらに、粒子状物質(PM)のアジュバント効果が、粒子サイズが小さいほどより顕著であることが報告されている(例えば、非特許文献5参照。)。この文献では、ナノ粒子が抗原関連性の気道炎症や免疫グロブリンの産生を増悪させうること、及び、これはより小さな粒子において顕著であることが示されている。具体的には、OVA(卵白アルブミン)のみ、ナノ粒子のみ、OVAとナノ粒子が、それぞれマウスに投与され、気道炎症の状況や免疫グロブリンの産生等が調べられている。なお、ナノ粒子としてはCB(カーボンブラック)が用いられており、直径14nmのものと直径56nmのものとがそれぞれ用いられている。研究の結果、全体的な傾向として、直径14nmのナノ粒子の場合に、直径56nmのナノ粒子の場合よりも増悪が顕著であることが報告されている。免疫グロブリンの産生については、直径14nmの場合において、OVAとナノ粒子を投与した場合に、OVAのみ又はナノ粒子のみを投与した場合と比較して、総IgE、抗原特異的IgG1、抗原特異的IgEのレベルが有意に高いことが報告されている。このOVAとナノ粒子を投与した場合における総IgE、抗原特異的IgG1、抗原特異的IgEのレベルは、OVAのみ又はナノ粒子のみを投与した場合と比較して、直径14nmの場合に直径56nmの場合よりも顕著に増大している。
森田 寛、永倉 俊和、宮地 良樹、岡本 美孝編、「アレルギーナビゲーター」、第1版、株式会社メディカルレビュー社、2001年5月15日、p.132−133 Andre Nel、大気汚染関連性の疾病:粒子の影響(Air Pollution-Related Illness: Effects of Particles)、Science、2005年、308巻、pp804−806 Brown DM, Wilson MR, MacNee W, Stone V, Donaldson K.、超微細ポリスチレン粒子のサイズに依存した炎症誘発効果:表面積の役割と超微細ポリスチレン粒子の増強された活性における酸化ストレス(Size-dependent proinflammatory effectsof ultrafine polystyrene particles: a role for surface area and oxidative stress in the enhanced activity of ultrafines.)、Toxicol Appl Pharmacol.、2001年、175巻、3号、pp191−199 Cassee FR, Muijser H, Duistermaat E, Freijer JJ, Geerse KB, Marijnissen JC, Arts JH.、肺における粒子サイズに依存した全沈着量がラットにおける塩化カドミウムエアロゾルの吸入毒性を決定する。複数パスの線量測定モデルの適用(Particle size-dependent total mass deposition in lungs determines inhalation toxicity of cadmium chloride aerosols in rats. Application of a multiple path dosimetry model.)、Arch Toxicol.、2002年、76巻、5−6号、pp277−286 Ken-ichiro Inoue, Hirohisa Takano, Rie Yanagisawa, Miho Sakurai,Takamichi Ichinose, Kaori Sadakane and Toshikazu Yoshikawa、マウスにおける抗原関連性の気道炎症に対するナノ微粒子の影響(Effects of nano particles on antigen-related airway inflammation in mice)、Respiratory Research、2005年、6巻、1号、pp106−117 特開2001−349595号公報(第2−6頁)
しかし、花粉症等のアレルギーは、アジュバント物質により増強されるため、花粉等のアレルゲンを分解して、空気中のアレルゲンを減少させたとしても、アジュバント物質の存在により、アレルギーが増強される場合がある。このため、アレルゲンを減少させるだけでなく、空気中のアジュバント物質を不活性化することにより、より効果的にアレルギーを予防できると考えられる。しかし、空気中のアジュバント物質の不活性化によりアレルギーを予防する方法や装置に関して開示しているものはない。
また、上述のように、ナノ構造を有する物質は様々な生体侵襲反応を引き起こすことが報告されているが、このようなナノ構造を有する物質の生体侵襲反応を低減するための方法や、そのための装置について、効果的なものは報告されていない。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ナノ構造を有する物質の生体侵襲反応を低減する生体侵襲反応低減方法、ナノ構造を有する物質の生体侵襲反応を低減するためにナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させる物質改質装置及びこのような物質改質装置を備えた空気調和機を提供することにある。
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、ナノ構造を有する粒子状物質の生体侵襲反応を低減する生体侵襲反応低減方法であって、線又は針状の正極と面状の負極との間で発生させたストリーマ放電により発生する10eV以上の電子温度を有する活性種により励起されて二次的に発生する活性種が、前記正極と前記負極の間から拡散した状態で、二次的な活性種に直接放電でナノ構造が消失しない粒子状物質を接触させることにより、前記粒子状物質のナノ構造を消失させて前記粒子状物質の生体侵襲反応を低減することを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の生体侵襲反応低減方法において、前記ナノ構造を有する粒子状物質は、被処理ガス中のナノ粒子であり、前記正極と前記負極の間から拡散した二次的な活性種と通気接触させることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、被処理ガス中のナノ構造を有する粒子状物質の生体侵襲反応を低減するためにナノ構造を有する粒子状物質を改質する物質改質装置であって、線又は針状の正極と面状の負極とを備え、前記正極と前記負極との間で発生させたストリーマ放電により発生する10eV以上の電子温度を有する活性種により励起されて二次的に発生する活性種が、前記正極と前記負極の間から拡散した状態で、二次的な活性種に被処理ガス中の直接放電でナノ構造が消失しない粒子状物質を接触させることにより、前記粒子状物質のナノ構造を消失させることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の物質改質装置を備えたことを要旨とする。
作用)
請求項1,2に記載の発明によれば、ナノ構造を有する物質を、線又は針状の正極と面状の負極との間で発生させたストリーマ放電により発生して正極と負極の間から拡散した活性種と接触させることにより、ナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させてこのような物質の生体侵襲反応を低減することができる。なお、「ナノ構造を有する物質」とは、ナノサイズの微細な構造(ナノ構造)を有する物質であって、ナノサイズの微細な物質の他、物質表面にナノサイズの微細な構造(ナノ構造)を有する物質を含む。「ナノ構造」とは、ナノサイズの微細な構造であって、物質表面の凹凸を形成するナノサイズの微細な構造を含む。「ナノ構造を消失させる」とは、ナノ構造を有する物質におけるナノサイズの微細な構造について、ナノ構造の凹凸を緩和させることをいう。
また、ストリーマ放電により発生する10eV以上の電子温度を有する活性種により励起される二次的な活性種にナノ構造を有する物質を接触させる。これによれば、ストリーマ放電により発生する10eV以上の電子温度を有する活性種により励起される二次的な活性種がナノ構造を有する物質と接触することで、効果的にナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させることができる。このため、より効果的にこのような物質の生体侵襲反応を低減することができる。
請求項3に記載の発明によれば、線又は針状の正極と面状の負極とを備えた物質改質装置により、被処理ガス中のナノ構造を有する物質を、前記正極と前記負極との間で発生させたストリーマ放電により発生して正極と負極の間から拡散した活性種と接触させることにより、ナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させる。このようにナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させることにより、このような物質の生体侵襲反応を低減することができる。
また、ストリーマ放電により発生する10eV以上の電子温度を有する活性種により励起される二次的な活性種に被処理ガス中のナノ構造を有する物質を接触させる。これによれば、ストリーマ放電により発生する10eV以上の電子温度を有する活性種により励起される二次的な活性種がナノ構造を有する物質と接触することで、効果的にナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させることができる。このため、より効果的にこのような物質の生体侵襲反応を低減することができる。
請求項に記載の発明によれば、請求項3に記載の物質改質装置を備えた空気調和機により、ナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させて、このような物質の生体侵襲反応を低減することができる。
本発明によれば、プラズマ放電により発生する10eV以上の電子温度を有する活性種により励起されて二次的に発生する活性種を用いてナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させることにより、ナノ構造を有する物質の生体侵襲反応を低減することができる。
以下、本発明を具体化した一実施形態を、図1を用いて説明する。本実施形態では、ナノ構造を有する物質の生体侵襲反応を低減する生体侵襲反応低減方法、ナノ構造を有する物質の生体侵襲反応を低減するためにナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させる物質改質装置として説明する。なお、「生体侵襲反応」は、動物に対するものだけでなく、植物等、どのような生物の生体に対する生体侵襲反応も含むものとする。
上述のように、ナノ構造(ナノサイズの微細な構造)を有する物質は、ナノサイズの微細な構造を有しているために生体侵襲反応を引き起こす。また、上述のように、引き起こされる生体侵襲反応は、ナノ構造がより微細である場合に、より大きくなる。
このようなナノ構造(ナノサイズの微細な構造)を有する物質には、ディーゼル排出微粒子(DEP)等のアジュバント物質も含まれる。アジュバント物質は、抗原に対する免疫応答を修飾し、IgE抗体の産生を増強させる。したがって、花粉症等のアレルギーも、アジュバント物質により増強される。
上述のように、アジュバント物質は、抗原刺激時にTh2を分化させやすいサイトカイン環境を作りやすく、特にTh2分化に必須のサイトカインであるIL−4(インターロイキン4)の産生を促すものと考えられている。
IL−4の産生源として有力なのがNK1.1+T細胞とよばれるT細胞の一種である。そして、アジュバント物質が、このNK1.1+T細胞を活性化してIL−4を産生させると考えられている。アジュバント物質によるNK1.1+T細胞の活性化のメカニズムは現在のところ不明であるが、NK1.1+T細胞を活性化させるアジュバント物質の部位を不活性化することにより、アジュバント物質によるNK1.1+T細胞の活性化を妨げることができると考えられる。
<プラズマ放電によるナノ構造の消失>
本発明は、プラズマ放電により発生する活性種でナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させることにより、ナノ構造を有する物質の生体侵襲反応を低減することを特徴とする。すなわち、プラズマ放電により、反応性の高い活性種(高速電子、イオン、ラジカル、その他の励起分子等)を発生させ、ナノ構造を有する物質を、上記活性種と通気接触させることで、ナノ構造を有する物質のナノサイズの微細な構造(ナノ構造)を消失させる。そして、ナノ構造を消失させることにより、ナノサイズの微細な構造に起因する生体侵襲反応を低減する。例えば、アジュバント物質を、上記活性種と通気接触させることで、アジュバント物質のナノ構造を消失させることにより不活性化し、アジュバント効果を抑制する。効果的にナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させるためには、プラズマ放電の正極と負極の間から拡散した活性種が、ナノ構造を有する物質と接触するような構成とする。
このプラズマ放電は、ナノ構造を有する物質の生体侵襲反応の低減のためナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させるために(例えば、アジュバント物質を不活性化するために)上記活性種を効果的に発生させることが好ましい。このようなプラズマ放電として、線又は針状の正極と面状の負極との間の放電であり、正極のある位置と負極上の複数の位置との間での放電がほぼ同時に安定的に起こるストリーマ放電を用いることが可能である。
また、ナノ構造を有する物質の生体侵襲反応の低減のためナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させるためには(例えば、アジュバント物質を不活性化するためには)、前記プラズマ放電により発生する活性種に、高速電子など10eV以上の電子温度を有する活性種が含まれていることが好ましい。このようなプラズマ放電により発生する高速電子など10eV以上の電子温度を有する活性種により励起されて、励起窒素分子など二次的な活性種がさらに発生する。ナノ構造を消失させるためには、このような二次的に発生した活性種を主として用いるような構成とすることが好ましい。すなわち、ナノ構造を有する物質に高速電子などの高エネルギーの活性種が直接あたるのではなく、高速電子などの高エネルギーの活性種により励起される二次的な活性種にナノ構造を有する物質を接触させることが、ナノ構造を消失させるために好ましい。プラズマ放電部でナノ構造を有する物質にストリーマ放電を直接照射すると、高エネルギーの活性種の濃度が高く、激しく反応するため物質の形状に変化は見られるがナノ構造は消滅していないのに対し、放電部から離れた場所では高エネルギーの活性種ではあるが濃度が低く、放電部よりも酸化分解反応がマイルドに進むために、ナノ構造だけを消滅させていると考えられる。
また、ストリーマ放電ではエネルギーの高い高速電子が大量に発生するため、励起窒素分子などエネルギーの高い二次的な活性種を大量に生成でき、プラズマ放電部からある程度離れたところでも十分な効果が得られる。ナノ構造を有する物質をこのような二次的に発生した活性種に接触させるためには、このような二次的な活性種がプラズマ放電の正極と負極の間から拡散し、ナノ構造を有する物質と接触するような構成とする。
以下、ストリーマ放電によりナノ構造を有する物質の生体侵襲反応を低減するためにナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させる物質改質装置の構成を説明する。なお、プラズマ放電によりナノ構造を消失させるために上記活性種を効果的に発生させることができればよく、本発明におけるプラズマ放電は、ストリーマ放電に限定されない。
<本実施形態の物質改質装置の構成>
本実施形態の物質改質装置は、箱形のケーシング本体を備え、このケーシング本体には、被処理ガスを導入するための空気吸込口と、被処理ガスが流出する空気吐出口が形成されている。さらに、上記ケーシング本体には、被処理ガスを流通させるためのファンと、上記被処理ガスの流通経路と、プラズマ放電手段としての放電装置20が設けられている。
次に上記放電装置20について、詳細に説明する。
図1は、本実施形態の物質改質装置の放電装置20の概略構成を示す断面図である。
この放電装置20は、低温プラズマを生成するための放電電極21及び対向電極22を備えている。放電電極21は、放電基板21aと、この放電基板21aにほぼ直交するように固定された複数の放電端21b(正極)とから構成されている。放電基板21aは、面直角方向に空気が通過する多数の開口部を有している。本実施形態において、放電端21bは針状の形態となっている。放電端21bは、線状の形態であってもよく、また、線又は針状の放電端21bを平板状に薄くしてもよい。上記放電電極21の放電端21bに対峙する対向電極22(負極)は、板状(面状)であり、面直角方向に空気が通過する多数の開口部を有している。放電電極21は、放電基板21aが対向電極22とほぼ平行で、放電端21bが対向電極22とほぼ直角になるように配置されている。
また、放電装置は、上記放電電極21及び対向電極22に放電電圧を印加するための電源手段を備えている。放電電圧の印加により放電電極21と対向電極22との間で生じるストリーマ放電により、放電場に低温プラズマが生成される。低温プラズマにより、高速電子、イオン、オゾン、ヒドロキシラジカルなどのラジカルや、その他励起分子(励起酸素分子、励起窒素分子、励起水分子など)などが生成される。
次に、ストリーマ放電のメカニズムについて説明する。ここでは、ストリーマ放電における電子及び荷電粒子(プラスイオン)の移動概念について説明する。
ストリーマ放電時には、放電電極21から対向電極22に向かってリーダーと呼ばれる微小アークが発生する。リーダーの先端部分では、強い電位勾配によって空気が電子と荷電粒子とに電離している。そして、荷電粒子が対向電極22側まで到達すると、一回の放電が終了する。
この際、電離により発生した電子は、放電電極21に向かって移動し、荷電粒子は対向電極22に移動する(A)。ここで、電離により生じた上記荷電粒子は、上記電子と比較すると、相対的に質量が大きいため、移動速度は、電子よりも、荷電粒子の方が遅くなる。したがって、一回の放電時において、両電極21,22の間には、荷電粒子が一時的に残留することになる(B)。そして、この残留した荷電粒子が、完全に対向電極22に移動すると、両電極21,22の間は、元の電界に戻り、再び放電が始まる(C)。ストリーマ放電時には、この(A)→(B)→(C)のサイクルが繰り返されており、このサイクルで発生する荷電粒子の間欠的な移動により、ストリーマ放電では電流がパルス状に流れている。
<運転動作>
次に、この物質改質装置の運転動作について説明する。
この物質改質装置に通電すると、ファンが起動され、空気(被処理ガス)が、空気吸引口より吸引され、流通経路に導入される。
そして、流通経路に導入された被処理ガスは、放電装置20に導入される。放電装置20の放電電極21と対向電極22の間には、ストリーマ放電により低温プラズマが発生しており、上記低温プラズマに起因する反応性の高い活性種(高速電子、イオン、ラジカル、その他の励起分子等)が発生している。また、高速電子などの高エネルギーの活性種により励起されて二次的な活性種が発生する。このようなストリーマ放電により発生した活性種は、放電電極21と対向電極22の間から放電装置20の下流側に拡散する。特に高速電子などの高エネルギーの活性種については、二次的に発生した活性種が放電電極21と対向電極22の間から放電装置20の下流側に拡散する。一方、被処理ガスは、この低温プラズマ発生領域(放電場)を通過し、被処理ガス中のナノ構造を有する物質は、放電装置20の下流側近傍において、ストリーマ放電により発生して放電電極21と対向電極22の間から拡散した活性種と通気接触する。特に、放電装置20において発生している高速電子などの高エネルギーの活性種については、この高エネルギーの活性種が直接あたるのではなく、二次的に発生した活性種が接触する。これによりナノ構造が消失し、ナノ構造を有する物質の生体侵襲反応が低減する。
例えば、被処理ガス中のアジュバント物質は、上記活性種と通気接触することで、ナノ構造が消失し不活性化される。これによりアジュバント物質のアジュバント効果が抑制される。このように、この物質改質装置は、導入された空気(被処理ガス)中にアジュバント物質が含まれる場合には、アジュバント物質のナノ構造を消失させて不活性化し、アジュバント物質の生体侵襲反応を低減することで、アレルギー予防装置として機能する。
なお、活性種と通気接触することにより、後述する図5(未処理DEP)に示すナノサイズの微細な構造が、図6(ストリーマ処理後のDEP(ナノ構造消失))で示すように緩和される。このように、上記物質改質装置は、ストリーマ放電により発生する活性種を用いてナノ構造を有する物質におけるナノサイズの微細な構造を緩和させることにより、ナノサイズの微細な構造を消失させる。
以上の処理によって浄化された被処理ガスは、ケーシング本体の空気吐出口より排出される。
以上、本実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
・ 上記実施形態では、ナノ構造を有する物質を、プラズマ放電により発生してプラズマ放電の正極と負極の間から拡散した活性種と接触させることにより、ナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させてこのような物質の生体侵襲反応を低減する。これにより、ナノ構造を有する物質のナノ構造に起因する生体侵襲反応を低減することができる。
・ 上記実施形態では、プラズマ放電により発生する活性種でアジュバント物質を不活性化する。このため、アジュバント物質の不活性化によりアレルギーを予防することができる。すなわち、アジュバント物質を、プラズマ放電により発生してプラズマ放電の正極と負極の間から拡散した活性種と接触させることにより、アジュバント物質のナノ構造を消失させて不活性化することができる。これにより、アジュバント効果を抑制し、アレルギーを予防することができる。
・ 上記実施形態では、物質改質装置における放電装置は、線又は針状の正極(放電電極21の放電端21b)と面状の負極(対向電極22)とを備える。そして、この正極(放電端21b)と負極(対向電極22)との間の放電であって、正極(放電端21b)のある位置と負極(対向電極22)上の複数の位置との間での放電がほぼ同時に安定的に起こるストリーマ放電により発生する活性種でナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させる。このように、ストリーマ放電により発生する活性種で効果的にナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させることができ、より効果的にこのような物質の生体侵襲反応を低減することができる。例えば、このようなストリーマ放電により発生する活性種でアジュバント物質のナノ構造を消失させることにより不活性化して、アジュバント効果を抑制することができる。このように、ストリーマ放電により発生する活性種でアジュバント物質を不活性化することによりアレルギーを予防することができる。
・ 上記実施形態では、プラズマ放電によりにより発生する活性種に、高速電子など10eV以上の電子温度を有する活性種が含まれているようにすることで、10eV以上という非常に高い電子温度を持つ活性種の働きにより、効果的にナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させることができる。すなわち、プラズマ放電により発生する10eV以上の電子温度を有する活性種により励起される二次的な活性種がナノ構造を有する物質と接触することで、効果的にナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させることができる。これにより、より効果的にこのような物質の生体侵襲反応を低減することができる。例えば、このような活性種の働きにより、より効果的にアジュバント物質を不活性化して、アジュバント物質のアジュバント効果を抑制することができる。これにより、効果的にアレルギーを予防することができる。
・ 上記実施形態では、流通経路に導入された空気(非処理ガス)は、フィルタ等を介することなく放電装置20に導入されており、空気中のナノ構造を有する物質が放電装置20に導入される。このため、空気中のナノ構造を有する物質が、放電装置20近傍において活性種と通気接触する。このように、空気中のナノ構造を有する物質を活性種と通気接触させることができるため、空気中のナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させることにより、このような物質の生体侵襲反応を低減することができる。
・ 上記実施形態では、送風手段としてのファンにより活性種の拡散を補助することにより、活性種と物質との効果的な接触機会を促進することができる。このため、プラズマ放電部から離れたところでも物質改質を促進することができる。これにより、より効果的にナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させることができ、より効果的にこのような物質の生体侵襲反応を低減することができる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 上記実施形態では、ナノ構造を有する物質の生体侵襲反応を低減するためにナノ構造を有する物質のナノ構造を消失させる物質改質装置について説明した。この物質改質装置は、アジュバント物質のナノ構造を消失させることにより不活性化して、アジュバント物質のアジュバント効果を抑制してアレルギーを予防することにより、アレルギー予防装置として機能した。このようなアレルギー予防装置として機能する物質改質装置は、アジュバント物質を不活性化するとともにアレルゲンを除去することによりアレルギーを予防するものであってもよい。上述のとおり、アレルギーは、アレルゲンによって引き起こされるものであるため、アジュバント物質を不活性化するとともにアレルゲンを除去できれば、より効果的にアレルギーを予防できる。
このような物質改質装置の例を以下に具体的に説明する。なお、以下に説明する物質改質装置におけるアレルゲン除去手段は一例であり、これに限定されるものではない。
例えば、上記物質改質装置に、さらに、アレルゲン除去手段としてイオン化部と集塵フィルタ(静電フィルタ)とを備える。
イオン化部は、塵埃を帯電させ、この塵埃をイオン化部の下流側に配置されている静電フィルタにより捕集するためのものである。静電フィルタは、上流側の面において、イオン化部によって帯電された塵埃を捕集する。
空気が物質改質装置のケーシング本体内に導入されると、空気がイオン化部へと流れ、イオン化部において、イオン化線とこれの対向電極との間での放電により塵埃がプラスに帯電する。アレルゲン(ダニ・花粉等)は、このイオン化部により、プラスに帯電する。この帯電した塵埃を含む室内空気は、静電フィルタへ流入する。そして、静電フィルタにおいて、これらの帯電した塵埃が捕集される。すなわち、アレルゲンは、この静電フィルタにおいて捕集される。
なお、イオン化部と静電フィルタとを上記実施形態の放電装置と組み合わせて配置し、アレルゲンの除去とアジュバント物質の不活性化とを同時に行えるようにしてもよい。具体的には、イオン化部を放電装置より上流に配置し、静電フィルタを放電装置の対応電極側に配置する。この場合、ストリーマ放電により発生している低温プラズマに含まれる活性種が、室内空気と接触して室内空気中の有害物質や臭気物質を分解する。このとき、アジュバント物質が分解される。また、プラスに帯電したアレルゲンも、ある程度、分解される。そして、プラスに帯電したアレルゲンは、静電フィルタにおいて捕集される。なお、さらに、ストリーマ放電による活性種により活性化される触媒を用いて、アレルゲンをさらに分解してもよい。
○ 上記実施形態において発生する活性種に、ある程度長い時間、ナノ構造を有する物質が通気接触するように、活性種と効率的に通気接触する場所にナノ構造を有する物質を捕捉しておく構造を物質改質装置に備えていてもよい。例えば、放電装置の下流側に離してナノ構造を有する物質を捕捉可能なフィルタ等を備える。そして、下流に配置されたフィルタ上などにナノ構造を有する物質を捕捉するとともに、送風手段により活性種の拡散を補助する。これにより、活性種と物質との効果的な接触機会をさらに促進することができ、下流に配置されたフィルタ上などに捕捉されている物質を、再飛散する前に、より確実に改質することができる。これにより、より効果的にナノ構造を消失させることができ、より効果的にナノ構造を有する物質の生体侵襲反応を低減できる。
○ 上記実施形態の物質改質装置を備えた空気調和機を構成してもよい。この空気調和機において、物質改質装置は、アレルゲン除去手段を備えていてもよい。また、この空気調和機において、物質改質装置は、送風手段を備えるとともに放電装置の下流側に離してナノ構造を有する物質を捕捉可能なフィルタ等を備えていてもよい。なお、空気調和機は、空気清浄機や加湿器を含むこととする。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
<実施例1>
以下、前記実施形態を具体化した実施例(プラズマ放電によるアジュバント効果抑制実験)及び比較例について説明する。このアジュバント効果抑制実験では、プラズマ放電のうち、上述したストリーマ放電を用いた。
(実験装置)
実験には、図2に示す実験装置30を使用した。この実験装置30内には、図1に示す上述の放電装置20が備えられており、上方に放電電極21が、放電基板21aがほぼ水平となり放電端21bが下方向を向くように設置され、これに対峙して下方に対向電極22がほぼ水平になるよう設置されている。実験装置30の上部には送風装置31が設けられており、この送風装置31から空気が実験装置30内に押し込められる。実験装置30内に入った空気は、実験装置30内の放電装置20を通って、実験装置30の下側から押し出される。この実験装置30を、透明アクリル製のチャンバー内で運転した。
この実験装置30において、放電装置20の下流側には、実験用のシャーレ35を設置することが可能である。本実施例では、後述するように、水酸化アルミニウムゲルの乾燥粉末を入れたシャーレ35が設置される。
(アジュバント物質のストリーマ処理)
本アジュバント効果抑制実験では、アジュバント物質として水酸化アルミニウムゲルの乾燥粉末を用いた。この水酸化アルミニウムゲルの乾燥粉末を入れたシャーレ35を実験装置30に設置してストリーマ放電を16時間行った。このストリーマ放電は、電圧5.4kV、電流5.5μAとなるようにして行った。
(感作動物の作製)
免疫動物として、5週齢のメスのBDF1系マウスを用いた。また、アレルゲンとして、卵白アルブミン(OVA)を用いた。
グループ1(5個体)は、20μgの卵白アルブミンを1mlの生理食塩水に溶解したものを腹空内に投与した。グループ2(6個体)は、20μgの卵白アルブミンと2mgの水酸化アルミニウムゲルの乾燥粉末とを1mlの生理食塩水に溶解したものを腹空内に投与した(比較例)。グループ3(5個体)は、20μgの卵白アルブミンと上記ストリーマ処理を行った2mgの水酸化アルミニウムゲルの乾燥粉末とを1mlの生理食塩水に溶解したものを腹空内に投与した(実施例)。
各グループについて、2週間のインターバルで2回、上記の投与を行った。
(免疫測定)
さらに2週間後に採血し、血清中の総IgE量をELISA法で測定した。このELISA法では、BD社製のOptEIAキットを使用した。以下に、プロトコルを示す。
(1)PBS(リン酸緩衝液pH7.2)で5μg/mLに希釈したCapture抗体(抗マウスIgE抗体)をプレートに100μL/wellとなるように添加し、室温で1時間静置した。その後、プレートをPBS−T(0.05%Tween-20含有リン酸緩衝液pH7.2)で3回洗浄した。
(2)プレートにブロッキングバッファー(1%BSA含有PBS)を250μL/w
ellとなるように添加し、室温で1時間静置した。その後プレートをPBS−Tで1回洗浄した。
(3)PBSで2倍希釈系列の標準物質(スタンダード)と、種々の濃度に希釈したサンプル(被験物(血清))を調製し、それぞれウェルに100μL添加し、室温で1時間静置した。その後、プレートをPBS−Tで3回洗浄した。
(4)標識抗体(ビオチン標識抗マウスIgE抗体)とペルオキシダーゼ標識アビジン(Avidin-HRP)をそれぞれ2μg/mLのPBSで希釈し、プレートに100μL/wellとなるように添加し、室温で1時間静置した。その後、プレートをPBS−Tで3回洗浄した。
(5)TMB(100μL/well)を添加し、室温で40分間反応させた後、停止液(2M塩酸)(100μL/well)を添加し、呈色反応を終止した。そして、波長450nmで吸光度を測定し、標準物質を添加したウェルの測定値により作製した標準曲線に基づいて、サンプルの定量を行った。
表1は、血清中の総IgE濃度に関する実験結果である。データは、各サンプルにおける総IgE濃度、各グループにおける平均及び標準偏差を示す。図3は、各グループについて実験結果を示すグラフである。データは、各グループにおける平均±標準偏差を示す。
表1及び図3に示すように、グループ2(比較例)の20μgの卵白アルブミンと2mgの水酸化アルミニウムゲルの乾燥粉末とで感作したマウスは、グループ1の20μgの卵白アルブミンのみで感作したマウスより高いIgE濃度を示した。このグループ2(比較例)のマウスの場合のIgE濃度に対し、グループ3(実施例)の20μgの卵白アルブミンとストリーマ処理を行った2mgの水酸化アルミニウムゲルの乾燥粉末とで感作させたマウスは、より低いIgE濃度を示した。このように、水酸化アルミニウムゲルの乾燥粉末をストリーマ処理を行った場合、水酸化アルミニウムゲルの乾燥粉末のアジュバント効果が減少したことが示された。
<実施例2>
ディーゼル排気粒子(DEP)にストリーマ放電によりストリーマを照射し、DEPがもつアジュバント効果が低減することを検証した。
実験装置としては、上記実施例1に示す実験装置30と同様のものを用いた。本実施例では、放電装置20の下流側に設置したシャーレ35には、後述するようにDEPを入れた。
(アジュバント物質であるDEPのストリーマ処理)
本アジュバント効果抑制実験では、アジュバント物質としてDEPを用いた。このDEPを入れたシャーレ35を実験装置30に設置してストリーマ放電を16時間行った。このストリーマ放電は、電圧5.4kV、電流5.5μAとなるようにして行った。
(感作動物の作製)
免疫動物として、5週齢のメスのBDF1系マウス(日本クレア社製)を用いた。アレルゲンとして、卵白アルブミン(OVA)(コスモバイオ社製)を用いた。また、アジュバント物質としては、上述のようにDEP(国立環境研究所より分与)を用いた。
投与群としては、以下の3グループ(4個体/グループ)について、麻酔下で腹腔内注射により、それぞれ以下のように投与を行った。グループ1は、20μgの卵白アルブミンを1mlの生理食塩水に溶解したものを投与した。グループ2は、20μgの卵白アルブミンと2mgの未処理のDEPとを1mlの生理食塩水に溶解したものを投与した(比較例)。グループ3は、20μgの卵白アルブミンと2mgの上記ストリーマ処理を行ったDEPとを1mlの生理食塩水に溶解したものを投与した(実施例)。
免疫スケジュールとしては、各グループについて、マウスの予備飼育を1週間行った後、上記投与(初回免疫)を行い、2週間後に2回目の上記投与(免疫)と採血を行い、さらに2週間後に3回目の上記投与(免疫)と採血を行った。そして、その2週間後に全採血を行った。
(免疫測定)
上記の全採血を行った後、血清中の総IgE量をELISA法で測定した。このELISA法による測定は、BD社製のOptEIAキットを使用し、上記実施例1に示しているプロトコルにより行った。
表2は、血清中の総IgE濃度に関する実験結果である。データは、各サンプルにおける総IgE濃度、各グループにおける平均及び標準偏差を示す。図4は、各グループについて実験結果を示すグラフである。データは、各グループにおける平均±標準偏差を示す。
表2及び図4に示すように、グループ2(比較例)の卵白アルブミン(20μg)と未処理のDEP(2mg)とで感作した場合、グループ1の卵白アルブミン(20μg)のみで感作した場合より高いIgE濃度を示した。このグループ2(比較例)のIgE濃度に対し、グループ3(実施例)の卵白アルブミン(20μg)とストリーマ処理を行ったDEP(2mg)とで感作した場合は、より低いIgE濃度を示した。これは、グループ1の場合とほぼ同じレベルであった。このようにストリーマ処理により、DEPのもつアジュバント効果が低減したことが示された。
(ナノ構造の消失を示す走査電子顕微鏡写真)
上述のようにストリーマ処理を行う前後において、ディーゼル排気粒子(DEP)の走査電子顕微鏡写真を撮影した。これを図5(未処理DEP)、図6(ストリーマ処理後のDEP)に示す。図5の未処理DEPにおいて観察されるDEPの表面の凹凸を形成する微細な構造(ナノ構造)が、図6のストリーマ処理後のDEPでは消失していることが分かる。すなわち、ストリーマ処理後のDEPでは、ナノサイズの微細な構造による凹凸が緩和されており、ナノ構造が消失している。
<比較例>
対向電極22の放電電極21側の面に直接ディーゼル排気粒子(DEP)を置いてストリーマ放電(15分間)を行った場合について、処理後の走査電子顕微鏡写真を撮影した。これを図7に示す。この場合、DEPは、破裂した状態となっており、処理前よりも微細な構造を有している。対向電極22の放電電極21側の面にDEPを置いた場合、このDEPに高エネルギーの高速電子が直接あたる状態となる。このように高エネルギーの高速電子が直接あたることにより、DEPが破裂し、ナノ構造が消失するどころか、さらに微細な構造となった。
なお、上記実施例2では、ストリーマ放電を行う際に、放電装置20の下流側に離してDEPを置いており、高エネルギーの高速電子が直接あたるということはない。このため、この場合のDEPに対する影響は、高速電子により二次的に発生した活性種が拡散してDEPと接触することによるものである。この場合、図6に示すようにナノ構造が消失した。
本発明の一実施形態の物質改質装置における放電装置の概略構成を示す断面図。 実施例1における実験装置の説明図。 実施例1における実験結果を示すグラフ。 実施例2における実験結果を示すグラフ。 未処理ディーゼル排気粒子(DEP)の走査電子顕微鏡写真。 ストリーマ処理をしたディーゼル排気粒子(DEP)の走査電子顕微鏡写真。 対向電極の放電電極側の面に置いてストリーマ放電を行った場合のディーゼル排気粒子(DEP)の走査電子顕微鏡写真。
符号の説明
20…放電装置、21…放電電極、21a…放電基板、21b…放電端、22…対向電極、30…実験装置、31…送風装置、35…シャーレ。

Claims (4)

  1. ナノ構造を有する粒子状物質の生体侵襲反応を低減する生体侵襲反応低減方法であって、
    線又は針状の正極と面状の負極との間で発生させたストリーマ放電により発生する10eV以上の電子温度を有する活性種により励起されて二次的に発生する活性種が、前記正極と前記負極の間から拡散した状態で、二次的な活性種に直接放電でナノ構造が消失しない粒子状物質を接触させることにより、前記粒子状物質のナノ構造を消失させて前記粒子状物質の生体侵襲反応を低減することを特徴とする生体侵襲反応低減方法。
  2. 前記ナノ構造を有する粒子状物質は、被処理ガス中のナノ粒子であり、前記正極と前記負極の間から拡散した二次的な活性種と通気接触させることを特徴とする請求項1に記載の生体侵襲反応低減方法。
  3. 被処理ガス中のナノ構造を有する粒子状物質の生体侵襲反応を低減するためにナノ構造を有する粒子状物質を改質する物質改質装置であって、
    線又は針状の正極と面状の負極とを備え、
    前記正極と前記負極との間で発生させたストリーマ放電により発生する10eV以上の電子温度を有する活性種により励起されて二次的に発生する活性種が、前記正極と前記負極の間から拡散した状態で、二次的な活性種に被処理ガス中の直接放電でナノ構造が消失しない粒子状物質を接触させることにより、前記粒子状物質のナノ構造を消失させることを特徴とする物質改質装置。
  4. 請求項3に記載の物質改質装置を備えたことを特徴とする空気調和機。
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