JP3992025B2 - ハイブリッドシステムのフェイル検知装置 - Google Patents

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Description

本発明は、エンジンとモータを動力源とするハイブリッドシステムのフェイル検知装置に関する。
従来、エンジンとモータジェネレータを動力源とするハイブリッドシステムは、モータジェネレータ回生制御装置によりモータジェネレータに回生指令トルクが発せられ、モータジェネレータがジェネレータとして作動しているとき、モータジェネレータ回生指令トルクとモータジェネレータ回転速度とからモータジェネレータ再生電力を計算し、これとモータジェネレータにて実際に発生される回生電力の実測値とを比較し、その差が所定の閾値を超えるときにジェネレータ故障であると判断して運転者に対し警告を発するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
特開2002−095102号公報(第1頁、図1)
しかしながら、複数の動力源(エンジンおよびモータジェネレータ2基)を持つハイブリッドシステムにおいて、差動装置に連結される連結要素のフェイルを検知する場合、それぞれの動力源が互いに干渉し合うため、フェイルの判定が難しく、また、フェイルである連結要素がどれかを断定することは困難である、という問題があった。
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、選択されている走行モードの種類にかかわらず、差動装置に連結される連結要素のフェイルを検知することができるハイブリッドシステムのフェイル検知装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明におけるハイブリッドシステムのフェイル検知装置では、少なくともエンジンとモータを含む動力源と出力部材とをそれぞれ異なる回転要素へ連結した2自由度の差動装置を備え、該各回転要素の回転数関係が共線図上のレバーにより規定されるハイブリッドシステムにおいて、前記共線図上のレバーを安定させるトルクバランスが成り立たない場合、前記差動装置への連結要素がフェイルであると検知するフェイル検知手段を設け、該フェイル検知手段が、共線図上のレバーを過渡的に動かす要求駆動力の変更があったにもかかわらず、要求駆動力の変更前後にて算出される動力源への過渡分トルク指令値が同じ値を保持している場合、前記差動装置への連結要素がフェイルであると検知するか、あるいは動力源への過渡分トルク指令値が要求駆動力の変更前後にて同じ値を保持している場合で、かつ、出力部材が連結される回転要素を中心として共線図上のレバーを回そうとしているモーメントが要求駆動力の変更後に閾値以上である場合、前記差動装置への連結要素がフェイルであると検知するようにした
よって、本発明のハイブリッドシステムのフェイル検知装置にあっては、フェイル検知手段において、共線図上のレバーを安定させるトルクバランスが成り立たない場合、差動装置への連結要素がフェイルであると検知される。すなわち、動力源が正常であれば、共線図上のレバーを安定させるように、出力トルク目標値の指定に応じて上下方向および回転方向のトルクバランスを保つように動力源へのトルク指令値が算出される。したがって、共線図上のレバーを安定させるトルクバランスが成り立たないということは、レバーの回転要素に連結されている連結要素の何れかにフェイルによるフリクションが発生しているということができる。このように、特定の走行モードでのみ成立する式を用いるものではなく、あらゆる走行モードで用いられるトルクバランスによりフェイル判定を行うため、選択されている走行モードの種類にかかわらず、差動装置に連結される連結要素のフェイルを検知することができる。
以下、本発明のハイブリッドシステムのフェイル検知装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
まず、ハイブリッド車の駆動系構成を説明する。
図1は実施例1のフェイル検知装置が適用されたハイブリッド車の駆動系を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1モータジェネレータMG1と、第2モータジェネレータMG2と、出力ギヤOG(出力部材)と、駆動力合成変速機TMと、を有する。
前記エンジンEは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。
前記第1モータジェネレータMG1と第2モータジェネレータMG2は、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することによりそれぞれ独立に制御される。
前記駆動力合成変速機TMは、ラビニョウ型遊星歯車列PGR(差動装置)と、ローブレーキLBと、を有し、前記ラビニョウ型遊星歯車列PGRは、第1サンギヤS1と、第1ピニオンP1と、第1リングギヤR1と、第2サンギヤS2と、第2ピニオンP2と、第2リングギヤR2と、互いに噛み合う第1ピニオンP1と第2ピニオンP2とを支持する共通キャリアPCと、によって構成されている。つまり、ラビニョウ型遊星歯車PGRは、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、第2サンギヤS2と、第2リングギヤR2と、共通キャリアPCと、の5つの回転要素を有する。この5つの回転要素に対する入出力部材の連結関係について説明する。
前記第1サンギヤS1には、第1モータジェネレータMG1(連結要素)が連結されている。前記第1リングギヤR1は、ローブレーキLB(連結要素)を介してケースに固定可能に設けられている。前記第2サンギヤS2には、第2モータジェネレータMG2(連結要素)が連結されている。前記第2リングギヤR2には、エンジンクラッチEC(連結要素)を介してエンジンEが連結されている。前記共通キャリアPCには、出力ギヤOGが直結されている。なお、出力ギヤOGからは、図外のディファレンシャルやドライブシャフトを介して左右の駆動輪に駆動力が伝達される。
上記連結関係により、図2に示す共線図上において、第1モータジェネレータMG1(第1サンギヤS1)、エンジンE(第2リングギヤR2)、出力ギアOG(共通キャリアPC)、ローブレーキLB(第1リングギヤR1)、第2モータジェネレータMG2(第2サンギヤS2)の順に配列され、ラビニョウ型遊星歯車列PGRの動的な動作を簡易的に表せる剛体レバーモデルを導入することができる。
ここで、「共線図」とは、差動歯車のギヤ比を考える場合、式により求める方法に代え、より簡単で分かりやすい作図により求める方法で用いられる速度線図であり、縦軸に各回転要素の回転数(回転速度)をとり、横軸に各回転要素をとり、各回転要素の間隔をサンギヤとリングギヤの歯数比に基づく共線図レバー比になるように配置したものである。
前記エンジンクラッチECとローブレーキLBは、後述する油圧制御装置5からの油圧により締結される多板摩擦クラッチと多板摩擦ブレーキであり、エンジンクラッチECは、図2の共線図上において、エンジンEと共に第2リングギヤR2の回転速度軸と一致する位置に配置され、ローブレーキLBは、図2の共線図上において、第1リングギヤR1の回転速度軸(出力ギヤOGの回転速度軸と第2サンギヤS2の回転速度軸との間の位置)に配置される。
次に、ハイブリッド車の制御系を説明する。
実施例1におけるハイブリッド車の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、油圧制御装置5と、統合コントローラ6と、アクセル開度センサ7と、車速センサ8と、エンジン回転数センサ9と、第1モータジェネレータ回転数センサ10と、第2モータジェネレータ回転数センサ11と、第2リングギヤ回転数センサ12と、を有して構成されている。
前記エンジンコントローラ1は、アクセル開度センサ7からのアクセル開度APとエンジン回転数センサ9からのエンジン回転数Neを入力する統合コントローラ6からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。
前記モータコントローラ2は、レゾルバによる両モータジェネレータ回転数センサ10,11からのモータジェネレータ回転数N1,N2を入力する統合コントローラ6からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、第1モータジェネレータMG1のモータ動作点(N1,T1)と、第2モータジェネレータMG2のモータ動作点(N2,T2)と、をそれぞれ独立に制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2からは、バッテリ4の充電状態をあらわすバッテリS.O.Cの情報が統合コントローラ6に対して出力される。
前記インバータ3は、前記第1モータジェネレータMG1と第2モータジェネレータMG2との各ステータコイルに接続され、モータコントローラ2からの指令により独立した三相交流を作り出す。このインバータ3には、力行時に放電し回生時に充電するバッテリ4が接続されている。
前記油圧制御装置5は、統合コントローラ6からの油圧指令を受け、エンジンクラッチECと、ローブレーキLBと、の締結油圧制御及び解放油圧制御を行う。この締結油圧制御及び解放油圧制御には、滑り締結制御や滑り解放制御による半クラッチ制御も含む。
前記統合コントローラ6は、アクセル開度センサ7からのアクセル開度APと、車速センサ8からの車速VSPと、エンジン回転数センサ9からのエンジン回転数Neと、第1モータジェネレータ回転数センサ10からの第1モータジェネレータ回転数N1と、第2モータジェネレータ回転数センサ11からの第2モータジェネレータ回転数N2と、第2リングギヤ回転数センサ12からのエンジン入力回転速度ωin等の情報を入力し、所定の演算処理を行う。そして、エンジンコントローラ1、モータコントローラ2、油圧制御装置5に対し演算処理結果にしたがって制御指令を出力する。
なお、統合コントローラ6とエンジンコントローラ1、および、統合コントローラ6とモータコントローラ2とは、情報交換のためにそれぞれ双方向通信線14、15により接続されている。
次に、ハイブリッド車の走行モードについて説明する。
実施例1のハイブリッド車における走行モードとしては、電気自動車無段変速モード(以下、「EVモード」という。)と、電気自動車固定変速モード(以下、「EV-LBモード」という。)と、ハイブリッド車固定変速モード(以下、「LBモード」という。)と、ハイブリッド車無段変速モード(以下、「E-iVTモード」という。)と、を有する。
前記「EVモード」は、図2(a)の共線図に示すように、二つのモータジェネレータMG1.MG2のみで走行する無段変速モードであり、エンジンEは停止でエンジンクラッチECは解放である。
前記「EV-LBモード」は、図2(b)の共線図に示すように、ローブレーキLBを締結した状態で、二つのモータジェネレータMG1,MG2のみで走行する固定変速モードであり、エンジンEは停止でエンジンクラッチECは解放である。第1モータジェネレータMG1から出力Outputへの減速比、及び、第2モータジェネレータMG2から出力Outputへの減速比が大きいので駆動力が大きく出るモードである。
前記「LBモード」は、図2(c)の共線図に示すように、ローブレーキLBを締結した状態で、エンジンEとモータジェネレータMG1,MG2で走行する固定変速モードであり、エンジンEは運転でエンジンクラッチECは締結である。エンジンEとモータジェネレータMG1,MG2から出力Outputへの減速比が大きいので駆動力が大きく出るモードである。
前記「E-iVTモード」は、図2(d)の共線図に示すように、エンジンEとモータジェネレータMG1,MG2で走行する無段変速モードであり、エンジンEは運転でエンジンクラッチECは締結である。
そして、前記4つの走行モードのモード遷移制御は、統合コントローラ6により行われる。すなわち、統合コントローラ6には、要求駆動力Fdrv(アクセル開度APにより求められる。)と車速VSPとバッテリS.O.Cによる三次元空間に、図3に示すような前記4つの走行モードを割り振った走行モードマップが予め設定されていて、車両の停止時や走行時には、要求駆動力Fdrvと車速VSPとバッテリS.O.Cの各検知値により走行モードマップが検索され、要求駆動力Fdrvと車速VSPにより決まる車両動作点やバッテリ充電量に応じて最適な走行モードが選択される。なお、図3は三次元走行モードマップをバッテリS.O.Cが充分な容量域のある値で切り取ることにより、要求駆動力Fdrvと車速VSPとの二次元によりあらわした走行モードマップの一例である。
前記走行モードマップの選択により、「EVモード」と「EV-LBモード」との間においてモード遷移を行う場合、図4に示すように、ローブレーキLBの締結・解放が行われる。「E-iVTモード」と「LBモード」との間においてモード遷移を行う場合、図4に示すように、ローブレーキLBの締結・解放が行われる。また、「EVモード」と「E-iVTモード」との間においてモード遷移を行う場合、図4に示すように、エンジンEの始動・停止と共にエンジンクラッチECの締結・解放が行われる。「EV-LBモード」と「LBモード」との間においてモード遷移を行う場合、図4に示すように、エンジンEの始動・停止と共にエンジンクラッチECの締結・解放が行われる。
次に、作用を説明する。
[フェイル検知処理]
図5は実施例1の統合コントローラ6において実行される「EVモード」での走行時におけるフェイル検知処理の流れを示すフローチャートであり、以下、各ステップについて説明する(フェイル検知手段)。
ステップS1では、第1モータジェネレータMG1への過渡分トルク指令値ΔT1と第2モータジェネレータMG2への過渡分トルク指令値ΔT2を算出し、ステップS2へ移行する。
ここで、過渡分トルク指令値ΔT1,ΔT2は、
ΔT1=(α+1)・J1・ΔTi_ref
ΔT2=−β・J2・ΔTi_ref
の式にて算出される。但し、J1,J2はMG1,MG2それぞれのイナーシャ、ΔTi_refは変速比に応じたレバー修正トルクである。
ステップS2では、例えば、アクセル操作により要求駆動力Fdrvの変化が起きても、過渡分トルク指令値ΔT1,ΔT2の値は同じ値を保持しているか否かが判断され、YESの場合はステップS3へ移行し、NOの場合はステップS1へ戻る。
ステップS3では、ステップS2での要求駆動力Fdrvの変化が起きても過渡分トルク指令値ΔT1,ΔT2の値は同じ値を保持している、つまり、共線図上のレバーを安定させるトルクバランスが成り立たないとの判断に基づき、共線図上のレバーを、出力を中心として回そうとしているレバーモーメントΔMを算出し、ステップS4へ移行する。
ここで、「レバーモーメントΔM」は、
ΔM=(1+α)ΔT1−β・ΔT2(図6参照)
の式にて算出される。
ステップS4では、ステップS3でのレバーモーメントΔMの算出に引き続き、レバーモーメント絶対値|ΔM|が、予め設定された閾値Kiより大きいか否かが判断され、YESの場合はステップS5へ移行し、NOの場合はステップS1へ戻る。
ステップS5では、ステップS1〜ステップS4でのフェイル判定に基づき、レバーモーメントΔMがΔM>0(レバー左回り)であるか否かを判断し、YESの場合は第1モータジェネレータMG1とエンジンクラッチECのいずれかがフリクション発生部位(=フェイル部位)としてステップS6へ移行し、NOの場合は第2モータジェネレータMG2とローブレーキLBのいずれかがフリクション発生部位(=フェイル部位)としてステップS9へ移行する。
ステップS6では、ステップS5での第1モータジェネレータMG1とエンジンクラッチECのいずれかがフリクション発生部位であるとの判断に基づき、第1モータジェネレータMG1のモータパワーのバランス式が成立するか否かを判断し、YESの場合はステップS7へ移行し、NOの場合はステップS8へ移行する。
ここで、モータパワーのバランス式とは、(実際のモータ回転数)×(実際の電流値)から算出されるトルクで表される第1モータジェネレータMG1のモータパワーと、(実際のモータ電圧)×(実際の電流値)で表される第1モータジェネレータMG1のモータパワーと、が等しいとする式であり、等しくない場合は第1モータジェネレータMG1がフェイルと判断する。
ステップS7では、ステップS6におけるMG1のモータパワーのバランス式が成立であるとの判断に基づき、フェイル部位をエンジンクラッチECに特定し、エンドへ移行する。
ステップS8では、ステップS6におけるMG1のモータパワーのバランス式が不成立であるとの判断に基づき、フェイル部位を第1モータジェネレータMG1に特定し、エンドへ移行する。
ステップS9では、ステップS5での第2モータジェネレータMG2とローブレーキLBCのいずれかがフリクション発生部位であるとの判断に基づき、第2モータジェネレータMG2のモータパワーのバランス式が成立するか否かを判断し、YESの場合はステップS10へ移行し、NOの場合はステップS11へ移行する。
ここで、モータパワーのバランス式とは、(実際のモータ回転数)×(実際の電流値)から算出されるトルクで表される第2モータジェネレータMG2のモータパワーと、(実際のモータ電圧)×(実際の電流値)で表される第2モータジェネレータMG2のモータパワーと、が等しいとする式であり、等しくない場合は第2モータジェネレータMG2がフェイルと判断する。
ステップS10では、ステップS9におけるMG2のモータパワーのバランス式が成立であるとの判断に基づき、フェイル部位をローブレーキLBに特定し、エンドへ移行する。
ステップS11では、ステップS9におけるMG2のモータパワーのバランス式が不成立であるとの判断に基づき、フェイル部位を第2モータジェネレータMG2に特定し、エンドへ移行する。
[本発明のフェイル検知の考え方]
まず、図6に示す共線図において、
エンジンEng.〜出力outまでのギヤ比を1、
エンジンEng.〜第1モータジェネレータMG1までのギヤ比をα、
出力out〜第2モータジェネレータMG2までのギヤ比をβ、
と定義する。
以下、電気自動車無段変速モード(「EVモード」)での走行時、各モータジェネレータの必要トルクの計算について説明する。
タイヤ出力の出力トルク目標値Toを指定すると、これらを達成するように目標モータトルクが設定(モータトルク指令値が算出)される。
このとき、共線図上のレバーのバランスは、各モータジェネレータMG1,MG2の定常分モータトルク指令値をT1_ref,T2_refとすると、
トルク上下方向のバランス式は、
To_ref=T1_ref+T2_ref …(1)
で表され、エンジン回りのレバー回転方向のトルクバランス式は、
αT1_ref+To_ref=(1+β)T2_ref …(2)
で表される。これらを解くと、
T1_ref={β/(α+β+1)}・To_ref …(3)
T2_ref={(α+1)/(α+β+1)}・To_ref …(4)
となる。
上式により、一定の要求駆動力Fdrvに対応した各モータジェネレータMG1,MG2の定常分モータトルク指令値T1_ref,T2_refが算出できる。
併せて、要求駆動力Fdrvの変更に対応し共線図上のレバーを動かすための各モータジェネレータMG1,MG2の過渡分モータトルク指令値ΔT1_ref,ΔT2_refが設定される。
入力軸回転数指令値ωi_refと実入力軸回転数ωi_actからレバー修正トルクΔTi_refを設定し、このレバー修正トルクΔTi_refを変速比にて換算することで、過渡分モータトルク指令値ΔT1_ref,ΔT2_refを求めると(ここではωi_ref=ωo、すなわち変速比1として説明する)、
ΔT1_ref=(α+1)・J1・ΔTi_ref …(5)
ΔT2_ref=−β・J2・ΔTi_ref …(6)
J1,J2:MG1,MG2それぞれのイナーシャ
となる。
したがって、定常分モータトルク指令値T1_ref,T2_refと過渡分モータトルク指令値ΔT1_ref,ΔT2_refとをそれぞれ足し合わせると、
T1f=T1_ref+ΔT1_ref …(7)
T2f=T2_ref+ΔT2_ref …(8)
となり、各モータジェネレータMG1,MG2に対し指令されるモータトルク指令値T1f,T2fとなる。
ここで、モータトルク指令値T1f,T2fと要求駆動力Fdrvを満たすための定常分モータトルク指令値T1_ref,T2_refを比較することにより、フリクション発生部位と発生量を把握することができる。
すなわち、正常な状態であれば定常的にトルク指令値は、
T1f=T1_ref …(9)
T2f=T2_ref …(10)
となる。
しかし、レバーの各回転要素にフリクションが発生していた場合は、
上式(9),(10)の関係が成立しない。
本発明は、上記のように、レバーの各回転要素にフリクションが発生すると、共線図上のレバーを安定させるトルクバランスが成り立たないという考え方を採用し、差動装置であるラビニョウ型遊星歯車列PGRの5つの回転要素のうち、4つの回転要素に連結される第1モータジェネレータMG1、エンジンクラッチEC、ローブレーキLB、第2モータジェネレータMG2のフェイル検知を行う。
[フェイル検知作用]
実施例1のフェイル検知装置では、例えば、走行中に第1モータジェネレータMG1に故障が発生したことにより、モータトルク指令値T1fに応じたモータトルクの発生が無い、つまり、第1モータジェネレータMG1がフリクション発生部位となった場合、図5のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS8へと進む流れとなり、ステップS8において、第1モータジェネレータMG1がフェイルであると検知される。
すなわち、実施例1では、ステップS1→ステップS2へと進み、ステップS2において、アクセル操作により要求駆動力Fdrvの変化が起きても、過渡分トルク指令値ΔT1,ΔT2の値が同じ値を保持している場合、フリクション部位が発生したと判断される。つまり、第1モータジェネレータMG1がフリクション発生部位となっている場合、2自由度のラビニョウ型遊星歯車列PGRの場合、第2モータジェネレータMG2へのモータトルク指令値T2fが変化しても、共線図上のレバーは第1モータジェネレータ回転数N1と出力回転数No(=車速)により同じ位置に拘束されたままとなり、過渡分トルク指令値ΔT1,ΔT2の値は同じ値を保持する。
ただし、要求駆動力Fdrvの変化が小さく、出力要素回りの回転モーメントが小さいときには、第1モータジェネレータMG1が正常であっても過渡分トルク指令値ΔT1,ΔT2が同じ値を保持することがあるため、ステップS3において、共線図上のレバーを出力を中心として回そうとしているレバーモーメントΔMを算出し、ステップS4において、レバーモーメント絶対値|ΔM|が、予め設定された閾値Kiより大きいかどうかを判断し、|ΔM|>Kiという条件を付加することで、確実にフリクション部位の発生によるフェイルを検知している。
ステップS4からステップS5へ進むフェイル検知状態においては、過渡分モータトルク指令値ΔT1_ref,ΔT2_refにより算出されたレバーモーメントΔMと、モータパワーのバランス式を用いて、フリクション発生部位を特定する。
つまり、過渡分モータトルク指令値ΔT1_refと過渡分モータトルク指令値ΔT2_refの符号の向きから出力回転要素を中心に共線図上のレバーをどちらに回そうとしているかを判断できる。ΔM<0であり、右側に回そうとしてる場合には、ローブレーキLBと第2モータジェネレータMG2との何れかがフリクション発生部位であり、左側に回そうとしている場合には、エンジンクラッチECと第1モータジェネレータMG1との何れかがフリクション発生部位であるということができる。さらに、第1モータジェネレータMG1と第2モータジェネレータMG2のフェイルについては、モータ回転数や電流値や電圧値を用いたモータパワーのバランス式により判別可能であることから、ステップS5からステップS6→ステップS8へ進むことで第1モータジェネレータMG1がフリクション発生部位であると判別することができる。
なお、ステップS5からステップS6→ステップS7へ進むことでエンジンクラッチECがフリクション発生部位であると判別することができるし、ステップS5からステップS9→ステップS10へ進むことでローブレーキLBがフリクション発生部位であると判別することができるし、ステップS5からステップS9→ステップS11へ進むことで第2モータジェネレータMG2がフリクション発生部位であると判別することができる。
このように、共線図上のレバーに連結されている両モータジェネレータMG1,MG2とエンジンクラッチECとローブレーキLBのうち何れかがフェイルになっていると、モータトルク指令値と各要素回転数から算出されるトルクバランスが分かるので、トルクバランスが成り立たない場合には、両モータジェネレータMG1,MG2とエンジンクラッチECとローブレーキLBのうち何れかがフェイルになっていることを検知することができる。
また、フェール発生部位のフリクション量を、モータトルク指令値T1f,T2fと要求駆動力Fdrvを満たすための定常分モータトルク指令値T1_ref,T2_refを比較することにより、定量的に把握できるので、フリクション量を補正し駆動力を出すことが可能となり、フリクション量を補正し駆動力を出した場合には駆動力品質を保つことができる。
さらに、実施例1では、現有センサのみでフェイル判定するロジックを採用したため、フェイル検知のために新たなセンサを準備する必要が無く、コスト及びレイアウト性を向上させることができる。
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッドシステムのフェイル検知装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
(1) 少なくともエンジンとモータを含む動力源と出力部材とをそれぞれ異なる回転要素へ連結した2自由度の差動装置を備え、各回転要素の回転数関係が共線図上のレバーにより規定されるハイブリッドシステムにおいて、前記共線図上のレバーを安定させるトルクバランスが成り立たない場合、前記差動装置への連結要素がフェイルであると検知するフェイル検知手段を設けたため、選択されている走行モードの種類にかかわらず、差動装置に連結される連結要素のフェイルを検知することができる。
(2) 前記フェイル検知手段は、共線図上のレバーを過渡的に動かす要求駆動力の変更があったにもかかわらず、要求駆動力の変更前後にて算出される動力源への過渡分トルク指令値が同じ値を保持している場合、前記差動装置への連結要素がフェイルであると検知するため、正常時であれば共線図上のレバー位置が移動する要求駆動力の変更前後にて精度良く差動装置に連結される連結要素のフェイルを検知することができる。
(3) 前記フェイル検知手段は、動力源への過渡分トルク指令値が要求駆動力の変更前後にて同じ値を保持している場合で、かつ、出力部材が連結される回転要素を中心として共線図上のレバーを回そうとしているモーメントが要求駆動力の変更後に閾値以上である場合、前記差動装置への連結要素がフェイルであると検知するため、共線図上のレバーを回そうとしているモーメントが小さい場合にフェイル誤検知を防止し、確実にフリクション部位の発生によるフェイルを検知することができる。
(4) 前記フェイル検知手段は、前記差動装置への連結要素の何れかがフェイルであると検知した場合、出力部材が連結される回転要素を中心として共線図上のレバーを回そうとしているモーメントの方向を判断し、レバーを回そうとしている方向の回転要素への連結要素がフェイルであると検知するため、複数の連結要素のうちフェイルした連結要素を絞り込むことができる。
(5) 前記フェイル検知手段は、フェイル発生部位を特定した場合、要求駆動力の変更後におけるモータトルク指令値T1f,T2fと要求駆動力Fdrvを満たすための定常分モータトルク指令値T1_ref,T2_refを比較することにより、定量的にフリクション発生量を把握するため、フリクション量を補正し駆動力を出すことが可能となり、フリクション量を補正し駆動力を出した場合には駆動力品質を保つことができる。
(6) 前記差動装置は、共線図上に4つ以上の回転要素が配列され、各回転要素のうちの内側に配列される2つの回転要素の一方にエンジンからの入力を、他方に駆動系統への出力ギアOGをそれぞれ割り当てると共に、前記内側の回転要素の両外側に配列される2つの回転要素にそれぞれ第1モータジェネレータMG1と第2モータジェネレータMG2とを連結したラビニョウ型遊星歯車列PGRであり、前記フェイル検知手段は、モータトルク指令値と各要素回転数のみに基づき、両モータジェネレータMG1,MG2のうち少なくとも一方を動力源とするEVモード中に第1モータジェネレータMG1または第2モータジェネレータMG2のフェイルを検知するため、フェイル検知のために新たなセンサを準備する必要が無く、コスト及びレイアウト性を向上させることができる。
(7) 前記フェイル検知手段は、第1モータジェネレータMG1と第2モータジェネレータMG2のうち少なくとも一方を動力源とするEVモード中にフェイルが検知された場合、出力ギアOGに連結される回転要素を中心として共線図上のレバーを回そうとしているモーメント方向に存在し、かつ、モータパワーのバランス式が成立しない場合、共線図上のレバーを回そうとしているモーメント方向の回転要素に連結される第1モータジェネレータMG1または第2モータジェネレータMG2がフェイルであると検知するため、共線図のレバー上に連結される各モータジェネレータMG1,MG2のうち何れかを特定してフェイル検知することができる。
(8) 前記差動装置は、共線図上で出力部材を挟んでエンジンEとは反対位置であって、第2モータジェネレータMG2とは異なる位置の回転要素にローブレーキLBを連結し、エンジンEが連結される回転要素にエンジンクラッチECを連結し、前記フェイル検知手段は、第1モータジェネレータMG1と第2モータジェネレータMG2のうち少なくとも一方を動力源とするEVモード中にフェイルが検知された場合、出力ギアOGが連結される回転要素を中心として共線図上のレバーを回そうとしているモーメントの方向に存在し、かつ、モータパワーのバランス式が成立する場合、共線図上のレバーを回そうとしているモーメント方向の回転要素に連結されるエンジンクラッチECまたはローブレーキLBがフェイルであると検知するため、フェイルした連結要素のうち、共線図のレバー上に連結されるエンジンクラッチECまたはローブレーキLBを特定して検知することができる。
以上、本発明のハイブリッドシステムのフェイル検知装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例1では、「EVモード」でフェイル検知処理する例を示したが、トルクバランスを成り立たせて共線図上のレバーを安定させている他の走行モードにおいても、トルクバランスの不成立を判別することにより、差動装置に連結される連結要素のフェイルを検知するようにしても良い。
実施例1では、差動装置とエンジンクラッチとローブレーキとを備えたハイブリッドシステムの例を示したが、摩擦締結要素の数を増した4以上の走行モードを持つハイブリッドシステムにも適用できるし、また、差動装置としては、ラビニョウ型遊星歯車列による差動装置以外にも、少なくともエンジンとモータを含む動力源と出力部材とをそれぞれ異なる回転要素へ連結した2自由度の差動装置を備えたものであれば、例えば、単純遊星歯車列を複数備えた差動装置等にも適用することができる。
実施例1のフェイル検知装置が適用されたハイブリッド車を示す全体システム図である。 実施例1のフェイル検知装置が適用されたハイブリッド車に採用されたラビニョウ型遊星歯車列による各走行モードをあらわす共線図である。 実施例1のフェイル検知装置が適用されたハイブリッド車での走行モードマップの一例を示す図である。 実施例1のフェイル検知装置が適用されたハイブリッド車での4つの走行モード間におけるモード遷移経路を示す図である。 実施例1の統合コントローラにおいて実行される「EVモード」または「EV-LBモード」での走行時におけるフェイル検知処理の流れを示すフローチャートである。 変速比1での共線図を示す図である。
符号の説明
E エンジン
MG1 第1モータジェネレータ(連結要素)
MG2 第2モータジェネレータ(連結要素)
OG 出力ギヤ(出力部材)
TM 駆動力合成変速機
PGR ラビニョウ型遊星歯車列(差動装置)
EC エンジンクラッチ(連結要素)
LB ローブレーキ(連結要素)
1 エンジンコントローラ
2 モータコントローラ
3 インバータ
4 バッテリ
5 油圧制御装置
6 統合コントローラ
7 アクセル開度センサ
8 車速センサ
9 エンジン回転数センサ
10 第1モータジェネレータ回転数センサ
11 第2モータジェネレータ回転数センサ
12 第2リングギヤ回転数センサ

Claims (7)

  1. 少なくともエンジンとモータを含む動力源と出力部材とをそれぞれ異なる回転要素へ連結した2自由度の差動装置を備え、該各回転要素の回転数関係が共線図上のレバーにより規定されるハイブリッドシステムにおいて、
    前記共線図上のレバーを安定させるトルクバランスが成り立たない場合、前記差動装置への連結要素がフェイルであると検知するフェイル検知手段を設け、
    フェイル検知手段、共線図上のレバーを過渡的に動かす要求駆動力の変更があったにもかかわらず、要求駆動力の変更前後にて算出される動力源への過渡分トルク指令値が同じ値を保持している場合、前記差動装置への連結要素がフェイルであると検知することを特徴とするハイブリッドシステムのフェイル検知装置。
  2. 少なくともエンジンとモータを含む動力源と出力部材とをそれぞれ異なる回転要素へ連結した2自由度の差動装置を備え、該各回転要素の回転数関係が共線図上のレバーにより規定されるハイブリッドシステムにおいて、
    前記共線図上のレバーを安定させるトルクバランスが成り立たない場合、前記差動装置への連結要素がフェイルであると検知するフェイル検知手段を設け、
    フェイル検知手段、動力源への過渡分トルク指令値が要求駆動力の変更前後にて同じ値を保持している場合で、かつ、出力部材が連結される回転要素を中心として共線図上のレバーを回そうとしているモーメントが要求駆動力の変更後に閾値以上である場合、前記差動装置への連結要素がフェイルであると検知することを特徴とするハイブリッドシステムのフェイル検知装置。
  3. 請求項1または請求項2に記載されたハイブリッドシステムのフェイル検知装置において、
    前記フェイル検知手段は、前記差動装置への連結要素の何れかがフェイルであると検知した場合、出力部材が連結される回転要素を中心として共線図上のレバーを回そうとしているモーメントの方向を判断し、レバーを回そうとしている方向の回転要素に連結された連結要素がフェイルであると検知することを特徴とするハイブリッドシステムのフェイル検知装置。
  4. 請求項に記載されたハイブリッドシステムのフェイル検知装置において、
    前記フェイル検知手段は、フェイル発生部位を特定した場合、要求駆動力の変更後における総トルク指令値と要求駆動力を満たすための定常分トルク指令値を比較することにより、定量的にフリクション発生量を把握することを特徴とするハイブリッドシステムのフェイル検知装置。
  5. 請求項1乃至の何れか1項に記載されたハイブリッドシステムのフェイル検知装置において、
    前記差動装置は、共線図上に4つ以上の回転要素が配列され、各回転要素のうちの内側に配列される2つの回転要素の一方にエンジンからの入力を、他方に駆動系統への出力部材をそれぞれ割り当てると共に、前記内側の回転要素の両外側に配列される2つの回転要素にそれぞれ第1モータジェネレータと第2モータジェネレータとを連結したラビニョウ型遊星歯車列であり、
    前記フェイル検知手段は、モータトルク指令値と各要素回転数のみに基づき、両モータジェネレータのうち少なくとも一方を動力源とする電気自動車走行モード中に差動装置への連結要素のフェイルを検知することを特徴とするハイブリッドシステムのフェイル検知装置。
  6. 請求項に記載されたハイブリッドシステムのフェイル検知装置において、
    前記フェイル検知手段は、第1モータジェネレータと第2モータジェネレータのうち少なくとも一方を動力源とする電気自動車走行モード中にフェイルが検知された場合、出力部材に連結される回転要素を中心として共線図上のレバーを回そうとしているモーメント方向に存在し、かつ、モータパワーのバランス式が成立しない場合、共線図上のレバーを回そうとしているモーメント方向の回転要素に連結される第1モータジェネレータまたは第2モータジェネレータがフェイルであると検知することを特徴とするハイブリッドシステムのフェイル検知装置。
  7. 請求項または請求項に記載されたハイブリッドシステムのフェイル検知装置において、
    前記差動装置は、共線図上で出力部材を挟んでエンジンとは反対位置であって、第2モータジェネレータとは異なる位置の回転要素にローブレーキを連結し、エンジンが連結される回転要素にエンジンクラッチを連結し、
    前記フェイル検知手段は、第1モータジェネレータと第2モータジェネレータのうち少なくとも一方を動力源とする電気自動車走行モード中にフェイルが検知された場合、出力部材が連結される回転要素を中心として共線図上のレバーを回そうとしているモーメントの方向に存在し、かつ、モータパワーのバランス式が成立する場合、共線図上のレバーを回そうとしているモーメント方向の回転要素に連結されるエンジンクラッチまたはローブレーキがフェイルであると検知することを特徴とするハイブリッドシステムのフェイル検知装置。
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